(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースを含む医療用製品の製造方法、および医療用製品
(51)【国際特許分類】
A61L 15/28 20060101AFI20220511BHJP
A61F 13/00 20060101ALI20220511BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20220511BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20220511BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220511BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220511BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61F13/00 T
A61L15/44 100
A61L15/42 100
A61F13/00 301A
A61F13/00 301Z
A61K8/02
A61K8/73
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2018552753
(86)(22)【出願日】2017-04-05
(86)【国際出願番号】 FI2017050241
(87)【国際公開番号】W WO2017174874
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2019-12-25
(32)【優先日】2016-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM-Kymmene Corporation
【住所又は居所原語表記】Alvar Aallon katu 1 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】ルウッコ,カリ
(72)【発明者】
【氏名】コソネン,ミカ
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-194811(JP,A)
【文献】特表2014-505093(JP,A)
【文献】特表2008-536536(JP,A)
【文献】特表2002-530157(JP,A)
【文献】特開平09-268122(JP,A)
【文献】特表2009-529367(JP,A)
【文献】国際公開第2015/101711(WO,A1)
【文献】特表2017-506924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00
A61F 13/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用製品を作製するための方法であって、当該医療用製品を得るために、
ナノフィブリルセルロース水性分散液を提供することと、
ガーゼの層を提供することと、
ナノフィブリルセルロース水性分散液をガーゼの層に含浸させることと、
含浸させたガーゼを脱水することとを含み、
ニップ、たとえばニップロールにお
いて、脱水前に、含浸させたガーゼを押圧することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
含浸および脱水は、医療用製品が、25~80g/m
2、たとえば30~70g/m
2、たとえば35~65g/m
2の範囲内の坪量に達するまで繰り返されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガーゼは、天然ガーゼ、たとえば、綿ガーゼ、合成ガーゼもしくは半合成ガーゼ、たとえば、ビスコースガーゼ、ポリプロピレンガーゼもしくはポリエステルガーゼ、またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ナノフィブリルセルロースは、水に分散されたとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ナノフィブリルセルロースは、修飾されたセルロース、たとえば化学修飾ナノフィブリルセルロース、たとえば、アニオン修飾ナノフィブリルセルロースまたは酵素修飾ナノフィブリルセルロースを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
脱水は、非接触乾燥、たとえば、赤外線ドライヤ、フローティングドライヤもしくはインピンジメントドライヤによって、または接触乾燥、たとえば、プレスドライヤ、シリンダドライヤもしくはベルトドライヤによって実施されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ナノフィブリルセルロースは、1μmを超える長さと200nm未満の直径とを有する小繊維を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ナノフィブリルセルロースは、水性媒体中における0.5%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定された、5000~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度と、3~15Paの範囲内の降伏応力とをもたらすことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ナノフィブリルセルロースがガーゼに均一に分散し、ナノフィブリルセルロースから別の層がガーゼの表面に形成されないように、ナノフィブリルセルロース水性分散液を完全に浸すことによってガーゼの層に含浸させることを含むことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、含浸処理を用いて、ナノフィブリルセルロースを含む医療用製品を作製する方法に関する。本願は、ナノフィブリルセルロースを含む医療用製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
ナノフィブリルセルロースは、単離されたセルロース小繊維、またはセルロース原材料に由来する小繊維束を表す。ナノフィブリルセルロースは、天然に広く存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性ゲル(ヒドロゲル)を形成する性質がある。
【0003】
ナノフィブリルセルロース製造技術は、パルプ繊維の水性分散液の、粗砕(または均質化)に基づく。分散液中のナノフィブリルセルロースの濃度は、典型的には非常に低く、通常約0.3~5%である。粗砕処理または均質化処理の後、得られたナノフィブリルセルロース材料は、希釈された粘弾性ヒドロゲルである。
【0004】
水を除去することによって、ナノフィブリルセルロースから建築用製品を作製することにも注目が集まっている。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、医療用製品を作製するための方法であって、当該医療用製品を得るために、
ナノフィブリルセルロースの水性分散液を提供することと、
ガーゼの層を提供することと、
ナノフィブリルセルロースの水性分散液をガーゼの層に含浸させることと、
含浸させたガーゼを脱水することとを含む。
【0006】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含浸させたガーゼの層を含む医療用製品を提供する。
【0007】
一実施形態は、前記医療用製品を含む、医療用包帯または貼付剤を提供する。
【0008】
一実施形態は、皮膚の創傷または他の損傷を、覆うおよび/または治療するための使用のための医療用製品を提供する。
【0009】
一実施形態は、前記医療用製品を含む美容用製品、たとえば包帯または貼付剤を提供する。
【0010】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられる。様々な実施形態は、従属請求項に開示される。従属請求項、および明細書に記載された実施形態は、明示的に示されない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0011】
実施形態の含浸医療用製品は、特に湿潤条件において、向上した機械的強度および他の特性、たとえば高い引裂強さ(引裂抵抗)を提供する。支持および補強構造、たとえば包帯布製品、すなわちガーゼをナノフィブリルセルロースと組み合わせることによって含浸製品が形成される。織布は、連続的支持網状体を生じ、当該網状体の強度は、湿潤条件によって顕著には影響を受けない。
【0012】
含浸医療用製品のある有利な特性は、柔軟性、弾力性および再成形性を含む。ナノフィブリルセルロースが水分を含む場合、ナノフィブリルセルロースは適切な浸透性も示し得る。これらの特性は、たとえば、含浸製品が創傷治癒のための包帯として使用されるとき、または他の医療用途、たとえば治療用または美容用薬剤の送達において使用されるときに有用である。
【0013】
柔軟性は、多くの用途、たとえば医療用途に望まれる特性である。柔軟な貼付剤および包帯は、皮膚に適用するために、たとえば、創傷、および他の損傷または外傷、たとえば火傷を覆うために有用である。
【0014】
製品中における比較的少量のナノフィブリルセルロースの均一な分散は、柔軟性、弾力性、再成形性および剛性に影響を与える。含浸製品の剛性は、比較的低く、製品は、適した空気および/または液体の透過性を提供する開放構造を有する。
【0015】
また、含浸製品の、柔軟性または伸縮性(伸び)は、ガーゼの選択によって少し影響を受け得る。ナノフィブリルセルロース自体は、特に乾燥したとき、わずかな柔軟性および弾力性しか有さない。この理由によって、ガーゼとナノフィブリルセルロース網状体との弾力特性の均衡を得るために、ガーゼおよびナノフィブリルセルロース網状体とを一致させることが重要である。
【0016】
実施形態の含浸医療用製品は、高い吸着能力と、吸着速度とを提供し、この特性は、医療用途、たとえば創傷治癒などにおいて望ましい。大きな面積を覆うために使用可能である大きなシートが作製されてもよい。
【0017】
本明細書において記載された含浸医療用製品は、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体組織に接触する医療用途において有用である。ナノフィブリルセルロースは、たとえば皮膚に適用されたとき、有利な特性をもたらすことが見出された。本明細書に記載されたような、ナノフィブリルセルロースを含む製品は、生体組織との高度な生体適合性を有し、いくつかの有利な効果を提供する。なんら特定の理論に拘束されないが、ナノフィブリルセルロースを含む含浸医療用製品は、皮膚または他の組織、たとえば皮膚移植片創傷に対して適用されたとき、組織からの水を吸収し、保持し、医療用製品と組織との間に水の薄膜を形成し、創傷の治癒を促進する高度に親水性な表面を提供する。医療用製品も、効果を促進するために湿らされてもよい。
【0018】
含浸製品が、たとえば、絆創膏、包帯、医療用貼付剤、または絆創膏、貼付剤もしくは包帯の一部であるような製品において、創傷または他の損傷または外傷を覆うために使用されるとき、いくつかの効果が提供される。製品の利用性は、良好である。なぜなら、この製品は、破損、たとえば引き裂かれることなく、容易に貼り付け、取り外すことができるからである。製品は、その特性に影響を与えることなく、所望の寸法および形状に切断することもできる。創傷を覆うために使用される場合、含浸製品の材料は、創傷を保護する人工皮膚として機能し、創傷が治癒すると緩くなる。含浸製品は、従来の材料のような、癒した領域を損傷することなく取り外すことが非常に困難である不可逆的な方法で損傷した皮膚に付着することはない。含浸製品と皮膚との間の条件は、損傷領域の治癒を促進する。
【0019】
