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特許7087586コード・ゴム組成物複合体、タイヤ及びコード・ゴム組成物複合体の製造方法
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  • 特許-コード・ゴム組成物複合体、タイヤ及びコード・ゴム組成物複合体の製造方法 図1
  • 特許-コード・ゴム組成物複合体、タイヤ及びコード・ゴム組成物複合体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】コード・ゴム組成物複合体、タイヤ及びコード・ゴム組成物複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/55 20060101AFI20220614BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20220614BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20220614BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
D06M15/55
B60C9/00 A
B60C9/00 B
B60C9/22 C
B60C9/22 D
D06M101:32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018069805
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178465
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 益任
(72)【発明者】
【氏名】紀田 擁軍
(72)【発明者】
【氏名】繆 冬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】前川 奈津希
【審査官】荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-283195(JP,A)
【文献】特開2010-137601(JP,A)
【文献】特開2003-055855(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165477(WO,A1)
【文献】特開2006-274528(JP,A)
【文献】特開2014-201607(JP,A)
【文献】繊維工学,Vol,21,No.7,1968年,p.458-463
【文献】日本ゴム協会誌,1970年,Vol.43,No.21,p.945-961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
B60C 9/00- 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維からなるコードに6.8×10-2N/tex以下の張力をかけながら接着剤組成物による処理を施すこと、及び
前記接着剤組成物による処理を施したコードをゴム組成物で被覆することを有する方法により得られ、
前記接着剤組成物による処理を施したコードは、2%伸長時の弾性率が6000MPa以上であり、
前記接着剤組成物による処理は、
(1)第一処理剤として、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で前記有機繊維からなるコードを処理した後、
(2)第一処理剤で処理した前記有機繊維からなるコードをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第二処理剤で処理することである、有機繊維からなるコードとゴム組成物とが一体となったコード・ゴム組成物複合体。
【請求項2】
前記接着剤組成物は、重量平均分子量が600以上のエポキシ化合物を含むものである、請求項1に記載のコード・ゴム組成物複合体。
【請求項3】
前記有機繊維がポリエステル繊維である、請求項1または2に記載のコード・ゴム組成物複合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコード・ゴム組成物複合体を、ジョイントレスバンドとして用いたタイヤ。
【請求項5】
有機繊維からなるコードに6.8×10-2N/tex以下の張力をかけながら接着剤組成物による処理を施すこと、及び
前記接着剤組成物による処理を施したコードをゴム組成物で被覆することを有し、
前記接着剤組成物による処理を施したコードは、2%伸長時の弾性率が6000MPa以上であり、
前記接着剤組成物による処理は、
(1)第一処理剤として、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で前記有機繊維からなるコードを処理した後、
(2)第一処理剤で処理した前記有機繊維からなるコードをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第二処理剤で処理することである、有機繊維からなるコードとゴム組成物とが一体となったコード・ゴム組成物複合体の製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ化合物は、重量平均分子量が600以上である、請求項5に記載のコード・ゴム組成物複合体の製造方法。
【請求項7】
前記有機繊維がポリエステル繊維である、請求項5に記載のコード・ゴム組成物複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コード・ゴム組成物複合体、タイヤ及びコード・ゴム組成物複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維やナイロン繊維等の各種繊維からなるコードは、タイヤの補強材として従来から広く使用されており、要求性能、各種部材等に適合するよう使い分けがなされている。例えば、ポリエステル繊維からなるコードは、優れた力学特性(例えば、弾性率が高い)と優れた寸法安定性を有する。しかし、その一方で、ナイロン繊維からなるコードに比べタイヤの材料であるゴムとの接着性、特にゴム配合物中に埋め込まれた状態で長時間高温に曝露された場合の接着力低下が著しいという欠点を持つ。
【0003】
