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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】光検出装置およびレーザ走査型顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220427BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20220427BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
G01N21/64 B
G02B21/36
G02B21/06
G01N21/64 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017214296
(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2019086374
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】藪垣 博之
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆介
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/122169(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0028193(US,A1)
【文献】国際公開第2016/187566(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0120830(US,A1)
【文献】特開2001-159734(JP,A)
【文献】米国特許第04791310(US,A)
【文献】特開昭62-215917(JP,A)
【文献】特表2007-501414(JP,A)
【文献】特開平07-229835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 33/48-G01N 33/98
G02B 19/00-G02B 21/00
G02B 21/06-G02B 21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のレーザ光を射出する光源から出力される同期信号に基づいて、サンプリングクロックを生成するPLL部と、
該PLL部から出力される前記サンプリングクロックによって、前記レーザ光が照射されることにより試料から出力される信号光のサンプリングを行うA/D変換部と、
該A/D変換部から出力されるサンプリングデータを連続してN個取得する毎に1つのデータ配列に格納する受信データ処理部とを備え
前記PLL部は、
前記レーザ光のパルス周波数のN(Nは2以上の整数)倍の周波数を有しかつ前記レーザ光の位相と同期したクロックをフェイズロックループにより生成するクロック生成部と、
該クロック生成部により生成された前記クロックの遅延量を調整してサンプリングクロックを生成する遅延調整部とを備え、
前記受信データ処理部が、前記A/D変換部から順次出力される前記サンプリングデータのうち、どの前記サンプリングデータから前記データ配列を開始するかの配列化開始トリガを生成する配列化開始トリガ生成部を備え、
該配列化開始トリガ生成部は、前記同期信号の立ち上がりに対する、前記信号光が前記A/D変換部によりサンプリングされるまでの遅延量に基づいて、前記配列化開始トリガを生成す光検出装置。
【請求項2】
前記クロックの遅延量は、検出される前記信号光のレベルが最大となる位置をサンプリングするように設定されている請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記配列化開始トリガ生成部が、前記同期信号と、前記レーザ光が前記試料において反射され前記A/D変換部にアナログ信号として伝達されるまでの到達時刻との遅延差をサンプリングクロック数に換算して前記配列化開始トリガのタイミングを決定する請求項1または請求項2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記受信データ処理部は、さらに、前記レーザ光の各パルスに対応した前記N個のデータ配列のうち、各パルス射出後の特定の時間区間に検出されたサンプリングデータを抜き出してデータ処理を行う請求項1から請求項3のいずれかに記載の光検出装置。
【請求項5】
前記光源からの前記レーザ光を2次元的に走査する走査部と、
該走査部により走査された前記レーザ光を前記試料に照射し、前記試料から発生する前記信号光を集光する光学系と、
