(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20220509BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20220509BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20220509BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20220509BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/00 290C
H01G9/028 E
H01G9/145
H01G9/15 100
(21)【出願番号】P 2017254134
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2016255221
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 正郎
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-090949(JP,A)
【文献】特開2016-072284(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099261(WO,A1)
【文献】特開2014-123685(JP,A)
【文献】特開2002-222737(JP,A)
【文献】特開平03-142813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/00
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子と、
導電性ポリマーから成り、前記コンデンサ素子内に形成された固体電解質層と、
前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填され、ポリグリセリン誘導体を含む電解液と、
を備え、
前記ポリグリセリン誘導体は、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方を有し、
前記電解液は、25℃における粘度が216mPa・s以下であること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記電解液は、エチレングリコールを更に含むこと、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記ポリグリセリン誘導体は、重合度が2以上であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記ポリグリセリン誘導
体は、プロピレンオキシド基又は
エチレンオキシド基とプロピレンオキシド基の両方を有すること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記ポリグリセリン誘導体は、分子量が210以上5000以下であること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記電解液は、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩を含むこと、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記電解液は、25℃における粘度が
36mPa・s以下であること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記固体電解質層は、多価アルコールを含み、
前記多価アルコールは、前記固体電解質層に対して92wt%以下含まれること、
を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子に、導電性ポリマーから成る固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に、ポリグリセリン誘導体を含む電解液を充填する工程と、
を有し、
前記ポリグリセリン誘導体は、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方を有し、
前記電解液は、25℃における粘度が216mPa・s以下であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層と電解液とを併用したハイブリッドタイプの固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を利用した電解コンデンサは、陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより、小型で大きな容量を得ることができる。特に、誘電体酸化皮膜を固体電解質で覆った固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であることに加えて、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えており、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせない。
【0003】
しかしながら、固体電解コンデンサは、コンデンサ素子に電解液を含浸させた液体型の電解コンデンサと比べて、誘電体である陽極酸化皮膜の欠陥部の修復作用に乏しく、漏れ電流が増大する虞がある。そこで、セパレータを介在させて陽極箔と陰極箔とを対向させたコンデンサ素子に固体電解質層を形成すると共に、コンデンサ素子の空隙に駆動用電解液を含浸させた所謂ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサが提案されている。
【0004】
固体電解質のみを用いた固体電解コンデンサと比較して、ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサは、静電容量(Cap)が増大し、また等価直列抵抗(ESR)は低下する。更に、ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサの漏れ電流は、電解液の作用により誘電体酸化皮膜の欠陥部の修復が促進されて低下する。
【0005】
近年、ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサが自動車電装機器等のように過酷な状況下で用いられている。例えば、自動車電装機器に使用される電解コンデンサは、最高使用温度が85~150℃といった高温度環境下で長時間使用される。
【0006】
