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特許7088202変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、延伸多孔体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、延伸多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20220614BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20220614BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20220614BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F265/06
C08J3/16 CEW
C08J9/00 A CEW
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019545136
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035475
(87)【国際公開番号】W WO2019065638
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017187968
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】▲樋▼口 信弥
(72)【発明者】
【氏名】江畑 志郎
(72)【発明者】
【氏名】巨勢 丈裕
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504841(JP,A)
【文献】特開2017-057379(JP,A)
【文献】国際公開第2016/149238(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030094(WO,A1)
【文献】特開2015-045030(JP,A)
【文献】特開平06-263806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-2/60,
C08F265/06,
C08J3/16,
C08J9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体が存在する水性媒体中で、テトラフルオロエチレンを重合し、
前記非フッ素系単量体が、式(1)で表される単量体であり、
重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対する、前記重合体の割合が、0.001~0.050質量%であることを特徴とする変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
式(1) CH =CR -L-R
ただし、R は、水素原子またはアルキル基を表す。Lは、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR との結合位置を表す。R は、アルキル基を表す。
【請求項2】
前記重合体における非フッ素系単量体に基づく単位の含有割合が、前記重合体が含む単量体単位の全量に対して90~100質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
非フッ素系界面活性剤の存在下でテトラフルオロエチレンを重合する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非フッ素系界面活性剤が、炭化水素系界面活性剤である、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
水性媒体中の前記非フッ素系界面活性剤の量が、重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対する割合で表して、0.01~0.50質量%である、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項6】
安定化助剤の存在下でテトラフルオロエチレンを重合する、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
水性媒体中で前記非フッ素系単量体を重合し、次いで重合体を含む前記で得られた水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記非フッ素系単量体を重合した水性媒体に、重合開始剤を、重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対する前記重合開始剤の割合が0.10質量%以上となる量添加して、テトラフルオロエチレンを重合する、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
テトラフルオロエチレンを重合系に供給しながら重合を行い、テトラフルオロエチレンの供給の開始から終了までの間に、非フッ素系界面活性剤を重合系に添加する、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項10】