特許文献1では、ポリエステル繊維を、キャリアーを含む処理液、ブロックドイソシアネート水溶液、エポキシ樹脂の分散液、およびレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)接着剤を用いて処理することによって、耐熱接着性が改善すると提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、ポリエステル繊維をポリエポキシド化合物、ブロックドポリイソシアネート化合物、ケイ酸塩化合物、およびエチレン系不飽和酸変性スチレン・ブタジエンゴムラテックスを配合してなる接着処理剤で処理することによって、高温下における接着劣化が少なくなると提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-212875号公報
【文献】特開2008-169504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれも十分な耐熱接着性を有しているとは言えない。このような事情のもと、本発明は、高温にさらされても、コードとゴム組成物とが高い接着力を保つことができる、耐熱接着性に優れたコード・ゴム組成物複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一は、有機繊維からなるコードに6.8×10-2N/tex以下の張力をかけながら接着剤組成物による処理を施すこと、及び前記接着剤組成物による処理を施したコードをゴム組成物で被覆することを有する方法により得られ、前記接着剤組成物による処理を施したコードは、2%伸長時の弾性率が6000MPa以上である、有機繊維からなるコードとゴム組成物とが一体となったコード・ゴム組成物複合体に関する。
【0008】
前記接着剤組成物は、重量平均分子量が600以上のエポキシ化合物を含むものであることが好ましい。
【0009】
前記有機繊維がポリエステル繊維であることが好ましい。
【0010】
本発明の第二は、前記コード・ゴム組成物複合体を、ジョイントレスバンドとして用いたタイヤに関する。
【0011】
本発明の第三は、有機繊維からなるコードに6.8×10-2N/tex以下の張力をかけながら接着剤組成物による処理を施すこと、及び前記接着剤組成物による処理を施したコードをゴム組成物で被覆することを有し、前記接着剤組成物による処理を施したコードは、2%伸長時の弾性率が6000MPa以上である、有機繊維からなるコードとゴム組成物とが一体となったコード・ゴム組成物複合体の製造方法。
【0012】
前記接着剤組成物による処理は、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で前記有機繊維からなるコードを処理することであることが好ましい。
【0013】
前記接着剤組成物による処理は、(1)第一処理剤として、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で前記有機繊維からなるコードを処理した後、(2)第一処理剤で処理した前記有機繊維からなるコードをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第二処理剤で処理することであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温にさらされても、コードとゴム組成物とが高い接着力を保ことができる、耐熱接着性に優れたコード・ゴム組成物複合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】有機繊維からなるコードの接着剤組成物による処理方法の一例を示す図である。
図2】タイヤの実施形態の一例を示す図である。
図3】ジョイントレスバンドの実施形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[コード・ゴム組成物複合体]
以下、本発明の好ましい実施の形態の一例を具体的に説明する。本開示のコード・ゴム組成物複合体は、有機繊維からなるコードに6.8×10-2N/tex以下の張力をかけながら接着剤組成物による処理を施すこと、及び前記接着剤組成物による処理を施したコードをゴム組成物で被覆することを有する方法により得られ、前記接着剤組成物による処理を施したコードは、2%伸長時の弾性率が6000MPa以上である。
【0017】
2%伸長時の弾性率は、次の方法により測定することができる。JIS L 1017に規定される引張り強さ及び伸び率の測定と同様な方法で試験を行い、得られる荷重-伸長曲線において2%伸長時の接線傾きを算出する。
【0018】
また、コード・ゴム組成物複合体とは、有機繊維からなるコードとゴム組成物とが、接着等により一体となった状態にあるものをいう。
【0019】
(コード)
本開示のコード・ゴム組成物複合体に用いるコードは有機繊維からなる。コードとは、1本以上のフィラメント糸を撚り合わせて得られるものをいい、例えば、タイヤ;各種のホース類;並びにタイミングベルト、コンベアベルト及びVベルト等の回転を伝達するためのベルト類等の補強材として通常使用されるコードが挙げられる。
【0020】
また、有機繊維繊維の種類としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維;ナイロン繊維;レーヨン繊維;ビニロン繊維;アラミド繊維;及びポリウレタン繊維等が挙げられる。
【0021】
これらの有機繊維のうち、弾性率が比較的高いため、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維を用いることが好ましい。
【0022】
ポリエステル繊維からなるコード(ポリエステルコード)としては、例えば、i)1100デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本または3本合わせて(言い換えれば、1100/2デシテックス、又は1100/3デシテックス)、10~60回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重44Nをかけた際の中間伸度4.30%)や、ii)1670デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、1670/2デシテックス)、20~50回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重66Nをかけた際の中間伸度4.30%)が使用され得る。なお、中間伸度とは、JIS L1017の「一定荷重時伸び率」の試験方法に準拠して求めることができる。
【0023】
ナイロン繊維からなるコード(ナイロンコード)としては、例えば、i)940デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、940/2デシテックス)、31~48回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重44Nをかけた際の中間伸度8.80%)や、ii)1400デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、1400/2デシテックス)30~51回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重66Nをかけた際の中間伸度8.80%)が使用され得る。