実施形態の含浸医療用製品は、移植片、たとえば皮膚移植片の治療において特に有利である。含浸医療用製品は、移植領域を覆うために使用されてもよく、保護層として機能する。移植片が治るにつれて、含浸された製品は、治癒を促進する痂皮様構造を形成する。
【0020】
含浸製品は、薬剤、たとえば治療用薬剤または美容用薬剤を患者または使用者に制御可能かつ効果的に送達するために使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明は、添付図面を参照して以下に説明される。
【
図1】ガーゼを含浸させるためのポンドサイズプレスの一例を示す。
【
図2】ガーゼを含浸させるためのサイズプレスの一例を示す。
【
図3】含浸容器および1組のニップローラを備える装置の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、百分率値は、特に示されなければ、重量に基づく(w/w)。任意の数値範囲が与えられた場合、当該範囲は、上限値および下限値を含む。
【0023】
実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、任意に他の成分、たとえば、塩化ナトリウム、非ナノフィブリル化パルプ、もしくは治療用薬剤もしくは美容用薬剤、または他の薬剤を含む分散液を提供する。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースおよび非ナノフィブリル化パルプを含む分散液を提供する。分散液中の非ナノフィブリル化パルプの量は、総セルロースの、0.1~60%(w/w)、たとえば0.1~50%(w/w)の範囲内にあってもよい。分散液は、本明細書に記載されたような含浸医療用製品を作製するために使用されてもよい。
【0024】
「医療用製品」、「含浸製品」もしくは「含浸医療用製品」、またはより具体的には「ナノフィブリルセルロースを含浸させた医療用製品」との用語は、入れ替えて使用されてもよく、実施形態に記載されたような、ナノフィブリルセルロースで処理されたガーゼの層を含む製品を表す。医療用製品は、医療用構造体と称されてもよい。含浸製品は、実施形態に記載された製造方法によって得ることができる。
【0025】
含浸処理によって得られた医療用製品は、層形成方法によって得られた製品、たとえば積層方法によって得られた製品とは異なる。そのような積層製品は、たとえば、染色および/または顕微鏡的方法を用いることによって最終製品から検出することができる別の層を含み、別の層は、剥離によって分離されてもよい。本明細書に記載された含浸処理によって得られた製品において、ナノフィブリルセルロースは、ガーゼの繊維を被覆するように均一に分散される。ナノフィブリルセルロース被覆は、実際にガーゼの個々の繊維になされ、非常に薄いので、乾燥したナノフィブリルセルロースは、ガーゼに別の層を形成せず、ガーゼに完全に一体化し、すなわち、製品は、層を有さない。このことは、最終製品の特性に影響を与える。たとえば、含浸製品の剛性は、積層製品よりも低い。さらに、含浸によって得られた製品は、高い空気および液体透過性を有する、さらに開放された構造を有する。含浸処理を用いるとき、実質的に少量のナノフィブリルセルロースが使用されてもよい。製品のナノフィブリルセルロース部分は、実際にはガーゼから分離することはできない。
【0026】
「医療用」との用語は、医療目的に使用されるか、または医療目的に適した製品または使用を表す。医療用製品は、たとえば、温度、圧力、水分、化学物質、放射線、またはそれらの組み合わせを用いることによって、滅菌されてもよいか、または滅菌可能である。製品は、たとえば、加圧滅菌されてもよく、または高温を用いる他の方法が使用されてもよい。この場合、製品は、100℃、たとえば、少なくとも121℃もしくは134℃を超える高温に耐えるべきである。一例では、製品は、15分間にわたって121℃で加圧滅菌される。また、UV滅菌を使用することもできる。医療用製品は、たとえば美容目的に適していてもよい。
【0027】
ナノフィブリルセルロースを含む分散液を作製するための出発材料
1つの出発材料は、サブミクロン範囲の直径を有するセルロース小繊維を含むか、または当該セルロース小繊維からなるナノフィブリルセルロースを含む。ナノフィブリルセルロースは、低濃度においてさえ、自己凝集したヒドロゲル網状体を形成する。これらのナノフィブリルセルロースのゲルは、高度にせん断減粘性であり、天然の疑似プラスチックである。
【0028】
ある任意のさらなる出発材料は、非ナノフィブリル化パルプを含む。そのようなパルプは、一般的に従来のパルプまたはレギュラーパルプまたはセルロースであり、マクロフィブリルパルプまたはマクロフィブリルセルロースと称されてもよい。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、非叩解パルプ、または中程度に叩解されたパルプであり、たとえば、パルプフリーネスによって特徴付けられてもよい。
【0029】
前記2つの主な出発材料は、画分、たとえば、ナノフィブリルセルロース画分および非ナノフィブリル化パルプ画分と称されてもよい。ナノフィブリルセルロース画分は通常、たとえば、総セルロースの80~99.9%(w/w)の乾燥重量を含む、含浸製品を作製するための分散液のセルロース性材料の主要画分である。しかし、一実施形態において、分散液は、任意の非ナノフィブリル化パルプを含まない。すなわち、非ナノフィブリル化パルプの量は、0%である。非ナノフィブリル化パルプは通常、分散液のセルロース性材料の少量画分、または一部である。一実施形態において、ナノフィブリルセルロース分散液は、総セルロースの0.1~60%(w/w)の範囲内の、たとえば、0.1~50%(w/w)、0.1~40%(w/w)、0.1~30%(w/w)、0.1~20%(w/w)、0.1~10%(w/w)、0.5~10%(w/w)、1~10%(w/w)、0.5~5%(w/w)、1~5%(w/w)、0.5~3%(w/w)、または1~3%(w/w)の範囲内の量の非ナノフィブル化パルプを含む。本明細書において使用される「総セルロース」は、分散液中における総セルロースの乾燥重量を表す。
【0030】
ナノフィブリルセルロースを含む最終的な分散液は通常、少量の追加成分を含んでもよい。一例において、分散液の乾燥物質は、総乾燥物質の1%(w/w)未満、たとえば、0.5%未満、または0.2%未満、または0.1%未満の追加成分を含む。
【0031】
一実施形態において、分散液は、非修飾ナノフィブリルセルロースであり、任意に、総セルロースの0.1~10%(w/w)の範囲内の、または上述された別の範囲内の量の非ナノフィブリル化ケミカルパルプを含む。
【0032】
ナノフィブリルセルロース
ナノフィブリルセルロースは通常、植物起源のセルロース原材料から作製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原材料は、特定の細菌発酵処理に由来してもよい。一実施形態において、植物材料は、木材である。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、もしくはツガなどの針葉樹、またはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキ、オーク、ブナ、もしくはアカシアなどの広葉樹、または針葉樹および広葉樹の混合物から形成されてもよい。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例において、広葉樹は、カバノキである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。
【0033】
ナノフィブリルセルロースは、好ましくは、植物材料から作製される。一例において、小繊維は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、小繊維は、二次細胞壁から得られてもよい。そのような豊富なセルロース小繊維の供給源の1つは、木質繊維である。ナノフィブリル化セルロースは、ケミカルパルプであってもよい木材由来の繊維性原材料を均一化することによって作製される。セルロース繊維は、最大50nmである数ナノメートルしかない直径を有する小繊維を作製するために分解され、小繊維の水分散液をもたらす。小繊維は、サイズを小さくされてもよく、小繊維の最大径は、2~20nmしかない範囲内にある。二次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。そのような小繊維は、一次細胞壁に由来する小繊維とは異なる特性を有し得る。たとえば、二次細胞壁に由来する小繊維の脱水は、一層困難である。
【0034】
本明細書において使用されるように、「ナノフィブリルセルロース」との用語は、セルロース小繊維、またはセルロース系繊維原料から分離された小繊維束を表す。これらの小繊維は、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、それらの長さは1μmを超えてもよいが、直径は通常200nmよりも小さい。最も小さい小繊維は、いわゆる基本小繊維の寸法であり、直径は、典型的には2~12nmの範囲内にある。小繊維の寸法およびサイズ分布は、叩解方法および生成効率に依存する。ナノフィブリルセルロースは、セルロース系材料として特徴付けられてもよい。粒子(小繊維または小繊維束)の中央長さは、50μm以下であり、たとえば、1~50μmの範囲内にある。粒径は、1μmよりも小さく、好ましくは2~500nmの範囲内にある。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、小繊維の平均径は、5~100nmの範囲内、たとえば10~50nmの範囲内にある。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成するための強い能力とによって特徴付けられる。水分散液中において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、透明な、または濁ったゲル様材料に見える。繊維原料によれば、ナノフィブリルセルロースは、他の少量の木質成分、たとえばヘミセルロースまたはリグニンを含んでもよい。その量は、植物供給源に依存する。ナノフィブリルセルロースについて多くの場合に使用される類似名称は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、およびナノセルロースを含む。
【0035】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主な特性(i)サイズ分布、長さおよび直径、(ii)化学的組成、ならびに(iii)レオロジー特性に基づいて分類されてもよい。グレードを十分に記載するために、特性は、同時に使用されてもよい。様々なグレードの例は、天然(または非修飾の)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、およびカチオン化NFCを含む。これらの主要グレードのうちにサブグレードも存在する。たとえば、非常に高度のフィブリル化に対して穏やかなフィブリル化、高い置換度に対して低い置換度、低粘度に対して高粘度など。フィブリル化技術と、化学的な前修飾とは、小繊維の寸法分布に影響を受ける。典型的には、非イオン性グレードは、広範な小繊維径を有し(たとえば、10~100nm、または10~50nmの範囲内にある)、化学的に修飾されたグレードは、非常に薄い(たとえば、2~20nmの範囲内にある)。分布は、修飾されたグレードについて狭い。特定の修飾、特にTEMPO酸化は、より短い小繊維をもたらす。
【0036】
原料供給源に依存して、たとえば、広葉樹(HW)パルプ対針葉樹(SW)パルプなど、異なる多糖組成物が、最終的なナノフィブリルセルロース製品に存在する。一般的に、非イオン性グレードは、漂白されたカバノキパルプから作製され、高いキセノン含有量(25重量%)をもたらす。修飾されたグレードは、HWパルプまたはSWパルプから作製される。それらの修飾されたグレードにおいて、ヘミセルロースは、セルロースドメインと共に修飾される。おそらく、修飾は、均一ではない。すなわち、いくらかの部分は、他よりもさらに修飾される。したがって、詳細な化学的分析は不可能であり、修飾された製品は必ず、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0037】
