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特許7065832硬化性樹脂組成物、その硬化物、及びその硬化物を含む構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、その硬化物、及びその硬化物を含む構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/06 20060101AFI20220502BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20220502BHJP
   C08F 212/34 20060101ALI20220502BHJP
   C08F 222/40 20060101ALI20220502BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20220502BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220502BHJP
【FI】
C08L61/06
C08L35/00
C08F212/34
C08F222/40
C08K5/14
C08K3/013
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019513548
(86)(22)【出願日】2018-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2018014455
(87)【国際公開番号】W WO2018193850
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017082701
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 葵
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-211449(JP,A)
【文献】特開平04-292617(JP,A)
【文献】特開平05-043630(JP,A)
【文献】特開2015-117374(JP,A)
【文献】特開平05-009364(JP,A)
【文献】特開平06-093047(JP,A)
【文献】特開2013-199627(JP,A)
【文献】特開2015-117375(JP,A)
【文献】特開2016-028129(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047417(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/074040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 61/00 - 61/34
C08F 212/00 - 212/36
C08F 222/00 - 222/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)、及びポリマレイミド化合物(B)を含む硬化性樹脂組成物であって、ポリアルケニルフェノール化合物(A)が下記式(1a)又は(1b)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物、又は下記式(1c)で表される構造単位を有する化合物であり、さらに下記式(3)で表される構造単位を有するポリアルケニルフェノール化合物(C)を含む硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式(1a)、(1b)、及び(1c)においてR~R13はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基又は水酸基を表し、R10~R13はナフタレン環を構成する炭素原子上のどこに位置していてもよく、Qはフェノール性水酸基を有さない芳香環を主鎖上に有する二価の有機基を表し、Uは芳香環を有する二価の有機基を表し、Y~Yはそれぞれ独立に下記式(2)
【化2】
で表されるアルケニル基であり、式(2)においてR14、R15、R16、R17及びR18はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、*は、芳香環との結合部を表す。)
【化3】
(式(3)においてR 19 及びR 20 はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基又は水酸基を表し、Zは下記式(4)
【化4】
で表されるアルケニル基であり、式(4)においてR 21 、R 22 、R 23 、R 24 及びR 25 はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、*は、芳香環との結合部を表す。)
【請求項2】
前記式(1a)、(1b)及び(1c)においてR、R、R、R、R10、R11、R12及びR13が水素原子である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)が前記式(1a)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物又は前記式(1c)で表される構造単位を有する化合物である、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記式(1a)においてR~Rがそれぞれ独立に、水素原子、アリル基及び水酸基から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(1b)及び(1c)においてQ及びUが1,4-フェニレンビスメチレン基、及び4,4’-ビフェニレンビスメチレン基から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
GPCにより測定される分子量分布から求めた前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)の重合度が、2~20である、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)を前記ポリマレイミド化合物(B)100質量部に対して5~200質量部含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリマレイミド化合物(B)が芳香族ポリマレイミド化合物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリマレイミド化合物(B)が、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン及び2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパンから選択される少なくとも1つの化合物である、請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアルケニルフェノール化合物(C)を前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)100質量部に対して5~2000質量部含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
さらに、硬化促進剤(D)を前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)、ポリマレイミド化合物(B)、及びポリアルケニルフェノール化合物(C)(存在する場合)の合計100質量部に対して0.01~10質量部含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
さらに、充填剤(E)を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、その硬化物、及びその硬化物を含む構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化、高速化等のさらなる高品質化を実現するために、電子機器に用いられる半導体パッケージのさらなる高密度配線化、小型化、薄型化等が求められている。特に、電子機器の高機能化等の要求に伴い、電子部品の高密度集積化、さらには高密度実装化が進んでいるため、高密度実装対応の半導体パッケージ等の小型化、高密度化が加速している。半導体パッケージの高密度集積化と共に、より高電力での駆動を可能とする高温環境下での使用に耐えうる材料に対する要望が高まっている。一方で、コストの過剰な増加を抑えることも重要である。半導体パッケージとしては、ワイヤボンドタイプやフリップチップタイプのBGA(Ball Grid Array)等が用いられている。
