(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】視覚障害者用歩行補助装置及び視覚障害者用歩行補助方法
(51)【国際特許分類】
A61H 3/06 20060101AFI20220530BHJP
A61F 9/08 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
A61H3/06 G
A61F9/08
(21)【出願番号】P 2019033505
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2019-05-14
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月20日に「電子情報通信学会技術研究報告信学技報 Vol.118 No.270 第37~38頁」にて公開した。 平成30年11月15日から11月17日に西日本総合展示場 新館(福岡県北九州市小倉北区浅野3-8-1)において開催された「西日本国際福祉機器展」にて公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】519068397
【氏名又は名称】和田 康宏
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】和田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 信子
【合議体】
【審判長】千壽 哲郎
【審判官】平瀬 知明
【審判官】加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043101(WO,A1)
【文献】特開2003-23699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/06
A61F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚障害者が装着し、前記視覚障害者が歩行する際に前記視覚障害者の周囲の状況を検知する装着機器と、
前記視覚障害者が歩行の際に保持する白杖に装着される呈示装置と、を備え、
検知の結果危険な状況が存在する場合に、前記呈示装置
の振動部を介して前記視覚障害者に対して注意を喚起し、前記視覚障害者
が前記呈示装置の入力部を操作することによって前記装着機器による報知を得ることの承諾を受けた後に
、前記装着機器が前記視覚障害者に対して現在の状況を報知することを特徴とする視覚障害者用歩行補助装置。
【請求項2】
前記装着機器は、
測距センサと測位・方位センサと前記視覚障害者の心拍数を表す生体情報を検出する生体情報センサとを備える検知部と、
前記視覚障害者の過去の前記生体情報を取得する学習部と、
前記検知部による検知結果及び前記学習部からの前記生体情報と予め設定されている閾値との比較結果を用いて、前記閾値を超えるか否かをもって前記視覚障害者の前記現在の状況における危険性の有無を判断する比較判断部と、
前記閾値を超える場合には、前記現在の状況に危険性が存在するとの前記比較判断部における判断に基づいて、前記視覚障害者に対して前記現在の状況を報知する報知部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の視覚障害者用歩行補助装置。
【請求項3】
前記装着機器は、さらに前記生体情報センサが検出した前記視覚障害者の前記生体情報を記憶する記憶部を備え、
前記視覚障害者への報知の可否を判断するに当たって、前記学習部は、前記記憶部に記憶されている過去の前記生体情報の中から、前記現在の状況に合致する前記生体情報を取得し、前記比較判断部による前記閾値との比較を行うことを特徴とする請求項2に記載の視覚障害者用歩行補助装置。
【請求項4】
前記呈示装置は、
前記視覚障害者に対して注意を喚起する振動部と、
前記視覚障害者が前記承諾を前記装着機器に対して与えるために用いる入力部と、
を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の視覚障害者用歩行補助装置。
【請求項5】
視覚障害者が装着する装着機器と白杖に装着される呈示装置からなる視覚障害者用歩行補助装置を用いて前記視覚障害者が歩行する際に
、前記装着機器が、常時前記視覚障害者の周囲の状況を検知するステップと、
