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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム、及び封止体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/26 20060101AFI20220511BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220511BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20220511BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220511BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20220511BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20220511BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B32B27/26
B32B9/00 A
G09F9/30 365
G09F9/30 310
H05B33/14 A
H05B33/14 Z
H05B33/04
H01L27/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018035784
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019150973
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】永縄 智史
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/035432(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/065812(WO,A1)
【文献】特開2016-140994(JP,A)
【文献】特開2009-095989(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01L 27/32
H05B 33/00- 33/28
C08F 2/00- 2/60
C09F 9/30- 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層、溶解防止層、及びガスバリア層をこの順で積層してなる積層体を有するガスバリア性フィルムであって、
前記樹脂層を形成する樹脂組成物が、芳香族環構造を有する熱可塑性樹脂(A)と2官能以上の多官能型の単量体又は重合体からなる硬化性成分(B)とを含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)と前記硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕が、質量比で35:65~95:5であり、
前記溶解防止層が、ケイ素化合物を含有する溶解防止層用組成物から形成された層であり、
前記樹脂層の厚みが1~40μmであり、前記溶解防止層の厚みが150~800nmであり、
前記ガスバリア層が、ケイ素化合物を含有するガスバリア層用組成物から形成された層であり、
前記積層体の破断伸度が2.0~9.0%であるガスバリア性フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上である、請求項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記溶解防止層が、実質的に無機物からなる、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記溶解防止層が、硬化性成分(B)を含有し、任意に熱可塑性成分(A)を含有する溶解防止層用組成物から形成された層であり、前記溶解防止層用組成物中、熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕が、質量比で0:100~34:66である、請求項1~のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア層が改質処理して形成された層である、請求項1~のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記積層体が、前記ガスバリア層における前記溶解防止層と接する面とは反対側の面に、接着剤層を積層してなる積層体である、請求項1~のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
有機EL素子、有機ELディスプレイ素子、無機EL素子、無機ELディスプレイ素子、電子ペーパー素子、液晶ディスプレイ素子、及び太陽電池素子からなる群より選択される少なくとも1種である被封止物が、請求項1~のいずれか一項に記載のガスバリ性ファイルムで封止されてなる封止体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルム、及び被封止物が当該ガスバリア性フィルムで封止されてなる封止体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子は、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。しかし、有機EL素子には、時間の経過とともに、発光輝度、発光効率、発光均一性等の発光特性が低下し易いという問題がある。
有機EL素子に代表される経時的な性能劣化の問題は、近年注目される電子部材や光学部材全般に概して当てはまる問題である。この原因として、電子部材や光学部材の内部に酸素や水分等が浸入し、性能劣化を引き起こしていると考えられる。
そして、この原因への対処方法として、層構成を有するガスバリア性の封止材で、被封止物となる電子部材や光学部材等を封止する方法がいくつか提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硬化樹脂層と、該硬化樹脂層の少なくとも片面にガスバリア層を有するガスバリアフィルムであって、前記硬化樹脂層が、ガラス転移温度(Tg)が140℃以上の熱可塑性樹脂(A)、及び硬化性成分(B)を含有する樹脂組成物の硬化物からなる層である、ガスバリアフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/065812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年においては、封止材の用途で用いるガスバリア性フィルムに対して、曲面を有する被封止物にあっても、好適に封止できるよう、適度な柔軟性と強度とによって曲面への形状追従性にも優れるガスバリア性フィルムが要望されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたガスバリアフィルムにあっては、耐溶剤性を得ることに主眼をおき、樹脂層を特定の形成材料を用いて硬化樹脂層とすることで、ガスバリア性を低下させる原因を排除し、優れたガスバリア性を得ているが、適度な柔軟性と強度とを得ることについては、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高くガスバリア性に優れ、且つ、引張応力に対して破断し難く適度な柔軟性と強度とを備えた、ガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させて積層体とし、当該積層体の破断伸度を特定の範囲に規定することで、ガスバリア性に優れ、且つ、適度な柔軟性と強度とを備えた、ガスバリア性フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]樹脂層、溶解防止層、及びガスバリア層をこの順で積層してなる積層体を有するガスバリア性フィルムであって、前記積層体の破断伸度が2.0~9.0%である、ガスバリア性フィルム。
[2]前記樹脂層が、硬化性成分(B)を含有する樹脂組成物から形成された層である、前記[1]に記載のガスバリア性フィルム。
[3]前記樹脂層が、更に熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物から形成された層である、前記[1]又は[2]に記載のガスバリア性フィルム。
[4]熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上である、前記[3]に記載のガスバリア性フィルム。