【0003】
従来、半導体の封止材として成形性、接着性、電気特性、耐熱性、耐湿性等の観点からエポキシ樹脂が使用されてきた。しかし、エポキシ樹脂は、常用できる耐熱温度が一般的に150~200℃程度であり、200℃を超える温度領域における長時間での連続使用は困難である。そこで、ナフタレン骨格、テトラフェニル骨格等をエポキシ樹脂に導入することにより、エポキシ樹脂の耐熱化が図られている。しかし、これらの構造は特殊構造であるためコストも高く、実用化は限定的であり、その耐熱性も十分ではない。
【0004】
高い耐熱性を有する熱硬化性樹脂として、アルケニルフェノール化合物とマレイミド化合物とを含む組成物が知られている(例えば特許文献1(特開2016-74902号公報)、特許文献2(特開平7-165825号公報))。アルケニルフェノール化合物のアルケニル基とマレイミド化合物の不飽和基が互いにラジカル重合し高度に架橋することで、エポキシ樹脂より耐熱性が高い樹脂硬化物(ガラス転移温度が200~350℃)が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-74902号公報
【文献】特開平7-165825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、安全性を確保するために、半導体封止材を高温環境下で使用するためには、封止材が高い難燃性を有することも重要である。その代表的な規格としてはUnderwriters Laboratories Inc.のUL94規格があり、垂直燃焼試験(Vertical Burning Test:V)でV-0の条件に合格することが望ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1は、難燃性について何ら言及していない。引用文献2は、塩素化パラフィン、リン酸エステル等の難燃性化合物を熱硬化性樹脂組成物に配合することができることを記載するのみであり、高い耐熱性及び難燃性を有する硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物の提案はなされていない。
【0008】
上述に鑑みて、本発明は、耐熱性及び難燃性に優れた硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の基礎骨格を有するアルケニル化(芳香環にアルケニル基が結合)されたポリフェノール化合物、及びポリマレイミド化合物を含む組成物が、硬化することにより耐熱性及び難燃性に優れた硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物を与えることを見出した。すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【0010】
[1]
ポリアルケニルフェノール化合物(A)、及びポリマレイミド化合物(B)を含む硬化性樹脂組成物であって、ポリアルケニルフェノール化合物(A)が下記式(1a)又は(1b)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物、又は下記式(1c)で表される構造単位を有する化合物である硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式(1a)、(1b)、及び(1c)においてR~R13はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基又は水酸基を表し、R10~R13はナフタレン環を構成する炭素原子上のどこに位置していてもよく、Qはフェノール性水酸基を有さない芳香環を主鎖上に有する二価の有機基を表し、Uは芳香環を有する二価の有機基を表し、Y~Yはそれぞれ独立に下記式(2)
【化2】
で表されるアルケニル基であり、式(2)においてR14、R15、R16、R17及びR18はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、*は、芳香環との結合部を表す。)
[2]
前記式(1a)、(1b)及び(1c)においてR、R、R、R、R10、R11、R12及びR13が水素原子である、[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3]
前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)が前記式(1a)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物又は前記式(1c)で表される構造単位を有する化合物である、[1]又は[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4]
前記式(1a)においてR~Rがそれぞれ独立に、水素原子、アリル基及び水酸基から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5]
前記式(1b)及び(1c)においてQ及びUが1,4-フェニレンビスメチレン基、及び4,4’-ビフェニレンビスメチレン基から選択される少なくとも1つである、[1]又は[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[6]
GPCにより測定される分子量分布から求めた前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)の重合度が、2~20である、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[7]
前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)を前記ポリマレイミド化合物(B)100質量部に対して5~200質量部含む、[1]~[6]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[8]
前記ポリマレイミド化合物(B)が芳香族ポリマレイミド化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[9]
前記ポリマレイミド化合物(B)が、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン及び2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパンから選択される少なくとも1つの化合物である、[8]に記載の硬化性樹脂組成物。
[10]
さらに下記式(3)で表される構造単位を有するポリアルケニルフェノール化合物(C)を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【化3】
(式(3)においてR19及びR20はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基又は水酸基を表し、Zは下記式(4)
【化4】
で表されるアルケニル基であり、式(4)においてR21、R22、R23、R24及びR25はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、*は、芳香環との結合部を表す。)
[11]
前記ポリアルケニルフェノール化合物(C)を前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)100質量部に対して5~2000質量部含む、[10]に記載の硬化性樹脂組成物。
[12]
さらに、硬化促進剤(D)を前記ポリアルケニルフェノール化合物(A)、ポリマレイミド化合物(B)、及びポリアルケニルフェノール化合物(C)(存在する場合)の合計100質量部に対して0.01~10質量部含む、[1]~[11]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[13]
