(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】溶接制御装置、表示制御装置、溶接システム、溶接制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20220518BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B23K9/095 510D
B23K9/10 Z
(21)【出願番号】P 2018154606
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 陽
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-281282(JP,A)
【文献】特開平02-020661(JP,A)
【文献】特開2008-246536(JP,A)
【文献】特開2015-098031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルートギャップを有する開先をアーク溶接する際における溶接条件を制御する溶接制御装置において、
前記開先に形成される溶融部を撮像する画像から、溶接が進行する方向についての当該溶融部の先端の位置を検出する第1の検出手段と、
前記ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する第2の検出手段と、
前記端部の位置と前記溶融部の先端の位置との関係を判定する判定手段と、
判定の結果に応じて溶接条件を制御する制御手段と
を有
し、
前記制御手段は、溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部と前記溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する当該被溶接物における前記端部と前記溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、前記溶接条件の補正量を決定する、溶接制御装置。
【請求項2】
前記第2の検出手段は、前記溶融部を撮像する前記画像から前記ルートギャップを規定する前記被溶接物における前記端部の位置を検出する、請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項3】
前記溶融部の前記先端の位置と、前記ルートギャップを規定する前記被溶接物における前記端部の位置は、前記画像上に予め定めた基準点を基準に与えられる、請求項2に記載の溶接制御装置。
【請求項4】
前記溶接条件は、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度、電極位置、ワイヤ挿入位置およびウィービング条件のうちのいずれか1つ又は複数である、請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項5】
前記判定手段は、
溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部に対する前記溶融部の左側の先端の位置の関係、
及び
溶接が進行する方向について右側に位置する前記被溶接物における前記端部に対する前記溶融部の右側の先端の位置の関係
の両方又は一方を判定する、
請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
溶接が進行する方向について前記溶融部の左側に位置する先端が、溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部の近傍の範囲内に位置するか、当該近傍の範囲を越えて左側に位置するか、当該近傍の範囲を越えて右側に位置するか、
及び
溶接が進行する方向について前記溶融部の右側に位置する先端が、溶接が進行する方向について右側に位置する前記被溶接物における前記端部の近傍の範囲内に位置するか、当該近傍の範囲を越えて右側に位置するか、当該近傍の範囲を越えて左側に位置するか、
の両方又は一方を判定する、
請求項5に記載の溶接制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記判定の結果と前記溶接条件の関係を学習したモデルに基づいて、当該溶接条件を制御する、請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項8】
前記第1の検出手段は、
前記溶融部を撮像する前記画像と前記溶融部の先端の位置との関係を学習した第1のモデルに基づいて、新規に与えられる当該画像から当該先端の位置を検出し、
前記第2の検出手段は、
前記画像と前記ルートギャップを規定する前記被溶接物における前記端部の位置との関係を学習した第2のモデルに基づいて、新規に与えられる当該画像から当該端部の位置を検出する、
請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項9】
前記溶融部を撮像する際における単位時間当たりの透過光量又は波長域を溶接電流に応じて変更する、請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項10】
前記溶融部の先端として検出された位置を示す記号と、前記ルートギャップを規定する端部として検出された位置を示す直線とを、当該溶融部を撮像する前記画像上に重ねて表示させる表示制御手段を更に有する、請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項11】
前記記号は、新たに前記溶融部の先端が検出されるたびに検出された位置に表示される、請求項
10に記載の溶接制御装置。
【請求項12】
前記端部の位置と前記溶融部の先端の位置との関係を予め定めた基準で評価した結果を、前記端部に対応付けて時系列に表示させる表示制御手段を更に有する、請求項1に記載の溶接制御装置。
【請求項13】
ルートギャップを有する開先のアーク溶接中に撮像される、当該開先に形成される溶融部の画像を表示部に表示させる表示制御装置において、
前記画像から検出された、
溶接が進行する方向についての前記溶融部の先端の位置を示す記号と、
前記ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を示す直線と、
を前記画像に重ねて表示させる表示制御部
を有
し、
前記表示制御部は、溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部と前記溶融部の左側の先端との距離の関係、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する当該被溶接物における前記端部と前記溶融部の右側の先端との距離の関係の両方又は一方を表示する、表示制御装置。
【請求項14】
被溶接物をアーク溶接する溶接装置と、ルートギャップを有する開先に形成される溶融部を撮像可能な位置に取り付けられた視覚センサと、当該溶接装置の動きを規定する溶接条件を制御する溶接制御装置とを有する溶接システムにおいて、
前記溶接制御装置は、
前記視覚センサで撮像された画像から、溶接が進行する方向についての前記溶融部の先端の位置を検出する第1の検出手段と、
前記ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する第2の検出手段と、
前記端部の位置と前記溶融部の先端の位置との関係を判定する判定手段と、
判定の結果に応じて溶接条件を制御する制御手段と
を有
し、
前記制御手段は、溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部と前記溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する当該被溶接物における前記端部と前記溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、前記溶接条件の補正量を決定する、溶接システム。
【請求項15】
ルートギャップを有する開先をアーク溶接する際における溶接条件を制御する溶接制御方法において、
前記開先に形成される溶融部を撮像する画像から、溶接が進行する方向についての当該溶融部の先端の位置を検出する工程と、
前記ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する工程と、
前記端部の位置と前記溶融部の先端の位置との関係を判定する工程と、
判定の結果に応じて溶接条件を制御する工程と、
を含
み、
