(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】発砲壁紙
(51)【国際特許分類】
D06N 7/04 20060101AFI20220524BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220524BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20220524BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
D06N7/04
B32B5/24 101
B32B27/10
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2017211864
(22)【出願日】2017-11-01
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水谷 準
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-226799(JP,A)
【文献】特開2016-120600(JP,A)
【文献】特開2004-230883(JP,A)
【文献】特開2016-153175(JP,A)
【文献】特開2006-272781(JP,A)
【文献】特開2007-031893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材上に発泡樹脂層を有しており、この発泡樹脂層の表面にインク受容層が塗布形成されており、かつ、
有機溶剤と顔料を含むインクを使用してこのインク受容層にインクジェット印刷が施されている発泡壁紙であって、
前記インク受容層が
アクリル-スチレン樹脂と炭酸カルシウムを含み、かつ、その
付着量が4.5~12.0
g/m
2
であると共に、
前記発泡樹脂層の厚みが400~720μmであることを特徴とする発泡壁紙。
【請求項2】
前記インク受容層の面に凹凸が施されていることを特徴とする請求項1に記載の発泡壁紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡した樹脂層(発泡樹脂層)を有する壁紙に関する。本発明の壁紙は、前記樹脂層を発泡させた後、その表面にインクジェット印刷を施して製造することができる。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂層を有する壁紙は周知である。この壁紙は、発泡樹脂層によってその表面に凹凸を設けることができるから、この凹凸模様によってその装飾性を高めることができる。
【0003】
ところで、このような発泡壁紙においては、その印刷絵柄はグラビア印刷によって形成することが常であった。しかし、グラビア印刷は量産技術であるため、小ロットの生産には向かない。また、前記樹脂層を発泡させて発泡樹脂層を形成した後、その表面にグラビア印刷することも困難である。
【0004】
一方、発泡壁紙の印刷絵柄をインクジェット印刷によって形成した壁紙も公知である(特許文献1,2)。この方法によれば、小ロットの発泡壁紙の製造が容易であり、また、発泡樹脂層を形成した後、インクジェット印刷によってその表面に印刷絵柄を形成することも容易である。
【0005】
しかしながら、このインクジェット印刷で印刷絵柄を形成する方法においては、そのインキがにじみ易く、このため、微細で高品質の印刷絵柄を形成することができない。そのため、高い意匠性の発泡壁紙を製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-318038号公報
【文献】特開2001-150660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情の下になされたもので、有機溶剤系インクを使用してインクジェット印刷を施して、しかも、そのにじみのない高品質の発泡壁紙を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、紙基材上に発泡樹脂層を有しており、この発泡樹脂層の表面にインク受容層が塗布形成されており、かつ、有機溶剤と顔料を含むインクを使用してこのインク受容層にインクジェット印刷が施されている発泡壁紙であって、
前記インク受容層がアクリル-スチレン樹脂と炭酸カルシウムを含み、かつ、その付着量が4.5~12.0g/m
2
であると共に、