さらに、充填剤(E)を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[14]
[1]~[13]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
[15]
[1]~[13]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明により耐熱性及び難燃性に優れた硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明の硬化性樹脂組成物は、ポリアルケニルフェノール化合物(A)とポリマレイミド化合物(B)を必須成分として含む。
【0013】
[ポリアルケニルフェノール化合物(A)]
ポリアルケニルフェノール化合物(A)は、下記式(1a)又は(1b)で表される構造単位を少なくとも2つ有し、又は下記式(1c)で表される構造単位を有し、例えばポリ2-アルケニル芳香族エーテル化合物のクライゼン転位反応により得ることができる化合物である。
【化5】
【0014】
(式(1a)、(1b)、及び(1c)においてR~R13はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基又は水酸基を表し、R10~R13はナフタレン環を構成する炭素原子上のどこに位置していてもよく、Qはフェノール性水酸基を有さない芳香環を主鎖上に有する二価の有機基を表し、Uは芳香環を有する二価の有機基を表し、Y~Yはそれぞれ独立に下記式(2)
【化6】
で表されるアルケニル基であり、式(2)においてR14、R15、R16、R17及びR18はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、*は、芳香環との結合部を表す。)
「それぞれ独立に」とは、化合物に含まれる複数個のRが同一でも互いに異なっていてもよいことを意味する。置換基R~R18、二価基Q、U、以下説明する化合物(C)等の置換基についても同様である。
【0015】
式(1a)、(1b)、及び(1c)におけるR~R13を構成する炭素数1~10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を挙げることができる。炭素数1~2のアルコキシ基の具体例としてはメトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。炭素数2~6のアルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等を挙げることができる。
【0016】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)は、式(1a)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物又は式(1c)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
【0017】
式(1c)で表される構造単位を有する化合物は、高い耐熱分解性を有するナフチル基を主鎖に有することから難燃性に特に優れている。ある実施態様においてポリアルケニルフェノール化合物(A)は式(1c)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物である。
【0018】
得られる硬化物の耐熱性が高い点で、ポリアルケニルフェノール化合物(A)が式(1a)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物であることが好ましい。
【0019】
ある実施態様において、式(1a)におけるR~Rは、それぞれ独立に水素原子、アリル基及び水酸基から選択される。別の実施態様において、式(1a)におけるR~Rのうちの1つが水酸基、1つがアリル基、残り3つが水素原子である。別の実施態様において、式(1a)におけるR~Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、及び炭素数2~6のアルケニル基から選択される。別の実施態様において、式(1a)におけるR~Rのうちの1つが炭素数2~6のアルケニル基であり、残りがそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基及び水酸基から選択される。式(1a)におけるR~Rのうちの1つが炭素数2~6のアルケニル基であり、1つが水酸基であるポリアルケニルフェノール化合物(A)は、架橋密度の高い硬化物が得られかつ水酸基が多く存在するために難燃性に特に優れている。別の実施態様において、式(1a)におけるR~Rのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は全ては水素原子である。
【0020】
ある実施態様において、式(1a)、(1b)、及び(1c)におけるR、R、R、R、R10、R11、R12及びR13は、立体障害が小さく反応速度に優れる点から水素原子である場合が好ましい。別の実施態様において、式(1a)におけるR、R、式(1b)におけるR、R、及び(1c)におけるR10、R11、R12及びR13のうちの少なくとも1つは、得られる硬化物の耐熱性が高い点で、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、又は炭素数2~6のアルケニル基である場合が好ましい。耐熱性の高い硬化物が得られる要因の1つとして、得られる硬化物の架橋密度が高いことが挙げられる。
【0021】
ある実施態様において、式(1c)におけるR10~R13のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は少なくとも3つは水素原子である。別の実施態様において、式(1c)におけるR10~R13のうちの少なくとも1つは水酸基である。別の実施態様において、式(1c)におけるR10~R13のうちの少なくとも1つはアリル基である。
【0022】
式(1b)におけるQを構成するフェノール性水酸基を有さない芳香環を主鎖上に有する二価の有機基の炭素数は6~14であることが好ましい。フェノール性水酸基を有さない芳香環を主鎖上に有する二価の有機基は、主鎖上に連続して存在する飽和炭素を有さないことが好ましい。二価基Qの主鎖上に飽和炭素が連続して存在しない場合、得られる硬化物中の芳香環の密度が高いため、特に優れた難燃性が得られると考えられる。炭素数6~14のフェノール性水酸基を有さない芳香環を主鎖上に有する二価の有機基の具体例としては、フェニレン基、メチルフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレニレン基、アントラセニレン基、キシリレン基、4,4-メチレンジフェニル基、1,4-フェニレンビスメチレン基、4,4’-ビフェニレンビスメチレン基等を挙げることができる。
【0023】
これらの中でもQは得られる硬化物の難燃性が高い点で1,4-フェニレンビスメチレン基、4,4’-ビフェニレンビスメチレン基がより好ましい。
【0024】
式(1c)におけるUを構成する芳香環を有する二価の有機基の炭素数は6~14であることが好ましい。Uを構成する芳香環を有する二価の有機基は、主鎖上に芳香環を有する二価の有機基であることが好ましい。Uを構成する芳香環を有する二価の有機基は、フェノール性水酸基を有さない芳香環を有する二価の有機基であることが好ましい。炭素数6~14の芳香環を有する二価の有機基の具体例としては、フェニレン基、メチルフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレニレン基、アントラセニレン基、キシリレン基、4,4-メチレンジフェニル基、1,4-フェニレンビスメチレン基、4,4’-ビフェニレンビスメチレン基等を挙げることができる。
【0025】
これらの中でもUは得られる硬化物の難燃性が高い点で1,4-フェニレンビスメチレン基、4,4’-ビフェニレンビスメチレン基がより好ましい。
【0026】
