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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220523BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220523BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220523BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20220523BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20220523BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20220523BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 129
B41J2/01 125
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41M5/00 134
C09D11/30
C09D11/38
C09D11/322
C09D11/328
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021015385
(22)【出願日】2021-02-03
(62)【分割の表示】P 2017565657の分割
【原出願日】2017-02-03
(65)【公開番号】P2021088187
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/087981
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016020063
(32)【優先日】2016-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237741(JP,A)
【文献】特開2014-069478(JP,A)
【文献】特開2006-342454(JP,A)
【文献】特開2014-227638(JP,A)
【文献】特開平09-124965(JP,A)
【文献】特開2001-192590(JP,A)
【文献】特開2013-230626(JP,A)
【文献】特開2009-001691(JP,A)
【文献】特開2015-168114(JP,A)
【文献】特開2007-245374(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166808(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/156223(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
C09D 11/30
C09D 11/38
C09D 11/322
C09D 11/328
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
インク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッドと、
紫外線を照射する紫外線光源と
を備え、
前記インクジェットヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、前記紫外線吸収剤を溶解又は分散させる溶媒とを含むインクのインク滴を吐出することにより、前記媒体上に前記インクを付着させ、
前記インクは、前記インクが成分として含む樹脂である成分樹脂を含み、前記溶媒を蒸発させることで前記媒体に定着するインクであり、
前記紫外線吸収剤は、前記成分樹脂の中に溶解又は分散することで、前記溶媒に対して溶解又は分散しており、
前記紫外線光源は、前記媒体上に付着した前記インクに紫外線を照射して、前記紫外線吸収剤に熱を発生させることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記成分樹脂は、前記溶媒中に溶解及び/又は分散させられたバインダ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記紫外線光源は、前記媒体において前記インクジェットヘッドと対向する領域の外にあるインクへ紫外線を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記紫外線光源は、前記媒体上の同じ位置に対する紫外線の連続照射時間が前記媒体の放熱の熱時定数よりも短い時間になるように、前記媒体上の前記インクに紫外線を照射することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記媒体を加熱するヒータを更に備え、
前記紫外線光源は、前記ヒータにより加熱される前記媒体上の前記インクに紫外線を照射することにより、前記ヒータと共に前記インクに含まれる前記溶媒の少なくとも一部を揮発除去することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記インクは、前記紫外線吸収剤を、0.05~2重量%の範囲で含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、液状紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、又はベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記紫外線光源は、紫外線を発生する半導体を用いた光源であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
前記媒体は、前記溶媒を揮発除去する前の前記インクを吸収する性質の媒体であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項10】
前記媒体は、布の媒体であり、
前記印刷装置は、前記媒体の両面に対して印刷を行うことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項11】
前記インクは、色材として顔料を含むインクであることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項12】
前記インクは、色材として染料を含むインクであることを特徴とする請求項10又は11に記載の印刷装置。
【請求項13】
前記インクは、前記染料を発色させる助剤を更に含むことを特徴とする請求項12に記載の印刷装置。
【請求項14】
前記染料を発色させる助剤を含むインクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを更に備えることを特徴とする請求項12又は13に記載の印刷装置。
【請求項15】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、
インク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッドと、
紫外線を照射する紫外線光源と、
を用い、
前記インクジェットヘッドにより、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、前記紫外線吸収剤を溶解又は分散させる溶媒とを含むインクのインク滴を吐出することにより、前記媒体上に前記インクを付着させ、
前記インクは、前記インクが成分として含む樹脂である成分樹脂を含み、前記溶媒を蒸発させることで前記媒体に定着するインクであり、
前記紫外線吸収剤は、前記成分樹脂の中に溶解又は分散することで、前記溶媒に対して溶解又は分散しており、
前記紫外線光源により、前記媒体上に付着した前記インクに紫外線を照射することにより、前記インクに含まれる前記紫外線吸収剤に熱を発生させることを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタが広く用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。また、インクジェットプリンタで使用するインクとして、水性顔料インク、ラテックスインク、顔料内包樹脂分散インク等の水性インク(水性系のインク)や、有機溶剤を溶媒として用いるソルベントインク(溶剤インク)等のような、蒸発乾燥型のインクが広く用いられている。この場合、蒸発乾燥型のインクとは、インク中の溶媒を蒸発させることでインクを媒体(メディア)に定着させるインクのことである。
【0003】
また、水性インク等の蒸発乾燥型のインクを用いるインクジェットプリンタでは、ヒータによる加熱でインクを乾燥させることで、インクの滲み止めと、乾燥定着とを行う。また、この場合のより具体的な方法として、媒体をヒータ(プリントヒータ)で加熱して滲みを止め、その後更に各種ヒータや赤外線ランプ等の加熱手段(アフター加熱手段)でインクを乾燥定着させる方法等も知られている。また、インクの滲みを止めるための方法として、従来、印刷対象の媒体(被プリントメディア)にインクの受像層を形成する方法等も知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】インターネット URL http://www.mimaki.co.jp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、媒体に受像層を形成する方法を用いる場合、受像層を予め形成した特定の媒体に対してのみしか印刷ができないことになる。また、この場合、受像層中にインクの溶媒が残留し、問題が生じるおそれもある。例えば、印刷後に媒体を巻き取る構成の場合、巻き取り時に裏写りが発生しやすくなる問題が生じる。また、受像層の下の層であるベース層として紙等を用いる場合、例えばカラー画像の印刷(カラープリント)等のようにイン
ク量が多い印刷を行うと、媒体のカールやコックリング等が発生しやすくなるおそれもある。
【0006】
また、例えば布地の媒体を用いる場合、滲み防止機能や発色を助ける機能を有する前処理剤(糊剤又は発色助剤等)を受像層としてコートした布地等を準備する必要がある。そのため、この場合、前処理を専門業者に依頼する必要があり、時間の損失(ロス)とコスト上昇の問題が生じることになる。
【0007】
また、プリントヒータで媒体を加熱することで滲みを止める場合、例えば印刷速度の高速化をするためには、インクジェットヘッドと対向するプラテンの位置での加熱温度を高めることが必要になる。しかし、この場合、加熱温度を高めると、インクジェットヘッドのノズル面も加熱されて、ノズル詰まりが発生しやすくなる問題が生じる。
【0008】
また、この場合、例えばインクの溶媒として沸点の低い溶剤等を用い、インクを蒸発しやすくすることで滲みの発生を抑えることも考えられる。しかし、この場合、ノズルでのインクの蒸発も早くなり、ノズル詰まりが頻発するおそれがある。そのため、従来、蒸発乾燥型のインクを用いる場合、インクの滲みを防ぐことが難しい場合があった。
【0009】
また、蒸発乾燥型のインクを用いる場合に生じる滲み等の問題は、印刷の速度を高速化する場合や、濃いカラー印刷を行う場合や、両面印刷を行う場合等に特に顕著になる。これは、単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量(インクの吐出量)が増加するためである。また、この場合、例えば紙等の媒体を用いると、カールやコックリング等が特に発生しやすくなる。
【0010】
また、インクジェットプリンタにおいて用いるインクとして、従来、蒸発乾燥型のインク以外に、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型インク(UVインク)も広く用いられている。そして、紫外線硬化型インクを用いる場合、例えば媒体へのインク滴の着弾直後に紫外線を照射することにより、媒体上のインクの滲みを瞬時に止めることが可能になる。また、この場合、媒体を加熱する必要がないため、ノズル詰まりの問題等も生じにくい。しかし、この場合、インクのドットが十分に平坦化する前にインクが硬化するため、インクの表面が凹凸状になり、マット化しやすくなる。また、インクの厚さが厚くなりすぎる場合もある。そのため、印刷の用途によっては、薄い平坦な画像を印刷した状態を適切に得ることができず、所望の印刷品質を得られない場合もある。また、その結果、印刷の用途等によっては、紫外線硬化型インクではなく、蒸発乾燥型のインクを用いることが必要になる。
【0011】
また、表面のマット化やインクの厚さが厚くなるという紫外線硬化型インクの欠点をなくし、光沢感の高い凹凸の少ない印刷を行い得る構成として、従来、紫外線硬化型インクを溶剤で希釈したインクであるソルベントUVインク(SUVインク)を用いる構成も知られている。しかし、この場合、インク滴の着弾直後に溶剤を揮発除去することが必要になるため、蒸発乾燥型インクの場合と同様の問題が生じることになる。
【0012】
そのため、従来、蒸発乾燥型のインクを用いる場合について、インクの滲みをより適切に抑え得る方法が望まれていた。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の発明者は、蒸発乾燥型のインクを用いる場合について、インクの滲みをより適切に抑え得る方法に関し、鋭意研究を行った。そして、この場合に行う着弾直後の加熱について、単にヒータで加熱する方法ではなく、インク中に紫外線吸収剤を含ませ、紫外線を
照射することで加熱を行うことを考えた。このように構成すれば、例えば、インクを効率的に加熱し、インク中の溶媒をより適切に蒸発させることができる。また、これにより、加熱の影響でノズル詰まり等が発生することを防ぎつつ、より適切に滲みの発生を抑えることができる。
【0014】
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明は、媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、インク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッドと、紫外線を照射する紫外線光源とを備え、前記インクジェットヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、前記紫外線吸収剤を溶解又は分散させる溶媒とを含むインクのインク滴を吐出することにより、前記媒体上に前記インクを付着させ、前記インクは、前記溶媒を蒸発させることで前記媒体に定着するインクであり、前記紫外線光源は、前記媒体上に付着した前記インクに紫外線を照射することにより、前記インクに含まれる前記溶媒の少なくとも一部を揮発除去することを特徴とする。
【0015】
このように構成した場合、インク中に紫外線吸収剤を含ませることにより、紫外線の照射でインクを効率的に加熱できる。また、これにより、例えば、インク滴の着弾直後において、インクを効率的に加熱し、インクジェットヘッドのノズル面への影響等を抑えつつ、インク中の溶媒を適切に揮発除去できる。
【0016】
ここで、この構成において、紫外線光源は、例えば、溶媒の少なくとも一部を揮発除去することにより、媒体上のインクの粘度について、少なくとも媒体上で滲みが発生しない粘度に高める。この場合、滲みが発生しないとは、例えば、求められる印刷の精度に応じた許容範囲内で実質的に滲みが発生しないことであってよい。
【0017】
また、紫外線光源は、インク中の溶媒を揮発除去することにより、例えば、インクの滲みを防ぎつつ、媒体にインクを定着させる。このように構成すれば、例えば、蒸発乾燥型のインクを媒体に適切に定着させることができる。また、媒体へのインクの定着は、紫外線の照射後に、他のヒータ等で媒体を更に加熱することで完了させてもよい。
【0018】
また、この構成において、紫外線吸収剤とは、例えば、紫外線を吸収することで熱を発生する物質である。紫外線吸収剤としては、紫外領域に吸光のピーク波長を有する物質を用いることが好ましい。また、紫外線吸収剤としては、インクの色への影響が少ない無色又は薄い色の物質を用いることが好ましい。
【0019】
また、この構成において、紫外線光源としては、例えば紫外線LED(UVLED)や紫外線LD(レーザダイオード)等の半導体光源を好適に用いることができる。また、紫外線光源は、例えば媒体における同じ位置への連続照射時間が媒体の放熱の熱時定数よりも短くなるように紫外線を照射して、インクを短時間で一気に加熱することが好ましい。また、紫外線の照射は、媒体においてインクジェットヘッドと対向する領域の外にあるインクに対して行うことが好ましい。また、滲みを抑えるための加熱は、紫外線光源のみを用いるのではなく、ヒータを併用して行ってもよい。また、この構成において用いるインクは、インク組成物全体に対し、紫外線吸収剤を、例えば0.01重量%以上、10重量%以下の範囲内で含むことが好ましい。紫外線吸収剤の含有量は、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.05~2重量%、更に好ましくは、0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~0.4重量%である。
【0020】
また、この構成において、印刷装置は、例えばマルチパス方式で印刷を行ってもよい。この場合、印刷のパス数は、8パス以下であってよい。また、例えばより高速に印刷を行う場合、パス数は、8パス未満(例えば4パス以下)であることが好ましい。このように構成すれば、例えば、マルチパス方式で印刷を行う場合において、パス数を適切に低減し
、高速な印刷をより適切に行うことができる。また、この場合、紫外線の照射によりインク中の溶媒を揮発除去することにより、パス数を少なくすることで単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が多くなったとしても、滲みの発生を適切に抑えることができる。
【0021】
また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する印刷方法等を用いることも考えられる。この場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インクの滲みをより適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、高い品質の印刷をより適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置10の構成の一例を示す図である。図1(a)、(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す上面図及び断面図である。
図2】従来の印刷装置での印刷動作の一例を簡略化して示す図である。図2(a)は、媒体50に対してインク滴を吐出する動作の一例を示す。図2(b)は、印刷動作の完了後の媒体50の一例を示す断面図である。
図3】本例の印刷装置10による印刷動作の一例を簡略化して示す図である。図3(a)は、媒体50に対してインク滴を吐出する動作の一例を示す。図3(b)は、印刷動作の完了後の媒体50の一例を示す断面図である。図3(c)は、非浸透性メディアを用いた場合について、印刷動作の完了後の媒体50の一例を示す断面図である。
図4】媒体50の熱時定数τについて更に詳しく説明をする図である。
図5】印刷装置10の構成の変形例を示す図である。図5(a)は、印刷装置10の構成を示す図である。図5(b)は、印刷装置10におけるヘッド部の構成を示す図である。
図6】印刷装置10の構成の更なる変形例を示す図である。
図7】両面印刷の仕方の変形例について説明する図である。図7(a)は、媒体50の一方の面(表面)側に印刷を行う動作の一例を示す。図7(b)は、媒体50の他方の面(裏面)側に印刷を行う動作の一例を示す。図7(c)は、媒体50への印刷の動作の更なる変形例を示す。
