(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】揚げ物用衣材
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20220520BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20220520BHJP
A23L 17/40 20160101ALN20220520BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L17/40 A
(21)【出願番号】P 2018565573
(86)(22)【出願日】2018-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2018003016
(87)【国際公開番号】W WO2018143215
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017017474
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】西出 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】藤村 亮佑
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-131109(JP,A)
【文献】特開平08-154610(JP,A)
【文献】特開2012-100558(JP,A)
【文献】特開2000-125794(JP,A)
【文献】国際公開第2015/162972(WO,A1)
【文献】特開平04-008253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉50~95質量%と、加工澱粉5~50質量%とを含有し、
前記加工澱粉は、
タピオカ澱粉に酸化処理のみが施され
たもので且つRVA最高粘度が400mPa・s以下か、又は
タピオカ澱粉に酸処理のみが施され
たもので且つRVA最高粘度が100mPa・s未満である揚げ物用衣材。
【請求項2】
前記小麦粉が熱処理小麦粉を含む請求項1に記載の揚げ物用衣材。
【請求項3】
前記加工澱粉は加熱処理されていない請求項1又は2に記載の揚げ物用衣材。
【請求項4】
さらに膨張剤を0.1~3質量%含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の揚げ物用衣材。
【請求項5】
さらに乳化剤を2質量%以下含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の揚げ物用衣材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の揚げ物用衣材100質量部と液体100~500質量部との混合物を含む揚げ物用衣液。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の揚げ物用衣材100質量部と液体100~500質量部との混合物を含む、揚げ物用衣液を具材に付着させ、油ちょうする工程を有する揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天ぷらなどの衣付揚げ物における衣の材料として使用される揚げ物用衣材に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物は、各種の食材からなる具材を油ちょうにより加熱調理して得られる食品である。揚げ物には、具材をそのまま油ちょうして得られる素揚げなどもあるが、その多くは、表面に衣材が付着した具材を油ちょうすることで得られ、具材の表面に衣材からなる衣が付着した衣付揚げ物であり、具体的には例えば、天ぷら、フリッターである。表面に衣材が付着した具材を高温の油中で加熱することより、油に直接触れる衣は、サクミのある独特の食感と風味を有し、一方で中身の具材は、衣の内側で蒸されたように火が通っていて旨味が凝縮されたものとなる。
【0003】
しかしながら衣付揚げ物は、調理直後から時間が経過すると、具材の水分が衣に移行することによって、具材のジューシーさが失われると共に衣が柔らかくなって、独特の食感が失われやすいという問題がある。特に近年は、調理済みの衣付揚げ物が流通販売され、消費者がこれを購入してそのまま喫食するか又は電子レンジなどで加熱調理してから喫食するスタイルが普及しているが、斯かる食事スタイルにおいては、衣付揚げ物が製造されてから喫食されるまでに比較的長時間を要するため、前記の水分移行に起因する衣の品質低下が問題となりやすく、特に、喫食前に衣付揚げ物を電子レンジで加熱調理すると、電子レンジのマイクロ波によって具材の水分が加熱蒸散して衣に移行しやすくなるため、衣の品質低下はより一層深刻なものとなる。
