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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20220509BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20220509BHJP
   H01G 9/145 20060101ALN20220509BHJP
   H01G 9/15 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/00 290H
H01G9/145
H01G9/15
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020185681
(22)【出願日】2020-11-06
(62)【分割の表示】P 2014196838の分割
【原出願日】2014-09-26
(65)【公開番号】P2021022753
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 正郎
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-165262(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021333(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/098006(WO,A1)
【文献】特開平03-126210(JP,A)
【文献】特開2012-028752(JP,A)
【文献】特開平04-357606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/00
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末を含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するとともに、
該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、常温で液体状態のポリオキシエチレングリセリンを10wt%~60wt%含む溶媒が充填されたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記溶媒として、さらにγ-ブチロラクトンを前記溶媒全体に対して10~90wt%含むことを特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記溶媒において、前記ポリオキシエチレングリセリンを20wt%~60wt%含有することを特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末を含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する工程と、
該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、常温で液体状態のポリオキシエチレングリセリンを10wt%~60wt%含む溶媒を充填する工程と、を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に係り、特に、高温下での特性および信頼性に優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用を有する金属を利用した電解コンデンサは、陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより、小型で大きな容量を得ることができることから、広く一般に用いられている。特に、電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であることに加えて、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えていることから、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせないものとなっている。
【0003】
この種の固体電解コンデンサにおいて、小型、大容量用途としては、一般に、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸し、アルミニウム等の金属製ケースや合成樹脂製のケースにコンデンサ素子を収納し、密閉した構造を有している。なお、陽極箔としては、アルミニウムを初めとしてタンタル、ニオブ、チタン等が使用され、陰極箔には、陽極箔と同種の金属が用いられる。
【0004】
また、固体電解コンデンサに用いられる固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られているが、近年、反応速度が緩やかで、かつ陽極箔の酸化皮膜層との密着性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと記す)等の導電性ポリマーに着目した技術(特許文献1)が存在している。
【0005】
このような巻回型のコンデンサ素子にPEDOT等の導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するタイプの固体電解コンデンサは、以下のようにして作製される。まず、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔の表面を塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して、多数のエッチングピットを形成した後、ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層を形成する(化成)。陽極箔と同様に、陰極箔もアルミニウム等の弁作用金属からなるが、その表面にはエッチング処理を施すのみである。
【0006】