前記制御する工程は、溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部と前記溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する当該被溶接物における前記端部と前記溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、前記溶接条件の補正量を決定する、溶接制御方法。
【請求項16】
ルートギャップを有する開先をアーク溶接する際における溶接条件を制御する溶接制御装置に用いられるプログラムであって、
前記開先に形成される溶融部を撮像する画像から、溶接が進行する方向についての当該溶融部の先端の位置を検出する機能と、
前記ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する機能と、
前記端部の位置と前記溶融部の先端の位置との関係を判定する機能と、
判定の結果に応じて溶接条件を制御する機能と、
を前記溶接制御装置に実現させるためのプログラム
であり、
前記制御する機能は、溶接が進行する方向について左側に位置する前記被溶接物における前記端部と前記溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する当該被溶接物における前記端部と前記溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、前記溶接条件の補正量を決定する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接制御装置、表示制御装置、溶接システム、溶接制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な業種の溶接工程において自動化が進められているが、ルートギャップを有する開先のアーク溶接においては、ギャップ幅、目違い、熱変形によるワーク形状変化に加え、シールドガス不良、磁気吹き等の外乱も生じ、自動化は困難とされてきた。
上記課題に対し、従来は、レーザーセンサや視覚センサを用いたビジュアルセンシングが用いられている。
例えば特許文献1には、被溶接材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮像し、撮像した画像から溶融池の輪郭を抽出すること、抽出した輪郭から溶融池の左側の先端点(以下「左端点」という。)と右側の先端点(以下「右端点」という。)を抽出し、抽出した左端点の座標と右端点の座標から溶融池の先端部の幅を算出すること、算出した溶融池の先端部の幅からルートギャップの変化量を算出し、算出したルートギャップの変化量に基づいてトーチ揺動幅の制御量と溶接速度の制御量を算出すること、算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御すること、この制御手法を採用すれば、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接かGMA(Gas Metal Arc)溶接かを問わず、ルートギャップが変わっても、良好な裏ビード形状とビード品質が安定して得られることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、溶接部に開先を設けた複数の被溶接材を互いに接触して配置する工程と、複数の被溶接材の溶接部に電極及びフィラーを近接させ、溶接部の近傍でフィラーを溶融する工程と、複数の被溶接材の開先を設けた面において、第1の撮像手段を用いて溶融池、電極、フィラーを被写体として撮像し、得られた画像に画像処理を施し、第1の情報を抽出する工程と、複数の被溶接材の開先を設けた面の反対側の面において、第2の撮像手段を用いて裏波ビード、赤熱部を被写体として撮像し、得られた画像に画像処理を施し、第2の情報を抽出する工程と、第1の情報及び第2の情報に基づき、溶接条件を制御する工程とを実行することにより、確実に裏波ビードを出すことができる溶接方法及び溶接装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-281282号公報
【文献】特開2015-98031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の手法は、視覚センサで撮像した画像から溶融池の先端の左端点と右端点を抽出することで溶融池の先端部の幅を算出し、その後、算出された幅から理想的な幅を差し引くことで求めたルートギャップの変化量のみで搖動幅と溶接速度を制御している。ただし、溶融池の先端の左端点と右端点は、磁気吹き等の外乱、アーク電圧や溶融池の物性等によって刻々と変化し、単純にルートギャップが大きいほど溶融池の先端部の幅が増大するとは限らない。また、より精度良く裏波ビードの良否を判定し、溶接条件を制御するためには、ルートギャップの変化量だけではなく、そのルートギャップにおいて裏波ビードが妥当であるかどうかの判定が必要となる。
【0006】
特許文献2に記載の手法は、被溶接材の開先を設けた面に設けた第1の撮像手段を用いて溶融池等を被写体として撮像する一方、その反対側の面に設けた第2の撮像手段を用いて裏波ビードと赤熱部を被写体として撮像し、得られた画像情報を用いて溶接条件を制御している。ただし、第2の撮像手段を用いて裏波ビードと赤熱部を撮像することにより、ルートギャップの裏波ビードが妥当であるかどうかを判定する方法では、被溶接材の開先を設けた面の反対面に第2の撮像手段を設ける必要があり、溶接装置が複雑化し、汎用的であるとは言えない。
【0007】
本発明の目的は、ルートギャップの目違い、熱変形等のワーク形状の変化又は磁気吹き等の外乱が生じた場合でも、良好な裏波ビード得ることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明は、ルートギャップを有する開先をアーク溶接する際における溶接条件を制御する溶接制御装置において、開先に形成される溶融部を撮像する画像から、溶接が進行する方向についての溶融部の先端の位置を検出する第1の検出手段と、ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する第2の検出手段と、端部の位置と溶融部の先端の位置との関係を判定する判定手段と、判定の結果に応じて溶接条件を制御する制御手段とを有し、制御手段は、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部と溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部と溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、溶接条件の補正量を決定する、溶接制御装置を提供する。
ここで、第2の検出手段は、溶融部を撮像する画像からルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する、ものであってもよい。その際、溶融部の先端の位置と、ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置は、画像上に予め定めた基準点を基準に与えられる、ものであってもよい。
また、溶接条件は、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度、電極位置、ワイヤ挿入位置及びウィービング条件のうちのいずれか1つ又は複数であってもよい。
【0009】
また、判定手段は、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部に対する溶融部の左側の先端の位置の関係、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部に対する溶融部の右側の先端の位置の関係の両方又は一方を判定する、ものであってもよい。さらに、判定手段は、溶接が進行する方向について溶融部の左側に位置する先端が、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部の近傍の範囲内に位置するか、近傍の範囲を越えて左側に位置するか、近傍の範囲を越えて右側に位置するか、及び、溶接が進行する方向について溶融部の右側に位置する先端が、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部の近傍の範囲内に位置するか、近傍の範囲を越えて右側に位置するか、近傍の範囲を越えて左側に位置するか、の両方又は一方を判定する、ものであってもよい。
【0010】
また、制御手段は、判定の結果と溶接条件の関係を学習したモデルに基づいて、溶接条件を制御する、ものであってもよい。