【0024】
レーヨン繊維からなるコード(レーヨンコード)としては、例えば、1840デシテックスのマルチフィラメントを、それぞれ2本合わせて(言い換えれば、1840/2デシテックス)、20~50回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重44Nをかけた際の中間伸度4.80%)が使用され得る。
【0025】
アラミド繊維からなるコード(アラミドコード)としては、例えば、1670デシテックスの芳香族ポリアミドマルチフィラメント(デュポン社製ケブラー)を、それぞれ2本または3本合わせて(言い換えれば、1670/2デシテックス、又は1670/3デシテックス)、30~78回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重44Nをかけた際の中間伸度0.7~1.5%)が使用され得る。
【0026】
ポリエステル繊維及びナイロン繊維からなるコード(ポリエステル-ナイロンハイブリッドコード)としては、例えば、1440デシテックスのポリエステルマルチフィラメント及び1440デシテックスのナイロンマルチフィラメントを2本合わせて(言い換えれば、1440-P/1400-Nデシテックス)、30~38回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重44Nをかけた際の中間伸度4.40%、一定荷重66Nをかけた際の中間伸度6.30%)が使用され得る。
【0027】
アラミド繊維及びナイロン繊維からなるコード(アラミド-ナイロンハイブリッドコード)としては、例えば、1100デシテックスのアラミドマルチフィラメント及び940デシテックスのナイロンマルチフィラメントを2本合わせて(言い換えれば、1100-K/940-Nデシテックス)、42回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対方向に同数の上撚をかけたもの(一定荷重44Nをかけた際の中間伸度3.60%)が使用され得る。
【0028】
(ゴム組成物)
本開示のコード・ゴム組成物複合体に用いるゴム組成物としては、ゴム成分を含むものであれば特に限定されない。
【0029】
ゴム成分としては、天然ゴム、ポリイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、及びアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等の共役ジエン系重合体;並びにエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)等の非ジエン系重合体が挙げられる。各種ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、機械的強度、耐リバージョン、耐熱、耐亀裂成長性に優れることから、SBR及び/またはポリイソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0030】
ポリイソプレン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム等が挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、NR及びIRが好ましく、破断伸び及び破断強度に優れることからNRがより好ましい。
【0031】
ブタジエンゴム(BR)としては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、LANXESS社製のBUNA CB 25、BUNA CB 24等のNd系触媒を用いて合成したBR等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。
【0032】
スチレンブタジエンゴム(SBR)としては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン等により変性された変性SBR等が挙げられる。なかでも、高分子量ポリマー成分が多く、破断時伸びに優れるという理由から、E-SBRが好ましい。
【0033】
(ゴム組成物の任意成分)
ゴム組成物には、本発明の目的、効果を妨げない範囲内において、必要に応じて、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、硫黄及びカーボンブラック等の強度向上剤;クレー等の補強用充填剤、シランカップリング剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、各種老化防止剤、アロマオイル等のオイル、ワックス、加硫促進剤、加硫促進助剤等を適宜配合することができる。
【0034】
ゴム組成物には、カーボンブラックを配合することにより、より良好な補強性が得られ、複素弾性率、低発熱性、破断時伸び、耐久性をバランスよく改善できる。
【0035】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、38m/g以上が好ましく、60m/g以上がより好ましく、90m/g以上がさらに好ましい。カーボンブラックのNSAが38m/g未満の場合は、充分な補強性が得られず、硬度、破断時伸び(新品時、熱酸化劣化後)が低下する傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは、125m/g以下が好ましく、115m/g以下がより好ましい。125m/gを超える場合は、低燃費性、加工性(シート圧延性)が低下する傾向がある。なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217、7頁のA法で測定される
値である。
【0036】
前記カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。カーボンブラックの含有量が10質量部未満の場合は、ゴム組成物は、充分な補強性が得られず複素弾性率が低下する傾向があり、破断時伸びが充分に得られず耐久性が低下する傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、55質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量が55質量部を超える場合は、ゴム組成物の低発熱性、破断時伸び、加工性(シート圧延性)、耐久性が低下する傾向がある。
