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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】内燃機関のシール構造
(51)【国際特許分類】
   F01C 19/12 20060101AFI20220525BHJP
   F02B 53/00 20060101ALI20220525BHJP
   F02B 55/02 20060101ALI20220525BHJP
   F02F 11/00 20060101ALI20220525BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F01C19/12 A
F02B53/00 C
F02B55/02 C
F02F11/00 P
F16J15/18 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019060484
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159299
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 卓央
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-187251(JP,A)
【文献】特表2006-521490(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第2437714(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第102797558(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01C 19/12
F02B 53/00
F02B 55/00
F02F 11/00
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に用いられるシール構造であって、
前記内燃機関は、ハウジングと、前記ハウジング内に回転中心軸を中心に回転可能に支持される第1ピストン部材と、前記ハウジング内に前記回転中心軸を中心に回転可能に支持される第2ピストン部材と、を含み、前記ハウジング、前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材によって燃料を燃焼させるための燃焼室が形成され、前記第1ピストン部材は、前記燃焼室の径方向内側に、前記第2ピストン部材に対向する環状の対向面を有し、
前記シール構造は、前記燃焼室の径方向内側に配置された円形状のシール部材を備え、
前記シール部材の中心を、前記回転中心軸に対して偏心させた、内燃機関のシール構造。
【請求項2】
前記シール部材は、潤滑油を封止するオイルシールである、請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記第1ピストン部材の平坦面と前記第2ピストン部材の平坦面との間に空間が形成されており、
前記シール部材は、前記空間内に配置されており、両方の前記平坦面によって挟み持たれる、請求項1または2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記第1ピストン部材と前記第2ピストン部材との間に空間が形成されており、
前記第2ピストン部材には、前記空間に面する表面に、前記第1ピストン部材に向かって開口する溝が形成されており、
前記シール部材の一部が前記溝内に収容される、請求項1または2に記載のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2006-521490号公報(特許文献1)には、リーディング羽根を有する第1の回転部材と、トレイリング羽根を有する第2の回転部材とを備え、リーディング羽根とトレイリング羽根とは回転する毎に吸気行程、圧縮行程、仕事行程、排気行程を完成する、回転羽根式モータにおいて、第1の回転部材と第2の回転部材との間にはリングシールが設けられていると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2006-521490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
円形状のシール部材を回転部材の回転中心と同心に配置すると、シール部材は回転部材の同じ部位に対して摺動し続ける。そのため、シール部材に接触する回転部材の表面に摩耗が生じやすい懸念がある。
【0005】
本開示では、摩耗量を低減できる、内燃機関のシール構造が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従うと、内燃機関に用いられるシール構造が提供される。内燃機関は、ハウジングと、ハウジング内に回転中心軸を中心に回転可能に支持される第1ピストン部材と、ハウジング内に回転中心軸を中心に回転可能に支持される第2ピストン部材と、を含んでいる。ハウジング、第1ピストン部材および第2ピストン部材によって、燃料を燃焼させるための燃焼室が形成される。第1ピストン部材は、燃焼室の径方向内側に、第2ピストン部材に対向する環状の対向面を有している。シール構造は、燃焼室の径方向内側に配置された円形状のシール部材を備えている。シール部材の中心を、回転中心軸に対して偏心させている。
【0007】
