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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】スラブ型電気泳動用ゲルおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
G01N27/447 315D
G01N27/447 315F
G01N27/447 315B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018110731
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019211452
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小原 政信
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-502668(JP,A)
【文献】特表2014-506681(JP,A)
【文献】特開平04-248460(JP,A)
【文献】特開昭58-213001(JP,A)
【文献】米国特許第05989403(US,A)
【文献】特開昭62-091848(JP,A)
【文献】実開平03-080358(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル基材として少なくともアガロースを含むスラブ型電気泳動用ゲルであって、
グルコマンナンを0.05重量%以上含み、
貫通孔を備える中空板をゲル内部に備え、
上記貫通孔の開口部の開口面が電気泳動方向と面するように設けられ、上記貫通孔が電気泳動方向と平行に設けられている、スラブ型電気泳動用ゲル。
【請求項2】
上記グルコマンナンを0.05重量%以上0.3重量%以下含む、請求項1に記載のスラブ型電気泳動用ゲル。
【請求項3】
上記アガロースを0.3重量%以上2.0重量%以下含む、請求項1または2に記載のスラブ型電気泳動用ゲル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のスラブ型電気泳動用ゲルを用いる、電気泳動方法。
【請求項5】
電気泳動用ゲルの内部に設けるための中空板並びに電気泳動用ゲルの原料としてグルコマンナンおよびアガロースを備える、スラブ型電気泳動用ゲル製造キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブ型電気泳動用ゲルおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を分子量の違いにより分離分析する方法はsodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel elelctrophoresis(SDS-PAGE)として知られ、これまで多くの研究分野で汎用されている。このSDS-PAGEに用いられるゲルは自作することができ、例えば、非特許文献1にゲルの作製方法が記載されている。また、スラブ型ゲルのプレキャストゲルとして各種が市販されている。例えば、Mini-Proteanシリーズ(BioRad)、TruPageTMプレキャストゲル(Sigma-Aldrich)、e-PAGELミニサイズ既製ゲル(ATTO株式会社製)およびSuperSepTM(和光純薬)等が挙げられる。また、200bp程度までの低分子DNAを分離分析するためのPAGEも市販されており、NuPAGE(登録商標) (Thermo Fisher Sceintific)、SuperSepTM DNA(和光純薬)等がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】One-demensional sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel elelctrophoresis, p207-217, J E. Celis and E Olsen in CELL BIOLOGY-A LABORATORY HANDBOOK, Edited by JE CELIS, Academic Press, Boston, 1994.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようなスラブ型電気泳動用ゲルについての従来技術では、泳動試料が直線的に電気泳動されず、電気泳動像が八の字に曲がるという現象が起きる場合があった。また、上述のような従来技術では、200bp以上のDNAの分離能が悪くなる場合があり、広範な範囲の分子量の核酸において高い分離能を有するスラブ型電気泳動用ゲルを簡便に作製することが求められていた。
【0005】
本発明の一態様は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、泳動試料が直線的に電気泳動されず、電気泳動像が八の字に曲がるという現象(以下、「八の字現象」とも称する)を抑制することができるスラブ型電気泳動用ゲルを提供することを目的とした。さらに本発明の一態様は、広範な範囲の分子量の核酸において高い分離能を有するスラブ型電気泳動用ゲルを簡便に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、アガロースとグルコマンナンとを含み、ゲルの内部に中空板を備えたスラブ型電気泳動用ゲルを用いることにより、電気泳動像が八の字に曲がることなく、泳動試料が直線的に電気泳動され、さらに、広範な範囲の分子量の核酸において高い分離能を有するスラブ型電気泳動用ゲルを簡便に作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