前記非フッ素系単量体を安定化助剤を含む水性媒体中で重合し、該安定化助剤を含む前記で得られた水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記安定化助剤がパラフィンワックスである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により、水性媒体中に変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子が分散している水性分散液を製造し、次いで、前記粒子を凝集させて変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末を製造する、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法により製造された変性ポリテトラフルオロエチレン粉末を、ペースト押出して押出ビードとし、次いで前記押出ビードを延伸して延伸多孔体を製造する、延伸多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、および、延伸多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンは、その優れた性質のため種々の用途に用いられている。
ポリテトラフルオロエチレンの製造方法の一つとして、テトラフルオロエチレンの乳化重合が挙げられる。乳化重合の際には、乳化剤としてフッ素原子を含むフッ素系界面活性剤が一般的に用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2009/137736号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、近年、環境問題の観点から、使用するフッ素系界面活性剤の種類が制限されており、将来的にはフッ素系界面活性剤を用いずにポリテトラフルオロエチレンを得るのが望まれている。
本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレンの新規な製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、および、延伸多孔体の製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記目的を達成できることを見出した。
【0006】
(1) 非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体が存在する水性媒体中で、テトラフルオロエチレンを重合することを特徴とする変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(2) 前記非フッ素系単量体が、式(1)で表される単量体である、(1)に記載の製造方法。
式(1) CH=CR-L-R
ただし、Rは、水素原子またはアルキル基を表す。Lは、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はRとの結合位置を表す。Rは、水素原子、アルキル基またはニトリル基を表す。
(3) 前記重合体における非フッ素系単量体に基づく単位の含有割合が、前記重合体が含む単量体単位の全量に対して90~100質量%である、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4) 重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対する、前記重合体の割合が、0.001~0.050質量%である、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5) 非フッ素系界面活性剤の存在下でテトラフルオロエチレンを重合する、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
【0007】
(6) 前記非フッ素系界面活性剤が、炭化水素系界面活性剤である、(5)に記載の製造方法。
(7) 水性媒体中の前記非フッ素系界面活性剤の量が、重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対する割合で表して、0.01~0.50質量%である、(5)または(6)に記載の製造方法。
(8) 安定化助剤の存在下でテトラフルオロエチレンを重合する、(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9) 水性媒体中で前記非フッ素系単量体を重合し、次いで重合体を含む前記で得られた水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する、(1)~(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10) 前記非フッ素系単量体を重合した水性媒体に、重合開始剤を、重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対する前記重合開始剤の割合が0.10質量%以上となる量添加して、テトラフルオロエチレンを重合する、(9)に記載の製造方法。
【0008】
(11) テトラフルオロエチレンを重合系に供給しながら重合を行い、テトラフルオロエチレンの供給の開始から終了までの間に、非フッ素系界面活性剤を重合系に添加する、(9)または(10)に記載の製造方法。
(12) 前記非フッ素系単量体を安定化助剤を含む水性媒体中で重合し、該安定化助剤を含む前記で得られた水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合する、(9)~(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13) 前記安定化助剤がパラフィンワックスである、(12)に記載の製造方法。
(14) (1)~(13)のいずれかに記載の方法により、水性媒体中に変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子が分散している水性分散液を製造し、次いで、前記粒子を凝集させて変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末を製造する、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法。