[5]前記樹脂組成物中、熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕が、質量比で35:65~95:5である、前記[2]~[4]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[6]前記樹脂層の厚みが1~40μmである、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[7]前記溶解防止層が、ケイ素化合物を含有する溶解防止層用組成物から形成された層である、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[8]前記溶解防止層が、実質的に無機物からなる、前記[1]~[7]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[9]前記溶解防止層が、硬化性成分(B)を含有し、任意に熱可塑性樹脂(A)を含有する溶解防止層用組成物から形成された層であり、前記溶解防止層用組成物中、熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕が、質量比で0:100~34:66である、前記[1]~[8]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[10]前記溶解防止層の厚みがに対する樹脂層の厚みの比率が、0.005倍以上0.15倍以下である、前記[1]~[9]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[11]前記ガスバリア層が、ケイ素化合物を含有するガスバリア層用組成物から形成された層である、前記[1]~[10]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[12]前記ガスバリア層が改質処理して形成された層である、前記[1]~[11]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[13]前記積層体が、前記ガスバリア層における前記溶解防止層と接する面とは反対側の面に、接着剤層を積層してなる積層体である、前記[1]~[12]のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム。
[14]有機EL素子、有機ELディスプレイ素子、無機EL素子、無機ELディスプレイ素子、電子ペーパー素子、液晶ディスプレイ素子、及び太陽電池素子からなる群より選択される少なくとも1種である被封止物が、前記[1]~[13]のいずれか一つに記載のガスバリ性ファイルムで封止されてなる封止体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高くガスバリア性に優れ、且つ、引張応力に対して破断し難く適度な柔軟性と強度とを備えた、ガスバリア性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、樹脂層、溶解防止層、及びガスバリア層をこの順で積層してなる積層体を有する。
ここで「ガスバリア性」とは、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する特性を指していう。
【0012】
本発明のガスバリア性フィルムは、樹脂層とガスバリア層との間に、溶解防止層を介在させた積層体から構成されるものであれば、特に限定されず、更に、溶解防止層と接する面とは反対側のガスバリア層面上に接着剤層を積層してなる積層体から構成することもできる。
なお、本発明のガスバリア性フィルムは、樹脂層、ガスバリア層、及び接着剤層等の最外層に位置する層の表面上に、さらに剥離シートを積層した構成としてもよい。
【0013】
本発明のガスバリア性フィルムが有する層構成としては、例えば、以下に示す態様が挙げられる。
・第1剥離シート/樹脂層/溶解防止層/ガスバリア層/接着剤層/第2剥離シート
前記した層構成の態様において、第1剥離シートと第2剥離シートとは、同一であっても異なるものであってもよい。
前記した層構成の態様は、ガスバリア性フィルムを封止材として使用する前の状態を表したものである。
ガスバリア性フィルムを封止材として使用する際には、通常、第2剥離シートを剥離除去し、露出した接着剤層の面と被封止物の面とを接着させて封止体を得るものである。また、封止材の接着剤層の面と被封止物の面とを接着させた後には、通常、第1剥離シートを剥離除去し、樹脂層を露出させて以下に示す層構成とすることができる。
・樹脂層/溶解防止層/ガスバリア層/接着剤層
なお、第1剥離シートは、樹脂層がガスバリア性フィルムの支持体としての機能を十分有していない場合に、剥離除去されるまでの間、ガスバリア性フィルムの支持体として機能する。
【0014】
[積層体]
本発明の積層体は、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させて構成する。
本発明では、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させることで、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを防止することができる。
具体的な場面として、ガスバリア層の形成時には、有機溶剤を含むガスバリア層用組成物を用いたとしても、溶解防止層の存在により、樹脂層表面はガスバリア層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受け難く、樹脂層表面の成分が溶解するのを防止することができる。
その一方で、溶解防止層の形成時には、有機溶剤を含む溶解防止層用組成物を用いた場合、樹脂層表面が、溶解防止層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受けて、樹脂層表面の成分が溶解する可能性はでてくる。しかし、たとえ樹脂層表面の成分が溶解したとしても、溶解防止層の存在により、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層にまで侵入してくることを防止することができる。
【0015】
本発明のガスバリア性フィルムを構成する積層体の水蒸気透過率は、好ましくは0.10(g/m/day)以下、より好ましくは0.05(g/m/day)以下、更に好ましくは0.01(g/m/day)以下である。
本発明においては、上記積層体の水蒸気透過率が、上記範囲にあることで、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高い優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムが得られる。
ここで「水蒸気透過率」とは、水蒸気透過率測定装置を用い、40℃、相対湿度90%の高温高湿環境下で測定される値を指していうが、より具体的な測定方法は、後述の実施例の方法に基づく。
【0016】
本発明のガスバリア性フィルムを構成する積層体の破断伸度は、2.0~9.0%の範囲にあり、好ましくは2.0~8.0%、より好ましくは2.0~7.0%の範囲にある。
上記積層体の破断伸度が2.0%未満である場合には、引張応力に対して破断し易く、適度な柔軟性が得られないおそれがある。
一方、上記積層体の破断伸度が9.0%超である場合には、引張応力に対して破断し難いものの、適度な強度が得られないおそれがある。
【0017】
ここで「破断伸度」とは、JIS K7127に準拠して測定される値を指していう。
より具体的に「破断伸度」とは、引張試験機を用い、チャック間距離を100mmとして所望の条件で引張試験を行い、測定用試料となる積層体が破断した際の引張試験後のチャック間距離Xmmを測定し、下記に示す数式1により算出される値を指していう。
なお、「チャック間距離」とは、引張試験機において測定用試料となる積層体を把持する把持部同士の距離を指していう。
【0018】
【数1】
【0019】
本発明において、前記した積層体の破断伸度を本発明の規定範囲(2.0~9.0%)に調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の事項を考慮することで、調整することができる。
・一般にガスバリア層は厚さ2μm以下程度の薄膜で形成されることが多いため、積層体の破断伸度への寄与は樹脂層の物理特性の影響が大きい。
・樹脂層が熱可塑性樹脂(A)及び硬化性成分(B)を含有する樹脂組成物から形成された層である場合には、硬化性成分(B)の量に対して、熱可塑性樹脂(A)の量が相対的に多いほど(例えば、熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比[(A):(B)]が、質量比で35:65又はこれよりも熱可塑性樹脂(A)の質量比が多い場合)積層体の破断伸度が高くなる傾向がある。