第1ピストン部材および第2ピストン部材のいずれか一方に対してシール部材が摺り動く面積を増加させ、シール部材の摺動時に接触する面積が大きくされており、同じ部位が繰り返し摺動することが回避されている。したがって、シール部材の当たり面の摩耗量を低減することができる。
【0008】
上記のシール構造において、シール部材は、潤滑油を封止するオイルシールである。オイルシールは、ガスシールよりも大きい力で第1ピストン部材および第2ピストン部材に押し付けられる。オイルシールの当たり面に、摩耗がより発生しやすいことになる。したがって、中心を回転中心軸からずらして配置する構成をオイルシールに適用することで、より効果的に摩耗を低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るシール構造に従えば、摩耗量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の内燃機関の構成を示す斜視図である。
図2】第1ピストン部材および第2ピストン部材の斜視図である。
図3】燃焼室およびエンジンの動作を説明するための模式図である。
図4】第1ピストン部材およびシール構造を軸方向に見た概略図である。
図5】第1ピストン部材および第2ピストン部材とオイルシールとの接触状態の第一の例を示す模式的な断面図である。
図6】第1ピストン部材および第2ピストン部材とオイルシールとの接触状態の第二の例を示す模式的な断面図である。
図7】第2実施形態に係る第1ピストン部材およびシール構造を軸方向に見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
[第1実施形態]
<エンジン2の概略構成>
図1は、実施形態の内燃機関の構成を示す斜視図である。実施形態の内燃機関は、回転ピストン型のエンジン2である。エンジン2の燃料には、たとえば、ガスやガソリンや軽油等が用いられる。エンジン2は、ハウジング4と、吸気管6と、排気管8と、インジェクタ10と、スロットルモータ14と、第1出力軸16と、第2出力軸18とを含む。
【0013】
吸気管6の一方端は、ハウジング4の吸気ポート(図示せず)に接続される。吸気管6の他方端には、たとえば、エアクリーナ(図示せず)が接続される。エアクリーナは、エンジン2の外部から吸入される空気から異物を除去する。エンジン2の作動中において、吸気管6には、エアクリーナから吸入された空気が流通する。吸気管6を流通する空気は、ハウジング4の吸気ポートに流通する。
【0014】
吸気管6には、吸気管6を流通する空気の流量を制限するスロットルバルブが設けられている。スロットルモータ14は、スロットルバルブの開度を調整する。
【0015】
インジェクタ10は、吸気管6のスロットルバルブよりも上流側に設けられ、燃料(たとえば、ガス)を吸気管6内に噴射する。噴射された燃料は、吸気管6内で空気と混合されてハウジング4の吸気ポートに流通する。
【0016】
ハウジング4の外周部分は、図1に示すように円筒形状によって形成されており、その内周部分も円筒形状に形成されている。ハウジング4は、その内部に、第1出力軸16に接続される第1ピストン部材と、第2出力軸18に接続される第2ピストン部材とを収納する。
【0017】
排気管8の一方端は、ハウジング4の排気ポート(図示せず)に接続される。排気管8の他方端には、たとえば、排気処理装置(図示せず)が接続される。エンジン2の作動中において、ハウジング4内での燃焼により生じた排気は、ハウジング4の排気ポートから排気管8に流通する。排気管に流通する排気は、排気処理装置によって浄化されて、エンジン2の外部に排出される。
【0018】
第1出力軸16および第2出力軸18は、いずれもハウジング4内での燃料の燃焼によって回転する。第1出力軸16および第2出力軸18は、たとえば、モータジェネレータ(図示せず)の回転軸に接続される。このモータジェネレータは、たとえば、三相交流回転電機である。
【0019】
<エンジン2の内部構造>
次に、エンジン2の内部構造の一例について説明する。図2は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の斜視図である。図2に示すように、ハウジング4内には、第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とが組み合わされて収納される。第1ピストン部材24は、第1回転体24aと、第1壁面部材24bと、第1回転シャフト部24sとを含む。第2ピストン部材28は、第2回転体28aと、第2壁面部材28bと、第2回転シャフト部28sを含む。
【0020】
第1回転シャフト部24sと第2回転シャフト部28sとは、ハウジング4に設けられた図示しない軸受に回転可能に支持されている。これにより第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とは、ハウジング4によって回転可能に支持されている。第1回転体24aと第2回転体28aとは、回転中心軸AXが一致している。第1回転体24aと第2回転体28aとは、回転中心軸AXを中心に回転可能である。第1回転体24aと第2回転体28aとは、第1回転体24aの一方の端面と第2回転体28aの一方の端面とが軸方向に対向するように設けられる。
【0021】
なお本明細書中の説明では、回転中心軸AXと平行な方向を軸方向と称し、回転中心軸AXを中心とする円周に沿う方向を周方向と称し、回転中心軸AXと直交する方向を径方向と称する。径方向において、回転中心軸AXに近い側を内側と称し、回転中心軸AXから離れる側を外側と称する。
【0022】
第1回転体24aおよび第2回転体28aは、回転中心軸AXを含む断面に斜面部分を有するように形成される。これにより、第1回転体24aと第2回転体28aとが組み合わされた状態において、第1回転体24aと第2回転体28aとの間には、V字形状の断面を有する凹部が周方向に形成される。
