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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】渦流探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20220526BHJP
【FI】
G01N27/90
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021574612
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021000999
(87)【国際公開番号】W WO2021153245
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020011486
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517166756
【氏名又は名称】テックス理研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087572
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 克明
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小西 伸彦
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-188373(JP,A)
【文献】特開平06-102254(JP,A)
【文献】特開2007-240427(JP,A)
【文献】特開2003-121421(JP,A)
【文献】実開昭58-088152(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第109060938(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体に対して非接触且つ同軸に離間して配置された一対の検出コイルと、これら検出コイルが生じる磁界が逆位相となるように各検出コイルによりブリッジの2辺が構成されたブリッジ回路とを具備した渦流探傷装置であって、
前記一対の検出コイルを挟むように、一対の励磁コイルを前記各検出コイルと同軸に配置し、
前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の距離を、前記励磁コイルで励磁し隣に位置する前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号と前記検出コイルで励磁し前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号との位相が変化する距離に設定した、渦流探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の渦流探傷装置であって、
前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の距離を、前記励磁コイルで励磁し隣に位置する前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号と前記検出コイルで励磁し前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号との位相が逆位相になる距離に設定した、渦流探傷装置。
【請求項3】
請求項1に記載の渦流探傷装置であって、
前記励磁コイルに交流電力を与え、前記励磁コイルで励磁し隣に位置する前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号と、前記検出コイルに交流電力を与え前記検出コイルで励磁し前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号との位相が逆位相になるように、前記励磁コイルに与える交流電力の位相を変換して前記励磁コイルに与える、渦流探傷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の渦流探傷装置であって、
発振器と、前記発振器からの交流出力を増幅する電力増幅器と、前記発振器からの交流出力の位相を変換する励磁用位相変換器と、前記励磁用位相変換器からの交流出力を増幅する励磁用電力増幅器と、を備え、
前記検出コイルに前記電力増幅器から交流電力を与え、前記励磁コイルに前記励磁用電力増幅器から交流電力を与える、渦流探傷装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の渦流探傷装置であって、