図8】紫外線の照射によりインクを乾燥させる条件等について説明をする図である。図8(a)は、インクに対して照射する紫外線のエネルギーについて説明をする図である。図8(b)、(c)は、紫外線吸収剤の含有量と紫外線の吸収のされ方との関係について説明をする図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の構成の一例を示す。図1(a)、(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す上面図及び断面図である。本例において、印刷装置10は、印刷対象の媒体(メディア)50に対してインクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、ヘッド部12、ガイドレール14、走査駆動部16、プラテン18、プリヒータ20、プリントヒータ22、アフターヒータ24、及び制御部26を備える。
【0025】
尚、以下に説明をする点を除き、印刷装置10は、公知のインクジェットプリンタと同一又は同様の特徴を有してよい。例えば、以下に説明をする構成に加え、印刷装置10は、印刷の動作等に必要な公知の構成等を更に有してよい。
【0026】
ヘッド部12は、媒体50に対してインク滴を吐出する部分(IJヘッドユニット)であり、キャリッジ100、複数のインクジェットヘッド102、及び複数の紫外線光源1
04を有する。キャリッジ100は、ヘッド部12における他の構成を保持する保持部材(ヘッドキャリッジ)である。
【0027】
複数のインクジェットヘッド102は、インクジェット方式でインク滴を吐出する吐出ヘッドである。本例において、複数のインクジェットヘッド102のそれぞれは、互いに異なる色のインク滴を吐出して、各色のインクを媒体50上に付着させる。また、それぞれのインクジェットヘッド102は、紫外線吸収剤(UV吸収剤)と溶媒とを少なくとも含むインク(紫外線吸収インク)のインク滴を吐出する。この場合、紫外線吸収剤とは、紫外線を吸収する物質であり、例えば、紫外線を吸収することで熱を発生する。そのため、本例のインクは、紫外線を照射することで加熱される。また、溶媒は、紫外線吸収剤を溶解又は分散させる液体である。また、このインクは、公知のインクと同一又は同様の成分を更に含んでよい。例えば、本例において、それぞれのインクジェットヘッド102で用いる各色のインクは、各色の色材(顔料又は染料等)を更に含む。
【0028】
また、より具体的に、複数のインクジェットヘッド102のそれぞれは、カラー印刷用のプロセスカラーの各色のインク滴を吐出する。プロセスカラーの各色とは、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色である。また、複数のインクジェットヘッド102は、所定の主走査方向(図中のY方向)に並べて配設されており、主走査方向へ移動しつつインク滴を吐出する主走査動作を行うことにより、媒体50にインクを付着させる。また、本例において、複数のインクジェットヘッド102は、主走査方向における一方及び他方の向きの双方向(両方向)の主走査動作を行う。
【0029】
ここで、本例において用いるインクは、溶媒を揮発除去することで媒体50に定着する蒸発乾燥型のインクである。蒸発乾燥型のインクとしては、例えば、溶媒として有機溶剤を用いたインクを用いることが考えられる。この場合、この有機溶剤は、疎水性の有機溶剤であってよい。疎水性の有機溶剤とは、例えば、水に対して非相溶性の有機溶剤のことである。この場合、溶媒は、インク中において、例えば、紫外線吸収剤を溶解させる。また、この有機溶剤は、揮発性有機溶剤であってよい。また、溶媒として用いる有機溶剤の沸点は、例えば200℃以下であることが好ましい。また、この場合、例えば、水よりも沸点が低い有機溶剤を用いることも考えられる。有機溶剤の沸点は、例えば80℃以下であってよい。また、より具体的に、このようなインクとしては、例えば、ソルベントインクに紫外線吸収剤を添加したインク等を好適に用いることができる。この場合、ソルベントインクとは、例えば、溶媒として疎水性の有機溶剤を用いたインクである。
【0030】
また、インクとして、例えば、水性溶媒を含むインクを用いてもよい。より具体的に、このようなインクとしては、例えば、各種の水性インクに紫外線吸収剤を添加したインク等を好適に用いることができる。また、この場合、水性インクとしては、例えば、水性顔料インク、水性染料インク等を好適に用いることができる。また、例えばラテックスインクや顔料内包樹脂分散インク等の、樹脂粒子を分散させた構成の水性インク(樹脂粒子の分散型の水性系インクジェットインク)等も好適に用いることができる。また、紫外線吸収剤としては、例えば、水性の溶媒に溶解しにくい物質を用いることも考えられる。この場合、溶媒は、例えば、インク中において、紫外線吸収剤を固形物の状態で分散させてもよい。これにより、インクは、例えば、成分の少なくとも一部を溶媒中に分散させたエマルジョンタイプ(分散型)のインクになる。
【0031】
また、紫外線吸収剤としては、紫外領域に吸光のピーク波長を有する物質を用いることが好ましい。また、紫外線吸収剤としては、インクの色への影響が少ない無色又は薄い色の物質を用いることが好ましい。この場合、ピーク波長における光の吸収率が、可視光領域における吸収率の最大値の2倍以上である紫外線吸収剤を用いることが好ましい。また、ピーク波長における光の吸収率は、可視光領域における吸収率の最大値に対し、好まし
くは5倍以上、より好ましくは10倍以上、更に好ましくは20倍以上である。
【0032】
また、本例において、インクは、インクの全重量(インク組成物全体)に対して0.01重量%以上、10重量%(wt%)以下となる量の紫外線吸収剤を含むことが好ましい。また、紫外線吸収剤の含有量は、インクの全重量に対し、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.05~2重量%、更に好ましくは、0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~0.4重量%である。このように構成すれば、例えば、インクに紫外線を適切に吸収させることができる。また、紫外線吸収剤の量が多くなりすぎることを防ぐことにより、可視光領域の光に対する吸収を適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、可視光領域の光の吸収によるカラーインクの濁りや明度の低下等を適切に抑えつつ、紫外線の照射による加熱を適切に実現できる。また、明度が高い明るい色のインクにおいては、可視光領域の光の吸収が少ない透明度の高い紫外線吸収剤を用いることが特に好ましい。
【0033】
また、本例のように、複数色のインクを用いる場合、紫外線吸収剤の好ましい含有量は、色毎に異なる場合もある。そのため、紫外線吸収剤の含有量は、色毎に異なってもよい。この場合、紫外線に対する各色のインクの感度の差が±50%程度以内となるように、各色のインクにおける紫外線吸収剤の含有量を調整することが好ましい。紫外線に対するインクの感度とは、例えば、紫外線を照射することで生じるインクの乾燥速度や昇温速度に対応する感度であってよい。また、本例において用いるインクの特徴については、後に更に詳しく説明をする。
【0034】
複数の紫外線光源104は、紫外線を照射する光源(UV瞬間加熱照射器)であり、媒体50上に付着したインクに紫外線を照射することにより、インクを加熱する。また、これにより、紫外線光源104は、インクに含まれる溶媒の少なくとも一部を揮発除去する。
【0035】
また、本例において、紫外線光源104は、プリントヒータ22等のヒータと共にインクを加熱することにより、インク中の溶媒を揮発除去する。また、複数の紫外線光源104のそれぞれは、複数のインクジェットヘッド102に並びに対して主走査方向における一方側及び他方側のそれぞれに配設され、主走査動作時においてインクジェットヘッド102と共に移動する。そのため、主走査動作時において、複数の紫外線光源104の一方はインクジェットヘッド102に対して移動方向の後方側に、他方は移動方向の前方側に位置することになる。そして、双方向の主走査動作においては、インクジェットヘッド102の移動の向きに応じて、インクジェットヘッド102よりも後方側になる紫外線光源104により、媒体50上のインクへ紫外線を照射する。これにより、紫外線光源104は、例えば、インクジェットヘッド102の通過後の領域へ紫外線を照射して、媒体50への着弾直後に媒体50上へのインクへ紫外線を照射する。そして、媒体50上で滲みが発生する前にインクの粘度を高め、滲みの発生を抑える。
【0036】
紫外線光源104としては、オン・オフ制御が可能であり、紫外線を照射可能な光源を用いることが好ましい。また、このような光源としては、例えばUVLED(UVLED照射器)や紫外線LD(レーザダイオード)等の、紫外線を発生する半導体を用いた光源(半導体光源)を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、所望のタイミングで高い精度で紫外線を照射できる。また、より具体的に、本例において、紫外線光源104は、UVLEDを用いた光源(UV-LED照射器)である。この場合、紫外線光源104として、集光機能を有する集光性紫外線LED照射器を用いることがより好ましい。また、紫外線光源104については、例えば、媒体50へのインクの着弾後の所定時間内にインクを急速加熱して乾燥させるUV瞬間加熱手段等と考えることもできる。
【0037】
また、本例において、紫外線光源104は、複数のインクジェットヘッド102と位置をずらして配設されることにより、媒体50においてインクジェットヘッド102と対向する領域の外にあるインクへ紫外線を照射する。より具体的に、図示した構成において、紫外線光源104は、主走査方向における位置をインクジェットヘッド102とずらして配設されることにより、インクジェットヘッド102と対向する領域の外にあるインクへ紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、紫外線によりインクを加熱する影響や、蒸発した溶媒の影響をインクジェットヘッド102が受けることを適切に防ぐことができる。また、この場合、例えばインクジェットヘッド102と紫外線光源104との間の距離を変化させることにより、媒体50への着弾後、紫外線が照射されるまでの時間を適切に調整できる。また、主走査方向における紫外線光源104の幅を調整することにより、紫外線光源104により紫外線を照射する時間(連続照射時間)についても適切に調整できる。
【0038】
また、主走査方向と直交する副走査方向(図中のX方向)における紫外線光源104の幅は、インクジェットヘッド102によるプリント幅と同じか、プリント幅よりも大きな幅にすることが好ましい。この場合、インクジェットヘッド102によるプリント幅とは、例えば、1回の主走査動作でインクジェットヘッド102がインク滴を吐出する領域の副走査方向における幅のことである。また、本例において、副走査方向は、媒体50を搬送する搬送方向(紙送り方向)と平行な方向である。
【0039】
また、本例において、紫外線光源104は、図1(a)に図示したように、副走査方向における幅がプリント幅よりも大きくなっており、副走査方向においてインクジェットヘッド102とずれた部分に対しても紫外線を照射する。また、これにより、紫外線光源104は、媒体50の搬送方向において、インクジェットヘッド102と重なる部分に加え、インクジェットヘッド102よりも下流側の部分に対しても、紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、紫外線光源104による加熱を終了するタイミングを適切に調整できる。また、この場合、インクジェットヘッド102よりも下流側の部分に対しても紫外線を照射することにより、例えば、加熱後の完全蒸発乾燥時間を短縮すること等も可能になる。
【0040】
また、本例において、紫外線光源104は、例えば、溶媒の少なくとも一部を揮発除去することにより、媒体50上のインクの粘度について、少なくとも媒体50上で滲みが発生しない粘度に高める。この場合、滲みとは、例えば、異なる色のインクが混じり合うことで生じる色間滲み等である。また、滲みが発生しない粘度とは、例えば、インクが完全に乾燥して媒体50に定着するまでの間に滲みが発生しない粘度のことである。また、滲みが発生しないとは、例えば、求められる印刷の精度に応じた許容範囲内で実質的に滲みが発生しないことであってよい。また、より具体的に、紫外線光源104は、紫外線の照射により、媒体50上のインクの粘度を、例えば50mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以上、更に好ましくは200mPa・s以上に高める。
【0041】
また、紫外線光源104が照射する紫外線の指向性については、インクジェットヘッド102のノズル面に紫外線が到達しないように設定することが好ましい。このように構成すれば、紫外線光源104により行う加熱の影響をインクジェットヘッド102が受けることを適切に防ぐことができる。また、紫外線光源104による紫外線の照射の仕方については、後に更に詳しく説明をする。
【0042】
ガイドレール14は、主走査方向へ延伸するレール部材であり、主走査動作時にキャリッジ100の移動をガイドする。走査駆動部16は、インクジェットヘッド102に主走査動作及び副走査動作を行わせる駆動部である。
【0043】
より具体的に、本例において、走査駆動部16は、ガイドレール14に沿ってキャリッジ100を移動させることにより、キャリッジ100に保持されたインクジェットヘッド102等を主走査方向へ移動させる。そして、印刷すべき画像(カラー画像等)を示す印刷データに基づいて移動中のインクジェットヘッド102にインク滴を吐出させることにより、インクジェットヘッド102に主走査動作を行わせる。
【0044】
また、インクジェットヘッド102に副走査動作を行わせるとは、例えば、媒体50に対して相対的に副走査方向へインクジェットヘッド102を移動させることである。より具体的に、本例において、走査駆動部16は、副走査方向と平行な搬送方向へ媒体50を搬送することにより、インクジェットヘッド102に副走査動作を行わせる。また、走査駆動部16は、主走査動作の合間に媒体50を搬送することにより、次の回の主走査動作においてインクジェットヘッド102と対向する媒体50の領域を変更する。これにより、走査駆動部16は、媒体50の各位置に対し、インクジェットヘッド102にインク滴を吐出させる。また、本例において、走査駆動部16は、更に、主走査動作時にインクジェットヘッド102と共に紫外線光源104を移動させることにより、インクジェットヘッド102によるインク滴の吐出位置に合わせ、紫外線光源104に紫外線を照射させる。
【0045】
プラテン18は、ヘッド部12と対向する位置に配設される台状部材であり、上面に媒体50を載置することにより、ヘッド部12と対向させて媒体50を支持する。また、本例において、プラテン18は、媒体50を加熱するヒータ(加熱ヒータ)であるプリヒータ20、プリントヒータ22、及びアフターヒータ24を内部に収容している。
【0046】
プリヒータ20、プリントヒータ22、及びアフターヒータ24は、媒体50を加熱する加熱手段であり、媒体50を介して媒体50上のインクを加熱することにより、インク中の溶媒を揮発除去して、インクを乾燥させる。紫外線光源104に加えてこれらの加熱手段を用いることにより、インク中の溶媒をより適切に揮発除去して、インクの乾燥を一層促進できる。また、これにより、媒体50にインクをより適切に定着させることができる。
【0047】
また、より具体的に、プリヒータ20は、媒体50を予備加熱するヒータであり、媒体50の搬送方向においてインクジェットヘッド102よりも上流側に配設されることにより、媒体50においてインク滴が着弾する前の領域を加熱する。プリントヒータ22は、インクジェットヘッド102と対向する位置において媒体50を加熱するヒータである。この場合、紫外線光源104は、プリントヒータ22により加熱される媒体50上のインクに紫外線を照射することにより、プリントヒータ22と共に、インクに含まれる溶媒の少なくとも一部を揮発除去する。このように構成すれば、例えば、媒体50への着弾直後のインクから、インク中の溶媒をより適切に揮発除去できる。また、これにより、媒体50上で滲みが発生する前にインクの粘度をより適切に高めることができる。
【0048】
アフターヒータ24は、搬送方向においてインクジェットヘッド102よりも下流側に配設されるヒータであり、プリントヒータ22及び紫外線光源104の位置を通過後の媒体50を更に加熱することにより、紫外線光源104及びプリントヒータ22では除去しきれなかった溶媒を除去する。また、これにより、アフターヒータ24は、例えば、媒体50上のインクをより確実に乾燥させ、媒体50に定着させる。
【0049】
尚、図1においては、アフターヒータ24として、プラテン18内からの熱伝導により媒体50を加熱する伝熱式のヒータを図示している。しかし、熱が伝わりにくい媒体50を用いる場合には、アフターヒータ24として、伝熱式以外の構成のヒータを用いてもよい。この場合、アフターヒータ24として、例えば、温風ヒータ、赤外線ヒータ等の乾燥
機を用いてもよい。また、伝熱式のアフターヒータ24に加えて、これらの構成を更に用いてもよい。
【0050】
制御部26は、例えば印刷装置10のCPUであり、印刷装置10の各部を制御する。本例によれば、例えば、媒体50に対する印刷を適切に行うことができる。
【0051】
また、本例においては、インク中に紫外線吸収剤を含ませることにより、例えば、インク滴の着弾直後において、紫外線の照射でインクを効率的に加熱できる。また、これにより、本例のようにインクジェットヘッド102と対向する位置で媒体50を加熱するプリントヒータ22等を用いる場合にも、プリントヒータ22等による加熱温度を適切に抑えることができる。そのため、本例によれば、例えば、インクジェットヘッド102のノズル面への影響等を抑えつつ、インク中の溶媒を適切に揮発除去できる。また、これにより、例えば、インクの滲みが発生する前に、インクの粘度を適切に高めることができる。
【0052】
また、この場合、紫外線の照射等によりインクを乾燥させることにより、媒体50にインクを適切に定着させることができる。更に、本例においては、プリヒータ20、プリントヒータ22、及びアフターヒータ24で媒体50を加熱することにより、例えば紫外線光源104のみで加熱を行う場合等と比べ、インクをより適切に乾燥させることができる。このように、本例によれば、例えば、蒸発乾燥型のインクを用いる場合において、インクの滲みを適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、高い品質の印刷を適切に行うことができる。
【0053】
ここで、本例における印刷装置10の構成については、例えば、蒸発乾燥型のインクを乾燥させるための手段(定着手段)として複数の加熱手段を用いている構成と考えることもできる。この場合、より具体的に、例えばインクジェットヘッド102によりインク滴を吐出する位置(プリント位置)で媒体50を裏面側から加熱する第1の加熱手段としてプリントヒータ22等を用いる。そして、第1の加熱手段と併せて、第2の加熱手段として紫外線光源104を用いていると考えることができる。この場合、第1の加熱手段は、例えば、70℃以下の温度で加熱を行う手段であることが好ましい。第1の加熱手段による加熱温度は、60℃以下であることがより好ましい。また、第2の加熱手段は、媒体50の各位置に対し、時系列において、インクジェットヘッドにより吐出されたインク滴の着弾後に紫外線を照射する。第2の加熱手段としては、紫外線照射のオン・オフ制御が可能な紫外線光源104を用いることが好ましい。
【0054】
