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特許7074481車両空調制御装置、車両の空調制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】車両空調制御装置、車両の空調制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20220517BHJP
   B61D 27/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
B60H1/00 101Z
B61D27/00 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018005024
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019123364
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小熊 信
(72)【発明者】
【氏名】富川 英朝
(72)【発明者】
【氏名】村井 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】横川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 剛史
(72)【発明者】
【氏名】小泉 善裕
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133707(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112320(WO,A1)
【文献】特開2016-080308(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00
B61D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内部の温度に関連し快適性を示す快適性指標、及び、前記車両に設けられた空調機の消費電力に関連する省エネルギー指標に基づいて、前記空調機を制御するための制御運転パターンを選定する選定部と、
前記制御運転パターンに基づいて制御指令値を作成して前記空調機に出力する制御部と、
を備え
前記選定部は、前記空調機の空調能力レベルを最強レベルから徐々に弱めて前記快適性指標から設定された目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、または、前記空調能力レベルを最弱レベルから徐々に強めて前記快適性指標から設定された前記目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、
車両空調制御装置。
【請求項2】
前記選定部は、さらに複数の前記空調機の空調能力レベルを全て同じレベルに設定した運転パターンのうち、前記快適性指標から設定された目標値に最も近い暫定の前記運転パターンに基づいて、前記制御運転パターンを選定する、
請求項1に記載の車両空調制御装置。
【請求項3】
車両の内部の温度に関連し快適性を示す快適性指標、及び、前記車両に設けられた空調機の消費電力に関連する省エネルギー指標に基づいて、前記空調機を制御するための制御運転パターンを選定する選定部と、
前記制御運転パターンに基づいて制御指令値を作成して前記空調機に出力する制御部と、
を備え
前記選定部は、複数の前記空調機の空調能力レベルを全て同じレベルに設定した運転パターンのうち、前記快適性指標から設定された目標値に最も近い暫定の前記運転パターンに基づいて、前記制御運転パターンを選定する、
車両空調制御装置。
【請求項4】
前記消費電力または前記車両の内部の状況である車両状況に基づいて、前記空調機の前記消費電力の低減を優先させる省エネルギー優先モードまたは前記快適性指標を優先させる快適性優先モードのいずれかを前記空調機に設定する設定モードとして判定する判定部を更に備える
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両空調制御装置。
【請求項5】
前記選定部は、第1時間ごとに前記制御運転パターンを選定し、
前記制御部は、前記第1時間よりも短い第2時間ごとに前記制御指令値を作成して出力する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両空調制御装置。
【請求項6】
前記選定部は、複数の運転パターンのそれぞれに対して算出した前記快適性指標及び前記省エネルギー指標に基づいて、前記複数の運転パターンから前記制御運転パターンを選定する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両空調制御装置。
【請求項7】
前記選定部は、複数の運転パターンのそれぞれに対して算出した前記快適性指標及び前記省エネルギー指標が前記空調機に設定されたモードに対応付けて設定されたモード条件を満たす前記運転パターンを前記制御運転パターンとして選定する
請求項6に記載の車両空調制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記制御運転パターンから予測される温度と計測された温度とに基づいて前記制御運転パターンを補正する
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両空調制御装置。
【請求項9】
車両の内部の温度に関連し快適性を示す快適性指標、及び、前記車両に設けられた空調機の消費電力に関連する省エネルギー指標に基づいて、前記空調機の制御運転パターンを選定し、
前記制御運転パターンに基づいて制御指令値を作成して前記空調機に出力する、に際し、
前記空調機の制御運転パターンの選定において、前記空調機の空調能力レベルを最強レベルから徐々に弱めて前記快適性指標から設定された目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、または、前記空調能力レベルを最弱レベルから徐々に強めて前記快適性指標から設定された前記目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、
あるいは、複数の前記空調機の空調能力レベルを全て同じレベルに設定した運転パターンのうち、前記快適性指標から設定された目標値に最も近い暫定の前記運転パターンに基づいて、前記制御運転パターンを選定する、
車両の空調制御方法。
【請求項10】
車両の内部の温度に関連し快適性を示す快適性指標、及び、前記車両に設けられた空調機の消費電力に関連する省エネルギー指標に基づいて、前記空調機の制御運転パターンを選定する選定部と、
前記制御運転パターンに基づいて制御指令値を作成して前記空調機に出力する制御部と、してコンピュータを機能させ、
前記選定部は、前記空調機の空調能力レベルを最強レベルから徐々に弱めて前記快適性指標から設定された目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、または、前記空調能力レベルを最弱レベルから徐々に強めて前記快適性指標から設定された前記目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、あるいは、
前記選定部は、複数の前記空調機の空調能力レベルを全て同じレベルに設定した運転パターンのうち、前記快適性指標から設定された目標値に最も近い暫定の前記運転パターンに基づいて、前記制御運転パターンを選定する、ように、
前記コンピュータを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、車両空調制御装置、車両の空調制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電車等の車両の空調機を制御する制御装置が知られている。このような制御装置は、例えば、予め設定された温度に基づいて、空調機を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3842688号公報
【文献】特開2014-205405号公報
【文献】特許第6151090号公報
【文献】特開平1-214201号公報
【文献】特許第5840309号公報