前記被検査体は、丸棒材、前記検出コイル及び前記励磁コイルは貫通コイルであり、前記丸棒材の外径と前記検出コイル及び前記励磁コイルの内径との差に基づいて、前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の前記距離が設定される、渦流探傷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の渦流探傷装置であって、
前記被検査体に対して近接して配置されるプローブを備え、
前記プローブは、円筒状又は半円筒状に形成され、内部に前記検出コイルと前記励磁コイルが設けられている、渦流探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流探傷装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、被検査体の表層部に渦電流を発生させるコイルと、前記コイルのインピーダンス変化による信号を処理する信号処理部とを備え、前記信号に基づいて前記被検査体の欠陥等を検査する渦流探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、被検査体としての導体と非接触且つ同軸に一対の検出コイルが配置され、前記一対の検出コイルの間に、生じる磁界が互いに同相となるように一対の共振コイルを前記各検出コイルと同軸に配置し、共振コイルに容量回路を設けた渦流探傷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2882856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載した渦流探傷装置においては、導体内部に傷や異物がない場合には、共振コイルに流れる誘導電流は相殺されるので、変化はない。これに対して、上記した装置においては、導体内部に傷や異物がある場合には、各検出コイルが生じる磁界に偏りが生じるため、各共振コイルが生じる誘導電流値に差が生じ、この差分の電流が流れて共振コイルが共振する。これにより、上記した装置は、S/N比を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1においては、渦流探傷装置の振動、被検査体の偏心又は振動によるノイズ信号が発生した場合には、そのノイズ信号により、S/N比が低下するという問題があった。
【0006】
また、上記した特許文献1においては、共振コイルにも出力を増幅するための増幅回路がそれぞれ必要となり、装置が複雑になるという難点もあった。
【0007】
本発明の課題は、装置を複雑化することなく、検査装置の振動、被検査体の偏心又は振動によるノイズ信号を除去することができる渦流探傷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検査体に対して非接触且つ同軸に離間して配置された一対の検出コイルと、これら検出コイルが生じる磁界が逆位相となるように各検出コイルによりブリッジの2辺が構成されたブリッジ回路とを具備した渦流探傷装置であって、前記一対の検出コイルを挟むように、一対の励磁コイルを前記各検出コイルと同軸に配置し、前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の距離を、前記励磁コイルで励磁し隣に位置する前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号と前記検出コイルで励磁し前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号との位相が変化する距離に設定した。
【0009】
また、本発明は、前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の距離を、前記励磁コイルで励磁し隣に位置する前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号と前記検出コイルで励磁し前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号との位相が逆位相になる距離に設定することが好ましい。
【0010】
また、本発明は、前記励磁コイルに交流電力を与え、前記励磁コイルで励磁し隣に位置する前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号と、前記検出コイルに交流電力を与え前記検出コイルで励磁し前記検出コイルで検出される偏心又は振動によるノイズ信号の位相が逆位相になるように、前記励磁コイルに与える交流電力の位相を変換して前記励磁コイルに与えるように構成することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、発振器と、前記発振器からの交流出力を増幅する電力増幅器と、前記発振器からの交流出力の位相を変換する励磁用位相変換器と、前記励磁用位相変換器からの交流出力を増幅する励磁用電力増幅器と、を備え、前記検出コイルに前記電力増幅器から交流電力を与え、前記励磁コイルに前記励磁用電力増幅器から交流電力を与えるように構成することができる。
