(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】フォトンカウンティング型放射線検出器およびそれを用いた放射線検査装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220427BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20220427BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20220427BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20220427BHJP
H01L 31/108 20060101ALI20220427BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20220427BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20220427BHJP
A61B 6/00 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
A61B6/03 320R
A61B6/03 320Y
A61B6/03 373
G01T1/161 E
G01T1/24
H01L31/00 A
H01L31/10 C
G01N23/046
G01N23/083
A61B6/00 330Z
(21)【出願番号】P 2019517720
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2018018371
(87)【国際公開番号】W WO2018207919
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017095665
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】角嶋 邦之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
(72)【発明者】
【氏名】筒井 一生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦也
(72)【発明者】
【氏名】平林 英明
(72)【発明者】
【氏名】片岡 好則
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056257(JP,A)
【文献】特開平02-264475(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143156(WO,A1)
【文献】特開2009-018154(JP,A)
【文献】特開2014-145705(JP,A)
【文献】特開昭46-005177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0112457(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
G01T 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を透過する第一のセルと、
前記第一のセルと積層され、前記第一のセルを透過した前記放射線を吸収する第二のセルと、
を備え
、
前記第一のセル及び前記第二のセルは、直接型フォトンカウンティングであり、
前記第一のセル及び前記第二のセルのそれぞれは、表面側電極及び裏面側電極を有し、
前記第一のセル及び前記第二のセルのそれぞれの前記表面側電極および前記裏面側電極は、Ti、W、Mo、Ta、及びNbから選ばれる1種の炭化物または珪化物を含有し、
前記第一のセル及び前記第二のセルのそれぞれは、厚さ5μm以上200μm以下のエピタキシャル層を有し、
前記第一のセル及び前記第二のセルのそれぞれの前記表面側電極の幅は、250μm以下であることを特徴とするフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項2】
前記第一
のセル及び前記第二のセルの少なくともいずれかは、SiC層を有していることを特徴とする請求項1記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項3】
前記SiC層は多層構造を有していることを特徴とす
る請求項2に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項4】
前記第一のセル及び前記第二のセルは、ショットキー型であることを特徴とする請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項5】
前記第一のセル及び前記第二のセルのそれぞれの前記表面側電極および前記裏面側電極と接続された制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項
1ないし請求項
4のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項6】
前記制御部は、前記第一のセルの前記表面側電極と前記裏面側電極との間に流れる電流、及び前記第二のセルの前記表面側電極と前記裏面側電極との間に流れる電流を検出することを特徴とする請求項
5記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項7】
前記第一のセルの前記表面側電極の少なくとも一部は、前記第一のセルの前記裏面側電極の少なくとも一部と、前記放射線の進行方向において対向していることを特徴とする請求項
1ないし請求項
6のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項8】
前記第一のセルの前記裏面側電極の少なくとも一部は、前記第二のセルの前記表面側電極の少なくとも一部と、前記放射線の進行方向において対向していることを特徴とする請求項
1ないし請求項
7のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項9】
前記第一のセル及び前記第二のセルは、ショットキー型であり、
前記第一のセル及び前記第二のセルのそれぞれの前記表面側電極の幅は、206μm以下であることを特徴とする請求項
