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特許7081864被膜ファイバ、センサ装置、モニタリング装置及び被膜ファイバの製造方法
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  • 特許-被膜ファイバ、センサ装置、モニタリング装置及び被膜ファイバの製造方法 図1
  • 特許-被膜ファイバ、センサ装置、モニタリング装置及び被膜ファイバの製造方法 図2
  • 特許-被膜ファイバ、センサ装置、モニタリング装置及び被膜ファイバの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】被膜ファイバ、センサ装置、モニタリング装置及び被膜ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/106 20180101AFI20220531BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C03C25/106
G02B6/44 301A
G02B6/44 301B
G02B6/44 326
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021210842
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2022-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年10月26日,月間OPTCOM,2021,11月号,No.392,第36-37頁,株式会社工業通信
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年10月26日,https://www.optcom-japan.jp/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年10月27日~令和3年10月29日,第21回光通信技術展,幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区中瀬2-1)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596112561
【氏名又は名称】株式会社ヒキフネ
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昌史
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-025289(JP,A)
【文献】特開2009-122229(JP,A)
【文献】特開昭63-299012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00-25/70
G02B 6/02
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を具備し、
前記粒子は、1種類又は複数種類の金属酸化物を含む
被膜ファイバ。
【請求項2】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を具備し、
前記粒子の平均線膨張係数は、0℃以上1000℃以下の範囲で、0.13~1.1×10 -6 /℃であり、
前記ファイバの平均線膨張係数は、0℃以上600℃以下の範囲で、0.56×10 -6 /℃である
被膜ファイバ。
【請求項3】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を具備し、
前記膜の平均線膨張係数と、前記ファイバの平均線膨張係数との比率は、0.91以上1.0以下である
被膜ファイバ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の被膜ファイバであって、
前記膜は、前記粒子及び前記バインダにより区画される空隙部をさらに含む
被膜ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の被膜ファイバであって、
前記粒子が前記ファイバの前記周面に点接触することにより、前記空間層が形成される
被膜ファイバ。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか一項に記載の被膜ファイバであって、
前記ファイバの周面に対する、前記膜の内周面の接触面積は、15%以上40%以下である
被膜ファイバ。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の被膜ファイバであって、
前記空間層の、前記ファイバの径方向の幅は、0.5μmである
被膜ファイバ。
【請求項8】
請求項に記載の被膜ファイバであって、
前記膜は、前記金属酸化物以外の金属材料を含まない
被膜ファイバ。
【請求項9】
請求項1乃至の何れか一項に記載の被膜ファイバであって、
前記膜の膜厚は3μm以上15μm以下であり、
前記粒子の粒径は前記膜厚以下である
被膜ファイバ。
【請求項10】
請求項に記載の被膜ファイバであって、
前記膜厚は3μm以上5μm以下である
被膜ファイバ。
