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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
A63B37/00 132
A63B37/00 144
A63B37/00 210
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017245691
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019111005
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐嶌 隆弘
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-146403(JP,A)
【文献】特開2002-369896(JP,A)
【文献】特開2015-142600(JP,A)
【文献】特表2005-537034(JP,A)
【文献】特開2011-072776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のディンプルと、ランドとを備えたゴルフボールであって、
上記ディンプル及び/又は上記ランドの表面に形成された多数の微小突起をさらに備えており、
上記ディンプルの平均深さFavと上記微小突起の平均高さHavとが、下記数式(1)を満たし、
全てのディンプルの面積の合計の上記ゴルフボールの仮想球の表面積に対する比率M(%)と、ある微小突起とこの微小突起に隣接する他の微小突起との間のピッチPの平均値Pav(μm)とが、下記数式(2)を満たすゴルフボール。
Hav / Fav ≧0.050 (1)
M / Pav > 0.3 (2)
【請求項2】
複数のディンプルと、ランドとを備えたゴルフボールであって、
上記ディンプル及び/又は上記ランドの表面に形成された多数の微小突起をさらに備えており、
上記ディンプルの平均深さFavと上記微小突起の平均高さHavとが、下記数式(1)を満たし、
ある微小突起とこの微小突起に隣接する他の微小突起との間のピッチPの平均値Pavが、200μm以下であるゴルフボール。
Hav / Fav ≧0.050 (1)
【請求項3】
複数の列を有しており、それぞれの列において複数の上記微小突起が等ピッチで並んでいる請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
本体とこの本体の外側に位置するペイント層とを有しており、
それぞれの微小突起が上記本体の表面形状が反映された形状を有する請求項1から3のいずれかに記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、その表面にディンプルを有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールは、その表面に多数のディンプルを備えている。ディンプルは、飛行時のゴルフボール周りの空気の流れを乱し、乱流剥離を起こさせる。この現象は、「乱流化」と称される。乱流化によって空気のゴルフボールからの剥離点が後方にシフトし、抗力が低減される。乱流化によってバックスピンに起因するゴルフボールの上側剥離点と下側剥離点とのズレが助長され、ゴルフボールに作用する揚力が高められる。抗力の低減及び揚力の向上は、「ディンプル効果」と称される。優れたディンプルは、よりよく空気の流れを乱す。優れたディンプルは、大きな飛距離を生む。
【0003】
ゴルフボールの飛距離は、キャリーとランとのトータルである。キャリーは、発射地点から落下地点までの距離である。ランは、落下地点から静止地点までの距離である。ショートアイアンでのショットでは、大きなキャリーと小さなランとが望まれている。なぜならば、ショートアイアンでのショットでは、ゴルフプレーヤーは、ゴルフボールを目的地点に静止させるを重視するからである。一方、ドライバーショットでは、大きなキャリーと大きなランとが望まれている。なぜならば、ドライバーショットでは、ゴルフプレーヤーは、ゴルフボールをなるべくピンに近づけたいからである。
【0004】
ディンプルの深さは、ゴルフボールの空力特性に影響を与える。深いディンプルは、ゴルフボールに働く揚力を抑制する。深いディンプルを有するゴルフボールの弾道は、低い。従ってこのゴルフボールでは、大きなランが得られる。しかし、このゴルフボールのキャリーは、十分ではない。このゴルフボールの飛距離(トータル)には、改善の余地がある。
【0005】
特開2015-142599公報には、粗さが大きな表面を有するゴルフボールが開示されている。この粗さは、ブラスト処理等によって形成されうる。この粗さは、ディンプルとの相乗効果により、ゴルフボールの空力特性を高める。
【0006】
特開2011-72776公報には、粒子を含む塗料によって形成されたコーティングを有するゴルフボールが開示されている。この粒子は、ディンプルとの相乗効果により、ゴルフボールの空力特性を高める。
【0007】
特開平2-68077号公報には、その底部に1つの凸部を有するディンプルを備えたゴルフボールが開示されている。この凸部を有するディンプルは、ゴルフボールの空力特性を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-142599公報
【文献】特開2011-72776公報
