(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】二次電池電極用水系バインダー組成物、二次電池電極用スラリー、バインダー、二次電池電極、および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220428BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220428BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2017561580
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2016089024
(87)【国際公開番号】W WO2017122540
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2016004702
(32)【優先日】2016-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 充
(72)【発明者】
【氏名】倉田 智規
(72)【発明者】
【氏名】内屋敷 純也
(72)【発明者】
【氏名】中川 康宏
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0239239(US,A1)
【文献】特開2014-179321(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069280(WO,A3)
【文献】特開2001-093583(JP,A)
【文献】特開2007-109549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤と
エチレン性不飽和単量体の少なくとも一種の重合物である樹脂と
水と親水性溶媒からなる群から選択される少なくとも1種と、
を含む二次電池電極用水系バインダー組成物であって、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記樹脂100質量部に対して0.5~9.0質量部であり、
前記樹脂の平均粒子径が0.19~0.28μmであり、
pHが2.5~8.0である
ことを特徴とする二次電池電極用水系バインダー組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤がエポキシ基を含有するシランカップリング剤、またはアミノ基を含有するシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、少なくとも、スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
【請求項4】
前記樹脂が共重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体が、スチレンと官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルと官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルとエチレン性不飽和カルボン酸とを含み、
前記スチレンの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の10~70質量%であり、
前記官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の25~85質量%であり、
前記官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の0.1~10質量%であり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸の使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の0.01%~10質量%である
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
【請求項5】
前記官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の40~55質量%であり、
前記官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の1~3質量%であり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸の使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の0.1%~7質量%である
ことを特徴とする請求項
4に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和単量体は、内部架橋剤を更に含み、
前記内部架橋剤が少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有し、かつ、
前記官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルと反応性を有する反応性基またはカルボンキシル基を有することを特徴とする請求項
4又は
5に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物を硬化してなるバインダー。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物と、
活物質と、
を含むことを特徴とする二次電池電極用スラリー。
【請求項9】
集電体上に、請求項
8に記載の電極用スラリーを硬化してなる二次電池電極。
【請求項10】
集電体と活物質含有層とを有し、
前記活物質含有層は、
集電体上に形成され、
請求項
7に記載のバインダーと
活物質と
を含むことを特徴とする二次電池電極。
【請求項11】
請求項
9又は請求項
10に記載の二次電池電極を有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用水系バインダー組成物、二次電池電極用スラリー、バインダー、二次電池電極、および二次電池に関する。
