(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】加圧酸化浸出方法および硫酸ニッケルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/10 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
C01G53/10
(21)【出願番号】P 2018066414
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】横川 友彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 悠介
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-080711(JP,A)
【文献】特開2006-283163(JP,A)
【文献】特開2016-011442(JP,A)
【文献】特公昭45-002649(JP,B1)
【文献】特開昭54-155116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00-53/10
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル硫化物を含む原料スラリーをオートクレーブに供給し、ニッケル硫化物を加圧酸化浸出して硫酸ニッケル水溶液を得るにあたり、
前記オートクレーブに供給される時点における前記原料スラリーの液相のニッケル濃度を10g/L以下とする
ことを特徴とする加圧酸化浸出方法。
【請求項2】
前記オートクレーブに供給される時点における前記原料スラリーの液相のニッケル濃度を3g/L以下とする
ことを特徴とする請求項1記載の加圧酸化浸出方法。
【請求項3】
ニッケル硫化物を含む原料とレパルプ水とを混合して原料スラリーを得るレパルプ工程と、
前記原料スラリーをオートクレーブに供給し、ニッケル硫化物を加圧酸化浸出して硫酸ニッケル水溶液である浸出液を得る加圧酸化浸出工程と、
前記加圧酸化浸出工程に続く後工程で得られたニッケル薄液を希釈して、前記レパルプ工程で用いられる前記レパルプ水を得る希釈工程と、を備え
、
前記希釈工程において、前記レパルプ水のニッケル濃度を10g/L以下に調整する
ことを特徴とする硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項4】
前記浸出液に中和剤を添加して、該浸出液に含まれる鉄を中和澱物として除去する脱鉄工程と、
前記中和澱物に随伴されるニッケル水酸化物を硫酸水溶液で溶解して前記ニッケル薄液を得る溶解工程と、を備える
ことを特徴とする請求項3記載の硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項5】
前記希釈工程において、前記レパルプ水のニッケル濃度を3g/L以下に調整する
ことを特徴とする請求項3または4記載の硫酸ニッケルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧酸化浸出方法および硫酸ニッケルの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ニッケル硫化物を加圧酸化浸出して硫酸ニッケル水溶液を得る加圧酸化浸出方法、および加圧酸化浸出工程を含む硫酸ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原料としてニッケル硫化物を含む原料スラリーをオートクレーブに連続供給し、オートクレーブ内のスラリーに高圧空気を吹き込んで加圧酸化浸出することで、硫酸ニッケル水溶液を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オートクレーブ内におけるニッケル硫化物の酸化反応が不十分であると、硫化ニッケルを構成する硫黄の酸化が完全には進まず、チオ硫酸などの還元性の硫黄のオキソ酸(以下、「還元性硫黄化合物」と称する。)が生成されることがある。そうすると、硫酸ニッケル水溶液を精製して製造される硫酸ニッケル結晶にも、微量の還元性硫黄化合物が含有されることになる。