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特許7074352視神経症を処置するためのマスチックガムの酸性抽出物を含む組成物およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】視神経症を処置するためのマスチックガムの酸性抽出物を含む組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/22 20060101AFI20220517BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 129/00 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
A61K36/22
A61K31/192
A61K31/575
A61P25/00
A61P27/02
A61P29/00
A61K129:00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019510448
(86)(22)【出願日】2017-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 IL2017051008
(87)【国際公開番号】W WO2018047176
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】62/384,718
(32)【優先日】2016-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518094946
【氏名又は名称】レジネラ ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ハザン,ザディク
(72)【発明者】
【氏名】ルカセン,アンドレ シー.ビー.
(72)【発明者】
【氏名】アダムスキー,コンスタンティン
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/100651(WO,A2)
【文献】特表2013-536877(JP,A)
【文献】国際公開第2010/100650(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/22
A61K 31/192
A61K 31/575
A61P 25/00
A61P 27/02
A61P 29/00
A61K 129/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスチックガムの単離酸性画分の有効量と、医薬的に許容できる担体とを含む医薬組成物であって、前記画分が、少なくとも1種の極性有機溶媒および少なくとも1種の非極性有機溶媒に可溶であることを特徴とし、かつ前記画分が、前記極性有機溶媒に可溶であるが前記非極性有機溶媒に不溶である化合物を実質的に含まず、
前記単離酸性画分が、本質的にトリテルペノイドの混合物からなり、マスチカジエノール酸、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、およびモロン酸の少なくとも2つを含み;
視神経症の病状を処置することにおける使用のための医薬組成物であって、前記視神経症が、外傷性神経症、虚血性神経症、放射線視神経症(RON)、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症およびそれらの組み合わせから選択される、
医薬組成物。
【請求項2】
前記単離酸性画分が、マスチカジエノール酸、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸の少なくともつを含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記虚血性視神経症が、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、前部虚血性視神経症(AION)および後部虚血性視神経症から選択される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記視神経症が、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記視神経症の病状が、蓄積症から生じ、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記蓄積症が、視神経内のリポタンパク質性物質の沈着を誘発する、請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記組成物が、非経口経路により投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記非経口経路が、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、動脈内、子宮内、尿道内、心内、脳内、脳室内、腎内、肝内、腱内、骨内、眼内および髄腔内からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記少なくとも1種の極性有機溶媒が、アルコール、エーテル、エステル、アミド、アルデヒド、ケトン、ニトリル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記極性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、ネオペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジヒドロフラン、フラン、ピラン、ジドロピラン、テトラヒドロピラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、アセトアルデヒド、ギ酸メチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記少なくとも1種の非極性有機溶媒が、そのそれぞれが1つまたは複数のハロゲンにより場合により置換される、非環式または環式の、飽和または不飽和脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記非極性有機溶媒が、C5~C10アルカン、C5~C10シクロアルカン、C6~C14芳香族炭化水素およびC7~C14ペルフルオロアルカン、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記非極性有機溶媒が、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ならびにそれらの異性体および混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記組成物が、前記組成物の総重量に基づき、約0.01~約50%(w/w)、または約0.01~約12%(w/w)の前記マスチックガムの単離酸性画分を含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記極性有機溶媒が、エタノールを含み、前記非極性有機溶媒が、ヘキサンを含み、かつ前記酸-塩基抽出のための前記有機溶媒が、ジエチルエーテルを含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項16】
前記担体が、少なくとも1種の油、少なくとも1種のワックスおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される疎水性担体である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記単離酸性画分が、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸から本質的になる、請求項に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記単離酸性画分が、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸およびオレアノン酸から本質的になる、請求項に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記トリテルペン酸の少なくとも1種が、植物源に由来する、請求項に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、視神経虚血および緑内障などの視神経症を処置するための、マスチックガムの単離された酸性画分の治療的使用に関する。より詳細には本発明は、マスチックガムの単離された酸性画分を含む組成物を用いる、そのような視神経症の病状を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ガムマスチックまたはマスチックガムとしても公知のマスチックは、ウルシ科の一種であるピスタキア・レンチスカス Lからの滲出液として得られる樹木の樹脂である。マスチックは、胃痛、消化不良および消化性潰瘍などの胃腸障害などの様々な病状を処置するために古代地中海世界で用いられた。十二指腸潰瘍のヒト患者ならびに胃潰瘍および十二指腸潰瘍を誘導された実験ラットへのマスチックの経口投与は、治療効果を有することが開示された(Al-Habbal et al(1984) Clin Exp Pharmacop Physio 11(5):541-4; Said et al(1986) J Ethnopharmacol 15(3):271-8)。
【0003】
米国特許出願公告第2005/0238740は、微生物感染の制御のためのマスチックの使用およびその成分を対象とする。
【0004】
欧州特許出願第1520585は、癌を処置または予防するための医薬の製造のためのピスタキア属の植物から得られた生成物の使用を開示する。
【0005】
国際特許出願公告第WO2005/112967は、非酸性脂肪族炭化水素、水溶性非酸性脂肪族炭化水素を少なくとも25%含有する水溶液、またはそれらの組み合わせから選択される溶媒中にマスチックを懸濁させること、および不溶性画分を除去すること、により得られる可溶性画分中に見出される、抗増殖効果を有する抗癌物質のマスチックからの精製を開示する。
【0006】
本発明の発明者らの一部の国際特許出願公告第WO2010/100650は、マスチックガム画分の治療的使用を対象とする。
【0007】
本発明の発明者らの一部の国際特許出願公告第WO2010/100651は、ポリマー性ミルセンの組成物を対象とする。
【0008】
本発明の発明者らの一部の国際特許出願公告第WO2012/032523は、マスチックガムの酸性抽出物を含む組成物を対象とする。
【0009】
国際特許出願公告第WO2005/094837は、癌、腫瘍および神経変性疾患を処置するために用いられる、DNAポリメラーゼベータの阻害剤としてのマスチカジエノン酸の使用を対象とする。
【0010】
Marnerら(1991)は、P.レンチカスのガムマスチックからの様々なトリテルペノイドの同定を開示する(Marner et al (1991) Phytochemistry, 30, 3709-3712)。
【0011】
Giner-Larzaら(2002)は、 テレビンノキの虫こぶからの抗炎症性トリテルペンを開示する(Planta Med (2002), 68, 311-315)。
【0012】
視神経は、神経細胞の軸索を含み、軸索は、網膜から発生して、視神経円板で目を離れて視覚野に向かい、そこで目からの情報を視覚へと処理する。視神経症は、何らかの原因による視神経への損傷を指す。これらの神経細胞の損傷および死滅は、視神経症の特徴的性質をもたらす。主な症状は、視野の損失であり、罹患した目では色が微妙に薄く見える。健康診断では、視神経頭を検眼鏡で視覚化できる。薄暗い視神経円板が、長期の視神経症の特徴である。多くの症例では、一方の目だけが罹患しており、患者は、医師が健常な目を覆うように依頼するまで、色覚の損失に気づいていない場合がある。
【0013】
視神経症は、虚血性視神経症、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症などの様々な原因から生じる可能性がある。視神経症では非常にわずかな処置が現在利用されており、ほとんどが特定の型の視神経症で限定的効果を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、様々な理由から生じる視神経症の病状を処置するのに有用でかつ効果的である組成物が、当該技術分野で必要とされている。当該技術分野は、マスチックガムの単離された酸性画分が視神経症の病状を処置するために用いられ得ることのいかなる教示も提供しない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、極性および非極性の両方の有機溶媒に可溶な酸性化合物を含有し、かつ視神経の神経再生特性を有する、マスチックガムの単離酸性画分を含む医薬組成物、ならびに視神経虚血の病状、緑内障、および同様のものなどの視神経症の病状を処置するためにそれらを使用する方法を提供する。より具体的には、視神経への虚血および/または外傷から生じるものなどの、関連の病状を処置することが可能な、マスチックガムから抽出された単離酸性画分を含む組成物が開示される。
【0016】
幾つかの実施形態において、本発明は、一部が、マスチックガムの単離酸性画分がそのような高い視神経再生生物活性を示す、という予想外の発見に基づく。本発明の単離酸性画分は、様々な治療適用に活用され得る種々の有益な生物活性を示す。
【0017】
したがって幾つかの実施形態によれば、視神経症の病状を処置するための、マスチックガムの単離酸性画分と、医薬的に許容できる担体とを含む組成物の使用が提供される。
【0018】
幾つかの実施形態によれば、マスチックガムの単離酸性画分の有効量と、医薬的に許容できる担体とを含む組成物を投与することを含む、それを必要とする対象における視神経症の病状を処置する方法であって、画分が、少なくとも1種の極性有機溶媒および少なくとも1種の非極性有機溶媒に可溶であることを特徴とし、上記画分が、上記極性有機溶媒に可溶であるが上記非極性有機溶媒に不溶である化合物を実質的に含まない、方法が提供される。
【0019】
幾つかの実施形態において、酸性画分は、酸-塩基抽出により少なくとも1種の極性有機溶媒および少なくとも1種の非極性有機溶媒に可溶なマスチックガムの単離画分から得られ、それにより少なくとも1種の極性有機溶媒および1種の非極性有機溶媒に可溶なマスチックガムの非酸性画分から単離酸性画分を分離する。
【0020】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、マスチカジエノール酸、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸の少なくとも2つを含む。
【0021】
さらなる実施形態によれば、視神経症を処置するための薬剤の調製のための、マスチックガムの単離酸性画分の使用が提供される。
【0022】
別の態様によれば、視神経症を処置する際の使用のための、マスチックガムの単離酸性画分が提供される。
【0023】
幾つかの実施形態によれば、視神経症を処置する際の使用のための、マスチックガムの単離酸性画分と、医薬的に許容できる担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0024】
様々な実施形態において、組成物は、非経口経路により投与されてよい。幾つかの実施形態によれば、投与経路は、非経口注射を介してよい。様々な実施形態において、投与ステップは、静脈内(i.v.)、筋肉内、皮下(sc)、皮内、腹腔内、動脈内、脳内、脳室内、骨内、眼内、硝子体内および髄腔内からなる群から選択される非経口経路により実施される。
【0025】
幾つかの実施形態において、視神経症の病状は、視神経が損傷される任意の病状を含む。幾つかの実施形態において、視神経症の病状は、非限定的に、外傷性神経症(視神経への任意の型の外傷から生じ得る);虚血性神経症(例えば、非動脈炎性前部(Anterir)虚血性視神経症(NAION)、前部虚血性視神経症(AION)、後部虚血性視神経症など);放射線視神経症(RON)、緑内障、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症および同様のもの、またはそれらの組み合わせなどのような病状から選択されてよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0026】
幾つかの実施形態において、視神経症の病状は、視神経中のリポタンパク質性物質の沈着の結果としての視神経への損傷から生じる、またはそれに関連する。
【0027】
幾つかの実施形態において、視神経症の病状は、視神経中のリポタンパク質性物質の沈着の結果としての視神経への損傷から生じ、またはそれに関連し、リポタンパク質性物質の沈着は、蓄積症の結果である。
【0028】
幾つかの実施形態において、視神経症の病状は、視神経中のリポタンパク質性物質の沈着の結果としての視神経への損傷から生じ、またはそれに関連し、リポタンパク質性物質の沈着は、蓄積症の結果であり、リポタンパク質性物質は、リポフスチンである。
【0029】