【請求項11】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を有する被膜ファイバ
を具備し、
前記粒子は、1種類又は複数種類の金属酸化物を含む
センサ。
【請求項12】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を有する被膜ファイバ
を具備し、
前記粒子の平均線膨張係数は、0℃以上1000℃以下の範囲で、0.13~1.1×10 -6 /℃であり、
前記ファイバの平均線膨張係数は、0℃以上600℃以下の範囲で、0.56×10 -6 /℃である
センサ。
【請求項13】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を有する被膜ファイバ
を具備し、
前記膜の平均線膨張係数と、前記ファイバの平均線膨張係数との比率は、0.91以上1.0以下である
センサ。
【請求項14】
請求項11乃至13の何れか一項に記載のセンサであって、
前記膜は、前記粒子及び前記バインダにより区画される空隙部をさらに含む
センサ。
【請求項15】
ファイバと、
粒子及び前記粒子同士をバインドするバインダを含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を有する被膜ファイバ
を具備し、
前記粒子は、1種類又は複数種類の金属酸化物を含む
モニタリング装置。
【請求項16】
請求項15に記載のモニタリング装置であって、
前記膜は、前記粒子及び前記バインダにより区画される空隙部をさらに含む
モニタリング装置。
【請求項17】
1種類又は複数種類の金属酸化物を含む粒子、バインダ及び溶媒を含む溶液をファイバの周面に付着させ、
前記溶液を付着させたファイバを焼成して前記溶媒を除去することにより、前記ファイバの周面を被膜し前記粒子及び前記粒子同士をバインドする前記バインダを含む膜を形成し、前記ファイバと前記膜との間の空間層を形成する
被膜ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被膜ファイバ、被膜ファイバを有するセンサ装置、被膜ファイバを有するモニタリング装置及び被膜ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは樹脂や金属等により被膜される。例えば、特許文献1は、金属のめっき層により被膜された金属被覆光ファイバを開示する。特許文献2は、セラミックにより被膜された光ファイバセンサを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-64746号公報
【文献】特許第5025561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
典型的には、金属をガラスファイバに被膜する場合、めっき又は溶融析出により被膜する。環境が高温(例えば700℃以上)になると、ガラスは金属との熱膨張率の差により折れが発生するおそれがある。一方、セラミックによる被膜はクラックや脱落が発生して被膜を維持できないおそれがある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、高温の環境に耐えうる被膜ファイバを提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態に係る被膜ファイバは、
ファイバと、
粒子を含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、
前記ファイバと前記膜との間の空間層と、
を具備する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高温の環境に耐えうる被膜ファイバを提供することができる。
【0008】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る被膜ファイバを示す断面図である。
図2】被膜ファイバの製造方法を示すフローチャートである。
図3】耐熱試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0011】
1.被膜ファイバの構成
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係る被膜ファイバを示す断面図である。
【0013】
被膜ファイバ1は、ファイバ10と、ファイバ10の周面11を被膜する膜20と、ファイバ10と膜20との間の空間層30とを有する。被膜ファイバ1は、断面形状が円形であり例えば約20m程度の長さを有する。
【0014】
ファイバ10は、曲げ可能な石英ガラスファイバである。ファイバ10は、断面形状が円形であり例えば約20m程度の長さを有する。ファイバ10は、石英ガラスからなるコアと、コアを覆うクラッドとを有する。クラッドは、例えば、石英ガラスからなる。ファイバ10の直径(即ち、クラッドの直径)は、125.0±0.7μmである。ファイバ10は、例えば直径5mmまでの曲げに耐える。ファイバ10を直径5mmに曲げたとき、1260~1625nmの波長の全スペクトルでの信号損失が少ない。石英ガラスの平均線膨張係数は、0℃以上600℃以下の範囲で、0.56×10-6/℃であり、他のあらゆる工業材料、特に一般のガラスに比較してきわめて小さい。