【0004】
また、衣付揚げ物は油ちょう時の衣材の形態によっていくつかのタイプに分類され、例えば、粉末状の衣材を具材表面にまぶしたものを油ちょうして得られるまぶしタイプ、衣材を水に溶かした衣液(バッター)を具材表面に付着させ油ちょうして得られるバッタータイプがあり、さらに、該バッタータイプの一種として、具材表面に該衣液に加えてさらにパン粉などの粉末を付着させ油ちょうして得られるものなどがあるところ、これらの衣付揚げ物の中でも特にバッタータイプは、具材に対する衣の量が比較的多く、それ故に、衣付揚げ物全体の食感に占める衣の食感の割合が大きいため、前記の水分移行に起因する衣の品質低下が問題となりやすい。
【0005】
斯かる問題を解決するべく衣材の改良技術が種々提案されており、その1つとして、改質された小麦粉や澱粉などを衣材に用いる方法が提案されている。例えば特許文献1には、小麦粉に、酸処理澱粉、湿熱処理澱粉、架橋処理済α化澱粉のうちの1種以上が配合された揚げ物衣用ミックスが記載されている。特許文献2には、熱処理小麦粉及び酸化澱粉を含有する衣材組成物が記載されている。特許文献3には、小麦粉と、RVA最高粘度100~4,000cpの酸化澱粉を加熱して加熱処理前の糊化ピーク温度より0.5~5.0℃高くした加熱処理澱粉とを含有する電子レンジ調理用衣材が記載されている。特許文献4には、水に溶いて使用する水溶きタイプのから揚げ用ミックスとして、小麦粉15~35質量%と酸化澱粉10~20質量%とを含有するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-303457号公報
【文献】特開平10-57000号公報
【文献】特開2003-79344号公報
【文献】特開2015-223119号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献1~4記載の技術は、衣付揚げ物において具材から衣への水分移行を抑制し、時間経過や電子レンジなどによる再加熱に起因する衣の品質低下を防止し得る反面、これらの技術を用いて得られた衣付揚げ物は、衣が硬すぎて歯脆さに欠け、比較的硬い食感となることがあった。そこで、時間経過や再加熱などによる衣の品質低下を抑制しながらも、食したときに硬いと感じることが少なく、サクサクと軽い食感の衣付揚げ物を提供し得る技術が求められている。
【0008】
本発明の課題は、製造直後はもとより、製造後ある程度の時間が経過した場合や電子レンジなどで再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感の揚げ物を製造することができる揚げ物用衣材を提供することである。
【0009】
本発明は、小麦粉50~95質量%と、酸化処理又は酸処理され且つRVA最高粘度が1000mPa・s以下である加工澱粉5~50質量%とを含有する揚げ物用衣材である。
【0010】
また本発明は、前記の本発明の揚げ物用衣材100質量部と液体100~500質量部との混合物を含む揚げ物用衣液である。
また本発明は、前記の本発明の揚げ物用衣材100質量部と液体100~500質量部との混合物を含む、揚げ物用衣液を具材に付着させ、油ちょうする工程を有する揚げ物の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の揚げ物用衣材は小麦粉を含有する。本発明で用いる小麦粉としては、通常食品に用いられるものを特に制限なく用いることができ、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉などを例示できる。これらの小麦粉の中でも特に薄力粉は、硬すぎずサクサクとした軽い食感の衣が得られるため好ましい。
【0012】
本発明では、小麦粉として熱処理小麦粉を用いることができる。揚げ物用衣材に熱処理小麦粉が含有されていると、該衣材を用いて得られる揚げ物においてサクサクとしながらも歯脆い食感が強まるため好ましい。本発明では、揚げ物用衣材に含有される小麦粉の一部が熱処理小麦粉であってもよく、全部が熱処理小麦粉であってもよい。揚げ物用衣材に含有されている小麦粉の全質量に占める熱処理小麦粉の割合は、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは70~90質量%である。
【0013】