水性環境において、セルロースナノファイバーの分散液は、粘弾性ヒドロゲル網状体を形成する。ゲルは、分散し、水和した絡まった小繊維によって、たとえば0.05~0.2%(w/w)の比較的低濃度で形成される。NFCヒドロゲルの粘弾性は、たとえば、動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けられてもよい。
【0038】
レオロジーに関して、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、せん断減粘性材料であり、このことは、それらの粘度が、材料が変形することによる、速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータにおいて粘度を測定するとき、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加とともに粘度の減少として観察される。ヒドロゲルは、可塑的挙動を示し、このことは、材料が容易に流れ始める前に特定のせん断応力(力)が、必要であることを意味する。この臨界的なせん断応力は、多くの場合、降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定される定常流動曲線から測定可能である。粘度が、加えられたせん断応力の関数としてプロットされるとき、粘度の顕著な減少が、臨界せん断応力を超えた後に観察される。ゼロせん断粘度と、降伏応力とは、材料の懸濁力を記載するために最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に分離するので、グレードを分類することを可能にする。
【0039】
小繊維、または小繊維束の寸法は、原材料と分解方法とに依存する。セルロース原材料の機械的分解は、リファイナー、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕器、ピンミル、ロータ-ロータディスパゲータ、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、または流動化ホモジナイザなどのフルイダイザによって実施されてもよい。分解処理は、繊維間における結合の形成を妨げるために水が十分に存在する条件で実施される。
【0040】
一例において、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ-ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、または同様の可動式機械部材を有する分散機を用いることによって実施される。分散機において、分散液中の繊維材料は、ブレードが、回転速度、および半径(回転軸までの距離)によって決定される周辺速度で回転するとき、反対方向から繊維材料を打ちつけるロータのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移動するので、反対方向から速い周辺速度で次々に到来するブレード、すなわちリブの広い表面に衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向から複数回の連続的な衝撃を受ける。また、ブレード、すなわちリブの広い表面の端部であって、その端部が次のロータブレードの反対端部とともに、繊維の分解と小繊維の脱離とに寄与するせん断応力が生じるブレード間隙を形成する。衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、および装置を通る分散液の流速によって決定される。
【0041】
ロータ-ロータ分散機において、繊維材料は、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされ、それによって繊維材料が同時にフィブリル化されるように、逆回転ロータを通って、ロータの回転軸に関して半径方向外側に向かって導入される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0042】
分解に適した装置の別の例は、マルチペリフェラルピンミルなどのピンミルである。US620946B1に記載されたようなそのような装置の一例は、ハウジングと、その内に衝突表面を備えた第1ロータ、第1ロータと同心で、衝突表面を備え第1ロータと反対方向に回転するように配設された第2ロータ、または第1ロータと同心で衝突表面を備えるステータとを含む。装置は、ハウジング中に供給オリフィスと、ロータ、またはロータおよびステータの中央への開口部と、ハウジング壁の排出口と、最も外側のロータまたはステータの周囲への開口部とを備える。
【0043】
一実施形態において、分解は、ホモジナイザを用いて実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果によって均質化にさらされる。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、繊維材料を小繊維に分解する分散液の強制貫流によってもたらされる。繊維材料分散液は、所定の圧力で狭い貫流間隙を通って所定の圧力で通過し、分散液の線形速度の増加は、せん断力と衝撃力とを分散液にもたらし、繊維材料から小繊維の除去をもたらす。繊維断片は、フィブリル化工程において小繊維に分解される。
【0044】
本明細書において使用される「フィブリル化」との用語は、一般的に粒子に加えられる仕事によって繊維材料を機械的に分解することを表し、セルロース小繊維が、繊維、または繊維断片から分離されることを表す。仕事は、粉砕、砕砕、もしくはせん断、もしくはこれらの組み合わせ、または粒径を減少させる別の同様の働きなどの様々な効果に基づいてもよい。叩解する仕事によって得られたエネルギーは通常、たとえば、kWh/kg,MWh/ton,またはこれらに比例する単位で、処理された原材料の量あたりのエネルギーを単位として表わされる。表現「分解」、または「分解処理」との表現は、「フィブリル化」の代わりに使用されてもよい。
【0045】
フィブリル化にさらされる繊維材料分散液は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」と称される。繊維材料分散液は、一般的に、水と混合された、全繊維、それらから分離された部分(断片)、小繊維束、または小繊維を表し、典型的には水性繊維材料分散液は、そのような構成要素の混合物であり、成分の間の比率は、処理の程度、または処理の段階、たとえば、実行数、または繊維材料の同じバッチの処理を「通過」する数に依存する。
【0046】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、当該ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、たとえば、ブルックフィールド粘度、またはゼロせん断粘度であってもよい。
【0047】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースの見掛粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)、または別の対応する装置を用いて測定される。好ましくはベーンスピンドル(73番)が使用される。見掛粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づく。好ましくは、装置において、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が使用される。ナノフィブリルセルロースの試料は、0.8重量%の濃度まで水に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調整され、必要に応じて加熱され、混合された。低い回転速度10rpmが使用された。
【0048】
本方法において出発材料として提供されるナノフィブリルセルロースは、当該ナノフィブリルセルロースが水溶液にもたらす粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、たとえば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化の程度を表す。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。 前記ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度の範囲の例は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、2000~20000mPa・s,3000~20000mPa・s,10000~20000mPa・s,15000~20000mPa・s,2000~25000mPa・s,3000~25000mPa・s,10000~25000mPas,15000~25000mPas,2000~30000mPas,3000~30000mPas,10000~30000mPas,および15000~30000mPasを含む。
【0049】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースである。非修飾ナノフィブリルセルロースの排液は、たとえばアニオン性グレードよりも顕著に速いことが見出された。非修飾ナノフィブリルセルロースは、一般的に、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された2000~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0050】
分解された繊維性セルロース原料は、修飾された繊維性原料であってもよい。修飾された繊維性原料は、セルロースナノフィブリルが繊維から容易に分離可能であるように、繊維が処理によって影響を受けた原料を意味する。修飾は通常、懸濁液として存在する繊維性セルロース原料、つまりパルプに実施される。
【0051】
繊維に対する修飾処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的修飾において、セルロース分子の化学構造は、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノースユニットに官能基が付加されるように、化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロースの化学的修飾は、反応物、および反応条件の程度に応じて、特定の変換度で実施され、一般的に、セルロースが小繊維として固体形状で留まり、水に溶解しないので完了しない。物理的修飾において、アニオン性物質、カチオン性物質もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着される。修飾処理は、酵素的であってもよい。
【0052】
繊維中のセルロースは、特に、修飾後にイオン性に荷電されてもよい。なぜなら、セルロースのイオン性荷電は、繊維の内部結合を弱め、その後のナノフィブリルセルロースへの分解を促進するからである。イオン性荷電は、セルロースの、化学的修飾または物理的修飾によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比べて、修飾後、より高いアニオン荷電、またはカチオン荷電を有してもよい。アニオン性荷電を作製するための、最も一般的に使用される化学的修飾方法は、ヒドロキシル基がアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、およびカルボキシメチル化である。同様に、カチオン性荷電は、4級アンモニウム基などの、カチオン性基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に生じてもよい。