【0037】
(接着剤組成物による処理)
まず、有機繊維からなるコードに6.8×10-2N/tex以下の張力をかけながら接着剤組成物による処理を施すことについて詳述する。
【0038】
コードにかける張力は、6.8×10-2N/tex以下であるところ、6.5×10-2N/tex以下が好ましく、6.0×10-2N/tex以下がより好ましく、5.7×10-2N/tex以下が更に好ましく、4.5×10-2N/tex以下が最も好ましい。下限値は特に限定されるものではないが、コード製造時にすだれ形状を安定させる観点からは、例えば、3.5×10-2N/tex以上であってよい。
【0039】
このような張力をコードにかけることにより、コードへの接着剤組成物の浸透度を高くできるため、コードとゴム組成物とが高い接着力を有し、さらに、耐熱接着性にも優れたコード・ゴム組成物複合体を得ることができる。
【0040】
コードへ張力をかける方法としては、例えば、複数のローラーに速度差をつける等が挙げられる。
【0041】
接着剤組成物による処理とは、接着剤組成物に含まれる各種成分を有機繊維からなるコードに付着させるために行われる処理、及びその後の加熱処理を含むものである。
【0042】
付着方法としては、例えば、ローラーを使った塗布、ノズルからの噴霧、浴液(接着剤組成物)への浸漬等任意の方法を用いることができる。均一に付着させ、かつ余分な接着剤を除去する観点から、浸漬による付着が好ましい。
【0043】
また、コードへの付着量を調整するために、圧接ローラーによる絞り、スクレイパー等によるかき落とし、空気吹き付けによる吹き飛ばし、吸引、ビーターによる叩き等の手段をさらに採用してもよい。特に、浸漬の後、さらに圧接ローラーによる絞り工程を行うことが好ましい。
【0044】
加熱方法としては、例えば、接着剤組成物が付着したコードを100℃以上250℃以下で1分以上5分以下乾燥処理した後、さらに、150℃以上250℃以下で1分以上5分以下で熱処理を行う方法が挙げられる。乾燥処理後の熱処理の条件としては、180℃以上240℃以下で1分以上2分以下であることが好ましい。特に、乾燥処理後の熱処理において、温度が低すぎると、ゴムに対する接着力が不十分となることがあり、高すぎるとコードが劣化し、強度低下の原因となることがあるためである。
【0045】
(接着剤組成物)
接着剤組成物は、特に限定されるものではないが、重量平均分子量が600以上のエポキシ化合物を含むものであることが好ましい。高分子量なエポキシを使用することで高弾性率なコードが得られるためである。
【0046】
エポキシ化合物の重量平均分子量は、900以上が好ましく、1000以上がより好ましい。重量平均分子量の上限値は特に限定されないが、高分子量化に伴って水溶液の粘度が上昇し、付着量の制御や設備の清掃がし難くなる為、3000以下であってよい。この範囲とすることにより、接着剤組成物による処理を施したコードの2%伸長時の弾性率を高くすることができる。
【0047】
エポキシ化合物の重量平均分子量は、ポリスチレン換算ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定できる。
【0048】
エポキシ化合物は、分子内にエポキシ基を有する化合物である。エポキシ化合物として、ソルビトールポリグリシジルエーテルを用いる。ソルビトールポリグリシジルエーテルとしては、ソルビトールジグリシジルエーテル、ソルビトールトリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールペンタグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、又はこれらの混合物を用いることができ、ソルビトールモノグリシジルエーテルが含まれていてもよい。ソルビトールポリグリシジルエーテルは、1分子中に多数のエポキシ基を有しており、高い架橋構造を形成することができるため、接着性に優れる。
【0049】
接着剤組成物による処理は、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で有機繊維からなるコードを処理することであってよい。
【0050】
ブロックドイソシアネートは、イソシアネート化合物とブロック剤との反応により生成し、ブロック剤由来の基により一時的に不活性化されている化合物であり、所定温度で加熱するとそのブロック剤由来の基が解離し、イソシアネート基を生成する。
【0051】
イソシアネート化合物としては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するものを用いることができる。2個のイソシアネート基を有するジイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、及びこれらの異性体、アルキル置換体、ハロゲン化物、ベンゼン環への水素添加物等が使用できる。さらに、3個のイソシアネート基を有するトリイソシアネート類、4個のイソシアネート基を有するテトライソシアネート類、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等を使用することもできる。これらのイソシアネート化合物は、1種単独で又は2種以上併用することができる。
【0052】
これらの中でも特に、工業的に入手しやすく、得られる処理後の接着剤組成物の耐熱接着性が良好なものとなるため、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが好ましい。
【0053】
ブロック剤としては、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等のラクタム系;フェノール、クレゾール、レゾルシノール、キシレノール等のフェノール系;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール等のアルコール系;ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系等を挙げることができる。なかでも、比較的低温で迅速にイソシアネート化合物から乖離するため、ラクタム系、フェノール系、オキシム系ブロック剤が好ましい。
【0054】
本開示の接着剤組成物におけるブロックドイソシアネートの含有量は、エポキシ化合物100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下が好ましく、200質量部以上400質量部以下がより好ましい。この範囲とすることにより、コードとゴムとの優れた耐熱接着性が得られる。50質量部未満であると、架橋不足となり、接着力や耐熱性の低下の原因となることがあり、500質量部を超えると、コードが硬くなり過ぎたり、耐疲労性が低下することがあるため好ましくない。ブロックドイソシアネートの含有量は、コードを接着しようとするゴムの種類に応じて適宜調整することができる。