そこで、固体電解コンデンサの素子に含浸した電解液が高温環境下で揮発蒸散し難いように、電解液に難揮発性溶媒を含有させる案が提示されている(例えば特許文献1参照。)。難揮発性溶媒はポリアルキレングリコールである。これにより、85~150℃といった高温環境下に晒されることにより揮発性溶媒が揮発蒸散してしまっても、電解液が残存し、誘電体酸化皮膜の修復作用が維持される。尚、ポリアルキレングリコールが高温環境下で電解液を残存させることに有用であることから、ポリアルキレングリコールの誘導体も高温環境下で電解液を残存させる効果を有するものとして記載されている。
【0007】
固体電解コンデンサの素子への含浸性の観点から、粘度の低いγ-ブチロラクトンとスルホランの混合液に対して難揮発性溶媒が添加されている。同じく粘度の低い溶媒候補としてエチレングリコールも示唆されている。γ-ブチロラクトン及びスルホランは、良好な低温特性を有する点でも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば自動車電装機器に使用される固体電解コンデンサは、最低使用温度が-55~5℃となるような低温度環境下でも長時間使用される。しかしながら、ポリエチレングリコールを電解液の溶媒に含有させた場合、低温度環境下であると電解液が凝固してしまい、Cap変化率(ΔCap)が悪化することが本発明者らの研究により判明した。例えば、難揮発性溶媒として提案された分子量2000のポリエチレングリコールを添加した電解液を用いると、5℃において電解液が凝固し、固体電解コンデンサのΔCapが悪化する。電解液が凝固してしまうと、電解液による誘電体酸化皮膜の欠陥部の修復も期待できない。
【0010】
一方、エチレンオキシド基やプロピレンオキシド基が付加されていないジグリセリンを含む電解液は、低温環境では凝固しないが、固体電解コンデンサに125℃環境下で130Vを印加すると、400時間未満でショートしてしまうことも判明した。電解液の溶質成分の濃度を低減することで、耐ショート性が向上することは知られているが、固体電解コンデンサの更なる高耐圧化を目指すためには、溶質濃度の調整のみでは対応できない。
【0011】
即ち、電解液の溶媒としてポリエチレングリコールを添加することは高温環境下を前提にすれば適当な選択肢となり得るが、低温環境下においては不適当であり、一方、電解液の溶媒としてジグリセリンを添加することは低温環境下を前提にすれば適当な選択肢となり得るが、長期間の高温環境下においては不適当となる。このように、高温環境下も低温環境下も良好な特性を有するハイブリッドタイプの固体電解コンデンサは、未だに提案できていない。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高温環境下及び低温環境下の両方で使用可能なハイブリッドタイプの固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の固体電解コンデンサは、セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子と、導電性ポリマーから成り、前記コンデンサ素子内に形成された固体電解質層と、前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填され、ポリグリセリン誘導体を含む電解液と、を備えること、を特徴とする。
【0014】
前記電解液は、エチレングリコールを更に含むようにしてもよい。また、前記ポリグリセリン誘導体は、重合度が2以上であるようにしてもよい。また、前記ポリグリセリン誘導体は、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方を有するようにしてもよい。
【0015】
前記ポリグリセリン誘導体は、分子量が210以上5000以下であるようにしてもよい。分子量は、ポリグリセリンの重合度、及びエチレンオキシド基及びプロピレンオキシド基の付加数により決定される。
【0016】
前記電解液は、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩を含むようにしてもよい。また、前記電解液は、25℃における粘度が216mPa・s以下であるようにしてもよい。
【0017】
前記固体電解質層は、多価アルコールを含み、前記多価アルコールは、前記固体電解質層に対して92wt%以下含むようにしてもよい。
【0018】
また、本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを対向させてなるコンデンサ素子に、導電性ポリマーからなり、前記コンデンサ素子に形成された固体電解質層を形成する工程と、前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に、ポリグリセリン誘導体を含む電解液を充填する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固体電解質と電解液とを併用した固体電解コンデンサの良好な高温特性を長時間維持でき、また、従来のポリエチレングリコールを含む電解液を用いた場合よりも低温特性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】電解液の粘度と初期のtanδの関係を示すグラフである。
【
図2】電解液の粘度と初期のESRの関係を示すグラフである。
【
図3】電解液の粘度と初期のCapの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサについて説明する。この固体電解コンデンサは、固体電解質層と電解液とが併用された所謂ハイブリッドタイプの電解コンデンサである。例えば、巻回型の固体電解コンデンサは、円筒状のコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着し、加締め加工により封止される。
【0022】
コンデンサ素子は、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回して形成されている。陽極箔の表面には誘電体酸化皮膜層が形成されている。固体電解質層は、誘電体酸化皮膜層を覆って形成され、電解液は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙部に充填されている。
【0023】
陽極箔及び陰極箔は弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%以上が望ましく、陰極箔に関して99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
【0024】