また、第1の検出手段は、溶融部を撮像する画像と溶融部の先端の位置との関係を学習した第1のモデルに基づいて、新規に与えられる画像から先端の位置を検出し、第2の検出手段は、画像とルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置との関係を学習した第2のモデルに基づいて、新規に与えられる画像から端部の位置を検出する、ものであってもよい。
【0011】
また、溶融部を撮像する際における単位時間当たりの透過光量又は波長域を溶接電流に応じて変更する、ものであってもよい。
また、溶融部の先端として検出された位置を示す記号と、ルートギャップを規定する端部として検出された位置を示す直線とを、溶融部を撮像する画像上に重ねて表示させる表示制御手段を更に有する、ものであってもよい。そして、記号は、新たに溶融部の先端が検出されるたびに検出された位置に表示される、ものであってもよい。
また、端部の位置と溶融部の先端の位置との関係を予め定めた基準で評価した結果を、端部に対応付けて時系列に表示させる表示制御手段を更に有する、ものであってもよい。
【0012】
また、本発明は、ルートギャップを有する開先のアーク溶接中に撮像される、開先に形成される溶融部の画像を表示部に表示させる表示制御装置において、画像から検出された、溶接が進行する方向についての溶融部の先端の位置を示す記号と、ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を示す直線と、を画像に重ねて表示させる表示制御部を有し、表示制御部は、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部と溶融部の左側の先端との距離の関係、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部と溶融部の右側の先端との距離の関係の両方又は一方を表示する、表示制御装置を提供する。
また、本発明は、被溶接物をアーク溶接する溶接装置と、ルートギャップを有する開先に形成される溶融部を撮像可能な位置に取り付けられた視覚センサと、溶接装置の動きを規定する溶接条件を制御する溶接制御装置とを有する溶接システムにおいて、溶接制御装置は、視覚センサで撮像された画像から、溶接が進行する方向についての溶融部の先端の位置を検出する第1の検出手段と、ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する第2の検出手段と、端部の位置と溶融部の先端の位置との関係を判定する判定手段と、判定の結果に応じて溶接条件を制御する制御手段と、を有し、制御手段は、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部と溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部と溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、溶接条件の補正量を決定する、溶接システムを提供する。
【0013】
また、本発明は、ルートギャップを有する開先をアーク溶接する際における溶接条件を制御する溶接制御方法において、開先に形成される溶融部を撮像する画像から、溶接が進行する方向についての溶融部の先端の位置を検出する工程と、ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する工程と、端部の位置と溶融部の先端の位置との関係を判定する工程と、判定の結果に応じて溶接条件を制御する工程と、を含み、制御する工程は、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部と溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部と溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、溶接条件の補正量を決定する、溶接制御方法を提供する。
また、本発明は、ルートギャップを有する開先をアーク溶接する際における溶接条件を制御する溶接制御装置に用いられるプログラムであって、開先に形成される溶融部を撮像する画像から、溶接が進行する方向についての溶融部の先端の位置を検出する機能と、ルートギャップを規定する被溶接物における端部の位置を検出する機能と、端部の位置と溶融部の先端の位置との関係を判定する機能と、判定の結果に応じて溶接条件を制御する機能と、を溶接制御装置に実現させるためのプログラムであり、制御する機能は、溶接が進行する方向について左側に位置する被溶接物における端部と溶融部の左側の先端との距離、及び、溶接が進行する方向について右側に位置する被溶接物における端部と溶融部の右側の先端との距離の両方又は一方に応じて、溶接条件の補正量を決定するプログラム、であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ルートギャップの目違い、熱変形等のワーク形状の変化又は磁気吹き等の外乱が生じた場合でも、良好な裏波ビードを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る溶接システムの構成例を示す図である。
【
図2】アーク溶接する部位を視覚センサで撮像した画像の例を示す写真である。
【
図3】溶接制御装置を構成する各部の構成を説明する図である。
【
図4】特徴量抽出部による特徴量の抽出例を説明する図である。
【
図5A】フィラーワイヤの溶融が適量である場合を説明する図である。
【
図5B】フィラーワイヤの溶融が不適切である場合の例を説明する図である。
【
図5C】フィラーワイヤの溶融の判定がつかない場合の例を説明する図である。
【
図5D】フィラーワイヤの溶融が不適切である場合の例を説明する図である。
【
図6】本実施の形態における溶接システムが良好な裏波ビードを得るための溶接制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】処理画像として切り出される範囲の例を説明する図である。
【
図8】速度制御モードの設定が有効である場合に実行される制御の詳細を説明するフローチャートである。
【
図9】電流制御モードの設定が有効である場合に実行される制御の詳細を説明するフローチャートである。
【
図10】ワイヤ制御モードの設定が有効である場合に実行される制御の詳細を説明するフローチャートである。
【
図11A】視覚センサによって撮像された画像に、特徴量抽出部によって抽出された左端点と対応する左エッジ線を重ねて表示する画面の例を示す図である。
【
図11B】視覚センサによって撮像された画像に、特徴量抽出部によって抽出された右端点と対応する右エッジ線を重ねて表示する画面の例を示す図である。
【
図12】判定部の判定の結果をルートギャップの左エッジと右エッジに対応付けて表示する画面の例を示す図である。
【
図13】学習装置を有する溶接制御装置の構成例を説明する図である。
【
図14】特徴量抽出部が、視覚センサから入力された画像を学習モデルに適用し、特徴量を抽出するまでの処理過程を説明する図である。
【
図15】判定部が、視覚センサから入力された画像を学習モデルに適用し、4種類の判定結果のいずれかを出力するまでの処理過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態では、非消耗電極を使用する溶接システムの一例であるTIG溶接システムについて説明する。以下では、単に溶接システム1という。
なお、本発明は、本実施の形態で説明する構成に限定されない。例えば消耗電極を使用する溶接システムの一例であるMAG(Metal Active Gas)溶接システムにも、本発明を応用することが可能である。
【0017】
<溶接システムの全体構成>
図1は、実施の形態に係る溶接システム1の構成例を示す図である。
溶接システム1は、被溶接材をアーク溶接する溶接装置10と、溶接装置10の動きを規定する溶接条件を制御する溶接制御装置20とを有している。被溶接材は、被溶接物の一例である。
図1に示す溶接装置10は、溶接部位に対して溶接が進行する方向(以下「溶接方向」という。)の前方に配置された視覚センサ11と、TIG電極を有する溶接トーチ12と、フィラーワイヤ13用の不図示のワイヤリールと、フィラーワイヤ13を送給する不図示の送給機と、フィラーワイヤ13を支持するコンジットケーブル14とを有する。
【0018】
溶接装置10は、キャリッジ(台車)30に搭載されており、キャリッジ30とともにレール31に沿って移動する。
図1の場合、レール31は、溶接方向と平行に設置されている。
本実施の形態における溶接装置10は、アーク溶接する部位に開先を設けた一対の被溶接材50が不図示のルートギャップを挟んで配置されている。
図1の場合、一対の被溶接材50のうちの一方は紙面奥側(すなわちY軸方向)に並んで配置されている。ルートギャップは、一対の被溶接材の間に設けられる隙間を意味する。