1ないし請求項
8のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項10】
前記第二のセルにおいて、前記裏面側電極の面積は、前記表面側電極の面積よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項11】
前記第一のセルの前記裏面側電極および前記第二のセルの前記表面側電極は、前記第一のセルの前記表面側電極と、前記第二のセルの前記裏面側電極と、の間に設けられたことを特徴とする請求項10記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項12】
前記第二のセルの前記表面側電極および前記裏面側電極は、前記第一のセルの前記表面側電極および前記裏面側電極と電気的に分離されたことを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載のフォトンカウンティング型放射線検出器を搭載したことを特徴とする放射線検査装置。
【請求項14】
前記フォトンカウンティング型放射線検出器への印加電圧が300V以下であることを特徴とする請求項13記載の放射線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、概ね、フォトンカウンティング型放射線検出器およびそれを用いた放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検査装置は、医療機器から工業用非破壊検査装置など様々な分野に用いられている。医療機器としては、CT(Computed Tomography)装置やポジトロン断層(PET:positron emission Tomography)装置が挙げられる。放射線としては、X線又はガンマ線などが使用されている。
X線CT装置は、特許第4886151号公報(特許文献1)に示されているように、一般的に、固体シンチレータと呼ばれる発光物質が用いられる。固体シンチレータは、X線が照射されることにより発光する物質である。固体シンチレータを用いたX線CT装置は、被検体を透過したX線を固体シンチレータで可視光に変換する。この可視光をフォトダイオード検出器で電気信号に変えて断層像が得られる。このような方式により、現在では、立体画像を得ることも可能である。一方で、固体シンチレータの発光を電気信号にて検出する方法では、X線を光に変えるロスがある。加えて、フォトダイオードの光感受性の向上に限界があるため、X線の被爆量の低減には限界があった。また、固体シンチレータは多結晶体であるため、固体シンチレータの小型化には限界があった。従って、空間分解能の向上には限界があった。さらに、固体シンチレータの発光のみを電気信号に変える方式では、X線情報量が少ないといった問題があった。
近年、被検体を透過した放射線を直接、電気信号に変換する放射線検出器の開発が進められている。特開2014-128456号公報(特許文献2)には、フォトンカウンティング型放射線検出器を搭載した放射線検出器が開示されている。フォトンカウンティング方式は、被検体を透過したX線フォトンを直接、電気信号に変換できる。これにより、被爆量の低減などの効果が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4886151号公報
【文献】特開2014-128456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で従来のフォトンカウンティング型放射線検出器は、特許文献2[0024]段落に示されているように、テルル化カドミウム(CdTe)やCdZnTeが用いられている。CdTeは、室温動作が可能であり、高エネルギー分解能を有する。CdTeを用いることで、検出効率を向上できる。その一方で、空乏層を広げるために、800~1000V程度の高い印加電圧が必要であった。また、Cd自体の毒性の問題や均一な結晶の製造が難しいといった問題があった。
本発明は、このような問題を解決するためのものであり、検出効率を改善したフォトンカウンティング型放射線検出器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器は、第一のセル及び第二のセルを備え、以下の特徴を有する。第一のセルは、X線を透過する。第二のセルは、第一のセルを透過した放射線を吸収する。第二のセルは、第一のセルと積層されている。
前記第一セル及び前記第二のセルの少なくともいずれかは、SiC層を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器は、セルを積層構造としているので、被検体を透過した放射線を透過方向に複数のセルで検出することができる。そのため、検出効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器の一例を示す模式図。
【
図2】実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器の別の例を示す模式図。
【
図3】実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器のさらに別の例を示す模式図。
【
図4】実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器の時間分解能を説明する概念図。
【
図6】実施形態にかかるセルの別の一例を示す模式図。
【
図7】実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器の全体構成の一例を示す模式図。
【
図8】実施形態にかかる検出器アレイの一例を示す模式図。
【
図9】実施形態にかかる放射線検出装置の一例を示す模式図。
【
図10】実施形態にかかるショットキー型セルの一例を示す模式図。
【
図11】実施例1(Ti電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図12】実施例2(TiC電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図13】実施例3(TiSi
2電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図14】実施例4(Mo電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図15】実施例5(Mo