該光学系により集光された前記信号光を検出する請求項1から請求項4のいずれかに記載の光検出装置とを備えるレーザ走査型顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出装置およびレーザ走査型顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス状のレーザ光を射出する光源からの同期信号を用いてトリガ信号を生成し、所定の周期で蛍光のサンプリングを行うタイミングや期間を示す同期信号を生成するレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、パルス状のレーザ光のパルス発振周波数を遥かに上回る周波数でレーザ光および蛍光の両方をサンプリングして、レーザ光による励起のタイミングに同期した蛍光のデータを用いた演算を行うレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-159734号公報
【文献】特開2013-117529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のレーザ走査型顕微鏡では、光源からのレーザ光の発振周波数が変動した場合に、サンプリングの期間をレーザ光の発振周波数に合わせて最適化しなければならないという不都合がある。また、トリガにより開始されるサンプリング有効期間が決まっているので隣接するパルス照射タイミングの期間との間にサンプリングが行われないデッドタイムが発生し、蛍光信号の損失が発生するという不都合がある。
また、特許文献2のレーザ走査型顕微鏡によれば、そのような不都合はないが、高速にサンプリングを行うことができるA/D変換器が高価であってコストが嵩むという不都合がある。また、高速にサンプリングを行って取得される蛍光のデータが膨大となり、データ処理量および記憶容量が増大するという不都合もある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、安価なA/D変換器を用いてコストの低減、データ処理量および記憶容量の低減を図りながら、蛍光信号を精度よく検出することができる光検出装置およびレーザ走査型顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、パルス状のレーザ光を射出する光源から出力される同期信号に基づいて、前記レーザ光のパルス周波数のN(Nは1以上の整数)倍の周波数を有しかつ前記レーザ光の位相と同期したクロックをフェイズロックループにより生成するクロック生成部と、該クロック生成部により生成された前記クロックの遅延量を調整してサンプリングクロックを生成する遅延調整部とを備えるPLL部と、該PLL部から出力される前記サンプリングクロックによって、前記レーザ光が照射されることにより試料から出力される信号光のサンプリングを行うA/D変換部と、該A/D変換部から出力されるサンプリングデータを連続してN個取得する毎に1つのデータ配列に格納する受信データ処理部とを備える光検出装置を提供する。
【0007】
本態様によれば、光源からパルス状のレーザ光が発せられると、光源から出力される同期信号がPLL部に入力される。PLL部においては、同期信号を用いたフェイズロックループにより、クロック生成部が、レーザ光のパルス周波数のN倍の周波数を有しかつレーザ光の位相に同期したクロックを生成し、生成されたクロックの遅延量が遅延調整部において調整されてサンプリングクロックが生成される。
【0008】
生成されたサンプリングクロックはA/D変換部における試料からの信号光のサンプリングに用いられ、受信データ処理部において、A/D変換部から出力されるサンプリングデータが連続してN個取得される毎に1つのデータ配列に格納される。
レーザ光の同期信号のN倍の周波数を有するサンプリングクロックを用いて信号光をサンプリングするので、N個のサンプリングデータを取得する時間周期とレーザ光のパルス発振周期とは完全に一致している。これにより、レーザ光のパルス発振周期の境目でデッドタイムを発生させることなく損失なくサンプリングデータを取得することができる。
【0009】
また、レーザ光のパルス発振周期とサンプリングクロックとの位相がロックされているので、パルス発振周期毎にサンプリングを行うタイミングを毎回同じにすることができ、サンプリングの周波数を低くしてもパルス照射とサンプリングとの間の時間精度を高く保持することが可能であり、安価なA/D変換器を用いることができる。
【0010】
上記態様においては、前記遅延量は、検出される前記信号光のレベルが最大となる位置をサンプリングするように設定されていてもよい。
このようにすることで、試料から出力される蛍光等の信号光のように、ピーク強度となった後に徐々に減衰するような信号光の形状を精度よく検出することができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記受信データ処理部が、前記A/D変換部から順次出力される前記サンプリングデータのうち、どの前記サンプリングデータから前記データ配列を開始するかの配列化開始トリガを生成する配列化開始トリガ生成部を備え