図1の場合、溶接方向はX軸の方向である。本実施の形態では、アーク溶接される部位を溶接線ともいう。本実施の形態の溶接線が延長する方向は、X軸と平行である。なお、Z軸は上下方向に対応する。
【0019】
本実施の形態における溶接制御装置20は、視覚センサ11で撮像された画像を処理し、溶接装置10の溶接条件を制御する。ここでの視覚センサ11は1つであり、裏波ビードを撮像する視覚センサは用いない。
本実施の形態における溶接制御装置20は、プログラムを実行するコンピュータとして構成される。
この他、溶接システム1には、アーク16を発生する電圧を電極に印加する溶接電源40と、溶接装置10内に冷却水を循環させる不図示の冷却水循環器も配置されている。
また、溶接システム1には、溶接条件の入力や、溶接装置を構成する各駆動部のマニュアル操作等ができる教示器17(
図3参照)を設置しても良い。教示器17は、溶接装置10の内部に設置してもよいし、溶接装置10の外部に設置してもよい。例えば教示器17は、キャリッジ30上に設置してもよい。
【0020】
<溶接装置10の構成>
図1に示す溶接装置10は、TIG電極を保持する溶接トーチ12と、フィラーワイヤ13を支持するコンジットケーブル14とを備えている。
溶接トーチ12は、溶接線に対して左右方向に直交するY軸方向と、X軸とY軸で規定される平面に対して垂直なZ軸方向とにスライドさせる2軸スライダ15に支持されている。
また、溶接装置10は、被溶接材50にフィラーワイヤ13を供給する不図示のワイヤリールを備えている。
【0021】
<溶接トーチ12の構成>
溶接トーチ12は、TIG電極を有している。このTIG電極に溶接電源40から電圧を印加することでアーク16を発生させる。
図1の例では、1つのキャリッジ30に1つの溶接トーチ12を搭載しているが、複数の溶接トーチ12を設置しても良い。2軸スライダ15は、溶接トーチ12を支持する。2軸スライダ15は、溶接トーチ12をY軸方向にスライドする横スライド部と、溶接トーチ12をZ軸方向にスライドする縦スライド部とを有している。
Y軸方向は、ワークの表面に対して平行な開先の幅方向と一致する。横スライド部は、溶接トーチ12をオシレートするようにスライドする。
Z軸方向は、被溶接材50の厚さ方向である。
横スライド部及び縦スライド部は、不図示のモータの動力を伝達する動力伝達機構などを有しており、TIG電極をY軸方向及びZ軸方向にそれぞれ自動でスライドさせることも可能であるし、溶接の途中にTIG電極をウィービング動作させることも可能である。
なお、複数の溶接トーチ12を用いる場合、溶接トーチ12と溶接トーチ12の間の距離、すなわち極間距離は、50~400mmであることが好ましい。極間距離を50mm以上とすることで、より入熱を抑制することができる。また、極間距離を400mm以下とすることで、裏波ビードの外観がより良好となり、溶接条件の制御が容易になる。
【0022】
<キャリッジ30とレール31の構成>
キャリッジ30は、
図1に示すように、レール31に沿ってX軸方向、言い換えれば溶接線の方向に対して平行に走行する。キャリッジ30の走行により、溶接装置10の全体がX軸方向に移動する。
【0023】
<視覚センサ11の構成>
本実施の形態の場合、視覚センサ11は、溶接トーチ12よりも溶接が進行する方向側に設置されている。換言すると、視覚センサ11は、溶接トーチ12よりも前方に設置されている。
図2は、アーク溶接する部位を視覚センサ11で撮像した画像100の例を示す写真である。
画像100には、溶融部101とその周囲の非溶融部102が含まれている。溶融部101は、溶融したフィラーワイヤ13によって形成される。以下では、溶融部101を溶融池ともいう。非溶融部102は、ルートギャップの左側に位置する被溶接材50Lの開先部分、ルートギャップの右側に位置する被溶接材50Rの開先部分、ルートギャップの非溶融部分を含んでいる。なお、画像100には、溶接トーチ12、フィラーワイヤ13、コンジットケーブル14も写り込んでいる。
本実施の形態の場合、視覚センサ11は、フィラーワイヤ13を支持するコンジットケーブル14と溶接トーチ12の間の空間に配置されている。
視覚センサ11の種類は特に問わないが、紫外線域から赤外線域の広波長域にわたって撮像が可能であり、ダイナミックレンジが広いほど好ましい。
本実施の形態の場合、視覚センサ11の取り付け位置は固定であり、視覚センサ11により画像100が撮像される範囲もおおよそ固定されている。もっとも、撮像される範囲を固定せず、例えば溶接トーチ12のウィービングに合わせて、撮像される範囲をズームアップ、近接、又は、搖動しても良い。
【0024】
ところで、アーク16の輝度は、溶接電流によって変化する。輝度が変化すると、視覚センサ11により撮像される画像100において、ルートギャップを規定する被溶接材50L及び50Rの端部や溶融池の先端部の形状の認識が困難となる。このため、溶接電流に応じたシャッタースピード、しぼり、ニュートラル・デンシティーフィルター(NDフィルター)、バンドパスフィルター、ショートパスフィルター、ロングパスフィルター等を使用し、入射する単位時間当たりの光の量又は波長を調整することが好ましい。
なお、シャッタースピード、しぼり、ND(Neutral Density)フィルターは、視覚センサ11に入射する光の量に影響し、バンドパスフィルター、ショートパスフィルター、ロングパスフィルターは、視覚センサ11が得ることができる波長に影響する。例えば溶接電流が200A未満の場合は、視覚センサ11が得る光量を予め定めた波長または波長域に対し15~95%の範囲内(入ってくる光量を100とした場合、視覚センサ11が得る光量は15~95)で透過させるようにシャッタースピード、しぼり、NDフィルター等を調整し、例えば溶接電流が200A~400Aの場合は、視覚センサ11が得る光量を予め定めた波長または波長域に対し5~90%の範囲内(入ってくる光量を100とした場合、視覚センサ11が得る光量は5~90)で透過させるようにシャッタースピード、しぼり、NDフィルター等を調整し、例えば溶接電流が500Aを超える場合は、視覚センサ11が得る光量を予め定めた波長または波長域に対し0.5~85の範囲内(入ってくる光量を100とした場合、視覚センサ11が得る光量は0.5~80)で透過させるようにシャッタースピード、しぼり、NDフィルター等を調整することが好ましい。また、視覚センサ11に入射する波長または波長域は、例えば500~1200nmの範囲内から選択されることが好ましい。より好ましくは、視覚センサ11が得る光量が、溶接条件の制御に合わせて自動的に調整されると良い。また、撮像される画像100中の任意の部位の輝度値を計測し、予め定めた設定輝度値に制御するような自動調整を行っても良い。なお、任意の部位とは、例えば溶融池が挙げられる。
【0025】
<溶接制御装置20の構成>
本実施の形態の場合、溶接制御装置20(
図1参照)は、キャリッジ30(
図1参照)に搭載される溶接装置10(
図1参照)とは離れて設けられており、溶接装置10を構成する各部の動作の制御、溶接条件の制御、及び視覚センサ11によって撮像された画像を処理、演算又は判定し、溶接条件の補正量を出力する制御等を行う。
溶接装置10を構成する各部の動作の制御には、例えば予め設定された溶接条件に合わせて、ウィービング条件に寄与する2軸スライダによるスライド、溶接速度(キャリッジ30の移動速度)、フィラーワイヤ13の供給速度等の動作を制御する。なお、全ての制御を一つの制御盤で実行しても良いが、用途ごとに溶接制御装置20を分割しても良い。また、溶接制御装置20は、溶接条件を記憶して出力する制御を含む。
【0026】
図3は、溶接制御装置20を構成する各部の構成を説明する図である。
溶接制御装置20は、記憶部201、画像入力部202、画像処理部203、特徴量抽出部204、判定部205、補正量演算部206、溶接装置I/F処理部207、溶接電源I/F処理部208を含む。
記憶部201は、例えば教示器17等から予め設定された溶接条件を記憶する。記憶される溶接条件には、例えば溶接電流、アーク電圧、溶接速度(キャリッジ30の移動速度)、フィラーワイヤ13の送給速度、ウィービング条件、被溶接材50L及び50Rの条件等がある。ウィービング条件には、例えばオシレート速度、オシレート停止時間、オシレート幅、反転高さ、シフト量等の情報がある。被溶接材50L及び50Rの条件には、例えば板厚、開先の形状、開先の角度、ルートギャップ等の情報がある。
【0027】
画像入力部202には、視覚センサ11で撮像された画像が入力される。
画像処理部203は、入力された画像のエッジを強調する前処理、処理部分の抽出などを実行する。エッジ強調前処理では、例えばノイズ除去、鮮鋭化、二値化等が実行される。処理部分の抽出では、例えば処理画像の切り出し、範囲の指定、中心点や中心軸の設定等が実行される。