【文献】特開平2-68077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ゴルフボールに対するゴルフプレーヤーの最大の関心事は、飛距離である。ゴルフプレーヤーは、飛行性能に優れたゴルフボールを求めている。ゴルフプレーヤーは特に、ドライバーショットでの大きな飛距離(トータル)を望んでいる。
【0010】
本発明の目的は、ドライバーショットでの飛行性能に優れたゴルフボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るゴルフボールは、複数のディンプルと、ランドとを有する。このゴルフボールはさらに、ディンプル又はランドの表面に形成された多数の微小突起を有する。ディンプルの平均深さFavと微小突起の平均高さHavとは、下記数式(1)を満たす。
Hav /Fav ≧ 0.050 (1)
【0012】
好ましくは、全てのディンプルの面積の合計のゴルフボールの仮想球の表面積に対する比率M(%)と、ある微小突起とこの微小突起に隣接する他の微小突起との間のピッチPの平均値Pav(μm)とは、下記数式(2)を満たす。
M/ Pav >0.3 (2)
【0013】
好ましくは、ある微小突起とこの微小突起に隣接する他の微小突起との間の、ピッチPの平均値Pavと距離Lの平均値Lavとは、下記数式(3)を満たす。
Lav /Pav < 0.9 (3)
【0014】
好ましくは、ある微小突起とこの微小突起に隣接する他の微小突起との間のピッチPの平均値Pavは、200μm以下である。
【0015】
ゴルフボールが、微小突起の複数の列を有してもよい。好ましくは、それぞれの列において、複数の微小突起が等ピッチで並ぶ。
【0016】
ゴルフボールが、本体とこの本体の外側に位置するペイント層とを有してもよい。好ましくは、それぞれの微小突起は、本体の表面形状が反映された形状を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るゴルフボールでは、微小突起が飛行中のゴルフボールの揚力を抑制する。このゴルフボールの弾道は、高すぎない。従ってこのゴルフボールでは、大きなランが得られる。微小突起は、飛行中のゴルフボールの抗力も抑制する。従ってこのゴルフボールでは、従来のゴルフボールに比べ、キャリーの大幅な低下がない。このゴルフボールでは、大きなトータル飛距離が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された断面図である。
図2図2は、図1のゴルフボールが示された拡大正面図である。
図3図3は、図2のゴルフボールが示された平面図である。
図4図4は、図1のゴルフボールの一部が示された拡大断面図である。
図5図5は、図1のゴルフボールの表面の一部が示された拡大斜視図である。
図6図6は、図1のゴルフボールの一部が示された拡大断面図である。
図7図7は、図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図8図8は、本発明の実施例14に係るゴルフボールが示された正面図である。
図9図9は、図8のゴルフボールが示された平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1に示されたゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4の外側に位置する中間層6と、この中間層6の外側に位置するカバー8とを備えている。コア4、中間層6及びカバー8は、ゴルフボール2の本体10に含まれる。このゴルフボール2は、その表面に多数のディンプル12を有している。ゴルフボール2の表面のうちディンプル12以外の部分は、ランド14である。図1には示されていないが、このゴルフボール2はさらに、後述されるペイント層を有している。ペイント層は、本体10の外側に位置している。本体10が、ワンピース構造、ツーピース構造、フォーピース構造、ファイブピース構造等を有してもよい。
【0021】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。本実施形態に係るゴルフボール2では、その直径は、42.7mmである。
【0022】
このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0023】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることによって形成されている。ゴム組成物の基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。2種以上のゴムが併用されてもよい。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましく、特にハイシスポリブタジエンが好ましい。
【0024】
コア4のゴム組成物は、共架橋剤を含んでいる。反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムである。ゴム組成物が、共架橋剤と共に有機過酸化物を含むことが好ましい。好ましい有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルパーオキサイドが挙げられる。
【0025】
コア4のゴム組成物が、充填剤、硫黄、加硫促進剤、硫黄化合物、老化防止剤、着色剤、可塑剤及び分散剤のような添加剤を含んでもよい。ゴム組成物が、カルボン酸又はカルボン酸塩を含んでもよい。ゴム組成物が、合成樹脂粉末又は架橋されたゴム粉末を含んでもよい。
