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  • 特許-シールエンハンサー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】シールエンハンサー
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220610BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220610BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220610BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20220610BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12M1/00 A
C12Q1/02
G01N27/04 Z
G01N33/50 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019529523
(86)(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2017081388
(87)【国際公開番号】W WO2018100206
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】PA201670957
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】62/449,278
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502113563
【氏名又は名称】ソフィオン・バイオサイエンス・アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ラース・ダムゴー・ロイクナー
(72)【発明者】
【氏名】アナス・リンドクヴィスト
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ラファエル・サウター
(72)【発明者】
【氏名】カドラ・レスクヴァ・ロショルム
【審査官】名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-520540(JP,A)
【文献】特表2016-510210(JP,A)
【文献】特表2016-518853(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0087327(US,A1)
【文献】特表2011-501657(JP,A)
【文献】特開2013-146261(JP,A)
【文献】特表2010-532748(JP,A)
【文献】特表平10-509794(JP,A)
【文献】Avi Priel, et al,Ionic Requirements for Membrane-Glass Adhesion and Giga Seal Formation in Patch-Clamp Recording,Biophysical Journal,2007年,Vol.92,p.3893-3900
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッチクランプ装置(102)、内部溶液(124)および外部溶液(122)を含むパッチクランプシステムであって、
内部溶液(124)は、リン酸(PO4 3-)イオン、硫酸(SO4 2-)イオンおよびフッ化物(F-)イオンより選択される1つ以上のアニオンを含み、外部溶液(122)は、Ca2+、Sr2+、Ba2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンを含み;
外部溶液(122)中のCa2+、Sr2+およびBa2+金属イオンの濃度は、1~20mmol/L(両端を含む)であり;
内部溶液(124)は、カルシウム(Ca 2+ )イオンをさらに含み;
内部溶液(124)は、5mmol/L未満のフッ化物(F - )イオンの濃度を有する
パッチクランプシステム。
【請求項2】
内部溶液(124)中のアニオンの濃度が、20~200mmol/L(両端を含む)である、請求項1に記載のパッチクランプシステム。
【請求項3】
金属イオンが、Ba2+またはSr2+である、請求項1または2に記載のパッチクランプシステム。
【請求項4】
アニオンが、硫酸(SO4 2-)イオンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のパッチクランプシステム。
【請求項5】
金属イオンの濃度が、4~17mmol/L(両端を含む)である、請求項1~4のいずれか一項に記載のパッチクランプシステム。
【請求項6】
内部溶液(124)が、1mmol/L未満のフッ化物(F-)イオンの濃度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のパッチクランプシステム。
【請求項7】
リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオンの、Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンと組み合わせた、パッチクランプシステムにおけるシールエンハンサーとしての使用であって、アニオンは、内部溶液(124)に存在し、金属イオンは、パッチクランプシステムの外部溶液(122)に存在し、外部溶液中のCa2+、Sr2+およびBa2+金属イオンの濃度は、1~20mmol/L(両端を含む)であり、内部溶液(124)は、カルシウム(Ca 2+ )イオンをさらに含み、内部溶液(124)は、5mmol/L未満のフッ化物(F - )イオンの濃度を有する、使用。
【請求項8】
パッチクランプシステムにおいてギガシールを提供するための方法であって、パッチクランプシステムは、パッチクランプ装置(102)、内部溶液(124)および外部溶液(122)を含み、該方法が、下記工程:
a. リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオンの溶液を内部溶液(124)へ導入し、ここで、内部溶液(124)は、カルシウム(Ca 2+ )イオンをさらに含み、内部溶液(124)は、5mmol/L未満のフッ化物(F - )イオンの濃度を有する工程;
b. 細胞の溶液を外部溶液(122)へ導入し、細胞をパッチクランプ装置内で捕捉する工程;
c. Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンの溶液を外部溶液(122)へ導入し、ここで外部溶液(122)中の金属イオンの濃度は、1~20mmol/L(両端を含む)である工程
を含み、
工程aおよびbは、任意の順序で実施され得る、方法。
【請求項9】
工程bの前に、工程aが実施される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程cの後に、パッチクランプ装置(102)において細胞のパッチクランプ測定を実施する工程をさらに含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
内部溶液(124)中のアニオンの濃度が、20~200mmol/L(両端を含む)である、請求項810のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
金属イオンが、Ba2+である、請求項811のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
外部溶液(122)中の金属イオンの濃度は、4~17mmol/L(両端を含む)である、請求項812のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)の後に、1つ以上の金属イオンを外部溶液(122)から流し出す工程をさらに含む、請求項813のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
細胞が、CHOまたはHEK293細胞より選択される、請求項814のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パッチクランプ法または装置においてパッチクランプシールを改善するためのシールエンハンサーを提供する。
【背景技術】
【0002】
平面パッチクランプ実験における重要な工程は、シール形成、すなわち細胞膜と平面パッチクランプチップの基板との間に強固な結合を形成することである。このシールは、イオンなどの電荷担体に対する障壁をもたらし、それ故に良好なシールは、高シール抵抗として測定され得る。この結合を生じる正確なメカニズムは、完全には理解されていないままであるが、細胞と基板との間の小さな隙間が、塩の沈殿により閉じられる(シールされる)ことができることが知られている。この効果を利用するために、内部および外部溶液中にこの塩の両方の成分(すなわちアニオンおよびカチオン)を分離させることが重要である;そうでなければ、塩は、細胞が適用される前に既に沈殿し始め、これは、溶液のイオン強度の変化をもたらす。溶液の溶解度は、溶解度積Kspで定義される。Kspが小さいほど、自由に利用できるイオンが少なく、固形塩として多く存在する。Rは、歴史的には、内部溶液にフッ化物および外部にCa2+を用いて向上した。CaF2は、3.58 x 10-11のKsp(McCann, 1968)を有し、これによりCaF2は、内部と外部溶液間の境界面で沈殿し、これによりシール形成を促進する(Vargas, Yeh, Blumenthal, & Lucero, 1999)。しかしながら、内部溶液中および外部溶液中にCa2+を必要とする特定の適用(例えばCa2+活性化K+およびCl-チャネル)があり、これらの溶液におけるF-の使用は、低Kspのため実現可能でない。
【0003】
典型的に、外部溶液中の金属イオンの濃度は、50~100mMの範囲である。EP1775586参照。しかしながら、金属イオン濃度も、おそらく、イオンチャネル機能に有害な影響を及し、不正確な反応および薬物標的反応の不正確さをもたらし得る。
【0004】
内部または外部溶液の他の成分と適合する、パッチクランプシステムのためのシールエンハンサーが必要とされている。特定の状況において、F-イオンの含有量は、減少させるか、または排除さえされる。
【発明の概要】
【0005】
