(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ワークピースにチャネルを作成するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20220518BHJP
B23P 17/00 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23P17/00 Z
(21)【出願番号】P 2019521729
(86)(22)【出願日】2017-10-11
(86)【国際出願番号】 GB2017053069
(87)【国際公開番号】W WO2018083438
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-05
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519142468
【氏名又は名称】ザ ウエルディング インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガンドラ ジョアン
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-313520(JP,A)
【文献】特開2006-297434(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016113289(DE,A1)
【文献】中国実用新案第204975681(CN,U)
【文献】特開平11-47961(JP,A)
【文献】特開2012-135789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B23P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ又は複数のワークピース内に挿入するためのプローブを備えた摩擦攪拌チャネリング工具であって、前記プローブがショルダのボアから延在し、且つ、当該ショルダのボア内に回転可能に取り付けられており、前記プローブの表面が、前記ショルダが前記ワークピースに接触している状態での前記プローブの回転時に、可塑化されたワークピース材料が前記ショルダに向けて移動されて前記ショルダのボア内に入るように形成されており、且つ、前記ショルダが、少なくとも1つのベントを有し、当該ベントが、前記ショルダの外側から前記ボアに延在し、これにより、前記可塑化された材料が前記ボアから前記ベントを通って出ていくことができ
、
前記ショルダの表面が、湾曲したワークピースに適合するように凹状である、摩擦攪拌チャネリング工具。
【請求項2】
前記プローブ表面が、前記可塑化されたワークピース材料が前記ショルダに向かって移動されるように1以上のねじ又は溝を有して形成されている、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記ショルダを通って各々が延在し且つ前記ボアに連通している複数のベントをさらに備えている、請求項1又は請求項2に記載の工具。
【請求項4】
前記ベントがボアの周囲に対称的に配置されている、請求項3に記載の工具。
【請求項5】
各ベントが前記ショルダの前記ボアから半径方向外向きに延在している、請求項1~4のいずれか一項に記載の工具。
【請求項6】
前記ショルダの表面が、前記一つ又は複数のワークピースに接触するように適合されており、且つ耐摩耗性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の工具。
【請求項7】
前記ショルダに、低摩擦性、耐磨耗性、耐熱性、耐拡散性、低反応性及び固体潤滑性のうちの1つ又は複数の性質をもたらす表面コーティング又は処理が施されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の工具。
【請求項8】
前記プローブが少なくとも部分的に前記ショルダの前記ボア内に引き込み可能である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の工具。
【請求項9】
前記ショルダの全体が、前記プローブが回転している間に静止状態に維持されるように適合されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の工具。
【請求項10】
前記ショルダが半径方向内側部分を含み、当該半径方向内側部分が、前記プローブと共に回転するように適合され、好ましくは前記プローブと一体的に形成されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の工具。
