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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】水性塗料組成物及び塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20220615BHJP
   C09D 7/47 20180101ALI20220615BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220615BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220615BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D7/47
C09D7/61
C09D7/65
H05K1/03 610H
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021180039
(22)【出願日】2021-11-04
(65)【公開番号】P2022075611
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020185953
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】上田 有希
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】小森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/011991(WO,A1)
【文献】特開昭59-147057(JP,A)
【文献】国際公開第94/005729(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】特開平06-346017(JP,A)
【文献】特開平05-301974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成型可能なフッ素樹脂粒子(A)を含有する水性塗料組成物であって、
更に、バインダー樹脂(B)、非フッ素系界面活性剤(C)及び水(D)を含有し、
前記フッ素樹脂粒子(A)は、平均粒子径が0.05~1000μmであり、
前記バインダー樹脂(B)は、N下、10℃/minの条件で測定した400℃での重量減少が55%以上であり、塗料組成物の固形物全量に対して10質量%以下の割合で含まれている
ことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂粒子(A)は、体積基準累積50%径が0.05~40μmである請求項に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂(B)は、水への溶解性が2質量%以上である請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
非フッ素系界面活性剤(C)は、シリコーン系界面活性剤である請求項1~のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
さらに、グリコール系溶媒(E)を含有する請求項1~のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
グリコール系溶媒(E)は、フッ素樹脂粒子(A)の焼成後に残留しない請求項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
さらに、無機フィラー(F)を含有する請求項1~のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
無機フィラー(F)は、シリカである請求項記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
上記無機フィラー(F)は、平均粒子径が0.1~20μmである請求項7又は8に記載の水性塗料組成物。
【請求項10】
上記無機フィラー(F)は、最大粒子径が10μm以下である請求項7~9のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項11】
無機フィラー(F)は、シリコーン化合物で表面処理されたものである請求項7~10のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項12】
シリコーン化合物は、シランカップリング剤及びオルガノシラザンからなる群より選択される少なくとも一種を含む請求項11記載の水性塗料組成物。
【請求項13】
無機フィラー(F)は、無機フィラー(F)70質量%及び水30質量%で混合した場合に、均一に分散させることができる請求項7~12のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の水性塗料組成物を塗装することによって形成された被覆層を有することを特徴とする塗装物品。
【請求項15】
金属基材上に請求項1~13のいずれかに記載の水性塗料組成物を塗装することによって形成された被覆層を有する請求項14記載の塗装物品。
【請求項16】
プリント基板、基板用誘電材料又は積層回路基板である請求項14又は15記載の塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性塗料組成物及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、その優れた耐熱性,耐候性,耐油性,耐溶剤性、耐薬品性及び非粘着性を利用し、種々の用途と、パウダー,フィルム等の種々の使用形態とが知られている。近年では、高周帯域の周波数に対応するプリント基板材料としてもフッ素樹脂が注目されている。