本発明で用いる熱処理小麦粉としては、未加熱の小麦粉に加熱処理を施して得られるもの、及び、未加熱の原料小麦に加熱処理を施した後に該原料小麦を製粉して得られるもののいずれも用いることができ、小麦粉又は原料小麦に施される加熱処理は、乾熱処理でも湿熱処理でもよい。乾熱処理は、処理対象たる小麦粉又は原料小麦を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象中の水分を積極的に蒸発させる処理である。乾熱処理は、例えば、オーブンでの加熱、焙焼窯での加熱、乾燥器を用いる加熱、熱風を吹き付ける熱風乾燥、高温低湿度環境での放置などによって実施することができる。湿熱処理は、処理対象たる小麦粉又は原料小麦の水分を維持しながら、又は処理対象に水分を加えながら、処理対象を加熱する処理である。湿熱処理において、処理対象に加える水分としては、水、水蒸気を用いることができ、水蒸気としては飽和水蒸気が好ましく用いられる。湿熱処理における加熱方法は特に制限されず、例えば、熱風などの熱媒体を処理対象に直接接触させる方法、処理対象を高湿度雰囲気下において間接的に加熱する方法が挙げられる。湿熱処理の実施装置は特に制限されず、例えば、オートクレーブ、スチームオーブン、一軸又は二軸型エクストルーダーが挙げられる。
【0014】
本発明の揚げ物用衣材における小麦粉(熱処理小麦粉を含む)の含有量は、該揚げ物用衣材の全質量に対して50~95質量%であり、好ましくは65~93質量%、さらに好ましくは70~90質量%である。揚げ物用衣材において小麦粉の含有量が50質量%未満であると、該衣材を用いて得られる揚げ物の食感が硬く感じられるおそれがあり、小麦粉の含有量が95質量%を超えると、該揚げ物の時間経過や再加熱による品質低下を効果的に防止できないおそれがある。
【0015】
本発明の揚げ物用衣材は、小麦粉に加えてさらに、加工澱粉を含有する。本発明で用いる加工澱粉は、1)酸化処理又は酸処理されていること(即ち酸化澱粉又は酸処理澱粉であること)、及び2)RVA最高粘度が1000mPa・s以下であることの2つの点で特徴付けられる。
【0016】
前記1)に関し、酸化処理は、処理対象の原料澱粉を常法に従って酸化剤で処理することによって行うことができ、該酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、硝酸を例示できる。酸化処理の程度は、原料澱粉の種類、揚げ物用衣材の用途などに応じて適宜調整すればよく、完全酸化でも部分酸化でもよい。
また、酸処理は、処理対象の原料澱粉を常法に従って酸で処理することによって行うことができ、例えば、酸を含む液中に原料澱粉を添加して所定温度で所定時間攪拌することによって行うことができる。酸処理に用いる酸としては、例えば、酢酸、無水酢酸、無水オクテニルコハク酸が挙げられる。酸処理の程度は、原料澱粉の種類、揚げ物用衣材の用途などに応じて適宜調整すればよい。
前記の酸化処理及び酸処理のいずれにおいても、処理対象たる原料澱粉としては、通常食品に用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などが挙げられる。
本発明で用いる加工澱粉は、酸化処理及び酸処理の両方が施されていてもよい。
【0017】
本発明で用いる加工澱粉の好ましい具体例として、コーンスターチ又はタピオカ澱粉由来の酸化澱粉、アセチル化酸化澱粉が挙げられる。尚、本発明では、複数種の加工澱粉の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記2)に関し、RVA最高粘度とは、ラピッドビスコアナライザー(RapidVisco Analyzer:RVA)により澱粉を糊化させた後、その糊液を冷却した際の粘度曲線における最高粘度である。本発明で用いる加工澱粉は、RVA最高粘度が1000mPa・s以下であり、好ましくは400mPa・s以下、さらに好ましくは200mPa・s以下である。揚げ物用衣材における加工澱粉のRVA最高粘度が1000mPa・sを超えると、該衣材を用いて得られる揚げ物における衣が硬くなったり粘調な食感になったりするおそれがある。澱粉のRVA最高粘度は、主として、原料澱粉の酸化処理による置換基の種類や置換度、酸処理の程度などによって変動するので、これらの変動要因を適宜調整することで、所望のRVA最高粘度を有する加工澱粉を得ることが可能である。RVA最高粘度は、下記方法により測定される。
【0019】
<RVA最高粘度の測定方法>
測定装置として、ラピッドビスコアナライザー(ニューポート サンエンティフィク社製)を用いる。測定装置に付属のアルミ缶(測定対象の収容容器)に、測定対象の澱粉4g及び蒸留水を、澱粉との合計重量で29gになるように入れた後、さらにパドル(攪拌子)を入れ、タワーにセットする。尚、アルミ缶に入れる澱粉の量に関し、澱粉の水分値が14%含有時に4g必要であり、水分値が異なる際は澱粉の固形分が3.44gとなるように換算する。そして、アルミ缶内のパドルを回転数160rpm/minで回転させながら、該アルミ缶を加熱してその内容物(澱粉懸濁液)の温度を上昇させつつ該内容物の粘度を測定する。このときのアルミ缶内容物の加温上昇条件は、はじめにアルミ缶内容物の品温を50℃で1分間保持した後、7分30秒をかけて95℃まで昇温させ、同温度で5分間保持し、次いで7分30秒をかけて50℃まで降温した後、同温度で2分間保持する条件とする。そして、斯かるアルミ缶加熱処理中の内容物の粘度曲線を得、該粘度曲線における最高粘度を、当該測定対象たる澱粉のRVA最高粘度とする。