【文献】特許第5721775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の制御装置は、温度等の一の要求に対しては空調機を適切に制御できたとしても、温度等を含む複数の要求に対して空調機を適切に制御できていないといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、実施形態の車両空調制御装置は、選定部と、制御部と、を備える。選定部は、車両の内部の温度に関連し快適性を示す快適性指標、及び、前記車両に設けられた空調機の消費電力に関連する省エネルギー指標に基づいて、前記空調機を制御するための制御運転パターンを選定する。制御部は、前記制御運転パターンに基づいて制御指令値を作成して前記空調機に出力する。
上記構成において、前記選定部は、前記空調機の空調能力レベルを最強レベルから徐々に弱めて前記快適性指標から設定された目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、または、前記空調能力レベルを最弱レベルから徐々に強めて前記快適性指標から設定された前記目標値に近づけて前記制御運転パターンを選定する、あるいは、前記選定部は、複数の前記空調機の空調能力レベルを全て同じレベルに設定した運転パターンのうち、前記快適性指標から設定された目標値に最も近い暫定の前記運転パターンに基づいて、前記制御運転パターンを選定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態の車両空調制御装置が搭載された車両の構成を示す全体図である。
図2図2は、第1実施形態の車両空調制御システムを説明するブロック図である。
図3図3は、選定部が選定する運転パターンと温度の関係について説明するグラフである。
図4図4は、運転パターンにおける快適性指標と省エネ指標との関係をプロットしたグラフである。
図5図5は、処理部が実行する第1実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。
図6図6は、判定部が実行する指標領域設定処理のフローチャートである。
図7図7は、処理部が実行する第1実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンに基づいて空調機を制御する制御処理のフローチャートである。
図8図8は、制御部が補正する運転パターンについて説明するグラフである。
図9図9は、第2実施形態の制御処理のフローチャートである。
図10図10は、選定部が選定する運転パターンについて説明するグラフである。
図11図11は、選定部が選定する運転パターンについて説明するグラフである。
図12図12は、選定部が選定する運転パターンについて説明するグラフである。
図13図13は、選定部が選定する運転パターンについて説明するグラフである。
図14図14は、処理部が実行する第3実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。
図15図15は、選定部が選定する運転パターンについて説明するグラフである。
図16図16は、処理部が実行する第4実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。
図17図17は、処理部が実行する第4実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。
図18図18は、処理部が実行するモード判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の例示的な実施形態や変形例には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素には共通の符号が付されるとともに、重複する説明が部分的に省略される。実施形態や変形例に含まれる部分は、他の実施形態や変形例の対応する部分と置き換えて構成されることができる。また、実施形態や変形例に含まれる部分の構成や位置等は、特に言及しない限りは、他の実施形態や変形例と同様である。
【0008】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の車両空調制御装置26が搭載された車両10の構成を示す全体図である。車両10は、例えば、電気によって駆動するモータを有する電車、及び、ディーゼルエンジンを有する汽車及び客車等を含む予め設定されたレール上を走行する鉄道車両である。図1に示すように、車両10は、車体12と、複数の車輪14と、車両空調制御システム18とを備える。
【0009】
車体12は、中空の直方体形状であって、内部に客室等の車室が形成されている。車体12は、車室内に乗客等を収容する。
【0010】
複数の車輪14は、車体12の下部に設けられている。車輪14は、車体12を支持するとともに、モータ等の駆動源から伝達された駆動力または他の車両10の牽引によって回転して、車体12をレールに沿って移動させる。
【0011】
車両空調制御システム18は、車両10の内部の気温等を調整する。車両空調制御システム18は、空調機20と、車両情報制御装置21と、温度検出部22と、湿度検出部23と、応荷重検出部24と、車両空調制御装置26とを備える。
【0012】
空調機20は、車両16に設けられ、例えば、熱交換機、送風ファン、コンプレッサ及び冷媒を含む室外機及び室内機等の空調装置(いわゆる、エアコンディショナー)である。尚、空調機20は、ヒータ等の暖房機器であってもよい。空調機20は、車両空調制御装置26と情報を送受信可能に接続されている。空調機20は、車両空調制御装置26が出力した制御指令値が示す空調能力レベルとなるように、送風ファンまたはコンプレッサ等を制御する。空調能力レベルは、空調機20の空調の強弱を示すレベルであって、例えば、5段階のレベルで示される。これにより、空調機20は、暖気または冷気を車室内に供給して、車両10の内部の温度である車内温度を調整する。空調機20は、設定温度及びオンまたはオフを示す運転状態等の空調機20の設定に関する情報を含む設定情報を車両空調制御装置26へ出力する。
【0013】
車両情報制御装置21は、いわゆる、Train Control & Monitoring Systemである。車両情報制御装置21は、車両10に搭載の各機器の運転状況のモニタリング、及び、運転員を含む乗務員等からの各機器の制御指令を取得するインターフェースとなる機能を備える。車両情報制御装置21は、上記空調機20に対する乗務員等によって設定される目標温度、及び、空調機20に設定されるモードである設定モードに関する入力情報を取得して、車両情報制御装置21に出力してよい。また、車両情報制御装置21は、乗務員等から日々の運行ダイヤに基づく各駅間の走行時分や各駅での停車時間等の運行情報と、空調機20の実績の消費電力量とを取得して、車両情報制御装置21に出力してもよい。
【0014】
温度検出部22は、例えば、温度を検出する温度センサである。温度検出部22は、車室内に設けられている。尚、温度検出部22は、空調機20に設けられていてもよい。温度検出部22は、車両10の内部の温度である車内温度を検出して、車内温度を示す温度情報を車両空調制御装置26へ出力する。
【0015】
湿度検出部23は、例えば、湿度を検出する湿度センサである。湿度検出部23は、車室内に設けられている。尚、湿度検出部23は、空調機20に設けられていてもよい。湿度検出部23は、車両10の内部の湿度である車内湿度を検出して、車内湿度を示す湿度情報を車両空調制御装置26へ出力する。
【0016】
応荷重検出部24は、例えば、荷重を検出する荷重センサである。応荷重検出部24は、車体12の下部に設けられている。応荷重検出部24は、車体12の内部の乗員を含む車室の重量である車室重量を検出して、車室重量を示す重量情報を車両空調制御装置26へ出力する。
【0017】
車両空調制御装置26は、例えば、空調機20、車両情報制御装置21、温度検出部22、湿度検出部23及び応荷重検出部24と電気信号及び情報等を有線または無線通信によって送受信可能に電気的に接続されたコンピュータである。車両空調制御装置26は、車内の快適性及び空調機20の消費電力等に基づいて空調機20を制御する。
【0018】
図2は、第1実施形態の車両空調制御システム18を説明するブロック図である。車両空調制御装置26は、空調機20の設定温度、車内温度、車内湿度及び、車室重量に応じて、未来の車内温度及び車内湿度を計算して予測する温度及び湿度の予測モデル46を作成する。車両空調制御装置26は、当該温度及び湿度の予測モデル46に基づいて予測した車内温度及び車内湿度等から算出した快適性及び空調機20の消費電力に基づいて、空調機20を制御するための制御指令値を作成して、空調機20を制御する。図2に示すように、車両空調制御装置26は、処理部30と、記憶部32とを有する。