・樹脂層が熱可塑性樹脂(A)及び硬化性成分(B)を含有する樹脂組成物から形成された層である場合には、硬化性成分(B)が一分子中に有する反応性の官能基が少なく、また、硬化性成分(B)の分子量が大きいほど、積層体の破断伸度が高くなる傾向がある。
【0020】
本発明のガスバリア性フィルムを構成する積層体の面内位相差(リタデーション)は、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下の範囲にある。
本発明においては、上記積層体の面内位相差(リタデーション)が、上記範囲にあることで、例えば、ガスバリア性フィルムを、有機EL素子などの光学部材を封止する封止材の用途で用いた場合に、光の取り出し効率を向上させることができる。
前記した積層体の面内位相差(リタデーション)を上記範囲に調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の事項を考慮することで、調整することができる。
・面内位相差(リタデーション)は、各層に含まれる化合物(特に高分子化合物)の分子配向の異方性に影響される。ガスバリア層や溶解防止層を通常の製造方法で得た場合には、分子配向の異方性は生じないため、ガスバリア性フィルムの面内位相差(リタデーション)への寄与は樹脂層の物理特性や化学特性の影響が大きい。
・樹脂層を押出し製膜により得る場合には、無延伸で製造することにより、樹脂層に含まれる化合物の分子配向は等方的となり、面内位相差(リタデーション)の値は低下する。
・樹脂層を流延塗布により得た場合には、通常、樹脂層に含まれる化合物の分子配向は等方的となり、面内位相差(リタデーション)の値は低下する。
【0021】
(1)樹脂層
本発明のガスバリア性フィルムは樹脂層を有することで、ガスバリア層の損傷や劣化を抑制することができる。
【0022】
樹脂層の厚みは、好ましくは1~40μm、より好ましくは2~30μm、更に好ましくは3~20μm、より更に好ましくは3~15μmである。
上記樹脂層の厚みが、上記範囲にあることで、ガスバリア性フィルムに一般的に用いられる基材フィルムよりも厚みを薄くして用いることができる。その結果、ガスバリア性フィルム全体の総厚みを薄くすることができる。
そのため、本発明のガスバリア性フィルムは、部材の薄さが要求される被封止物(例えば、ディスプレイ素子等)を封止する封止材の用途にも好適に用いることができる。
このような厚みが薄い樹脂層は、一般的な基材フィルムと比べてガスバリア性フィルムの支持体としての機能は低いが、樹脂層が存在することで、通常、極めて薄膜で形成されるガスバリア層の損傷や劣化を好適に抑制すると共に、ガスバリア層単体の状態に比べてガスバリア性フィルムの取扱いを容易とすることができる。
また、樹脂層が存在することで、前記したようにガスバリア性フィルムが第1剥離シートを有する層構成であった場合に、第1剥離シートを効率よく好適に剥離除去することができる。
【0023】
本発明のガスバリア性フィルムが有する樹脂層は、例えば、樹脂を含む樹脂組成物から形成することができるが、前記した積層体の破断伸度を本発明で規定する範囲に調整する観点から、熱可塑性樹脂(A)及び硬化性成分(B)を含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。
以下、樹脂層の形成材料として好適な樹脂組成物に含まれる各成分について述べる。
【0024】
<熱可塑性樹脂(A)>
前記した樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含有させることで、適度な柔軟性を有する樹脂層とすることが容易となる。
ここで「熱可塑性樹脂(A)」とは、加熱により溶融又は軟化し、これを冷却すると固化する性質を有する樹脂を指していう。
【0025】
熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、芳香族環構造を有する樹脂、脂環式構造等の環構造を有する樹脂が挙げられるが、芳香族環構造を有する樹脂が好ましい。
芳香族環構造を有する樹脂としては、例えば、ポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、脂環式炭化水素系樹脂が好ましく、中でも、ポリスルホン系樹脂が好ましい。なお、ポリスルホン系樹脂は、変性ポリスルホン系樹脂であってもよい。
ここで「ポリスルホン系樹脂」とは、主鎖中にスルホン基(-SO-)を有する高分子化合物からなる樹脂を指していう。
ポリスルホン系樹脂としては、下記の(a)~(h)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物からなる樹脂が挙げられる。
これらの中でも、ポリスルホン系樹脂としては、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂が好ましく、中でも、ポリスルホン樹脂がより好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
【化2】
【0028】
熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは180℃以上である。
ここで「ガラス転移温度(Tg)」とは、粘弾性測定(周波数11Hz、昇温速度3℃/分で0~250℃の範囲で引張モードによる測定)により得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点の温度を指していう。
上記ガラス転移温度(Tg)が、上記範囲にあることで、耐熱性に優れる樹脂層を形成することができる。
【0029】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常100,000~3,000,000、好ましくは200,000~2,000,000、より好ましくは500,000~2,000,000である。
また、熱可塑性樹脂(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~5.0、より好ましくは2.0~4.5である。
ここで「重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値を指していう。
【0030】
熱可塑性樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは35~95質量%、より好ましくは40~85質量%、更に好ましくは45~75質量%、より更に好ましくは50~70質量%である。
なお、ここで「樹脂組成物の有効成分」とは、樹脂組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
上記熱可塑性樹脂(A)の含有量が、上記範囲にあることで、引張応力に対して破断し難く適度な柔軟性と強度とを備えた、ガスバリア性フィルムを得ることがより容易となる。。
【0031】
<硬化性成分(B)>
樹脂組成物は、硬化性成分(B)を含有することで、耐溶剤性に優れる樹脂とすることができる。
ここで「硬化性成分(B)」とは、(i)制御可能な硬化反応を起こしうる成分であり、例えば、エポキシ樹脂等の加熱により硬化する成分、(ii)重合性不飽和結合を有し、重合反応により硬化物を生成させる成分、或いは、(iii)重合反応により生成したポリマー同士の架橋反応により硬化物を生成させる成分等を指していう。
【0032】
上記(i)~(iii)の中でも、(ii)重合性不飽和結合を有し、重合反応により硬化物を生成させる成分(以下「重合性成分(B1)」ともいう。)としては、例えば、重合性不飽和結合を1つ有する単官能型の単量体又は重合体、重合性不飽和結合を2つ以上有する2官能以上の多官能型の単量体又は重合体が挙げられる。
なお、重合性不飽和結合を有する重合体としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、主鎖となるアクリル系重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する重合体が挙げられる。
重合性成分(B1)としては、2官能以上の多官能型の単量体又は重合体が好ましく、中でも、2官能以上の多官能型の単量体が好ましい。
以下、2官能以上の多官能型の単量体を例にとり、重合性成分(B1)について詳細に述べる。
2官能以上の多官能型の単量体としては、例えば、2~6官能の(メタ)アクリル酸誘導体が好ましく、中でも、2官能の(メタ)アクリル酸誘導体が好ましい。
2官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式1で示される化合物が挙げられる。
【0033】
【化3】
【0034】
式1中、Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Rは2価の有機基を表す。