硫酸ニッケル結晶は、例えば、無電解Ni-P合金めっきの原料として用いられる。硫酸ニッケル結晶に還元性硫黄化合物が混入していると、Ni-P合金めっき層内部への微量の硫黄の析出が起こり、めっきの耐酸性が低下するという不具合が生じる。そのため、加圧酸化浸出における硫黄の酸化を完全に進めること、換言すればニッケル硫化物の浸出率を向上することが求められる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、原料の浸出率を向上できる加圧酸化浸出方法、およびその加圧酸化浸出工程を含む硫酸ニッケルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の加圧酸化浸出方法は、ニッケル硫化物を含む原料スラリーをオートクレーブに供給し、ニッケル硫化物を加圧酸化浸出して硫酸ニッケル水溶液を得るにあたり、前記オートクレーブに供給される時点における前記原料スラリーの液相のニッケル濃度を10g/L以下とすることを特徴とする。
第2発明の加圧酸化浸出方法は、第1発明において、前記オートクレーブに供給される時点における前記原料スラリーの液相のニッケル濃度を3g/L以下とすることを特徴とする。
第3発明の硫酸ニッケルの製造方法は、ニッケル硫化物を含む原料とレパルプ水とを混合して原料スラリーを得るレパルプ工程と、前記原料スラリーをオートクレーブに供給し、ニッケル硫化物を加圧酸化浸出して硫酸ニッケル水溶液である浸出液を得る加圧酸化浸出工程と、前記加圧酸化浸出工程に続く後工程で得られたニッケル薄液を希釈して、前記レパルプ工程で用いられる前記レパルプ水を得る希釈工程と、を備え、前記希釈工程において、前記レパルプ水のニッケル濃度を10g/L以下に調整することを特徴とする。
第4発明の硫酸ニッケルの製造方法は、第3発明において、前記浸出液に中和剤を添加して、該浸出液に含まれる鉄を中和澱物として除去する脱鉄工程と、前記中和澱物に随伴されるニッケル水酸化物を硫酸水溶液で溶解して前記ニッケル薄液を得る溶解工程と、を備えることを特徴とする。
第5発明の硫酸ニッケルの製造方法は、第3または第4発明において、前記希釈工程において、前記レパルプ水のニッケル濃度を3g/L以下に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オートクレーブ内において、未反応の原料の表面に硫酸ニッケルの結晶が析出して、原料の加圧酸化浸出が阻害されることを抑制できる。その結果、加圧酸化浸出における原料の浸出率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】硫酸ニッケル結晶の製造プロセスの工程図である。
【
図3】実施例におけるレパルプ水のニッケル濃度と浸出液の酸化還元電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る硫酸ニッケルの製造方法は、特に限定されないが、
図1に示す硫酸ニッケル結晶の製造プロセスに好適に用いられる。また、本発明の一実施形態に係る加圧酸化浸出方法は、特に限定されないが、硫酸ニッケル結晶の製造プロセスの一工程である加圧酸化浸出工程に好適に用いられる。以下、硫酸ニッケル結晶の製造プロセスを順に説明する。
【0010】
硫酸ニッケル結晶の製造プロセスにはニッケル硫化物を含む原料が用いられる。原料にはニッケル硫化物のほか、コバルト硫化物などの他の金属硫化物が含まれてもよい。この種の原料としてニッケル・コバルト混合硫化物(MS:Mixed Sulfide)が挙げられる。
【0011】
ニッケル・コバルト混合硫化物は、例えば、つぎの手順で得られる。まず、低品位ラテライト鉱などのニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)して浸出液を得る。浸出液から鉄などの不純物を除去する。その後、浸出液に硫化水素ガスを吹き込み、硫化反応を生じさせる。硫化反応により、ニッケル・コバルト混合硫化物が得られる。
【0012】
ニッケル・コバルト混合硫化物の化学組成は、Niが45~60重量%、Coが4~6重量%、Sが35~39重量%(いずれも乾燥量基準)である。ニッケル・コバルト混合硫化物には、鉄、銅、亜鉛などの不純物が含まれている。
【0013】
