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特許70721531,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/23 20060101AFI20220513BHJP
   C07C 17/281 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 21/20 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 23/06 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C07C17/23
C07C17/281
C07C21/18
C07C21/20
C07C23/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020136147
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2021031491
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2019148439
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】足達 健二
(72)【発明者】
【氏名】生越 專介
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006766(JP,A)
【文献】特開2019-077626(JP,A)
【文献】特表2008-510832(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172337(WO,A1)
【文献】特開平10-182516(JP,A)
【文献】国際公開第2001/027987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/23
C07C 17/281
C07C 21/18
C07C 21/20
C07C 23/06
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の製造方法であって、
1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程を備える、製造方法。
【請求項2】
前記0価アルカリ金属が、リチウム金属、ナトリウム金属及びカリウム金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記0価アルカリ金属が、ナトリウム金属である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記0価アルカリ金属が分散油中に分散している、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと前記0価アルカリ金属とを反応させる工程が、ミネラルオイル又は沸点30~800℃の有機溶媒の存在下で行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと前記0価アルカリ金属とを反応させる際の温度が-110~800℃である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンとヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンとを含有し、且つ、組成物総量を100モル%として、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの含有量が3~90モル%であり、1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの含有量が10~97モル%である、組成物。
【請求項8】
1,1,2-トリフルオロエチレンとヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンとを含有し、且つ、組成物総量を100モル%として、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの含有量が5~30モル%であり、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が70~95モル%である、組成物。
【請求項9】
クリーニングガス又はエッチングガスとして用いられる、請求項7又は8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンは、エッチングガス又はクリーニングガスの用途として有望視されている。
【0003】
なかでも、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、例えば、ハロゲン含有アルカンを原料化合物として、亜鉛を用いた脱ハロゲン反応を行うことにより合成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第105732301号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を、温和な条件且つ高選択率で得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0007】
項1.1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の製造方法であって、
1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【0008】
項2.前記0価アルカリ金属が、リチウム金属、ナトリウム金属及びカリウム金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
【0009】
項3.前記0価アルカリ金属が、ナトリウム金属である、項1又は2に記載の製造方法。
【0010】
項4.前記0価アルカリ金属が分散油中に分散している、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0011】
項5.前記1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと前記0価アルカリ金属とを反応させる工程を、ミネラルオイル又は沸点30~800℃の有機溶媒の存在下で行う、項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
項6.前記1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと前記0価アルカリ金属とを反応させる際の温度が-110~800℃である、項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【0013】
項7.1,1,2-トリフルオロエチレン及び/又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンとヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンとを含有し、且つ、組成物総量を100モル%として、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの含有量が3~90モル%であり、1,1,2-トリフルオロエチレン及び/又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの含有量が10~97モル%である、組成物。
【0014】
項8.クリーニングガス又はエッチングガスとして用いられる、項7に記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を、温和な条件且つ高選択率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0017】
本明細書において、「選択率」とは、反応器中の気相部における原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する、当該気相部に含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0018】
本明細書において、「0価アルカリ金属」とは、アルカリ金属の単体を意図しており、アルカリ金属を含む化合物は包含しないものとする。「リチウム金属」、「ナトリウム金属」、「カリウム金属」等も同様である。
【0019】
1.製造方法