【0055】
接着剤組成物には、本発明の目的、効果を妨げない範囲内において、必要に応じて以下の任意成分が含まれていても良い。例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル以外のエポキシ化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテルと共重合可能な樹脂、ブロックドイソシアネート以外の硬化剤、有機増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、接着性向上剤、補強剤、軟化剤、着色剤、レベリング剤、難燃剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0056】
ソルビトールポリグリシジルエーテル以外のエポキシ化合物として、例えば、エチレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、及びブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、及びダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル;トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒンダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、及びテトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン;並びに3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等が挙げられる。
【0057】
(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物のコードへの付着量は、0.2質量%以上1.8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。0.2質量%未満であると、付着量が不足し、十分な接着力が得られなくなることがあり、1.8質量%を超えると、コードへの接着剤組成物の付着量が多くなり過ぎ、コードが硬くなり過ぎたり、コードや処理装置にゲル物が生じることがあるためである。ここで、付着量の単位[質量%]は、コードの質量を100として得られる組成物中の固形分の質量である。
【0058】
(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物の全固形分濃度は、十分な接着力を得つつも、得られるコードが硬くなり過ぎないようにするため、0.9質量%以上8.1質量%以下が好ましく、2.3質量%以上6.5質量%以下がより好ましい。
【0059】
接着剤組成物による処理は、(1)第一処理剤として、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で前記コードを処理した後、(2)第一処理剤で処理したコードをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第二処理剤で処理することであってよい。
【0060】
(1)第一処理剤として、(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物で前記コードを処理することについては、先述のとおりである。
【0061】
(2)第一処理剤で処理したコードをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第二処理剤で処理する工程について詳述する。
【0062】
第二処理剤は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む組成物である。
【0063】
レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物、及びゴムラテックスを混合熟成することにより調製することができる。
【0064】
レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物は、レゾルシンモノマーとホルムアルデヒドモノマーとを塩酸や硫酸等の酸性触媒、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、またはアンモニア存在下、水中で反応させて縮合させることにより得られる。
【0065】
初期縮合物としてはレゾルシンモノマーとホルムアルデヒドモノマーのモル比は、1:0.1~1:8が好ましく、1:0.5~1:5がより好ましく、1:1~1:4がさらに好ましい。
【0066】
ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン共重合体ラテックス等を用いることができる。レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)において、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物とゴムラテックスの比率は、固形分量比で、1:1~1:15が好ましく、1:3~1:12がより好ましい。
【0067】
これらは単独で又は2種以上の混合物として使用することができる。特に、天然ゴムやSBR(スチレンブタジエンゴム)に対して高い接着力が得られるため、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン共重合体ラテックスが好ましい。
【0068】
なお、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物は、レゾルシンモノマー、ホルムアルデヒドモノマー、微量の分子量調整剤(例えば、塩化カルシウム等)、溶剤(例えば、MEK:メチルエチルケトン等)等を含むことができる。
【0069】
第一処理剤で処理したコードをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む第二処理剤で処理するとは、第二処理剤を第一処理剤で処理したコードに付着させるために行われる処理であり、第一処理剤でコードを処理する際と同様の手段及び条件で行い得る。第二処理剤で処理する場合においても、付着方法としては、均一に付着させ、かつ余分な接着剤を除去する観点から、浸漬による付着が好ましい。