この陽極箔及び陰極箔は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は延伸された箔にエッチング処理を施したエッチング箔として、表面に多孔質構造を有する。多孔質構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体間の空隙により成る。多孔質構造は、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより形成され、若しくは芯部に金属粒子等を蒸着又は焼結することにより形成される。
【0025】
誘電体酸化皮膜層は、典型的には、陽極箔の表層に形成される皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜層は、アジピン酸やホウ酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加して形成される。
【0026】
固体電解質層は導電性ポリマーであり、導電性ポリマーにはドーパントが取り込まれている。ドーパントは導電性を発現する役割を担っている。導電性ポリマーとしては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0027】
ドーパントは、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのアニオンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独モノマーの重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。上記では高分子のものを例示しているが、これらの単量体を用いてもよい。
【0028】
導電性ポリマーの粒子又は粉末を含む分散液(以下、導電性ポリマーの分散液ともいう)をコンデンサ素子に含浸させ、導電性ポリマーが誘電体酸化皮膜層に付着することで、固体電解質層は形成される。
【0029】
コンデンサ素子への含浸時には、含浸を促進させるべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を行ってもよい。含浸工程は複数回繰り返しても良い。導電性ポリマーの分散液の溶媒は、必要に応じて乾燥により蒸散させて除去される。必要に応じて加熱乾燥や減圧乾燥を行ってもよい。
【0030】
導電性ポリマーの分散液の溶媒としては、導電性ポリマーの粒子または粉末が分散するものであれば良く、例えばプロトン性溶媒が用いられ、具体的には水などが挙げられる。導電性ポリマーの分散液に多価アルコールを含んでいてもよい。多価アルコールとしては、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。多価アルコールは沸点が高いために乾燥工程後も固体電解質層に残留させることができ、ESR低減や耐電圧向上効果が得られる。
【0031】
電解液は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙に充填される。固体電解質層が膨潤化する程度まで電解液を含浸させてもよい。電解液の含浸工程では、必要に応じて減圧処理や加圧処理を行っても良い。
【0032】
この電解液はポリグリセリン誘導体を含む。ポリグリセリン誘導体は、次の一般式(化1)で表される。
【0033】
【化1】
nは、2以上の整数
R
1,R
2及びR
3は、各々同一又は異なる(ポリ)アルキレンオキシドを示す。(ポリ)アルキレンオキシドとは、ポリアルキレンオキシド又はアルキレンオキシドを示す。アルキレンオキシドとは、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどを示す。また、R
1,R
2及びR
3は各々、異なる2種以上の(ポリ)アルキレンオキシドがランダム共重合されていてもよい。
X
1,X
2及びX
3は水素原子
【0034】
このポリグリセリン誘導体は、重合度が2以上である。例えば、ジグリセリン誘導体やトリグリセリン誘導体等が挙げられる。また、ポリグリセリン誘導体は、1以上のエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方が付加されている。
【0035】
例えば、電解液の溶媒の1つとなるポリグリセリン誘導体は、次式(化2)で表されるエチレンオキシド付加ジグリセリンであり、次式(化3)で表されるプロピレンオキシド付加ジグリセリンであり、又は次式(化4)で表れる1以上のエチレンオキシドの直鎖と1以上のプロピレンオキシドの直鎖が別々の末端水酸基位置に付加されたジグリセリンである。次式(化2)~(化4)中、添え字のa、b、c及びdは、重合度であり、実際のポリグリセリン誘導体はエチレンオキシドとプロピレンオキシドの各々の合計数で特定される。EOは、エチレンオキシド(CH2CH2O)を表し、POは、プロピレンオキシド(CH2CH2CH2O)を表し、AOは、アルキレンオキシドである。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
ポリグリセリン誘導体の分子量は、210以上5000以下であり、好ましくは300以上3000以下、更に好ましくは400以上2000以下である。ポリグリセリン誘導体の分子量は、グリセリン単位の重合度、及びエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方の付加数により決定される。分子量5000超では、ポリグリセリン誘導体であっても、電解液の粘度が上昇して低温特性が大きく悪化する。分子量300未満では、高温環境下における耐ショート性の向上効果が小さい。少なくとも分子量2000以下では、電解液が凝固せず、低温環境下におけるΔCapの増大が抑制される。
【0040】
このポリグリセリン誘導体を含む電解液を用いることにより、固体電解コンデンサの各種特性が良好となり、特に、高温環境下における長期間の良好な耐ショート性を維持して長寿命化し、また低温環境下でのΔCapも良好となる。即ち、グリセリン骨格に1以上のエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方が付加されることで、ジグリセリンやトリグリセリンの骨格がもたらす良好な低温特性と、1以上のエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基又はこれらの両方がもたらす良好な高温特性を合わせ持つ。この両特性は、ポリグリセリン誘導体が比較的大きな分子量であっても維持される。
【0041】
その理由は次の通りであると考えられる。即ち、直鎖状構造と比較して、ポリグリセリン誘導体は、グリセリン骨格の1以上の末端水酸基からエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基の直鎖が拡がる分枝構造を有することで、ポリグリセリン誘導体同士の結合を阻害し、固体電解質層との親和性が高い。そのため、固体電解質層と電極箔との界面に存在し易く、抵抗分となることで耐ショート性を向上させ、また低温において凝固が抑制されて低温特性が向上していると考えられる。
