IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ホッティーポリマー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図1
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図2
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図3
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図4
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図5
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図6
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図7
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図8
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図9
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図10
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図11
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図12
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図13
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図14
  • 特許-3次元印刷装置用フィラメント 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】3次元印刷装置用フィラメント
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20220428BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220428BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017025403
(22)【出願日】2017-02-14
(65)【公開番号】P2018130871
(43)【公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】594034005
【氏名又は名称】ホッティーポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】堀田 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】青木 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田鍋 史生
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/037574(WO,A1)
【文献】特開2016-165884(JP,A)
【文献】特開2016-037571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層法(FDM)を利用して立体的な造形を行う3次元印刷装置で用いられ、立体造形物の原料となる3次元印刷装置用フィラメントであって、
ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを85重量%:15重量%から1重量%:99重量%までの任意の割合で含有する混合物と、前記立体造形物に対して形状以外の性質を与える機能剤とが混合して成り、
前記機能剤は、パラベンであることを特徴とする3次元印刷装置用フィラメント。
【請求項2】
前記混合物は、前記ポリ乳酸樹脂とオレフィン系樹脂とを60重量%:40重量%から30重量%:70重量%までの任意の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の3次元印刷装置用フィラメント。
【請求項3】
前記混合物は、前記ポリ乳酸樹脂とスチレン系樹脂とを60重量%:40重量%から30重量%:70重量%までの任意の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の3次元印刷装置用フィラメント。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーは、鉱物油系可塑剤を40重量%から70重量%の任意の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の3次元印刷装置用フィラメント。
【請求項5】
前記機能剤は、20重量%以下の任意の割合で混合されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の3次元印刷装置用フィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法(FDM)を利用して立体的な造形を行う3次元印刷装置で用いられ、立体造形物の原料となる3次元印刷装置用フィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、試作品や治具等の立体造形品の作成には3次元印刷装置が利用されている。3次元印刷装置は3Dプリンターとも称され、3次元印刷装置はコンピュータ上に取り込まれた立体図面データに従って樹脂等の原材料から立体造形品を造形することができる。
【0003】