レパルプ工程では、原料とレパルプ水とを混合して原料スラリーを得る。原料スラリーの固形分濃度は200~300g/Lに調整される。
【0014】
加圧酸化浸出工程では、原料スラリーをオートクレーブに供給し、加圧酸化浸出して浸出液を得る。ニッケル硫化物を加圧酸化浸出すると、硫酸ニッケル水溶液が得られる。浸出液の主成分は硫酸ニッケル水溶液である。浸出液にはニッケルのほか、コバルト、その他の不純物が含まれる。
【0015】
加圧酸化浸出工程には、例えば、
図2に示すオートクレーブ1が用いられる。オートクレーブ1は液密性、気密性を有する横長の槽10を有している。槽10の一端には原料スラリーを供給する供給口11が設けられている。槽10の他端には浸出液を排出する排出口12が設けられている。槽10の内部には複数の隔壁13が立設している。この隔壁13により、槽10の内部は長手方向に並んだ複数の反応室14a~14eに分割されている。
【0016】
反応室14a~14eの数は特に限定されない。
図2に示すオートクレーブ1は5つの反応室14a~14eを有する。5つの反応室14a~14eをそれぞれ第1室14a、第2室14b、第3室14c、第4室14d、第5室14eと称する。
【0017】
供給口11は第1室14aに設けられている。原料スラリーは最初に第1室14aに供給される。第1室14a内のスラリーは隔壁13をオーバーフローして第2室14bに供給される。このようなオーバーフローを繰り返して、スラリーは第5室14eに到達する。このように、複数の反応室14a~14eはスラリーが順に流れるように直列に配置されている。排出口12は第5室14eに設けられている。第5室14eに到達したスラリーは浸出液として排出口12から排出される。
【0018】
各反応室14a~14eには図示しない空気吹込管が挿入されている。空気吹込管を通して各反応室14a~14e内のスラリーに高圧空気を吹き込む。ニッケル硫化物と酸素とが接触し、ニッケル硫化物が酸化されることで、硫酸ニッケル水溶液が得られる。ニッケル硫化物と酸素との接触を促進し、酸化反応を効率的に行なうために、各反応室14a~14eには撹拌機15が設けられている。
【0019】
ニッケル硫化物の酸化反応は発熱反応である。したがって、そのままではオートクレーブ1内のスラリーの温度が高くなりすぎる。オートクレーブ1内のスラリーを適切な温度に調整するため、冷却水の添加が行なわれる。
【0020】
各反応室14a~14eには冷却水供給管16が挿入されている。冷却水供給管16を通して各反応室14a~14e内のスラリーに冷却水を添加できる。冷却水の添加によりオートクレーブ1内のスラリーが適切な温度に調整される。
【0021】
冷却水は主に蒸発時に蒸発潜熱を消費する効果によりスラリーを冷却する。冷却水および原料スラリーに元々含まれている水分が蒸発することによりスラリーが冷却される。冷却水の蒸発により水蒸気が発生する。槽10の気相部には圧力調整弁17が設けられている。圧力調整弁17から余剰の水蒸気を排出することで、オートクレーブ1内の圧力が所定の圧力に維持される。
【0022】
オートクレーブ1にはスラリーの液温を測定する温度計18が設けられている。
図2に示すオートクレーブ1は第1室14aに温度計18が設けられている。したがって、温度計18により第1室14a内のスラリーの液温を測定できる。
【0023】
原料スラリーはオートクレーブ1に連続供給される。オートクレーブ1内において、スラリーが第1室14aから第5室14eまで流れる間に、ニッケル硫化物が加圧酸化浸出され、硫酸ニッケル水溶液が生成される。オートクレーブ1から浸出液が連続的に排出される。浸出液は硫酸ニッケル水溶液を主成分とする液と固形分とからなるスラリーである。
【0024】
原料スラリーの供給量、各反応室14a~14eへの高圧空気の供給量、オートクレーブ1内の温度、圧力などは、操業効率を考慮して適切に調整される。例えば、オートクレーブ1内の温度(スラリーの液温)は140~200℃、オートクレーブ1内の圧力はゲージ圧で1~2MPaGに調整することが一般的である。
【0025】
オートクレーブ1から排出された浸出液は、フラッシュタンクにより大気圧まで降圧され、冷却槽で60℃未満に冷却される。浸出液は、例えば、pH1.0~2.0である。また、浸出液の組成は、例えば、Niが110~150g/L、Coが5~15g/L、Feが0.5~1.5g/Lである。