また、印刷装置10の構成の変形例においては、第1及び第2の加熱手段のうち、第1の加熱手段を省略することも考えられる。この場合、例えば、プリントヒータ22等のヒータを用いずに、紫外線光源104のみでインクを加熱する。また、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、例えば、紫外線光源104及びプリントヒータ22等に加え、更に別の加熱手段を用いてもよい。例えば、印刷装置10において、搬送方向における紫外線光源104よりも下流側において、アフターヒータ24と対向する位置等に、赤外線光源等を更に配設すること等も考えられる。このように構成すれば、例えば、アフターヒータ24と共に赤外線光源等での加熱を行うことにより、例えば、媒体50上のインクをより確実かつ適切に乾燥させることができる。また、赤外線光源等の加熱手段を用いる場合、アフターヒータ24と省略することも考えられる。
【0055】
尚、上記のように、本例においては、インクの色への影響が少ない光である紫外線を用いて、インクを加熱する。これに対し、インクの色への影響が少ない光を用いてインクを加熱する構成としては、例えば紫外線光源104に代えて赤外線光源を使用して、赤外線を用いる構成等も考えられる。この場合も、例えば可視光領域の光に対して透明な赤外線吸収剤を用いれば、印刷される色への影響を与えずに、滲みの発生等を抑えることができ
る。
【0056】
しかし、赤外線吸収剤は、一部の物質を除き、通常、可視光領域の光に対し、無視できない程度の吸収を示す。そのため、印刷される色への影響を抑えようとすると、赤外線吸収剤として用いる物質の選択の幅が狭くなる。また、その結果、所望の特性のインクを適切に用いることが難しくなる場合もある。
【0057】
これに対し、紫外線吸収剤の場合、可視光領域の光に対する吸収性が十分に小さい物質が多く知られている。そのため、使用するインクの特性に応じた紫外線吸収剤について、より広い選択の幅から、より容易かつ適切に選択することが可能になる。そのため、本例によれば、例えば、インクの滲みを抑え得る構成をより適切に実現できる。
【0058】
また、本例のように、複数色のインクを用いる場合、赤外線を用いて加熱を行うと、インクの色によって加熱のされ方に差が生じるおそれがある。より具体的には、例えば、通常の顔料インクを用いた場合、黒色(K)のカーボンブラック顔料のみが、他の色のインクと比べて赤外線をよく吸収することになる。そのため、YMC等の他の色のインクを適切に乾燥できるように赤外線の強度を設定すると、黒色のインクに焦げが発生することになる。また、逆に、黒色のインクに合わせて赤外線の強度を設定すると、色によって乾燥のレベルの違いが発生することになる。そのため、この点でも、紫外線を用いる構成が好ましいと考えられる。
【0059】
続いて、本例において媒体50に印刷を行う動作(印刷動作)について、更に詳しく説明をする。先ず、説明の便宜上、従来の印刷装置での印刷動作の例について、説明をする。図2は、従来の印刷装置での印刷動作の一例を簡略化(モデル化)して示す図(乾燥プロセスのモデル)であり、紫外線吸収剤を含まないインクを用いる場合(紫外線吸収剤を含むインクを用いない場合)について、プラテン18内に設けたヒータ(プリントヒータ22等)のみを用いてインクを乾燥させる場合の印刷動作の例を示す。
【0060】
尚、図2に示した印刷の動作では、例えば、図1に示した印刷装置10から紫外線光源104を省略した構成と同一又は同様の構成の印刷装置を用いる。この場合、プリントヒータ22の加熱温度等については、図1の構成との違いに応じて、適宜調整することが好ましい。
【0061】
図2(a)は、媒体50に対してインク滴を吐出する動作の一例を示す。図2(b)は、印刷動作の完了後の媒体50の一例を示す断面図である。また、図2に示した構成において用いるインクは、例えば、紫外線吸収剤を含まない点以外は図1に示した印刷装置10で用いるインクと同一又は同様のインクであってよい。また、このインクは、例えば公知の蒸発乾燥型インクであってよい。より具体的に、図2においては、公知の水性のインクを用いる場合について、図示をしている。また、媒体50としては、溶媒を揮発除去する前のインクを吸収する性質の媒体50(浸透性メディア)を用いている。このような媒体50は、より具体的に、紙や布(布帛)等である。
【0062】
蒸発乾燥型のインク等を用いる構成の従来の印刷装置で印刷を行う場合、プリントヒータ22等のヒータで媒体50の全体に対して加熱を行う。また、これにより、インク中の溶媒を揮発除去して、媒体50上でのインクの滲みを抑える。そして、この場合、例えば図2(a)に示すように、プリントヒータ22で加熱を行いつつ、インクジェットヘッド102により媒体50へインク滴を吐出する。
【0063】
また、より具体的に、この場合、プラテン18内においてインクジェットヘッド102と対向する位置に配設されたプリントヒータ22により、媒体50においてインク滴が着
弾する領域の全体を、例えば70℃以下(例えば50~70℃)程度、好ましくは、60℃以下(例えば50~60℃)の温度に加熱する。また、これにより、媒体50の表面に形成されたインクの層を加熱し、インクを高粘度化することで、インクの滲みの発生を抑える。
【0064】
ここで、プリントヒータ22により媒体50を加熱する場合、媒体50を挟んでプリントヒータ22と対向する位置にあるインクジェットヘッド102も、熱輻射の影響を受けることになる。そのため、プリントヒータ22による加熱温度について、上記の温度よりも高い高温にすると、インクジェットヘッド102への熱輻射の影響が大きくなる。また、その結果、例えば、インクジェットヘッド102におけるノズル付近のインクが乾燥して、ノズル詰まり等が生じやすくなる。そのため、加熱温度を上記の範囲より高めることは難しい。また、加熱温度を高め、溶媒の蒸発速度を速めた場合、例えば、蒸発した溶媒が相対的に低温であるインクジェットヘッド102に凝集付着し、インクの安定吐出を妨げることになる。そのため、この点でも、プリントヒータ22による加熱温度を高めることは難しい。
【0065】
また、反対に、加熱温度を上記の温度よりも低い低温にすると、インクの乾燥に多くの時間がかかることになる。また、その結果、例えば、滲みの問題が大きくなる。また、また、乾燥するまでに媒体50へ浸透するインクの量が多くなりすぎるおそれもある。そのため、加熱温度を上記の範囲よりも低くすることも難しい。従って、プリントヒータ22等でインクを乾燥させる場合には、媒体50の加熱温度を上記のような温度(中温)にすることが好ましい。すなわち、プリントヒータ22によりこのような中温で媒体50を加熱することにより、熱輻射の影響を抑えつつ、インク中の溶媒を揮発除去できる。
【0066】
しかし、この場合も、例えば印刷の速度を高速化すると、印刷速度と比べてインクの乾燥速度が低速になり、滲みの発生等の問題が生じることになる。また、印刷の速度を高速化する場合、例えば印刷のパス数を減らすことになる。より具体的に、上記のような従来の構成で印刷を行う場合、印刷のパス数は、通常、8~32パス程度に設定する。そして、この場合、パス数を少なくすると、単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が多くなるため、乾燥速度が間に合わなくなる場合もある。また、この場合、媒体50として浸透性メディアを用いると、例えば図において媒体50中に網掛け模様で示すように、毛細管現象により着弾後の時間の経過によって媒体50の中まで深くインクが浸透して、媒体50の表面に残るインクの量が減少することになる。また、その結果、印刷の濃度が低下して、印刷される色が薄くなる。また、印刷結果(プリント物)がぼけて見える問題等も生じやすくなる。すなわち、従来の印刷装置で印刷を行う場合、印刷速度を高速化すると、印刷した面を観察した場合の印刷結果の色が薄くなることや、滲みの問題が発生しやすくなる。
【0067】
これに対し、インクの滲み等の問題を抑えるためには、プリントヒータ22の温度を上昇させればよいようにも思われる。このように構成すれば、溶媒の蒸発速度が速くなるため、滲み等の問題を改善できる。しかし、上記のように、プリントヒータ22による加熱温度を高温にした場合、プリントヒータ22と対向する位置にあるインクジェットヘッド102のノズル面が輻射熱の影響を受け、ノズル詰まり等の問題が生じやすくなる。そのため、プリントヒータ22による加熱温度については、インク滴の吐出を安定に保つための上限温度が存在するといえる。また、その結果、印刷速度を高速化すると単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が多くなる構成の印刷装置では、高速化に限界が生じることになる。
【0068】
そのため、従来の印刷装置で印刷を行う場合、プリントヒータ22による加熱温度は、上記のように、通常、50~60℃又は40~60℃程度の範囲に選ばれることが多かっ
た。しかし、この程度の温度で加熱を行う場合、印刷速度を高速化すると、上記において説明をしたように、インクの滲みや、媒体50の中まで多くのインクが浸透する問題が生じる。また、印刷結果(プリント物)がぼけて見える問題も生じやすくなる。また、このような問題は、プリントヒータ22の加熱温度をより低く(例えば40℃程度)にすると、更に顕著になる。
【0069】
また、このような低温乾燥条件を用いる場合、単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が増加する高速印刷の条件では、媒体50の表面方向へインクが広がり、滲みが特に発生しやすくなる。より具体的に、例えば、印刷速度の高速化のために印刷のパス数を8以下(1~8パス)程度に減らした場合、単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が増加し、吐出不良を回避できる条件の温度範囲では、プリントヒータ22のみを用いて滲みを防止することがより困難になる。そのため、従来の印刷装置で印刷を行う場合、滲み等の問題を抑えつつ、高速に印刷を行うことが困難であった。
【0070】
尚、インクの蒸発速度を高めて滲みを抑えるためには、インク中の溶媒の沸点を低く選ぶ方法も考えられる。しかし、この場合、インクジェットヘッド102でのインクの蒸発もしやすくなるため、プリントヒータ22の加熱温度を高めた場合と同様に、ノズル詰まりや吐出不良等が生じやすくなる。そのため、このような方法でも、上記の問題を解決することは難しい。
【0071】
これに対し、図1を用いて説明をした本例の印刷装置10においては、紫外線吸収剤を含むインクを用いることにより、これらの問題を適切に解決している。図3は、本例の印刷装置10による印刷動作の一例を簡略化(モデル化)して示す図(乾燥プロセスのモデル)である。図3(a)は、媒体50に対してインク滴を吐出する動作の一例を示す。
【0072】
上記においても説明をしたように、本例の印刷装置10で印刷を行う場合、紫外線光源104とプリントヒータ22とを用いて、インク中の溶媒を急速に揮発除去する。また、これにより、媒体50への着弾直後のインクを乾燥させ、滲みの発生しない粘度にまでインクの粘度を高める。そして、この場合、例えばプリントヒータ22のみでインクを乾燥させる場合等と比べ、プリントヒータ22による加熱の温度を低く設定できる。プリントヒータ22による加熱温度とは、例えば、インクジェットヘッド102と対向する領域に対するプリントヒータ22の加熱温度のことである。
【0073】
そして、この場合、プリントヒータ22の加熱により生じる輻射熱も小さくなるため、インクジェットヘッド102のノズル面でのインクの乾燥や、ノズル詰まり等は生じにくくなる。また、図3(a)にも図示したように、本例において、紫外線光源104は、媒体50においてインクジェットヘッド102と対向する領域の外にあるインクへ紫外線を照射する。そして、この場合、媒体50においてインクジェットヘッド102と対向する位置において、インクの溶媒は、プリントヒータ22の加熱のみにより、比較的ゆっくり蒸発する。そのため、蒸発した溶媒がインクジェットヘッド102に凝集付着する問題等を適切に防ぐこともできる。また、これにより、吐出の安定性をより適切に高めることができる。
【0074】
より具体的に、この場合、インクジェットヘッド102により吐出されて媒体50に着弾したインクは、紫外線光源104により紫外線が照射される前に、インクジェットヘッド102と対向する領域において、プリントヒータ22により、例えば70℃以下、好ましくは60℃以下(例えば20~60℃程度)の比較的低い温度に予備加熱される。プリントヒータ22による加熱温度は、より好ましくは20~50℃程度、更に好ましくは20~45℃程度である。また、プリントヒータ22による加熱温度は、例えば、高速な印刷を行わない公知の低速プリンタにおけるプリントヒータの加熱温度程度であってよい。
【0075】
また、本例においては、更に、インクジェットヘッド102と対向する領域の近傍へ紫外線光源104により紫外線を照射することにより、その領域のインクを直接的に加熱してインクの溶媒を急速に蒸発させ、インクを高粘度化させる。このように構成すれば、例えば、滲みが発生する前にインクの粘度を高め、インクの滲みを適切に防止できる。また、この場合、例えば、多くのインクが媒体50に吸収される前にインクの粘度を高めることができるため、媒体50の表面においてインクの層が薄くなることもない。また、インクジェットヘッド102と対向する領域を避けて紫外線を照射することにより、紫外線光源104の照射により生じる輻射熱や溶媒の蒸発の影響がインクジェットヘッド102に及ぶことも適切に防ぐことができる。そのため、本例によれば、例えば、インクの安定吐出を妨げることなく、着弾後に速やかにインクの粘度を高めることが可能になる。
【0076】
また、更に具体的に、図1及び図3に図示した構成において、紫外線光源104は、主走査動作時にインクジェットヘッド102と共に主走査方向へ移動する。そして、インクジェットヘッド102の移動方向において後方側になる紫外線光源104で媒体50上のインクへ向けて紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、媒体50の各位置に対し、インクジェットヘッド102の通過直後に紫外線光源104で紫外線を照射し、着弾したインク部分のみに選択的に紫外線を吸収させることができる。また、これにより、媒体50の全体を高温に加熱するのではなく、媒体50上のインクの層のみを選択的に急速加熱できる。また、この加熱でインク中の溶媒を揮発除去して、インクの粘度を高めることにより、インクの滲みを適切に防ぐことができる。
【0077】
また、この場合、上記のように、紫外線光源104は、インクジェットヘッド102の通過後の領域に対し、紫外線を照射する。そのため、紫外線光源104による加熱の熱輻射の影響をインクジェットヘッド102が受けることや、紫外線の照射により蒸発した溶媒がインクジェットヘッド102のノズル面に凝集すること等も適切に防ぐことができる。そのため、本例においては、この点でも、吐出の安定化が可能になる。
【0078】
また、上記においても説明をしたように、本例においては、蒸発乾燥型のインクを用いる。そして、この場合、例えば、プリントヒータ22及び紫外線光源104によりインク中の溶媒を揮発除去することにより、インクを媒体50に適切に定着させることができる。また、図1及び図3に図示した構成においては、更に、媒体50の搬送方向における紫外線光源104よりも下流側でアフターヒータ24による加熱を行うことで、インクをより確実に乾燥させることができる。そのため、本例によれば、例えば、インクをより確実に媒体50に定着させることができる。
【0079】
図3(b)は、印刷動作の完了後の媒体50の一例を示す断面図である。上記のように、本例においては、媒体50として浸透性メディアを用いた場合も、多くのインクが媒体50に吸収される前にインクの粘度を高め、媒体50の表面付近でインクを急速乾燥できる。そして、この場合、媒体50の内部へのインクの浸透量が少なく(浅く)なり、媒体50の表面付近に多くのインクが残るため、表面のインクの厚さを十分に厚くできる。また、これにより、印刷される色が薄くなること等を適切に防ぎ、インクの色を十分に濃くして鮮明な印刷を行うことができる。そのため、本例によれば、滲みの発生等を抑えつつ、媒体50への印刷を適切に行うことができる。また、紫外線光源104等を用いることにより、例えば、浸透性メディアである媒体50中に残る溶媒の残存率及び残存時間を減少させることもできる。また、これにより、例えば紙等の媒体50を用いた場合に発生するコックリングや、カール等の発生を適切に防ぐこともできる。
【0080】
また、本例においては、紫外線の照射によりインク中の溶媒を揮発除去することにより、上記のように、短時間でインクをより確実に乾燥させることができる。そのため、例え
ば、印刷後の媒体50を速やかに後工程に移行すること等も可能になる。また、例えば印刷後に媒体50を巻き取る構成の印刷装置10を用いる場合等において、印刷速度を高めた高速機等でも、巻き取り後に生じる裏写りの問題等を適切に防ぐことができる。
【0081】
尚、本願の発明者は、実験等により、紫外線光源104により紫外線を照射することで、インク中の溶媒の80%程度を除去できることを確認した。そのため、本例の構成においては、例えば紫外線を照射するのみでも、インク中の溶媒の大部分を除去して、インクを媒体50に定着させること等も可能である。
【0082】
また、浸透性メディアを用いる場合、本例のように紫外線光源104を用いたとしても、例えば図3(b)に示すように、インクは、媒体50の内部にわずかに浸透する。しかし、インクがわずかに浸透したとしても、例えば、紫外線光源104を用いない従来の構成で印刷を行った場合と比べ、インクの浸透量を大幅に低減できる。
【0083】
また、本例の印刷装置10で用いる媒体50の種類は特に限定されない。そのため、印刷装置10において、インクが内部に全く浸透しない性質の媒体50(非浸透性メディア、非吸収性メディア)を用いることも考えられる。
【0084】
図3(c)は、非浸透性メディアを用いた場合について、印刷動作の完了後の媒体50の一例を示す断面図である。非浸透性メディアを用いる場合、プリントヒータ22による加熱や紫外線の照射等によりインクの粘度を高める前にも、媒体50はインクを吸収しない。そのため、この場合、印刷後の状態において、媒体50の表面は厚く残る。また、この場合も、紫外線光源104によりインクの粘度を高めることにより、滲みの発生等を適切に防ぐことができる。また、これにより、滲みの発生等を抑えつつ、媒体50への印刷を適切に行うことができる。
【0085】
また、この場合、媒体50へのインクの浸透が生じないため、浸透性の媒体50を用いる場合と比べ、媒体50に付着させるインクの量を減らすこと等もできる。このように構成すれば、例えば、インクの滲み等をより適切に抑え、より少ないインクの量で濃い色の印刷を適切に行うことができる。
【0086】
続いて、本例の構成に関する様々な特徴について、更に詳しく説明をする。先ず、本例の構成によって実現可能になる印刷速度の高速化について、説明をする。
【0087】
上記においても説明をしたように、本例においては、紫外線光源104から紫外線を照射することにより、媒体50への着弾後、滲みが発生する前にインクの粘度を適切に高めることができる。また、これにより、例えば、単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量を増加させて、印刷速度を高速化できる。
【0088】
より具体的に、本例の印刷装置10のように、インクジェット方式で印刷を行う場合、媒体50の各位置に対して複数回の主走査動作を行うマルチパス方式での印刷が広く行われている。そして、この場合、例えば蒸発乾燥型のインク等を用いて従来の構成で印刷を行うのであれば、滲みを防止するため、一回の主走査動作(パス)で吐出するインクの量を少なくすることが必要になる。
【0089】
例えば、カラー印刷用のインクとして広く用いられているような、YMCKの4色のインクを用いて印刷を行う場合、仮に、マルチパス方式ではなく、媒体50の各位置に対して一回の主走査動作のみを行う1パスでの印刷を行うとすると、1色あたりのインクの量が最大で100%であるため、4色の合計で400%に達する。しかし、従来の構成でこのような大量のインクを一回の主走査動作で吐出すると、通常、滲みが発生し、適切に印