(15) (14)に記載の方法により製造された変性ポリテトラフルオロエチレン粉末を、ペースト押出して押出ビードとし、次いで前記押出ビードを延伸して延伸多孔体を製造する、延伸多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、変性ポリテトラフルオロエチレンの新規な製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、および、延伸多孔体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、単量体1分子に由来する原子団の総称である。
【0011】
本発明の変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」ともいう。)の製造方法の特徴点としては、非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体(以下、「特定重合体」ともいう。)の存在下にてテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)の重合を行う点が挙げられる。水性媒体中にてTFEの重合を行う際、特定重合体が後述する推定機構により、結果としてTFEの重合が良好に進行すると考えられる。本発明の製造方法によれば、フッ素系界面活性剤を用いずに、変性PTFEを製造できる。
特定重合体は、フッ素系界面活性剤に代わりに、生成するPTFE粒子の分散性等のフッ素系界面活性剤使用の場合の作用効果の少なくとも一部を代替すると推定される。TFEの重合の際には、さらに非フッ素系界面活性剤を用い、フッ素系界面活性剤使用の場合の作用効果の他の一部を代替することもできる。
【0012】
本発明における変性PTFE中の特定重合体の量は後述のようにごく少量(例えば、0.050質量%以下)であり、したがって、TFEをその中で重合させる特定重合体を含む水性媒体における特定重合体の量もまたごく少量である。したがって、TFEをその中で重合させる特定重合体を含む水性媒体は、水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体であることが好ましい。この場合、水性媒体中の特定重合体は、後述のように、粒子状形態で水性媒体中に分散していると考えられる。
TFEの重合に用いる特定重合体を含む水性媒体としては、水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体であってもよく、水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体をさらに水性媒体で希釈して得られる水性媒体であってもよい。
水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体をそのまま使用する場合、TFEを重合する重合系(重合容器内等)で非フッ素系単量体を重合し、引き続き同じ重合系でTFEの重合を行うことが好ましい。水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体を希釈して使用する場合は、同じ重合系でTFEの重合を行ってもよく、別の重合系でTFEの重合を行ってもよい。
【0013】
変性PTFEの製造方法の好適態様の一つとしては、以下の2つの工程を有する態様が挙げられる。
工程1:水性媒体中にて、非フッ素系単量体の重合を行い、特定重合体を含む水性媒体を得る工程
工程2:特定重合体を含む水性媒体中にて、TFEの重合を行い、変性PTFEを得る工程
前記のように工程1で得た特定重合体を含む水性媒体は、水性媒体で希釈して工程2の特定重合体を含む水性媒体として使用してもよい。また、工程2においてTFEの重合を始める前に、特定重合体を含む水性媒体に後述のような添加剤を添加してTFEの重合を行ってもよい。場合によっては、TFEの重合に使用される添加剤を工程1に使用される水性媒体に添加し、工程1で該添加剤と特定重合体を含む水性媒体を得て、得られた水性媒体を工程2の水性媒体として使用することもできる。
以下、上記好適態様を例として本発明を詳述する。
【0014】
<工程1>
以下では、まず、工程1で使用される材料について詳述し、その後、工程1の手順について詳述する。
(非フッ素系単量体)
非フッ素系単量体とは、フッ素原子を含まない単量体である。
非フッ素系単量体は、通常、重合性基を有し、重合性基の数は、1~3個が好ましく、1個がより好ましい。
重合性基としては、エチレン性不飽和基が好ましい。より具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、ビニル基、アリル基が挙げられ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエステル基、ビニルエーテル基が好ましい。
【0015】
非フッ素系単量体としては、式(1)で表される単量体が好ましい。
式(1) CH2=CR1-L-R2
1は、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1がより好ましい。
Lは、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR2との結合位置を表す。例えば、Lが-CO-O-*である場合、式(1)はCH2=CR1-CO-O-R2を表す。
2は、水素原子、アルキル基またはニトリル基を表す。
アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
アルキル基は、鎖状であっても、環状であってもよい。アルキル基が環状である場合、シクロアルキル基に該当する。
【0016】
式(1)で表される単量体としては、式(1-1)で表される単量体、式(1-2)で表される単量体、式(1-3)で表される単量体、および、式(1-4)で表される単量体からなる群から選択される単量体が好ましい。
式(1-1) CH2=CR1-CO-O-R3
式(1-2) CH2=CR1-O-CO-R4
式(1-3) CH2=CR1-O-R5
式(1-4) CH2=CR1-R6
1の定義は、上述した通りである。