【0026】
冷却槽において浸出液の酸化還元電位が測定される。浸出液の酸化還元電位は、オートクレーブ1における浸出率の指標として用いられる。ここで、浸出率とは原料のうち酸化浸出に寄与したものの割合を意味する。ニッケル浸出率であれば、「ニッケル浸出率[%]=(浸出液中のニッケル重量÷装入された原料中のニッケル重量)×100」で求めることができる。オートクレーブ1において原料の酸化が不十分であると浸出液の酸化還元電位が低くなる。浸出液の酸化還元電位が管理基準値よりも低い場合には、浸出率が低下していると判断される。
【0027】
図1に戻り、硫酸ニッケル結晶の製造プロセスを説明する。脱鉄工程では、浸出液に中和剤を添加して中和することで、浸出液に含まれる不純物、主に鉄を中和澱物として除去する。中和剤としては、例えば消石灰が用いられる。脱鉄工程により脱鉄終液が得られる。脱鉄終液にはニッケルのほか、コバルトなどが含まれている。
【0028】
溶媒抽出工程では、溶媒抽出により脱鉄終液からコバルトおよび不純物を除去して高純度硫酸ニッケル水溶液を得る。溶媒抽出工程は、抽出段、洗浄段、交換段、ニッケル回収段、コバルト回収段、逆抽出段からなる。抽出段では高純度硫酸ニッケル水溶液中のニッケルを有機相に抽出し、ニッケル保持有機相を得る。洗浄段ではニッケル保持有機相を、ニッケルを含有する洗浄液で洗浄する。交換段では洗浄後のニッケル保持有機相と脱鉄終液とを接触させて、ニッケル保持有機相中のニッケルと脱鉄終液中の不純物とを置換し、高純度硫酸ニッケル水溶液を得る。交換段で得られた有機相をニッケル回収段、コバルト回収段、逆抽出段に送ることで、有機相に担持されたニッケルの回収、コバルトの回収、不純物の除去を行なう。抽出された金属類が脱離され清浄化された有機相は抽出段に繰り返される。
【0029】
晶析工程では、晶析設備を用いて高純度硫酸ニッケル水溶液を濃縮し、硫酸ニッケル結晶を析出させて回収する。
【0030】
一方、脱鉄工程から排出された中和澱物にはニッケル水酸化物が随伴される。そのため、中和澱物をそのまま系外に排出するとニッケルのロスとなる。そこで、中和澱物からニッケルを回収し、回収したニッケルを系内に繰り返すことが好ましい。
【0031】
溶解工程では、脱鉄工程から排出された中和澱物に硫酸水溶液を添加する。中和澱物に随伴されるニッケル水酸化物を硫酸水溶液で溶解して、ニッケル薄液を得る。ニッケル薄液は比較的低濃度のニッケルを含む水溶液である。ニッケル薄液のニッケル濃度は、例えば、10~30g/Lである。
【0032】
希釈工程では、ニッケル薄液を希釈してレパルプ水を得る。希釈により、レパルプ水はニッケル濃度が低く調整される。ここで、レパルプ水のニッケル濃度を10g/L以下に調整することが好ましく、3g/L以下に調整することがより好ましい。
【0033】
ニッケル薄液は希釈液と混合されることにより希釈される。希釈液としてニッケル薄液よりもニッケル濃度の低い液が用いられる。希釈液として、工水を用いてもよいし、硫酸ニッケル結晶の製造プロセスで排出される水を用いてもよい。例えば、晶析工程では、晶析設備において高純度硫酸ニッケル水溶液を濃縮する際に水蒸気が発生する。その水蒸気から得られた凝縮水を希釈液として用いてもよい。
【0034】
希釈工程で得られたレパルプ水はレパルプ工程で用いられる。これにより、原料スラリーの液相は、レパルプ水と同様に、ニッケル濃度が低く調整される。ここで、オートクレーブに供給される時点における原料スラリーの液相のニッケル濃度は10g/L以下が好ましく、3g/L以下がより好ましい。
【0035】
脱鉄工程から排出された中和澱物に由来するニッケル薄液をレパルプ水として再利用することで、ニッケルのロスを低減できる。なお、溶解工程は特許請求の範囲に記載の「後工程」に包含される。レパルプ水の生成に用いられるニッケル薄液として、溶解工程のほか、加圧酸化浸出工程に続く他の後工程で得られた液、例えば溶媒抽出工程のニッケル回収段から得られたニッケル回収液を用いてもよい。
【0036】
希釈工程とレパルプ工程とは、別に行なってもよいし、同時に行なってもよい。希釈工程とレパルプ工程とを同時に行なうには、単一の槽で原料とニッケル薄液と希釈液と混合すればよい。
【0037】