2C電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図16】実施例6(W電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図17】実施例7(WC電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図18】実施例8(W
2C電極)にかかるショットキー型セルの熱処理温度ごとのI-V特性を示す図。
【
図19】実施例1~3にかかるショットキー型セルの熱処理温度とショットキー障壁値の関係の一例を示す図。
【
図20】実施例1~3にかかるショットキー型セルの熱処理温度とn値の関係の一例を示す図。
【
図21】実施例4~5にかかるショットキー型セルの熱処理温度とショットキー障壁値の関係の一例を示す図。
【
図22】実施例4~5にかかるショットキー型セルの熱処理温度とn値の関係の一例を示す図。
【
図23】実施例6~8にかかるショットキー型セルの熱処理温度とショットキー障壁値の関係の一例を示す図。
【
図24】実施例6~8にかかるショットキー型セルの熱処理温度とn値の関係の一例を示す図。
【
図25】実施例にかかるショットキー型セルの電極面積とリーク電流の関係を示す図。
【
図26】フォトンカウンティング型放射線検出器の測定回路を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器は、第一のセル及び第二のセルを備え、以下の特徴を有する。第一のセルは、X線を透過する。第二のセルは、第一のセルを透過した放射線を吸収する。第二のセルは、第一のセルと積層されている。
図1および
図2は、フォトンカウンティング型放射線検出器の一例を示す模式図である。
図1及び
図2において、1はフォトンカウンティング型放射線検出器である。1-1は第一のセルである。1-2は第二のセルである。
図2において、1-3は第三のセルである。
図1は、2層型の積層構造を示す。
図2は、3層型の積層構造を示す。
放射線としては、X線またはガンマ線が挙げられる。以下はX線を使った検出器を例に説明する。
X線管などのX線発生源から発生したX線は、被検体を通してフォトンカウンティング型放射線検出器に到達する。到達したX線は、まず、第一のセルにてX線フォトンが検出される。このとき、X線は、第一のセルを透過する。第一のセルを透過したX線は、第二のセルに到達する。積層構造が2層からなる場合、被検体を透過したX線のX線フォトンを、第一のセルと第二のセルの両方で検出できる。そのため、検出できるX線フォトン量を増やすことができる。つまり、X線フォトンの情報量を増やすことができる。その結果、検出精度を大幅に向上させることができる。
【0009】
フォトンカウンティング型放射線検出器が3層構造を有する場合は、第一のセルおよび第二のセルを透過したX線が、第三のセルに到達する。フォトンカウンティング型放射線検出器が、4層以上の構造を有する場合は、第一、第二および第三のセルを透過したX線が第四のセルに到達する。X線を透過するセルを増やすことにより検出量を増やすことができる。
【0010】
図3は、フォトンカウンティング型放射線検出器の別の一例を示す模式図である。
図3において、1はフォトンカウンティング型放射線検出器である。1-1は第一のセルである。1-2は第二のセルである。
図3では、第一のセル1-1と第二のセル1-2の間に隙間Sを設けている。実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器において、積層構造は、上下のセルが接合されていてもよいし、上下のセルが離れていてもよい。第一のセルを透過したX線を第二以降のセルで検出できれば、フォトンカウンティング型放射線検出器の具体的構造は、適宜変更可能である。
図1~
図3では2層型及び3層型を例示した。透過したX線を検出できれば、積層数の上限は限定されない。なお、検出器の作り易さを考慮すると積層数は50以下が好ましい。
図1及び
図2のように、セル同士が接合された一体型構造の場合、検出器の厚さを薄くできる。
図3のように上下のセルを離した積層構造の場合、故障したセルを容易に交換できる。
上記のようなセルの積層構造によれば、上層と下層で異なるX線フォトン情報量を取得することができる。このため、時間分解能を高めることができる。また、X線は10pm(ピコメータ)~10nm(ナノメータ)の波長を有する電磁波である。波長の大きいX線ほどセルを透過し易くなる。積層構造とすることにより、検出するX線の波長を調整することができる。この点からも分解能を高めることができる。
図4は、実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器の時間分解能を説明する概念図である。被検体を透過したX線は、第一のセルを透過して第二のセルに到達する。被検体を透過したX線を、第一のセルおよび第二のセルで時間差をつけて検出できる。このため、時間分解能を向上させることができる。また、セルの積層数を増やすことにより、さらに時間分解能を向上させることができる。
【0011】
固体シンチレータを用いたX線検出器では、X線が照射された固体シンチレータの発光を検出素子で電気信号に変えている。そのため、実施形態のようなセルの積層構造をとることができない。
【0012】
図5および
図6は、セルの具体的構造を示す模式図である。
図5及び
図6において、1-1は第一のセルである。2はX線吸収層である。2-1は第一のX線吸収層である。2-2は第二のX線吸収層である。3は表面側電極である。4は裏面側電極である。
セルは、X線吸収層と、X線吸収層の表裏面に設けられた電極層と、を有している。
図5及び
図6では、第一のセルの構造を例示した。第二以降のセルの構造も、同様である。
X線吸収層2は、X線を吸収して電気信号に変える機能を有する。X線吸収層2はSiC(炭化珪素)層を有していることが好ましい。SiC層は、X線吸収層として機能すると共にX線を透過する性能を有している。このため、X線吸収層2にSiC層を有するセルはX線を透過するセルに最適である。
【0013】
