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特許7067857蛍光体、およびその製造方法、ならびにその蛍光体を用いた発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】蛍光体、およびその製造方法、ならびにその蛍光体を用いた発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/61 20060101AFI20220509BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220509BHJP
   C09K 11/57 20060101ALI20220509BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20220509BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220509BHJP
【FI】
C09K11/61 CPF
C09K11/08 A
C09K11/57
C09K11/59
H01L33/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2016143544
(22)【出願日】2016-07-21
(65)【公開番号】P2017095677
(43)【公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2015224994
(32)【優先日】2015-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】平松 亮介
(72)【発明者】
【氏名】アルベサール 恵子
(72)【発明者】
【氏名】石田 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅礼
【合議体】
【審判長】川端 修
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204432(JP,A)
【文献】特開2016-69576(JP,A)
【文献】特開2016-216588(JP,A)
【文献】特開2010-209311(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0264418(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00-11/89
H01L33/00
H01L33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相が下記一般式(A):
(Si1-y,Mn)F (A)(ここで、
1.5≦a≦2.5、
b=6、および
0<y≦0.06
である)
で表される蛍光体であって、
赤外吸収スペクトルにおける、1200~1240cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iに対する3570~3610cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iの比IIR=I/Iが0以上0.01以下であり、かつ粉末X線回折プロファイルにおける、18~20°に存在するピークの強度Iに対する27~29°に存在するピークの強度IK’の比IXRD=IK’/Iが0.002以上1.00以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記IXRDが0.002以上0.16以下である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
主相が下記一般式(A):
(Si1-y,Mn)F (A)(ここで、
1.5≦a≦2.5、
b=6、および
0<y≦0.06
である)
で表される蛍光体であって、
赤外吸収スペクトルにおける、1200~1240cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iに対する3570~3610cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iの比IIR=I/Iが0以上0.01以下であり、かつ可視吸収スペクトルにおける、それぞれ波長520nm、560nmおよび600nmにおける吸収率I520、I560およびI600、ならびにI520とI600との平均値Iaveの間に以下の関係:
ave=(I520+I600)/2、
560 - Iave >0
であることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
前記IIRが0以上0.005以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記蛍光体の内部量子効率η’が70%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記蛍光体における、[酸素含有量]/[(フッ素含有量)+(酸素含有量)]の比が0以上0.05未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
