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  • 特許-空気入りタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20220614BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20220614BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B60C1/00 C
B60C9/00 B
C08L7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018068770
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177802
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 大地
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻平
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184551(JP,A)
【文献】特開昭59-102941(JP,A)
【文献】特開2017-019917(JP,A)
【文献】特開昭61-119408(JP,A)
【文献】特開2014-201607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維コードを引き揃えて構成された補強層を含んでなる空気入りタイヤであって、
前記有機繊維コードが、ポリエチレンテレフタレート繊維で構成されるものであり、
前記補強層が、有機繊維コードをゴム組成物で被覆してなるものであり、
前記ゴム組成物が、ゴム成分と、液状イソプレン系ポリマーとを含むものであり、
前記液状イソプレン系ポリマーの数平均分子量が、100000以下である、空気入りタイヤ。
〔但し、前記ゴム組成物が、重量平均分子量が2万~6万の液状イソプレンゴムを、前記ゴム成分と前記液状イソプレンゴムとの合計量に対して、5~15重量%含む場合を除く。〕
【請求項2】
有機繊維コードを引き揃えて構成された補強層を含んでなる空気入りタイヤであって、
前記有機繊維コードが、ポリエチレンテレフタレート繊維で構成されるものであり、
前記補強層が、有機繊維コードをゴム組成物で被覆してなるものであり、
前記ゴム組成物が、ゴム成分と、液状イソプレン系ポリマーとを含むものであり、
前記液状イソプレン系ポリマーの数平均分子量が、100000以下であり、
前記液状イソプレン系ポリマーが、液状スチレンイソプレン共重合体および液状イソプレンブタジエン共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含むものである、空気入りタイヤ。
【請求項3】
液状イソプレン系ポリマーが、液状イソプレンブタジエン共重合体を含むものである請求項2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
液状イソプレンブタジエン共重合体が、イソプレンとブタジエンのブロック共重合体である、請求項2または3記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
液状イソプレン系ポリマーの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、0.1~20質量部である、請求項1~のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
ゴム成分が、20~100質量%のイソプレン系ゴムおよび0~80質量%のスチレンブタジエンゴムを含むものである、請求項1~のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
補強層が、カーカス層、ブレーカー層およびバンド層からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強層を有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤには、カーカス層、ブレーカー層、バンド層などに代表される補強層があり、このような補強層は、スチールコードや有機繊維コードをゴム組成物で被覆し、これをプレス加硫して得られる。
【0003】
補強層に使用するコードとして、有機繊維であるセルロース繊維のコードを用いることが知られている(特許文献1)。しかし、セルロース繊維コードは再生資源利用の観点からは有効であるが、原料を製造する際に二硫化炭素を使用するため、環境負荷の観点からは必ずしも良好とはいえない。
【0004】
一方、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)は、製造時に二硫化炭素を使用しないので環境負荷の観点から良好であり、さらに高強度でもあるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-189212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、PET繊維は、温度依存性を有し、発熱しやすいという特性がある。したがって、タイヤの補強層に用いるコードとしてPET繊維を使用する場合、これを被覆するゴム組成物は、低発熱性であることが望まれる。また、かかるコード被覆用ゴム組成物は、本来の特性として、耐屈曲疲労性、および接着性にも優れることが望まれる。
【0007】
上記課題の下、本発明は、低発熱性であって、かつ、耐屈曲疲労性、および接着性にも優れるゴム組成物でPET繊維を被覆した補強層を含んでなる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、補強層を有する空気入りタイヤにおいて、該補強層のPET繊維で構成される有機繊維コードを、ゴム成分と所定の液状イソプレン系ポリマーとを含むゴム組成物で被覆することで、上記課題を解決し得ることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]有機繊維コードを引き揃えて構成された補強層を含んでなる空気入りタイヤであって、
前記有機繊維コードが、ポリエチレンテレフタレート繊維で構成されるものであり、
前記補強層が、有機繊維コードをゴム組成物で被覆してなるものであり、
前記ゴム組成物が、ゴム成分と、液状イソプレン系ポリマーとを含むものであり、
前記液状イソプレン系ポリマーの数平均分子量が、100000以下である、空気入りタイヤ、
[2]液状イソプレン系ポリマーが、液状イソプレン重合体、液状スチレンイソプレン共重合体および液状イソプレンブタジエン共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含むものである、上記[1]記載の空気入りタイヤ、