で表される2価の有機基としては、下記式2で示される基が挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
式2中、sは1~20の整数を表し、tは1~30の整数を表し、uとvは、それぞれ独立に1~30の整数を表し、両末端の「-」は結合手を表す。
【0037】
式1及び式2で示される2官能の(メタ)アクリレート酸誘導体の具体例としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。
これらの中でも、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の、上記式1において、Rで表される2価の有機基がトリシクロデカン骨格を有するもの;プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等の、上記式1において、Rで表される2価の有機基がビスフェノール骨格を有するもの;9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等の、上記式1において、Rで表される2価の有機基が9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有するものが好ましい。
【0038】
硬化性成分(B)の分子量は、通常3000以下、好ましくは200~2000、より好ましくは200~1000である。
【0039】
硬化性成分(B)の含有量は、前記した樹脂組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは4~64質量%、より好ましくは14~59質量%、更に好ましくは24~54質量%、より更に好ましくは29~49質量%である。
ここで「樹脂組成物の有効成分」とは、樹脂組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
上記硬化性成分(B)の含有量が、上記範囲にあることで、耐溶剤性に優れ、溶解防止層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受け難い樹脂層を形成することができる。
【0040】
樹脂層は、熱可塑性樹脂(A)及び硬化性成分(B)を含有する樹脂組成物から形成された層であることが好ましい。
樹脂組成物に含まれる、熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕は、質量比で、好ましくは35:65~95:5、より好ましくは40:60~:85:15、更に好ましくは45:55~75:25である。
上記熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕が、上記範囲にあることで、樹脂層表面の成分が溶解するのを防止することが容易となると共に、前記した積層体の破断伸度を本発明で規定する範囲に調整することも容易となる。
【0041】
(重合開始剤)
樹脂組成物が重合性成分(B1)を含有する場合、樹脂組成物に重合開始剤を含有させることが好ましい。
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。
これらの中でも、重合開始剤としては、光重合開始剤が好ましく、具体的には、アルキルフェノン系光重合開始剤、リン系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤が好ましく、中でも、リン系光重合開始剤がより好ましい。
【0042】
リン系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィネート、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0043】
前記樹脂組成物に含有させる重合開始剤の含有量は、重合性成分(B1)100質量部に対して、好ましくは0.2~6.2質量部、より好ましくは0.2~5.2質量部、更に好ましくは0.2~4.2質量部である。
【0044】
本発明の一態様で用いる樹脂組成物が硬化性成分(B)として重合性成分(B1)を含有し、更に重合開始剤を含有する場合、熱可塑性樹脂(A)、重合性成分(B1)、及び重合開始剤の合計含有量は、樹脂組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%である。
なお、ここで「樹脂組成物の有効成分」とは、樹脂組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
【0045】
(溶媒)
樹脂組成物は、溶媒を加えて溶液の形態とすることが、樹脂層を塗布により形成する際に、樹脂組成物を塗布に適した性状に調整し易くする観点から好ましい。
溶媒としては、熱可塑性樹脂(A)を溶解又は分散させることができるものであれば、特に限定されず、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;1,3-ジオキソラン等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましく、中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0046】
樹脂組成物の調製に用いる溶媒の使用量は、熱可塑性樹脂(A)の固形分濃度が、好ましくは5~45質量%、より好ましくは5~35質量%、更に好ましくは5~25質量%となるように用いればよい。
【0047】
(その他の成分)
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、硬化性成分(B)、重合開始剤(C)、溶媒の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0048】
本発明によれば、たとえ樹脂層表面の成分が溶解したとしても、溶解防止層の存在により、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層にまで侵入してくることを防止することができる。
このことから、本発明における樹脂層が、有機溶剤の影響を受けて溶解し易い特性を有していたとしても、前記した積層体の破断伸度を本発明で規定する範囲に調整することができる限り、本発明の樹脂層として用いることができる。
【0049】
(2)溶解防止層
本発明における溶解防止層は、ガスバリア層と樹脂層とが直接接しないよう、樹脂層とガスバリア層との間に介在させる。
本発明では、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させることで、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを防止することができる。
具体的な場面として、ガスバリア層の形成時には、有機溶剤を含むガスバリア層用組成物を用いたとしても、溶解防止層の存在により、樹脂層表面はガスバリア層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受け難く、樹脂層表面の成分が溶解するのを防止することができる。
その一方で、溶解防止層の形成時には、有機溶剤を含む溶解防止層用組成物を用いた場合、樹脂層表面が、溶解防止層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受けて、樹脂層表面の成分が溶解する可能性はでてくる。しかし、たとえ樹脂層表面の成分が溶解したとしても、溶解防止層の存在により、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層にまで侵入してくることを防止することができる。
これにより、本発明によれば、ガスバリア性を低下させる原因を排除することができるため、たとえ樹脂層が有機溶剤の影響を受けて溶解し易い特性を有していたとしても、ガスバリア性を低下させることなく、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高くガスバリア性に優れた、ガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0050】
溶解防止層の厚みは、好ましくは50~2000nm、より好ましくは100~1000nm、更に好ましくは150~800nmである。
上記溶解防止層の厚みが、上記範囲にあることで、ガスバリア層の形成時には、有機溶剤を含むガスバリア層用組成物を用いたとしても、溶解防止層の存在により、樹脂層表面はガスバリア層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受け難く、樹脂層表面の成分が溶解するのを好適に防止することができる。
【0051】