SiC層のバンドギャップは、従来のCdTeのバンドギャップよりも大きい。CdTeのバンドギャップは1.47eVであるのに対し、SiCのバンドギャップは2eV以上である。バンドギャップが大きくなることにより、室温動作が可能となる。また、リーク電流を小さくすることができる。リーク電流が小さいと、印加電圧を高くすることができる。印加電圧を高くすることにより、低エネルギー側へのテールがなくなるため、分解能を向上させることができる。分解能を向上させることができるため、SiC層を有する検出器は直接型フォトンカウンティングに好適である。直接型フォトンカウンティングは、被検体を通過したX線フォトンを直接検出する。それに対し、固体シンチレータのようなX線で発光する発光物質を用い、発光物質の光を検出する方式を、間接式フォトンカウンティングと呼ぶ。なお、実施形態にかかるセルは、間接型フォトンカウンティング型放射線検出器に用いても良い。
【0014】
SiCの比抵抗は、CdTeの比抵抗よりも大きい。SiCの比抵抗は、例えば1×1011Ωcm以上である。比抵抗を大きくすることにより、高電界によるキャリア収集が可能となる。SiCの誘電率は、CdTeの比誘電率よりも低い。SiCの誘電率は、例えば12.0以下である。誘電率を低くすることにより、小さい空乏容量による高速動作が可能となる。さらに、SiCを使った検出器は、ショットキー型、PN接合型の両方に対応できる。
SiCの結晶構造として、2H、3C、4H、6H、8H、10H、又は15Rが挙げられる。結晶構造は、3C、4H、及び6Hからなる群より選択される1種が好ましい。表1は、SiCの特性とCdTeの特性との比較を示す。
【0015】
【0016】
表1に示したように、4H-SiC、6H-SiC、3C-SiCの中では、4Hまたは6Hが好ましい。特に、4Hが好ましい。4H-SiCおよび6H-SiCのバンドギャップは、それぞれ、3.25eV及び3.00eVである。これらのバンドギャップは、3C-SiCのバンドギャップよりも大きい。
【0017】
SiC層は、多層構造を有していても良い。
図6は、X線吸収層2が第一のX線吸収層2-1及び第二のX線吸収層2-2の2層構造を有する例を示している。
【0018】
ショットキー型セル構造にするときは、第一のX線吸収層2-1をエピタキシャルSiC層、第二のX線吸収層2-2をSiC層にすることが好ましい。第二のX線吸収層であるSiC層は、例えば、SiC基板である。エピタキシャルSiC層は、SiC基板の上にSiCをエピタキシャル成長させて形成される。エピタキシャル層を形成することにより、空乏層を広げることができる。空乏層を広げることにより、より高速動作が可能となる。エピタキシャル層(第一のX線吸収層2-1)の厚さは5以上200μm以下の範囲であることが好ましい。5μm未満ではエピタキシャル層を設ける効果が十分得られない。一方、200μmを越えると、均質なエピタキシャル層を得ることが困難となる。エピタキシャル層が十分に均質では無いと、X線吸収層の性能が低下する。そのため、エピタキシャルSiC層の厚さは、5μm以上200μm以下であることが好ましい。より好ましくは、厚さは、10μm以上100μm以下である。また、SiC層(第二のX線吸収層2-2)の厚さは50μm以上が好ましい。
また、エピタキシャルSiC層とSiC層は、断面組織を観察することにより判別可能である。エピタキシャルSiC層の方が高密度である。このため、エピタキシャルSiC層(第一のX線吸収層2-1)が、主なX線吸収層として機能する。SiC層(第二のX線吸収層2-2)上に形成したエピタキシャルSiC層(第一のX線吸収層2-1)が十分に厚い場合、SiC層(第二のX線吸収層2-2)を除去してエピタキシャルSiC層単層をX線吸収層2としてもよい。
【0019】
PN接合型セル構造にするときは、第一のX線吸収層2-1にn型SiC層、第二のX線吸収層2-2にp型SiC層を用いる。また、第一のX線吸収層2-1にp型SiC層、第二のX線吸収層2-2にn型SiC層を用いてもよい。p型SiC層の厚さは5μm以上200μm
以下が好ましい。また、n型SiC層の厚さは、5μm以上200μm以下が好ましい。
図6では、X線吸収層2が2層構造の例を説明した。X線吸収層2が、3層以上の多層構造であってもよい。
【0020】
ショットキー型は、多数キャリアで整流作用を行うので高速動作が可能である。PN接合型は、P層およびN層の形成をイオン注入法により行うことができる。このため、量産性に優れている。ショットキー型、PN接合型を比較すると、ショットキー型の方が好ましい。X線検出器に用いるセルは、空乏層にX線があたる必要がある。ショットキー型は表面側電極と裏面側電極との間に電圧を印加することにより空乏層を広げることが可能となる。SiC層を有するショットキー型のセルを用いることで、300V以下の低い印加電圧でも、空乏層を十分に広げることができる。例えば、10~100V程度の低い電圧印加で、空乏層を3μm以上にできる。また、ショットキー型はリーク電流を小さくすることもできる。
なお、SiC層を有するセルに、300Vを超えた大きな電圧が印加されても良い。例えば、SiC層を有するセルは、1000V以下の印加電圧で使用することもできる。
【0021】
SiC層は、エッチング加工が可能である。エッチング加工により、SiC層の形状を任意に変更できる。このため、SiC層を、キャリアの拡がりを抑制する構造とすることができる。また、エッチング加工が可能であるため、X線吸収層2の表面を小型にできる。
X線吸収層2に電流アンプを内蔵することも可能である。電流アンプを内蔵することにより、ノイズの発生を抑制することができる。
【0022】
図7は、実施形態にかかるフォトンカウンティング型放射線検出器の全体構成の一例を示す模式図である。
図7において、1はフォトンカウンティング型放射線検出器である。1-1は、第一のセルである。1-2は第二のセルである。
図7では、側方であって
図1~
図3、
図5、及び
図6とは異なる方向から第一のセル及び第二のセルを見た場合の構造が示されている。2a、3a、及び4aは、それぞれ、第一のセルにおけるX線吸収層、表面側電極、及び裏面側電極である。2b、3b、及び4bは、それぞれ、第二のセルにおけるX線吸収層、表面側電極、及び裏面側電極である。10は制御部である。各セルの表面側電極及び裏面側電極は、制御部10と接続される。制御部10により、各セルの表面側電極と裏面側電極の間に、電圧が印加される。
【0023】
図7に示したように、被検体を透過したX線が、第一のセルに入射する。入射したX線の一部は、第一のセルのX線吸収層に吸収される。残りのX線は、第二のセルに入射する。第二のセルに入射したX線の少なくとも一部は、第二のセルのX線吸収層に吸収される。