[3]液状イソプレンブタジエン共重合体が、イソプレンとブタジエンのブロック共重合体である、上記[2]記載の空気入りタイヤ、
[4]液状イソプレン系ポリマーの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、0.1~20質量部である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ、
[5]ゴム成分が、20~100質量%のイソプレン系ゴムおよび0~80質量%のスチレンブタジエンゴムを含むものである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ、
[6]補強層が、カーカス層、ブレーカー層およびバンド層からなる群から選択される少なくとも一つである、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低発熱性であって、かつ、耐屈曲疲労性、および接着性にも優れるゴム組成物でPET繊維を被覆した補強層を含んでなる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】空気入りタイヤの部分断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一の実施形態は、有機繊維コードを引き揃えて構成された補強層を含んでなる空気入りタイヤであって、前記有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維で構成されるものであり、前記補強層が有機繊維コードをゴム組成物で被覆してなるものであり、前記ゴム組成物がゴム成分と液状イソプレン系ポリマーとを含むものであり、前記液状イソプレン系ポリマーの数平均分子量が、100000以下である、空気入りタイヤである。
【0013】
理論に拘束されることは意図しないが、所定の液状イソプレン系ポリマーを用いることで、低発熱性であって、かつ、耐屈曲疲労性、および接着性にも優れるコード被覆用ゴム組成物が得られるメカニズムとしては以下が考えられる。すなわち、本実施形態において、液状イソプレン系ポリマーは、同様の目的で使用されるオイルと比較して、ゴム成分を構成するゴムと構造が類似しているので、これと混合させ易い。また、比較的低分子であることでゴム成分の分子間へも入り易い。このため、ゴム成分との間で海島状態を形成せずに、ゴム成分に分散させやすいという特徴を有する。そして、液状イソプレン系ポリマーは加硫により硬化するので、このようにゴム成分に分散した液状イソプレン系ポリマーが硬化することによって、ゴム中のネットワークが強固となって耐屈曲疲労性、および接着性が向上し、また、ゴム中の分子鎖の動きが抑制されることで発熱性が低下すると推測される。さらに、液状イソプレン系ポリマーはオイルよりもガラス転移温度が低いため、この点も発熱性の低下および耐屈曲疲労性、および接着性の向上に寄与していると考えられる。
【0014】
また、液状イソプレン系ポリマーが、イソプレンとブタジエンのブロック共重合体である液状イソプレンブタジエン共重合体を含むものである場合、そのポリブタジエン部分の存在により、耐屈曲疲労性、接着性および低発熱性がさらに強化されると推測される。
【0015】
<補強層>
本実施形態において、補強層としては特に限定されず、空気入りタイヤにおけるいずれの補強層であってもよい。図1には、空気入りタイヤの部分断面の一例が示されている。ここで、カーカス層4、ブレーカー層5、バンド層6は、空気入りタイヤの代表的な補強層である。
【0016】
本実施形態に係わる補強層は、複数本の有機繊維コードを引き揃え、これを被覆用ゴム組成物で被覆して構成されている。本実施形態に係わる補強層は、上述のとおり、空気入りタイヤにおけるいずれの補強層であっても構わないが、空気入りタイヤの基本骨格を形成し、かつ、タイヤ中に占める割合が大きいことから、カーカス層であることが好ましい。
【0017】
<有機繊維コード>
本実施形態の有機繊維コードは、高速走行時の操縦安定性等の観点から、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)で構成されるものである。
【0018】
当該有機繊維コードは、充分な耐久性の観点から、破断強度が2.0cN/dtex以上であることが好ましい。また、当該有機繊維コードは、その製造を容易ならしめ、かつ、剛性および操縦安定性を向上させる観点から、中間伸度が3.0%~4.6%であることが好ましい。また、当該有機繊維コードは、その製造を容易ならしめ、かつ、ポストキュアインフレーションの際のタイヤ幅寸法を安定させる観点から、寸法安定性指数が5.0%~9.0%であることが好ましい。また、当該有機繊維コードは、充分な耐疲労性および剛性の観点から、撚り係数が2000~35000、好ましくは20000~35000であることが好ましい。本明細書において、破断強度および中間伸度はいずれも、JIS L 1017に準拠して測定される値である。中間伸度は2.0cN/dtex負荷時の値である。寸法安定性指数は乾熱収縮率と前述の中間伸度の和であり、乾熱収縮率は、180℃の温度条件の下、JIS L 1017に準拠して測定される値である。撚り係数は、式:K=T×D1/2(但し、Tは有機繊維コードの上撚り数(回/10cm)であり、Dは有機繊維コードの総繊度(dtex)である。)によりKで表される係数である。撚り係数は、有機繊維コードを製造する際の紡糸速度を調整することで設定できる。なお、有機繊維コードの総繊度は特に限定されないが、例えば1100dtex~3500dtex、好ましくは1100~3300dtexの範囲に設定することが好ましい。総繊度をこのような範囲にすることで、高い強力レベルを有することができる。当該有機繊維コードについて、引張り試験における切断時の伸び率と切断時の引張り荷重の70%の荷重を負荷した際の伸び率との差が11%~16%になるようにすることが好ましい。このように切断時の伸び率と特定の条件での伸び率との差を設定することで、高いタフネスを確保して、耐外傷性を改善することができる。
【0019】
<ゴム成分>
コード被覆用ゴム組成物のゴム成分としては、通常この分野で使用できるものをいずれも好適に使用することができるが、イソプレン系ゴムを含むものであることが好ましい。イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、イソプレンゴム(IR)などが挙げられる。このうち、NRが好ましい。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。イソプレン系ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