【0026】
コア4の直径は30.0mm以上が好ましく、38.0mm以上が特に好ましい。コア4の直径は42.0mm以下が好ましく、41.5mm以下が特に好ましい。コア4が、2以上の層を有してもよい。コア4が、その表面にリブを有してもよい。コア4が中空であってもよい。
【0027】
中間層6は、樹脂組成物からなる。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。好ましいアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。この二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα-オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β-不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。この二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジウムイオンが例示される。
【0028】
アイオノマー樹脂に代えて、又はアイオノマー樹脂と共に、中間層6の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリウレタンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0029】
中間層6の樹脂組成物が、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含んでもよい。比重調整の目的で、この樹脂組成物がタングステン、モリブデン等の高比重金属の粉末を含んでもよい。
【0030】
中間層6の厚みは0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。中間層6の厚みは2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。中間層6の比重は0.90以上が好ましく、0.95以上が特に好ましい。中間層6の比重は1.10以下が好ましく、1.05以下が特に好ましい。中間層6が、2以上の層を有してもよい。
【0031】
カバー8は、熱可塑性樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材ポリマーとして、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。特に、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。アイオノマー樹脂を含むカバー8を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。このゴルフボール2は、ドライバーショットでの飛距離に優れる。中間層6に関して前述されたアイオノマー樹脂が、カバー8に用いられうる。
【0032】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材ポリマーの主成分とされる。全基材ポリマーに対するアイオノマー樹脂の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。
【0033】
カバー8の樹脂組成物が、着色剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を適量含んでもよい。ゴルフボール2の色相が白である場合、典型的な着色剤は二酸化チタンである。
【0034】
カバー8の厚みは0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。カバー8の厚みは2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。カバー8の比重は0.90以上が好ましく、0.95以上が特に好ましい。カバー8の比重は1.10以下が好ましく、1.05以下が特に好ましい。カバー8が、2以上の層を有してもよい。
【0035】
図2図1のゴルフボール2が示された拡大正面図であり、図3はその平面図である。前述の取り、このゴルフボール2は、その表面に多数のディンプル12を有している。それぞれのディンプル12の輪郭は円である。このゴルフボール2は、直径が4.40mmであるディンプルAと、直径が4.30mmであるディンプルBと、直径が4.20mmであるディンプルCと、直径が3.95mmであるディンプルDと、直径が3.50mmであるディンプルEとを有している。ディンプル12の種類数は、5である。ゴルフボール2が円形ディンプル12に代えて、又は円形ディンプル12と共に、非円形ディンプルを有してもよい。
【0036】
ディンプルAの数は30個であり、ディンプルBの数は140個であり、ディンプルCの数は90個であり、ディンプルDの数は40個であり、ディンプルEの数は40個である。ディンプル12の総数は、340個である。これらのディンプル12とランド14とにより、ディンプルパターンが形成されている。
【0037】
図4には、ディンプル12の中心及びゴルフボール2の中心を通過する平面に沿った、ゴルフボール2の断面が示されている。図4における上下方向は、ディンプル12の深さ方向である。図4において二点鎖線16で示されているのは、仮想球である。仮想球16の表面は、ディンプル12及び微小突起18(後に詳説)が存在しないと仮定されたときのゴルフボール2の表面である。仮想球16の直径は、ゴルフボール2の直径と同一である。ディンプル12は、仮想球16の表面から凹陥している。ランド14は、仮想球16の表面と一致している。
