(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】蕎麦及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220502BHJP
【FI】
A23L7/109 F
(21)【出願番号】P 2018018623
(22)【出願日】2018-02-05
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜間 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 健太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 知之
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-180279(JP,A)
【文献】特開2009-112253(JP,A)
【文献】特開2001-128633(JP,A)
【文献】特開2007-089505(JP,A)
【文献】日清フーズ 滝沢更科 八割そば 250g,Amazon, 2011年,p.1-3,https://www.amazon.co.jp/滝沢更科-日清フーズ-八割そば-250g/dp/B006GKAKTO, 検索日:2021年10月25日
【文献】穀類/そば/そば粉,食品成分データベース, 日本食品標準成分表2020年版(八訂),p.1,https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=16311, 検索日:2021年10月25日
【文献】無塩 そば 乾麺 はくばく 180g×5袋セット,Amazon, 2016年,p.1-5,https://www.amazon.co.jp/減塩セット-無塩そば-乾麺-はくばく-180g×5袋セット/dp/B01GA1OE22/ref=sr_1_10?qid=1636010593&s=food-bevera…, 検索日:2021年11月4日
【文献】小麦粉,食品成分データベース, 2020年,p.1,https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=17040, 検索日:2021年5月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉中に蕎麦粉
を85~90質量%含有する蕎麦であって、
食塩相当量が、前記蕎麦100g当たり0.4g以下であり、且つ蛋白質含量が15質量%以上であり、
前記原料粉中にさらに小麦粉及び小麦蛋白質を含有し、
前記原料粉において
、前記小麦蛋白質の含有量が6質量%以上である蕎麦。
【請求項2】
前記原料粉における前記小麦粉の含有量が
5質量%以下である請求項1に記載の蕎麦。
【請求項3】
前記原料粉における前記小麦蛋白質の含有量が
10質量%以下である請求項1又は2に記載の蕎麦。
【請求項4】
前記原料粉における前記小麦粉と前記小麦蛋白質との含有質量比が、前者/後者として、1.0/3.0~3.0/1.0である請求項1~3のいずれか1項に記載の蕎麦。
【請求項5】
干し蕎麦である請求項1~4のいずれか1項に記載の蕎麦。
【請求項6】
蕎麦粉、小麦粉及び小麦蛋白質を含有する原料粉に液体を添加し、混捏して、蛋白質含量が15質量%以上の蕎麦用生地を製造する生地製造工程を有し、
前記原料粉において、前記蕎麦粉の含有量が
85~90質量%、前記小麦蛋白質の含有量が6質量%以上であり、
前記生地製造工程において食塩を使用しない、蕎麦の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蕎麦粉を比較的多量に含有する蕎麦に関し、詳細には、蕎麦粉を高含有しながらも食塩無添加で製造可能で、消費者の減塩志向に対応し得る蕎麦に関する。
【背景技術】
【0002】
蕎麦は、蕎麦の実を粉砕した蕎麦粉に練り水を添加し混捏して生地とし、該生地を麺線状などに成形した食品であり、独特の風味を有していて人気がある。同様に、穀粉を原料として用いた麺線状の食品としては、うどんの如き小麦粉を用いたものが広く食されている。小麦粉は、加水・混捏するだけで生地が得られる特性があり、極めて汎用性が高いのに対し、蕎麦粉には小麦粉のような結着性が欠けているため、蕎麦粉に加水・混捏しただけでは生地は得られない。主に家庭的な手作り品として、穀粉として蕎麦粉のみを用いた十割蕎麦が知られているが、十割蕎麦の製造では通常、生地の製造を可能にするために、蕎麦粉に添加する練り水として水ではなくお湯を用い、蕎麦粉に含まれる澱粉を糊化させている。また、予め糊化した蕎麦粉を用いて製麺を行うこともある。そのため、十割蕎麦では蕎麦粉が変性していて、本来の蕎麦粉の風味が得られない場合が少なくない。