式(2)におけるR14、R15、R16、R17及びR18を構成する炭素数1~5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等を挙げることができ、炭素数5~10のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができ、炭素数6~12のアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。中でも、R14、R15、R16、R17及びR18が全て水素原子である、すなわち式(2)で表されるアルケニル基がアリル基であることが好ましい。
【0027】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)は構造単位数の異なる化合物の混合物であってもよい。この実施態様において、式(1a)、(1b)、及び(1c)で表される構造単位の総数の一分子当たりの平均値(重合度)は2~20であることが好ましく、2~15であることがより好ましく、2~10であることがさらに好ましい。構造単位の総数の一分子当たりの平均値が2以上であると最終目的物であるポリアルケニルフェノール化合物を硬化剤として用いた硬化物の耐熱性がより良好であり、20以下であると成形時の流動性がより良好である。
【0028】
重合度PはGPCより算出した数平均分子量をMn、ポリアルケニルフェノール化合物の繰り返し構造の分子量をMとしたとき、以下の式で求められる。
P=Mn/M
【0029】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)の好ましい数平均分子量は300~5000であり、より好ましくは400~4000であり、さらに好ましくは500~3000である。数平均分子量が300以上であれば、硬化性樹脂組成物の硬化物を高温環境に置いたとき熱分解開始温度がより適切であり、5000以下であれば、硬化性樹脂組成物の粘度が成形時の加工により好適な範囲となる。
【0030】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)は、原料となるフェノール樹脂の水酸基の一部をアルケニルエーテル化した後、クライゼン転位反応により、2-アルケニル基を転位させることにより得ることができる。原料フェノール樹脂として、好ましくは下記式(5a)、(5b)、又は(5c)で表される構造単位を有する公知のフェノール樹脂を使用することができる。
【化7】
(式(5a)~(5c)中、R~R13、Q及びUは式(1a)、(1b)、及び(1c)におけるR~R13、Q及びUと同一である。)
【0031】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)の原料フェノール樹脂の具体例としては、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ナフタレンジオールアラルキル樹脂、フェノール-ベンズアルデヒド共重合体樹脂、フェノール-サリチルアルデヒド共重合体樹脂等を挙げることができる。
【0032】
原料フェノール樹脂の2-アルケニルエーテル化反応としては、(i)塩化アリル、塩化メタリル、臭化アリル等のハロゲン化2-アルケニル化合物とフェノール化合物を反応させる公知の方法、及び(ii)酢酸アリルのようなカルボン酸2-アルケニル化合物とフェノール化合物を反応させる公知の方法の2つの方法を例示することができる。ハロゲン化2-アルケニル化合物を用いた2-アルケニルエーテル化反応は、例えば特開平2-91113号公報に記載の方法を使用することができる。カルボン酸2-アルケニル化合物とフェノール樹脂を反応させる方法は、例えば特開2011-26253号公報に記載の方法を使用することができる。
【0033】
フェノール性水酸基に対するハロゲン化2-アルケニル化合物又はカルボン酸2-アルケニル化合物の使用量は0.4~5.0当量が好ましく、より好ましくは0.6~4.0当量である。0.4当量以上であると、クライゼン転位した後のポリマレイミド化合物(B)との反応部位の量がより適切であり、より耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。2-アルケニルエーテル化反応は、2-アルケニル化合物を原料フェノール樹脂と混合し、4~40時間反応させることにより実施する。2-アルケニルエーテル化反応において、原料フェノール樹脂が溶解する溶媒を用いることができる。原料フェノール樹脂を溶解可能なカルボン酸2-アルケニル化合物を用いて、無溶媒で反応を実施することもできる。原料フェノール樹脂の2-アルケニルエーテル化率は、ハロゲン化2-アルケニル化合物又はカルボン酸2-アルケニル化合物の使用量を前記使用量より多く使用し、かつ反応時間を前記反応時間より短く調整することにより2-アルケニル化合物の反応率(転化率)を低く抑制することでも制御することができる。
【0034】
目的とするポリアルケニルフェノール化合物(A)は、前記(i)又は(ii)に記載の方法により製造されたポリアルケニルエーテル化合物にクライゼン転位反応を行うことにより得ることができる。クライゼン転位反応は、ポリアルケニルエーテル化合物を100~250℃の温度に加熱し、1~20時間反応させることにより行うことができる。クライゼン転位反応は高沸点の溶剤を用いて行ってもよく、無溶媒で行うこともできる。転位反応を促進するため、チオ硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩を添加することもできる。詳細は例えば特開平2-91113号公報に開示されている。
【0035】
[ポリマレイミド化合物(B)]
ポリマレイミド化合物(B)は、式(6)で表されるマレイミド基を2つ以上有する化合物である。
【化8】
(式中、*は、芳香環又は直鎖、分岐鎖若しくは環状脂肪族炭化水素基を含む有機基との結合部を表す。)
ポリマレイミド化合物(B)としては、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン等のビスマレイミド、トリス(4-マレイミドフェニル)メタン等のトリスマレイミド、ビス(3,4-ジマレイミドフェニル)メタン等のテトラキスマレイミド及びポリ(4-マレイミドスチレン)等のポリマレイミドが挙げられる。ポリマレイミド化合物(B)としては、芳香族ポリマレイミド化合物及び脂肪族ポリマレイミド化合物が挙げられ、得られる硬化物の難燃性が特に優れる点で、芳香族ポリマレイミド化合物であることが好ましい。芳香族ポリマレイミド化合物は、式(6)で表されるマレイミド基を2つ以上有し、これらのマレイミド基が同一又は異なる芳香環に結合している化合物である。芳香環の具体例としては、ベンゼン等の単環、ナフタレン、アントラセン等の縮合環等が挙げられる。硬化性樹脂組成物中で良好に混合することから、ポリマレイミド化合物(B)は芳香族ビスマレイミド化合物及び脂肪族ビスマレイミド化合物であることが好ましい。芳香族ビスマレイミド化合物の具体例としては、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-プロピル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジプロピル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-ブチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジブチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-マレイミド-5-メチルフェニル)メタン、2,2-ビス(4-マレイミドフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパン、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(3-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)ケトン、ビス(3-マレイミドフェニル)ケトン、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、ビス(3-マレイミドフェニル)スルホン、ビス[4-(4-マレイミドフェニルオキシ)フェニル]スルホン、ビス(4-マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(3-マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホキシド、ビス(3-マレイミドフェニル)スルホキシド、1,4-ビス(4-