【0020】
尚、本発明で用いる加工澱粉は加熱処理されていないことが好ましい。加工澱粉が加熱処理されたものであると、これを含む揚げ物用衣材を用いて得られた揚げ物の食感が硬くなるおそれがあるためである。
【0021】
本発明の揚げ物用衣材における加工澱粉、即ち前記1)及び2)の両方を満たす澱粉の含有量は、該揚げ物用衣材の全質量に対して5~50質量%であり、好ましくは7~35質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。揚げ物用衣材において加工澱粉の含有量が5質量%未満であると、所望の効果が得られず、加工澱粉の含有量が50質量%を超えると、該衣材を用いて得られる揚げ物の食感が硬く感じられるおそれがある。
【0022】
本発明の揚げ物用衣材は、小麦粉及び加工澱粉に加えてさらに、膨張剤を含有していてもよい。揚げ物用衣材に膨張剤を配合することで、該衣材を用いて得られた揚げ物についてサクサクとしながらも歯脆い食感が強まり得る。膨張剤としては、例えば、重曹、ベーキングパウダー、イスパタが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の揚げ物用衣材において膨張剤の含有量は、該揚げ物用衣材の全質量に対して、好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは1~2.5質量%、より好ましくは1.5~2質量%である。
【0023】
また同様の観点から、本発明の揚げ物用衣材は、小麦粉及び加工澱粉に加えてさらに、乳化剤を含有していてもよい。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアリル有機酸エステルが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の揚げ物用衣材において乳化剤の含有量は、該揚げ物用衣材の全質量に対して、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.1~1.5質量%、より好ましくは0.5~1質量%である。
【0024】
本発明の揚げ物用衣材は、前記成分(小麦粉、加工澱粉、膨張剤、乳化剤)以外の他の成分を含有していてもよく、例えば、この種の揚げ物用衣材の製造に通常用いられ得る原料として、糖類、食塩や粉末醤油等の調味料、油脂、増粘剤等が挙げられ、製造目的物たる揚げ物の種類などに応じてこれらの1種以上を適宜選択すればよい。これらの他の成分の含有量は、揚げ物用衣材の全質量に対して通常、20質量%以下程度である。
【0025】
本発明の揚げ物用衣材は、常温常圧下で粉末状であり、これを用いて揚げ物を製造する際には、その粉末状のまま具材表面に付着して使用することもできるが、該衣材に液体を添加混合して揚げ物用衣液(バッター)を調製し、その衣液を具材表面に付着させて使用する方がより高い効果が得られる。揚げ物用衣液を調製する際に使用される液体としては水が一般的であるが、水以外の液体、例えば、牛乳、出し汁、煮汁などを用いることもでき、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の揚げ物用衣材を用いて揚げ物用衣液を調製する場合、該衣材と混合される液体の分量は、具材の種類などに応じて適宜調整すればよいが、該揚げ物用衣材100質量部に対して、好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは110~350質量部である。
【0026】
本発明の揚げ物用衣材を用いて調製された揚げ物用衣液を、具材の表面の少なくとも一部に付着させ、必要に応じてさらにパン粉やブレッダーなどを付着させた後、油ちょうすることで、揚げ物を製造することができる。本発明は、種々の揚げ物の製造に適用することができるが、特に、天ぷら、フリッター、フライ、から揚げに好適であり、とりわけ、天ぷら、フリッターに好適である。揚げ物の具材としては、特に限定されず、例えば、鶏、豚、牛、羊、ヤギなどの畜肉類、イカ、エビ、アジなどの魚介類、野菜類などの種々のものを使用することができる。具材には、本発明の揚げ物用衣材あるいは該衣材から調製された衣液を付着させる前に、必要に応じて、下味を付けてもよく、打ち粉をまぶしてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例1、2及び7~23は参考例である。
