(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】ガラス・オン・シリコン基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220531BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20220531BHJP
C03C 27/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01L27/12 B
C03C27/02 Z
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2019151978
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小西 繁
(72)【発明者】
【氏名】永田 和寿
(72)【発明者】
【氏名】萬徳 伸康
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188336(JP,A)
【文献】特開2009-194370(JP,A)
【文献】特開2007-201502(JP,A)
【文献】特開2008-205217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 27/12
C03C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン層と無アルカリガラス層とが表面活性化接合されてなるガラス・オン・シリコン基板であって、前記単結晶シリコン層と前記無アルカリガラス層との25~250℃における線膨張係数差が±0.2ppm/℃以内であり、前記無アルカリガラス層に含まれる全アルカリ土類金属成分中のマグネシウムの割合が酸化物換算で10重量%以上であるガラス・オン・シリコン基板。
【請求項2】
前記無アルカリガラス層の厚さが30~100μmである請求項1記載のガラス・オン・シリコン基板。
【請求項3】
シリコン基板とガラス基板とが接合したガラス・オン・シリコン基板の製造方法であって、
単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板との25~250℃における線膨張係数差が±0.2ppm/℃以内である無アルカリガラス基板とを準備する工程であって、前記無アルカリガラス基板が、前記無アルカリガラス基板に含まれる全アルカリ土類金属成分中のマグネシウムの割合が酸化物換算で10重量%以上である工程と、
前記単結晶シリコン基板の張り合わせ面および前記無アルカリガラス基板の張り合わせ面の少なくとも一方の面に表面活性化処理を行う工程と、
前記表面活性化処理を行った後、前記単結晶シリコン基板の張り合わせ面と前記無アルカリガラス基板の張り合わせ面とを向かい合わせて、前記単結晶シリコン基板と前記無アルカリガラス基板を貼り合わせる工程と
を含むガラス・オン・シリコン基板の製造方法。
【請求項4】
前記貼り合わせる工程を行う前の前記単結晶シリコン基板の表面におけるシリコン酸化膜の厚さがゼロまたは1nm以下である請求項3記載のガラス・オン・シリコン基板の製造方法。
【請求項5】
前記貼り合わせる工程を行った後に、前記単結晶シリコン基板と前記無アルカリガラス基板とが貼り合わされたガラス・オン・シリコン基板を、100℃~700℃で熱処理する工程を更に含む請求項3または4記載のガラス・オン・シリコン基板の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理する工程を行った後に、前記ガラス・オン・シリコン基板における前記無アルカリガラス基板の厚さを30~100μmに薄化する工程を更に含む請求項5記載のガラス・オン・シリコン基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス・オン・シリコン基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材料は絶縁体であるため、半導体や導電体に比べ高周波シグナルのロスが小さく、RF-MEMS(Radio Frequency-Micro Electro Mechanical System)などの材料として有望である。従来、加工性の良さから、基板にはシリコン(Si)が用いられ、MEMS用途では一般にSOI(Silicon on Insulator)基板が用いられている。ただし、シリコンは半導体であるため、RFシグナルのロスが大きいという問題がある。SOI基板の絶縁層の厚さは数百nm~1μm程度と薄く、RF用途では基板へのシグナルロスが大きくなる。RFロスを小さくするには、絶縁層の厚さを厚くし、基板にRFシグナルが漏れないようにすることが好ましい。そのためには、絶縁層の厚さを10μm以上、より好ましくは30μm以上とすることが望まれる。通常、SOI基板の絶縁層は、シリコンを熱酸化して表面に熱酸化膜を形成させた後、別途、シリコンを貼り合わせる方法によって作製されているが、熱酸化で上記の厚さの絶縁膜を設けるには、長時間の酸化が必要となる。また、この方法によって絶縁層の厚さを30μm以上に形成することは、事実上困難である。