【0053】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロース、またはカチオン性修飾ナノフィブリルセルロースなどの化学修飾ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン性修飾ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースは、硫酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。
【0054】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、たとえば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル、一般的に「TEMPO]と称される複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ-D-グルコピラノースユニットの第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。また、いくつかのアルデヒド基は、第一級ヒドロキシル基から形成される。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水に分解されたとき、繊維は、たとえば、3~5nmの幅の個々のセルロース小繊維の安定な透明分散液をもたらす。出発培地として酸化パルプを用いて、0.8%(w/w)の濃度で測定されたブルックフィールド粘度が、少なくとも10000mPa・s、たとえば10000~30000mPa・sの範囲内にあるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0055】
触媒「TEMPO」が本開示において言及されるときは、「TEMPO」が関与する全ての測定および操作が、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的な酸化を触媒することを可能にする、TEMPOの任意の誘導体または任意の複素環ニトロキシルラジカルに等しく、同様に当てはまることが明らかである。
【0056】
一実施形態において、そのような化学修飾ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一実施形態において、そのような化学修飾ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一実施形態において、そのような化学修飾ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。使用されたアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・s、または18000~20000mPa・s、または25000mPa・sまでの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0057】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、低濃度において、たとえば、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも20000mPa・s、さらに少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度などの高粘度をもたらす。一実施例において、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度は、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、20000~30000mPa・s、たとえば25000~30000mPa・sの範囲内にある。
【0058】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、化学的に修飾されていないナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、そのような化学的に修飾されていないナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。
【0059】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(もしくは幅)によって、またはブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度などの粘度と平均径とによって特徴付けられてもよい。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの、2~15nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。
【0060】
小繊維の直径は、様々な技術、たとえば顕微鏡を用いて測定されてもよい。小繊維の厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭い小繊維径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0061】
一実施例において、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメータ粘度は、30mmの直径を有する円柱状試料カップ中にナローギャップベーンジオメトリ(28mm径、長さ42mm)を備える応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments社、イギリス)を用いて22℃において測定された。試料をレオメータに入れた後、試料は、測定が開始する前に5分間そのままの状態に留められる。安定状態の粘度は、徐々に増加するせん断応力(加えられたトルクに比例する)を用いて測定され、せん断速度(角運動速度に比例する)が測定される。特定のせん断応力において報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後、または最大2分後に記録された。測定は、1000s-1のせん断速度を超えたとき、停止された。この方法は、ゼロせん断粘度を測定するために使用されてもよい。
【0062】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、1000~100000Pa・sの範囲内、たとえば5000~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度(小さなせん断応力における一定粘度の「プラトー」)と、水性媒体中における0.5%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定された、3~15Paの範囲内などの1~50Paの範囲内の降伏応力(せん断減粘が始まるせん断応力)とをもたらす。
【0063】
濁度は、一般的には裸眼で見ることができない個々の粒子(全て懸濁または溶解した固体)によって生じる、流体の、不透明度または曇りである。濁度を測定するためのいくつかの実際的な方法があり、最も直接的な方法は、光の減衰(つまり、強度の減少)の測定である。なぜなら、光は、水の試料カラムを通るからである。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット、またはJTU)は、本質的に、水のカラムを通して見えるロウソクの炎を完全に見えなくするために必要な水のカラムの長さの反転測定である。
【0064】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつか存在する。本件においては、比濁法に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計に由来する濁度の単位は、ネフェロメ濁度単位(NTU)と称される。測定装置(比濁粘度計)は、標準調整試料で調整され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定された。
【0065】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点以下の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計は、濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算された0.5gの試料が、測定容器内に入れられ、500gまで水道水で満たされ、約30秒間にわたって振とうすることによって強く混合された。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計に入れられた。各容器について3回の測定が実施された。平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果は、NTU単位として与えられる。
【0066】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、粘度および濁度の両方を規定することである。低い濁度は、小さな直径などの小繊維の小さな寸法を表す。なぜなら、小さな小繊維は、光を十分に散乱させないからである。一般的には、フィブリル化の程度が増加すれば、粘度が上昇し、同時に濁度が減少する。これは、しかしながら、特定の時点までしか生じない。フィブリル化がさらに継続すると、小繊維は、最終的に壊れ始め、その後には強固な網状体を形成することができない。したがって、この時点の後、濁度と粘度とは低下し始める。
【0067】
一実施例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、90NTU未満、たとえば、5~60NTU、たとえば8~40NTUのような3~90NTUである。一実施例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、200NTUを超えてもよく、たとえば10~220NTU、たとえば20~200NTU、たとえば50~200NTUであってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、たとえば少なくとも15000mPa・s、少なくとも10000mPa・sなどの少なくとも2000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供するナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0068】
本作製方法のための出発材料は通常、上述の繊維性原材料のいくつかの分解から直接に得られ、分解条件によって比較的低濃度で水中に均質に分散して存在するナノフィブリルセルロースである。出発材料は、0.2~5%の範囲内の濃度、たとえば0.3~2.0%の範囲内の濃度、たとえば0.3~0.5%の範囲内の濃度において水性ゲルであってもよい。TEMPO酸化ゲルを用いると、濃度は低くてもよく、たとえば0.2~2.0%であってもよい。この種類のゲルは、しがたって、除去可能な大量の水分を含む。
【0069】
主にナノフィブリルセルロースを含む分散液中の比較的少量の非ナノフィブリル化セルロースは、たとえば、膜の製造または含浸製品において、分散液の排液時間を早める。たとえば、総セルロースのうち非ナノフィブリル化セルロースの1パーセントの占有率は、約50%だけ排水を早めることができたが、最小で約15~20%であった。ナノフィブリルセルロースの乾燥は、一般的に時間がかかり、困難であるので、乾燥処理は、ナノフィブリルセルロースに由来する製品の特性に実質的に影響を及ぼすことなく促進することができる。
【0070】