第一のセルにおいて、X線吸収層でX線が吸収されると、X線吸収層でキャリア(電子及び正孔)が生成される。電子及び正孔は、それぞれ、表面側電極及び裏面側電極に流れる。これにより、
図7に示したように、制御部、表面側電極、裏面側電極の間に、電流i
1が流れる。すなわち、X線吸収層において、X線が電気信号に変換される。制御部は、電流i
1の大きさを検出する。
同様に、第二のセルにおいてX線吸収層でX線が吸収されると、制御部、表面側電極、裏面側電極の間に、電流i
1'が流れる。制御部は、電流i
1'の大きさを検出する。電流i
1の大きさ及び電流i
1'の大きさは、被検体を透過したX線の量に比例する。
なお、表面側電極と裏面側電極の間に印加する電圧、電流i
1及びi
1'の方向は、適宜変更可能である。
【0024】
電極材料としては、金属、金属炭化物、及び金属珪化物からなる群より選択される1種が好ましい。この中では、金属炭化物または金属珪化物が好ましい。つまり、表面側電極3および裏面側電極4は、構成元素として炭素または珪素を含有することが好ましい。電極の構成元素として炭素または珪素を有することにより、SiC層と電極の反応を抑制することができる。
金属の電極材料としては、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、及びNb(ニオブ)からなる群より選択される1種が好ましい。金属炭化物の電極材料としては、TiC(炭化チタン)、WC(炭化タングステン)、Mo2C(炭化モリブデン)、TaC(炭化タンタル)、及びNbC(炭化ニオブ)からなる群より選択される1種が好ましい。また、金属珪化物の電極材料としては、TiSi2(珪化チタン)、WSi2(珪化タングステン)、MoSi2(珪化モリブデン)、TaSi2(珪化タンタル)、NbSi2(珪化ニオブ)からなる群より選択される1種が好ましい。これらの中では、炭化チタン、炭化タングステン、珪化チタン、又は珪化タングステンが特に好ましい。
上記の金属、金属炭化物、金属珪化物をスパッタリングすることで、電極層を形成することができる。電極層の形成には、スパッタリング法以外に、CVD法、イオンプレーティング法、蒸着法、溶射法、メッキ法なども適用できる。
【0025】
上記の金属、金属炭化物、金属珪化物は融点が高い。電極材料に融点の高い材料を用いることにより、SiC層を有するセルの製造工程中に熱処理を行ったとしても、電極の変質が生じ難い。金属炭化物または金属珪化物からなる電極は、セルの製造工程や、X線検出器の使用中(通電中)にSiC層との反応を抑制できる。このため、安定した電気特性が得られる。さらに、セルの寿命をより長くできる。
【0026】
セルの表面側電極及び裏面側電極が、上記の金属、金属炭化物、又は金属珪化物を含む場合、X線の透過性が高くない。このため、X線を透過するセルでは、表面側電極及び裏面側電極は、
図7に示したように、X線吸収層の一部にのみ設けられる。
第一のセルにおいて、表面側電極の少なくとも一部と裏面側電極の少なくとも一部は、X線の進行方向において対向していることが好ましい。この構成によれば、X線吸収層を透過し、第二のセルに向けて進むX線が、裏面側電極で反射され難くなる。これにより、X線の検出効率を向上させることができる。
第二のセルの表面側電極の少なくとも一部と第一のセルの裏面側電極の少なくとも一部は、X線の進行方向において対向していることが好ましい。この構成によれば、第一のセルを透過したX線が、第二のセルの裏面側電極で反射され難くなる。これにより、X線の検出効率をさらに向上させることができる。
X線を透過させる必要のないセル(積層構造の一番下のセル)において、裏面側電極の面積は、表面側電極の面積よりも大きいことが好ましい。
図7に示した例では、第二のセルが、X線を透過させる必要のないセルである。第二のセルの裏面側電極の面積を、表面側電極の面積よりも大きくすることで、X線がそれ以上透過することを抑制できる。これにより、第二のセルの裏面側にある他の部材への悪影響を防ぐことができる。例えば、裏面側電極の厚さを表面側電極の厚さよりも大きくすることで、X線が裏面側電極をより透過し難くなる。裏面側電極は、X線を透過し難い材料を含んでいることが望ましい。このような材料としては、タングステン、モリブデン、鉛、タングステン化合物(WC、WSi
2など)、又はモリブデン化合物(Mo
2C、MoSi
2など)が挙げられる。裏面側電極に、これらの材料を含むX線を透過し難い層を設けても良い。
また、X線が第二のセルを透過する場合は、第二のセルにおいても、表面側電極の少なくとも一部と裏面側電極の少なくとも一部は、X線の進行方向において対向していることが好ましい。
【0027】
表面側電極3とX線吸収層2の接合界面の一部に絶縁膜を設けても良い。同様に、裏面側電極4とX線吸収層2の接合界面の一部に絶縁膜を設けても良い。絶縁膜を設けることによりショットキー型構造を形成し易くなる。絶縁膜としては、酸化珪素(SiO
2)が挙げられる。
ショットキー型であれば表面側電極3の幅を狭くできる。表面側電極3の幅を狭くすることにより、セルのX線検出面を小型化することができる。例えば、表面側電極3の幅を、250μm以下にできる。当該幅を100μm以下にすることも可能である。さらに、エッチング加工技術を用いることにより、表面側電極3の幅を、10μm以下にできる。当該幅を、1μm未満(サブミクロン)にすることも可能である。表面側電極を小さくすることにより、X線検出面を小さくすることができる。X線検出面を小型化することにより、高解像度の画像を得ることができる。つまり、サブミクロンの空間分解能を得ることができる。表面側電極3の幅は、
図10に示した絶縁層6同士の間に設けられた表面側電極3の幅Lに対応する。
表面側電
極3および裏面側電
極4のそれぞれの厚さは、50nm以下が好ましい。これらの電極層を薄くしておくことにより、X線が遮蔽される割合を抑制することができる。
これらの電極の表面に、必要に応じ、酸化防止膜が設けられてもよい。酸化防止膜としては、金属窒化膜、樹脂膜などが挙げられる。
【0028】
以上のようなSiC層を有するセルは、X線フォトンを検出すると共に、X線を透過することができる。そのため、X線を透過させるセルに好適である。複数のセルを積層させる場合、X線を透過させるセルにはSiC層を設ける。X線を透過するセルに用いるX線吸収層としては、SiC以外に、ダイヤモンド、GaAs(ガリウムヒ素)、GaN(ガリウム窒化物)、Ga