【0023】
第1壁面部材24bは、第1回転体24aの斜面部分から、径方向外側に向けて延在し、第2回転体28aの斜面部分に向けて軸方向に延在するように、設けられている。第1壁面部材24bは、2つの三角形の板状部材によって構成される。第1壁面部材24bの2つの三角形の板状部材は、回転中心軸AXについて互いに対称となる位置に配置されている。
【0024】
第2壁面部材28bは、第2回転体28aの斜面部分から、径方向外側に向けて延在し、第1回転体24aの斜面部分に向けて軸方向に延在するように、設けられている。第2壁面部材28bは、上述の第1壁面部材24bを構成する板状部材と同形状となる、2つの三角形の板状部材によって構成される。第2壁面部材28bの2つの三角形の板状部材は、回転中心軸AXについて互いに対称となる位置に配置されている。
【0025】
第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bの三角形の板状部材は、いずれも、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28がハウジング4に収納されている状態において第1回転体24aと第2回転体28aとの間のV字形状の凹部とハウジング4の内周面とによって形成される三角形の断面形状に合致するように、形成される。
【0026】
第1壁面部材24bは、三角形の一辺において、第1回転体24aの斜面部分に固定されている。第1壁面部材24bの三角形の一辺は、ハウジング4の内周面に対向している。第1壁面部材24bの三角形の一辺は、第2回転体28aの斜面部分に対向している。
【0027】
第2壁面部材28bは、三角形の一辺において、第2回転体28aの斜面部分に固定されている。第2壁面部材28bの三角形の一辺は、ハウジング4の内周面に対向している。第2壁面部材28bの三角形の一辺は、第1回転体24aの斜面部分に対向している。
【0028】
第1ピストン部材24の第1回転シャフト部24sには、回転中心軸が一致するように第1出力軸16が接続される。第1回転体24aとハウジング4との間には、ワンウェイクラッチが設けられる。このワンウェイクラッチは、ハウジング4内における第1ピストン部材24の予め定められた回転方向へのみ回転を許容し、予め定められた回転方向とは逆方向への回転を抑制する。
【0029】
第2ピストン部材28の第2回転シャフト部28sには、回転中心軸が一致するように第2出力軸18が接続される。第2回転体28aとハウジング4との間には、ワンウェイクラッチが設けられる。このワンウェイクラッチは、ハウジング4内における第2ピストン部材28の予め定められた回転方向へのみ回転を許容し、予め定められた回転方向とは逆方向への回転を抑制する。
【0030】
<燃焼室>
図3は、燃焼室A~Dおよびエンジン2の動作を説明するための模式図である。図3には、ハウジング4の中央部分(たとえば、第1回転体24aと第2回転体28aとの当接部分)における、回転中心軸AXに直交する断面が模式的に示される。図3に示すように、ハウジング4内には、ハウジング4、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28によって、燃料を燃焼させるための4つの燃焼室A~Dが形成される。
【0031】
燃焼室A~Dは、各々、ハウジング4の内周面と、第1ピストン部材24の第1壁面部材24bおよび第1回転体24aの斜面部分と、第2ピストン部材28の第2壁面部材28bおよび第2回転体28aの斜面部分とによって、規定されている。第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bは、燃焼室A~Dの周方向の壁面を構成している。周方向に隣り合う2つの燃焼室は、第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bによって仕切られている。
【0032】
図2を参照して説明したワンウェイクラッチは、図3においては、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との反時計回りの回転を抑制し、時計回りの回転を許容する。
【0033】
図3に示される燃焼室Aでは、圧縮された空気と燃料との混合気が自着火によって着火する膨張行程となる。すなわち、燃焼室Aで燃料が燃焼すると、第1ピストン部材24の反時計回りの移動がワンウェイクラッチによって抑制されるため、第1ピストン部材24の回転位置が維持されつつ、第2ピストン部材28のみが破線矢印の方向に回転し、燃焼室A内の気体の膨張とともに燃焼室Aの容積が増加する。
【0034】
図3に示される燃焼室Bでは、膨張した排気が排気管8から排出される排気行程となる。すなわち、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Bの容積が減少する。このとき、燃焼室Bは、排気管8と連通している。そのため、燃焼室B内の排気は、燃焼室Bの容積の減少とともに、排気管8に排出されていく。
【0035】
図3に示される燃焼室Cでは、吸気管6から空気と燃料との混合気が吸入される吸気行程となる。すなわち、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Cの容積が増加する。このとき、燃焼室Cは、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転する途中で、吸気管6と連通する。そのため、燃焼室Cの容積の増加とともに、吸気管6から混合気が燃焼室C内に吸入される。