〔1〕ゲル基材として少なくともアガロースを含むスラブ型電気泳動用ゲルであって、
グルコマンナンを0.05重量%以上含み、
貫通孔を備える中空板をゲル内部に備え、
上記貫通孔の開口部が電気泳動方向と面するように設けられ、上記貫通孔が電気泳動方向と平行に設けられている、スラブ型電気泳動用ゲル。
〔2〕上記グルコマンナンを0.05重量%以上0.3重量%以下含む、〔1〕に記載のスラブ型電気泳動用ゲル。
〔3〕上記アガロースを0.3重量%以上2.0重量%以下含む、〔1〕または〔2〕に記載のスラブ型電気泳動用ゲル。
〔4〕〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のスラブ型電気泳動用ゲルを用いる、電気泳動方法。
〔5〕中空板並びに電気泳動用ゲルの原料としてグルコマンナンおよびアガロースを備える、スラブ型電気泳動用ゲル製造キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、泳動試料が直線的に電気泳動されず、電気泳動像が八の字に曲がるという現象を抑制することができるスラブ型電気泳動用ゲルを提供することができる。さらに本発明の一態様は、広範な範囲の分子量の核酸において高い分離能を有するスラブ型電気泳動用ゲルを簡便に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1の(A)は、本発明の一実施形態のスラブ型電気泳動用ゲルを作製するための部材の一例を示す。図1の(B)は、本発明の一実施形態のスラブ型電気泳動用ゲルを作製するための部材を組み立てた際の横断面図を示す。図1の(C)は、本発明の一実施形態のスラブ型電気泳動用ゲルを作製するための部材を組み立てた際の上面図を示す。
図2】本発明の一実施形態のスラブ型電気泳動用ゲルの作製において、ガラス間隙に注がれたゲル化溶液にコームを挿入した状態を示す模式図である。
図3図3の(A)は、本発明の一実施形態のスラブ型電気泳動用ゲルの作製において、ゲルからコームを抜いた状態を示す模式図である。図3の(B)は、本発明の一実施形態において使用され得る中空板の断面図である。図3の(C)は、本発明の一実施形態において使用され得る、中空板で形成されたスペーサーの断面図である。
図4】実施例1~4の電気泳動の結果を示す図である。
図5】比較例1の電気泳動の結果を示す図である。
図6】実施例5の電気泳動の結果を示す図である。
図7】一般に用いられるSDS-PAGE用電気泳動槽の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
本明細書において、スラブ型電気泳動用ゲルを単に「電気泳動用ゲル」または「ゲル」と称する場合もある。異なる組成のゲルにおいて同じ泳動試料を泳動させた場合、ゲル中にてサイズの異なる核酸のバンド間の距離が離れているゲルの方が、分離能が高いと言える。
【0011】
〔1.スラブ型電気泳動用ゲル〕
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルは、ゲル基材として少なくともアガロースを含むスラブ型電気泳動用ゲルであり、グルコマンナンを0.05重量%以上含み、貫通孔を備える中空板をゲル内部に備え、上記貫通孔の開口部が電気泳動方向と面するように設けられ、上記貫通孔が電気泳動方向と平行に設けられている。
【0012】
電気泳動用ゲルは、グルコマンナンを0.05重量%以上含み、0.1重量%以上含むことが好ましく、0.2重量%以上含むことがより好ましい。グルコマンナンを0.05重量%以上含むことで、強度に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルを得ることができる。また、電気泳動用ゲルにおけるグルコマンナンの含有量の上限値は、0.3重量%以下であることが好ましく、0.15重量%以下であることがより好ましい。電気泳動用ゲルにおけるグルコマンナンの含有量が0.3重量%以下であれば、低分子領域(2Kbp以下)でのDNA分離能が向上するため好ましい。
【0013】
グルコマンナンとして、市販品のグルコマンナンを用いてもよく、市販品を適宜精製したグルコマンナンを用いてもよい。
【0014】
ゲル基材は、少なくともアガロースを用いる。ゲル基材としてさらに、アガー等の電気泳動用ゲルの原料として一般的に知られている原料を用いてもよい。アガロースおよびアガー等は、市販品を用いてもよい。市販のアガロースとしては、Agarose H(ニッポンジーン社製)およびAgarose S(ニッポンジーン社製)等が挙げられる。市販のアガーとしては、精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)等が挙げられる。
【0015】