3は、水素原子またはアルキル基を表し、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
4は、アルキル基を表し、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
5は、アルキル基を表し、直鎖状アルキル基または環状アルキル基が好ましい。
6は、ニトリル基を表す。
【0017】
非フッ素系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ビニルメタクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルが挙げられる。
非フッ素系単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
非フッ素単量体としては、前記式(1-1)で表される単量体および前記式(1-2)で表される単量体がより好ましく、R3がアルキル基である前記式(1-1)で表される単量体が特に好ましい。前記式(1-1)で表される単量体および前記式(1-2)で表される単量体は水親和性の基であるエステル基やカルボキシ基を有することより、該単量体やその重合体は水親和性を有する。したがって、特に低濃度では、該単量体やその重合体は、界面活性剤を必要とすることなく水性媒体中に安定に分散すると考えられる。
【0018】
(特定重合体)
特定重合体は、非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体から構成される。
特定重合体は、通常、非フッ素系単量体に基づく単位のみを含むが、本発明の効果を損なわない範囲でフッ素系単量体に基づく単位を含んでいてもよい。フッ素系単量体とは、フッ素原子を有する単量体であり、例えば、TFEが挙げられる。
工程1で特定重合体を含む水性媒体を製造し、工程1で使用した重合系中の特定重合体含有水性媒体中で引き続き工程2のTFEの重合を行う場合、重合途中の特定重合体や未反応非フッ素系単量体を含む特定重合体含有水性媒体が工程2で使用される場合がある。また、工程1の重合系中の雰囲気を、工程2を考慮してTFE含有雰囲気下で行うこともある。このような場合、工程2における特定重合体の一部はTFE単位を含む重合体となる場合があると考えられる。
また、別の見方からすれば、工程2で得られる変性PTFE粒子は、特定重合体とPTFEとの物理的混合物からなる粒子に限られず、非フッ素系単量体に基づく単位を有するTFE共重合体を含む粒子であるとも考えられる。
特定重合体中における非フッ素系単量体に基づく単位の含有量は、特定重合体の全単位に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0019】
(水性媒体)
水性媒体としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合物の場合、水溶性有機溶媒濃度は、10質量%以下が好ましい。
水性媒体としては、水のみであることが好ましい。
【0020】
(重合開始剤)
工程1では、重合開始剤を用いてもよい。つまり、非フッ素系単量体の重合の際に、重合開始剤を用いてもよい。
重合開始剤としては、水溶性ラジカル開始剤、水溶性酸化還元系触媒が好ましい。
水溶性ラジカル開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸過酸化物、ビスグルタル酸過酸化物、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の水溶性有機過酸化物が好ましい。
【0021】
水溶性酸化還元系触媒としては、臭素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過硫酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸またはその塩、亜硫酸水素またはその塩、チオ硫酸またはその塩、有機酸などの還元剤と、の組み合わせが好ましい。中でも、臭素酸またはその塩と、亜硫酸またはその塩、亜硫酸アンモニウムとの組み合わせ、過マンガン酸またはその塩、過マンガン酸カリウムと、シュウ酸との組み合わせがより好ましい。
【0022】
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム単独、または、過硫酸塩とジコハク酸過酸化物との混合系が好ましく、過硫酸アンモニウム単独、または、過硫酸アンモニウムとジコハク酸過酸化物との混合系がより好ましく、過硫酸アンモニウム単独がさらに好ましい。
重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、重合開始剤の仕込み方法としては、重合反応を開始する前にその全量を重合系に仕込んでおいてもよく、連続的または断続的に重合系に添加してもよい。
【0023】
(他の材料)
非フッ素系単量体の重合に供する水性媒体中には、上記以外の添加剤が含まれていてもよい。上記以外の添加剤としては、後述の工程2における水性媒体に含まれる添加剤であって、工程1における非フッ素系単量体の重合に支障をきたさない添加剤が挙げられる。そのような添加剤としては、例えば、安定化助剤や非フッ素系界面活性剤が挙げられる。
前記のように工程1で得られる水性媒体中の特定重合体の含有量はごく少量であり、非フッ素系界面活性剤を使用することなく、安定な特定重合体含有水性媒体が得られることより、工程1において非フッ素系界面活性剤の使用は必須ではない。
【0024】
(工程の手順)
工程1では、水性媒体中にて非フッ素系単量体の重合を行う。具体的には、非フッ素系単量体と水性媒体とを混合して、得られた混合液中にて非フッ素系単量体の重合を行うのが好ましい。
なお、非フッ素系単量体の仕込み方法としては、重合反応を開始する前に、その全量を重合系に仕込んでおく、初期一括添加が好ましい。
【0025】