【0019】
処理部30は、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサである。処理部30は、プログラムを読み込むことによって、種々の演算処理を実行する。処理部30は、取得部34と、作成部36と、判定部37と、選定部38と、制御部40とを有する。処理部30は、例えば、記憶部32に記憶された空調制御プログラム42を読み込むことによって、取得部34、作成部36、判定部37、選定部38及び制御部40の機能を得る。尚、取得部34、作成部36、判定部37、選定部38及び制御部40は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の回路を含むハードウェアによって構成してもよい。
【0020】
取得部34は、空調機20を制御するための情報を取得する。取得部34は、空調機20を制御するための制御指令値を作成する周期(以下、制御指令周期)と同じ周期で、当該情報を取得してよい。例えば、取得部34は、既に設定されている設定温度等に関する設定情報を空調機20または車両情報制御装置21から取得する。取得部34は、乗務員等が入力した運行ダイヤを含む運行情報及び空調機20の設定モード等に関する入力情報等を車両情報制御装置21から取得する。取得部34は、車内温度に関する温度情報を温度検出部22から取得する。取得部34は、車内湿度に関する湿度情報を湿度検出部23から取得する。取得部34は、車室重量に関する重量情報を応荷重検出部24から取得する。取得部34は、制御指令周期ごとに、温度情報、湿度情報及び重量情報を取得データ44として異なる時刻に複数回取得して、取得時刻とともに記憶部32に保存する。取得部34は、予め定められた車両情報制御装置21の更新周期ごとに、設定情報、運行情報、及び、入力情報を取得データ44として異なる時刻に複数回取得して、取得時刻とともに記憶部32に保存する。
【0021】
作成部36は、時刻の異なる複数の取得データ44に基づいて、現在の時刻tよりも先の時刻t+1の車内温度を計算して予測するためのモデルである下記の式(1)に示す温度の予測モデル46を作成する。例えば、作成部36は、予め定められた作成タイミングごとに温度の予測モデル46を作成してもよい。式(1)に示す“a”、“b”、“c”及び“d”は、温度の予測モデル46を規定するモデル係数である。T(t)は、時刻tの時の車内温度[℃]を示す。尚、時刻tは現在の時刻または取得データ44を取得した最新の時刻である。車内温度T(t)、T(t-1)・・・は、過去に温度検出部22が検出した温度を含む。u(t)は、時刻tの時の空調機20の設定温度[℃]を示す。w(t)は、時刻tの時の車室重量[kg]を示す。尚、w(t)は、車室重量と関連付けて予め保存された乗車率等から換算された、車体12内の乗客の重量であってもよい。従って、式(1)で示す温度の予測モデル46は、車内温度、空調機20の設定温度、及び、乗車している乗員の発熱等を考慮して、車内温度を計算する式といえる。
T(t+1)=aT(t)+bu(t)+cw(t)+d ・・・(1)
【0022】
例えば、作成部36は、次に示す式(2)、式(3)、式(4)及び式(5)に時刻の異なる過去の4回分または5回分の温度の取得データ44を代入する。作成部36は、代入した式(2)から式(5)を解くことによって、各モデル係数a、b、c、dを算出して、式(1)で示す温度の予測モデル46を作成する。
T(t)=aT(t-1)+bu(t-1)+cw(t-1)+d ・・・(2)
T(t-1)=aT(t-2)+bu(t-2)+cw(t-2)+d ・・・(3)
T(t-2)=aT(t-3)+bu(t-3)+cw(t-3)+d ・・・(4)
T(t-3)=aT(t-4)+bu(t-4)+cw(t-4)+d ・・・(5)
【0023】
作成部36は、現在の時刻tよりも先の時刻t+1の車内湿度を計算して予測するためのモデルである式(6)に示す湿度の予測モデル46を作成する。式(6)に示す“e”、“f”、“g”及び“h”は、湿度の予測モデル46を規定するモデル係数である。H(t)は、時刻tの時の車内湿度[%]を示す。
H(t+1)=eH(t)+fu(t)+gw(t)+h ・・・(6)
【0024】
作成部36は、例えば、温度の予測モデル46と同様の方法によって湿度の予測モデル46を作成してよい。具体的には、作成部36は、次に示す式(7)、式(8)、式(9)及び式(10)に時刻の異なる過去の4回分または5回分の湿度の取得データ44を代入する。作成部36は、代入した式(7)から式(10)を解くことによって、各モデル係数e、f、g、hを算出して、式(6)で示す湿度の予測モデル46を作成する。
H(t)=eH(t-1)+fu(t-1)+gw(t-1)+h ・・・(7)
H(t-1)=eH(t-2)+fu(t-2)+gw(t-2)+h ・・・(8)
H(t-2)=eH(t-3)+fu(t-3)+gw(t-3)+h ・・・(9)
H(t-3)=eH(t-4)+fu(t-4)+gw(t-4)+h ・・・(10)
【0025】
作成部36は、作成した温度及び湿度の予測モデル46を記憶部32に格納する。
【0026】
判定部37は、初期設定であるデフォルトモード、車両10内の快適性を優先する快適性優先モード、及び、空調機20の消費電力の低減を優先する省エネルギー優先モードのいずれかから空調機20に設定すべき設定モードを判定する。尚、以下の説明において、省エネルギーを省エネと記載する。例えば、判定部37は、車両情報制御装置21が取得した乗務員等によるモードを設定する入力情報に基づいて、設定モードを判定してよい。判定部37は、判定した設定モードを選定部38に出力する。
【0027】
判定部37は、判定した設定モードに応じた指標領域を設定する。指標領域は、例えば、選定部38が複数の運転パターンから空調機20を制御するための制御運転パターンを選定するために、運転パターンがモード条件を満たすか否かを判定するための領域であって、設定モードごとに関連付けられた閾値によって規定される領域である。判定部37は、設定した指標領域を選定部38に出力する。
【0028】
選定部38は、快適性指標及び省エネ指標に基づいて、空調機20を制御するための制御運転パターンを選定する。選定部38は、例えば、後述する選定範囲ごとに制御運転パターンを選定してよい。快適性指標は、車両10の内部の快適性を示し、温度検出部22及び湿度検出部23が検出する車内温度及び車内湿度に関連する指標である。省エネ指標は、空調機20の消費電力に関連する指標である。
【0029】
選定部38は、例えば、選定範囲内の不快指数(Discomfort index)の平均値を快適性指標として算出してよい。不快指数は、米国気象庁が作成した不快度を簡易的に評価するための体感指標である。不快指数が75を超えると1割の人間が不快と感じ、不快指数が80を超えると全員が不快と感じるとされる。選定部38は、時刻tの時の車内温度T(t)及び車内湿度H(t)を含む次の式(11)に基づいて、時刻tの不快指数DI(t)を算出してよい。
DI(t)=0.81・T(t)+0.01・H(t)・(0.99・T(t)-14.3)+46.3 ・・・(11)
【0030】
選定部38は、不快指数を用いた次の式(12)に基づいて、不快指標の時間平均を快適性指標として算出してよい。尚、SR_Tは、第1時間の一例であり、選定範囲の開始から終了までの時間である。
【数1】
【0031】
選定部38は、例えば、次の式(13)に基づいて、選定範囲内の空調機20の総消費電力量を省エネ指標として算出してよい。Eg(t)は、時間の関数であって、空調機20のコンプレッサ及び送風ファン等の消費電力である。具体的には、選定部38は、予測モデル46によって予測される温度及び湿度となるように制御運転パターンに基づいて空調機20を制御した場合における空調機20の総消費電力量を省エネ指標として算出してよい。選定部38は、車両情報制御装置21から取得した消費電力に基づいて省エネ指標を算出してもよく、予測モデル46等によって設定された空調機20の設定に制御運転パターン等に基づいて省エネ指標を算出してもよい。
【数2】
【0032】