立体造形品を造形する方法には種々の方法があり、その1つに熱溶解積層法(FDM)が存在する。熱溶解積層法(FDM)は、熱可塑性樹脂等の原料フィラメントをヘッドに設けられたヒーターにより加熱溶解しながらノズルから吐出し、ノズルを例えば平面方向に稼動させて立体造形品の第一層を形成し、次に第一層の上面に第二層、第三層というように積層させていくことにより立体造形品を得る方法である。
【0004】
このような従来の熱溶解積層法(FDM)の3次元印刷装置にあっては、例えば、ABS樹脂やポリ乳酸(PLA)樹脂といったショアA硬度が大きい硬質樹脂から成る硬質フィラメントや、加工性や流動性を向上させるためにポリ乳酸と熱可塑性エラストマーから成る軟質フィラメントを用いて立体造形物を作製している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-169456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
3次元印刷装置は、供給を受けたフィラメントを送り出し用のローラーで挟持して吐出用ヘッドまで搬送し、ヘッド部ヒーターで熱溶解しノズル部から吐出して立体造形物を形成していく。このフィラメントの断面形状が楕円やその他の偏った形状であると、上記ローラーとの接点に作用する挟持力などが強くなったり弱くなったりして、フィラメントが折れたり或いは送り出せなくなるという搬送不良を引き起こす。
従って、フィラメントは、その長さ方向の広い範囲に亘って断面の形状が真円に近いほど好ましい。
【0007】
また、フィラメントの搬送不良は、ヘッド部ノズルからの吐出ムラや吐出エラーとなって現れ、コンピュータ上に取り込まれた立体図面データの再現精度に関係する。
【0008】
上述のフィラメントに求められる技術的要求により、原料であるフィラメントに立体的な造形という目的を超えた付加機能(例えば、香りや防塵効果)を付与して造形品の付加価値を高め利用範囲を広げることは困難である。
【0009】
一般に上記付加機能を与える添加剤(以下、機能剤)は、純粋に立体造形の目的で開発されたポリ乳酸樹脂製のフィラメントなどにとって目的外の異物である。
【0010】
その結果、付加機能を持つフィラメントは、これを持たない(例えばポリ乳酸樹脂のみの)フィラメントと比べて断面形状が不均一なものになり、搬送の不良や再現精度の低下をもたらす可能性がある。
【0011】
従って、3次元印刷装置内においてフィラメントの良好な送り出しを可能とし、かつ、立体造形品に形状外の機能、例えば、香りを付与できる3次元印刷装置用フィラメントが従来より要請されていた。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、3次元印刷装置内においてフィラメントの良好な送り出しを可能とし、かつ、立体造形品に形状外の機能を付与できる3次元印刷装置用フィラメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、請求項1に記載の3次元印刷装置用フィラメントにあっては、熱溶解積層法(FDM)を利用して立体的な造形を行う3次元印刷装置で用いられ、立体造形物の原料となる3次元印刷装置用フィラメントであって、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを85重量%:15重量%から1重量%:99重量%までの任意の割合で含有する混合物と、前記立体造形物に対して形状以外の性質を与える機能剤とが混合して成り、前記機能剤はパラベンであることを特徴とする。
【0014】
「ポリ乳酸(PLA)樹脂」は、乳酸をエステル結合によって重合して生成する合成樹脂である。融点が170℃でショアA硬度が100以上である。
ここで、ショアA硬度とは、JIS K 7215(プラスチック)、又はJIS K 6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム)に規定された方法においてタイプAデュロメータを用いて測定される硬度である。樹脂やゴムにおける硬質及び軟質の定義は種々のものがあるが、ここではショアA硬度が95以上のものを硬質、ショアA硬度が95以下のものを軟質と呼ぶこととする。
【0015】
「熱可塑性エラストマー」は、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーを含む概念である。
【0016】
オレフィン系エラストマーとは、ポリプロピレンの中にポリエチレン-ポリプロピレンゴム(EPDM、EPM)を分散させた熱可塑性エラストマーであり、常温でゴムのような柔軟性と復元性とを備えると共に、大きな摩擦係数を有し、一般の樹脂と同様に成形加工のできる合成樹脂である。
【0017】
スチレン系エラストマーとは、ポリスチレンとポリエチレン-ポリブチレンとをブロック共重合させた熱可塑性エラストマーであり、ポリスチレンのドメインが物理架橋点となり架橋ゴムの架橋点に相当する役割を果たすため、弾性体としての性質を示す。一方で、140~230℃の射出または押出成形可能な温度になるとポリスチレン部分もポリエチレン・ポリブチレンの部分も共に溶融され、熱可塑性樹脂としての流動特性を示す。
機能剤は、3次元印刷装置用フィラメントによって製造される立体造形品に対して形状外の機能を付与しうる有効成分を含有し、例えば、数十ナノメーターから数百ナノメーターの厚さの界面膜を持つエマルジョン液滴から成る。機能剤としては、SROPE(登録商標)を用いることができる。
【0018】
請求項2に記載の3次元印刷装置用フィラメントにあっては、請求項1に記載の構成に加え、前記混合物は、前記ポリ乳酸樹脂とオレフィン系樹脂とを60重量%:40重量%から30重量%:70重量%までの任意の割合で含有することを特徴とする。
【0019】
「オレフィン系樹脂」は、オレフィン系エラストマーを含む概念である。
【0020】
請求項3に記載の3次元印刷装置用フィラメントにあっては、請求項1に記載の構成に加え、前記混合物は、前記ポリ乳酸樹脂とスチレン系樹脂とを60重量%:40重量%から30重量%:70重量%までの任意の割合で含有することを特徴とする。