本願は、2016年1月13日に、日本に出願された特願2016-004702号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン等の電子機器、携帯電話等の通信機器、及び電動工具等の小型化、軽量化の面からリチウムイオン二次電池が注目されている。また、最近では環境に優しい観点から、電気自動車又はハイブリッド自動車用の二次電池として、特に高電圧、高容量、高エネルギー密度化したリチウムイオン二次電池が強く求められてきている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウム等の金属酸化物を活物質とした正極と、黒鉛等の炭素材料を活物質とした負極と、カーボネート類を中心した電解液溶剤とを含む。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが正極と負極間を移動することにより電池の充放電が行われる。
正極は、アルミ箔等の正極集電体表面に、金属酸化物等の正極活物質及びバインダーを含む組成物から正極層を形成することにより得ることができる。負極は、銅箔等の負極集電体表面に、黒鉛等の負極活物質及びバインダーを含む組成物から負極層を形成することにより得られる。したがって、各バインダーは、活物質とバインダーとを結着させ、正極層及び負極層の凝集破壊を防ぐ役割がある。
【0004】
従来、正極層及び負極層用のバインダーとしては、電解液に対する樹脂自体の耐膨潤性の観点から、有機溶剤系のN-メチルピロリドン(NMP)を溶剤としたポリフッ化ビニリデン(PVDF)が用いられる。このバインダーが工業的に多くの機種に使用されてきた。しかしながら、このバインダーは活物質との結着性が低く、実際に使用するには多量のバインダーを必要とする。結果としてリチウムイオン二次電池の容量およびエネルギー密度が低下する欠点がある。また、バインダーに高価な有機溶剤であるNMPを使用しているため、最終製品の価格にも問題があり、スラリーまたは集電体作成時の作業環境保全にも問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、特許文献1では、全エチレン性不飽和単量体に対して、特定量のスチレン、エチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸及び内部架橋剤を必須成分として含有するエチレン性不飽和単量体を乳化剤の存在下、乳化重合して得られるガラス転移温度が30℃以下のリチウムイオンバインダーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のバインダーは、特定の電解液に対しては、電池性能は良好にできるものの、鎖状のカーボネートを含む電解液には膨潤しやすく、電池性能が必ずしも良好にできるものではなかった。本発明は、従来技術の問題点を解決し、水分散系のものであって、バインダーの耐電解液性が高く、活物質同士及び活物質と集電体との結着性が良好で、スラリーを集電体表面に塗布して硬化させた後に行う切断工程において、活物質が集電体表面から剥離しにくく、充放電サイクル時の寿命特性に優れた二次電池が得られるバインダー、それに用いられる二次電池電極用水系バインダー組成物を提供することを目的とする。また、それを用いて得られる二次電池電極用スラリー、バインダー、二次電池電極、およびそれを含む二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、まず、電池性能にはバインダーの耐電解液性が大きな影響を与えていると推定した。バインダーの膨潤率が高いと活物質層間の結着力が弱まり、活物質が滑落し、電池性能が低下する。そこで、バインダーの耐電解液中の膨潤率に着目し、上記課題を解決するに至った。
すなわち、本発明は、活物質同士の結着性および活物質と集電体との結着性が良好であり、鎖状のカーボネートが多い電解液組成の仕様でも耐電解液性を有するバインダーに用いられる二次電池電極用水系バインダー組成物を提供する。また、それを用いて得られる二次電池電極用スラリー、バインダー、二次電池電極、およびそれを含む二次電池を提供する。
【0009】
[1] エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤とエチレン性不飽和単量体の少なくとも一種の重合物である樹脂と水と親水性溶媒からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む二次電池電極用水系バインダー組成物であって、前記シランカップリング剤の含有量は、前記エチレン性不飽和単量体100質量部に対して0.5~9.0質量部であり、pHが2.5~8.0であることを特徴とする二次電池電極用水系バインダー組成物。二次電池がリチウムイオン二次電池であってもよい。
[2] 前記シランカップリング剤がエポキシ基を含有するシランカップリング剤、またはアミノ基を含有するシランカップリング剤であることを特徴とする[1]に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
[3] 前記樹脂が、少なくとも、スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
[4] 前記樹脂が共重合体であり;前記エチレン性不飽和単量体が、スチレンと官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルと官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルとエチレン性不飽和カルボン酸とを含み;前記スチレンの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の10~70質量%であり、前記官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の25~85質量%であり、前記官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の0.1~10質量%であり、前記エチレン性不飽和カルボン酸の使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の0.01%~10質量%である[1]又は[2]に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
[5] 前記官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の40~55質量%であり、 前記官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の1~3質量%であり、前記エチレン性不飽和カルボン酸の使用量が前記共重合体を形成する全モノマー成分の0.1%~7質量%であることを特徴とする[4]記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
