(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】熱融着フィルムの融着方法、包装方法及び包装体
(51)【国際特許分類】
B65D 65/42 20060101AFI20220520BHJP
B65D 77/36 20060101ALI20220520BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
B65D65/42 A
B65D77/36
B32B27/18 Z
(21)【出願番号】P 2017230579
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-10-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山下 晶子
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/072124(WO,A1)
【文献】特許第6149997(JP,B1)
【文献】特開2017-048293(JP,A)
【文献】特表2017-512164(JP,A)
【文献】特開2014-218580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/42
B65D 77/36
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性のシーラント層を有する熱融着フィルムの前記シーラント層の融着させる側の面に、
セルロースナノファイバーと、水に溶解したときに負電荷を帯びる水溶性高分子と、を含む溶液を付加した上で、
前記シーラント層を
、熱によって融解させた後に、前記溶液に含まれる前記セルロースナノファイバーと前記水溶性高分子とが混ざり込んだ状態で再び固めることで融着させることを特徴とする熱融着フィルムの融着方法。
【請求項2】
前記熱融着フィルム同士を、いずれか又は双方の前記熱融着フィルムの前記シーラント層に前記溶液を付加した上で、前記シーラント層によって融着させることを特徴とする請求項1に記載の熱融着フィルムの融着方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーの付加量が、前記熱融着フィルムの互いに融着される部分の双方への付加量を合計して、28μg/cm
2以上、1000μg/cm
2以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱融着フィルムの融着方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子の付加量が、前記熱融着フィルムの互いに融着される部分の双方への付加量を合計して、28μg/cm
2以上、5400μg/cm
2以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱融着フィルムの融着方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子は、カルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱融着フィルムの融着方法。
【請求項6】
一又は複数枚の、熱融着性のシーラント層を有する熱融着フィルムを、包装対象物品を覆うようにして配置した上で、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱融着フィルムの融着方法によって、前記シーラント層を融着させることを特徴とする包装方法。
【請求項7】
熱融着性のシーラント層を有する熱融着フィルムを、包装対象物品を覆うようにして、前記シーラント層によって一又は複数枚融着させた包装体であって、前記シーラント層の融着部分には、
前記シーラント層に混ざり込むようにして、セルロースナノファイバーと、水に溶解したときに負電荷を帯びる水溶性高分子とが含有されていることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱融着フィルムの融着方法、包装方法及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば食品や雑貨等の物品を包装する際には、所定の基材層に、熱融着性を有するシーラント層を重ねた熱融着フィルムを用いて、熱融着フィルムのシーラント層同士を熱融着させることによって、包装対象となる物品を覆うようにして包装がなされる。
このような包装の際には、融着部分が剥がれてしまうことを防止するため、シーラント層同士の融着強度を高める必要がある。そこで、シーラント層自体の構成につき、強固な融着強度を有するものを用いることで、融着強度を高めることを意図した発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような熱融着フィルムにおいては、その製造工程においてシーラント層の構成につき変更する必要があり、既存の熱融着フィルムについて、融着強度を高めることはできなかった。
【0005】
本発明の課題は、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルムの融着強度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、熱融着フィルムの融着方法において、
熱融着性のシーラント層を有する熱融着フィルムの前記シーラント層の融着させる側の面に、
セルロースナノファイバーと、水に溶解したときに負電荷を帯びる水溶性高分子と、を含む溶液を付加した上で、