パッチクランプシステムを提供する。パッチクランプシステムは、パッチクランプ装置、内部溶液および外部溶液を含む。内部溶液は、リン酸(PO4 3-)イオン、硫酸(SO4 2-)イオンおよびフッ化物(F-)イオンより選択される1つ以上のアニオンを含み、外部溶液は、Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンを含む。外部溶液中の該金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである。
【0006】
リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオンの、Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンと組み合わせたパッチクランプシステムにおけるシールエンハンサーとしての使用であって、アニオンは、内部溶液に存在し、金属イオンは、パッチクランプシステムの外部溶液に存在する、使用を提供する。外部溶液中の該金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである。
【0007】
パッチクランプシステムにおいてギガシールを提供するための方法であって、パッチクランプシステムは、パッチクランプ装置、内部溶液および外部溶液を含む、方法もまた提供する。方法は、下記工程:
a. リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオンの溶液を内部溶液へ導入する工程;
b. 細胞の溶液を外部溶液へ導入し、細胞をパッチクランプ装置内で捕捉する工程;
c. Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンの溶液を外部溶液へ導入し、ここで外部溶液中の該金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである工程
を含み、
工程aおよびbは、任意の順序で実施され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ギガシールを形成するためにチップ102にシールされた細胞120のパッチクランプ分析における使用のためのパッチクランプ装置102の概略図を示す。装置102は、装置の一の側の外部溶液122をその反対側の内部溶液124から分離する。細胞の直径は、約5~20μm、例えば約10μmである。穴108は、装置102において形成され、これによって吸引が、穴108上の所定の位置に細胞120を固定するのに適用され得る。電極(図示していない)は、細胞を横切り、穴108を通る、電気抵抗、イオンの流れまたは電位差を決定するために装置の両側に提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「外部溶液」という表現は「細胞外生理溶液」を指し、外部は細胞の外側を意味する。
【0010】
「内部溶液」という表現は「細胞内生理溶液」を指し、内部は細胞の内側か、または細胞の内側との電気的および流体的接触を提供することが意図される溶液を意味する。
【0011】
第1態様において、図1に概略的に示すようにパッチクランプシステムを提供する。パッチクランプシステムは、パッチクランプ装置102、内部溶液124および外部溶液122を含む。
【0012】
パッチクランプシステムは、イオンチャネル含有構造、例えば細胞膜を通る電流フローを、高いスループットおよび信頼性で、細胞または細胞膜が受ける影響に関して現実的な条件下決定または監視するのに有用であり得る。したがって、例えば様々な試験化合物で細胞膜に影響を及ぼす結果としてのイオンチャネル活性の変化などの決定された結果は、測定システムにより導入されるアーチファクトではなく適切な影響の真の明示として信頼され得て、所与の条件下で細胞膜の導電率または静電容量に関して電気生理学的現象を研究するための有効な基礎として用いられ得る。
【0013】
1つ以上のイオンチャネルを通る電流は、測定電極および参照電極の両方として、以下に特徴付けられるような可逆電極、典型的には銀/ハロゲン化銀電極、例えば塩化銀電極を用いて直接測定される。
【0014】
パッチクランプ装置は、単一の担体上に複数のチップのアレイを含み得る。それは、細胞膜が、細胞膜を通る電流フローを決定および監視することを可能にする、測定電極の周囲に高抵抗性シールを形成する電気生理学的測定配置を確立することにより、イオンチャネル含有構造、典型的には脂質膜含有構造、例えば細胞におけるイオンチャネルの電気生理学的特性を決定および/または監視するための方法において用いられ得る。例えば、パッチクランプシステムは、グリコカリックスを含む細胞膜の電気生理学的特性を分析するための方法において有用である。パッチクランプシステムは、生物膜におけるイオン移動チャネルを研究するために利用されるパッチクランプ技術を実施するための装置などの、細胞膜における電気的事象を研究するための装置の一部において用いられてもよく、またはそれを形成してもよい。
【0015】
内部溶液は、リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオン、好ましくは硫酸(SO4 2-)イオンを含む。内部溶液中のアニオン、例えば硫酸(SO4 2-)イオンの濃度は、20~200mmol/L、適切には45~175mmol/L、より適切には50~150mmol/L、さらにより適切には75~125mmol/L(両端を含む)、最も適切には約100mmol/Lである。