【0015】
以下、ファイバ10の断面形状円形の径方向及び周方向を単に「径方向」及び「周方向」と称し、長尺のファイバ10の軸方向(長手方向)を単に「軸方向」と称する。「径方向」、「周方向」及び「軸方向」は、被膜ファイバ1、膜20及び空間層30の径方向、周方向及び軸方向をも意味する。
【0016】
膜20は、ファイバ10の周面11に付着し、ファイバ10の周面11を被膜する。膜20は、ファイバ10の長手方向全域に(即ち、約20m程度の長さに亘って)設けられる。膜20は、略球形の粒子21と、粒子21同士をバインドするバインダ22と、バインドされた粒子21及びバインダ22により区画される空隙部23とを含む。
【0017】
膜20の膜厚(径方向の厚さ)は、3μm以上30μm以下であり、好ましくは、3μm以上15μm以下であり、さらに好ましくは、3μm以上5μm以下である。膜20は、中空の円筒状であり、断面形状が環状の円形で長尺のファイバ10を覆う。膜20は、略球形の粒子21がバインダ22によりバインドされた構造を有するため、例えば金属めっきと異なり、均一的な平滑面ではなく、ランダムな凹凸のある外周面24及び内周面25を有する。従って、膜20の膜厚は不均一であるため、本明細書では、単に膜厚と称するとき、膜20の膜厚の最大値を意味する。
【0018】
粒子21は、金属酸化物を含む。粒子21は、1種類又は複数種類の金属酸化物を含み、例えば、3種類の金属酸化物を含む。金属酸化物は、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化銅、酸化錫及び/又は酸化カドミウムである。粒子21の粒径は、例えば、膜20の膜厚以下である。即ち、粒子21の粒径は、例えば、1μm以上15μm以下であり、好ましくは、1μm以上5μm以下である。粒子21の粒径は個体差があってよい。
【0019】
金属酸化物の平均線膨張係数は、金属酸化物の種類と温度に拠って異なり、例えば、0℃以上1000℃以下の範囲で、0.13~1.1×10-6/℃である。金属酸化物の融点は、例えば、1326℃以上1945℃以下でよい。
【0020】
比較対象として、金属酸化物でない金属の平均線膨張係数は、例えば、20℃で11.7×10-6/℃~22×10-6/℃である。即ち、本実施形態で用いる金属酸化物の平均線膨張係数は、比較対象である金属の平均線膨張係数に比較して小さい。言い換えれば、同じ条件下において、金属酸化物は金属より膨張し難い。
【0021】
バインダ22は、粒子21同士をバインドする。バインダ22は、例えば、ケイ酸塩及びメタケイ酸カルシウム等の無機物質である。
【0022】
空隙部23は、バインドされた粒子21及びバインダ22により区画される領域である。言い換えれば、膜20の内部は、粒子21及びバインダ22により密に埋め尽くされているのではなく、粒子21及びバインダ22が疎である空間である空隙部23を含む。空隙部23は、被膜ファイバ1が存在する環境中の気体、典型的には、空気を含む。
【0023】
膜20の平均線膨張係数と、ファイバ10の平均線膨張係数との比率は、0.91以上1.0以下であり、好ましくは、1.0である。膜20は、金属酸化物でない金属材料及びセラミック材料を含まなくてよい。
【0024】
上述の様に、膜20は、略球形の粒子21がバインダ22によりバインドされた構造を有するため、ランダムな凹凸のある外周面24及び内周面25を有する。このため、ファイバ10の周面11と膜20の内周面25とは全面的に均一に接触しているのではなく、膜20に含まれる粒子21が、ランダムに、ファイバ10に点接触する。このため、ファイバ10と膜20との間に空間層30が形成される。本明細書で点接触とは、厳密なポイントではなく、全面的に均一に接触していない接触状態を意味する。ファイバ10の周面11に対する、膜20の内周面25の接触面積は、例えば、15%以上40%以下、具体的には、28%程度である。空間層30は、被膜ファイバ1が存在する環境中の気体、典型的には、空気を含む。空間層30の幅(径方向の幅)は、例えば、0.2μm以上1.0μm以下であり、好ましくは0.5μmである。従って、空間層30の幅(径方向の幅)は不均一であるため、本明細書では、単に空間層30の幅と称するとき、空間層30の幅の最大値を意味する。
【0025】
膜20の平均線膨張係数が1×10-6/℃、膜厚が10μmであると仮定する。ファイバ10の平均線膨張係数が0.56×10-6/℃、膜厚が10μmであると仮定する。800℃では、膜20は、膜厚方向(径方向)に0.008μm膨張し、周方向に0.31μm膨張する。800℃では、ファイバ10は、径方向に0.36μm膨張する。0.5μm幅の空間層30及び膜20の内部の空隙部23は、ファイバ10の膨張及び膜20の膨張を吸収し、膜20がファイバ10に接触することを防止することができる。その結果、主に膜20が熱膨張しても、ファイバ10に圧縮応力を印加することを防止でき、ファイバ10の破損を防止できる。
【0026】
2.被膜ファイバの製造方法
【0027】
図2は、被膜ファイバの製造方法を示すフローチャートである。
【0028】
ステップS1:ファイバ10を準備する。具体的には、石英ガラスファイバが樹脂コーティングされていれば、樹脂コーティングを剥離することにより、ファイバ10を準備する。樹脂コーティングの剥離には、有機溶剤を用いることができる。
