(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】他の信号のスペクトルを検査するための信号除去
(51)【国際特許分類】
H04B 17/309 20150101AFI20220510BHJP
【FI】
H04B17/309
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017177893
(22)【出願日】2017-09-15
【審査請求日】2020-09-14
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(73)【特許権者】
【識別番号】501411651
【氏名又は名称】エイチアールエル ラボラトリーズ,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】HRL LABORATORIES, LLC
【住所又は居所原語表記】3011 Malibu Canyon Road, Malibu, CA 90265-4799, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100161274
【氏名又は名称】土居 史明
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エス.ヴィッテンベルク
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ペトレ
(72)【発明者】
【氏名】シャンカル アール.ラオ
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-145771(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0071003(US,A1)
【文献】特開平03-160590(JP,A)
【文献】特許第5544359(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第102130732(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/309
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出した無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するための方法であって、
異なる信号源からの複数の別個のソース信号を含む混合信号をアナログ/デジタル変換器(ADC)により受信することと、
前記混合信号を前記ADCによりデジタル化して、第1デジタル信号及びこの第1デジタル信号と同じ第2デジタル信号を生成することと、
前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させることと、
前記遅延時間に対応する遅延埋め込みが行われるニューロモーフィック信号プロセッサで前記第2デジタル信号を処理して、前記第2デジタル信号から抽出信号を抽出することと、
前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて調整することと、
前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号を供給することと、を含む方法。
【請求項2】
前記混合信号が前記ADCにより受信される前に、前記混合信号を増幅することをさらに含み、前記混合信号は、前記ADCでのサンプリングのために所定の振幅に増幅される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出信号及び前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅を特定することと、前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅に基づいて、前記抽出信号に対する調整を生成することと、をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2デジタル信号を前記ニューロモーフィック信号プロセッサで処理することは、
前記第2デジタル信号を前記ニューロモーフィック信号プロセッサにより受信することと、
前記第2デジタル信号に基づいて、遅延埋め込み混合信号を生成することと、
前記遅延埋め込み混合信号をリザーバに線型マッピングすることと、
前記遅延埋め込み混合信号を複数のリザーバ状態と結合させることで前記混合信号の多次元の状態空間表現を生成することと、
全体として前記混合信号を形成する前記別個のソース信号のうちの少なくとも1つを、前記混合信号の前記多次元の状態空間表現に基づいて特定することと、を含み、前記特定された少なくとも1つの別個のソース信号が前記抽出信号である、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するためのシステムであって、
異なる信号源からの複数の別個のソース信号を含む混合信号を受信するとともに、前記混合信号をデジタル化して第1デジタル信号及びこの第1デジタル信号と同じ第2デジタル信号を生成するアナログ/デジタル変換器(ADC)と、
前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させる遅延回路と、
前記遅延時間に対応する遅延埋め込みが行われるとともに、前記第2デジタル信号を処理して当該第2デジタル信号から抽出信号を抽出するニューロモーフィック信号プロセッサと、
前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて前記抽出信号を調整する信号位相及び振幅調整モジュールと、
前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号を供給する加算接続手段と、を含むシステム。
【請求項6】
前記混合信号が前記ADCにより受信される前に、前記混合信号を増幅する増幅器をさらに含み、前記増幅器は、前記ADCでのサンプリングのために前記混合信号を所定の振幅に増幅する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記抽出信号の位相遅れ及び振幅及び前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅を特定し、前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅に基づいて、前記抽出信号に対する調整を生成する位相遅れ及び振幅算出モジュールをさらに含む、請求項5又は6に記載のシステム。
【請求項8】
前記信号位相及び振幅調整モジュールは、前記抽出信号の前記位相遅れを調整して、前記第1デジタル信号に対して位相を180度ずらした前記調整済み抽出信号を生成する、請求項5~7のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項9】
前記検査用入力信号のスペクトルを分析するための装置さらに含む、請求項5~8のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項10】
抽出した無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するためのコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム製品は、プログラム命令が記録されたコンピュータ可読の記憶媒体を含み、前記コンピュータ可読の記憶媒体は、一時的な記憶媒体そのものではなく、前記プログラム命令は、装置により実行されて前記装置に方法を実行させるものであり、前記方法が、
異なる信号源からの複数の別個のソース信号を含む混合信号をアナログ/デジタル変換器(ADC)により受信することと、
前記混合信号を前記ADCによりデジタル化して、第1デジタル信号及びこの第1デジタル信号と同じ第2デジタル信号を生成することと、
前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させることと、
前記遅延時間に対応する遅延埋め込みが行われるニューロモーフィック信号プロセッサにおいて前記第2デジタル信号を処理して当該第2デジタル信号から抽出信号を抽出することと、
前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて調整することと、
前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号を供給することと、を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信信号の伝達、検査又は分析に関する。より具体的には、信号除去により、その他の信号、例えば相対的に低レベルの信号のスペクトルを調べる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