【0042】
ポリグリセリン誘導体は、電解液全体量に対して10以上60wt%以下添加されることが望ましい。ポリグリセリン誘導体の添加量が10wt%未満では高温時における耐ショート性向上効果が得られにくいため好ましくない。ポリグリセリン誘導体の添加量が60wt%を超えると、電解液の粘度が高くなりすぎてしまい、コンデンサ素子に充填しにくいため好ましくない。
【0043】
ここで、ポリグリセリン誘導体の添加量が増すと、電解液の粘度が上昇し、この粘度上昇により陽極箔及び陰極箔と固体電解質層との界面に電解液が入り込み難くなり、また陽極箔の表面に形成された誘電体酸化皮膜層のピット内に電解液が染み込み難くなる。但し、ポリグリセリン誘導体と溶媒の混合比の調整によって、25℃における電解液の粘度を216mPa・s以下とすると、固体電解コンデンサのtanδ(誘電正接)、Cap及びESRは良好に維持され、一方当該粘度を超えるとこれら諸特性が急激に悪化することがわかった。更に25℃における電解液の粘度が36mPa・s以下であると、tanδは更に良好となることがわかった。
【0044】
従って、粘度で換算すると、25℃における電解液の粘度が216mPa・s以下となるようにポリグリセリン誘導体の添加量を調整することが好ましく、電解液の粘度が36mPa・s以下となることが更に好ましいものである。
【0045】
更に、導電性ポリマーの分散液に多価アルコールを含み、固体電解質層中に含まれる多価アルコールの量を固体電解質層全体に対して92wt%以下、好ましくは40wt%以上92wt%以下、更に好ましくは60wt%以上92wt%以下とするのが良い。これら範囲とすると、固体電解コンデンサのESRは更に良好となり、耐電圧も向上する。
【0046】
電解液の溶媒としては、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
電解液の溶質としては、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種の塩を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、レゾルシン酸、フロログルシン酸、没食子酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0049】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。尚、アミン塩よりもアンモニウム塩は、高温負荷後のESRが良好であり、好ましい。
【0050】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤の添加量は特に限定されないが、固体電解コンデンサの特性を悪化させない程度に添加することが好ましく、例えば電解液中40wt%以下である。
【0051】
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド,半芳香族ポリアミド,全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
下記表1の各調製例1~25の何れかの電解液を用いて、実施例1~19及び比較例1~6の固体電解コンデンサを作製した。尚、表1において、EGはエチレングリコール、GBLはγ-ブチロラクトン、TMSはスルホラン、BDSaAはボロジサリチル酸、BeAは安息香酸、AdAはアジピン酸、AzAはアゼライン酸、PhAはフタル酸、NH3はアンモニア、TEAはトリエチルアミンを示す。また、表1には記載していないが、調製例1~25には添加剤として、リン酸エステルおよびp-ニトロ安息香酸が電解液中に合計2wt%となるように添加されている。
【0054】
【0055】
(実施例1)
本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサの実施例1として、定格電圧が35WV、定格容量が270μF、コンデンサ素子寸法が径10mm及び長さ10mmの巻回型の固体電解コンデンサを作製した。
【0056】
まず、アルミニウム箔をエッチング処理により拡面化し、次いで化成処理により誘電体酸化皮膜層を形成し、陽極箔を作製した。また、アルミニウム箔をエッチング処理により拡面化し、アルミニウム製の陰極箔を作製した。陽極箔及び陰極箔に電極引き出し手段であるリード線を接続し、マニラ系セパレータを介在させて陽極箔と陰極箔を巻回することで、コンデンサ素子を作製した。そして、このコンデンサ素子をリン酸二水素アンモニウム水溶液に40分間浸漬し、修復化成を行った。
【0057】
その後、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の粒子を水に分散した導電性ポリマーの分散液を作製した。コンデンサ素子を導電性ポリマーの分散液に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げた後、170℃で10分間乾燥させた。
【0058】
コンデンサ素子に固体電解質層が形成された後、このコンデンサ素子に表1に記載の調製例1の電解液を含浸させた。ポリグリセリン誘導体は、化学式(化2)に示される、エチレンオキシド(以下、EOという)基が付加されたジグリセリン(以下、EO付加ジグリセリンという)とした。EO付加量は6程度である。溶質は、アニオンとしてボロジサリチル酸、カチオンとしてアンモニアを用いた。溶媒はエチレングリコールとした。
【0059】
コンデンサ素子に電解液を含浸させた後、有底筒状の外装ケースに収納し、封口体で封止した後、エージング処理して巻回形の固体電解コンデンサを完成させた。
【0060】
(実施例2)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例2の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例2を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量1000のEO付加ジグリセリンとした、EO付加量は18程度である。
【0061】
(実施例3)
実施例1の固体電解コンデンサと同一材料、同一の方法で実施例3の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例3を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量2000のEO付加ジグリセリンとした、EO付加量は41程度である。
【0062】