幾つかの実施形態によれば、本発明はさらに、治療活性を有する、マスチックガムの単離酸性画分からの単離化合物を含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、組成物は、本発明によるマスチックガムの酸性画分中に見出される個々の酸性化合物から選択される複数の単離化合物を含んでよい。幾つかの実施形態によれば、組成物は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸から選択される少なくとも3種の単離化合物を含む。幾つかの実施形態によれば、組成物は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸から選択される少なくとも3種の単離化合物を含む。幾つかの実施形態によれば、組成物は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸から選択される少なくとも3種の単離化合物を含む。幾つかの実施形態において、組成物は、少なくともマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸およびオレアノン酸を含む。そのような組成物は、予想外に相乗効果を示し、それにより化合物の組み合わせは、個々の化合物単独に比較して、視神経症の病状を処置する際に著しく改善された治療効果を示す。
【0030】
幾つかの実施形態によれば、組成物は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸から選択される少なくとも2種の単離化合物を含む。幾つかの実施形態によれば、組成物は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸から選択される少なくとも2種の単離化合物を含む。幾つかの実施形態によれば、組成物は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸から選択される少なくとも2種の単離化合物を含む。幾つかの実施形態において、組成物は、少なくともマスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸を含む。そのような組成物は、予想外に相乗効果を示し、それにより化合物の組み合わせは、個々の化合物単独に比較して、視神経症の病状を処置する際に著しく改善された治療効果を示す。
【0031】
本発明の実施形態によるマスチック酸性画分は、先行技術が極性溶媒のみの使用を教示するのに対し、その調製は極性溶媒および非極性溶媒の両方の使用を含むので、先行技術で開示されたマスチック画分と区別できる。極性溶媒のみを使用することにより調製された酸性画分は、ヘキサンなどの無極性溶媒中に可溶でない化合物を含有するが、これらの化合物は、本発明の酸性画分中に存在しない。したがって本発明の画分は、先行技術で開示されたものとは異なる化合物の組み合わせを含む。その上、本発明の発明者らは、本発明の酸性画分が、特に一定範囲の視神経症の病状を処置する際に、先行技術により示唆されていない予想外の治療活性を有することを発見した。
【0032】
本発明の教示は、極性溶媒および非極性溶媒の両方に可溶である酸性画分を得るために3つのステップの抽出手順により調製され、かつ極性溶媒に可溶であるが非極性溶媒に不溶のままであるマスチックガムからの材料が排除される、マスチックガム抽出物で具体化されている。さらなる実施形態において、単離酸性画分の主な化合物は、単離および同定されている。これらの化合物の幾つかの様々な組み合わせは、視神経症の病状の処置において予想外の相乗効果を示す。
【0033】
本明細書に開示される画分および組成物の生物活性は、本明細書に開示される最初の2つの抽出ステップを適用せずに調製された酸性画分中に存在する特定の化合物の存在により阻害されることが、理解されなければならない。
【0034】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、マスチックガムの単離酸性画分の有効量と、医薬的に許容できる担体とを含む、視神経症の病状を処置する際の使用のための組成物であって、画分が、少なくとも1種の極性有機溶媒および少なくとも1種の非極性有機溶媒に可溶であることを特徴とし、上記画分が、上記極性有機溶媒に可溶であるが上記非極性有機溶媒に不溶である化合物を実質的に含まない、組成物を提供する。
【0035】
幾つかの実施形態において、組成物は、
(a)マスチックガムを極性有機溶媒で処理するステップと;
(b)上記極性有機溶媒に可溶な画分を単離するステップと;
(c)場合により、上記極性有機溶媒を除去するステップと;
(d)ステップ(b)または(c)で得られた可溶性画分を非極性有機溶媒で処理するステップと;
(e)上記非極性有機溶媒に可溶な画分を単離するステップと;
(f)場合により、上記非極性有機溶媒を除去するステップと;
(g)ステップ(f)で得られた画分を有機溶媒に溶解するステップと;
(h)ステップ(g)で得られた溶液を塩基性溶液で処理して、塩基性画分を得るステップと;
(i)ステップ(h)で得られた塩基性画分を酸溶液で酸性化するステップ、
を含む工程により得られてよい。
【0036】
幾つかの実施形態において、ステップ(d)~(f)は、ステップ(a)~(c)に先行してもよい。
【0037】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)における塩基性溶液での処理(塩基性化)は、ステップ(g)で得られた溶液を1種もしくは複数の適切な塩基性水性溶液で抽出すること、またはステップ(g)で得られた溶液を塩基性イオン交換樹脂と接触させること、を含む。
【0038】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)は、ステップ(g)で得られた溶液を塩基性イオン交換樹脂と接触させること、およびその後、塩基性イオン交換樹脂を濾過により除去すること、を含む。これらの実施形態において、ステップ(i)は、塩基性イオン交換樹脂を酸性溶液で処理することを含む。
【0039】
幾つかの実施形態において、工程は、
(j)ステップ(i)で得られた酸性化画分を有機溶媒で抽出するステップと;
(k)場合により、ステップ(j)で得られた有機画分を乾燥剤と接触させて、残留する水を除去するステップと;
(l)ステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分から有機溶媒および/または過剰な酸を除去するステップと;
(m)ステップ(l)で得られた単離画分を担体に溶解させるステップ、
をさらに含む。
【0040】
幾つかの実施形態において、ステップ(a)~(c)は、ステップ(d)~(f)の前に実施されるか、またはステップ(d)~(f)は、ステップ(a)~(c)の前に実施される。幾つかの実施形態において、(a)~(c)および/またはステップ(d)~(f)は、複数のサイクルで繰り返される。
【0041】
幾つかの実施形態において、ステップ(c)、(f)および(l)のいずれかは、ロータリーエバポレーション、高真空の適用およびそれらの組み合わせからなる群から選択される手段により溶媒を除去することを含む。
【0042】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)は、ステップ(g)で得られた溶液を塩基性水性溶液で抽出すること、およびそうして得られた有機画分を回収すること、を含む。幾つかの実施形態において、工程は、ステップ(h)から得られた有機画分をステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分とひとまとめにすることをさらに含む。
【0043】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)で得られた有機画分は、ステップ(h)から得られた有機画分の約0.1%~約50%の範囲の量でステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分とひとまとめにされる。幾つかの実施形態において、量は、0.5~50%;または2~25%;または0.1~10%の範囲である。
【0044】
本発明における使用に適した極性有機溶媒は、アルコール、エーテル、エステル、アミド、アルデヒド、ケトン、ニトリル、およびそれらの組み合わせから選択されてよい。
【0045】
適切な極性有機溶媒の特定の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、ネオペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジヒドロフラン、フラン、ピラン、ジドロピラン、テトラヒドロピラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、アセトアルデヒド、ギ酸メチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
幾つかの実施形態において、極性有機溶媒は、メタノールおよびエタノールまたはそれらの組み合わせから選択される。幾つかの実施形態において、極性溶媒は、エタノールである。
【0047】
本発明における使用に適した非極性有機溶媒は、非環式または環式の、飽和または不飽和脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素、それらのそれぞれが1つまたは複数のハロゲンにより場合により置換されたもの、ならびにそれらの組み合わせから選択されてよい。幾つかの実施形態において、非極性有機溶媒は、C5~C10アルカン、C5~C10シクロアルカン、C6~C14芳香族炭化水素、およびC7~C14ペルフルオロアルカン、ならびにそれらの組み合わせから選択される。
【0048】
幾つかの実施形態において、非極性有機溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンならびにそれらの異性体および混合物から選択される。
【0049】
幾つかの実施形態において、C5~C10アルカンは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、ならびにそれらの異性体および混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、非極性有機溶媒は、ヘキサンである。
【0050】
幾つかの実施形態において、ステップ(g)およびステップ(j)の有機溶媒は独立して、ジアルキルエーテル、アルキルアリールエーテル、ジアリールエーテル、エステル、ケトン、ハロゲン化炭化水素、C5~C14芳香族炭化水素、C5~C14ペルフルオロアルカンからなる群から選択される。
【0051】
幾つかの実施形態において、ステップ(g)およびステップ(j)の適切な有機溶媒は、同一であるか、または異なっている。
【0052】
幾つかの実施形態において、有機溶媒は、ジアルキルエーテルを含む。幾つかの実施形態において、有機溶媒は、ジエチルエーテルである。
【0053】
幾つかの実施形態において、極性有機溶媒は、エタノールを含み、非極性有機溶媒は、ヘキサンを含み,有機溶媒は、ジエチルエーテルを含む。
【0054】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)は、塩基性水性溶液で塩基性化することを含む。幾つかの実施形態において、塩基性水性溶液は、無機塩基を水に溶解することにより調製される。
【0055】
幾つかの実施形態において、無機塩基は、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、およびリン酸カリウムからなる群から選択される。
【0056】
幾つかの実施形態において、無機塩基は、炭酸ナトリウムである。幾つかの実施形態において、炭酸ナトリウムの濃度は、2~20%w/wの範囲である。幾つかの実施形態において、炭酸ナトリウムの濃度は、3~15%w/wの範囲である。幾つかの実施形態において、炭酸ナトリウムの濃度は、約5%w/wである。
【0057】
幾つかの実施形態において、無機塩基は、水酸化ナトリウムである。
【0058】
幾つかの実施形態において、塩基性水性溶液は、水溶性有機塩基を水に溶解することにより調製される。
【0059】
幾つかの実施形態において、最初の無機塩基は、約5%w/w水性炭酸ナトリウムであり、約4%w/w水性水酸化ナトリウムが続く。
【0060】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)の塩基性化は、ステップ(g)で得られた溶液を塩基性イオン交換樹脂と接触させることを含む。幾つかの実施形態において、塩基性イオン交換樹脂は、スチレンジビニルベンゼン、ポリアクリル系またはホルモフェノール系(formophenolic)コポリマーを含む。
【0061】
幾つかの実施形態において、溶液を塩基性化することは、約7を超えるpHまで実施される。
【0062】
幾つかの実施形態において、溶液を塩基性化することは、8~10のpH範囲まで実施される。
【0063】
幾つかの実施形態において、溶液を塩基性化することは、10~13のpH範囲まで実施される。
【0064】
幾つかの実施形態において、溶液を塩基性化することは、13を超えるpHまで実施される。
【0065】
幾つかの実施形態において、ステップ(i)における酸性溶液は、酸性水性溶液または酸性非水性溶液を含む。
【0066】
幾つかの実施形態において、ステップ(i)における酸性水性溶液は、無機酸を水に溶解することにより、または濃縮鉱酸溶液を希釈することにより調製される。
【0067】
幾つかの実施形態において、酸性水性溶液は、塩酸またはリン酸の溶液である。
【0068】
幾つかの実施形態において、酸性水性溶液は、塩酸の溶液である。
【0069】
幾つかの実施形態において、ステップ(i)における酸性水性溶液は、有機酸を水に溶解することにより、または濃縮された鉱酸溶液を希釈することにより、調製される。
【0070】
幾つかの実施形態において、酸性化は、約7未満のpHまで実施される。幾つかの実施形態において、酸性化は、約6未満のpHまで実施される。幾つかの実施形態において、酸性化は、約5未満のpHまで実施される。幾つかの実施形態において、酸性化は、約4未満のpHまで実施される。幾つかの実施形態において、酸性化は、約3未満のpHまで実施される。
【0071】
幾つかの実施形態において、酸性化は、1~3の範囲のpHまで実施される。
【0072】
幾つかの実施形態において、ステップ(i)における酸性非水性溶液は、アルコール、エステル、エーテル、アミド、またはそれらの混合物から選択される非水性有機溶媒に有機酸を溶解することにより調製される。幾つかの実施形態において、非水性溶媒は、メタノールもしくはエタノール、またはそれらの混合物である。
【0073】
幾つかの実施形態において、有機酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、およびパラトルエンスルホン酸からなる群から選択される。
【0074】
幾つかの実施形態において、ステップ(k)で用いられる乾燥剤は、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウムの群から選択される。
【0075】
幾つかの実施形態において、組成物は、上記極性有機溶媒に可溶であり、上記非極性有機溶媒に不溶である、テルペン化合物を実質的に含まない。
【0076】
幾つかの実施形態において、組成物は、組成物の総重量に基づき、マスチックガムの単離酸性画分を約0.01~約25%(w/w)含む。幾つかの実施形態において、組成物は、組成物の総重量に基づき、マスチックガムの単離酸性画分を約0.01~約12%(w/w)含む。
【0077】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、マスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸の少なくとも1つを含む。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0078】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、マスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸の少なくとも1つを含む。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0079】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、オレアノン酸、ウルソン酸およびウルソール酸の少なくとも1つをさらに含む。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0080】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、精油を実質的に含まなくてよい。
【0081】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、少なくとも1種のテルペン酸を含む。幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、少なくとも1種のトリテルペン酸を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1種のテルペン酸は、少なくとも1種のトリテルペン酸を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1種のトリテルペン酸は、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸、3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0082】