マレイミドフェニル)シクロヘキサン、1,4-ジマレイミドナフタレン、2,3-ジマレイミドナフタレン、1,5-ジマレイミドナフタレン、1,8-ジマレイミドナフタレン、2,6-ジマレイミドナフタレン、2,7-ジマレイミドナフタレン、4,4’-ジマレイミドビフェニル、3,3’-ジマレイミドビフェニル、3,4’-ジマレイミドビフェニル、2,5-ジマレイミド-1,3-キシレン、2,7-ジマレイミドフルオレン、9,9-ビス(4-マレイミドフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-マレイミド-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-エチル-4-マレイミドフェニル)フルオレン、3,7-ジマレイミド-2-メトキシフルオレン、9,10-ジマレイミドフェナントレン、1,2-ジマレイミドアントラキノン、1,5-ジマレイミドアントラキノン、2,6-ジマレイミドアントラキノン、1,2-ジマレイミドベンゼン、1,3-ジマレイミドベンゼン、1,4-ジマレイミドベンゼン、1,4-ビス(4-マレイミドフェニル)ベンゼン、2-メチル-1,4-ジマレイミドベンゼン、2,3-ジメチル-1,4-ジマレイミドベンゼン、2,5-ジメチル-1,4-ジマレイミドベンゼン、2,6-ジメチル-1,4-ジマレイミドベンゼン、4-エチル-1,3-ジマレイミドベンゼン、5-エチル-1,3-ジマレイミドベンゼン、4,6-ジメチル-1,3-ジマレイミドベンゼン、2,4,6-トリメチル-1,3-ジマレイミドベンゼン、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-ジマレイミドベンゼン、4-メチル-1,3-ジマレイミドベンゼン等が挙げられる。脂肪族ビスマレイミド化合物の具体例としては、ビス(4-マレイミドシクロヘキシル)メタン、ビス(3-マレイミドシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。中でも、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン及び2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパンが好ましい。市販品としては例えば、BMI(商品名、大和化成工業株式会社製)シリーズ等が挙げられる。
【0036】
ポリマレイミド化合物(B)を100質量部としたとき、ポリアルケニルフェノール化合物(A)の配合量は5~200質量部とすることが好ましく、10~150質量部とすることがより好ましく、20~130質量部であることがさらに好ましい。上記配合量が5質量部以上であれば成形時の流動性がより良好である。一方、上記配合量が200質量部以下であれば硬化物の耐熱性がより良好である。
【0037】
[ポリアルケニルフェノール化合物(C)]
硬化性樹脂組成物は、ポリアルケニルフェノール化合物(C)をさらに含んでもよい。ポリアルケニルフェノール化合物(C)は下記式(3)で表される構造単位を有し、例えばポリ2-アルケニル芳香族エーテル化合物のクライゼン転位反応により得ることができる化合物である。ある実施態様においてポリアルケニルフェノール化合物(C)は式(3)で表される構造単位を少なくとも2つ有する化合物である。
【化9】
(式(3)においてR19及びR20はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基又は水酸基を表し、Zは下記式(4)
【化10】
で表されるアルケニル基であり、式(4)においてR21、R22、R23、R24及びR25はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、*は、芳香環との結合部を表す。)
【0038】
式(3)のR19及びR20を構成する炭素数1~10のアルキル基、及び炭素数1~2のアルコキシ基の具体例は、式(1a)、(1b)、及び(1c)のR~R13について説明したものと同じである。式(4)で表される式(3)のZのR21~R25を構成する炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、及び炭素数6~12のアリール基の具体例は、式(1a)、(1b)、及び(1c)のY~Yについて説明したものと同じである。
【0039】
ポリマレイミド化合物(B)を100質量部としたとき、ポリアルケニルフェノール化合物(A)と、ポリアルケニルフェノール化合物(C)の合計の配合量は10~200質量部とすることが好ましく、30~180質量部とすることがより好ましく、50~150質量部であることがさらに好ましい。上記配合量が10質量部以上であれば成形時の流動性がより良好である。一方、上記配合量が200質量部以下であれば硬化物の耐熱性がより良好である。
【0040】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)を100質量部としたとき、ポリアルケニルフェノール化合物(C)の配合量は5~2000質量部とすることが好ましく、15~1000質量部とすることがより好ましく、20~500質量部であることがさらに好ましい。上記配合量が5質量部以上であれば硬化物の耐熱性がより良好である。一方、上記配合量が2000質量部以下であれば成形時の流動性がより良好である。
【0041】
硬化性樹脂組成物中のポリアルケニルフェノール化合物(A)、ポリアルケニルフェノール化合物(C)及びポリマレイミド化合物(B)の合計含有量は、例えば5質量%以上、10質量%以上、又は20質量%以上とすることができ、100質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下とすることができる。半導体封止用途では、上記合計含有量は好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは7~45質量%であり、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0042】
ポリアルケニルフェノール化合物(C)は、原料となるフェノール樹脂の水酸基の一部をアルケニルエーテル化した後、クライゼン転位反応により、オルト位又はパラ位に2-アルケニル基を転位させることにより得ることができる。したがって、本発明の一実施態様では、式(4)で表されるアルケニル基であるZが、フェノール性水酸基に対し、芳香環のオルト位又はパラ位の炭素原子と結合している。原料フェノールとして、好ましくは下記式(7)で表される構造単位を有する公知のフェノール樹脂を使用することができる。
【化11】
(式中、R19及びR20は式(3)におけるR19及びR20と同一である。)
【0043】
ポリアルケニルフェノール化合物(C)の原料フェノール樹脂の具体例としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等を挙げることができる。
【0044】
[添加剤]
硬化性樹脂組成物に、その硬化特性を阻害しない範囲で種々の添加剤を配合することができる。
【0045】
添加剤としては、例えば硬化促進剤(D)や充填剤(E)等が挙げられる。
【0046】
[硬化促進剤(D)]
硬化性樹脂組成物に硬化促進剤(D)を配合することで硬化性樹脂組成物の硬化を促進することができる。硬化促進剤(D)としては、例えば光ラジカル開始剤、熱ラジカル開始剤等のラジカル開始剤が挙げられる。硬化促進剤は好ましくは熱ラジカル開始剤である。より好ましい熱ラジカル開始剤としては、有機過酸化物を挙げることができる。有機過酸化物の中でも、さらに好ましくは10時間半減期温度が100~170℃の有機過酸化物であり、具体的にはジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等を挙げることができる。硬化促進剤(D)の好ましい使用量は、ポリアルケニルフェノール化合物(A)、ポリマレイミド化合物(B)、及びポリアルケニルフェノール化合物(C)(存在する場合)の合計100質量部に対して、0.01~10質量部であり、より好ましくは0.05~7.5質量部であり、さらに好ましくは0.1~5質量部である。硬化促進剤(D)の使用量が0.01質量部以上であれば十分に硬化反応が進行し、10質量部以下であれば硬化性樹脂組成物の保存安定性がより良好である。
【0047】
[充填剤(E)]