前記装着機器が、前記視覚障害者が存在する現在の状況に合致する前記視覚障害者の過去の生体情報を取得するステップと、
前記装着機器が、検知結果と取得された前記生体情報とを用いて前記視覚障害者への報知の可否を判断するステップと、
判断の結果、危険な状況が存在すると判断される場合に、
前記呈示装置
の振動部を介して前記視覚障害者に対して前記現在の状況を報知するための注意喚起を行うステップと、
前記視覚障害者による前記呈示装置の入力部の操作に基づく前記注意喚起に対す
る承諾の信号を
前記装着機器が受信するステップと、
前記承諾を受けた後に、
前記装着機器が前記現在の状況を前記視覚障害者に対して報知するステップと、
を備えることを特徴とする視覚障害者用歩行補助方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、視覚障害者用歩行補助装置及び視覚障害者用歩行補助方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在視覚障害者として、例えば身体障害者手帳の交付を受けている者は、概ね31万人程度いると言われている。このうち、例えば、特に1級から3級までの視覚障害者は障害の程度が重いことから、移動に対して不安や不自由を感じていることが多い。
【0003】
視覚障害者にとって行き慣れない場所に行くことが不安であることはもちろん、例えば、道路を横断する際も危険が伴うことが考えられる。例えば、横断歩道には信号機が設置されていることも多いが、視覚障害者に配慮した音響信号機が設置されていることは少ない。また、バリアフリーに対応するべく車道と歩道との間の段差が可能な限り無いようにされている箇所もあるが、視覚障害者からすると歩道と車道の段差が無いことによって歩道と車道の境界が分からず、却って危険な場合も散見する。
【0004】
さらに、近年電車の駅でのプラットホームからの視覚障害者の転落事故も多く発生している。これは主にプラットホームの床に設置されている点字ブロックが分かりにくい、ホームドアが設置されていないこと等の理由が挙げられる。
【0005】
すなわち、視覚障害者が感じている移動の不安や不自由さは、周囲の状況を適時把握して判断することが困難であることに起因していると言える。このような視覚障害者の歩行時における不安や不自由さ、危険を回避するための装置として、様々な装置が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば上記特許文献には、眼鏡と同じ形状をしたフレームの装着されたカメラを用いて前方に出現した障害物を把握する態様が記載されている。しかしながら、当該特許文献記載の発明では、例えば、視覚障害者が歩行の際使用する白杖との連携が取れない。
【0008】
ここで視覚障害者の移動の不安や不自由さを解消するために、歩行に際して様々な装置を装着することも考えられるが、例えば、装着する装置が重い、異物感を感じるような装置である、ということになると、安全は確保される一方でそもそも移動が億劫になってしまう。また、通常は歩行に際して白杖を利用することが多いが、安全の確保のために白杖以外の装置が多くなってしまうと、白杖も含めて装置の管理が困難となる。
【0009】
さらに、視覚障害者が歩行している時は、歩行に集中しており、危険が発生し得る状況であってもいきなり音声による報知は、視覚障害者にとって却って危険な場合も多い。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、視覚障害者が歩行する際に、たとえ危険な状況や災害等に遭遇した場合であっても可能な限り視覚障害者単独で危機を回避しつつ、健常者と同じようにストレスを感じることなく自由に移動することができる視覚障害者用歩行補助装置及び視覚障害者用歩行補助方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施の形態における視覚障害者用歩行補助装置は、装着機器と呈示装置とを備える。装着機器は、視覚障害者が装着し、視覚障害者が歩行する際に視覚障害者の周囲の状況を検知する。また、呈示装置は、視覚障害者が歩行の際に保持する白杖に装着される。そして検知の結果危険な状況が存在する場合に、呈示装置の振動部を介して視覚障害者に対して注意を喚起し、視覚障害者が呈示装置の入力部を操作することによって装着機器による報知を得ることの承諾を受けた後に、装着機器が視覚障害者に対して現在の状況を報知する。
