IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

特許7064196グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料
<>
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図1
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図2
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図3
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図4
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図5
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図6
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図7
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図8
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図9
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図10
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図11
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図12
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図13
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図14
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図15
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図16
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図17
  • 特許-グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/22 20060101AFI20220427BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20220427BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20220427BHJP
   G02F 1/15 20190101ALN20220427BHJP
【FI】
C07D495/22 CSP
C09K9/02 A
C09K11/06 640
C09K11/06 655
G02F1/15
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018540072
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2018026638
(87)【国際公開番号】W WO2019017314
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017141582
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中壽賀 章
(72)【発明者】
【氏名】野里 省二
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘司
(72)【発明者】
【氏名】灰野 岳晴
(72)【発明者】
【氏名】関谷 亮
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-153047(JP,A)
【文献】特開平04-288550(JP,A)
【文献】特開平05-179237(JP,A)
【文献】特開平05-214334(JP,A)
【文献】特許第6958814(JP,B2)
【文献】特開2017-092210(JP,A)
【文献】特開2016-207812(JP,A)
【文献】特開2014-114205(JP,A)
【文献】Heinz LANGHALS et al.,Angular Benzoperylenetetracarboxylic Bisimides,Chem. Eur. J.,2012年,vol.18, no.41,p.13188-13194
【文献】Heinz LANGHALS et al.,Novel Fluorescent Dyes by the Extension of the Core of Perylenetetracarboxylic Bisimides,Eur. J. Org. Chem.,2000年,vol.2000, no.2,p.365-380
【文献】W. DILTHEY et al.,Maleinsaureaddukte an Phencyclon [ Heteropolare, XXVIII ],JOURNAL FUR PRAKTISHE CHEMIE,1937年,vol.2,p.53-71
【文献】CHANG et al.,Nitrogen-Doped Graphene Nanoplatelets from Simple Solution Edge-Functionalization for n-Type Field-E,Journal of the American Chemical Society,2013年05月27日,135,pp.8981-8988,ISSN 0002-7863
【文献】LU et al.,Synthesis and supercapacitor performance studies of N-doped graphene materials using o-phenylenediam,Carbon,2013年,63,pp.508-516,ISSN 0008-622
【文献】LUAN et al.,The molecular level control of three-dimensional graphene oxide hydrogel structure by using various,Chemical Engineering Journal,2014年,246,pp.64-70,ISSN 1385-8947