選定部38は、空調機20の複数の運転パターンのそれぞれに対して快適性指標及び省エネ指標を算出する。選定部38は、算出した快適性指標及び省エネ指標を運転パターンと関連付けた運転パターン結果群48を記憶部32に格納する。選定部38は、快適性指標及び省エネ指標に基づいて、複数の運転パターンから空調機20を制御するための制御運転パターンを選定して、制御部40へ出力してよい。例えば、選定部38は、快適性指標及び省エネ指標が、判定部37によって判定された設定モードに対応付けて設定されたモード条件を満たす運転パターンを制御運転パターンとして選定してよい。
【0033】
制御部40は、選定部38が選定した制御運転パターンに基づいて、空調能力レベルを示す制御指令値を作成して、空調機20に出力して、空調機20を制御する。制御部40は、選定範囲よりも短い制御指令周期ごと(例えば、数秒ごと)に変化する制御指令値を、制御運転パターンに基づいて作成して出力してよい。制御指令周期は、第2時間の一例である。
【0034】
記憶部32は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)、及び、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置を有する。記憶部32は、ネットワークを介して外部に設けられた記憶装置であってもよい。記憶部32は、処理部30が実行するプログラム、プログラムの実行に必要なデータ、及び、プログラムの実行によって生成されたデータ等を記憶する。例えば、記憶部32は、処理部30が実行する空調制御プログラム42を記憶する。空調制御プログラム42は、CD-ROM、及び、DVD-ROM等のコンピュータが読み取り可能な記憶媒体によって提供されてよい。記憶部32は、空調制御プログラム42の実行によって生成された取得データ44、予測モデル46及び運転パターン結果群48を記憶する。
【0035】
図3は、選定部38が選定する運転パターンと温度の関係について説明するグラフである。図3は、空調機20を冷房として使用した場合の運転パターンを示す。尚、空調機20を暖房として使用した場合の運転パターンは、横軸と平行な対象軸に対して線対称な運転パターンと近似できるので、暖房の場合については説明を省略する。
【0036】
選定部38は、選定タイミングST1、ST2・・・ごとに運転パターンOP1、・・・、OPNのいずれかを制御運転パターンとして選定する。選定タイミングST1、ST2、・・・を区別する必要がない場合、選定タイミングSTと記載する。運転パターンOP1、・・・、OPNを区別する必要がない場合、運転パターンOPと記載する。選定部38は、例えば、乗務員が車両情報制御装置21に入力した運行情報に基づいて、車両10が駅に停車してドアが開いている開時間OT中に選定タイミングSTを設定してよい。この場合、選定部38は、現在開いているドアが閉まった時刻から次の駅に停車して再度開いたドアが閉まるまでの時刻までの選定範囲SR内の制御運転パターンを選定してよい。尚、選定タイミングSTは、予測モデル46を作成する作成タイミングと同じであってよい。
【0037】
運転パターンOP1、・・・、OPNで示す実線は、各運転パターンOP1、・・・、OPNで空調機20を運転した場合において、現在の取得データ44から予測モデル46によって予測される車内温度の時系列変化を示す。例えば、運転パターンOP1で示す実線は、選定範囲SRの間、全ての空調機20の空調能力レベルが最大の“4”で運転された場合の温度変化である。運転パターンOPNで示す実線は、選定範囲SRの間、全ての空調機20の空調能力レベルが最弱の“0”で運転された場合の温度変化である。
【0038】
選定部38は、選定範囲SRを更に分割したセルCLの開始時刻である制御指令タイミングCT1、CT2、・・・ごとの各空調機20の空調能力レベルを示す運転パターンOPを選定する。尚、制御指令タイミングCT1、CT2、・・・を区別する必要がない場合、制御指令タイミングCTと記載する。隣接する制御指令タイミングCT間の各セルCLは、選定範囲SRよりも短く、例えば、空調機20のコンプレッサの起動及び停止に要する時間(例えば、時素)以上であればよい。制御指令タイミングCTは、制御部40が制御指令値を空調機20に送信するタイミングである。例えば、運転パターンOPの個数Nは、空調能力レベルの段数と、選定範囲SR内の制御指令タイミングCTの個数とによって決定される。この場合、空調能力レベルの数が“5”、選定範囲SR内の制御指令タイミングCTの数が“4”であれば、運転パターンOPの個数Nは、5個である。制御部40は、制御運転パターンを取得すると、制御指令タイミングCTごとに、空調機20を制御運転パターンが示す空調能力レベルにするための制御指令値を生成して、空調機20に送信する。
【0039】
図4は、運転パターンにおける快適性指標と省エネ指標との関係をプロットしたグラフである。縦軸は快適性指標を示し、上側はより不快となり、下側はより快適となる。横軸は省エネ指標を示し、右側が消費電力の増加となり、左側が消費電力の低減、即ち、省エネルギーとなる。
【0040】
選定部38は、各運転パターンOPにおける快適性指標と省エネ指標とを算出する。快適性指標は、上述の式(12)から算出される選定範囲SR内における不快指数DIの平均値であってよい。省エネ指標は、上述の式(13)から算出される選定範囲SR内における空調機20の総消費電力であってよい。図4の白丸で示す各ドットは、選定部38が算出した各運転パターンOPにおける快適性指標及び省エネ指標を示す。選定部38は、快適性指標及び省エネ指標を運転パターンOPと関連付けて、記憶部32の運転パターン結果群48に登録する。
【0041】
判定部37は設定モードに応じて指標領域を設定し、選定部38は当該指標領域に基づいてモード条件を満たす運転パターンOPを制御運転パターンとして選定する。例えば、判定部37は、快適性優先モードと判定した場合、快適性閾値Tha未満を快適性指標領域として設定する。選定部38は、快適性指標領域内であって最も省エネ指標の低いドットDTaの運転パターンOPを快適性優先モードのモード条件を満たす制御運転パターンとして選定する。判定部37は、省エネ優先モードと判定した場合、省エネ閾値Thb未満を省エネ指標領域として設定する。選定部38は、省エネ指標領域内であって最も快適性指標の低いドットDTbの運転パターンOPを、省エネ優先モードのモード条件を満たす制御運転パターンとして選定する。判定部37は、デフォルトモードと判定した場合、デフォルト閾値Thc未満をデフォルトモード指標領域として設定する。選定部38は、デフォルトモード指標領域であって最も省エネ指標の低いドットDTcの運転パターンOPを、デフォルトモードのモード条件を満たす制御運転パターンとして選定する。尚、各閾値Tha、Thb、Thcは、予め定められて記憶部32に格納されていてよい。例えば、デフォルト閾値Thcは“75”であってよい。デフォルト閾値Thcは乗務員が車両情報制御装置21に入力した設定温度に基づいて設定されてもよい。快適性閾値Thaはデフォルト閾値Thcよりも小さい。
【0042】
制御部40は、選定部38が設定した制御運転パターンに応じた制御指令値を生成して空調機20へ送信する。空調機20は、車両空調制御装置26の制御部40から制御指令値を取得すると、当該制御指令値に基づいて暖気または冷気を車体12の内部の車室へ供給して車内温度を調整する。
【0043】
図5は、処理部30が実行する第1実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。処理部30は、空調制御プログラム42を読み込んで、空調制御処理の選定処理を実行する。空調制御処理は、車両10の空調機20の空調制御方法の一例である。
【0044】
図5に示すように、空調制御処理の選定処理では、取得部34が、空調機20、車両情報制御装置21、温度検出部22、湿度検出部23及び応荷重検出部24から設定情報、温度情報及び重量情報を取得データ44として取得して、記憶部32に保存する(S102)。尚、取得部34は、制御指令値を作成する制御指令周期ごとに、ステップS102を実行してよい。
【0045】
作成部36は、温度の予測モデル46を作成するか否かを判定する(S104)。例えば、作成部36は、駅停車中の開時間OT内の選定タイミング(または作成タイミング)になると、温度の予測モデル46を作成すると判定してよい。作成部36は、温度の予測モデル46を作成しないと判定すると(S104:No)、ステップS110を実行する。
【0046】