非フッ素系単量体と水性媒体とを混合して得られる混合液中における非フッ素系単量体の含有量は、混合液全質量に対して、0.0005~0.0080質量%が好ましく、0.0005~0.0030質量%がより好ましい。非フッ素系単量体は通常その全量が重合して特定重合体となることより、得られた特定重合体含有水性媒体における特定重合体濃度は、上記数値範囲となる。
上記非フッ素系単量体濃度および特定重合体濃度は、得られた特定重合体含有水性媒体を水性媒体で希釈することなく工程2に使用する場合の濃度である。得られた特定重合体含有水性媒体を水性媒体で希釈して上記特定重合体濃度とし、その希釈液を工程2に使用する場合は、工程1で希釈倍率に応じた高濃度の特定重合体含有水性媒体を製造する。希釈倍率は特に限定されるものではないが、10倍以下が好ましい。
【0026】
重合開始剤の使用量は、非フッ素系単量体全量に対して、0.2~1000質量%が好ましく、0.2~500質量%がより好ましい。
【0027】
非フッ素系単量体の重合温度は、10~95℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。重合時間は、5~400分が好ましく、5~300分がより好ましい。
重合時の圧力条件は、減圧条件または常圧条件が好ましい。
また、重合時の雰囲気をTFE雰囲気として、重合を行ってもよい。なお、通常、水性媒体中での非フッ素系単量体の重合が、TFEの重合よりも優先して進行する。
【0028】
上記工程1により、特定重合体を含む水性媒体が得られる。特定重合体は粒子状で水性媒体中で分散いると考えられる。後述する工程2のTFEの重合の際に、特定重合体は乳化剤ではないが、水性媒体および重合途中の変性PTFE粒子双方に対する界面張力のバランスにより特定重合体が双方の境界に存在して、変性PTFE粒子の水性媒体中における分散安定化に寄与すると推測される。工程2により得られた変性PTFE粒子は特定重合体を含む。特定重合体粒子の粒子径は、0.1~100nmが好ましく、0.1~50nmがより好ましい。
【0029】
<工程2>
工程2は、特定重合体を含む水性媒体中でTFEの重合を行い、変性PTFEを得る工程である。
以下では、まず、工程2で使用される材料について詳述し、その後、工程2の手順について詳述する。
【0030】
(特定重合体を含む水性媒体)
工程2における特定重合体を含む水性媒体としては、工程1で得られた特定重合体を含む水性媒体、または、工程1で得られた特定重合体を含む水性媒体を水性媒体で希釈して得られる特定重合体を含む水性媒体、を使用する。
TFEの重合に使用する特定重合体含有水性媒体における特定重合体量としては、重合系に供給するTFEの全量に対して、0.001~0.050質量%が好ましく、0.001~0.020質量%がより好ましく、0.002~0.020質量%がさらに好ましく、0.003~0.015質量%が一層好ましく、0.003~0.010質量%が特に好ましい。
【0031】
(重合開始剤)
工程2では、重合開始剤を用いてもよい。つまり、TFEの重合の際に、重合開始剤を用いてもよい。
使用される重合開始剤としては、工程1で説明した重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤としては、過硫酸塩とジコハク酸過酸化物との混合系が好ましく、過硫酸アンモニウムとジコハク酸過酸化物との混合系がより好ましい。
重合開始剤の使用量は、重合系に供給するTFEの全量に対して、0.10質量%以上が好ましく、0.10~1.5質量%がより好ましく、0.20~1.0質量%がさらに好ましい。
【0032】
(非フッ素系界面活性剤)
工程2では、特定重合体と共に、非フッ素系界面活性剤を用いるのが好ましい。つまり、特定重合体と共に、非フッ素系界面活性剤の存在下にて、TFEの重合を行うのが好ましい。
非フッ素系界面活性剤とは、フッ素原子を含まない有機基からなる疎水部を有する界面活性剤である。非フッ素系界面活性剤としては、親水部等の疎水部以外の部分にもフッ素原子を含まないことが好ましい。
非フッ素系界面活性剤としては、炭化水素系界面活性剤が好ましい。炭化水素系界面活性剤とは、疎水部が炭化水素からなる界面活性剤である。炭化水素系界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれでもよく、炭化水素系アニオン系界面活性剤が好ましい。なお、上記炭化水素中には、酸素原子(-O-)が含まれていてもよい。つまり、オキシアルキレン単位を含む炭化水素であってもよい。
上記炭化水素基に含まれる炭素原子の数は、5~20が好ましい。
非フッ素系界面活性剤の使用量は、重合系に供給するTFEの全量に対して、0.01~0.50質量%であることが好ましく、0.01~0.30質量%がより好ましく、0.05~0.30質量%がさらに好ましい。
【0033】
炭化水素系アニオン系界面活性剤中のアニオンの対カチオンとしては、例えば、H+、Na+、K+、NH4 +、NH(EtOH)3 +が挙げられる。
炭化水素系アニオン系界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸アンモニウムが挙げられる。
炭化水素系界面活性剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(水性媒体)
水性媒体としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、工程1で例示した溶媒が挙げられる。
工程1で得られた特定重合体含有水性媒体を希釈せずにそのまま使用する場合は、工程2における水性媒体は工程1の水性媒体と同じものである。工程1で得られた特定重合体含有水性媒体を希釈して使用する場合、希釈する水性媒体が工程1で使用した水性媒体と同じ水性媒体である場合も同様である。
【0035】
(安定化助剤)
工程2では、PTFEの乳化重合に通常使用されている安定化助剤を用いることが好ましい。安定化助剤は、工程1における非フッ素系単量体の重合に支障をきたすものではないことより、工程1で使用される水性媒体中に存在させて非フッ素系単量体の重合を行い、得られた安定化助剤を含む特定重合体含有水性媒体を工程2に使用することができる。