このようにすることで、配列化開始トリガ生成部により、どのサンプリングデータからデータ配列を開始するかを決定する配列化開始トリガが生成されるので、光源からレーザ光が発せられてからA/D変換部においてサンプリングされるまでに発生する種々の遅延を含めた遅延量で配列化開始トリガを設定することができ、試料にレーザ光がパルス照射される度に発生する信号光を、そのパルス照射周期毎に区切って精度よく検出することができる。
【0012】
また、上記態様においては、前記配列化開始トリガ生成部が、前記同期信号と、前記レーザ光が前記試料において反射され前記A/D変換部にアナログ信号として伝達されるまでの到達時刻との遅延差をサンプリングクロック数に換算して前記配列化開始トリガのタイミングを決定してもよい。
このようにすることで、同期信号に同期して生成されるサンプリングクロックの数に換算された遅延差だけ同期信号から遅れた時点に配列化開始トリガを発生させることができ、レーザ光に対応する信号光を精度よく検出することができる。
【0013】
また、本発明の他の態様は、前記光源からの前記レーザ光を2次元的に走査する走査部と、該走査部により走査された前記レーザ光を前記試料に照射し、前記試料から発生する前記信号光を集光する光学系と、該光学系により集光された前記信号光を検出する上記いずれかに記載の光検出装置とを備えるレーザ走査型顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価なA/D変換器を用いてコストの低減、データ処理量および記憶容量の低減を図りながら、蛍光信号を精度よく検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡を示す全体構成図である。
図2図1のレーザ走査型顕微鏡に備えられる本発明の一実施形態に係る光検出装置を示すブロック図である。
図3図2の光検出装置の作用を説明するタイミングチャートである。
図4図2の光検出装置における遅延調整部において調整される第1の遅延量の設定方法を説明する図である。
図5図3における第2の遅延量を設定する方法を説明する図である。
図6図3の受信データ処理部の詳細を説明する図である。
図7図3における第2の遅延量を設定する他の方法を説明する図である。
図8図3の受信データ処理部の変形例を説明するブロック図である。
図9図8の受信データ処理部により設定される第3の遅延量を説明する図である。
図10図1のレーザ走査型顕微鏡の変形例を示す全体構成図である。
図11図3の受信データ処理部の他の変形例を説明するブロック図である。
図12図1のレーザ走査型顕微鏡の他の変形例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る光検出装置4およびレーザ走査型顕微鏡1について、超短パルスレーザ照射により発生する多光子励起蛍光を検出する多光子励起レーザ顕微鏡の構成を一例として、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1は、図1に示されるように、パルス状のレーザ光を射出する光源2と、該光源2からのレーザ光を試料Xに照射し、試料Xにおいて発生する蛍光(信号光)を検出する顕微鏡本体3と、該顕微鏡本体3により検出された蛍光をサンプリングしてデジタルの蛍光強度信号を生成する光検出装置4と、顕微鏡本体3を制御するとともに、光検出装置4から受信した蛍光強度信号を用いて蛍光画像を生成する制御部5と、該制御部5により生成された蛍光画像を表示する表示部6とを備えている。
【0017】
光源2は、パルス状のレーザ光を周期的に射出するとともに、レーザ光の射出周期に同期する同期信号を外部に出力する同期信号出力部7を備えている。
顕微鏡本体3は、光源2からのレーザ光を2次元的に走査するスキャナ(走査部)8と、該走査部8により走査されたレーザ光を試料Xに集光する一方、試料Xにおいて発生した蛍光を集光する対物レンズ(光学系)9と、該対物レンズ9により集光された蛍光をレーザ光の光路から分岐するダイクロイックミラー10と、該ダイクロイックミラー10により分岐された蛍光を検出する光検出器(例えば、光電子増倍管)11とを備えている。
【0018】
スキャナ8は、例えば、それぞれ揺動する2つのガルバノミラーを対向して配置することにより構成された、いわゆる近接ガルバノミラーである。ダイクロイックミラー10は、所定の波長帯域のレーザ光は透過し、レーザ光とは異なる波長帯域の蛍光を反射するようになっている。
【0019】
本実施形態に係る光検出装置4は、図2に示されるように、サンプリングクロックを生成するPLL部12と、該PLL部12において生成されたサンプリングクロックによって、光検出器11により検出された蛍光のサンプリングを行うA/D変換器(A/D変換部)13とを備えている。
【0020】
PLL部12は、クロック生成部14と、遅延調整部15とを備えている。
クロック生成部14は、光源2から出力される同期信号に基づいて、レーザ光のパルス周波数のN(Nは1以上の整数)倍の周波数を有し、かつ、レーザ光の出射周期と同期したクロックをフェイズロックループにより生成するようになっている。