本開示の1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の製造方法は、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程を備える。これにより、0価アルカリ金属が塩素化されつつ、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を得ることができる。
【0020】
従来は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、例えば、ハロゲン含有アルカンを原料化合物として、亜鉛を用いた脱ハロゲン反応を行うことにより合成していた。この方法では、使用できる原料化合物が限定されており、脱ハロゲン反応を行うことができる化合物に誘導する必要があるため、何段階も反応工程が必要となり、経済性が悪く廃棄物も多かった。一方、1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンは、例えば、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンを原料化合物として用いた熱分解反応により合成していた。この方法によれば、高温条件で反応を行うため、反応の制御が困難であった。
【0021】
本開示によれば、上記のように、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させることで、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を、温和な条件且つ高選択率で得ることができる。
【0022】
(1-1)1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン
本開示の製造方法において使用できる原料化合物としては、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンを使用する。つまり、従来のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの合成方法とは異なり、原料化合物を安価及び簡便に準備することができる。
【0023】
(1-2)0価アルカリ金属
本開示においては、上記した1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる。
【0024】
0価アルカリ金属としては、特に制限はなく、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属等が挙げられる。なかでも、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を、より温和な条件且つより高選択率で得ることができる観点から、ナトリウム金属及びカリウム金属が好ましく、ナトリウム金属がより好ましい。これらの0価アルカリ金属は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0025】
なお、本開示において、0価アルカリ金属としては、0価アルカリ金属をそのまま使用することもできるが、安全性を考慮すると、0価アルカリ金属(具体的には0価アルカリ金属粒子)が分散油中に分散している0価アルカリ金属分散体を使用することが好ましい。
【0026】
この0価アルカリ金属分散体の分散油中には、分散油を100質量%として、芳香族成分が3~20質量%含有していることが好ましい。
【0027】
前記分散油には、通常、市販されている鉱物油の内で芳香族成分を上記割合で含有しているものを適宜選択して採用することができる。
【0028】
また、芳香族成分の含有割合が異なる二種類以上の油を混合して全体における芳香族成分の含有量が3~20質量%となるように調整して用いることも可能である。
【0029】
また、前記分散油には、0価アルカリ金属の分散性を向上すべくオレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン、アマニ油等を含有させることが好ましく、その含有量は、0.005質量%以上が好ましく、0.05~0.5質量%がより好ましい。
【0030】
なお、要すれば、オレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン、アマニ油の内の2種類以上を分散油中に含有させることもでき、その場合においても、その合計含有量は、0.005~0.5質量%が好ましい。
【0031】
前記分散油中の芳香族成分の含有量は、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、5~15質量%が好ましく、10~15質量%がより好ましい。
【0032】
なお、この芳香族成分の含有量については、ASTM D 3238に基づいて測定する。
【0033】
また、0価アルカリ金属分散体における前記分散油と前記0価アルカリ金属粒子との割合については特に限定されず、用途等に応じて適宜選択可能である。なかでも、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、0価アルカリ金属分散体の総量を100質量%として、前記0価アルカリ金属粒子を1~50質量%含むことが好ましく、10~25質量%含むことがより好ましい。
【0034】
また、前記0価アルカリ金属粒子については、通常、平均粒子径10μm以下のものを用いることができ、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、前記0価アルカリ金属粒子は、平均粒子径5μm以下のものを用いることが好ましい。なお、この0価アルカリ金属粒子の平均粒子径については、顕微鏡観察により測定する。
【0035】
このような0価アルカリ金属分散体は、公知又は市販品を用いることができ、特開2009-102678号公報に記載の方法にしたがって製造することも可能である。
【0036】
本開示において、0価アルカリ金属の使用量は特に制限されるわけではないが、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン1モルに対して、0.01~10モル使用することが好ましく、0.1~2.0モル使用することがより好ましい。なお、0価アルカリ金属分散体を使用する場合は、0価アルカリ金属分散体中に存在する0価アルカリ金属が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0037】
(1-3)溶媒
上記した本開示の反応は、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、溶媒存在下で液相反応とすることが好ましい。
【0038】
0価アルカリ金属の存在形態として0価アルカリ金属分散体を使用する場合は、別途溶媒を使用しないこともできるし、別途溶媒を使用することもできる。また、0価アルカリ金属の存在形態として0価アルカリ金属分散体以外の形態を採用する場合は、別途溶媒を使用することが好ましい。
【0039】
このような溶媒は、特に制限はないが、0価アルカリ金属を扱ううえでの安全性を考慮し、ミネラルオイル又は沸点30~800℃(特に50~600℃)の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0040】
ミネラルオイルとしては、特に制限されるわけではなく、例えば、流動パラフィン、ワセリン、セレシン、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。これらのミネラルオイルは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0041】
また、使用できる有機溶媒としては、特に制限されるわけではなく、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル等が挙げられる。
【0042】
なお、本開示の反応においては、生成される目的物は溶媒の種類によっても異なり、溶媒を使用しない場合はヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンが生成しやすく、炭化水素及び芳香族炭化水素を使用する場合は1,1,2-トリフルオロエチレンが生成しやすく、エーテルを使用する場合は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンが生成しやすい。また、1,1,2-トリフルオロエチレンを得ようとする場合は、溶媒として水素を含む溶媒を採用することが好ましい。
【0043】
上記した溶媒の使用量は特に制限されるわけではないが、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン1モルに対して、0.05モル~5モルが好ましく、0.1モル~2.5モルがより好ましい。