他の信号に比べて小さい振幅を有する信号は、相対的にレベルが低い信号である。このような低レベル信号が高レベル信号に混じって受信された場合、低レベル信号のスペクトル分析には、ダイナミックレンジの制限がともなう。また、高速フーリエ変換(FFT)に基づく周波数解析の利用は、FFTフィルタのサイドローブにより制限されることが多く、相殺システム(cancellation systems)は、応答時間が相対的に遅い。そこで、低レベル信号のスペクトル分析に関し、このようなデメリットを回避しうる信号除去システム及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態によれば、抽出した無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するための方法は、混合信号をアナログ/デジタル変換器(ADC)により受信することを含む。前記混合信号は、異なる信号源からの複数の別個のソース信号を含む。前記方法は、さらに、前記混合信号を前記ADCによりデジタル化して、第1デジタル信号及び第2デジタル信号を生成することを含む。前記第1デジタル信号は、前記第2デジタル信号と同一又は等価である。前記方法は、さらに、前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させることと、前記第2デジタル信号をニューロモーフィック信号プロセッサで処理して、前記第2デジタル信号から抽出信号を抽出することと、を含む。前記所定の遅延時間は、前記ニューロモーフィック信号プロセッサによる遅延埋め込みに対応する。前記方法は、さらに、前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて調整することを含む。前記方法は、さらに、前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号を供給することを含む。
【0004】
他の実施形態によれば、抽出した無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するためのシステムは、混合信号を受信するアナログ/デジタル変換器(ADC)を含む。前記混合信号は、異なる信号源からの複数の別個のソース信号を含む。前記ADCは、前記混合信号をデジタル化して第1デジタル信号及び第2デジタル信号を生成する。前記第1デジタル信号は、前記第2デジタル信号と同一又は等価である。前記システムは、さらに、前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させる遅延回路を含む。前記システムは、さらに、前記第2デジタル信号を処理して、前記第2デジタル信号から抽出信号を抽出するニューロモーフィック信号プロセッサを含む。前記遅延時間は、前記ニューロモーフィック信号プロセッサによる遅延埋め込みに対応する。前記システムは、さらに、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて前記抽出信号を調整する信号位相及び振幅調整モジュールを含む。また、前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号を供給する加算接続手段が設けられている。
【0005】
さらに他の実施形態によれば、抽出した無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するためのコンピュータプログラム製品は、プログラム命令が記録されたコンピュータ可読の記憶媒体を含む。前記コンピュータ可読の記憶媒体は、一時的な記憶媒体そのものではない。前記プログラム命令は、装置により実行されて前記装置に方法を実行させるものであり、前記方法は、混合信号をアナログ/デジタル変換器(ADC)により受信することを含み、前記混合信号は、異なる信号源からの複数の別個のソース信号を含む。前記方法は、さらに、前記混合信号を前記ADCによりデジタル化して、第1デジタル信号及び第2デジタル信号を生成することを含む。前記第1デジタル信号は、前記第2デジタル信号と同一又は等価である。前記方法は、さらに、前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させることと、前記第2デジタル信号をニューロモーフィック信号プロセッサで処理して、前記第2デジタル信号から抽出信号を抽出することと、を含む。前記遅延時間は、前記ニューロモーフィック信号プロセッサによる遅延埋め込みに対応する。前記方法は、さらに、前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて調整することを含む。前記方法は、さらに、前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号を供給することを含む。
【0006】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記方法は、さらに、前記混合信号が前記ADCにより受信される前に、前記混合信号を増幅することを含む。前記混合信号は、前記ADCでのサンプリングのために所定の振幅に増幅される。
【0007】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記方法は、さらに、前記抽出信号及び前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅を特定することと、前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅に基づいて、前記抽出信号に対する調整を生成することと、を含む。
【0008】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記抽出信号の前記位相遅れ及び振幅を調整することは、前記第1デジタル信号に対して位相を180度ずらした調整済み抽出信号を生成することを含む。
【0009】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記第2デジタル信号を前記ニューロモーフィック信号プロセッサで処理することは、前記第2デジタル信号を前記ニューロモーフィック信号プロセッサにより受信することと;前記第2デジタル信号に基づいて、遅延埋め込み混合信号を生成することと;前記遅延埋め込み混合信号をリザーバに線型マッピングすることと;前記遅延埋め込み混合信号を複数のリザーバ状態と結合させることで前記混合信号の多次元の状態空間表現を生成することと;全体として前記混合信号を形成する前記別個のソース信号のうちの少なくとも1つを、前記混合信号の前記多次元の状態空間表現に基づいて特定することと、を含む。前記特定された少なくとも1つの別個のソース信号が前記抽出信号である。
【0010】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記方法は、さらに、出力レイヤにおける1つ又は複数のノードに前記多次元の状態空間表現を線型マッピングして、1組のプレフィルタ信号を生成することを含む。
【0011】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記方法は、さらに、前記プレフィルタ信号に適応フィルタリングを施すことで、前記別個のソース信号のうちの少なくとも1つを特定することを含む。
【0012】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記プレフィルタ信号に適応フィルタリングを施すことは、前記プレフィルタ信号を適応フィルタのバンクに通すことを含む。各プレフィルタ信号は、前記適応フィルタのバンクのうちの固有のフィルタに供給される。固有の各フィルタの中心周波数は適応可能である。
【0013】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記出力レイヤは、1組の出力ノードを含む。各出力ノードは、重み付けされた出力を各リザーバ処理ノードから入力として受け取り、各出力ノードは、各入力の値を合計して、当該出力ノードの出力を生成する。
【0014】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記出力レイヤの各出力ノードは、適応可能な固有の1組の出力重みをその入力側接続に有し、1つ又は複数の混合信号、すなわち、第2デジタル信号が前記ニューロモーフィック信号プロセッサに供給される。前記適応可能な出力重みは、任意の1つの出力ノードからの出力が一部のソース信号を増幅し、且つ、他のソース信号を抑制した出力になるように設定される。
【0015】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記方法は、さらに、各適応フィルタからの出力に基づいて誤差信号を導出することを含む。前記誤差信号は、前記適応フィルタの前記適応可能な中心周波数の更新及び前記出力レイヤの前記適応可能な出力重みの更新に利用される。
【0016】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記システムは、さらに、前記混合信号が前記ADCにより受信される前に、前記混合信号を増幅する増幅器を含む。前記増幅器は、前記ADCでのサンプリングのために前記混合信号を所定の振幅に増幅する。
【0017】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記システムは、さらに、前記抽出信号及び前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅を特定し、前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅に基づいて、前記抽出信号に対する調整を生成する位相遅れ及び振幅算出モジュールを含む。
【0018】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記システムは、さらに、前記第1デジタル信号に基づいて前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を調整する信号位相及び振幅調整モジュールを含む。
【0019】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記信号位相及び振幅調整モジュールは、前記抽出信号の前記位相遅れを調整して、前記第1デジタル信号に対して位相を180度ずらした前記調整済み抽出信号を生成する。