【文献】AI et al.,One-pot, aqueous-phase synthesis of graphene oxide functionalized with hetrocyclic groups to give in,RSC Advances,2013年,3,pp.45-49,ISSN 2046-2069
【文献】QI et al.,An efficient edge-functionalization method to tune the photoluminescence of graphene quantum dots,Nanoscale,2015年,7,pp.5969-5973,ISSN 2040-3372
【文献】ENG et al.,Facile labelling of graphene oxide for superior capacitive energy storage and fluorescence applicati,Phys. Chem. Chem. Phys.,2016年,18,pp.9673-9681
【文献】灰野岳晴et al.,発光性グラフェン量子ドットの合成,高分子学会予稿集,2016年08月24日,65(2),ROMBUN No.1R05
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/22
C07D 495/22
C09K 9/02
C09K 11/06
G02F 1/15
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体であって、
下記式(10)で表される置換基を有する、誘導体。
【化1】
式(10)中、R及びRは、グラフェン又は酸化グラフェンの炭素である。 及びR は、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環の炭素である。 及びR 10 は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。また、mは置換基の数である。)
【請求項2】
前記グラフェン又は酸化グラフェンの誘導体の面方向における最大寸法が、100nm以下である、請求項1に記載の誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の誘導体を含む、蛍光材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の誘導体を含む、りん光材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の誘導体を含む、調光材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環芳香族炭化水素誘導体、該多環芳香族炭化水素誘導体を用いた蛍光材料、りん光材料、及び調光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロクロミック材料は、特定の波長の光を遮断することにより透過率の調整を行ったり、色味の調整を行なったりするための調光材料として用いられている。有機エレクトロクロミック材料は、間仕切り・襖・障子・カーテン・テーブル等の室内部材、窓ガラス等の建築部材、自動車や航空機等の輸送機器・車両機器の部材、電子ペーパー等の電子部品等、様々な分野において利用されている。
【0003】
このような有機エレクトロクロミック材料として、例えば、下記の特許文献1には、特定の構造を有するポリアセチレン化合物が開示されている。上記ポリアセチレン化合物は、ナフタレン基、フェナントレン基、ピレニル基、又はアントラセン基などの芳香環数の少ない多環芳香族炭化水素からなる置換基を有している。特許文献1では、多環芳香族炭化水素からなる置換基を1以上有することにより、化学的な刺激や電気的な刺激、圧力や温度などの物理的な刺激に応答して、広い波長領域において光の透過率を変化させ得る旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/061061号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多環芳香族炭化水素からなる置換基を有するポリアセチレン化合物は、可視光を遮断する際、赤外光を透過させるため、夏場等の暑い時期には使用が困難であるという問題がある。また、ポリアセチレン化合物以外の調光材料も多数検討されているが、いずれの場合にも、調光性が不十分であり、長期安定性が低い等の問題が残っている。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、新規な多環芳香族炭化水素誘導体を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、上記多環芳香族炭化水素誘導体を含む、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る多環芳香族炭化水素誘導体は、6個以上の芳香環を有する多環芳香族炭化水素の誘導体であって、下記式(1)で表される置換基を有する。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環の炭素であり、R~Rは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環の炭素である。また、nは0又は1であり、mは置換基の数である。)
【0011】
本発明に係る多環芳香族炭化水素誘導体のある特定の局面では、前記置換基が、下記式(2)で表される置換基である。
【0012】
【化2】
【0013】
(式(2)中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環の炭素である。Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。また、mは置換基の数である。)
【0014】
本発明に係る多環芳香族炭化水素誘導体の別の特定の局面では、前記置換基が、下記式(3)で表される置換基である。
【0015】
【化3】
【0016】
(式(3)中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環の炭素である。R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。また、mは置換基の数である。)
【0017】