刷を行うことは難しい。
【0090】
そのため、従来の印刷装置においては、通常、少なくとも8パス以上のマルチパス方式で印刷を行う。この場合、一回の主走査動作でのインクの吐出量は、1色あたり最大で12.5%、4色の合計で50%になる。また、より高い精度で印刷を行うためには、より多くのパス数(例えば、16パス、32パス等)を用いる必要がある。このように、従来の構成では、滲みを防ぐためにある程度以上のパス数で印刷する必要がある。しかし、印刷のパス数を多くすると、印刷速度は大きく低下することになる。そのため、従来の構成においては、インクの溶媒を乾燥させる過程で生じる滲みの問題により、印刷速度の高速化が難しくなっていたといえる。
【0091】
これに対し、本例においては、紫外線の照射によりインク中の溶媒を揮発除去することにより、例えばパス数を少なくすることで単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が多くなったとしても、滲みの発生を適切に抑えることができる。そのため、本例によれば、例えば、マルチパス方式で印刷を行う場合において、パス数を適切に低減し、高速な印刷(高速プリント)をより適切に行うことができる。また、これにより、例えば、従来の方法での限界を超えて、より高速化しても滲みを発生させずに印刷することが可能になる。
【0092】
より具体的に、本例においては、例えば印刷のパス数を8パス以下(1~8パス)程度にした場合において、単位面積に対して単位時間に吐出するインクの量が多くなり、プリントヒータ22等のみでは滲みを防止できない条件になった場合にも、紫外線光源104を用いることで、適切に滲みを防止できる。また、これにより、例えば、従来と比べて高い品質の印刷をより適切に行うことができる。すなわち、本例によれば、例えば、印刷のパス数を8パス以下にした高速な印刷装置(高速プリンタ)を適切に実現できる。
【0093】
また、例えばより高速に印刷を行う場合、パス数については、8パス未満(例えば4パス以下)にすることも可能である。また、紫外線光源104を用いることで滲みを防止する効果は、例えば、印刷のパス数を1~4パス程度にする場合に、特に顕著になるともいえる。また、本例によれば、例えば、マルチパス方式での印刷を行わず、1パスでの印刷を行うことも可能になる。
【0094】
また、例えば乾燥速度が遅いインクを用いる場合には、パス数が4以上の場合にも、顕著な効果を得ることができる。更には、この場合、8パスよりも多くのパス数で印刷を行う場合にも、紫外線光源104を用いることで滲みを防止する効果として、顕著な効果を得ることができる。この場合、例えば、32パス程度以下(例えば、16~32パス等)のパス数で印刷を行うことが考えられる。
【0095】
また、紫外線光源104を用いることで滲みを防止する効果は、例えば高速に印刷を行う高速プリンタ以外でも有用な効果である。例えば、紙や布等の滲みが発生しやすい媒体50を用いる場合、高速な印刷を行う場合以外でも、滲みを防止する効果が大きいといえる。そのため、本例の印刷装置10は、高速印刷用等の特定の分野(SG分野等)に限らず、様々な分野での印刷に好適に用いることができる。また、本例においては、例えば、隣接するインクのドットについて、混じり合う前に粘度を十分に高めることができる。そのため、例えば、インクのドットが繋がってスジ等が発生すること等も防ぐこともできる。
【0096】
続いて、本例において用いるインクの特徴について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例において用いるインクは、紫外線吸収剤、溶媒、及び色材等を含む。また、より具体的に、この構成において、紫外線吸収剤としては、紫外線光源
104が発生する紫外線の波長に合わせた吸収特性を有する物質を用いることが好ましい。また、この関係については、例えば、UVLED等の紫外線光源104の発光波長域に対して強い光吸収を示す紫外線吸収剤を用いることが好ましいともいえる。また、例えば、使用する紫外線吸収剤が吸収する波長範囲内の紫外線を照射する紫外線光源104を選ぶことが好ましいともいえる。また、この場合、紫外線光源104の発光波長について、インクが含む紫外線吸収剤の紫外吸収帯と略一致していることが好ましいともいえる。
【0097】
また、より具体的に、紫外線光源104は、例えば、410nm以下の波長の紫外線を照射することが好ましい。また、このような紫外線光源104としては、近紫外領域、(例えば250~410nmの範囲、好ましくは、250~400nmの範囲)に発光中心波長を有するUVLED等を用いた光源を好適に使用できる。また、この場合、410nm以下の波長の紫外線の所定の波長域にのみ強い吸収を持つ紫外線吸収剤をインクに添加し、紫外線光源104と組み合わせることが好ましい。この場合、紫外線光源104として用いるUVLEDが発生する波長範囲の紫外線を選択的に吸収し、可視光領域には顕著な吸収特性を有さない紫外線吸収剤を用いることが好ましい。UVLEDが発生する波長範囲の紫外線を選択的に吸収するとは、例えば、紫外線光源104におけるUVLEDの発光波長近傍に大きな吸収特性を示すことである。また、可視光領域には顕著な吸収特性を有さないとは、例えば、可視光に対してほぼ透明なことである。このように構成すれば、例えば、紫外線の照射により媒体50上のインクを直接的かつ選択的に加熱し、インク中の溶媒を適切に揮発除去できる。
【0098】
尚、紫外線吸収剤の吸収特性について、具体的には、例えば、インクの厚さを20μmにして、UVLEDで250~410nmの波長領域の紫外線を照射する条件で、紫外線の吸収率が10%以上であることが好ましい。また、この条件での紫外線の吸収率は、20%以上であることがより好ましい。また、可視光領域の光に対する吸収特性については、例えば、YMCRGB等の基本色のインク(カラーインク)の色調について、紫外線吸収剤を添加前後で、L*a*b*表色系でのΔE色差が20以下であることが好ましい。また、紫外線吸収剤の添加により生じるΔE色差は、10以下であることがより好ましい。
【0099】
また、本例において、紫外線吸収剤としては、上記の特性を有する公知の紫外線吸収剤を好適に用いることができる。例えば、本例のインクは、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、液状紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、又はベンゾエート系紫外線吸収剤等を含んでよい。
【0100】
また、より具体的に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN P、TINUVIN 234、TINUVIN 326、TINUVIN 328、及びTINUVIN 329から選ばれる紫外線吸収剤等を用いることが考えられる。液状紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN 213、及びTINUVIN 571から選ばれる紫外線吸収剤等を用いることが考えられる。トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN 1577 ED等を用いることが考えられる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、CHIMASSORB 81等を用いることが考えられる。ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN 120等を用いることが考えられる。また、本例のインクは、例えば、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤等を含んでもよい。
【0101】
また、波長360nm未満の紫外線を好適に吸収できることから、トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を使用することがより好ましい。このような紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN 400、TINUVIN 405、TINUVIN 460、及びTINUVIN 479から選
ばれる紫外線吸収剤等を用いることが考えられる。
【0102】
尚、上記の記載において、TINUVIN及びCHIMASSORBは、登録商標である。また、これらの登録商標を用いて上記に示す紫外線吸収剤は、BASF社製の紫外線吸収剤である。また、本例で用いるインクにおいて、上記の様々な紫外線吸収剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0103】
また、紫外線吸収剤の特性に関し、可視光領域の光に対する紫外線吸収剤の透過率は、60%以上であることが好ましい。このように構成すれば、可視光に対して紫外線吸収剤をほぼ透明にして、紫外線吸収剤を含ませることによるインクの色の変化を適切に抑えることができる。可視光領域の光に対する紫外線吸収剤の透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。このように構成すれば、例えば、可視光に対する光吸収の少ない透明度の高い紫外線吸収剤を適切に用いることができる。また、これにより、例えば、可視光の領域に対し、インクの色濁りや明度の低下等を適切に防ぐことができる。
【0104】
また、上記においても説明をしたように、本例のインクにおいて、紫外線吸収剤は、例えば、溶媒中に溶解又は分散するように添加される。この場合、紫外線吸収剤を溶媒中に直接的に溶解又は分散させる構成以外に、例えば、インク中の他の成分中に紫外線吸収剤を溶解又は分散させること等も考えられる。この場合、インク中の他の成分とは、例えば、インクが含む成分樹脂等である。また、成分樹脂とは、インクが成分として含む樹脂のことである。また、成分樹脂等に紫外線吸収剤を分散させるとは、例えば、固形物の状態の紫外線吸収剤をバインダ樹脂等の中に分散させることであってよい。
【0105】
また、成分樹脂は、例えばバインダ樹脂等であってよい。この場合、バインダ樹脂等を溶媒中に溶解又は分散させることにより、紫外線吸収剤を溶媒中に溶解又は分散させることができる。また、例えばラテックスインクに紫外線吸収剤を添加したインクを用いる場合には、ラテックス樹脂に紫外線吸収剤を溶解又は分散させることも考えられる。
【0106】
また、より具体的に、本例においては、上記に示したような各種の有機紫外線吸収剤を用いることが考えられる。この場合、例えば、成分樹脂中に有機紫外線吸収剤を溶解添加し、更にその成分樹脂を溶媒中に分散した構成等を用いること等が考えられる。また、溶媒中に有機紫外線吸収剤を直接溶解した構成等を用いることも考えられる。また、紫外線吸収剤としては、上記に限らず、他の物質を用いてもよい。例えば、紫外線吸収剤としては、無機物質を用いてもよい。この場合、例えば、酸化亜鉛や酸化チタン等の透明微粒子を溶媒中に分散添加した構成等を用いることが考えられる。また、この場合も、例えば、これらの紫外線吸収剤を成分樹脂中に分散添加して、成分樹脂をインクの溶媒中に分散させてもよい。
【0107】
また、特に、溶媒の主成分として水や一部の有機溶剤を用いる場合には、溶媒に紫外線吸収剤が溶解しない構成になることもある。この場合、溶媒の主成分とは、溶媒を構成する液体のうち、最も含有量が多い成分のことである。そして、このような場合には、溶媒中に直接紫外線吸収剤を溶解又は分散させるのではなく、他の成分中に紫外線吸収剤を溶解又は分散させることが好ましい。また、この場合、紫外線吸収剤を微粒子状にして溶媒中に分散させること等も考えられる。
【0108】
また、本例のインクにおいて、溶媒は、インクの主成分である。この場合、主成分とは、例えば、重量比で最も多く含まれる成分のことである。また、本例のインクにおいて、溶媒は、例えば、インクの全体重量の50重量%以上を占める成分であることが好ましい。このように構成すれば、例えば、インクジェットヘッド102からの吐出前のインクの
粘度について、インクジェット方式での吐出に適した低い粘度に適切に調整できる。また、インクの溶媒としては、例えば、主成分の沸点が200℃以下の溶剤(有機溶剤)や水等を用いることが考えられる。
【0109】
このようなインクを用いることにより、例えば、媒体50への着弾後において、紫外線の照射等によって主成分である溶媒を蒸発させ、インクが滲むことを適切に防ぐことができる。また、溶媒を蒸発させることにより、蒸発乾燥型のインクを媒体50に適切に定着(乾燥定着)させることができる。
【0110】
また、この場合、例えば、紫外線を照射することでインクを短時間で乾燥させることが可能であるため、従来の構成では適切に印刷することが難しかったインクと媒体50との組み合わせを実現すること等も可能になる。より具体的には、例えば、受像層を形成しない紙や前処理を行わない布帛等を媒体50として用いる場合にも、様々な蒸発乾燥型のインクを用いることが可能になる。また、これにより、例えば、印刷のランニングコストを大幅に低減できる。
【0111】
また、例えば布、多孔性の媒体50、非浸透性のPETやPC(ポリカーボネイト)等のような、従来のソルベントインクを用いて従来の構成で印刷を行う場合には滲みの問題等で適切に印刷することが難しい媒体50を用いる場合にも、例えばソルベントインクに上記のような紫外線吸収剤を含ませたインクを用い、紫外線による加熱を行うことで、より適切に印刷を行うことが可能になる。また、同様に、例えば従来のラテックスインクを用いて従来の構成で印刷を行う場合には滲みの問題等で適切に印刷することが難しい媒体50を用いる場合にも、例えばラテックスインクに上記のような紫外線吸収剤を含ませたインクを用い、紫外線による加熱を行うことで、より適切に印刷を行うことが可能になる。このように、本例によれば、例えば、様々な特徴のインクをより多様な媒体50と組み合わせて使用することが可能になる。
【0112】
ここで、上記においても説明をしたように、本例において、インクは、各色の色材を含んでいる。そのため、インクの色は特に限定されない。例えば、本例においては、YMCKの各色のインクについて、上記の構成のインクを用いる。また、印刷装置10において、他の色のインクを更に用いる場合、他の色のインクについても、上記の構成のインクを用いることが好ましい。他の色のインクとしては、例えば、白色、クリア色、赤(R)、緑(G)、青(B)、オレンジ(Org)等の色のインクを用いることが考えられる。
【0113】
また、紫外線吸収剤を含むインクとしては、従来、例えば、モノマー等を含む紫外線硬化型インク(UVインク)が広く用いられている。そして、本例のインクで用いる紫外線吸収剤としては、例えば、紫外線硬化型インクの成分と同一又は同様の紫外線吸収剤を用いてもよい。
【0114】
但し、この場合も、紫外線吸収剤が紫外線を吸収することで生じる現象は、本例のインクと、従来の紫外線硬化型インクとで、全く異なる。より具体的に、紫外線硬化型インクの場合、紫外線の照射によりモノマー等の重合反応を生じさせ、高分子化反応によりインクを硬化させて、インクを媒体に定着(硬化定着)させる。そのため、この場合、紫外線の照射により生じる現象は、化学的な現象である。
【0115】
これに対し、本例においては、重合反応による硬化ではなく、インク中の溶媒を蒸発させることで、インクを媒体に定着(乾燥定着)させる。そして、この場合、紫外線吸収剤は、紫外線に応じて熱を発生する熱源として機能する。そのため、この場合、紫外線により生じる現象は、物理的な現象であり、紫外線硬化型インクの場合と全く異なる。
【0116】
続いて、紫外線光源104による紫外線の照射の仕方について、更に詳しく説明をする。紫外線を照射する光源としては、UVLEDや紫外線LD等の半導体光源以外に、紫外線ランプ等も知られている。そして、紫外線光源104として、原理的には、半導体光源ではなく、紫外線ランプ等を使用すること等も考えられる。
【0117】
しかし、紫外線ランプは、通常、半導体光源と異なり、高速でのオン・オフの切り替えを行うことはできない。また、紫外線ランプは、通常、UVLED等と比べ、広い範囲を同時に加熱する。そのため、紫外線光源104として紫外線ランプを用いた場合、例えば溶媒を短時間で揮発除去できる高温乾燥の条件にすると、耐熱性の低い媒体50を使用できなくなる。また、この場合、媒体50やインクに焦げや変色が発生するおそれもある。
【0118】
更に、紫外線ランプ等は、通常、紫外線への変換効率が低く、加熱に有効性の低い可視光等を多く含んだ光を発生する。そして、この場合、インクのみを選択的に加熱することが難しくなり、インクと同時に、媒体50や周辺の部材も加熱することになる。また、紫外線ランプへ投入するエネルギーの多くは熱となり、媒体50を通して放熱され、損失(ロス)となる。また、その結果、インクの乾燥のために使用するエネルギー利用効率が低くなる欠点もある。
【0119】
そのため、紫外線光源104としては、上記においても説明をしたように、UVLED等の半導体光源を用いることが好ましい。このように構成すれば、特定の波長範囲の紫外線を効率的に照射できる。また、使用する紫外線の波長範囲に合わせた紫外線吸収剤を含むインクを用いることにより、媒体50等への影響を抑えつつ、インクを適切に加熱できる。また、これにより、滲みの発生を適切に防ぐことができる。
【0120】
また、UVLEDによる紫外線の照射強度は、近年(例えば、最近の5年程度の間)の技術進歩により、以前と比べて格段に向上している。また、その結果、インク中の溶媒を揮発除去するために必要な強度をより適切に得ることが可能になっている。そのため、この点でも、UVLEDを用いた光源により紫外線を照射することが好ましい。また、半導体光源を用いて紫外線を照射する場合、紫外線ランプ等を用いる場合と異なり、高速でのオン・オフを切り替えること等も可能になる。そのため、このように構成すれば、例えば、必要に応じて紫外線光源104のオン・オフを適切に切り替えることもできる。
【0121】
また、紫外線光源104によるインクの加熱の仕方については、媒体50上のインクを短時間で一気に加熱することが好ましい。この場合、紫外線光源104により、例えば、媒体50上の同じ位置に対する紫外線の連続照射時間が媒体50の放熱の熱時定数よりも短くなるように紫外線を照射することが好ましい。また、この場合、このような連続照射時間での紫外線の照射により、紫外線が照射された位置において、インクの溶媒の温度を沸点以上の温度に上昇させることが好ましい。インクの溶媒の沸点とは、例えば、インクの主成分となる溶媒の沸点のことである。
【0122】
インクの溶媒の温度を沸点以上の温度に上昇させることにより、例えば、インク中の溶媒成分を一気に蒸発させ、滲みを適切に防ぐことができる。また、この場合、例えば、媒体50の表面と平行な表面方向の滲みのみに限らず、媒体50の厚み方向の滲み等も適切に防ぐことができる。また、この場合、上記においても説明をしたように、多くのインクが媒体50に吸収される前にインクの粘度を高めることにより、媒体50の表面に多くのインクを残すことができる。そのため、例えば媒体50として浸透性メディアを用いる場合にも、濃いカラー画像やモノクロ画像等をより適切に印刷できる。また、これにより、鮮明な印刷をより適切に行うことができる。
【0123】
ここで、媒体50の加熱時に媒体50を通して逃げる熱等について、更に詳しく説明を
する。紫外線の照射によりインクを加熱する場合、媒体50を通して放熱される熱の量や、熱エネルギーの損失等についても考慮する必要がある。より具体的に、例えば、紫外線光源104の照射強度が小さい場合、媒体50を通して熱が逃げることにより、温度を十分に上昇させることが難しくなる。また、その結果、インクの滲みを適切に防ぐことが難しくなる。
【0124】