【0003】
一方で、特許文献1には、所定のドーズ量で水素イオンを注入したシリコン基板と石英基板とを表面活性化処理した後に貼り合わせ、300℃以下の熱処理を行った後に、シリコン薄膜を剥離して石英基板に転写するSOQ(Silicon on Quartz)基板の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、SOG(Semiconductor on Glass)基板およびその製造方法が記載されている。特許文献2には、コーニング社製のEagleガラスは、アルカリ土類イオンを含有するガラスであり、シリコンの熱膨張係数(CTE)に実質的に整合すること、具体的な数値として、Eagleガラスは400℃において3.18×10-6/℃のCTEを有し、シリコンは400℃において3.253810-6/℃のCTEを有することや、Eagleガラスは、666℃の比較的高い歪点を有すること、シリコンなどの半導体層とガラス基板とを陽極接合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-214478号公報
【文献】特表2013-534056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、30μm以上の厚さの絶縁層をシリコン上に形成するために、例えば、特許文献1に記載の方法を応用することを考えたが、シリコン基板上に薄い石英ガラスを形成しようとすると、シリコンと石英との線膨張係数差が大きいため、貼り合わせ後、300℃の熱処理によって、貼り合わせた基板が数mmオーダーで反ってしまう、その後の加工プロセスでウェハの搬送が困難になるという問題が考えられる。また、RF-MEMSを形成するプロセスでは最高700℃の温度がかかり、左記温度の耐熱性が要求されるが、シリコンと石英を貼り合わせた基板を700℃に加熱すると、石英の厚さを30μmまで薄くしても、熱応力による割れが発生し、絶縁層として石英を用いることは困難であると考えられる。
【0007】
上記シリコンとの線膨張係数差および耐熱性を解決する方法として、石英ガラスでなく無アルカリガラスを使用することが考えられる。無アルカリガラスであるコーニング社製のEagleガラスは、特許文献2に記載されているように、シリコンとの線膨張係数差が約0.07ppm/℃と非常に小さいことから、シリコンと貼り合わせた基板の反りは小さくなる。また、歪点も700℃近傍であり、700℃の耐熱性を有する。一方、特許文献2に記載されているシリコンとガラス基板との陽極接合については、陽極接合は、貼り合わせたウェハに高温下で電界をかけ、ガラス中の陽イオンを拡散させることで接合力を得る手法であるが、枚葉式で高温下・長時間保持する手法であるため、表面活性化接合と比べて生産性が劣る問題点がある。
【0008】
本発明者らは、無アルカリガラスとシリコンを表面活性化接合したところ、無アルカリガラスは石英ガラスに比べ密度が高く緻密な構造であるため、表面活性化接合したウェハに対して結合力を上げるための熱処理を行うと、接合界面にボイドが発生するという問題に直面した。接合するシリコンの表面に50nm以上のシリコン酸化膜を設けることで、ボイドの発生を防ぐことが可能であるが、シリコンを熱酸化する等の酸化膜を設けるプロセスを行う必要があり、コスト増となるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、単結晶シリコン基板上に厚い絶縁層を設けるために単結晶シリコン基板に無アルカリガラス基板を接合しても、単結晶シリコン基板に酸化膜を設けることなく接合界面におけるボイドの発生を防ぐことができ、且つ耐熱性があり、反りも小さいガラス・オン・シリコン基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、単結晶シリコン層と無アルカリガラス層とが表面活性化接合されてなるガラス・オン・シリコン基板であって、前記単結晶シリコン層と前記無アルカリガラス層との25~250℃における線膨張係数差は±0.2ppm/℃以内であり、前記無アルカリガラス層に含まれる全アルカリ土類金属成分中のマグネシウムの割合は酸化物換算で10%以上である。