本発明に係る多環芳香族炭化水素誘導体の他の特定の局面では、前記置換基が、下記式(10)で表される置換基である。
【0018】
【化4】
【0019】
(式(10)中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環の炭素である。R及びRは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環の炭素である。R及びR10は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。また、mは置換基の数である。)
【0020】
本発明に係る多環芳香族炭化水素誘導体のさらに他の特定の局面では、前記多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における寸法が、100nm以下である。
【0021】
本発明に係る蛍光材料は、本発明に従って構成される多環芳香族炭化水素誘導体を含む。
【0022】
本発明に係るりん光材料は、本発明に従って構成される多環芳香族炭化水素誘導体を含む。
【0023】
本発明に係る調光材料は、本発明に従って構成される多環芳香族炭化水素誘導体を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、新規な多環芳香族炭化水素誘導体、該多環芳香族炭化水素誘導体を含む、蛍光材料、りん光材料、及び調光材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体の製造方法の一例を説明するための反応スキームである。
図2図2は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。
図3図3は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。
図4図4は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。
図6図6は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。
図7図7は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。
図8図8は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
図9図9は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。
図10図10は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。
図11図11は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。
図12図12は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
図13図13は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。
図14図14は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。
図15図15は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。
図16図16は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
図17図17は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。
図18図18は、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体を用いた一例としての調光積層体を示す模式的正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0027】
本発明の多環芳香族炭化水素誘導体は、6個以上の芳香環を有する多環芳香族炭化水素の誘導体である。上記多環芳香族炭化水素誘導体は、下記式(1)で表される置換基を有する。
【0028】
【化5】
【0029】
上記式(1)中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環由来の炭素である。従って、R及びRは、置換基に含まれず、R及びRを含む多環芳香族炭化水素が設けられていることを意味している。R~Rは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環由来の炭素である。すなわち、R~Rを含む芳香環又は複素環を有する基が設けられていることを意味している。nは0又は1である。従って、Rは設けられていなくともよい。なお、mは多環芳香族炭化水素誘導体の置換基の数を意味している。上記置換基の数mは、好ましくは3個以上、より好ましくは5個以上、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下である。置換基の数mが上記下限以上である場合、置換基と多環芳香族炭化水素との間において電子の授受を行うことにより、電子密度をより一層大きく変化させることができる。また、置換基の数mが上記上限以下である場合、多環芳香族炭化水素の部分由来の近赤外吸収及び赤外吸収を実用上有効により一層機能しやすくできる。また、近赤外領域により一層確実に発光を示す。
【0030】
n=0である場合の式(1)で表される置換基としては、例えば、下記式(2)で表される置換基が挙げられる。
【0031】
【化6】
【0032】
上記式(2)中、R及びRは、上記と同様に、多環芳香族炭化水素における芳香環由来の炭素である。Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。また、mは、上記と同様に、置換基の数である。
【0033】
具体的に、Rが水素原子である場合、置換基は、[d]9H-9-Oxo-benzo[4,5]imidazo[2,1-a]pyrro基である。また、Rがメトキシである場合、多環芳香族炭化水素誘導体は下記式(4)で表される化合物である。なお、式(4)や、以下に示す化学式、図面において、グラフェンや多環芳香族炭化水素を構成する芳香環における二重結合は省略される場合があるものとする。
【0034】
【化7】
【0035】
なお、n=0である場合、下記式(10)で表される置換基であってもよい。すなわち、式(1)のR~Rを含む基が、硫黄原子を含む複素環を有する基であってもよい。下記式(10)で表される置換基を有する化合物の例としては、下記式(5)の化合物が挙げられる。もっとも、式(1)のR~Rを含む基が、窒素原子を含む複素環を有する基であってもよい。