また、媒体50を通して放熱される熱の量の影響(温度の低下等)や、熱エネルギーの損失等の影響を小さくするには、例えば、過熱により媒体50やインクに焦げが発生しない範囲で十分に強い紫外線を照射し、溶媒の主成分の沸点前後近くの温度まで短時間に昇温させることが好ましい。また、この場合、上記のように、紫外線の連続照射時間を媒体50の放熱の熱時定数τよりも十分に短くすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、インクの溶媒の主成分の沸点前後近くの温度まで短時間に適切に昇温できる。
【0125】
より具体的に、媒体50を通して逃げる熱の伝達速度は、次の式で示される熱時定数τで決まる。
τ(熱時定数)=熱容量×熱抵抗=熱容量×厚み÷熱伝導率
【0126】
そして、媒体50の熱時定数τより短い時間で強い紫外線を照射した場合、断熱加熱条件に近くなり、放熱ロスを低減できる。尚、媒体50の熱時定数τは、使用する媒体50の材質や厚みによって変化する。
【0127】
図4は、媒体50の熱時定数τについて更に詳しく説明をする図であり、塩化ビニルの媒体50(塩ビシート)を用いる場合の熱時定数の計算結果の一例を示す。媒体50の熱時定数τは、より具体的に、図4に示すように計算できる。また、図示した場合において、熱時定数は、9.18秒である。すなわち、1mm程度の厚みの通常の塩化ビニルフィルムにおいて、熱時定数は10秒程度であるといえる。
【0128】
また、媒体50として他の種類の媒体(例えば、各種のプラスチックメディア等)を用いる場合も、多くの場合、熱時定数は、概ね同程度であると考えられる。例えば、一般的なプラスチックメディアにおいて、熱時定数は、数秒以上(例えば、5秒以上程度)である。そのため、紫外線光源104による連続照射時間については、例えば3秒以下にすることが好ましい。また、紫外線光源104による連続照射時間は、0.2秒以下にすることがより好ましい。
【0129】
また、本願の発明者は、実験等により、紫外線の連続照射時間をこのように設定した場合について、媒体50上のインクの層のみを効率的に高温に加熱できることを確認した。更には、連続照射時間について、0.1秒以下にすることで一層加熱の熱効率が高まることも確認した。
【0130】
ここで、本例の印刷装置10のような構成を用いる場合、主走査動作時に紫外線光源104をインクジェットヘッド102と同じ移動速度で移動させることになる。そして、この場合、紫外線による加熱時間(連続照射時間)の調整は、例えば、主走査方向における紫外線光源104の幅を調整することで行うことができる。また、より具体的に、主走査動作時のインクジェットヘッド102の移動速度は、通常、500~1000mm/s程度である。そして、この場合、紫外線光源104の主走査方向における幅を50mm程度にすると、媒体50上の同じ領域への連続照射時間は、50/(500~1000)=0.1~0.05秒程度になる。そのため、このように構成すれば、例えば、好ましい連続照射時間を適切に実現できる。
【0131】
また、この場合、紫外線光源104の照射強度を調整することにより、インクの加熱温
度を調整できる。また、これにより、設定した連続照射時間でインクの溶媒を適切かつ十分に揮発除去できる。また、この場合、紫外線光源104を移動させつつ加熱を行うことにより、過熱により媒体50やインクが焦げること等を防ぎつつ、媒体50の各位置に対し、強い紫外線による短時間の加熱を実現しているともいえる。
【0132】
より具体的に、例えば、本例とは異なる構成により、連続照射時間をより長くして紫外線を照射することを考えた場合、強い紫外線を用いると、媒体50等の焦げ等の問題が発生することになる。そのため、この場合、長時間の連続照射をしても焦げ等が生じないような、弱い紫外線を用いる必要がある。しかし、この場合、紫外線の照射で生じる熱のほとんどが媒体50から逃げることになり、インクの温度が上昇しないこととなる。そのため、この場合、紫外線の照射によりインクの溶媒を適切に揮発除去できないことになる。また、その結果、インクの滲みを適切に防ぐことができなくなる。これに対し、本例においては、主走査動作を行う構成を利用して、強い紫外線を短時間に照射できる構成を実現している。また、これにより、媒体50の焦げ等を防ぎつつ、インクを適切に加熱できる。
【0133】
また、更に具体的に、インクの加熱(インク層の定常加熱)に必要な照射強度(紫外線光源104の必要エネルギー)や、媒体から逃げる熱の量等については、以下のように計算できる。例えば、インクの加熱に必要な照射強度(エネルギー)に関し、媒体50上におけるインクの厚みをD(cm)、インクにおける紫外線の吸収率をα、インクの比熱を4.2(Joule/gr)とした場合、1cmの面積の厚みD(cm)のインクの層を10℃上昇させるために必要な照射エネルギーEiとすると、
αEi=(10×D×4.2) (Joule) 式(1)
になる。そして、D(=20μm)=0.002cmの場合、
Ei≒0.083/α (Joule/cm) 式(2)
になる。
【0134】
また、紫外線光源104としてUVLEDを使用して、UVLEDによる連続照射時間を1秒とした場合、α=0.5とすると、UVLEDからの必要な照射強度は、
0.166 (W/cm) 式(3)
になる。
【0135】
また、媒体から逃げる熱の量(放熱ロスエネルギー量)については、概算で、熱伝導率を0.25(W/mK)、媒体50の表裏の温度差を10℃、厚みを1mmとして、1cmの面積(1cmあたり)の媒体50を通して1秒間に逃げるエネルギーEl(Joule/sec)は、
El=(0.25×10×0.0001÷0.001)=0.25 (W)(Joule/sec) 式(4)
になる。
【0136】
また、このエネルギーE1は、媒体50をゆっくり加熱する定常加熱時の熱損失と考えることもできる。そして、この場合、式(3)、(4)の比較から、ゆっくりと加熱する通常の平衡条件での加熱を行う場合について、インクの層を加熱するエネルギーよりも多くのエネルギーが媒体50を通じて損失となるのがわかる。
【0137】
また、これらの式から、このような問題を回避するためには、媒体50の熱時定数(=熱容量×熱抵抗)より短い連続照射時間で紫外線光源104により強い紫外線を照射し、急速加熱することが有効であることがわかる。すなわち、熱の損失が少ない短時間加熱の条件においては、式(1)に近い小さなエネルギーを供給することにより、効率的な加熱を行うことができる。また、この場合、インクが含む溶媒の沸点又はそれ以上の温度にま
で溶媒の温度を瞬間的に上昇させることにより、インクの溶媒の蒸発速度を加速度的に速めることができる。但し、この場合にも、加熱速度には上限があり、使用するインクやインクと接する媒体50に焦げ等が発生しない温度範囲に抑える必要がある。
【0138】
また、本願の発明者は、公知の各種の紫外線吸収剤を含むインクと、公知のUVLEDとを組み合わせて、具体的な実験を行った。そして、紫外線の照射強度を様々な強度とし、連続照射時間を2~0.3秒以下にする条件で紫外線を照射することで、インクの滲みを効率的かつ適切に抑え得ることを確認した。また、媒体50やインク等の過熱による焦げ等を避ける条件についても、適切に実現できることを確認した。また、紫外線光源104による紫外線の照射強度について、少なくとも0.3W/cm以上にすることが好ましいことを確認した。紫外線の照射強度は、好ましくは0.5w/cm以上、より好ましくは1W/cm以上、更に好ましくは5W/cm以上である。また、更なる実験や検討により、これらの点について、特定の紫外線吸収剤やUVLEDを用いる場合に限らないことについても確認をした。
【0139】
また、実験においては、紫外線吸収剤を含むインクにUVLEDで紫外線を照射した場合について、インクの温度の変化等についても確認をした。また、この実験により、インクの温度を100~170℃程度まで上昇させることでインクが媒体50に適切に定着すること等を確認した。また、インクの温度が高くなった場合(例えば400℃程度を超えた場合)に、焦げが発生することを確認した。また、紫外線の連続照射時間を媒体50の熱時定数よりも長くした場合について、紫外線の照射強を1W/cm程度以上にすると焦げが発生しやすくなること等を確認した。
【0140】
尚、インクの滲みを適切に抑えるためには、上記の条件で紫外線を照射すること等に加え、例えば、インクの滲みが発生する以前の所定時間内に紫外線を照射する必要がある。そして、この所定時間は、例えば、例えば使用する媒体50や、インクの粘度及び表面張力等に支配される滲みの速度に応じて決まる。また、より具体的には、通常、例えば、インク滴の着弾後、0.05~2秒程度以内に紫外線を照射することが好ましい。また、紫外線を照射するまでの時間については、例えば、主走査動作時のインクジェットヘッド102の移動速度等に応じて、インクジェットヘッド102と紫外線光源104との間の距離を調整すること等で設定できる。
【0141】
続いて、本例の印刷装置10の様々な変形例や好ましい応用例について、説明をする。また、以下においては、説明の便宜上、上記において説明をした事項の一部についても、改めて説明をする。
【0142】
上記においては、印刷装置10で用いる媒体50について、主に、紙や布(例えば、布帛、Tシャツ等の縫製品)等の滲みやすい浸透性メディアを用いる場合について、説明をした。本例によれば、例えば、滲み発生しやすい浸透性メディアに対して高速に印刷を行う場合について、滲みを防止する顕著な効果を得ることができる。
【0143】
また、印刷装置10においては、浸透性メディアに限らず、様々な媒体50を用いることができる。例えば、上記においても説明をしたように、例えば、非浸透性の媒体50を用いることも考えられる。また、この場合も、インクを急速乾燥させる構成により、滲みを防止する効果を適切に得ることができる。より具体的に、印刷装置10においては、例えば、各種多孔性メディアや非浸透性のプラスチックフィルム(PET等)や塩化ビニルシート、ポリカーボネイト等の媒体50を用いることも考えられる。また、この場合、例えば従来の構成の印刷装置では滲みが生じやすくて適切に印刷ができなかった媒体50に対しても、急速乾燥により滲みを防止することで、高精細なカラー印刷等を適切に行うことができる。
【0144】
また、本例においては、媒体50に特別な加工等を行わなくても滲みを適切に防止できるため、例えば受像層を形成していない紙や、前処理を行っていない布帛やTシャツ等の布製品(縫製品)に対しても、高画質・高精彩であり、かつ濃い色の印刷を適切に行うことができる。また、これにより、例えば印刷のランニングコストを適切に低減できる。すなわち、本例においては、媒体50として、例えば、受像層を形成しない浸透性メディア(紙、布等)や、非浸透性(非吸収性)のメディア(例えばノンコートメディア等)等を広く用いることができる。また、これらに限らず、受像層を有する媒体50も好適に用いることができる。
【0145】
また、図1等においては、印刷装置10の構成として、双方向の主走査動作を行う構成を図示した。しかし、印刷装置10の変形例においては、例えば一方の向きでの主走査動作のみ(片方向印字)を行ってもよい。この場合、紫外線光源104は、主走査動作時にインクジェットヘッド102の後方側になるインクジェットヘッド102の片側のみに配設されてもよい。
【0146】
また、印刷装置10の具体的な構成については、上記以外にも、様々に変更可能である。例えば、インクジェットヘッド102において使用するインク(カラーインク)の色は、特定の色に限定されない。そのため、インクジェットヘッド102において、YMC等に限らず、YMCRGBの各色や、白、パール、メタリック、蛍光、燐光等の特色の様々な色を用いてもよい。また、色数についても、特定の色数には限定されず、1色以上の色数であればよい。
【0147】
また、媒体50への着弾後のインクへ紫外線を照射可能であれば、印刷装置10の構成について、主走査動作を行うシリアル方式に限らず、例えばラインプリンタ方式の構成に変形してもよい。この場合、例えば、媒体50の搬送方向におけるインクジェットヘッド102よりも下流側に、紫外線光源104(紫外線LED照射器等)を配置すること等が考えられる。また、ラインプリンタ方式の構成の場合、使用するインクの色毎に、その下流側に個別又は一括して紫外線光源104を配設することが考えられる。
【0148】
また、例えばシリアル方式の構成を用いる場合も、紫外線光源104を配設する位置については、主走査方向においてインクジェットヘッド102と隣接する位置(インクジェットヘッド102の両側等)以外であってもよい。例えば、媒体50の搬送方向においてインクジェットヘッド102よりも下流側になる位置に紫外線光源104を配設してもよい。また、この場合、主走査方向においてインクジェットヘッド102と隣接する位置と、搬送方向におけるインクジェットヘッド102の下流側との両方に紫外線光源104を配設してもよい。この構成において、搬送方向におけるインクジェットヘッド102の下流側の紫外線光源104は、例えば、後加熱用の紫外線光源として機能する。
【0149】
また、上記においても説明をしたように、紫外線光源104により照射する紫外線のエネルギー(照射エネルギーの最大供給エネルギー)は、紫外線光源104の照射強度及び照射時間等に応じて決まる。また、この最大供給エネルギーは、媒体50やインクに焦げ等が発生しない範囲内に設定する必要がある。そして、この場合、照射エネルギーの最大供給エネルギーを適正範囲に設定するため、紫外線光源104の照射強度及び照射時間のうちの少なくともいずれかについて、印刷速度(プリント速度)、印刷のパス数、媒体50上に形成されるインクのドットの密度(プリントドット密度)等の少なくともいずれかに基づいて自動的に変更されることが好ましい。また、このような変更について、例えばオペレータによる手動で行ってもよい。
【0150】
また、上記においても説明をしたように、本例において、紫外線光源104は、主走査
動作時にインクジェットヘッド102と共に移動しつつ、媒体50上のインクの層へ紫外線を照射する。この場合、紫外線光源104からインクの層へ照射する紫外線の照射量について、少なくとも同一時間に吐出される吐出幅の範囲で均一にすることが好ましい。この場合、紫外線の照射量について、少なくとも同一時間に吐出される吐出幅の範囲で均一にするとは、例えば、少なくとも一回の主走査動作で一のインクジェットヘッド102によりインク滴が吐出される幅(同一のパス内での吐出幅)の範囲で均一にすることである。
【0151】
また、上記においても説明をしたように、紫外線光源104としては、UVLED等に限らず、例えば半導体レーザ(紫外線LD)等のレーザ光源を用いることも考えられる。そして、紫外線の照射源としてレーザ光源を用いる場合、例えばビームエキスパンダーや蒲鉾型レンズ(シリンドリカルレンズ)等を用いて、一定面積を均一に照射するように構成することが好ましい。より具体的に、この場合、例えば、インクジェットヘッド102のノズル列方向へビームを拡げ、かつ、インクジェットヘッド102の移動方向(主走査方向)には一方向の一定の領域のみに集光することが考えられる。このように構成すれば、例えば、一定の面積に対して適切かつ均一に紫外線を照射できる。
【0152】
また、紫外線光源104による紫外線の照射の指向性については、インクジェットヘッド102のノズル面やノズル内のインクを加熱することのないように設定することが好ましい。より具体的には、例えば、紫外線光源104による紫外線の照射の指向性について、インクジェットヘッド102の方向へ紫外線を放出しないように設定することが好ましい。また、媒体50から反射してインクジェットヘッド102に到達する紫外線(反射成分)についても、適切に低減し得るように指向性を調整することが好ましい。
【0153】
また、主走査動作時において、紫外線光源104は、例えば、連続的に紫外線を照射(連続点灯)しつつ、インクジェットヘッド102と共に主走査方向へ移動する。また、紫外線光源104の点灯のさせ方については、連続点灯に限らず、例えばパルス点灯させてもよい。
【0154】
また、上記においては、それぞれ異なる色のインク滴を吐出する複数のインクジェットヘッド102(例えば、YMCKの各色用のインクジェットヘッド102)について、主に、副走査方向における位置を揃えて主走査方向へ一列に並べた構成を説明した。しかし、複数のインクジェットヘッド102の並べ方は、上記に限らず、様々に変更可能である。例えば、複数のインクジェットヘッド102のうちの一部について、他のインクジェットヘッド102と副走査方向における位置をずらして配設してもよい。より具体的には、例えば、YMCKのうちの一部の色(1色又は複数色)用のインクジェットヘッド102を同じY軸上に配置し、他の色(1色又は複数色)用のインクジェットヘッド102についてX軸方向に分散配置してもよい。この場合、Y軸上にインクジェットヘッド102を配置するとは、例えば、副走査方向における位置を揃えて主走査方向へ並べて配設することである。また、X軸方向に分散配置するとは、例えば、副走査方向における位置をずらして配設することである。このように構成すれば、例えば、各回の主走査動作において同じ領域へ吐出されるインクの量を低減できる。また、これにより、例えば、滲みの発生をより適切に防ぐことができる。
【0155】
また、上記においては、主に、印刷対象の媒体50に対して直接インク滴を吐出する場合について、説明をした。この場合、印刷対象の媒体50とは、印刷後の状態が印刷の成果物になる媒体50のことである。また、印刷装置10の変形例においては、媒体として、例えば転写媒体を用いること等も考えられる。この場合、転写媒体とは、例えば、印刷された画像が他の媒体に転写される媒体のことである。
【0156】
続いて、上記において説明をした紫外線吸収剤等を含む蒸発乾燥型のインクを用いて印刷を行う更なる応用例について、説明をする。上記においても説明をしたように、紫外線吸収剤等を含む蒸発乾燥型のインクを用いる場合、紫外線を照射することで急速にインクを乾燥させることができる。また、これにより、例えば、布等の浸透性メディアを用いる場合にも、媒体の内部へのインクの浸透量を少なくすることや、滲みを抑えることが可能になる。そのため、このようなインクは、例えば、布(布地、布帛等)の媒体に対して印刷を行う印刷装置(テキスタイルプリンタ)において、好適に用いることができる。また、この場合、瞬間的にインクを乾燥させる特長を活かして、例えば、布の媒体の両面に対して高精細な印刷を行う印刷装置(瞬間加熱方式両面高精彩テキスタイルプリンタ)を実現することができる。そこで、以下、布の媒体の両面に対して印刷を行う構成に関し、更に詳しく説明をする。
【0157】
従来のインクを用いて布の媒体へ印刷を行う場合、例えば図2を用いて説明をしたように、媒体の内部へ多くのインクが浸透することになる。そして、この場合、例えば媒体の両面に対して印刷を行うと、媒体の内部に多くの溶媒が浸透することで、滲みが特に発生しやすくなる。また、この場合、浸透した溶媒の影響で布が膨潤することで、媒体が変形(伸縮)して、寸法精度を確保することが難しくなる場合もある。そのため、布の媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う従来の印刷装置(従来のデジタルテキスタイルプリンタ)においては、通常、布の媒体の一方の面(片面)に対してのみ、印刷を行う。
【0158】
尚、従来の印刷装置を用いる場合にも、原理的には、布の媒体の両面へ印刷することもできる。しかし、この場合、両面を短時間の間に続けて印刷すると、滲みが特に発生しやすくなる。そのため、この場合、例えば、表裏の一方の面を印刷した後、他方の面を印刷する前に、追加の加熱手段を用いて長時間の乾燥時間をかけて、媒体を乾燥させることが必要になる。そのため、例えば装置の小型化や印刷の高速化等を同時に実現することが困難であった。また、その結果、従来の印刷装置を用いる場合、実用上、布の媒体への両面印刷を行うことは、困難であった。
【0159】
一方、布の媒体の片面のみに印刷を行う場合、例えば高級な製品に求められる品質等を満たすことが難しくなる場合がある。より具体的に、片面のみに印刷を行う場合、例えば印刷がされる面の裏面側が白色等の地色のままになるため、スカーフ、ハンカチ、カーテン、暖簾、服地等のような、両面から見られる用途に適さない場合がある。特に、高級品の印刷を行う場合には、求められる品質を満たすことが難しくなる場合がある。そのため、従来、例えば顧客等の個別の要求に応える必要がある高級オリジナルファッション分野において、インクジェット方式での印刷(デジタルテキスタイル捺染)をより適切に行うことが望まれていた。