【0012】
実施の形態における視覚障害者用歩行補助方法は、視覚障害者が装着する装着機器と白杖に装着される呈示装置からなる視覚障害者用歩行補助装置を用いて視覚障害者が歩行する際に、装着機器が、常時視覚障害者の周囲の状況を検知するステップと、装着機器が、視覚障害者が存在する現在の状況に合致する視覚障害者の過去の生体情報を取得するステップと、装着機器が、検知結果と取得された生体情報とを用いて視覚障害者への報知の可否を判断するステップと、判断の結果、危険な状況が存在すると判断される場合に、呈示装置の振動部を介して視覚障害者に対して現在の状況を報知するための注意喚起を行うステップと、視覚障害者による呈示装置の入力部の操作に基づく注意喚起に対する承諾の信号を装着機器が受信するステップと、承諾を受けた後に、装着機器が現在の状況を視覚障害者に対して報知するステップとを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上のような視覚障害者用歩行補助装置及び視覚障害者用歩行補助方法を用いることによって、視覚障害者が歩行する際に、たとえ危険な状況や災害等に遭遇した場合であっても可能な限り視覚障害者単独で危機を回避しつつ、健常者と同じようにストレスを感じることなく自由に移動することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態における視覚障害者用歩行補助装置を視覚障害者が装着した状態を示す全体図である。
【
図2】実施の形態における視覚障害者用歩行補助装置のうち、装着機器の全体を示す全体図である。
【
図3】実施の形態における視覚障害者用歩行補助装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態における記憶部に記憶されている視覚障害者の過去における生体情報を示すテーブルである。
【
図5】実施の形態における視覚障害者の現在の状況を示す模式図である。
【
図6】実施の形態において、視覚障害者に対して報知する際に装着機器に表示される画像の表示の一例を示す模式図である。
【
図7】実施の形態において、視覚障害者に対して現在の状況を報知する流れを示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態において、視覚障害者に対して現在の状況を報知する流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[視覚障害者用歩行補助装置の全体構成]
図1は、実施の形態における視覚障害者用歩行補助装置1を視覚障害者Hが装着した状態を示す全体図である。視覚障害者用歩行補助装置1は、装着機器2と呈示装置3とから構成される。
図1に示すように、視覚障害者Hが歩行する際には、顔に視覚障害者用歩行補助装置1を構成する装着機器2を装着する。また、路面の状態を把握するために手には白杖Wを持つ。当該白杖Wには、呈示装置3が装着されている。
【0017】
なお、装着機器2の形態としては、例えばめがねのような形態や頭部にかぶる帽子のような形態が考えられるが、いずれの形態を採用しても良い。以下の説明においては、装着機器2の一例としてめがね型機器を例に挙げて説明する。
【0018】
図2は、実施の形態におけるめがね型機器2の全体を示す全体図である。めがね型機器2は、視覚障害者Hが歩行する際における周囲の状況を検知するため装着するものである。めがね型機器2は、
図2に示されているように、いわゆる眼鏡の形状とされている。視覚障害者Hが装着する方法は、一般的なめがねを掛ける方法と同じである。
【0019】
なお、本発明の実施の形態におけるめがね型機器2については、
図2に示す通りであるが、めがね型機器2の全体、及び、部分の形状については、
図2に示す形状に限られるものではない。
【0020】
図3は、実施の形態における視覚障害者用歩行補助装置1のめがね型機器2と呈示装置3の内部構成を示すブロック図である。めがね型機器2は、検知部21と、学習部22と、比較判断部23と、報知部24とがバスBを介して互いに接続されている。また、記憶部25と、制御部26と、表示制御部27と、送受信部28も併せて接続されている。
【0021】