[6] 前記エチレン性不飽和単量体は、内部架橋剤を更に含み、前記内部架橋剤が少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有し、かつ、前記官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルと反応性を有する反応性基またはカルボンキシル基を有することを特徴とする[4]又は[5]に記載の二次電池電極用水系バインダー組成物。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の前記二次電池電極用水系バインダー組成物を硬化してなるバインダー。
[8] [1]~[6]のいずれか一項に記載の前記二次電池電極用水系バインダー組成物と、活物質と、を含むことを特徴とする二次電池電極用スラリー。
[9] 集電体上に、[8]に記載の電極用スラリーを硬化してなる二次電池電極。
[10] 集電体と活物質含有層とを有し、前記活物質含有層は、集電体上に形成され、[7]に記載のバインダーと活物質とを含むことを特徴とする二次電池電極。
[11] [9]又は[10]に記載の二次電池電極を有する二次電池。
[12] 電極用スラリーの製造方法であって、エチレン性不飽和単量体をアニオン性界面活性剤の存在下、乳化重合して、pHが2.5~8.0であるアニオン性水系エマルジョンを得る工程と、エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤の含有量が前記エチレン性不飽和単量体に対して0.5~9質量%になるように、前記アニオン性水系エマルジョンに前記シランカップリング剤を添加して二次電池電極用水系バインダー組成物を得る工程と、前記二次電池電極用水系バインダー組成物と活物質とを混合して二次電池電極用スラリーを得る工程と、前記二次電池電極用スラリーを、集電体上に塗布して硬化することより活物質含有層を形成する硬化する工程とを含むことを特徴とする二次電池電極の製造方法。
二次電池がリチウムイオン二次電池であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二次電池電極用水系バインダー組成物からなる二次電池電極用スラリーを用いることより、水分散系で活物質同士の結着性および活物質と集電体との結着性が良好であり、鎖状のカーボネートが多い電解液組成の仕様でも耐電解液性を有する二次電池電極バインダーを提供することができる。
また、これにより、本発明の二次電池の充放電高温サイクル特性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[二次電池電極用水系バインダー組成物]
本発明の組成物は、エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤とエチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂と水と親水性溶媒からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む二次電池電極用水系バインダー組成物である。シランカップリング剤の含有量は、前記エチレン性不飽和単量体に対して0.5~9質量%である(前記エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂に対して0.5~9質量%である)。その組成物のpHが23℃において2.5~8.0である。
本発明の一実施態様の組成物は、二次電池電極の正極用水系バインダー組成物としても、負極用水系バインダー組成物としても用いることができるが、負極用水系バインダー組成物として用いた場合に、特に効果を発揮できる。
【0012】
(エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤)
エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤の使用量としては、上記共重合体を形成する全モノマー成分100質量部に対して、0.5~9質量部である(上記共重合体100質量部に対して0.5~9質量%である)ことが好ましく、2~7質量部であることがより好ましく、2.5~5質量部であることがさらに好ましい。シランカップリング剤の使用量を0.5質量部以上とすることにより、電解液に対する硬化皮膜の耐膨潤性を良好にしやすくでき、9質量部以下とすることにより、エマルジョンの経時の安定性の低下を防止できる。
【0013】
エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤としては、エポキシ基を含有するシランカップリング剤、またはアミノ基を含有するシランカップリング剤等を使用する事ができる。エポキシ基を含有しエチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤としては3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、等を使用する事ができる。
アミノ基を含有しエチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤としてはN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどを使用することができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の組成物のpHが23℃において2.5~8.0であることが好ましく、5.0~7.0であることがより好ましい。
【0014】
(樹脂とアニオン性水系エマルジョン)
樹脂は、エチレン性不飽和単量体の少なくとも一種の重合体であり、水及び/又は親水性溶媒を含むアニオン性水系エマルジョン中に分散されている状態になっている。アニオン性水系エマルジョンは、以下のいずれかの方法で調整することができる。
(1)アニオン性乳化剤を用いて樹脂を40質量%含む水系エマルジョンに調製する。
(2)樹脂を生成する重合性モノマーとして反応性のアニオン性乳化剤を用い、重合した樹脂を40質量%含む水系エマルジョンに調製する。
上記の調整方法は特に制限されることなく使用できる。樹脂は、酸価が100mgKOH/g以下のものが好ましく、75mgKOH/g以下のものがより好ましく、50mgKOH/g以下のものがさらに好ましい。