このことは、比較的低い濃度のナノフィブリルセルロースを乾燥物質レベルまで乾燥することを可能にする。したがって、工業生産の観点から適した時間でナノフィブリルセルロース製品を作製することができる。
【0071】
非ナノフィブリル化セルロースパルプは、ナノフィブリル形態に分解されていないパルプ、または非ナノフィブリル化セルロースを主に含むパルプを表す。一般的に、非ナノフィブリル化セルロースパルプは、木質パルプである。
【0072】
一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、たとえば、パルプ懸濁液の排水性能を評価するパルプフリーネスによって特徴付けることができる、叩解されていないか、または穏やかに叩解されたパルプである。一般的には、フリーネスは、叩解によって減少する。
【0073】
パルプ特性を規定する一例は、ショッパー・リーグラ数(SR)ろ水度(ISO5267-1)によってパルプ水性懸濁液の排水性能を規定することを含む。ショッパー・リーグラ法は、パルプの希釈懸濁液が脱水される速度の測定値を提供するために設計された。排水性能は、繊維の、表面状態および膨張に関連し、パルプに実施される機械的処理の量の有用な指標を構成することが示された。ショッパー・リーグラろ水度は、1000mlの排液が、SRろ水度ゼロに対応し、排液ゼロがSRろ水度100に対応する基準である。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、11~52の範囲のSRろ水度を有する。
【0074】
カナダ標準ろ水度(CSF)によって、排液性能を測定するための他の方法は、ISO5267-2に特定されている。CSFは、砕木特性の測定値として開発された。一般的に、CSFは、叩解によって減少し、微粒子および水質に感受性を有する。通常、繊維のフリーネスと、長さとに相関がある。フリーネスが低くなれば、繊維長も小さくなる。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、200~800mlの範囲内にあるCSFを有する。
【0075】
非ナノフィブリル化パルプは、メカニカルパルプ、またはケミカルパルプであってもよい。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、ケミカルパルプである。メカニカルパルプが使用されてもよいが、ケミカルパルプは、より純粋な材料であり、広範な用途において使用されてもよい。ケミカルパルプは、メカニカルパルプに存在するピッチおよび樹脂酸を欠き、さらに無菌であるか、または容易に滅菌可能である。さらに、ケミカルパルプは、さらに柔軟であり、医療用貼付剤または包帯、および生体組織に適用される他の材料に有利な特性を提供する。
【0076】
一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、針葉樹パルプである。針葉樹の例は、トウヒ、マツ、またはシーダーを含む。針葉樹パルプは、2mmを超えるような広葉樹パルプよりも長い繊維を含み、最終製品における有利な補強特性、たとえば向上した引裂強さを提供する。
【0077】
一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、ケミカル針葉樹パルプである。ケミカル針葉樹パルプにおいて、繊維の長さは維持され、それによって機械的に耐久力があるが、柔軟な材料を得ることができた。
【0078】
一実施形態において、分散液は、非ナノフィブリル化ケミカルパルプを含む非修飾ナノフィブリルセルロース分散液である。一実施形態において、分散液は、総セルロースの0.1~10%(w/w)の範囲内の、非ナノフィブリル化ケミカルパルプを含む非修飾ナノフィブリルセルロース分散液である。
【0079】
一実施形態において、分散液は、非修飾ナノフィブリルセルロースと、非ナノフィブリル化ケミカル針葉樹パルプの一部とを含む。一実施形態において、分散液は、広葉樹から得られた非修飾ナノフィブリルセルロースと、非ナノフィブリル化ケミカル針葉樹パルプの一部とを含む。
【0080】
ナノフィブリルセルロースを含む分散液の作製
ナノフィブリルセルロースを含む分散液を作製するための方法は、まず、ナノフィブリルセルロースと、任意に補助的薬剤、たとえば非ナノフィブリル化パルプまたは他の薬剤とを提供し、続いてそれらを所望量で含む分散液を形成することとを含む。一実施形態において、分散液は、水性分散液である。
【0081】
強い水保持力は、ナノフィブリルセルロースに典型的である。なぜなら、水は、膨大な水素結合によって小繊維に結合するからである。その結果、ナノフィブリルセルロースを含む製品の所望の絶乾率に達するには、長い乾燥時間が必要である。従来法、たとえば真空濾過は、数時間を必要とし得る。ナノフィブリルセルロース分散液の低い濃度は、被覆の表面に坪量の小さな変化を有する薄い被覆の形成を促進する。一方、このことは、乾燥の間に除去しなければならない水の量を増加させる。
【0082】
水を低速で機械的に除去することの問題は、脱水、たとえば濾過の間にナノフィブリルセルロース自体の周囲に、非常に緻密な不透過性のナノスケールの膜を形成するナノフィブリルセルロースヒドロゲルの能力にあると考えられる。形成されたシェルは、ゲル構造体からの水の分散を妨げ、非常に遅い濃縮速度をもたらす。同じことは、薄膜形成が水の蒸発を妨げる蒸発にも当てはまる。
【0083】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲル、天然(化学的に修飾されていない)セルロース、または化学的に修飾されたセルロースの特性が原因で、産業生産に適した短時間での均一な構造の膜または他の製品の形成は、非常に困難である。本実施形態において、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルからの水の除去は、改良された。
【0084】
少量の非ナノフィブリル化パルプの添加は、そうでなければ非常に困難で時間のかかるナノフィブリルセルロース分散液からの液体の排液を促進する。しかし、排液をさらに促進するために、減圧(真空)、および熱が組み合わせて使用されてもよい。さらに圧力は、減圧および/または熱と組み合わせて使用されてもよい。
【0085】
N-オキシル媒介触媒酸化によって(たとえば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンN-オキサイドによって)得られるセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電が解離したカルボン酸部分に起因するアニオン性荷電ナノフィブリルセルロースの具体例である。これらのアニオン性荷電ナノフィブリルセルロースグレードは、含浸製品の作製のための潜在的な出発材料である。なぜなら、高品質のナノフィブリルセルロース分散液は、化学的に修飾されたパルプから作製することが容易であるからである。アニオン性荷電ナノフィブリルセルロースグレードは、酸を添加して分散液のpHを低下させることによって前処理されてもよい。この前処理は、水保持能を低下させる。たとえば、ナノフィブリルセルロース分散液のpHを3以下に低下させることによって、上述の方法を用いる乾燥時間を減少させることができる。一実施形態において、セルロースがアニオン性荷電基を含むナノフィブリルセルロース分散液は、そのpHを低下させることによって前処理され、その後、前処理されたナノフィブリルセルロース分散液は、低下したpHで濾布上に供給される。
【0086】
ガーゼを処理するため、たとえば含浸工程において使用されるナノフィブリルセルロース分散液、通常水性分散液の出発濃度は、0.1~10%の範囲内にあってもよい。しかし、出発濃度は通常、5%以下、たとえば0.3~5.0%の範囲内、たとえば0.8~1.2%の範囲内である。これは通常、ナノフィブリルセルロースが繊維性原材料を分解することによって作製される製造工程の出口におけるナノフィブリルセルロースの初期濃度である。しかしながら、ナノフィブリルセルロース分散液は、ガーゼに均一に分散または含浸させることを確実にするために適切な出発濃度(製造工程からの製品の濃度)まで液体で希釈することができる。ナノフィブリルセルロースグレードの固有の粘度に応じて、出発濃度は、低くてもよく、または高くてもよく、0.1~10%の範囲内にあってもよい。低い粘度グレードについて、高濃度にも関わらず濾布に均一に広がるより高い濃度が使用されてもよい。ナノフィブリルセルロースは、水に懸濁された繊維性出発材料が分解される製造工程から水性ナノフィブリルセルロースとして出てくる。ナノフィブリルセルロース分散液の外への液体の排液は、水または水性溶液の場合、「脱水」と称されてもよい。
【0087】
製造処理を向上させるか、または製品の特性を向上もしくは調整するための補助試薬は、ナノフィブリルセルロース分散液に含まれてもよい。そのような補助試薬は、分散液の液相に可溶であってもよく、エマルジョンを形成してもよく、固体であってもよい。補助試薬は、ナノフィブリルセルロース分散液の作製の間に既に原材料に添加されていてもよく、含浸前にナノフィブリルセルロース分散液に添加されてもよい。補助試薬は、たとえば含浸によって最終製品に添加されてもよい。補助試薬の例は、治療薬および美容用薬剤、ならびに製品の特性、または活性化剤の特性に影響を与える他の試薬、たとえば、界面活性剤、可塑剤、乳化剤などを含む。一実施形態において、分散液は、最終製品の特性を向上するために、または製造工程において製品から水分を除去することを促進するために添加され得る1以上の塩を含む。塩の一例は、塩化ナトリウムである。塩は、分散液中に0.01~1.0%(w/w)の乾燥物質の範囲の量で含まれてもよい。最終製品は、塩化ナトリウムの溶液、たとえば約0.9%の塩化ナトリウムの水溶液に浸けられるか、または当該水溶液で濡らされてもよい。最終製品における所望の塩化ナトリウム含有量は、湿った製品の0.5~1%の範囲内、たとえば約0.9%であってもよい。
【0088】
セルロースが天然セルロースであるナノフィブリルセルロース分散液の脱水と比べて、セルロースがアニオン荷電セルロースであるナノフィブリルセルロース分散液の脱水は、さらに時間がかかる。なぜなら、水は、非常に強くセルロースに結合するからである。アニオン荷電基を含むナノフィブリルセルロースは、たとえば、修飾の結果としてカルボキシル基を含む化学修飾セルロースであってもよい。N-オキシル媒介触媒酸化によって(たとえば、略語「TEMPO]として知られている2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンN-オキサイドによって)得られたセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電が解離したカルボン酸部分に起因するアニオン荷電ナノフィブリルセルロースの例である。アニオン性基を含むナノフィブリルセルロースから製品を作製する実施形態において、アニオン荷電ナノフィブリルセルロースの、より高い水保持性能と、より高い粘度とが主な原因で、総乾燥時間は、セルロースが修飾されていないナノフィブリルセルロースの総乾燥時間よりも多いと予想される。
【0089】
これらのアニオン荷電ナノフィブリルセルロースグレードの脱水特性は、酸によってナノフィブリルセルロース分散液を前処理することによって顕著に向上させることができる。ナノフィブリルセルロースが、塩基(解離形態の酸部分)として作用するアニオン荷電基を含むとき、酸化セルロースおよびカルボキシメチル化セルロースの場合と同様に、酸によるpHの低下は、これらの基を非解離形態に変換し、小繊維の間の静電的反発は、有効ではなくなり、水-小繊維-相互作用は、分散液の脱水が促進されるように変換される(分散液の水保持性能は減少する)。アニオン荷電ナノフィブリルセルロース分散液のpHは、脱水特性を向上させるために、4以下、好ましくは3以下である。
【0090】