検知部21は、測距センサ211と、測位・方位センサ212と、視覚障害者の生体情報を検出する生体情報センサ213とを備えている。測距センサ211は、視覚障害者Hが歩行する際における、周囲に存在する様々な物に対する視覚障害者Hとの間の距離を計測する。測距センサ211としては、例えば、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)カメラ等のカメラ、ミリ波、赤外線等を用いることができる。
【0022】
図2に示す本発明の実施の形態におけるめがね型機器2においては、測距センサ211は、例えば、めがね型機器2を保持するために視覚障害者Hの耳に引っかける、いわゆるつると、レンズの部分との境界部に設けられている。また、当該めがね型機器2においては、左右両方にそれぞれ測距センサ211が設けられている。
【0023】
なお、本発明の実施の形態におけるめがね型機器2においては、上述した位置に測距センサ211が設けられているが、これらの位置に限定されるものではなく、視覚障害者Hの周囲の状況を把握するに必要な測距を行うことができれば、いずれの位置に設けられていても良い。また、左右両方ではなく、いずれか一方の側だけ、或いは、つるの部分に設けられている等、設けられる測距センサ211の数は問わない。
【0024】
測位・方位センサ212は、視覚障害者用歩行補助装置1を装着した視覚障害者Hがいる位置や歩行の速度等を計測するセンサである。測位・方位センサ212としては、例えば、GPS(Global Positioning System)、LTE(Long Term Evolution)、ジャイロ、加速度センサ等を利用することができる。但し、測位・方位センサ212としていずれの機器を利用するか、いくつ利用するかについては自由に選択することができる。
【0025】
本発明の実施の形態における
図2に示すめがね型機器2においては、測距センサ211と測位・方位センサ212は、例えば、レンズに該当する部分の上部に設けられている。或いは、つるの部分に設けられていても良い。
【0026】
このように、測距センサ211と測位・方位センサ212とを用いて、特に、上述したカメラやミリ波を用いて視覚障害者用歩行補助装置1を装着する視覚障害者Hの周囲360度をリアルタイムに(常時)検知する。また、視覚障害者Hの上半身部分の検知も併せて行う。視覚障害者Hは、通常白杖Wを持って歩行することから、自身の下半身部分については白杖Wを介して様々な情報を把握することができるが、上半身については無防備になりやすい。そこで、測距センサ211と測位・方位センサ212とを用いることで、視覚障害者Hの上半身部分の検知も行う。
【0027】
生体情報センサ213は、例えば、視覚障害者Hの心拍数をリアルタイムに検知するセンサである。これは、歩行中の心拍数を計測することによって、例えば、視覚障害者Hに対して危険の報知が必要になった際の視覚障害者Hの身体の状態を把握することができる。生体情報センサ213としては、例えば心電計等を利用することができる。
図2に示すめがね型機器2においては、例えば、つるの部分であって視覚障害者Hの耳に当たる部分に設けられている。
【0028】
なお、ここで本発明の実施の形態においては、視覚障害者Hへの報知の可否判断する際には、上記生体情報センサ213がリアルタイムに取得した生体情報を利用するのではなく、過去に取得された生体情報を利用する。これは、過去に取得された生体情報を用いることで、より適切に視覚障害者Hに対して危険を報知することができるからである。なお、生体情報センサ213によってリアルタイムに取得された生体情報は、記憶部25に記憶される。
【0029】
学習部22は、視覚障害者Hの過去の生体情報を取得する。視覚障害者Hがこれまで経験してきた移動の際の対応について、後述する比較判断部23が視覚障害者Hへの危険の報知の可否判断を行う際に、生体情報の観点からその判断に反映させるためである。
【0030】
具体的には、学習部22は、比較判断部23が視覚障害者Hへの危険の報知の可否を判断するに当たって、記憶部25に記憶されている過去の生体情報の中から、視覚障害者Hのおかれている現在の状況に合致する生体情報を取得する。
【0031】
ここで、「現在の状況に合致する生体情報」とは、視覚障害者Hが置かれている現在の状況と全く合致する(一致する)場合における過去の状況における生体情報のみならず、概ね合致する状況において取得された生体情報も含むものである。視覚障害者Hが置かれている現在の状況と全く合致する場合に限定してしまうと、視覚障害者Hがこれまで行ったことのある場所に行く場合に限って当該過去の生体情報を利用することができることになり、新たな場所に移動する場合には利用できなくなってしまうからである。