【0036】
図3に示される燃焼室Dでは、吸気管6から吸入された混合気が圧縮される圧縮行程となる。すなわち、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Dの容積が減少する。このとき、燃焼室Dは、吸気管6および排気管8のいずれにも連通していないため、燃焼室Dの容積の減少によって燃焼室D内の混合気が圧縮される。
【0037】
そして、燃焼室D内の圧力が上昇することによって第1ピストン部材24に時計回りの力が作用すると、第1ピストン部材24が回転し、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係が入れ替わることとなる。
【0038】
このようにして、燃焼室A~Dのうちのいずれかで燃焼する毎に、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転することによって、エンジン2が動作する。
【0039】
<シール構造>
以下、エンジン2に用いられる、実施形態のシール構造について説明する。図4は、第1ピストン部材24およびシール構造を軸方向に見た概略図である。第1ピストン部材24は、燃焼室A~Dの径方向内側に、第2ピストン部材28に対向する環状の対向面を有している。
【0040】
シール構造は、合せ面シール40を含んでいる。合せ面シール40は、環状の形状を有している。合せ面シール40は、円形状を有している。合せ面シール40は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28と同心に配置されている。合せ面シール40は、第1回転体24aと第2回転体28aとの両方に接触している。合せ面シール40は、燃焼室A~Dよりも径方向の内側に配置されており、燃焼室A~Dの内周部をシールしている。合せ面シール40は、燃焼室A~Dから内周側へのガスの漏れを抑制している。
【0041】
シール構造は、外周シール96を含んでいる。外周シール96は、環状の形状を有している。外周シール96は、円形状を有している。外周シール96は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28と同心に配置されている。外周シール96は、第1回転体24aと第2回転体28aとの両方に接触している。外周シール96は、燃焼室A~Dよりも径方向の外側に配置されており、燃焼室A~Dの外周部をシールしている。外周シール96は、燃焼室A~Dから外周側へのガスの漏れを抑制している。
【0042】
シール構造は、オイルシール70を含んでいる。オイルシール70は、燃焼室A~Dの径方向内側に配置されている。オイルシール70は、合せ面シール40よりも径方向の内側に配置されている。オイルシール70は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28を潤滑する潤滑油を封止しており、燃焼室A~Dへの潤滑油の漏れを抑制している。
【0043】
オイルシール70は、環状の形状を有している。オイルシール70は、円形状を有している。オイルシール70は、その中心70Cが、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の回転中心軸AXに対して偏心している。オイルシール70は、中心70Cが回転中心軸AXからオフセットするように配置されている。
【0044】
図5は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28とオイルシール70との接触状態の第一の例を示す模式的な断面図である。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との間には、中空の空間Sが形成されている。オイルシール70は、空間S内に配置されており、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との間に配置されている。オイルシール70は、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との両方に面接触している。第1ピストン部材24の平坦面と第2ピストン部材28の平坦面との間に空間Sが形成されており、オイルシール70は両方の平坦面によって挟み持たれている。
【0045】
図5に示されるオイルシール70は、矩形状の断面を有している。オイルシール70は、矩形に限られず任意の形状の断面形状を有していてもよい。
【0046】
図6は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28とオイルシール70との接触状態の第二の例を示す模式的な断面図である。図5に示される例と異なり、図6に示される第2ピストン部材28には、空間Sに面する表面に溝28Gが形成されている。溝28Gは、第1ピストン部材24に向かって開口している。オイルシール70の一部分が、溝28G内に収容されている。オイルシール70は、溝28Gの底面および側面において、第2ピストン部材28に面接触している。
【0047】
オイルシール70は、周方向の1箇所に切欠き部を有するCリングに形成されてもよい。オイルシール70は、径方向の外側に向く張力を発生して、溝28Gの径方向外側の側面に接触してもよく、または、径方向の内側に向く張力を発生して、溝28Gの径方向内側の側面に接触してもよい。オイルシール70は、ばねを有することで径方向の外側または内側に向く張力を発生して、溝28Gの底面および/または側面に確実に接触するような構成としてもよい。