安定化助剤としては、パラフィンワックス、フッ素系溶剤、シリコーンオイルが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。パラフィンワックスとしては、室温で、液体でも、半固体でも、固体であってもよい。中でも、炭素数12以上の飽和炭化水素が好ましい。パラフィンワックスの融点は、40~65℃が好ましく、50~65℃がより好ましい。
安定化助剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
安定化助剤の使用量は、重合系に供給するTFEの全量に対して、2~20質量%であることが好ましく、5~20質量%がよりに好ましい。
【0036】
(工程の手順)
工程2のTFEの重合を開始する前に、前記特定重合体含有水性媒体が配置された重合系に前記添加剤を添加してTFEの重合を行う。
TFEは、常法により、重合系に投入される。具体的には、重合圧力が所定の圧力となるように、TFEは連続的または断続的に重合系に投入される。
添加剤は重合系に一括して添加されてもよいし、分割して添加されてもよい。
重合開始剤は、TFEの供給量に対応して分割添加されることが好ましい。
非フッ素系界面活性剤は、TFEの重合を開始する前に重合系に添加してもよいが、TFEの重合を開始した後ある程度のPTFEが生成した時点で重合系に添加することが好ましい。TFEの重合開始直後に生成するPTFE微粒子の分散安定化は特定重合体が担い、その後生成するPTFE粒子の分散安定化は非フッ素系界面活性剤が主として担うと推測される。非フッ素系界面活性剤の添加開始時点は、重合系に供給するTFEの全量に対して0.1~20質量%のTFEを供給して重合させた時点であることが好ましく、1~10質量%のTFEを供給して重合させた時点であることがより好ましい。非フッ素系界面活性剤は、重合系に一括して添加されてもよく、分割添加されてもよい。より好ましくは、TFEの供給量に対応して分割添加される。
安定化助剤はTFEの重合を開始する時点で重合系に存在していればよい。したがって、安定化助剤は、TFEの重合を開始する前に工程2の重合系に添加してもよく、前記のように工程1におい得られた安定化助剤を含む特定重合体含有水性媒体を工程2に使用してもよい。
【0037】
TFEの重合温度は、10~95℃が好ましく、15~90℃がより好ましい。重合圧力は、0.5~4.0MPaが好ましく、0.6~3.5MPaがより好ましい。重合時間は、90~520分が好ましく、90~450分がより好ましい。
【0038】
工程1および工程2は、同一の重合容器等の重合系内で連続的に行ってもよい。
また、本発明の製造方法においては、工程1において特定重合体が形成されればよく、工程1において完全に非フッ素系単量体が重合体に変換される前に、工程2を実施してもよい。
なお、工程2に供給されるTFEの実質的全量が重合して重合体となる。工程2においては、供給されるTFEの全量は、重合系内をTFEで所定の圧力まで加圧した後から計量される。工程2終了時に重合系の気相や水性分散液中に残存するTFEは、工程2において供給されるTFEの全量に対してごく少量である。したがって、本発明において、重合系に供給するTFEの全量に対する各成分の割合は、重合したTFEに対する各成分の割合に実質的に等しい。
【0039】
上記手順によって、変性PTFEが粒子状に分散した水性分散液(変性PTFE粒子を含む水性分散液)が得られる。水性分散液中での変性PTFE粒子の濃度は、10~45質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましく、20~43質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、水性分散液中の変性PTFE粒子をより容易に凝析でき、かつ、凝析液の白濁を抑制できる。
【0040】
変性PTFE粒子の平均一次粒子径は、0.10~0.50μmが好ましく、0.15~0.30μmがより好ましく、0.20~0.30μmがさらに好ましい。平均一次粒子径が0.10μm以上であると、低い押出圧力でペースト押出成形でき、表面に波打ち等のない、表面平滑性に優れた成形物が得られやすい。平均一次粒子径が0.50μm以下であると、押出時の粒子間の空隙が少なくなるため、押出安定性に優れ、結果として表面平滑性に優れた成形物が得られやすい。
変性PTFE粒子の平均一次粒子径は、例えば、レーザー散乱法粒子径分布分析計により測定されるD50に該当する。
【0041】
<変性PTFE粉末>
変性PTFE粒子を含む水性分散液から、変性PTFE粒子からなる変性PTFE粉末(変性PTFEファインパウダー)を得る方法としては、例えば、変性PTFE粒子を凝集させる方法が挙げられる。
具体的には、変性PTFE粒子を含む水性分散液の変性PTFEの濃度が8~25質量%になるように水で希釈するなどして、水性分散液の温度を5~35℃に調整した後、水性分散液を激しく撹拌して変性PTFE粒子を凝集させる。この際、必要に応じてpHを調節してもよい。また、電解質や水溶性の有機溶剤などの凝集助剤を水性分散液に加えてもよい。
その後、適度な撹拌を行い、凝集した変性PTFE粒子を水から分離し、得られた湿潤粉末(ウェットファインパウダー)を必要に応じて造粒および整粒し、次いで、必要に応じて乾燥する。これにより変性PTFE粉末が得られる。
【0042】
上記乾燥は、湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置して行う。乾燥方法としては、例えば、真空乾燥、高周波乾燥、熱風乾燥が挙げられる。
乾燥温度は、10~300℃が好ましく、100~250℃がより好ましい。
【0043】
なかでも、未乾燥の変性PTFE粉末の乾燥は、アンモニアを含む雰囲気下で行うのが好ましい。ここで、アンモニアを含む雰囲気とは、未乾燥の変性PTFE粉末にアンモニアガスが接触し得る雰囲気を意味する。例えば、アンモニアガスを含む雰囲気や、未乾燥の変性PTFE粉末を含む水分中にアンモニアまたはアンモニアを発生する化合物が溶解していて、加熱等によってアンモニアガスが発生する雰囲気などを意味する。
