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特許7066252薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物
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  • 特許-薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220506BHJP
   A01M 1/22 20060101ALI20220506BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220506BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20220506BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20220506BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20220506BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20220506BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C08L101/00
A01M1/22 Z
A61L9/01 H
A61L9/01 V
A61L9/01 Q
A01N27/00
A01N25/34 A
A01P17/00
A01M29/12
C08J5/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018043696
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019154289
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、環境省、平成29年度セルロースナノファイバー製品製造工程の低炭素化対策の立案事業委託業務 (セルロースナノファイバー製品製造工程におけるCO2排出削減に関する技術開発)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒宮 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】名木野 俊文
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 理史
(72)【発明者】
【氏名】今西 正義
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-053305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08J 5/00-5/24
A01M 1/00-99/00
A61L 9/00-9/22
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、この樹脂中に分散状態で含まれるセルロース系繊維の繊維状フィラーであって、繊維長方向の端部に解繊部位が形成された繊維状フィラーと、前記繊維状フィラーに担持された揮散性の薬剤とを含有することを特徴とする薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物。
【請求項2】
揮散性の薬剤は、樹脂中に単独で存在するものよりも、繊維状フィラーに担持された状態で存在するものの方が多く、かつ前記揮散性の薬剤は、前記繊維状フィラーの表面または内部に存在する空孔を移動して繊維複合樹脂の表面に達した後に外部へ放出されるものであることを特徴とする請求項1記載の薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物。
【請求項3】
繊維状フィラーの解繊部位におけるメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下であり、前記繊維状フィラーの非解繊部位におけるメジアン繊維径は5μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物。
【請求項4】
繊維状フィラーのメジアン繊維長が5μm以上2000μm以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物。
【請求項5】
繊維複合樹脂中における繊維状フィラーと樹脂との混合体積比率が、(繊維状フィラー):(樹脂)=1:99~70:30であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物。
【請求項6】
繊維複合樹脂にて成形された成形体における揮散性の薬剤が徐々に放出されて減少していく過程において、箱型熱風乾燥機からの吹き付けによって温度60℃に保持した環境下で、軽質用ニオイセンサを搭載したニオイ測定装置によって板状成形体表面近傍の空気を測定し、測定開始から臭気強度が1000を下回るまでの時間を放出持続時間としたときに、この放出持続時間の経過後の前記成形体の成形直後に対する寸法変化率が-10%以上10%以下であることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物に関し、特に、防虫若しくは殺虫用の成分、芳香若しくは消臭用の成分、農薬若しくは肥料成分、その他の薬剤成分を担持した繊維をプラスチックと複合して、これらの担持した成分の徐放性を有するとともに、所要の機械的特性も有する成形体を実現するための、薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