溶解防止層の厚みに対する樹脂層の厚みの比率は、好ましくは0.005倍以上0.15倍以下、より好ましくは0.005倍以上0.08倍以下である。
上記溶解防止層の厚みに対する樹脂層の厚みの比率が、上記範囲にあることで、溶解防止層が前記した積層体の破断伸度に与える影響を小さくすることができる。
上記溶解防止層の厚みに対する樹脂層の厚みの比率は、小さければ小さいほど好ましい。上記溶解防止層の厚みに対する樹脂層の厚みの比率の下限値を0.005倍程度とすることで、薄い厚みの樹脂層を得つつ、溶解防止層の機能を好適に発揮することが容易となる。
【0052】
本発明のガスバリア性フィルムが有する溶解防止層が、溶解防止層用組成物から形成された層である場合、溶解防止層はケイ素化合物を含む溶解防止層用組成物から形成されることが好ましい。
以下、溶解防止層の形成材料として好適な溶解防止層用組成物に含まれる各成分について述べる。
【0053】
(ケイ素化合物)
溶解防止層用組成物は、ケイ素化合物を含有させることで、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを好適に防止することが容易となる。
ここで「ケイ素化合物」とは、ケイ素原子を含有する化合物であれば、特に限定されず、有機化合物であっても無機化合物であっても、高分子化合物であっても低分子化合物であってもよい。
本発明における溶解防止層用組成物は、後述するガスバリア層用組成物と同じ組成物であることが、溶解防止層とガスバリア層との層間密着性を向上させる観点や、両層の屈折率差を低減させる観点から好ましい。
【0054】
ケイ素化合物としては、例えば、ポリオルガノシロキサン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシラン化合物、ポリカルボシラン化合物等の高分子ケイ素化合物;酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の粒子;等が挙げられる。
これらの中でも、ケイ素化合物の含有率が高い溶解防止層が得られ易い観点から、ポリオルガノシロキサン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシラン化合物、ポリカルボシラン化合物等の高分子ケイ素化合物が好ましく、中でも、ポリシラザン化合物が好ましい。
本発明における溶解防止層用組成物には、後述するガスバリア層用組成物に含有させるケイ素化合物と同じ種類のものを含有させることが、溶解防止層とガスバリア層との層間密着性を向上させる観点や、両層の屈折率差を低減させる観点から好ましい。
例えば、ガスバリア層用組成物がケイ素化合物としてポリシラザン化合物を含む場合には、溶解防止層用組成物もポリシラザン化合物を含むことが好ましい。
【0055】
ここで「ポリシラザン化合物」とは、分子内に-Si-N-結合(シラザン結合)を含む繰り返し単位を有する重合体のことを指していい、具体的には、下記式3で表される繰り返し単位を有する重合体を指していう。なお、式3で表されるポリシラザン化合物は、ポリシラザン変性物であってもよい。
【0056】
【化5】
【0057】
式3中、nは繰り返し単位を示し、1以上の整数を表す。また、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、無置換若しくは置換基を有するアルキルシリル基を表す。
【0058】
式3で表されるポリシラザン化合物としては、Rx、Ry、Rzのうち、少なくとも1つの基が水素原子以外の炭素原子を含有する基を有する有機ポリシラザン化合物、Rx、Ry、Rzが全て水素原子である無機ポリシラザン化合物が挙げられる。
これらの中でも、ガスバリア層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受け難く、樹脂層表面の成分が溶解するのを防止する高い効果が得られることから、無機ポリシラザン化合物が好ましく、具体的にはペルヒドロポリシラザンが好ましい。
【0059】
本発明のガスバリア性フィルムが有する溶解防止層は、実質的に無機物からなることが好ましい。
ここで「実質的に無機物からなる」とは、無機物の含有量が、溶解防止層の全量(100質量%)に対して、90質量%以上であることを指していう。
溶解防止層が、気相法により形成された無機層である場合や、ケイ素化合物等の無機物を溶解防止層用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して90質量%以上含有する溶解防止層用組成物から形成された層である場合に、溶解防止層は実質的に無機物からなるものといえる。
なお、ここで「溶解防止層用組成物の有効成分」とは、溶解防止層組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
これにより、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを好適に防止することが容易となる。更に、溶解防止層が実質的に無機物からなる場合は、溶解防止層が実質的に有機物を含む場合に比べて、ガスバリア性フィルムを構成する積層体の水蒸気透過率を低く、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高くなる傾向、すなわちガスバリア性が高くなる傾向がみられる。
なお、ここで「実質的に有機物を含む」とは、有機物の含有量が、溶解防止層の全量(100質量%)に対して、10質量%を超えることを指していう。
【0060】
溶解防止層は、後述するガスバリア層と同様、改質処理されたものであってもよいし、未処理のものであってもよい。
しかしながら、溶解防止層を、ケイ素化合物を含む溶解防止層用組成物から形成する場合には、樹脂層表面が、溶解防止層用組成物に含まれる有機溶剤の影響を受けて、樹脂層表面の成分が溶解し、樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が溶解防止層にまで侵入してくると考えられる。
このため、溶解防止層を改質処理したとしても、溶解防止層にもガスバリア性が付与されるという効果は効率的に得られない可能性がある。
したがって、生産性の観点から、溶解防止層には改質処理をしないことが好ましい。溶解防止層用組成物がケイ素化合物としてポリシラザン化合物のみを含む場合、溶解防止層に改質処理を行わなければ、ポリシラザン化合物はすべてシリカガラス(酸化ケイ素)に転化される。したがって、この場合には、溶解防止層は無機物として酸化ケイ素のみを含み、窒化物を含まない。
【0061】
(硬化成分、熱可塑性樹脂)
また、溶解防止層用組成物は、硬化成分を含有することが好ましい。
これにより、樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを好適に防止することが容易となる。
溶解防止層用組成物に含有させる硬化成分は、樹脂組成物に含有させる硬化性成分(B)と同じものを用いることができる。
また、溶解防止層用組成物は、熱可塑性樹脂を含有してもよい。
溶解防止層用組成物に含有させる熱可塑性樹脂は、樹脂組成物に含有させる熱可塑性樹脂(A)と同じものを用いることができる。溶解防止層用組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含まないか、熱可塑性樹脂(A)を含んでいたとしても、その含有量を低減することが好ましい。
具体的には、溶解防止層用組成物に含まれる、熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕は、質量比で、好ましくは0:100~34:66、より好ましくは0:100~20:80である。
上記熱可塑性樹脂(A)と硬化性成分(B)との含有量比〔(A):(B)〕が、上記範囲にあることで、ガスバリア層を形成する際に樹脂層中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを好適に防止することが容易となる。
【0062】
本発明の一態様で用いる溶解防止層用組成物は、酸化ケイ素粒子(シリカ粒子)等の無機物を含有することができ、熱可塑性樹脂(A)、硬化性成分(B)及び無機物の合計含有量は、溶解防止層用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%である。
なお、ここで「溶解防止層用組成物の有効成分」とは、溶解防止層組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
なお、溶解防止層用組成物が硬化性成分(B)として重合性成分(B1)を含有し、更に重合開始剤を含有してもよい。
【0063】
(溶媒)
溶解防止層用組成物は、溶媒を加えて溶液の形態とすることが、溶解防止層を塗布により形成する際に、溶解防止層用組成物を塗布に適した性状に調整し易くする観点から好ましい。