アンモニアを発生する化合物としては、例えば、アンモニウム塩、尿素が挙げられる。これらの化合物は、加熱により分解してアンモニアガスを発生する。
アンモニアを含む雰囲気下で未乾燥の変性PTFE粉末を乾燥すると、物性を損なうこと無く、変性PTFE粉末のペースト押出圧力を下げられる。
【0044】
<成形物>
上述した変性PTFEは、ペースト押出成形用に好適に適用できる。
変性PTFE(特に、変性PTFE粉末)をペースト押出成形し、所望の成形品が得られる。
ペースト押出成形とは、変性PTFE粉末と潤滑剤とを混合し、変性PTFE粉末に流動性を持たせ、これを押出成形して、例えば、フィルム、チューブの成形物を成形する方法である。
潤滑剤の混合割合は、変性PTFE粉末が流動性を有するように適宜選定すればよく、例えば、変性PTFE粉末と潤滑剤との合計量を100質量%とした場合、10~30質量%が好ましく、15~20質量%がより好ましい。
潤滑剤としては、例えば、ナフサ、乾点が100℃以上の石油系炭化水素が好ましい。
混合物には、着色を目的として顔料等の添加剤を添加してもよく、強度および導電性等の付与を目的として各種充填剤を添加してもよい。
【0045】
成形物の形状としては、例えば、チューブ状、シート状、フィルム状、繊維状が挙げられる。用途としては、例えば、チューブ、電線の被覆、シール材、多孔膜、フィルターが挙げられる。
また、変性PTFE粉末をペースト押出して押出ビードを得て、押出ビードを延伸し、変性PTFEの延伸多孔体が得られる。延伸条件としては、例えば、5~1000%/秒の速度で、500%以上の延伸倍率が挙げられる。
延伸多孔体で構成される物品の形状としては、例えば、チューブ状、シート状、フィルム状、繊維状が挙げられる。
【実施例
【0046】
以下に、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0047】
各種測定方法および評価方法は下記のとおりである。
(A)変性PTFE粒子の平均一次粒子径(nm)(以下、「PPS」ともいう。)
変性PTFE粒子の水性分散液を試料とし、レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所製、商品名「LA-920」)を用いて測定した。
【0048】
(B)標準比重(SSG)
ASTM D4895-04に準拠して測定した。
12.0gの試料(変性PTFE粉末)を計量し、内径28.6mmの円筒金型で34.5MPaで2分間保持した。これを290℃のオーブンへ入れて120℃/hrで昇温した。さらに、380℃で30分間保持した後、60℃/hrで降温して294℃で24分間保持した。試料を23℃のデシケーター中で12時間保持した後、23℃での試料の水に対する比重値を測定し、これを標準比重とした。SSGの値が小さいほど、分子量が大きい。
【0049】
(C)押出圧力の測定
室温で2時間以上放置された変性PTFE粉末(100g)を内容量500mLのガラス瓶に入れ、潤滑油(アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)(21.7g)を添加し、3分間混合して混合物を得た。得られた混合物を25℃恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30°のオリフィスを通して、ペースト押出を行い、押出ビード(ひも状物)を得た。このときの押出に要する圧力を測定し、押出圧力(単位:MPa)とした。
【0050】
(D)破断強度の測定
押出圧力の測定と同様にして押出ビードを得て、これを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去した。次に、押出ビードを適当な長さに切断し、クランプ間隔5.1cmとなるように両方の末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。続いて、延伸速度100%/秒、延伸倍率2400%の条件で延伸して、変性PTFE延伸多孔体(以下、延伸ビードという。)を得た。
延伸ビードの各末端から得られるサンプル(クランプの範囲においてネックダウンがあればそれを除く)、および、延伸ビードの中心部から得られるサンプルの計3個について、引張り試験機(エイアンドディ社製)を用いて引張り破断負荷力をそれぞれ測定し、最小の値を破断強度とした。
引張り試験機での測定では、サンプルを、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、室温(24℃)にて、可動ジョーを300mm/分のスピードで駆動させて、引張り応力を付加した。
【0051】
(E)応力緩和時間の測定
クランプ間隔3.8cm、延伸速度1000%/秒、総延伸2400%の条件で、破断強度の測定と同様にして、押出ビードを延伸し、応力緩和時間の測定用のサンプルを作製した。このサンプルの両方の末端を固定具で固定し、ぴんと張り全長25cmとした。応力緩和時間は、このサンプルを390℃のオーブン中に放置したときに破断するのに要する時間を求めた。
【0052】
(実施例1)
100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、パラフィンワックス(1500g)、脱イオン(60L)を仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、減圧にして、n-ブチルメタクリレート(1g)と脱イオン水(0.5L)とを、オートクレーブ内に注ぎながら仕込んだ。なお、n-ブチルメタクリレートの使用量が、TFEの全使用量に対して、48質量ppmとなるように、n-ブチルメタクリレートを仕込んだ。
次に、オートクレーブ内を大気圧以下の状態として、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温した。その後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.11g)を脱イオン水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入し、n-ブチルメタクリレートを重合させた。