【請求項11】
前記ショルダの表面、特には設けられている場合には前記半径方向内側部分が、可塑化された材料を前記ショルダの前記ボアに向けて移動させるための構造を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の工具。
【請求項12】
摩擦攪拌チャネリングの方法であって、
一つ又は複数のワークピース内に挿入するためのプローブを備えた摩擦攪拌チャネリング工具であって、前記プローブがショルダのボアから延在し、且つ、当該ショルダのボア内に回転可能に取り付けられており、前記プローブの表面が、前記ショルダが前記ワークピースに接触している状態での前記プローブの回転時に、可塑化されたワークピース材料が前記ショルダに向けて移動されて前記ショルダのボア内に入るように形成されており、且つ、前記ショルダが、少なくとも1つのベントを有し、当該ベントが、前記ショルダの外側から前記ボアに延在し、これにより、前記可塑化された材料が前記ボアから前記ベントを通って出ていくことができる摩擦攪拌チャネリング工具のプローブを回転させるステップと、
前記回転しているプローブをワークピース内に入れ、前記工具の前記ショルダを前記ワークピースに接触させるステップであって、前記ショルダ、又は前記ショルダが半径方向内側部分及び半径方向外側部分を有する場合には前記ショルダの少なくとも半径方向外側部分が、前記ワークピースに対して回転せず、これにより、前記プローブの回転によって前記ワークピースの前記プローブ周囲の材料が可塑化され且つ、前記プローブに引き上げられて前記ショルダの前記ボア内に引き込まれ、そして、前記ショルダ内の前記ベント又は前記複数のベントの1つを通って出ていくステップと、前記工具を前記ワークピースに沿って、チャネルが前記ワークピース内に形成されるような作業状態下で移動させるステップとを含む、方法。
【請求項13】
前記工具が、湾曲した経路、典型的には蛇行した経路に沿って移動される、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
各ベントから出てくる前記材料がリール上に巻き付けられる、請求項
12又は
13に記載の方法。
【請求項15】
前記ワークピースが湾曲面を有し、前記ショルダが、前記ワークピースに係合するように対応する湾曲面を有する、請求項
12~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセスの開始時に、前記プローブが回転しながら前記ボアから外側に向かって軸方向に移動され、これにより前記ワークピースに接触し、その後、前記ショルダが前記ワークピースに接触され、且つ、前記プロセスの終了時に前記プローブが前記ボア内に引き込まれる、請求項
12~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記プロセスの開始時に、前記ショルダが前記ワークピースに接触され、その後、前記プローブが回転しながら前記ボアから外側に向かって軸方向に移動され、これにより前記ワークピースに接触する、請求項
12~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ワークピースが、バット、ラップ又はコーナー又はその他の構造の単一のモノリシックワークピース又は複数のワークピースである、請求項
12~
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ワークピース材料が、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉛を含む金属、又は、鉄、チタン、ニッケルのような高温金属、又は、ポリ塩化ビニルおよびアクリルのようなポリマーから選択される、請求項
12~
18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークピース(被加工物)内にチャネル(溝)を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌溶接の開発が、摩擦撹拌チャネリング(溝形成)として知られており、摩擦撹拌チャネリングにおいては、摩擦撹拌プロセスが、材料をワークピースのバルクから意図的に移動させてチャネルを形成するように改変される。この方法は、流体(例えば熱交換のための)又はその他物質のための通路を形成するために用いられ得る。このプロセスの最初の公知の記載が、特許文献1の出願に見られる。
【0003】