【0038】
図4において矢印Dmで示されているのは、ディンプル12の直径である。この直径Dmは、ディンプル12の両側に共通する接線Tgが画かれたときの、一方の接点Edと他方の接点Edとの距離である。接点Edは、ディンプル12のエッジでもある。エッジEdは、ディンプル12の輪郭を画定する。
【0039】
それぞれのディンプル12の直径Dmは、2.0mm以上6.0mm以下が好ましい。直径Dmが2.0mm以上であるディンプル12は、乱流化に寄与する。この観点から、直径Dmは2.5mm以上がより好ましく、2.8mm以上が特に好ましい。直径Dmが6.0mm以下であるディンプル12は、実質的に球であるというゴルフボール2の本質を損ねない。この観点から、直径Dmは5.5mm以下がより好ましく、5.0mm以下が特に好ましい。
【0040】
非円形ディンプルの場合、この非円形ディンプルの面積と同じ面積を有する円形ディンプル12が仮想される。この仮想されたディンプル12の直径が、非円形ディンプルの直径と見なされる。
【0041】
図4において両矢印Fで示されているのは、ディンプル12の深さである。この深さFは、ディンプル12の最深部と仮想球16の表面との距離である。全てのディンプル12の深さFが合計され、この合計がディンプル12の総数で除されることにより、平均深さFavが算出される。平均深さFavは、200μm以上300μm以下が好ましい。平均深さFavが200μm以上であるゴルフボール2では、大きなランが達成されうる。この観点から、平均深さFavは205μm以上がより好ましく、210μm以上が特に好ましい。平均深さFavが300μm以下であるゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、平均深さFavは295μm以下がより好ましく、290μm以下が特に好ましい。
【0042】
ディンプル12の面積sは、無限遠からゴルフボール2の中心を見た場合の、ディンプル12の輪郭に囲まれた領域の面積である。円形ディンプル12の場合、面積Sは下記数式によって算出される。
S = (Dm / 2)* π
【0043】
本実施形態に係るゴルフボール2では、ディンプルAの面積は15.20mmであり、ディンプルBの面積は14.52mmであり、ディンプルCの面積は13.85mmであり、ディンプルDの面積は12.25mmであり、ディンプルEの面積は9.62mである。
【0044】
本発明では、全てのディンプル12の面積Sの合計の、仮想球16の表面積に対する比率は、占有率Mと称される。十分な乱流化が得られるとの観点から、占有率Mは70.0%以上が好ましく、75.0%以上がより好ましく、80.0%以上が特に好ましい。占有率は、95%以下が好ましい。本実施形態に係るゴルフボール2では、ディンプル12の合計面積は4611.0mmである。このゴルフボール2の仮想球16の表面積は5728.0mmなので、占有率は80.5%である。
【0045】
十分な占有率が達成されるとの観点から、ディンプル12の総数Nは250個以上が好ましく、280個以上がより好ましく、300個以上が特に好ましい。個々のディンプル12が乱流化に寄与しうるとの観点から、総数Nは500個以下が好ましく、450個以下がより好ましく、400個以下が特に好ましい。
【0046】
本発明において「ディンプルの容積」とは、仮想球16の表面とディンプル12の表面とに囲まれた部分の容積を意味する。大きなランが達成されうるとの観点から、ディンプル12の総容積は450mm以上が好ましく、470mm以上がより好ましく、490mm以上が特に好ましい。大きなキャリーが達成されうるとの観点から、総容積は630mm以下が好ましく、610mm以下がより好ましく、600mm以下が特に好ましい。
【0047】
図5は、図1のゴルフボール2の表面の一部が示された拡大斜視図である。図5から明らかなように、このゴルフボール2は、その表面に多数の微小突起18を備えている。図4から明らかなように、微小突起18は、ディンプル12の表面に形成されており、かつ、ランド14の表面にも形成されている。それぞれの微小突起18は、ゴルフボール2の半径方向外向きに起立している。微小突起18が、ディンプル12の表面のみに形成されてもよい。微小突起18が、ランド14の表面のみに形成されてもよい。
【0048】
この微小突起18は、飛行中のゴルフボール2の揚力及び抗力を抑制する。揚力の抑制により、大きなランが達成されうる。抗力の抑制により、大きなキャリーが達成されうる。このゴルフボール2は、ドライバーショットでの飛行性能に優れる。
【0049】
図5には、第一列Iに属する3つの微小突起18aと、第二列IIに属する3つの微小突起18bとが示されている。図5において矢印Aで示される方向は、列の延在方向である。それぞれの列において、微小突起18は、等ピッチで並んでいる。換言すれば、微小突起18は規則的に並んでいる。ゴルフボール2の表面の一部において、微小突起18が不規則に並んでもよい。
【0050】
第一列Iに属する微小突起18aと第二列IIに属する微小突起18bとが、ジグザグに配置されてもよい。換言すれば、第一列Iに属する微小突起18aの位置が、延在方向Aにおいて、第二列IIに属する微小突起18bの位置とずれてもよい。
【0051】