【0021】
「スチレン系樹脂」は、スチレン系エラストマーを含む概念である。
【0022】
請求項4に記載の3次元印刷装置用フィラメントにあっては、請求項1に記載の構成に加え、前記熱可塑性エラストマーは、鉱物油系可塑剤を40重量%から70重量%の任意の割合で含有することを特徴とする。
【0023】
「可塑剤」は、熱可塑性合成樹脂に加えて柔軟性や対候性を改良するための添加薬品類の総称である。
「鉱物油」は、鉱油とも呼ばれ、石油(原油)、天然ガス、石炭など地下資源由来の炭化水素化合物もしくは不純物をも含んだ混合物の総称である。一般的には、鉱物油は、パラフィン系オイル、ナフテン系オイルまたは高級脂肪酸のいずれかに分類される。
【0024】
請求項5に記載の3次元印刷装置用フィラメントにあっては、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成に加え、前記機能剤は、20重量%以下の任意の割合で混合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1~請求項5に記載の3次元印刷装置用フィラメントにあっては、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとを所定の割合で含有することで、ポリ乳酸から成るフィラメントと比較し、フィラメントの断面形状のムラを抑えやすくなる。
【0026】
その結果、フィラメントの断面形状を真円に近づけることが容易となり、3次元印刷装置内でフィラメントとフィラメントを挟持して送り出すローラーとの接点に作用する挟持力が安定し、搬送不良が低減する。また、フィラメントの搬送不良が低減するため、ヘッド部ノズルからの吐出ムラが低減しコンピュータ上に取り込まれた立体図面データの再現精度を高めることができる。
【0027】
また、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーを上記重量比で組合わせることにより、例えばSROPE(登録商標)などの機能剤を含有させたとしても断面形状を真円に近づけることが容易なフィラメントを実現できる。
【0028】
従って、3次元印刷装置内においてフィラメントの良好な送り出しを可能とし、かつ、立体造形品に形状外の機能を付与できる3次元印刷装置用フィラメントを提供することができる。
【0029】
さらに、請求項1の効果を発揮しつつ、機能剤の混合により、立体造形品に対して形状以外の性質を与えることができ、立体造形品の用途価値が広がる。機能材としてパラベンを採用することにより、立体造形品に対して防カビ、又は抗菌の効果を付与できる。
【0030】
SROPE(登録商標)は、エマルジョンの構造で存在する有効成分を有しているため、有効成分がエマルジョンの構造を持たない機能剤と比べて有効成分の放出が穏やかに進む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの断面真円度測定の説明図であり、(a)は測定装置、(b)は測定方法を示す図である。
図2】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって比較例1に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図3】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって比較例2に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図4】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって比較例3に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図5】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例1に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図6】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例2に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図7】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例3に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図8】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例4に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図9】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例5に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図10】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例6に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図11】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例7に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図12】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例8に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図13】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例9に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図14】本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの一実施形態であって実施例10に係るフィラメントの断面真円度測定の結果を示す図である。