【0003】
特許文献1~3には、金属基材上にフッ素樹脂による被覆層を形成するための水性塗料組成物が開示されている。
特許文献4には、金属基材上にフッ素樹脂による被覆層を形成するための塗料組成物が開示され、更に、樹脂成分を配合することが開示されている。
特許文献5には、含フッ素系パウダーを含有する液状組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開1994/05729
【文献】特開2009-1767号公報
【文献】特開平5-301974号公報
【文献】国際公開2020/071382
【文献】国際公開2018/016644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、銅箔等の金属基材上に粉落ち等の問題を生じず、塗膜形成のための加熱後に着色等の問題を生じることもないフッ素樹脂被覆を行うことができるような水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、溶融成型可能なフッ素樹脂粒子(A)を含有する水性塗料組成物であって、さらに、バインダー樹脂(B)、非フッ素系界面活性剤(C)及び水(D)を含有し、上記フッ素樹脂粒子(A)は、平均粒子径が0.05~1000μmであり、上記バインダー樹脂(B)は、N下、10℃/minの条件で測定した400℃での重量減少が55%以上であり、塗料組成物の固形物全量に対して10質量%以下の割合で含まれていることを特徴とする水性塗料組成物である。上記フッ素樹脂粒子(A)は、体積基準累積50%径が0.05~40μmであることが好ましい。
【0007】
上記バインダー樹脂(B)は、水への溶解性が2質量%以上であることが好ましい。
上記非フッ素系界面活性剤(C)は、シリコーン系界面活性剤であることが好ましい。
【0008】
上記水性塗料組成物は、さらに、グリコール系溶媒(E)を含有することが好ましい。
上記グリコール系溶媒(E)は、フッ素樹脂粒子(A)の焼成後に残留しないことが好ましい。
【0009】
上記水性塗料組成物は、さらに、無機フィラー(F)を含有することが好ましい。
上記無機フィラー(F)は、シリカであることが好ましい。
上記無機フィラー(F)は、平均粒子径が0.1~20μmであることが好ましい。
上記無機フィラー(F)は、最大粒子径が10μm以下であることが好ましい。
上記無機フィラー(F)は、シリコーン化合物で表面処理されたものであってもよい。
上記シリコーン化合物は、シランカップリング剤及びオルガノシラザンからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
上記無機フィラー(F)は、無機フィラー(F)70質量%及び水30質量%で混合した場合に、均一に分散させることができるものが好ましい。
【0010】
本開示は、上述の水性塗料組成物を塗装することによって形成された被覆層を有することを特徴とする塗装物品でもある。
上記塗装物品は、金属基材上に上述の水性塗料組成物を塗装することによって形成された被覆層を有する塗装物品であってもよい。
上記塗装物品は、プリント基板、基板用誘電材料又は積層回路基板であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、粉落ちを抑制しつつ、電気物性と表面物性に優れたフッ素樹脂被覆層を形成できる水性塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
フッ素樹脂層の形成は、フッ素樹脂含有分散液を基材の表面に塗布し、液状分散媒を揮発させて基材の表面にパウダーの充填層を形成し、さらにパウダーを溶融又は焼成させて行う。しかし、フッ素樹脂は本質的に非粘着性であり、そのパウダーは粒子間の相互作用に乏しい。そのため、充填層の形成に際してはパウダーが欠落(粉落ち)しやすい。このような粉落ちの防止のために、バインダー樹脂を使用することが検討されてきた。
【0013】
フッ素樹脂粒子を含有する水性塗料組成物は、塗膜形成のために、高温での加熱が行われる。このような加熱によって、バインダー樹脂が分解を生じる。この場合、加熱時に分解しやすく、塗膜中の残存量が少なくなることが好ましい。これは、塗膜中にバインダー樹脂が残存すると、これによって着色を生じて、樹脂層の劣化の原因となるためである。しかし、充分な粘着性を得るためには、一定以上のバインダー樹脂を配合することが必要と考えられていた。本開示は、バインダーの配合量を低減し、更に、加熱時に分解されやすいバインダー樹脂を使用することが好ましいことを見出すことによって、完成されたものである。
【0014】
すなわち、本開示は、特定の物性を有するバインダー樹脂(B)を選択して使用することで、優れた効果を有する水性塗料組成物が得られることを見出すことによって完成されたものである。
【0015】
上記バインダー樹脂(B)は、具体的には、適度な水溶解性を有しているためフッ素樹脂粒子(A)を水性塗料組成物中に安定に分散させる効果と、水乾燥後も被覆層にとどまりフッ素樹脂粒子(A)の粉落ちを抑制する効果とを有するバインダー樹脂である。更に、加熱後の塗膜中に残存する量が少ないことから、樹脂層の劣化や着色等の原因になることがない点でも好ましい。
【0016】
上記バインダー樹脂(B)は、N下、10℃/minの条件で測定した400℃での重量減少が55%以上である。上記重量減少は、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
本発明者らは、バインダー樹脂の重量減少がこの範囲内であると、上述の効果を発揮するものであることを見出したものである。加熱時の重量変化が大きい樹脂を使用することで、樹脂層の劣化や着色等の原因を抑制することができる。
なお、本開示において、上記重量減少は、N下、10℃/minの条件でのTG/DTA測定により得られた値である。
【0017】