【0016】
我々の知る限り、SO4 2-は、いずれのイオンチャネルまたは関連する上流経路を阻害しない。
【0017】
ほとんどの硫酸塩は、生理学条件下で水に極めて溶けやすい。これは、比較的広いスペクトルのアニオンを内部溶液へ組み込むことを可能にする。典型的に、硫酸イオンは、Mg2+、Ca2+、K+またはNa+塩、好ましくはK+またはNa+塩の形態で内部溶液中提供される。
【0018】
沈殿が必要とされる前に硫酸塩が内部溶液中で沈殿しないために、内部溶液は、適切には、硫酸塩の沈殿を引き起こし得るイオンを実質的に含まない。内部溶液は、好ましくはBa2+、Fe3+またはBe2+イオンを実質的に含まず、好ましくはBa2+、Fe3+またはBe2+イオンを完全に含まない。
【0019】
外部溶液は、Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンを含む。適切には、金属イオンは、Ba2+である。
【0020】
外部溶液中の金属イオンの濃度は、1~20mmol/L、適切には4~17mmol/L、より適切には5~15mmol/L、さらにより適切には7.5~12.5mmol/L(両端を含む)、最も適切には約10mmol/Lである。Ba2+は、数μMから低mMの範囲でいくつかのK+チャネルを阻害することが知られている(Wulff & Zhorov, 2008)。しかしながら、我々の知る限り、Ba2+は、Cl-チャネルのいずれに対しても何ら影響を有しない。シールが形成されると、高Ba2+溶液は、再び洗い流され、高シールはさらにいくらかの時間持続する。したがって、本明細書に記載のシールエンハンサーはまた、Ba2+が阻害剤として機能するパッチクランプ用途(例えば、内向き整流K+チャネル)に有用である。
【0021】
沈殿が必要とされる前に外部溶液中で金属塩が沈殿しないために、外部溶液は、適切には、金属イオン沈殿を引き起こし得るイオンを実質的に含まない。外部溶液は、好ましくは、硫酸イオンを実質的に含まず、好ましくは、硫酸イオンを完全に含まない。1つ以上の金属イオンは、適切には、Cl-塩の形態で加えられる。適切には、外部溶液中のすべてのカチオンは、Cl-である。
【0022】
特に、内部溶液は、5mmol/L未満、適切には1mmol/L未満、より好ましくは0であるフッ化物(F-)イオンの濃度を有し得る。したがって、フッ化物イオンは、減少させてもよく、および/または排除されてもよい。
【0023】
理論に拘束されるものではないが、本明細書に記載のパッチクランプシステムおよび方法において、BaSO4などの塩が内部と外部溶液との間の境界において沈殿し、これにより細胞とパッチホールとの間の隙間を閉じると仮定される。
【0024】
BaSO4は、Ksp = 1.1 x 10-10の溶解度定数を有し、最も重要なことに、CaSO4のKspは、4.93 x 10-5であり、これは、SO4 2-をCa2+の存在下で加える場合、CaSO4は内部溶液から沈殿する傾向が極めて低いことを意味する。したがって、内部溶液および/または外部溶液は、カルシウム(Ca2+)イオンをさらに含み得る。
【0025】
第2態様において、リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオンの、Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンと組み合わせた、パッチクランプシステムにおけるシールエンハンサーとしての使用を提供する。特に、硫酸(SO4 2-)イオンの、Ba2+より選択される金属イオンと組み合わせた、パッチクランプシステムにおけるシールエンハンサーとしての使用を提供する。アニオンは、内部溶液に存在し、金属イオンは、パッチクランプシステムの外部溶液に存在する。上記と同様に、外部溶液中の該金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである。
【0026】
上記第1態様の詳細はすべて、この第2態様にも該当する。
【0027】
第3態様において、パッチクランプシステムにおいてギガシールを提供するための方法であって、パッチクランプシステムは、パッチクランプ装置、内部溶液および外部溶液を含む、方法を提供する。方法は、下記工程:
a. リン酸(PO4 3-)、硫酸(SO4 2-)およびフッ化物(F-)アニオンより選択される1つ以上のアニオンの溶液を内部溶液へ導入する工程;
b. 細胞の溶液を外部溶液へ導入し、細胞をパッチクランプ装置内で捕捉する工程;
c. Ca2+、Sr2+およびBa2+またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンの溶液を外部溶液へ導入する工程
を含み;
ここで、外部溶液中のCa2+、Sr2+およびBa2+金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである。
【0028】
特定の場合において、方法は、下記工程:
a. 硫酸(SO4 2-)イオンの溶液を内部溶液へ導入する工程;
b. 細胞の溶液を外部溶液へ導入し、細胞をパッチクランプ装置内で捕捉する工程;