【0020】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記ニューロモーフィック信号プロセッサは、遅延埋め込みモジュールと、リザーバと、出力レイヤと、適応フィルタのバンクと、を含む。前記遅延埋め込みモジュールは、前記第2デジタル信号を受信し、遅延埋め込み混合信号を生成するよう構成されている。前記リザーバは、前記遅延埋め込み混合信号を前記リザーバに線型マッピングし、前記遅延埋め込み混合信号を複数のリザーバ状態と結合させることで前記混合信号の多次元の状態空間表現を生成するよう構成されている。前記出力レイヤは、前記出力レイヤにおける1つ又は複数の出力ノードに対して前記状態空間表現を線型マッピングすることで、1組のプレフィルタ信号を生成するよう構成されている。前記適応フィルタのバンクは、前記プレフィルタ信号を前記適応フィルタのバンクに通すことで処理して、全体として前記混合信号を形成していた前記別個のソース信号を生成するよう構成されている。前記別個のソース信号のうちの少なくとも1つが、前記抽出信号として特定される。
【0021】
別の実施形態又は上述の実施形態のいずれかによれば、前記リザーバは、複数の処理ノードを含み、前記出力レイヤは、1組の出力ノードを含む。各出力ノードは、重み付けされた出力を各処理ノードから入力として受け取る。各出力ノードは、各入力の値を合計して、当該出力ノードの出力を生成する。各出力ノードの前記出力重みは、一部のソース信号を増幅し、且つ、他のソース信号を抑制する。前記抽出信号は、前記別個のソース信号から特定される。
【0022】
上述した特徴、機能及び利点は、様々な実施形態において個別に実現することもできるが、他の実施形態おいて互いに組み合わせてもよく、さらなる詳細については、以下の記載及び図面を参照することによって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の実施形態による、混合信号に含まれる少なくとも1つの他の信号を分析するために混合信号から抽出信号を除去するシステムの一例を示す概略ブロック図である。
【
図2】本開示の他の実施形態による、1つ又は複数の信号を抽出するニューロモーフィック信号プロセッサの一例を示す概略ブロック図である。
【
図3】
図2のニューロモーフィック信号プロセッサの遅延埋め込みモジュールの一例を示す概略ブロック図である。
【
図4】
図2のニューロモーフィック信号プロセッサのリザーバの一例を示す概略ブロック図である。
【
図5】
図2のニューロモーフィック信号プロセッサのリザーバ及び出力レイヤの一例を示す概略ブロック図である。
【
図6】本開示の実施形態による、混合信号に含まれる少なくとも1つの他の信号を分析するために混合信号から抽出信号を除去する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本開示の実施形態による、混合信号から特定の信号を抽出する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施形態の詳細な説明では、本開示の特定の実施形態を示す添付図面を参照する。ただし、構造及び動作が異なる他の実施形態も、本開示の範囲から逸脱するものではない。異なる図面における同様の参照符号は、同様の要素又はコンポーネントを指す場合がある。
【0025】
本開示は、システム、方法及び/又はコンピュータプログラム製品とすることができる。コンピュータプログラム製品は、本開示の側面をプロセッサに実施させるためのコンピュータ可読プログラム命令が記録されたコンピュータ可読記憶媒体(又は複数の媒体)を含みうる。
【0026】
コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行装置が使用する命令を保持及び格納可能な有形の装置とすることができる。コンピュータ可読記憶媒体は、例えば、限定するものではないが、電子記憶装置、磁気記憶装置、光学記憶装置、電磁記憶装置、半導体記憶装置、又は、これらの任意の適当な組み合わせであってもよい。すべてを網羅するものではないが、コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例を列挙すれば、以下のものが含まれる。すなわち、ポータブルコンピュータディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ポータブルコンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD-ROM)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、メモリースティック、フロッピーディスク、及び、機械的にコード化された装置、例えば、命令が記録されたパンチカードや溝内の隆起構造に加え、これらの任意の適当な組み合わせが含まれる。なお、本開示においては、一時的な信号そのもの、例えば、電波や自由に伝搬する他の電磁波、導波路や他の伝送媒体を介して伝搬する電磁波(例えば光ファイバケーブルを通過する光パルス)、又は、ワイヤを介して送信される電気信号など自体を、コンピュータ可読記憶媒体と解釈すべきではない。
【0027】
本明細書に記載のコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ可読記憶媒体から各コンピューティング/処理装置にダウンロードすることができ、あるいは、インターネット、ローカルエリアネットワーク、ワイドエリアネットワーク、及び/又はワイヤレスネットワークなどのネットワークを介して外部コンピュータ又は外部記憶装置にダウンロードすることができる。ネットワークは、銅の伝送ケーブル、光伝送ファイバ、無線伝送、ルータ、ファイアウォール、スイッチ、ゲートウェイコンピュータ及び/又はエッジサーバーを含みうる。各コンピューティング/処理装置におけるネットワークアダプタカード又はネットワークインターフェイスは、ネットワークからコンピュータ可読プログラム命令を受信して、コンピュータ可読プログラム命令を各コンピューティング/処理装置内のコンピュータ可読記憶媒体に格納すべく転送する。
【0028】
本開示の動作を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、機械語命令、機械依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、又は、1つ以上のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードもしくはオブジェクトコードのいずれかであってもよい。プログラミング言語には、スモールトーク、C++などのオブジェクト指向プログラミング言語、及び、「C」プログラミング言語又はこれに類するプログラミング言語などの従来の手続き型プログラミング言語が含まれる。コンピュータ可読プログラム命令は、全てをユーザのコンピュータで実行してもよいし、一部をスタンドアローンソフトウェアパッケージとしてユーザのコンピュータで実行してもよいし、一部をユーザのコンピュータで実行し一部をリモートコンピュータで実行してもよいし、全てをリモートコンピュータ又はサーバーで実行してもよい。後者の場合、リモートコンピュータを、ローカルエリアネットワーク(LAN)又はワイドエリアネットワーク(WAN)を含む任意のタイプのネットワークを介してユーザのコンピュータに接続してもよいし、あるいは、(例えば、インターネットサービスプロバイダを利用したインターネットを介して)外部コンピュータに接続してもよい。いくつかの実施形態においては、例えば、プログラマブル論理回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又はプログラマブル論理アレイ(PLA)を含む電子回路により、コンピュータ可読プログラム命令の状態情報を用いてコンピュータ可読プログラム命令を実行してもよく、これにより本開示の態様を実現するように電子回路をパーソナライズすることができる。
【0029】
本開示の態様を説明するにあたり、本開示の実施形態に基づく以下のものを参照する。すなわち、方法に関するフローチャート及び/又はブロック図、装置(システム)、及びコンピュータプログラム製品である。これらフローチャート及び/又はブロック図における各ブロック、並びに、これらフローチャート及び/又はブロック図におけるブロックの組み合わせは、コンピュータ可読プログラム命令によって実現することができる。
【0030】
コンピュータ可読プログラム命令は、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、又は、その他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサに供給されてマシーンを構成する。これにより、コンピュータ又はその他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサを介して実行される命令により、フローチャート及び/又はブロック図のブロックに記載された機能/動作を実施するための手段が形成される。これらのコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ、プログラム可能なデータ処理装置及び/又はその他の装置に指示して特定の態様で機能させることが可能なコンピュータ可読媒体に格納することができる。これにより、命令を格納したコンピュータ可読媒体により、フローチャート及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックに記載された機能/動作の態様を実施する命令を含む製品が形成される。
【0031】
また、コンピュータ可読プログラム命令を、コンピュータ、その他のプログラム可能なデータ処理装置、又は、その他の装置にロードして、当該コンピュータ、その他のプログラム可能なデータ処理装置、又は、その他の装置に一連の動作ステップを実行させて、コンピュータ実施によるプロセスを実現することができる。これにより、コンピュータ、その他のプログラム可能な装置、又は、その他の装置で実行される命令により、フローチャート及び/又はブロック図のブロックに記載された機能/動作が実現される。
【0032】