440nm以上470nm以下の波長領域にピークを有する光を放射する発光素子と、請求項1~6のいずれか1項に記載の蛍光体を含む蛍光体層とを具備することを特徴とする、発光装置。
【請求項8】
前記蛍光体層が、520nm以上570nm以下の波長領域に発光ピークを有する蛍光体をさらに含む、請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体、およびその製造方法、ならびにその蛍光体を用いた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light-emitting Diode:LED)発光装置は、主に励起光源としてのLEDチップと蛍光体との組み合わせから構成され、その組み合わせによって様々な色の発光色を実現することができる。
【0003】
白色光を放出する白色LED発光装置には、青色領域の光を放出するLEDチップと蛍光体との組み合わせが用いられている。例えば、青色光を放つLEDチップと、蛍光体混合物との組み合わせが挙げられる。蛍光体としては主に青色の補色である黄色光を放射する黄色発光蛍光体が使用され、擬似白色光LED発光装置として使用されている。その他にも青色光を放つLEDチップと、緑色ないし黄色発光蛍光体、および赤色発光蛍光体が用いられている3波長型白色LEDが開発されている。このような発光装置に用いられる赤色発光蛍光体の一つとしてKSiF:Mn蛍光体が知られている。
【0004】
従来知られているフッ化物蛍光体は、連続的に励起して発光をさせた場合、初期の発光強度に対して経時後の発光強度が低下する傾向にある。蛍光体を発光装置に使用した際、時間経過に伴う発光強度の変化が小さいこと、すなわち発光強度維持率が高いことが望ましい。このため、蛍光体の発光強度維持率の改善が望まれている。このようなニーズに応えるために、蛍光体の表面を、有機アミン、アンモニウム塩等の表面処理剤を含有する処理液にて処理し、高温高湿試験で耐久性を向上させる報告がある。しかしながら、そのような方法では、一度合成された蛍光体にさらに処理を施す工程を必要があり、蛍光体の製造コストを抑えるには別の方法が望まれている。さらに、従来知られているフッ化物蛍光体は、一般に水分に接触すると発光強度が低下する傾向があるため、合成後に前記のような水分を含む処理剤を用いた表面処理を行うことは好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-528429号公報
【文献】特開2014-141684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、蛍光体の発光強度維持率が改善された蛍光体、ならびにかかる蛍光体を用いた発光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態にかかる蛍光体は、基本組成の主相が下記一般式(A):
(K1-p/k,Mp/k(Si1-x-y,Ti,Mn)F (A)
(ここで、
Mは、NaおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、
kはMの価数を示す数で、1または2であり、
1.5≦a≦2.5、
5.0≦b≦6.5、
0≦p/k≦0.1、
0≦x≦0.3、および
0<y≦0.06
である)
で表される蛍光体であって、
赤外吸収スペクトルにおける、1200~1240cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iに対する3570~3610cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iの比IIR=I/Iが0.01以下であり、かつ粉末X線回折プロファイルにおける、18~20°に存在するピークの強度Iに対する27~29°に存在するピーク強度IK’の比IXRD=IK’/Iが1.00以下であることを特徴とするものである。
【0008】
また、実施形態にかかる蛍光体は、基本組成の主相が下記一般式(A):
(K1-p/k,Mp/k(Si1-x-y,Ti,Mn)F (A)
(ここで、
Mは、NaおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、
kはMの価数を示す数で、1または2であり、
1.5≦a≦2.5、
5.0≦b≦6.5、
0≦p/k≦0.1、
0≦x≦0.3、および
0<y≦0.06
である)
で表される蛍光体であって、
赤外吸収スペクトルにおける、1200~1240cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iに対する3570~3610cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度Iの比IIR=I/Iが0以上0.01以下であり、かつ可視吸収スペクトルにおける、それぞれ波長520nm、560nmおよび600nmにおける吸収率I520、I560およびI600、ならびにI520とI600との平均値Iaveの間に以下の関係:
ave=(I520+I600)/2 、
560 - Iave >0
であることを特徴とするものである。
【0009】