(実施例4)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例4の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液に添加するポリグリセリン誘導体は、化学式(化3)に示される、プロピレンオキシド(以下、POという)基が付加されたジグリセリン(以下、PO付加ジグリセリンという)とし、調製例4の電解液を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量400のPO付加ジグリセリンとした。PO付加量は4程度である。
【0063】
(実施例5)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例5の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例5を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量1000のPO付加ジグリセリンとした。PO付加量は14程度である。
【0064】
(実施例6)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例6の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例6を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量1600のPO付加ジグリセリンとした。PO付加量は24程度である。
【0065】
(実施例7)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例7の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、調製例2で用いたEO付加ジグリセリン(分子量1000)および調製例5で用いたPO付加ジグリセリン(分子量1000)を質量比で50:50になるように混合した調製例7を用いた。
【0066】
(実施例8)
実施例5の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例8の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例8を用いた。溶媒は、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンとした。
【0067】
(実施例9)
実施例5の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例9の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例9を用いた。溶媒は、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンとスルホランとした。
【0068】
(実施例10)
実施例5の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例10の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例10を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量1000のPO付加ジグリセリンとし、添加量を実施例5の2倍とした。
【0069】
(実施例11)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例11の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例11を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量1000のPO付加ジグリセリンとし、添加量を実施例5の3倍とした。
【0070】
(実施例12)
調製例5と同一のPO付加ポリグリセリンを用い、エチレングリコールに代えてγ-ブチロラクトンを使用した調製例12の電解液を用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例12の固体電解コンデンサを作製した。
【0071】
(実施例13)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例13の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、調製例2で用いたEO付加ジグリセリン(分子量1000)および調製例5で用いたPO付加ジグリセリン(分子量1000)を質量比で70:30になるように混合した調製例19を用いた。
【0072】
(実施例14)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例14の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、調製例2で用いたEO付加ジグリセリン(分子量1000)および調製例5で用いたPO付加ジグリセリン(分子量1000)を質量比で20:80になるように混合した調製例20を用いた。
【0073】
(実施例15)
実施例2の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例15の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、溶質のアニオンを安息香酸に代えた調製例21を用いた。
【0074】
(実施例16)
実施例2の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例16の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、溶質のアニオンをアジピン酸に代えた調製例22を用いた。
【0075】
(実施例17)
実施例2の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例17の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、溶質のアニオンをアゼライン酸に代えた調製例23を用いた。
【0076】
(実施例18)
実施例2の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例18の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、溶質のアニオンをフタル酸に代えた調製例24を用いた。
【0077】
(実施例19)
実施例18の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例19の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は、溶質のカチオンをトリエチルアミンに代えた調製例25を用いた。
【0078】