2O
3(ガリウム酸化物)が挙げられる。複数のセルの積層構造を形成する場合、複数のセルの一部に、ダイヤモンド層やGaAs層を有するセルを用いても良い。なお、ダイヤモンドは高価であり、GaAsはヒ素を用いていることから環境面で好ましくない。価格や環境面からは、SiC層を有するセルを用いることが好ましい。
X線を透過させる必要のないセル(積層構造の一番下のセル)は、SiC層を有していても良いし、有していなくても良い。SiC層を用いないセルとしては、CdTe層、ダイヤモンド層、GaAs層、GaN層、及びGa
2O
3層からなる群より選択される1つを有するセルが挙げられる。
図1(または
図2)のように上下のセルが接合される場合は、第一のセルの裏面側電極と第二のセルの表面側電極が導通しないように、絶縁部材が設けられる。絶縁部材としては、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0029】
以上のような積層構造を有する放射線検出器を面内方向に複数個並べることで、検出器アレイが構成される。
図8は、検出器アレイの一例を示す模式図である。
図8において、1は、フォトンカウンティング型放射線検出器である。5は検出器アレイである。検出器アレイ5では、セルを積層させた検出器1が、縦横に2次元的に並べられている。放射線検査装置は、検出器アレイ5を複数個並べた構造を有する。例えばX線の検査装置としては、医療機器や工業用非破壊検査装置が挙げられる。
図9は、放射線検査装置の一例を示す模式図である。
図9において、20は放射線検査装置(CT装置)である。1は、フォトンカウンティング型放射線検出器である。5は、検出器アレイである。10は制御部である。21は被検体である。22は放射線管である。24はディスプレイである。25は画像である。被検体は、放射線管と複数の放射線検出器との間に固定される。放射線管は、X線を出射する。出射されたX線は、被検体に照射される。被検体を透過したX線は、放射線検出器に入射する。各放射線検出器は、制御部に接続されている。各放射線検出器の各セルに流れる電流は、制御部で検出される。制御部は、検出された電流に基づいて、被検体の画像を生成する。制御部は、生成した画像をディスプレイに表示する。固定された被検体に対して、放射線管及び放射線検出器が回転可能であっても良い。23は、放射線管及び放射線検出器の回転方向を示す。放射線管及び放射線検出器が被検体に対して回転することで、被検体を異なる角度から検査できる。
【0030】
フォトンカウンティング型放射線検出器1がセルの積層構造を有しているため、被検体を透過したX線の情報をより多く検出することができる。各フォトンカウンティング型放射線検出器におけるX線フォトンの情報量を増やすことができるため、検出器アレイ及び放射線検査装置の検出精度を大幅に向上させることができる。加えて、各検出器において、一度にたくさんの検出電流を得ることができる。その結果、時間分解能が向上する。さらに、1回に得られるX線フォトンの情報量を増やせるため、測定時間を短くできる。そのため、被検体の被爆量を少なくできる。
SiC層をエッチング加工することにより、縦横に2次元的に並んだ構造を形成することも可能である。
また、前述のように表面側電極3の幅Lを小さくすることにより、検出面積を小さくすることができる。幅Lは、例えば、250μm以下、100μm以下、10μm以下、又は1μm未満に設定される。検出面積を小さくすることにより、高解像度の検出が可能となる。表面側電極3の幅Lを1μm未満にすると、検出できる画像を1μm未満の高精細にすることができる。表面側電極を小型にすることにより、X線検出面を小型にできる。1μm未満の高精細化できると微小ながん細胞の検出も可能である。例えば、従来のマンモグラフィーでは微小ながん細胞の検出が困難であった。そのため、乳がん検診では触診が主体であった。実施形態にかかるX線検査装置は、高精細化が可能である。そのため、マンモグラフィーなどの微小ながん細胞を検出する検査装置にも好適である。
【0031】
SiC層を用いたセルのX線検出能力について説明する。例えば、X線のエネルギーが約40keVの場合、X線を全て吸収するために必要なSiCの厚さは約8cmである。X線のエネルギーが約60keVの場合、X線を全て吸収するために必要なSiCの厚さは約29cmである。言い換えると、X線吸収層の厚さを、X線を全て吸収しない厚さにすることにより、X線吸収層にX線を透過させることができる。
入射X線の強度をI
1、セルの膜厚をt、X線の減衰係数をλとしたとき、I
1(z)=I
1exp(-t/λ)である。つまり、セルを透過することにより入射X線の強度は低下する。
例えば、SiC層の厚さtを1mm、入射X線の強度I
1を38keVにしたとき、X線の減衰係数λは27mmとなる。一層目のSiC層を透過したX線の強度をI
1'としたとき、I
1'=0.96I
1となる。2層目のSiC層を透過したX線の強度をI
1"としたとき、I
1"=0.93I
1、となる。積層数が増えることにより、減衰したX線を測定することができる。また、1層目のSiC層での検出電流をi
1、2層目のSiC層の検出電流をi
1'とする。2層目のSiC層での検出電流i
1'は、i
1'=1.96i
1となる。理論値では、このように積層構造を取ることにより、検出電流値を変えることができる。
2波長のX線を検出することも可能である。X線のエネルギーを2種類にすることにより、検出電流を増やす方式がある。このような方式を用いたCT装置は、デュアルエナジー(Dual Energy)CTと呼ばれている。デュアル方式のCTでは、放射線管から、2種類のエネルギーのX線が、同時又は交互に出射される。
例えば、SiC層の厚さtを1mm、入射X線の強度I
1を38keV、I
2を59keVとする。X線強度が38keVのものは、1層目を透過したX線の強度I
1'は、0.96I
1となり、2層目を透過したX線の強度I
1"は、0.93I
1となる。また、X線強度が59keVのものは、1層目を透過したX線の強度I
2'は、0.99I
2となり、2層目を透過したX線の強度I
2"は、0.98I
2となる。強度38keVのX線による1層目の検出電流をi
1とする。強度59keVのX線による1層目の検出電流をi
2とする。1層目の検出電流iは、i=i