作成部36は、温度の予測モデル46を作成すると判定すると(S104:Yes)、取得時刻を参照して、記憶部32から過去複数回分(例えば、過去4回分または5回分)の取得データ44を呼び出す(S106)。尚、作成部36は、連続した取得データ44ではなく、取得データ44の一部を間引いて、取得データ44を呼び出してもよい。作成部36は、予測モデル46を作成し、記憶部32に保存する(S108)。具体的には、作成部36は、呼び出した取得データ44が代入された式(2)から式(5)を解いてモデル係数a、b、c、dを計算して、温度の予測モデル46を作成する。作成部36は、呼び出した取得データ44が代入された式(7)から式(10)を解いてモデル係数e、f、g、hを計算して、湿度の予測モデル46を作成する。尚、作成部36は、時刻t+2以降の時刻の異なる複数の予測モデル46を作成して、記憶部32に保存してもよい。具体的には、作成部36は、ステップS108を繰り返して、作成した予測モデル46によって予測した車内温度及び車内湿度によって新たな温度及び湿度の予測モデル46を作成してよい。これを繰り返すことによって、作成部36は、複数の予測モデル46を作成してよい。
【0047】
判定部37は、車両情報制御装置21を介して乗務員等が入力した入力情報に基づいて、デフォルトモード、快適性優先モード及び省エネ優先モードのいずれかから設定モードを判定する(S110)。判定部37は、設定モードに基づいて、指標領域を設定する指標領域設定処理を実行する(S111)。
【0048】
図6は、判定部37が実行する指標領域設定処理のフローチャートである。
【0049】
図6に示すように、指定領域判定処理において、判定部37は、デフォルトモードの指標領域を設定する(S124)。例えば、判定部37は、快適性指標がデフォルト閾値Thc未満をデフォルトモード指標領域として設定する(図4参照)。
【0050】
判定部37は、省エネ優先モードの設定があるか否かを判定する(S126)。ステップS110において省エネ優先モードが設定されている場合、省エネ優先モードの設定ありと判定して(S126:Yes)、省エネ優先モードの指標領域を設定する(S125)。例えば、判定部37は、省エネ指標が省エネ閾値Thb未満を省エネ優先モードの指標領域として設定する(図4参照)。ステップS110において省エネ優先モードが設定されていない場合、省エネ優先モードの設定なしと判定して(S126:No)、ステップS125を実行しない。
【0051】
判定部37は、快適性優先モードの設定があるか否かを判定する(S128)。ステップS110において快適性優先モードが設定されている場合、快適性優先モードの設定ありと判定して(S128:Yes)、快適性優先モードの指標領域を設定する(S129)。例えば、判定部37は、快適性指標が快適性閾値Tha未満を快適性優先モードの指標領域として設定する(図4参照)。ステップS110において快適性優先モードが設定されていない場合、快適性優先モードの設定なしと判定して(S128:No)、ステップS129を実行しない。
【0052】
図5に戻って、選定部38は、空調機20の運転パターンOPのいずれかを仮の運転パターンとして抽出する(S114)。選定部38は、予測モデル46に基づいて算出した車内温度及び車内湿度に基づいて、仮の運転パターンにおける快適性指標を式(12)から算出する(S116)。選定部38は、仮の運転パターンにおける省エネ指標を式(13)から算出する(S118)。選定部38は、算出した快適性指標及び省エネ指標を仮の運転パターンと関連付けて、記憶部32の運転パターン結果群48の一部として格納する(S120)。選定部38は、全ての運転パターンに関して、ステップS114からステップS120を実行する(S112)。
【0053】
選定部38は、運転パターン結果群48が示す複数の運転パターンOPの快適性指標及び省エネ指標のうち、ステップS111で設定した指標領域を用いて、モード条件を満たす運転パターンOPを空調機20を制御するための制御運転パターンとして選定する。例えば、デフォルトモードの場合、選定部38は、デフォルトモードの指標領域内のうち、最も省エネ指標が小さい運転パターンOPをデフォルトモードのモード条件を満たす制御運転パターンとして選定する。省エネ優先モードの場合、選定部38は、省エネ優先モードの指標領域内のうち、最も快適性指標が小さい運転パターンOPを省エネ優先モードのモード条件を満たす制御運転パターンとして選定する。快適性優先モードの場合、選定部38は、快適性優先モードの指標領域内のうち、最も省エネ指標が小さい運転パターンOPを快適性優先モードのモード条件を満たす制御運転パターンとして選定する。選定部38は、選定した制御運転パターンを制御部40へ出力する(S122)。この後、処理部30は、ステップS102以降を繰り返す。尚、処理部30は、空調機20の制御を終了する指令等を受け付けた場合、空調制御処理の選定処理を終了してよい。
【0054】
図7は、処理部30が実行する第1実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンに基づいて空調機20を制御する制御処理のフローチャートである。処理部30は、空調制御プログラム42を読み込んで、空調制御処理の制御処理を実行する。空調制御処理は、車両10の空調機20の制御方法の一例である。処理部30は、空調機20の制御指令タイミングCTに応じて制御処理を実行してよい。
【0055】
図7に示すように、空調制御処理の制御処理では、制御部40が、選定部38から取得した制御運転パターンを取得したか否かを判定する(S130)。制御部40は、制御運転パターンを取得するまで、待機状態となる(S130:No)。制御部40は、制御運転パターンを取得すると(S130:Yes)、制御指令タイミングCTか否かを判定する(S132)。制御部40は、制御指令タイミングCTになるまで待機状態となる(S132:No)。制御部40は、制御指令タイミングCTとなると(S132:Yes)、選定部38から取得した制御運転パターンが示す当該制御タイミングの空調能力レベルを指示する制御指令値を作成する(S134)。制御部40は、作成した制御指令値を空調機20に送信して、空調機20を制御運転パターンに沿って制御する(S136)。空調機20は、制御指令値を取得すると、当該制御指令値が示す空調能力レベルとなるようにコンプレッサ及び送風ファン等を制御して車内を空調する。制御部40は、次の選定タイミングSIか否かを判定する(S138)。制御部40は、選定タイミングSTでないと判定すると(S138:No)、ステップS132以降を繰り返す。換言すれば、制御部40は、選定タイミングSTとなるまで、制御指令タイミングCTごとに制御指令値を作成して送信する。制御部40は、選定タイミングSTになると(S138:Yes)、ステップS130に戻って新たな制御運転パターンを取得し、新たな制御運転パターンに基づいてステップS132以降を実行する。
【0056】
この後、処理部30は、ステップS130以降を繰り返す。尚、処理部30は、空調機20の制御を終了する指令等を受け付けた場合、空調制御処理の制御処理を終了してよい。
【0057】
上述したように、第1実施形態の車両空調制御装置26は、快適性指標及び省エネ指標に基づいて制御運転パターンを選定するので、快適性を向上させつつ、省エネを実現するとともに、省エネを向上させつつ、快適性を実現する制御運転パターンを選定することができる。これにより、車両空調制御装置26は、快適性及び省エネという2つの要求に対して適切に空調機20を制御することができる。
【0058】
車両空調制御装置26は、選定範囲SRよりも短い制御指令周期ごとに制御指令値を作成しているので、より細かい空調機20の制御を実現することができる。また、車両空調制御装置26は、制御指令周期よりも長い選定範囲SRの制御運転パターンを一度に選定することで、制御運転パターンの選定に要する処理負荷を低減できる。
【0059】
車両空調制御装置26は、複数の運転パターンのそれぞれに対して算出した快適性指標及び省エネ指標に基づいて、制御運転パターンを選定するので、快適性及び省エネに応じた制御運転パターンを選定できる。
【0060】
車両空調制御装置26は、複数の運転パターンのうち、快適性指標及び省エネ指標が設定モードのモード条件を満たす制御運転パターンを選定するので、設定モードに応じた制御運転パターンを選定できる。
【0061】
<第2実施形態>
次に、制御部40が、制御運転パターンから予測される車内温度と温度検出部22が計測した車内温度とに基づいて制御指令値を補正する第2実施形態について説明する。