イソプレン系ゴムの含有量は、発熱抑制効果等の観点から、ゴム成分100質量%中、20~100質量%であることが好ましい。イソプレン系ゴムの含有量は、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、イソプレン系ゴムの含有量は、100質量%であってもよい。
【0021】
イソプレン系ゴム以外のゴム成分としては、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等のジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。このうち、耐リバージョン、耐熱、耐屈曲疲労性等の観点から、SBR、BRが好ましく、SBRがより好ましい。イソプレン系ゴム以外のゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、LANXESS社製のBUNA CB 25、BUNA CB 24等のNd系触媒を用いて合成したBR等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。
【0023】
SBRとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン等により変性された変性SBR等が挙げられる。なかでも、高分子量ポリマー成分が多く、破断時伸びに優れるという理由から、E-SBRが好ましい。SBRとしては、例えば、住友化学(株)製のものなどを使用することができる。
【0024】
SBRのスチレン含有量は、加工性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、スチレン含有量は、低燃費性の観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。なお、SBRのスチレン含有量は、H1-NMR測定により算出される。
【0025】
イソプレン系ゴム以外のゴム成分を使用する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、発熱抑制効果等の観点から、ゴム成分100質量%中、0~80質量%であることが好ましい。当該ゴム成分の含有量は、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。当該ゴム成分の含有量は0質量%でもよいが、あるいは、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが好ましい。
【0026】
ゴム成分を構成するゴムの好ましい組合せとしては、イソプレン系ゴムとスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分が挙げられ、とりわけ、イソプレン系ゴムとスチレンブタジエンゴムのみからなるゴム成分が好ましい。
【0027】
<液状イソプレン系ポリマー>
コード被覆用ゴム組成物の液状イソプレン系ポリマーは、その数平均分子量(Mn)が100000(10万)以下である。分子量が100000超になると、比較的高分子になるため、液状イソプレン系ポリマーがゴム成分の分子間へ入りにくくなるため、十分な効果が期待できなくなる。Mnは9万以下がより好ましく、8万以下がさらに好ましい。ここで、Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定され、標準ポリスチレンより換算される値である。なお、本明細書における液状イソプレン系ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のイソプレン系ポリマーである。
【0028】
液状イソプレン系ポリマーのMnについて、特に下限はないが、例えば、5000以上であることで耐屈曲疲労性等によい影響が期待できるので好ましい。Mnは、5500以上がより好ましい。
【0029】
液状イソプレン系ポリマーとしては、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)および液状イソプレンブタジエン共重合体(液状IRBR)などが挙げられる。これらのうち、液状IRBRが好ましい。液状イソプレン系ポリマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
液状イソプレン系ポリマーは、水素添加されたものでもよく、カルボキシ基等の官能基で官能基化されたものでもよい。また、液状イソプレン系ポリマーが共重合体である場合、各モノマーのランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。上記液状イソプレン系ポリマーは、特に断りのない限り、これらのいずれのものをもすべて含む。
【0031】
液状イソプレン系ポリマーとしては、例えば、(株)クラレによって、クラプレン(登録商標)の商品名の下、販売されている製品等をいずれも好適に用いることができる。より詳しくは、液状IRとしては、KL-10*(Mn:10000)、LIR-30(Mn:28000)、LIR-50(Mn:54000)などが挙げられる。液状SIRとしては、LIR-310(Mn:32000)などが挙げられる。LIR-310はブロック共重合体である。液状IRBRとしては、LIR-390(Mn:48000)などが挙げられる。LIR-390はブロック共重合体である。水素添加された液状イソプレン系ポリマーとしては、水素添加された液状IRであるLIR-290(Mn:31000)などが挙げられる。カルボキシ化された液状イソプレン系ポリマーとしては、カルボキシ化された液状IRであるLIR-410(Mn:30000)、LIR-403(Mn:34000)などが挙げられる。
【0032】
液状イソプレン系ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、好適な本実施形態の効果を得るとの観点から、0.1~20質量部の範囲である。該含有量は、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上、さらに好ましくは4.0質量部以上である。一方、該含有量は、好ましくは18質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは12質量部以下である。
【0033】
<充填剤>
コード被覆用ゴム組成物には、充填剤を含有させることができる。充填剤としては、通常のものをいずれも使用することができるが、そのような充填剤としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。
【0034】
(カーボンブラック)
カーボンブラックを含有させることで、被覆用ゴム組成物は、より良好な補強性を得ることができ、複素弾性率、低発熱性、破断時伸び、耐久性をバランスよく改善できる。