遅延調整部15は、クロック生成部14により生成されたクロックの第1の遅延量DT1を調整してサンプリングクロックを生成するようになっている。第1の遅延量DT1については後述する。
【0021】
また、光検出装置4は、A/D変換器13から出力されるサンプリングデータを連続してN個取得する毎に1つのデータ配列に格納する受信データ処理部16を備えている。
制御部5は、スキャナ8を駆動する走査位置情報と、1つのデータ配列に格納されたN個のサンプリングデータとを対応づけることにより、2次元的な蛍光画像を生成するようになっている。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る光検出装置4およびレーザ走査型顕微鏡1の作用について以下に説明する。
光源2からは、図3に示されるように、所定の周期(パルス発振周期)でパルス状のレーザ光が射出され、光源2の同期信号出力部7からは、パルス状のレーザ光の射出周期に同期する同一周期の同期信号が出力される。
【0023】
光源2から発せられたパルス状のレーザ光は、スキャナ8によって2次元的に走査され、ダイクロイックミラー10を透過して対物レンズ9により試料Xに集光される。試料Xにおいて集光されたレーザ光は、スキャナ8による走査位置毎に試料X内に存在する蛍光物質を励起して蛍光を発生させる。発生した蛍光は対物レンズ9により集光され、ダイクロイックミラー10によってレーザ光から分岐されて光検出器11により検出される。
【0024】
光検出装置4においては、光検出器11から出力される蛍光強度を示すアナログ信号がA/D変換器13に入力される。また、光検出装置4においては、光源2の同期信号出力部7から出力されてくる同期信号がPLL部12に入力される。
PLL部12に同期信号が入力されると、同期信号はクロック生成部14に入力され、クロック生成部14において、図3に示されるように、入力された同期信号を元にパルス状のレーザ光のパルス周波数のN倍の周波数を持ち、かつ、その位相がレーザ光の位相と同期したクロックが生成される。
【0025】
また、クロック生成部14において生成されたクロックは、遅延調整部15に入力され、遅延調整部15において、入力されたクロックの第1の遅延量DT1が調整されることにより、サンプリングクロックが生成される。そして、生成されたサンプリングクロックがA/D変換器13に入力されて、各サンプリングクロックの立ち上がりに蛍光強度のアナログ信号がサンプリングされる。
【0026】
これにより、A/D変換器13においては、位相調整されたサンプリングクロックで、レーザ光の周波数のN倍のサンプリングレートで蛍光強度がA/D変換される。
そして、受信データ処理部16においては、A/D変換されたデータがN個ごとに配列化される。これにより、レーザ光の周期ごとに検出されたデータ列を生成することができる。
図3における第2の遅延量DT2については後述する。
【0027】
このように本実施形態に係る光検出装置4およびレーザ走査型顕微鏡1によれば、蛍光強度のサンプリングデータをN個取得する時間周期と、パルス状のレーザ光の周期とは完全に一致しているので、レーザ光の射出周期が変動しても、これに同期させてサンプリングデータを取得して、レーザ光のパルス照射とサンプリングとの間の時間制度を高く保持することができ、サンプリング期間を最適化する必要がない。
【0028】
また、本実施形態に係る光検出装置4によれば、レーザ光の射出周期と完全に同期した周期でサンプリングデータを取得でき、レーザ光の周期の境目におけるデッドタイムの発生を防止することができる。そして、周期毎のジッタを非常に少なく抑えることができ、サンプリング周波数を低減しても時間誤差が少ないという利点もある。サンプリング周波数を低減することにより、使用するA/D変換器13の発熱を抑制することができる。
【0029】
また、従来例のように、例えば5GHzのサンプリングクロックを有する高価なA/D変換器を使用しなくても、サンプリング速度を低減しても時間誤差が少ないサンプリングを行うことができるため、コストを低減することができるという利点がある。
【0030】
また、PLL部12の遅延調整部15による位相調整によって、レーザ光のパルスの周期とサンプリング周期との間の第1の遅延量DT1を高い自由度かつ高精度に調整することができるという利点もある。すなわち、レーザ走査型顕微鏡1においては、光源2からの同期信号がPLL部12に到達するまでには、同期位相の遅延および同期信号の伝播遅延が発生する可能性がある。また、光源2からレーザ光が射出され、試料Xにおいて発生した蛍光が光検出器11により検出されるまでには、光路長に応じた光伝播遅延が発生する可能性がある。さらに、光検出器11からPLL部12に蛍光強度信号が到達するまでには、信号の伝播遅延が発生する可能性がある。
【0031】
遅延調整部15において、これらの遅延が相殺されるような第1の遅延量DT1を設定することができる。