特徴量抽出部204は、画像処理部203で処理された後の画像100の中から予め定めた特徴量の抽出を実行する。
図4は、特徴量抽出部204(
図3参照)による特徴量の抽出例を説明する図である。特徴量を抽出する前の画像100は
図2の画像100に対応する。
本実施の形態の場合、特徴量抽出部204は、特徴量として、ルートギャップの左端を規定する左エッジ線111L、ルートギャップの右端を規定する右エッジ線111R、溶融部101のうち溶接が進行する方向に成長する左側の先端である左端点112Lと右側の先端である右端点112Rを抽出する。溶融部101は、被溶接材50L及び50Rのうち開先が形成されている壁面の近傍に形成される。
ここでの特徴量抽出部204は、第1の検出手段の一例であるとともに第2の検出手段の一例でもある。
【0028】
判定部205(
図3参照)は、特徴量抽出部204で抽出された左エッジ線111Lに対する左端点112Lの位置の関係と、特徴量抽出部204で抽出された右エッジ線111Rに対する右端点112Rの位置の関係とに基づいて、裏面側に形成される裏波ビードの良否を判定する。ここでの判定部205は、判定手段の一例である。
図5A~
図5Dは、判定部205による判定方法の一例を示す図である。
図5A~
図5Dでは、左エッジ線111Lと左端点112Lとの関係を示している。右エッジ線111Rと右端点112Rとの関係も同様に判定することが可能である。
図5Aは、フィラーワイヤ13(
図1参照)の溶融が適量である場合を説明する図である。図中の破線は、左エッジ線111Lを基準位置とした判定用の境界位置を示している。本実施の形態の場合、Y軸の方向についての破線と破線の間の距離をDとする。距離Dは予め与えられる。
図5Aでは、左エッジ線111Lに対して左右方向に0.5D以内に左端点112Lが位置している。
【0029】
図5Bは、フィラーワイヤ13(
図1参照)の溶融が不適切である場合の例を説明する図である。図では、左端点112Lが、左エッジ線111Lから左方向に1.5D以上離れている。
図5Cは、フィラーワイヤ13(
図1参照)の溶融の判定がつかない場合の例を説明する図である。図では、左端点112Lが、左エッジ線111Lから左方向に0.5以上1.5D未満離れている。
図5Dは、フィラーワイヤ13(
図1参照)の溶融が不適切である場合の例を説明する図である。図では、左端点112Lが、左エッジ線111Lから右方向に1.5D以上離れている。
なお、
図5A~
図5Dにおいて、左方向はルートギャップから離れる方向であり、右方向はルートギャップの中心線に近づく方向である。
【0030】
補正量演算部206(
図3参照)は、判定部205(
図3参照)の判定の結果に応じた補正量を計算する。例えば左エッジ線111Lと左端点112Lの位置の関係が
図5B又は
図5Dに示す関係にあり、現状の裏波ビードの状態が不良と判定された場合、補正量演算部206は、溶接条件の補正量を算出する。
補正量演算部206は、例えば溶接電流、アーク電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度、電極位置、ワイヤ挿入位置及びウィービング条件のうちのいずれか1つ又は複数について溶接条件の補正量を算出することが好ましい。
溶接装置I/F処理部207(
図3参照)及び溶接電源I/F処理部208(
図3参照)には、記憶部201(
図3参照)に記憶されている溶接条件と、補正量演算部206によって算出された補正量が入力される。溶接装置I/F処理部207は、入力された溶接条件と補正量に基づいて及び溶接装置10に出力する溶接条件指令を生成する。溶接電源I/F処理部208は、入力された溶接条件と補正量に基づいて溶接電源40に出力する溶接条件指令を生成する。
なお、補正量演算部206、溶接装置I/F処理部207及び溶接電源I/F処理部208は、溶接条件を制御する制御手段の一例である。
【0031】
表示制御部209(
図3参照)は、判定部205の判定の結果を表示部210(
図3参照)の画面上に表示する処理を実行する。例えば表示制御部209は、視覚センサ11で撮像された画像100に重ねて、特徴量抽出部204で抽出された溶融池の先端点と、ルートギャプの端部を規定する直線とを表示する。例えば左端点112Lと対応する左エッジ線111Lが画像100に重ねて表示される。又は、右端点112Rと対応する右エッジ線111Rが画像100に重ねて表示される。この表示は、特徴量の抽出と並行して表示される。
また、表示制御部209は、判定部205の判定の結果、すなわち溶接の良否を表す情報を左端点112L及び右端点112Rに対応付けて表示する。本実施の形態では、左端点112L及び右端点112Rのそれぞれについて、判定の結果を時系列に表示する。ここでの表示制御部209は、表示制御装置の一例であると共に表示制御手段の一例でもある。
【0032】
<制御方法>
図6は、本実施の形態における溶接システム1(
図1参照)が良好な裏波ビードを得るための溶接制御方法の一例を示すフローチャートである。
本実施の形態の場合、
図6に示す制御は、溶接制御装置20(
図1参照)が実行する。図中の記号Sはステップを示す。
まず、溶接制御装置20は、処理モードを設定する(ステップ1)。ここでは、教示器17から読み出された溶接条件が記憶部201に設定される。
溶接条件は、例えば溶接電流、アーク電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度、電極位置、ワイヤ挿入位置及びウィービング条件のうちのいずれか1つまたは複数であることが好ましい。
本実施の形態においては、溶接速度、溶接電流、ワイヤ送給速度を制御するか否かが設定される。制御モードごとに「有効」又は「無効」を設定することで、「速度制御モード」、「電流制御モード」、「ワイヤ制御モード」のうちの1つ又は複数の制御を選択できる。
【0033】
記憶部201に各種の条件が設定されると、溶接制御装置20は、溶接の開始を指示する。
溶接の開始後、視覚センサ11は、アーク近傍の溶融部101と非溶融部102を含む画像100を撮像し、撮像した画像100に対応する画像データを出力する。この画像データは、溶接制御装置20の画像入力部202に入力される(ステップ2)。すなわち、溶接画像が取り込まれる。
次に画像処理部203は、入力された画像から予め設定された範囲が処理画像として切り出され、切り出し後の画像のノイズ除去、鮮鋭化、二値化等のエッジ強調前処理を実行する。
【0034】
図7は、処理画像として切り出される範囲の例を説明する図である。
言うまでもなく、
図7に示す切り出し例は一例である。
図7の例の場合では、溶融部101の2つの先端点のそれぞれを含む2つの処理範囲120L及び120Rが切り出される。範囲120Lは、溶融部101の左端点112Lと、左側の被溶接材50Lの開先部分の壁面を含む。処理範囲120Rは、溶融部101の右端点112Rと、右側の被溶接材50Rの開先部分の壁面を含む。
処理範囲120L及び120Rはそれぞれ、予め指定された基準点PL及びPRに基づいて切り出される。処理範囲120L内の位置は基準点PLを基準に与えられ、処理範囲120R内の位置は基準点PRを基準に与えられる。
処理範囲120L及び120Rは、予め定めた基準点PL及びPRを基準に固定的に定めてもよいが、画像処理部203が入力される画像100の変化に伴い、処理範囲120L及び120Rを設定する領域をその都度変えてもよい。例えば、搖動する溶接トーチ12の先端を基準点とし、搖動に合わせて処理範囲を変えてもよい。
【0035】
図6の説明に戻る。
画像処理が終了すると、特徴量抽出部204は、画像処理により特徴量を抽出する(ステップ3)。本実施の形態の場合、特徴量抽出部204は、ルートギャップの左端に対応する左エッジ線111L、ルートギャップの右端に対応する右エッジ線111R、溶融池の左側の先端である左端点112L、溶融池の右側の先端である右端点112Rを特徴量として抽出する。
左エッジ線111L及び右エッジ線111Rは、二値化された画像をハフ(Hough)変換して抽出する。本実施の形態では、処理範囲120L及び120Rをそれぞれハフ(Hough)変換し、処理範囲120L及び120Rのそれぞれについて検出された複数の直線のうち最も長い直線を左エッジ線111L及び右エッジ線111Rとする。ここでの直線は、1次関数(すなわちx=ay+b)で与えられる。x及びyは、基準点PL及びPRについての座標値であり、aは傾き、bは切片である。
【0036】
なお、特徴量抽出部204は、処理範囲120Lに含まれる溶融池の先端である円弧形状を左端点112Lとして検出し、処理範囲120Rに含まれる溶融池の先端である円弧形状を右端点112Rとして検出する。