このようにして表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔とエッチングピットのみが形成された陰極箔とを、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成する。続いて、修復化成を施したコンデンサ素子に、3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、EDOTと記す)等の重合性モノマーと酸化剤溶液をそれぞれ吐出し、あるいは両者の混合液に浸漬して、コンデンサ素子内で重合反応を促進し、PEDOT等の導電性ポリマーからなる固体電解質層を生成する。その後、このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納して固体電解コンデンサを作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-15611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、上述したような固体電解コンデンサが自動車電装機器に用いられるようになっている。自動車電装機器に適用される電解コンデンサは、最高使用温度85~150℃となるような過酷な高温環境下で長時間使用されるため、長期にわたる高信頼性が要求されている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高温下での特性および信頼性に優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、種々検討を重ねた結果、溶媒として、ポリオキシエチレングリセリン及びその誘導体を用いることによって、高温下での静電容量の変化率(以下、ΔCapと記す)、等価直列抵抗(以下、ESRと記す)等が良好になることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の固体電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末を含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、ポリオキシエチレングリセリン又はその誘導体を含む溶媒が充填されたことを特徴とする。
【0012】
また、前記のような固体電解コンデンサを製造するための方法も本発明の1つである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温下での特性および信頼性に優れた固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る固体電解コンデンサを製造するための代表的な製造手順を開示しつつ、本発明を更に詳しく説明する。
【0015】
(固体電解コンデンサの製造方法)
本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法の一例は、以下の通りである。すなわち、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に修復化成を施す(第1の工程)。続いて、このコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末を含む分散体を含浸し、導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する(第2の工程)。その後、このコンデンサ素子を所定の溶媒に浸漬又は接触させ、コンデンサ素子内の空隙部にこの溶媒を充填する(第3の工程)。そして、このコンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した後、エージングを行い、固体電解コンデンサを形成する(第4の工程)。
【0016】
(第1の工程)
陽極箔と陰極箔からなる電極箔とセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成し、修復化成を施す。
【0017】
(電極箔)
陽極箔としては、アルミニウム等の弁作用金属からなり、その表面を塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して多数のエッチングピットを形成している。更にこの陽極箔の表面には、ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層を形成している。陰極箔としては、陽極箔と同様にアルミニウム等からなり、表面にエッチング処理のみが施されているものを用いる。また、必要に応じて、2V程度の化成処理を施したものや、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層を蒸着法により形成した陰極箔を用いても良い。
【0018】
(セパレータ)
セパレータとしては、合成繊維を主体とする不織布からなるセパレータや、ガラス繊維からなるセパレータを用いることができる。合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維等が好適である。また、天然繊維からなるセパレータを用いてもよい。
【0019】
(コンデンサ素子の形成)
陽極箔及び陰極箔には、それぞれの電極を外部に接続するためのリード線が、ステッチや超音波溶接等の公知の手段により接続される。さらに陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回し、コンデンサ素子を形成する。
【0020】
(修復化成の化成液)
上記のとおり作製したコンデンサ素子に、修復化成を施す。修復化成の化成液としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができるが、なかでも、リン酸二水素アンモニウムを用いることが望ましい。また、浸漬時間は、5~120分が望ましい。
【0021】
(第2の工程)
作製したコンデンサ素子に導電性ポリマーの粒子または粉末を含む分散体を含浸し、固体電解質層を形成する。
【0022】
(導電性ポリマーの分散体)
導電性ポリマーとしては、固体電解コンデンサに適用できるものであればよく、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、またはこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中で好ましいのはポリチオフェンであり、さらにポリチオフェンの中でもPEDOTが特に好ましい。また、導電性ポリマーのドーパントとしてはポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと記す)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