図1は、本開示の実施形態によるシステム100の一例を示す概略ブロック図である。システム100は、混合信号からある信号を抽出し且つこれを除去することにより、混合信号に含まれる少なくとも1つの他の信号を分析する。この「他の信号」は、たとえば、除去された信号に比べて低レベルの信号、すなわち振幅が相対的に小さい信号である。したがって、システム100は、所定の信号を除去して、この除去信号よりも低レベルの信号のスペクトル分析に利用することが可能である。
【0033】
システム100は、1つ又は複数のアンテナ102を含み、これらが無線周波数(RF)ソース信号(source signal)104a~104nを複数の異なるRF信号源106a~106nから受信する。複数のRFソース信号104a~104n又はこれら信号104a~104nの一部が1つのアンテナ102で同時に受信されると、1つ又は複数の混合信号108が経時的に形成されうる。すなわち、アンテナ102に受信されたRFソース信号104a~104nが、ある時間にわたって部分的に重畳しうる。またシステム100は、アンテナ102から混合信号108を受け取る増幅器110を含む。増幅器110は、混合信号108を所定のレベルに増幅することにより、混合信号108の振幅が、アナログデジタル変換器(ADC)112による当該混合信号のサンプリングに十分な大きさとなるようにする。つまり、増幅器110は、混合信号108を所定のレベル又は振幅に増幅して、ADCが混合信号108のサンプリングあるいはデジタル化を効率的に行えるようにする。一例として、混合信号108の増幅は、以下のような理由により必要となる。すなわち、ソース信号104a~104nのうちのいくつかの信号の振幅、あるいは、分析の対象であるソース信号の振幅が、混合信号108を構成する他のソース信号104a~104nの振幅に比べて極端に小さい場合がある。このとき、混合信号108を増幅すれば、混合信号108に含まれる所望のソース信号も増幅されるので、混合信号108あるいはデジタル化した混合信号108から、相対的に大きな振幅を有する1つ又は複数の他のソース信号を適切に抽出及び除去することができ、本開示で示すように所望のソース信号の分析が可能となる。
【0034】
ADC112は、混合信号108のサンプリング又はデジタル化を行って、第1デジタル信号116及び第2デジタル信号120を生成する。第1デジタル信号116及び第2デジタル信号120は、互いに類似する信号又は等価の信号であって、混合信号108をデジタルで表したものである。したがって、第1デジタル信号116を第1デジタル混合信号と記載する場合もあり、また、第2デジタル信号120を第2デジタル混合信号と記載する場合もある。
【0035】
遅延回路114は、ADC112から第1デジタル信号116を受け取る。遅延回路114は、第1デジタル信号116を所定の遅延時間だけ遅らせる。
【0036】
加えて、システム100は、ADC112から第2デジタル信号120を受け取るニューロモーフィック信号プロセッサ(neuromorphic signal processor)118を含む。ニューロモーフィック信号プロセッサ118は、第2デジタル信号120を処理して、第2デジタル信号120から1つ又は複数の抽出信号122を抽出する。遅延回路114における所定の遅延時間は、ニューロモーフィック信号プロセッサ118による埋め込み遅延(delay embedding)に対応する。ニューロモーフィック信号プロセッサ118として利用できるように構成可能な装置の参考例としては、2016年3月17日に出願された米国特許出願第15/073,626号に記載されたようなコグニティブブラインド信号源分離器(cognitive blind source separator)がある。ニューロモーフィック信号プロセッサ118として利用可能に構成された例示的なコグニティブブラインド信号源分離器については、
図2~
図5を参照して後述する。
【0037】
位相遅れ及び振幅算出モジュール124は、ニューロモーフィック信号プロセッサ118から抽出信号122を受け取り、遅延回路114から遅延第1デジタル信号116を受け取る。位相遅れ及び振幅算出モジュール124は、抽出信号122及び遅延第1デジタル信号116の位相遅れ及び振幅を算出する。位相遅れ及び振幅算出モジュール124は、遅延第1デジタル信号116を基準に、抽出信号122に対して施すべき調整を算出する。この調整は、両信号間の位相差を180度とし、遅延第1デジタル信号116から抽出信号122をキャンセル(ゼロ化)することを可能とするものである。
【0038】
信号位相及び振幅調整モジュール126は、ニューロモーフィック信号プロセッサ118から抽出信号122を受け取り、位相遅れ及び振幅算出モジュール124から出力128を受け取る。出力128は、遅延第1デジタル信号116の位相に基づいて算出された、抽出信号122に対する調整に対応する信号である。信号位相及び振幅調整モジュール126は、抽出信号122の位相遅れ及び振幅を、位相遅れ及び振幅算出モジュール124からの出力128を用いて調整する。これにより、信号位相及び振幅調整モジュール126から出力される調整済み抽出信号130は、遅延第1デジタル信号116に対して位相が180度ずれた信号になる。
【0039】
システム100は、調整済み抽出信号130を遅延第1デジタル信号116からキャンセルあるいは除去するための加算接続手段(summing junction)132又は他のメカニズムをさらに含み、これにより、抽出信号122すなわち調整済み抽出信号130が除去された検査用入力信号134が提供される。調整済み抽出信号130は、第1デジタル信号116に対して位相が180度ずれており、調整済み抽出信号130と第1デジタル信号116とが加算接続手段132で足し合わされると、調整済み抽出信号130が相殺される。検査用入力信号134は、混合信号108中の特定の信号がデジタル混合信号108から抽出かつキャンセルされてはいるが、本質的には、デジタル化混合信号108すなわちシステム100に入力された信号とみてよい。この検査用入力信号134が、分析の対象である。一実施形態では、装置136により、検査用入力信号134のスペクトルが分析される。一実施形態では、装置136は、スペクトルアナライザであり、他の例では、ニューロモーフィック信号プロセッサ又はその他の装置である。他の実施形態では、検査用入力信号134に関連する他のパラメータが所定の装置により分析される。
【0040】
一実施形態では、
図1に破線で示すように、システム100の少なくともいくつかのコンポーネントは、単一のチップ140に配置される。
【0041】
図2は、本開示の別の実施形態に基づく、1つ又は複数の信号を抽出するニューロモーフィック信号プロセッサ200の一例を示す概略ブロック図である。この例示的なニューロモーフィック信号プロセッサ200は、
図1のニューロモーフィック信号プロセッサ118として利用可能である。例示的なニューロモーフィック信号プロセッサ200は、上述した第2デジタル信号120を受け取る。一例として、第2デジタル信号120は、瞬時帯域幅が狭い複数のパルスをノイズとして含む入力混合信号と特徴づけることができる。ニューロモーフィック信号プロセッサ200は、入力混合信号すなわち第2デジタル信号120から分離されたノイズ消去パルスを出力する。例示的なニューロモーフィック信号プロセッサ200は、コグニティブブラインド信号源分離器(CBSS)と称される場合もあり、時間相関のある複数のソース無線周波数(RF)信号を分離することができる。ニューロモーフィック信号プロセッサ200の実施形態では、各ソース信号が狭い周波数帯域を有すること、および、ソース信号どうしが時間的に重なってもよいが、時間と周波数の両方の面で重複することは極めてまれにしか起こらないことを前提とする。限定するものではないが、そのようなソース信号の例には、レーダーに用いられる無線周波数(RF)信号、ソナーに用いられる超音波音響パルス、又は、複数の音声信号を分離するのに用いられる音響信号が含まれる。
【0042】
第2デジタル信号120又はデジタル混合信号は、抽出対象であるソース信号104a~104nの混合信号から得られる複数のサンプル、すなわち、時系列をなす複数のデータポイントとして特徴づけることもできる。第2デジタル信号120の時系列データポイントは、入力信号を時間遅延させたもの、すなわち、遅延埋め込み混合信号206を生成する遅延埋め込みモジュール204を経由して供給される。遅延埋め込みモジュール204は、第2デジタル信号120を受け取って、1つ又は複数の遅延埋め込み混合信号206を生成する。遅延埋め込みモジュール204は、有限個の過去の信号値を格納しておくことにより、スカラー値の混合信号108を多次元の信号に変換する。遅延埋め込みモジュール204は、現在の信号値及び過去の信号値に対する多次元のベクトルを構成する。遅延埋め込み混合信号206は、線型関数を介してリザーバ208にマッピングされる。リザーバ208は、遅延埋め込み混合信号206がリザーバ208に線型マッピングされることにより、遅延埋め込み混合信号206についての高次元(HD)又は多次元の状態空間表現(state-space representation)210を生成するように設定されている。すなわち、遅延埋め込み混合信号206は、詳細を後述するように、リザーバ208に線型マッピングされる。リザーバ208は、力学系(dynamical system)であり、リザーバ状態と遅延埋め込み混合信号206との組み合わせにより、元の混合信号108、すなわち、第2デジタル信号120についての多次元の状態空間表現210が形成される。例えば、リザーバ208における特定のニューロン、すなわち、処理ノード(
図4の404)は、例えば
図1に示すRFソース信号104a~104nなどの特定のソース信号を表す。多次元の状態空間表現における入力の線型マッピングは、数学的に説明することもできる。k次元の遅延埋め込み入力を、u[n]=[u
0(t),u
0(t-τ),u
0(t-2τ),…,u
0(t-(k-1)τ)]
Tとし、m次元のリザーバ状態を表すベクトルをx[n]とする。u
0(t)は、連続的な時間tにおける入力信号の値であり、τは、埋め込みにおけるサンプル間の遅延時間である。リザーバ状態は、現在の遅延埋め込み入力ベクトルu[n]と、前回の状態ベクトルとの線型関数として算出される:
【数1】
【0043】
ここで、Aはリザーバの接続(reservoir connectivity)を規定するm×mの行列であり、Bは入力からリザーバ208への線型マッピングを規定するm×kの行列である。限定するものではないが、行列A及びBとしては、たとえば両者をランダムに生成し(たとえば、各成分を、平均がゼロで分散が1の独立ガウス分布から選択し)、次いで、各行列のスペクトルノルムが1より小さくなるようなスカラーで割ることによって正規化した行列を採用することができる。
【0044】
状態空間表現210は、出力レイヤ212における固定数の出力ノード502a~502n(
図5)に対してマッピングされる。このマッピングは、リザーバ208の複数の状態に関する複数の異なる線型結合によるものであり、複数のプレフィルタ(pre-filtered)信号214が生成される。出力レイヤ212における各出力ノード502a~502nに対し固有の線型関数がある。このように、遅延埋め込み混合信号206のリザーバ状態空間表現210が、出力レイヤ212に対して線型マッピングされる。出力レイヤ212は、出力レイヤ212における1つ又は複数の出力ノード502a~502n(
図5)に対して状態空間表現210を線型マッピングすることにより、1組のプレフィルタ信号214を生成するよう構成されている。なお、本明細書においては、「線型結合」及び「線型関数」なる用語は、同義に用いられている。一例では、異なる線型関数の学習は、誤差関数の最小化のために行われるフィルタの中心周波数の学習と同じ方法で行うことが可能である。例えば、ニューロモーフィック信号プロセッサ200は、異なる線型関数の重みに関して、誤差関数モジュール220における誤差関数218の導関数を求め、各重みをフィルタの中心周波数と適合させる。
【0045】
出力レイヤ212の各出力ノード502a~502nは、適応フィルタ216のバンク(bank)のうち、それぞれに固有の有限フィルタに関連づけられている。一実施形態では、適応フィルタ216のバンクは、複数の有限インパルス応答(FIR)フィルタ及び複数の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む。適応フィルタ216のバンクは、全体として混合信号108(
図1)を形成する個々のソース信号104a~104nを生成するよう構成されており、この生成は、適応フィルタ216のバンクを介してプレフィルタ信号214を処理することにより行う。各プレフィルタ信号214は、バンクに含まれる適応フィルタ216のうちの対応するフィルタに供給されることにより、混合信号108を構成していた元のソース信号104a~104nが特定及び抽出される。よって、適応フィルタ216から出力されるのは、元のソース信号104a~104nであり、これが、ニューロモーフィック信号プロセッサ200、118(
図1)の最終出力である。分離されたソース信号104a~104nから、パルス記述語(PDW:pulse descriptor word)などの特徴を抽出する場合は、適当な特徴抽出モジュール222を用いる。様々な他の実施形態では、本システム又はニューロモーフィック信号プロセッサ200は、(ソース信号の特定/抽出ではなく)ソース信号104a~104nの生成又は信号データの分類を行い、及び/又は、分離したソース信号104a~104n、すなわち、データ信号を格納する。
【0046】
適応フィルタ216のバンクからの出力は、誤差関数モジュール220にも供給されて、1つ又は複数の誤差信号224が導出される。誤差信号224を用いて、適応フィルタ216の中心周波数の更新、及び、出力レイヤ212の出力ノード502a~502n(
図5)に関連づけられた線型結合の重みの更新が行われ、抽出信号122の抽出が行われる。この適応化により、適応フィルタ216と、ソース信号120a~120nの分離とが得られる。これらの側面について、以下にさらに詳しく説明する。
【0047】
さらに
図3を参照する。
図3は、
図2のニューロモーフィック信号プロセッサ200の遅延埋め込みモジュール204の一例を示す概略ブロック図である。既に説明したように、第2デジタル信号120、すなわち、第2デジタル混合信号は、ニューロモーフィック信号プロセッサ200への入力信号302(u(t))を形成する信号であり、1つ又は複数の遅延埋め込み混合信号206を形成する遅延埋め込みモジュール204を経由して継続的に供給される。遅延埋め込みは、混合信号108に含まれる異なるソース信号104a~104n(
図1)のダイナミクス(dynamics)を捕捉する第1段階である。入力信号302は、ソース信号102a~102nで構成される。入力信号302が有限個の一連の遅延304を経由することで遅延埋め込みが行われる。遅延値の時間間隔(Δt)は、一定である。タップ306が、各遅延304に関連づけられており、各遅延304の遅延信号値を複数の加算ノード308a~308nに分散させる。加算ノード308a~308nは、リザーバ208への入力となる遅延埋め込み混合信号206の生成を担う。加算ノード308a~308nは、リザーバ208における処理ノード404(
図4)毎に1つ設けられている。各加算ノード308aは、各第2デジタル混合信号120からの遅延信号値に対して固有の線型結合を施す。これらの異なる線型結合は、異なる周波数帯域のソース信号104a~104nのダイナミクスの増幅を助け、ソース信号分離の第1段階である。
【0048】
入力信号302であるu(t)は、ベクトルであってもよく、第2デジタル信号120で構成されている。各第2デジタル混合信号120に対して有限個の一連の遅延304が適用されて、複数の遅延埋め込み信号u(t),u(t-Δt),・・・u(t-MΔt)が生成される。ここで、Δtは、入力信号302に対する連続する遅延埋め込み値の時間間隔(すなわち、タップ306間の時間間隔)であり、Mは、遅延304の総個数である。概念上は、Δt及びMの値をそれぞれ一定とし、第2デジタル混合信号120が、各々特定の一連の遅延304を通過すると考えてよい。加算ノード308a~308nはN個あって、リザーバ208における処理ノードと個数が等しい。任意の加算ノード308iについて、各第2デジタル混合信号120の各遅延値は、重み付けられて、加算ノード308iに供給される。すると、この加算ノードがその入力値を合計して、N個の一次元信号(すなわち、遅延埋め込み混合信号206)のうちの1つを生成し、これがリザーバ208における対応する処理ノードに入力として供給される。タップ306から特定の加算ノード308iへの接続における重みはそれぞれに固有の重みであって、タップ306から他の加算ノード308a~308nへの接続における重みからは独立である。この柔軟性により、異なる周波数帯域において生じるソース信号のダイナミクスを増幅させることができる異なる線型結合が可能になり、ソース信号の分離のための第1ステップが実現される。
【0049】
さらに
図4を参照する。
図4は、
図2のニューロモーフィック信号プロセッサ200のリザーバ208の一例を示す概略ブロック図である。リザーバ208は、高次元又は多次元の力学系であり、いくつかの実施形態では、再帰型ニューラルネットワークとして実装される。リザーバ208は、時系列データを、リザーバ208の多次元状態空間における軌跡として符号化することを目的とする。たとえば、リザーバ208の状態空間における1つの点では、遅延埋め込みモジュール204から供給される入力データの履歴情報が符号化される。リザーバ208における各ノード404は、リザーバ状態を特定する1組のスカラー値を有する。リザーバ208の状態空間における1つの点は、リザーバ208における特定のノード404について複数のスカラー値が選択されたことに対応する。このようにして、リザーバ208は時間メモリ(temporal memory)を形成する。遅延埋め込みモジュール204及びリザーバ208は、協働して、混合信号108からソース信号104a~104nを予備的に分離する。リザーバ208は、遅延埋め込みモジュール204から入力402を受け取る。遅延埋め込みモジュール204からの入力402は、遅延埋め込み混合信号206に対応する。リザーバ208は、互いに接続された一群の処理ノード404を含み、ニューロンと呼ばれるこれらのノードは、重み付けされた接続(weighted connection)406を介して互いに通信する。重み付けされた接続406の各々には、接続重み(connection weight)408が関連付けられている。接続重み408は、ランダムに(例えば、一様分布又は正規分布から)生成されて、わずかな割合(例えば、約10%)の接続重み408のみが、非ゼロの値に設定される。加えて、接続重み408は全体として正規化されるので、隣接行列Aに埋め込まれると(たとえばAijは、処理ノードiから処理ノードjへの接続重みを有する)、Aのスペクトル半径が1より小さくなる。各処理ノード404すなわちニューロンは、重み付けされた入力の合計を算出するが、この合計には、遅延埋め込みモジュール204からの入力402だけでなく、リザーバ208における他の処理ノード404からの出力410も含まれる。この結果得られる各処理ノード404へのスカラー入力は、任意の処理として、非線型関数(限定するものではないが、そのような関数の一例には、双曲線正接関数(hyperbolic tangent function)がある)を経由させてもよく、これによって処理ノードの出力410を生成することもできる。
【0050】
処理ノード404の入力-出力処理は、ある時間継続して行われ、これにより経時的に得られる一連のリザーバ・ニューロン状態が、多次元のリザーバ208の状態空間における複数の点、すなわち、ソース信号104a~104nの本質的特徴を符号化した点を構成する。このように、リザーバ208は、1つ又は複数の混合信号108、206からソース信号104a~104nを抽出する処理において有用なステップを実現する。
【0051】
図5は、