充填材(E)の種類に特に制限は無く、シリコーンパウダー等の有機充填材、シリカ、窒化ホウ素等の無機充填材などが挙げられ、用途により適宜選択することができる。
【0048】
例えば、硬化性樹脂組成物を半導体封止用途に使用する場合には、熱膨張係数の低い硬化物を得るために絶縁性である無機充填材を配合することが好ましい。無機充填材は特に限定されず、公知のものを使用することができる。無機充填材として、具体的には、非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの粒子が挙げられる。低粘度化の観点からは真球状の非晶質シリカが望ましい。無機充填材は、シランカップリング剤などで表面処理が施されたものであってもよいが、表面処理が施されていなくてもよい。無機充填材の平均粒径は0.1~30μmが好ましく、最大粒径が100μm以下、特に75μm以下のものがより好ましい。平均粒径がこの範囲にあると硬化性樹脂組成物の粘度が使用時に適切であり、狭ピッチ配線部又は狭ギャップ部への注入性も適切である。ここでいう平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50である。硬化性樹脂組成物の無機充填材の含有量は、用途に応じて適宜決定することができる。例えば、半導体封止用途では、硬化性樹脂組成物の無機充填材の含有量は好ましくは50~95質量%であり、より好ましくは55~93質量%であり、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0049】
その他の添加剤として、カップリング剤、消泡剤、着色剤、蛍光体、変性剤、レベリング剤、光拡散剤、難燃剤などを本発明の硬化性樹脂組成物に配合することも可能である。例えば、接着性を改良する観点からカップリング剤を配合してもよい。カップリング剤は特に限定されず、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などが挙げられる。カップリング剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。硬化性樹脂組成物中のカップリング剤の配合量は0.1~5質量%が好ましい。上記配合量が0.1質量%以上であれば、カップリング剤の効果が十分発揮され、5質量%以下であれば、溶融粘度、硬化物の吸湿性及び強度がより良好である。
【0050】
硬化性樹脂組成物は、ポリアルケニルフェノール化合物(A)、及びポリマレイミド化合物(B)の合計100質量部に対してハロゲン系、リン系の難燃剤を25質量部以下、より好ましくは20質量部以下含み、最も好ましくはハロゲン系、リン系の難燃剤を含まない。例えば硬化性樹脂組成物を半導体封止材に用いた場合、ハロゲン化物は、金属腐食の要因となり、電気的信頼性に悪影響を及ぼすことが知られている。したがって、この実施態様による硬化性樹脂組成物は長期絶縁性などの電気的特性に優れ、電気・電子材料分野などに好ましく用いられる。
【0051】
硬化性樹脂組成物は高固形分組成物とすることができる。いくつかの実施態様では、硬化性樹脂組成物の固形分含量は、例えば60質量%超、70質量%以上、又は80質量%以上、100質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下とすることができる。一実施態様では、硬化性樹脂組成物は溶剤を含まない、すなわち無溶剤型組成物である。この実施態様では、硬化性樹脂組成物の固形分含量は、90質量%以上、92質量%以上、又は95質量%以上、100質量%以下、99質量%以下、又は98質量%以下とすることができる。
【0052】
[硬化性樹脂組成物の調製方法]
硬化性樹脂組成物の調製方法は、ポリアルケニルフェノール化合物(A)、ポリマレイミド化合物(B)、及びその他の成分が均一に混合できれば特に限定されない。ポリアルケニルフェノール化合物(A)、存在する場合にはポリアルケニルフェノール化合物(C)、及びポリマレイミド化合物(B)を先に混合させ、その後に添加剤を加える方法は、各材料が均一に混合できるため好ましい。
【0053】
ポリアルケニルフェノール化合物(A)、存在する場合にはポリアルケニルフェノール化合物(C)、及びポリマレイミド化合物(B)の混合方法は特に限定されない。各成分を所定の配合割合で反応容器、ポットミル、二本ロールミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー、ディスパー、単軸又は二軸(同方向又は異方向)押出機、ニーダーなどの混合機に投入し、撹拌又は混練することにより混合することができる。ラボスケールでは回転式混合機が容易に撹拌条件を変更できるため好ましく、工業的には生産性の観点から二軸ミキサーが好ましい。各混合機は撹拌条件を適宜変更して用いることができる。
【0054】
硬化性樹脂組成物の調製方法は、上記混合方法と同様に特に限定されない。ポリアルケニルフェノール化合物(A)、存在する場合にはポリアルケニルフェノール化合物(C)、ポリマレイミド化合物(B)及び存在する場合には添加剤を所定の配合割合でポットミル、二本ロールミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー、ディスパー、単軸又は二軸(同方向又は異方向)押出機、ニーダーなどの混合機に投入し、混合して調製することができる。硬化性樹脂組成物の粉末化を行う場合は作業工程により発生した熱により樹脂が溶融しない方法であれば特に限定されないが、少量であればメノウ乳鉢を用いるのが簡便である。市販の粉砕機を利用する場合、粉砕に際して発生する熱量が少ないものが混合物の溶融を抑制するために好ましい。粉末の粒径については約1mm以下とすることが好ましい。
【0055】
[構造体の作製方法]
硬化性樹脂組成物は加熱することにより溶融させることができる。溶融した硬化性樹脂組成物を任意の好ましい形状に成形し、必要に応じて硬化させることにより、構造体を作製することができる。構造体の作製方法としては、トランスファー成形及びコンプレッション成形が好ましい。トランスファー成形での好ましい条件として、例えばサイズが10mm×75mm×3mm厚の金型の場合、天板及び金型の温度を170~190℃、保持圧力を50~150kg/cm、及び保持時間を1.5~5分間とすることができる。コンプレッション成形での好ましい条件として、例えばサイズが100mm×75mm×3mm厚の金型の場合、天板及び金型の温度を170~190℃、成形圧力を5~20MPa、及び加圧時間を1.5~10分間とすることができる。
【0056】
[硬化物の作製方法]
硬化性樹脂組成物は、加熱することにより硬化させることができる。熱硬化条件は、110~300℃が好ましく、より好ましくは120~280℃であり、さらに好ましくは130~250℃である。110℃以上であれば硬化はより適切な時間内に十分に進行し、300℃以下であれば成分の劣化又は揮発がより少なく、設備の安全も保たれる。加熱時間は硬化性樹脂組成物及び硬化温度に応じて適宜変更することができるが、生産性の観点から0.1~24時間が好ましい。この加熱は、複数回に分けて行ってもよい。特に高い硬化度を求める場合には、過度に高温で硬化させずに、例えば硬化の進行とともに昇温させて、最終的な硬化温度を250℃以下とすることが好ましく、230℃以下とすることがより好ましい。
【0057】
[耐熱性]
耐熱性は、例えば硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)の値により評価することができる。Tgは熱機械測定(TMA)により測定する。例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100熱機械分析装置を使用することができる。温度範囲30~300℃、昇温速度5℃/min、荷重20.0mNの条件で5mm×5mm×5mmの試験片を用いて測定を行い、線膨張係数の変位点の温度をTgとしたとき、250℃以上であると耐熱性が良好である。
【0058】
[難燃性]
難燃性は、例えばUL-94規格に準拠して垂直燃焼試験(Vertical Burning Test:V)により評価することができる。UL-94VTM-0の試験方法、その判定基準は次のとおりである。
【0059】