【0160】
また、布の媒体の片面のみに印刷を行う場合、例えば洗濯等を行うことで布の繊維が移動すると、裏側の白い部分等が表側に現れて色が薄くなる場合があった。また、その結果、例えば、見掛け上の洗濯堅牢度や湿潤に対する堅牢度が大きく低下するという問題も生じていた。そのため、この点でも、布の媒体に対し、より適切に印刷を行うことが望まれていた。
【0161】
これに対し、本願の発明者は、上記においても説明をしたように、紫外線吸収剤等を含む蒸発乾燥型のインクを用い、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させることで、布の媒体を用いる場合にも、媒体へ多量のインクが浸透することを適切に防ぎ得ることを見出した。また、これにより、布の媒体の両面印刷をより適切に行い得ることを見出した。そして、更なる鋭意研究により、使用するインクの特徴や印刷装置10の構成等に関し、布の媒体の両面印刷を行う場合に好ましい特徴や構成を見出した。そこで、以下、布の媒体の両面印刷を行う場合について、使用するインクの例や印刷装置10の構成を更に詳
しく説明をする。先ず、布の媒体の両面印刷を行う場合に使用するインクの例について、説明をする。
【0162】
従来、例えばTシャツ等の布の媒体へ印刷を行う印刷装置(テキスタイルプリンタ)として、水性顔料インクを用いてインクジェット方式で印刷を行う構成が実用化されている。そして、この場合、布に対する前処理等を行うことなく、布の媒体への印刷を行うことができる。また、この場合、印刷後の後処理としてもインクを乾燥させるための加熱のみを行えばよい。そのため、水性顔料インクを用いてインクジェット方式で布の媒体へ印刷を行う構成(デジタルテキスタイルプリント方式)は、今後、より広く普及する可能性がある。
【0163】
しかし、上記においても説明をしたように、従来の構成で布の媒体へ印刷を行った場合、布の中に多くのインクが浸透することになる。また、その結果、上記においても説明をしたように、高い品質での両面印刷を行うことが難しくなる。また、この場合、例えば、媒体の表面に残るインクの量が少なくなるため、印刷結果において例えば鮮明さが欠けることにもなる。
【0164】
これに対し、上記においても説明をしたように、紫外線吸収剤等を含む蒸発乾燥型のインクとしては、例えば、色材として顔料等を含むインクを用いることができる。そして、この場合、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥することで、媒体の内部に多くのインクが浸透することやインクの滲み等を適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、布の媒体に対して両面印刷を適切に行うことが可能になる。すなわち、このようなインクを用いることにより、例えば、布の媒体に対し、前処理等が実質に不要な構成で誰でも容易に実行が可能な方法により、印刷結果の色が十分に濃く、かつ、高い洗濯堅牢度等も得られる両面印刷を適切に行うことができる。
【0165】
ここで、このような構成のインクにおいて、紫外線吸収剤は、紫外線の照射により発熱する物質であり、インクを急速乾燥させるための熱を発生する。インク中の紫外線吸収剤の含有量は、上記においても説明をしたように、例えば0.01~10重量%、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.05~2重量%、更に好ましくは、0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~0.4重量%である。
【0166】
また、このようなインクにおいて、顔料としては、公知の様々な顔料を用いることができる。この場合、顔料とは、例えば、媒体への着弾後に特別な発色処理等を行う必要がない色材のことである。また、特別な発色処理とは、例えば、インクの溶媒を蒸発させるための加熱以外の処理のことである。また、顔料については、印刷後に呈する色を既に呈している色材等と考えることができる。
【0167】
また、より具体的に、このような色材としては、例えば、発色に助剤等が不要な自己発色型の顔料(例えば、各種の無機顔料や有機顔料等)を用いることが考えられる。また、顔料として、着色された樹脂等を用いること等も考えられる。この場合、例えば、染料で着色された水性ラテックス樹脂(水性ラテックス捺染顔料)を含むインクや分散染料で着色された水性ラテックス樹脂を含むインク(水性ラテックス分散染料インク)等を用いることが考えられる。また、例えば、ナノ顔料又は染料等を含むことで着色されたカラー樹脂自体を分散したコロイド(サスペンション)捺染インク(UV乾燥捺染インク)等を用いることも考えられる。
【0168】
また、これらのインクは、例えば、バインダ樹脂として機能する樹脂を含んでもよい。このように構成すれば、例えば、媒体に対してインクをより強固に付着させ、選択堅牢度等をより適切に高めることができる。また、インクに含有させる樹脂としては、例えば、
無色の樹脂を用いてもよい。
【0169】
また、インクの色材としては、例えば、溶媒を蒸発させるための加熱を行うことのみで発色する色材等を用いることも考えられる。また、このような色材としては、例えば、加熱のみで発色する分散(瞬間乾燥)染料等が考えられる。また、ポリエステル、ナイロン、又はポリエステルかナイロンを主材とする混紡の布地等を用いる場合には、色材として昇華染料を用いること等も考えられる。
【0170】
また、布の媒体への印刷を行う場合、インクの溶媒としては、例えば、水等の水性溶媒を用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、印刷後の布を使用する製品に有害な有機溶剤等が残ることを適切に防ぐことができる。また、例えば揮発性有機溶剤等を溶媒として用いる場合と比べ、環境への負荷を適切に抑えることができる。
【0171】
また、印刷に求められる品質や用途によっては、例えば溶媒の主成分として有機溶剤を含むインクを用いること等も考えられる。この場合、溶媒の主成分とは、例えば、重量比で溶媒の50%以上を占める成分のことである。また、この場合、例えば、沸点が110℃より高い有機溶剤を用いることが好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、主成分がイソパラフィン系の有機溶剤等を好適に用いることができる。また、有機溶剤の沸点は、120℃よりも高いことがより好ましい。
【0172】
このように構成すれば、例えば、揮発性の低い有機溶剤を用いることで、環境への負荷等を適切に抑えることができる。また、この場合、紫外線の照射により瞬間的にインクを乾燥することで、揮発性の低い有機溶剤を用いる場合にも、滲みの発生等を適切に防ぐことができる。また、溶媒として有機溶剤を用いる場合、例えば、その有機溶剤に溶解するバインダ樹脂を含むインクを好適に用いることができる。
【0173】
また、布の媒体に対して両面印刷を行う場合、印刷装置10の構成についても、両面印刷に適した構成に変更することが好ましい。図5は、印刷装置10の構成の変形例を示す図である。図5(a)は、印刷装置10の構成を示す図であり、布の媒体50に対して両面印刷を行う印刷装置10の構成の一例を示す。図5(b)は、印刷装置10におけるヘッド部の構成を示す図であり、主走査動作時のインクジェットヘッドの移動方向(Y方向)側から見たヘッド部の構成の一例を示す。
【0174】
尚、以下に説明をする点を除き、図5において、図1~4と同じ符号を付した構成は、図1~4における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。また、本変形例において、印刷装置10は、滲み防止等の前処理を行っていない布の媒体50(無コーティングの媒体50)に対して、両面印刷を行う。また、布の媒体50としては、例えば、綿、綿とポリエステルやレーヨン等の化学繊維との混紡布地、絹、羊毛、ポリエステル、テトロン等の布地を好適に用いることができる。
【0175】
本変形例において、印刷装置10は、布の媒体に対してインクジェット方式で両面印刷を行うインクジェットプリンタ(両面捺染プリンタ)であり、それぞれ複数の搬送ローラ32、ヘッド部12a、b、プリントヒータ22a、b、位置検出部34a、b、後UV照射器36、及びアフターヒータ24を備える。複数の搬送ローラ32は、媒体50を搬送する搬送手段であり、媒体50の搬送経路におけるそれぞれ異なる位置において、予め設定された副走査方向(X方向)へ媒体50を搬送する。
【0176】
複数のヘッド部12a、bは、インク滴の吐出及び紫外線の照射を行う部分である。また、本変形例において、複数のヘッド部12a、bのそれぞれは、同一の構成を有しており、媒体50の表面側及び裏面側のそれぞれに配設される。また、より具体的に、ヘッド
部12aは、媒体50の表面側へインク滴を吐出するインクジェットヘッド(表インクジェットヘッド)及び紫外線光源(表UVLED瞬間乾燥手段)等を有する部分であり、媒体50の搬送経路において、媒体50の表面側に配設される。また、ヘッド部12bは、媒体50の裏面側へインク滴を吐出するインクジェットヘッド(裏インクジェットヘッド)及び紫外線光源(裏UVLED瞬間乾燥手段)等を有する部分であり、媒体50の搬送経路において、媒体50の裏面側に配設される。
【0177】
また、本変形例において、ヘッド部12a、bのそれぞれは、図5(b)にヘッド部12として示すように、キャリッジ100、複数のインクジェットヘッド102、及び複数の紫外線光源104を有する。キャリッジ100は、複数のインクジェットヘッド102及び複数の紫外線光源104を保持する保持部材である。
【0178】
複数のインクジェットヘッド102は、印刷に使用する各色のインクのインク滴をそれぞれ吐出するインクジェットヘッドであり、副走査方向と平行なノズル列を有し、副走査方向と直交する主走査方向(Y方向)へ並べて配設される。複数のインクジェットヘッド102としては、例えば、YMCKの各色用のインクジェットヘッドを用いることが考えられる。また、本変形例において、それぞれのインクジェットヘッド102が吐出するインクは、紫外線吸収剤を含む蒸発乾燥側のインク(UV瞬間加熱可能なインク)であり、媒体50への着弾の直後に、紫外線光源104から照射される紫外線により急速に加熱され、乾燥する。
【0179】
複数の紫外線光源104のそれぞれは、媒体50に着弾したインクに紫外線を照射する紫外線光源であり、間に複数のインクジェットヘッド102を挟むように、主走査方向におけるヘッド部12の一方側及び他方側のそれぞれに配設される。この場合、複数の紫外線光源104は、主走査動作時において、複数のインクジェットヘッド102の並びの前後に位置することになる。
【0180】
尚、本変形例においても、ヘッド部12は、例えば図1に示した印刷装置10におけるヘッド部12と同一又は同様にして、双方向の主走査動作を行うことが可能になる。また、例えばヘッド部12に一方向の主走査動作のみを行わせる場合、ヘッド部12における主走査方向の一方側(片側)のみに紫外線光源104を配設してもよい。
【0181】
以上のような構成のヘッド部12a、bを用いることにより、例えば、一台の印刷装置10において、間に媒体50を挟むように媒体50の両側にインクジェットヘッドを配置して、媒体50の両面(2面)に対して適切に印刷を行うことができる。また、この場合、媒体50の搬送方向(X方向)への位置をずらしてヘッド部12a、bのそれぞれを配設することにより、媒体50の表面側のインクジェットヘッド102のノズル列と、裏面側のインクジェットヘッド102のノズル列とが同じ位置で重ならないようにすることが好ましい。より具体的に、この場合、ヘッド部12aに対し、少なくともヘッド部12aにおけるインクジェットヘッド102のノズル列の幅(副走査方向における長さ)以上の距離だけ副走査方向における位置をずらしてヘッド部12bを配設することが好ましい。また、本変形例の場合、図中に示すように、搬送方向における上流側にヘッド部12aを配設し、下流側にインクジェットヘッド102bを配設することにより、両者の位置をずらしている。
【0182】
プリントヒータ22aは、媒体50を挟んでヘッド部12aと対向する位置で媒体50を加熱するヒータである。また、プリントヒータ22bは、媒体50を挟んでヘッド部12bと対向する位置で媒体50を加熱するヒータである。プリントヒータ22a、bは、予め設定された温度で媒体50を加熱することにより、例えば、媒体50の初期温度を一定に保ち、環境温度の影響を低減する。プリントヒータ22a、bの加熱温度は、例えば
、環境温度より少し高い一定の温度(例えば、30~50℃程度)に設定することが好ましい。また、プリントヒータ22a、bの加熱温度については、略室温の低い温度と考えることもできる。また、本変形例において、媒体50にインクを定着させるためのインクの加熱は、主に、紫外線光源104から紫外線を照射することで行う。そのため、印刷を行う環境や、求められる印刷の品質等によっては、例えば、プリントヒータ22a、bを省略してもよい。例えば、温度変化が少ない通常の室内環境で印刷を行う場合等には、プリントヒータ22a、bを省略してもよい。
【0183】
複数の位置検出部34a、bは、媒体50に印刷された画像の位置を検出するセンサである。本変形例において、位置検出部34a、bは、ヘッド部12a、bにおけるインクジェットヘッドで描いた所定のマークの位置を検出することにより、媒体50に印刷された画像の位置を検出する。また、より具体的に、本例において、ヘッド部12a、bは、媒体50に描くデザイン等の画像の印刷時に、画像の位置基準となるマークを同時に印刷(記録)する。このようなマークとしては、例えばトンボのマーク等を好適に用いることができる。また、位置検出部34aは、媒体50の表面側のマークを読み取る表マーク位置検出手段であり、表面側において、ヘッド部12aにより描かれたマークの位置を検出する。また、これにより、マークと同時にヘッド部12aにより描かれた画像の位置を検出する。位置検出部34bは、媒体50の裏面側のマークを読み取る裏マーク位置検出手段であり、裏面側において、ヘッド部12bにより描かれたマークの位置を検出する。また、これにより、マークと同時にヘッド部12bにより描かれた画像の位置を検出する。このように構成すれば、例えば、媒体50の表面側及び裏面側のそれぞれに描かれた画像の位置を適切に検出できる。
【0184】
また、この場合、位置検出部34aは、例えば、媒体50の搬送方向においてヘッド部12aとヘッド部12bに配設される。位置検出部34bは、媒体50の搬送方向においてヘッド部12bよりも下流側に配設される。このように構成すれば、例えば、媒体50の各位置に対してヘッド部12bでの印刷を行う前に、媒体50の表面側に印刷された画像の位置を適切に検出できる。また、この場合、位置検出部34aにより検出した位置情報に基づき、ヘッド部12bでの印刷時において、媒体50の裏面側に印刷する画像について、位置を調整することができる。また、この場合、必要に応じて、例えば画像の傾きや大きさを調整して印刷を行うこともできる。
【0185】
また、この場合、ヘッド部12bでの印刷後に位置検出部34bにより位置を検出することで、裏面側へ印刷した画像についても、位置等の検出を行うことができる。また、これにより、表面側の画像と裏面側の画像との位置関係等を適切に確認できる。そして、裏面側の画像の位置等(例えば、位置、傾き、又は大きさ等)にズレが発生している場合には、例えば位置の検出結果に合わせてインクジェットヘッドによるインク滴の吐出位置等を調整することで、画像の位置の修正を容易かつ適切に行うことができる。そのため、このように構成すれば、例えば、媒体50に対する両面印刷をより適切に行うことができる。
【0186】
尚、画像の位置基準となるマークとしては、トンボのマーク以外のマークを用いてもよい。例えば、内部を塗りつぶした円等の様々な形状のマーク等を用いてもよい。また、位置検出部34a、bにより行う位置検出の方法についても、様々に変更が可能である。例えば、透過光又は反射光により位置の検出を行う様々な方法を用いてもよい。また、位置基準となるマークについては、印刷時にヘッド部12a、bにより印刷をするのではなく、予め媒体50に描かれているマークを用いてもよい。この場合、位置検出部34a、bのそれぞれは、例えば、対応するヘッド部12a、bよりも50の搬送方向の上流側に配設され、ヘッド部12a、bによる印刷を行う前に、画像を印刷すべき領域を検出してもよい。また、この場合、位置検出部34a、bによる検出結果に合わせて適宜位置の調整
等を行って、ヘッド部12a、bにより、画像を印刷することが考えられる。このように構成した場合も、例えば、媒体50に対する両面印刷を適切に行うことができる。
【0187】
また、複数の後UV照射器36及び複数のアフターヒータ24は、媒体50に対する後加熱用の構成(後乾燥手段)である。複数の後UV照射器36のそれぞれは、媒体50の表面側及び裏面側のそれぞれに配設され、媒体50へ紫外線を照射することにより、媒体50に対する後加熱を行う。また、複数のアフターヒータ24のそれぞれは、媒体50の表面側及び裏面側のそれぞれに配設され、予め設定された温度で発熱することにより、媒体50に対する後加熱を行う。後UV照射器36及びアフターヒータ24を用いることにより、媒体50上のインクをより確実に乾燥させ、インクを媒体50により適切に定着させることができる。
【0188】
また、このような後加熱を行うことにより、例えば、媒体50を構成する布に浸透した溶媒(残留溶媒)についても、完全に蒸発させて除去することができる。また、例えばバインダ樹脂等の樹脂と顔料とを含むインクを用いる場合、溶媒を完全に蒸発させることで、樹脂により媒体50に対して顔料を強固に付着させ、安定化させることもできる。また、使用するインクの特徴や印刷に求められる品質によっては、例えば、後UV照射器36及びアフターヒータ24等を省略してもよい。また、例えば後UV照射器36を省略して、アフターヒータ24のみで後加熱を行ってもよい。また、後加熱用の構成としては、例えば、赤外線ヒータ、温風ヒータ、又はヒートローラ等を用いてもよい。
【0189】
本変形例においても、ヘッド部12a及びヘッド部12bのそれぞれにおいて、主走査動作時にインクジェットヘッド102と共に移動する紫外線光源104を用いて、媒体50への着弾直後のインクに対して強い紫外線を適切に照射することができる。また、この場合、インクに照射された紫外線は、熱に変換され、インクの層のみを沸点付近又はそれ以上の温度にまで急速に加熱する。また、これにより、インク中の溶媒を急速加熱(瞬間加熱)する。そのため、本変形例においても、インクの滲みを適切に抑えることができる。
【0190】
また、この場合も、インクを瞬間的に加熱することにより、媒体50を経由しての熱の損失(熱ロス)を適切に抑えることができる。また、この場合も、高温に加熱されるのはインクのみである。また、インクの温度は、インクジェットヘッド102の通過後の領域において上昇する。そのため、本変形例においても、紫外線の照射によりインクジェットヘッド102が加熱されることはほとんど生じない。また、その結果、ノズル詰まりの発生等を適切に抑えることもできる。また、この場合、溶媒として、沸点の高い溶媒(水又は有機溶剤等)を用いることも可能になるため、印刷装置10の安全性や信頼性を適切に高めることもできる。また、この場合、例えば可視光領域において透明な紫外線吸収剤を含むインクを用いることにより、インクの色や濁りの発生を防いで、鮮明な印刷を行うこともできる。
【0191】