【0028】
原料澱粉に対して加工処理(酸化処理、酸処理、リン酸架橋処理)を行い、加工澱粉A~Lを製造した。加工澱粉A~LのRVA最高粘度を前記方法により測定した。その測定値を下記表1に示す。酸化処理は、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用い、湿式の条件で常法に従って行った。酸処理は、酸として酢酸を用い、湿式の条件で常法に従って行った。リン酸架橋処理は、リン酸化剤としてトリメタリン酸ナトリウムを用い、湿式の条件で常法に従って行った。原料澱粉に対して酸化処理及び酸処理の両方を行う場合(加工澱粉Dの製造)は、酸化処理、酸処理の順で行った。加工澱粉A~Lのいずれも加熱処理は施されていない。
【0029】
【0030】
〔実施例1~23及び比較例1~10〕
下記表2~4の配合で各原料を混合し、揚げ物用衣材を製造した。使用した原料は下記の通り。
・小麦粉:薄力粉(日清フーズ製)
・膨張剤:ベーキングパウダー(日清フーズ製)
・乳化剤:ショ糖脂肪酸エステル
【0031】
〔試験例〕
各揚げ物用衣材100質量部に対して水160質量部を混合し、軽くかき混ぜて天ぷら用衣液を製造した。尾付き海老(20g/1尾)を剥いて水気を取り、打ち粉をしてから衣液を海老の身全体に絡めた。170℃の油槽に投入して2分半油ちょうして海老天ぷらを製造した。揚げたての海老天ぷらを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準で評価してもらった。また、製造後に室温で4時間保管後、電子レンジにより600Wで10秒間再加熱した海老天ぷらを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準で評価してもらった。結果を下記表2~4に示す。
【0032】
(天ぷらの食感の評価基準)
5点:衣が硬すぎず非常にサクサクとしていて噛むと歯脆く、極めて良好。
4点:衣が硬すぎずサクサクとしており、極めて良好。
3点:衣がサクサク感に乏しく、やや硬いかやや柔らかい。
2点:衣がサクサク感に欠け、やや硬すぎかやや柔らかすぎ、不良。
1点:衣がサクサク感に欠け、硬すぎか柔らかすぎ、極めて不良。
【0033】
【0034】
加工澱粉C~Hは、酸化処理又は酸処理され且つRVA最高粘度が1000mPa・s以下であり、他の加工澱粉A、B及びI~Lは、酸化処理又は酸処理の代わりにリン酸架橋処理され、及び/又は、RVA最高粘度が1000mPa・sを超える。
表2に示す通り、実施例の揚げ物用衣材は、加工澱粉C~Hのいずれかを含有することで、他の加工澱粉A、B及びI~Lのいずれかを含有する比較例の揚げ物用衣材に比して、製造直後及び再加熱のいずれにおいても天ぷらの食感に優れ、衣が硬すぎずサクサクとしていた。このことから、揚げ物用衣材における加工澱粉C~Hの有効性は明白である。
また、実施例1~6どうしの対比から、加工澱粉のRVA最高粘度は、実施例3~6の範囲内である30~190mPa・s程度が好ましく、とりわけ、実施例5~6の範囲内である30~95mPa・s程度、あるいは100mPa・s未満が好ましいと言える。
【0035】
【0036】
表3に示す結果から、揚げ物用衣材における小麦粉(薄力粉)の含有量は、実施例7~13の範囲内である50~95質量%が好ましく、特に、実施例9~13の範囲内である65~95質量%程度が好ましく、とりわけ、実施例10~12の範囲内である70~85質量%程度が好ましいことがわかる。
【0037】
【0038】
表4において、実施例11及び18と実施例14~17との対比から、小麦粉及び特定の加工澱粉を含有する揚げ物用衣材に、膨張剤(ベーキングパウダー)を0.1~3質量%程度配合することで、製造直後及び再加熱のいずれにおいても天ぷらの食感が一層向上することがわかる。
また表4において、実施例11及び22と実施例19~21との対比から、小麦粉及び特定の加工澱粉を含有する揚げ物用衣材に、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)を0.5~2質量%程度配合することで、製造直後及び再加熱のいずれにおいても天ぷらの食感が一層向上することがわかる。
また、特に実施例23の評価が高いことから、小麦粉及び特定の加工澱粉を含有する揚げ物用衣材に、膨張剤及び乳化剤の両方を配合することが有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、製造直後はもとより、製造後ある程度の時間が経過した場合や電子レンジなどで再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感の揚げ物を製造することができる。