1+i
2で表される。i∝2.33I
1+I
2となる。強度38keVのX線による2層目の検出電流をi
1'とする。強度59keVのX線による2層目の検出電流をi
2'とする。2層目の検出電流i'は、i'=i
1'+i
2'で表される。i'∝2.26I
1+I
2となる。∝は、比例を示す記号である。検出電流iと検出電流i'を比較することで、2波長の情報を得ることができる。透過構造とすることにより、デュアル方式であっても、検出電流を増やすことができる。
ここでは、X線強度を38、59keVで例示したが、X線強度を変えても、同様に検出電流を増やすことができる。
図1~
図3では、表面側電極3側からX線を照射する構造になっている。実施形態にかかる検出器は、このような構造に限らず、X線吸収層2の側面方向からX線を照射してもよい。この場合、複数のセルが側面方向に積層される。側面方向は、換言すると、表面側電極と裏面側電極を結ぶ方向に対して垂直な方向である。フォトンカウンティング型放射線検出器は、表面側電極3側から照射されたX線を検出するための積層構造と、X線吸収層2の側面方向から照射されたX線を検出するための積層構造と、の両方を備えていても良い。
また、以上はX線を使った検出器について説明したが、ガンマ線を使った検出器についても同様の効果が得られる。また、CT装置に限らず、PET装置についても同様の効果が得られる。
【0032】
(実施例)
(実施例1~8)
実施例として、
図10に示したショットキー型セルを作製した。
図10において、1-1は第一のセルである。2-1は第一のX線吸収層である。2-2は第二のX線吸収層である。3は表面側電極である。4は裏面側電極である。6は絶縁層である。7は表面側酸化防止膜である。8は裏面側酸化防止膜である。9は表面側配線である。
第一のX線吸収層2-1として、4H-SiC基板(厚さ300μm、比抵抗1.0×1016cm-3)を用いた。第二のX線吸収層2-2として、エピタキシャルSiC層(厚さ30μm)を形成した。エピタキシャルSiC層/4H-SiC基板の積層体を1セル単位が縦250μm×横250μmのアレイになるようにエッチング加工を施した。
次に、絶縁層6として酸化珪素(SiO
2、厚さ40nm)を形成した。
次に、表2に示した表面側電極3及び裏面側電極4をスパッタリング法により形成した。表面側電極3大きさは、100μm×100μmとした。幅Lは、100μmである。裏面側電極4の大きさは、206μm×206μmとした。電極表面に、表面側酸化防止膜7及び裏面側酸化防止膜8として窒化チタン(TiN、厚さ50nm)をスパッタリング法により形成した。また、表面側電極3の取り出し配線として表面側配線9を形成した。表面側配線9は、Al配線である。Al配線は真空蒸着法により形成した。
以上の工程により、実施例にかかるセルを作製した。
【0033】
【0034】
実施例1にかかるセルの電極は、Ti(チタン)からなる。実施例2にかかるセルの電極は、TiC(炭化チタン)からなる。実施例3にかかるセルの電極は、TiSi
2(珪化チタン)からなる。実施例4にかかるセルの電極は、Mo(モリブデン)からなる。実施例5にかかるセルの電極は、Mo
2C(炭化二モリブデン)からなる。実施例6のセルの電極は、W(タングステン)からなる。実施例7のセルの電極は、WC(炭化タングステン)からなる。実施例8のセルの電極は、W
2C(炭化二タングステン)からなる。
実施例1~8にかかるセルのI-V特性を調べた。500℃、700℃、800℃、900
℃、1000℃の各温度で、窒素雰囲気中、1分間熱処理した後のセルのI-V特性を調べた。また、熱処理していないセルのI-V特性を調べた。その結果を
図11~
図18に示した。
図11は実施例1にかかるセルの特性を示す。
図12は実施例2にかかるセルの特性を示す。
図13は実施例3にかかるセルの特性を示す。
図14は実施例4にかかるセルの特性を示す。
図15は実施例5にかかるセルの特性を示す。
図16は実施例6にかかるセルの特性を示す。
図17は実施例7にかかるセルの特性を示す。
図18は実施例8にかかるセルの特性を示す。
図11~
図18は、横軸が電圧(voltage(V))を示し、縦軸が電流密度(Current density(A/cm
2))を示す。
図11~
図14において、asdepoは、熱処理していないセルの特性を示す。
図から分かる通り、Ti電極に比べて、TiC電極、TiSi
2電極は逆方向リーク電流の増加傾向が小さい。特に、800℃以上の高温環境下では、その傾向が顕著である。一方、500℃では大きな差は見られなかった。
この結果、Ti電極、TiC電極、TiSi
2電極のいずれも電極としては使用可能である。TiC電極、TiSi
2電極は逆方向リーク電流の増加傾向が小さい。これは、セルの使用中に電極材料とSiC層との反応が抑制されているからである。TiC電極とTiSi
2電極を比較すると、TiC電極の方が逆方向リーク電流の増加傾向が小さい。このため、金属炭化物電極が最も好ましいことが分かる。
Mo電極については、600℃以下であれば逆方向リーク電流の増加傾向は小さかった。Mo
2C電極については、いずれの温度でも逆方向リーク電流の増加傾向は小さかった。これは、Mo
2C電極はSiC層との反応が抑制されているためである。一方、実験結果は、Mo電極は温度が高くなるとSiCと反応しやすくなることを示している。Mo電極、Mo
2C電極のいずれも電極として使用可能であるが、Mo電極を使用する場合は600℃以下の熱処理温度であることが望ましい。
また、W電極、WC電極、W
2C電極のいずれも使用可能である。タングステンまたは炭化タングステンはSiC層との反応が抑制されていることが分かる。W電極、WC電極、W
2C電極を比較すると、W
2C電極が最も逆方向リーク電流の増加傾向は小さかった。これはW
2C電極がSiC層と反応し難いためである。
以上の結果から、金属炭化物が最も好ましい電極材料であることが分かる。すなわち、また、W
2C電極とMo
2C電極は、特に逆方向リーク電流の増加傾向が抑制されている。この2つは、高温下でもSiC層と反応し難いため、製造条件をより自由に設計することができる。
【0035】
また、
図19~
図24に、熱処理温度(℃)とショットキー障壁値φB(eV)、n値(a.u)の関係を示した。この実験では、500~1050℃、窒素雰囲気中、1分間熱処理したセルを用いた。実験では、セルを室温にて-1.0V印加したときのショットキー障壁値φB(eV)を測定した。ショットキー障壁値の算出は、ショットキーのダイオード方程式および逆方向飽和電流(TEDモデル)方程式を用いた。n値は理論値を1として求めた。