厚さ1.6mm×長さ125mm×幅13mmの試験片を複数枚作製する。各試験片をクランプに垂直に取付け、5本の試験片に対して20mm炎による10秒間接炎をそれぞれ2回行い、その燃焼挙動によりV-0、V-1、V-2、notの判定を行う。判定基準を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[硬化物の用途]
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物は例えば半導体封止材、プリプレグ、層間絶縁樹脂、ソルダーレジスト、ダイアタッチなどの用途に用いることができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0063】
実施例及び比較例で用いた分析方法及び特性評価方法は以下のとおりである。
[特性評価方法]
・分子量
GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:JASCO LC-2000 plus(日本分光株式会社製)
カラム:Shodex(登録商標)LF-804(昭和電工株式会社製)
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/min
検出器:JASCO RI-2031 plus(日本分光株式会社製)
温度:40℃
上記測定条件で、ポリスチレンの標準物質を使用して作成した検量線を用いて数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwを算出する。
・重合度
重合度PはGPCより算出した数平均分子量をMn、ポリアルケニルフェノール化合物の構造単位の分子量をMとした時、以下の式で求められる。
P=Mn/M
【0064】
・ガラス転移温度(Tg)
粉末状の硬化性樹脂組成物を用い、トランスファー成形機で、金型温度180℃、保持圧力100kg/cm、及び保持時間3分間の条件で成形し、ガラス転移温度測定用の試験片を作製する。試験片を230℃にて6時間加熱し、硬化させた後、熱機械測定(TMA)により測定する。エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100熱機械分析装置を使用し、温度範囲30~300℃、昇温速度5℃/min、荷重20.0mNの条件で5mm×5mm×5mmの試験片を用いて測定を行い、線膨張係数の変位点の温度をTgとする。結果を表2に示す。
【0065】
・燃焼試験
粉末状の硬化性樹脂組成物を用い、トランスファー成形機で、金型温度180℃、保持圧力100kg/cm、及び保持時間3分間の条件で成形し、燃焼試験用の試験片(厚さ1.6mm×長さ125mm×幅13mm)を複数枚作製する。試験片を230℃にて6時間加熱し、硬化させた後、UL-94垂直燃焼試験(Vertical Burning Test:V)をそれぞれ行う。UL-94VTM-0の試験方法は次のとおりである。
【0066】
各試験片をクランプに垂直に取付け、5本の試験片に対して20mm炎による10秒間接炎をそれぞれ2回行い、その燃焼挙動によりV-0、V-1、V-2、notの判定を行う。判定基準は表1に示すとおりである。結果を表2に示す。
【0067】
[ポリアルケニルフェノール化合物の製造]
・ポリアリルフェノール化合物A1
(式(1a)のR,R=水素原子、R=水酸基、R=アリル基、R~R=水素原子、式(2)のR14~R18=水素原子)
トリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-002(昭和電工株式会社)を用いフェノール性水酸基のオルト位又はパラ位をアリル化した化合物(水酸基当量168、数平均分子量Mn600、重量平均分子量Mw800、重合度3.5)を以下の方法により製造した。1000mLの3つ口型フラスコに、炭酸カリウム(日本曹達株式会社製)201g(1.45mol)を純水150gに溶解した溶液、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-002(昭和電工株式会社、数平均分子量Mn400、重量平均分子量Mw500)150.0g(水酸基1.4mol)を入れ、反応器を窒素ガス置換し85℃に加熱した。窒素ガス気流下、酢酸アリル(昭和電工株式会社製)204g(2.04mol)、トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)3.82g(14.6mmol)、及び50質量%含水5質量%-Pd/C-STDタイプ(エヌ・イーケムキャット株式会社製)0.62g(0.291mmol)を入れ、窒素ガス雰囲気中、105℃に昇温して4時間反応させた後、酢酸アリル29g(0.291mol)を追添し、加熱を10時間継続した。その後撹拌を停止し、静置することで有機層と水層の二層に分離した。析出している塩(酢酸カリウム塩)が溶解するまで、純水(200g)を添加した後、トルエン200gを加え、80℃以上の温度に保持して白色沈殿(酢酸カリウム塩)が析出していないことを確認した後、Pd/Cを濾過(1マイクロメートルのメンブランフィルター(アドバンテック社製KST-142-JAを用いて加圧(0.3MPa))により回収した。この濾滓をトルエン100gで洗浄するとともに、水層を分離した。濾滓の洗浄トルエンと上記有機層を合わせたものを純水200gで3回洗浄し、3度目の洗浄後分離した水層のpHが7.0であることを確認した。分離した有機層に活性炭CN1(日本ノリット株式会社製)4.5gを加え、60℃に加熱し、1時間マグネティックスターラーにて300rpmで撹拌した。その後活性炭を濾過(1マイクロメートルのメンブランフィルター(アドバンテック社製KST-142-JA)を用いて加圧(0.3MPa))により除去した後、減圧下、濃縮してトルエン及び過剰の酢酸アリルを除去し、褐色油状物のトリフェニルメタン型のポリアリルエーテル化合物(数平均分子量Mn600、重量平均分子量Mw800)を得た。この段階での収率は95%であった。得られたトリフェニルメタン型のポリアリルエーテル化合物200g及びフェノール(COH、純正化学株式会社製、沸点182℃)200gを、1000mLのセパラブルフラスコに入れた。反応容器に窒素ガスを吹き込み、メカニカルスターラーにて300rpmで撹拌をしながら170℃まで昇温し、そのまま窒素ガス雰囲気下、7時間クライゼン転位反応を行った。その後、減圧下、160℃でフェノールを除去し、目的とする赤褐色のトリフェニルメタン型のポリアリルフェノール化合物A1(数平均分子量Mn600、重量平均分子量Mw800、重合度3.5)を得た。収率は92%であった。
【0068】
・ポリアリルフェノール化合物A2
(式(1a)のR,R=水素原子、R~R=水素原子、式(2)のR14~R18=水素原子)
トリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-220(昭和電工株式会社)を用いフェノール性水酸基のオルト位又はパラ位をアリル化した化合物(水酸基当量191、数平均分子量Mn500、重量平均分子量Mw600、重合度2.6)を以下の方法により製造した。トリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-002(昭和電工株式会社)150.0gの代わりにトリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-220(昭和電工株式会社製、数平均分子量Mn350、重量平均分子量Mw400)150.0g(水酸基0.82mol)を用いた以外は上記ポリアリルフェノール化合物A1の製造方法と同様の操作によりトリフェニルメタン型のポリアリルフェノール化合物A2(数平均分子量Mn500、重量平均分子量Mw600、重合度2.6)を得た。収率は93%であった。
【0069】
・ポリアリルフェノール化合物A3
(式(1b)のR,R=水素原子、Q=1,4-フェニレンビスメチレン基、式(2)のR14~R18=水素原子)
フェノールアラルキル樹脂(HE-100C-12、エア・ウォーター社)を用いフェノール性水酸基のパラ位をアリル化した化合物(水酸基当量222、数平均分子量Mn900、重量平均分子量Mw1900、重合度4.3)を以下の方法により製造した。トリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-002(昭和電工株式会社)150.0gの代わりにフェノールアラルキル樹脂(HE-100C-12、エア・ウォーター社製、数平均分子量Mn600、重量平均分子量Mw850)150.0g(水酸基0.76mol)を用いた以外は上記ポリアリルフェノール化合物A1の製造方法と同様の操作によりフェノールアラルキル型のポリアリルフェノール化合物A3(数平均分子量Mn900、重量平均分子量Mw1900、重合度4.3)を得た。収率は95%であった。