【0012】
また、前記被検査体は、丸棒材、前記検出コイル及び前記励磁コイルは貫通コイルであり、前記丸棒材の外径と前記検出コイル及び前記励磁コイルの内径との差に基づいて、前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の前記距離を設定すればよい。
【0013】
また、本発明は、前記被検査体に対して近接して配置されるプローブを備え、前記プローブは、円筒状又は半円筒状に形成され、内部に前記検出コイルと前記励磁コイルを設けるように構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検査装置の振動、被検査体の偏心又は振動によるノイズ信号を除去することができ、S/N比を向上させたる渦流探傷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る渦流探傷装置及び被検査体の概略図である。
図2A図2Aは、本発明に係る渦流探傷装置の検出コイル部分の構成を示す概略回路図である。
図2B図2Bは、本発明に係る渦流探傷装置の励磁コイル部分の構成を示す概略回路図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係る渦流探傷装置を示すブロック図である。
図4図4は、本発明に係る渦流探傷装置の振動、被検査体の偏心又は振動によるノイズ信号の除去を確認した具体例を説明するための模式図である。
図5図5は、検出コイルとその隣に配置される励磁コイルとの間の距離を変化させ、検出コイルの励磁と励磁コイルの励磁をそれぞれ独立して行った時の検出コイルのインピーダンスの変化を測定した結果を表す測定図である。
図6図6は、検出コイルとその隣に配置される励磁コイルとの間の距離を変化させ、検出コイルの励磁と励磁コイルの励磁をそれぞれ独立して行った時の検出コイルの合成信号を表した説明図である。
図7図7は、検出コイルとその隣に配置される励磁コイルとの間の距離を変化させた時の距離と位相の関係を示す説明図である。
図8図8は、本発明に係る第2実施形態に係る渦流探傷装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態に係る渦流探傷装置を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明に係る渦流探傷装置法は、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0017】
図1に示すように、本発明の被検査体3は、例えば、パイプ、丸棒材等の導体である。この被検査体3に対してプローブ10が近接して配置される。このプローブ10は、円筒状または半円筒状に形成され、内部に一対の検出コイル10a、10bと検出コイル10a、10bを挟むように一対の励磁コイル11a、11bが設けられている。本実施形態においては、プローブ10は、円筒状に形成されている。内部に設けられる一対の検出コイル10a、10bと一対の励磁コイル11a、11bは、貫通コイルで構成されている。
【0018】
検出コイル10a、10b及び励磁コイル11a、11bは被検査体3に対して非接触且つ同軸に離間して配置されている。プローブ10と被検査体3とは相対的に移動する。すなわち、渦流探傷装置は、被検査体3に対してプローブ10が移動し、被検査体3を検査する場合と、固定されたプローブ10に対して被検査体3が移動する場合がある。本実施形態の渦流探傷装置は、被検査体3に対してプローブ10が図中矢印方向に移動し、被検査体3の表面等の状態を検査する。
【0019】
本実施形態においては、被検査体3は金属製丸棒材である。
【0020】
本実施形態においては、検出コイル10a、10bとその隣にそれぞれ配置される励磁コイル11a、11bとの間は、距離Dを開けて配置されている。図1に示すように、励磁コイル11aと検出コイル10aとの間、励磁コイル11bと検出コイル10bとの間は、それぞれ距離Dを隔てて配置されている。この距離Dについては、後述する。
【0021】
次に、図2A及び図2Bに従い本実施形態の回路構成の概略について説明する。図2Aは、本発明に係る渦流探傷装置の検出コイル部分の構成を示す概略回路図、図2Bは、本発明に係る渦流探傷装置の励磁コイル部分の構成を示す概略回路図である。
【0022】
図2Aに示すように、ブリッジ回路24は、検出コイル10a、10bと抵抗12a、12bとからなり、検出コイル10a、10bは、ブリッジ回路24の二辺として結線され、抵抗12a、12bはブリッジ回路24の他の2辺として結線される。
【0023】