また、上記バインダー樹脂(B)は、水への溶解性は2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
なお、上記バインダー樹脂(B)は、塗料組成物中に完全に溶解していなくても、分散状態であってもよい。本開示において、水への溶解性は、バインダー樹脂、水を容器に秤量し、ローラーローターで一晩撹拌後、10分間静置しても樹脂の沈降が生じないことを確認した。
【0018】
上記バインダー樹脂(B)としては、上記の物性を満たすものであれば特に限定されないが、天然物ポリマーでは、コーンスターチ、寒天等を挙げることができる。合成物ポリマーでは、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/マレイン酸共重合ナトリウム、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、等を挙げることができる。好ましくはポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドンが挙げられる。より好ましくはポリビニルアルコール、メチルセルロースが挙げられる。
【0019】
上記ポリビニルアルコールは、分子量やけん化度を調整することで、その水への溶解能や重量減少量を調整することができ、用途や目的に応じた樹脂を容易に得ることができる点で好ましい。バインダー樹脂(B)としてポリビニルアルコールを使用する場合は、けん化度が30~90%であることが好ましい。更に、分子量は、1000~1000000であることが好ましい。このような範囲のものを使用することで、上述した物性を満たすバインダー樹脂(B)とすることができる点で好ましい。
【0020】
上記バインダー樹脂(B)の配合量は、水性塗料組成物の固形物全量に対して10質量%以下の割合である。10質量%を超えると、得られる被覆層の耐薬品性、耐熱性等の物性が低下するおそれがある。また、バインダー樹脂(B)の含有量は、0.3質量%以上であることが好ましい。0.3質量%未満であると、粉落ちを抑制する効果が不充分となるおそれがあるため、好ましくない。
上記配合量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0021】
本開示の水性塗料組成物は、上述したような性質を有するバインダー樹脂(B)を選択して使用することで、バインダー樹脂(B)の配合量を低減しても、粉落ちの抑制という効果を得ることができる。よって、配合量を低減することで、バインダー樹脂(B)を多量に配合した場合に生じる種々の問題を改善することができる。
【0022】
上記溶融成型可能なフッ素樹脂粒子(A)の組成としては特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔EPA〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕、分子量30万以下のテトラフルオロエチレン〔LMW-PTFE〕等が挙げられる。これらの化合物を1種類で使用してもよいし、2種類以上を混合しても良い。
【0023】
上記フルオロアルキルビニルエーテルとしては、例えば、
一般式(110):CF=CF-ORf111
(式中、Rf111は、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるフルオロモノマー、
一般式(120):CF=CF-OCH-Rf121
(式中、Rf121は、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマー、
一般式(130):CF=CFOCFORf131
(式中、Rf131は炭素数1~6の直鎖又は分岐状パーフルオロアルキル基、炭素数5~6の環式パーフルオロアルキル基、1~3個の酸素原子を含む炭素数2~6の直鎖又は分岐状パーフルオロオキシアルキル基である。)で表されるフルオロモノマー、
一般式(140):CF=CFO(CFCF(Y141)O)(CF
(式中、Y141はフッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。mは1~4の整数である。nは1~4の整数である。)で表されるフルオロモノマー、及び、
一般式(150):CF=CF-O-(CFCFY151-O)-(CFY152-A151
(式中、Y151は、フッ素原子、塩素原子、-SOF基又はパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基は、エーテル性の酸素及び-SOF基を含んでもよい。nは、0~3の整数を表す。n個のY151は、同一であってもよいし異なっていてもよい。Y152は、フッ素原子、塩素原子又は-SOF基を表す。mは、1~5の整数を表す。m個のY152は、同一であってもよいし異なっていてもよい。A151は、-SO151、-COZ151又は-POZ152153を表す。X151は、F、Cl、Br、I、-OR151又は-NR152153を表す。Z151、Z152及びZ153は、同一又は異なって、-NR154155又は-OR156を表す。R151、R152、R153、R154、R155及びR156は、同一又は異なって、H、アンモニウム、アルカリ金属、フッ素原子を含んでも良いアルキル基、アリール基、若しくはスルホニル含有基を表す。)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0025】
一般式(110)で表されるフルオロモノマーとしては、Rf111が炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるフルオロモノマーが挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0026】
一般式(110)におけるパーフルオロ有機基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