【0062】
図8は、制御部40が補正する運転パターンOPについて説明するグラフである。尚、図8は、図3に対応するグラフである。
【0063】
例えば、選定部38が制御運転パターンとして運転パターンOP2を選定したとする。制御部40は、制御運転パターンである運転パターンOP2に沿って制御指令値を生成して空調機20を制御する。この場合、予測モデル46を用いて制御運転パターンから予測される車内温度は、図8の運転パターンOP2に示すように変化する。しかしながら、温度検出部22が検出した車内温度の実測値MVaは、予測される車内温度からずれて高くなっている。この場合、制御部40は、運転パターンOP2が示す空調能力レベルを強くするように制御指令値を補正する。例えば、制御部40は、計測時刻MTにおいて、実測値MVaの車内温度が予測された車内温度よりも高く、計測時刻MTの次の制御指令タイミングCT3における運転パターンOPの空調能力レベルが“2”を示している場合、空調能力レベルを“3”に強める補正をして制御指令値を作成する。
【0064】
図9は、第2実施形態の制御処理のフローチャートである。第2実施形態の制御処理の各ステップのうち、第1実施形態の制御処理と同様のステップに関しては説明を簡略化する。
【0065】
図9に示すように、第2実施形態の制御処理では、制御部40は、ステップS130、S132の後、選定部38から取得した制御運転パターンに基づいて制御指令値を作成する(S134)。制御部40は、制御運転パターンに沿って空調機20が制御された場合において予測モデル46によって予測された車内温度が実際に計測された車内温度とかい離しているか否かを判定する(S232)。例えば、制御部40は、予測された車内温度と実際に計測された車内温度との差分の大きさが予め定められた閾値温度以上であれば、両車内温度がかい離していると判定してよい。制御部40は、両車内温度がかい離していると判定すると(S232:Yes)、空調機20の空調能力を変更可能か否かを判定する(S234)。例えば、制御部40は、前回の制御指令値を送信してから空調機20のコンプレッサの起動に要する時間である制御指令タイミングCT以上経過していれば、空調能力を変更可能と判定してよい。制御部40は、空調能力を変更可能と判定すると(S234:Yes)、制御指令値を補正する(S236)。この後、制御部40は、補正した制御指令値を空調機20へ送信する(S136)。
【0066】
一方、制御部40は、両車内温度がかい離していないと判定した場合(S232:No)、または、空調機20の空調能力を変更できないと判定した場合(S234:No)、制御指令値を補正することなく、制御指令値を送信する(S136)。この後、制御部40は、選定タイミングSTでないと判定すると(S138:No)、ステップS132以降を繰り返す。制御部40は、選定タイミングSTになると(S138:Yes)、ステップS130に戻って新たな制御運転パターンを取得し、新たな制御運転パターンに基づいてステップS132以降を実行する。
【0067】
上述したように、第2実施形態の車両空調制御装置26は、制御運転パターンから予測される車内温度と、温度検出部22によって計測された車内温度とに基づいて補正している。これにより、車両空調制御装置26は、予測の精度が低く、両車内温度がかい離している場合であっても、快適性及び省エネを実現しつつ、空調機20を制御できる。
【0068】
<第3実施形態>
選定部38が、貪欲法に基づいて、空調能力レベルが最強レベルの初期の基準解の運転パターンOPから徐々に空調能力レベルを弱めて運転パターンOPの平均温度を目標値に近づけつつ、制御運転パターンを選定する第3実施形態について説明する。
【0069】
図10図11図12図13は、選定部38が選定する運転パターンOPについて説明するグラフである。図10から図13において、空調能力レベルの白丸は、運転パターンOPで選択されているレベルを示す。尚、図10から図13は、図3に対応するグラフである。
【0070】
選定部38は、目標温度TTを設定する。目標温度TTは、予め設定された目的とする快適性指数から式(12)に基づいて算出した車内温度であってよい。この場合、式(12)に代入する車内湿度は予測モデル46から算出してもよく、予め設定された目標とする車内湿度であってもよい。尚、目的とする快適性指数はモードごとに設定されていてよく、この場合、目標温度TTはモードごとに異なる値となるが、以下の運転パターンOPの選定については、1個の目標温度TTに基づいて説明する。
【0071】
選定部38は、選定範囲SRを複数のセルCLに分割する。セルCLは、例えば、コンプレッサの起動時間よりも長い時間であればよい。各セルCLの開始時刻は、制御指令タイミングCTとする。
【0072】
図10に示すように、選定部38は、初期基準解の運転パターンOPとしての運転パターンOP1で運転した場合における選定範囲SR内の平均温度ATaを算出する。運転パターンOP1は、全選定範囲SR内で最強の空調能力レベル“4”で空調機20を運転する最強レベルのパターンである。選定部38は、運転パターンOP1で運転した場合の車内温度を予測モデル46から算出した車内温度を選定範囲SR内で積算して、積算した数で割った相加平均値を平均温度ATaとして算出してよい。
【0073】
次に、選定部38は、省エネ指標が高くなるように、いずれかのセルCLの空調能力レベルを徐々に弱めて、快適性指標から算出された目標値に近づけて制御運転パターンを選定する。具体的には、選定部38は、徐々に弱めた運転パターンOPのそれぞれで運転した場合の選定範囲SR内の平均温度を算出する。例えば、図11に示す例では、選定部38は、最初のセルCLの空調能力レベルを“3”に変更した運転パターンOPa2で運転した場合の選定範囲SR内の平均温度ATbを算出する。
【0074】
次に、選定部38は、運転パターンOPa2で空調能力レベルを変更したセルCLとは異なるセルCLの空調能力レベルを弱くした場合の選定範囲SR内の平均温度を算出する。例えば、図12に示す例では、選定部38は、運転パターンOP1に対して、3番目のセルCLの空調能力レベルを“3”に変更した運転パターンOPa3で運転した場合の選定範囲SR内の平均温度ATcを算出する。
【0075】
選定部38は、上記の処理を繰り返して、全てのセルCLのうちいずれかのセルCLの空調能力レベルを“3”に変更して、残りのセルCLの空調能力レベルを“4”とした運転パターンOPの平均温度を算出する。ここではセルCLの個数が4個なので、選定部38は、4個の平均温度を算出することになる。選定部38は、算出した4個の平均温度のうち、最も低い平均温度の運転パターンOPを新たな基準解の運転パターンとする。換言すれば、選定部38は、選定範囲SR内の空調能力レベルの総和が同じ運転パターンOPのうち、エネルギー効率が最も高く、省エネを向上できる運転パターンOPを新たな基準解として選定する。例えば、選定部38は、図12に示す運転パターンOPa3の平均温度ATcが最も低い場合、運転パターンOPa3を新たな基準解とする。
【0076】
選定部38は、運転パターンOPa3の各セルCLの空調能力レベルを弱くして、上述と同様の処理を繰り返して、平均温度を目標値の例である目標温度TTに近づける。例えば、選定部38は、図13に示すように、最初のセルCLの空調能力レベルを“3”とした運転パターンOPb1の平均温度ATdを算出する。選定部38は、平均温度ATdが目標温度範囲内となった場合、当該運転パターンOPb1を制御運転パターンとして選定する。目標温度範囲は、例えば、目標温度TTと目標温度TTから差分温度ΔTを引いた温度TT-ΔTとの間である。差分温度ΔTは、予め定められた記憶部32に格納されていてよい。
【0077】
図14は、処理部30が実行する第3実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。第3実施形態の選定処理の各ステップのうち、第1実施形態の選定処理と同様のステップに関しては説明を簡略または省略する。
【0078】
図14に示すように、第3実施形態の処理部30は、ステップS102からステップS110まで実行する。
【0079】
選定部38は、快適性指標に基づいて目的温度範囲を設定する(S351)。選定部38は、選定範囲SRを複数のセルCLに分割する(S352)。選定部38は、各セルCLの空調能力レベルを最強(例えば、“4”)にした運転パターンOPを初期の基準解として設定する(S354)。