【0070】
また、コードへの付着量を調整するために、圧接ローラーによる絞り、スクレイパー等によるかき落とし、空気吹き付けによる吹き飛ばし、吸引、ビーターによる叩き等の手段をさらに採用してもよい。特に、浸漬の後、さらに圧接ローラーによる絞り工程を行うことが好ましい。
【0071】
第二処理剤のコードへの付着量は、1.0質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下がより好ましい。1.0質量%未満であると、付着量が少なく、接着力不足となることがあり、5.0質量%を超えると、コードが硬くなり、屈曲疲労強度等が低くなることがあるためである。なお、第二処理剤のコードへの付着量[質量%]は、コードの質量を100として得られる第二処理剤中の固形分の質量を示す。
【0072】
第二処理剤の全固形分濃度は、十分な接着力を得つつも、得られるコードが硬くなり過ぎないようにするため、0.9質量%以上29質量%以下が好ましく、14質量%以上23質量%以下がより好ましい。
【0073】
第二処理剤には、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物とゴムラテックスの他に、加硫調整剤、亜鉛華、酸化防止剤、消泡剤等を添加してもよい。
【0074】
本開示の有機繊維からなるコードの接着剤組成物による処理方法の一例を図面を参照しつつ詳述する。図1には、有機繊維からなるコードを接着剤組成物による処理を行う一連の工程が示されている。図1において、回転速度の異なるローラーr2及びローラーr5によってコードに張力をかけながら、そのコードを第一ディップ浴槽DP1に入った(a)エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルと、(b)ブロックドイソシアネートとを含む接着剤組成物(第一処理剤)に浸漬する。次に、接着剤組成物(第一処理剤)が付着したコードをヒーター(オーブン)H1~H3により乾燥処理及び熱処理を行う。
【0075】
その後、回転速度の異なるローラーr27及びローラーr46によりコードに張力をかけながら、そのコードを第二ディップ浴槽DP2に入ったレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む処理剤(第二処理剤)に浸漬する。次に、処理剤(第二処理剤)が付着したコードをヒーター(オーブン)H4~H6により乾燥処理及び熱処理を行う。
【0076】
[用途]
本開示のコード・ゴム組成物複合体は、タイヤ、各種のホース類、又は回転を伝達するためのベルト類等として用いることができる。具体的には、例えば、コードをタイヤ、各種のホース類、又は回転を伝達するためのベルト類の内部に備えた構成とすることができる。コードはこれらの補強材として用いることができる。
【0077】
本開示のコード・ゴム組成物複合体は、高温にさらされてもコードとゴム組成物とが、高い接着力を保ことができ、耐熱接着性に優れるため、長時間高温に曝露される環境で使用されるタイヤに好ましく用いることができる。特にタイヤのジョイントレスバンド、カーカスプライ、またはフィラー等として用いることが好適である。
【0078】
ジョイントレスバンドは、後述のとおり、車両の走行時のタイヤ回転に伴う遠心力によってブレーカー(ベルトとも言う)がカーカスから浮き上がるのを抑制するために、ブレーカーのタイヤ半径方向外側に設けられる部材である。なお、ブレーカーとは、タイヤのトレッドの内部で、かつカーカスの半径方向外側に配される部材である。
【0079】
カーカスプライまたはカーカスとは、タイヤのトレッドの内部で、かつインナーライナーの半径方向外側に配される部材である。ここで、特に、2枚以上のカーカスプライにより構成されるものをカーカスという。なお、インナーライナーとは、タイヤ内腔面をなすように形成される部材であり、この部材により、空気透過量を低減して、タイヤ内圧を保持することができる。
【0080】
チェーファーとは、タイヤのビード部に位置してホイールのリムに当接し、リムとの摩擦からタイヤ内部のカーカスプライまたはカーカスを保護する部材である。
【0081】
フィラーとは、タイヤのビード部に配され、ビード部の剛性を高める部材である。
【0082】
本開示のコードを用いたタイヤの実施形態の一例を図面を参照しつつ詳述する。図2には、空気入りタイヤ2が示されている。図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の回転軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図2において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0083】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のチェーファー7、一対のビード8、インナーライナー9、カーカス10、ベルト12、一対のフィラー13、及びジョイントレスバンド14を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
【0084】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面16を形成する。トレッド4には、溝18が刻まれている。この溝18により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、耐摩耗性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。
【0085】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6の半径方向外側端は、トレッド4と接合されている。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。
【0086】
それぞれのチェーファー7は、ビード8の近傍に位置している。タイヤ2がリム(ホイールの一部であり、タイヤが組み合わされている部分である。図示しない)に組み込まれると、チェーファー7はリムと当接する。この当接により、ビード8の近傍が保護される。
【0087】
チェーファー7に用いられるコードは、接着剤組成物で処理されたコードからなる。コードに用いられる好ましい有機繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維;ナイロン繊維;レーヨン繊維;及びアラミド繊維が例示される。
【0088】