前記シーラント層を、熱によって融解させた後に、前記溶液に含まれる前記セルロースナノファイバーと前記水溶性高分子とが混ざり込んだ状態で再び固めることで融着させることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルムの融着強度を向上させることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱融着フィルムの融着方法において、
前記熱融着フィルム同士を、いずれか又は双方の前記熱融着フィルムの前記シーラント層に前記溶液を付加した上で、前記シーラント層によって融着させることを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルム同士の融着強度を向上させることができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の熱融着フィルムの融着方法において、
前記セルロースナノファイバーの付加量が、前記熱融着フィルムの互いに融着される部分の双方への付加量を合計して、28μg/cm2以上、1000μg/cm2以下であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルム同士の融着強度をさらに向上させることができる。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の熱融着フィルムの融着方法において、
前記水溶性高分子の付加量が、前記熱融着フィルムの互いに融着される部分の双方への付加量を合計して、28μg/cm2以上、5400μg/cm2以下であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルム同士の融着強度をさらに向上させることができる。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱融着フィルムの融着方法において、
前記水溶性高分子は、カルボキシメチルセルロースであることを特徴とする。
請求項5に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルムの融着強度をさらに向上させることができる。
【0011】
請求項6に記載の発明は、
一又は複数枚の、熱融着性のシーラント層を有する熱融着フィルムを、包装対象物品を覆うようにして配置した上で、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱融着フィルムの融着方法によって、前記シーラント層を融着させることを特徴とする包装方法である。
請求項6に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルムの融着強度を向上させた包装方法を提供することができる。
【0012】
請求項7に記載の発明は、包装体において、
熱融着性のシーラント層を有する熱融着フィルムを、包装対象物品を覆うようにして、前記シーラント層によって一又は複数枚融着させた包装体であって、前記シーラント層の融着部分には、前記シーラント層に混ざり込むようにして、セルロースナノファイバーと、水に溶解したときに負電荷を帯びる水溶性高分子とが含有されていることを特徴とする。
請求項7に記載の発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルムの融着強度を向上させた包装体を提供することができる
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成について変更することなく、熱融着フィルムの融着強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る熱融着フィルムの断面図である。
【
図2】(a)は、実施形態に係る熱融着フィルムのシーラント層側に溶液を塗布した状態を示す断面図である。(b)は、実施形態に係る熱融着フィルムのシーラント層側に溶液を塗布した上で、他の熱融着フィルムをシーラント層が向かい合うように重ねた状態を示す断面図である。
【
図3】(a)は、実施形態に係るピロー包装を斜め上方から見た斜視図、(b)は、実施形態に係るピロー包装を斜め下方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図3に基づいて説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、図示例に限定されない。
【0016】
[熱融着フィルム]
本発明の実施形態に係る熱融着フィルム1は、
図1に示すように、基材層11と、シーラント層12とが、張り合わされたものである。なお、基材層11とシーラント層12の貼り合わせには、押し出しラミネート、ドライラミネート、ウェットラミネート等公知の任意の手法を用いることができる。
【0017】
(基材層)
基材層11は、熱融着フィルム1の、シーラント層12以外の部分であり、材質に特に限定はなく、融点がヒートシール時に融解しない程度の値を示すシートであれば任意のフィルムを使用可能であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)等によって形成されたフィルムが用いられる。
なお、基材層としては、単一の層であることを要せず、複数種類のフィルムが積層されていてもよい。
基材層11の厚みは、5μmから50μmであることが好ましく、また、10μmから30μmであることがさらに好ましい。この厚みであれば外部刺激や蒸散性に関して十分なバリア機能が得られる。
【0018】
(シーラント層)