【0011】
本発明に係るガラス・オン・シリコン基板において、前記無アルカリガラス層の厚さは、30~100μmであってよい。
【0012】
また、本発明は、別の態様として、シリコン基板とガラス基板とが接合したガラス・オン・シリコン基板の製造方法であって、(a)単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板との25~250℃における線膨張係数差が±0.2ppm/℃以内である無アルカリガラス基板とを準備する工程であって、前記無アルカリガラス基板が、前記無アルカリガラス基板に含まれる全アルカリ土類金属成分中のマグネシウムの割合が酸化物換算で10%以上である工程と、(b)前記単結晶シリコン基板の張り合わせ面および前記無アルカリガラス基板の張り合わせ面の少なくとも一方の面に表面活性化処理を行う工程と、(c)前記表面活性化処理を行った後、前記単結晶シリコン基板の張り合わせ面と前記無アルカリガラス基板の張り合わせ面とを向かい合わせて、前記単結晶シリコン基板と前記無アルカリガラス基板を貼り合わせる工程とを含む。
【0013】
本発明に係るガラス・オン・シリコン基板の製造方法は、前記貼り合わせる工程を行う前の前記単結晶シリコン基板の表面におけるシリコン酸化膜の厚さはゼロまたは1nm以下であってもよい。
【0014】
本発明に係るガラス・オン・シリコン基板の製造方法は、前記貼り合わせる工程を行った後に、前記単結晶シリコン基板と前記無アルカリガラス基板とが貼り合わされたガラス・オン・シリコン基板を、100℃~700℃で熱処理する工程を更に含んでもよい。
【0015】
本発明に係るガラス・オン・シリコン基板の製造方法は、前記熱処理する工程を行った後に、前記ガラス・オン・シリコン基板における前記無アルカリガラス基板の厚さを30~100μmに薄化する工程を更に含んでもよい。また、薄化する工程の前に、前記ガラス・オン・シリコン基板における前記無アルカリガラス基板をエッジトリミングする工程を更に含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、このような無アルカリガラス基板を用いることで、単結晶シリコン基板の表面に意図的に酸化膜を設けることなく表面活性化接合しても、得られるガラス・オン・シリコン基板の接合界面でのボイド発生を防ぐことができる。よって、貼り合わせ前に単結晶シリコン基板を熱酸化する等の酸化膜を設けるプロセスを必要とせず、且つ表面活性化接合によって、接合後の熱処理がバッチ式のオーブンや炉で行えるため、製造コストを低く抑えることが可能である。また、耐熱性があり、反りも小さいガラス・オン・シリコン基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るガラス・オン・シリコン基板の製造方法の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施の形態について説明するが、本発明の範囲は、この形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施の形態のガラス・オン・シリコン基板の製造方法は、
図1に示すように、単結晶シリコン基板1および無アルカリガラス基板2を準備する工程と、これら単結晶シリコン基板1および無アルカリガラス基板2を表面活性化処理する工程(
図1中の(a)及び(b))と、表面活性化処理した単結晶シリコン基板1と無アルカリガラス基板2を貼り合わせる工程(
図1中の(c))とを含む。
【0020】
また、本実施の形態のガラス・オン・シリコン基板の製造方法は、上記の工程に加えて、
図1に示すように、上記の貼り合わせによって得た接合体4において無アルカリガラス層2aをエッジトリミングする工程(
図1中の(d))や、接合体4において無アルカリガラス層2bを薄化する工程(
図1中の(e))を含んでもよい。更に、
図1には示していないが、接合体4を熱処理する工程を含んでもよい。以下、各工程について詳細に説明する。
【0021】
本実施の形態で用いる単結晶シリコン基板1としては、意図的に表面にシリコン酸化膜(SiO2膜)を有さないものである。意図的とは、熱酸化、化学気相成長(CVD)法または、蒸着やスパッタリングなどの物理気相成長(PVD)法によってSiO2膜を設けていないことである。単結晶シリコン基板1を用いる場合、通常、フッ化水素(HF)などで処理しなければ、自然酸化膜として1nm以下のSiO2膜が表面に形成されているが、本実施の形態では、そのまま用いても、HFで処理して自然酸化膜を除去して用いても構わない。