(比較例1)
ポリグリセリン誘導体を添加せずに作製した調製例13の電解液を用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で比較例1の固体電解コンデンサを作製した。
【0079】
(比較例2)
ポリグリセリン誘導体に代えてEO基やPO基が付加されておらず、重合度が2のポリグリセリン(ジグリセリン)を混合した調製例14を電解液として用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で比較例2の固体電解コンデンサを作製した。
【0080】
(比較例3)
ポリグリセリン誘導体に代えてエチレンオキシド重合体(ポリエチレングリコール)を混合した調製例15の電解液を用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で比較例3の固体電解コンデンサを作製した。
【0081】
(比較例4)
ポリグリセリン誘導体に代え、エチレンオキシド重合体(ポリエチレングリコール)およびプロピレンオキシド重合体(ポリプロピレングリコール)を質量比が50:50になるように混合した調製例16の電解液を用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で比較例4の固体電解コンデンサを作製した。
【0082】
(比較例5)
ポリグリセリン誘導体に代え、エチレンオキシド基およびプロピレンオキシド基が付加された直鎖状共重合体を混合した調製例17の電解液を用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で比較例5の固体電解コンデンサを作製した。
【0083】
(比較例6)
ポリグリセリン誘導体に代え、EO基やPO基が付加されていない重合度6のポリグリセリンを混合した調製例18の電解液を用いた。その他は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で比較例6の固体電解コンデンサを作製した。
【0084】
(初期特性の評価)
実施例1~12、15~19及び比較例1~6の固体電解コンデンサのCap及びESRの初期特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
表2に示すように、実施例1~12、15~19及び比較例1~6は固体電解コンデンサの初期のCapに差が見られなかった。ただし、電解液の溶媒としてγ-ブチロラクトンのみを用いた実施例12は、エチレングリコールを用いたその他の実施例および比較例と比べESRが増大した。これは、電解液の溶媒としてエチレングリコールを含むことにより、初期のESRが低減することを示す。
【0087】
(高温環境下における耐ショート性の評価1)
実施例1~19及び比較例1~6の固体電解コンデンサを高温環境下に長時間晒した場合の耐ショート性を評価した。各固体電解コンデンサを125℃中に静置し、電圧130Vを印加し、各測定時間にショートしているか確認した。電圧が130V未満になった場合をショートが起ったとした。測定時間は最大で1000時間とした。その結果を表3に示す。表3に示す時間は、ショートが起った時間ではなく、ショートしていることを確認した時間を示している。また、1000時間経過してもショートしなかったものについては、表3中の時間を「無し」と記載した。
【0088】
【0089】
表3に示すように、ジグリセリンを電解液に含む溶媒とした比較例2の場合、高温環境下に長期間晒されると耐ショート性が悪化し、400時間未満でショートしてしまった。即ち、グリセリン骨格のみを有する化合物を電解液の溶媒としても、高温環境下で長時間にわたって耐ショート性を良好に保てないことが確認された。
【0090】
一方、表3に示すように、グリセリン骨格が有する末端水酸基全てにエチレンオキシド基又はプロピレンオキシド基を付加したポリグリセリン誘導体を電解液の溶媒としても用いた実施例1~19は、高温環境下で長時間にわたって耐ショート性を良好に維持していることが確認された。
【0091】
(高温環境下における耐ショート性の評価2)
次に、実施例2、5、7、13、14の固体電解コンデンサの耐ショート性を測定条件を変えて評価した。各固体電解コンデンサを125℃中に静置し、電圧140Vを印加し、各測定時間にショートしているか確認した。電圧が140V未満になった場合をショートが起ったとした。測定時間は最大で1000時間とした。その結果を表4に示す。表4に示す時間は、ショートが起った時間ではなく、ショートしていることを確認した時間を示している。また、1000時間経過してもショートしなかったものについては、表4中の時間を「無し」と記載した。
【0092】
【0093】
表4より、電圧140Vによる試験では、EO付加ジグリセリンとPO付加ジグリセリンとの添加量が、20:80~0:100の場合はショートするのに対し、50:50~100:0のものはショートしないことを確認した。この結果より、EO付加比率によって耐ショート性が変化することがわかった。この理由について詳細は不明であるが、親水性基であるEO基は電極箔上の誘電体酸化皮膜との親和性が高いため、実施例14および5と比べ、実施例2、13、7で用いたポリグリセリン誘導体は電極箔と導電性ポリマーとの界面に存在しやすく、さらなる耐ショート性向上につながったと考えられる。
【0094】
(低温環境下における凝固性の評価)
実施例1~19及び比較例1~6の固体電解コンデンサを5℃及び-15℃の低温環境下に長時間晒した場合の凝固性を評価した。実施例1~19及び比較例1~6で作製された電解液を各温度で100時間放置し、電解液が凝固しているか目視にて確認した。尚、凝固とは、電解液を収容したアンプル管を傾けても内容物が動かない状態である。その結果を表5に示す。
【0095】
【0096】
表5に示すように、エチレングリコールと分子量2000のポリエチレングリコールとを混合したものを電解液とした比較例3の場合、低温環境下では凝固してしまった。即ち、ポリエチレングリコールを含む電解液の溶媒としても、その化合物の分子量が大きければ、低温環境下で液体の状態を維持できないことが示唆された。
【0097】
一方、表5に示すように、グリセリン骨格の末端水酸基の位置にエチレンオキシド基又はプロピレンオキシド基を付加したポリグリセリン誘導体を電解液の溶媒として用いた実施例1~19は、分子量の大小に依らず低温環境下で液体の状態を維持していた。特に、分子量2000のEO付加ジグリセリンを電解液の溶媒とした実施例3は、比較例3と同分子量にも関わらず、低温環境下で液体を維持した。
【0098】
(低温環境下における容量維持率の評価)
-55℃の極低温環境下における実施例1~12及び比較例1~6の固体電解コンデンサのCapを評価した。評価に際し、-55℃の環境下で各固体電解コンデンサのCapを測定し、20℃におけるCapとの変化率(ΔCap)を計算した。その結果を表6に示す。