樹脂は、本発明の組成物から形成した電極を割れにくくする観点から、ガラス転移温度を30℃以下とすることが好ましく、20℃以下とすることがより好ましく、15℃以下とすることがさらに好ましい。なお、取り扱い性の観点から、樹脂のガラス転移温度は、-20℃以上とすることが好ましい。
樹脂のガラス転移温度は、樹脂の乳化重合に使用されるエチレン性不飽和単量体Mi(i=1,2,...,i)の各ホモポリマーのガラス転移温度Tgi(i=1,2,...,i)と、エチレン性不飽和単量体Miの各重量分率Xi(i=1,2,...,i)とから、下記式(I)により理論値として算出できる。
1/Tg=Σ(Xi/Tgi) ‥(I)
【0015】
樹脂としては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム;スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-バーサチック酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等のエチレン-エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体等が挙げられる。これらの中でも、スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体は、活物質と樹脂との結着性を良好にできるとともに、電解液溶剤に対する耐膨潤性に優れ、充放電サイクル特性に優れる点で好適である。また、スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体は、集電体との結着性にも優れる点で良好である。
【0016】
少なくとも、スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(以下、単に「共重合体」と称する場合がある。)は、スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとを併用することにより、上記効果を奏するものである。該共重合体は、例えば、水性媒質中、スチレン、エチレン性不飽和カルボン酸エステル及び内部架橋剤を含有する原料組成物を、乳化剤の存在下、乳化重合することで得ることができる。
【0017】
スチレンは、主として、活物質と樹脂との結着性、及び活物質含有層と集電体との結着性を良好にする役割を有する。特に、活物質として人造黒鉛を用いた場合、より一層その効果を発揮できる。
スチレンの使用量は、上記共重合体を形成する全モノマー成分の10~70質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましく、35~55質量%であることがさらに好ましい。すなわち、上記共重合体に含まれているスチレン由来構造の割合は、10~70質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましく、35~55質量%であることがさらに好ましい。
スチレンの使用量を15質量%以上とすることにより、活物質と樹脂との結着性、及び活物質含有層と集電体との結着性を良好にしやすくできる。また、スチレンの使用量を70質量%以下とすることにより、本発明の組成物から形成した電極を割れにくくすることができる。
【0018】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルは、官能基を有さないものと、官能基を有するものとに分けることができる。ここで官能基とは、水酸基、エポキシ基(グリシジル基)を意味する。
官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。これらの中でも、乳化重合の容易さや耐久性の観点から、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソボロニルが好ましい。
【0019】
官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量としては、上記共重合体を形成する全モノマー成分の25~85質量%であることが好ましく、30~65質量%であることがより好ましく、40~55質量%であることがさらに好ましい。すなわち、上記共重合体に含まれている「官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステル」由来構造の割合は、25~85質量%であることが好ましく、30~65質量%であることがより好ましく、40~55質量%であることがさらに好ましい。
官能基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量を25質量%以上とすることにより、形成した電極の柔軟性や耐熱性を良好にしやすくでき、85質量%以下とすることにより、活物質と樹脂との結着性、及び活物質含有層と集電体との結着性を良好にしやすくできる。
【0020】
官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、ヒドロキシ基、グリシジル基等を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシアルキル、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。
【0021】
官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステルの使用量としては、上記共重合体を形成する全モノマー成分の0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。すなわち、上記共重合体に含まれている「官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステル」由来構造の割合は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
上記共重合体を形成するモノマーとして、さらにエチレン性不飽和カルボン酸を用いてもよい。
エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸またはこれら不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられ、これらの中でも、アクリル酸、イタコン酸が好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