特許文献1は、内部流体の流れを必要とする場所(例えば、熱交換器)における、金属体における一体的なチャネルの作成を記載している。特許文献1は、さらに、可変ねじ(variable-handed thread)を有する工具を記載している。この可変ねじは、材料をピン長さの中央からその遠位端のショルダ付近の領域に向かって移動させ、ワークピース(単数又は複数)内にチャネルを形成し、また、チャネル付近の材料の微細構造性(摩擦攪拌処理領域を検査したときに見られる性質に類似)も形成する。この技術を用いると、幾つかの問題が生じる。すなわち、移動された材料が、大抵、工具のショルダ部(一般的に、ワークピースからのある程度の間隙を有する)の真下に堆積されるか、或いは、工具の遠位側のワークピース表面に堆積され、これらのいずれの場合にも、処理された面が処理されていない面と比較して盛り上がった状態になり、且つ/又は、大量のバリ(flash)を生じる。表面仕上げは、最高の状態でも非常に粗く、回転ショルダを用いて摩擦撹拌を実行したときに見られる典型的な半月紋(crescent pattern)の繰り返しを有する。また、形成されるチャネルの断面は、処理状況が変化する間、例えば、(蛇行又は湾曲チャネルを作成するために)角部(コーナー)を曲がっているときに、或いは、加工されている材料の粘塑性特性が温度/力により(例えば、ワークピース内で熱が徐々に蓄積することにより)変化する場合、大幅に変動する。市販の製品にこのプロセスを使用する場合に特に懸念されることは、チャネル内面の粗面、及び、面(特には工具の後退側(Retreating Side))の粗さである。
【0004】
特許文献2は、摩擦撹拌チャネルを開くか又は作成するための手順を記載しており、この手順は、プロセス中に余剰材料を除去し、近位面をほぼ平らに維持することにより処理後仕上げの必要性を低減する。材料の押しのけは、共回転スクロールショルダ及びねじ付きプローブを含む回転工具の幾何学的な特徴により推進される。2つの工具設計が記載されており、一方の工具設計は、部品から引き出された材料をバリとして表面に堆積させ、このバリは、工具経路軌道の縁部に付着して残る。他方の工具設計は、回転ショルダに接続された切削インサートを特徴とし、これが、引き出された材料を切削して削り屑にする。記載されている工具及びプロセスは、ワークピース表面上に生じる材料デブリの量を低減するけれども、工具がその上を通過する表面は粗くなり、尚且つ、上述の半月紋を有する。さらに、回転ショルダにより処理された軌道の縁部には、粘塑性材料が表面に押し出されることによる重大なバリリップがしばしば生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6923362号明細書
【文献】ポルトガル特許第105628号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当技術分野にて提示された上記の解決方法のいずれも、均一で安定的なチャネルを形成する方法を提示しておらず、また、表面仕上げ又は移動される材料の十分な制御に関する課題にも対処していないと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、摩擦攪拌チャネリング工具が、ワークピース(単数又は複数)内に挿入するためのプローブを備え、前記プローブは、ショルダのボアから延在し、且つ、当該ショルダのボア内に回転可能に取り付けられている。前記プローブの表面は、前記ショルダが前記ワークピースに接触しているときの前記プローブの回転時に、可塑化されたワークピース材料が前記ショルダへと移動し、そして前記ショルダのボア内に移動されるように形成されている。前記ショルダは、少なくとも1つのベントを有し、このベントは、前記ショルダの外側から前記ボアに延在し、これにより、前記可塑化されたワークピース材料が前記ベントを通って前記ボアから出ていく。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、摩擦攪拌チャネリングの方法が、本発明の第1の態様による摩擦攪拌チャネリング工具のプローブを回転させて、前記回転しているプローブをワークピース内に入れ、また、前記工具の前記ショルダを前記ワークピースに接触させるステップを含む。前記ショルダ、又は前記ショルダの少なくとも半径方向外側部分(前記ショルダが、半径方向内側部分及び半径方向外側部分を有する場合)は、前記ワークピースに対して回転しない。こうして、前記プローブの回転により、前記ワークピースの前記プローブ周囲の材料が可塑化され、前記プローブに沿って運び上げられて前記ショルダの前記ボア内に入り、そして、前記ショルダ内の前記ベント又は前記複数のベントの1つを通って出ていく。また、前記方法は、前記工具を前記ワークピースに沿って、チャネルが前記ワークピース内に形成されるような作業状態下で移動させるステップを含む。