図15】比較例1~比較例3及び実施例1~実施例10に係るフィラメントの断面真円度測定の結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
添付図面を参照して、本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントの実施形態を説明する。
[フィラメントの製造工程]
本実施形態に係る3次元印刷装置用フィラメントは、一般的な押出成形機(図示せず)により製造される。
例えば、65φの押出機を用い、シリンダー温度はダイス150~180℃、計量部160~200℃、圧縮部160~200℃、供給部150~180℃である。
【0033】
また、限界温度は240℃、冷却水槽内の冷却水の温度は8~15℃、ダイ・サイザー間距離2~5cm、引き落とし率0.87~0.92、サイジング方式はドライバキュームである。
【0034】
本実施形態に係る3次元印刷装置用フィラメントにあっては、ポリ乳酸樹脂のペレットと熱可塑性エラストマーのペレットとを合計100重量%となるように混合した後に、押出成形機の注入口に混合したペレットを入れ、加熱しながらスクリューを回転させ樹脂を溶融させながら送り出し、先端の金型より、押し出して冷却水槽にて冷却・固化させて、直径1.75mmのフィラメントとして製造する。
【0035】
[3次元印刷装置]
本実施形態の3次元印刷装置用フィラメントが適用される3次元印刷装置(図示せず)は、熱溶解積層法(FDM)を利用しており、データ処理部とデータ処理部より供給される制御信号に基づいて3次元印刷を行う印刷部とを有して構成されている。
【0036】
印刷部は、ヒーター部とノズル部とを備えたヘッド部を有し、ヘッド部は原料フィラメントをノズル部へ供給するドライブギアとローラーを有し、ドライブギアには溝部が設けられている。
【0037】
本実施形態に係る3次元印刷装置にあっては、原料フィラメントをドライブギアとローラーにより挟持しながら繰り出してヘッド部へと搬送し、ヒーター部によって溶解された3次元印刷装置用フィラメントがノズル部から吐出されて印刷物が形成されるように構成されている。
【0038】
[原材料]
<ポリ乳酸樹脂>
本発明におけるポリ乳酸樹脂は純度95%以上で、5%未満の添加剤を含んでおり、融点は170℃である。また、本発明におけるポリ乳酸樹脂は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または、D体含有量が99.0モル%以上であることが必要であり、特に、1~0.6モル%であるか、または、99.4~99.9モル%であることが好ましい。
【0039】
D体含有量がこの範囲内であることにより、結晶性能に優れるため、成形性に優れる(成形サイクルが短くなる)とともに、得られる成形体は耐熱性が向上したものとなる。
【0040】
<熱可塑性エラストマー>
本発明における熱可塑性エラストマーは、オレフィン系樹脂又はスチレン系樹脂と鉱物油系可塑剤を含有する。具体的には、オレフィン系樹脂又はスチレン系樹脂と鉱物油系可塑剤の重量混合比(オレフィン系樹脂(又はスチレン系樹脂):鉱物油系可塑剤)が、例えば、25重量%:75重量%~60重量%:40重量%であり、可塑化点(可塑化温度)は100~170℃である。
【0041】
<スチレン系樹脂>
本発明におけるスチレン系樹脂は、ハードセグメントであるポリスチレンブロックと、ソフトセグメントである共役ジエン重合体ブロックとを有し、低温では加硫ゴム状物性を示し、加熱状態では加熱溶融して流動性を示す。
【0042】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、部分水添スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(部分水添SEBS)、スチレン・(エチレン-エチレン/プロピレン)-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が例示される。SEBSやSEEPSを使用すると、透明性が向上しかつ優れた滑り止め性が得られる。
【0043】
<鉱物油系可塑剤>
本発明においては、熱可塑性エラストマーにおける可塑剤として、鉱物油系可塑剤を用いている。本発明にあっては、公知のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル等の鉱物油を用いることができるが、その中でも、スチレン系エラストマーに対する相溶性が良好なパラフィンを主成分とした精製石油パラフィン系炭化水素油である鉱物油を用いるのが好ましい。
【0044】
<SROPE(登録商標)>
機能剤としてのSROPE(登録商標)は、PE(ポリエチレン)ベースのPE-SROPE(登録商標)、及びPP(ポリプロピレン)ベースのPP-SROPE(登録商標)の2種類を用意した。
【0045】
3次元印刷装置用フィラメントとして下記の比較例1~3及び実施例1~10を用意し、夫々、断面形状の真円度の測定を行った。
【0046】
[比較例1]
比較例1のフィラメントは、100重量%のポリ乳酸樹脂の原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0047】
[比較例2]
比較例2のフィラメントは、100重量%のポリ乳酸樹脂の原料ペレットと、PE-SROPE(登録商標)の機能剤ペレットとを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0048】
[比較例3]