ここで、本明細書において、「導電性ポリマー」とは、導電性を有するポリマーを意味し、導電性ポリマーとドーパントからなる導電性ポリマー化合物も含まれる。また、本明細書において、「導電性ポリマーの粒子または粉末」は、粒子状または粉末状の導電性ポリマーであればよく、導電性ポリマーの粒子や粉末が凝集してなる凝集体も含まれる。また、本明細書において、「導電性ポリマーの粒子または粉末を含む分散体」を、「導電性ポリマーの分散体」と記載することもある。
【0024】
導電性ポリマーの分散体用溶媒としては、導電性ポリマーの粒子または粉末が分散するものであれば良く、主として水が用いられる。ただし、必要に応じて分散体用溶媒としてエチレングリコールを用いてもよい。分散体用溶媒としてエチレングリコールを用いると、製品の電気的特性のうち、特にESR特性を低減できることが判明している。なお、導電性ポリマーの分散体の含浸性、電導度の向上のため、導電性ポリマーの分散体に各種添加剤を使用したり、カチオン添加による中和を行っても良い。
【0025】
(固体電解質層の形成)
コンデンサ素子に導電性ポリマーの分散体を含浸し、乾燥することにより、導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する。コンデンサ素子を導電性ポリマーの分散体に含浸する時間は、コンデンサ素子の大きさによって決まるが、径5mm×長さ3mm程度のコンデンサ素子では5秒以上、径9mm×長さ5mm程度のコンデンサ素子では10秒以上が望ましく、最低でも5秒間は含浸することが必要である。なお、長時間含浸しても特性上の弊害はない。また、コンデンサ素子に導電性ポリマーの分散体を含浸する際、または含浸後に、減圧状態で保持すると、静電容量(以下、Capと記す)が大きくなるため好適である。その理由は、電極箔に形成されたエッチングピットの中に導電性ポリマーの粒子又は粉末が入り込むためであると考えられる。また、導電性ポリマーの分散体の含浸ならびに乾燥は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0026】
(第3の工程)
コンデンサ素子内で導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した後、ポリオキシエチレングリセリン(以下、POEGと記す)及びその誘導体を含む溶媒を充填する。
【0027】
(溶媒の充填方法)
溶媒の充填方法としては、コンデンサ素子がPOEG及びその誘導体を含む溶媒を適切に保持できる方法であれば特に限定されない。例えば、コンデンサ素子を溶媒に浸漬する方法や、コンデンサ素子に所定量の溶媒を滴下する方法、又は外装ケースに所定量の溶媒を滴下し、そこにコンデンサ素子を挿入する方法等が挙げられる。さらに、溶媒をコンデンサ素子へ充填させるために、必要に応じて減圧工程や加圧工程を行っても良い。
【0028】
また、常温で固体状態のPOEGをコンデンサ素子へ充填する場合には、POEGを加熱することで液体状態とし、コンデンサ素子へ充填する。このPOEGを、多量に添加した溶媒をコンデンサ素子へ十分に充填させるために、必要に応じて減圧工程後、さらに加圧工程を行っても良い。
【0029】
POEGはグリセリンにエチレンオキサイドを付加重合したものであるが、グリセリンとPOEGを比較した場合、POEGの方がグリセリンよりも熱安定性が高く、電解液の抜け量を抑制することができる。
【0030】
上述したとおり、POEGが常温で固体状態の場合、加熱により溶解したPOEG溶液を使用する。この場合、コンデンサに充填した直後の初期段階では、POEGがコンデンサ中において液体状態で存在しているが、時間が経過するに従い溶媒の一部が揮発し、それに伴いPOEGが析出してしまう。
【0031】
溶質を溶媒に添加した電解液を用いた場合、POEGの析出により溶媒が固体化することでイオンが動きにくくなり、電導度が低下し、Capが減少する。また、溶質を添加せずに溶媒のみを用いた場合、導電性ポリマーのドーパント成分であるPSSのドーピング部以外の部分が解離することで、イオン伝導性を発現しているが、POEGの析出により溶媒が固体化することで電導度が低下し、Capが減少する。
【0032】
以上のことから、種々のPOEGを含む溶媒をコンデンサ素子に充填する方法のうち、常温で液体状態のPOEGを用いる方法では、時間が経過してもPOEGが析出しにくいため、常温で固体状態のPOEGを用いた場合と比較し、Cap特性が良好になる。
【0033】
(POEG及びその誘導体の添加量)
POEG及びその誘導体は、熱安定性が高いため、溶媒に含有することで固体電解コンデンサ使用時の溶媒の抜け量を抑制し、ΔCap、ESR特性が良好となる。溶媒中のPOEG又はその誘導体の添加量は、好ましくは10~60wt%である。溶媒中のPOEGの添加量が10wt%未満では、本発明の効果が得られないため好ましくない。さらに、溶媒中のPOEGの添加量が60wt%よりも多いと、溶媒の粘度が高くなり、コンデンサ素子に充填しにくいため好ましくない。
【0034】
(その他の溶媒)
コンデンサ素子に充填する溶媒として、POEGとともに、その他の溶媒を含有しても良い。その他の溶媒としては、沸点が120℃以上の溶媒を用いることが好ましい。例としては、γ-ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0035】
また、POEGとともにエチレングリコールを溶媒として用いると、初期のESR特性が良好となり、さらに高温特性も良好となる。即ち、POEGとともにエチレングリコールを溶媒として用いた場合、エチレングリコールを含まない溶媒を用いた場合と比較して、初期のESR特性が低下するとともに、高温での長時間使用後においても、ΔCapが小さいことが判明している。
【0036】
その理由は、エチレングリコールは、導電性ポリマーのポリマー鎖の伸張を促進する効果があるため、電導度が向上し、ESR特性が低下したと考えられる。また、γ-ブチロラクトンやスルホランよりも、エチレングリコールのようなヒドロキシル基を有するプロトン性溶媒のほうがセパレータや電極箔、導電性ポリマーとの親和性が高いため、電解コンデンサ使用時に電解液の溶媒が揮発する過程において、セパレータや電極箔、導電性ポリマーと、電解液の溶媒との間で電荷の受け渡しが行われやすく、ΔCapが小さくなると考えられる。また、混合溶媒中におけるエチレングリコールの含有量は、好ましくは10~80wt%である。
【0037】