また、実施形態にかかる発光装置は、440nm以上470nm以下の波長領域にピークを有する光を放射する発光素子と、上述の蛍光体を含有する蛍光体層とを具備するものであることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態による蛍光体の赤外吸収スペクトルを示す図。
図2】実施形態による蛍光体の赤外吸収スペクトルの800~1600cm-1の拡大図。
図3】脱水処理の前後における実施形態による蛍光体の赤外吸収スペクトル(2500~4000cm-1)拡大図。
図4】IXRDに対する蛍光体の内部量子効率の変化を示す図。
図5】脱水処理の前後における蛍光体の可視吸収スペクトルを示す図。
図6】実施形態による発光装置の断面図。
図7】他の実施形態による発光装置の断面図。
図8】実施例101、比較例101および102の蛍光体の赤外吸収スペクトルを示す図。
図9】実施例101、比較例101および102の蛍光体の発光強度維持率を示す図。
図10】実施例203および比較例201の蛍光体の赤外吸収スペクトルを示す図。
図11】実施例201~203、および比較例201の可視吸収スペクトルを示す図。
図12】実施例203および比較例201の蛍光体の発光強度維持率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について、詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための蛍光体および発光装置を示すものであり、本発明は以下の例示に限定されない。
【0012】
本発明者らは、主としてケイフッ化カリウムからなり、マンガンで付活された蛍光体について鋭意検討および研究を重ねた結果、蛍光体の赤外吸収スペクトル(以下、IRスペクトルということがある)における特定のピークの強度比と、蛍光体中に存在する結晶相における粉末X線回折のピーク強度が蛍光体の発光効率および蛍光体の発光強度維持率とに相関があることを見出した。
本発明者らは、さらに、蛍光体の特定の2つの波長における吸収率の平均値と、その2つの波長の中間波長における吸収率との関係と、蛍光体中に存在する結晶相による粉末X線回折のピーク強度とが蛍光体の発光効率および蛍光体の発光強度維持率とに相関があることも見出した。
【0013】
実施形態において、好ましい蛍光体は、主相が下記一般式(A)で表されるものである。
(K1-p/k,Mp/k(Si1-x-y,Ti,Mn)F (A)
(式中、
Mは、NaおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、
kはMの価数を示す数で、1または2であり、
1.5≦a≦2.5、
5.0≦b≦6.5、
0≦p/k≦0.1、
0≦x≦0.3、および
0<y≦0.06
である)
【0014】
実施形態にかかる蛍光体は、付活剤としてマンガンを含有するものである。この蛍光体を赤色発光蛍光体とするためにはマンガンの価数は+4価であることが好ましい。他の価数のマンガンが含まれていてもよいが、その割合は少ないことが好ましく、すべてのマンガンが+4価であることが最も好ましい。
【0015】
マンガンが含有されていない場合(y=0)には紫外から青色領域に発光ピークを有する光で励起しても発光を確認することはできない。したがって、前記一般式(A)におけるxは0より大きいことが必要である。また、マンガンの含有量が多くなると発光効率が改良される傾向にあり、yは0.005以上であることが好ましい。
【0016】
しかし、マンガンの含有量が多すぎる場合には、濃度消光現象が生じて、蛍光体の発光強度が弱くなる傾向にある。こうした不都合を避けるために、マンガンの含有比率(y)は0.06以下であることが好ましく、0.05以下であることが好ましい。
【0017】
また、上述したように、実施形態による蛍光体は、主構成元素であるK、Si、F、およびMn以外の元素を含んでいてもよい。含有される元素として、例えばNa、Ca、Tiなどを少量含有してもよい。これらの元素が少量含有される場合であっても蛍光体は、赤色領域に類似の発光スペクトルを示し、所望の効果を達成することができる。ただし、蛍光体の安定性、蛍光体合成時の反応性蛍光体合成コストなどの観点から、これらの元素の含有量は少ないことが好ましい。また、ここに例示された以外の元素を不可避成分として含有している場合もある。このような場合でも、一般に実施形態の効果が十分に発揮される。
【0018】
蛍光体全体に対する各元素の含有量を分析するには、例えば以下のような方法が挙げられる。K、Na、Ca、Si、Ti、およびMnなどの金属元素は、合成された蛍光体をアルカリ融解し、例えばIRIS Advantage型ICP発光分光分析装置(商品名、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)によりICP発光分光法にて分析することができる。また、非金属元素Fは合成された蛍光体を熱加水分解により分離し、例えばDX-120型イオンクロマトグラフ分析装置(商品名、日本ダイオネクス株式会社製)により分析することができる。また、Fの分析は上述した金属元素と同様にアルカリ融解した後に、イオンクロマトグラフ法にて分析を行うことも可能である。
【0019】