図2のニューロモーフィック信号プロセッサ200のリザーバ208及び出力レイヤ212の一例を示す概略ブロック図である。いくつかの実施形態では、出力レイヤ212は、一組の出力ノード502a~502nを有する。各出力ノード502a~502nは、リザーバ208の各処理ノード404すなわちニューロンから重み付けされた出力504を入力として受け取り、これら重み付けされた出力504の値を合計して、出力ノード502a~502nの出力506a~506nを生成する。出力レイヤ212の各出力ノード502a~502nは、その入力側接続510に、適応可能な固有の重み508a~508nを有している。これらの重みは、リザーバ208の処理ノード404からの「出力重み」と呼ばれる。1つ又は複数の第2デジタル混合信号120がニューロモーフィック信号プロセッサ200に供給されると、重み508a~508nが本開示に記載するように適応化されて、任意の1つの出力ノード502a~502nからの出力506a~506nが、ソース信号104a~104nの一部の信号を増幅する一方、他のソース信号を抑制した出力になる。これは、混合信号108からソース信号104a~104nを分離する処理の第3段階である。なお、第1段階は、混合信号108すなわち第2デジタル信号の遅延埋め込み表現であり、第2段階は、リザーバ208表現である。
【0052】
図2に戻ると、いくつかの実施形態では、ニューロモーフィック信号プロセッサ200の最終段は、適応フィルタ216のバンクである。FIRフィルタとして利用可能な種類のフィルタについての唯一の制約は、周波数領域におけるゲイン応答が単峰形であるということであるが、リップルはあってもよい。ガウシアンフィルタは、利用可能なFIRフィルタの一例である。適応フィルタ216のバンクに含まれる各フィルタは、出力レイヤ212における出力ノード502a~502nのうちの1つと組み合わせられる。これにより、各適応フィルタ216およびこれに対応する出力ノード502a~502nの対を複数含む組が生成される。フィルタへ入力されるのは、出力レイヤ212において、当該フィルタに対応する出力ノード502a~502nにより生成される出力である。
【0053】
適応フィルタ216のバンクに含まれる各フィルタの中心周波数は、適応化、又は、設定が可能である。中心周波数の設定により、混合信号108、すなわち、第2デジタル混合信号120が、ニューロモーフィック信号プロセッサ118、200内で伝達される際に、各適応フィルタ216の中心周波数を、特定の1つのソース信号104a~104nの周波数に収束させることができる。本質的には、適応フィルタ216は、出力レイヤ212における出力ノード502a~502nの出力506a~506nに対する制約として機能して、1つの混合信号108又は複数の混合信号202からソース信号104a~104nのうちの1つのみを抽出するように各出力ノード502a~502nを制御する。ソース信号104a~104nの周波数は、時間の関数であってもよい。ニューロモーフィック信号プロセッサ118、200にとって、ソース信号104a~104nが満たすべき唯一の要件は、各信号が任意の所定の時間(interval of time)にわたって単一の周波数により特徴づけられるということである。ソース信号104a~104nの周波数帯域の狭さ、及び、上記所定の時間の短さは、リザーバ208におけるノード404の個数及び使用されるフィルタ係数の個数の関数である。
【0054】
図2に示す例のように、いくつかの実施形態では、誤差関数モジュール220は、ニューロモーフィック信号プロセッサ200のフィードバックコンポーネントであり、フィルタの中心周波数の適応化の誘導、及び、リザーバの処理ノード404から出力レイヤ212の出力ノード502a~502nへの入力側接続510における適応可能な重み508a~508n(出力重み)の適応化の誘導を担う。概念上は、各適応フィルタ216と出力レイヤの出力ノード502a~502nの対は、個々の誤差関数218の形式は同一であるとして、それぞれ固有の誤差関数218を有するとみなすことができる。具体的には、誤差関数218は、合計される項を3つ含む。第1項は、対応するフィルタの出力の負の指数(negative power)である。この負の指数は、次式で算出される:
【数2】
式中、y(t)は、時間tにおける適応フィルタ216の出力であり、Mは、平均において用いられたサンプルの数である。第1の目的は、負の指数を最小化(指数を最大化)することである。一般に、これにより、フィルタの中心周波数をソース信号周波数のうちの1つに近づけうる。第2項は、フィルタ出力と、出力レイヤ212における対応する出力ノード502a~502nの出力との差分平方和である。これは、第2の目的である、フィルタの入力と出力のずれの最小化につながる。このようにすると、混合信号108に含まれるソース信号104a~104nのうち、適応フィルタ216が「認識」できる信号の数を限定することができ、よって、適応フィルタ216がソース信号104a~104nのうち抽出対象とする単一の信号に集中しやすくなる。第3項は、「ペナルティ項」とも呼ばれる項であり、適応フィルタ216同士のフィルタ領域が互いに近くなりすぎて、同一のソース信号を抽出してしまうことを防ぐ。例えば、dw
ij=|w
i-w
j|とし、w
i及びw
jは、それぞれフィルタi及びフィルタjの中心周波数を表す場合、ペナルティ項は、次式により与えられる:
【数3】
式中、Gは、平均がゼロで分散はエンドユーザが指定するガウス分布を表し、Nは、適応フィルタ216の個数を表す。
【0055】
誤差関数218の出力は、誤差信号224の生成に利用される。誤差信号224は、フィルタの中心周波数の適合化、及び、リザーバ208から出力レイヤ212への入力側接続510における重み508a~508nの適合化に利用される。誤差信号224は、出力重み508a~508n及びフィルタの中心周波数に関する誤差関数218の導関数を求めることにより生成される。システムパラメータ、すなわち、フィルタの中心周波数及び出力重み508a~508nは、上記導関数を用いて誤差関数218に対して勾配降下法を実行することにより適応化することができる。既に説明したように、各適応フィルタ216と出力レイヤ212の力ノード502a~502nとの対は、それぞれ固有の誤差関数218を有すると考えてよい。各誤差関数218については、基本的な勾配降下法を用いて出力重み508a~508nを適応させるが、ニューロモーフィック信号プロセッサ118、200は、局所探索と大域探索とを組み合わせた独自の形式の勾配降下法を用いてフィルタの中心周波数を適応させる。これにより、ニューロモーフィック信号プロセッサ118、200は、少なくとも30GHzという超広帯域のソース信号をカバーすることができ、しかも、ソース信号104a~104nを迅速に捉え、追跡する機能はそのまま維持できる。例えば、一実施形態では、ニューロモーフィック信号プロセッサ118、200は、弾力性誤差逆伝搬法(Rprop)とランダム探索とを融合させる。Rpropの参考例は、例えば、Igel C.及びHusken M.共著の「Improving the Rprop learning algorithm(Rprop学習アルゴリズムの改善)」、2nd Int. Symposium on Neural Computation(第2回ニューラルコンピューティング国際シンポジウム)(NC’2000)の議事録、115-21ページ、ICSC Academic Press、2000年に記載されている。Rpropコンポーネントは、勾配の符号の情報のみを利用し、その大きさは利用しないので、限定的な精度のハードウェアで実装するのに好適である。加えて、Rpropのコンポーネントは、適応可能な刻み幅を使って、より正確に中心周波数に追跡することができる。Rpropは、次式により更新される:
【数4】
式中、d
t=sgn(p(x,f
t+ε)-p(x,f
t))は、フィルタの出力パワーの導関数の符号であり、Δf
tは、周波数のインクリメントを表す。Δf
tは、出力パワーの導関数の符号反転シーケンスにより決定される:
【数5】
式中、μ
+,μ
-,Δf
max及びΔf
minは、ユーザにより定義されるパラメータであり、Prop更新のダイナミクスを決定する。周波数のランダムな更新値は、平均ゼロのガウス乱数変数からサンプリングされる。なお、その分散σは、ユーザにより特定されるパラメータである。ランダム探索コンポーネントは、適応化プロセスの各ステップにおいて、中心周波数の小サンプルをガウス分布から生成することで動作する。これにより、広範な帯域幅を迅速にカバーするフィルタ中心周波数が可能になり、追跡すべき特定のソース信号を対象とすることができる。Rpropにより提示される中心周波数、及び、ランダム探索コンポーネントにより生成される中心周波数は、ペナルティ項に含まれる現在の入力シーケンス及び現在の中心周波数を用いて、誤差関数218により評価される。誤差の最も小さい周波数が、対応するフィルタにおける次の中心周波数として選択される。
【0056】
図6は、本開示の実施形態による、混合信号に含まれる少なくとも1つの他の信号を分析するために混合信号から抽出信号を除去する方法600の一例を示すフローチャートである。例示的な方法600は、
図1のシステム100において実現及び実行される。他の実施形態では、例示的な方法600は、コンピュータプログラム製品において、例えば、
図1に示し、かつ、本明細書に記載したコンピュータプログラム製品138において実現される。コンピュータプログラム製品138は、例示的な方法600をシステム100にロードするのに利用される。抽出信号は、スペクトル分析の対象とされている他の信号よりも振幅が大きい場合がある。ブロック602において、システムは混合信号を受信し、他の信号のスペクトルを検査するために信号除去を行う。いくつかの例では、混合信号は、異なる信号源から個別に発せられた複数のソース信号を含む。他の例では、混合信号は異なる発信源からのパルスがノイズと共に混合された信号である。一実施形態では、ADCが混合信号を受信する。他の実施形態では、ブロック604に示すように、混合信号は、ADCによるデジタル化あるいはサンプリングのために、所定のレベルあるいは振幅に増幅される。ソース信号のうちのいくつか、あるいは、分析の対象であるソース信号の振幅が、混合信号を構成する他のソース信号に比べて極端に小さいこともあるので、混合信号の増幅が必要になる場合がある。混合信号を増幅すれば、混合信号に含まれる所望のソース信号も増幅される。これにより、本明細書に記載するように、所望のソース信号の分析のために、より大きな振幅を有する1つ又は複数のソース信号を混合信号から抽出及び除去することができる。