また、溶媒としてγ-ブチロラクトンを所定量添加することで、コンデンサ素子への電解液の含浸性を改善できる。比較的粘性の高いエチレングリコールと粘性の低いγ-ブチロラクトンを用いることで、コンデンサ素子への含浸性を高め、初期特性が良好で、長時間使用後においても良好な特性を維持できる。なお、混合溶媒中のγ-ブチロラクトンの量が多過ぎると電解液の揮発性が高まり、高温での電解コンデンサ使用時において、特性が維持されにくい。混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの含有量は、好ましくは、10~90wt%である。
【0038】
さらに、溶媒として、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いてもよい。これらスルホラン系の溶媒は高沸点であるため、溶液の揮発を抑制し、高温特性が良好になる。混合溶媒中のこれらスルホラン系溶媒の添加量は、好ましくは、10~50wt%である。
【0039】
(溶質)
コンデンサ素子内に充填する溶媒に溶質を添加し、電解液としても良い。電解液としては、上記の溶媒と、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等の溶質とからなる溶液を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸等のカルボン酸や、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0040】
また、上記有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブ
チルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0041】
(添加剤)
さらに、溶媒に添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリオキシエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。
【0042】
(溶媒の充填条件)
上記のような溶媒をコンデンサ素子に充填する場合、その充填量は、コンデンサ素子内の空隙部に充填できれば任意であるが、コンデンサ素子内の空隙部の3~100%が好ましい。溶媒の充填量が、コンデンサ素子内の空隙部の3%未満であると、本発明の効果が得られないため好ましくない。
【0043】
(第4の工程)
空隙部に溶媒を充填したコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着し、加締め加工により封止する。その後、エージングを行い、固体電解コンデンサとした。
【0044】
(効果)
上記のように、コンデンサ素子内に導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した後、このコンデンサ素子を、POEG若しくはその誘導体を含む溶媒に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にこの溶媒を充填することにより、高温下でのΔCap、ESR特性、溶媒の抜け性が良好な結果となる。
【0045】
さらに、溶媒として、POEGとともに、エチレングリコールやγ-ブチロラクトン、スルホラン系溶媒を含むことにより、低ESR化、高温での長寿命化を達成することができる。
【実施例
【0046】
続いて、以下のようにして製造した実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0047】
まず、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔に電極引き出し手段を接続し、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回して、素子形状が径6.3mm×長さ6.1mmのコンデンサ素子を形成した。そして、このコンデンサ素子をリン酸二水素アンモニウム水溶液に40分間浸漬して、修復化成を行った。その後、PEDOTとポリスチレンスルホン酸を水溶液に分散した導電性ポリマーの分散体に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げて約150℃で乾燥した。さらに、このコンデンサ素子の導電性ポリマーの分散体への浸漬-乾燥を複数回繰り返して、コンデンサ素子に導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した。
【0048】
このコンデンサ素子を、表1に示す溶媒(又は溶媒に溶質を添加した電解液)に浸漬し、コンデンサ素子の空隙部に溶媒(電解液)を充填した。そして、このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。その後、電圧印加によってエージングを行い、固体電解コンデンサを形成した。なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は35WV、定格容量は27μFである。
【0049】
表1で用いたPOEGはすべて数平均分子量1000のものを使用した。また、表1に示す各電解液組成の含有量はwt%で示している。表1の括弧内の数字は、溶媒中における比率を示す。
【表1】
POEG:ポリオキシエチレングリセリン
EG:エチレングリコール
GBL:γ-ブチロラクトン
TMS:スルホラン
BSalA:ボロジサリチル酸
TMA:トリメチルアミン
【0050】
表1で作製した固体電解コンデンサの初期のESR特性および125℃、1500時間無負荷放置試験を行ったときのESR特性、溶媒(又は電解液)の抜け量、ΔCapの結果を表2に示す。なお、本明細書において、ESR特性はすべて100kHz(20℃)における値を示している。また、抜け量は、初期の製品重量と放置試験後の製品重量との差で測定した。
【表2】
【0051】
表2の結果より、POEGを添加した実施例1~11は、POEGを添加していない比較例1と比較して放置試験を行った後のESR特性が同等又は低く、溶媒の抜け量およびΔCapの値はいずれも小さかった。また、実施例1~7では、POEGの添加量を増やすに従い、抜け量およびΔCapの値がいずれも小さくなることが分かった。
【0052】