【0036】
【化8】
【0037】
上記式(10)中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環の炭素であり、R及びRは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環の炭素である。R及びR10は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。mは置換基の数である。
【0038】
【化9】
【0039】
なお、上記式(5)中、i-Buは、イソブチル基である。
【0040】
n=1である場合の式(1)で表される置換基としては、例えば、下記式(3)で表される置換基が挙げられる。
【0041】
【化10】
【0042】
上記式(3)中、R及びRは、上記と同様に、多環芳香族炭化水素における芳香環由来の炭素である。R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアセトキシ基である。また、mは、上記と同様に、置換基の数である。
【0043】
具体的に、R及びRが水素原子である場合、置換基は、[d]11H-11-Oxo-Perimidino[2,1-a]pyrro基である。すなわち、多環芳香族炭化水素誘導体は下記式(6)で表される化合物である。
【0044】
【化11】
【0045】
また、R及びRが、ターシャリーブチル基(t-Bu)である場合、多環芳香族炭化水素誘導体は下記式(7)で表される化合物である。
【0046】
【化12】
【0047】
本発明において、上記多環芳香族炭化水素誘導体を構成する多環芳香族炭化水素の芳香環の数は、好ましくは6個以上、より好ましくは10個以上、好ましくは10000個以下、より好ましくは500個以下である。上記芳香環の数が上記下限以上である場合、芳香環に基づく赤外域での吸収が見られるようになったり、昇華性が見られなくなり安定な塗膜を形成しやすくなったりする。また、機能制御するための多環芳香族炭化水素同士の会合を制御しやすくなったりする。さらに、溶解度もより一層向上する。
【0048】
また、上記芳香環の数が上記上限以下である場合、芳香環誘導体中の置換基数と芳香環数のバランスが良くなり、置換基数由来の機能効果を得やすくなったり、多環芳香族炭化水素同士の会合程度を制御しやすくなったりする。
【0049】
上記多環芳香族炭化水素としては、例えば、コロネン、オバレン、アンタントレン、サーキュレン、ジコロニレン、ヘリセン、ケクレン、ゼトレン、トリナフチレン、ヘプタフェン、又はヘプタセンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0050】
上記多環芳香族炭化水素は、グラフェン又は酸化グラフェンであってもよい。また、グラフェンシートの積層体である薄片化黒鉛又は酸化薄片化黒鉛であってもよい。その場合、グラフェンシートの積層数は、例えば、2層~100層とすることができる。
【0051】
本発明において、多環芳香族炭化水素誘導体の形状は、特に限定されないが、例えば、シート形状や、面方向において細長いリボン形状が挙げられる。なお、面方向とは、多環芳香族炭化水素誘導体の主面に沿う方向である。
【0052】
本発明において、多環芳香族炭化水素誘導体の面方向の寸法は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。なお、面方向の寸法とは、面方向における最大寸法のことをいう。
【0053】
面方向の寸法が上記下限以上である場合、置換基と多環芳香族炭化水素との間において電子の授受を行うことにより、電子密度をより一層大きく変化させることができる。この結果、吸収波長や発光波長の制御がより一層容易になる。面方向の寸法が上記上限以下である場合、置換基由来の光機能が実用上有効により一層機能しやすくできる。
【0054】
また、本発明において、多環芳香族炭化水素誘導体のアスペクト比は、好ましくは3以上、好ましくは330以下である。アスペクト比は、多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における最大寸法を多環芳香族炭化水素誘導体の厚みで除することにより求められる(面方向の最大寸法/厚み)。
【0055】
なお、多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における寸法やアスペクト比は、例えば、電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて得ることができる。
【0056】
本発明において、多環芳香族炭化水素誘導体は、他の置換基を有していてもよい。例えば、ヒドロキシル基、フェノキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、グリシジル基、オキセタニル基、エーテル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニル基などの置換基を有していてもよい。また、アリル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アシルアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、スルフォネート基、シリル基、アルコキシシリル基などの置換基を有していてもよい。
【0057】
本発明の多環芳香族炭化水素誘導体では、多環芳香族炭化水素と上記式(1)で表される置換基との間で電子の授受を行うことにより、電子密度を大きく変化させることができる。このような本発明の多環芳香族炭化水素誘導体は、化学的な刺激や電気的な刺激、圧力や温度などの物理的な刺激に応答して、可視光から赤外光までの幅広い領域での光線透過率を制御できる。また、長期安定性にも優れている。よって、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体は、調光材料として好適に用いることができる。また、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体は、蛍光特性やりん光特性を有する。よって、蛍光材料やりん光材料にも好適に用いることができる。
【0058】