防虫若しくは殺虫用の成分、芳香若しくは消臭用の成分、農薬若しくは肥料成分、その他の薬剤成分を長期間にわたり徐々に放出することが可能な材料、いわゆる徐放材が知られている。具体的な徐放剤としては、多孔質基体に薬剤成分を担持させたものや、分解性材料中に薬剤成分を分散させたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機溶剤中への含浸では薬剤成分の担持が困難若しくは効率の悪い多孔質基体の細孔中に対し、拡散性に優れる超臨界流体を利用することによって、多孔質基体の細孔中へ効率的に薬剤成分を担持させて、薬剤成分の放出を持続させることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、改良された分解性ポリマー中に薬剤成分を分散させることによって、薬剤成分の放出速度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-345940号公報
【文献】特開平4-173746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多孔質基体の細孔中に薬剤成分を担持する方法では、特許文献1に記載されるように細孔中に担持される薬剤量を増やすことはできるが、基体中の細孔は基体表面まで連通した構造となっており、薬剤成分が揮散しやすい。このため、薬剤成分を放出できる持続時間を制御できる範囲は大きくなく、数ヶ月や数年以上といった長期間にわたり薬剤成分の放出を持続させるためには、揮散性の低い薬剤を用いる必要があるなど、適用できる薬剤に制限がある。
【0007】
分解性材料中に薬剤成分を分散させる方法は、分解性材料が分解することで、内部に分散された薬剤成分を露出させて揮散させるものである。よって、薬剤の放出持続時間を制御するためには、分解性材料の種類や量に制限がある。さらには、薬剤の放出に伴って材料自体が消失していくため、薬剤成分の放出と伴わせて強度が必要とされる部材には適用できすることはできず、用途にも制限がある。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、用途に応じた様々な揮散性薬剤成分の放出に際しての放出持続時間についての高い制御性と、構造部材にも適用することが可能な高い強度とを伴わせて実現することが可能な、徐放性を有する繊維複合樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物は、樹脂と、この樹脂中に分散状態で含まれるセルロース系繊維の繊維状フィラーであって、繊維長方向の端部に解繊部位が形成された繊維状フィラーと、前記繊維状フィラーに担持された揮散性の薬剤とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、徐放性材料に求められる薬剤成分の放出持続時間の制御性と構造部材にも適用可能な高い強度とを伴わせもつ繊維複合樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態における繊維複合樹脂組成物の断面模式図
図2】本発明の実施の形態における繊維状フィラーの模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、同じ構成部分には同じ符号を付して、詳細な説明を適宜省略する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物の断面模式図である。
【0014】
図1に示されるように、本発明の繊維複合樹脂組成物は、樹脂101、繊維状フィラー102、揮散性の薬剤103を含む。図2に示されるように、繊維状フィラー102には繊維長方向の端部に、他の部位より細い繊維径に解繊された解繊部位104が形成されている。
【0015】
本発明の繊維複合樹脂組成物は、繊維状フィラー102に接触して存在する揮散性の薬剤103が繊維状フィラー102内、若しくは繊維状フィラー102と樹脂101との間の非常に微細な空孔を通って、繊維複合樹脂組成物にて成形された成形体の表面にまで達し、表面から薬剤103が揮散するものである。揮散性の薬剤103は、樹脂101中に単独で分散させるのではなく、繊維状フィラー102に担持させる。
【0016】
本発明において、樹脂101は、繊維状フィラー102を分散できるとともに、分解性を有して消失してしまうものでなければ、特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、 ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。また、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂を用いることもできる。さらには、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムや天然ゴムを用いることもできる。