c. Ba2+金属イオンの溶液を外部溶液へ導入し、ここで外部溶液中のBa2+金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである工程
を含む。
【0029】
この用法において、工程aおよびbは、任意の順序で実施され得る;すなわち、硫酸溶液が外部溶液中に導入される前に、細胞の溶液は、外部溶液へ導入され、パッチクランプ装置内で捕捉され得る。しかしながら、工程bの前に、工程aが実施されることが好ましい。
【0030】
方法は、(d)パッチクランプ装置において細胞のパッチクランプ測定を実施する工程をさらに含む。
【0031】
第1態様と同様に、内部溶液中のアニオン、特に硫酸(SO4 2-)アニオンの濃度は、20~200mmol/L、適切には45~175mmol/L、より適切には50~150mmol/L(両端を含む)である。
【0032】
金属イオンは、適切にはBa2+である。外部溶液中の金属イオンの濃度は、適切には4~17mmol/L、より適切には5~15mmol/L(両端を含む)である。
【0033】
方法において用いるための細胞は、CHOまたはHEK293より選択され得る。
【0034】
上記第1および第2態様の詳細はすべて、この第3態様にも該当する。特に、SO4 2-は、Ca2+と比較高い溶解度を有する。CaSO4の溶解度積(Ksp)は、4.93 x 10-5である。本技術は、Ca2+が実験の全過程にわたって正確な内部濃度を有するべき用途に有用である。したがって、第3態様の方法において、内部溶液および/または外部溶液は、カルシウム(Ca2+)イオンをさらに含み得る。
【実施例
【0035】
実施例1:Qube実験におけるシールエンハンサーとしてのイオン対の試験
目的:Qubeにおけるシールエンハンサーとして3つのイオン対(BaSO4、SrF2、Ca3(PO4)2)を試験する。
【0036】
実験
細胞株:Nav1.4チャネルを発現するTE671
試験イオン対:CaF2(基準)、SrF2、BaSO4、Ca3(PO4)2
抽出パラメーター:細胞抵抗[MΩ]、Nav1.4電流Iピーク[pA]
【0037】
結果
細胞外(EC)溶液中のカチオンを、細胞添加および配置中に低濃度(2mM)で、そしてシールおよび電流測定前に高濃度(10mM)で適用した。
【0038】
プライミングを2mmol/Lの金属イオン濃度で実施した。その後、下記カチオンおよびアニオン濃度を用いた:
【表1】

【0039】
得られた測定抵抗(一般的にRと理解される)およびNav1.4電流(Iピーク)を示す:
【表2】

【0040】
結論
試験した3つのイオン対のうち、得られたシールおよび電流レベルは、SrF2が最良であり、これはCaF2と同様の特性を示した。3つのイオン対のシールおよび電流レベルは、SrF2>BaSO4>Ca3(PO4)2の順に減少した。十分なシールおよび電流レベルを、低濃度のシールエンハンサー金属イオンを用いて達成し得ることが分かる。
【0041】
実施例2:金属イオン濃度変化の影響の研究
様々な内部および外部溶液を研究した実施例1に基づいて、外部溶液中の問題の金属イオン(Ca2+、Sr2+またはBa2+)の濃度を注意深く制御した。BaSO4がアニオンおよびカチオン濃度の関数としておよびフッ化物ベースの溶液の代替として特徴付けられる更なる研究を実施した。
【0042】
内部溶液のオスモル濃度をKClで350mOsmに調節する。内部溶液のpHをKOHでpH7.0に調節する。
【0043】
試験手順
設定:すべての実験を、Qube384、シングルホールQChipsを用いる自動化パッチクランプシステム(-Sophion A/S、Ballerup Denmark)を実施した。
【0044】
細胞:
1. hERGイオンチャネルを安定的に発現するCHO細胞
2. hTMEM16Aイオンチャネルを安定的に発現するHEK293細胞
【0045】
一般的方法:
内部溶液(様々な硫酸濃度)をQube装置の内側へ供給する。その後、特定した細胞を含むプライミング溶液を、Qube装置の外側へ供給し、細胞を捕捉する。その後、外部溶液(様々なBa2+濃度)を装置の外側へ供給する。
【0046】
600msにV = -80mVから-110mVまでの電位パルス列を用いて、Ba2+を外側へ供給している間に、シール抵抗(GΩで測定)を決定する。
【0047】
各細胞型について、4つすべての硫酸濃度を4つすべてのバリウムイオン濃度に対して試験し、4 x 4マトリックスの結果を得た。
【0048】
表3:CHO-hERG細胞において測定した5つ個々の実験(QChips)からのRの概要。ANOVA検定を用いて統計的有意差を評価した。*は、次に低いバリウム濃度に対する有意差を示し、#は、次に低い硫酸濃度に対する有意差を示す。*または#は、p<0.05を示し;**または##は、p<0.01を示し;***または###は、p<0.001を示す。*
【表3】

【0049】
表4:HEK-hTMEM16A細胞において測定した1つの実験(QChips)からのRの概要。
ANOVA検定を用いて統計的有意差を評価した。*は、次に低いバリウム濃度に対する有意差を示し、#は、次に低い硫酸濃度に対する有意差を示す。*または#は、p<0.05を示し;**または##は、p<0.01を示し;***または###は、p<0.001を示す。*
【表4】

【0050】