本発明の多環芳香族炭化水素誘導体は、例えば、図1に示す反応スキームに従って得ることができる。ここでは、式(4)で表される化合物を例に挙げて説明する。図1に示すように、まず、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素を用意する。2つのカルボキシル基は、芳香環のオルト位に設けられていることが望ましい。このように2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素は、例えば、多環芳香族炭化水素の酸無水物を加水分解することにより得ることができる。また、酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛などを用いることができる。酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛は、酸化切断して用いてもよい。なお、酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛は、例えば、ハマーズ法などの従来公知の製造方法により製造することができる。このように、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素は、複数の芳香環が縮合した縮合多環芳香族炭化水素の酸無水物を加水分解したものであってもよい。また、酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛、あるいはそれらを酸化切断したものであってもよい。
【0059】
一方で、少なくとも2つのアミノ基により置換された芳香環又は複素環を有する化合物を用意する。なお、芳香環又は複素環を複数有する場合は、1つの芳香環又は複素環において少なくとも2つのアミノ基が置換されていてもよいし、2以上の芳香環又は複素環において少なくとも2つのアミノ基が置換されていてもよい。
【0060】
このような化合物としては、例えば、1,2-ジアミノベンゼン、4-メトキシ-1,2-ジアミノベンゼン、4-シアノ-1,2-ジアミノベンゼン、4-ニトロ-1,2-ジアミノベンゼン、ナフタレン-1,8-ジアミン、フェナントレン-9,10-ジアミンなどのジアミンが挙げられる。また、例えば、ピレン-4,5-ジアミン、3,6-ジターシャルブチル-ナフタレン-1,8-ジアミンなどのジアミンや、2,4-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノチオフェン、3,4-ジアミノ-2,5-ジターシャルブチルチオフェンなども用いることができる。
【0061】
次に、図1に示すように、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素と、少なくとも2つのアミノ基により置換された芳香環又は複素環を有する化合物とを反応させる。それによって、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体を得ることができる。
【0062】
なお、上記の反応は、後述する実施例で示すように、例えば、塩化オキサリル、N,N-ジメチルホルムアミド、トリエチルアミンなどの存在下で行なうことができる。
【0063】
例えば、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素と塩化オキサリルを触媒量のN,N-ジメチルホルムアミド存在下、60℃で4日間、加熱する。塩化オキサリルを除去後、酸塩化物化したカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素を、N,N-ジメチルホルムアミド中に加え、トリエチルアミンと触媒量のN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを加える。その後、2つのアミノ基により置換された芳香環又は複素環を有する化合物を加える。この溶液を80℃で4日間攪拌する。溶媒除去後、テトラヒドロフランを展開溶媒に用い、バイオビーズにて精製することで、目的の多環芳香族炭化水素誘導体を得ることができる。なお、反応が完結しない場合は、酢酸を添加し加熱すると班か生成物が得られる。
【0064】
なお、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体の生成は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)や、核磁気共鳴(NMR)装置を用いて確認することができる。
【0065】
図18は、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体を用いた一例としての調光積層体を示す模式的正面断面図である。
【0066】
図18に示すように、調光積層体1は、第1,第2の支持体2A,2Bを有する。調光積層体1は、第1,第2の支持体2A,2Bに、後述する調光フィルム5が挟み込まれた構成を有する。本実施形態では、第1,第2の支持体2A,2Bはガラス基板である。なお、第1,第2の支持体2A,2Bは、ガラス以外の透明性が高い適宜の材料からなっていてもよい。
【0067】
第1の支持体2A上には、第1の導電膜3Aが設けられている。第1の導電膜3Aには、例えば、ITO等の透明電極を用いることができる。第1の支持体2A及び第1の導電膜3Aにより、第1の導電膜付き基板4Aが構成されている。同様に、第2の支持体2B上にも、第2の導電膜3Bが設けられている。第2の支持体2B及び第2の導電膜3Bにより、第2の導電膜付き基板4Bが構成されている。なお、第2の導電膜3Bは、第1の導電膜3Aと同様の材料からなる。
【0068】
第1の導電膜3A上には、調光フィルム5が設けられている。調光フィルム5における調光材料は、本発明の多環芳香族炭化水素誘導体を含む。調光フィルム5上には、電解質層6が設けられている。より具体的には、調光フィルム5上には、電解質層6を囲むように設けられた支持部材7が設けられている。支持部材7上には、電解質層6を封止するように、上記第2の導電膜付き基板4Bが設けられている。
【0069】
なお、第2の導電膜付き基板4Bにおいては、第2の導電膜3Bが支持部材7及び電解質層6側に位置する。第1,第2の導電膜3A,3Bは、調光積層体1の対向電極である。
【0070】
調光フィルム5、第2の導電膜3B及び支持部材7により囲まれた空間に、電解質溶液が封入されている。電解質溶液としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)やジメチルカーボネート(DMC)等を溶媒とし、LiPF等を含む電解質溶液を用いることができる。これにより、電解質層6が設けられている。
【0071】