溶媒としては、前記したケイ素化合物を溶解又は分散させることができるものであれば、特に限定されず、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;1,3-ジオキソラン等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒が好ましい。
【0064】
溶解防止層用組成物の調製に用いる溶媒の使用量は、溶解防止層用組成物の有効成分の濃度が、好ましくは5~50質量%、より好ましくは5~40質量%、更に好ましくは10~30質量%となるように用いればよい。
なお、ここで「溶解防止層用組成物の有効成分」とは、溶解防止層用組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
【0065】
(その他の成分)
溶解防止層用組成物は、ケイ素化合物、溶媒の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、UV硬化型樹脂、硬化剤、老化防止剤、光安定化剤、難燃剤等が挙げられる。
【0066】
(3)ガスバリア層
本発明におけるガスバリア層は、前記した溶解防止層上に積層してなる。
本発明のガスバリア性フィルムはガスバリア層を有することで、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高い優れたガスバリア性を発揮させることができる。ガスバリア性フィルムのガスバリア性を向上させるという効果をより効率的に得る観点から、ガスバリア層は溶解防止層上に、他の層を介さずに直接積層されることが好ましい。
【0067】
ガスバリア層の厚みは、好ましくは50~2000nm、より好ましくは50~1000nm、更に好ましくは50~500nmである。
上記ガスバリア層の厚みが、上記範囲にあることで、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高い優れたガスバリア性を発揮させることができる。
【0068】
本発明のガスバリア性フィルムが有するガスバリア層が、ガスバリア層用組成物から形成された層である場合、ガスバリア層は、ケイ素化合物を含むガスバリア層用組成物から形成されることが好ましい。
以下、ガスバリア層の形成材料として好適なガスバリア層用組成物に含まれる各成分について述べる。
【0069】
(ケイ素化合物)
ガスバリア層用組成物は、ケイ素化合物を含有させることで、優れたガスバリア性を好適に発揮させることが容易となる。
本発明におけるガスバリア層用組成物は、前述した溶解防止層用組成物と同じ組成物であることが、溶解防止層とガスバリア層との層間密着性を向上させる観点や、両層の屈折率差を低減させる観点から好ましい。
【0070】
ケイ素化合物としては、例えば、ケイ素化合物の含有率が高いガスバリア層が得られ易いポリオルガノシロキサン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシラン化合物、ポリカルボシラン化合物等の高分子ケイ素化合物等が挙げられる。
これらの中でも、高いガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを得る観点から、ポリシラザン化合物が好ましい。
本発明におけるガスバリア層用組成物には、前述した溶解防止層用組成物に含有させるケイ素化合物と同じ種類のものを含有させることが、溶解防止層とガスバリア層との層間密着性を向上させる観点や、両層の屈折率差を低減させる観点から好ましい。
例えば、溶解防止層用組成物がケイ素化合物としてポリシラザン化合物を含む場合には、ガスバリア層用組成物もポリシラザン化合物を含むことが好ましい。
【0071】
ここで「ポリシラザン化合物」とは、分子内に-Si-N-結合(シラザン結合)を含む繰り返し単位を有する重合体のことを指していい、具体的には、下記式3で表される繰り返し単位を有する重合体を指していう。なお、式3で表されるポリシラザン化合物は、ポリシラザン変性物であってもよい。
【0072】
【化6】
【0073】
式3中、nは繰り返し単位を示し、1以上の整数を表す。また、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、無置換若しくは置換基を有するアルキルシリル基を表す。
【0074】
式3で表されるポリシラザン化合物としては、Rx、Ry、Rzのうち、少なくとも1つの基が水素原子以外の炭素原子を含有する基を有する有機ポリシラザン化合物、Rx、Ry、Rzが全て水素原子である無機ポリシラザン化合物が挙げられる。
これらの中でも、優れたガスバリア性を発揮させる高い効果が得られることから、無機ポリシラザン化合物が好ましく、具体的にはペルヒドロポリシラザンが好ましい。
【0075】
本発明の一態様で用いるガスバリア層用組成物において、ケイ素化合物の含有量は、ガスバリア層用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%である。
なお、ここで「ガスバリア層用組成物の有効成分」とは、ガスバリア層用組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
【0076】
(溶媒)
ガスバリア層用組成物は、溶媒を加えて溶液の形態とすることが、ガスバリア層を塗布により形成する際に、ガスバリア層用組成物を塗布に適した性状に調整し易くする観点から好ましい。
溶媒としては、前記したケイ素化合物を溶解又は分散させることができるものであれば、特に限定されず、前述した溶解防止層用組成物と同じ溶媒を用いることができ、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒が好ましい。
【0077】
ガスバリア層用組成物の調製に用いる溶媒の使用量は、ガスバリア層用組成物の有効成分の濃度が、好ましくは5~50質量%、より好ましくは5~40質量%、更に好ましくは10~30質量%となるように用いればよい。
なお、ここで「ガスバリア層用組成物の有効成分」とは、ガスバリア層用組成物中に含まれる溶媒を除いた成分を指していう。
【0078】
(その他の成分)
ガスバリア層用組成物は、ケイ素化合物、溶媒の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、UV硬化型樹脂、硬化剤、老化防止剤、光安定化剤、難燃剤等が挙げられる。
【0079】
本発明におけるガスバリア層は、優れたガスバリア性を発揮させる観点から、改質処理して形成された層であることが好ましい。
ガスバリア層を改質処理する方法としては、例えば、イオンを注入して改質するイオン注入処理;プラズマ中に晒して改質するプラズマ処理;紫外線を照射して改質する紫外線照射処理;等が挙げられる。
これらの中でも、ガスバリア層の表面を荒らすことなく、その内部まで効率よく改質し、ガスバリア性に優れるガスバリア層が形成されることから、ガスバリア層の改質処理としては、イオン注入処理が好ましい。
【0080】
イオン注入処理に用いられるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオンが好ましく、中でも、アルゴンが好ましい。
イオンを注入する方法としては、特に限定されないが、簡便にイオン注入処理できることから、プラズマ中のイオン(プラズマ生成ガスのイオン)を注入する方法が好ましい。
【0081】
なお、ガスバリア層を改質処理する方法として、紫外線を照射して改質する紫外線照射処理を採用することもできる。紫外線照射処理に用いられる紫外線としては、例えば、真空紫外光が挙げられる。
真空紫外光を照射して改質する紫外線照射処理としては、例えば、特開2017-095758号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0082】
(4)接着剤層
本発明のガスバリア性フィルムは、樹脂層とガスバリア層との間に、溶解防止層を介在させた積層体から構成されるものであれば、特に限定されず、更に、ガスバリア層における溶解防止層と接する面とは反対側の面に接着剤層を積層してなる積層体から構成することもできるし、溶解防止層と接する面とは反対側の樹脂層の面上に接着剤層を積層してなる積層体から構成することもできる。
本発明のガスバリア性フィルムが接着剤層を有することで、接着剤層の面と被封止物の面とを接着させて封止体を得ることができる。
【0083】
本発明のガスバリア性フィルムが有する接着剤層は、特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のものを使用することができる。
接着剤層を形成する材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、及び熱硬化性樹脂を含む接着剤層用組成物を挙げることができる。
【0084】