図6は、図1のゴルフボール2の一部が示された拡大断面図である。図6には、本体10の一部であるカバー8と、ペイント層20とが示されている。図6には、微小突起18が示されている。カバー8は、凸部22を有している。微小突起18は、この凸部22とペイント層20とによって形成されている。凸部22がゴルフボール2の半径方向外向き(図6における上向き)に起立しているので、微小突起18もゴルフボール2の半径方向外向きに起立している。換言すれば、微小突起18は、本体10(カバー8)の表面形状が反映された形状を有する。図6において符号24で示されているのは、微小突起18の底面である。
【0052】
図7は、図6のVII-VII線に沿った断面図である。図7には、微小突起18の底面24が示されている。底面24は、カバー8とペイント層20とを含んでいる。
【0053】
図7には、第一の微小突起18cの底面24cと共に、二点鎖線にて、第二の微小突起18dの底面24dも示されている。第二の微小突起18dは、第一の微小突起18cに隣接している。図7において二点鎖線26で示されているのは、第一の微小突起18cの底面24cの重心Ocと、第二の微小突起18dの底面24dの重心Odとを通過する直線である。
【0054】
図7において矢印Pで示されているのは、ピッチである。ピッチPは、第一の微小突起18cと、この第一の微小突起18cに隣接する第二の微小突起18dとの距離である。ピッチPは、第一の微小突起18cの底面24cの重心Ocと、第二の微小突起18dの底面24dの重心Odとの距離である。「第一の微小突起18cに隣接する第二の微小突起18d」とは、第一の微小突起18cの周辺に存在する微小突起18のうち、第一の微小突起18cとの距離L(後に詳説)が最も小さい微小突起18dである。
【0055】
それぞれの微小突起18に、1つのピッチPが決定される。全ての微小突起18のピッチPが合計され、この合計が微小突起18の数で除されることにより、平均ピッチPavが算出される。平均ピッチPavは、1μm以上200μm以下が好ましい。平均ピッチPavが1μm以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、平均ピッチPavは5μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。平均ピッチPavが200μm以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、平均ピッチPavは150μm以下がより好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0056】
図7において矢印Lで示されているのは、第一の微小突起18cとこの第一の微小突起18cに隣接する第二の微小突起18dとの間の距離である。距離Lは、ピッチPから、第一の微小突起18cの底面24cの半径、及び第二の微小突起18dの底面24dの半径が減じられた値である。それぞれの微小突起18に、1つの距離Lが決定される。全ての微小突起18の距離Lが合計され、この合計が微小突起18の数で除されることにより、平均距離Lavが算出される。平均距離Lavは、0.1μm以上180μm以下が好ましい。平均距離Lavが0.1μm以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、平均距離Lavは1μm以上がより好ましく、3μm以上が特に好ましい。平均距離Lavが180μm以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、平均距離Lavは120μm以下がより好ましく、70μm以下が特に好ましい。
【0057】
図6において矢印Hで示されているのは、微小突起18の高さである。高さHは、ゴルフボール2の半径方向に沿って測定される。全ての微小突起18の高さHが合計され、この合計が微小突起18の数で除されることにより、平均高さHavが算出される。平均高さHavは、8μm以上50μm以下が好ましい。平均高さHavが8μm以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、平均高さHavは9μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。平均高さHavが50μm以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、平均高さHavは45μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。
【0058】
全ての微小突起18の底面24の面積Qが合計され、この合計が微小突起18の数で除されることにより、平均面積Qavが算出される。平均面積Qavは、1μm以上35000μm以下が好ましい。平均面積Qavが1μm以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、平均面積Qavは10μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましい。平均面積Qavが35000μm以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、平均面積Qavは30000μm以下がより好ましく、25000μm以下が特に好ましい。
【0059】