さらに、実施例8~10において、POEGとエチレングリコールの双方を添加した実施例9~10は、エチレングリコールを添加していない実施例8と比較して、放置試験後のESR特性およびΔCapの値が小さいことが分かった。これは、エチレングリコールが、導電性ポリマーとして用いたPEDOTのポリマー鎖の伸張を促進する効果により、電導度が向上し、ESR特性が低下したと考えられる。すなわち、エチレングリコールの添加により、PEDOTの分子構造や配向性が制御され、導電性が向上したと考えられる。また、γ-ブチロラクトンやスルホランよりも、エチレングリコールのほうがセパレータや電極箔、導電性ポリマーとの親和性が高いため、導電性ポリマーと電解液との間で電荷の受け渡しが行われやすく、ΔCapが小さくなったと考えられる。
【0053】
実施例11は、溶質を添加せずに、POEGとエチレングリコールとの混合溶媒のみをコンデンサ素子に充填した固体電解コンデンサの結果である。この結果より、放置試験後のコンデンサ特性の劣化が小さいことがわかった。
【0054】
表3に、表1に記載の実施例3及び11と、実施例12~14の溶媒組成を示す。この溶媒組成を用いて作製した固体電解コンデンサの初期のESR特性、125℃、1500時間無負荷放置試験後のESR特性、溶媒(又は電解液)の抜け量およびΔCapを表4に示す。なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は35WV、定格容量は27μFである。また、表3に示す各電解液組成の含有量は、wt%で示しており、括弧内の数字は溶媒中における比率を示す。
【0055】
実施例12、実施例13は実施例3、実施例11それぞれのPOEGの数平均分子量を変化させたものである。また、実施例14は数平均分子量2700のPOEGの添加量を溶媒比率で80wt%としたものである。
【0056】
実施例12~14で用いたPOEG(数平均分子量2700)は、常温で固体状態である。そこで、実施例12及び実施例14は、γ-ブチロラクトンにPOEGを添加して加熱によりPOEGを溶解し、POEGとγ-ブチロラクトンとの混合溶媒を作製し、これに溶質を添加して電解液を作製した。また、実施例13は、エチレングリコールにPOEGを添加し、加熱によりPOEGを溶解して混合溶媒を作製した。
【表3】
【表4】
【0057】
実施例3、11で使用した、数平均分子量1000のPOEGは常温で液体状態であり、実施例12、13で使用した、数平均分子量2700のPOEGは常温で固体状態であった。表4の結果より、POEGの数平均分子量が2700(常温で固体)のもの(実施例12、実施例13)よりも、数平均分子量が1000(常温で液体)のもの(実施例3、実施例11)の方が125℃、1500時間無負荷放置試験後のΔCapが良好であることが分かった。
【0058】
常温で固体状態のPOEGを使用した場合は、放置試験中に溶媒が揮発することで、固体電解コンデンサ中の溶媒の比率が変化し、POEGが析出する。そのため、溶媒が固体化し、電導度が低下することにより、放置試験後のCapが減少する。これに対し、常温で液体状態のPOEGを用いた場合は、溶媒が揮発した際にPOEGが析出することがないため、Capの減少を抑制することができる。
【0059】
また、実施例14は、溶媒比率でPOEGの添加量を80wt%とした結果である。表4より、常温で固体状態のPOEGを多量に添加した場合であっても、電解コンデンサとして機能することがわかった。しかしながら、常温で固体状態のPOEGを多量に添加した電解液をコンデンサ素子に含浸する際、電解液の粘度が高くなり、含浸されにくい場合がある。
【0060】
表5に、比較例2、および実施例11、13の溶媒組成を示す。この溶媒組成を用いて作製した固体電解コンデンサの初期ESR、125℃で1500時間無負荷放置後のESR、抜け量、および150℃で1500時間無負荷放置後のESR、抜け量を表6に示す。
【0061】
比較例2で用いたPEGは常温で固体状態であるため、エチレングリコールにPEGを添加して加熱によりPEGを溶解し、PEGとエチレングリコールとの混合溶媒を作製した。
【0062】
なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は35WV、定格容量は27μFである。また、表5に示す組成の含有量は、wt%で示す。表5に記載の「分子量」とは、ポリエチレングリコール(以下、PEGと記す)又はPOEGの分子量を示す。
【表5】
【表6】
【0063】
表6に示すとおり、125℃で無負荷放置試験を行った比較例2、実施例11および実施例13のコンデンサ特性は、初期および無負荷放置試験後のどちらにおいても大きな差は見られない。しかしながら、150℃で無負荷放置試験を行った場合においては、溶媒としてPEGを用いた比較例2のESRは、実施例11および13よりも大きくなっている。
【0064】
ここで、比較例2のPEGと、実施例11のPOEGは、共に分子量が1000であるが、比較例2のPEGは常温で固体状態であるのに対し、実施例11のPOEGは常温で液体状態である。この理由としては、POEGが分岐鎖状ポリマーであるためだと考えられる。
【0065】
PEG又はPOEGを添加する場合、一般的に、分子量が大きいほど溶媒の抜け量を抑制する効果が大きく、この効果は特に高温での長時間放置試験において顕著である。しかしながら、上述の通り、常温で固体状態のPOEGを用いた場合、放置試験中にPOEGが析出し、溶媒が固体化することで電導度が低下し、放置試験後のCapが減少してしまう。これは、常温で固体状態のPEGにおいても同様の現象が見られる。そのため、分子量が大きく、かつ常温で液体状態のポリマーを溶媒として用いることにより、溶媒の抜け量を抑制し、放置試験後のCap減少を抑制することができると考えられる。よって、比較例2のPEGよりも、実施例11のPOEGのほうが固体電解コンデンサの溶媒として好ましいと考えられる。
【0066】
さらに、比較例2で用いたPEG、および実施例13で用いたPOEG(数平均分子量2700)は、どちらも常温で固体状態である。しかしながら、実施例13は比較例2よりもESRが低いことがわかった。これは、PEGが直鎖状ポリマーであるのに対し、POEGが分岐鎖状ポリマーであるために結晶化が起こりにくく、特性劣化が小さくなったと考えられる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0068】
例えば、上記実施形態において、巻回型の固体電解コンデンサを用いたが、積層型の固体電解コンデンサを用いても良い。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。