エチレン性不飽和カルボン酸は、少量添加すると、乳化重合安定性や機械的安定性の向上に寄与し得るが、多量に添加すると、活物質と樹脂との結着性、及び活物質含有層と集電体との結着性が低下する傾向にある。このため、エチレン性不飽和カルボン酸の使用量としては、上記共重合体を形成する全モノマー成分の0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であることがさらに好ましい。また、樹脂の酸価を前記の範囲ないとすることが製造安定性の面で好ましい。すなわち、上記共重合体に含まれている「エチレン性不飽和カルボン酸」由来構造の割合は、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
上記共重合体を形成するモノマーとして、さらに、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和基を有する上述した以外のモノマーを用いてもよい。このようなモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のアミド基、ニトリル基等の官能基を有するエチレン性不飽和カルボン酸エステル以外の化合物、パラスチレンスルホン酸ソーダ等が挙げられる。
また、上記共重合体を形成するモノマーとして、分子量を調整するために、メルカプタン、チオグリコール酸及びそのエステル、β-メルカプトプロピオン酸及びそのエステルなどを用いてもよい。
また、上記共重合体を形成するモノマーとして、さらに、後述する反応性の乳化剤を用いても良い。
【0025】
スチレンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の原料組成物中には、硬化皮膜の電解液溶剤に対する耐膨潤性をより向上させるために、さらに内部架橋剤(内部架橋性モノマー)を含むことが好ましい。
内部架橋剤としては、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有し、上述したモノマーが有する官能基と反応性を有する反応性基を有するもの、或いは、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するものを用いることができる。
このような内部架橋剤としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート等の不飽和基を2個以上有する架橋性多官能単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリオキシプロピルトリエトキシシラン等の少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有するシランカップリング剤等が挙げられ、これらの中でも、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びγ-メタクリオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらの内部架橋剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
内部架橋剤の使用量としては、上記共重合体を形成する全モノマー成分の0.01~5質量%であることが好ましく、0.01~4質量%であることがより好ましく、0.01~3質量%であることがさらに好ましい。内部架橋剤の使用量を0.01質量%以上とすることにより、電解液に対する硬化皮膜の耐膨潤性を良好にしやすくでき、5質量%以下とすることにより、乳化重合安定性の低下を防止できる。すなわち、上記共重合体に含まれている内部架橋剤由来構造の割合は、0.01~5質量%であることが好ましく、0.01~4質量%であることがより好ましく、0.01~3質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、通常のアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤が用いられる。
アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フィニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸アステル等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、乳化剤として反応性の乳化剤を用いれば、乳化剤のブリードアウトが防止され、本発明の組成物から形成した電極の機械的安定性を向上できる点で好適である。反応性の乳化剤としては、例えば、以下の一般式(1)~(5)に示すものが挙げられる。
【0028】
【化1】
式中、Rはアルキル基、mは10~40の整数を示す。
【0029】
【化2】
式中、nは10~12の整数、mは10~40の整数を示す。
【0030】
【化3】
式中、Rはアルキル基、MはNH
4又はNaを示す。
【0031】
【0032】
【化5】
式中、Aは炭素数2又は3のアルキレンオキシド、mは10~40の整数を示す。
【0033】
乳化剤の好適な使用量は、非反応性の乳化剤の場合、上記共重合体を形成する全モノマー成分100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.1~2質量部であることがより好ましく、0.2~1質量部であることがさらに好ましい。反応性の乳化剤の場合、上記共重合体を形成する全モノマー成分の0.3~5質量%であることが好ましく、0.5~4質量%であることがより好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。また、非反応性の乳化剤、反応性の乳化剤はそれぞれ単独で用いてもよいが、混合して用いることが好ましい。
【0034】
乳化重合の際に用いられるラジカル重合開始剤としては公知慣用のものを用いることができ、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、必要に応じて、これらの重合開始剤を重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット(ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム)、アスコルビン酸等の還元剤と併用してレドックス重合としてもよい。
【0035】