【0029】
ステップS2:膜20の材料となる溶液を準備する。溶液は、粒子21(金属酸化物)と、バインダ22(ケイ酸塩及びメタケイ酸カルシウム等)と、溶媒とを少なくとも含めばよい。溶液に含まれる粒子21の粒径は個体差があってよい。例えば、溶液に含まれる粒子21は、目標とする膜20の厚みより粒径の大きい粒子21を含んでもよい。例えば、溶液に含まれる粒子21の粒径は、1μm以上40μm程度でよい。溶液は、必要に応じて希釈してもよい。希釈剤は、例えば、シンナーでよい。希釈率は、例えば、0wt%より大きく30wt%以下でよい。以下、単に「溶液」と称するとき、希釈していない溶液及び希釈した溶液を区別しない。溶媒は、芳香族系、アルコール系等の有機溶剤でよい。
【0030】
ステップS3:溶液をファイバ10の周面11に付着させる。例えば、ファイバ10を溶液に浸漬する又はファイバ10に溶液を吹き付けることにより、溶液をファイバ10の周面11に付着させる。浸漬又は吹き付けの何れを採用するかは、例えば、目的とする膜20の厚みに応じて決定すればよい。例えば、ファイバ10を希釈していない溶液に1回浸漬すると、3μmの膜厚の膜20を得ることができる。従って、例えば、目的とする膜20の厚みが3μm未満の場合、ファイバ10に溶液を吹き付けることにより溶液をファイバ10に付着させればよい。例えば、目的とする膜20の厚みが3μm以上の場合、ファイバ10を溶液に浸漬することにより溶液をファイバ10に付着させればよい。溶液に含まれる粒子21のうち、目的とする膜20の厚みより粒径が大きい粒子21は、浸漬時には流れ落ちてファイバ10に付着せず、吹き付け時には飛んでファイバ10に付着しない。
【0031】
ステップS4:溶液を付着させたファイバ10を焼成する。例えば、溶液を付着させたファイバ10を、80℃で10分間焼成し、次に、260℃で20分間焼成する。これにより、溶液に含まれる溶媒(有機溶剤)が蒸発し、完全に除去される。これにより、溶液に含まれるバインダ22が粒子21をバインドした構成を有する膜20が形成される。同時に、ファイバ10と膜20との間の空間層30が形成される。
【0032】
3.試験
【0033】
(1)曲げ試験
【0034】
2種類の被膜ファイバ1を作成した。第1の被膜ファイバ1は、ファイバ10の直径125μm、膜20の膜厚3μm、空間層30の幅0.5μmである。第2の被膜ファイバ1は、ファイバ10の直径125μm、膜20の膜厚30μm、空間層30の幅0.5μmである。即ち、第1の被膜ファイバ1と第2の被膜ファイバ1との違いは膜20の膜厚である。
【0035】
第1の被膜ファイバ1及び第2の被膜ファイバ1を、任意の直径φの環状に曲げ、常温、500℃、600℃及び700℃の環境に1時間置き、被膜ファイバ1が破損しない限界直径φ、即ち、曲げに耐える限界直径φを試験した。
【0036】
第1の被膜ファイバ1(膜20の膜厚3μm)は、常温でφ20mm、500℃でφ30mm、600℃でφ50mm、700℃でφ70mmに曲げても、被膜ファイバ1が破損しなかった。一方、第2の被膜ファイバ1(膜20の膜厚30μm)は、常温でφ20mm、500℃でφ45mm、600℃でφ90mm、700℃でφ100mmに曲げても、被膜ファイバ1が破損しなかった。
【0037】
以上より、第1の被膜ファイバ1(膜20の膜厚3μm)の方が、第2の被膜ファイバ1(膜20の膜厚30μm)より曲げ試験での強度が高い。従って、膜20の膜厚は、3μm以上30μm以下であり、好ましくは、3μm以上15μm以下であり、さらに好ましくは、3μm以上5μm以下であるのがよい。
【0038】
(2)耐熱試験
【0039】
図3は、耐熱試験の結果を示す写真である。
【0040】
(A)本実施形態の被膜ファイバ1(膜20の膜厚3μm、空間層30の幅0.5μm)、(B)比較例1としてセラミックコートした石英ガラスファイバ及び(C)比較例2としてNi/Auめっき(全面付着)した石英ガラスファイバ(めっき厚5μm)を準備する。何れも、直径125μmの石英ガラスファイバを使用した。3種類のファイバを800℃の環境に15時間置き、500倍の顕微鏡で観察した。
【0041】
(A)に示す様に、本実施形態の被膜ファイバ1は、加熱前と加熱後で変化しなかった。(B)に示す様に、比較例1のセラミックコートファイバは、クラックが発生した。(C)に示す様に、Ni/Auめっきファイバは、曲げ部分で破断した。
【0042】
4.被膜ファイバの利用可能性
【0043】
各産業界において、ファイバセンシングは様々な場面で使われており、中には超高熱環境で使用される場面も少なくない。そのような環境で使用される大型設備の歪みや経年変化の察知も当然必要になってくるが、従来のファイバセンシングではある程度の長さのファイバを超耐熱仕様にするコーティング技術が存在せず、設備を取り巻く状態での「面」のセンシングが出来ずに「点」におけるスポット検知しか出来なかった。具体的な例では、飛行機のジェットタービン周りや火力発電所におけるボイラ、自動車のエンジン周りなどがこれにあたる。これらの設備のスポット点検において、歪みやクラックを見逃せば人命に係わる危険な大災害を招きかねない。
【0044】