【0032】
図4は、実施の形態における後述する記憶部25に記憶されている視覚障害者Hの過去における生体情報を示すテーブルである。
図4に示されている通り、視覚障害者Hの生体情報がどの場所で、いつ、どのような環境の下で取得されたかがまとめて記憶部25に記憶されている。また、「キーワード」も併せて紐付けて記憶されている。このキーワードとして、例えば、場所に関する情報から取得された「駅」、「プラットホーム」、或いは、「信号機」といった内容が記憶されている。
【0033】
学習部22では、測距センサ211や測位・方位センサ212によってリアルタイムに取得される検知結果を基に、例えばその場所に関する情報からキーワードを把握する。そして、記憶部25に記憶されている過去の生体情報の中で、同じキーワードを備える生体情報を抽出する。学習部22において、このような処理を行うことによって、現在視覚障害者Hが置かれている状況と全く同じ状況ではないものの、似た状況における視覚障害者Hの生体情報を取得することができ、視覚障害者Hへの危険の報知の可否の判断に役立てることができる。
【0034】
比較判断部23は、視覚障害者Hの現在の状況、すなわち、視覚障害者Hへの危険の報知の可否の判断を行う。比較判断部23が当該判断を行う際に利用する情報は、測距センサ211や測位・方位センサ212によってリアルタイムに取得される検知結果と学習部22が抽出した視覚障害者Hの過去の生体情報である。
【0035】
報知部24は、視覚障害者Hに対して現在の状況を報知する。但し、後述するように、比較判断部23が視覚障害者Hに対して危険の報知の必要あり、と判断した場合であって、呈示装置3を介して視覚障害者Hに対して現在の状況を報知するための注意喚起を行い、さらに、この注意喚起に対する視覚障害者Hからの承諾の信号を受信した場合に、報知部24は、視覚障害者Hに対して現在の状況を報知する。
【0036】
これは、上述したように、視覚障害者Hが歩行している時には、細心の注意を払って集中して歩いているので、現在の状況とはいえ、突然視覚障害者Hに報知すると却って危険な状態になる可能性があるからである。そこで、上述したようなステップを踏んだ上で視覚障害者Hに対して報知する。報知の流れについては、後述する。
【0037】
報知部24は、どのように視覚障害者Hに対して現在の状況を報知しても良いが、本発明の実施の形態においては、後述する表示制御部27と連携して、めがね型機器2のレンズ部分に状況を表示させることで報知する。また、この他、音声等によって報知しても良く、複数の方法を組み合わせて報知することもできる。
【0038】
記憶部25は、例えば、半導体等で構成されている。記憶部25には、例えば上述した
図4に示す視覚障害者Hの過去の生体情報が記憶されている。また、視覚障害者Hに対して現在の状況を報知するために実行されるプログラム等記憶されている。
【0039】
制御部26は、めがね型機器2を構成する各部を制御する。具体的な構成としては、例えば、
図3では図示しない、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)を備える。
【0040】
CPUは、図示しないめがね型機器2の、例えばON/OFFスイッチからの入力信号に基づいてROMからめがね型機器2を起動するためのブートプログラムを読み出して実行し、記憶部25に格納されている各種オペレーティングシステムを読み出す。
【0041】
またCPUは、RAMや記憶部25等に記憶されたプログラム及びデータを読み出してRAMにロードする。そして、CPUは、報知部24からの指示に基づき、呈示装置3に視覚障害者Hに対して注意喚起を行うための動作を行うよう無線で制御を行う。
【0042】
表示制御部27は、視覚障害者Hに対して報知を行う際に、めがね型機器2のレンズ部分への表示制御を行う。レンズ部分に表示させる内容については、予め記憶部25に記憶されており、例えば、視覚障害者Hの選択により、或いは、自動的に予め選択されて表示される。
【0043】
なお、ここでレンズ部分は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイである。このレンズ部分は、表示制御部27からバスBを介して出力信号を受信し、視覚障害者Hに対する現在の状況や危険に関する情報を表示する。
【0044】