乳化重合法としては、一括して仕込む重合方法、各成分を連続供給しながら重合する方法等が適用される。重合は通常30~90℃の温度で攪拌下に行われる。なお、上記共重合体の重合中または重合終了後に塩基性物質を加えてpHを調整することにより、乳化重合時の重合安定性、機械的安定性、化学的安定性を向上させることができる。この場合に使用される塩基性物質としては、アンモニア、トリエチルアミン、エタノールアミン、苛性ソーダ等を使用する事ができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。調整したアニオン性水系エマルジョンpHが2.5~8.0であることが好ましく、5~7であることがより好ましい。
【0036】
[二次電池電極用スラリー]
本発明の一実施態様の二次電池電極用スラリーは本発明の二次電池電極用水系バインダー組成物と活物質とを含む。必要に応じて増粘剤等を更に含むことができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)が使用できる。
本発明のスラリーは、水、又は、水と親水性溶媒との混合物に、活物質と樹脂とエチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤とを分散または溶解させて用いることが好ましい。本発明のスラリーの調製は、例えば、樹脂とエチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤とを溶媒に分散、溶解または混練させた後に、活物質及び必要に応じて用いる添加剤を加えて、さらに、分散、溶解または混練する方法が挙げられる。或いは、エチレン性不飽和単量体の乳化重合から得られたアニオン性水系エマルジョンにエチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤を添加して本発明の二次電池電極用水系バインダー組成物を調整し、本発明の二次電池電極用水系バインダー組成物に活物質及び必要に応じて用いる増粘剤等の添加剤を加えて、分散、溶解または混練する方法が挙げられる。
本発明のスラリー中における活物質及び樹脂の含有割合は、不揮発分基準(本発明のスラリー中の不揮発分に対する活物質及び樹脂の割合)で、活物質が95.0~99.5質量%、バインダーが0.5~5.0質量%であることが好ましく、活物質が98.0~99.5質量%、バインダーが0.5~2.0質量%であることがより好ましく、活物質が99.0~99.5質量%、バインダーが0.5~1.0質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
(活物質)
活物質には正極活物質と負極活物質とがある。活物質としては負極活物質を用いた場合に効果を発揮しやすい。
活物質の形状は、特に限定されず、球状、燐片状等のものを用いることができる。これらの中でも、電子伝導性の観点から球状のものが好適である。
活物質の平均粒子径は、活物質の分散性の観点から、5~100μmであることが好ましく、10~50μmであることがより好ましく、15~30μmであることがさらに好ましい。なお、平均粒子径はレーザー回折法により算出できる。
活物質の平均比表面積は、活物質の分散性の観点から、0.1~100m2/gであることが好ましく、0.1~50m2/gであることがより好ましく、0.1~30m2/gであることがさらに好ましい。なお、平均比表面積は、BET窒素吸着法による比表面積測定(JIS Z8830に準じる)から得ることができる。
【0038】
正極活物質としては、金属複合酸化物、特にリチウム及び鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの少なくとも1種類以上の金属を含有する金属複合酸化物等が挙げられ好ましくは、LixMy1O2(但し、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはCo、MnまたはNiの少なくとも一種を表し、1.10>x>0.05、1≧y1>0である)、または、LixMy2O4(但し、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはMnまたはNiを表し、1.10>x>0.05、2≧y2>0である。)または、LixMy1PO4(但し、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはFe、Co、MnまたはNiの少なくとも一種を表し、1.10>x>0.05、1≧y1>0である)を含んだ活物質が挙げられ、例えばLiCoO2、LiNiO2、LixNiy3MnzCoaO2(式中、1.10>x>0.05、1>y3>0、1>z>0、1>a>0である。)、LiMn2O4、LiFePO4で表される複合酸化物等が挙げられる。
【0039】
負極活物質としては、各種の珪素酸化物(SiO2等);炭素質物質;Li4Ti5O12等の金属複合酸化物等が挙げられる。特に表面の性質の分析が困難である人造黒鉛を用いた場合に極めて顕著な効果を発揮できる。
人造黒鉛は、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、ピッチ系炭素繊維、ポリアセチレン等の炭素質材料を3000℃程度の温度で焼成してなるものであり、炭素質材料とは結晶構造が異なる。なお、人造黒鉛は、原子結合の形状は六角形の板状結晶であり、構造は亀の甲状の層状物質である。
【0040】
[二次電池電極]
本発明の一実施態様の二次電池電極(以下、「本発明の電極」と称する場合がある。)は、集電体上に、上述した本発明の二次電池電極用スラリーから形成されてなる活物質含有層を有するものである。
本発明の一実施態様の電極は、二次電池の正極としても、負極としても用いることができるが、負極として用いた場合に、特に効果を発揮できる。特に、リチウムイオン二次電池電極の負極として用いた場合に、最も効果を発揮できる。
【0041】
本発明の電極に構成されている集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属性のものであれば、特に限定されない。これらの中でも、正極用の集電体としてはアルミニウムが好ましく、負極用の集電体としては銅が好ましい。
集電体の形状についても、特に限定されないが、通常、厚さ0.001~0.5mmのシート状のものを用いることが好ましい。
【0042】
本発明の電極は集電体と集電体上に形成され活物質含有層とを有し、活物質含有層は、バインダーと活物質とを含む。バインダーは、二次電池電極用水系バインダー組成物を硬化してなるものである。
本発明の電極は、例えば、集電体上に、上述した本発明の二次電池電極用スラリーを塗布し、硬化することにより得ることができる。