【0017】
繊維状フィラー102は、揮散性の薬剤103を担持した状態で樹脂101中に分散されており、揮散性の薬剤103を外部へ放出する際の揮散性の薬剤103の経路となるとともに、本発明の繊維複合樹脂を用いて成形した樹脂成形体において、機械的特性の向上を目的として用いられる。
【0018】
上記目的のために用いられる繊維状フィラー102としては、揮散性の薬剤103を担持することができ、樹脂101よりも弾性率の高いものであれば、特に限定されるものではない。例えば、カーボンファイバー(炭素繊維)、カーボンナノチューブ、パルプ、セルロース、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、各種金属繊維が挙げられる。また、綿、絹、羊毛あるいは麻等の天然繊維や、ジュート繊維、レーヨンあるいはキュプラなどの再生繊維や、アセテート、プロミックスなどの半合成繊維や、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリオレフィンなどの合成繊維が挙げられる。さらには、合成繊維の表面に化学修飾した変性繊維や、合成繊維を構成する重合体の末端に化学修飾した変性繊維などを用いることができる。
【0019】
樹脂101と繊維状フィラー102との接着性や、樹脂101中の繊維状フィラー102の分散性や、繊維状フィラー102と揮散性の薬剤103との親和性などを向上させるなどの目的で、分散剤などの添加剤を用いても良い。本発明においては分散剤の種類は特に限定されるものではない。例えば、各種のチタネート系カップリング剤;シランカップリング剤;不飽和カルボン酸またはその無水物、マレイン酸、無水マレイン酸をグラフトした変性ポリオレフィン;脂肪酸;脂肪酸金属塩;脂肪酸エステルなどを用いることができる。
【0020】
揮散性の薬剤103としては、目的に応じて、防虫、殺虫、芳香、消臭、農薬、肥料成分などを用いることができ、また、その他の目的に応じた液体状若しくは固体状のものを用いることができる。つまり、繊維状フィラーに担持できるものであれば、特にその種類が限定されるものではない。
【0021】
例えば、防虫性や生物忌避性の薬剤としては、ヒノキチオール、サフロール、リモネン、リナロール、メントール、1,8-シネオール、シトラール、オイゲノール、カプサイシン、樟脳、バニリン、α-ピネン、β-ピネン、アネトール、アニスアルデヒド、アンゲリカ酸、アセトフェノン、シンナミルアルコール、青葉アルコール、ゲラニオール、ナフタリン、ジエチルトルアミド、レモングラスオイル、レモングラス、合成ムスク、シンナミックアルデヒド、パインオイル、ターピネオール、木酢、アセトキシフェニルブタン、ヘキサノール、蟻酸ゲラール、γ-ラクトン、アンゲリカ、環状テルペンアルコール、N,N-ジエチル-m-トルアミド、エチルオメトン、イソチオネート、クレゾール、バニラ、ノニルラリタン、リナロール、2-ブトキシエタノール、ビスエーテル、シクロヘキサン、イソホロン、スペアミントオイル、桂皮アルコール、メチルノニルケトン、メチルフェニルケトン、ユーカリプトール、アリルイソチアネート、シクロヘキシミド、ヒバ油、スペアミント油、オレンジ油、レモン油、マンダリン油、ライム油、サッサフラス油、樟脳油、カッシア油、リナロエ油、ハッカ油、チョウジ油、ピメント油、ベイ油、テレビン油、ダイウイキョウ油、アニス油、ウイキョウ油、ソゴウ香、コショウ、トウガラシ、ハッカ、シソ、チョウジ、バニラ、タイム、タンジー、ローズマリー、スイートバジル、レモングラス、ハマナス、ブロンズフェンネル、ホースラディッシュ、ボリジ、ディル、メドースイート、グラックマロー、ローズゼラニウム、ルバーブ、イタリアンパセリ、ベルガモット、ワイルドストローベリー、ロケットサラダ、ジンジャーミント、オーデコロンミント、ペパーミント、コテージピンク、モスカールドパセリ、サラダバーネット、チャイブ、マジョラム、オリーブ、カールドン、パイナップルセージ、レモンタイム、パープルバジル、レモンバーム、ガーデンセージ、ローマンカモマイル、スイートフェンネル、イングリッシュラベンダー、レモンベルガモット、ハートシーズ、ヒソップ、パイナップルミント、ペニーロイヤル、クリーンピングタイム、ガーデンセージ、ワイルドリーク、スペアミント、ベイ、グリークオレガノ、リブワート、などのハーブや香辛料から抽出されるエキスが挙げられる。芳香若しくは消臭性の薬剤としては、例えば、レモン油、ライム油、スペアミント油、ジャスミン油、オレンジ油、パイン油、はっか油、ユーカリ油、ラベンダー油、ムスク油等の天然香料;或いはこれらの香料を原料とした合成香料、例えばリモネン、リナモール、オイゲノール、シトラネロール、バニリン、カルボン、ヨノン、ムスコン、ローズオキサイド、インドール、酢酸ゲラニル、安息香酸エチルなどが挙げられる。
【0022】
これらの薬剤、または特に例示はしていないが防虫、殺虫、芳香、消臭、農薬、肥料成分、その他の目的で使用することができる公知の薬剤の一種を、単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0023】
繊維状フィラー102の形状について説明する。
【0024】