また、遅延調整部15において調整するクロックの第1の遅延量DT1については、図4に示されるように、所望の信号を取得することができる第1の遅延量DT1に自動調整されることにしてもよい。例えば、第1の遅延量DT1を微少変動させ、取得されるサンプリングデータの信号レベルが最大値となる第1の遅延量DT1を採用してもよい。あるいは、光検出装置4にテストパターン生成装置(図示略)を接続し、入力されたテストパターンに基づいて設定することにしてもよい。
【0032】
また、全ての遅延を測定することができれば、受信データ処理部16において、A/D変換器13から順次入力されてくるデータのうち、どのデータから配列化を開始するかを定める第2の遅延量DT2を設定することができる。
第2の遅延量DT2を設定する方法としては、例えば、図5に示されるように、試料Xを配置するステージに、試料Xに代えてミラー17を配置し、光源2から射出したレーザ光をミラー17によって反射させるようにする。
【0033】
この場合に、ダイクロイックミラー10に代えてハーフミラー30を配置し、ミラー17からの反射光の少なくとも一部が光検出器11に入射するようにしてもよい。
これにより、ミラー17において反射されたレーザ光が、光検出器11に入射され、検出信号として出力されてA/D変換器13によりサンプリングされる。
【0034】
この場合に、図6に示されるように、受信データ処理部16は、A/D変換器13においてデータ化されるN個のデータ列のうち、何番目のデータでレーザ光の光強度信号がサンプリングされたかを検出し、このデータ番号を第2の遅延量DT2として記憶し、配列化開始タイミングトリガを発生する配列化開始トリガ生成部18と、配列化開始タイミングトリガに応じて配列化を行う配列化処理部19とを備えていてもよい。
【0035】
受信データ処理部16においては、光源2からの同期信号に対して第2の遅延量DT2だけ遅延させたタイミングで配列化開始トリガ生成部18から配列化開始タイミングトリガを生成させることにより、配列化処理部19により配列化を開始する。ここで、第2の遅延量DT2は同期信号の立ち上がり後何番目のデータにおいてレーザ光がサンプリングされたかによって決定される。例えば、図3に示されるように、取得データ列のサンプリングデータD1が、ミラー17により反射されたレーザ光がサンプリングされるタイミングになるように第2の遅延量DT2を設定する。第2の遅延量DT2が一旦設定された後には、ミラー17を取り外してミラー17に代えて試料Xを配置し、ダイクロイックミラー10を元に戻すことで、同期信号の遅延と光路長による遅延とを相殺しながら試料Xからの蛍光をサンプリングし、サンプリングデータを配列化することができる。
【0036】
遅延を測定する他の方法としては、図7に示されるように、光源2とスキャナ8との間にハーフミラー20を配置し、ハーフミラー20により分岐したレーザ光を他の光検出器21により検出して、A/D変換器13に入力してもよい。分岐されたレーザ光がA/D変換器13に入力されるタイミングと、光源2からの同期信号がA/D変換器13に到達するタイミングとの時間差を検出する。
【0037】
ここで、この時間差は、同期信号の立ち上がり後、何番目のサンプリング周期でサンプリングされるかによって算出される。算出された時間差に、ハーフミラー20、試料X、ダイクロイックミラー10を経由して光検出器11に至る光路伝播距離と、ハーフミラー20から他の光検出器21までの光路伝播距離との差分における遅延量を加えた値を第2の遅延量DT2として、受信データ処理部16に設定することにすればよい。
【0038】
さらに、第2の遅延量DT2を決定する他の方法は、光源2から出力される同期信号を受信データ処理部16に取り込み、その同期信号の電気的伝播遅延や、レーザ光が試料Xに至りダイクロイックミラー10を経て光検出器11により検出されA/D変換器13に到達するまでの時間遅延などを全て理論的に計算し、算出された遅延量を受信データ処理部16に設定し、取り込まれた同期信号に対して第2の遅延量DT2だけ遅延させたタイミングで配列化を開始することにしてもよい。
【0039】
また、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1においては、図8に示されるように、画素クロックのスキャン開始タイミングに対して、データサンプリング遅延調整値で設定される第3の遅延量DT3だけ遅延したタイミングで画素データの生成を開始する画素データ生成部22を備えることにしてもよい。また、A/D変換器13や受信データ処理部16で生じる時間遅延がレーザ光のパルス周期よりも大きい場合があり、スキャン画素位置へのレーザ光照射とその結果の信号光サンプリングデータ出力の間にも大きな時間差が生じることになる。この場合、図9に示されるように、m画素目のスキャン開始タイミングからm画素目のデータ到達タイミングまでが第3の遅延量DT3だけ遅延する場合に画素データ生成部22からの出力を遅延させることにより、制御部5に入力される画素クロックとサンプリングデータの双方の時間遅延を吸収することができる。