【0009】
前記ショルダは、前記回転しているプローブが前記ワークピースに入る前又はその後に、前記ワークピースに接触されることができる。後者の場合、前記ショルダが既に前記ワークピースに接触している状態で、前記プローブが前記ショルダの前記ボアから延出される。
【0010】
前記プローブは、ワークピース(単数又は複数)のバルクから材料を高度に除去する形態で具備されている。これは、典型的に、材料をワークピースバルクから遠ざかる方向に移動させることを促進する、ねじ及び/又は溝の形態である。これは、典型的な摩擦攪拌溶接(又は加工)プローブ、すなわち、材料の混合を促進するように設計されたプローブ(国際公開第95/26254号及び欧州特許第0615480号の教示による)とは異なる。
【0011】
ワークピース(単数又は複数)から材料を抜き出すプロセスは、ワークピース(単数又は複数)内に、閉じたチャネルを形成する。2つ以上のワークピースの場合、このプロセスは、チャネルが形成されているときにワークピースを接合するために使用され得る。これは、プローブの特別な設計(通常、材料を様々な方向に、様々な規模で移動させるように設計された特徴を有する)により達成される。ワークピースが金属である場合、チャネルを取り囲む材料(又は、処理/接合領域を構成する材料)は、一般的に、変形された金属(微細金属粒径を有し、これによりもたらされる公知の関連する材料特性上の利益を有する)から形成される。本発明に従って処理されるワークピースは、より伝統的な摩擦攪拌工具を使用した場合と比較すると、典型的に、特徴的な「幅狭で」(‘narrow’)、側方が平坦な(flat-sided)微細構造のフットプリントを提示する。より伝統的な摩擦攪拌工具は、通常、「V」字状であり、摩擦攪拌は、プローブの一端の回転体(例えばショルダ)の運動、或いは、円錐形のプローブの使用により行われる。
【0012】
前記ボアは、滑らかな形態、或いは、プローブに沿って又はプローブから離れるように材料を運ぶことを補助するための、ねじ付き/型付きの(textured)形態を有し得る。
【0013】
単一のベントを設けてもよいが、複数のベントが存在することが好ましい。複数のベントを設けることにより、蛇行経路を作成するときの「コーナリング」(‘cornering’)性能が向上して、除去される材料のフィード圧が安定し、これにより、チャネルプロファイルが安定する。これらのベントは、前記ボアの周囲に対称的に設けられることが好ましいが、前記ボアの個数及び配置は、用途に応じて異なり得る。典型的に、前記又は各ベントは、前記ボアから半径方向外向きに延在することが好ましいが、前記又は各ベントが、軸方向成分を有する方向を有することも可能である。ベントを通された材料は、リールに巻き付けられるか、又は、別の方法で保管され(例えばリサイクルのために)、或いは、削り屑除去の一般的な方法で本体から切り離され/吹き飛ばされる。
【0014】
ワークピース(単数又は複数)と接触しているショルダの部分は、通常、耐摩耗性であり、低摩擦性、耐磨耗性、耐熱性、耐拡散性、低反応性及び固体潤滑性のうちの1以上の性質をもたらす表面コーティング又は処理が施されている。前記ショルダの接触部分は、単純な平坦なワークピースのための平面の形態であってよく、或いは、ワークピースの形状(円柱、角部、段付き/異なる厚さのワークピースの内側形状又は外側形状)に適合され得る。前記接触部分が、前記プローブ周囲のリングの形態で簡単に設けられてもよい。
【0015】
前記ショルダと回転手段との間に配置された任意のベアリング付近領域における前記ショルダの温度制御が、通常、これらのベアリング(前記ショルダ及びプローブ並びに回転手段を支持/担持する、より幅広の構造)を損傷から保護するために必要である。また、前記ショルダの、ワークピース(単数又は複数)に非常に近接した部分、及び/若しくは、プローブ、並びに/又はワークピース自体の温度制御を別々に監視及び維持することが、しばしば有用である。なぜなら、温度の変化は物理的特性(例えば、粘塑性)の変化をもたらし、また同時に、処理されるワークピースの特性も変化させるからである。材料特性又は処理温度の変化は、断面、内部表面仕上げ、及び材料特性の変化をもたらし得る。本発明による方法及び装置は特に有用である。なぜなら、工具の様々な部品によりもたらされる熱入力、位置及びダウンフォースが、密接且つ独立に制御され、これにより、形成されるチャネル、そしてまた、抜き出される材料の特性(特定の用途のために抜き出される場合)における、より良好な制御が可能になるからである。先行技術の技術、すなわち、共に回転するピン及びショルダから成る摩擦攪拌チャネリング工具を用いた場合、可能な制御はかなり低性能である。