本発明の繊維複合樹脂組成物は、揮散性の薬剤103を担持した繊維状フィラー102が樹脂101中に分散されている。このため、繊維状フィラー102同士の接触点を介して、揮散性の薬剤103が繊維複合樹脂組成物にて成形された成形体の内部から表面へと移動していき、薬剤103は成形体の表面から揮散する。そのため、繊維状フィラー102が太い繊維径のものだけで構成されていると、樹脂101内部での薬剤103の移動速度を抑制することが困難で、薬剤103の放出期間が短くなる、若しくは揮散性の薬剤103が多量に必要になり、複合樹脂としての機械的物性が低下するといった制限が生じる。しかし、本発明では、繊維状フィラー102の繊維長方向の端部を細く解繊した解繊部位104が形成されていることで、繊維状フィラー102の解繊部位104における薬剤103の移動速度を抑制することができる。また、この解繊部位104では繊維が細いだけでなく、細繊維の本数も多いために、隣接する他の繊維状フィラー102と接触し易く、樹脂101の内部から表面までに至る薬剤103の移動経路が確保され、内部の薬剤103を残留することなく有効に揮散させることができる。このような繊維複合樹脂組成物内における望ましい薬剤103の移動速度を実現するためには、解繊部位104におけるメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下であることが望ましい。解繊部位におけるメジアン繊維径が0.1μm未満に細いと、薬剤103の移動速度が著しく低下し、所望とする薬剤103の揮散性を発現し難くなる。逆に、解繊部位104におけるメジアン繊維径が2μmより太いと、端部を解繊していない従来の繊維状フィラーとの差異が小さくなり、長期にわたる薬剤103の放出が困難になる。
【0025】
繊維状フィラー102の非解繊部位のメジアン繊維径は、5μm以上30μm以下であることが望ましい。非解繊部位におけるメジアン繊維径が5μmより細いと、繊維状フィラー102に担持できる揮散性の薬剤103の量が不十分となり、長期にわたる薬剤103の放出が困難になる。逆に、非解繊部位におけるメジアン繊維径が30μmより太いと、本発明の目的の一つである高い機械的物性を確保するうえで好ましくなく、具体的には、剛性、耐衝撃性の低下が生じる。
【0026】
繊維状フィラー102のメジアン繊維長は、5μm以上2mm以下であることが望ましい。メジアン繊維長が5μmより短いと、端部に解繊部位104を形成していても、繊維状フィラー102間の接触が不十分となり、樹脂101内部で孤立した繊維状フィラー102が多くなるため、そこに担持された薬剤103が有効に使えない。逆に、メジアン繊維長が2mmより長くなると、薬剤103のうち繊維状フィラー102の非解繊部位で樹脂101の表面に露出したものが多くなり、このため短期間で揮散してしまう薬剤103の量が多くなってしまう。
【0027】
繊維複合樹脂組成物中における繊維状フィラー102と樹脂101との混合体積比率は、(繊維状フィラー):(樹脂)=1:99~70:30であることが望ましい。繊維状フィラー102の比率が1より小さいと、繊維状フィラー102に担持できる薬剤103の量および繊維状フィラー102間の接触が不十分となり、本発明の目的とする薬剤の放出性能が低下するとともに、もう一つの目的である機械的物性の向上効果が小さく、例えば弾性率は5%以下の向上しか見込めない。逆に、繊維状フィラー102の比率が70より大きいと、繊維状フィラー102間の接触が過剰になって、繊維状フィラー102の端部の解繊部104を介さずに移動する薬剤103が多くなり、このため長期にわたる薬剤103の放出が困難となる。
【0028】
以上に述べた構成とすることで、本発明の繊維複合樹脂組成物は、樹脂101内で繊維状フィラー102が接触点を有して分散された構造であり、また、繊維状フィラー102内に薬剤103を配しているとともに、繊維状フィラー102と樹脂101との間に存在する非常に微細な空孔に揮散性の薬剤103を配しているため、薬剤103が外部へ揮散して消失していく過程においても、繊維複合樹脂組成物を用いた成形体の寸法変化率は-10%以上にとどめることができる。また、揮散性の薬剤103が消失して、逆に周囲の環境中から水分などを吸着しても、成形体の寸法変化率を10%以内にとどめることができる。このため、成形体を構造体として十分に用いることができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、繊維複合樹脂組成物を以上に述べた構成とできるのであれば、特に限定されるものではない。しかし、本発明の特徴である繊維状フィラー102の繊維長方向の端部に解繊部位104を形成するためには、未解繊の繊維状フィラー単独若しくは繊維状フィラーと樹脂とを混合した状態で、繊維状フィラーに強いせん断力を作用させることが好ましい。未解繊の繊維状フィラーを予め単独で解繊させる場合は、繊維状フィラーを水や有機溶剤中に分散させて、高圧ホモジナイザー、ビーズミル、リファイナーなどを用いることができる。繊維状フィラーと樹脂とを混合した状態で解繊させる場合は、樹脂101が熱可塑性樹脂や合成ゴムであれば二軸混練押出機や双ロール混練機やバンバリーミキサーといった溶融混練装置を用いることができる。樹脂101が熱硬化性樹脂であれば、プラネタリーミキサー、三本ロールミル、ボールミルなどの粘性体用混練装置を用いることができる。
【0030】