【0035】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、十分な補強性の観点から、40m2/g以上であることが好ましく、60m2/g以上であることがより好ましく、70m2/g以上であることがさらに好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、低燃費性、加工性(シート圧延性)等の観点から、125m2/g以下であることが好ましく、115m2/g以下であることがより好ましく、105m2/g以下であることがさらに好ましい。なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217、7頁のA法で測定される値である。
【0036】
カーボンブラックのDBP吸油量は、耐摩耗性の観点から、50ml/100g以上が好ましく、55ml/100g以上がより好ましく、60ml/100g以上がさらに好ましい。また、該DBP吸油量は、グリップ性能の観点から、250ml/100g以下が好ましく、200ml/100g以下がより好ましく、135ml/100g以下がさらに好ましく、100ml/100g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6217-4:2008に準じて測定される値である。
【0037】
カーボンブラックの含有量は、充分な補強性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。また、カーボンブラックの含有量は、低発熱性、破断時伸び、加工性(シート圧延性)、耐久性等の観点から、55質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
(シリカ)
シリカを含有させることで、破断時伸びや、コード接着性の向上に寄与し得る。
【0039】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0040】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破断時伸びが、耐久性等の観点から、80m2/g以上であることが好ましく、100m2/g以上であることがより好ましく、110m2/g以上であることがさらに好ましい。また、シリカのN2SAは、低燃費性、加工性(シート圧延性)等の観点から、250m2/g以下であることが好ましく、235m2/g以下であることがより好ましく、220m2/g以下であることがさらに好ましい。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0041】
前記シリカを含有する場合の含有量は、破断時伸び、耐久性等の観点から、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましい。また、シリカの含有量は、分散性、複素弾性率E*の観点から、17質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、13質量部以下であることがさらに好ましい。
【0042】
シリカおよびカーボンブラックを併用する場合の合計含有量は、破断時伸び、複素弾性率、フィラーの分散性等の観点から、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましい。また、この合計含有量は、低発熱性、破断時伸び等の観点から、60質量部以下であることが好ましく、55質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
<酸化亜鉛>
コード被覆用ゴム組成物には、酸化亜鉛を含有させることができる。酸化亜鉛としてはこの分野で通常使用するものをいずれも好適に使用することができる。酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上であり、より好ましくは2.5質量部以上である。一方、酸化亜鉛の含有量は、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下である。
【0044】
<メチレン供与体>
コード被覆用ゴム組成物には、メチレン供与体を含有させることができる。これにより、コードとゴムとの接着性をより強化することができる。メチレン供与体としては、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)の部分縮合物、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物などが挙げられる。なかでも、反応性が優れるという点からHMMMの部分縮合物が好ましい。
【0045】
メチレン供与体の含有量は、剛性の改善効果の観点から、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.10質量部以上がより好ましく、0.20質量部以上がさらに好ましい。また、メチレン基を供与する化合物の含有量は、剛性と低発熱性の観点から、0.5質量部以下が好ましく、0.4質量部以下がより好ましい。
【0046】
<その他の成分>
コード被覆用ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、シランカップリング剤、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0047】
(加硫剤)
加硫剤としては、硫黄を好適に使用できる。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。硫黄の含有量は、充分な湿熱耐剥離性、耐久性等の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3.0質量部以上、より好ましくは3.5質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは6.0質量部以下である。
なお、硫黄の含有量とは、硫黄分の含有量を意味する。
【0048】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、タイヤ工業の分野で通常使用されるものをいずれも好適に使用することができ、そのような加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物などが挙げられる。これらの加硫促進剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ゴム中への分散性、加硫物性の安定性の点から、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドなど〕、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンイミド(TBSI)、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)などが好ましく、TBBS、CBS、TBSI、DMがより好ましい。