アガロースの含有量は、0.3重量%以上であることが好ましい。アガロースの含有量が0.3重量%以上であれば、取扱い性に優れるゲルを得ることができる。また、アガロースの含有量は2.0重量%以下であることが好ましい。アガロースの含有量が2.0重量%以下であれば、濃度が均一なゲル化用溶液を容易に得ることができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルは、均一濃度ゲルであっても、多段式ゲルおよび濃度勾配ゲル等の濃度が均一ではないゲルであってもよい。多段式ゲルとは、1枚のゲルにおいて、複数の異なる組成のゲル層が含まれているゲルを意図する。グルコマンナンを含む電気泳動用ゲルは、強度に優れている。そのため、例えば、電気泳動用ゲルにゲルスロットを設けるためのスロットゲルとして使用することができる。本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルとして、複数の異なる組成のゲル層のうち、少なくとも1つのゲル層が、ゲル基材として少なくともアガロース、さらに、所定量のグルコマンナンを含んでいる多段式ゲルも包含される。すなわち、本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルとして、例えば、スロットゲルとして、ゲル基材として少なくともアガロース、さらに、所定の量のグルコマンナンを含むゲルを備え、分離ゲルとして、別の異なる組成のゲルを備えるゲルも包含される。
【0017】
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルがスロットゲルを備える多段式ゲルである場合、当該スロットゲルは、グルコマンナンの含有量が0.1重量%から0.3重量%であり、かつ、アガロースの含有量が0.8重量%から1.0重量%であることが好ましい。スロットゲルは、グルコマンナンの含有量が0.3重量%であり、かつ、アガロースの含有量が1.0重量%であることがより好ましい。
【0018】
分離ゲルを構成するゲル層の組成を色々に選択しこれを組み合わせることにより、解析するDNAのサイズに即し最適化された、広範な範囲の分子量の核酸において高い分離能を有する多段式ゲルを簡便に作製できる。多段式ゲルの構成として、例えば、(i)任意の濃度のアガロースゲル層と任意の濃度のグルコマンナンゲル層とを組み合わせた多段式ゲル、(ii)任意の2つの濃度の異なるグルコマンナンゲル層を組み合わせた多段式ゲル、(iii)任意の3つの濃度の異なるアガロースゲル層を組み合わせた多段式ゲルが挙げられる。
【0019】
所定の量のグルコマンナンを含む電気泳動用ゲルを用いることにより、濃度依存的に低分子領域でのDNA分離能を向上させることができる。さらに、グルコマンナンの濃度が異なるゲル層を複数組み合わせた電気泳動用ゲルを用いることにより広範な範囲の分子量領域でDNAを分離分析できる。
【0020】
また、加熱溶解した2つの任意のゲル化用溶液がゲル化しない温度(例えば、70℃程度)で濃度勾配作製器を用いることにより、連続的な濃度勾配を有する濃度勾配ゲルを作製することができる。
【0021】
この事は、実に多彩なDNA分離能をもつ、ゲル基材がアガロースであるスラブ型ゲルを自由自在に創作できることを意味する。その点から、本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルはアガロースゲルの概念を変える発明だと言える。本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルがプレキャストゲルとして商品化され市販されれば、新規の核酸(すなわち、DNAおよびRNA)分離分析ゲルとして、核酸の解析に関わる多くの分野およびこれを支援する産業分野で貢献するものと発明者は考えている。
【0022】
(中空板)
図3の(B)は、本発明の一実施形態において使用され得る中空板の断面図である。本発明の一実施形態において、中空板4は、中空板4の表面と裏面とを形成する一対の平板4a間に、支持部材4bにより貫通孔4cが形成されている構造体を意図する。当該貫通孔4cは、両方の端部において開口部を有しており、貫通孔4cにおいて中空板4は貫通している。中空板としては、例えば、プラスチック段ボール等が挙げられる。本発明の一実施形態において、ゲルの内部に設けられた中空板によってゲルが支えられているため、作製したゲルがガラス板から下方に脱落するのを防止することができる。
【0023】
また、貫通孔が電気泳動方向と平行に設けられているため、中空板にはゲル内の泳動試料(例えば、DNA)の移動を均一にする効果がある。中空板を用いない場合、ゲル内の泳動試料(例えば、DNA)が八の字状に電気泳動されることがある。一般に、2枚のガラス板に挟まれたゲルを作製し、当該ゲルを泳動槽に装着する際、図7に示すように、電気泳動槽71において、外側ガラス板74と内側ガラス板75との両端にくさび72を打つ。この操作によりガラス板の中央が僅かに曲がるため、ゲル73も曲がり、さらにゲル73は僅かに下方に押し出される。つまり、ゲル73の中央部の厚さが、ゲル73の両端よりも薄くなる。この状態において、定電圧で泳動すると、ゲル73の厚い箇所は薄い箇所に比べて電気抵抗が低下し通電されやすいため、電気泳動試料の八の字現象が起こることになる。中空板はガラス板の湾曲を防止するため、この現象を防止することができる。