BaSO4を、自動化パッチクランプ実験においてシールエンハンサーとして用いることができるという強力な証拠をデータは提供する。異なる生物体(チャイニーズハムスター(CHO)およびヒト(HEK293))を起源とする異なる宿主細胞株からの結果が同じ結果を示したため、この効果は普遍的であると考えられる。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1]
パッチクランプ装置、内部溶液および外部溶液を含むパッチクランプシステムであって、
内部溶液は、リン酸(PO 4 3- )イオン、硫酸(SO 4 2- )イオンおよびフッ化物(F - )イオンより選択される1つ以上のアニオンを含み、外部溶液は、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Ba 2+ またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンを含み;
外部溶液中のCa 2+ 、Sr 2+ およびBa 2+ 金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである、
パッチクランプシステム。
[2]
内部溶液中のアニオン、特に硫酸(SO 4 2- )イオンの濃度が、20~200mmol/L、適切には45~175mmol/L、より適切には50~150mmol/L、さらにより適切には75~125mmol/L(両端を含む)、最も適切には約100mmol/Lである、[1]に記載のパッチクランプシステム。
[3]
金属イオンが、Ba 2+ 、Sr 2+ 、好ましくはBa 2+ である、[1]~[2]のいずれかに記載のパッチクランプシステム。
[4]
アニオンが、硫酸(SO 4 2- )イオンである、[1]~[3]のいずれかに記載のパッチクランプシステム。
[5]
金属イオンの濃度が、4~17mmol/L、より適切には5~15mmol/L、さらにより適切には7.5~12.5mmol/L(両端を含む)、最も適切には約10mmol/Lである、[1]~[4]のいずれかに記載のパッチクランプシステム。
[6]
内部溶液および/または外部溶液が、カルシウム(Ca 2+ )イオンをさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載のパッチクランプシステム。
[7]
内部溶液が、5mmol/L未満、適切には1mmol/L未満、より好ましくは0であるフッ化物(F - )イオンの濃度を有する、[1]~[6]のいずれかに記載のパッチクランプシステム。
[8]
リン酸(PO 4 3- )、硫酸(SO 4 2- )およびフッ化物(F - )アニオンより選択される1つ以上のアニオンの、Ca 2+ 、Sr 2+ およびBa 2+ またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンと組み合わせた、パッチクランプシステムにおけるシールエンハンサーとしての使用であって、アニオンは、内部溶液に存在し、金属イオンは、パッチクランプシステムの外部溶液に存在し、外部溶液中のCa 2+ 、Sr 2+ およびBa 2+ 金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである、使用。
[9]
パッチクランプシステムにおいてギガシールを提供するための方法であって、パッチクランプシステムは、パッチクランプ装置、内部溶液および外部溶液を含み、該方法が、下記工程:
a. リン酸(PO 4 3- )、硫酸(SO 4 2- )およびフッ化物(F - )アニオンより選択される1つ以上のアニオンの溶液を内部溶液へ導入する工程;
b. 細胞の溶液を外部溶液へ導入し、細胞をパッチクランプ装置内で捕捉する工程;
c. Ca 2+ 、Sr 2+ およびBa 2+ またはその組合せより選択される1つ以上の金属イオンの溶液を外部溶液へ導入し、ここで外部溶液中の金属イオンの濃度は、1~20mmol/Lである工程
を含み、
工程aおよびbは、任意の順序で実施され得る、方法。
[10]
工程bの前に、工程aが実施される[9]に記載の方法。
[11]
工程cの後に、パッチクランプ装置において細胞のパッチクランプ測定を実施する工程をさらに含む、[9]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
内部溶液中のアニオン、特に硫酸(SO 4 2- )イオンの濃度は、20~200mmol/L、適切には45~175mmol/L、より適切には50~150mmol/L(両端を含む)である、[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
金属イオンが、Ba 2+ である、[9]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]
外部溶液中の金属イオンの濃度は、4~17mmol/L、より適切には5~15mmol/L(両端を含む)である、[9]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]
工程(c)の後に、1つ以上の金属イオンを外部溶液から流し出す工程をさらに含む、[9]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]
細胞が、CHOまたはHEK293細胞より選択される、[9]~[15]のいずれかに記載の方法。

図1