塗布方法は、一般的な方法を用いることができ、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法をあげることができる。これらの中でも、本発明のスラリーの粘性等の諸物性及び硬化性に合わせて塗布方法を選定することにより、活物質含有層の表面状態を良好にし得るという観点から、ドクターブレード法、ナイフ法、又はエクストルージョン法が好ましい。硬化温度は、25℃から120℃まで本発明の樹脂の諸物性及び硬化性、硬化時間に合わせて選定することができる。作業効率の観点から、例えば、50℃から100℃が好ましく、70℃から90℃がよい好ましい。
また、本発明の電極は、活物質含有層の形成後、必要に応じてプレスすることができる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができるが、特に金型プレス法やカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、0.2~3t/cm2が好ましい。
【0043】
本発明の一実施態様の電極は、活物質とバインダーとの結着性が良好であり、活物質含有層の凝集破壊を防止することができる。また、本発明の電極は、活物質含有層と集電体との結着性を良好にすることができる。該効果は、特に、集電体として銅を用いた場合に、極めて良好にすることができる。
【0044】
[二次電池]
本発明の一実施態様の二次電池はリチウムイオン二次電池である(以下、「本発明の電池」と称する場合がある。)。本発明の電池は、上述した本発明の一実施態様の二次電池電極を用いてなるものである。
【0045】
本発明の電池は、正極及び/又は負極と、電解液と、必要に応じてセパレータ等の部品を用い、公知の方法にしたがって製造できる。電極としては、正極及び負極ともに上述した本発明の電極を用いてもよく、正極又は負極の一方に上述した本発明の電極を用いてもよいが、負極に上述した本発明の電極を用いた場合に特に効果を発揮できる。
電池の外装体としては、金属外装体やアルミラミネート外装体を使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等いずれの形状であってもよい。電池の電解液中の電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO4、LiBF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C2H5)4、CF3SO3Li、CH3SO3Li、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0046】
電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されるものではなく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2-エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホランなどのスルホラン類;3-メチル-2-オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の一実施態様の二次電池は、リチウムイオン二次電池であってもよい。
【0047】
(二次電池電極の製造方法)
二次電池電極の製造方法は、以下の工程を含む。
(I)エチレン性不飽和単量体をアニオン性界面活性剤の存在下、乳化重合して、pHが23℃にいて2.5~8.0であるアニオン性水系エマルジョンを得る工程;
(II)エチレン性不飽和結合を有さないシランカップリング剤の含有量が前記エチレン性不飽和単量体100質量部に対して1.5~9質量部になるように、前記アニオン性水系エマルジョンに前記シランカップリング剤を添加して二次電池電極用水系バインダー組成物を得る工程;
(III)前記二次電池電極用水系バインダー組成物と活物質とを混合して二次電池電極用スラリーを得る工程;及び
(IV)前記二次電池電極用スラリーを、集電体上に塗布して硬化することより活物質含有層を形成する工程。
本発明の一実施態様の二次電池の製造方法は、リチウムイオン二次電池の製造方法であってもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」および「%」は、特に断りのない場合はそれぞれ質量部、質量%を示す。
また、実施例及び比較例で使用した材料、並びに、実施例及び比較例で得られた二次電池電極用スラリー、二次電池用電極及び二次電池について、以下の測定及び評価を行った。結果を表1又は2に示す。
【0049】
(結着性)
集電体である銅箔上に、二次電池電極(負極)用スラリーをWet厚みが150μmとなるように塗布し、50℃で5分加熱硬化した。続いて110℃で5分加熱硬化し、23℃、50%RH下で24時間放置したものを試験片とした。試験片のスラリー塗布面とSUS板とを両面テープを用いて貼り合わせ、180°剥離を実施し(剥離幅25mm、剥離速度100mm/min)、剥離強度を測定した。剥離強度が小さいものは、活物質含有層が凝集破壊しやすく、活物質と樹脂との結着性が低いことを意味している。
【0050】
(不揮発分)
直径5cmのアルミ皿に評価サンプルを約1g秤量し、105℃で1時間硬化させ、残分を秤量することで算出した。
【0051】
(粘度)
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpm、No.2またはNo.3ローターにて測定した。
【0052】
(硬化皮膜の溶出率、膨潤率の試験)
得られた二次電池電極用水系バインダー組成物を23℃、50%RH下で7日間硬化させた後、60℃、12h真空乾燥し、硬化皮膜を作製した。硬化皮膜をジメチルカーボネート電解液溶媒に60℃、3日浸漬させ、式(1)で溶出率、式(2)で膨潤率を測定した。
溶出率%={(初期の質量―浸漬後再乾燥質量)/初期の質量}×100% (1)
膨潤率%={(浸漬後の質量―浸漬後再乾燥質量)/浸漬後再乾燥質量}×100% (2)
【0053】
(pH試験)
エマルジョンのpH(23℃)をガラス電極法により測定した。pH測定にはpHメーター(堀場製のF-52)を使用した。水系バインダー組成物pHは、実測したエマルジョンのpHをそのまま使用した。
(アニオン性水系エマルジョン中に分散された樹脂粒子の平均粒径の測定試験)
マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて平均粒子径(体積基準での50%メジアン径)を測定した。
(エマルジョンの経時安定性試験)
60℃、1週間放置後の粘度を測定した。
【0054】
(充放電高温サイクル特性)