図5は、実施の形態における視覚障害者Hの現在の状況を示す模式図である。
図5は、視覚障害者Hを中心に、上方から俯瞰した状態を示している。まず、視覚障害者Hの右側には建物があり、当該建物内の通路とつながる扉が開け放たれている。また、右手前方には視覚障害者Hの前方から視覚障害者Hに向かってくる対向者がいる。次に視覚障害者Hの左側を見ると、左側は道路である。そしてその道路と視覚障害者Hとの間であって左前方には看板が、左後方には樹木が植わっている。
【0045】
図6は、実施の形態において、視覚障害者Hに対して報知する際にめがね型機器2に表示される画像の表示の一例を示す模式図である。表示制御部27は、視覚障害者Hが装着するめがね型機器2のレンズ部分に現在の状況を表示させる。
【0046】
なお、
図6においては、めがね型機器2の右側、或いは、左側のいずれか一方の側のレンズ部分に現在の状況を表示させた例を示している。但し、いずれのレンズ部分に表示させるか、或いは、両方のレンズ部分に跨がって表示させるかについては、任意に設定することができる。
【0047】
図6に示されているように、視覚障害者Hは、二重丸で、表示領域の中心に示されている。また、前方から近づく対向者については、星形で示されている。その他の建物や看板等については、
図5に示す現在の状況を示すようにそれぞれの位置に配置されている。このように検知部21が検知した結果がレンズ部分に表示されることによって、視覚障害者Hに対する報知が行われる。
【0048】
送受信部28は、めがね型機器2と呈示装置3との間で無線で信号のやり取りを行う。具体的には、めがね型機器2の送受信部28から呈示装置3の送受信部31に対して、呈示装置3を介して視覚障害者Hに対して現在の状況を報知する前段階としての注意喚起を行うための信号を送信する。一方、呈示装置3からはこの注意喚起に対する視覚障害者Hからの承諾の信号を受信する。
【0049】
呈示装置3は、視覚障害者Hに対して現在の状況を報知するための注意喚起を行うために用いられる。呈示装置3は、送受信部31と、振動部32と、入力部33とを備える。
【0050】
送受信部31は、めがね型機器2の送受信部28からの視覚障害者Hに対して現在の状況を報知するための注意喚起を行うための信号を受信する。また、この注意喚起に対する視覚障害者Hからの承諾の信号をめがね型機器2の送受信部28に向けて送信する。
【0051】
振動部32は、制御部26の指示に基づき、視覚障害者Hに対して現在の状況を報知するために注意喚起を行う。具体的には、振動部32が振動することで、呈示装置3が装着されている白杖Wを振動させて視覚障害者Hに注意喚起を行う。そのため、振動部32は、例えば、制御部26からの信号に基づいて振動する振動素子で構成される。
【0052】
入力部33は、注意喚起を受けた視覚障害者Hが、注意喚起を受けたことを理解し、めがね型機器2から視覚障害者Hが置かれている現在の状況について報知を受けることについて了承した旨の信号をめがね型機器2に対して送信する際に用いられる。
【0053】
入力部33の形態については、ボタン、スイッチ、ダイアル等、様々な態様が考えられるが、視覚障害者Hから確実にめがね型機器2に対して了承した旨の信号を送信することができるのであれば、どのような態様であっても良い。
【0054】
呈示装置3は、視覚障害者Hが歩行に際して保持する白杖Wに装着される。白杖Wに装着するための方法については、様々な方法が考えられるが、視覚障害者Hに対して確実に注意喚起を促すことができる態様であれば、どのような方法をもって白杖Wに装着されていても良い。
【0055】
なお、学習部22、比較判断部23、報知部24、表示制御部27、送受信部28の各働きについては、制御部26の制御の下、実行されるものとして説明してきた。すなわち、これら各部が行う処理は、学習機能、比較判断機能、報知機能、表示制御機能というように、制御部26における各機能であると把握することができる。
【0056】
一方でこれらの各機能を、或いは、複数の機能をまとめて回路、装置として構成することも可能である。例えば、各機能が個別の回路や装置として構成される場合には、制御回路の他、検知装置、学習回路、比較判断回路、報知回路、表示制御回路、送受信回路が設けられることになる。
【0057】
[動作]
次に、
図7及び
図8を利用して、視覚障害者用歩行補助装置1が視覚障害者Hの現在の周囲の状況を検知して報知するまでの処理の流れを説明する。
図7及び