処理範囲120L及び120Rに対応する画像100から抽出された特徴量の情報は、判定部205に与えられる。判定部205は、
図5A~
図5Dに示すように、左端点112Lとルートギャップの左エッジ線111Lとの位置関係、又は、右端点112Rとルートギャップの右エッジ線111Rとの位置関係を判定し、いずれか一方でも位置関係が溶接の不良を意味する場合、補正量演算部206が予め設定した溶接条件の補正量を演算する。
【0037】
次に、判定部205及び補正量演算部206は、速度制御モード(ステップ4)、電流制御モード(ステップ6)、ワイヤ制御モード(ステップ8)のそれぞれについて、設定が有効であるか無効であるかを判定する。
速度制御モードの設定が有効である場合(ステップ4で有効の場合)、判定部205及び補正量演算部206は、溶接速度を制御する(ステップ5)。この後、判定部205及び補正量演算部206はステップ6に進む。
速度制御モードの設定が無効である場合(ステップ4で無効の場合)、判定部205及び補正量演算部206は、電流制御モードの設定が有効であるか否かを判定する(ステップ6)。
電流制御モードの設定が有効である場合(ステップ6で有効の場合)、判定部205及び補正量演算部206は、溶接電流を制御する(ステップ7)。この後、判定部205及び補正量演算部206はステップ8に進む。
電流制御モードの設定が無効である場合(ステップ6で無効の場合)、判定部205及び補正量演算部206は、ワイヤ制御モードの設定が有効であるか否かを判定する(ステップ8)。
ワイヤ制御モードの設定が有効である場合(ステップ8で有効の場合)、判定部205及び補正量演算部206は、ワイヤ速度を制御する(ステップ9)。この後、判定部205及び補正量演算部206は、ステップ2に戻る。
ワイヤ制御モードの設定が無効である場合(ステップ8で無効の場合)も、判定部205及び補正量演算部206は、ステップ2に戻る。
このループ処理は、被溶接材50L及び50Rの溶接が実行されている間、繰り返される。
以下では、ステップ5の溶接速度の制御、ステップ7の溶接電流の制御、ステップ9のワイヤ速度の制御の詳細を説明する。
【0038】
<溶接速度の制御>
図8は、速度制御モードの設定が有効である場合に実行される制御の詳細を説明するフローチャートである。
まず、判定部205が画像100を判定する(ステップ11)。
まず、判定部205は、抽出されたルートギャップのエッジ線に対する溶融池の先端点の位置の関係を判定する(ステップ12)。具体的には、抽出された左端点112Lがルートギャップの左エッジ線111Lに対して
図5Aに示す関係を満たすか否かを判定する。換言すると、左端点112Lとルートギャップの左エッジ線111Lとの相対距離が予め定めた範囲内であるか範囲外であるかを判定する。同様に、抽出された右端点112Rがルートギャップの右エッジ線111Rに対して
図5Aに示す関係を満たすか否かを判定する。換言すると、右端点112Rとルートギャップの右エッジ線111Rとの相対距離が予め定めた範囲内であるか範囲外であるかを判定する。
【0039】
本実施の形態の場合、判定部205は、左端点112Lとルートギャップの左エッジ線111Lの距離LL、又は、右端点112Rとルートギャップの右エッジ線111Rの距離LRを算出する。なお、揺動駆動される溶接トーチ12(
図1参照)の画像内の位置によっては、距離LL又はLRの両方が一度に算出される。以下では、距離LL及び距離LRを総称して距離Lともいう。
ここでは、溶融池の先端点である左端点112L又は右端点112Rの座標を代表して(X1,Y1)とし、ルートギャップの左エッジ線111L又は右エッジ線111Rを与える1次関数を代表してx=ay+bとすると、距離Lは、次式で示される。
L=abs(X1-ay1-b)/√(X1
2+y1
2) …(式1)
ここで、abs()は、カッコ内の数値の絶対値を与える関数である。また、aは傾き、bは切片である。
【0040】
距離Lが予め定めた範囲内である場合、判定部205は、裏波ビードは良好であると判定する。一方、距離Lが予め定めた範囲外である場合、判定部205は、裏波ビードは不良であると判定する。
ステップ12の判定で範囲外(すなわち不良)と判定された場合、判定部205は、更に、予め定めた一定時間、範囲外が継続しているか否かを判定する(ステップ13)。
ステップ13で否定結果が得られた場合、判定部205は、不良の原因が単なる外乱によるものと判定し、ステップ15に進む。この場合、溶接速度は維持される。一方、ステップ13で肯定結果が得られた場合、判定部205は、継続的に裏波ビードが不良であると判定する。本実施の形態の場合、補正量演算部206は、溶接速度を増減するように補正量を算出する(ステップ14)。例えば、ステップ12の判定で
図5Bのように判定されると溶接速度を増加させ、
図5Dのように判定されると溶接速度を減少させるように補正量を算出する。この場合、補正後の溶接速度が溶接条件指令として溶接装置10に出力される。なお、本実施の形態では、溶接速度はキャリッジ30の移動速度とする。
このように、溶接速度の補正量は、溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との距離の関係、距離が不良と判定される継続時間とに基づいて演算されることが好ましい。
【0041】
本実施の形態の場合、判定部205は、更に、溶融池の形状を判定する(ステップ15)。なお、この溶融池の形状の判定の実行は任意である。
溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との関係により溶接速度を制御することにより良好な裏波ビードは維持できるが、溶接速度の増減によって溶着量もまた変化する。
そこで、本実施の形態における判定部205は、例えば処理範囲120L又は120Rの画像100から溶融池の幅、面積、体積等の情報を取得し、取得された情報から溶融池の形状を検出する。更に、判定部205は、検出された溶融池の形状と予め設定した理想的な形状とを比較し、又は、理想的な形状との差分を評価し、検出された溶融池の形状が理想的な形状に対して所定の範囲内か範囲外かを判定する(ステップ15)。
【0042】
ステップ15の判定で範囲外と判定された場合、判定部205は、更に、予め定めた一定時間、範囲外が継続しているか否かを判定する(ステップ16)。
ステップ16で否定結果が得られた場合、判定部205は、形状が範囲外と判定された原因が単なる外乱によるものと判定し、現在の溶接速度を維持したまま処理を終了する。
一方、ステップ16で肯定結果が得られた場合、判定部205は、形状が継続的に範囲外であると判定する。本実施の形態の場合、補正量演算部206は、溶接速度を増減するように補正量を算出する(ステップ17)。例えば、ステップ14で溶接速度を上げすぎて溶着量が規定範囲よりも増したと判定された場合、溶接速度を低下させ、溶融池の形状を理想的な形状に近づけるように調整を加える。
この場合、ステップ14とステップ17の両方の補正量を加味した溶接速度が溶接条件指令として溶接装置10に出力される。
このように、溶接速度の補正量は、溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との距離の関係、距離が不良と判定される継続時間だけでなく、溶融池の形状の変化も加味して演算されることが好ましい。
【0043】
<溶接電流の制御>
図9は、電流制御モードの設定が有効である場合に実行される制御の詳細を説明するフローチャートである。
まず、判定部205が画像100を判定する(ステップ21)。
まず、判定部205は、抽出されたルートギャップのエッジ線に対する溶融池の先端点の位置の関係を判定する(ステップ22)。具体的には、抽出された左端点112Lが左エッジ線111Lに対して
図5Aに示す関係を満たすか否かを判定する。換言すると、左端点112Lと左エッジ線111Lとの相対距離が予め定めた範囲内であるか範囲外であるかを判定する。同様に、抽出された右端点112Rが右エッジ線111Rに対して
図5Aに示す関係を満たすか否かを判定する。換言すると、右端点112Rと右エッジ線111Rとの相対距離が予め定めた範囲内であるか範囲外であるかを判定する。
【0044】
本実施の形態の場合、判定部205は、左端点112Lと左エッジ線111Lの距離LL、又は、右端点112Rと右エッジ線111Rの距離LRを算出する。なお、揺動駆動される溶接トーチ12(
図1参照)の画像内の位置によっては、距離LL又はLRの両方が一度に算出される。以下では、距離LL及び距離LRを総称して距離Lともいう。
ここでの距離Lも、前述した式1を用いて計算する。
距離Lが予め定めた範囲内である場合、判定部205は、裏波ビードは良好であると判定する。一方、距離Lが予め定めた範囲外である場合、判定部205は、裏波ビードは不良であると判定する。