幾つかの実施形態において、少なくとも1種のテルペン酸は、モノマー形態である。幾つかの実施形態において、少なくとも1種のテルペン酸は、オリゴマー形態である。幾つかの実施形態において、オリゴマー形態は、ダイマー、トリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0083】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、モノマーとダイマーのトリテルペン酸の組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、モノマー、ダイマーおよびトリマーのトリテルペン酸の組み合わせを含む。
【0084】
幾つかの実施形態において、組成物は、マスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸の少なくとも1つを含む。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0085】
幾つかの実施形態において、組成物は、オレアノン酸、ウルソン酸およびウルソール酸の少なくとも1つをさらに含む。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0086】
幾つかの実施形態において、組成物は、少なくとも1種のテルペン酸を含む。テルペン酸の実施形態は、本明細書の先に記載された通りである。
【0087】
幾つかの実施形態において、組成物は、少なくとも1種のトリテルペン酸を含む。トリテルペン酸の例は、本明細書の先に記載された通りである。
【0088】
幾つかの実施形態において、マスチックガムは、ウルシ科に分類される植物に由来する。適切な植物としては、ピスタキア、マツ、トウヒ、ビャクシン、アルシエス(Alsies)、カラマツ、キンギョソウ、ボスウェリア、柑橘類およびサンシチソウからなる群から選択される属に分類されるものが挙げられる。幾つかの実施形態において、適切な植物は、ピスタキア属から選択される。幾つかの実施形態において、ピスタキアの種は、P.レンチスカス、P.アトランチカ、P.パレスチナ、P.サポルタエ、P.テレビンサス、P.ベラおよびP.インテゲリマからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、ピスタキアの種は、ピスタキア・レンチスカス var.キアである。幾つかの実施形態において、ピスタキアの種は、ピスタキア・レンチスカス Lである。幾つかの実施形態において、ピスタキアの種は、ピスタキア・レンチスカス L.var.ラチフォリウス コス(P.lentiscus L.var.latifolius Coss)である
【0089】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、樹脂、葉、小枝、根、花、種、芽、樹皮、木の実および根からなる群から選択される植物材料に由来する。
【0090】
幾つかの実施形態において、マスチックガムの単離酸性画分は、
(a)マスチックガムを極性有機溶媒で処理するステップと;
(b)上記極性有機溶媒に可溶な画分を単離するステップと;
(c)場合により、上記極性有機溶媒を除去するステップと;
(d)ステップ(b)または(c)で得られた可溶画分を非極性有機溶媒で処理するステップと;
(e)上記非極性有機溶媒に可溶な画分を単離するステップと;
(f)場合により、上記非極性有機溶媒を除去するステップと;
(g)ステップ(f)で得られた画分を有機溶媒に溶解するステップと;
(h)ステップ(g)で得られた溶液を塩基性溶液で処理して、塩基性画分を得るステップと;
(i)ステップ(i)で得られた塩基性画分を酸性溶液で酸性化するステップと、
(j)ステップ(i)で得られた酸性化画分を有機溶媒で抽出するステップと;
(k)場合により、ステップ(k)で得られた有機画分を乾燥剤と接触させて、残留する水を除去するステップと;
(l)ステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分から有機溶媒および/または過剰な酸を除去するステップと;
(m)ステップ(l)で得られた単離画分を担体に溶解させるステップ、
を含む工程により得られる。
【0091】
追加的実施形態において、本発明は、少なくとも1種のトリテルペン酸と、医薬的に許容できる担体とを含む医薬組成物を提供する。幾つかの実施形態において、少なくとも1種のトリテルペン酸は、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、マスチカジエノン酸、オレアノン酸、モロン酸、3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0092】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、医薬的有効成分としてのイソマスチカジエノン酸およびマスチカジエノン酸と、医薬的に許容できる担体とから本質的になる医薬組成物を提供する。両方の化合物の組み合わされた存在は、個別の化合物の有効性と比較した場合に、視神経症の病状の処置において組成物の有効性に関して増強/相乗効果をもたらす。イソマスチカジエノン酸およびマスチカジエノン酸のいずれか一方は、マスチックガムなどの天然供給源から単離されてよく、または化学合成の産物であってよい。
【0093】
幾つかの実施形態によれば、イソマスチカジエノン酸とマスチカジエノン酸との比率は、約1:1w/wである。
【0094】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、視神経症の処置における使用のための、唯一の医薬有効成分としてのオレアノン酸、イソマスチカジエノン酸およびマスチカジエノン酸と、医薬的に許容できる担体とから本質的になる医薬組成物を提供する。
【0095】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、視神経症の処置における使用のための、唯一の医薬有効成分としてのイソマスチカジエノン酸およびマスチカジエノン酸と、医薬的に許容できる担体とから本質的になる医薬組成物を提供する。これらの2種の化合物の組み合わされた存在は、個別の化合物の有効性と比較した場合に、視神経症の病状の処置において組成物の有効性に関して相乗効果をもたらす。
【0096】
オレアノン酸、イソマスチカジエノン酸およびマスチカジエノン酸のいずれか1つは、マスチックガムなどの天然供給源から単離されてよく、または化学合成の産物であってよい。幾つかの実施形態によれば、イソマスチカジエノン酸とマスチカジエノン酸とオレアノン酸の比率は、約1:1:1w/w/wである。
【0097】
幾つかの実施形態において、少なくとも1種のトリテルペン酸は、モノマーである。幾つかの実施形態において、組成物は、オレアノン酸とモロン酸のモノマーである。幾つかの実施形態において、オレアノン酸とモロン酸のモノマーは、化学合成反応の産物である。
【0098】
幾つかの実施形態において、少なくとも1種のトリテルペン酸は、オリゴマー形態を含む。幾つかの実施形態において、オリゴマー形態は、ダイマー、トリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別の実施形態である。幾つかの実施形態において、オリゴマー形態は、ダイマーである。幾つかの実施形態において、少なくとも1種のトリテルペン酸は、化学合成の産物である。
【0099】
幾つかの実施形態において、オリゴマー形態を含む少なくとも1種のトリテルペン酸は、化学合成の産物である。幾つかの実施形態において、少なくともトリテルペン酸は、ダイマー形態であり、化学合成の産物である。
【0100】
幾つかの実施形態において、少なくとも1種のトリテルペン酸は、天然供給源、特に植物源に由来する。
【0101】
幾つかの実施形態において、組成物は、異なるトリテルペン酸の組み合わせを含み、そのうち少なくとも1種のトリテルペン酸は、化学合成の産物であり、少なくとも1種のトリテルペン酸は、植物源に由来する。
【0102】
天然供給源としては、ウルシ科に分類される植物が挙げられる。適切な植物としては、ピスタキア、マツ、トウヒ、ビャクシン、アルシエス、カラマツ、キンギョソウ、ボスウェリア、柑橘類およびサンシチソウからなる群から選択される属に分類されるものが挙げられる。幾つかの実施形態において、適切な植物は、ピスタキア属から選択される。幾つかの実施形態において、ピスタキアの種は、P.レンチスカス、P.アトランチカ、P.パレスチナ、P.サポルタエ、P.テレビンサス、P.ベラおよびP.インテゲリマからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、ピスタキアの種は、ピスタキア・レンチスカス Lである。
【0103】
幾つかの実施形態において、天然供給源は、樹脂、葉、小枝、根、花、種、芽、樹皮、木の実および根からなる群から選択される植物材料である。
【0104】
幾つかの実施形態において、天然供給源は、オシマム、ゲッケイジュおよびラバンドラからなる群から選択される属に分類される植物である。
【0105】
幾つかの実施形態において、医薬的に許容できる担体は、疎水性担体を含む。幾つかの実施形態において、疎水性担体は、少なくとも1種の油を含む。幾つかの実施形態において、油は、鉱物油、植物油およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、植物油は、綿実油、オリーブ油、アーモンド油、キャノーラ油、ココナッツ油、コーン油、グレープシードオイル、ピーナッツ油、サフラン油、ゴマ油、大豆油およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、鉱物油は、軽油である。幾つかの実施形態において、疎水性担体は、少なくとも1種のワックスを含む。幾つかの実施形態において、疎水性担体は、少なくとも1種の油と少なくとも1種のワックスの組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、組成物は、医薬組成物である。
【0106】
幾つかの実施形態において、対象は、ヒトである。幾つかの実施形態において、対象は、非ヒト哺乳動物である。
【0107】
幾つかの実施形態において、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸を含むトリテルペノイドの混合物と、医薬的に許容できる担体とから本質的になる組成物を投与することを含む、視神経症の病状を処置する方法が提供される。
【0108】
幾つかの実施形態において、視神経症の病状を処置するための、マスチックガムの単離酸性画分の有効量と、医薬的に許容できる担体とを含む組成物の使用であって、画分が、少なくとも1種の極性有機溶媒および少なくとも1種の非極性有機溶媒に可溶であることを特徴とし、上記画分が、上記極性有機溶媒に可溶であるが上記非極性有機溶媒に不溶である化合物を実質的に含まない、使用が提供される。
【0109】
幾つかの実施形態において、それを必要とする対象における視神経症の病状を処置する際の使用のための、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸を含むトリテルペノイドの混合物と、医薬的に許容できる担体とから本質的になる組成物が提供される。
【0110】
幾つかの実施形態において、マスチックガムの単離酸性画分の有効量と医薬的に許容できる担体とを含む医薬組成物を含むキット、およびそれを必要とする対象における視神経症の病状の処置のためにこのキットを使用するための使用説明書が提供される。
【0111】
幾つかの実施形態において、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、モロン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸を含むトリテルペノイドの混合物と医薬的に許容できる担体とから本質的になる医薬組成物を含むキット、およびそれを必要とする対象における視神経症の病状の処置のためにこのキットを使用するための使用説明書が提供される。
【0112】
本発明の別の目的、特色および利点は、以下の記載および図面から明白となろう。
【0113】
模範的実施形態が、参照される図に例示される。図に示された構成要素および特色の寸法は、提示の簡便さおよび明瞭さのために一般に選択され、必ずしも一定の縮尺で示されていない。図を以下に列挙する。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1】対照ビヒクル処置群に比較した、追跡調査28日目に実施された処置ラット(目をレーザー照射)における、pERG測定の平均振幅における相対的変動を示す棒グラフ。
図2】ホールマウント網膜におけるBrn3a+RGCカウントを示す棒グラフ。
図3】ナイーブラットに比較した、様々な処置ラット群における視神経領域あたりの視神経軸索の数(%)を示す棒グラフ。
図4】示された配合物(D、E)で処置されたラット、ビヒクル処置または非処置ラット(ナイーブ)から得られた視神経の準超薄断面(semi-thin cross-section)の画像。
【発明を実施するための形態】
【0115】
発明の詳細な記載
幾つかの実施形態によれば、視神経症を処置するための、マスチックガムから抽出される単離酸性画分を含む組成物、それに含まれる化合物、およびその使用が提供される。
【0116】
本明細書に記載されるマスチックガムの開示される単離酸性画分が、罹患した対象において視野の損失を導き得る重度の病状である視神経症(様々な結果から生じる)を処置するための医薬組成物中の有効成分として用いられ得ることが、初めて本明細書で開示される。
【0117】
定義
本明細書で用いられる用語「マスチック」、「マスチック樹脂」、「ガムマスチック」および「マスチックガム」は、互換的に用いられて、ウルシ科に分類される任意の樹木からの滲出液として得られる樹木の樹脂(オレオレジンとしても知られる)を指す。ピスタキア属の樹木、最も顕著にはピスタキア・レンチスカス L.および特に栽培品種P.レンチスカス L.cv.キア(ギリシャのヒオス島で栽培される)は、それらのマスチックの高い収率で知られる。他の変種としては、P.レンチスカス L.var.エマルギナタ Engl.(P.lentiscus L.var.emarginata Engl.)およびP.レンチスカス L.var.ラチフォリア コス(P.lentiscus L.var.latifolia Coss)が挙げられる。ピスタキアのさらなる種としては、例えばP.アトランチカ、P.パレスチナ、P.サポルタエ、P.テレビンサス、P.ベラおよびP.インテゲリマが挙げられる。
【0118】
本明細書で用いられる用語「マスチカジエン酸」、「マスチカジエノン酸」、「マスチカジエン」および「マスチカジエノン」は、互換的に用いられる場合がある。
【0119】
本出願において頻繁に言及および参照される化合物の分子構造に関連して明瞭さを提供するために、本出願で用いられる名称および頭文字を付した構造のリストを、以下に示す。
【0120】
マスチカジエノン酸は、24-Z-マスチカジエノン酸を指し、本出願で用いられる頭文字MDAが、この化合物を指す。24-Z-マスチカジエノン酸の化学構造は、以下の通りである:
【化1】
【0121】
イソマスチカジエノン酸は、24-Z-イソマスチカジエノン酸を指し、本出願で用いられる頭文字IMDAが、この化合物を指す。24-Z-イソマスチカジエノン酸の化学構造は、以下の通りである:
【化2】
【0122】
オレアノン酸(OLNまたはOA)は、以下の分子構造を有する:
【化3】
【0123】
モロン酸(MOまたはMA)は、以下の分子構造を有する:
【化4】
【0124】
24-Z-マスチカジエノール酸(MLA)は、以下の構造を有し、3-ヒドロキシル基は、ベータ構造を有する:
【化5】
【0125】
24-Z-エピマスチカジエノール酸(MLA)は、以下の構造を有し、3-ヒドロキシル基は、アルファ構造を有する:
【化6】
【0126】
24-Z-イソマスチカジエノール酸(IMLA)は、以下の構造を有し、3-ヒドロキシル基は、ベータ構造を有する:
【化7】
【0127】
24-Z-エピ-イソマスチカジエノール酸(エピ-IMLA)は、以下の構造を有し、3-ヒドロキシル基は、ベータ構造を有する:
【化8】
【0128】
24-Z-3-O-アセチル-マスチカジエノール酸は、以下の分子構造を有する:
【化9】
【0129】
24-Z-3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸は、以下の分子構造を有する:
【化10】
【0130】
24-Z-3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸は、以下の分子構造を有する:
【化11】
【0131】
24-Z-3-O-アセチル-エピイソマスチカジエノール酸は、以下の分子構造を有する:
【化12】
【0132】
本明細書で用いられる用語「マスチックガムの単離酸性画分」は、ガムマスチックを少なくとも1種の極性有機溶媒および少なくとも1種の非極性有機溶媒で抽出し、その後、こうして得られた材料の溶液を酸-塩基抽出し、得られた酸性画分を単離することにより得られた画分を指す。本発明の単離酸性画分は、極性および非極性有機溶媒の両方に可溶である。
【0133】
本明細書で用いられる用語「複数」は、1より多く、好ましくは2より多くを指す。本明細書で用いられる用語「相乗的」は、相加を超えることを意味する。
【0134】