【0099】
【0100】
表6に示されるように、5℃や-15℃で電解液が凝固してしまった比較例3については、ΔCapが大きい値となった。即ち、ポリエチレングリコールのみの直鎖状構造を有する化合物を電解液中に含んでも、その化合物の分子量が大きければ、低温環境下で凝固してしまい、ΔCapが低下してしまうことが確認された。
【0101】
一方、表6に示されるように、実施例1乃至12については、エチレングリコールのみを電解液の溶媒とした比較例1よりも-55℃環境下においてΔCapの増大が抑制されていた。即ち、グリセリン骨格の末端水酸基にエチレンオキシド基又はプロピレンオキシド基を付加したポリグリセリン誘導体を用いると、分子量の大小に関わらず、低温環境下でのΔCapが向上することが確認された。
【0102】
分子量が同等程度である、実施例1(添加剤分子量450)と比較例6(添加剤分子量500)とを対比すると、実施例1のほうがΔCapが小さい値となった。この結果より、単なるポリグリセリンよりも、エチレンオキシド基やプロピレンオキシド基が付加されたポリグリセリン誘導体を用いた電解液のほうが、低温特性が良好であることがわかった。
【0103】
比較例4は、直鎖状構造を有する、EO重合体およびPO重合体の混合物を添加剤として用いたものである。比較例4と、同等程度の分子量を有する実施例3とを対比すると、実施例3のほうがΔCapが良好である。これは、各種添加剤の構造による差であると考えられる。比較例4の直鎖状構造と比べ、実施例3は分枝状構造であるポリグリセリン骨格を有することで、ポリグリセリン誘導体同士の結合を阻害し、固体電解質層との親和性が高いと考えられる。そのため、固体電解質層と電極箔との界面にポリグリセリン誘導体が存在しやすく、抵抗分となることで耐ショート性を向上させ、また低温において凝固が抑制されるため低温特性が向上する。
【0104】
比較例5についても比較例4と同様に、添加剤が直鎖状構造であるために実施例よりも低温特性が悪化したと考えられる。
【0105】
更に、下記表7の調製例26及び27の電解液を用いて、実施例20及び21の固体電解コンデンサを作製した。尚、表7には記載していないが、調製例26及び27には添加剤として、リン酸エステルおよびp-ニトロ安息香酸が電解液中に合計2wt%となるように添加されている。
【0106】
【0107】
(実施例20)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例20の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液に添加するポリグリセリン誘導体は、化学式(化4)に示される、1以上のエチレンオキシドの直鎖と1以上のプロピレンオキシドの直鎖が別々の末端水酸基位置に付加されたジグリセリン(EO/PO付加ジグリセリン)とし、調製例26の電解液を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量900のEO/PO付加ジグリセリンとした。
【0108】
(実施例21)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例21の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液に添加するポリグリセリン誘導体は、EO/PO付加ジグリセリンとし、調製例27の電解液を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量3300のEO/PO付加ジグリセリンとした。
【0109】
(諸特性の評価)
実施例20及び21の固体電解コンデンサの初期特性、高温環境下における耐ショート性、並びに低温環境下における凝固性及び容量維持率を評価した。初期特性においてはCap及びESRを評価した。耐ショート性においては各固体電解コンデンサを125℃中に静置し、電圧130Vを印加し、各測定時間にショートしているか確認した。電圧が130V未満になった場合をショートが起ったとした。また、耐ショート性においては各固体電解コンデンサを125℃中に静置し、電圧140Vを印加し、各測定時間にショートしているか確認した。電圧が140V未満になった場合をショートが起ったとした。各々の耐ショート性の測定時間は最大で1000時間とした。凝固性評価においては各固体電解コンデンサを5℃及び-15℃の低温環境下に100時間晒した場合の凝固性を評価した。実施例20~21で用いた電解液が凝固しているか目視にて確認した。更に低温環境下における容量維持率評価においては、-55℃の環境下で各固体電解コンデンサのCapを測定し、20℃におけるCapとの変化率(ΔCap)を計算した。これらの結果を表8に示す。
【0110】
【0111】
表8に示すように、グリセリン骨格の末端水酸基の位置にエチレンオキシド基及びプロピレンオキシド基を付加したポリグリセリン誘導体であるEO/PO付加ジグリセリンは、他の実施例1~19と同等の初期のCap及びESRを有していることが確認された。また、EO/PO付加ジグリセリンについても、高温環境下で長時間にわたって耐ショート性を良好に維持していることが確認された。また、EO/PO付加ジグリセリンについても、分子量の大小に依らず低温環境下で液体の状態を維持していることが確認された。更に、EO/PO付加ジグリセリンについても、エチレングリコールのみを電解液の溶媒とした比較例1よりも、分子量の大小に関わらず-55℃環境下においてΔCapの増大が抑制されていた。
【0112】
以上、ポリエチレングリコールなどのアルキレンオキシドからなるポリマーを電解液に添加しても、高温環境下では良好な特性を有するが、低温環境下ではΔCapが大きい。また、ポリマーではなくモノマーであるグリセリンをエチレングリコールと共に電解液に添加しても、低温環境下では良好なΔCapを得られるが、高温環境下では良好な耐ショート性を長時間維持できない。
【0113】
ところが、実施例1~21を総合すると、グリセリン骨格の末端水酸基にエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、又はこれらの両方を付加したポリグリセリン誘導体を電解液に添加すると、ポリエチレングリコールなどのアルキレンオキシドからなるポリマーと、モノマーであるグリセリンとの両者のメリットを享受し、高温環境下で長時間の耐ショート性を維持できると共に、低温環境下でのΔCapが小さくなることが示された。
【0114】
特に、分子量2000のEO付加ジグリセリンは、分子量2000のポリエチレングリコールが粘性の観点で凝固して低温におけるΔCapを増大させるのに対し、ΔCap増大が抑制されていた。
【0115】
更に、下記表9の調製例28及び29の電解液を用いて、実施例22及び23の固体電解コンデンサを作製した。尚、表9には記載していないが、調製例22及び23には添加剤として、リン酸エステルおよびp-ニトロ安息香酸が電解液中に合計2wt%となるように添加されている。