【0044】
(1-4)添加剤
本開示の製造方法において、還元作用を目的とした場合は、上記溶媒としてエーテルを使用することが好ましく、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の水素化アルカリ金属を添加剤として使用することもできる。特に、1,1,2-トリフルオロエチレンを得ようとする場合は、これらの水素化アルカリ金属を添加剤として使用することが好ましい。
【0045】
上記した添加剤の使用量は特に制限されるわけではないが、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、1~5モルがより好ましい。
【0046】
(1-5)反応温度
本開示における1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程では、反応温度は、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの選択率等の観点から、通常-110~800℃が好ましく、-78~400℃がより好ましく、-50~200℃がさらに好ましい。つまり、本開示の反応は、温和な条件下でも進行させることができる。
【0047】
(1-6)反応時間
本開示における1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程では、反応時間は、反応が十分に進行する時間とすることができ、具体的には、容器の蓋を閉めた後に圧力変動がなくなるまで反応を進行させることができる。
【0048】
(1-7)反応圧力
本開示における1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程では、反応圧力としては特に制限はなく、反応開始時において、原料化合物である1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンを0.01~1.0MPa充填することが好ましく、0.1~0.7MPa充填することがより好ましい。なお、本開示において、圧力については特に表記が無い場合はゲージ圧とする。
【0049】
本開示における反応において、反応器としては、上記温度及び圧力に耐え得るものであれば、形状及び構造は特に限定されない。反応器としては、例えば、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等が挙げられる。反応器の材質としては、例えば、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等が挙げられる。
【0050】
(1-8)反応の例示
1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレンと0価アルカリ金属とを反応させる工程は、反応器に原料化合物(1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン)及び0価アルカリ金属を充填した液相反応(バッチ式反応)により行うことができる。
【0051】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を得ることができる。
【0052】
(1-9)目的化合物
このようにして得られた1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス、クリーニングガス等の各種用途に有効利用できる。
【0053】
2.組成物
以上のようにして、1,1,2-トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を得ることができるが、組成物の形で得られることもある。
【0054】
このような組成物は、例えば、1,1,2-トリフルオロエチレン及び/又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンとヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンとを含有し、且つ、組成物総量を100モル%として、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの含有量を3~90モル%(特に5~85モル%)、1,1,2-トリフルオロエチレン及び/又は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンの含有量を10~97モル%(特に15~95モル%)とすることができる。
【0055】
より詳細には、上記のとおり、溶媒を使用しない場合はヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及び1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンが生成しやすいため、組成物総量を100モル%として、1,1,2-トリフルオロエチレンを0~25モル%(特に5~20モル%)、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを35~55モル%(特に40~50モル%)、1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンを30~55モル%(特に35~50モル%)含有することができる。
【0056】
また、上記のとおり、炭化水素及び芳香族炭化水素を使用する場合は1,1,2-トリフルオロエチレンが生成しやすいため、組成物総量を100モル%として、1,1,2-トリフルオロエチレンを70~95モル%(特に75~90モル%)、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを5~30モル%(特に10~25モル%)含有することができる。
【0057】
また、上記のとおり、エーテルを使用する場合は1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンが生成しやすいため、組成物総量を100モル%として、1,1,2-トリフルオロエチレンを0~15モル%(特に3~10モル%)、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを3~15モル%(特に5~10モル%)、1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンを80~95モル%(特に85~90モル%)含有することができる。
【0058】
このような本開示の組成物は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガスの他、クリーニングガス等の各種用途に有効利用できる。
【0059】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例
【0060】
以下に実施例を示し、本開示の特徴を明確にする。本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例1~3
反応管である50ccガラス製オートクレーブに、ナトリウムディスパージョン(金属ナトリウム分散体;ナトリウム含有量25質量%)をナトリウム換算で0.3mmol仕込んだ。さらに、反応管に、ヘキサン5mL、ベンゼン5mL又は市販のミネラルオイル10mLを添加した。反応管の蓋を閉めて、原料化合物である1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン(CTFE)を0.2MPaGとなるように充填した。その後、0℃又は-40℃まで冷却して反応を行い、圧力変動がなくなったら反応終了とした。反応管の気相部をサンプリングし、GCで分析した。過剰量投入したCTFE量を換算した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例4~9
反応管である50ccガラス製オートクレーブに、ナトリウムディスパージョン(金属ナトリウム分散体;ナトリウム含有量25質量%)をナトリウム換算で0.3mmol仕込んだ。さらに、反応管に、必要に応じてテトラヒドロフラン5mL、市販のミネラルオイル1mL又は市販のミネラルオイル5mLと、必要に応じて水素化ナトリウム0.3mmolを添加した。反応管の蓋を閉めて、原料化合物である1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン(CTFE)を0.2MPaGとなるように充填した。その後、0℃又は-40℃まで冷却して反応を行い、圧力変動がなくなったら反応終了とした。反応管の気相部をサンプリングし、GCで分析した。過剰量投入したCTFE量を換算した結果を表2に示す。
【0064】
【表2】