一般式(110)で表されるフルオロモノマーとしては、更に、上記一般式(110)において、Rf111が炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rf111が下記式:
【0027】
【化1】
【0028】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rf111が下記式:
【0029】
【化2】
【0030】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0031】
一般式(110)で表されるフルオロモノマーとしては、なかでも、
一般式(160):CF=CF-ORf161
(式中、Rf161は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるフルオロモノマーが好ましい。Rf161は、炭素数が1~5のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0032】
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、一般式(160)、(130)及び(140)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
一般式(160)で表されるフルオロモノマーとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、及び、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、及び、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0034】
一般式(130)で表されるフルオロモノマーとしては、CF=CFOCFOCF、CF=CFOCFOCFCF、及び、CF=CFOCFOCFCFOCFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
一般式(140)で表されるフルオロモノマーとしては、CF=CFOCFCF(CF)O(CFF、CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFF、及び、CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
一般式(150)で表されるフルオロモノマーとしては、CF=CFOCFCFSOF、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、CF=CFOCFCF(CFCFSOF)OCFCFSOF及びCF=CFOCFCF(SOF)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0037】
本明細書において、「有機基」は、1個以上の炭素原子を含有する基、又は有機化合物から1個の水素原子を除去して形成される基を意味する。
当該「有機基」の例は、
1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、
1個以上の置換基を有していてもよいアルケニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいアルキニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、
1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルカジエニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、
1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基、
1個以上の置換基を有していてもよい非芳香族複素環基、
1個以上の置換基を有していてもよいヘテロアリール基、
シアノ基、ホルミル基、RaO-、RaCO-、RaSO-、RaCOO-、RaNRaCO-、RaCONRa-、RaOCO-、RaOSO-、及び、RaNRbSO
(これらの式中、Raは、独立して、
1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、
1個以上の置換基を有していてもよいアルケニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいアルキニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、
1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルカジエニル基、
1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、
1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基、
1個以上の置換基を有していてもよい非芳香族複素環基、又は、
1個以上の置換基を有していてもよいヘテロアリール基、
Rbは、独立して、H又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基である)を包含する。
上記有機基としては、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基が好ましい。
【0038】
上記フッ素樹脂粒子(A)としては、非粘着性、表面平滑性の点で、FEP、PFA又はEPAが好ましく、PFAは融点が300℃以上であり、半田加工時の変形がないことからPFAが特に好ましい。
【0039】