【0003】
一般に、蕎麦用生地を工業的に製造する場合には、蕎麦粉の他にさらに、蕎麦粉よりも結着性に優れた小麦粉やヤマイモ、ふのりなどの所謂つなぎが使用される。しかし当然ながら、原料粉に占めるつなぎの割合が多くなると、相対的に蕎麦粉の割合が低減する結果、蕎麦の風味が得られにくくなる。そこで従来、蕎麦用生地を製造する場合には、つなぎとしての小麦粉等に加えてさらに食塩を使用することでつなぎの能力を高めている。典型的な食塩の使用方法は、蕎麦粉及びつなぎを含む原料粉に添加される練り水に、予め食塩を添加しておく方法である。食塩の使用によりつなぎの能力が向上することで、つなぎの使用量が抑制され、相対的に蕎麦粉の使用量が増えるので、蕎麦の風味が向上するのである。そのため、従来の蕎麦は食塩を少なからず含有し、例えば、文部科学省がまとめている日本食品標準成分表2015年版(七訂)によれば、小麦粉65:蕎麦粉35の原料から得られる干し蕎麦の食塩相当量は、該蕎麦100g当たり2.2gとなっている。
【0004】
しかし、食塩(ナトリウム)は過剰摂取により、高血圧などの症状を示し、脳卒中などの循環器系疾患の発症リスクを高めることが示唆されている。わが国では標準的な食塩摂取量の基準が定めらており、これを目安に食塩摂取量を低減することが推奨されている。こうした背景の下、近年の食の健康志向の高まりもあって、消費者の減塩志向が強まっており、蕎麦についても例外ではなく、蕎麦の風味が良好で且つ減塩志向にマッチした減塩蕎麦が切望されている。
【0005】
特許文献1には、風味に優れた蕎麦の製造方法が記載されている。特許文献1記載の蕎麦の製造方法では、蕎麦粉を小麦粉の重量以上に使用することで蕎麦の風味を向上させる一方、このように蕎麦粉を多量に使用することで懸念される生地の製造困難の問題を、蕎麦粉の結着材として粉末状小麦粉蛋白(粉末状グルテン)を使用すると共に、生地を圧延機にかけて麺帯を得る際の該生地の温度を特定範囲に調整することで払拭しており、特許文献1には各原料の使用量として、蕎麦粉60~80質量部、小麦粉40~20質量部、粉末状小麦粉蛋白2~5質量部が例示されている。特許文献1には、前述した、蕎麦における減塩の課題は記載されておらず、自ずと、蕎麦粉を高含有し風味に優れる蕎麦を食塩不使用で製造し得る技術は記載されていない。
【0006】
特許文献2には、玄蕎麦を粉砕して蛋白質含量16質量%以上の画分を得、該画分をさらに微粉砕して10~60μmにした蕎麦粉を用いると、蕎麦の風味が高まることが記載されている。特許文献2によれば、同文献2記載の蕎麦粉又は該蕎麦粉と他の蕎麦粉との混合粉と、小麦粉とを、重量比で例えば、3:7、6:4、8:2、10:0で蕎麦を製造した場合でも、食感の改良及び風味の増強効果を奏するとされている。特許文献2にも、特許文献1と同様に、蕎麦における減塩の課題や斯かる課題を解決し得る技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-128633号公報
【文献】特開2009-112253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、蕎麦粉を高含有しながらも安定的に製造することが可能で、蕎麦本来の風味に優れ、消費者の減塩志向に対応し得る蕎麦を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、原料粉中に蕎麦粉を60~90質量%含有し、蛋白質含量が15質量%以上である蕎麦である。
【0010】
また本発明は、蕎麦粉を60~90質量%含有する原料粉に液体を添加し、混捏して、蛋白質含量が15質量%以上の蕎麦用生地を製造する生地製造工程を有し、前記生地製造工程において食塩を使用しない、蕎麦の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蕎麦粉を高含有し、蕎麦本来の風味に優れる蕎麦を安定的に製造することが可能である。また、本発明の蕎麦は、食塩無添加で製造することが可能であるため、消費者の減塩志向に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の蕎麦は、蕎麦用生地を麺線状などの所定形状に成形して得られる「生蕎麦」でもよく、該生蕎麦を乾燥して得られる「干し蕎麦」でもよい。一般に、干し蕎麦の含水率は好ましくは14質量%以下、より好ましくは12.5~13.5質量%であり、生蕎麦の含水率は好ましくは28~40質量%、より好ましくは30~35質量%である。前記含水率は、例えば絶乾法(130℃に加熱し、重量変化を測定する方法)に従って、蕎麦の全体部分の含水率を測定した値である。