上記のように構成された調光積層体1に電圧を印加することにより、各波長における光線透過率が変化する。なお、上記電解質層6は必ずしも設けられていなくともよい。もっとも、本実施形態のように、電解質層6を有することにより、光線透過率を効果的に変化させることができる。
【0072】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
まず、酸化グラフェンを、文献(J.J.Zhu, P.M.Ajayan, et al., Nano Lett., 2012, 12, 844-849)に記載されている方法を用いて、調製した。
【0074】
具体的には、5Lの三口フラスコ中に、混酸(濃硫酸:濃硝酸=3:1(体積比))1600mLを入れ、さらにパウダー状(粒径<20μm)のグラファイト(Aldrich社製)6.3gを投入した。続いて、三口フラスコの1つの口にジムロート冷却管を設け、残る口には閉じた状態で、三方コックを設けた。その状態で、冷却水を流しつつ、空気雰囲気下において、マグネティックスターラーにより撹拌しながら、オイルバスにて120℃に加熱し、24時間反応させた。得られた反応物は、2Lのイオン交換水で希釈した。しかる後、希釈液のpHが8に近くなるまで、炭酸ナトリウムで中和し、中和処理液を得た。透析バックに中和処理液を入れ、3日間透析処理を行い、中和塩等を除いた処理液を乾燥させ、それによって酸化グラフェン2.5gを得た。
【0075】
上記のようにして調製した酸化グラフェンを用いて、下記式(4)に示す多環芳香族炭化水素誘導体を合成した。
【0076】
【化13】
【0077】
具体的には、三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に上記のようにして調製した酸化グラフェン111mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)6mLを加え、さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.04mLを添加した。次に、ナスフラスコ中における酸化グラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて2時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、6日間行った。このようにして反応させた後、ナスフラスコにさらに乾燥DMF10mL、トリエチルアミン5mL、4-メトキシ-1,2-ジアミノベンゼン450mgを加え、アルゴン雰囲気下、80℃の温水で4日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、クロロホルム/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、クロロホルム回収液を回収した。クロロホルム回収液を芒硝にて12時間乾燥後、エバポレータにてクロロホルムを除去し、多環芳香族炭化水素誘導体200mgを得た。
【0078】
図2は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。図2においては、比較として、下記式(8)に示す化合物と未変性の酸化グラフェンのFT-IRスペクトルを併せて示している。なお、FT-IRスペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、型番「FT/IR-4600」)を用いて測定した(以下の実施例においても同様にして測定した)。
【0079】
【化14】
【0080】
図2に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、酸化グラフェン由来のピークに加え、1600cm-1付近にショルダーピークが観察された。このショルダーピークは、式(8)に示す化合物のピークとほぼ同じ位置に存在しており、しかも未変性の酸化グラフェンでは観察されないピークである。よって、得られた多環芳香族炭化水素誘導体においても、式(8)に示す化合物と同じ置換基が導入されていることが確認できた。
【0081】
また、図3は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。なお、H-NMRスペクトルは、核磁気共鳴装置(Varian社製、型番「Mercury-300」)を用いて測定した(以下の実施例においても同様にして測定した)。図3に示すように、得られたH-NMRスペクトルでは、3.5ppm~4.0ppm付近にメトキシ基由来のシグナルが観察され、6.5ppm~7.5ppm付近に芳香環由来のシグナル(一部は、クロロホルムのシグナルと重なっている)が観察された。
【0082】
従って、図2及び図3より、上記式(4)に示す多環芳香族炭化水素誘導体が生成していることが確認できた。
【0083】
図4は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。図4に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、700nm付近まで吸収帯が存在していた。
【0084】
図5は、実施例1で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。図5は、360nm~560nmの励起光を用いたときの蛍光スペクトルである。図5に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、波長550nm付近に極大蛍光を示していることがわかる。
【0085】
得られた多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における寸法及び厚みを原子間力顕微鏡(AFM、Agilent Technology社製、商品名「PicoPlus5100」)を用いて測定した。3回測定した結果、その平均値は、面方向における寸法が51nmであり、アスペクト比は、23であった。
【0086】
(実施例2)
実施例2においても、実施例1と同様の方法で酸化グラフェンを調製した。
【0087】
上記のようにして調製した酸化グラフェンを用いて、下記式(6)に示す多環芳香族炭化水素誘導体を合成した。
【0088】
【化15】
【0089】