本明細書で用いられる用語「酸-塩基抽出」は、有機酸性および有機非酸性成分を含有する有機溶媒溶液を1種または複数の塩基性水性溶液(複数可)で処理/抽出する手順を指す。この結果として、有機酸性成分は、脱プロトン化され、こうして対応するイオン塩形態に変換され、結果的に上記塩基性水性溶液に溶解する。非酸性有機成分は、元の有機溶液中に残留する。次に、酸性成分の塩形態を含有する塩基性水性溶液は、酸性化され、有機性酸性成分のプロトン化酸形態を再形成する。これらのプロトン化酸性形態(酸性画分)は、酸性化合物の特性に応じて複数の方法で酸性化水性溶液から除去され得る。酸性溶液から酸性画分を除去するための一選択肢は、適切な有機溶媒中への抽出による。実施例1は、先に記載された酸-塩基抽出の非限定的実施例である。
【0135】
酸性化水性溶液中の酸性化合物の溶解度に応じて、酸性画分は、酸性化水性溶液の濾過により単離されてもよい。
【0136】
酸-塩基抽出に塩基性水性溶液を用いる代わりに、塩基性形態のイオン交換樹脂も使用できる。これらの例では、酸性有機成分(酸性画分)は、樹脂によりそれらの脱プロトン化陰イオン性形態で捕捉される。樹脂は、最初の溶液から続いて除去され、非酸性成分を後に残す。酸性成分(酸性画分)は、適切な酸性溶液での樹脂の処理により樹脂から続いて遊離される。酸-塩基抽出のためのイオン交換樹脂の使用は、工程の規模拡大に特に適し、(半)連続抽出工程の開発に用いることができる。
【0137】
先の酸-塩基抽出および他の変法の例は、多くの教書および他の発行物に見出すことができ、当業者に一般的な知識と見なされる。有用な教書の例は、“Vogel's Textbook of Practical Organic Chemistry”, 5th Edition, 1989, (p.162-163)である。
【0138】
本明細書で用いられる用語「純度」は、調製物中の他の化学物質に対する指定された化学物質の重量/重量基準でのパーセンテージとして表される、調製物中の指定された化学物質の量を指す。
【0139】
本明細書で用いられる「テルペン化合物」は、頭尾方向でイソプレン単位(CH=C(CH)-CH=CH)を有する、イソプレン含有炭化水素を指す。一般にテルペン炭化水素は、分子式(Cを有し、それぞれ1、2、3、4、6および8個のイソプレン単位を有する、ヘミテルペン(C5)、モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、トリテルペン(C30)、およびテトラテルペン(C40)を包含する。テルペンはさらに、非環式または環式として分類されてよい。
【0140】
本明細書で用いられる「テルペノイド」および「テルペノイド化合物」は互換的に、イソプレン単位に加えて酸素を含むテルペン関連化合物を指し、したがってアルコール、アルデヒドおよびケトンを包含する。テルペノイドは、テルペンと類似の手法で炭素原子数に応じて細分され、つまりそれぞれ1、2、3、4、6および8個のイソプレン単位を有する、ヘミテルペノイド(C5)、モノテルペノイド(C10)、セスキテルペノイド(C15)、ジテルペノイド(C20)、トリテルペノイド(C30)、およびテトラテルペノイド(C40)を包含する。テルペノイドの骨格は、フラグメント、一般にはメチル基の損失またはシフトによりイソプレン単位の厳密な加成性(additivity)が異なる場合がある。モノテルペノイドの例としては、カンファー、オイゲノールおよびボルネオールが挙げられる。ジテルペノイドの例としては、フィトールおよびタキソールが挙げられる。トリテルペノイドの例としては、スクアレンおよびラノステロールが挙げられる。
【0141】
本明細書で用いられる「テルペン酸」は、少なくとも1つのカルボン酸基を含むテルペノイド化合物を指す。テルペン酸は追加として、ヒドロキシル、ケト、アルデヒド、エーテル(環式および非環式)およびエステル(環式および非環式)基を含む1つまたは複数の他の酸素含有官能基を含んでよい。
【0142】
本明細書で用いられる「トリテルペン酸」は、少なくとも1つのカルボン酸基を含むトリテルペノイド化合物を指す。トリテルペン酸は、追加として、ヒドロキシル、ケト、アルデヒド、エーテル(環式および非環式)およびエステル(環式および非環式)基を含む1つまたは複数の他の酸素含有官能基を含んでよい。
【0143】
本明細書で用いられる「テルペン酸のオリゴマー形態」は、モノマー単位が同じテルペン酸または異なるテルペン酸のいずれかであり、任意の可能な配列で接続され、C-C結合、エステル基またはエーテル基などの任意の可能な結合または官能基を通して一方から他方へ連結される、オリゴマー性テルペノイド酸を指す。
【0144】
本明細書で用いられる「トリテルペン酸のオリゴマー形態」は、モノマー単位が同じトリテルペン酸または異なるトリテルペン酸のいずれかであり、任意の可能な配列で接続され、C-C結合、エステル基またはエーテル基などの任意の可能な結合または官能基を通して一方から他方へ連結される、オリゴマー性トリテルペノイド酸を指す。
【0145】
本明細書で用いられる用語「マスチカジエン酸」、「マスチカジエノン酸」、「マスチカジエン」および「マスチカジエノン酸」は、互換的に用いられる場合がある。
【0146】
本明細書で用いられる用語「イソマスチカジエン酸」、「イソマスチカジエノン酸」、「イソマスチカジエン」および「イソマスチカジエノン」は、互換的に用いられる場合がある。
【0147】
本明細書で用いられる「実質的に含まない」は、本発明による調製物または医薬組成物が一般に約5%未満の上述の物質を含有することを意味する。例えば、約3%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満。
【0148】
本明細書で用いられる用語「から本質的になる」は、指定された病状を処置する配合物または方法における活性の医薬原材料のみが、特定の実施形態における具体的に列挙された治療原材料であることを意味する。他の原材料、例えば賦形剤および/または滑沢剤などの存在は、排除されない。追加の他の医薬的活性剤の存在もまた、上記病状への実際上の影響を有しない限りは排除されない。
【0149】
本明細書で用いられる「治療有効量」は、所望の治療効果を実質的に誘導する、促進する、またはもたらす、医薬原材料の量を指す。
【0150】
本明細書で用いられる「医薬的に許容できる担体」は、それと共に配合される医薬原材料の送達および/または薬物動態特性を促進するために用いられるが、それ自体の治療効果を有さず、対象において何らかの望ましくないもしくは不都合な影響または有害反応を誘導または誘発しない、希釈剤またはビヒクルを指す。
【0151】
本明細書で用いられる「医薬的に許容できる疎水性担体」は、その中でマスチック画分が溶解または懸濁される疎水性非極性希釈剤またはビヒクルを指す。
【0152】
本明細書で用いられる用語「視神経症」および「視神経萎縮」は、互換的に用いられてよい。その用語は、任意の原因による視神経への損傷を指す。この用語はさらに、虚血性神経症(例えば、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、前部虚血性視神経症(AION)、後部虚血性視神経症);放射線視神経症(RON)、外傷性視神経症、緑内障、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、ミトコンドリア性視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症、蓄積症から生じる損傷、および同様のもの、またはそれらの組み合わせなどの、視神経症から生じる、またはそれに関連する任意の病状または障害を包含する。各可能性は、別の実施形態である。
【0153】
本明細書で用いられる用語「蓄積症」は、正常または異常な性質の脂質、タンパク質、リポタンパク質、炭水化物および他のものなどの物質の過剰な蓄積を導く任意の型の代謝障害を指す。特に重要なのは、視神経への病的損傷に関連するリポフスチンの蓄積である。
【0154】
本明細書で述べられる数値は、述べられる数値+/-10%と理解されなければならない。
【0155】
用語「約」は、述べられる数値+/-述べられる数値の10%を含むことを対象とする。
【0156】
幾つかの実施形態において、本発明は、マスチックガムの単離酸性画分中で見出されるものなどの、テルペン酸の特定の組み合わせを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、特定のトリテルペン酸からなる組成物を提供し、これらの組成物は、視神経症の処置において、同じ個別のトリテルペン酸化合物に比較して予想外の相乗効果を有することが示される。トリテルペン酸化合物は、植物源、詳細にはマスチックガム由来であってよく、または化学合成反応の産物であってよい。幾つかの例において、組成物は、いくつかが化学合成され、いくつかが植物源に由来する、化合物の組み合わせに対応してもよい。
【0157】
幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の任意の1種は、生化学反応の産物または微生物体により産生された産物であってよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の任意の1種は、発酵工程の産物であってよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の任意の1種は、化学合成と生化学反応の組み合わせにより生成されてよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の任意の1種は、化学合成と発酵工程の組み合わせにより生成されてよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の任意の1種は、先に示された選択肢のいずれかの組み合わせにより生成されてよい。生化学反応または微生物工程の場合、生化学剤および微生物剤は、天然由来の薬剤であってよく、または天然にない改変された薬剤であってよい。これらの薬剤の改変は、近代の生化学的方法、例えば遺伝子操作を利用して実現されてよい。上記天然にない生化学剤および微生物剤はまた、合成生物学的方法を利用して作出されてよい。
【0158】
幾つかの実施形態において、天然供給源から得ることは、天然供給源から単離することを包含し得る。幾つかの実施形態において、天然供給源からの単離は、個々の化合物(複数可)として、または化合物の群(複数可)としての単離を包含してよい。幾つかの実施形態において、天然供給源は、樹脂、ガム、葉、小枝、根、花、種、芽、樹皮、木の実、および根からなる群から選択される植物材料を包含してよい。各可能性は、別の実施形態である。幾つかの実施形態において、天然供給源は、少なくとも1種の植物から抽出される樹脂を包含してよい。幾つかの実施形態において、天然供給源は、マスチックガムを包含してよい。
【0159】
幾つかの実施形態において、天然供給源は、少なくとも1種の植物を包含してよい。幾つかの実施形態において、植物は、ウルシ科に分類されてよい。幾つかの実施形態において、植物は、ピスタキア属および/またはコショウボク属に分類される少なくとも1種の植物を含んでよい。幾つかの実施形態において、ピスタキアは、P.レンチスカス、P.アトランチカ、P.パレスチナ、P.サポルタエ、P.テレビンサス、P.ベラ、P.インテゲリマ、およびP.レンチスカス Lからなる群から選択される種を包含してよい。各可能性は、別の実施形態である。幾つかの実施形態において、ピスタキアは、ピスタキア・レンチスカス Lの種を包含してもよい。幾つかの実施形態において、コショウボクは、S.モレの種を包含してよい。幾つかの実施形態において、ピスタキアは、ピスタキア・レンチスカス var.キアの種を包含してよい。幾つかの実施形態において、ピスタキアは、ピスタキア・レンチスカス L.var.ラチフォリウス コスの種を包含してよい。各可能性は、本発明の別の実施形態である。
【0160】
本発明の組成物を得るために有用な植物種としては、ピスタキア属、マツ属、トウヒ属、ビャクシン属、アルシエス属、カラマツ属、オシマム属、ゲッケイジュ属およびラバンドラ属のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0161】
ピスタキアの有用な種としては、P.レンチスカス、P.アトランチカ、P.パレスチナ、P.サポルタエ、P.テレビンサス、P.ベラおよびP.インテゲリマが挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
マスチックガムの単離酸性画分を得るのに用いられる方法は、以下に記載され得る。一般的記載として、採取された植物材料、例えばマスチックガムを、適切な容器中で適切な溶媒、通常な極性溶媒と組み合わされる。適切な極性溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、エステル、アミド、アルデヒド、ケトン、ニトリルおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0163】
極性有機溶媒の特定の例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、ネオペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジヒドロフラン、フラン、ピラン、ジドロピラン、テトラヒドロピラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、アセトアルデヒド、ギ酸メチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、およびそれらの組み合わせである。
【0164】
マスチックガムと溶媒は、好ましくは溶媒が大過剰になる、例えば10:1または20:1になるように、組み合わされる。混合物は、数分~数時間の範囲の期間にわたり周期的にまたは連続で撹拌されてよい。溶媒は、任意の処置を行わずにデカンテーションされてよく、または場合により混合物は最初に、当該技術分野で公知の低速遠心分離に、例えば100~2000rpmで供されてもよい。不溶性材料を抽出物から回収し、溶媒の新鮮なアリコットを不溶性材料に添加し、極性溶媒可溶性化合物を可能な限り多量に得るために、抽出および溶解工程が数サイクル繰り返されるようにする。最終的な溶解ステップの後、極性溶媒可溶性材料を含有する抽出物をひとまとめにし、極性溶媒を蒸発させて(例えば、当該技術分野で公知の通り、ロータリーエバポレーションを利用することにより)、極性溶媒可溶性材料を得て、それを粗抽出物または「第1ステップの」抽出物と称してもよい。
【0165】
第一のステップの抽出材料を、非極性有機溶媒と組み合わせ、1~2時間の期間にわたり振とうすることにより抽出する。適切な非極性溶媒としては、非環式または環式の飽和または不飽和脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素、例えばC5~C10アルカン、C5~C10シクロアルカン、C6~C14芳香族炭化水素、およびそれらの組み合わせが挙げられる。前述のもののそれぞれは、1つまたは複数のハロゲンにより場合により置換されてよく、例えばC7~C14ペルフルオロアルカンであってよい。非極性有機溶媒の特定の例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンならびにそれらの異性体および混合物である。非極性溶媒の存在下で不溶のままであるか沈殿する材料を、除去し廃棄する。非極性溶媒可溶性画分をその後、非極性溶媒を蒸発させることにより(例えば、ロータリーエバポレーションにより)得る。この画分を、精製抽出物または「2ステップ」抽出物と称してよく、これは極性溶媒と非極性溶媒の両方に可溶であり、一方で極性溶媒に可溶であるが非極性溶媒に不溶である材料が除去されている、という事実を特徴とするマスチックガムの単離画分に対応する。
【0166】
第二のステップの抽出材料を次に、有機溶媒に溶解し、この溶液を塩基性水性溶液で繰り返し(例えば、4回)抽出する。異なる塩基性水性溶液での2回目の抽出を、実施してもよい。こうして得られた塩基性画分を、水性希酸溶液で酸性pHに酸性化する。酸性化された水性溶液を、有機溶媒で複数回抽出する。こうして得られひとまとめにされた有機溶媒抽出物(「3ステップ抽出物」とも称される)を、乾燥剤で処理する。マスチックガムのこの単離酸性画分をその後、有機溶媒を蒸発させることにより(例えば、ロータリーエバポレーションにより)、得る。この画分を、マスチックガムの単離酸性画分と称する。当該技術分野で公知の通り、乾燥および/または溶媒除去の追加的中間ステップを、他のステップの間に実施してよい。あるいは第二のステップの抽出材料を、例えば塩基性イオン交換樹脂Amberlyst(登録商標)A26と組み合わせてもよい。樹脂から酸性画分を遊離させるために、単離されたイオン交換樹脂を非水性酸性溶液で処理する。単離酸性画分をその後、非水性溶媒および任意の過剰な酸を蒸発させることにより、得る。
【0167】
本発明の単離酸性画分を先行技術のマスチックガム抽出物に対し際立たせる特徴は、他の方法では最終的に最後の酸性画分中に残る特定の酸性化合物が、この手順の最初の2ステップで除去されてしまうことである。本発明の教示によれば、単離手順の最初の2ステップの間に除去される酸性化合物は、本明細書に開示される単離酸性画分の有益な生物活性に対し有害な影響を有する。
【0168】
3つのステップの抽出物を、例えば高真空処理により(例えば、0.01ミリバール未満で最大数日間)さらに乾燥させて、残留する溶媒および他の揮発性材料を除去し、計量し非極性有機溶媒または他の担体と組み合わせて、その溶解を実行してもよい。
【0169】
幾つかの実施形態において、本発明の単離画分は、
(a)マスチックガムを極性有機溶媒で処理するステップと;
(b)上記極性有機溶媒に可溶な画分を単離するステップと;
(c)場合により、上記極性有機溶媒を除去するステップと;
(d)ステップ(b)または(c)で得られた可溶画分を非極性有機溶媒で処理するステップと;
(e)上記非極性有機溶媒に可溶な画分を単離するステップと;