シーラント層12としては、ヒートシール時に熱融着性を有する任意の材料によって形成されたフィルムを使用可能であり、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)や無延伸ポリプロピレン(CPP)によって形成されたフィルムを用いることができる。
シーラント層12の厚みは、20μmから100μmであることが好ましく、また、40μmから60μmであることがさらに好ましい。この厚みであれば十分なシール強度が得られる。
【0019】
[溶液]
溶液2は、水に、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」という。)及び水溶性高分子を加えたものである。
【0020】
(CNF)
CNFとは、パルプ繊維を解繊して得られる微細なセルロース繊維をいい、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上、1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいうが、平均繊維幅は、100nm以下の繊維が好ましい。
【0021】
平均繊維幅の算出は、例えば、一定数の数平均、メジアン、モード径(最頻値)などを用いるが、上記の繊維幅は、以下のようにして測定されたものである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。
次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍又は30000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径(メジアン径)を平均繊維径とする。
【0022】
CNFの製造に使用可能なパルプ繊維としては、広葉樹パルプ(LBKP)、針葉樹パルプ(NBKP)等の化学パルプ、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ、古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
CNFの製造方法としては、例えば、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュイダイザー法、グラインダー磨砕法、ビーズミル凍結粉砕法、超音波解繊法等の機械的手法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
例えば、パルプ繊維に対して機械的手法の解繊処理を施したものに、カルボキシメチル化等の化学的処理を施しても良いし、酵素処理を施してもよい。
また、化学的処理や酵素処理を施したCNFに、機械的手法の解繊処理を施してもよい。
【0024】
溶液2中のCNFの濃度としては、0.01%~2.0%であることが好ましく、0.1%~1.8%であることがさらに好ましい。0.01%よりも低いと、効果を生じさせるために必要な溶液の塗布量が増加し、融着させる際に漏れ易くなり、また、2.0%よりも高いと、CNFが凝集し易くなり、却って効果が妨げられる。
【0025】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」という。)、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等が用いられる。水溶性高分子としては、水に溶解したときに負電荷を帯びる物質であれば、任意のものを使用可能であるが、CMCはCNFと構造的に類似しており、CNFと結合し易く、他の水溶性高分子と比較してよりCNFの凝集を防ぐ効果が期待できることから、CMCを用いることが好ましい。
このような水溶性高分子は、CNFのOH基に、負に帯電した水溶性高分子が結合することで、静電相互作用により立体障害的に分子同士を離れやすくし、CNFの凝集を防ぎ、その効果を高めることができる。
なお、CNFが、機械的手法の解繊処理のみで科学的処理を施していないものである場合には、凝集し易いことから、水溶性高分子を加えることが必須となる。これに対し、TEMPO酸化、カルボキシメチル化などのCNFのOH基を変化させ、CNFの凝集を防ぐ化学修飾を施したCNFであれば、凝集し難いため、水溶性高分子を加えることは必須ではない。
【0026】
溶液2中の水溶性高分子の濃度としては、0.01%~20%であることが好ましく、0.1%~18%であることがさらに好ましい。0.01%より低いと、CNFに対する分散効果が十分ではなく、また、20%よりも高いと溶液の粘度が上がるため、使用用途によっては取扱いが難しくなる場合がある。
【0027】
[融着方法]
熱融着フィルム1、1同士を融着させる際には、
図2(a)に示すように、まず、一方の熱融着フィルム1の融着させる部分のシーラント層12側に、溶液2を塗布する。この際には、溶液2の塗布量は、50μg/cm
2以上、26.6mg/cm
2以下であることが好ましい。50μg/cm
2未満であると接着強度が十分に上がらず、26.6mg/cm
2を超えると、融着させる際に溶液2が漏れ出してしまい、ヒートシールが行い難くなるためである。
また、溶液2の、CNF及び水溶性高分子の含有濃度に対応して塗布量を決めることにより、CNFにつき、好ましくは、28~1000μg/cm
2、さらに好ましくは、90~450μg/cm
2の塗布量となるようにする。28μg/cm
2より少ないと、接着強度が十分ではなく、また、1000μg/cm
2よりも多いと、CNFが凝集し易くなり、却って効果が妨げられる。
また、水溶性高分子につき、好ましくは、28~5400μg/cm
2、さらに好ましくは、90~1350μg/cm
2の塗布量となるようにする。28μg/cm
2より少ないと、CNFの凝集を防ぐのに十分ではなく、また、5400μg/cm
2よりも多いと、溶液の粘度が上がり取扱いが難しくなる。