具体的には、三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に実施例1と同様にして調製した酸化グラフェン111mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)6mLを加え、さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.04mLを添加した。次に、ナスフラスコ中における酸化グラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて2時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、6日間行った。このようにして反応させた後、ナスフラスコにさらに乾燥DMF10mL、トリエチルアミン5mL、ナフタレン-1,8-ジアミン450mgを加え、アルゴン雰囲気下、80℃の温水で4日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、クロロホルム/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、クロロホルム回収液を回収した。クロロホルム回収液を芒硝にて12時間乾燥後、エバポレータにてクロロホルムを除去し、多環芳香族炭化水素誘導体161.5mgを得た。
【0090】
図6は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。図6においては、比較として、下記式(9)に示す化合物と未変性の酸化グラフェンのFT-IRスペクトルを併せて示している。
【0091】
【化16】
【0092】
図6に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、酸化グラフェン由来のピークに加え、1600cm-1から1700cm-1付近にショルダーピークが観察された。このショルダーピークは、式(9)に示す化合物のピークとほぼ同じ位置に存在しており、しかも未変性の酸化グラフェンでは観察されないピークである。よって、得られた多環芳香族炭化水素誘導体においても、式(9)に示す化合物と同じ置換基が導入されていることが確認できた。
【0093】
また、図7は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。図7に示すように、得られたH-NMRスペクトルでは、6.5ppm~8.0ppm付近に芳香環由来のシグナルが観察された。
【0094】
従って、図6及び図7より、上記式(6)に示す多環芳香族炭化水素誘導体が生成していることが確認できた。
【0095】
図8は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。図8に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、470nm付近に目的の部分構造に帰属できる新たな吸収バンドが観測されたことから、目的の構造がグラフェン骨格に導入されたことがわかった。
【0096】
図9は、実施例2で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。図9は、360nm~560nmの励起光を用いたときの蛍光スペクトルである。図9に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、波長400nm~500nm付近に極大蛍光を示していることがわかる。
【0097】
得られた多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における寸法及び厚みは、実施例1と同様の方法で測定した結果、面方向における寸法が60nmであり、アスペクト比は200であった。
【0098】
(実施例3)
実施例3においても、実施例1と同様の方法で酸化グラフェンを調製した。
【0099】
上記のようにして調製した酸化グラフェンを用いて、下記式(7)に示す多環芳香族炭化水素誘導体を合成した。なお、式(7)において、t-Buは、ターシャリーブチル基を示している。
【0100】
【化17】
【0101】
具体的には、三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に実施例1と同様にして調製した酸化グラフェン106.5mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)5mLを加え、さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.10mLを添加した。次に、ナスフラスコ中における酸化グラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて3時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、4日間行った。このようにして反応させた後、ナスフラスコにさらに乾燥DMF5mL、トリエチルアミン5mL、3,6-ジターシャルブチル-ナフタレン-1,8-ジアミン466mgを加え、アルゴン雰囲気下、80℃の温水で5日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、酢酸エチル/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、酢酸エチル回収液を回収した。酢酸エチル回収液を芒硝にて12時間乾燥後、エバポレータにて酢酸エチルを除去し、バイオビーズカラム(展開溶媒:THF)を用いて精製することで多環芳香族炭化水素誘導体277.3mgを得た。
【0102】
図10は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。図10に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、酸化グラフェン由来のピークに加え、式(7)に示す置換基由来のピークが存在することを確認できた。
【0103】
また、図11は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。図11に示すように、得られたH-NMRスペクトルでは、1ppm~1.5ppm付近にt-Bu基由来のシグナルが観察され、6.5ppm~8.0ppm付近に芳香環由来のシグナルが観察された。
【0104】
従って、図10及び図11より、上記式(7)に示す多環芳香族炭化水素誘導体が生成していることが確認できた。
【0105】
図12は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。図12に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、700nmを超える吸収帯が存在していた。
【0106】