【0022】
基板のサイズとしては、特に限定されないが、4~12インチサイズのウェハとすることができる。基板の厚さについても、特に限定されないが、汎用的なJEITAまたはSEMIの規格の厚さでよく、具体的には、520~775μmの所定の厚さにすることができる。
【0023】
無アルカリガラス基板2としては、単結晶シリコン基板1との25~250℃における線膨張係数差が±0.2ppm/℃以内のものであって、且つ無アルカリガラス基板2に含まれる全アルカリ土類金属成分中のマグネシウムの割合が酸化物換算で10%以上のものを用いる。なお、「無アルカリ」とは、ガラス基板中に含まれるナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属成分の含有量が、酸化物換算で、1000重量ppm以下をいう。
【0024】
25~250℃における線膨張係数は、JIS R3102:1995に準拠して、25~250℃の温度範囲にわたって示差熱膨張計(TMA)を用いて測定し、平均の線熱膨張係数として算出した値である。温度範囲の上限である250℃は、接合界面の強度が最大値となる温度である。このように単結晶シリコン基板1との線膨張係数差が小さい無アルカリガラス基板2を用いることで、単結晶シリコン基板1と貼り合わせて得られる接合体4(すなわち、ガラス・オン・シリコン基板)の反りを小さくすることができる。このような線膨張係数差の条件を満たす無アルカリガラスとしては、例えば、Corning社製の商品名EagleXG、Eagle2000、#1737や、AGC社製の商品名SWAN310がある。なお、特に限定されないが、単結晶シリコン基板と無アルカリガラス基板の25~250℃における線膨張係数は、いずれも3.1~3.8ppm/℃の範囲内のものが好ましい。
【0025】
また、無アルカリガラス基板2に含まれるアルカリ土類金属成分としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)があり、それぞれ酸化物として存在している。無アルカリガラス基板2に含まれる全アルカリ土類金属成分中のMgの割合を、酸化物換算で、10重量%以上とすることで、単結晶シリコン基板1の貼り合わせ面にSiO2膜を形成するプロセスを行うことなく、単結晶シリコン基板1と貼り合わせても、単結晶シリコン基板1との接合界面にボイドが発生することを抑制することができる。このような全アルカリ土類金属成分中のMgの割合の条件を満たす無アルカリガラスとしては、例えば、AGC社製の商品名SWAN310がある。全アルカリ土類金属成分中のMgの割合は、酸化物換算で、15重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。全アルカリ土類金属成分中のMgの割合の上限は、特に限定されないが、酸化物換算で、30重量%以下が好ましい。
【0026】
なお、無アルカリガラスは、アルカリ土類金属成分の他、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)がそれぞれ酸化物として存在している。無アルカリガラス基板2の組成は、特に限定されないが、例えば、重量%で、SiO2:50~80%、Al2O3:10~30%、B2O3:3~15%、MgO:15~30%、CaO:10~25%、SrO:0~5%、BaO:0~5%とすることが好ましい。
【0027】
更に、無アルカリガラス基板2は、歪点(JIS R3103-02:2001に準拠して測定)が700℃近傍と高く、よって、ガラス・オン・シリコン基板が受ける熱処理の温度が最高でも700℃であることから、耐熱性にも優れている。無アルカリガラス基板2のサイズは、単結晶シリコン基板1と同じでよく、厚さはウェハサイズに対しハンドリング可能な厚さ、例えば、200μm~単結晶シリコン基板1と同程度の厚さでよい。
【0028】
単結晶シリコン基板1の貼り合わせ面1s及び無アルカリガラス基板2の貼り合わせ面2sは、それぞれ鏡面研磨することが好ましい。貼り合わせ面の表面粗さ(Rms)は、0.5nm以下が好ましい。Rmsを0.5nm以下とすることで、両基板を貼り合わせて接合することができる。なお、Rmsは、JIS B 0601:2013に規定される二乗平均平方根粗さをいう。
【0029】
次に、