また、本変形例においても、布の媒体50へのインク滴の着弾直後に紫外線を照射して、瞬間的にインクを加熱することにより、インクが多量に媒体50へ浸透する前に、インク中の溶媒(水等)を適切に乾燥させることができる。また、これにより、媒体50の表面付近に高い濃度でインクの層を形成することができる。また、この場合、多くのインクが媒体50の奥へ浸透する前にインクを乾燥させることにより、媒体50を構成する布地へのインクの吸収を抑制して、媒体50が膨潤すること等を適切に防ぐこともできる。また、これにより、例えば、媒体50が変形すること等を適切に防ぐことができる。
【0192】
また、この場合、媒体50の変形等を防ぐことにより、例えば、両面印刷を行う場合において、表面側と裏面側との間で画像の位置がずれることを適切に防ぐことができる。更
に、本変形例においては、位置検出部34a、bを用いて画像の位置を検出して、必要な位置の修正等を行うことにより、表面側の画像の位置と裏面側の画像の位置とをより高い精度で合わせることができる。また、これにより、例えば、布の媒体50に対する両面印刷をより適切に行うことができる。
【0193】
また、媒体50が多くのインクを吸収して媒体50が大きく変形する場合、媒体50の撓み等の影響が大きくなり、位置検出部34a、b等を用いても、画像の位置を高い精度で検出することが難しくなることが考えられる。これに対し、本変形例においては、インクを瞬間的に乾燥する構成を用いることで、上記のように、媒体50の変形を適切に抑えることができる。また、これにより、位置検出部34a、bを用いた位置の検出を高い精度でより適切に行うことができる。
【0194】
また、本変形例においては、上記のようにインクを瞬間的に乾燥させる構成を用いることにより、例えば滲み防止等の前処理を行っていない浸透性の媒体50(布の媒体50)を用いる場合にも、適切に両面印刷を行うことができる。また、この場合、例えば単位面積に対して単位時間に着弾するインクの量が多くなったとしても、適切に滲みを抑えることができる。そのため、本変形例によれば、例えば、前処理を行っていない浸透性の媒体50に対し、高速かつ適切に両面印刷を行うこともできる。また、より具体的に、この場合、表面側及び裏面側の各位置に対し、1パスの動作で印刷を行うこと等も可能になる。また、本変形例のように、例えば色材として顔料を含むインクを用いる場合、特別な後処理等も必要ない。
【0195】
そのため、本変形例によれば、布の媒体50に対する両面印刷を容易かつ適切に行うことができる。また、これにより、鮮明で強固な両面デジタル捺染を適切に実現できる。より具体的には、例えば、布の媒体50の表面側及び裏面側に対し、色ズレや滲み等を発生させることなく、様々な絵柄等を印刷することができる。また、これにより、例えば、高級服地、スカーフ、ハンカチ、カーテン、暖簾等のように、両面から印刷結果が観察される場合がある用途に対しても、デジタルインクジェットプリント技術での印刷を適切に行うことができる。また、この場合において、例えば、前処理を行っていない布の媒体50に対して直接に両面印刷が可能になるため、コストの低減や納期の短縮等を実現することもできる。
【0196】
ここで、上記においては、使用するインクについて、主に、色材として、顔料等を用いる場合について、説明をした。しかし、布の媒体50に対して両面印刷を行う場合、例えば、色材として染料を含むインクを用いること等も考えられる。また、より具体的に、例えば、図5に示した構成の印刷装置10において、発色の助剤を用いて発色させる染料を色材として含む様々なインクを用いること等も考えられる。そこで、以下、図5に示した印刷装置10において、染料を含むインクを用いる場合の特徴について、更に詳しく説明をする。この場合、印刷装置10については、例えば、瞬間加熱方式染料捺染インクを用いる両面高精彩テキスタイルプリンタ等と考えることができる。
【0197】
布の媒体50に対して印刷を行う場合において、色材として顔料を用いる場合、顔料を媒体50上に強固に固定するためには、通常、バインダ樹脂等の樹脂を更に含むインクを用いることになる。しかし、このような樹脂を含むインクを用いた場合、印刷後の媒体50の表面に樹脂が残ることになり、例えば印刷の風合い等に影響が生じる場合もある。そのため、印刷の用途等によっては、このような樹脂を含まないインクを用いることが望まれる場合がある。より具体的には、デザイン性を高めた高級な布製品(スカーフ等)に用いる布の媒体50に対して印刷を行う場合、このような樹脂を含まないインクが望まれる場合がある。
【0198】
一方、例えば色材として染料を含むインクを用いる場合、このような樹脂を用いなくても、媒体50を適切に着色することができる。例えば、従来の水性染料インク(水性系の捺染染料インク)等の蒸発乾燥型の染料インクは、通常、バインダ樹脂等の固形成分を含まないか、少量含有するのみの構成を有する。しかし、この場合、インクの粘度が低くなるため、インクの滲みが特に発生しやすくなると考えられる。そのため、従来の染料インクを用いる場合、例えば滲み防止の前処理を行っていない布の媒体50を用いると、通常、激しい滲みが発生することになる。また、上記においても説明をしたように、媒体50に対しての前処理を行うとすると、時間の損失(ロス)とコスト上昇の問題が生じることになる。
【0199】
また、媒体50に対して両面印刷をする場合、媒体50に吸収される溶媒の量が2倍になるため、更に滲みが発生しやすくなる。特に、例えば夏物の衣類、スカーフ、ハンカチ等のような薄手の生地に対して印刷を行う場合には、一層滲みが発生しやすくなる。また、この場合、上記においても説明をしたように、布の媒体50が吸収した溶媒により媒体50が膨潤して、寸法精度を確保することが難しくなる。そのため、従来の染料インクを用いる場合、布の媒体50に対して両面印刷を行うことは特に困難であった。
【0200】
これに対し、本願の発明者は、鋭意研究により、色材として染料を含むインクを用いる場合にも、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる構成を用いることで、例えば滲み防止の前処理等を行っていない布の媒体50の両面に対して適切に印刷を行い得ることを見出した。この場合、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる構成とは、例えば、上記において説明をしたような、紫外線吸収剤等を含む蒸発乾燥型のインクを用いる構成のことである。また、この構成については、例えば、紫外線を照射することにより溶媒を急速乾燥して滲み止めと定着を行えるインク(UV瞬間乾燥インク)を用いる構成等と考えることもできる。また、この場合、例えば図5に示した構成の印刷装置10で印刷を行うことにより、例えば、媒体50の両面に対しての直接印刷(ダイレクトプリント)が可能になる。
【0201】
ここで、このようなインクとしては、例えば、紫外線吸収剤、溶媒、及び染料を含むインクを用いる。また、この場合、例えば、バインダ樹脂等の樹脂を実質的に含まないインクを好適に用いることができる。また、この場合、染料は、インクの色材である。染料としては、天然繊維や化学繊維を染色可能な各種の染料を用いることができる。また、より具体的に、染料としては、例えば、酸性染料、反応染料、分散染料、直接染料、含金染料、スレン染料、植物染料、又は化学藍染料等を用いることが考えられる。また、染料として、例えば水性ラテックス捺染染料等を用いることも考えられる。
【0202】
また、色材として染料を用いる場合、必要に応じて、発色等の助剤等を用いる。具体的には、例えば、斑染防止、均染、色止め、又は染料の吸収促進のための助剤を用いることが考えられる。また、この場合、助剤として、例えば、発色反応を促進する反応染料用のアルカリ剤、バット染料用の還元剤、又は酸性染料用の酸性剤等を用いることも考えられる。また、助剤については、例えば、染料と共にインクに添加することが考えられる。また、例えば、助剤を含むインク用のインクジェットヘッドを更に使用して、染料を含むインクと同じ位置へ助剤を含むインクを吐出してもよい。
【0203】
また、色材として染料を用いる場合、必要に応じて、染料を発色させるための後処理を行う。例えば、反応染料や酸性染料のように、高温加熱や蒸熱処理の必要な染料を用いる場合、オーブンやスチーマーで行う後処理を追加することで、染料を完全に発色させる。また、染料や助剤を用いる場合、残留する助剤や未反応の染料を除去するために、後処理として、布の媒体50を水又は洗浄液で洗浄することが好ましい。また、この場合、洗浄後には媒体50を乾燥させることが好ましい。また、必要に応じて、柔軟剤を用いて媒体
50を柔軟にする処理や、アイロン処理等を行うことが考えられる。
【0204】
以上のように構成すれば、例えば、色材として染料を含む蒸発乾燥型のインクを用いる場合にも、紫外線の照射によりインクを乾燥させることで、インクの滲みを瞬間的に止めることができる。また、これにより、例えば、前処理を行っていない布の媒体50の両面に対し、簡単に、濃色で鮮明かつ高洗濯堅牢度が得られる印刷を行うことができる。
【0205】
また、上記においては、布の媒体50の両面に印刷する動作について、主に、図5に示した構成の印刷装置10で印刷を行う場合の動作を説明した。しかし、媒体50の両面への印刷は、他の構成の印刷装置10で行ってもよい。
【0206】
図6は、印刷装置10の構成の更なる変形例を示す図であり、布の媒体50に対して両面印刷を行う印刷装置10の構成の他の例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図6において、図1~5と同じ符号を付した構成は、図1~5における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0207】
本変形例において、印刷装置10は、図5に示した印刷装置10と同一又は同様のインクを用いて、媒体50の両面に対して印刷を行う。また、印刷装置10は、複数の印刷部202a、b、裏返し部204、テンションコントローラ206、複数の位置検出部34a、b、及びアフターヒータ24を備える。
【0208】
複数の印刷部202a、bは、媒体50へのインク滴の吐出や紫外線の照射を行う構成である。また、より具体的に、印刷部202a、bのそれぞれは、図5に示した構成におけるヘッド部12と同一又は同様のヘッド部や、ヘッド部に主走査動作や副走査動作を行わせる駆動部等を有する。そのため、印刷部202a、bのそれぞれについて、一台のインクジェットプリンタに相当する部分と考えることもできる。また、この場合、印刷装置10について、例えば、2台のインクジェットプリンタに対応する構成を備える印刷システムと考えることもできる。
【0209】
また、本変形例において、二つの印刷部202a、bは、媒体50の搬送経路に沿って直列に並んで配設されており、それぞれの位置において、媒体50に対する印刷を行う。また、この場合、印刷部202aは、媒体50における一方の面である表側面に対して印刷(表面プリント)を行う。また、印刷部202bは、媒体50における他方の面である裏側面に対して印刷(裏面プリント)を行う。また、本変形例において、媒体50は、印刷部202aと印刷部202bとの間において、裏返し部204により裏返される。そのため、印刷装置10において、印刷部202a、bは、インク滴の吐出方向が同じ向きになるように配設されている。また、これにより、印刷装置10は、直列に並ぶ2台のインクジェットプリンタに相当する印刷部202a、bのうち、一台目に対応する印刷部202aで媒体50の表面側に印刷を行い、2台目に対応する印刷部202bで媒体50の裏面側に印刷を行う。また、この場合、印刷部202aについて、例えば、表面プリント用UV瞬間乾燥プリンタと考えることができる。また、印刷部202bについて、例えば、裏面プリント用UV瞬間乾燥プリンタと考えることができる。
【0210】
裏返し部204は、媒体50の搬送経路の途中で媒体50を裏返すための構成である。本変形例において、裏返し部204は、裏返しローラ42を有しており、裏返しローラ42に沿って媒体50を折り返すことにより、印刷部202aと印刷部202bとの間で、媒体50の搬送方向を変更しつつ、媒体50の表裏を反転させる。また、この場合、裏返し部204は、例えば図中に示すように、媒体50の搬送の向きを直角に変化させる。そのため、本変形例の印刷装置10については、直角に曲がる搬送経路において直角部分を挟むように複数の印刷部202a、bを配設した構成(直角配置連続両面プリント方式)
と考えることもできる。
【0211】
テンションコントローラ206は、搬送中の媒体50の張力を調整する構成である。本変形例において、テンションコントローラ206は、裏返し部204と印刷部202bとの間に配設される。また、これにより、テンションコントローラ206は、裏返し部204により折り返された後、印刷部202bにより印刷される前に、媒体50の張力を調整する。
【0212】
位置検出部34a、bは、印刷部202a、bにより媒体50に印刷された画像の位置を検出する手段である。位置検出部34a、bを用いることにより、例えば図5に示した印刷装置10と同一又は同様にして、媒体50の表裏の画像の位置を適切に合わせることができる。また、本変形例において、位置検出部34a、bは、図5に示した印刷装置10における位置検出部34a、bと同一又は同様にして、画像と共に媒体50に印刷されたマークを検出することにより、画像の位置を検出する。また、この場合、位置検出部34aは、印刷部202aにより媒体50の表面側に印刷されたマークを検出する。そのため、位置検出部34aについては、表マーク位置検出手段と考えることができる。また、上記のように、位置検出部34aは、マークの位置に基づき、印刷部202aにより印刷された画像の位置を更に検出する。そのため、位置検出部34aについて、表画像位置検出制御手段等と考えることもできる。また、位置検出部34bは、印刷部202bにより媒体50の裏面側に印刷されたマークを検出する。また、マークの位置に基づき、印刷部202bにより印刷された画像の位置を更に検出する。そのため、位置検出部34bについては、裏マーク位置検出手段又は表画像位置検出制御手段等と考えることができる。また、アフターヒータ24は、媒体50に対する後加熱用の構成(後乾燥手段)である。
【0213】
本変形例においても、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させることにより、滲みの発生等を適切に抑えることができる。また、これにより、例えば滲み防止等の前処理を行っていない布の媒体50を用いる場合にも、両面印刷を適切に行うことができる。
【0214】
また、図6に示した構成においては、裏返し部204を用いて媒体50の表裏を反転している。しかし、両面印刷の仕方の変形例においては、例えば、他の方法で媒体50の表裏を反転することも考えられる。
【0215】
図7は、両面印刷の仕方の変形例について説明する図であり、治具60を用いて媒体50を裏返す場合の印刷の動作の一例を示す。図7(a)は、媒体50の一方の面(表面)側に印刷を行う動作の一例を示す。図7(b)は、媒体50の他方の面(裏面)側に印刷を行う動作の一例を示す。図7(c)は、媒体50への印刷の動作の更なる変形例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図7において、図1~6と同じ符号を付した構成は、図1~6における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。また、図7においては、印刷に使用する印刷装置の構成について、インクジェットヘッド102及び紫外線光源104等のみを図示している。しかし、この場合も、印刷装置は、図示した構成以外にも、必要な各種の構成を更に用いて、媒体50への印刷を行う。
【0216】
本変形例における印刷の動作は、媒体50を搬送することで副走査動作を行うのではなく、例えばインクジェットヘッド102の側を移動させることで副走査動作を行う構成の印刷装置において行う動作である。また、このような印刷装置としては、フラットベッドタイプのインクジェットプリンタ等を好適に用いることができる。また、この場合、印刷装置としては、例えば、1回の印刷の動作によって媒体50の片面にのみ印刷を行う構成のインクジェットプリンタを用いる。また、この場合も、印刷に使用する各色のインクとして、紫外線吸収剤等を含むことで紫外線に応じて瞬間的に乾燥するインク(UV瞬間乾燥インク)を用いる。また、印刷装置は、このようなインクのインク滴を吐出するインク
ジェットヘッド102や、着弾後のインクへ紫外線を照射する紫外線光源104等を備える。
【0217】
また、この場合、媒体50を保持する治具(プリント治具)60をフラットベッドに設置して、媒体50に対する印刷を行う。また、このような治具60としては、例えば、フラットベッド上での位置合わせが可能な治具60を用いる。また、本変形例においては、治具60として、布の媒体50を張った状態で保持する治具(面張り治具)を用いる。このような治具60としては、例えば、シルクスクリーン方式での印刷時に布帛を保持する治具(シルクスクリーンの保持枠)と同一又は同様の構成の治具を用いることができる。
【0218】
そして、両面印刷を行う動作においては、先ず、布(布帛等)の媒体50を治具60に張り渡す。そして、印刷装置における一定の位置に治具60を設置する。また、この場合、媒体50において印刷がされる面をインクジェットヘッド102及び紫外線光源104等と対向させる向きで、治具60を設置する。
【0219】
例えば、媒体50の表面側への印刷時には、図7(a)に示すように、媒体50の表面側をインクジェットヘッド102等と対向させる向きで治具60を設置する。そして、この状態において、媒体50の表面側に、インクジェットヘッド102により、印刷すべき画像(カラー画像)を印刷する。また、本変形例においては、媒体50へ描くデザイン等の画像と同時に、画像の位置基準となるマーク(位置検出マーク)を更に印刷する。また、媒体50へのインク滴の着弾の直後に、紫外線光源104により紫外線を照射して、インクを乾燥させる。このように構成すれば、媒体50の表面側に対し、適切に印刷を行うことができる。
【0220】
また、表面側への印刷を行った後には、媒体50を保持した状態の治具60を反転させることにより、フラットベッド上で媒体50の表裏を反転させる。また、これにより、図7(b)に示すように、媒体50の裏面面側をインクジェットヘッド102等と対向させる向きで治具60を設置する。また、本変形例において、裏面側への印刷時には、デザイン等の画像を印刷する前に、画像の位置基準となるマークのみを印刷する。また、媒体50へのインク滴の着弾の直後に、紫外線光源104により紫外線を照射して、インクを乾燥させる。そして、図示を省略した位置検出部を用いて、媒体50の表面側及び裏面側のそれぞれのマークの位置を検出する。また、検出結果に基づき、例えば、面内の方向(例えば、主走査方向及び副走査方向)のズレ量等を算出する。そして、必要に応じて、裏面側へ画像を印刷する位置の補正を行う。また、この場合、例えば、画像のサイズの補正等を更に行ってもよい。
【0221】
そして、必要に応じて位置等の補正を行った後、媒体50の裏面側に、インクジェットヘッド102により、印刷すべき画像を印刷する。また、媒体50へのインク滴の着弾の直後に、紫外線光源104により紫外線を照射して、インクを乾燥させる。このように構成すれば、媒体50の裏面側に対し、適切に印刷を行うことができる。
【0222】
このように構成した場合も、インクを短時間で乾燥させることにより、滲みの発生を抑えて、高速かつ高濃度の両面印刷を適切に行うことができる。また、この場合、上記のような治具60を用いて印刷を行うことにより、例えば、従来はシルクスクリーン方式で印刷を行っていた布製品等に対し、コストの低減や納期の短縮等を実現した印刷を適切に行うことができる。より具体的に、本変形例によれば、例えば、スカーフ、ハンカチ、又は各種の面状のファッション雑貨等に対し、適切に両面印刷を行うことができる。
【0223】
また、本変形例において、例えば色材として染料を含むインクを用いる場合には、必要に応じて、媒体50の加熱又は蒸熱等で染料を発色及び定着させる処理や、媒体50を水