一実施例において、「TEMPO」酸化パルプから得られたアニオン荷電ナノフィブリルセルロース分散液は、膜の目標坪量が1平方メートルあたり20グラムであったとき、本来(未調整)のpHにおいて約100分間の真空下における脱水時間を必要とする。脱水前にHClを用いて分散液のpHが2に低下されたとき、同じ条件下の脱水時間は、約30秒間であった。つまり、時間は、当初の0.5%まで減少した。pHが低下すると、分散液は明らかに凝集し始める(小繊維フロックが形成される)。このことは、脱水がより早くなる理由の1つであると考えられる。なぜなら、水は、凝集体の間をより容易に流れるからである。
【0091】
含浸医療用製品の作製
一実施形態は、医療用製品を作製するための方法であって、ナノフィブリルセルロースの水性分散液を提供し、ガーゼの層を提供することを含む方法を提供し、ナノフィブリルセルロースは、本明細書に記載された分散液であってもよく、ガーゼは、本明細書に記載されたガーゼであってもよい。
【0092】
本方法は、ナノフィブリルセルロースの水性分散液を用いてガーゼの層を処理すること、たとえば含浸させることを含む。このことは、たらいなどに分散液を提供し、ガーゼを当該分散液に浸すか、または浸けることによって実施されてもよい。ガーゼは、分散液をガーゼに含浸させるために適切な期間にわたって分散液中に保持され、続いてガーゼは、分散液から取り除かれる。本明細書に使用されたような含浸は、ガーゼが、ナノフィブリルセルロースを含む分散液で、完全に、または実質的に完全に満たされるか、または当該分散液に浸される工程をいう。含浸において、ガーゼは、分散液によって、部分的または完全に、満たされ、湿らされ、透過され、または飽和される。
【0093】
本明細書において使用されるような「含浸」は、ナノフィブリルセルロースの分散液が、少なくとも部分的にガーゼに浸み込むようにガーゼの層に接触させられる、非層状化処理もしくは非積層処理、または非層状化工程もしくは非積層工程をいう。含浸において、ガーゼは、実際には同時に両側から含浸溶液に接触し、このことは、分散液がガーゼの両側からガーゼに浸透することを可能にする。好ましくは、ガーゼは、完全に含浸させられるので、ナノフィブリルセルロースは、ガーゼに均一に分散し、別の層は、ガーゼの表面に全く形成されない。すなわち、検出可能な層または可視層は、ガーゼの表面に形成されない。層状化構造を形成するための技術、たとえば層状化法または被覆方法、たとえばブレード塗工および噴霧技術は、実施形態の方法から除かれる。
【0094】
次に、湿ったガーゼは、過剰の分散液および液体を取り除くため、ならびにガーゼの構造体への分散液の浸透を促進するために押圧されてもよい。このことは、ガーゼ中のナノフィブリルセルロースの均一な分散を促進する。しかしながら、たとえば、ガーゼの構造または材料は、別の側で異なっている場合、ガーゼの特性は、ガーゼへのナノフィブリルセルロースの浸透に対する影響を有してもよい。一実施形態において、本方法は、したがって、含浸ガーゼを押圧することを含み、医療用製品を得るために、任意の好ましい押圧方法および/または装置を用いて実施されてもよい。
【0095】
一実施形態において、押圧は、ニップ、またはより具体的にはニップロールにおいて実施される。ニップは、たとえばプレスまたはカレンダにおける、2つの対向するロールが出会う接触領域をあらわす。ニップロールまたはピンチロールは、パワードロールであってもよく、これらは通常、積層製品を形成するために、2つ以上のシートを押圧するために使用される。一実施例では、片方のロールが動力で動かされ、他方が自由に移動可能である。本実施形態において、しかしながら、それらは、含浸ガーゼを押圧するために使用されるので、得られた製品は、積層製品ではない。ニップポイントにおいて生じる高圧は、含浸ガーゼを密接に接触させ、泡または気泡を絞り出すことができる。ニップローラユニットは、ロールに寄せられる材料、または操作の間に供給される材料に対するプラーとして使用可能である。ニップロールは、圧搾ロール、ピンチロールまたは絞り機と称される場合もある。ニップロールは、いくつかの装置、たとえば、ポンドサイズプレスおよびサイズプレスにおいて使用されてもよい。ニップロールは、上部の自由に移動可能なロールが、ガーゼに対する圧力をニップポイントに加えるように重なっていてもよい。ニップロールは、たとえば、細い溝を有する鋼製ロールであってもよい。ニップロールの使用は、分散液のガーゼへの浸透を促進し、同時にガーゼから過剰の分散液を取り除くことに非常に効果的であることが見出された。ニップロールは、産業規模の工程において非常に有用であり、長いガーゼシートは、ニップロールに、さらに、次の工程、たとえば脱水工程に含浸から直ちに供給される。
【0096】
一実施形態において、押圧は、ポンドプレス、より具体的にはポンドサイズプレスにおいて実施される。このことは、
図1に示され、ガーゼ14は、第1ロール16を介して、1組のニップローラ10,12、およびさらに第2ローラ18を、矢印24によって示された方向に通る。含浸溶液は、矢印20,22によって示されたニップローラ10,12によって形成された位置までニップローラ10,12の直前に提供される。ガーゼは、含浸させられ、ニップにおいて直ちに押圧される。
【0097】
一実施形態において、押圧は、サイズプレスにおいて実施される。これは、
図2に示されており、ガーゼ14は、矢印24によって示される方向に向けて1組のニップローラ10,12を通る。含浸溶液は、矢印26,28によって示されたように、ニップローラ10,12の表面から含浸ガーゼ14に提供される。
【0098】
一実施例において、ガーゼ14は、
図3に示されるように、まず容器32における含浸溶液または分散液30に浸され、1組のニップロール10,12に矢印24によって示される方向に供給される。ニップロール10,12が水平に隣接するとき、押圧されたゲルは、含浸容器に逆流する。ガーゼ14を含浸溶液または分散液30に導くために容器内には2つのローラ34,36がある。含浸ガーゼは、続いてさらに脱水工程に導かれてもよい。脱水されたガーゼを含浸容器32戻すように供給することもできる。含浸容器は、先のものと同じであってもよく、または異なってもよく、この場合、含浸溶液または分散液は、同じまたは異なる組成物を有してもよい。たとえば、医療用薬剤または美容用薬剤などの補助剤は、第1含浸溶液もしくは分散液、または含浸処理に含まれてもよく、後続の含浸処理においてそのような薬剤が存在しないか、または薬剤の濃度が後続の処理において異なっており、たとえば濃度は、後続の処理において低いか、または高い。後続の含浸処理において異なる補助剤を含めることも可能である。各含浸処理は、1つ以上の異なる補助剤を含んでもよい。一実施例において、補助剤は、最後の含浸処理においてのみ存在する。本方法を用いて、持続する、または制御された放出特性を有する製品を作製することが可能である。
【0099】
処理されたガーゼは、最終的に脱水される。一実施形態において、本方法は、押圧された含浸ガーゼを脱水することを含む。このことは、押圧工程の後に実施されてもよく、またはいくつかの含浸および押圧工程が存在する場合、最後の押圧工程の後に実施されてもよい。
【0100】
脱水は、非接触乾燥、たとえば、赤外線ドライヤ、フローティングドライヤもしくはインピンジメントドライヤによって、または接触乾燥、たとえば、プレスドライヤ、シリンダドライヤもしくはベルトドライヤによって実施されてもよい。空気衝突乾燥は、湿ったシートに対して高速でガスバーナの熱した空気(たとえば300℃)を吹きつけることを含む。ベルト乾燥において、製品は、蒸気または熱いガスによって加熱された連続した熱いスチールバンドに接触することによって乾燥チャンバにおいて乾燥される。バンドからの水分は、バンドからの熱によって蒸発する。
【0101】
乾燥シリンダが使用されるとき、製品の表面は、滑らかであり、乾燥は、費用効果が高い。一実施例において、製品は、プレスドライヤにおいて脱水され、製品は、テフロンプレートと布または織物との間に位置し、熱も加えられる。
【0102】
含浸および脱水は、一度に実施されるか、ガーゼ中の分散液の飽和および/または均一な分散を最大化するために必要であれば、複数の工程を繰り返されてもよい。含浸および脱水の工程、任意にその間の押圧工程は、ともにたとえば含浸処理と称されてもよい。具体的な特性、たとえば製品の坪量は、望ましいものであってもよい。そのような場合、含浸処理は、医療用製品が所望の坪量に達するまで繰り返される。したがって、一実施形態において、含浸および脱水は、少なくとも1回繰り返され、すなわち、含浸および脱水は、少なくとも2回実施される。一実施形態において、含浸および脱水は、数回、たとえば2~6回、たとえば2、3、4、5または6回以上実施される。一実施形態において、含浸および脱水は、医療用製品が、25~80g/m2、たとえば30~70g/m2、たとえば35~65g/m2の範囲の坪量、または本明細書に開示された任意の他の坪量に達するまで繰り返される。
【0103】
本明細書において使用されるガーゼは、織物、布、または繊維を含む同様の材料などの任意の好適なガーゼを表す。ガーゼは、織物もしくは不織布であってもよく、滅菌もしくは非滅菌であってもよく、素材のままもしくは含浸させてもよく、もしくは有窓であってもよく(有孔もしくはスリットを有してもよく)、またはそれらの組み合わせであってもよい。ガーゼは、ガーゼシートまたは織物などとして提供されてもよい。
【0104】
一実施形態において、ガーゼは、織物である。ある定義では、織物ガーゼは、薄く、目の粗い半透明の織物である。技術用語において、織物ガーゼは、横糸が対で配設され、各縦糸の前後で交差して横糸を堅く適所に保持する織物構造体である。ガーゼは、天然繊維、半合成繊維、もしくはビスコース、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの合成繊維、またはそれらの組み合わせ、たとえば、ビスコース-ポリエステル混合物、またはセルロース(パルプ)とポリプロピレンおよび/またはポリエステルとの混合物を含んでもよい。医療用包帯として使用されるとき、ガーゼは、綿で作製されてもよい。ガーゼは、貼付剤のパッドとして機能してもよい。一実施形態において、ガーゼは、たとえば、ビスコース-ポリエステルガーゼ、たとえば不織布である。そのような不織布ガーゼは、非常に多孔質で、透過性であり、中程度に弾性であり、一方向への不可逆的伸長をもたらす。
【0105】
一実施形態において、ガーゼは不織布である。不織ガーゼは、織物に似せるために、ともに押圧された繊維を含み、向上したウイッキング性と高い吸収能とを提供する。織物ガーゼに比べて、この種類のガーゼは、糸くずが少なく、取り除かれるときに、創傷に繊維をほとんど残さないという利点を有する。不織ガーゼ包帯の例は、ポリエステル、ビスコース、またはこれらの繊維の混合から作製され、織物パッドよりも強く、嵩高で、柔らかい。
【0106】
本実施形態において使用されるガーゼは、たとえば、医療用製品が滲出液を吸収し、血液、血漿および創傷から滲出し、それらを一か所に含む他の液体を吸収することを可能にするために、吸収材を含んでもよい。ガーゼは、出血を止め、創傷を閉じるのに役立つ。また、ガーゼは、治療用薬剤または他の薬剤を吸収してもよい。
【0107】
一実施形態において、ガーゼは、天然繊維または天然繊維系材料、たとえば、綿、セルロース、リネン、シルクを含む。天然繊維は、ガーゼがナノフィブリルセルロースを含む層に水素結合を介して付着することを促進する遊離の水酸基を提供する。また、半合成繊維は、遊離のヒドロキシル基、たとえばビスコースを提供してもよい。
【0108】
一実施形態において、ガーゼは、天然ガーゼ、たとえばセルロースもしくは綿ガーゼ、合成ガーゼもしくは半合成ガーゼ、またはそれらの混合物を含む。一実施例において、ガーゼは、ポリプロピレンおよびセルロースの混合物を含む。一実施例において、ガーゼは、ポリプロピレン、ポリエステルおよびセルロースの混合物を含む。一実施例において、ガーゼは、ビスコースおよびポリプロピレンの混合物を含む。一実施例において、ガーゼは、ビスコースおよびポリエステルの混合物を含む。セルロース繊維は、これらの材料と混合されてもよい。これらのガーゼは、不織布であってもよい。
【0109】