交流電源30(図3においては、発振器21と電力増幅器22)からの交流出力は、ブリッジ回路24を介して、検出コイル10a、10bに与えられ、被検査体3を励磁し、渦電流が発生する。検出コイル10a、10bは、渦電流により生成される磁束の変化にともなうインピーダンス変化を検出部31(図3においては、位相検波器27など)で検出する。
【0024】
検出コイル10a、10bは、生じる磁界が互いに逆相となるように、差動接続されている。本実施形態においては、検出コイル10a、10bは、被検査体3を励磁すると共に、渦電流により生成される磁束の変化に伴うインピーダンスの変化を検出する。
【0025】
図2Bに示すように、交流電源30(図3においては、発振器21と励磁用電力増幅器23)からの交流出力は、励磁コイル11a、11bに与えられ、励磁コイル11a、11bを励磁する。この励磁コイル11a、11bからの励磁により、被検査体3が励磁され、渦電流が発生する。励磁コイル11aは、生じる磁界が検出コイル10aと同相となるようにコイルが巻回されている。励磁コイル11bは、生じる磁界が検出コイル10bと同相となるように、コイルが巻回されている。
【0026】
検出コイル10aは、励磁コイル11aによる被検査体3からの渦電流により生成される磁束の変化に伴うインピーダンスの変化も検出する。
【0027】
検出コイル10bは、励磁コイル11bによる被検査体3からの渦電流により生成される磁束の変化に伴うインピーダンスの変化も検出する。
【0028】
このように、検出コイルと10aは、自己のコイル10aの励磁と励磁コイル11aの励磁に基づく合成インピーダンスの変化を検出する。また、検出コイル10bは、自己のコイル10bの励磁と励磁コイル11bの励磁に基づく合成インピーダンスの変化を検出する。そして、被検査体3に異常がない場合には、このブリッジ回路24の出力信号がゼロバランスになるように設定されている。
【0029】
図2Aの端子A、B間の出力が検出部31から出力され、この出力信号に基づいて、被検査体3の検査を行うことができる。
【0030】
次に、本発明の第1実施形態に係る渦流探傷装置について、図3のブロック図に従い更に説明する。
【0031】
図3に示すように、渦流探傷装置100は、発振器21、電力増幅器22、励磁用電力増幅器23、ブリッジ回路24、検出用位相変換器26、増幅器25、位相検波器27を備える。
【0032】
ブリッジ回路24は、図2Aに示すように、プローブ10の検出コイル10a、10bと抵抗12a、12bにより構成される。
【0033】
発振器21からの交流出力は、電力増幅器22で増幅され、ブリッジ回路24を介して検出コイル10a、10bに与えられる。また、発振器21からの交流出力は、励磁用電力増幅器23で増幅され、励磁コイル11a、11bに与えられる。
【0034】
検出コイル10a、励磁コイル11a、検出コイル10b、励磁コイル11bにそれぞれ加えられた交流出力により、被検査体3が励磁される。そして、検出コイル10a、10bは、渦電流により生成される磁束の変化に伴うインピーダンス変化を検出する。
【0035】
ブリッジ回路24から出力される検出コイル10a、10b間の不平衡出力が増幅器25で増幅され、位相検波器27に送られる。発振器21からの交流出力が検出用位相変換器26に与えられる。この検出用位相変換器26の出力は位相検波器27に与えられる。
【0036】
検出用位相変換器26は、発振器21からの信号を励磁信号と同じ位相の信号と、励磁信号に対して90度位相のずれた信号に変換し、位相検波器27に与える。
【0037】
増幅器25で増幅された不平衡出力と検出用位相変換器26の出力が位相検波器27に与えられ、検出コイル10a、10bの出力は検出用位相変換器26の出力とあいまって検波される。
【0038】
位相検波器27は、励磁信号と同じ位相の信号によって不平衡出力を同期検波してX軸の渦電流信号を出力するとともに、励磁信号に対して90度位相のずれた信号によって不平衡出力を同期検波してY軸の渦電流信号を出力する。そして、検波されたX軸およびY軸の渦電流信号をフィルタ(図示しない)やA/D変換器(図示しない)を介して信号処理装置28に取り込み、測定結果等を表示器などの出力部29に表示する。信号処理装置28としては、例えば、渦流探傷装置100に接続されたパーソナルコンピューター(PC)で構成される。
【0039】
本実施形態においては、検出コイル10a、10bからの出力値に基づいて被検査体3の損傷等を検出する。
【0040】
ところで、上記した渦流探傷装置100においては、プローブ10または被検査体3の振動若しくはプローブ10と被検査体3との間の偏心などが発生すると、検出コイル10a、10bと被検査体3との間の距離、励磁コイル11a、励磁コイル11bと被検査体3との間の距離がそれぞれ変化して、ノイズ信号が発生する。
【0041】