(f)場合により、上記非極性有機溶媒を除去するステップと;
(g)ステップ(f)で得られた画分を有機溶媒に溶解するステップと;
(h)ステップ(g)で得られた溶液を塩基性溶液で処理して、塩基性画分を得るステップと;
(i)ステップ(h)で得られた塩基性画分を酸性溶液で酸性化するステップ、
の1つまたは複数を含む工程により得られてよい。
【0170】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)における塩基性溶液での処理(塩基性化)は、ステップ(g)で得られた溶液を1種もしくは複数の適切な塩基性水性溶液で抽出すること、またはステップ(g)で得られた溶液を塩基性イオン交換樹脂と接触させること、を含む。塩基性イオン交換樹脂の場合、樹脂は次に、捕捉された酸性画分を遊離させるために酸性溶液で処理されてよい。単離酸性画分は、例えば真空の適用を利用して、任意の揮発性物質の除去により得られる。
【0171】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)は、ステップ(g)で得られた溶液を塩基性イオン交換樹脂と接触させること、およびその後、塩基性イオン交換樹脂を濾過により除去すること、を含む。塩基性イオン交換樹脂は次に、捕捉された酸性画分を遊離させるために酸性溶液で処理されてよい。単離酸性画分は、例えば真空の適用を利用して、任意の揮発性物質の除去により得られる。
【0172】
幾つかの実施形態において、工程は、
(j)ステップ(i)で得られた酸性化画分を有機溶媒で抽出するステップと;
(k)場合により、ステップ(j)で得られた有機画分を乾燥剤と接触させて、残留する水を除去するステップと;
(l)ステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分から有機溶媒および/または過剰な酸を除去するステップと;
(m)ステップ(l)で得られた単離画分を担体に溶解させるステップ、
をさらに含む。
【0173】
工程は、ステップ(c)、(f)または(l)のいずれかの後に、溶媒を除去することをさらに含んでよい。溶媒除去は、当該技術分野で公知の任意の手段、例えばロータリーエバポレーション、高真空の適用およびそれらの組み合わせにより実施されてよい。幾つかの実施形態において、ステップ(a)~(c)は、ステップ(d)~(f)の前に実施されるか、またはその逆である。幾つかの実施形態において、極性有機溶媒は、エタノールを含み、非極性有機溶媒は、ヘキサンを含み、酸-塩基抽出に用いられる有機溶媒は、ジエチルエーテルを含む。当業者に容易に理解される通り、ステップ(a)~(c)およびステップ(d)~(f)を、それぞれ独立して複数のサイクルで実施して、抽出工程および生成物の純度を最適化してもよい。
【0174】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)は、ステップ(g)で得られた溶液を塩基性水性溶液で抽出すること、およびそれから得られた有機画分を回収すること、を含む。幾つかの実施形態において、工程は、ステップ(h)から得られた有機画分をステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分とひとまとめにすることをさらに含んでよい。
【0175】
幾つかの実施形態において、ステップ(h)で得られた有機画分は、ステップ(h)から得られた有機画分の約0.1%~50%の範囲の量でステップ(i)、(j)または(k)のいずれかで得られた画分とひとまとめにされる。幾つかの実施形態において、量は、約0.5~50%;または2~25%;または0.1~10%の範囲である。
【0176】
単離酸性画分は、様々なトリテルペン酸の組み合わせなど、少なくとも1種のテルペン酸を含んでよい。トリテルペン酸としては、例えばマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、マスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸、および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸が挙げられる。
【0177】
単離酸性画分は、様々なトリテルペン酸の組み合わせなど、少なくとも1種のテルペン酸を含んでよい。トリテルペン酸としては、例えばマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸、および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸が挙げられる。
【0178】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、例えばマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸、および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸から選択される少なくとも2種のテルペン酸化合物を含んでよい。
【0179】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、例えばマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸から選択される少なくとも2種のテルペン酸化合物を含んでよい。
【0180】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、例えばマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸、および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸から選択される少なくとも2種のテルペン酸化合物を含んでよい。
【0181】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、例えばマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸から選択される少なくとも2種のテルペン酸化合物を含んでよい。
【0182】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸、オレアノール酸、ウルソン酸、ウルソール酸、モロン酸、および3-オキソ-ルプ-20(29)-エン-28-酸から選択される少なくとも3種のテルペン酸化合物を含んでよい。
【0183】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸およびオレアノン酸から選択される少なくとも2種のテルペン酸化合物を含んでよい。
【0184】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、例えばマスチカジエノール酸またはモロン酸などの特定のトリテルペン酸を実質的に含まなくてよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0185】
幾つかの実施形態において、単離酸性画分は、精油を実質的に含まなくてよい。
【0186】
さらに、単離酸性画分中のテルペン酸および/またはトリテルペン酸は、モノマー形態、またはダイマー、トリマーなどのオリゴマー形態、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0187】
本発明での使用のための組成物は、本明細書に記載されるマスチックガムの単離酸性画分の治療有効量と、医薬的に許容できる疎水性担体とを含む。
【0188】
本発明はまた、少なくとも1種のトリテルペン酸と、医薬的に許容できる担体とを含む組成物を提供する。トリテルペン酸は、本明細書の先に記載されたマスチックガムなどの植物生成物から単離されてよく、またはそれは、化学合成の産物であってよい。さらに組成物は、そのいくつかが化学合成され、そのいくつかが1種または複数の植物生成物から単離された、トリテルペン酸の組み合わせを含んでよい。幾つかの実施形態において、組成物は、医薬有効成分としての少なくとも2種のトリテルペン酸化合物と、医薬的に許容できる担体とからなってよい。加えて組成物は、トリテルペン酸のダイマー、トリマーおよびより高次のオリゴマー形態を含んでよく、オリゴマーは、同一のおよび異なるモノマートリテルペン酸から形成されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、医薬有効成分としての少なくとも3種のトリテルペン酸化合物と、医薬的に許容できる担体とからなってよい。
【0189】
治療的使用のための組成物の調製の場合、本明細書に記載された通り、場合によりワックスと組み合わせた、医薬的に許容できる油を含む疎水性担体などの適切な担体が用いられてよい。
【0190】
疎水性担体は、例えば鉱物油、植物油、またはそれらの組み合わせなどの少なくとも1種の油を含む。
【0191】
用語「鉱物油」は、石油の蒸留から得られる無色透明でほぼ無臭および無味の液体を指す。それは、白油、白鉱物油、流動ワセリン、流動パラフィン、またはホワイトパラフィンオイルと称される場合もある。幾つかの実施形態によれば、鉱物油は、軽油であり、「NF」(国民医薬品集)等級または「USP」(US薬局方)等級のいずれかの製品として得ることができる市販の製品である。本発明での使用の場合、鉱物油は、好ましくは芳香族化合物および不飽和化合物を含まない。
【0192】
適切な植物油としては、綿実油、オリーブ油、アーモンド油、キャノーラ油、ココナッツ油、コーン油、グレープシードオイル、ピーナッツ油、サフラン油、ゴマ油、大豆油、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、鉱物油は、軽油である。
【0193】
医薬的に許容できる担体は、代わりにまたは追加として、代替油を含んでもよい。代替油としては、少なくとも10個の炭素原子を有するアルカン(例えば、イソヘキサデカン)、安息香酸エステル、脂肪族エステル、ノンコメドジェニックエステル、揮発性シリコーン化合物(例えば、シクロメチコーン)、および代用揮発性シリコーンが挙げられる。安息香酸エステルの例としては、C1215安息香酸アルキル、安息香酸イソステアリル、安息香酸2-エチルヘキシル、安息香酸ジプロピレングリコール、安息香酸オクチルドデシル、安息香酸ステアリル、および安息香酸ベヘニルが挙げられる。脂肪族エステルの例としては、C1215オクタン酸アルキルおよびマレイン酸ジオクチルが挙げられる。ノンコメドジェニックエステルの例としては、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ダイマージリノール酸ジイソステアリル、プロピオン酸アラキジル、およびイソノナン酸イソトリデシルが挙げられる。代用揮発性シリコーンの例としては、デカン酸イソヘキシル、イソノナン酸オクチル、オクタン酸イソノニル、およびジオクタン酸ジエチレングリコールが挙げられる。
【0194】
シクロメチコーンは、組成物を噴霧ディスペンサーから噴出し易くするのを支援するために担体に含まれ得る蒸発性シリコーンである。さらに、その蒸発性のために、シクロメチコーンは、それが噴霧される表面、例えば創傷部位への配合物の保持および固定を支援することもできる。
【0195】
疎水性担体は、少なくとも1種のワックスをさらに含んでよい。ワックスとしては、例えばビーズワックス、植物性ワックス、サトウキビワックス、ミネラルワックス、および合成ワックスが挙げられる。植物ワックスとしては、例えばカルナウバワックス、カンデリラワックス、オウリキュリー(ouricury)ワックスおよびホホバワックスが挙げられる。ミネラルワックスとしては、例えばパラフィンワックス、亜炭ワックス、微結晶ワックスおよびオゾケライトが挙げられる。合成ワックスとしては、例えばポリエチレンワックスが挙げられる。
【0196】
医薬組成物は、例えばカプセル(ソフトゲルカプセルなど)、錠剤、ゲル、リポソーム、坐剤、懸濁剤、軟膏、溶液、エマルジョンまたはマイクロエマルジョン、フィルム、接合剤、粉末、グルー、エアロゾル、スプレーおよびゲルなどの複数の形態のいずれかで配合されてよい。
【0197】
医薬組成物を調製するために、マスチックガムの単離酸性画分は、包接錯体、ナノエマルジョン、マイクロエマルジョン、粉末およびリポソームとして適宜配合されてよい。幾つかの実施形態において、包接錯体は、少なくとも1種のシクロデキストリンを含む。幾つかの実施形態において、シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含む。幾つかの実施形態において、ナノエマルジョンは、800nm未満の平均粒子径を有する液滴を含む。幾つかの実施形態において、液滴は、500nm未満の平均粒子径を有する。幾つかの実施形態において、液滴は、200nm未満の平均粒子径を有する。幾つかの実施形態において、粉末は、噴霧乾燥粉末である。幾つかの実施形態において、リポソームは、多層小胞を含む。幾つかの実施形態において、マイクロエマルジョンは、非イオン性界面活性剤を含む。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシルヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、ポロキサマー、ビタミンE誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアラート、飽和のポリグリコリシスされたグリセリド、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0198】
幾つかの実施形態によれば、単離酸性画分の様々な配合物およびその調製物は、本明細書の実施例1に開示される。本発明の医薬組成物は、意図する目的を実現する任意の手段により投与されてよい。幾つかの実施形態において、投与は、非経口経路による。幾つかの実施形態において、投与は、非経口局所投与である。幾つかの実施形態において、非経口投与は、非限定的に、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、動脈内、子宮内、尿道内、心内、脳内、脳室内、腎内、肝内、腱内、骨内、眼内および髄腔内投与経路から選択されてよい。
【0199】
投与される投与量は、対象の年齢、健康および体重、あるならば併用処置の利用、処置の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存し得る。任意の単位投与剤形中の本発明のマスチックガムの単離酸性画分の量は、治療有効量を含み、それはレシピエント対象、投与経路および頻度に応じて変動してよい。
【0200】
医薬組成物中に存在するマスチックガムの単離酸性画分の量は、約0.01%~約99%の範囲であってよい。一般に医薬組成物中に存在するマスチックガムの単離酸性画分の量は、簡便には、組成物の総重量に基づき、重量/重量基準で0.01%~約25%など、0.01%~約12%などの、約0.01%~約50%の範囲であってよい。局所使用の場合、組成物中のマスチックガムの単離酸性画分の割合%は、約0.05%~約2.5%の範囲であってよい。注射による投与の場合、組成物中のマスチックガムの単離酸性画分の割合%は、簡便には約0.1%~約7%の範囲であってよい。
【0201】
幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の約1%~約80%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の最大99%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の約10%~約80%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の約20%~約80%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の約30%~約70%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の約35%~約65%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、組成物の総有効成分の約40%~約60%を構成してよい。
【0202】
幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約0.01%~約80%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約0.01%~約50%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約0.01%~約10%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約0.1%~約10%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約0.5%~約4%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約1%~約3.5%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約1.5%~約3%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約1.75%~約2.75%を構成してよい。幾つかの実施形態において、トリテルペン酸は、総組成物の約2%~約2.5%を構成してよい。
【0203】
幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の組み合わせは、主な化合物として、モロン酸、オレアノン酸、24-Z-マスチカジエノン酸、24-Z-イソマスチカジエノン酸、24-Z-3-ベータ-OAc-マスチカジエノール酸および/または24-Z-3-ベータ-OAc-イソマスチカジエノール酸の1種または複数を包含してよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0204】
幾つかの実施形態において、トリテルペン酸の組み合わせは、主な化合物として、モロン酸(12~15%)、オレアノン酸(18~20%)、24-Z-マスチカジエノン酸(20~22%)、24-Z-イソマスチカジエノン酸(22~26%)、24-Z-3-ベータ-OAc-マスチカジエノール酸(4~7%)および/または24-Z-3-ベータ-OAc-イソマスチカジエノール酸(4~7%)を包含してよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0205】
幾つかの実施形態において、トリテルペン酸のこれらの組み合わせは、(主な化合物に加えて)少量の、典型的には5%未満の追加的な別のトリテルペン酸をさらに含んでよい。そのような追加的な可能性のある他のトリテルペン酸は、MLA:3-ベータ-マスチカジエノール酸、IMLA:3-ベータ-イソマスチカジエノール酸、3-ベータ-OAc-エピマスチカジエノール酸、3-ベータ-OAc-エピ-イソマスチカジエノール酸、エピマスチカジエノール酸(3-アルファ-マスチカジエノール酸)、エピ-イソマスチカジエノール酸(3-アルファ-イソマスチカジエノール酸)、ジヒドロマスチカジエノン酸および/またはジヒドロイソマスチカジエノン酸の1つまたは複数から選択されてよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0206】
幾つかの実施形態において、マスチックガムの単離酸性画分中のトリテルペン酸は、主な化合物として、モロン酸、オレアノン酸、24-Z-マスチカジエノン酸、24-Z-イソマスチカジエノン酸、24-Z-3-ベータ-OAc-マスチカジエノール酸および/または24-Z-3-ベータ-OAc-イソマスチカジエノール酸の1種または複数を包含してよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0207】
幾つかの実施形態において、マスチックガムの単離酸性画分中のトリテルペン酸は、主な化合物として、モロン酸(12~15%)、オレアノン酸(18~20%)、24-Z-マスチカジエノン酸(20~22%)、24-Z-イソマスチカジエノン酸(22~26%)、24-Z-3-ベータ-OAc-マスチカジエノール酸(4~7%)および/または24-Z-3-ベータ-OAc-イソマスチカジエノール酸(4~7%)を包含してよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0208】
幾つかの実施形態において、マスチックガムの単離酸性画分中のこれらのトリテルペン酸は、(主な化合物に加えて)少量の、典型的には5%未満のさらなる別のトリテルペン酸をさらに含んでよい。そのようなさらなる可能な他のトリテルペン酸は、MLA:3-ベータ-マスチカジエノール酸、IMLA:3-ベータ-イソマスチカジエノール酸、3-ベータ-OAc-エピマスチカジエノール酸、3-ベータ-OAc-エピ-イソマスチカジエノール酸、エピマスチカジエノール酸(3-アルファ-マスチカジエノール酸)、エピ-イソマスチカジエノール酸(3-アルファ-イソマスチカジエノール酸)、ジヒドロマスチカジエノン酸および/またはジヒドロイソマスチカジエノン酸の1つまたは複数から選択されてよい。各可能性は、別の実施形態である。
【0209】
幾つかの実施形態において、有効成分としてのマスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸からなる組成物中のこれらの2種の化合物の量は、各化合物で約0.05%~約45%の範囲であってよい。例示的実施形態において、有効成分としてのマスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸からなる組成物中のこれらの2種の化合物の量は、各化合物で約0.05%~約20%の範囲であってよい。注射による投与の場合、それぞれの量は、約0.1%~約10%の範囲であってよい。局所投与の場合、それぞれの量は、約0.5%~約12%の範囲であってよい。経口投与の場合、それぞれの量は、約0.5%~約15%の範囲であってよい。
【0210】
幾つかの実施形態において、有効成分としてのオレアノン酸、マスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸からなる組成物中のこれらの3種の化合物の量は、各化合物で約0.05%~約30%の範囲であってよい。例示的実施形態において、有効成分としてのオレアノン酸、マスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸からなる組成物中のこれらの3種の化合物の量は、各化合物で約0.05%~約15%の範囲であってよい。注射による投与の場合、それぞれの量は、約0.1%~約10%の範囲であってよい。局所投与の場合、それぞれの量は、約0.5%~約12%の範囲であってよい。経口投与の場合、それぞれの量は、約0.5%~約15%の範囲であってよい。
【0211】
本発明の医薬組成物は、それ自体が当業者に公知である手法、例えば従来の混合、造粒、糖剤作製(dragee-making)、ソフトゲルカプセル化、溶解、抽出または凍結乾燥工程を利用して、製造されてよい。経口使用のための医薬組成物は、活性化合物を固形および半固形の賦形剤ならびに適切な防腐剤および/または抗酸化剤と組み合わせることにより得られてよい。場合により、得られた混合物を粉砕および加工してよい。必要に応じて適切な助剤を添加した後に、得られた顆粒混合物を用いて、錠剤、ソフトゲル、カプセル、または糖剤コアを得てもよい。
【0212】
適切な賦形剤は、詳細には、糖類、例えばラクトースまたはスクロース、マンニトールまたはソルビトール;セルロース調製物および/またはリン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウムなどの充填剤;ならびに、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドンを用いる、デンプンペーストなどの結合剤である。所望なら、崩壊剤、例えば上述のデンプンおよびまたカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩を添加してもよい。助剤は、流動調節剤および滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウムなどのその塩、および/あるいはポリエチレングリコールである。糖剤コアには、所望なら、胃液に抵抗性のある適切なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を用いてよく、それは場合によりアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含有してよい。胃液抵抗性コーティングを生成するために、アセチルセルロースフタラートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートなどの、適切なセルロース調製物の溶液が使用される。例えば識別のため、または活性化合物用量の組み合わせを特徴づけるために、染料または顔料を錠剤または糖剤コーティングに添加してもよい。
【0213】
非経口投与のための配合物としては、適宜、活性化合物の懸濁液および微粒子分散液が挙げられる。幾つかの実施形態において、油性注射懸濁液が、投与されてよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル、トリグリセリド、ポリエチレングリコール-400、クレモホール、またはシクロデキストリンが挙げられる。注射懸濁液は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む、懸濁液の粘性を上昇させる物質を含有してよい。場合により懸濁液は、安定化剤を含有してもよい。
【0214】
医薬組成物は、有効成分を含むリポソームを用いて調製することもできる。当該技術分野で公知の通り、リポソームは一般に、リン脂質または他の脂質物質に由来する。リポソームは、水性媒体中に分散された単層または多層の水和された液晶によって形成される。リポソームを形成できる、任意の非毒性で生理学的に許容できる代謝可能な脂質を使用できる。一般に、好ましい脂質は、天然および合成両方のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成させる方法は、例えばPrescott, Ed., Methods in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N.Y. (1976)に開示される通り、当該技術分野で公知である。
【0215】
医薬組成物は、非経口使用のための配合を容易にするために、水中油エマルジョンまたはマイクロエマルジョンを含んでよい。そのようなエマルジョン/マイクロエマルジョンとしては一般に、脂質、界面活性剤、場合により保湿剤および水が挙げられる。適切な脂質としては、水中油エマルジョン/マイクロエマルジョンを作製するのに有用であると一般に知られるもの、例えば脂肪酸グリセリドエステルが挙げられる。適切な界面活性剤としては、エマルジョン中のオイル成分として脂質が用いられる、水中油エマルジョン/マイクロエマルジョンを作製するのに有用であると一般に知られるものが挙げられる。例えばエトキシル化ヒマシ油、リン脂質、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーなどの、非イオン性界面活性剤が好ましい場合がある。用いられる場合の適切な保湿剤としては、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールが挙げられる。
【0216】
医薬組成物は、カラギナン、キサンタンガム、カラヤガム、アカシアガム、ローカストビーンガム、グアーガムなどのゲル形成ポリマーから形成されるヒドロゲルなどのゲルの形態で配合されてよい。ヒドロゲルを、有効成分を含む水中油エマルジョンと組み合わせてもよい。
【0217】
医薬組成物は、整形外科手術に用いられるような、ポリメチルメタクリラート(PMMA)またはリン酸カルシウムを含むものなどの接合剤の形態で配合されてよい。
【0218】
医薬組成物は、粉末の形態で配合されてよい。
【0219】
幾つかの実施形態によれば、視神経症を処置する治療的使用および方法が提供される。方法は、本明細書に記載される通り、マスチックガムの単離酸性画分を含む、または単離酸性化合物の組み合わせを含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、方法は、本明細書に記載される通り、マスチックガムの単離酸性画分を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、方法は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸の組み合わせを含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、方法は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸の組み合わせを含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、方法は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、マスチカジエノール酸、イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、オレアノン酸およびモロン酸から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸の組み合わせを含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。さらなる実施形態において、方法は、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸およびオレアノン酸から選択される少なくとも2種のトリテルペン酸の組み合わせを含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、方法は、マスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸からなるトリテルペン酸を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。さらなる例示的実施形態において、方法は、オレアノン酸、マスチカジエノン酸およびイソマスチカジエノン酸からなるトリテルペン酸を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。
【0220】
幾つかの実施形態において、組成物を投与するステップは、非経口経路を含む任意の許容できる経路を含んでよい。非経口投与としては、例えば静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、動脈内、子宮内、尿道内、心内、脳内、脳室内、腎内、肝内、腱内、骨内、眼内および髄腔内投与経路が挙げられる。各可能性は、別の実施形態である。
【0221】
幾つかの実施形態において、本明細書に開示される組成物は、対象の特徴(例えば、年齢、性別、処置される病状、病状の重症度など)に応じて、任意の適切な用量での任意の適切な投与レジメンで任意の適切な投与経路により投与されてよい。例えば投与は、週に1~7回実施されてよい。例えば投与は、1日1回より多く実施されてよい。例えば組成物は、一定の間隔にて週2回のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、2日ごとのスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、7日ごとに1回(週1回)のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、1日1回投与されてよい。
【0222】
幾つかの実施形態において、組成物は、一定の間隔にて週2回のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、2日ごとのスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、7日ごとに1回(週1回)のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、1日1回投与されてよい。
【0223】
幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、安定化された綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として投与されてよい。
【0224】
幾つかの実施形態において、組成物は、BHTで安定化された綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として、一定の間隔にて週2回のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として、一定の間隔にて週1回のスケジュールで(7日ごとに)投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として、一定の間隔にて1日1回のスケジュールで投与されてよい。
【0225】
幾つかの実施形態において、組成物は、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物の0.4ミリリットル(ML)の用量で投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、5%(w/w)配合物の0.2ミリリットル(ML)の用量で投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、5%(w/w)配合物の0.8ミリリットル(ML)の用量で投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として、0.4ミリリットル(ML)の用量で一定の間隔にて週2回のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として、0.2ミリリットル(ML)の用量で一定の間隔にて週2回のスケジュールで投与されてよい。幾つかの実施形態において、組成物は、綿実油中の、マスチックガムの単離酸性画分またはトリテルペン酸の組み合わせの5%(w/w)配合物として、0.8ミリリットル(ML)の用量で一定の間隔にて週2回のスケジュールで投与されてよい。
【0226】
先に示された投与経路、スケジュール、用量およびレジメンの多くの変化が予期および設計され得ることは、当業者に明白である。投与経路、スケジュール、用量およびレジメンにおけるそのような変化もまた本発明の範囲内であることが、理解されなければならない。
【0227】