【0080】
選定部38は、例えば、図11に示すように、基準解の運転パターンOPのいずれかのセルCL(例えば、最初のセルCL)の空調能力レベルを1段階弱めた運転パターンOPを設定する(S360)。選定部38は、設定した運転パターンOPの平均温度を算出して記憶部32に格納する(S362)。選定部38は、平均温度が目的温度範囲を超えたか否かを判定する(S364)。選定部38は、平均温度が目的温度範囲を超えていると判定すると(S364:Yes)、ステップS356以降を繰り返す。選定部38は、平均温度が目的温度範囲を超えていないと判定すると(S364:No)、平均温度に基づいて当該運転パターンOPが最大効率か否かを判定する(S366)。例えば、選定部38は、既に最大効率として記憶部32に格納されている運転パターンOPの平均温度よりも、今回の運転パターンOPの平均温度が低い場合、今回の運転パターンOPが最大効率であると判定してよい。
【0081】
選定部38は、当該運転パターンOPが最大効率であると判定すると(S366:Yes)、記憶部32に格納された最大効率の運転パターンOPを当該運転パターンOPで上書きして更新する(S368)。選定部38は、当該運転パターンOPが最大効率でないと判定すると(S366:No)、記憶部32に格納されている最大効率の運転パターンを更新しない。この後、選定部38は、全てのセルCLの空調能力レベルを1段階弱めるまでステップS360からS368までを繰り返す(S358)。選定部38は、全てのセルCLの空調能力レベルを1段階弱めた後の最大効率の運転パターンOPを新たな基準解として更新する(S370)。
【0082】
選定部38は、新たな基準解の運転パターンOPに対してステップS358からS370までを実行する。即ち、選定部38は、新たな基準解の運転パターンOPのいずれかのセルCLの空調能力レベルを1段階弱めることを、セルCLごとに実行して、最大効率の運転パターンOPを選定する。選定部38は、最大効率の運転パターンOPを新たに選定すると、新たな運転パターンOPによって基準解を更新する。選定部38は、最大効率の運転パターンOPの平均温度が目的温度範囲内となるまで、ステップS358からS370を繰り返す(S356)。選定部38は、最大効率の運転パターンOPの平均温度が目的温度範囲内になると、当該運転パターンOPを制御運転パターンとして選定して、空調機20へ送信する(S122)。
【0083】
上述したように第3実施形態の車両空調制御装置26は、初期基準解である最強レベルの運転パターンOP1から空調能力レベルを徐々に弱めて快適性指標から算出された目標温度に運転パターンOPの平均温度を近づけている。これにより、車両空調制御装置26は、空調能力レベルを弱めて省エネを向上させつつ、運転パターンOPの平均温度を目標温度に近づけることで快適性を向上させることができる。
【0084】
車両空調制御装置26は、初期基準解である最強レベルの運転パターンOP1から空調能力レベルを徐々に弱めて制御運転パターンを選定することにより、制御指令周期が短い空調機20であっても、快適性及び省エネを実現できる制御運転パターンをより短時間で選定できる。
【0085】
車両空調制御装置26は、選定範囲SR内の空調能力レベルの総和が同じ運転パターンOPのうち、平均温度が低い、即ち、エネルギー効率が高い運転パターンOPを基準解として更新して、平均温度が目標温度範囲内となる制御運転パターンを選定している。これにより、車両空調制御装置26は、快適性を向上させつつ、エネルギー効率が高く省エネを実現できる制御運転パターンを選定できる。
【0086】
<第4実施形態>
選定部38が、分割統治法に基づいて、空調能力レベルを全て同じレベルにした複数の運転パターンのうち、平均温度が最も目標温度に近い暫定の運転パターンを初期の基準解と、当該初期の基準階に基づいて、制御運転パターンを選定する第4実施形態について説明する。
【0087】
図15は、選定部38が選定する運転パターンOPについて説明するグラフである。図15は、図3に対応するグラフである。
【0088】
選定部38は、図15に点線で示す暫定の複数の運転パターンOP1、OPb1、OPb2、OPb3、OPNを生成する。例えば、選定部38は、選定範囲SR内の空調能力レベルを全て同じレベルにした運転パターンOPを生成する。従って、運転パターンOP1の選定範囲SR内の全ての空調能力レベルは“4”に設定されている。同様に、運転パターンOPb1の全ての空調能力レベルは“3”に設定され、運転パターンOPb2の全ての空調能力レベルは“2”に設定され、運転パターンOPb3の全ての空調能力レベルは“1”に設定され、運転パターンOPNの全ての空調能力レベルは“0”に設定されている。選定部38は、複数の運転パターンOP1、OPb1、OPb2、OPb3、OPNのうち、選定範囲SR内の平均温度が目標温度に最も近い暫定の運転パターンOPを選定する。選定部38は、初期の基準解としての暫定の運転パターンに基づいて、制御運転パターンを選定する。例えば、選定部38は、選定範囲SRを分割してセルCLを生成し、基準解とした運転パターンOPのいずれかのセルCLの空調能力レベルを強めまたは弱めて、目標温度範囲となった運転パターンOP、例えば、図15に実線で示す運転パターンOPbを制御運転パターンとして選定する。
【0089】
図16及び図17は、処理部30が実行する第4実施形態の空調制御処理のうち制御運転パターンを選定する選定処理のフローチャートである。第3実施形態の選定処理の各ステップのうち、上述の実施形態の選定処理と同様のステップに関しては説明を簡略または省略する。
【0090】
図16に示すように、第4実施形態の処理部30は、ステップS102からステップS110まで実行する。
【0091】
選定部38は、暫定の運転パターンOPを設定する(S482)。選定部38は、暫定の運転パターンOPの選定範囲SR内での平均温度を算出して記憶部32に格納する(S484)。選定部38は、快適性指標に基づいて目的温度範囲を設定する(S351)。選定部38は、算出した平均温度のうち最も目的温度範囲に近い平均温度の暫定の運転パターンOPを初期の基準解として設定する(S486)。
【0092】
選定部38は、選定範囲SRをセルCLに分割する(S352)。選定部38は、初期基準解の運転パターンOPのいずれかのセルCLの空調能力レベルを弱める(S488)。選定部38は、空調能力レベルを弱めた運転パターンOPの平均温度が目的温度範囲に近づいたか否かを判定する(S490)。
【0093】
選定部38は、平均温度が目的温度範囲に近づいたと判定すると(S490:Yes)、第3実施形態と同様にステップS356からS122以降を実行して、制御運転パターンを選定し、空調機20へ送信する(S122)。
【0094】
一方、選定部38は、平均温度が目的温度範囲から遠のいたと判定すると(S490:No)、図17に示すステップS556以降を実行する。尚、ステップS556以降の処理は、ステップS356以降の処理と空調能力レベルを強める以外ほぼ同様である。
【0095】
選定部38は、例えば、基準解の運転パターンOPのいずれかのセルCL(例えば、最初のセルCL)の空調能力レベルを1段階強めた運転パターンOPを設定する(S560)。選定部38は、設定した運転パターンOPの平均温度を算出して記憶部32に格納する(S562)。選定部38は、平均温度が目的温度範囲より小さいと判定すると(S564:Yes)、ステップS556以降を繰り返す。選定部38は、平均温度が目的温度範囲より小さくないと判定すると(S564:No)、平均温度に基づいて当該運転パターンOPが最大効率か否かを判定する(S566)。選定部38は、当該運転パターンOPが最大効率であると判定すると(S566:Yes)、記憶部32に格納された最大効率の運転パターンOPを当該運転パターンOPで上書きして更新する(S568)。選定部38は、当該運転パターンOPが最大効率でないと判定すると(S566:No)、記憶部32に格納されている最大効率の運転パターンを更新しない。この後、選定部38は、全てのセルCLの空調能力レベルを1段階強めるまでステップS560からS568までを繰り返す(S558)。選定部38は、全てのセルCLの空調能力レベルを1段階強めた後の最大効率の運転パターンOPを新たな基準解として更新する(S570)。
【0096】