ガーゼは、流体を通過させるために高度に浸透性であるべきである。ガーゼは、フィルタではなく、ほとんどの高分子の流過を制限しない。ガーゼは、ナノフィブリルセルロースを含む分散液を脱水するためのフィルタとして使用されてもよい。ガーゼは、多孔質であってもよく、および/または有窓で、孔またはスリットなどを有してもよい。紙または厚紙は、ガーゼではない。より具体的には、紙は、適切ではない。なぜなら、紙は、多層製品に適している、そのような坪量または厚さで十分に高い引裂強さをもたらさないからである。厚紙、または他の同様のセルロース性製品も同様である。一実施形態において、ガーゼは、非セルロース性である。
【0110】
一実施例において、ガーゼは、弾力がある。多くの天然の、半合成または合成繊維は、弾力がある。しかしながら、一実施例において、ガーゼは、たとえば、綿を含むとき、非弾性特性をもたらす剛体である。ガーゼは、たとえば多層製品の引裂強さを向上させるために、補強特性をもたらしてもよい。
【0111】
引裂強さ(引裂耐性)は、どのように材料が引裂作用に耐えることができるかの基準である。より具体的には、引裂強さは、材料が、緊張下において任意の切れ目の増大にどのように耐えるかを測定する。引裂耐性は、ASTM D 412法によって測定されてもよい(同法は、引張強さ、引張弾性率および引張伸びに使用されてもよい)。比引裂強さを示すことができ、比引張強さ=引裂強さ/坪量であり、通常mNm2/gで測定される。
【0112】
ガーゼは、800~2000mNの範囲内の引裂強さを有してもよい。比引裂強さは、ISO1974で測定されてもよい。ガーゼの引張強さは、たとえば、0.6~1.5kN/m、たとえば0.7~1.2kN/mの範囲内であってもよい。引張強さは、ISO1924-3によって測定されてもよい。ガーゼは、20~60g/m2の範囲内、たとえば30~55g/m2の範囲内の坪量を有してもよい。坪量は、ISO536によって測定されてもよい。ガーゼは、たとえば100~400g/cm3の範囲内、たとえば160~330g/cm3の範囲内の密度を有してもよい。容積は、cm3/gとして示され、ISO534によって測定されてもよい。
【0113】
ガーゼ、たとえば乾燥ガーゼの層は、100~1000μm、たとえば100~200μm、150~200μm、200~300μm、300~400μm、400~500μm、500~600μm、600~700μm、700~800μm、800~900μm、または900~1000μmの範囲内の厚さを有してもよい。しかしながら、たとえば、2000または3000μmまでの厚いガーゼが使用されてもよい。一実施形態において、ガーゼの厚さは、100~200μm、たとえば100~120μm、120~140μm、または140~160μm、または160~190μmの範囲内である。
【0114】
一実施形態において、医療用製品は、ナノフィブリルセルロースを含浸させたガーゼの層を含む医療用製品を提供する。一実施形態において、医療用製品は、本明細書に記載された方法によって得られる。
【0115】
医療用製品は、50~500μmの範囲内の厚さを有してもよい。一実施形態において、医療用製品は、50~250μm、たとえば、80~200μmまたは100~150μmまたは110~140μmの範囲内の厚さを有する。厚さは、ISO534によってバルク厚さとして測定されてもよい。
【0116】
補強ガーゼを用いると、医療用構造体の引裂強さは、ガーゼを有さない製品よりも顕著に高い。一実施形態において、医療用製品は、10~100mNm2/gの範囲内の比引裂強さを有する。一実施形態において、医療用製品は、15~70mNm2/gの範囲内の比引裂強さを有する。引裂強さは、ある方向と垂直方向とで異なってもよく、ガーゼの特性によって影響を受けてもよい。たとえば、ガーゼは、縦方向(md)とも称される垂直方向と、横方向(cd)とに異なる特性を有してもよい。
【0117】
一実施形態において、医療用製品は、25~80g/m2の範囲内の坪量を有する。一実施形態において、医療用製品は、30~70g/m2の範囲内の坪量を有する。一実施形態において、医療用製品は、35~65g/m2の範囲内の坪量を有する。一実施形態において、医療用製品は、45~63g/m2の範囲内の坪量を有する。
【0118】
医療用製品中のナノフィブリルセルロースの坪量は、製品の乾燥重量として測定された、1~50g/m2の範囲、たとえば1~20g/m2、たとえば、2~20g/m2、2~12g/m2または5~15g/m2の範囲内にあってもよい。
【0119】
一実施形態において、医療用製品は、300~700g/cm3、たとえば350~530kg/m3の範囲内の密度を有する。密度は、ISO534によってバルク厚さとして測定されてもよい。
【0120】
好ましくは加圧滅菌された医療用製品の透気度は、120ml/分未満、または600ml/分未満、たとえば、1000ml/分未満または2000ml/分未満であってもよい。透気度は、一般的に、ナノフィブリルセルロースの量に相関する。ナノフィブリルセルロースの量が多くなれば、透気度は低くなる。600ml/分未満または500ml/分未満の典型的な透気度では、ナノセルロースの量は、多くの用途にとって好適なレベルである。
【0121】
医療用製品は、いくつかの用途において使用されてもよい。ある特定の分野は、医療用途であり、材料は、生体組織、たとえば皮膚に適用される。構造体は、貼付剤、包帯、絆創膏、フィルタなどの医療用製品において使用されてもよい。医療用製品は、治療用製品、たとえば薬剤を含む治療用貼付剤であってもよい。一般的に、ナノフィブリルセルロースを含む製品の表面は、使用中に皮膚に接触するであろう。ナノフィブリルセルロースの表面は、皮膚と直接接触するとき、有利な効果をもたらす。たとえば、皮膚の創傷または他の損傷の治癒を促進するか、または医療用製品から皮膚への物質の送達を促進する。
【0122】
本明細書において使用される用語「創傷」は、開放性創傷または閉鎖性創傷を含む、皮膚などの組織の任意の、損傷、外傷、疾病、障害などを表し、創傷の治癒が望まれ、創傷の治癒は本明細書に記載された製品によって促進することができる。創傷は、清潔であってもよく、汚染、感染、またはコロニー化していてもよく、特に、後者の場合、治療薬、たとえば抗菌薬が投与されてもよい。開放性創傷の例は、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創および穿通創を含む。閉鎖性創傷の例は、血腫、挫滅傷、縫合傷、移植片、および任意の皮膚の状態、疾病、または障害を含む。皮膚の状態、疾病、または障害の例は、ざ瘡、感染症、小水泡性疾患、口唇ヘルペス、皮膚カンジダ症、蜂巣炎、皮膚炎および湿疹、疱疹、蕁麻疹(hives)、狼瘡、丘疹鱗屑性疾患、蕁麻疹(urticaria)、および紅斑症、乾癬、酒さ(rosacea)、放射線関連障害、色素沈着、ムチン沈着症、角化症、潰瘍、委縮症、および類壊死、血管炎、白斑症、疣贅、好中球疾患および好酸球疾患、表皮もしくは真皮のメラノーマおよび腫瘍、または表皮および真皮の他の疾病もしくは障害などの、先天性の腫瘍および癌を含む。
【0123】
治療薬を含む医療用製品であって、ナノフィブリルセルロースを含むガーゼおよび/または表面層が1つ以上の治療薬、たとえば薬物または薬剤を含む医療用製品が提供されてもよい。また、医薬品との用語は、治療薬との用語の代わりに互換的に使用されてもよい。そのような薬剤は通常、有効量で存在する、活性剤または有効剤である。そのような薬剤は、たとえば、所定の期間にわたって所望の薬剤量がもたらされ、皮膚または他の組織などの、標的に所望の影響を与えるように構成された量などの所定量で提供されてもよい。製品内の治療薬の含有量は、たとえば0.1~5%の範囲内にあってもよい。特に、治療薬が含まれる場合、薬剤の、持続性、または長期の放出がもたらされる。そのような場合、ナノフィブリルセルロースは、薬剤の浸透を可能にするためにある程度の水分を含んでもよい。治療薬を含む製品の水分含有量は、0~10%の範囲内、たとえば5~7%の範囲内であってもよい。治療薬は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくは乳濁液、または他の好適な形態で存在してもよい。
【0124】
本明細書に記載された医療用製品を用いることによって投与され得る治療薬の例は、抗菌薬、リドカインなどの鎮痛剤;ニコチン;フェンタニルもしくはブプレノルフィンなどのオピオイド;エストロゲン、避妊薬もしくはテストステロンなどのホルモン;ニトログリセリン;スコポラミン;クロニジン;セレギリンなどの抗うつ剤;メチルフェニデートなどのADHD薬;B12もしくはシアノコバラミンなどのビタミン;5-ヒドロキシトリプトファン;リバスチグミンなどのアルツハイマー薬;ざ瘡薬;乾癬治療薬;ヒドロコルチゾンなどのグルココルチコイド;または皮膚の疾患もしくは障害を治療するための任意の他の薬剤を含む。治療薬は、たとえば、6、12、24または48時間までの数時間にわたって、貼付剤からの治療薬の、長期、持続性または延長した放出をもたらすために、たとえば、健康な皮膚もしくは損傷した皮膚に使用され得る医療用貼付剤中において使用されてもよい。
【0125】
一実施形態は、抗菌薬を含む医療用製品を提供する。そのような製品は、創傷の治療に特に適しており、創傷治療特性は、創傷内の有害な微生物に起因する感染を防ぐ抗菌特性と組み合わされる。好適な抗菌薬の例は、特に局所的抗菌薬、たとえば、バシトラシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ポリミキシン、ムピロシン、テトラサイクリン、メクロサイクリン、スルファセタミド(ナトリウム)、過酸化ベンゾイルおよびアゼライン酸、ならびにそれらの組み合わせを含む。たとえば、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリンおよびアモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬;セファクロル、セファドロキシルおよびセファレキシンなどのセファロスポリン系抗菌薬;テトラサイクリン、ドキシサイクリンおよびリメサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬;ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬;エリスロマイシン、アジスロマイシンおよびクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬;クリンダマイシン;スルホンアミドおよびトリメトプリム;メトロニダゾールおよびチニダゾール;シプロフロキサン、レボフロキサンおよびノルフロキサンなどのキノロン系抗菌薬などの全身抗菌薬などの別の種類の抗菌薬も提供される。
【0126】
抗菌薬は、ざ瘡を治療するために使用されてもよく、たとえば、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどである。過酸化ベンゾイル、サリチル酸、たとえばトレチノイン、アダパレンもしくはタザロテンなどの局所的レチノイド薬、アゼライン酸、またはスピロラクトンなどのアンドロゲン阻害剤などの他の薬剤が使用されてもよい。乾癬は、ステロイド薬、たとえば、コルチコステロイド、保湿用クリーム、カルシポトリオール、コールタール、ビタミンD、レチノイド、タザロテン、アントラリン、サリチル酸、メトトレキサート、またはシクロスポリンによって治療されてもよい。虫刺され、またはツタウルシ暴露は、薬剤、たとえば、ヒドロコルチゾン、エミューオイル、アーモンドオイル、アンモニア、ビサボロール、パパイン、ジフェニルヒドラミン、ツリフネソウ抽出物、またはカラミンで治療されてもよい。これらの治療薬または他の治療薬のいくつかは、美容用薬剤として分類されてもよい。
【0127】
一実施形態は、本明細書に記載された含浸医療用製品を含む医療用製品、たとえば、包帯、貼付剤またはフィルタを提供する。
【0128】