比較例2のフィラメントは、100重量%のポリ乳酸樹脂の原料ペレットと、PP-SROPE(登録商標)の機能剤ペレットとを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0049】
[実施例1]
実施例1は、60重量%のポリ乳酸樹脂と40重量%のオレフィン系エラストマー(60重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0050】
[実施例2]
実施例2は、50重量%のポリ乳酸樹脂と50重量%のスチレン系エラストマー(70重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0051】
[実施例3]
実施例3は、50重量%のポリ乳酸樹脂と50重量%のスチレン系エラストマー(70重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PE-SROPE(登録商標)とを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0052】
[実施例4]
実施例4のフィラメントは、60重量%のポリ乳酸樹脂と40重量%のスチレン系エラストマー(70重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PP-SROPE(登録商標)とを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0053】
[実施例5]
実施例5のフィラメントは、60重量%のポリ乳酸樹脂と40重量%のオレフィン系エラストマー(60重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PP-SROPE(登録商標)とを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0054】
[実施例6]
実施例6のフィラメントは、30重量%のポリ乳酸樹脂と70重量%のオレフィン系エラストマー(60重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PP-SROPE(登録商標)とを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0055】
[実施例7]
[実施例7]のフィラメントは、40重量%のポリ乳酸樹脂と60重量%のオレフィン系エラストマー(60重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PP-SROPE(登録商標)とを重量比で8:2の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0056】
[実施例8]
[実施例8]のフィラメントは、40重量%のポリ乳酸樹脂と60重量%のスチレン系エラストマー(70重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PE-SROPE(登録商標)とを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0057】
[実施例9]
[実施例9]のフィラメントは、30重量%のポリ乳酸樹脂と70重量%のスチレン系エラストマー(70重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PE-SROPE(登録商標)とを重量比で8:2の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0058】
[実施例10]
[実施例10]のフィラメントは、85重量%のポリ乳酸樹脂と15重量%のオレフィン系エラストマー(40重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットと、PP-SROPE(登録商標)とを重量比で9:1の割合で混合した機能性原料ペレットを押出成形により製造した3次元印刷装置用フィラメントである。
【0059】
<断面真円度測定>
上記の実施例1~10及び比較例1~3のフィラメントについて、断面形状の真円度の測定を行った。測定は、タキカワエンジニアリング株式会社の測定装置(LDM-303H-XY、非接触式レーザースキャニング方式)を用いて実施した。測定精度は±2μm、分解能は0.1μmである。
【0060】
図1はフィラメントの断面真円度測定の説明図であり、(a)は測定装置、(b)は測定方法である。
測定は、図1(a)に示す測定装置10の中心部11に実施例1~10及び比較例1~3のフィラメントを挿通して搬送し、各フィラメントの表面にレーザーを照射して行われる。
【0061】
断面真円度は、図1(b)に示す方向Aと方向Bの2方向からフィラメントの径寸法を測定し、方向Aの径寸法(以下、A方向径)、方向Bの径寸法(以下、B方向径)、そして、A方向径とB方向径の平均(AB方向平均径)の互いのばらつきの程度を調べることで測ることができる。
【0062】
A方向径とB方向径の寸法差が大きいほど、フィラメントは真円度から大きく外れていることを意味する。また、断面真円度測定において、フィラメントを測定部11の搬送方向と直交する方向に回転させることにより、フィラメントの周方向の異なる位置でA方向径及びB方向径を測定することができる。
【0063】
図2図14は、本実施の形態に係る3次元印刷装置用フィラメントの断面真円度測定の結果を示す図であり、1秒間隔(Draw Interval = 1.0 秒)でA方向径及びB方向径を取得しグラフ化したものである。各図の横軸は、測定部11内を搬送されるフィラメントの断面真円度測定の開始からの経過時間(秒)を示し、縦軸は、測定結果であるフィラメントの径寸法(ミリメートル)を示す。
【0064】
比較例1(図2)、比較例2(図3)、及び比較例3(図4)のフィラメントは、A方向径とB方向径の差が0.05ミリメートル~0.1ミリメートル程度である。
【0065】