【0040】
また、単一の光検出器11により蛍光を検出する場合について例示したが、これに代えて、図10に示されるように、蛍光を波長毎に分岐するダイクロイックミラー23をさらに備え、分岐された蛍光をそれぞれ検出する複数の光検出器24をそれぞれ備えていてもよい。この場合、各光検出器11,24に至るまでの光路長差、各光検出器11,24からA/D変換器13に至るまでの電気的遅延差、各A/D変換器13のチャネル間における処理遅延や検出遅延による遅延の差を第2の遅延量DT2としてチャネル毎に受信データ処理部16に設定することにしてもよい。チャネル毎の遅延量の設定方法は上記いずれかの方法を用いればよい。
【0041】
また、顕微鏡のアプリケーションとして、レーザ光の各パルス射出後の特定の時間区間(ゲート区間)に検出された蛍光信号のみを抜き出すゲート法と呼ばれる手法がある。また、画素データを生成するには、レーザ光の複数のパルスの射出により得られる複数の蛍光信号を用いて1つの画素データを生成するため、ゲート法を実施するには、複数の蛍光信号における特定の時間区間のサンプリングデータを抜き出す必要がある。
【0042】
そこで、図11に示されるように、受信データ処理部16が順次配列化する配列データを要素(行要素)とする2次元配列処理を実施し、レーザ光の各パルスに対応したN個のデータ配列を列方向に順次格納していくことにしてもよい。このようにしてサンプリングされた蛍光データを2次元配列することにより、レーザ光の複数パルスに対応したある時間区間における蛍光データを抜き出してデータ処理を容易に行うことができるという利点がある。
【0043】
また、図12に示されるように、PLL部12にPLLロック監視部25を設けてもよい。PLLロック監視部25は、PLL部12からPLLロック信号を受け取り、同期信号出力部7から受け取った同期信号との同期が崩れた場合に制御部5に対してスキャン停止信号を出力し、制御部5によりスキャン停止処理が行われることにしてもよい。同時に、PLLロック監視部25からPLL部12に対してPLL初期化信号を送ることにより、PLL部12のロック状態を初期化する。PLL部12におけるロック状態が再度成立すると、PLLロック監視部25は制御部5に対するスキャン停止信号を解除し、スキャナ8によるスキャン可能状態に戻すことにしてもよい。
【0044】
また、本実施形態のレーザ走査型顕微鏡1として、多光子励起レーザ顕微鏡を一例として説明したが、これに代えて、通常のレーザ共焦点顕微鏡に適用してもよい。
この場合、光検出器11は対物レンズ9の焦点と光学的共役位置に配置されたピンホールを経由した後に配置される点で、多光子励起レーザ顕微鏡を用いた場合と相違している。その他の点においては多光子励起レーザ顕微鏡を用いた場合と共通の構成と信号処理で蛍光検出を行うものである。
【0045】
また、共焦点観察では光源としてパルス発振レーザではなく連続発振レーザを用いるのが一般的であるが、蛍光寿命観察(FLIM)等特殊な観察法においては連続発振レーザを任意の強度変調手段を用いてパルス状に強度変調して試料Xに照射し、その変調パルスに同期したシグナル検出を行う場合がある。この場合には、強度変調手段に与えるパルス変調信号の同期信号を同期信号出力部7に代えてPLL部12へ入力すればよい。
【0046】
また、蛍光を検出する場合について例示したが、これに代えて、他の任意の信号光を検出する場合に適用してもよい。例えば、光源2からのパルス状のレーザ光を試料Xに照射することにより発生するラマン散乱光を観察する誘導ラマン散乱顕微鏡(SRS顕微鏡)がある。SRS顕微鏡は、検出シグナルS/N改善のために、光源2からのパルス状のレーザ光にさらに周期的な強度変調を加え、光検出器11からのアナログ信号に含まれる周期的強度変調の周波数成分のみをロックインアンプを用いて分離抽出して目的の強度データを得ている。ロックインアンプはその出力安定までに比較的長い時間を必要とするため画像フレームレートを高速化しにくい欠点がある。しかしながら、本実施形態においては、周期的強度変調の変調信号に同期した信号をPLL部12に入力すれば、A/D変換器13および受信データ処理部16においてその強度変調周波数に同期したデジタルデータとして検出することができ、ロックインアンプを用いる方法に比べて短時間でS/Nの良好なシグナルデータを得ることに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 レーザ走査型顕微鏡
2 光源
4 光検出装置
8 スキャナ(走査部)
9 対物レンズ(光学系)
12 PLL部
13 A/D変換器(A/D変換部)
14 クロック生成部
15 遅延調整部
16 受信データ処理部
18 配列化開始トリガ生成部
X 試料
図1
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図12