プローブ10が移動する場合においては、プローブ10の移動により、プローブ10に振動が発生することで、検出コイル10a、10bと被検査体3との間の距離及び励磁コイル11a、励磁コイル11bと被検査体3との間の距離がそれぞれ変化して、ノイズ信号が発生する。また、被検査体3が移動する場合には、被検査体3の移動により、被検査体3に振動が発生することで、検出コイル10a、10bと被検査体3との間の距離及び励磁コイル11a、励磁コイル11bと被検査体3との間の距離がそれぞれ変化して、ノイズ信号が発生する。さらに、プローブ10または被検査体3が振動しない場合においても、検出コイル10a、10bと被検査体3または励磁コイル11a、励磁コイル11bと被検査体3との間で偏心している場合においては、検出コイル10a、10bと被検査体3との間の距離、励磁コイル11a、励磁コイル11bと被検査体3との間の距離がそれぞれ変化して、ノイズ信号が発生する。
【0042】
このことから、この明細書においては、偏心又は振動によるノイズ信号とは、コイルまたは被検査体の振動若しくはコイルまたは被検査体の偏心により、検出コイル10a、10bと被検査体3との間の相対的な距離の変化により発生するノイズ信号を意味する。
【0043】
ここで、発明者らは、検出コイル10aと励磁コイル11aとの間の距離Dおよび検出コイル10bと励磁コイル11bとの間の距離Dとノイズ信号との関係を鋭意検討した。その結果、励磁コイルで励磁し隣に位置する検出コイルにより検出される振動ノイズ信号と検出コイルで励磁し検出コイルにより検出される偏心又は振動によるノイズ信号の位相が逆位相になる距離Dが存在することが分かった。
【0044】
さらに、本発明者らは、被検査体3の表面と検出コイル10a、10bとの間隔について鋭意検討した。その結果、被検査体3の表面と検出コイル10a、10bとの間隔と前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の前記距離Dに最適な値があることが分かった。
【0045】
本発明者らは、例えば、被検査体2が金属製丸棒材、検出コイル10a、10bと励磁コイル11a、11bは貫通コイルの場合、前記丸棒材の外径とコイルの内径との差により、前記検出コイルとその隣に配置される前記励磁コイルとの間の前記距離Dに最適な値があることを確認した。確認した具体例については、後述する。
【0046】
本発明の第1実施形態は、励磁コイルと隣に位置する検出コイルとの間で、それぞれの偏心又は振動によるノイズ信号が逆位相となる距離Dを求める。励磁コイル11aと検出コイル10aとの間の距離D及び励磁コイル11bと検出コイル10bとの間の距離Dになるように、プローブ10に各コイルを配置する。これにより、渦流探傷装置100のプローブ10の振動、被検査体3の偏心など発生した場合においても偏心または振動によるノイズを除去することができる。
【0047】
励磁コイルと検出コイルの距離Dを最適に設定することにより、励磁コイルで励磁し隣の検出コイルで検出される振動ノイズ信号と検出コイルで励磁し検出側コイルで検出される振動ノイズ信号の位相が逆位相、すなわち位相が180度シフトする。この結果、偏心または振動によるノイズにより発生する励磁コイルと検出コイルの合成信号は、減衰することができる。
【0048】
また、検出コイルと隣に位置する励磁コイルによる渦電流は、被検査体3のキズ等による渦電流の信号は変化しないことも確認できた。この結果、偏心または振動によるノイズを除去することができ、S/N比を向上させることができる。
【0049】
次に、本発明の具体例を図4図7を参照して説明する。本具体例においては、丸棒材を偏心させて、検出コイルでインピーダンス変化を検出し、振動または被検査体の偏心などによるノイズ信号が除去できることを確認した。
【0050】
図4は、本発明に係る渦流探傷装置の振動、被検査体の偏心または振動によるノイズの除去を確認した具体例を説明するための模式図である。
【0051】
図4に示す具体例のプローブ10は、検出コイル10a、10bと検出コイル10a、10bを挟むように一対の励磁コイル11a、11bが設けられている。検出コイル10a、10bと励磁コイル11a、11bの内径は同じである。これらコイル10a、10b、11a、11bに金属製の丸棒材からなる被検査体3が挿入される。これらコイル10a、10b、11a、11bの内径と被検査体3の外径との差は4mmである。
【0052】
図4に示すように、検出コイル10a、10bの間の径方向及び長さ方向の中心(c)を中心として、図中矢印方向に被検査体3を傾斜移動させた。そして、被検査体3の端部の移動距離dが2mmになる位置で停止させた。
【0053】
検出コイル10a、10bと励磁コイル11a、11bには、励磁周波数16kHZ、起磁力は133×10mAの交流電力を与える。インピーダンスの変化は、検出コイル10a、10bにより検出した。検出コイル10a、10bと励磁コイル11a、11bへの交流電力は、検出コイル10a、10bだけ与える場合と、励磁コイル11a、11bだけ与える場合になるように制御した。
【0054】