幾つかの実施形態によれば、視神経症を処置するための本明細書に開示される方法は、例えば緑内障、外傷性神経症、虚血性神経症(例えば、NAIONおよびAIONなど)、緑内障、腫瘍により誘発された神経症、感染により誘発された神経症、ミトコンドリア性視神経症、栄養障害性視神経症、放射線視神経症、中毒性視神経症、糖尿病網膜症合併症、沈着性疾患により誘発された損傷、および同様のもの、またはそれらの組み合わせなどの、視神経への損傷による、または損傷に関連する病状に罹患した対象にとって特に有益である。
【0228】
幾つかの実施形態において、視神経症を処置するための本明細書に開示される使用および方法は、視神経におけるリポタンパク質性物質の沈着、リポフスチンの沈着など、沈着性疾患の結果としての視神経への損傷の結果である、または損傷に関連する病状に罹患した対象にとって特に有益である。
【0229】
幾つかの実施形態において、視神経症を処置するための本明細書に開示される使用および方法は、視神経におけるリポタンパク質性物質の沈着の結果である、または沈着に関連する病状に罹患した対象にとって特に有益である。
【0230】
幾つかの実施形態において、視神経症を処置するための本明細書に開示される使用および方法は、視神経におけるリポタンパク質性物質の沈着の結果としての視神経の損傷の結果である、または損傷に関連する病状に罹患した対象にとって特に有益であり、リポタンパク質性物質の沈着は、蓄積性疾患の結果である。
【0231】
幾つかの実施形態において、視神経症を処置するための本明細書に開示される使用および方法は、視神経におけるリポタンパク質性物質の沈着の結果としての視神経の損傷の結果である、また損傷に関連する病状に罹患した対象にとって特に有益であり、リポタンパク質性物質の沈着は、蓄積性疾患の結果であり、沈着したリポタンパク質性物質は、リポフスチンである。
【0232】
幾つかの実施形態において、視神経症を処置するための本明細書に開示される使用および方法は、視神経における無機物質の沈着の結果としての視神経の損傷の結果である、または損傷に関連する病状に罹患した対象にとって特に有益であり、無機物質の沈着は、蓄積性疾患の結果であり、視神経に沈着した無機物質は、カルシウムおよび/または鉄を含有する。
【0233】
幾つかの実施形態において、視神経症を処置するための本明細書に開示される使用および方法は、緑内障に罹患した対象にとって特に有益である。
【0234】
幾つかの実施形態において、本明細書に開示される処置の使用および方法は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物における適用に適する。
【0235】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、本明細書に記載される通り、マスチックガムの単離酸性画分を含む組成物を組み入れる製造品の使用を包含してよい。
【0236】
幾つかの実施形態において、医薬組成物は、製造品上のコーティングの形態であってよく、または製造品に一体化された容器内に含まれてよい。
【0237】
幾つかの実施形態において、医薬組成物は、治療を必要とする身体部位に組成物を送達する針、注射デバイスまたは噴霧ディスペンサーなどの送達デバイスに組み込まれてよい。
【0238】
幾つかの実施形態において、製造品は、針、マイクロニードル、注射デバイスおよび噴霧ディスペンサーを含むが、これらに限定されない。
【0239】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態をより完全に例示するために提示される。しかしそれらは、本発明の広い範囲を限定するものと解釈されてはならない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変更および改変を容易に案出できる。
【0240】
実施例
実施例1A:マスチックガムの単離酸性画分の調製
マスチックガム50グラム量に、無水エタノール(800ML)を添加し、この混合物を24時間放置した。混合物を150rpmで30分間振とうし、2時間放置した。得られたエタノール溶液を不溶性材料から3L丸底フラスコ中にデカンテーションした。不溶性材料に、新鮮なエタノール400MLを添加し、混合物を再度、150rpmで30分間振とうし、30分間放置した。得られたエタノール溶液をデカンテーションし、最初のエタノール溶液に添加した。このステップを、無水エタノール200MLを用いてもう一度繰り返した。これは、1.4Lのエタノール溶液を与えた。ロータリーエバポレータを用いてエタノールを蒸発させ、残留する材料にn-ヘキサン(1.2L)を添加し、混合物を150rpmで4時間振とうした。それをその後、4時間放置し、ヘキサン溶液を不溶性材料から3L三角フラスコ中にデカンテーションした。残留する不溶性材料に、新鮮なヘキサン800MLを添加し、混合物を150rmpで6時間振とうし、12時間放置した。ヘキサン溶液を、最初のヘキサン溶液1.2Lを含有する3L三角フラスコ中にデカンテーションした。ヘキサンを透明3L丸底フラスコで蒸発させて、抽出物約30グラムを与えた。(収率は、用いたマスチックガムの貯蔵期間(age)および粒子径に応じて典型的には50~70%の範囲である。)
【0241】
得られた抽出材料を次に、ジエチルエーテル(500ML)に溶解し、5%水性炭酸ナトリウム溶液で抽出し(4×100ML)、塩基性水層および油層/エマルジョン層を、ジエチルエーテル層から注意深く分離した。ジエチルエーテル層をその後さらに0.4N水性水酸化ナトリウム(3×100ML)で抽出し、塩基性水層および油層/エマルジョン層を再度、ジエチルエーテル層から注意深く分離した。2つの塩基性水性抽出物(油層/エマルジョン層を含む)を別々に、10%水性塩酸の緩徐な添加によりpH1~2に酸性化し、次に新鮮なジエチルエーテル(3×200ML)で抽出した。こうして得られたエーテル性画分をひとまとめにし、無水硫酸ナトリウムで脱水した。硫酸ナトリウムを濾別した後、ジエチルエーテルを、ロータリーエバポレータを用いて除去した。この手順は、およそ15グラムのマスチックガムの単離酸性画分を白色固体として与え、これはエタノール/ヘキサン抽出後に得られた中間体抽出物に基づき約50%の収率に対応する。この特定の単離された酸性画分を、本明細書では「酸性混合物1」または「酸性-1」と称する。
【0242】
出発時のマスチックガム50グラムに基づき、この酸性画分の収率は、約30%である。マスチックガムからのこの特定の酸性画分の典型的収率は、約25%~約35%の範囲である。任意の理論または機構に結びつけるのを望むものではないが、収率におけるこれらの変動は、マスチックガムの組成物中の自然な(例えば、季節的な)変動により生じる可能性があり、マスチックガムの貯蔵期間および貯蔵条件により影響を受ける場合もある。
【0243】
実施例1B
マスチックガムのさらなる単離酸性画分を、実施例1Aと同じ方法に従うがエタノールの代わりにメタノールを極性溶媒として用いて、調製した。ヘキサンを非極性溶媒として用い、ジエチルエーテルを酸-塩基抽出ステップのための溶媒として用いた。
【0244】
実施例1C
マスチックガムのさらなる単離酸性画分を、実施例1Aと同じ方法に従うがイソプロパノールを極性溶媒として用いて、調製した。ヘキサンを非極性溶媒として用い、ジエチルエーテルを酸-塩基抽出ステップのための溶媒として用いた。
【0245】
実施例1D
マスチックガムのさらなる単離酸性画分を、実施例1Aと同じ方法に従うがヘキサンの代わりにn-ヘプタンを非極性溶媒として用いて、調製した。エタノールを極性溶媒として用い、ジエチルエーテルを酸-塩基抽出のための溶媒として用いた。
【0246】
実施例1E
マスチックガムのさらなる単離酸性画分を、実施例1Aと同じ方法に従うがヘキサンの代わりにn-ヘプタンを非極性溶媒として用いて、調製した。メタノールを極性溶媒として用い、ジエチルエーテルを酸-塩基抽出のための溶媒として用いた。
【0247】
実施例1F
マスチックガムのさらなる単離酸性画分を、実施例1Aと同じ方法に従うがヘキサンを非極性溶媒として用いて、調製した。エタノールを極性溶媒として用い、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)を酸-塩基抽出のための溶媒として用いた。
【0248】
実施例1G イオン交換樹脂を用いるマスチックガムの単離酸性画分および中性画分
マスチックガム50グラム量に、無水エタノール(800ML)を添加し、混合物を24時間放置した。混合物を150rpmで30分間振とうし、2時間放置した。得られたエタノール溶液を不溶性材料から3L丸底フラスコ中にデカンテーションした。不溶性材料に、新鮮なエタノール400MLを添加し、混合物を再度、150rpmで30分間振とうし、30分間放置した。得られたエタノール溶液をデカンテーションし、最初のエタノール溶液に添加した。このステップを、無水エタノール200MLを用いてもう一度繰り返した。これは、1.4Lのエタノール溶液を与えた。ロータリーエバポレータを用いてエタノールを蒸発させ、残留する材料にn-ヘキサン(1.2L)を添加し、混合物を150rpmで4時間振とうした。それをその後、4時間放置し、ヘキサン溶液を不溶性材料から3L三角フラスコ中にデカンテーションした。残留する不溶性材料に、新鮮なヘキサン800MLを添加し、混合物を150rmpで6時間振とうし、12時間放置した。ヘキサン溶液を、最初のヘキサン溶液1.2Lを含有する3L三角フラスコ中にデカンテーションした。ヘキサンを透明3L丸底フラスコで蒸発させて、抽出物約30グラムを与えた。(収率は、用いたマスチックガムの貯蔵期間および粒子径に応じて典型的には50~70%の範囲である。)
【0249】
得られた抽出物をエタノール(0.5L)に溶解し、振とう機において強塩基性イオン交換樹脂(例えば、Dowex-1X8-400;Amberlite IRA 400;Diaion SA10A)100グラムで処理した。イオン交換樹脂を濾別し、TLCが何らかの著しいスポットを示さなくなるまで、メタノールで洗浄した。樹脂からカルボン酸を遊離させるために、樹脂をその後10%エタノール性酢酸溶液で処理した。エタノール性酢酸混合物を蒸発させて、単離カルボン酸画分を得た。典型的な収率は、出発抽出物のおよそ50%である(15グラム)。本明細書の先に記載されたマスチックガムから得られたこの特定の単離された酸性画分を、「酸性混合物3」または「酸性-3」と称する。
【0250】
比較として、WO2003/092712またはParachos et al, (2007), Antimacrobial Agents and Chemotherapy, 51(2), 551の教示に従って調製された酸性画分へのヘキサンの添加は、酸性画分の実質的量がヘキサンに不溶であることを示した。
【0251】
実施例2.綿実油中の異なる配合物の調製
実施例2A:USP/NF等級綿実油中のマスチックガムの単離酸性画分の5%(w/w)組成物
実施例1A(「酸性-1」)からの1グラムの単離酸性画分に、綿実油(USP/NF)19グラムを添加し、混合物を、透明かつ均質な組成物が得られるまで150rpmで振とうした(約2時間)。
【0252】
同様の方法で、綿実油配合物を、実施例1B~1Fから得られた単離酸性画分から調製できる。
【0253】
2B:個々のトリテルペン酸から調製される綿実油
一般的手順:所望の量のトリテルペン酸を丸底フラスコ中で計量し、混合物を適切な溶媒に溶解する。適切な溶媒の非限定的例は、ジエチルエーテル、ジクロロメタンおよびエタノールである。この溶液に、所望の量の綿実油を添加する。溶媒を、得られた混合物から蒸発させ、トリテルペン酸の綿実油配合物を提供する。
【0254】
具体的例として、MDAおよびIMDAのそれぞれ200mgを、100ML丸底フラスコ中で30MLジエチルエーテルに溶解する。この透明溶液に、綿実油19.6グラムを添加し、混合物を均質化のために数分間撹拌する。ロータリーエバポレータを用いて、ジエチルエーテルを混合物から除去し、綿実油中のMDAおよびIMDAのそれぞれ1%(w/w)の配合物 20グラムを提供する。さらなる微量のジエチルエーテルを、配合物の高真空処理を介して除去してもよい。
【0255】
この一般的手順を利用して、表1に示される配合物(組成物)を調製した。
【表1】
【0256】
この手順が綿実油中のトリテルペン酸のさらなる配合物を作製するのに用いられ得ることは、当業者に明白である。加えて、綿実油の代わりに他の適切な油および疎水性担体をこの手順に用いて、トリテルペン酸の対応する配合物を調製し得ることもまた、当業者に明白である。
【0257】
実施例3A.マスチックガムの単離酸性画分の単離および化学的特徴づけ
ピスタキア・レンチスカス L.のマスチック樹脂を、実施例1A~1Fに記載された方法のいずれかに従って抽出して画分を得て、これを、主成分を同定するために逆相HPLCにより分析した。HPLC分析は、分析標準との比較に基づき、単離画分中のモロン酸およびオレアノン酸の単離画分の存在と一致する。
【0258】
単離酸性画分のさらなる主成分の構造を単離および決定するために、分取HPLC法を展開した。この方法を利用して、単離酸性画分の6種の主成分(例えば、実施例1Aにより得られた「酸性-1」)を次に、分取HPLCにより単離した。分取HPLC法は、30×250mm分取カラム(ACE-121-2530)で展開した。単離画分の試料(約75mg/ラン)を、5MLループを利用して注入した。
【0259】
同定された化合物は、モロン酸、オレアノン酸、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、3-O-アセチル-マスチカジエノール酸、3-O-アセチル-イソマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピマスチカジエノール酸、3-O-アセチル-エピ-イソマスチカジエノール酸、マスチカジエノール酸およびイソマスチカジエノール酸などの化合物を含む。
【0260】
さらなる単離の労作により、複数の追加的な微量成分(単離画分の5%未満)が得られ、それらの存在は、マスチックガムの異なるバッチからの単離酸性画分調製物中で様々であった。以下の微量成分化合物は、単離酸性画分中に存在する場合、またはしない場合がある:
- MLA: 3-ベータ-マスチカジエノール酸
- IMLA: 3-ベータ-イソマスチカジエノール酸
- エピマスチカジエノール酸(3-アルファ-マスチカジエノール酸)
- エピ-イソマスチカジエノール酸(3-アルファ-イソマスチカジエノール酸)
- ジヒドロマスチカジエノン酸
- ジヒドロイソマスチカジエノン酸
【0261】
実施例3B マスチックガムの単離酸性画分中で見出されたいくつかのトリテルペン酸の合成
オレアノン酸(OA)
オレアノン酸を、市販のオレアノール酸から3つのステップで得た。
【化13】

オレアノン酸を最初に、ジメチルホルムアミド(DMF)中のヨウ化メチルおよび炭酸カリウムでの処理により対応するメチルエステルに変換した。オレアノール酸メチルエステルからオレアノン酸メチルエステルへの酸化を、ジクロロメタン(DCM)中のデス・マーチンペルヨージナン試薬を用いて実施した。水性THF中の水酸化リチウムによるオレアノン酸メチルエステルの加水分解は、酸性化により所望のオレアノン酸を与えた。
【0262】
マスチカジエノール酸(MLA)
マスチカジエノン酸(500mg)をメタノール(30ML)に溶解し、0℃に冷却した。NaBH(83mg;2.0当量)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。TLC(ヘキサン:酢酸エチル)が完全な変換を示した後、反応混合物を0℃に冷却し、20ML低温水の添加によりクエンチした。メタノールを混合物から蒸発させ、混合物をその後、ジエチルエーテルで抽出した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(DCM:MeOH=95:5から90:10)により精製して、MLAを白色固体として与えた(400mg;80%)。
【0263】
イソマスチカジエノール酸(IMLA)
イソマスチカジエノン酸(500mg)をメタノール(30ML)に溶解し、0℃に冷却した。NaBH(83mg;2.0当量)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。TLC(ヘキサン:酢酸エチル)が完全な変換を示した後、反応混合物を0℃に冷却し、20ML低温水の添加によりクエンチした。メタノールを混合物から蒸発させ、混合物をその後、ジエチルエーテルで抽出した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(DCM:MeOH=95:5から90:10)により精製して、IMLAを白色固体として与えた(420mg;82%)。
【0264】
3-OAc-MLA
MLA(400mg)を無水ピリジン(5ML)に溶解し、無水酢酸(160mg;3.55当量)を一度に添加した。混合物を室温で一晩撹拌し、TLC(ヘキサン/酢酸エチル)でモニタリングした。反応混合物を酢酸エチル(15ML)および1M水性HCl(20ML)で希釈し、混合物を1時間、力強く撹拌した。層を分離し、有機層をMgSOで脱水し、蒸発させた。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:1から9:1)により精製して、3-OAc-MLAを白色固体として与えた(220mg;55%)。
【0265】
3-OAc-IMLA
IMLA(400mg)を無水ピリジン(5ML)に溶解し、無水酢酸(160mg;3.55当量)を一度に添加した。混合物を室温で一晩撹拌し、TLC(ヘキサン/酢酸エチル)でモニタリングした。反応混合物を酢酸エチル(15ML)および1M水性HCl(20ML)で希釈し、混合物を1時間、力強く撹拌した。層を分離し、有機層をMgSOで脱水し、蒸発させた。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:1から9:1)により精製して、3-OAc-IMLAを白色固体として与えた(190mg;47%)。