繊維状フィラー102に揮散性の薬剤103を担持させる方法も、特に限定されるものではない。しかし、上述のように、薬剤103は、樹脂101中に単独で存在するものよりも、繊維状フィラー102に接触した状態で存在するものの方を多くすることが好ましいため、予め繊維状フィラー102と薬剤103とを混合してから樹脂101と混合する方法、若しくは樹脂101中に繊維状フィラー102を分散させた繊維複合樹脂に外部から薬剤を含浸させるなど、樹脂101中に単独で存在する薬剤103を低減できる方法であることが好ましい。
【実施例
【0031】
以下、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
以下の実施例1~5は、表1に示すように、繊維状フィラーの繊維径や繊維長、繊維状フィラーと樹脂の混合体積比率を、本発明における好ましい範囲内とした。比較例1は、解繊部位を有しない従来の繊維状フィラーを用いたものとし、比較例2は、繊維状フィラーを含まないポリプロピレン樹脂単体を揮散性の薬剤と溶融混練したものとした。
【0033】
実施例1~5において、下記の表に示した繊維状フィラーの繊維径や繊維長、繊維状フィラーと樹脂の混合体積比率以外は、以下に記載する同じ手順で繊維複合樹脂を作製した。比較例1については、以下に記載するように溶融混練の条件のみを実施例1~5とは異なるものとした。また、すべての実施例、比較例において、樹脂としては、プライムポリマー社製のポリプロピレン(商品名J108M、弾性率1.5GPa)を用い、繊維状フィラーとしては、三菱製紙社製の綿状針葉樹パルプ(商品名NBKP Celgar)を用い、揮散性の薬剤としては、柑橘類系の芳香成分である、常温液体のリモネンを用いた。ただし、比較例2では、繊維状フィラーは用いていない。
【0034】
実施例1~5および比較例1における繊維複合樹脂組成物の製造に際しては、まず、リモネン中に針葉樹パルプを浸漬させて、プラネタリーミキサーにて撹拌混合した。その後、余剰なリモネンを除去して、リモネンで湿潤した針葉樹パルプを得た。実施例1~5では、この針葉樹パルプにポリプロピレンを加え、二軸混練押出機にて180℃で溶融混練することによって、繊維複合樹脂ペレットを作成した。また、比較例1では、実施例1~5で用いた二軸混練押出機のニーディングスクリューよりもチップクリアランスが大きく、せん断作用の小さいニーディングスクリューを用いて、200℃で溶融混練することによって、繊維複合樹脂ペレットを作成した。
【0035】
得られた各繊維複合樹脂ペレットを用いて、平板ホットプレス装置にて、□100mm、厚み5mmの、繊維複合樹脂組成物製の板状の成形体を作成した。以上の処理の過程における溶融混練の段階で、実施例1~5の針葉樹パルプの各繊維の両端に解繊部位が形成されたことを、実施例1~5および比較例1の溶融混練後の樹脂ペレットから樹脂を溶解除去した繊維を走査型電子顕微鏡にて観察することで確認した。
【0036】
この板状の成形体の弾性率を引張試験機にて測定した。機械的物性の向上が本発明の効果の一つであるため、ポリプロピレン単独での弾性率1.5GPaに対して10%以上の向上を目標とした。
【0037】
また、箱型熱風乾燥機からの吹き付けによって温度60℃の環境を保持し、その環境下で、繊維複合樹脂組成物製の板状成形体からの芳香が消失するまでの放出持続時間を測定した。芳香の有無は、板状成形体表面近傍の空気を軽質用ニオイセンサを搭載したニオイ測定装置(双葉エレクトロニクス社製 OMU-Sn型)によって測定し、測定開始から臭気強度が1000を下回るまでの時間を放出持続時間とした。この温度60℃の熱風を吹き付ける環境は、常温の通常雰囲気中での薬剤の揮散に対して50倍程度の加速試験となる。このため、通常雰囲気下で1年以上の芳香が持続できることを目標とする場合、本評価方法における放出持続時間の目標は168時間以上となる。
【0038】
最後に、乾燥機から取り出し、室温まで冷却した板状成形体の表面に予め50mmの間隔で入れられたケガキ線間の寸法を測定して、寸法変化率を求めた。
【0039】
以上のようにして得られた、繊維複合樹脂組成物の弾性率、薬剤放出前後の成形体の寸法変化率、および放出持続時間を、下記の表1に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
以上の結果から明らかなように、本発明の実施例1~5の繊維複合樹脂の全てにおいて、目標とする薬剤放出の持続時間168時間以上という結果が得られた。かつ弾性率も、ポリプロピレン単体に比べて70%以上向上した。特に、繊維状フィラーの解繊部位の形状を適切にし、樹脂に対する繊維状フィラーの混合比率を本発明の範囲内で高くした実施例2では、極めて長時間の放出持続時間と、ポリプロピレン単体の4倍という高い弾性率とが得られた。
【0042】
これに対して、本発明の範囲外となる比較例1~2の繊維複合樹脂では、目標とする168時間以上の薬剤放出の持続時間は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、防虫若しくは殺虫用の成分、芳香若しくは消臭用の成分、農薬若しくは肥料成分、その他の薬剤成分の放出の持続性と、構造部材にも適用可能な高い強度とを伴わせもつ、薬剤の徐放性を有する繊維複合樹脂組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
101 樹脂
102 繊維状フィラー
103 揮散性の薬剤
104 解繊部位
図1
図2