図13は、実施例3で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。図13は、360nm~600nmの励起光を用いたときの蛍光スペクトルである。図13に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、500nm以上の励起光を用いると、波長700nm付近に極大蛍光を示していることがわかる。
【0107】
得られた多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における寸法及び厚みは、実施例1と同様の方法で測定した結果、面方向における寸法が58nmであり、アスペクト比は160であった。
【0108】
(実施例4)
実施例4においても、実施例1と同様の方法で酸化グラフェンを調製した。
【0109】
上記のようにして調製した酸化グラフェンを用いて、下記式(5)に示す多環芳香族炭化水素誘導体を合成した。なお、式(5)において、i-Buは、イソブチル基を示している。
【0110】
【化18】
【0111】
具体的には、三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に実施例1と同様にして調製した酸化グラフェン118.8mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)5mLを加え、さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.10mLを添加した。次に、ナスフラスコ中における酸化グラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて3時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、4日間行った。このようにして反応させた後、ナスフラスコにさらに乾燥DMF5mL、トリエチルアミン5mL、3,4-ジアミノ-2,5-ジターシャルブチルチオフェン281.8mgを加え、アルゴン雰囲気下、80℃の温水で5日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を酢酸エチルに溶解させ、pH4の水溶液で洗浄後、飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、酢酸エチル回収液を回収した。酢酸エチル回収液を芒硝にて12時間乾燥後、エバポレータにて酢酸エチルを除去し、バイオビーズカラム(展開溶媒:THF)を用いて精製することで多環芳香族炭化水素誘導体117.2mgを得た。
【0112】
図14は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のFT-IRスペクトルを示す図である。図14に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、酸化グラフェン由来のピークに加え、式(5)に示す置換基由来のピークが存在することを確認できた。
【0113】
また、図15は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のH-NMRスペクトルを示す図である。図15に示すように、得られたH-NMRスペクトルでは、1~1.5ppm付近にi-Bu基由来のシグナルが観察され、6.5~8.0ppm付近に芳香環由来のシグナルが観察された。
【0114】
従って、図14及び図15より、上記式(5)に示す多環芳香族炭化水素誘導体が生成していることが確認できた。
【0115】
図16は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の吸収スペクトルを示す図である。図16に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、700nmを超える吸収帯が存在していた。
【0116】
図17は、実施例4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。図17は、360nm~480nmの励起光を用いたときの蛍光スペクトルである。図17に示すように、得られた多環芳香族炭化水素誘導体では、波長550nm付近に極大蛍光を示していることがわかる。
【0117】
得られた多環芳香族炭化水素誘導体の面方向における寸法及び厚みは、実施例1と同様の方法で測定した結果、面方向における寸法が67nmであり、アスペクト比は184であった。
【0118】
(エレクトロクロミック性の評価)
実施例1~4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体のエレクトロクロミック性を評価した。まず、実施例1~4で得られた多環芳香族炭化水素誘導体を用いて、それぞれ調光積層体を以下のようにして作製した。
【0119】
多環芳香族炭化水素誘導体を1重量%の濃度でトルエンに添加した。次に、超音波照射を30分間行うことによりトルエン中に多環芳香族炭化水素誘導体を分散させ、分散液を得た。
【0120】
ここで、ガラス基板上にITOからなる導電膜が設けられた、導電膜付き基板を2枚用意した。一方の導電膜付き基板上に、上記分散液を、スピンコーティングにより塗布した。次に、85℃で1時間加熱することによってトルエンを除去し、導電膜付き基板上において多環芳香族炭化水素誘導体を乾燥させた。これにより、導電膜付き基板上に設けられた調光フィルムを得た。
【0121】
次に、調光フィルム上に支持部材を設けた。次に、上記2枚の導電膜付き基板のうち他方の導電膜付き基板を、支持部材上に設けた。調光フィルム、支持部材及び導電膜付き基板に囲まれた空間に電解質溶液(LiPF…1mol/L、溶媒…EC:DMC=1:2(体積比))を注入し、封止した。以上により、調光積層体を得た。
【0122】
調光積層体に3Vの直流電圧を印加し、光線透過率の変化を評価し、特に波長500nmにおける光線透過率の透過率差(%)及び電圧印加前後の色変化(目視)の結果を下記の表1に示す。光線透過率の変化は、JASCO社製の分光装置(型番:V-670)により測定した。なお、表1において、色変化(目視)の評価における○は、電圧印加前は透明であり、電圧印加後に濃褐色に変色したことを示す。
【0123】
【表1】
【符号の説明】
【0124】
1…調光積層体
2A,2B…第1,第2の支持体
3A,3B…第1,第2の導電膜
4A,4B…第1,第2の導電膜付き基板
5…調光フィルム
6…電解質層
7…支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18