なお、実施形態による蛍光体は、化学量論的には酸素を含まないものである。しかしながら、蛍光体の合成プロセス中、または合成後の蛍光体表面の分解等により、酸素が不可避的に蛍光体中に混入してしまうことがある。蛍光体中の酸素の含有量はゼロであることが望ましいが、[酸素含有量]/[(フッ素含有量)+(酸素含有量)]の比が0.05より小さい範囲であれば、発光効率が大きく損なわれることがないので好ましい。
【0020】
従来、カリウム、ケイ素、およびフッ素を含有する基本構造を有し、マンガンで付活されたフッ化物蛍光体は、発光装置として使用された場合、発光装置を連続運転した場合に、蛍光体の発光強度が経時により低下して、発光の色ずれが生じてしまうのが一般的であった。このような問題を解決する方法は種々検討されていたが、いずれも改良の余地があった。これに対して本発明者らは、このような蛍光体のうち特定のIRスペクトルを示すものが、優れた特性を示すことを見出した。具体的には、IRスペクトルにおける、1200~1240cm-1に存在する最大ピークの強度(以下Iということがある)に対する3570~3610cm-1に存在する最大ピークの強度(以下Iということがある)の比IIR(I/I)が0.01以下である蛍光体が優れた特性を示す。
【0021】
このようなIRスペクトルの強度比は、蛍光体中に存在する種々のOH基の含有量に対応するものと考えられる。すなわち、後述するように3570~3610cm-1に存在するピークは孤立OH基のOH結合の固有振動に対応しており、3200cm-1付近は蛍光体周辺に含まれる水分子に含まれるOH結合の固有振動に対応するものと推測される。そして、蛍光体のIRスペクトルにおける前記強度比が特定の範囲に有する場合、すなわち、蛍光体に含まれるOH結合が少ない場合に優れた特性を示すものと考えられる。
【0022】
IRスペクトルの測定方法は特に限定されないが、例えば、VERTEX70V FT-IRスペクトロメータ(商品名、ブルカー・オプティクス株式会社製)等の赤外分光装置によって測定することができる。測定条件は、例えば、以下のものとすることができる。
波数分解能:4cm-1
サンプルスキャン回数:100回
測定波数範囲:350~4000cm-1
測定雰囲気:真空
検出器:TGS(DTGS)検出器
【0023】
IRスペクトルの測定方法には、透過法、反射法、ATR法などが存在するが、本実施形態にかかる蛍光体は、一般に粒子径が数μm~60μmの粉末であり、試料調整が容易で、測定が可能な拡散反射法により実施するのが好ましい。また、前記拡散反射法は赤外領域で光透過性のKBrやKClなどの希釈剤で適当な濃度(1~10%程度)に希釈して測定するのが一般的であるが、本実施形態における蛍光体のIRスペクトルにおいて、3590cm-1付近、および3220cm-1付近のピーク強度は小さいため、上記希釈剤を用いずに測定を行うことが好ましい。ただし、バックグラウンド測定では上記希釈剤を用いて測定を行うことが好ましい。
【0024】
本実施形態による蛍光体のIRスペクトルの一例を図1に示す。図2は、図1のIRスペクトルの800~1600cm-1の拡大図である。なお、図2にはMnが付活されていないKSiF粉体(例えば、市販の関東化学製鹿特級試薬)のIRスペクトルも併せて記載されている。図2から、800~1600cm-1のピークはMnが付活された蛍光体と、Mnで付活されていないKSiF粉体とでほぼ同様の位置にピークが観察されていることがわかる。このことから、Mnが付活された蛍光体における800~1600cm-1付近のピークは、母体であるKSiF結晶に固有の振動モードに対応すると考えられる。
【0025】
図3は、図1のIRスペクトルの3000~4000cm-1の拡大図である。図3より実施形態の蛍光体では、この範囲にはほとんどピークが検出されていないことがわかる。一方、従来の粒子の内部脱水処理が施されていないフッ化ケイ素蛍光体ではこのような範囲に振動ピークが存在することが一般的であった。すなわち、実施形態による蛍光体を製造する場合には、水性媒体中で蛍光体結晶を形成させた後、特定の蛍光体粒子内部の脱水処理をすることが好ましい(詳細後述)。このような蛍光体粒子内部の脱水処理前の蛍光体では3720、3630、3590cm-1付近にシャープな振動ピークを確認することができる。さらに、2500~3500cm-1にブロードな振動ピークが確認される。前者の振動ピークは蛍光体中に存在する孤立OH基に固有なピークと考えられる。また、後者のブロードな振動ピークは蛍光体結晶に吸着したり、水素結合や配位結合したりしている水分子に含まれるOH結合に帰属されるピークであると考えられる。本実施形態は、上記3570~3610cm-1に存在するシャープな最大ピーク強度(I)と蛍光体の特性と相関があるとの知見に基づき、完成されたものである。
【0026】
しかしながら、IR測定は一般的に定性的な評価に用いられるものであるため、3570~3610cm-1に存在するシャープな最大ピークを定量的に評価することが困難であり、そのピーク強度と蛍光体の特性との相関関係を明示することが困難である。そこで、実施形態においては、得られたIRスペクトルにおける、KSiF結晶の固有の振動モードに帰属されると考えられる1200~1240cm-1に存在する最大ピークを基準とし、それに対する3570~3610cm-1に存在する最大ピークの相対強度(IIR=I/I)を指標とした。
【0027】