【0049】
加硫促進剤の含有量は、好適な架橋密度、耐屈曲疲労性等の観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。
【0050】
<コード被覆用ゴム組成物>
コード被覆用ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。なお、混錬りは、まず、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練した後、該混練物に、加硫剤と加硫促進剤を加えて混練することが好ましい。
【0051】
コード被覆用ゴム組成物は、PET繊維で構成される有機繊維コードを被覆するゴム組成物として使用される。また、該有機繊維コードを該ゴム組成物で被覆して得られる複合体は、空気入りタイヤの補強層として、例えば、カーカス層、ブレーカー層、バンド層等として用いられる。なかでも、空気入りタイヤの基本骨格を形成し、かつ、タイヤ中に占める割合が大きいことから、カーカス層に用いることが好ましい。
【0052】
<空気入りタイヤ>
本実施形態の空気入りタイヤは、PET繊維で構成される有機繊維コードおよび上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、有機繊維コードを上記ゴム組成物で被覆して補強層であるタイヤ部材(例えば、カーカスなど)の形状に成形したのち、該タイヤ部材を他のタイヤ部材と貼りあわせて未加硫タイヤを成形し、その後、該未加硫タイヤを加硫することで空気入りタイヤを製造できる。
【0053】
本実施形態の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられ、特に、乗用車用タイヤとして好適に用いられる。
【0054】
<その他>
本明細書において、数値範囲を「1~100質量部」の如きに表記した場合、特に断りのない限り、両端の数値(前記においては、「1」と「100」)を含む意味である。
【実施例
【0055】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
以下に実施例および比較例において用いる各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR:住友化学(株)製のSBR1502(スチレン含量:23.5質量%)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN326(N2SA:81m2/g、DBP吸油量:75ml/100g)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛3号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
液状イソプレン系ポリマー1(液状IR):(株)クラレ製のKL-10*(Mn:10000)
液状イソプレン系ポリマー2(水添液状IR):(株)クラレ製のLIR-290(Mn:31000)
液状イソプレン系ポリマー3(液状IRBR、ブロック共重合体):(株)クラレ製のLIR-390(Mn:48000)
硫黄:四国化成工業(株)製の不溶性硫黄、ミュークロンOT-20(20%オイル処理)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維):ポリエチレンテレフタレート繊維(コード構造(dtex):1670T/2、総繊度:3340dtex、破断強度:5.0cN/dtex、中間伸度:3.5%、乾熱収縮率:2.8%、寸法安定性指数:6.3%、撚り係数:2000、伸び率の差(引張り試験における切断時の伸び率と切断時の引張り荷重の70%の荷重を負荷した際の伸び率との差):13.0%)
【0057】
<ゴム組成物の製造>
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄および加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練物を得る。次に、上記混錬り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。続いて上記未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、加硫ゴム組成物を得る。
【0058】
<空気入りタイヤの製造>
上記未加硫ゴム組成物を用いて、引き揃えたPET繊維を被覆し、未加硫の補強層を得る。上記未加硫の補強層をカーカス層として用い、他のタイヤ部材と貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃の条件下で35分間プレス加硫し、空気入りタイヤを製造する。
【0059】
<評価>
上記で得られる加硫ゴム組成物を用いて、以下の各試験を行うことで、表1に記載の各指数またはそれに近い値が得られる。
【0060】
(耐屈曲疲労性指数)
(株)上島製作所製の定応力/定歪み疲労試験機(FT-3100)を用い、ISO6943の方法に準拠して行う。上記加硫ゴム組成物からなるダンベル3号の試験片に対して、1Hz、30%の歪みを繰り返し与え続け、試験片が破断するまでの回数を測定し、測定結果を下記計算式により指数表示する。指数が大きいほど、耐屈曲疲労性が高く、耐久性に優れることを示す。
(耐屈曲疲労性指数)={(各配合の回数)/(基準比較例の回数)}×100
【0061】
(低発熱性指数)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、周波数10Hz、初期歪み10%および動歪2%の条件下で、70℃における各加硫ゴム組成物の損失正接tanδを測定し、測定結果を下記計算式により指数表示する。指数が大きいほど、発熱しにくいことを示す。
(低発熱性指数)={(基準比較例のtanδ)/(各配合のtanδ)}×100
【0062】
(接着性指数)
等間隔に並べたPET繊維コードを未加硫ゴムに埋設したPET繊維コード-ゴム複合体を160℃×20分間加硫し、試験サンプルを製作する。これをASTM D-2229-93aに準拠してPET繊維コードを引き抜き、そのときの引き抜き力を測定し、測定結果を下記計算式により指数表示する。指数が大きい程、引抜接着性に優れることを示す。
(接着性指数)={(各配合の引き抜き力)/(基準比較例の引き抜き力)}×100
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ブレーカー層
6 バンド層
図1