電池のサイクル試験は、定電流定電圧方式(CC-CV)で充電(上限電圧4.2V、電流1C、CV時間1.5時間、定電流方式(CC)で放電(下限電圧3.0V、電流1C)とし、いずれも45℃で実施した。容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合とした。
【0055】
(アニオン性水系エマルジョンAの合成)
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、イオン交換水32.6部及び上記一般式(4)に示す反応性のアニオン性乳化剤(三洋化成工業株式会社製、商品名エレミノールJS-20、有効成分40%)0.11部、非反応性のアニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製、商品名ハイテノール08E、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩)0.02部を仕込み、75℃に昇温した。
次いで、上記一般式(4)に示す反応性のアニオン性乳化剤を0.48部、非反応性のアニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製、商品名ハイテノール08E、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩)0.17部、スチレン49.2部、アクリル酸2-エチルヘキシル43.1部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル1.9部、アクリル酸1.9部、パラスチレンスルホン酸ソーダ0.6部、ジビニルベンゼン0.04部及びイオン交換水67.9部を予め混合してなるモノマー乳化物を3時間かけて滴下した。同時に重合開始剤として過硫酸カリウム0.4部をイオン交換水9.3部に溶解したものを3時間かけて80℃で滴下重合した。滴下終了後、2時間熟成後冷却し、アンモニア水2.1部を添加して、アニオン性の水系エマルジョンAを得た。得られたアニオン性水系エマルジョンA中の樹脂の割合は40%、粘度40mPa・s、エマルジョン中の樹脂粒子の平均粒子径は250nm、pH5.0であった。
なお、粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpm、No.2またはNo.3ローターにて測定した。
【0056】
(アニオン性水系エマルジョンB~Dの合成)
中和剤を表1の配合に変更した以外は、上記と同様にしてアニオン性水系エマルジョンB~Dを得た。
【0057】
(アニオン性水系エマルジョンE)
アニオン性水系エマルジョンEとして、スチレン-ブタジエンゴム(ガラス転移温度-7℃(DSCにての実測値))のアニオン性水系エマルジョン(樹脂の割合40%、粘度11mPa・s、エマルジョン中の樹脂粒子の平均粒子径190nm、pH7.0)を得た。
【0058】
(実施例1)
<二次電池電極用水系バインダー組成物1の調整>
アニオン性水系エマルジョンAのエチレン性不飽和単量体の合計100質量部に対し2.5質量部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製シランカップリング剤、製品名KBM-403)をアニオン性水系エマルジョンAに添加し、二次電池電極用水系バインダー組成物1を調整した。組成物1の評価結果を表2に示す。
【0059】
<正極用スラリー及び正極の作製>
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を90部、導電補助剤としてアセチレンブラックを5部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5部を混合したものに、N-メチルピロリドンを100部加えてさらに混合して正極用スラリーを作製した。
次いで、ドクターブレード法により、集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にロールプレス処理後の厚さが60μmになるように該組成物を塗布し、120℃で5分乾燥、プレス工程を経て正極活物質含有層を形成した。得られた正極活物質含有層を50mm×40mmに切り出し、導電タブをつけて正極を作製した。
【0060】
<負極用スラリー及び負極の作製>
活物質(SCMG(登録商標)-X、昭和電工社製)を100部、上記二次電池電極用水系バインダー組成物1を3.75部、及びCMC(重量平均分子量300万、置換度0.9)の2%水溶液を50部混合し、さらに水を28部添加して、実施例1の二次電池電極(負極)スラリーを得た。
次いで、該スラリーを集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面にロールプレス処理後の厚さが60μmとなるように塗布し、80℃で5分硬化し、プレス工程を経て負極活物質含有層を形成した。得られた負極活物質含有層を52mm×42mmに切り出しに導電タブをつけて負極を作製した。
【0061】
<電池の作製>
正極と負極との間にポリオレフィン系の多孔性フィルムからなるセパレータ(商品名:セルガード#2400、ポリエチレン製、10μm)を介在させて、正極と負極との活物質含有層が互いに対向するようにアルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体中にLiPF6の1.0mol/L(リットル)エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)=40/60(体積比)電解液を注液し真空含浸を行い、注液部分を熱融着し、実施例1の二次電池を得た。
評価結果を表2に示す。
【0062】
(実施例2~7)(比較例1~10)
<二次電池電極用水系バインダー組成物2~18の調整>
シランカップリング剤を表2の配合に変更した以外は、上記と同様にして二次電池電極用水系バインダー組成物2~18を得た。組成物2~18の評価結果を表2に示す。
<負極用スラリー及び負極の作製、電池の作製>
負極の作製に用いる活物質及びエマルジョンを表2のエマルジョンに変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池電極用スラリー、二次電池電極及び二次電池を得た。評価結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表2に示した二次電池電極用水系バインダー組成物の評価結果及びその組成物を含む二次電池電極用スラリーを用いて作成された二次電池の評価結果から明らかなように、本発明の二次電池電極用水系バインダー組成物より作成した実施例1~7の二次電池電極に含まれているバインダーは耐電解液性が高く充放電高温リサイクル特性に優れるものであった。