なお、IRスペクトルにおける前述の最大ピーク位置(波数)は、蛍光体の組成や蛍光体の合成条件により変化することもある。本実施形態では、1220cm-1付近のピーク位置が重要な要素であるが、このピーク位置は、好ましい条件下で±15cm-1、より好ましい条件下で±5cm-1程度、変動し得ることがある。
なお、幅広い波数域で測定を行うために、応答直線性が高いTGS(DTGS)検出器を用いて行うことが好ましい。
【0028】
本実施形態において、相対強度IIR値が0.01以下であるときに、蛍光体を発光装置に使用した際、連続運転の際の時間経過に伴う発光強度の変化が小さいこと、すなわち発光強度維持率が高いことが見出された。本実施形態において、前記相対強度IIR値が前記の範囲にあるときに、蛍光体が優れた特性を示す詳細な理由については十分に解明されていない。しかし、以下のように推定されている。一般的なフッ化物を母体にした蛍光体を発光装置に組み込んで運転した場合、運転により蛍光体が高温となり、その結果、蛍光体に含まれる孤立OH基が関与する加水分解が起こるため、発光強度の低下が起こるものと推定される。一方、実施形態による蛍光体では孤立OH基の含有量が少ないため、加水分解が起こらず、発光強度の低下も小さくなると推定される。
【0029】
なお、前記相対強度IIRは0.01以下であることが好ましいが、より好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.002以下である。最も好ましくは、3570~3610cm-1の範囲にピークが存在しないこと、すなわちI=IIR=0、である。
【0030】
実施形態による蛍光体は、任意の方法で製造することができるが、例えば以下に説明する方法で製造することができる。
【0031】
一般式(A)で表される組成を有する蛍光体はヘキサフルオロケイ酸(HSiF)とヘキサフルオロマンガン酸カリウム(KMnF)、ヘキサフルオロマンガン酸ナトリウムなどとの混合物を溶解させたフッ酸水溶液中に、カリウム含有原料を添加し、反応させる共沈方法などの方法により製造することが可能である。その他にもSi源、Ti源を過マンガン酸カリウムなどとフッ酸水溶液中で反応させる方法や、ヘキサフルオロケイ酸とヘキサフルオロマンガン酸カリウム(KMnF)などを溶解させた溶液中にカリウム源を添加し、反応させる方法や貧溶媒析出法などの方法により合成することが可能である。何れの製造方法においても、基本蛍光体は、フッ酸を使用した水溶液中で合成したのちに、吸引ろ過等の乾燥処理を経て得ることができる。
【0032】
本発明者らの検討によれば、吸引ろ過等の乾燥処理を行った後の蛍光体であっても、この蛍光体には孤立OH基や蛍光体表面などに吸着している水分子が不可避的に含まれてしまうことがわかった。合成方法の選択や合成パラメータの最適化により、孤立OH基や蛍光体に含まれる水の含有量をある程度減少させることは可能であるが、合成方法の検討だけでは孤立OH基や水分子を完全に除去することは容易ではない。そのため、上記、孤立OH基や水分子を除去するために、前述の基本蛍光体の合成後、必要に応じて、乾燥処理を行った後に、蛍光体粒子内部の脱水処理を行うことで、孤立OH基や水分子を除去することができる。蛍光体粒子内部の脱水処理は200℃以上800℃以下の温度範囲、0.0003気圧以上8気圧以下の圧力範囲、処理時間は1分以上24時間以下で実施することが好ましい。より好ましくは200℃以上750℃以下、0.01気圧以上6気圧以下、5分以上10時間以下である。また、蛍光体粒子内部の脱水処理を行う雰囲気は窒素、アルゴン、ヘリウム雰囲で実施することができる。
【0033】
しかしながら、孤立OH基や水分子を除去し、IIR値を低下させるために過剰な蛍光体粒子内部の脱水処理を行うと、蛍光体の一部が変性、または酸化することが考えられる。変性、または酸化を避ける理由から、従来は水性媒体中で形成された蛍光体を積極的に加熱、または減圧などして粒子内部の脱水処理まで行われないのが一般的であった。実施形態においては、このような蛍光体の変性、または酸化を避けるため、合成後の蛍光体粒子内部の脱水工程において温度、圧力、雰囲気を調整することにより、制御することが可能である。
【0034】
図4に、粉末X線回折ピーク強度に対する蛍光体の内部量子効率の関係を示す。図4の横軸は粉末X線回折(X-ray diffractometry:以下、XRDということがある)測定において、KSiF(PDF#01-075-0694)の最強線である(111)に帰属される18.881°付近の回折線強度(I)に対する、28.063°付近の回折線強度(IK’)の強度比(IXRD=IK’/I)をプロットしている。なお、実施形態において、IおよびIK’のピークは蛍光体の合成条件により変化することもある。しかしながらそのような場合であってもこれらのピークは、それぞれ回折角18~20°および27~29°の範囲内にあるので、実施形態においてはその範囲内にある最大ピークに対応するピークの強度をそれぞれIおよびIK’とする。
【0035】
蛍光体のXRD測定は、SmartLab(商品名、Rigaku社製)等によって測定することができる。測定条件は、測定対象とする蛍光体の種類や粒子形状などによって変動し得るが、例えば以下の条件で測定することができる。
X線源 CuKα
測定電圧・電流 45kV、200mA
ステップ幅 0.01°
測定スピード 20°/min.