図19および
図20は、実施例1~3に関するグラフである。
図21および
図22は、実施例4~5に関するグラフである。
図23および
図24は実施例6~8に関するグラフである。
また、
図19、
図21、
図23は熱処理温度(℃)とショットキー障壁値φB(eV)の関係を示す。
図19、
図21、
図23において、横軸は熱処理温度(annealing temperature(℃))を示し、縦軸はショットキー障壁値(SBH)φB(eV)示す。
図19のTiは、実施例1にかかるセルの実験結果を示す。TiCは、実施例2にかかるセルの実験結果を示す。TiSi
2は、実施例3にかかるセルの実験結果を示す。
図21のMoは、実施例4にかかるセルの実験結果を示す。Mo
2Cは、実施例5にかかるセルの実験結果を示す。
図23のWは、実施例6にかかるセルの実験結果を示す。WCは、実施例7にかかるセルの実験結果を示す。W
2Cは、実施例8にかかるセルの実験結果を示す。
図20、
図22、
図24は熱処理温度(℃)とn値(a.u)の関係を示したものである。
図20、
図22、
図24において、横軸は熱処理温度(annealing temperature(℃))を示し、縦軸はn値を示す。
図20から分かる通り、TiC電極(実施例2)およびTiSi
2電極(実施例3)は500~800℃においてショットキー障壁値φBが0.8~1.0(eV)であり、n値が1.05以下に安定していた。
Ti電極(実施例1)は、500~600℃におけるφBが1.0(eV)を超え、n値も1.06~1.10の範囲となっていた。
この結果から、800℃以下の熱処理を施したTiC電極およびTiSi
2電極は、ショットキー障壁が十分低下していることが分かる。500℃熱処理を施したTiC電極は、ショットキー障壁値φBが0.995(eV)、実効リチャードソン定数は129(A/cm
2/K
2)であった。
【0036】
実効リチャードソン定数の4H-SiCの理論値は、146(A/cm
2・K
2)である。TiC電極(実施例2)は、実効リチャードソン定数から見てもショットキー障壁値の低下および空乏層の広がりが得られていることが分かる。言い換えれば、同様のI-V特性を示すセルでは、空乏層が広がっているといえる。
図21から分かる通り、Mo電極とMo
2C電極を比較するとMo
2C電極の方が高温で熱処理したとしても優れた結果が得られた。これは、Mo
2C電極の方が、Mo電極よりもSiCとの反応し難いことを示している。また、
図22から分かる通り、Mo
2C電極は、n値が1.00を示していた。n値が1に近いほど、理論値に近い空乏層が形成されていることを示す。この点からも、Mo電極よりもMo
2C電極の方が優れていることが分かる。
図23では、W電極及びWC電極よりもW
2C電極の方が若干良い特性を示した。
図24でも、W
2C電極はn値が1.00を示しており、優れた特性が得られることが分かった。
【0037】
(実施例9~11)
実施例1~3と同様の構造を有するセルにおいて表面側電極3の幅Lを表3のように変えた場合のリーク電流値を測定した。測定は、窒素雰囲気中、800℃×1分間加熱した後、-1.0V印加したときのリーク電流を測定した。その結果を表3および
図25に示す。
【0038】
【0039】
Ti電極(実施例9)、TiC電極(実施例10)、TiSi2電極(実施例11)を比較すると、実施例9よりも実施例10および実施例11の方がリーク電流値が低いことが分かった。実施例9および実施例11は、電極の面積(幅L)が小さくなることにより、リーク電流も小さくなることを示している。つまり、Ti電極およびTiSi2電極については、電極面積とリーク電流値との相関性があることが分かった。一方、TiCは電極面積によらずリーク電流値が小さかった。TiC電極の方が、Ti電極及びTiSi2電極に比べて、リーク電流値が小さいことが分かる。
【0040】
(実施例12~29、比較例1)
実施例1~8にかかるセルを用いて表4に示したフォトンカウンティング型X線検出器を作製した。各セルの表面側電極の大きさは、100μm×100μmである。各実施例は500℃の熱処理工程を行ったものを使用した。それぞれのフォトンカウンティング型X線検出器が被検体を通したX線フォトンを検出できるか否かを確認した。X線フォトンの検出には
図26に示した測定回路にて行った。
また、測定条件は、X線管を用いてX線を照射し、X線を検出できたか否かを測定した。X線管は管電圧120kVに統一し、管電流を300mAまたは100mAにした。この条件で2秒間、X線を照射し、X線を検出できたか否かを確認した。実施例にかかるX線検出器は、印加電圧VRを40Vおよび100Vにて行った。その結果を表4に示した。表4においては、セルにおいてX線の透過が確認され、且つX線を検出できた検出器を「可」としている。X線の透過が確認されなかった、又はX線を検出できなかった検出器を「不可」としている。また、比較のためにX線吸収層をCdTeにしたセルを用意した。比較例1に関しては印加電圧を1000Vとした。
【0041】
【0042】
表から分かる通り、SiC層を用いたセルを有するフォトンカウンティング型X線検出器については、単層構造、積層構造のどちらの場合でも、X線フォトンの検出が可能であった。実施例20~29では、各層のセルでX線フォトンを検出可能であった。これらの結果は、検出器としてX線を透過し、その上で各セルの空乏層が広がっていることを示す。また、積層数を増やすことにより、検出電流値を大きくすることができた。そのため、被検体を透過したX線を検出器の厚み方向にて多くの情報量が得られる(時間分解能の向上)。このため、CTなどのX線検査装置においても検出精度を向上させることができる。
また、比較例1はCdTeセルを10層積層したものである。印加電圧を1000Vと高くしたが、2層目以降のセルではX線フォトンは検出できなかった。これはCdTeがX線を透過せず、積層構造をとっても下の層では検出できなかったためである。CdTeはガンマ線のような強度の強いものであれば透過するがX線では透過し難い。このため、X線フォトンの検出には適していない。
【0043】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。