【0016】
前記プローブは前記ショルダから完全に突き出た状態でワークピース(単数又は複数)に侵入できるが、引き込み可能なプローブを用いることが好ましく、この場合、プローブの侵入深さは、加工サイクルの異なる部分で変え得る。チャネルを形成しているとき、前記プローブの深さを変えることで、チャネル深さ又はチャネル寸法を変えて使用できる。
【0017】
また、引き込み可能なプローブ技術を用いると、前記ショルダをワークピース(単数又は複数)に接触させたままプローブを引き抜くことが可能である。ショルダを接触させた状態のまま、前記ショルダボアを通して回転しているプローブを引き抜くことにより、ショルダ及びプローブ組立体がワークピースの破片により閉塞される可能性が防止される。また、この技術を、前述のようにプローブ挿入前にショルダがワークピースに接触している場合の、プローブの挿入中に用いることもできる。
【0018】
特定のワークピース材料(具体的には、チタンなどの酸素感受性材料)のために、ガスシールドを設けてもよい。これは、例えば、ワークピース全体(例えば、チャンバ内での処理)における雰囲気制御により、ショルダからのジェットの形態の局所的ブランケットとして、又は、プローブと、ワークピースの少なくともショルダに接触する部分とを取り囲むシュラウドとして設けられ得る。
【0019】
前記プローブは、単純な「ピン」、シリンダ又はその他の設計の形態であり得るが、前記プローブが、ピン及びショルダの半径方向内側部分の形態であってもよい。この場合、前記ショルダ部もまた前記ピンと共に、或いは前記ピンとは独立に回転し、前記ショルダ部の残りの部分、すなわち半径方向外側部分は、少なくとも部分的に前記内側ショルダ部の周囲に配置され、且つ、少なくとも部分的に前記ワークピース(単数又は複数)に接触している。この場合、前記内側ショルダ部は、材料を前記ショルダ内のポート(前記プローブに隣接し、又は、前記内側ショルダ部の周囲に配置されている)に向かって移動させるために、前記内側ショルダ部の面上に、スクロール又はその他の形態を有し得る。前記内側ショルダ部の前記面は、前記ショルダの残りの部分と同一平面上にあっても、或いは、任意の個数の角度付き構造(凹状セクション、凸状セクション又は可変テーパーセクションを含む)を有してもよい。プローブピンと前記内側ショルダ部とが共回転する場合、前記プローブピン上の特徴物と前記ショルダ部とが協働することが有用である。例えば、溝が前記ピンの長さに沿って延在し得、この溝は前記ショルダ部上まで続いてよく、或いは、前記ショルダの、前記ボアに非常に近接した部分にまでずっと続く場合もある。
【0020】
また、プロセスの初期段階中にプローブに加える力を軽減するために、前記プローブが前記ワークピースを貫通する位置にパイロット穴を開けることもできる。
【0021】
本発明の方法の実施中に、処理されるワークピースの特性を調整するために、処理パラメータ(プローブの回転速度、駆動モータのトルク、送り速度、ダウンフォース)を調整することが可能である。用途によっては、角部(コーナー)を曲がっているとき、特性(例えば、形成されるチャネル又は処理領域の形状、形態、及び表面仕上げ)を維持するために、これらのパラメータを変える必要もしばしばあり得る。
【0022】
ワークピース内への前記プローブの侵入深さとショルダ位置は、位置及び/又は力制御ストラテジを用いて制御される。位置制御は、平坦なワークピース又は部品を適切な寸法/幾何学的精度で処理する場合に非常に適している。力制御は、曲面又は複雑な軌跡を処理する場合に機械及び部品のたわみを防止するための、より有用なストラテジとなろう。前記プローブと前記ショルダとを個別に制御する選択肢もある。前記ショルダと前記ワークピース表面との接触は、力制御を用いて保証でき、一方、ワークピース内への前記プローブの侵入及びチャネル深さは、位置制御を用いて制御され得る。
【0023】
ワークピースから材料を抜き出す速度(及び、従って、ボイド断面積)は、前記プローブの回転速度、又は、スピンドル駆動モータにより前記プローブに加えられるトルクを調整することにより制御できる。摩擦攪拌溶接の場合と同様に、熱が、主に工具付近のワークピース材料の粘性散逸により発生され、工具/ワークピース境界面における高い剪断応力により促進される。トルク制御が、工具により掃引されている材料の粘性の操作を可能にし、また、プロセス温度及びボイド断面積を制御するための有効な手段であり得る。プローブの回転速度を制御すれば、各回転にて引き出される材料の体積率が決定するであろう。しかし、ワークピース内での熱の最終的な蓄積は補償できないであろう。これらの方法の両方を、力又は位置の制御と共に用いることで、プローブ位置及びショルダ位置を維持することが可能であろう。