【0028】
続いて、
図2(b)に示すように、溶液2を塗布した熱融着フィルム1と、他方の熱融着フィルム1と、をシーラント層12側が向かい合うように重ね、熱融着させる部分に一般的なハンドシーラーを当てて、熱融着フィルム1、1同士を融着させる。
この際には、温度140℃から150℃、時間3秒の条件で融着させることが望ましい。また、溶液2を塗布後、これが乾燥する前に、熱融着フィルム1、1同士を融着させる必要がある。
また、溶液2は、融着させる部分の全面に塗布してもよいが、ドット状に塗布することがより望ましい。ドット状であれば無駄なく均一に塗布することができ、溶液2がフィルムの間から漏れてしまうのを防ぐことができる。
【0029】
なお、上記においては、熱融着フィルム1、1のうち一方にのみ、溶液2を塗布する場合につき説明したが、溶液2は、両方の熱融着フィルム1、1の融着させる部分のシーラント層12側に塗布してもよい。
この場合には、CNF及び水溶性高分子につき、熱融着フィルム1、1の互いに融着される部分の双方への塗布量を合計して、上記の塗布量の範囲内となるようにする。すなわち、上記塗布量は、熱融着フィルム1、1同士が融着された状態における、融着部分の単位面積当たりのCNF又は水溶性高分子の含有量を意味することとなる。
【0030】
また、上記のように複数の熱融着フィルム1、1を用いる場合に限らず、例えば、単一の熱融着フィルム1について、シーラント層12を内側にして折り畳み、折り畳まれた状態で融着させる際にも、本発明に係る融着方法を用いることが可能である。
【0031】
[包装方法及び包装体]
実施形態にかかる熱融着フィルム1、1の融着方法を用いて物品を包装する際の包装方法及び当該包装方法を用いて形成された包装体としては、特に限定されることはなく、熱融着フィルム1を用いて物品を包装するあらゆる場合に用いることができる。
例えば、2枚の略合同な矩形状の熱融着フィルム1、1を重ね合わせ、3辺を上記実施形態に係る融着方法を用いて融着し、袋状とした後、包装対象となる物品を入れ、他の一辺につき、上記実施形態に係る融着方法を用いて融着することで、熱融着フィルム1、1で形成された密閉された袋状の包装体内に物品を収納することができる。
また、例えば、単一の熱融着フィルム1を用いて、包装対象となる物品を包み、熱融着フィルムの端部同士を融着させることで、包装対象となる物品の形状にフィットするようにして包装体を形成してもよい。
また、例えば、
図3に示すような、ウェットシート等の包装に用いられるピロー包装3における、エンドシール部31、31及びセンターシール部32、並びに、ガゼット包装のシール部に本実施形態にかかる熱融着フィルムの融着方法を用いることができる。
【0032】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る熱融着フィルムの融着方法によれば、熱融着フィルム1、1同士をシーラント層12、12によって融着させる際に、融着部分に、CNF及び水溶性高分子を含む溶液が塗布されていることによって、シーラント層12、12が熱によって融解すると、シーラント層を形成するLLDPEやCPP等の樹脂に、CNF及び水溶性高分子が混ざり込み、これらが混ざり込んだ状態において、シーラント層を形成する樹脂が再び固まることとなる。
この際には、熱がかかった瞬間に水分が蒸発し、その際にCNF同士が結合することとなるが、CNF同士の水素結合が樹脂同士の結合よりも強固であることから、熱融着フィルム同士の融着強度を高めることが可能となる。
なお、溶液に水溶性高分子が含まれずとも、CNFが、TEMPO酸化、カルボキシメチル化などのCNFのOH基を変化させ、CNFの凝集を防ぐ化学修飾を施したCNFであれば、上記効果を得ることができるが、CNFに加えて水溶性高分子を含む溶液を用いる場合には、CNFの性質を問わず、上記の効果を得ることができる。
また、この際には、LLDPEやCPP等からなる一般的なシーラント層を有する熱融着フィルムを用いつつ、融着面にCNF及び水溶性高分子を含む溶液を塗布するのみで、上記の効果が得られることから、熱融着フィルムのシーラント層自体の構成につき変更することなく、既存の熱融着フィルムをそのまま用いることができるため、コストの増大も最小限に留めることができる。
また、熱融着フィルム1、1同士をシーラント層12、12によって融着させる際に、融着部分に、CNF及び水溶性高分子を含む溶液が塗布されていても、例えば、これを用いて形成された包装体の廃棄の際に妨げとなったり、シーラント層の融着部分を変色させ、包装体の見た目を損ねたりといった弊害を生じさせることもない。
【0033】
[変形例]
上記においては、熱融着フィルム1、1同士を融着させる場合について説明したが、熱融着フィルム1を、熱融着フィルム1以外の物品に対して融着させる際にも、シーラント層12の融着部分に溶液2を塗布しておくことによって、接着強度を高めることができる。
たとえば、ポリプロピレン、PET等によって形成されたカップやトレー等の容器に対して、フィルム状の蓋体によって蓋をする際に、熱融着フィルム1を用いて蓋体を形成した上で、シーラント層12側の容器との融着部分に、溶液2を塗布の上、これを容器と融着させることで、容器と蓋体との接着強度を向上させることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例及び比較例に係る熱融着フィルムの融着方法を用いて、熱融着フィルム1、1同士を融着させ、融着強度を評価した結果について説明する。以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[試験1]
以下の実施例及び比較例のように、熱融着フィルム同士を融着させた。
【0036】
(実施例1)