【0036】
また、蛍光体の吸収率、内部量子効率η’は以下の式で算出される。
【数1】
【数2】
式中
E(λ):蛍光体へ照射した励起光源の全スペクトル(フォトン数換算)
R(λ):蛍光体の励起光源反射光スペクトル(フォトン数換算)
P(λ):蛍光体の発光スペクトル(フォトン数換算)
である。
【0037】
蛍光体の吸収率、内部量子効率は、例えば、C9920-02G型絶対PL量子収率測定装置(商品名、浜松ホトニクス株式会社製)により測定することができる。上記母体着色を測定する際の励起光としてはピーク波長が650nm付近、半値幅5~10nmを使用することができる。また、内部量子効率を測定する際の励起光としてはピーク波長が440~470nm付近、半値幅5~15nmの青色光を使用することができる。
【0038】
図5に、粒子の内部脱水処理が施されていない蛍光体の可視吸収スペクトルと、粒子の内部脱水処理が施された蛍光体の可視吸収スペクトルを示す。この可視吸収スペクトルは、可視領域、例えば波長400~750nmの範囲内において、入射光(半値幅5~15nm)の波長を変化させて、吸収率を測定することで得られる。この吸収率は、例えば上記C9920-02G型絶対PL量子収率測定装置(商品名、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて測定することができる。450nm付近のピークは、発光中心であるMnの吸収帯を示しており、約520nm以上では母体着色による吸収を示していると考えられる。
【0039】
図5より、実施形態による蛍光体では、それぞれ波長520nm、560nmおよび600nmにおける吸収率I520、I560およびI600、ならびにI520とI600との平均値Iaveの間に以下の関係が成立する。
ave=(I520+I600)/2 、
560 - Iave >0
一方、内部脱水処理が施されていないフッ化ケイ素蛍光体では、以下の関係となる。
560 - Iave ≦0
実施形態による蛍光体がこのような可視吸収スペクトルを示すのは、波長560nm付近の可視光を吸収する結晶相が存在し、その結晶相が存在することで維持率が改善されるものと考えられる。
【0040】
図5の可視吸収スペクトルにおいて、母体着色が大きくなると、励起波長での着色は、式2のR(λ)の低下につながり、発光波長領域において蛍光体が光を吸収する、すわなち蛍光体に着色があると、式2のP(λ)が低下して、内部量子効率が低下する傾向にある。よって、内部量子効率70%以上を達成するためには、蛍光体発光波長付近である650nmの吸収率が低いことが好ましく、具体的には0.1以下であること、好ましくは0に近いほどよい。
【0041】
本明細書で主相が一般式(A)で表される蛍光体とは、一般式(A)以外の結晶相がわずかに含有されていることを意味している。このことは、上述したように、XRD測定にて、一般式(A)以外の回折線が確認されることから、あるいは可視吸収スペクトルにより特定波長領域で光吸収をする成分があることから明らかである。そして、第1の実施形態による蛍光体において、主相が一般式(A)で表される蛍光体とは、一般式(A)の結晶相による粉末X線回折のピーク強度が相対的に大きいこと、すなわちIXRDが小さいことを意味する。IXRDが過剰に大きくなると蛍光体の発光はほとんど検出されなくなる。
具体的には、実施形態による蛍光体のIXRDは1.00以下であることが好ましく、0.16以下であることがより好ましい。一方、XRD装置での定量下限値は凡そ1重量%程度であることから、粉末X線回折のピーク強度比IXRDは0.002以上である。また、第2の実施形態による蛍光体は、IaveがI560よりも大きいものである。具体的にはIave-I560>0であるが、Iave-I560>0.001であることが好ましい。
【0042】
また、実施形態による蛍光体を発光デバイス等に使用するには、内部量子効率は70%以上であることが好ましい。図4からIXRDが大きくなると、内部量子効率が低下することがわかる。そして内部量子効率70%以上を達成するためには、強度比(IXRD)が0.16以下であることが好ましいことがわかる。また、蛍光体中の一般式(A)で表される蛍光体の孤立OH基や水分子を除去する際の変性、または酸化は、図4から、抑えられた方が量子効率が高いため、蛍光体粒子内部の脱水条件を最適化させるべきである。
【0043】
また、実施形態による蛍光体は使用する発光装置への塗布方法に応じて分級することもできる。青色領域に発光ピークを有する励起光を使用した通常の白色LEDなどでは、一般的に1~50μmに分級された蛍光体粒子を用いることが好ましい。分級後の蛍光体の粒径が過度に小さいと、発光強度が低下してしまうことがある。また、粒径が過度に大きいとLEDに塗布する際、蛍光体層塗布装置に蛍光体が目詰まりし作業効率や歩留りの低下、出来上がった発光装置の色ムラの原因となることがある。
【0044】
実施形態に係る蛍光体は紫外から青色領域に発光ピークを有する励起光源にて励起可能である。この蛍光体を発光装置に用いる場合には、蛍光体の励起スペクトルから、440nm以上470nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光素子を励起光源として利用することが望ましい。上述の波長範囲外に発光ピークを有する発光素子を用いることは、発光効率の観点からは好ましくない。発光素子としては、LEDチップやレーザーダイオードなどの固体光源素子を使用できる。
【0045】