接着剤層の厚みは、好ましくは0.5~100μm、より好ましくは1~60μm、更に好ましくは3~40μmである。
上記接着剤層の厚みが、上記範囲にあることで、本発明のガスバリア性フィルムを封止材として用いる際に、好適に用いることができる。
【0085】
(ガスバリア性フィルムの作製方法)
本発明におけるガスバリア性フィルムの作製方法は、特に限定されないが、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
先ず、樹脂組成物を剥離シートの剥離処理面上に塗布し、塗膜を形成し、所望の条件で塗膜を乾燥させて剥離処理面上に樹脂層を形成する。この樹脂層上に、溶解防止層用組成物を塗布し、塗膜を形成し、所望の条件で塗膜を乾燥させ樹脂層上に溶解防止層を形成する。
なお、溶解防止層用組成物がポリシラザン化合物を含む場合には、塗膜を乾燥させた後、高温高湿環境下(例えば、60℃、相対湿度90%)にて数時間静置することにより転化処理を行うことが好ましい。
そして、この溶解防止層上に、ガスバリア層用組成物を塗布し、塗膜を形成し、所望の条件で塗膜を乾燥させて、改質処理を施し、溶解防止層上にガスバリア層を形成し、剥離シート/樹脂層/溶解防止層/ガスバリア層の層構成を有する、ガスバリア性フィルムを作製することができる。
【0086】
前記した各組成物の塗布方法としては、溶液法が挙げられ、例えば、ダイコート法、スピンコート法、バーコート法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ロールナイフコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法、ブレードコート法等が挙げられる。
【0087】
溶解防止層が気相法により形成された無機層である場合、気相法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法(熱蒸着、プラズマ蒸着)、化学気相堆積法、原子層堆積法等が挙げられる。
無機層を構成する無機物としては、無機酸化物(MO)、無機窒化物(MN)、無機炭化物(MC)、無機酸化炭化物(MO)、無機窒化炭化物(MN)、無機酸化窒化物(MO)、無機酸化窒化炭化物(MO)等が挙げられる。
ここで「M」は、ケイ素、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、カルシウム、ジルコニウム、チタン、ホウ素、ハフニウム、バリウム、スズ等の金属元素を表す。
また、無機層を構成する無機物は、二種以上の異なる金属元素を含むものであってもよい。
無機物に属する金属としては、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、スズ、及びこれらの二種以上からなる合金等が挙げられる。無機層は、無機物を一種含有してもよく、二種以上含有してもよい。
【0088】
[封止体]
本発明の封止体は、被封止物を、本発明のガスバリア性フィルムを封止材として、封止されてなるものである。本発明によれば、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高くガスバリア性に優れたガスバリア性フィルムを得ることができる。このため、被封止物の内部に酸素や水蒸気等の気体が侵入し、被封止物の性能を劣化させてしまう等の不具合を発生し難いものとすることができる。
よって、本発明の封止体は、長期にわたって被封止物の性能維持が要求される用途で好適に用いることができる。
被封止物としては、有機EL素子、有機ELディスプレイ素子、無機EL素子、無機ELディスプレイ素子、電子ペーパー素子、液晶ディスプレイ素子、及び太陽電池素子からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0089】
(封止体の作製方法)
本発明の封止体の作製方法は、特に限定されないが、例えば、封止材とする本発明のガスバリア性フィルムが、以下に示す態様であった場合には、先ず第2剥離シートを剥離除去し、露出した接着剤層の面と被封止物の面とを貼り合わせ、所望の条件で接着させて封止体を得るものである。
・第1剥離シート/樹脂層/溶解防止層/ガスバリア層/接着剤層/第2剥離シート
通常、第1剥離シートは、接着剤層の面と被封止物の面とを接着させた後には、剥離除去される。
このような封止体の作製方法によれば、樹脂層がガスバリア性フィルムの支持体としての機能を十分有していない場合であっても、すなわち、樹脂層の厚みが非常に薄い場合であっても、第1剥離シートが剥離除去されるまでの間、第1剥離シートがガスバリア性フィルムの支持体として機能するため、樹脂層の破断や変形が防止され、取り扱い性に優れる。
【実施例
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下に記載する「部」及び「%」は、特に言及しない限り「質量基準」である。
【0091】
(実施例1)
[ガスバリア性フィルムの作製]
(1)樹脂層の形成工程
熱可塑性樹脂(A)として、ポリスルホン樹脂(PSF)のペレット(BASF社製、「ULTRASON S3010」、Tg=180℃)55質量部を、ジクロロメタンに溶解し、PSFの15%溶液を調製した。
この溶液に、硬化性成分(B)として、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業社製、ADCP)45質量部、及び、重合開始剤として、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(BASF社製、「Irgacure 819」)1質量部を添加、混合して、樹脂組成物を調製した。
【0092】
剥離シートとして、易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、「PET50A-4100」、厚み50μm)の非処理面上に、前記で調製した樹脂組成物を、乾燥後の厚みが10μmになるようにダイコート法により塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を50℃で2分間、次いで140℃で2分間加熱することで、塗膜を乾燥させた。
次いで、この乾燥塗膜上に、工程シートとして、易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、「PET50A-4100」、厚み50μm)の非処理面を貼り合わせて積層した。
次に、ベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、製品名:ECS-401GX)を用いて、下記に示す条件により、高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、「H04-L41」)及び紫外線光量計(オーク製作所社製、「UV-351」)によって、工程シートを介して紫外線を照射することで、硬化反応を行い、前記の剥離シート上に厚み10μmの硬化樹脂層を形成した。
<高圧水銀ランプによる条件>
・紫外線ランプ高さ:100mm
・紫外線ランプ出力:3kW
<紫外線光量計による条件>
・光線波長365nmの照度:400mW/cm
・光量:800mJ/cm
【0093】
(2)溶解防止層の形成工程
その後、工程シートとして用いたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを剥離除去した。
そして、前記で形成した硬化樹脂層上に、溶解防止層用組成物として無機ポリシラザン系コーティング剤を、溶液法であるスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。なお、塗膜の厚みは200nmであった。
ここで、前記の「無機ポリシラザン系コーティング剤」は、メルクパフォーマンスマテリアルズ社製の「アクアミカNL110-20(主成分:ペルヒドロポリシラザン)」を、キシレンにて20質量%の溶液に濃度調整したものである。
そして、得られた塗膜を120℃で1分間加熱することで、塗膜を乾燥させ、更に、60℃、相対湿度90%の高温高湿環境下にて、6時間静置することにより、シリカガラス(酸化ケイ素)への転化処理を行い、前記の硬化樹脂層上に厚み200nmの溶解防止層を形成した。
【0094】
(3)ガスバリア層の形成工程
次に、前記で形成した溶解防止層上に、ガスバリア層用組成物として無機ポリシラザン系コーティング剤を、溶液法であるスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。なお、塗膜の厚みは100nmであった。
ここで、前記の「無機ポリシラザン系コーティング剤」は、メルクパフォーマンスマテリアルズ社製の「アクアミカNL110-20(主成分:ペルヒドロポリシラザン)」を、キシレンにて20質量%の溶液に濃度調整したものである。