【0266】
3-OAc-エピ-MLA
MLA(400mg)を無水ピリジン(5ML)に溶解し、無水酢酸(160mg;3.55当量)を一度に添加した後、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP;20mg)を添加した。混合物を室温で一晩撹拌し、TLC(ヘキサン/酢酸エチル)でモニタリングした。反応混合物を酢酸エチル(15ML)および1M水性HCl(20ML)で希釈し、混合物を1時間、力強く撹拌した。層を分離し、有機層をMgSOで脱水し、蒸発させた。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:1から9:1)により精製して、3-OAc-MLAと3-OAc-エピ-MLAの混合物を白色固体として与えた(330mg;%)。異性体を、分取HPLCを利用して分離して、3-OAc-エピ-MLA(120mg)を白色固体として提供した。
【0267】
3-OAc-エピ―IMLA
IMLA(400mg)を無水ピリジン(5ML)に溶解し、無水酢酸(160mg;3.55当量)を一度に添加した後、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP;20mg)を添加した。混合物を室温で一晩撹拌し、TLC(ヘキサン/酢酸エチル)でモニタリングした。反応混合物を酢酸エチル(15ML)および1M水性HCl(20ML)で希釈し、混合物を1時間、力強く撹拌した。層を分離し、有機層をMgSOで脱水し、蒸発させた。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:1から9:1)により精製して、3-OAc-IMLAと3-OAc-エピ-IMLAの混合物を白色固体として与えた(310mg;%)。異性体を、分取HPLCを利用して分離して、3-OAc-エピ-IMLA(110mg)を白色固体として提供した。
【0268】
エピ-MLAおよびエピ-IMLAを、水性THF中のLiOHでの対応する酢酸エステルの加水分解により調製した。標準の仕上げにより、化合物を白色固体として各収率45%および53%で提供した。
【0269】
ジヒドロマスチカジエノン酸およびジヒドロイソマスチカジエノン酸は、D.Barton, E.Seoane.J.Chem.Soc.1956, 4150およびE.Seoane 同書、4158に従い調製できる。
【0270】
実施例4-視神経軸索切断による網膜神経節細胞(RGC)に及ぼす本発明の単離酸性画分および/または単離酸性画分組成物の特定のトリテルペニス化合物の使用の影響
視神経の軸索切断を、深麻酔されたラット(19匹/群)の右目で実施する。試験群は、様々な試験組成物(0.025ml/注射)の後頸部領域での皮下注射を受け、対照群は、同容量のビヒクルを同様に注射される。最初の注射を、手術の直後に動物全てに施す。次の注射(同じ投与量および投与方法)を、3~4日ごとに週2回投与する。
【0271】
軸索切断後14日目に、生存する網膜神経節細胞(RGC)を染色するために、逆行性蛍光ニューロトレーサー(Di-Asp)を軸索切断された視神経中に挿入し、24時間後に、ラットをCO飽和チャンバーで殺処分し、傷害された右目を摘出する。網膜を単離し、スライド上に広げ、キシレンを基剤とする封入剤で固定する。
【0272】
ホールマウント網膜を、蛍光顕微鏡で評価する。染色された細胞を、手作業でカウントする。
【0273】
用いられる組成物:
- マスチックガムの単離酸性画分(例えば、実施例1Aの「酸性-1」および実施例2Aに従って調製される対応する綿実油配合物)、
- 実施例2Bに従って調製される以下の化合物および組み合わせをテストする:
OA: オレアノン酸
MDA:マスチカジエノン酸
IMDA:イソマスチカジエノン酸
以下の配合物を注射に用いた:
- ビヒクル:綿実油
- IMDA:綿実油中の1%%(w/w)
- MDA:綿実油中の1%%(w/w)
- IMDAおよびMDA:それぞれ綿実油中の1%%(w/w)
- IMDA、MDAおよびOA:それぞれ綿実油中の1%%(w/w)
【0274】
実施例5 - 網膜剥離(RD)モデル - 本発明の単離酸性画分および/または単離酸性画分組成物の特定のトリテルペニス化合物の使用の影響
深麻酔された動物(キシラジン50mg/kgおよびケタミン35mg/kg)の右目で、0.5%トロピカミド点眼薬での瞳孔散大の後、網膜剥離(RD)を実施する。鋸状縁で網膜中に小さな穴を作製し、続いて30G注射針で生理食塩水5μlを網膜下注射することにより、RDを誘導する。網膜領域のおよそ半分が、この手順により剥離される。
【0275】
RDのラットを6の実験群に分別し、5の試験群が実施例4に開示された医薬組成物の後頸部領域への皮下注射を受け、注射対照群は、同容量のビヒクルを投与される。最初の注射は、手術の直後に動物全てに施される。2回目の注射(同じ投与量および投与方法)は、手術後48時間目に投与される。
【0276】
RD後3日目および14日目に、手術されたラットを、CO飽和チャンバー中で安楽死させる。注射された右目および未処置の左目を、摘出する。網膜を単離し、ドライアイスで凍結させ、ウエスタンブロット分析用または免疫組織化学分析用に処理する。左目の網膜は、非手術対照となる。
【0277】
セマフォリン3A(Sema3A)、ニュートロフィリン1(NP1)およびGAP43の発現レベルを計測する。カスパーゼ3をアポトーシスマーカーとして用い、ミュラー細胞およびミクログリア細胞における形態学的変化を検査する。
【0278】
ミュラー細胞の形態学的変化を、グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)の染色により試験する。GFAPは、網膜中のミュラー細胞を標識し、ストレス指示薬(stress indicator)として一般に用いられる。ミクログリア浸潤および活性化は、ニューロンに有害または有益と見なされる。急性CNS傷害後のミクログリア活性化は、主として反応性かつ適応性のグリア細胞応答であり、それは傷害されたニューロンにより惹起され、原発組織損傷を好転させ、結果的に次の修復およびグリオーシス(グリア性瘢痕)を促進するように設計される。ミクログリアは通常、傷害後に網膜中で活性化されるようになり、内皮細胞および線維芽細胞を刺激および動員する。IB4で標識され核色素PIで染色される剥離網膜および非傷害網膜の切片の免疫組織化学分析を利用して、網膜中の活性化ミクログリア細胞の何らかの兆候を同定する。
【0279】
実施例6:NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)のげっ歯類モデルであるrAION - 本発明の単離酸性画分および/または単離酸性画分組成物の特定のトリテルペニス化合物の使用の影響
NAIONによる影響を受けた視神経虚血は、ミエリンおよび軸索の損傷を生じる。NAIONのげっ歯類モデル(rAION)において、スポットサイズ500ミクロン、出力50mWおよび1秒パルスでの532nmのnd-YAGレーザを使用して、視神経虚血(麻酔されたラット)をレーザ誘導する。これは、直接的な熱損傷を誘発せずに、視神経虚血を生じる。この誘導は、数日後に梗塞後脱髄(postinfarct demyelation)および希突起膠細胞死を生じる。脱髄は、軸索再生を阻害し得る可溶性因子の放出をもたらす。これらの因子としては、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)およびNOGO66が挙げられる。これらの因子は、軸索の膜タンパク質複合体(LINGO-1)を活性化し、順次LINGO-1は、リン酸化により軸索キナーゼRAS相同体A(RhoA)を活性化する。活性化されたRhoAは、細胞骨格重合を阻害し、それは軸索成長円錐の崩壊をもたらす。
【0280】
動物を、10~12匹/群で複数の群に分別する。
【0281】
誘導後3日目に、異なる本発明の組成物およびプラセボ対照(実施例4で詳述)での動物群の処置を開始する。50マイクロリットルの皮下注射での週2回のレジメンを適用する。処置を28日間または56日間、誘起する。
【0282】
軸索再生の改善を、GAP43免疫染色により検出する。異なる軸索線維サイズのミエリン形成(myelation)プロファイルを検出するために、視神経の超微細構造を処置後に評価する。処置群とプラセボ群の結果を、比較する。
【0283】
実施例7 - インビトロ緑内障モデル - 様々な組成物の影響
初代急性分離網膜細胞培養物を、成体ウィスターラットから調製する。RGC生存に及ぼす試験組成物(組み合わせ)の神経保護的影響を、栄養因子中止前の前処置により計測する。細胞生存力を、二重標識免疫細胞化学測定により評定する。
【0284】
成体ウィスターラットを安楽死させ、網膜を切除すること、および2mg/mLパパイン、0.4mg/mL dl-システインおよび0.4mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)を補充したNeurobasal培地を含有する消化緩衝液中でインキュベート(37℃、30分間)することにより、網膜細胞懸濁液を調製する。
【0285】
単一細胞の懸濁液を得るために、網膜を処理する。網膜細胞をポリ-d-リシンおよびラミニンでコーティングされた8ウェル培養スライドの上に、0.5mL/ウェル RGC培地でおよそ1×10細胞/ウェルの密度で播種し、37℃の95%空気および5%CO中で3日間培養する。
【0286】
細胞を、分離直後に試験組成物またはビヒクル(対照)のいずれかで処置し、先の通りであるがBDNF、CNTF、およびbFGFを含まないRGC培地(TFW RGC培地)に暴露する。
【表2】
【0287】
3日目に、網膜細胞の培養物を、二重標識免疫細胞化学検査に供する。培養物を、Thy-1およびニューロフィラメント-1 68kDaに対する一次抗体と免疫反応させる。細胞をDAPIで同時標識して、核を視覚化する。
【0288】
健常なRGCを、Thy-1およびニューロフィラメント-1 68kDaの両方に関する二重陽性免疫反応性および以下の4つの形態学的基準に基づいて同定する:連続膜の存在;空胞化の兆候なし;核周部膨張の兆候なし;および核濃縮または断片化の兆候なし。細胞を、手動でカウントする。
【0289】
実施例8 - 様々な本発明の組成物を用いる緑内障の処置
様々な組成物を、ラットでの緑内障処置におけるそれらの有効性についてテストする。緑内障の症状をN-メチル-d-アスパルタート(NMDA)、アルファ-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)もしくはカイニン酸などの興奮毒性剤の眼内(硝子体内)注射により、または光凝固などの他の手段により、例えばレーザ光線の照射により、ラットで誘導する。これらの薬剤は、緑内障と類似の眼内の変性状態を誘導する。興奮毒性剤により誘発された変性症状を本発明の組成物が好転および/または逆行させ得る度合いが、緑内障処置におけるそれらの効果の尺度である。
【0290】
ヒトのおよび実験的な緑内障における網膜神経節細胞(RGC)の変性は、網膜ミクログリア細胞に関わる神経炎症過程と、炎症媒介物質の産生増加とを伴う。加えて、網膜ミクログリア細胞の早期の活性化亢進が、変性過程に寄与することが提示されており、ミクログリアの反応性の制御が緑内障性のRGC損失を予防し得ることを示唆する。ブタ、イヌ、サルおよびげっ歯類を含む非常に種々の緑内障動物モデルがあり、これらのモデルのほとんどが、高眼圧が介在する視神経損傷を含む。緑内障を試験するために利用可能な他の樹立されたモデルは、遺伝子変異によりRGCに誘導される細胞死、視神経への機械的外傷、網膜ニューロンへの有毒な損傷、または網膜虚血の誘導に依存する。
【0291】
この試験では、試験組成物の神経保護および神経再生効果を評価するために、ラットのレーザ光凝固(GL)モデルを用いる。
【0292】
試験計画:
手短に述べると、高IOPを、0日目および7日目に上強膜静脈のレーザ光凝固により片側に誘導する。反対側の目が、対照となる。組成物を、IOPが16mmHg以上の動物でのみ、1日目から開始して週2回、皮下に(s.c.)送達する。IOPを、レーザ照射の翌日(試験1日目)、4日目、7日目およびその後に週1回、モニタリングする。網膜神経節細胞(RGC)の機能を、ベースライン時、14日目および28日目にパターン網膜電図(pERG)を用いてインビボで評価する。28日目での測定は、任意選択による2~4週間の追跡調査期間の経過的決定とし、その終了時に、さらなるpERG測定を実施する。網膜および視神経を採取し、網膜神経節細胞カウントおよび視神経軸索カウントのために処理する。加えて、網膜組織の免疫組織化学的評価を、炎症マーカーについて実施する。
【0293】
以下の処置群(各群でn=12のラット)を用いる:
群1:ナイーブラット(n=12);(ナイーブ)
群2:ビヒクル処置GLモデル(n=12);(ビヒクル)
群3:試験配合物1処置のGLモデル(n=12);実施例2Bに記載された通り調製された組成物D(MDA(1%(w/w)+IMDA(1%(w/w))
群4:試験配合物2処置のGLモデル(n=12);組成物E(実施例2Aに記載された通り調製された綿実油中の2.5%(w/w)配合物としての実施例1Aの酸性混合物1(「酸性-1」))
【0294】
材料と方法
ラット緑内障モデル
実験的なIOP上昇を、過去に記載された通り上強膜静脈のレーザ光凝固により片側に導入した(Kalesnykas et al., 2007, Neuroscience 150: 692-704)。反対側の目が、対照となる。5~7ヶ月齢ロングエバンスラットを用いる。眼圧(IOP)を、ベースライン時、レーザ照射後1日目(1日目)、4日目、7日目および残りの追跡調査期間に週1回、モニタリングした。1日目の評定でIOPが16mmHg以上のラットのみを、試験群に組み入れる。
【0295】
投与
試験組成物を、1日目に開始して週2回、皮下(s.c.)投与する。
【0296】
pERG測定
記録は、Celerisシステム(Diagnosys LLC)を用いて実施した。オキシブプロカイン点眼薬(Oftanucain(登録商標)、Santen、フィンランド)1滴を、局所麻酔のために角膜に適用した。動物を制御された加熱パッドの上に載せ、体温をおよそ37℃で維持した。
【0297】
動物殺処分および組織採取
試験終了時に、ラットを、最初に0.9%NaCl溶液で、その後の0.1Mリン酸緩衝溶液(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒドでの経心腔的灌流により殺処分した。眼球および視神経(各群からn=4匹のラット、無作為に採取)を採取して、凍結切片のために最適切断温度化合物(OCT)に包埋し/網膜ホールマウント(各群からn=8匹のラット)を、RGCの総数のさらなる推定のために調製した。
【0298】
視神経の形態学的評定
視神経(ラット8匹/処置群から)を4%PFA(0.1Mリン酸緩衝液、pH7.4)溶液で後固定した後、それらを1%オスミウムに入れ、上昇濃度のアルコールで脱水し、100%エタノール中の1%酢酸ウラニルの中に1時間入れた(Cone et al., 2012 .Exp Eye Res.Jun;99:27-35.; Ragauskas et al., 2014, PLoS One.3;9(12))。その後、視神経を60℃のエポキシ樹脂混合物中で48時間包埋し、視神経の準超薄切片(1μm厚)を、視神経損傷部位にわたり連続的に切り出した。視神経損傷/軸索数を、光学顕微鏡の下で推定した。
【0299】
結果:
RGCの機能性を反映するpERG測定(記録)を、追跡調査14日目および28日目に実施した。結果は以下の表3および図1に示される棒グラフで表され、指示された組み合わせでの処置がビヒクル処置群に比較して、両方の追跡調査日に平均振幅の増加を示すことを実証する。
【表3】
【0300】
Brn3-a陽性RGCの総数の分析(ナイーブラットに対して)。試験組成物の影響を明らかにした。例えば試験組成物で処置されたラットは、ビヒクル処置群に比較して高いRGCカウントを有した(図2)。より多数のBrn3-a陽性細胞は、より少ない細胞損失を示し、細胞損失は、レーザ光凝集により惹起される。これらの結果は、pERG測定結果と一致し、RGC生存率に及ぼす試験組成物の神経保護効果を裏づける。
【0301】
次に、試験ラットの試料中の視神経軸索を、光学顕微鏡下でカウントして、視神経の損傷を推定した。結果を図3に表す。示される通り、試験組成物DおよびEの投与は、レーザ光凝固により惹起される変性から軸索を防御する傾向がある。
【0302】
試験組成物の防御効果を実証するさらなる裏づけの結果を、視神経の準超薄切片の代表的画像を示す図4に認めることができる。結果は、処置群とビヒクル処置群の間の変性過程の差異を明らかに示す(図4)。
【0303】
結論:本明細書に表された試験は、緑内障を処置する際の試験組成物の神経保護および神経変性作用を実証する。
【0304】
前述の具体的実施形態の記載は、他者が現在の知識を適用することにより、過度の実験および全般的概念からの逸脱を行うことなく、様々な適用例のためにそのような具体的実施形態を即座に改変および/または適合させ得るという本発明の一般的性質を極めて完全に示しており、それゆえそのような適合および改変は、開示された実施形態の均等物の意味および範囲内であると理解されなければならず、それを意図している。本明細書で用いられる表現法または用語法が、記述を目的とし、限定を目的としないことが、理解されなければならない。様々な開示された機能を実施するための手段、材料、およびステップは、本発明を逸脱することなく種々の代替的形態をとることができる。
図1
図2
図3
図4