【0013】
本発明の蕎麦は、原料粉を含有する。通常、原料粉は本発明の蕎麦の主成分である。尤も、本発明で用いる原料粉は常温常圧で粉体であるが、本発明の蕎麦においては、原料粉は粉体の形態のまま含有されているわけではなく、この種の蕎麦と同様に、蕎麦の製造工程で受けた処理(液体添加、混捏、圧延など)によって形態が変化している。本発明の蕎麦における原料粉の含有量は、該蕎麦の全質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは83質量%以上であり、100質量%即ち原料粉のみを用いて本発明の蕎麦を製造してもよい。
【0014】
尚、特に断らない限り、本発明の蕎麦における各成分(原料粉、蛋白質など)の含有量は、該蕎麦の乾燥質量基準での含有量であり、より具体的には、該蕎麦の含水率14質量%以下の乾燥状態での当該成分の含有量を意味する。一般的には、本発明の蕎麦が「干し蕎麦」の場合は、その干し蕎麦の質量が、該干し蕎麦に含有される所定の成分の含有量を算出する際の基準となり、また、本発明の蕎麦が「生蕎麦」の場合は、その生蕎麦を恒温槽等で乾燥するなどして得られた「乾燥状態の蕎麦」(干し蕎麦)の質量が、該蕎麦に含有される所定の成分の含有量を算出する際の基準となる。
【0015】
本発明で用いる原料粉には、穀粉、蛋白素材が包含される。
前記穀粉には、蕎麦粉の他、例えば、小麦粉(例えば強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、デュラム小麦粉、全粒粉、ふすま)、大麦粉、米粉、ライ麦粉、粟粉、ヒエ粉、アマニ粉、大豆粉等が包含される。
前記蛋白素材には、小麦グルテン、卵白、大豆たん白等の植物性蛋白質;乳清蛋白等の動物性蛋白質が包含される。
【0016】
本発明の蕎麦は蕎麦粉を高含有しており、具体的には、原料粉中に蕎麦粉を60~90質量%含有する。蕎麦粉は蕎麦の実を粉砕して得られるものであり、本発明では、通常食用に供されている蕎麦粉を特に制限無く用いることができる。蕎麦に含有される原料粉中における蕎麦粉の含有量が60質量%未満では、蕎麦本来の風味が物足りなくなり、また、該蕎麦粉の含有量が90質量%を超えると、後述するように蛋白質含量を15質量%以上に調整しても、蕎麦を製造することが難しくなる。本発明の蕎麦に含有される原料粉中における蕎麦粉の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは70~88質量%、より好ましくは75~85質量%である。
【0017】
本発明の蕎麦は、このように蕎麦粉を高含有すると共に、蛋白質含量が15質量%以上、好ましくは16~30質量%である点で特徴付けられる。斯かる蛋白質含量の数値範囲は、前述した通り、蕎麦の乾燥質量基準での数値範囲である。ここでいう「蛋白質含量」は、蕎麦に含まれる蛋白質の総量であり、従来公知のケルダール法により測定される値である。蕎麦における蛋白質含量が15質量%以上であることにより、原料粉中における蕎麦粉の含有量が60~90質量%という多量であっても、蕎麦用生地延いては蕎麦を食塩無添加で安定的に製造することが可能となり、これにより、蕎麦本来の風味に優れ、しかも消費者の減塩志向に対応し得る高品質の蕎麦の安定供給が可能となる。
【0018】
前記のように、原料粉中に蕎麦粉を60~90質量%含有する蕎麦において、その蛋白質含量をより確実に15質量%以上とする観点から、原料粉には、蕎麦粉以外の蛋白質含有原料が含まれていることが好ましい。前記蛋白質含有原料としては、前記の穀粉、蛋白素材等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記蛋白質含有原料としては、小麦粉、小麦蛋白質が特に好ましく、小麦蛋白質の中でも特に小麦グルテンが好ましい。蕎麦に小麦粉及び/又は小麦蛋白質(小麦グルテン)を含有させることで、蕎麦の風味に対する悪影響を最小限に抑えつつ、蕎麦の蛋白質含量15質量%以上を達成することが可能となる。
【0019】