前記発泡樹脂層の厚みが400~720μmであることを特徴とする発泡壁紙である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記インク受容層の面に凹凸が施されていることを特徴とする請求項1に記載の発泡壁紙である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機溶剤系インクを使用してインクジェット印刷を施すことによって印刷絵柄を形成した発泡壁紙であるにも拘わらず、そのインクがにじむことなく、高品質の発泡壁紙を製造することが可能となる。
【0011】
なお、後述する実施例及び比較例から分かるように、インク受容層の付着量が4.5g/m
2
に満たない場合には、インクジェット印刷を施しても、その印刷画像の濃度が低く、高品質の発泡壁紙を製造することが困難であり、12.0g/m
2
を越える場合には、インク受容層が凝集破壊を生じる。
【0012】
また、発泡樹脂層の厚みが400μmに満たない場合には、壁紙としての施工性に劣り、他方、720μmを越える場合には、印刷したインクがにじんで微細で高品質の印刷絵柄を形成することができない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の発泡壁紙の具体例に係る断面図である。
【
図2】
図2は本発明の発泡壁紙の製造に使用する積層体の具体例に係る断面図である。
【
図3】
図3は本発明の発泡壁紙の製造途中の壁紙原反の具体例に係る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の具体例を説明する。本発明の発泡壁紙10は、
図1に示すように、紙基材1の上に、順次、発泡樹脂層2、インク受容層3が形成され、このインク受容層3に印刷が施されているものである。
【0015】
説明の便宜上、まずその製造工程を説明し、次に、発泡壁紙10について説明する。
図2は、この発泡壁紙10の製造に使用する積層体20を示しており、
図3はこの積層体20を使用して製造した壁紙原反30を示している。発泡壁紙10は、この壁紙原反30を経て製造することができる。
【0016】
そこで、まず、積層体20は、紙基材1の上に、順次、発泡剤含有樹脂層2’、インク受容層3を形成したものである。紙基材1と発泡剤含有樹脂層2’との間、あるいは発泡剤含有樹脂層2’とインク受容層3との間に、他の層が介在してもよい。
【0017】
紙基材1としては、特に限定されず、公知の繊維質シートを使用できる。繊維質シートとしては、例えば、難燃紙、つまり、パルプ主体のシートをスルファミン酸グアニジン、リン酸グアジニン等の難燃剤で処理したもの;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機添加剤を含む無機質紙;上質紙;薄用紙等が挙げられる。紙基材1の坪量は、例えば、50~300g/m2程度が好ましく、50~80g/m2がより好ましい。
【0018】
発泡剤含有樹脂層2’は、樹脂に発泡剤を混合して構成することができる。このほか、例えば、ホルムアルデヒド吸着剤、無機粉末あるいは各種添加剤を配合することができる。そして、この発泡剤含有樹脂層2’は、前記積層体20を製造した後、この積層体20を加熱することにより、発泡剤を発泡させて、発泡樹脂層2とすることができる。
【0019】
この発泡剤含有樹脂層2’に使用する樹脂としては、塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを用いることができる。
【0020】
発泡剤としては、公知の発泡剤を採用すれば良いが、好ましくは熱分解型発泡剤を用いる。例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)系発泡剤、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)系発泡剤等が例示できる。この中でも、ADCA系発泡剤は熱分解温度が高いために製膜性が高く、押出し製膜時に異常発泡するおそれが少ないため好ましい。
【0021】
熱分解型発泡剤の含有量は発泡剤の種類、発泡倍率等に応じて適宜設定できる。発泡剤は、樹脂成分100質量部に対して、0.01~20質量部程度が好ましく、0.1~10質量部程度がより好ましい。
【0022】
また、ホルムアルデヒド吸着剤としては、尿素、エチレン尿素、ヒドラジド化合物、アルコールアミン化合物、アゾール化合物、アジン化合物等を使用できる。ホルムアルデヒド吸着剤の配合量は、前記樹脂100質量部に対してホルムアルデヒド吸着剤が0.1~10質量部となる量でよく、この程度配合することによって、壁紙の製造工程上支障をきたすことなく、また意匠性なども損なうことなく、ホルムアルデヒド吸着の効果が好ましく発現される。