【0045】
ステップ22の判定で範囲外(すなわち不良)と判定された場合、判定部205は、更に、予め定めた一定時間、範囲外が継続しているか否かを判定する(ステップ23)。
ステップ23で否定結果が得られた場合、判定部205は、不良の原因が単なる外乱によるものと判定し、ステップ26に進む。この場合、溶接速度は維持される。一方、ステップ23で肯定結果が得られた場合、判定部205は、継続的に裏波ビードが不良であると判定する。本実施の形態の場合、補正量演算部206は、溶接電流を増減するように補正量を算出する(ステップ24)。例えば、ステップ23の判定で
図5Bのように判定されると溶接電流を減少させ、
図5Dのように判定されると溶接電流を増加させるように補正量を算出する。なお、溶接電流の波形がパルス形状である場合、溶接電流は、例えば平均パルス電流で判断するとよい。平均パルス電流は、ピーク電流値、ベース電流値、ピーク期間もしくはベース期間等のパラメータで変化するため予めこれらのパラメータのうち1つ又は2つ以上を平均パルス電流が増減するパラメータとして決定しておくことが好ましい。この場合、補正後の溶接電流が溶接条件指令として溶接電源40に出力される。
このように、溶接電流の補正量は、溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との距離の関係、距離が不良と判定される継続時間とに基づいて演算されることが好ましい。
【0046】
この場合も、判定部205は、更に、溶融池の形状を判定する(ステップ25)。ここでも、溶融池の形状の判定の実行は任意である。
本実施の形態における判定部205は、例えば処理範囲120L又は120Rの画像100から溶融池の幅、面積、体積等の情報を取得し、取得された情報から溶融池の形状を検出する。更に、判定部205は、検出された溶融池の形状と予め設定した理想的な形状とを比較し、又は、差分を評価し、検出された溶融池の形状が理想的な形状に対して所定の範囲内か範囲外かを判定する(ステップ25)。
【0047】
ステップ25の判定で範囲外と判定された場合、判定部205は、更に、予め定めた一定時間、範囲外が継続しているか否かを判定する(ステップ26)。
ステップ26で否定結果が得られた場合、判定部205は、形状が範囲外と判定された原因が単なる外乱によるものと判定し、現在の溶接電流及びパルス電流を維持したまま処理を終了する。
一方、ステップ26で肯定結果が得られた場合、判定部205は、形状が継続的に範囲外であると判定する。本実施の形態の場合、補正量演算部206は、溶接電流を増減するように補正量を算出する(ステップ27)。例えば、ステップ24で上げすぎた溶接電流を低下させ、溶融池の形状を理想的な形状に近づけるように調整を加える。
この場合、ステップ24とステップ27の両方の補正量を加味した溶接電流が溶接条件指令として溶接電源40に出力される。
このように、溶接電流の補正量は、溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との距離の関係、距離が不良と判定される継続時間だけでなく、溶融池の形状の変化も加味して演算されることが好ましい。
【0048】
<ワイヤ速度の制御>
図10は、ワイヤ制御モードの設定が有効である場合に実行される制御の詳細を説明するフローチャートである。
まず、判定部205が画像100を判定する(ステップ31)。
まず、判定部205は、抽出されたルートギャップのエッジ線に対する溶融池の先端点の位置の関係を判定する(ステップ32)。具体的には、抽出された左端点112Lが左エッジ線111Lに対して
図5Aに示す関係を満たすか否かを判定する。換言すると、左端点112Lと左エッジ線111Lとの相対距離が予め定めた範囲内であるか範囲外であるかを判定する。同様に、抽出された右端点112Rが右エッジ線111Rに対して
図5Aに示す関係を満たすか否かを判定する。換言すると、右端点112Rと右エッジ線111Rとの相対距離が予め定めた範囲内であるか範囲外であるかを判定する。
【0049】
本実施の形態の場合、判定部205は、左端点112Lと左エッジ線111Lの距離LL、又は、右端点112Rと右エッジ線111Rの距離LRを算出する。なお、揺動駆動される溶接トーチ12(
図1参照)の画像内の位置によっては、距離LL又はLRの両方が一度に算出される。以下では、距離LL及び距離LRを総称して距離Lともいう。
ここでの距離Lも、前述した式1を用いて計算する。
距離Lが予め定めた範囲内である場合、判定部205は、裏波ビードは良好であると判定する。一方、距離Lが予め定めた範囲外である場合、判定部205は、裏波ビードは不良であると判定する。
【0050】
ステップ32の判定で範囲外(すなわち不良)と判定された場合、判定部205は、更に、予め定めた一定時間、範囲外が継続しているか否かを判定する(ステップ33)。
ステップ33で否定結果が得られた場合、判定部205は、不良の原因が単なる外乱によるものと判定し、ステップ35に進む。この場合、溶接速度は維持される。一方、ステップ33で肯定結果が得られた場合、判定部205は、継続的に裏波ビードが不良であると判定する。本実施の形態の場合、補正量演算部206は、ワイヤ送給速度を増減するように補正量を算出する(ステップ34)。例えば、ステップ33の判定で
図5Bのように判定されるとワイヤ送給速度を減少させ、
図5Dのように判定されるとワイヤ送給速度を増加させるように補正量を算出する。この場合、補正後のワイヤ送給速度が溶接条件指令として溶接装置10に出力される。
このように、ワイヤ送給速度の補正量は、溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との距離の関係、距離が不良と判定される継続時間とに基づいて演算されることが好ましい。
【0051】
この場合も、判定部205は、更に、溶融池の形状を判定する(ステップ35)。ここでも、溶融池の形状の判定の実行は任意である。
本実施の形態における判定部205は、例えば処理範囲120L又は120Rの画像100から溶融池の幅、面積、体積等の情報を取得し、取得された情報から溶融池の形状を検出する。更に、判定部205は、検出された溶融池の形状と予め設定した理想的な形状とを比較し、又は、差分を評価し、検出された溶融池の形状が理想的な形状に対して所定の範囲内か範囲外かを判定する(ステップ35)。
【0052】
ステップ35の判定で範囲外と判定された場合、判定部205は、更に、予め定めた一定時間、範囲外が継続しているか否かを判定する(ステップ36)。
ステップ36で否定結果が得られた場合、判定部205は、形状が範囲外と判定された原因が単なる外乱によるものと判定し、現在の溶接電流及びパルス電流を維持したまま処理を終了する。
一方、ステップ36で肯定結果が得られた場合、判定部205は、形状が継続的に範囲外であると判定する。本実施の形態の場合、補正量演算部206は、ワイヤ送給速度を増減するように補正量を算出する(ステップ37)。例えばステップ34で下げすぎたワイヤ送給速度を上げて、溶融池の形状を理想的な形状に近づけるように調整を加える。また、補正量演算部206は、溶接電流を増減するように補正量を算出する(ステップ38)。
この場合、ステップ34とステップ37の両方の補正量を加味したワイヤ送給速度が溶接条件指令として溶接装置10に出力される。
このように、ワイヤ送給速度の補正量は、溶融池の先端点とルートギャップのエッジ線との距離の関係、距離が不良と判定される継続時間だけでなく、溶融池の形状の変化も加味して演算されることが好ましい。
【0053】
<表示制御部209の処理>
本実施の形態に係る溶接制御装置20の表示制御部209には、特徴量抽出部204によって抽出された特徴量の位置を作業者が確認するための表示機能が用意されている。もっとも、この機能の搭載は任意である。
図11Aは、視覚センサ11によって撮像された画像100に、特徴量抽出部204によって抽出された左端点112Lと対応する左エッジ線111Lを重ねて表示する画面の例を示す図である。
図11Aでは、左端点112Lを円形の記号で表し、抽出された左エッジ線111Lを直線で示している。
図11Bは、視覚センサ11によって撮像された画像100に、特徴量抽出部204(
図3参照)によって抽出された右端点112Rと対応する右エッジ線111Rを重ねて表示する画面の例を示す図である。
図11Bでは、右端点112Rを円形の記号で表し、抽出された右エッジ線111Rを直線で示している。
【0054】
図11A及び
図11Bにおける左端点112L及び右端点112Rの表示色や左エッジ線111L及び右エッジ線111Rの表示色は、任意である。もっとも、作業者による確認が容易になるように、抽出された特徴点の輝度を周囲の画像に比べて高くしてもよいし、表示色を周囲の画像の反対色に近い色としてもよい。