前記蛋白質含有原料として小麦粉を用いる場合、蕎麦に含有される原料粉中における小麦粉の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは22質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であり、より具体的には、好ましくは4~30質量%、より好ましくは6~22質量%、さらに好ましくは8~15質量%である。原料粉中における小麦粉の含有量が少なすぎるとこれを使用する意義に乏しく、逆に多すぎると、蕎麦の風味が低下するおそれがある。
【0020】
また、前記蛋白質含有原料として小麦蛋白質(小麦グルテン)を用いる場合、蕎麦に含有される原料粉中における小麦蛋白質(小麦グルテン)の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは24質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは16質量%以下であり、より具体的には、好ましくは4~24質量%、より好ましくは6~20質量%、さらに好ましくは8~16質量%である。原料粉中における小麦蛋白質(小麦グルテン)の含有量が少なすぎるとこれを使用する意義に乏しく、逆に多すぎると、蕎麦の風味が低下するおそれがある。
【0021】
特に前記蛋白質含有原料として、小麦粉及び小麦蛋白質(小麦グルテン)を併用するとより効果的である。前記蛋白質含有原料として小麦蛋白質(小麦グルテン)を単独で用いると、蕎麦の風味が阻害されるおそれがあるが、小麦粉と共に用いると、そのような不都合が発生し難いため好ましい。原料粉における小麦粉と小麦蛋白質(小麦グルテン)との含有質量比は、前者/後者として、好ましくは1.0/3.0~3.0/1.0、より好ましくは1.5/1.0~1.0/1.5である。
【0022】
本発明の蕎麦は、前記の原料粉(蕎麦粉、小麦粉、小麦蛋白質等)以外の他の成分を含有してもよい。前記他の成分としては、例えば、澱粉類、糖類、卵粉、ヤマイモ粉、抹茶、ふのり、そばの葉粉末、乳化剤、色素、香料等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記澱粉類には、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ等の未加工澱粉、及びこれら未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施した加工澱粉が含まれる。蕎麦に含有される原料粉中における前記他の成分の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。特に風味に優れた蕎麦とする観点からは、蕎麦は前記他の成分を含有しないことが最も好ましい。つまり、前記の原料粉及び水だけを用いて蕎麦を製造することが最も好ましい。
【0023】
本発明の蕎麦において、塩分含量は特に制限されず、減塩を謳っていない通常の蕎麦(非減塩蕎麦)と同程度であってもよいが、本発明の蕎麦の真価は、塩分含量が非減塩蕎麦のそれよりも低減された場合に発揮される。即ち、本発明によれば、従来、小麦粉などの所謂つなぎの能力向上の目的で蕎麦に添加されていた食塩を無添加とすることが可能であり、そのような食塩無添加で製造された本発明の蕎麦は、原料粉に本来的に含有されている塩化ナトリウムを塩分として含有するだけであるから、従来のつなぎ入りの蕎麦(十割蕎麦以外の蕎麦)に比して塩分含量が大幅に低減されており、塩分含量は実質的にゼロであり得、消費者の減塩志向に対応することができる。
【0024】
本発明の蕎麦の食塩相当量は、該蕎麦100g当たり、好ましくは0.4g以下、より好ましくは0.05g以下であり、理想的にはゼロである。尚、ここでいう蕎麦の食塩相当量は、蕎麦が茹で調理などの調理に供される前の時点での食塩相当量を意味する。本発明の蕎麦を食塩無添加で製造した場合には、前記の食塩相当量を実現することが可能である。また、同様の観点から、本発明の蕎麦の塩分含量(食塩相当量)は、通常の蕎麦(非減塩蕎麦)のそれに対して、75質量%以上少ないことが好ましく、95質量%以上少ないことがより好ましい。
【0025】
尚、前記の「食塩相当量」は、食品(蕎麦)に含まれるナトリウムの量を食塩(塩化ナトリウム)の量に換算したもので、食品中のナトリウム含量(単位:g)の数値に2.54を乗じて算出される。
【0026】