【0024】
本発明を使用する利点は以下の通りである。すなわち、
・滑らかな表面仕上げ。処理されたワークピース表面には、先行技術の回転工具方法により生じた典型的な半月紋(crescent mark)も、先行技術の工具によるバリも生じない。さらに、チャネルは、材料を引き出して工具に入れることにより生成されるのであり、ショルダの外面に出される(先行技術のように)のではない。これは、ワークピース(単数又は複数)の表面上に材料のバルジが形成されることを回避する(バルジが生じると、加工後に機械加工又は仕上げ作業により除去しなければならない)。
・円柱体又は角構造部の処理性能の向上。
・引き出される材料の量を効果的に制御し、より連続的で安定した断面を有するチャネルを形成する性能をもたらす。
【0025】
本発明による方法及び装置の典型的な用途は、ケーブル(例えば電線、通信線又はNDT線)をその内部に埋め込むことを必要とする長い金属構造物(航空宇宙及びその他の輸送構造物、発電構造物、例えば、風力タービン)にチャネルを形成することを含む。最も有望な産業用途の1つは、熱交換器の製造であり、これは、プレート、管状又はブロック部品の内部に、内部流体流のための蛇行チャネルを組み込むことにより行われる。その他の可能な用途は、機器若しくは機構、及び、潤滑、流体保存若しくは油圧用のネットワークを埋め込むためのチャネルの形成を含む。また、本発明は、軽量組立体のための中空のパネル又は構造を作製することで重量を低減する技術としても用いられ得る。
【0026】
チャネルの作成と共に、本発明の実行中に除去された材料が、押し出されたワイヤを形成できる。特定の断面を有するポートを設計でき、その断面が、押し出されたワイヤの断面に反映される。ワイヤの組成もまた、ワークピースの材料により影響を受けるであろう。例えば、混合材料又は異なる種類のワークピースを用いれば、複合材料のワイヤが押し出されるであろう。
【0027】
本発明に従って処理されるワークピースは、当業者には明らかであるように、バット、ラップ、コーナー又はその他の構造の、単一のモノリシックワークピース又は複数のワークピースであり得る。また、単なる単一体ではなく、より厚いワークピースのために、ワークピース(単数又は複数)を完全に貫通するプローブの使用も可能であり、これは、第2の本体(回転又は非回転)又はベアリング装置の何らかの形態により支持される。プローブ上のねじの形態は、1つの経路にて複数のチャネルを形成するように調整されることが可能であり、例えば、可変ねじを用いて、材料が前記両方の本体に送り込まれる。
【0028】
本発明に従って加工される典型的なワークピース材料は、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉛、及びその他の類似の材料を基材とした金属を含む。幾つかのポリマー、例えば、ポリ塩化ビニル、アクリルも加工できる。また、鉄、チタン、ニッケルその他を基材とした高温金属も、高度な工具材料を使用して加工できる。
【0029】
本発明の実施例を、添付図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明による方法を実施するための装置の第1の例の概略図である。
【
図2】
図1で「B」として示されている領域の概略断面図である。
【
図3】本発明により実現される蛇行路の一例を示す。
【
図4】本発明による方法を実行するための装置の第1の例の写真である。
【
図5】工具の構造をより詳細に示す概略断面図であり、材料がプローブの幾何学的特徴によりどのようにショルダボア内に運ばれて、ベントを通って押し出されるかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明による方法を実行するための装置の一実施例を示す。この実施例において、装置は本体5を備え、本体5は機械スピンドル1を、本体ベアリング6を介して回転可能に支持している。機械スピンドル1の上端30は、機械スピンドルを回転可能に駆動させるための駆動モータ(図示せず)に接続される。機械スピンドル1は、ねじ付き摩擦撹拌チャネリング工具22を収容し且つ回転可能に駆動する。ねじ付き摩擦撹拌チャネリングツール工具22は、本体5に固定されているショルダ3のボア14内に配置されたプローブ2を含む。使用において、プローブは、加工されるワークピースに負荷下で突き込まれる。ショルダ3及び本体5は、ベアリング6の作用により回転することはない。プローブ2上のねじ付き部は、その先端からボア24まで延在するねじ付き面26を有し、ボア24は材料をショルダ3に引き入れ、そして、プローブ2とボア24の壁部との間の狭い間隙に引き込むように機能する。また、ショルダ3は、半径方向に延在する複数の(この場合は4つの)ベント4も有する。ベント4は、ショルダ3の外面とボア24との間に延在する。引き出されたワークピース材料は、ベント4を通してワイヤの形態で押し出される。