一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を治療、および/または覆うために使用される医療用製品を提供する。一実施形態は、皮膚の創傷または他の損傷を、治療するための、および/または覆うための、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤内の上述の医療用製品を提供する。
【0129】
一実施形態は、移植片、たとえば皮膚移植片で覆われた皮膚の創傷を、治療および/または覆うために使用される上述の医療用製品を提供する。一実施形態は、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤中で使用される、皮膚移植片などの移植片で覆われた皮膚の創傷を治療および/または覆うための医療用製品を提供する。
【0130】
包帯は、治癒を促進するため、および/またはさらなる障害を防ぐために創傷に適用された、無菌パッドまたは湿布である。包帯は、創傷に直接接触するように設計され、ほとんどの場合、包帯をその場に保持するために使用される絆創膏とは区別される。いくつかの組織体は、それらを同一の物として分類しており(たとえば、イギリス薬局方)、上述の用語は、ある人々によっては互換的に使用される。包帯は、応急処置および看護において頻繁に使用される。
【0131】
一実施形態は、治療薬を投与するために使用される医療用製品を提供する。そのような場合、医療用製品は、それ自体で、またはたとえば貼付剤中に提供されてもよい。1つ以上の治療薬は、本明細書に記載されたように、製品中に含まれ、たとえば含浸させられてもよく、患者への投与は、経皮または経皮的であってもよい。
【0132】
一実施形態は、医療用製品を含む美容用製品、たとえば、包帯、マスクまたは貼付剤を提供する。上述の製品は、美容用製品と称されてもよい。製品は、様々な形状で提供されてもよく、たとえば、マスクは、顔、たとえば眼の下、または顎、鼻、もしくは額に合うように設計されてもよい。一実施形態は、美容用製品としての使用のための医療用製品を提供する。製品は、使用者に対して、たとえば使用者の皮膚に対して1つ以上の美容用薬剤を放出するために使用されてもよい。上述の美容用製品は、1つ以上の美容用薬剤を含んでもよい。美容用薬剤は、製品中に含まれ、たとえば含浸されてもよく、そこから美容用薬剤は、放出または送達される。製品内の美容用薬剤の含有量は、たとえば0.1~5%の範囲内にあってもよい。美容用薬剤は、治療薬についての上述の説明と同様に、製品中に存在または提供されてもよく、その反対でもよい。美容用途は、本明細書に記載されたように医療用途、特に治療薬の投与に類似していてもよい。美容用薬剤は、本明細書に言及されたように、皮膚疾患または皮膚障害を美容的に処理するために使用されてもよい。上述の美容用製品は、たとえば、面皰、ざ瘡状皮膚、褐色斑点、皺、脂性肌、乾燥肌、皮膚老化、くも状静脈、紅斑、くまなどを治療するために使用されてもよい。美容用貼付剤の例は、皮膚クレンザー、たとえば、毛穴クレンザー、黒色面皰除去剤、ストレッチストライプ(stretching stripes)、短期貼付剤様マスク、短期治療貼付剤、および一晩治療貼付剤を含む。
【0133】
美容用薬剤の例は、ビタミンA、たとえば、レチンアルデヒド(レチナール)、レチノイン酸、パルミチン酸レチニルおよびレチノイン酸レチニル、アスコルビン酸、グリコール酸および乳酸などのアルファ-ヒドロキシ酸などのレチノイドなどの、ビタミンの形態とその前駆体;グリコール;バイオテクノロジー製品;角質溶解薬;アミノ酸;抗菌薬;保湿用クリーム;顔料;抗酸化剤;植物抽出物;クレンジング剤またはメーキャップ除去剤;カフェイン、カルニチン、イチョウおよびトチノキなどの抗セルライト剤;コンディショナー;アロマセラピー薬および香水などの芳香剤;尿素、ヒアルロン酸、乳酸およびグリセリンなどの湿潤剤;ラノリン、トリグリセリドおよび脂肪酸エステルなどの軟化剤;アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン、トコフェロール(ビタミンE)、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビリルビン、リポ酸、尿酸、酵素擬態薬、イデベノン、ポリフェノール、セレニウム、フェニルブチルニトロン(PBN)などのスピントラップ剤、タンパク質メチオニン基、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、セレニウムペロキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼなどのFR捕捉剤、一重項酸素捕捉剤、超酸化物捕捉剤、または過酸化水素捕捉剤、またはそれらの組み合わせを含む。美容用薬剤は、水溶性形態、脂溶性形態もしくはエマルジョン、または別の好適な形態で存在してもよい。
【0134】
一実施形態は、皮膚を美容的に処置する方法、本明細書に記載された医療用製品を皮膚に適用することを含む方法を提供する。
【0135】
本明細書において使用される「貼付剤」は、皮膚に適用され得る、医療用または美容用製品を表す。貼付剤の例は、経皮貼付剤および経皮吸収貼付剤を含む。経皮貼付剤または皮膚貼付剤は、薬剤を皮膚に送達するために皮膚に置かれる医薬用接着貼付剤である。経皮吸収貼付剤は、皮膚を通って特定量の薬剤を血流に送達するために、皮膚に適用される医療用接着貼付剤である。一例では、これは、体の傷ついた領域の治癒を促進する。貼付剤は、保存の間に貼付剤を保護し、使用前に除去される剥離ライナー、および/または貼付剤を皮膚に付着させる接着剤、および/または外部環境から貼付剤を保護するための裏板を含んでもよい。剥離ライナーの例は、グラシン紙、高密度クラフトスーパーカレンダー紙、クレーコート紙、シリコンコート紙およびポリオレフィンコート紙などの紙系ライナー;ポリスチレン、ポリエステル、ポリエチレン、無延伸ポリプロピレンおよびポリビニルクロライドなどのプラスチック系ライナー;ならびにいくつかのフィルムの組み合わせに基づく複合材料ライナーを含む。接着層は、たとえば圧力感受性接着剤(PSA)を含んでもよい。
【0136】
一実施形態は、別の包装に包まれた、本明細書に記載の医療用製品を提供する。別の包装は、一連の包装として提供されてもよい。通常、上述の包装製品は、滅菌されて提供される。
【0137】
一実施形態は、本明細書に記載された、医療用製品または美容用製品、たとえば包装製品を含むキットを提供し、当該キットは、1つ以上の包装製品を含んでもよい。キットは、他の材料または付属品、たとえば、使用前に製品を前処理するための生理食塩水溶液などを含む容器を含んでもよい。
【0138】
一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷、または外傷を治療するための方法であって、本明細書に記載された医療用製品を創傷、損傷、または外傷に適用することを含む方法を提供する。ある具体的な実施形態は、皮膚移植片、たとえばメッシュグラフトまたは全層皮膚移植片などの移植片で覆われた皮膚の創傷を治療するための方法であって、本明細書に記載された医療用製品を上述の移植片に適用することを含む方法を提供する。
【0139】
移植は、外科的処置を表し、組織自身の血液供給を体にもたらすことなく、体のある部位から別の部位に組織を移動させるか、または別の人間から組織を移動させる。これに代えて、組織が配置された後、新しい血液供給が増える。自家移植片および同種移植片は通常、外来物とはみなされないので、拒絶反応は誘発されない。同種移植片および異種移植片は、臓器受容者によって外来物と認識され、拒絶される。
【0140】
皮膚移植片は、多くの場合、創傷、火傷、感染、または外科的処置による皮膚の損失を治療するために使用される。損傷した皮膚の場合、その皮膚は取り除かれ、新たな皮膚がその場所に移植される。皮膚移植は、処置期間および必要な入院期間を短くし、機能および外見を向上することもできる。皮膚移植片の2つの種類は、分層皮膚移植片(表皮+真皮の一部)と、全層皮膚移植片(表皮+真皮の全層)とである。
【0141】
メッシュグラフトは、排液および膨張のために開口部を設けられた、皮膚の、全層または分層のシートである。メッシュグラフトは、体の多くの場所において有用である。なぜなら、メッシュグラフトは、平らでない表面に適合するからである。メッシュグラフトは、過度に動く場所に置くことができる。なぜなら、メッシュグラフトは、根底にある創傷床を縫合することができるからである。また、造窓術は、移植片の真下に集まり得る流体の排出口を提供し、排出口は、緊張と感染のリスクとの低下、ならびに移植片の血管新生の向上を促進する。
【0142】
臨床試験において、医療用製品は、移植領域に付着し、保護層として機能することが見出された。移植片が治癒すると、製品は、移植片とともに痂皮様構造を形成する。ナノフィブリルセルロースを含む製品の特性は、治癒を促進し、形成された乾燥した痂皮を有する医療用製品は、通常の創傷治癒過程における通常の痂皮の挙動と同様の方法で失われる。
【0143】
皮膚に医療用製品を適用する前に、当該製品は、一般的に水溶液を用いて前処理、すなわち加湿されるか、または湿らせられてもよい。加湿または湿潤は、たとえば、水、または通常の生理食塩水溶液を用いることによって実施されてもよく、当該生理食塩水溶液は、通常0.90% w/wのNaCl溶液であり、約308mOsm/lの重量オスモル濃度を有する。他の種類の水溶液、たとえば異なる濃度を有する生理食塩水溶液が使用されてもよい。材料の加湿または浸潤は、皮膚との接触、および材料のシートの成形性を向上させる。
【実施例】
【0144】
実施例1
表1は、様々なガーゼを用いた様々な含浸試験の結果を示す。試験AE5~AE7は、1つのImprexニップによって行われた。AE9には3つのニップがあり、AE10には2つのニップがあった。試験AH1~AH5は、それぞれ、3、4、4、5および4回の含浸処理で、1つのImprexニップを用いて行われた。乾燥温度は、全ての試験で90℃であった。試験AE5~AE10において、乾燥圧力は2バールであり、試験AH1~AH5において、乾燥圧力は5バールであった。乾燥は、テフロンプレートと布との間のプレスドライヤにおいて実施された。ゲル濃度は、全ての試験において0.8%であった。含浸処理は、含浸、ニップにおける押圧、および脱水を含む。使用されたガーゼは、パルプ-ポリプロピレン-ポリエステルガーゼ(AE7,AE9,AE10,AH3,AH4)、パルプ-ポリプロピレン-ポリエステルガーゼ(AE5)、パルプ-ポリプロピレンガーゼ(AH1,AH2)、パルプ系ガーゼ(AH5)であった。
【0145】
出発材料と得られた気泡製品との特性、たとえば、最終製品、ガーゼおよびナノフィブリルセルロース(NFC)の坪量(g/cm2)、平均厚さ(μm)、密度(g/cm3)、気泡製品と加圧滅菌された気泡製品との上側および下側の粗さ(ベントセン,ml/分)、ならびに気泡製品の透気度(ベントセン,ml/分)が測定された。特性は、明細書に記載された適切なISO基準に従って測定された。
【0146】
一般的に、1回の含浸処理(IR)において、約1.5g/m
2のナノフィブリルセルロースが移動するが、これはガーゼに依存することが観察された。同じバッチにおいてさえ、ガーゼの坪量において大きな変化があった。
【表1】
【0147】
実施例2
製品の透気度に対する含浸処理(含浸、ニップにおける押圧、および脱水を含む含浸通過)の回数の影響が試験された(表2)。ガーゼは、実施例1の説明と同様であった。
【表2】
【0148】
実施例3
様々なガーゼから作製された様々な医療用製品の特性が試験された。AJ1、AJ2、AK2およびAK3は、パルプ-ポリプロピレンガーゼである。AK1は、パルプ-ポリプロピレン-ポリエステルガーゼである。坪量および透気度は、調湿試料から測定された。この結果は、表3に示される。Md=縦方向、cd=横方向
【表3】
【0149】
実施例4
様々なガーゼHA1~HA7の特性が分析された。坪量は、調湿試料から測定された。この結果は、表4および5に示される。Md=縦方向、cd=横方向
【表4】
【表5】