洗する処理等を更に行う。また、布の媒体50に対し、例えば印刷の動作の中で前処理剤等を塗布すること等も考えられる。この場合、例えば図7(c)に示すように、前処理剤を含むインクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドである前処理剤用ヘッド106を更に用いることが考えられる。より具体的には、例えば、インクジェットヘッド102から吐出するインクとして、媒体50の前処理が必要になるインク(特に滲みが発生しやすい水溶性染料インク等)を用いる場合、前処理剤用ヘッド106を用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、必要に応じて、媒体50に前処理剤を適切に塗布できる。また、更なる変形例においては、例えば、色材として使用する染料の助剤等を含むインクのインク滴を吐出するインクジェットヘッド等を更に用いてもよい。
【0224】
続いて、上記において説明をした各種の構成に関連する補足説明を行う。上記においては、主に、YMCKの4色のインクを用いてカラー画像を印刷する場合の構成や動作について、説明をした。しかし、カラー表現に用いる基本色のインクとしては、YMCK以外のインクを用いてもよい。また、この場合、例えば、YMCKの4色に加え、例えば、R、G、Bの3色を加えた7色のインクを少なくとも用いてカラー表現を行うこと等が考えられる。このように構成すれば、例えば、より少ない量のインクで様々な色を適切に表現できる。また、様々な色をより鮮やかに表現すること等も可能になる。そのため、例えば布の媒体50に対して両面印刷を行う場合等には、これらの7色のインクを用いてカラー表現を行うことが特に好ましい。
【0225】
また、これらの7色のインクを用いて印刷を行う場合、例えば、YMCKの各色用のインクジェットヘッドに対して主走査方向(Y方向)へ並べてRGBの各色用のインクジェットヘッドを配設することが考えられる。また、RGBの各色用のインクジェットヘッドについて、YMCKの各色用のインクジェットヘッドと副走査方向(X方向)における位置をずらして配設してもよい。また、この場合、紫外線光源については、インクジェットヘッドの位置に合わせて適宜配設することが好ましい。また、この場合、例えば、副走査方向における紫外線光源の位置について、インク滴の吐出後に紫外線を照射する方向(後ろ側)へ各インクジェットヘッドからずらしてもよい。
【0226】
また、上記においても説明をしたように、インクジェットヘッドとしては、YMCK又はYMCKRGB等の基本色以外の色用のインクジェットヘッドを更に用いてもよい。この場合、例えば、オレンジ、白、黄緑、藍色、又はメタリック色(シルバー色等)等の特色用のインクジェットヘッドを用いることが考えられる。
【0227】
また、上記においても説明をしたように、媒体50への着弾直後のインクに対して照射する紫外線としては、紫外線吸収剤における強い吸収波長域に合わせて、例えば250~400nm程度の波長の紫外線を用いることが考えられる。また、この場合、紫外線の照射強度については、媒体50上において、例えば0.5W/cm程度以上、好ましくは2W/cm程度以上にすることが望ましい。このように構成すれば、例えば、短い時間内に適切にインクを乾燥させることができる。
【0228】
尚、インクを乾燥させるために必要な紫外線の照射エネルギーは、例えば、0.05~5Joule/cm程度、好ましくは0.8~1.5Joule/cm程度である。そのため、照射する紫外線のエネルギーについては、例えば、0.05~5Joule/cm程度、好ましくは0.5~2Joule/cm程度、更に好ましくは0.8~1.5Joule/cm程度にすることが望ましい。また、インクを乾燥させるために必要な紫外線のエネルギーは、例えば、インク中の溶媒の沸点が高い程、大きくなる。また、紫外線の照射強度が弱く、照射時間が長くなった場合、媒体50を通して失われる熱エネルギーの損失が大きくなるため、必要な紫外線のエネルギーは、より大きくなる。そのため、媒体50上へ照射する紫外線の強度やエネルギーについては、これらの条件を考慮
して設定することが好ましい。
【0229】
また、紫外線吸収剤を含むことで紫外線の照射に応じて瞬間的に加熱乾燥されるインクについては、例えば、UV瞬間加熱捺染インク等と考えることができる。また、上記において、紫外線吸収剤を含むインクとしては、主に、紫外線吸収剤自体が発生する熱を利用してインクを乾燥させる構成を説明した。しかし、紫外線を照射することでより効率的にインクを乾燥さえるためには、例えば、重合反応により熱を発生する物質であるモノマーやオリゴマ等を更に含むインクを用いること等も考えられる。
【0230】
この場合、紫外線吸収剤としては、例えば、紫外線に応じてモノマーやオリゴマに重合反応を開始させる物質(UV硬化開始剤又はUV重合開始剤等)を用いることが考えられる。また、紫外線吸収剤(UV硬化開始剤等)としては、例えば、アセトフェミノン系UV硬化開始剤、α-アミノアセトフェノン系UV吸収剤、アシルフォスフィンオキサイドラジカル系UV吸収剤、O-アシルオキシム系UV吸収剤、チタノセン系型UV硬化開始剤、2分子反応型UV硬化開始剤等のラジカル型UV硬化開始剤や、カチオン型UV硬化開始剤等を使用できる。
【0231】
また、モノマーやオリゴマとしては、例えば、熱を発生する重合反応(重合発熱反応)により水溶性樹脂となるモノマー又はオリゴマ等を好適に用いることができる。また、この場合、これらの物質に加え、色材として染料を含むインク等を用いることが考えられる。また、例えば、インク中のラテックス樹脂又はカラー樹脂としてモノマー又はオリゴマ等を用いてもよい。これらのように構成すれば、紫外線の照射によりインクに重合熱を発生させることができる。また、これにより、インクの温度をより効率的に上昇させ、インクの乾燥効率を高めることができる。
【0232】
また、より具体的に、重合発熱反応を生じる組成物やインクの組成の例としては、以下のようなものが考えられる。例えば、水や高沸点溶剤を主成分とする溶媒中に、ジプロピレンジアクリレート、イソボニルアクリレート、又はメトキシブチルアクリレート等のモノマーや、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、又はウレタンアクリレート等のオリゴマを、ラジカル重合反応を生じるUV重合性組成物として加えることが考えられる。また、カチオン重合をさせる構成の場合には、エポキシ、ビニルエーテル、又はオキセタン等をインクの全重量の15~50重量%を加えることが考えられる。更に、ラジカル重合をさせる構成の場合には、例えば、アセトフェノン系、又はアシルオキシム系等の紫外線吸収剤を用いる。また、カチオン重合をさせる場合には、例えば、光により酸を発生する紫外線吸収剤を用いる。また、紫外線吸収剤としては、UVLED等の紫外線光源が発生する紫外線を有効に吸収でき、かつ、各々の素材に合った物質を用いることが好ましい。また、紫外線吸収剤の含有量は、例えば5~10重量%程度にすることが好ましい。また、この場合、モノマーやオリゴマ等は、インクを硬化させる目的ではなく、インクを乾燥させる熱を発生させる目的で使用されている。そのため、この場合も、例えばモノマーやオリゴマの含有量等に応じて、紫外線吸収剤の含有量について、例えば0.01~10重量%程度にしてもよい。また、紫外線吸収剤の含有量については、例えば0.05~3重量%程度、更には、0.05~2重量%程度、0.05~1重量%程度、又は0.1~0.4重量%程度等にすることも考えられる。また、色材としては、例えば、顔料、分散染料、その双方、又は各種の染料等を、2~10重量%程度加えることが考えられる。また、必要に応じて、表面張力や粘度調整剤を付加してもよい。
【0233】
また、布の媒体50への印刷を行う場合において、例えば洗濯堅牢度や媒体50の柔軟性が必要な場合には、バインダとして機能する樹脂(バインダ樹脂)を含むインクを用いることが考えられる。また、この場合、例えば、ウレタン系、エポキシ系、又はこれらを混合した樹脂等を用いることが考えられる。また、上記の重合反応で生成される組成物を
バインダ樹脂として用いることも考えられる。
【0234】
また、布の媒体50等への印刷を行う場合、上記のように、水等の水性溶媒を好適に用いることができる。また、水以外の有機溶剤等を溶媒の主成分として用いる場合、人体に対して害を生じにくい安全性の高い溶剤を用いることが好ましい。具体的には、例えば、イソパラフィン系の溶剤、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC)、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGME)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、酢酸ブチル、3-メトキシブチルアセテート等の溶剤を用いることが考えられる。また、この場合、例えば、沸点が110℃を超える高沸点の溶剤を主成分とする溶媒を用いることが好ましい。また、このように構成すれば、例えば、インクジェットヘッドのノズルにおけるインク乾燥等を適切に防ぐこともできる。
【0235】
ここで、上記においても説明をしたように、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合、インク中での紫外線吸収剤の含有量(添加量)については、例えば0.01~10重量%程度(好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.05~2重量%、更に好ましくは、0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~0.4重量%)にすることが考えられる。この点に関し、紫外線吸収剤のように紫外線を吸収する物質を含有するインクとしては、従来から、紫外線の照射によりインクを硬化させる紫外線硬化型インク等が知られている。より具体的に、紫外線硬化型インク等においては、紫外線を吸収する物質として、例えば、重合の開始剤を含んでいる。しかし、インクを瞬間的に乾燥させる目的で紫外線吸収剤を添加する場合、好ましい含有量の範囲は、公知の紫外線硬化型インク等における開始剤等の含有量の範囲と異なっている。そこで、以下、この点について、更に詳しく説明をする。
【0236】
図8は、紫外線の照射によりインクを乾燥させる条件等について説明をする図である。図8(a)は、インクに対して照射する紫外線のエネルギーについて説明をする図であり、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させるための条件(UV瞬間乾燥条件)について、公知の紫外線硬化型インク等でインクを硬化させる場合の条件(UV硬化条件)と比較して示す。
【0237】
また、図8(a)に示したグラフにおいて、実線で示した曲線は、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合について、紫外線を照射するエネルギー(UV照射エネルギー)と、グラフの右側に示したインクの温度との関係の例を示す。この場合、紫外線を照射するエネルギーとは、UVLED等の紫外線光源を用いて媒体上のインクに照射する紫外線のエネルギー(単位面積あたりのエネルギーの大きさ)である。また、破線で示した曲線は、公知の紫外線硬化型インク等に関し、紫外線を照射するエネルギーと、グラフの左側に示した硬化度との関係の例を示す。
【0238】
上記の説明等からも明らかなように、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合、紫外線の照射により生じる現象は、紫外線硬化型インク等を硬化させる場合等と全く異なるものである。そのため、紫外線を照射するエネルギーの好ましい範囲についても、両者は異なっている。より具体的に、紫外線硬化型インク等を硬化させる場合、紫外線を照射するエネルギーの好ましい範囲は、図中に示すように、例えば100~200mJ/cm程度(0.1~0.2Joule/cm程度)である。これに対し、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合、紫外線を照射するエネルギーの好ましい範
囲は、例えば800~1500mJ/cm程度(0.8~1.5Joule/cm程度)である。そのため、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合には、紫外線硬化型インク等を硬化させる場合と比べ、10倍程度の大きなエネルギーを照射することが好ましいといえる。
【0239】
ここで、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合、インク中の溶媒が蒸発している間、例えばグラフ中に矢印で示すように、インクの温度上昇は、溶媒の沸点付近で止まることになる。しかし、インクが完全に乾燥した後も紫外線を照射し続けると、インクの温度が大きく上昇して、インク又は媒体の焼けや焦げが発生するおそれがある。そのため、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合には、このような焼けや焦げが発生しないように、インクを加熱することが必要になる。
【0240】
そして、このようにインクを加熱するためには、例えば、インクの表面のみが乾燥すること等を防いで、インクの全体をできるだけ同時に加熱することが好ましい。また、この場合、インクの表面のみが乾燥することを防ぐためには、インク中の紫外線吸収剤の含有量について、以下において説明をするように、例えば紫外線硬化型インク等における開始剤の含有量等よりも少なくすることが好ましい。
【0241】
図8(b)、(c)は、紫外線吸収剤の含有量と紫外線の吸収のされ方との関係について説明をする図である。図8(b)は、紫外線吸収剤の含有量が多い場合(紫外線吸収剤の濃度が高い場合)における紫外線の吸収のされ方を模式的に示す。図8(c)は、紫外線吸収剤の含有量が少ない場合(紫外線吸収剤の濃度が低い場合)における紫外線の吸収のされ方を模式的に示す。また、図8(b)、(c)では、強い紫外線を照射した場合にインクの層(インク層)内に生じる温度分布について、紫外線の照射の直後に高い温度に上昇する部分を網掛け模様で示している。
【0242】
上記においても説明をしたように、紫外線の照射によりインクを乾燥させる場合、単位面積あたりのエネルギーが大きな強い紫外線を照射することで、インクを瞬間的に乾燥させることが好ましい。しかし、図8(b)に示すように、紫外線吸収剤の濃度が高い場合、媒体50上のインクに照射される紫外線(UV光)の吸収は、インク層の表面付近のみに集中して生じることになる。そして、この場合、照射される強い紫外線により、インク層の表面のみの温度が急速に上昇して、インク層の表面のみが乾燥することになる。また、この場合、インク層の内部は乾燥していないため、インクを完全に乾燥させるためには、更に紫外線を照射することが必要になる。しかし、インク層の表面における溶媒が蒸発した状態で更に強い紫外線を照射すると、焦げ等が発生しやすくなる。また、この場合、インク層の状態は、表面のみが乾燥することで、例えば、表面に皮膜が形成されたような状態になる。そして、この場合、この皮膜がインク層の内部のインクを覆うことで、内部のインクにおける溶媒の乾燥を阻害することになる。そのため、この場合、インク層の表面が乾燥した後に紫外線を照射し続けても、内部に溶媒が残った状態が長く続き、インクを短時間で乾燥させることが難しくなる。
【0243】
これに対し、図8(c)に示すように、紫外線吸収剤の濃度が低い場合、インク層の表面で吸収される紫外線の量が減るため、インク層の内部にまで紫外線が到達することになる。そして、この場合、紫外線は、インク層の全体で吸収されることになる。また、その結果、インク層の温度は、全体的により均一に上昇することになる。このように、紫外線吸収剤の濃度を低くした場合、インク層の全体を均一かつ適切に加熱することができる。また、これにより、例えば、強い紫外線を照射して、インク層の全体を瞬間的に適切に乾燥させることが可能になる。
【0244】
また、より具体的に、インク中の紫外線吸収剤の含有量については、上記においても説
明をしたように、インクの全重量に対し、例えば0.01~10重量%にすることが考えられる。また、紫外線吸収剤の含有量は、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.05~2重量%、更に好ましくは、0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~0.4重量%である。また、本願の発明者は、紫外線吸収剤としてTINUVIN 400やTINUVIN 460等を用いる場合について、含有量の最適値が0.5重量%程度(例えば0.3~0.7重量%程度)であること等を確認した。
【0245】
ここで、上記においても説明をしたように、紫外線を吸収する物質は、例えば重合の開始剤等として、公知の紫外線硬化型インク等にも含まれている。しかし、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合における紫外線吸収剤の含有量の好ましい範囲は、紫外線硬化型インク等における開始剤等の含有量の好ましい範囲と異なっている。より具体的に、紫外線の照射によりインクを乾燥させる場合、図8(a)のグラフにも示すように、インク中に溶媒が残っている間、インクの温度上昇は、溶媒の沸点付近で止まることになる。そのため、この場合、強い紫外線を照射しても、インクの焦げ等を適切に防ぐことができる。これに対し、紫外線硬化型インク等に紫外線を照射する場合、強い紫外線を照射すると、直ちに温度が大きく上昇して、インクの焦げ等が発生しやすくなる。
【0246】
そのため、紫外線硬化型インク等に紫外線を照射する場合には、通常、図8(a)のグラフにおいてUV硬化条件として示すように、より弱い紫外線を照射することになる。そして、この場合、紫外線の照射によりインクを適切に硬化させるためには、重合の開始剤の濃度を十分に高くすることが必要になる。
【0247】
また、この場合、照射する紫外線のエネルギーが小さいため、表面近くのみに紫外線の吸収が集中しても、インクの焦げ等は発生しない。また、紫外線硬化型インクについて、例えばラジカル重合タイプのインクを用いる場合には、周囲の酸素によって生じる硬化不良を避けるためにも、インク層の表面を初期に硬化させることが好ましい。このように構成すれば、例えば、硬化の感度を適切に上昇させることができる。また、この場合、この点でも、重合の開始剤の濃度を高くすることが好ましくなる。
【0248】
このように、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合の紫外線吸収剤の含有量についての好ましい範囲と、紫外線硬化型インクにおける重合の開始剤についても好ましい範囲とは、求められる条件の違いに応じて、異なったものになる。また、その結果、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる場合の紫外線吸収剤の含有量は、紫外線硬化型インクにおける重合の開始剤の含有量と比べ、上記のように、少なくすることが好ましくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0249】
本発明は、例えば印刷装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0250】
10・・・印刷装置、12・・・ヘッド部、14・・・ガイドレール、16・・・走査駆動部、18・・・プラテン、20・・・プリヒータ、22・・・プリントヒータ、24・・・アフターヒータ、26・・・制御部、32・・・搬送ローラ、34・・・位置検出部、36・・・後UV照射器、42・・・裏返しローラ、50・・・媒体、60・・・治具、100・・・キャリッジ、102・・・インクジェットヘッド、104・・・紫外線光源、106・・・前処理剤用ヘッド、202・・・印刷部、204・・・裏返し部、206・・・テンションコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8