【0023】
無機粉末としては、天然ゼオライト、酸性白土、珪藻土、合成ゼオライト、人工ゼオライト、活性炭、酸化チタン、リン酸塩等を例示することができる。これらの無機粉末を配合することによって、発泡樹脂層2でのホルムアルデヒドの吸着をさらに助長することができる
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、無機充填剤、顔料及び発泡安定剤、亜鉛化合物
、架橋剤、表面処理剤、蛍光増白剤、防カビ剤、滑剤等を挙げることができる。
【0024】
そして、これら各成分を配合した組成物を紙基材1上に塗布することにより、発泡剤含有樹脂層2’を形成することができる。塗布方法は、組成物を溶剤に溶解又は分散して塗布うる湿式コーティング法、組成物を加熱溶融して塗布する溶融押出しコーティング法、あるいはカレンダーマシンによる方法などから、適したものを選ぶことができる。
【0025】
なお、後述するように、この発泡剤含有樹脂層2’を発泡して形成される発泡樹脂層2は、その厚みが400~720μmである必要がある。このため、発泡剤含有樹脂層2’の塗布量は、発泡倍率を考慮して、発泡樹脂層2の厚みが400~720μmとなるようにしなければならない。
【0026】
次に、インク受容層3は、バインダーとこのバインダー中に分散させた炭酸カルシウムとで構成することができる。このほか、インク受容層3は、充填剤、顔料、染料定着剤(例えば、第4級ポリアンモニウム塩)や、インク受容層に一般的に使用されるその他の助剤(例えば、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、耐水化剤等)をさらに含有することができる。
【0027】
炭酸カルシウムの種類は特に限定されるものではないが、体積基準粒子径の粒度分布における平均粒径が4.5μm以下のものを用いることができる。平均粒径が4.5μmを超えると、インクジェット印刷による印刷画像の発色が低下するおそれがある。また、インク受容層3中の炭酸カルシウムの含有量は特に限定されるものではないが、70質量%以上90質量%以下とすることができる。
【0028】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、エチレ-ビニルアセテートコポリマー、アクリル-スチレンコポリマーが使用できる。
【0029】
インク受容層3は、これら各成分を混合し、溶剤中に溶解又は分散させて塗工液を調製し、この塗工液を発泡剤含有樹脂層2’上に塗布することによって形成することができる。溶剤としては、例えば、イオン交換水等を使用することができる。塗布方法としては、例えば、ローラー付与法、スロットダイコーティング法、グラビアコーティング法、ニップコーティング法、カーテンコーティング法、エアーナイフコーティング法、計測バーを使用するコーティング法を採用することができる。また、グラビア印刷法、オフセット印刷法等の各種印刷法を利用することもできる。
【0030】
なお、その付着量は4.5~12.0g/m
2
であることが必要である。付着量が4.5g/m
2
に満たない場合には、インクジェット印刷を施しても、その印刷画像の濃度が低く、高品質の発泡壁紙を製造することが困難であり、12.0g/m
2
を越える場合には、インク受容層が凝集破壊を生じる。
【0031】
こうして製造された積層体20を加熱して、発泡剤含有樹脂層2’中の発泡剤を発泡させることにより、発泡樹脂層2を形成することができる。また、発泡と同時又は発泡の後、型押しすることにより、凹凸を形成して、壁紙原反30を製造することができる(
図3)。なお、発泡剤の発泡条件は、使用した発泡剤の種類に応じて異なる。一般には、その熱分解温度以上に所定の時間加熱すればよい。例えば、180~230℃、数十秒~数分の加熱である。また、型押しは、インク受容層3側からエンボス版を押し当てて押圧することによって可能であり、こうして型押しされた壁紙原反30は、発泡樹脂層2の表面に凹凸が形成されており、インク受容層3はこの発泡樹脂層2の凹凸表面に沿って密着しているため、インク受容層3は発泡樹脂層2の表面凹凸を反映して、その表面に凹凸が形成
されている。
【0032】
そして、次に、この壁紙原反30のインク受容層3に印刷を施すことによって本発明の発泡壁紙10を製造することができる(
図1)。なお、
図1中、4は印刷形成された印刷層を示している。
【0033】
この印刷は、インクジェット印刷法で行う必要がある。インクジェット印刷法は被印刷体に非接触で印刷を施すことができるため、インク受容層3が凹凸表面を有している場合であっても、美麗な印刷を施すことができる。また、周知のように、インクジェット印刷法は小ロットの絵柄形成にも適している。なお、このインクジェット印刷に使用するインクは、有機溶剤系インクであることが必要である。このインクとしては、着色剤として顔料を含有するインクを使用することが望ましい。