そして、得られた塗膜を120℃で1分間加熱することで、塗膜を乾燥させ、前記の溶解防止層上に厚み100nmの無機ポリシラザン化合物を含有する層(無機ポリシラザン層)を形成した。
次いで、形成した無機ポリシラザン層の表面に、プラズマイオン注入装置(RF電源:日本電子社製「RF56000」、高電圧パルス電源:栗田製作所社製「PV-3-HSHV-0835」)を用いて、下記に示す条件により、プラズマイオン注入による改質処理を施し、厚み100nmのガスバリア層を形成し、剥離シート/樹脂層/溶解防止層/ガスバリア層の層構成を有する、実施例1のガスバリア性フィルムを作製した。
<プラズマイオン注入条件>
・チャンバー内圧:0.2Pa
・プラズマ生成ガス:アルゴン
・ガス流量:100sccm
・RF出力:1000W
・RF周波数:1000Hz
・RFパルス幅:50μ秒
・RF delay:25n秒
・DC電圧:-10kV
・DC周波数:1000Hz
・DCパルス幅:5μ秒
・DC delay:50μ秒
・Duty比:0.5%
・処理時間(イオン注入時間):200秒
【0095】
(実施例2)
実施例1の溶解防止層の形成工程を、下記に示す工程に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のガスバリア性フィルムを作製した。
実施例1の樹脂層の形成工程で形成した硬化樹脂層上に、溶解防止層用組成物として酸化ケイ素を、気相法であるスパッタリング法により成膜し、硬化樹脂層上に厚み200nmの溶解防止層を形成した。
【0096】
(実施例3)
実施例1の溶解防止層の形成工程を、下記に示す工程に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のガスバリア性フィルムを作製した。
実施例1の樹脂層の形成工程で形成した硬化樹脂層上に、溶解防止層用組成物としてシリカゾル含有UV硬化型樹脂系コーティング剤を、溶液法であるスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。なお、塗膜の厚みは200nmであった。
ここで、前記の「シリカゾル含有UV硬化型樹脂系コーティング剤」は、JSR社製の「オプスターZ7530を、プロピレングリコールモノメチルエーテルにて5質量%の溶液に濃度調整したものである。なお、前記の「シリカゾル含有UV硬化型樹脂系コーティング剤」の有効成分は、シリカゾル(シリカ粒子)、UV硬化型樹脂(重合性成分)、重合開始剤とからなる。
そして、得られた塗膜を70℃で1分間加熱することで、塗膜を乾燥させた。
次いで、この乾燥塗膜上に、工程シートとして、易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、「PET50A-4100」、厚み50μm)の非処理面を貼り合わせて積層した。
次に、ベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、製品名:ECS-401GX)を用いて、下記に示す条件により、高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、「H04-L41」)及び紫外線光量計(オーク製作所社製、「UV-351」)によって、工程シートを介して紫外線を照射することで、硬化反応を行い、前記の硬化樹脂層上に厚み200nmの溶解防止層を形成した。
<高圧水銀ランプによる条件>
・紫外線ランプ高さ:110mm
・紫外線ランプ出力:2.1kW
<紫外線光量計による条件>
・光線波長365nmの照度:260mW/cm
・光量:145mJ/cm
【0097】
(比較例1)
実施例1の溶解防止層の形成工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のガスバリア性フィルムを作製した。
【0098】
(比較例2)
実施例1の樹脂層の形成工程において、熱可塑性樹脂(A)であるポリスルホン系樹脂(PSF)のペレットの使用量を55質量部から30質量部に変更し、硬化性成分(B)であるトリシクロデカンジメタノールジアクリレートの使用量を45質量部から70質量部に変更し、実施例1の溶解防止層の形成工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のガスバリア性フィルムを作製した。
【0099】
前記した実施例1~3、及び比較例1~2で作製したガスバリア性フィルムについて、以下に示す方法により(1)ガスバリア性の評価、(2)柔軟性の評価、及び(3)光学等方性の評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0100】
[評価方法]
(1)ガスバリア性の評価
前記した実施例1~3、及び比較例1~2で作製した各ガスバリア性フィルムから剥離シートを剥離除去して積層体としたものを、水蒸気透過率の測定用試料とした。
測定用試料を対象として、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、「AQUATRAN」)を用いて、40℃、相対湿度90%の高温高湿環境下における、積層体の水蒸気透過率(g/m/day)を測定した。なお、水蒸気透過率測定装置の検出下限値は、0.0005(g/m/day)である。
このように測定した水蒸気透過率(g/m/day)の結果から、下記に示す基準でガスバリア性の良否を評価した。
○(良):水蒸気透過率が0.1(g/m/day)以下
×(否):水蒸気透過率が0.1(g/m/day)を超える
【0101】
(2)柔軟性と強度の評価
前記した実施例1~3、及び比較例1~2で作製した各ガスバリア性フィルムを15mm×150mmの試験片に裁断し、各ガスバリア性フィルムから剥離シートを剥離除去して積層体としたものを、破断伸度の測定用試料とした。
測定用試料を対象として、JIS K7127に準拠し、引張試験機(オリエンテック社製、「TENSILON RTA-100」)を用いて、チャック間距離を100mm、引張速度を200mm/minに設定し、23℃、相対湿度50%の環境下における、引張試験を行った。
なお、「チャック間距離」とは、引張試験機において測定用試料となる積層体を把持する把持部同士の距離を指していう。
測定用試料が破断した際の引張試験後のチャック間距離Xmmを測定し、下記に示す数式1により積層体の破断伸度(%)を算出した。
【0102】
【数2】
【0103】
このように算出した破断伸度(%)の結果から、下記に示す基準で柔軟性の良否を評価した。
○(良):破断伸度が2.0~9.0%
×(否):破断伸度が2.0%未満
【0104】
(3)光学等方性の評価
前記した実施例1~3、及び比較例1~2で作製した各ガスバリア性フィルムを40mm×40mmの試験片に裁断し、各ガスバリア性フィルムから剥離シートを剥離除去して積層体としたものを、面内位相差(リタデーション)の測定用試料とした。
測定用試料を対象として、位相差測定装置(王子計測機器社製、「KOBRA-WR」)を用いて、波長を589nmに設定し、23℃、相対湿度50%の環境下における、積層体の面内位相差(リタデーション)を測定した。
【0105】
【表1】
【0106】
(結果のまとめ)
表1に示した評価結果より、以下のことが分かる。
比較例1のガスバリア性フィルムの作製において、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させなかったことに起因して、比較例1のガスバリア性フィルムは、ガスバリア層を形成する際に樹脂中のガスバリア性を阻害する成分(例えば、炭素原子)が、ガスバリア層に混入してしまうことを防止することができず、ガスバリア性を低下させてしまうことが推測された。
比較例2のガスバリア性フィルムの作製において、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させず、さらに積層体の破断伸度が本発明で規定する範囲(2.0~9.0%)未満であったことに起因して、比較例2のガスバリア性フィルムは、適度な柔軟性が得られないことが分かった。
【0107】
これに対して、実施例1~3の各ガスバリア性フィルムの作製において、樹脂層とガスバリア層との間に溶解防止層を介在させ、さらに積層体の破断伸度が本発明で規定する範囲を満たしたことに起因し、実施例1~3の各ガスバリア性フィルムは、酸素や水蒸気等の気体の透過を防止する効果が高くガスバリア性に優れ、且つ、引張応力に対して破断し難く適度な柔軟性と強度とを備えることが分かった。
更に、実施例1および2では、溶解防止層が実質的に無機物からなることに起因し、水蒸気透過率が低く高いガスバリア性が得られることが分かった。一方、実施例3では、溶解防止層用組成物が熱可塑性樹脂を含まないことに起因し、樹脂層表面の成分が溶解し難い特性を有すると考えられる比較例2と同程度のガスバリア性が得られることが分かった。