上記フッ素樹脂粒子(A)は、平均粒子径が0.05~1000μmであることが好ましく、0.1~100μmであることがより好ましく、0.1~30μmであることが更に好ましい。平均粒子径が上記範囲内であると、薄膜かつ平滑な樹脂被覆層を得ることができるため好ましい。
上記平均粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱法によって測定した体積平均粒子径である。上記フッ素樹脂粒子(A)を所望の粒子径とするために、ふるいや風力による分級を行ってもよい。
【0040】
上記フッ素樹脂粒子(A)は、体積基準累積50%径が0.05~40μmであることが好ましく、7~40μmであることがより好ましい。上記体積基準累積50%径は、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。上記体積基準累積50%径が上記範囲内であると、薄膜で平滑な被覆樹脂層を形成できるため、好ましい。
【0041】
上述したフッ素樹脂粒子(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、具体的には例えば、特開2009-1767号公報に記載された方法等によって製造することができる。
【0042】
上記フッ素樹脂粒子(A)を構成するフッ素樹脂の重合方法としては特に制限されず、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合において、温度、圧力等の各条件、重合開始剤やその他の添加剤は、所望のフッ素樹脂の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0043】
上記水性塗料組成物におけるフッ素樹脂粒子(A)の配合量は、全組成物質量の10~80質量%、好ましくは15~75質量%、より好ましくは20~50質量%である。フッ素樹脂粒子(A)の配合量が上記下限より少ないと、粘度が低すぎて物品表面に塗装してもすぐにタレを生じ、また厚塗りもできない。一方、フッ素樹脂粒子(A)の配合量が多すぎると、塗料組成物が流動性とならず、塗装できない。具体的な配合量は、塗装方法や膜厚の調整等を考慮して上述の範囲内で適宜選定すればよいが、スプレー塗装等の場合は比較的低濃度とし、一方、押し付け塗装等の場合はペースト状となる50質量%以上とするのがよい。
本開示において、水性塗料組成物の固形分濃度は、加熱残存質量測定法により測定するものである。
【0044】
本開示の水性塗料組成物は、さらに、非フッ素系界面活性剤(C)を含有するものである。コスト面を考慮するとフッ素系界面活性剤ではなく、非フッ素系界面活性剤を含有することも本開示の水性塗料組成物が好ましい理由の一つである。
【0045】
上記非フッ素系界面活性剤(C)としては、フッ素樹脂粒子(A)を組成物中に安定に分散させ得るものであれば特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用できる。例えば、ナトリウムアルキルサルフェート、ナトリウムアルキルエーテルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルエーテルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート、アンモニウムアルキルエーテルサルフェート、アルキルエーテルリン酸ナトリウム、フルオロアルキルカルボン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;アルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、プロピレングリコール-プロピレンオキシド共重合体、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、2-エチルヘキサノールエチレンオキシド付加物、等の非イオン性界面活性剤;アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミド酢酸ベタイン、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アニオン性及び非イオン性界面活性剤が好ましい。特に好ましい界面活性剤は、熱分解残量の少ないオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤である。
【0046】
上記非フッ素系界面活性剤(C)としては、また、炭化水素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール等のアセチレン系界面活性剤等を使用することができ
る。また、これらの非フッ素系界面活性剤のうち、一種又は2種以上を組み合わせて使用
してもよい。なお、ノニルフェノール系界面活性剤は、使用しないことが好ましい。
【0047】
上記非フッ素系界面活性剤(C)としては、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。上記シリコーン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレン(POE)変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(POE・POP)変性オルガノポリシロキサン、POEソルビタン変性オルガノポリシロキサン、POEグリセリル変性オルガノポリシロキサン等の親水基で変性されたオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
具体例として、DBE‐712、DBE‐821(アヅマックス社製)、KPシリーズ、KF‐6015、KF‐6016、KF‐6017、KF‐6028(信越化学工業社製)、ABIL‐EM97(ゴールドシュミット社製)、ポリフローKL‐100、ポリフローKL‐401、ポリフローKL‐402、ポリフローKL‐700(共栄社化学製)、「FZ-77」(東レ・ダウコーニング株式会社製)、「BYK-333」(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0048】