【0053】
10分後に、TFEで1.96MPaまで加圧し、過硫酸アンモニウム(0.54g)およびジコハク酸過酸化物(濃度80質量%、残り水)(53g)を約70℃の温水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入した。1379秒後には、オートクレーブ内の内圧が1.89MPaまで降下した。なお、上記重合開始剤(過硫酸アンモニウムおよびジコハク酸過酸化物)の使用量は、TFEの全使用量に対して、0.26質量%であった。
【0054】
次に、オートクレーブ内の内圧を1.96MPaに保つようにTFEを添加し、TFEの重合を進行させた。TFEを1kg添加した後、ドデシル硫酸ナトリウム(44g)を脱イオン水(3L)に溶解させた溶液を、供給されるTFE1kgに対して、ドデシル硫酸ナトリウムが1.5~1.6gとなるように、供給されるTFE量を流量計で確認しながら、ドデシル硫酸ナトリウムの供給を行った。
TFEの添加量が21kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ内のTFEを大気放出した。重合時間は226分だった。
【0055】
得られた変性PTFEの水性分散液を冷却し、上澄みのパラフィンワックスを除去した。水性分散液の固形分濃度(変性PTFEの濃度)は約23質量%であった。また、水性分散液中の変性PTFEの平均一次粒子径は260nmだった。
水性分散液を純水で固形分濃度10質量%に希釈し、20℃に調整して撹拌し、変性PTFE粒子を凝集させ、変性PTFE粉末を取得した。次に、この変性PTFE粉末を250℃で乾燥した。
得られた変性PTFE粉末のSSGは2.162だった。押出圧力は21.6MPaだった。破断強度は21.1Nだった。応力緩和時間は、180秒だった。
【0056】
(実施例2)
オートクレーブ内を大気圧以下の状態として、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温した処理の代わりに、オートクレーブ内をTFEで0.15MPaまで昇圧し、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温する処理を実施した以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0057】
(実施例3)
n-ブチルメタクリレートの使用量が、TFEの全使用量に対して、56質量ppmとなるように、n-ブチルメタクリレートを仕込み、TFEの使用量を21kgから18kgに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0058】
(実施例4)
n-ブチルメタクリレートを酢酸ビニルに変更した以外は、実施例3と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0059】
(実施例5)
n-ブチルメタクリレートの使用量が、TFEの全使用量に対して、83質量ppmとなるように、n-ブチルメタクリレートを仕込み、TFEの使用量を21kgから12kgに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0060】
(実施例6)
n-ブチルメタクリレートを酢酸ビニルに変更した以外は、実施例5と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0061】
(実施例7)
n-ブチルメタクリレートをアクリル酸に変更し、アクリル酸の使用量が、TFEの全使用量に対して、100質量ppmとなるように、アクリル酸を仕込み、TFEの使用量を21kgから10kgに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0062】
(実施例8)
実施例2の変性PTFEの水性乳化液を純水で濃度10質量%に希釈し、20℃に調整して、撹拌し凝集をさせる際に、凝集槽内の変性PTFEに対して、5質量%の炭酸アンモニウムを仕込んで凝集を行った。次に、得られた未乾燥変性PTFEファインパウダーの含水率を測定し、その値を基に、乾燥用トレイに、未乾燥変性PTFEファインパウダーと、変性PTFEに対して5質量%となる炭酸アンモニウム水溶液(炭酸アンモニウム濃度:20質量%)とを同時に盛り付け、得られた乾燥用トレイを285℃で乾燥した。
得られた試料を用いて、破断強度および応力緩和時間の測定を行った。破断強度は28.2Nであった。応力緩和時間は、176秒であった。
【0063】
(比較例1)
n-ブチルメタクリレートを用いなかった以外は実施例1と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液の調製を試みた。
オートクレーブ内の内圧を1.96MPaに保つようにTFEを添加したところ、TFE供給が2.6kgの時点で、重合速度がゼロとなり、重合は略進行しなかった。なお、オートクレーブ内の水中の固形分濃度は0.2質量%で、変性PTFE粒子の水性分散液は得られなかった。
【0064】
表1中、「BMA」はn-ブチルメタクリレートを、「VAc」は酢酸ビニルを、「AA」はアクリル酸を、表す。
「使用量(質量ppm)」は、TFEの全使用量に対する、使用された非フッ素系単量体の使用量(使用質量割合)を表す。
「固形分(質量%)」は、水性分散液の固形分濃度(変性PTFEの濃度)を表す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、効率よく変性PTFE(変性PTFE粒子の水性分散液)を製造できる。
なお2017年09月28日に出願された日本特許出願2017-187968号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。