【0048】
<作用および効果>
以上説明した実施形態のシール構造では、図4に示されるように、燃焼室A~Dの径方向内側に配置された円形状のオイルシール70の中心70Cを、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の回転中心軸AXに対して偏心させている。
【0049】
エンジン2の動作時に、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転する。このときオイルシール70は、偏心した状態で回転する。たとえば、図4に示される配置からオイルシール70が図中の時計回り方向に回転する場合、オイルシール70の中心70Cは、回転中心軸AXを中心とする円状の軌跡を描いて移動する。オイルシール70の中心70Cは、図4に示される回転中心軸AXの左方の位置から、回転中心軸AXの上方、回転中心軸AXの右方、回転中心軸AXの下方の位置の順に移動し、再び回転中心軸AXの左方の位置に戻る。
【0050】
このようにオイルシール70が偏心した状態で回転するため、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28のいずれか一方に対してオイルシール70が摺り動く面積が増加されている。オイルシール70の軌跡に、オイルシール70自身の径方向寸法よりも大きい径方向の幅を持たせ、その幅の中でオイルシール70の摺動が平均的に行なわれる構成とされている。オイルシール70の摺動時に接触する面積が大きくされており、同じ部位が繰り返し摺動することが回避されている。したがって、シール性を阻害することなく、オイルシール70の当たり面の摩耗量を低減することができる。
【0051】
偏心して配置されたオイルシール70により、油膜塗布効果を発生させることができる。たとえば図4に示す回転中心軸AXの左方にオイルシール70の中心70Cがある状態で、回転中心軸AXの右方におけるオイルシール70よりも径方向外側の領域に潤滑油を供給すれば、次に中心70Cが回転中心軸AXの右方にあるようにオイルシール70が移動したときに、全体に潤滑油を行き渡らせることができる。したがって、オイルシール70の耐焼き付き性を向上することができ、必要な潤滑油量の低減も可能となる。
【0052】
燃焼室A~Dの気密性を確保するためのガスシール(合せ面シール40)と比較して、潤滑油を封止するオイルシール70は、より大きい力で第1回転体24aおよび第2回転体28aに押し付けられる。オイルシール70の当たり面に、摩耗がより発生しやすいことになる。したがって、中心70Cを回転中心軸AXからずらして配置する本実施形態の構成をオイルシール70に適用することで、より効果的に摩耗を低減することが可能になり、エンジン2の信頼性を高めることができる。
【0053】
図6に示される溝28Gを有さず、平坦面の間にオイルシール70が挟まれる図5に示す構成の場合、空間Sの隙間寸法の管理が難しい。そのため、オイルシール70の第1回転体24aおよび第2回転体28aへの押付荷重が大きくなり、摩耗がより発生しやすいことになる。したがって、図5に示される構成に、オイルシール70の中心70Cを回転中心軸AXからずらして配置する本実施形態の思想を適用することで、より効果的に摩耗を低減することができる。
【0054】
これまでの説明においては、オイルシール70の中心70Cを回転中心軸AXからオフセットさせる例について説明した。中心を回転中心軸AXからずらす実施形態の思想を、ガスシール(合せ面シール40)に適用してもよい。
【0055】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係る第1ピストン部材24およびシール構造を軸方向に見た概略図である。図7に示すシール構造は、第1実施形態と同様の合せ面シール40および外周シール96を含んでいる。シール構造は、オイルシール70を含んでいる。オイルシール70は、第1実施形態と異なり、非円形状の形状を有している。オイルシール70は、楕円形状を有している。オイルシール70の中心70Cは、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の回転中心軸AXと一致している。
【0056】
係る構成とすることにより、第1実施形態と同様に、オイルシール70の摺動時に接触する面積を大きくすることができる。したがって、オイルシール70の当たり面の摩耗を低減できる効果、および油膜塗布効果を、同様に得ることができる。
【0057】
オイルシール70は、図7に示される楕円形状に限られるものではない。オイルシール70が非円形状であれば、オイルシール70の摺動時に接触する面積を大きくできる効果が同様に奏され、たとえばオイルシール70を長円形状などに形成してもよい。シール構造を非円形状にする第2実施形態の思想を、ガスシール(合せ面シール40)に適用してもよい。
【0058】
以上のように実施形態について説明を行なったが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
2 エンジン、4 ハウジング、16 第1出力軸、18 第2出力軸、24 第1ピストン部材、24a 第1回転体、24b 第1壁面部材、24s 第1回転シャフト部、28 第2ピストン部材、28G 溝、28a 第2回転体、28b 第2壁面部材、28s 第2回転シャフト部、40 合せ面シール、70 オイルシール、70C 中心、96 外周シール、A,B,C,D 燃焼室、AX 回転中心軸、S 空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7