この具体例では、励磁コイル11aをコイルC1、検出コイル10aをコイルC2、検出コイル10bをコイルC3、励磁コイル11bをコイルC4として表している。
【0055】
図4に示す具体例のプローブ10を用いて、コイルへの交流電力の供給を変えてインピーダンス変化を検出した。
【0056】
まず、コイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)にだけ交流電力を与えて励磁し、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)からインピーダンスの変化を検出した。この検出結果をC1、C4として表し、その結果を表1及び図5に示す。
【0057】
確認のために使用したプローブ10は、励磁コイルと検出コイルの距離Dを2mm、4mm、6mm、8mm、10mmと変化させている。
【0058】
【表1】
【0059】
同様に、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)にだけ交流電力を与えて励磁し、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)からインピーダンスの変化を検出した。この検出結果をC2、C3として表し、その結果を表2及び図5に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表1、表2及び図5は、検出コイルのインピーダンス変化に対して、励磁する交流周波数と0度及び90度の位相差を持った信号を乗算し、その位相差電圧と電圧振幅を2次元平面になるように算出している。図5において、X軸は同位相成分(IN-PHASE)、Y軸は直交成分(QUADRATURE)である。
【0062】
図5において、〇印は、C1,C4の結果、□印は、C2,C3の結果を表している。〇印に付した符号は、励磁コイルと検出コイルの距離Dに対応している。
【0063】
表2及び図5から、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)だけの励磁の場合には、被検査体3を移動させても一定の値をとることが分かる。すなわち、被検査体3が偏心または振動しても一定の値をとる。
【0064】
また、表1と図5から、コイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)だけの励磁の場合には、励磁コイルと検出コイルの距離Dが異なると、検出値も異なる。すなわち、被検査体3が偏心または振動すると、電圧振幅、位相が異なる。
【0065】
図5からコイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)だけの励磁の検出結果とコイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)だけの励磁の検出結果は、位相が異なることが分かる。
【0066】
次に、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)を励磁した検出値とコイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)励磁した検出値の合成信号を算出した結果を表3及図6に示す。表3及び図6は、上記の表1、表2及び図5と同様に算出している。
【0067】
【表3】
【0068】
表3及び図6から、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)を励磁した検出値とコイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)を励磁した検出値を合成すると、信号は0点位置に近づき、偏心又は振動によるノイズが減少できることが分かる。なお、図6において、△印は合成信号を表し、△印に付した符号は、励磁コイルと検出コイルの距離Dに対応している。
【0069】
図6に示すように、各検出信号の位相が異なることから、偏心または振動によるノイズが相殺され、ノイズを減少することができる。そして、コイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)で励磁し、検出コイル10a、10bで検出される偏心ノイズまたは振動ノイズ信号とコイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)で励磁し検出コイル10a、10bで検出される偏心ノイズまたは振動ノイズ信号の位相が逆位相になる励磁コイルと検出コイルの距離Dが存在することが分かる。
【0070】
次に、両検出信号が逆位相になる励磁コイルと検出コイルの距離Dを確認するために、両検出信号の位相を算出した結果を表4及び図7に示す。図7において、C2,C3は、コイルC2(検出コイル10a)、コイルC3(検出コイル10b)を励磁した検出値の位相値であり、C1,C4は、コイルC1(励磁コイル11a)、コイルC4(励磁コイル11b)を励磁した検出値の位相値である。また、図7において、〇印は、C1,C4の結果、□印は、C2,C3の結果を表している。