それぞれのビード8は、サイドウォール6の軸方向内側に位置している。ビード8は、コア20と、このコア20から半径方向外向きに延びるエイペックス22とを有している。コア20はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス22は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス22は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0089】
インナーライナー9は、タイヤ内腔面をなすように形成される。インナーライナー9は、空気透過性を抑えた架橋ゴムにより形成される。
【0090】
カーカス10は、カーカスプライ10aとカーカスプライ10bとの2枚のプライにより構成される。カーカスプライ10a及びカーカスプライ10bは、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。カーカスプライ10a及びカーカスプライ10bは、コア20の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。カーカスプライ10a及びカーカスプライ10bは、それぞれ周方向に並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカスプライ10a及びカーカスプライ10bはラジアル構造を有する。カーカス10は、2枚の他、1枚または3枚以上のカーカスプライから形成されてもよい。
【0091】
カーカスプライ10a及びカーカスプライ10bに用いられるコードは、接着剤組成物で処理されたコードからなる。コードに用いられる好ましい有機繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維;ナイロン繊維;レーヨン繊維;及びアラミド繊維が例示される。
【0092】
ベルト12は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト12は、カーカス10と積層されている。ベルト12は、カーカス10を補強する。ベルト12は、内側層24及び外側層26からなる。図2から明らかなように、軸方向において、内側層24の幅は外側層26の幅よりも若干大きい。図示されていないが、内側層24及び外側層26のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層24のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層26のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードとしては、スチールコードの他、有機繊維が用いられてもよい。
【0093】
それぞれのフィラー13は、タイヤのビード部に配される。それぞれのフィラーは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。
【0094】
フィラー13に用いられるコードは、接着剤組成物で処理されたコードからなる。複数の有機繊維が撚られることでコードが形成される。コードに用いられる好ましい有機繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維;ナイロン繊維;レーヨン繊維;及びアラミド繊維が例示される。
【0095】
ジョイントレスバンド14は、ベルト12の半径方向外側に位置している。軸方向において、ジョイントレスバンド14の幅はベルト12の幅よりも大きい。ジョイントレスバンド14は、ベルト12を補強する。
【0096】
図3には、ジョイントレスバンド14を構成するリボン28が示されている。このリボン28は、2本のコード30と、トッピングゴム32とを有している。このリボン28が周方向に螺旋状に巻かれることで、ジョイントレスバンド14が形成される。このジョイントレスバンド14は、いわゆるジョイントレス構造を有する。それぞれのコード30は、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコード30の角度は、5°以下が好ましく、2°以下が特に好ましい。このコード30によりベルト12が拘束されるので、ベルト12のリフティングが抑制される。リボン28におけるコード30の数は、1本でもよく、3本以上でもよい。
【0097】
それぞれのコード30は、接着剤組成物で処理されたコードからなる。複数の有機繊維が撚られることで、コード30が形成されている。このコード30を含むタイヤは、耐熱性及び耐久性に優れる。コード30を形成する好ましい有機繊維としては、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル繊維;ナイロン繊維;レーヨン繊維;及びアラミド繊維等が例示される。
【実施例
【0098】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0099】
実施例及び比較例における接着性の評価は、次の方法により行った。
<初期接着力>
処理されたコードを天然ゴムを主成分とする未加硫ゴム中に埋め込み、150℃,30分間プレス加硫し、次いでコードをゴムブロックから100mm/分の速度で引き抜き、引き抜きに要した力(N/cm)を測定した。結果は、比較例1の初期接着力(N/cm)を100とした相対値(指数)にて表示し接着性を評価した。
【0100】
天然ゴムを主成分とする未加硫ゴムの組成は、次のとおりである。
天然ゴムとしてTSR20(TSRはTchnically Specitied Rubberの略):60質量部
スチレンブタジエンゴムとしてSBR 1502:40質量部
補強剤として「シースト300」(東海カーボン株式会社製):50質量部
軟化剤として鉱物油:2質量部
老化防止剤として「ROBO RD」(大内新興化学工業株式会社製):1質量部
ステアリン酸:3質量部
酸化亜鉛:6質量部
粉末硫黄(鶴見化学工業株式会社製):4質量部
促進剤として「ノクセラーNS」(大内新興化学工業株式会社製:N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):1.0質量部
【0101】
<耐熱接着力>
処理されたコードを天然ゴムを主成分とする未加硫ゴム中に埋め込み、170℃,90分間プレス加硫し、次いでコードをゴムブロックから100mm/分の速度で引き抜き、引き抜きに要した力(N/cm)を測定した。結果は、比較例1の初期接着力(N/cm)を100とした相対値(指数)にて表示し接着性を評価した。
【0102】
天然ゴムを主成分とする未加硫ゴムの組成は、次のとおりである。天然ゴムとしてTSR20(TSRはTchnically Specitied Rubberの略):60質量部