図1の工程(a)、(b)に示すように、単結晶シリコン基板1の貼り合わせ面1s及び無アルカリガラス基板2の貼り合わせ面2sに、表面活性化処理3を施す。なお、表面活性化処理の前に、両基板の表面に付着した異物を除去するため、純水や薬液を用いて洗浄してもよい。表面活性化処理3としては、貼り合わせ面を活性化できるものであれば特に限定されないが、例えば、プラズマ活性化処理、イオンビーム照射処理、UVオゾン処理、オゾン水処理などが挙げられ、特に、プラズマ処理またはイオンビーム処理が好ましい。表面活性化処理3の雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス、又は酸素、それら単独または組み合わせて使用することができる。
【0030】
そして、
図1の工程(c)に示すように、表面活性化処理をした単結晶シリコン基板1の貼り合わせ面1sと無アルカリガラス基板2の貼り合わせ面2sとを貼り合わせることで、単結晶シリコン層1aと無アルカリガラス層2aとを備える接合体4aが得られる。貼り合わせ時の温度は、室温が好ましい。加熱して貼り合わせてもよいが、室温で貼り合わせした場合と大きな違いは生じない。
【0031】
接合体4aに熱処理を施すことで、接合強度を上げることができる。熱処理温度は100~700℃が好ましく、150~700℃がより好ましく、200~700℃が更に好ましい。熱処理温度が100℃より低いと、結合強度が上がらず、その後、接合体4aの無アルカリガラス層2aを薄化する工程(e)で剥がれる恐れがある。所望の耐熱温度は700℃なので、熱処理温度はそれより高くする必要はない。熱処理は、温度を分けて2段階以上に分けて行ってもよく、例えば、100~300℃の温度で処理し、その後、薄化する工程(e)を実施した後に、さらに高い温度の熱処理を実施してもよい。熱処理時間としては、温度にもある程度依存するが、例えば、1~72時間が好ましい。
【0032】
熱処理後、
図1の工程(d)に示すように、接合体4aの無アルカリガラス層2aをエッジトリミングしてもよい。これは、接合体4aの無アルカリガラス層2aを薄化していくと、エッジチッピングが発生しやすくなることから、これを防ぐためである。エッジトリミングは、無アルカリガラス基板2の外周端から、好ましくは5mmまでの部分について、より好ましくは2mmまでの部分について、無アルカリガラスを除去する。エッジトリミングは、研削や研磨など既知の機械的手段を用いて行うことができる。エッジトリミングは、後述する薄化する工程(e)の前に限定されず、薄化中または薄化後のいずれのタイミングで実施しても良いが、薄化後ではチッピングが発生している場合もあるため、薄化前または薄化中に実施することが好ましい。
【0033】
そして、
図1の工程(e)に示すように、エッジトリミングされた接合体4bの無アルカリガラス層2bの厚さを薄化する。無アルカリガラス層2bの厚さは、ガラス・オン・シリコン基板のよるため特に限定されないが、例えば、30~100μmの厚さまで薄化することが好ましい。薄化する手段としては、研削、研磨などの機械的手段や、液相・気相エッチングなどの化学的手段といった既知の手段を、単独または組み合わせて行ってもよい。
【0034】
このようにして得られた接合体4c(すなわち、ガラス・オン・シリコン基板)は、接合界面でのボイドの発生が抑えられ、700℃の耐熱性があり、且つ反りが小さいという特徴を有する。反りは、例えば、6~8インチサイズのウェハで、100μm以下であることが好ましい。反りが100μm以下であれば、ガラス・オン・シリコン基板を問題なく搬送することができる。そして、このガラス・オン・シリコン基板4cの無アルカリガラス層2cの表面にシリコン層を設けることで、反りが小さく、耐熱性があり、絶縁層が厚いSOI構造を形成することが可能である。
表面活性化接合
【実施例】
【0035】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明に係る複合基板の製造方法について更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
単結晶シリコン基板として、外径8インチ、厚さ725μmのウェハを用いた。無アルカリガラス基板として、AGC社製の商品名SWAN310を用い、外径および厚さを単結晶シリコン基板と同じサイズとした。単結晶シリコン基板と無アルカリガラス基板の25~250℃における線膨張係数は、それぞれ3.5ppm/℃と3.4ppm/℃であり、よって、その差は、0.1ppm/℃であった。両基板の貼り合わせ面をそれぞれ鏡面研磨した。貼り合わせ面の表面粗さRmsは0.2nmであった。
【0037】
そして、単結晶シリコン基板に対し、SC-1洗浄液(NH4OH+H2O2+H2O)に浸漬させ、パーティクル除去および親水化処理を行った。無アルカリガラス基板に対しては、純水超音波洗浄してパーティクル除去を行った。その後、単結晶シリコン基板の貼り合わせ面と、無アルカリガラス基板の貼り合わせ面に、Ar雰囲気下で、ガスクラスターイオンビーム(アルバック社製)を備えたチャンバー内でイオンビーム照射を行い、表面活性化処理を実施した。