【0057】
ブロック606において、混合信号又は増幅後の混合信号がデジタル化又はサンプリングされて、第1デジタル信号及び第2デジタル信号が生成される。第1デジタル信号及び第2デジタル信号は、いずれもデジタル混合信号に対応し、第1デジタル混合信号及び第2デジタル混合信号と呼ばれることもある。第1デジタル信号及び第2デジタル信号は、同一あるいは等価の信号である。
【0058】
ブロック608において、第1デジタル信号又は第1デジタル混合信号を所定の遅延時間だけ遅延させる。第1デジタル信号の遅延時間は、ニューロモーフィック信号プロセッサによる遅延埋め込みを補償するように行われる。したがって、所定の遅延時間は、ニューロモーフィック信号プロセッサによる遅延埋め込みに対応する。
【0059】
ブロック610において、ニューロモーフィック信号プロセッサにより第2デジタル信号又は第2デジタル混合信号が処理されて、第2デジタル信号から抽出信号が抽出される。上述したように、抽出信号は、混合信号の一部として受信された他の信号よりも大きい、つまり、振幅が大きい場合がある。他の信号とは、スペクトル分析あるいはその他の分析など分析対象の信号、すなわち、検査用入力信号である。ニューロモーフィック信号プロセッサにおける第2デジタル信号又はデジタル混合信号の処理の例については、
図7を参照してより詳細に説明する。
【0060】
ブロック612において、抽出信号及び第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅を特定する。抽出信号と第1デジタル信号との間の位相遅れ及び振幅の差を特定又は検出すれば、抽出信号を調整して第1デジタル信号からキャンセルすることが可能になる。ブロック614において、抽出信号の位相遅れ及び振幅を第1デジタル信号に基づいて調整して、第1デジタル信号に対して位相を180度ずらした調整済みの抽出信号を生成する。
【0061】
ブロック616において、調整済み抽出信号を第1デジタル信号からキャンセルして、検査用入力信号を供給する。調整済み抽出信号は第1デジタル信号と位相が180度ずれているので、
図1の加算接続手段132において両信号が結合されると、第1デジタル信号から調整済み抽出信号がキャンセルすなわち除去される。ブロック618において、検査用入力信号を分析する。一実施形態では、検査用入力信号のスペクトルを検査あるいは分析する。他の実施形態では、検査用入力信号に関連づけられた他のパラメータを分析する。一例では、検査用入力信号は、スペクトルアナライザにより分析され、他の例では、ニューロモーフィック信号プロセッサにより分析される。
【0062】
図7は、本開示の実施形態における、混合信号から特定の信号を抽出する方法700の一例を示すフローチャートである。方法700は、
図2~
図5を参照して説明したニューロモーフィック信号プロセッサ200などのニューロモーフィック信号プロセッサを用いて1つ又は複数の特定の信号を抽出する例である。例示的な方法700は、ニューロモーフィック信号プロセッサ200により実現及び実行される。他の実施形態では、例示的な方法700は、
図1に示したコンピュータプログラム製品138などのコンピュータプログラム製品において実現される。コンピュータプログラム製品は、本明細書中で既に説明したものと同様である。コンピュータプログラム製品138は、システム100又はニューロモーフィック信号プロセッサ118に例示的な方法700をロードするのに用いられる。
【0063】
ブロック702において、1つ又は複数の混合信号、すなわち第2デジタル信号がニューロモーフィック信号プロセッサにより受信される。ブロック704において、混合信号、すなわち第2デジタル信号に基づいて、遅延埋め込み混合信号が生成される。
【0064】
ブロック706において、遅延埋め込み混合信号は、
図2~
図4を参照した先の説明と同様に、リザーバに線型マッピングされる。
【0065】
ブロック708において、遅延埋め込み混合信号をリザーバにおける複数のリザーバ状態と結合することにより、混合信号についての状態空間表現が生成される。
【0066】
ブロック710において、全体として混合信号を構成する別個のソース信号のうちの少なくとも1つが、混合信号の状態空間表現に基づいて特定される。特定された少なくとも1つの別個のソース信号が、抽出される信号である。
【0067】
ブロック712において、出力レイヤにおける1つ又は複数の出力ノードに対して状態空間表現が線型マッピングされて、1組のプレフィルタ信号が生成される。出力レイヤは、1組の出力ノードを有し、リザーバは、複数の処理ノードを有する。ブロック714において、各出力ノードは、重み付けされた出力を各リザーバ処理ノードから入力として受け取り、各出力ノードは、各入力の値を合計して、その出力ノードの出力を生成する。出力レイヤにおける出力ノードは、適応可能な固有の重みの組を入力側の接続に有しており、これにより、1つ又は複数の混合信号がニューロモーフィック信号プロセッサに供給されると、任意の1つの出力ノードからの出力が、一部のソース信号を増幅し、且つ、他のソース信号を抑制した出力になるように、出力重みが設定あるいは適応化される。
【0068】
ブロック716において、プレフィルタ信号に対して適応フィルタリングを施すことにより、個々のソース信号のうちの少なくとも1つが特定される。プレフィルタ信号に適応フィルタリングを施すことは、適応可能な有限インパルス応答(FIR)フィルタのバンクにプレフィルタ信号を通過させることを含む。各プレフィルタ信号は、適応FIRフィルタのバンクのうち、その信号に固有のフィルタに供給される。個々のフィルタは、適応可能、つまり、設定可能な中心周波数を有する。
【0069】
ブロック718において、各適応FIRフィルタの出力に基づいて、誤差信号が導出される。誤差信号は、ブロック716にフィードバックされ、上述の説明と同様に、適応可能FIRフィルタの中心周波数の更新に利用される。誤差信号は、ブロック714にもフィードバックされ、上述したのと同様に、出力レイヤの出力重みの更新に利用される。
【0070】
ブロック720において、フィルタの出力から特定の1つ又は複数のソース信号が抽出される。次いで、混合信号から抽出信号がキャンセルされて、検査用入力信号がスペクトル分析又は検査のために提供される。
【0071】
添付図面におけるフローチャート及びブロック図は、本開示の様々な実施形態におけるシステム、方法及びコンピュータプログラム製品について可能な実施態様の構造、機能、及び動作を示すものである。この点において、フローチャート又はブロック図における各ブロックは、モジュール、セグメント、又は、命令の一部を表し、これらは、特定された論理機能を実現するための1つ又は複数の実行可能な命令を構成する。代替的な実施態様によっては、ブロックに示した機能が、図に示した順序とは異なる順序で行われてもよい。例えば、関連する機能によっては、連続するものとして示されている2つのブロックが、実際には実質的に同時に実行されてもよいし、あるいは、これらのブロックが逆の順序で実行されてもよい。なお、ブロック図及び/又はフローチャートにおける各ブロック、及び、ブロック図及び/又はフローチャートにおけるブロックの組み合わせは、特定された機能又は動作を実行する、あるいは、特定用途向けハードウェアとコンピュータ命令との組み合わせを実装する特定用途向けのハードウェアベースのシステムによって実現することができる。
【0072】
本明細書で使用されている用語は、あくまでも特定の実施形態の説明を目的としており、本開示の実施形態を限定することを意図したものではない。本明細書における単数形の記載は、文脈上で明らかに矛盾しない限り、複数形も包含することを意図している。また、本明細書において「含む」及び/又はこれに類する用語が使われている場合、これらは、記載した特徴、部分、ステップ、動作、要素、及び/又はコンポーネントが存在することを意味するが、他の特徴、部分、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループが1つ又は複数存在すること又は追加されることを排除するものではない。
【0073】
添付の特許請求の範囲における、全ての「手段又はステップ+機能」要素に対応する構成、材料、動作、及び均等物には、特許請求の範囲に具体的に記載された他の要素と組み合わせて、当該機能を発揮できる他の任意の構成、材料、又は動作が包含される。各実施形態の説明は、例示及び説明のために提示したものであり、すべてを網羅することや、開示した実施形態に限定することを意図するものではない。実施形態の範囲及び精神から逸脱することなく、多くの改変や変更が可能であることは、当業者には明らかであろう。
【0074】
本開示は、以下の付記による実施形態も包含する。
【0075】
付記1. 抽出した無線周波数(RF)信号122を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するための方法600であって、
異なる信号源106a~106nからの複数の別個のソース信号104a~104nを含む混合信号108をアナログ/デジタル変換器(ADC)112により受信すること602と、
前記混合信号を前記ADCによりデジタル化して、第1デジタル信号116及びこの第1デジタル信号と同じ第2デジタル信号120を生成すること606と、
前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させること608と、
前記遅延時間に対応する遅延埋め込み204が行われるニューロモーフィック信号プロセッサ118により前記第2デジタル信号を処理して、前記第2デジタル信号から抽出信号122を抽出すること610と、