航空機及び火力発電所等の700℃を超える環境下で、温度や歪等をセンシングするニーズがある。本実施形態によれば、被膜ファイバ1を有し、高温の環境下で使用されるセンサ、即ち、ファイバセンサを実現可能である。測定対象物に本実施形態の被膜ファイバ1を巻き付けることで、軽量化を実現可能であるとともに、熱電対等の様に点状の測定ではなく線状や面状に測定することができるため測定範囲が画期的に増し、精度が向上する。また、測定対象物の温度を常温まで下げる必要が無いため、測定対象物の運転を停止すること無く高温下での常時観測が可能となる。
【0045】
例えば、本実施形態の被膜ファイバ1は、火力発電所のボイラ管の歪センサとして使用可能である。典型的には熱電対が使用されるが、熱電対は点状の測定であり測定範囲が狭く、測定結果を得るのに1日かかり予期せぬ稼働停止を招くおそれがある。火力発電所のボイラ管で発生する蒸気は750℃程度である。被膜ファイバ1は、750℃程度の高温環境でも、熱膨張の影響を受けずに破損せずにセンシングを行うことが可能である。
【0046】
例えば、本実施形態の被膜ファイバ1は、航空機のジェットタービン用温度センサとして使用可能である。航空機のジェットタービンは、800℃以上1000℃以下程度である。被膜ファイバ1は、800℃以上1000℃以下程度の高温環境でも、熱膨張の影響を受けずに破損せずにセンシングを行うことが可能である。具体的には、被膜ファイバ1は、800℃の環境下で15時間(飛行機が地球を半周する時間)設置してもクラックや外観変化が起こらず、曲げた状態で破断が起こらないことが確認されている。最大20mの長さでムラの無いファイバコーティングが可能である。
【0047】
例えば、本実施形態によれば、被膜ファイバ1を有し、高温の環境下で使用されるモニタリング装置を実現可能である。例えば、シェールガス探査で使用されるモニタリング装置において、地熱高温下での水圧破砕モニタリングに耐えるファイバとして被膜ファイバ1を利用可能である。
【0048】
さらに、本実施形態の被膜ファイバ1は、自動車のエンジン周りのセンサとしても使用可能である。被膜ファイバ1は、光通信分野、例えば、LN(ニオブ酸リチウム)変調器等の各種光デバイス、インターネットや全光ネットワーク等の光通信ケーブルとしても利用可能である。これらの各用途又は別の用途において被膜ファイバ1を使用するとき、被膜ファイバ1の保護のため、金属管に被膜ファイバ1を入れて使用してもよい。
【0049】
5.結語
【0050】
典型的に、高温下におけるファイバセンシング分野では、光ファイバがポリイミドコートされる。ポリイミドの耐熱温度は約300~400℃であり、約500℃以上で熱分解、約750℃以上で炭化する。このため、500℃を超える環境下では、大型設備を取り巻く形のファイバセンシングは事実上不可能となる。また、金属めっきコーティングの光ファイバは、750℃まで耐えるとはいうものの、金属とガラスの熱膨張率の差に起因してファイバが折れやすいという難点がある。
【0051】
これに対して、本実施形態の被膜ファイバ1によれば、略球形の粒子21がバインダ22によりバインドされた構造を有する膜20を、ファイバ10に付着させる。これにより、膜20は、バインドされた粒子21及びバインダ22により区画される領域である空隙部23を、内部に有する。また、膜20に含まれる一部の粒子21がファイバ10に点接触するため、ファイバ10と膜20との間に空間層30が形成される。また、粒子21は、金属よりも平均線膨張係数が低い金属酸化物を含む。このため、ファイバ10の平均線膨張係数と、膜20の平均線膨張係数との差が小さい。
【0052】
これにより、本実施形態の被膜ファイバ1によれば、高温環境下においても膜20が膨張し難く、また、ファイバ10の膨張に対して膜20の膨張が比較的小さくて済む。さらに、膜20の粒子21が膨張しても、空間層30及び膜20の内部の空隙部23が、この膜20の膨張を吸収し、膨張した膜20がファイバ10に接触することを防止することができる。その結果、膜20が熱膨張しても、ファイバ10に圧縮応力を印加することを防止でき、ファイバ10の破損を防止できる。これにより、本実施形態の被膜ファイバ1によれば、熱膨張率による歪の影響を避け、800℃程度の高温環境でも、折れ等の破損を生じず、や光学的特性を損なうことなくセンサの役割を果たすことが可能となる。
【0053】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
被膜ファイバ1
ファイバ10
周面11
膜20
粒子21
バインダ22
空隙部23
外周面24
内周面25
空間層30
【要約】
【課題】高温の環境に耐えうる被膜ファイバを提供する。
【解決手段】被膜ファイバは、ファイバと、粒子を含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、前記ファイバと前記膜との間の空間層と、を具備する。センサは、ファイバと、粒子を含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、前記ファイバと前記膜との間の空間層と、を有する被膜ファイバを具備する。モニタリング装置は、ファイバと、粒子を含み、前記ファイバの周面を被膜する膜と、前記ファイバと前記膜との間の空間層と、を有する被膜ファイバを具備する。
【選択図】図1
図1
図2
図3