レパルプ工程で用いられるレパルプ水として、例えば、工業的に一般に用いられる工水を用いてもよい。原料スラリーの液相のニッケル濃度を所望の濃度に維持できればよい。
【0038】
ところで、加圧酸化浸出における浸出率が低下する原因の一つとして、原料スラリーの液相のニッケル濃度の上昇が挙げられる。原料スラリーの液相のニッケル濃度が高いほど、浸出液の酸化還元電位が低くなる。すなわち、浸出率が低下する。
【0039】
この理由は、つぎのとおりであると推測される。
原料スラリーの液相のニッケル濃度が高いほど、オートクレーブの第1室14a内で溶出したニッケルと原料スラリーの液相に元々含まれていたニッケルとの合算濃度が高くなる。そうすると、硫酸ニッケル一水和物の結晶が析出しやすくなる。未反応および反応途中の原料(ニッケル硫化物)の表面に硫酸ニッケル一水和物が析出すると、原料と酸素との接触が阻害される。そうすると、原料の一部は未反応のままオートクレーブから排出されることとなり、浸出率が低下する。
【0040】
そこで、レパルプ水のニッケル濃度、すなわち原料スラリーの液相のニッケル濃度を低減することで、加圧酸化浸出における浸出率を向上できると考えられる。原料スラリーの液相のニッケル濃度を低減すれば、オートクレーブ内において、未反応および反応途中の原料の表面に硫酸ニッケル一水和物が析出して、原料の加圧酸化浸出が阻害されることを抑制できる。その結果、加圧酸化浸出における浸出率を向上できる。
【0041】
従来は、浸出液の酸化還元電位が管理基準値よりも低い場合には、オートクレーブへの原料スラリーの供給量を減少させていた。これにより、オートクレーブ内でのスラリーの滞留時間を長くし、浸出率の向上を図っていた。しかし、原料スラリーの供給量を減少させるため、硫酸ニッケル結晶の生産量が減少してしまう。これに対して、本実施形態によれば、原料スラリーの供給量を減少させる必要がないので、硫酸ニッケル結晶の減産を回避できる。
【0042】
また、オートクレーブにおいてニッケル硫化物が十分に酸化されるので、還元性硫黄化合物の生成を抑制できる。そのため、硫酸ニッケル結晶への還元性硫黄化合物の混入を防止できる。
【実施例】
【0043】
つぎに、実施例を説明する。
図1に示す硫酸ニッケル結晶の製造プロセスの操業を行なった。
原料としてニッケル・コバルト混合硫化物を用いた。原料のニッケル含有率は57.6~58.2重量%である。レパルプ水のニッケル濃度を1.9~17.4g/Lの種々の条件に調整した。原料とレパルプ水とを混合して原料スラリーを調製した。原料スラリーの固形分濃度は220~250g/Lに調整した。
【0044】
オートクレーブに原料スラリーを連続供給して加圧酸化浸出を行なった。オートクレーブへの原料スラリーの供給量を80~88L/分とした。オートクレーブ内の圧力をゲージ圧で1.8MPaGとした。オートクレーブ内への高圧空気の供給量を6,000~6,500Nm3/時間とした。オートクレーブに冷却水を50~52L/分で添加し、オートクレーブ内のスラリーの温度を140~180℃に制御した。
【0045】
オートクレーブから排出された浸出液をフラッシュタンクにより大気圧まで降圧した後、冷却槽で冷却した。冷却槽内の浸出液の酸化還元電位を測定した。レパルプ水のニッケル濃度と浸出液の酸化還元電位との関係を
図3のグラフに示す。ここで、酸化還元電位はAg/AgCl電極基準の測定値である。
【0046】
図3のグラフより、レパルプ水のニッケル濃度が低いほど、浸出液の酸化還元電位が高くなることが分かる。これより、レパルプ水のニッケル濃度を低くすることで、加圧酸化浸出における浸出率を向上できることが確認できた。
【0047】
また、レパルプ水のニッケル濃度を10g/L以下に調整すれば、浸出液の酸化還元電位が390mV以上となり、十分な浸出率が得られることが分かった。また、レパルプ水のニッケル濃度を3g/L以下に調整すれば、浸出液の酸化還元電位が410mV以上となり、浸出率がより高くなることが分かった。また、レパルプ水のニッケル濃度を3g/L以下に調整すれば、還元性硫黄化合物は生成されなかった。
【符号の説明】
【0048】
1 オートクレーブ
10 槽
11 供給口
12 排出口
13 隔壁
14a~14e 反応室
15 撹拌機
16 冷却水供給管
17 圧力調整弁
18 温度計