スチレンブタジエンゴムとしてSBR 1502:40質量部
補強剤として「シースト300」(東海カーボン株式会社製):50質量部
軟化剤として鉱物油:2質量部
老化防止剤として「ROBO RD」(大内新興化学工業株式会社製):1質量部
ステアリン酸:3質量部
酸化亜鉛:6質量部
粉末硫黄(鶴見化学工業株式会社製):4質量部
促進剤として「ノクセラーNS」(大内新興化学工業株式会社製:N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):1.0質量部
【0103】
<2%伸長時の弾性率>
JIS L 1017に規定される引張り強さ及び伸び率の測定と同様な方法で試験を行い、得た荷重-伸長曲線において2%伸長時の接線傾きを算出した。
【0104】
(実施例1)
エポキシ化合物として、ETC-N615(ソルビトールポリグリシジルエーテル、重量平均分子量950、エポキシ当量:163、ナガセケムテックス(株)製)11.8gを水920gに撹拌しながら加え、そこへブロックドイソシアネートとして、ε-カプロラクタムブロックジフェニルメタンジイソシアネート水分散体(54%濃度)72.1gを加え、第一処理剤としての接着剤組成物を調製した。
【0105】
ゴムラテックスとして、ニッポール2518FS(日本ゼオン株式会社製、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマー水乳化液、全固形分濃度40.5%)172g及びニッポールLX-112(日本ゼオン株式会社製、スチレン・ブタジエンコポリマー41%水乳化液、全固形分濃度40.5%)73gを水76gで希釈し、この希釈液の中にレゾルシン・ホルマリンとして、レゾルシン・ホルマリン初期縮合分散液270g(レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は、1:1.5、全固形分濃度6.5%)をゆっくりかきませながら加え、RFL液を調製した。得られたRFL液を水591gで希釈し、第二処理剤(全固形分濃度10%)とした。
【0106】
コードとしてポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET))コード(コードの構成:1100/2(デシテックス)、コードの撚り数:26(回/10cm)、線径:0.54mm、エンズ:49本/5cm)を第一処理剤に浸漬した後、150℃で130秒間乾燥し、引き続き240℃で130秒間熱処理した。次いで、第二処理剤に浸漬した後、150℃で130秒間乾燥し、引き続き240℃で70秒間熱処理した。第一処理剤への浸漬、乾燥、熱処理、第二処理剤への浸漬、乾燥、及び熱処理の全体を通して、有機繊維からなるコードに5.7×10-2N/texの張力をかけながら接着剤組成物による処理を行った。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0107】
(実施例2)
エポキシ化合物として、EX-614B(ソルビトールポリグリシジルエーテル、重量平均分子量1020、エポキシ当量:173、ナガセケムテックス(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、有機繊維からなるコードを処理した。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0108】
(実施例3)
第一処理剤への浸漬、乾燥、熱処理、第二処理剤への浸漬、乾燥、及び熱処理の全体を通して、有機繊維からなるコードに2.7×10-2N/texの張力をかけながら接着剤組成物による処理を行った以外は、実施例1と同様にして、有機繊維からなるコードを処理した。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0109】
(比較例1)
エポキシ化合物として、EX-313(グリセロールポリグリシジルエーテル、重量平均分子量540、エポキシ当量:141、ナガセケムテックス(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、有機繊維からなるコードを処理した。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0110】
(比較例2)
第一処理剤への浸漬、乾燥、熱処理、第二処理剤への浸漬、乾燥、及び熱処理の全体を通して、有機繊維からなるコードに7.0×10-2N/texの張力をかけながら接着剤組成物による処理を行った以外は、実施例1と同様にして、有機繊維からなるコードを処理した。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0111】
(比較例3)
エポキシ化合物として、EX-313(グリセロールポリグリシジルエーテル、重量平均分子量540、エポキシ当量:141、ナガセケムテックス(株)製)を用い、第一処理剤への浸漬、乾燥、熱処理、第二処理剤への浸漬、乾燥、及び熱処理の全体を通して、有機繊維からなるコードに7.0×10-2N/texの張力をかけながら接着剤組成物による処理を行った以外は、実施例1と同様にして、有機繊維からなるコードを処理した。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0112】
(比較例4)
エポキシ化合物として、EX-614B(ソルビトールポリグリシジルエーテル、重量平均分子量1020、エポキシ当量:173、ナガセケムテックス(株)製)用い、第一処理剤への浸漬、乾燥、熱処理、第二処理剤への浸漬、乾燥、及び熱処理の全体を通して、有機繊維からなるコードに7.0×10-2N/texの張力をかけながら接着剤組成物による処理を行った以外は、実施例1と同様にして、有機繊維からなるコードを処理した。処理されたポリエステルコードについて、初期接着力、耐熱接着力及び2%伸長時の弾性率を測定した。結果は表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
比較例1においては、2%伸長時の弾性率が6000MPa未満となったポリエステルコードを用いたため、実施例1~3に比べ、得られたコード・ゴム組成物複合体は、初期接着力及び耐熱接着力のいずれも低い。
【0115】
比較例2~4においては、ポリエステルコードに6.8×10-2N/texを超える張力をかけながら接着剤組成物による処理を施したため、実施例1~3に比べ、得られたコード・ゴム組成物複合体は、初期接着力及び耐熱接着力のいずれも低い。
【0116】
一方、本開示のコード・ゴム組成物複合体は、初期接着力及び耐熱接着力のいずれも高く、耐熱接着性に優れることが確認された。
図1
図2
図3