【0032】
図2は、
図1で「B」と付された部分の断面図であり、非回転のショルダ部3を示す。ショルダ部3には、回転プローブ2及びベント4が、ツールの周囲に対称に配置されている。ショルダ3は、本体5の下部に、ボルト7により接続されている。
【0033】
図3は、例示的な処理経路を示し、この図を参照しつつ、本発明による方法の一例を説明する。
図1及び
図2に示した装置を使用して、AA6082-T4のアルミニウム合金プレートに蛇行チャネルを、ベアリング(この場合は、プローブ2又はショルダ3の周囲領域のベアリングではない)を水冷しつつ形成した。プレートの入口点9にパイロット穴を、直径6.9mmのドリルビットを用いて深さ7mmまで開けた。非回転ショルダ3をプレートに、プローブ2とパイロット穴とを位置合わせした状態で、18kNの力で押し付けた。プローブ2を、600rev/min(回転/分)の速度で回転させて、パイロット穴に徐々に押し込んだ。プローブを完全に押し込んだならば、入口点9に5秒間留めることができ、その後、ショルダ3及びプローブ(本体を介して)を、移動速度を5秒間にわたり50mm/分まで加速し、カーブの始点12に向かって移動方向11に移動させた。この間、プローブは時計回りに回転していた。第1のカーブ始点12に達したならば、装置を、第1のカーブ終点13までの曲線軌跡をたどるように移動させた。図中の文字「AS」は、プローブ2の前進側(Advancing Side)を示すために表示されており、この前進側において、プローブの回転方向は移動方向と同一である。図中の文字「RS」は、プローブ2の後退側(Retreating Side)を示すために表示されており、この後退側において、プローブの回転方向は移動方向とは反対である。最初の曲線において、ASは曲線の外側にあり、RSは内側にあった。次いで、装置を、第1カーブ終点13から第2のカーブ始点16までの直線で、一定の移動速度で移動させた。この間、移動方向15において、摩擦攪拌プローブは時計回り方向14に回転した。第2カーブ始点16に達したならば、装置に、第2のカーブ終点17までの曲線軌跡をたどらせ、このときは、RSが曲線の外側にあり、ASは内側にあった。次いで、装置を、第2カーブ終点17から出口点20まで方向19において、時計回り方向18に回転させながら移動させた。出口点に到達する前に、装置の移動速度をゼロまで、5秒間の移動にわたって減速させた。出口点20に到達したならば、プローブをプレートから徐々に引き出して、出口穴から離した。パラメータ、例えば、プローブの回転速度及び移動速度は、処理経路の直線部からカーブ部まで移動しているときには一定に維持した。
【0034】
本発明の方法及び装置を使用すると、先行技術と比較した場合、作成されるチャネルは、断面及び内部粗さがより安定しているという点で、より優れている。これは、直線を移動中の場合だけではなく、前記両方のタイプのカーブ(前記AS及びRSが外側及び内側に変化する)の移動時にも言えることである。また、表面仕上げが、目立ったバリも、処理された領域のバルジ(膨らみ)も有さず、はるかに優れている。
【0035】
図4は、
図3に関連して説明したステップを実行した直後の装置の写真であり、ワークピース材料のリボン21がベント4から突き出ている様子を示す。また、この図は、ガスカーテンが流通され得るガスベント32も示している。
【0036】
図5は、チャネル作成中の工具の構造(
図1の切り取り部「B」から取られた)をより詳細に示す概略断面図であり、回転プローブの幾何学的特徴により、材料がショルダボア内にどのように運ばれ、次いでベントを通して押し出されるかを示す。回転プローブ2がワークピース33内を移動している。ねじ付き面26の回転作用により、可塑化されたワークピース材料34が形成され、材料34は、ショルダ3に向けて移動されて、ショルダのボア24内に入る。その後、材料34はベント4からワークピース材料のリボン(又はその他の押し出し形状)21として出てくる。このようにして、チャネル35がワークピース内に形成される。