基材層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)によって形成されたフィルムを用い、シーラント層として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)で形成されたフィルムを用い、これらをドライラミネートによって張り合わせて形成された熱融着フィルム(PET12/LLDPE50)を用意した。熱融着フィルムの厚みは、基材層が12μm、シーラント層が50μmの計62μmである。
当該熱融着フィルムを長辺5cm、短辺2cmの矩形状にカットしたものを、試験片として2枚用意した。
CNFを1.7%、CMCを1.7%、水を96.6%の割合で混合した溶液を用意した。
ここで使用したCNFは、NBKP100%のCNFである。CNFの平均繊維幅(メジアン径)が49nmのCNFを使用した。このCNFは、NBKPをリファイナー処理して粗解繊した後、高圧ホモジナイザーを用いて、4回処理して解繊することにより得られたものである。CNFの繊維幅の測定方法は、段落0021に記載した通りである。
また、ここで使用したCMCは、CMC1330(ダイセル社)である。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計500mgの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、850μg/cm2、CMCにつき、850μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、ハンドシーラー(株式会社石崎電機製作所製のNL-331JC)を用いて、試験片の短辺方向の全体(2cm)に亘り、試験片の長辺方向に0.5cmの幅で、試験片の長辺方向に略等間隔となるように5か所融着させた。具体的な条件は、温度145℃、時間3秒、圧力2N/m2である。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様の試験片を用意した。
CNFを2.0%、水を98.0%の割合で混合した溶液を用意した。使用したCNFは実施例1と同様である。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計500mgの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、1000μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例1と同様に融着させた。
【0038】
(比較例2)
実施例1と同様の試験片を用意した。
CMCを2.0%、水を98.0%の割合で混合した溶液を用意した。使用したCMCは実施例1と同様である。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計500mgの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CMCにつき、1000μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例1と同様に融着させた。
【0039】
(比較例3)
実施例1と同様の試験片を用意した。
水を用意した。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計500mgの水を塗布した。
水を塗布した直後に、上記の水を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例1と同様に融着させた。
【0040】
(比較例4)
実施例1と同様の試験片を用意した。
2枚の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例1と同様に融着させた。
【0041】
{試験内容}
上記実施例及び比較例の接着された試験片を、短辺方向に2分の1とし、短辺1cm、長辺5cmの矩形状となるようにカットした上で、試験片の融着箇所(各5か所)のそれぞれにつき、個別に融着強度を測定し、各実施例及び比較例ごとに、その平均値を算出した。
具体的には、引張試験機(A&D社製のTENSIRON RTG1210)を用いて、融着箇所ごとに、融着された試験片の両者を引張試験機のチャックで挟み、チャック間距離50mm、速度500mm/minの条件で、各融着箇所のシート材同士の融着が剥がれるときの最大荷重点を測定し、各実施例及び比較例ごとに、その平均地を算出した。
【0042】
試験の結果を表Iに示す。
【0043】
【0044】
(評価)
実施例1と、比較例1から4との比較により、熱融着フィルムのシーラント層に、CNF及び水に溶解したときに負電荷を帯びる水溶性高分子(CMC)を含む溶液を塗布した上で、熱融着フィルム同士を融着させることで、熱融着フィルム同士の融着強度を向上させることができることが分かる。
【0045】
[試験2]
以下の実施例及び比較例のように、熱融着フィルム同士を接着させた。
【0046】
(実施例2)
基材層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)によって形成されたフィルムを用い、シーラント層として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)で形成されたフィルムを用い、これらをドライラミネートによって張り合わせて形成された熱融着フィルム(PET12/LLDPE50)を用意した。熱融着フィルムの厚みは、基材層が12μm、シーラント層が50μmの計62μmである。
当該熱融着フィルムを長辺20cm、短辺15cmの矩形状にカットしたものを、試験片として2枚用意した。