前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて調整すること614と、
前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号130をキャンセルして、検査用の入力信号134を供給すること616と、を含む方法。
【0076】
付記2. 前記混合信号が前記ADCにより受信される前に、前記混合信号を増幅すること604をさらに含み、前記混合信号は、前記ADCでのサンプリングのために所定の振幅に増幅される、付記1に記載の方法。
【0077】
付記3. 前記抽出信号及び前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅を特定すること612と、前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅に基づいて、前記抽出信号に対する調整を生成することと、をさらに含む、付記1に記載の方法。
【0078】
付記4. 前記抽出信号の前記位相遅れ及び振幅を調整すること614は、前記第1デジタル信号に対して位相を180度ずらした前記調整済み抽出信号を生成することを含む、付記3に記載の方法。
【0079】
付記5. 前記第2デジタル信号を前記ニューロモーフィック信号プロセッサで処理することは、
前記第2デジタル信号を前記ニューロモーフィック信号プロセッサにより受信すること702と、
前記第2デジタル信号に基づいて、遅延埋め込み混合信号206を生成すること704と、
前記遅延埋め込み混合信号をリザーバ208に線型マッピングすること706と、
前記遅延埋め込み混合信号を複数のリザーバ状態と結合させることで、前記混合信号の多次元の状態空間表現210を生成すること708と、
全体として前記混合信号を形成する前記別個のソース信号のうちの少なくとも1つを、前記混合信号の前記多次元の状態空間表現に基づいて特定すること710と、を含み、前記特定された少なくとも1つの別個のソース信号が前記抽出信号である、付記1に記載の方法。
【0080】
付記6. 出力レイヤ212における1つ又は複数のノード502e~502nに対して前記多次元の状態空間表現を線型マッピングして、1組のプレフィルタ信号214を生成すること712をさらに含む、付記5に記載の方法。
【0081】
付記7. 前記プレフィルタ信号に適応フィルタリングを施すことで、前記別個のソース信号104a~104nのうちの少なくとも1つを特定すること716をさらに含む、付記6に記載の方法。
【0082】
付記8. 前記プレフィルタ信号に適応フィルタリングを施すこと716は、前記プレフィルタ信号を適応フィルタ216のバンクに通すことを含み、各プレフィルタ信号は、前記適応フィルタのバンクのうちの固有のフィルタに供給され、各固有のフィルタの中心周波数は適応可能である、付記7に記載の方法。
【0083】
付記9. 前記適応フィルタ216のバンクは、複数の有限インパルス応答(FIR)フィルタ及び複数の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む、付記8に記載の方法。
【0084】
付記10. 前記出力レイヤは、1組の出力ノード502a~502nを含み、前記リザーバは、複数の処理ノード404を含み、各出力ノードは、重み付けされた出力504を各処理ノードから入力として受け取り、各出力ノードは、各入力の値を合計して、当該出力ノードの出力506a~506nを生成する、付記8に記載の方法。
【0085】
付記11. 前記出力レイヤの各出力ノードは、適応可能な固有の1組の出力重み508a~508nをその入力側接続510に有し、1つ又は複数の混合信号が前記ニューロモーフィック信号プロセッサに供給された場合、前記適応可能な出力重みは、任意の1つの出力ノードからの出力が一部のソース信号を増幅し且つ他のソース信号を抑制した出力になるように設定されている、付記10に記載の方法。
【0086】
付記12. 各適応フィルタ216からの出力に基づいて誤差信号224を導出すること718をさらに含み、前記誤差信号は、前記適応フィルタの前記適応可能な中心周波数の更新及び前記出力レイヤの前記適応可能な出力重みの更新に利用される、付記11に記載の方法。
【0087】
付記13. 抽出した無線周波数(RF)信号122を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するためのシステム100は、
混合信号108を受信するアナログ/デジタル変換器(ADC)112を含み、前記混合信号は、異なる信号源106a~106nからの複数の別個のソース信号104a~104nを含み、前記ADCは、前記混合信号をデジタル化して第1デジタル信号116及びこの第1デジタル信号と同じ第2デジタル信号120を生成し、
前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させる遅延回路114を含み、
前記第2デジタル信号を処理して前記第2デジタル信号から抽出信号122を抽出するニューロモーフィック信号プロセッサ118を含み、前記遅延時間は、前記ニューロモーフィック信号プロセッサによる遅延埋め込み204に対応し、
前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて前記抽出信号を調整する信号位相及び振幅調整モジュール126を含み、
前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号をキャンセルして、検査用の入力信号134を供給する加算接続手段132を含む。
【0088】
付記14. 前記混合信号が前記ADCにより受信される前に、前記混合信号を増幅する増幅器110をさらに含み、前記増幅器は、前記ADCでのサンプリングのために前記混合信号を所定の振幅に増幅する、付記13に記載のシステム。
【0089】
付記15. 前記抽出信号の位相遅れ及び振幅及び前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅を特定し、前記第1デジタル信号の前記位相遅れ及び振幅に基づいて、前記抽出信号に対する調整を生成する位相遅れ及び振幅算出モジュール124をさらに含む、付記13に記載のシステム。
【0090】
付記16. 前記信号位相及び振幅調整モジュールは、前記抽出信号の前記位相遅れを調整して、前記第1デジタル信号に対して位相を180度ずらした前記調整済み抽出信号130を生成する、付記13に記載のシステム。
【0091】
付記17. 前記ニューロモーフィック信号プロセッサ118、200は、
前記第2デジタル信号を受信し、前記第2デジタル信号に基づいて、遅延埋め込み混合信号206を生成する遅延埋め込みモジュール204と、
リザーバ208と、前記遅延埋め込み混合信号が線型マッピングされることにより、前記遅延埋め込み混合信号を複数のリザーバ状態と結合させることで前記混合信号の多次元の状態空間表現210を生成するよう構成されたリザーバ208と、
前記状態空間表現を1つ又は複数の出力ノード502a~502nに対して線型マッピングすることで、1組のプレフィルタ信号214を生成するよう構成された出力レイヤ212と、
適応フィルタ216のバンクと、を含み、全体として前記混合信号を形成する前記別個のソース信号は、前記プレフィルタ信号を前記適応フィルタのバンクを介して処理することで生成され、前記別個のソース信号のうちの少なくとも1つが、前記抽出信号として特定される、付記13に記載のシステム。
【0092】
付記18. 前記リザーバは、複数の処理ノード404を含み、前記出力レイヤは、1組の出力ノード502a~502nを含み、各出力ノードは、重み付けされた出力504を各処理ノードから入力として受け取り、各出力ノードは、各入力の値を合計して、当該出力ノードの出力を生成し、各出力ノードの前記出力重みは、一部のソース信号を増幅し、且つ、他のソース信号を抑制し、前記抽出信号は、前記別個のソース信号から特定される、付記17に記載のシステム。
【0093】
付記19. 前記検査用入力信号のスペクトルを分析するための装置136さらに含む、付記13に記載のシステム。
【0094】
付記20. 抽出した無線周波数(RF)信号を除去して少なくとも他の1つのRF信号のスペクトルを検査するためのコンピュータプログラム製品138であって、前記コンピュータプログラム製品は、プログラム命令が記録されたコンピュータ可読の記憶媒体を含み、前記コンピュータ可読の記憶媒体は一時的な記憶媒体そのものではなく、前記プログラム命令は、装置により実行されて前記装置に方法を実行させるものであり、前記方法は、
異なる信号源106a~106nからの複数の別個のソース信号104a~104nを含む合信号108をアナログ/デジタル変換器(ADC)112により受信すること600と、
前記混合信号を前記ADCによりデジタル化606し、かつ第1デジタル信号116及びこの第1デジタル信号と同じ第2デジタル信号120を生成することと、
前記第1デジタル信号を所定の遅延時間だけ遅延させること608と、
前記遅延時間に対応する遅延埋め込み204が行われるニューロモーフィック信号プロセッサ118で前記第2デジタル信号を処理して、前記第2デジタル信号から抽出信号122を抽出すること610と、
前記抽出信号の位相遅れ及び振幅を、前記第1デジタル信号の位相遅れ及び振幅に基づいて調整すること614と、
前記第1デジタル信号から調整済み抽出信号130をキャンセルして616、検査用の入力信号134を供給することと、を含む。
【0095】
本明細書には特定の実施形態を図示及び説明したが、当業者であればわかるように、同じ目的を達成するよう設計された任意の構成を、説明した特定の実施形態の代用とすることが可能であり、また、これら実施形態は、他の環境における他の用途も可能である。本出願は、いかなる改変又は変形例も包含することを意図している。以下の特許請求の範囲は、本開示の実施形態の範囲を、本明細書に記載した特定の実施形態に限定することを意図したものではない。