図8は、実施の形態において視覚障害者Hに対して現在の状況を報知する流れを示すフローチャートである。
【0058】
視覚障害者Hは、歩行を開始するに当たって、
図1に示すように、めがね型機器2を装着し、呈示装置3が装着されている白杖Wを手に持つ。視覚障害者Hがめがね型機器2を装着することでめがね型機器2の電源が入り、検知部21による現在の状況の検知が開始される(ST1)。
【0059】
なお、ここでは視覚障害者Hがめがね型機器2を装着することでめがね型機器2の電源が入ることとしたが、もちろん、視覚障害者H自身がめがね型機器2の電源を入れるようにしても良い。
【0060】
上述したように、検知部21は、測距センサ211を備えている。そこで、制御部26は、検知部21を介して測距センサ211からの検知結果の情報を取得する(ST2)。取得された検知結果は、比較判断部23に送信され、検知結果の解析が実行される(ST3)。比較判断部23が解析を行った結果、視覚障害者Hの所定範囲内に危険物があるか否かを判断する(ST4)。
【0061】
ここで、危険物の有無を判断する所定範囲は、任意に設定することができる。すなわち、カメラ等のセンサを用いることのできる、例えば、視覚障害者Hを中心にした半径3mを所定の範囲と設定できる。この判断は、視覚障害者Hに対して報知を行うに当たっての、いわば、現在の状況の第1の確認処理と言える。比較判断部23が解析した結果、所定範囲内に危険物がない場合には(ST4のNO)、改めてステップST2に戻って、引き続き視覚障害者Hの周囲の検知を実行する。
【0062】
一方、比較判断部23が解析した結果、所定範囲内に危険物が存在する場合には(ST4のYES)、次に、検知部21は、測位・方位センサ212を用いた検知結果を取得し、比較判断部23に送信する(ST5)。比較判断部23では、受け取った測位・方位センサ212からの検知結果を基に解析を行う(ST6)。
【0063】
測位・方位センサ212を用いた検知は、例えば、ジャイロを用いて視覚障害者Hの傾きを検知する等、視覚障害者Hの現在地において危険物があるか否かを検知するものである。比較判断部23が解析した結果、現在地において危険物がないと判断できる場合には(ST7のNO)、改めてステップST2に戻って、引き続き視覚障害者Hの周囲の検知を実行する。この判断は、視覚障害者Hに対して報知を行うに当たっての、いわば、現在の状況の第2の確認処理と言える。
【0064】
もし、現在地に危険物があると判断された場合には(ST7のYES)、次に、制御部26は、学習部22を介して現在地における、視覚障害者Hの過去の生体情報を確認する(ST8)。学習部22では、記憶部25に記憶されている視覚障害者Hの過去の生体情報の中から、現在地における危険の有無を判断するに適切な生体情報が存在するか否かを確認する(ST9)。すなわち、まず学習部22は、視覚障害者Hが現在いる位置と同じ場所における生体情報が記憶部25に記憶されているか否かを確認する。
【0065】
もし視覚障害者Hが現在いる場所を基準として適切な生体情報を記憶部25内から抽出することができない場合には(ST9のNO)、次に学習部22は、参考となる生体情報を検索する(ST10)。ここで参考となる生体情報とは、過去の生体情報のうち、例えば、
図4に示すような経度緯度を参考にした、現在地に近い場所における過去の生体情報である。また、キーワードを用いて、視覚障害者Hが例えば、駅にいる場合には、駅にいた時の過去の生体情報を検索することも有効である。
【0066】
学習部22は、参考となる生体情報が記憶部25内から抽出できるか否か、検索を行い(ST11)、抽出するまで検索を継続する(ST11のNO)。一方、参考となる生体情報が記憶部25内から抽出することができた場合には(ST11のYES)、抽出することができた過去の生体情報を予め設定されている閾値と比較する(
図8のST12)。もちろん、元々視覚障害者Hが現在いる位置と同じ場所における過去の生体情報が取得できている場合にも(ST9のYES)、同じように取得した過去の生体情報を閾値と比較する。
【0067】
ここで、過去の生体情報が閾値を超えているか否かを確認するのは、視覚障害者Hが現在いる場所において、もし、心拍数が非常に多くなる等、過去に重大な生体情報が得られているのであれば、視覚障害者Hが同じ場所、或いは、似たような場所にいることは危険が存在する、と判断できるからである。
【0068】