CNFを1.7%、CMCを1.7%、水を96.6%の割合で混合した溶液を用意した。
ここで使用したCNF及びCMCは、試験1で用いたものと同様である。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計1gの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、56.7μg/cm2、CMCにつき、56.7μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、ハンドシーラー(株式会社石崎電機製作所製のNL-331JC)を用いて、試験片の短辺方向の全体(15cm)に亘り、試験片の長辺方向に0.5cmの幅で、試験片の長辺方向に略等間隔となるように20か所融着させた。具体的な条件は、温度145℃、時間3秒、圧力2N/m2である。
【0047】
(実施例3)
実施例2と同様の試験片及び溶液を用意した。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計2gの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、113.3μg/cm2、CMCにつき、113.3μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例2と同様に融着させた。
【0048】
(実施例4)
実施例2と同様の試験片及び溶液を用意した。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計4gの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、226.7μg/cm2、CMCにつき、226.7μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例2と同様に融着させた。
【0049】
(実施例5)
実施例2と同様の試験片及び溶液を用意した。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計6gの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき340μg/cm2、CMCにつき、340μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例2と同様に融着させた。
【0050】
(実施例6)
実施例2と同様の試験片及び溶液を用意した。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計8gの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、453.3μg/cm2、CMCにつき、453.3μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例2と同様に融着させた。
【0051】
(実施例7)
実施例2と同様の試験片及び溶液を用意した。
上記試験片の一方のシーラント層側の全面に、略均等に計10gの上記溶液を塗布した。この場合塗布量は、CNFにつき、566.7μg/cm2、CMCにつき、566.7μg/cm2となる。
溶液を塗布した直後に、上記の溶液を塗布した試験片に、他方の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例2と同様に融着させた。
【0052】
(比較例5)
実施例2と同様の試験片を用意した。
2枚の試験片を、シーラント層同士が向かい合うように重ね、実施例2と同様に融着させた。
【0053】
{試験内容}
上記実施例及び比較例の接着された試験片を、短辺方向に10等分し、短辺1.5cm、長辺20cmの矩形状となるようにカットした上で、試験片の融着箇所(各20か所)のそれぞれにつき、個別に接着強度を測定し、各実施例及び比較例ごとに、その平均値を算出した。
具体的には、引張試験機(A&D社製のTENSIRON RTG1210)を用いて、融着箇所ごとに、融着された試験片の両者を引張試験機のチャックで挟み、チャック間距離50mm、速度500mm/minの条件で、各融着箇所のシート材同士の融着が剥がれるときの最大荷重点を測定し、各実施例及び比較例ごとに、その平均地を算出した。
【0054】
試験の結果を表IIに示す。
【0055】
【0056】
(評価)
実施例2から7と、比較例5との比較により、熱融着フィルムのシーラント層に、CNF及び水に溶解したときに負電荷を帯びる水溶性高分子(CMC)を含む溶液を塗布した上で、熱融着フィルム同士を融着させることで、熱融着フィルム同士の融着強度を向上させることができることが分かる。
また、実施例2から7の比較により、CNF及びCMCの塗布量は、CNFにつき226.7μg/cm2、CMCにつき226.7μg/cm2であることが最も好ましく、次いでCNFにつき340μg/cm2、CMCにつき340μg/cm2であることが好ましく、次いでCNFにつき453.3μg/cm2、CMCにつき453.3μg/cm2であることが好ましく、次いでCNFにつき113.3μg/cm2、CMCにつき113.3μg/cm2であることが好ましく、次いでCNFにつき56.7μg/cm2、CMCにつき56.7μg/cm2であることが好ましく、次いでCNFにつき566.7μg/cm2、CMCにつき566.7μg/cm2であることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0057】
1 熱融着フィルム
11 基材層
12 シーラント層
2 溶液