【0024】
ゲル内部に設けられる中空板の数は、ガラス板に納まる範囲内であれば特に限定されず、1つ以上であれば複数の中空板を設けてもよい。
【0025】
中空板の大きさは、ガラス板の幅の範囲内であれば特に限定されず、用いる電気泳動槽の大きさおよびガラス板の大きさ等に合わせて適宜決定すればよい。
【0026】
貫通孔の大きさも、ガラス板の幅の範囲内であれば特に限定されず、用いる電気泳動槽の大きさおよびコームの大きさに合わせて適宜決定すればよい。
【0027】
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルにおいて、中空板を設ける位置は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されるものではない。ただし、ガラス板の湾曲を防止し易く、かつ泳動試料の電気泳動に干渉し難い位置であるという理由により、電気泳動ゲルにおける電気泳動方向のできるだけ下流側に中空板が設けられていることが好ましい。
【0028】
(その他の構成)
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルは、電気泳動に必要な部材をさらに備えていてもよい。例えば、上記ゲルは、ゲルにウェルを形成するためのコームを備えていてもよい。また、上記ゲルは、ゲルを支持するためのガラス板および/またはスペーサーを備えていてもよい。
【0029】
コームのそれぞれの櫛の幅は2.6mmまたは3.4mm、櫛同士の間隔は1.4mmまたは2.6mmのものが汎用されているが、用いる電気泳動槽の大きさおよび所望のサンプル数等に合わせて、これらのサイズが任意であるコームを用いてもよい。コームをゲルに挿入する深さは5mmから7mm程度が望ましいが、10mm以下であれば任意の深さでよい。
【0030】
上記ガラス板は、長さ100mm×幅100mm×厚さ1mmのものが汎用されている。使用する電気泳動槽に合わせて、ガラス板のサイズを適宜決定できる。また、ガラス板の代わりに、アクリル板またはポリカーボネート板を用いてもよい。上述の汎用されているサイズのガラス板の代わりに使用する際は、そのサイズは、例えば、長さ100mm×幅100mm×厚さ2mmである。また、ガラス板と、アクリル板またはポリカーボネート板との組み合わせでもよい。
【0031】
冷却効果をもつ電気泳動槽を用いる場合は、ガラス板、アクリル板およびポリカーボネート板のいずれであってよく、これらの選択によってDNAの分離能に影響はない。プラスチック板はガラス板よりも形成が容易で加工しやすく、低廉であり経済的でもある。また、ポリカーボネート板は軽量であり、且つ耐熱性に優れる。また、ポリカーボネートは、衝撃にも強く丈夫な素材としてガラスや他のプラスチックを凌ぐ。
【0032】
また、冷却効果をもたない電気泳動槽を用いる場合も、ガラス板、アクリル板およびポリカーボネート板のいずれであってよく、これらの選択によってDNAの分離能に影響はないが、ガラス板を用いることが好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態において、スペーサーやコームとして、中空板を利用してもよい。スペーサーとしては、例えば、図3の(C)に記載されるような、2つの貫通孔をもつ縦長のもの(例えば、長さ100mm×幅8~10mm×厚さ2.5mm)がよい。また、コームとしては、例えば、図3の(B)に記載されるような、貫通孔4cに対し垂直に切断したプラスチック段ボール(例えば、長さ75mm×幅8mm×厚さ2.5mm)が利用できる。中空板をコームとして用いる場合は、ゲル化用溶液がゲル化した後、電気泳動用ゲルに約1mm埋まるように中空板をゲル上層に挿入するとよい。中空板をゲル上層に挿入することにより、従来のように電気泳動用ゲルにウェルを作製する必要がなく、中空板の貫通孔にDNA溶液を直接注入し電気泳動を開始することができる。中空板をゲル上層に挿入し、ウェルとして用いると、この大きさで21種のサンプルの分析が可能であり、従来のコームを用いた場合より、多くのサンプルを分析できる利点がある。ゲル下層とコームの各中空板とに挟まれたことにより、ゲルの脱落防止はより確実なものとなり、プレキャストゲルとして市販する際に有益な事項である。
【0034】
(スラブ型電気泳動用ゲルの作製方法)
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルの作製は、例えば、Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, T. Maniatis, EF Fritsch, J. Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982を参考にして常法により実施してもよい。
【0035】
図1図3は、タンパク質の分離分析に用いられるSDS-PAGEゲル作製用部材を用いて、本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルを作製する方法を図示している。なお、以下に示す寸法は、タンパク質用のPAGEゲル作製用資材(和光純薬製、製品名:SuperSep Ace)および泳動槽(コスモバイオ株式会社製、製品名:DPE-1020 10x10ミニゲル用)を利用する場合の寸法を例示している。