実施形態にかかる蛍光体は、赤色の発光をする蛍光体である。したがって、励起光源に青色光を用いた場合には緑色発光蛍光体および黄色発光蛍光体と組み合わせて用いることにより、白色発光装置を得ることができる。また、励起光源に紫外光を用いた場合には青色発光蛍光体と緑色発光蛍光体及び黄色発光蛍光体と組み合わせて用いることにより、白色発光装置を得ることができる。使用する蛍光体の種類は発光装置の目的に合わせて任意に選択することができる。例えば、色温度が低い照明用途の白色発光装置を提供する際には、実施形態による蛍光体と黄色発光蛍光体と組み合わせることにより、効率と演色性を両立した発光装置を提供することができる。
【0046】
緑色発光蛍光体および黄色発光蛍光体は、520nm以上570nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光体ということができる。このような蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce等のケイ酸塩蛍光体、(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce等のアルミン酸塩蛍光体、(Ca,Sr,Ba)Ga:Eu等の硫化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、Euを付活した(Ca,Sr)-αSiAlON、βSiAlON等のアルカリ土類酸窒化物蛍光体などが挙げられる。なお、主発光ピークとは、発光スペクトルのピーク強度が最も大きくなる波長のことであり、例示された蛍光体の発光ピークは、これまで文献などで報告されている。なお、蛍光体作製時の少量の元素添加やわずかな組成変動により、10nm程度の発光ピークの変化が認められることがあるが、そのような蛍光体も前記の例示された蛍光体に包含されるものとする。
【0047】
青色発光蛍光体は、440nm以上500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光体ということができる。例えば、(Sr,Ca,Ba,Mg)(PO(Cl,Br):Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)(POCl:Eu等のハロリン酸塩蛍光体、2SrO・0.84P・0.16B:Eu等のリン酸塩蛍光体、およびBaMgAl1017:Eu等のアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体などが挙げられる。
【0048】
また、実施形態による蛍光体を用いた発光装置には、上記以外の、橙色発光蛍光体、赤色発光蛍光体も用途に応じて使用することができる。
橙色発光蛍光体、赤色発光蛍光体としては(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu等のケイ酸塩蛍光体、Li(Eu,Sm)W等のタングステン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)S:Eu等の酸硫化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba)S:Eu等の硫化物蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Si:Eu、(Sr,Ca)AlSiN:Eu等の窒化物蛍光体などが挙げられる。実施形態による蛍光体に更にこれらの蛍光体を組み合わせて使用することにより、効率だけでなく、照明用途での演色性や、バックライト用途での色域を更に改善することができる。ただし、使用する蛍光体の数が多すぎると、蛍光体同士が吸収、発光する再吸収・発光現象や散乱現象が生じて、発光装置の発光効率が低下する。
図6には、実施形態にかかる発光装置の断面を示す。
【0049】
図示する発光装置は、発光装置はリード100およびリード101とステム102、半導体発光素子103、反射面104、蛍光体層105を有する。底面中央部には、半導体発光素子103がAgペースト等によりマウントされている。半導体発光素子103としては、紫外発光を行なうもの、あるいは可視領域の発光を行なうものを用いることができる。例えば、GaAs系、GaN系等の半導体発光ダイオード等を用いることが可能である。なお、リード100およびリード101の配置は、適宜変更することができる。発光装置の凹部内には、蛍光体層105が配置される。この蛍光体層105は、実施形態にかかる蛍光体を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層中に5wt%以上80wt%以下の割合で分散することによって形成することができる。
【0050】
半導体発光素子103としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤの断線や剥離、ワイヤによる光吸収等のワイヤに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、半導体発光素子103にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤにより他方のリードに接続することができる。半導体発光素子103のサイズ、凹部の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0051】
図7には、砲弾型の発光装置の例を示す。半導体発光素子201は、リード200’にマウント材202を介して実装され、プレディップ材204で覆われる。ボンディングワイヤ203により、リード200が半導体発光素子201に接続され、キャスティング材205で封入されている。プレディップ材204中には、実施形態にかかる蛍光体が含有される。