【0071】
【表4】
【0072】
表4及び図7より、励磁コイルと検出コイルの距離Dが6mmになると、両検出信号の位相が殆ど逆位相、すなわち、両者の位相が略180度になる。従って、励磁コイルと検出コイルの距離Dが6mm近傍で逆位相になる距離がある。この逆位相になる距離に励磁コイルと検出コイルの距離Dを設定することで、偏心又は振動によるノイズを相殺して、ノイズを除去することができる。そして、この被検査体3のキズ等による渦電流の信号は変化しないことも確認できた。
【0073】
この結果、本発明によれば逆位相になる距離に励磁コイルと検出コイルの距離Dを設定することで偏心または振動によるノイズを除去することができ、S/N比を向上させることができることが確認できた。
【0074】
また、励磁コイルと検出コイルの距離Dが4mm~10mmでは、両信号の位相が異なる。すなわち、励磁コイル11a、励磁コイル11bに交流電力を与えて励磁し、検出コイル10a、検出コイル10bからの検出信号と、検出コイル10a、検出コイル10bに交流電力を与えて励磁し、検出コイル10a、検出コイル10bからの検出信号の位相信号は異なる。そして、両検出信号を合成すると、偏心または振動によるノイズを減少させることができる。両検出信号が逆位相ではなくても、偏心又は振動によるノイズは減少するので、S/N比は向上する。偏心又は振動によるノイズを確実に除去するためには、両検出信号が逆位相になるように、励磁コイルと検出コイルの距離Dを設定することが好ましい。ただし、偏心又は振動によるノイズを減少させるには、両検出信号の位相を変化させればよい。よって、S/N比の要求に応じて、励磁コイルと検出コイルの距離Dを設定すればよい。
【0075】
上記した具体例は、コイルの内径とコイル内に挿入される被検査体3の外径との差は、4mmであった。被検査体の外径、コイルの内径との差は、これに限らず種々の大きさで、両検出信号が逆位相になる励磁コイルと検出コイルの距離Dがあることを確認した。すなわち、励磁コイルと検出コイルの距離Dは、被検査体の表面とコイルとの間の距離に応じて最適な値がある。
【0076】
上記した第1実施形態においては、偏心又は振動によるノイズを確実に除去するために、両検出信号が逆位相になるように、励磁コイルと検出コイルの距離Dを設定している。
【0077】
図8に示す第2実施形態においては、励磁コイルと検出コイルの距離Dを所定の値に設定し、コイル10a、10b、11a、11bの内径と被検査体3の外径との差により、両検出信号が逆位相にならない場合には、励磁コイルに与える信号の位相を変換し、両信号が逆位相になるように調整したものである。このため、図8に示す第2実施形態においては、発振器21からの交流出力は、励磁用位相変換器40に与えられる。なお、図8に示す第2実施形態は、励磁用位相変換器40を設けた以外は第1実施形態と同じなので、同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0078】
図8に示すように、発振器21からの交流出力は、励磁用位相変換器40に与えられる。この励磁用位相変換器40は、励磁コイル10c、10dに与える励磁用の交流電力の位相を変換する。この位相変換器40は、両検出信号の位相が逆位相になるように、励磁コイル11a、11bに与える交流電力の位相を変換する。
【0079】
励磁用位相変換器40で位相変換された交流電力は、励磁用電力増幅器23に与えられ、励磁用電力増幅器23で増幅し、励磁コイル11a、11bに与えられる。
【0080】
これにより、励磁コイル11a、励磁コイル11bに励磁用位相変換器40で位相変換された交流電力を与えて励磁し、検出コイル10a、検出コイル10bからの検出信号と、検出コイル10a、検出コイル10bに交流電力を与えて励磁し、検出コイル10a、検出コイル10bからの検出信号の位相信号が逆位相になり、S/N比を向上させることができる。
【0081】
上述した実施形態においては、貫通コイルを用いた場合について説明したが、本発明は、貫通コイルだけではなく、内挿コイル、上置コイルにも適用でき、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0082】
3 :被検査体
10 :プローブ
10a :検出コイル
10b :検出コイル
11a :励磁コイル
11b :励磁コイル
20 :渦電流探傷装置
21 :発振器
22 :電力増幅器
23 :励磁用電力増幅器
24 :ブリッジ回路
25 :増幅器
26 :検出用位相変換器
27 :位相検波器
28 :信号処理装置
29 :出力部
30 :交流電源
40 :励磁用位相変換器
D :距離
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8