【0036】
図1の(A)は、SDS-PAGEゲル用のコーム1、スペーサー2、ガラス板3、及びプラスチック製の中空板4の外観を示す図である。中空板4として、例えば、商品名「養生プラダン」(PD-1892SY, ポリプロビレン製)を用いることができる。この商品は、弾力性の高いプラスチック段ボールであり、厚さ2.5mm、長さ1820mm、幅910mm、貫通孔の幅が3.5mmである。これを回転式カッターで目的のサイズに切断し、厚さ2.5mm、長さ63mm、幅7mmの中空板4を得る。この板を両端の2mm厚のスペーサー2と7mm程度離してガラス板3に平行な位置でガラス板3に接着剤により装着する。中空板4の貫通孔が電気泳動用ゲルと垂直になるため、熱溶解したゲル溶液の流入が容易になる。また、中空板4は電気泳動において泳動パターンへの影響も無く物理的な障害ともならない。
【0037】
次に、厚さ2mmのスペーサー2にシリコングリースを塗付けた後、2枚のガラス板3で挟み込み、ダブルクリップで止める。図1の(B)および図1の(C)には、それぞれ、本発明の一実施形態の電気泳動用ゲルを作製するための部材を組み立てた際の横断面図および上面図を示す。図1の(B)および図1の(C)が示すように、スペーサー2を2枚のガラス板3で挟み込み、ダブルクリップで止めることにより、スペーサーの厚さに応じてガラス間隙を形成することができる。また、中空板4側のガラス板3の下部は接着テープでシールしておく。これにより、ゲル化用溶液を流し込むためのガラス間隙を作製することができる。なお、以下に述べる最下層ゲルをゲル化用溶液に直接浸すことにより事前に作製しておく場合、最下層ゲルをガラス間隙に設置することで、シール操作の代わりとすることができる。
【0038】
このように組み立てられたガラス間隙にゲル化用溶液(例えば、TAEに加熱溶解させた1重量%アガロースS約16mL)を、例えば、図2中、2点破線で示した位置まで(例えば、ガラス板先端から約10mm)加え、室温に暫く放置することによりゲル化させる。これにより、最下層ゲルを作製することができる。この上層に、TAEに加熱溶解させた任意の濃度のグルコマンナンを含むアガロースSを注ぐ。その後、図2のようにガラス間隙にコームを挿入し、ゲルをゲル化させる。このゲル作製のステップは最初の段階(すなわち、最下層ゲルを作製する段階)を省き、1段階で実施してもよい。
【0039】
最後に、図3の(A)に示すように、コーム1をゲルから脱着することにより、スロット5およびウェル6を備えた電気泳動用ゲルを作製することができる。
【0040】
〔2.電気泳動方法〕
本発明の一実施形態に係る電気泳動方法は、本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルを用いる。
【0041】
以下に、タンパク質のSDS-PAGEゲル用の泳動槽に、本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルを装着する場合を例示する。この時、ゲルのウェル側が陰極側、中空板側が陽極側になるようにする。その後、分析すべき電気泳動試料をウェルに注ぎTAE緩衝液を泳動槽に注ぎ、例えば、60Vで2時間程度、泳動する。電気泳動試料と同時に色素Orange Gをロードしていれば、色素Orange Gがゲル先端に到達したタイミングで電気泳動を終了させてもよい。
【0042】
次に、ガラス板の間にスパーテルを挿入してガラス板の一方を剥がす。さらに、中空板の直上をガラス板にそってスパーテルで切断し、ゲルをエチジウムブロミドで染色し、UVP装置にて紫外線照射し蛍光を写真撮影する。本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲルは強度に優れ、しなやかであるため、例えば写真撮影時に破損することはない。尚、DNA溶液にGelRedを予め添加しておき、泳動後、直接、写真撮影することもできる。また、泳動用緩衝液はTAE緩衝液またはTPE緩衝液であっても構わない。
【0043】
ゲルの理想的な厚さである4mmの中空板をゲルプレートの同様に位置に設置すれば、サブマリン型ゲルの作製にも中空板を利用できる。中空板の設置は、電気泳動には影響はなく、サブマリンプレキャストゲルの作製においてゲルの脱落防止として同様に有効である。
【0044】
〔3.スラブ型電気泳動用ゲル製造キット〕
本発明の一実施形態に係るスラブ型電気泳動用ゲル製造キットは、中空板並びに電気泳動用ゲルの原料としてグルコマンナンおよびアガロースを備える。それゆえ、上述のように、泳動試料が八の字に曲がることなく直線的に電気泳動され、さらに、広範な範囲の分子量の核酸において高い分離能を有する電気泳動用ゲルを簡便に作製できる。以下では、電気泳動用ゲル製造キットを単に「キット」とも称する。また、〔1.電気泳動用ゲル〕で既に説明した事項については、以下では説明を省略し、適宜、上述の記載を援用する。
【0045】
上記キットは、緩衝液として、TAE緩衝液またはTPE緩衝液をさらに備えていてもよい。電気泳動用ゲルの原料を当該緩衝液に溶解させてゲル化用溶液を得ることができる。当該ゲル化用溶液をゲル化させることにより、ゲルを作製することができる。
【0046】