上述したように、実施形態にかかる発光装置、例えば白色LEDは一般照明等だけでなく、カラーフィルターなどと組み合わせて使用される発光デバイス、例えば液晶用バックライト用の光源等としても最適である。具体的には、液晶のバックライト光源や青色発光層を使用した無機エレクトロルミネッセンス装置の赤色発光材料としても使用することができる。
【0052】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例101、比較例101および102]
KMnO粉末とKF粉末とをHF水溶液に溶解させた後に、H水溶液を徐々に滴下し、HF水溶液中で十分反応させることによりKMnFを合成した。合成したKMnFを吸引ろ過し、KMnF粉末とした。また、HF水溶液中にSiO粉末を溶解させ、HSiF溶液を調整した。さらに、HF水溶液にKF粉末を溶解させ、KF水溶液を調整した。調整したHSiF溶液に合成したKMnF粉末を溶解させ反応溶液を調整した。調整した反応溶液に事前に調整したKF水溶液を滴下し、反応溶液中で十分反応させることによりKSiF:Mnを合成した。合成したKSiF:Mnを吸引ろ過して、蛍光体粉末とした(比較例101)。合成した前記蛍光体の組成分析を行ったところ、K2.03(Si0.98,Mn0.02)Fであった。また、XRD測定により、IK’が検出限界以下であって、前記蛍光体がKSiF結晶相のみであることを確認した。合成した蛍光体を孤立OH基や水分子を完全に除去しないように乾燥処理を行った(比較例102)。また、合成した蛍光体から孤立OH基や水分子を完全に除去するために蛍光体粒子内部の脱水処理を施した(実施例101)。
【0054】
実施例101、比較例101および102のIRスペクトル測定を行ったところ、結果は図8の通りであった。実施例1および比較例1および2の赤外吸収スペクトルにおける1200~1240cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度に対する3570~3610cm-1の範囲に存在する最大ピークの強度IIR、内部量子効率、および粉末X線回折プロファイルにおける、18~20°に存在するピークの強度Iに対する27~29°に存在するピークの強度IK’比IXRD=IK’/Iは、表1に示す通りであった。
なお、IRスペクトル測定には、VERTEX70V FT-IRスペクトロメータ(商品名、ブルカー・オプティクス株式会社製)を用いた。この装置によるIIRの検出限界は0.001あり、検出限界以下の場合には、表1には0.001以下と記載した。また、粉末X線回折測定には、SmartLab(商品名、Rigaku社製))を用い、この装置によるIK’の検出限界は0.002であり、検出限界以下の場合には、表1には0.002以下と記載した。
【0055】
[実施例102、103、および比較例103]
実施例101、比較例101および102の蛍光体を樹脂と共に混合し、GaN系のLED発光素子上に封止し、発光装置とした。それぞれの発光装置について、それぞれLEDに電流を注入し、発光装置を連続点灯させた。実施例1、比較例1および2の蛍光体の発光強度の挙動を観測したところ、図9に示される通りであった。図9の縦軸はLEDの発光強度(I)に対する、蛍光体から放射される赤色発光の強度(I)の比(I/I)である発光強度維持率である。500時間後および1000時間後の発光強度維持率は、表1に示す通りであった。図9の結果より、実施形態にかかる蛍光体では発光装置使用時の発光強度低下が抑制されていることが理解できる。
【0056】
次に、比較例101と同様の方法で蛍光体を合成し、乾燥条件を変化させた比較例103および実施例102、103の蛍光体を合成した。蛍光体中のIIR、IXRD、および内部量子効率は、表1の通りであった。また、実施例102、103の蛍光体を樹脂と共に混合し、GaN系のLED発光素子上に封止した発光装置の発光強度維持率は表1の通りであった。
【0057】
【表1】
これらの結果より、IIRが0.01以下であり、かつIXRDが1.00以下である場合には、内部量子効率が実用上十分に高く、同時に発光強度維持率も高いことがわかる。
【0058】
[実施例201~204、および比較例201]
比較例101と同様の方法で蛍光体を合成し、乾燥条件を変化させて実施例201~204および比較例201の蛍光体を合成した。実施例203、および比較例201のIRスペクトル測定を行ったところ、結果は図10の通りであった。また、実施例201~204および比較例201の可視吸収スペクトルは、図11に示される通りであった。また、実施例203および比較例201の蛍光体を樹脂と共に混合し、光密度と温度を高くした加速条件のもと、青色LEDの発光強度(I)に対する蛍光体から赤色発光の強度(I)の比(I/I)を観測したところ、図12に示される通りであった。なお、この加速条件下における発光強度維持率は、表1で示す評価結果に対して駆動条件や使用したLEDパッケージが異なるため比較ができない。
【0059】
実施例201~204、および比較例201の蛍光体について、IIR、I560とIaveの関係、内部量子効率、および発光強度維持率(換算値)は、表2の通りであった。
【0060】
【表2】
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
100および101…リード、102…ステム、103…半導体発光素子、104…反射面、105…蛍光体層、200および200’…リード、201…半導体発光素子、202…マウント材、203…ボンディングワイヤ、204…プレディップ材、205…キャスティング材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12