【0038】
次に、表面活性化処理した単結晶シリコン基板と無アルカリガラス基板の貼り合わせ面を、貼り合わせ装置を用いて室温下で貼り合わせた。貼り合わせた基板を、150℃で8時間、熱処理して接合体を得た。接合体の単結晶シリコン層と無アルカリガラス層との接合界面にブレードを挿入し、剥がれが生じるか否かを確認したところ、接合面の剥がれは生じず、十分に接合強度があることを確認した。
【0039】
このように得た接合体の無アルカリガラス層に対し、外周端から2mmの部分を東精エンジニアリング社製の面取り機にてエッジトリミングした。
【0040】
更に、接合体の無アルカリガラス層を薄くするため、東京精密社製のグラインダーを用いて研削加工をし、無アルカリガラス層が厚さ35μmとなるまで薄化した。その後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により表面を鏡面化し、無アルカリガラス層の最終的な厚さを30μmとし、ガラス・オン・シリコン基板を得た。
【0041】
このようにして作製したガラス・オン・シリコン基板に対し、大気下700℃、2時間の熱処理をしたところ、ウェハの割れは生じず、700℃の耐熱性があることを確認した。また、接合界面にボイドの発生などは見られなかった。また、ウェハの反りは、熱処理前後で変わらず30μmであり、搬送面で問題ないレベルの反りであることを確認した。
【0042】
[実施例2]
無アルカリガラス層の最終的な厚さを100μmとした点を除いて、実施例1と同様の手順にて、ガラス・オン・シリコン基板を作製した。作製した基板を、大気下700℃、2時間の熱処理を実施したところ、ウェハに割れは生じず、700℃の耐熱性があることを確認した。また、ウェハの反りは、熱処理前後で変わらず40μmであり、搬送面で問題ないレベルの反りであることを確認した。
【0043】
[比較例1]
無アルカリガラス基板として、Corning社製のEAGLE-XGを使用した点を除いて、実施例1と同様の手順にてガラス・オン・シリコン基板を作製しようとした。なお、この無アルカリガラス基板の25~250℃における線膨張係数は、3.1ppm/℃であり、よって、単結晶シリコン基板との差は、0.4ppm/℃であった。この無アルカリガラス基板は、単結晶シリコン基板と問題なく貼り合わせができたが、150℃、8時間の熱処理を実施したところ、接合界面でボイドが発生した。さらに、300℃、8時間の熱処理を実施すると、ボイドの数が増加し、SWAN310の使用時とは異なる挙動であった。
【0044】
[比較例2]
無アルカリガラス基板として、Corning社製のEAGLE-XGを使用した点と、結晶シリコン基板として、100nmの熱酸化膜を設けた単結晶シリコン基板を用いた点を除いて、実施例1と同様の手順にてガラス・オン・シリコン基板を作製した。この組み合わせでは、貼り合わせ後の熱処理でボイドの発生は見られなかった。また、実施例1と同様のエッジトリミンク、研削・研磨を問題なく行うことができ、厚さ30μmの無アルカリガラス層を備えたガラス・オン・シリコン基板を作製することができた。熱処理によって700℃の耐熱性があることが確認でき、また、ウェハの反りも、熱処理前後で変わらず30μmと良好な値であった。
【0045】
比較例2の結果から、単結晶シリコン基板の貼り合わせ面に熱酸化膜を設ければ、いずれの無アルカリガラスも使用することが可能であるが、熱酸化膜を設けない、すなわち熱酸化プロセスを行う等のコストがかからない単結晶シリコン基板を用いると、実施例1および比較例1に示すように大きな差が見られた。それが何に起因するか調べたところ、表1に示すように、無アルカリガラス基板中に含まれるアルカリ土類金属成分の割合に違いがあることがわかった。
【0046】
【0047】
表1に示すように、特に、CaOおよびMgOの濃度に大きな違いが見られた。アルカリ土類金属成分中のMgの割合が、酸化物換算で、10重量%以上の無アルカリガラスを用いることで、貼り合わせる単結晶シリコン基板に熱酸化膜を設けなくても、表面活性化接合においてボイドの発生を抑制できることがわかった。すなわち、MgOの割合が高い無アルカリガラス基板を用いることで、熱酸化プロセスを行うことなく低コストで、反りが小さいガラス・オン・シリコン基板を製造することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 単結晶シリコン基板
2 無アルカリガラス基板
3 表面活性化処理
4 接合体(ガラス・オン・シリコン基板)