上記緩衝液は、使用される際の濃度に比べて高い濃度にて調製されたストック溶液であってもよい。例えば、ストック溶液は、使用される際の濃度に比べて5倍、10倍、または50倍の濃度であってもよい。当該ストック溶液を希釈して、ゲルの作製に使用することができる。
【0047】
また、上記キットは、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸の粉末またはトリス-リン酸-エチレンジアミン四酢酸の粉末を備えていてもよい。これらの粉末を水に溶解させることによって、TAE緩衝液またはTPE緩衝液を得ることができる。
【0048】
上記キットは、中空板、電気泳動用ゲルの原料および緩衝液以外に、ゲルを作製するための部材を備えていてもよい。例えば、上記キットは、ゲル化用溶液が流し込まれるガラス間隙を形成するためのガラス板を備えていてもよい。また、上記キットは、ゲルにウェルを形成するためのコームを備えていてもよい。
【0049】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0050】
(実施例1)
(1)ガラクトマンナンの精製
下記の〔a〕~〔h〕によりガラクトマンナンを精製した。
〔a〕タラガム由来のガラクトマンナン(VIDOGUM SP175、ユニテックフーズ社製)1gを100mLの精製水に加え、マイクロウェーブオーブンにて100℃で2分間加熱し、ガラクトマンナンを溶解させた。これを室温まで冷却した後、5℃にて一晩放置した。
〔b〕〔a〕により得られた溶液を遠心管に分取し、室温で8000×g、10分間遠心した。
〔c〕〔b〕により得られた溶液から上清を遠心管に分取し、沈殿物を除去した。このとき、除去された沈殿物は約0.4gであった。
〔d〕〔c〕により沈殿物が除去された上清に酢酸20mL(特級試薬、和光純薬製)を加えることにより酸性溶液とした。酸性溶液:エタノール=1:1となるように100%エタノールを当該酸性溶液にさらに加え、遠心管の蓋をし、上下に2~3回程度、素早く振盪した。混合すると速やかに、白い繊維状の物質が出現した。
〔e〕上記遠心管を室温で8000×g、10分間遠心させ、得られた沈殿物を回収した。
〔f〕当該沈殿物にエタノールを10mL加え、よく振盪し、残存している酢酸を除去した。その後、再度、室温で8000×g、10分間遠心させた。
〔g〕得られた沈殿物を回収し、60℃で1時間放置し、完全に乾燥させた。
〔h〕乾燥させた上記得られた沈殿物を乳鉢に移し、乳棒で粉砕した。
【0051】
(2)ゲルの作製および電気泳動
「養生プラダン」(PD-1892SY, アイリスオーヤマ社製)を回転式カッターで切断し、厚さ2.5mm、長さ63mm、幅7mmの中空板を得た。この中空板を、両端の2mm厚のスペーサーと7mm程度離してガラス板に平行な位置でガラス板に接着剤により装着した。
【0052】
次に、2mmのスペーサーにシリコングリースを塗付け2枚のガラス板で挟み込み、ダブルクリップで止めた。中空板側のガラス板の下部を接着テープでシールした。
【0053】
このように組み立てられたガラス間隙に後述の組成のゲル化用溶液を15.3mL加え、2mm厚の16サンプル用コームを挿入し、室温に放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。その後、コームをゲルから静かに外すことにより実施例1の電気泳動用ゲルを作製した。ゲルを泳動槽(スラブ型(第一化学薬品株式会社、商品名 カセット電気泳動槽「DAIICH」ミニ二連式))に装着し、各スロットに5μLの電気泳動試料を静かに添加した。室温にて以下の条件で泳動後、ガラス板の間にスパーテルを挿入し一方側を持ち上げた。他方のガラス板に残っているゲルを静かに染色液に押し出した。
【0054】
(3)ゲルの撮影
アガロースゲル撮影装置(UVイルミネーター;Model BioDoc-It(登録商標) Imaging system, UVP社製)を用いて電気泳動を行った後の電気泳動用ゲルを撮影した。
【0055】
<泳動等の条件>
・ゲル化用溶液:アガロースが0.8重量%となるようにAgarose S(ニッポンジーン社製)を、アガーが0.2重量%となるように精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)を、ガラクトマンナンが0.1重量%となるように、上述のように精製したガラクトマンナンを、グルコマンナンが0.075重量%となるように、コンニャク精粉(茂木食品工業株式会社、群馬県下仁田市)をそれぞれTAE緩衝液に加えた。
・ゲル板のサイズ(内寸):幅100mm、縦長100mm、厚さ1mm
・電気泳動試料:レーン1;0.1~20KbpのDNA(Gene Ladder wide 2, ニッポンジーン社製);レーン2;0.1~10KbpのDNA(Gene Ladder Fast 2, ニッポンジーン社製);レーン3;0.1~2KbpのDNA(Gene Ladder 100, ニッポンジーン社製);レーン4;50bpのDNA Ladder(TAKARA社製)(これらの電気泳動試料には予めGelRedを添加した)
・泳動条件:泳動緩衝液;1×TAE、60V、1.5時間