本発明の蕎麦は、前記の原料粉を用い常法に従って製造することができる。本発明の蕎麦の製造方法は、典型的には、原料粉に液体を添加し、混捏して、蛋白質含量が15質量%以上の蕎麦用生地を製造する生地製造工程と、該生地を所定形状に成形する成形工程とを有する。前述したように、前記生地製造工程で用いる原料粉は蕎麦粉を60~90質量%含有する。前記生地製造工程において、原料粉に添加する液体は、典型的には水であるが、水以外の液体でもよい。また、前記成形工程では、典型的には、前記生地製造工程で得られた生地を麺線状に成形する。生地の成形方法としては、例えば、生地を圧延して得た麺帯を麺線状に切り出す方法、エクストルーダ等を用いて生地を麺線状に押し出す方法が挙げられる。
【0027】
前述したように、蕎麦の塩分含量(食塩相当量)を実質的にゼロとして、消費者の減塩志向に対応し得る蕎麦を製造する観点から、前記生地製造工程においては、食塩を使用しないことが好ましく、具体的には、原料粉に食塩を添加せずに、原料粉及び水だけを用いて常法に従って蕎麦用生地を製造することが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。尚、実施例1~3、7~11は参考例である。
【0029】
〔実施例1~11及び比較例1~4〕
下記表1~2に示す原料を適宜混合・攪拌して、各実施例及び比較例の蕎麦原料粉を製造し、該蕎麦原料粉を用いて麺線状の生蕎麦を製造した。この生蕎麦の製造は、具体的には、蕎麦原料粉100質量部に対して練り水としての水20質量部を加え、横型ミキサーで6分間混捏して蕎麦用生地を得(生地製造工程)、該蕎麦用生地を常法に従って圧延して厚さ1.4mmの麺帯にし、該麺帯を切刃で切り出すことで実施した。尚、前記の6分間の混捏では蕎麦粉のつながりが悪く、蕎麦用生地が製造できなかった場合は、追加で混捏を行った。また、生地製造工程において原料粉に食塩を添加する場合(比較例3及び4)、練り水として食塩濃度5質量%の食塩水を用いた。生地製造工程において原料粉に食塩を添加しない場合(各実施例並びに比較例1及び2)、そうして製造された生蕎麦の食塩相当量は、該生蕎麦100g当たりほぼゼロであった。
【0030】
〔試験例〕
各実施例及び比較例の生蕎麦200gを沸騰水で2分間茹で、水洗して冷却を行い、茹で歩留り260質量%の茹で蕎麦を製造した。この茹で蕎麦を、訓練された10名の専門パネラーにつけつゆで食してもらい、その際の蕎麦の風味を下記評価基準で評価してもらった。また、前記生地製造工程での生地の製造適性を評価するために、訓練された10名の専門パネラーに該生地の性状を下記評価基準で評価してもらった。以上の評価結果を10名の評価点の平均値として下記表1~2に示す。
【0031】
<生地の製造適性の評価基準>
3点:生地製造工程で食塩を添加した場合(比較例3及び4)と同等で、生地のつながりがよく、良好。
2点:当初の6分間の混捏では生地がまとまりにくく、追加の混捏で生地になるが、やや生地が切れやすい。
1点:当初の6分間の混捏では生地が全くまとまらず、追加の混捏でも生地にならず、不良。
<蕎麦の風味の評価基準>
5点:蕎麦粉100質量%で蕎麦きりにしたような蕎麦の風味が感じられ、極めて良好。
4点:原料粉中の蕎麦粉の含有量を80質量%とした場合(比較例3)と同様の風味が感じられ、良好。
3点:原料粉中の蕎麦粉の含有量を50質量%とした場合(比較例4)と同様の風味が感じられ、やや良好。
2点:蕎麦の風味があまり感じられず、不良。
1点:蕎麦の風味がほとんど感じられず、極めて不良。
【0032】
【0033】
表1に示す通り、各実施例の蕎麦は、該蕎麦に含有される原料粉中における蕎麦粉の含有量が60~90質量%で、且つ蛋白質含量が15質量%以上であるため、これらの要件を満たさない各比較例に比して、生地に製造適性及び蕎麦の風味の双方が高評価であった。また、各実施例と比較例2~4との対比から、各実施例のように、原料粉に小麦グルテンを配合して蕎麦の蛋白質含量を15質量%以上とすることで、原料として食塩を使用しなくても、蕎麦粉を高含有する蕎麦を安定的に製造できることがわかる。また、実施例6と実施例7との対比から、原料粉中に蕎麦粉以外の蛋白質含有原料を配合する場合には、実施例7のように小麦グルテンのみを配合するよりも、実施例6のように小麦グルテン及び小麦粉の双方を配合した方が、蕎麦の風味の点で好ましいことがわかる。
【0034】
【0035】
表2においては、蛋白質含量が30質量%以下の実施例9~11が蕎麦の風味に特に優れていたことから、蕎麦における蛋白質含量は、15質量%以上を前提として、30質量%以下程度とすることが好ましいことがわかる。