【実施例】
【0034】
(実施例)
紙基材1として、KJ特殊紙製WK685を使用し、この上に発泡剤含有樹脂層2’を積層した。
【0035】
一方、アクリル-スチレン系エマルジョン(ジャパンコーティングレジン(株)製;FK-820)100gに対して、炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製;Brilliant-1500)60gを加え、攪拌機で攪拌して分散させた後、イオン交換水33.28gを加えて、塗工液を調製した。そして、この塗工液を前記発泡剤含有樹脂層2’の上に塗布して、インク受容層3を形成することにより、積層体20を製造した。インク受容層3の付着量は6.5g/m2である。
【0036】
次に、この積層体20を加熱して発泡剤含有樹脂層2’を発泡させ、さらに型押しして、壁紙原反30を製造した。加熱条件は170℃、35秒で、発泡樹脂層2の厚みは600μmである。
【0037】
そして、有機溶剤系インクジェット印刷機(ローランド社製:SOLJETPROM4
RF-640)を使用し、インク受容層3にインクジェット印刷することにより、解像度720dpiの印刷を施して、発泡壁紙10を製造した。なお、インクはシアンインクを使用した。また、画像濃度は100%である。
【0038】
(比較例1)
インク受容層3の付着量を6.5g/m2としたほかは、実施例と同様に発泡壁紙10を製造した。
【0039】
(比較例2)
インク受容層3の付着量を14.8g/m2としたほかは、実施例と同様に発泡壁紙10を製造した。
【0040】
(比較例3)
発泡樹脂層2の厚みを360μmとしたほかは、実施例と同様に発泡壁紙10を製造した。
【0041】
(比較例4)
発泡樹脂層2の厚みを800μmとしたほかは、実施例と同様に発泡壁紙10を製造した。
【0042】
(評価)
これら実施例及び比較例1~4の発泡壁紙について、壁紙原反30とインク受容層3との密着性、印刷のにじみの有無、印刷の濃度及び壁紙としての施工性について評価した。
【0043】
壁紙原反30とインク受容層3との密着性については、1mm碁盤目剥離試験法で評価した。すなわち、発泡壁紙の表面を1mm角の正方形領域に区切り、かつ、この正方形領域を100個形成し、これら100個の正方形領域にセロハンテープを貼り付けた後、このセロハンテープを剥離して、インク受容層3が壁紙原反30から剥離した領域の数を数えた。そして、剥離した領域の数が0個の場合を「○」と評価し、1個でも剥離した場合には「×」と評価した。
【0044】
また、印刷のにじみの有無については、印刷層4をマイクロスコープ(キーエンス社製:VHX-600)で観察し、そのドット径を計測した。ドット径が40μm以下の場合には印刷絵柄の粒状感が目立たないことから、「○」と評価した。一方、ドット径が40μmを越えている場合には、インクににじみが生じたものとして「×」と評価した。
【0045】
印刷の濃度については、分光反射計(エックスライト社製:eXact)で反射濃度を測定し、反射濃度が1.4以上の場合を「○」と評価し、これ未満の場合を「×」と評価した。
【0046】
壁紙としての施工性については、厚みが100μmのタック紙を1枚又は2枚重ねで貼った450mm角の石膏ボードに前記発泡壁紙を施工し、3日間保存した後、斜光で隠蔽性を確認して、不陸が目立たない場合は「○」と評価し、目立つ場合は「×」と評価した。
【0047】
この結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
以上の結果から、これら評価項目のすべてを満たすためには、インク受容層が炭酸カルシウムを含むだけでは足りず、その付着量が4.5~12.0g/m
2
で、しかも、発泡樹脂層の厚みが400~720μmであることが必要であることが分かる。
【0050】
例えば、インク受容層の付着量が4.5g/m
2
に満たない場合には印刷画像の濃度が低く、12.0g/m
2
を越える場合には、インク受容層が凝集破壊を生じる。
【0051】
また、発泡樹脂層の厚みが400μmに満たない場合には施工性が劣り、720μmを越える場合には印刷層の濃度が低く、しかもインクがにじんで、高品質の印刷絵柄を形成することができない。
【符号の説明】
【0052】
10:発泡壁紙 20:発泡壁紙の製造に使用する積層体 30:発泡壁紙原反1:紙基材 2:発泡樹脂層 2’:発泡剤含有樹脂層 3:インク受容層 4:印刷層