実施例1(図5)、実施例2(図6)、実施例3(図7)、実施例4(図8)、実施例5(図9)、実施例6(図10)、実施例8(図12)、実施例9(図13)のフィラメントは、A方向径とB方向径の差が0.05ミリメートル~0.1ミリメートルより小さく、比較例1(図2)~比較例3(図4)のフィラメントよりも断面真円度が良好である。特に、実施例3(図7)のフィラメントの断面真円度が良好である。
【0066】
実施例7(図11)及び実施例10(図14)のフィラメントの断面真円度は、ばらつきの平均値でみると、比較例1~比較例3に比べて断面真円度が良好である。
【0067】
図15は比較例1~比較例3及び実施例1~実施例10に係るフィラメントの断面真円度測定の結果をまとめた図である。
実施例7(図11)は断面真円度が低い。この実施例7のフィラメントは、40重量%のポリ乳酸樹脂と60重量%のオレフィン系エラストマー(60重量%の鉱物油系可塑剤を含有)を混合した原料ペレットを用いている。
【0068】
このポリ乳酸樹脂とオレフィン系エラストマーの重量比は、共に実施例5(図9)と実施例6(図10)の中間の値である。しかし、実施例5(図9)と実施例6(図10)のフィラメントの断面真円度は高い。
【0069】
従って、実施例7のフィラメントの断面真円度が低くなった原因は、ポリ乳酸樹脂及びオレフィン系エラストマーの混合物(原料ペレット)に対するPP-SROPE(登録商標)(機能ペレット)の混合割合によるものと考えられる。即ち、フィラメントの断面真円度の観点では、原料ペレットに混合できる機能ペレット(例えばPP-SROPE(登録商標))の限界は、20重量%である。
【0070】
また、実施例10のフィラメントの断面真円度は低い。原料ペレットの構成として、ポリ乳酸樹脂が85重量%より小さく設定することが好ましい。
<効果>
本実施形態に係る3次元印刷装置用フィラメントは、熱溶解積層法(FDM)を利用して立体的な造形を行う3次元印刷装置で用いられ、立体造形物の原料となるもので、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを85重量%:15重量%から1重量%:99重量%までの任意の割合で含有し、例えば、実施例1(図5)~実施例6(図10)、実施例8(図12)、及び実施例9(図13)が該当する。
【0071】
このようにポリ乳酸と熱可塑性エラストマーとを所定の割合で含有することで、例えばポリ乳酸から成るフィラメントと比較して、フィラメントの断面形状のムラが抑えられるようになる。
【0072】
即ち、フィラメントの断面形状を真円に近づけることが容易となり、3次元印刷装置内でフィラメントとフィラメントを挟持して送り出すローラーとの接点に作用する挟持力が安定し、搬送不良が低減する。
【0073】
また、フィラメントの搬送不良が低減するため、ヘッド部ノズルからの吐出ムラが低減しコンピュータ上に取り込まれた立体図面データの再現精度を高めることができる。
【0074】
また、ポリ乳酸と熱可塑性エラストマーを上記重量比で組合わせることにより、例えばSROPE(登録商標)などの機能剤を含有させたとしても断面形状を真円に近づけることが容易なフィラメントを実現できる。
【0075】
即ち、3次元印刷装置内においてフィラメントの良好な送り出しを可能とし、かつ、立体造形品に形状外の機能を付与できる3次元印刷装置用フィラメントを提供することができる。
【0076】
ポリ乳酸樹脂とオレフィン系樹脂とを60重量%:40重量%から30重量%:70重量%までの任意の割合で含有し、又は、ポリ乳酸樹脂とスチレン系樹脂とを60重量%:40重量%から30重量%:70重量%までの任意の割合で含有するため、断面真円度測定の結果の通り、上記効果を容易に且つ確実に実現できる。
【0077】
熱可塑性エラストマーは、鉱物油系可塑剤を60重量%から70重量%の任意の割合で含有するため、断面真円度測定の結果の通り、上記効果を容易に且つ確実に実現できる。
【0078】
ポリ乳酸樹脂及び熱可塑性エラストマーの混合物と、立体造形物に対して形状以外の性質を与える機能剤としてのSROPE(登録商標)とが混合して成るため、立体造形品に対して形状以外の性質を与えることができ、立体造形品の用途価値が広がる。
【0079】
SROPE(登録商標)が20重量%以下の任意の割合で混合されるため、フィラメントの断面形状を真円に近づけることが容易であるとともに、立体造形品に対して形状以外の性質を与えることができる。
【0080】
SROPE(登録商標)は、エマルジョンの構造で存在する有効成分を有しているため、有効成分がエマルジョンの構造を持たない機能剤と比べて有効成分の放出が穏やかに進む。
【0081】
機能剤はパラベンであるため、立体造形品に対して防カビ、又は抗菌の効果を付与できる。
【0082】
以上、本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントを説明してきたが、具体的な構成については、特許請求の範囲に記載の発明の要旨を逸脱しない限り変更や追加等は許容される。
【0083】
例えば、機能剤として、SROPE(登録商標)を用いる例を示したが、ポリ乳酸樹脂と熱可塑性エラストマーとを85重量%:15重量%から1重量%:99重量%までの割合で含有するものであれば、SROPE(登録商標)に限定されることはない。有効成分がエマルジョンの構造で存在する機能剤、特に、SROPE(登録商標)は、3次元印刷装置用フィラメントに好適である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る3次元印刷装置用フィラメントは、熱溶解積層法(FDM)を利用して立体的な造形を行う3次元印刷装置で用いられ、立体造形物の原料となる3次元印刷装置用フィラメントとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 測定装置
11 測定装置の測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15