【0116】
【0117】
(実施例22)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例22の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例28を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量400のPO付加ジグリセリンとし、溶質は、アニオンとしてアゼライン酸、カチオンとしてアンモニアを用いた。溶媒はエチレングリコールとした。
【0118】
(実施例23)
実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で実施例23の固体電解コンデンサを作製した。但し、電解液は調製例29を用いた。電解液に添加するジグリセリン誘導体は、分子量400のPO付加ジグリセリンとし、溶質は、アニオンとしてアゼライン酸、カチオンとしてトリエチルアミンを用いた。溶媒はエチレングリコールとした。
【0119】
(高温負荷試験の評価)
実施例22及び23の固体電解コンデンサの初期特性、高温環境下における耐ショート性、低温環境下における凝固性、及び高温負荷時の諸特性を評価した。初期特性及び高温負荷時の諸特性においてはCap、ESR及びtanδ(誘電正接)を評価した。耐ショート性においては各固体電解コンデンサを125℃中に静置し、電圧140Vを印加し、各測定時間にショートしているか確認した。電圧が140V未満になった場合をショートが起ったとした。測定時間は最大で1000時間とした。凝固性評価においては各固体電解コンデンサを-15℃の低温環境下に100時間晒した場合の凝固性を評価した。実施例22~23で用いた電解液が凝固しているか目視にて確認した。高温負荷時の諸特性においては、固体電解コンデンサを125℃中に250時間の間、静置した。これらの結果を表10に示す。
【0120】
【0121】
表10に示すように、実施例22及び実施例23は、初期特性、耐ショート性及び凝固性に関しては変わるところがないが、PO付加グリセリンを添加し、カチオンとしてアンモニアを添加した電解液を用いると、カチオンとしてアミン系を添加した電解液よりもESR及びtanδが良好となることが確認された。
【0122】
(電解液の粘度と各種初期特性の評価)
下記表11の比較例7並びに実施例24乃至35の固体電解コンデンサを作製し、電解液の粘度と各種初期特性の関係を評価した。表11に示すように、比較例7並びに実施例24乃至35は、実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で作製されたが、各々のエチレングリコールと分子量2000のEO付加ジグリセリンの混合比が異なるものである。電解液の粘度は、粘度計(BROOKFIELD社製LVDV-1)により25℃の温度条件で計測された。
【0123】
比較例7は、エチレングリコールの比率を100wt%とした。実施例24乃至35は、ポリグリセリン誘導体とエチレングリコールの混合比(重量比)を表11のとおり変化させた。電解液の溶質は、比較例7並びに実施例24乃至35の全てにおいてボロジサリチル酸アンモニウム塩とし、電解液全量に対して3wt%添加した。
【0124】
【0125】
電解液の粘度と初期のtanδの関係を下表12及び
図1に示す。
図1において、破線はtanδ比率、実線は粘度を示す。また、電解液の粘度と初期のESRの関係を下表13及び
図2に示す。
図2において、破線はESR比率、実線は粘度を示す。また、電解液の粘度と初期のCapの関係を下表14及び
図3に示す。
図3において、破線はCap比率、実線は粘度を示す。tanδ、ESR及びCapは、比較例7の値に対する比率で表した。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
表11に示すように、電解液の粘度はEO付加ジグリセリンの混合比が増加するに連れて概略比例して上昇していく。一方、表12乃至14又は
図1乃至
図3に示されるように、tanδ、ESR及びCapは、粘度が216mPa・s以下であると良好に維持されているが、粘度が216mPa・sを超えると急激に悪化していくことが確認された。また粘度が36mPa・s以下であるとtanδが更に良好となることが確認された。
【0130】
(固体電解質層中の多価アルコールの評価)
下記表15の電解液の何れかを用い、また固体電解質層中の多価アルコールの量を変化させて、下記表16に示す比較例8乃至11及び実施例36乃至43の固体電解コンデンサを作製した。そして、これら固体電解コンデンサの初期ESRと耐ショート性を評価した。ここで、調製例13、3及び42の25℃における電解液の粘度を測定した。調製例13は15mPa・s、調製例3は29mPa・s、調製例42は216mPa・sであった。
【0131】
【0132】
【0133】
比較例8乃至11及び実施例36乃至43の固体電解コンデンサは、分子量2000のEO付加ジグリセリンを用いて実施例1の固体電解コンデンサと同一の方法で作製された。但し、導電性ポリマーの分散液として、PSSがドープされたPEDOT、ソルビトール、水を含むものを用い、コンデンサ素子を該分散液に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げた後、170℃で10分間乾燥させ、固体電解質層を形成した。形成した固体電解質層にはPSSがドープされたPEDOT、ソルビトールが含まれている。
【0134】
耐ショート性の評価に際し、各固体電解コンデンサを125℃中に静置し、電圧130Vを印加し、各測定時間にショートしているか確認した。電圧が130V未満になった場合をショートが起ったとした。測定時間は最大で1000時間とした。
【0135】
図2に示すように、電解液の粘度が216mPa・s以下(ポリグリセリン誘導体の混合比が60wt%以下)の範囲では低ESRであり、大きな差は見られないが、表15に示すように、電解液の粘度が216mPa・s以下(ポリグリセリン誘導体の混合比が60wt%以下)の範囲内であっても、固体電解質層中の多価アルコール量によって初期のESRに変動が見られることが確認された。
【0136】
表16より、電解液にポリグリセリン誘導体を含むことにより耐ショート性が良好となった。比較例11は耐ショート性が良好であるが、ESRが悪化した。また、実施例36乃至実施例43に示されるように、電解液中にポリグリセリン誘導体を含み、固体電解質層中の多価アルコール量が40wt%以上92wt%以下の範囲では、初期のESRが低く抑えられることが確認でき、また固体電解質層中の多価アルコール量が60wt%以上92wt%以下の範囲では初期のESRがをさらに低く抑えられることが確認できた。