全ての微小突起18の底面24の面積Qの合計の、仮想球16の表面積に対する比率は、5%以上80%以下が好ましい。この比率が5%以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、この比率は15%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。この比率が80%以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、この比率は60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。
【0060】
微小突起18の総数は、10万個以上1000万個以下が好ましい。総数が10万個以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、総数は50万個以上がより好ましく、100万個以上が特に好ましい。総数が1000万個以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、総数は700万個以下がより好ましく、500万個以下が特に好ましい。
【0061】
このゴルフボール2では、ディンプル12の平均深さFavと微小突起18の平均高さHavとは、下記数式(1)を満たす。
Hav /Fav ≧ 0.050 (1)
換言すれば、平均高さHavと平均深さFavとの比(Hav/Fav)は、0.050以上である。この比(Hav/Fav)が0.050以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、比(Hav/Fav)は0.055以上がより好ましく、0.060以上が特に好ましい。比(Hav/Fav)は、0.100以下が好ましい。比(Hav/Fav)が0.100以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。この観点から、比(Hav/Fav)は0.095以下がより好ましく、0.090以下が特に好ましい。
【0062】
好ましくは、このゴルフボール2では、占有率MとピッチPの平均値Pavとは、下記数式(2)を満たす。
M/ Pav >0.3 (2)
換言すれば、占有率Mと平均値Pavとの比(M/Pav)は、0.3より大きい。比(M/Pav)が0.3より大きいゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、比(M/Pav)は0.5以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。比(M/Pav)は、10.0以下が好ましい。比(M/Pav)が10.0以下であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。さらに、比(M/Pav)が10.0以下であるゴルフボール2のためのモールドは、製作が容易である。これらの観点から、比(M/Pav)は9.0以下がより好ましく、8.0以下が特に好ましい。
【0063】
好ましくは、ピッチPの平均値Pavと距離Lの平均値Lavとは、下記数式(3)を満たす。
Lav /Pav < 0.9 (3)
換言すれば、平均値Lavと平均値Pavとの比(Lav/Pav)は、0.9未満である。比(Lav/Pav)が0.9未満であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力及び抗力を抑制する。このゴルフボール2では、大きなキャリー及びランが達成されうる。この観点から、比(Lav/Pav)は0.8以下がより好ましく、0.7以下が特に好ましい。比(Lav/Pav)は、0.1以上が好ましい。比(Lav/Pav)が0.1以上であるゴルフボール2では、微小突起18が揚力を抑制しすぎない。このゴルフボール2では、大きなキャリーが達成されうる。これらの観点から、比(Lav/Pav)は0.2以上がより好ましく、0.3以上が特に好ましい。
【0064】
前述の通り、微小突起18は、本体10の凸部22とペイント層20とを含んでいる(図6参照)。従って、ゴルフクラブで打撃されたり、地面に衝突することによって、ペイント層20が本体10から剥離しても、微小突起18の形状が概ね維持される。よって、空力特性が概ね維持される。この微小突起18の形成に、特殊なペイントは必要ない。このゴルフボール2は、容易に製造されうる。
【0065】
前述の通り、微小突起18はディンプル12の表面に形成されており、かつ、ランド14の表面にも形成されている(図4参照)。従ってこのゴルフボール2は、空力特性に極めて優れる。微小突起18が、ディンプル12の表面のみに形成されてもよい。微小突起18が、ランド14の表面のみに形成されてもよい。
【0066】
図4-5に示された微小突起18の形状は、概ね円柱である。ゴルフボール2が、他の形状の微小突起18を有してもよい。他の形状として、角柱、角錐台、円錐台、角錐及び円錐が例示される。微小突起18の形状が、球の一部であってもよい。微小突起18が、複数の立体が組み合わされた形状を有してもよい。ゴルフボール2が、互いに形状の異なる複数種類の微小突起18を有してもよい。ゴルフボール2が、互いにサイズの異なる複数種類の微小突起18を有してもよい。
【0067】
本体10の凸部22は、本体10の成形時に同時に成形される。この成形には、成形型が用いられる。この成形型のキャビティ面は、多数の微小な凹部を有している。それぞれの凹部は、凸部22の形状がほぼ反転した形状を有する。
【0068】