このように、抽出された特徴量を表す記号や直線を、特徴量が抽出された画像100と重ねて表示することで、抽出が正確に実行されているかを作業者が目視で確認することが可能になる。
【0055】
また、本実施の形態に係る溶接制御装置20の表示制御部209には、判定部205による判定の結果を作業者が確認するための表示機能が用意されている。この機能の搭載も任意である。
図12は、判定部205の判定の結果をルートギャップの左エッジと右エッジに対応付けて表示する画面の例を示す図である。
図中、左側の位置する帯状の表示欄130Lは、ルートギャップの左エッジに対応する判定結果を示し、右側の位置する帯状の表示欄130Rは、ルートギャップの右エッジに対応する判定結果を示している。
図12の場合、判定結果が出力された時点に線分を示し、判定結果が出力されない期間を空白で示す。
【0056】
本実施の形態の場合、線分の色の違いで判定の結果の良否を表している。例えば青色は、良好な裏波ビードが形成されていると判定された場合に用いられる。この場合は、先端点とルートギャップのエッジ線が
図5Aの関係を満たす場合である。
また、赤色は、裏波ビードの形成が不良であると判定された場合に用いられる。この場合は、先端点とルートギャップのエッジ線が
図5B又は
図5Dの関係を満たす場合である。
また、黄色は、裏波ビードの良否が不明と判定された場合に用いられる。この場合は、先端点とルートギャップのエッジ線が
図5Cの関係を満たす場合である。
図12の場合、最新の判定結果が、各表示欄130L及び130Rの最上部に表示される。従って、各表示欄130L及び130Rの最下部は、表示されている判定結果の得られた時点が最も古い時点の情報に対応する。
【0057】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上述の実施の形態に記載の範囲に限定されない。上述の実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば学習装置による学習の結果を特徴量の抽出、形成される裏波ビードの良否の判定、溶接条件の補正量の演算に反映させても良い。
図13は、学習装置211を有する溶接制御装置20Aの構成例を説明する図である。ここで、
図13には、
図3との対応部分に対応する符号を付して示している。
図13に示す溶接制御装置20Aが、
図3に示す溶接制御装置20と異なる点は、学習装置211に教師データが与えられ、生成された学習モデルが特徴量抽出部204、判定部205及び補正量演算部206に与えられる点である。
【0058】
図13の場合、特徴量抽出部204は、例えば回帰結合型のディープニューラルネットワーク(以下「DNN」という。)を用いて生成された学習モデルを視覚センサ11で撮像された画像100に適用し、溶融池の先端点を与える座標(X1,Y1)と、ルートギャップのエッジ線を与える1次関数とを抽出する。ここでの学習モデルは、第1のモデルと第2のモデルの一例である。
具体的には、座標を与えるX1及びY1の値と、式1で表現される1次関数の傾きaと切片bの値を決定する。
学習モデルの生成には、事前に適切な教師データを学習装置211に与える必要がある。まず、教師データとして、多種多様な溶接条件で被溶接材を溶接した場合に撮像された画像データのそれぞれについて与えた座標値X1、Y1、傾きa及び切片bの関係を複数組用意する。
教師データを与えられた学習装置211は、多種多様な溶接条件の下で撮像された画像データに対し、座標値X1、Y1、傾きa及び切片bを出力する回帰結合型のDNNを設計し、入力された様々な画像データを更に学習することにより、回帰結合型のDNNの学習用モデルを生成する。生成された学習モデルは、特徴量抽出部204に与えられる。
図14は、特徴量抽出部204が、視覚センサ11から入力された画像を学習モデルに適用し、特徴量を抽出するまでの処理過程を説明する図である。
図14に示すように、特徴量抽出部204は、画像100の全体にわたって、特徴の一致件数を算出し、画像の特徴部分を抽出する畳み込み層と、抽出された特徴部分を強調するノイズ処理を行うプーリング層とを繰り返し、最終的に処理結果を結合する全結合層を実行し、座標値座標値X1、Y1、傾きa及び切片bを出力する。
【0059】
図13の説明に戻る。
判定部205と補正量演算部206において、例えば回帰結合型のディープニューラルネットワーク(以下「DNN」という。)を用いて生成された学習モデルを入力データに適用し、抽出された特徴量に対する判定結果や補正量を出力させてもよい。
判定部205の判定用や補正量演算部206の演算用にも、前述した特徴量抽出部204と同様の手順で教師データを準備すればよい。すなわち、多種多様な溶接条件で被溶接材を溶接する場合の画像データ等の入力データに対する出力値の関係を教師データとして複数組用意すればよい。
【0060】
ここでは、判定部205で用いる判定用の学習データの出力として、例えばp1~p4の4つを使用する。
p1は、
図5Aに対応する良好な裏波ビードが生成される状態、すなわち「溶けている」状態である。
p2は、
図5Cに対応する良好な裏波ビードが生成されているか不明な状態、すなわち「溶けているか溶けていないか判断つかない」状態である。
p3は、
図5B及び
図5Dに対応する不良な裏波ビードが生成される状態、すなわち「溶けていない」状態である。
p4は、画像100に写り込んだワイヤ等が邪魔になって位置関係の判定を行えない状態である。p4は、
図12の空白の期間に対応する。
【0061】
教師データを与えられた学習装置211は、多種多様な溶接条件の下で撮像された画像データに対し、4種類の出力p1~p4を出力する回帰結合型のDNNを設計し、入力された様々な画像データを更に学習することにより、回帰結合型のDNNの学習用モデルを生成する。生成された学習モデルは、判定部205に与えられる。
図15は、判定部205が、視覚センサ11から入力された画像を学習モデルに適用し、4種類の判定結果のいずれかを出力するまでの処理過程を説明する図である。
図15に示すように、判定部205は、画像100の全体にわたって、特徴の一致件数を算出し、画像の特徴部分を抽出する畳み込み層と、抽出された特徴部分を強調するノイズ処理を行うプーリング層とを繰り返し、最終的に処理結果を結合する全結合層を実行し、p1~p4のいずれかを出力する。
【0062】
補正量演算部206による補正量も出力させる場合には、4種類の出力p1~p4と予め定めた溶接条件との関係に従って補正量を出力させるように設計すればよい。
この場合に、「溶けていない」状態を、更に「若干溶けていない」と「全く溶けていない」に分類し、各分類に応じた補正量を出力させてもよい。
例えば「若干溶けていない」状態と分類された場合には、補正量として、溶接速度を毎分5センチメートル減少させる値が出力されるように設定してもよい。
また例えば「全く溶けていない」状態と分類された場合、補正量として、溶接速度を毎分10センチメートル減少させる値が出力されるように設定してもよい。
なお、前述の説明では、学習モデルの生成にDNNを利用しているが、言うまでもなく、学習モデルの生成はDNNに限らない。
【0063】
また、前述の説明では、特徴量としてのルートギャップのエッジ線を画像処理によって抽出する例と学習モデルを用いて抽出する例について説明したが、溶接しながら測定してもよい。例えば溶接部位よりも溶接方向の前方側でルートギャップのエッジ線の位置を測定するセンサをキャリッジ30に設け、溶接の進行に伴ってセンサから順次出力される測定値を左エッジ線111L及び右エッジ線111Rとして判定部205に与えればよい。例えばセンサは、溶接部位よりも前方であって、ルートギャップを測定可能な位置であれば、キャリッジ30のいずれの場所に取り付けてもよい。センサは、第2の検出手段の一例である。
この場合、特徴量抽出部204は、溶融池の先端点である左端点112Lと右端点112Rだけを画像100から抽出して判定部205に与えればよい。ここでの特徴量抽出部204は、第1の検出手段としてのみ機能する。この場合にも、学習装置211(
図13参照)で生成した学習モデルを特徴量抽出部204等に適用してもよい。ここでの学習モデルは第1のモデルの一例である。
【符号の説明】
【0064】
1…溶接システム、10…溶接装置、11…視覚センサ、12…溶接トーチ、13…フィラーワイヤ、14…コンジットケーブル、15…2軸スライダ、16…アーク、17…教示器、20、20A…溶接制御装置、30…キャリッジ、31…レール、40…溶接電源、50、50L、50R…被溶接材、101…溶融部、102…非溶融部、111L…左エッジ線、111R…右エッジ線、112L…左端点、112R…右端点、120L、120R…処理範囲、204…特徴量抽出部、205…判定部、206…補正量演算部、209…表示制御部