すなわち、比較判断部23では、検知部21における測距センサ211及び測位・方位センサ212から得られる検知結果、及び、学習部22が抽出した過去の視覚障害者Hの生体情報に鑑みて、現在視覚障害者Hがいる場所における危険性の有無を判断することになる。
【0069】
比較判断部23が閾値を超えると判断しない場合には(
図8のST12のNO)、改めてステップST2に戻って、引き続き視覚障害者Hの周囲の検知を実行する。
【0070】
一方、比較判断部23が、視覚障害者Hの過去の生体情報を閾値と比較した結果、閾値を超えると判断した場合には(ST12のYES)、視覚障害者Hの現在の状況において危険が存在すると判断する(ST13)。
【0071】
そして、視覚障害者Hに対して注意を喚起する(ST14)。具体的には、報知部24が送受信部28を介して信号を呈示装置3に送信する。呈示装置3では、送受信部31がめがね型機器2からの注意喚起の信号を受信し、振動部32を構成する振動素子を駆動させて白杖Wに振動を伝える。
【0072】
併せて、制御部26は、現在の状況を生体情報センサ213から取得している視覚障害者Hの心拍数とともに記憶部25に記憶させる(ST15)。この記憶部25に記憶された生体情報が、今後視覚障害者Hが歩行を行う際の危険性の報知の際の判断情報となる。
【0073】
なお、ここでは視覚障害者Hに対する注意喚起の処理と現在の状況を記憶部25に記憶させる処理を上述した順に説明した。但し、この順に処理されなくても、例えば、並行して処理しても、或いは、順番を入れ替えて処理しても良い。
【0074】
制御部26は、注意喚起を受けた視覚障害者Hが現在の状況について報知を受けることについて了解したか否かの信号が、呈示装置3からめがね型機器2へ送信されたか否かを確認する(ST16)。具体的には、視覚障害者Hが呈示装置3の入力部33を用いてめがね型機器2信号を送ったか否かを確認する。
【0075】
制御部26は、視覚障害者Hからの了解の信号を受信できない場合には(ST16のNO)、引き続き振動部32を振動させる。一方、視覚障害者Hが了解の信号を送信してめがね型機器2の送受信部28が当該信号を受信した場合には(ST16のYES)、視覚障害者Hが現在の状況について報知を受けると判断する。
【0076】
なお、視覚障害者Hが了解の信号を送信した場合には、当該信号を受信したことをもって、制御部26は振動部32が振動するように呈示装置3に向けて駆動信号を送信することを停止する。或いは、視覚障害者Hが入力部33を操作した時点で、振動部32の振動を止めるように構成しても良い。
【0077】
制御部26は、さらに、引き続き視覚障害者Hの動きを検知している検知部21からの信号を受信して、視覚障害者Hが立ち止まったか(停止したか)を確認する(ST17)。上述したように、視覚障害者Hが歩行している際に、いきなり現在の状況を報知することは却って危険である。そこで制御部26は、検知部21による検知結果を基に、視覚障害者Hが立ち止まったか否かを確認するものである。
【0078】
もし視覚障害者Hが停止しない場合には(ST17のNO)、視覚障害者Hが停止するまで報知処理を待機の状態としておく。或いは、改めて視覚障害者Hに対して注意喚起を行うこととしても良い。
【0079】
一方、視覚障害者が立ち止まったら(ST17のYES)、視覚障害者Hに対して現在の状況について報知するべく、めがね型機器2のレンズ部分に現在の状況を表示させる(ST18)。ここでレンズ部分に表示される現在の状況は、例えば
図6に示すような表示態様で表示されることになる。
【0080】
なお検知部21には、生体情報センサ213も備えられているが、当該生体情報センサ213は、視覚障害者Hが歩行する際の心拍数の変化をリアルタイムに検出し、記憶部25に記憶させる。
【0081】
以上少なくとも1つの実施の形態によれば、このような処理を行うことで、障害者が歩行する際に、たとえ危険な状況や災害等に遭遇した場合であっても可能な限り視覚障害者単独で危機を回避しつつ、健常者と同じようにストレスを感じることなく自由に移動することが可能となる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 視覚障害者用歩行補助装置
2 めがね型機器
21 検知部
22 学習部
23 比較判断部
24 報知部
25 記憶部
26 制御部
27 表示制御部
28 送受信部
3 呈示装置
31 送受信部
32 振動部
33 入力部