選定部38は、新たな基準解の運転パターンOPに対してステップS558からS570までを実行する。即ち、選定部38は、新たな基準解の運転パターンOPの各セルCLの空調能力レベルを1段階強めて、最大効率の運転パターンOPを選定する。選定部38は、最大効率の運転パターンOPを新たに選定すると、新たな運転パターンOPによって基準解を更新する。選定部38は、最大効率の運転パターンOPの平均温度が目的温度範囲内となるまで、ステップS558からS570を繰り返す(S556)。選定部38は、最大効率の運転パターンOPの平均温度が目的温度範囲内になると、当該運転パターンOPを制御運転パターンとして選定して、空調機20へ送信する(S122)。
【0097】
上述したように、第4実施形態の車両空調制御装置26は、空調能力レベルを統一した運転パターンOPのうち、最も目標温度に近い運転パターンOPを初期基準解として選定し、当該初期基準解の運転パターンOPから空調能力レベルを徐々に変化させて制御運転パターンを選定している。これにより、車両空調制御装置26は、空調能力レベルを統一した運転パターンOPである初期基準解から制御運転パターンの選定を開始することにより、制御指令周期が短く選定範囲SR内の制御指令タイミングCTが多く含まれている場合でも、短時間で制御運転パターンを選定することができる。
【0098】
<第5実施形態>
判定部37が、消費電力または車両10の内部の状況(以下、車両状況)に基づいて、省エネ優先モードまたは快適性優先モードのいずれかを空調機20に設定する設定モードとして判定する第5実施形態について説明する。
【0099】
判定部37は、取得部34が取得した取得データ44の空調機20の消費電力が予め定められた省エネ条件を満たす場合、省エネ優先モードに設定すると判定してよい。省エネ条件は、予め定められた閾値電力以上である。従って、判定部37は、閾値電力以上であれば、省エネ優先モードに設定してよい。
【0100】
判定部37は、取得部34が取得した取得データ44の車両状況が予め定められた快適性条件を満たす場合、快適性優先モードに設定すると判定してよい。車両状況は、温度検出部22、湿度検出部23及び応荷重検出部24が検出した車内温度及び車内湿度、及び、乗員を含む車両10の車体12の荷重の少なくともいずれか1つであってよい。判定部37は、例えば、車内温度、車内湿度及び荷重のそれぞれに重みを掛けた値の和を車両状況の値とし、当該車両状況の値と予め定められ得た閾値状況値との比較によって、車両状況が快適性条件を満たすか否かを判定してよい。
【0101】
判定部37は、省エネ条件及び快適性条件を満たさない場合、デフォルトモードに設定してよい。
【0102】
図18は、処理部30が実行するモード判定処理のフローチャートである。モード判定処理は、選定処理のステップS110に代えて実行してよく、または、乗員等によるモードの設定がない場合に、ステップS110の後に実行してもよい。
【0103】
モード判定処理において、判定部37は、設定モードをデフォルトモードに設定する(S692)。判定部37は、消費電力が省エネ条件を満たすか否かを判定する(S694)。判定部37は、消費電力が省エネ条件を満たすと判定すると(S694:Yes)、設定モードを省エネ優先モードに設定する(S695)。
【0104】
判定部37は、消費電力が省エネ条件を満たさないと判定すると(S694:No)、デフォルトモードを維持して、車両状況が快適性条件を満たすか否かを判定する(S696)。判定部37は、車両状況が快適性条件を満たすと判定すると(S696:Yes)、設定モードを快適性優先モードに設定する(S697)。
【0105】
判定部37は、車両状況が快適性条件を満たさないと判定すると(S696:No)、設定モードを設定済みのデフォルトモードまたは省エネ優先モードに維持して、モード判定処理を終了する。この後、選定処理のステップS112以降を実行する。
【0106】
尚、判定部37は、点線矢印で示すように、省エネ優先モードを設定した後(S695)、ステップS696以降を実行することなく、モード判定処理を終了してもよい。
【0107】
上述したように、第5実施形態の車両空調制御装置26は、消費電力または車両状況に基づいて、省エネ優先モードまたは快適性優先モードのいずれかを設定モードとして判定するので、適切な設定モードを設定できる。更に、車両空調制御装置26は、適切に設置された設定モードによって、指標領域を設定するので、制御運転パターンをより適切に選定できる。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0109】
上述の実施形態では快適性指標が車内温度及び車内湿度に関連する不快指数である例を挙げたが、快適性指標は不快指数に限定されない。必要なデータをセンシングし、車内温度及び車内湿度の様に人体の熱負荷、代謝量、気流及び放射熱等の予測モデルを作成することができれば、快適性の指標は、PMV(Predicted Mean Vote)及びSET(Standard new Effective Temperature)等であってもよい。快適性指標は車内湿度を含まない車内温度に関する関数であってもよい。
【0110】
上述の実施形態では省エネ指標が空調機20の総消費電力量である例を挙げたが、省エネ指標は空調機20の総消費電力量に限定されない。例えば、省エネ指標は、予測モデルによって予測される車内温度及び車内湿度となるように空調機20を制御した場合における空調機20のピーク電力量であってもよい。
【0111】
上述の実施形態では、選定タイミングSTが車両10のドアが開いている開時間OT内に設定されている例を挙げたが、選定タイミングSTはこれに限定されない。例えば、選定タイミングSTは、予め定められた一定の周期ごとであってもよい。
【0112】
上述の実施形態では、制御指令タイミングCTが空調機20のコンプレッサの起動に要する時間としたが、制御指令タイミングCTはこれに限定されない。制御指令タイミングCTは、コンプレッサの起動に要する時間以上であって、不定期であってもよい。
【0113】
上述の実施形態では、運転パターンOPの個数Nが、空調能力レベルの数と、選定範囲SR内の制御指令タイミングCTの数とによって決定されるとしたが、運転パターンOPの個数Nはこれに限定されない。例えば、空調機20ごとまたは空調機20のコンプレッサごとに運転パターンOPを異ならせる場合、運転パターンOPの個数Nは、空調能力レベルの段数と、選定範囲SR内の制御指令タイミングCTの個数と、空調機20または空調機20のコンプレッサの個数とによって決定される。
【0114】
上述の実施形態では、目標温度範囲が、目標温度TTと目標温度TTから差分温度ΔTを引いた温度TT-ΔTとの間を例に挙げた、目標温度範囲はこれに限定されない。例えば、目標温度範囲は、目標温度TTから±ΔTとの間、即ち、温度TT-ΔTと温度TT+ΔTとの間であってもよい。
【0115】
上述の実施形態では、作成部36が新たに検出した車内温度に基づいて作成した予測モデル46によって選定部38が車内温度を予測する例を挙げたが、車内温度の予測方法はこれに限定されない。例えば、選定部38は、予め設定された予測モデルに基づいて温度を予測してもよい。
【0116】
上述の第3実施形態では、選定部38が、最強レベルの運転パターンOP1から各セルCLの空調能力レベルを徐々に弱めて、快適性指標から算出された目標値に近づけて制御運転パターンを選定する例を挙げたが、制御運転パターンを選定する方法はこれに限定されない。例えば、選定部38が、選定範囲SR内の空調能力レベルが全て“0”の最弱レベルの運転パターンOPNから各セルCLの空調能力レベルを徐々に強めて、快適性指標から算出された目標値に近づけて制御運転パターンを選定してもよい。
【0117】
上述の第3実施形態及び第4実施形態では、快適性指標から算出した車内温度を目標値としたが、目標値は車内温度に限定されない。例えば、目標値は、快適性指標から算出した車内湿度であってもよい。この場合、車内温度は、予測モデル46から予測される値を採用してよい。
【符号の説明】
【0118】
10:車両、 18:車両空調制御システム、 20:空調機、 26:車両空調制御装置、 37:判定部、 38:選定部、 40:制御部、 42:空調制御プログラム、 44:取得データ、 46:予測モデル、 48:運転パターン結果群、 CL:セル、 OP:運転パターン、 SR:選定範囲、 T:車内温度、 TT:目標温度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16
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図18