実施例1より、ゲル基材として少なくともアガロースを含み、さらにグルコマンナンを含み、中空板を内部に備える電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行うと、2Kbp領域までの低分子DNAの高い分離能が得られることがわかる。このことは、本発明の一実施形態に係る電気泳動方法により、今日、汎用されているサブマリン型ゲルを用いた電気泳動方法と同等のDNAの分離能を得られることを示す。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様に組み立てられたガラス間隙に、最下層ゲルが2cmの高さとなるように、最下層ゲル用のゲル化用溶液を3.4mL加え、室温で20分間放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。その後、その上層の分離ゲル(A)が3cmの高さとなるように、分離ゲル(A)用のゲル化用溶液を5.1mL加え、室温で20分間放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。さらにその上層の分離ゲル(B)が3cmの高さとなるように、分離ゲル(B)用のゲル化用溶液を5.1mL加え、室温で20分間放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。そして最上層にストットゲルが1cm高さとなるように、スロットゲル用のゲル化用溶液を1.7mL加え、2mm厚の16サンプル用コームを挿入し、室温に放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。その後、コームをゲルから静かに外すことにより、実施例2の電気泳動用ゲルを作製した。
【0057】
<泳動等の条件>
・最下層ゲル用のゲル化用溶液:アガロースが1.0重量%となるように、Agarose S(ニッポンジーン社製)をTAE緩衝液に加えた。
・分離ゲル(A)用のゲル化用溶液:アガロースが0.8重量%となるようにAgarose S(ニッポンジーン社製)を、アガーが0.2重量%となるように精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)を、ガラクトマンナンが0.1重量%となるように実施例1の精製方法でタラガムを精製することにより得られたガラクトマンナンを、グルコマンナンが0.075重量%となるようにコンニャク精粉(茂木食品工業株式会社、群馬県下仁田市)を、それぞれTAE緩衝液に加えた。
・分離ゲル(B)用のゲル化用溶液:アガロースが0.8重量%となるように、Agarose S(ニッポンジーン社製)をTAE緩衝液に加えた。
・電気泳動試料:実施例1と同じ
・泳動条件:泳動緩衝液;1×TAE、60V、1.5時間
実施例2を実施例1と比較すると、実施例2では、100bp~2Kbの良好な分離に加え、2Kb~10Kbまで高分子DNA領域にも優れた分離能が得られることがわかる。このことは、中空板を備える多段式ゲルを用いることにより、ゲルの解析領域を最適化できることを意味している。
【0058】
(実施例3)
実施例1と同様に組み立てられたガラス間隙に、分離ゲル(A)が4.5cmの高さとなるように、分離ゲル(A)用のゲル化用溶液を7.7mL加え、室温で20分間放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。さらにその上層の分離ゲル(B)が4.5cmの高さとなるように、分離ゲル(B)用のゲル化用溶液を7.7mL加え、2mm厚の16サンプル用コームを挿入し、室温に放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。その後、コームをゲルから静かに外すことにより、実施例3の電気泳動用ゲルを作製した。
【0059】
<泳動等の条件>
・分離ゲル(A)用のゲル化用溶液:アガロースが0.5重量%、アガーが0.2重量%、グルコマンナンが0.05重量%となるように、それぞれ、Agarose S(ニッポンジーン社製)、精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)、グルコマンナン(コンニャク製粉、茂木食品工業社製)をTAE緩衝液に加えた。
・分離ゲル(B)用のゲル化用溶液:アガロースが0.5重量%となるようにAgarose S(ニッポンジーン社製)を、アガーが0.2重量%となるように精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)を、ガラクトマンナンが0.3重量%となるように、実施例1の精製方法でローカストビーンガム由来のガラクトマンナン(Locust bean gum(Sigma-Aldrich社製))を精製することにより得られたガラクトマンナン、グルコマンナンが0.075重量%となるようにコンニャク製粉(茂木食品工業社製)を、それぞれTAE緩衝液に加えた。
・電気泳動試料:実施例1と同じ
・泳動条件:泳動緩衝液;1×TPE、60V、2時間
実施例3では、実施例1、実施例2にない広範な分子量領域で高い分離能を示すDNA分離パターンが得られたことがわかる。
【0060】
(実施例4)