この成形型は、ディンプル12を有するマスター型から得られうる。このディンプル12の形状が転写されて、成形型にピンプルが形成される。この成形型に、切削加工、レーザー照射加工等により、微小凹みが形成される。この成形型から得られたゴルフボール2では、ピンプルの形状が転写されてディンプル12が形成され、微小凹みの形状が転写されて微小突起18が形成される。
【0069】
マスター型からの転写ではなく、切削加工により、ダイレクトに、ピンプルを有する成形型が製作されてもよい。この場合も、切削加工、レーザー照射加工等により、成形型に微小凹みが形成される。
【実施例
【0070】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0071】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、27.4質量部のアクリル酸亜鉛、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.5質量部のジフェニルジスルフィド及び0.9質量部のジクミルパーオキサイドを混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、160℃で20分間加熱して、直径が38.20mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0072】
26質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7337」)、26質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)、48質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(三菱化学社の商品名「ラバロンT3221C」)、4質量部の二酸化チタン(A220)及び0.2質量部の光安定剤光(城北化学工業社の商品名「JF-90」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を射出成形法にてコアの周りに被覆し、中間層を形成した。この中間層の厚みは、1.00mmであった。
【0073】
47質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」)、46質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1557」)、7質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)、4質量部の二酸化チタン(A220)及び0.2質量部の光安定剤光(前述の「JF-90」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。キャビティ面に多数のピンプル及び微小凹みを有するファイナル金型に、コア及び中間層からなる球を投入した。上記樹脂組成物を射出成形法にて中間層の周りに被覆し、カバーを形成した。このカバーの厚みは、1.25mmであった。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。カバーにはさらに、微小凹みの形状が反転した形状を有する微小な凸部が形成された。
【0074】
このカバーの周りに二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が約42.7mmであり質量が約45.6gである実施例1のゴルフボールを得た。このゴルフボールは、表面に多数の微小突起を有している。これらの微小突起の仕様が、下記の表1に示されている。
【0075】
[実施例2-17及び比較例1-7]
ファイナル金型を変更し、下記の表2-7に示される仕様のディンプル及び微小突起を形成した他は実施例1と同様にして、実施例2-17及び比較例1-7のゴルフボールを得た。ディンプルの仕様が、下記の表1に示されている。比較例1、2、4及び6に係るゴルフボールは、微小突起を有していない。
【0076】
[フライトテスト]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、ドライバー(ダンロップスポーツ社の商品名「XXIO」、シャフト硬度:R、ロフト角:10.5°)を装着した。ヘッド速度が40m/secである条件でゴルフボールを打撃して、キャリー及びランを測定した。テスト時は、ほぼ無風であった。20回の測定で得られたデータの平均値が、下記の表2-7に示されている。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
【表7】
【0084】
表2-7に示されるように、各実施例のゴルフボールは、ドライバーショットでの飛行性能に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
前述の微小突起は、スリーピースゴルフボールのみならず、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、フォーピースゴルフボール、ファイブピースゴルフボール、シックスピースゴルフボール、糸巻きゴルフボール等、様々な構造を有するゴルフボールに適用されうる。
【符号の説明】
【0086】
2・・・ゴルフボール
4・・・コア
6・・・中間層
8・・・カバー
10・・・本体
12・・・ディンプル
14・・・ランド
16・・・仮想球
18・・・微小突起
20・・・ペイント層
22・・・凸部
24・・・底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9