【0070】
・ポリアリルフェノール化合物A4
(式(1c)のR10=アリル基,R11~R12=水素原子、R13=水酸基、Q=1,4-フェニレンビスメチレン基、式(2)のR14~R18=水素原子)
ナフタレンジオール型フェノール樹脂(SN-395、新日鐵化学株式会社)を用いナフタレン環の一部をアリル化した化合物(水酸基当量159、数平均分子量Mn800、重量平均分子量Mw1800、重合度5.0)を以下の方法により製造した。トリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-002(昭和電工株式会社)150.0gの代わりにナフタレンジオール型フェノール樹脂(SN-395、新日鐵化学株式会社製、数平均分子量Mn550、重量平均分子量Mw1200)150.0g(水酸基1.1mol)を用いた以外は上記ポリアリルフェノール化合物A1の製造方法と同様の操作によりナフタレンジオール型のポリアリルフェノール化合物A4(数平均分子量Mn800、重量平均分子量Mw1800、重合度5.0)を得た。収率は90%であった。
【0071】
・ポリアリルフェノール化合物C1
(式(3)のR19,R20=水素原子、式(4)のR21~R25=水素原子)
フェノールノボラック樹脂ショウノール(登録商標)BRG-556及びBRG-558(昭和電工株式会社)の1:1混合物を用いフェノール性水酸基のオルト位又はパラ位をアリル化した化合物(水酸基当量154、数平均分子量Mn1000、重量平均分子量Mw3000、重合度6.6)を製造した。製造方法は特開2016-28129号公報の実施例3を参照。
【0072】
・ポリアリルフェノール化合物X
(式(1b)のR,R=水素原子、Qに相当する基がジシクロペンタジエニレン基(芳香環なし)、式(2)のR14~R18=水素原子)
まず、ジシクロペンタジエン型フェノール化合物を特開昭63-99224号公報の記載に準じ、以下のように合成した。フェノール(純正化学株式会社製)150g(1.59mol)を、還流冷却器を備えた1000mLの3つ口型フラスコに仕込み、100℃に保ちながら三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(東京化成工業株式会社製)2.25g(15.9mmol)を加えた後、ジシクロペンタジエン(和光純薬株式会社製)105g(0.797mol)を1.5時間かけて滴下した。滴下後、3時間100℃に保持した後、放冷し、重合物をメチルエチルケトン(純正化学株式会社製)150gに溶解した。その重合物溶液に100gの2%水酸化ナトリウム水溶液を加え振盪抽出操作を2回行い、その後有機層を純水150gで3回洗浄し、3度目の洗浄後分離した水層のpHが7.0であることを確認した。分離した有機層を減圧下、濃縮してメチルエチルケトン及び過剰のフェノールを除去し、褐色固体状のジシクロペンタジエン型フェノール化合物(水酸基当量231、数平均分子量Mn670、重量平均分子量Mw1300)を184g(0.797mol)得た。この段階での収率は100%であった。
【0073】
得られたジシクロペンタジエン型フェノール化合物を用い、フェノール性水酸基のオルト位又はパラ位をアリル化した化合物X(水酸基当量266、数平均分子量Mn800、重量平均分子量Mw1350、重合度3.0)を以下の方法により製造した。トリフェニルメタン型フェノール樹脂ショウノール(登録商標)TRI-002(昭和電工株式会社)150.0gの代わりにジシクロペンタジエン型フェノール化合物150.0g(水酸基0.65mol)を用いた以外は上記ポリアリルフェノール化合物A1の製造方法と同様の操作によりジシクロペンタジエン型のポリアリルフェノール化合物Xを得た。収率は95%であった。
【0074】
[原料]
ポリアルケニルフェノール化合物以外の実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
・芳香族ビスマレイミド化合物:BMI-4000(2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパン、融点165℃、大和化成工業株式会社)
・硬化促進剤:パークミル(登録商標)D(ジクミルパーオキサイド、日油株式会社)
・シリカフィラー:MSR2212(球状シリカ、平均粒径25.5μm、株式会社龍森、シランカップリング剤KBM-403(信越化学工業株式会社)0.5質量%を用いて処理)
【0075】
[硬化性樹脂組成物の製造]
・実施例1
BMI-4000 100質量部を反応容器に加え、170℃に加熱して撹拌した。BMI-4000が全て溶融し透明な液状物になったところで、150℃まで降温した。反応容器に、80℃に加熱し溶融させたポリアリルフェノール化合物C1 50質量部及びポリアリルフェノール化合物A1 50質量部を加え、150℃で10分間加熱撹拌して3つの化合物を混合した。得られた混合物及び下記の表1に示す各成分を用い、同表に示す割合で配合し、溶融混練(東洋精機製2本ロール(ロール径8インチ)にて、110℃、10分)を行った。ついで、室温(25℃)にて1時間放冷、固化したのちミルミキサー(大阪ケミカル株式会社製、型式WB-1、25℃、30秒)を用いて粉砕することにより、目的とする粉末状の硬化性樹脂組成物を得た。
【0076】
・実施例2
実施例1のポリアリルフェノール化合物A1の代わりにポリアリルフェノール化合物A2を用いた以外は実施例1と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0077】
・実施例3
実施例1のポリアリルフェノール化合物A1の代わりにポリアリルフェノール化合物A3を用いた以外は実施例1と同様に製造し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0078】
・実施例4
実施例1のポリアリルフェノール化合物A1の代わりにポリアリルフェノール化合物A4を用いた以外は実施例1と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0079】
・実施例5
実施例2のポリアリルフェノール化合物A2を20質量部、ポリアリルフェノール化合物C1を80質量部に変更した以外は実施例2と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0080】
・実施例6
実施例3のポリアリルフェノール化合物A3を80質量部、ポリアリルフェノール化合物C1を20質量部に変更した以外は実施例3と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0081】
・実施例7
実施例3のポリアリルフェノール化合物A3を20質量部、ポリアリルフェノール化合物C1を80質量部に変更した以外は実施例3と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0082】
・比較例1
実施例1のポリアリルフェノール化合物A1 50質量部及びポリアリルフェノール化合物C1 50質量部の代わりにポリアリルフェノール化合物C1 100質量部を用いた以外は実施例1と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0083】
・比較例2
実施例1のポリアリルフェノール化合物A1の代わりにポリアリルフェノール化合物Xを用いた以外は実施例1と同様の操作により硬化性樹脂組成物を得た。
【0084】
【表2】
【0085】
表2より、実施例1~7は優れた難燃性を示した。実施例2はTgが高く、良好な耐熱性を示した。一方、比較例1及び2はUL-94試験でV-0を達成できず、難燃性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明による硬化性樹脂組成物を用いて難燃性に優れた電子部品を提供することができる。特にパワーデバイスなどの半導体封止材に用いた場合、高い難燃性を有する封止材を得ることができる。さらに、信頼性に悪影響を及ぼすハロゲン系、リン系等の難燃剤の使用を低減できるため、高い信頼性を有する封止材を得ることができる。