実施例1と同様に組み立てられたガラス間隙に、最下層ゲルが2cmの高さとなるように、最下層ゲル用のゲル化用溶液を3.4mL加え、室温で30分間放置することでゲル化させた。その後、その上層の分離ゲル(A)が2cmの高さとなるように、分離ゲル(A)用のゲル化用溶液を3.4mL加え、室温で30分間放置することでゲル化させた。さらにその上層の分離ゲル(B)が2cmの高さとなるように、分離ゲル(B)用のゲル化用溶液を3.4mL加え、室温で30分間放置することでゲル化させた。その後、分離ゲル(C)が2cmの高さになるように分離ゲル(C)を3.4mL加え、室温で30分放置しゲル化させた。そして最上層にストットゲルが1cm高さとなるように、スロットゲル用のゲル化用溶液を1.7mL加えた後、2mm厚の16サンプル用コームを挿入し、室温に放置することでゲル化させた。その後、コームをゲルから静かに外すことにより、実施例4の電気泳動用ゲルを作製した。
【0061】
<泳動等の条件>
・スロットゲル用のゲル化用溶液:アガロースが1.0重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれ、Agarose S(ニッポンジーン社製)、グルコマンナン(コンニャク製粉、茂木食品工業社製)をTAE緩衝液に加えた。
・最下層用ゲルのゲル化用溶液:アガロースが1.0重量%となるように、Agarose S(ニッポンジーン社製)をTAE緩衝液に加えた。
・分離ゲル(A)用のゲル化用溶液:アガロースが2.0重量%となるようにAgarose S(ニッポンジーン社製)をTAE緩衝液に加えた。
・分離ゲル(B)用のゲル化用溶液:アガロースが0.8重量%となるようにAgarose S(ニッポンジーン社製)をTAE緩衝液に加えた。
・分離ゲル(C)用のゲル化用溶液:アガロースが0.6重量%となるようにAgarose S(ニッポンジーン社製)をTAE緩衝液に加えた。
・電気泳動試料:実施例1と同じ
・泳動条件:泳動緩衝液;1×TAE、60V、1時間30分
実施例4では、500bp~10kbpまでの各DNAがほぼ均等に配置するように分離され、これは実施例1~3のゲルとは異なる泳動パターンであることがわかる。
【0062】
(比較例1)
加熱溶解により後述の組成のゲル化用溶液を調製し、接着テープで3辺がシールされた2mm厚のガラス製のゲル板に流し込んだ。これに2mm厚の16サンプル用コームをセットし、室温に放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。コームをゲル板から静かに外した後、ゲルを泳動槽に装着し、各スロットに5μLの電気泳動試料を静かに添加した。室温にて以下の条件で泳動後、ガラス板の間にスパーテルを挿入し一方側を持ち上げた。他方のガラス板に残っているゲルを静かに染色液に押し出し、写真撮影した。ゲルの撮影は、実施例1と同様に行った。
【0063】
<泳動等の条件>
・ゲル化用溶液:アガロースが1重量%、グルコマンナンが0.2重量%になるように、それぞれアガロース(Agarose S, ニッポンジーン社製)、グルコマンナン(コンニャク製粉、茂木食品工業社製)をTAE緩衝液に加えた。
・泳動条件:泳動バッファー;TAE、6V/cm、90min
・電気泳動試料:レーン1;0.1~20KbpのDNA(Gene Ladder wide 2, ニッポンジーン社製);レーン2;0.1~10KbpのDNA(Gene Ladder Fast 2, ニッポンジーン社製);レーン3;50bp DNA Ladder (TAKARA社製);レーン4;0.1~2KbpのDNA(Gene Ladder 100,ニッポンジーン社製);一番左のレーン;PCR増幅により調製した550 bp,700bpの2つを加えたLambda phage/HindIII I digest(λ/HindIII)(ニッポンジーン社製)
比較例1の結果より、中空板を備えていない電気泳動用ゲルでは、泳動試料が八の字に曲がって電気泳動されることがわかった。
【0064】
(実施例5)
実施例1で用いた「養生プラダン」を、2つの貫通孔を有するように長さ100mm×幅8mm×厚さ2.5mmに切断することにより、スペーサーを作製した。実施例1で用いた「養生プラダン」を、貫通孔に対して垂直に長さ75mm×幅8mm×厚さ2.5mmに切断することにより、コームを作製した。実施例1において、これらのスペーサーおよびコームを用いたこと以外は実施例1と同様の電気泳動用ゲルの作製部材を用いて、電気泳動用ゲルを作製し、電気泳動を行った。なお、ゲル化溶液として、以下の組成の溶液を用いた。
【0065】
<泳動等の条件>
・ゲル化用溶液:アガロースが0.5重量%、アガーが0.2重量%、グルコマンナンが0.15重量%となるように、それぞれ、Agarose S(ニッポンジーン社製)、精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)、グルコマンナン(コンニャク製粉、茂木食品工業社製)をTAE緩衝液に加えた。
・DNAサイズマーカー:実施例1と同じ
・泳動条件:泳動緩衝液;1×TPE、60V、1時間30分
実施例5より、実施例1と同様に好適なDNA泳動像が得られ、さらにサンプル間の空間が無くなっていることがわかる。これらの結果から、スペーサーやコームが中空板からなる電泳動用ゲルの作製方法も有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電気泳動を伴う解析が行われる様々な分野に利用することができる。
図1
図2
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図7