上記非フッ素系界面活性剤(C)の配合量は、上記フッ素樹脂粒子(A)100質量%に対して、好ましくは0.01~50質量%、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.2~20質量%である。界面活性剤の添加量が少なすぎるとフッ素樹脂粒子の分散が均一にならず、一部浮上することがある。一方、界面活性剤の添加量が多すぎると焼成による界面活性剤の分解残渣が多くなり着色が生ずるほか、被覆膜の耐熱性,非粘着性等が低下する。
【0049】
本開示の水性塗料組成物は、溶媒として水(D)を含有するものである。媒体が水であることから、環境に悪影響が少ない点で好ましい。
さらに、本開示の水性塗料組成物は、水と併用して水溶性溶媒を含有することが好ましい。上記水溶性溶媒は、上記フッ素樹脂粒子(A)を濡らす働きを有し、更に高沸点のものは、塗装後の乾燥時に樹脂同士をつなぎ、クラックの発生を防止する乾燥遅延剤として作用する。高沸点溶媒でも、フッ素樹脂の焼成温度では蒸発するので、被覆膜に悪影響を及ぼすことはない。
【0050】
上記水溶性溶媒の具体例としては、沸点が100℃までの低沸点有機溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等;沸点が100~150℃の中沸点有機溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等;沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルカルビトール、ブチルジカルビトール、ブチルセロソルブ、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。また、これらの水溶性溶媒は、1種または2種以上のものを混合して用いても良い。上記水溶性溶媒としては、高沸点有機溶媒が好ましく、なかでも、グリコール系溶媒が分散安定性、安全性の点でより好ましい。
【0051】
上記水溶性溶媒の配合量は、好ましくは全水量の0.5~50質量%、より好ましくは1~30質量%である。低沸点有機溶媒の場合、配合量が、少なすぎると泡の抱込みなどが起こりやすくなり、多すぎると組成物全体が引火性となって水性分散組成物の利点が損なわれる。中沸点有機溶媒の場合、配合量が多すぎると焼成後も被覆膜中に残留して悪影響を及ぼすことがあり、少なすぎると塗布後の乾燥時にフッ素樹脂が粉末に戻ってしまい焼成できない。高沸点有機溶媒の場合、配合量が多すぎると焼成後も被覆膜中に残留して悪影響を及ぼすことがある。上記水溶性溶媒は、揮発しやすい性質のものを選択したり、配合量を調整したり等により、上記フッ素樹脂粒子(A)の焼成後にも被覆膜中に残留しないことが好ましい。なお、グリコール系溶媒がフッ素樹脂粒子(A)の焼成後に残留していないことは、焼成後の塗膜を削り取り、TG/DTA測定でグリコール系溶媒の沸点付近での重量減少が無いことによって確認できる。
【0052】
本開示の水性塗料組成物は、さらに、電気特性、強度、耐熱性等の向上のために無機フィラー(F)を含有することが好ましい。無機フィラー(F)としては特に限定されず、例えば、シリカ(より具体的には結晶性シリカ、溶融シリカ、球状溶融シリカ等)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、窒化珪素、炭化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、窒化アルミニウム、酸化インジウム、アルミナ、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの無機化合物が挙げられる。また、モンモリロナイト、タルク、マイカ、ベーマイト、カオリン、スメクタイト、ゾノライト、バーキュライト、セリサイトなどの鉱物が挙げられる。その他のフィラーとしては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物;ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーンなどの各種ガラスなどを挙げることができる。
上記無機フィラー(F)としては、一種又は二種以上の無機フィラーを使用することができる。
また、無機フィラー(F)は粉体をそのまま使用してもよく、樹脂中に分散させたものを用いてもよい。
【0053】
上記無機フィラー(F)としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン等が好ましく、低比重で低誘電率のシリカが特に好ましい。シリカを含有することで、塗膜の熱膨張係数を低く抑えることができる。また、この作用により、基板の反りを抑制することができるため好ましい。さらに、被覆層のピール強度を高めることもできる。
【0054】
無機フィラーの形状としては、特に限定されず、例えば、粒状、球状、鱗片状、針状、柱状、錘状、錘台状、多面体状、中空状等を用いることが出来る。特に球状、立方体、鉢状、円盤状、八面体状、鱗片状、棒状、板状、ロッド状、テトラポッド状、中空状であることが好ましく、球状、立方状、八面体状、板状、中空状であることがより好ましい。鱗片状又は針状の形状とすることで、異方性を有するフィラーを配列させることにより、より高い密着性を得ることができる。球状のフィラーは、表面積が小さいため、フッ素樹脂の特性への影響を小さくすることができ、また、液状物に配合した場合に増粘の程度が小さい点で好ましい。
【0055】
上記無機フィラー(F)は、平均粒子径が0.1~20μmであることが好ましい。平均粒子径が上記範囲内であると、凝集が少なく、良好な表面粗度を得ることができる。上記平均粒子径の下限は、0.1μmであることがより好ましく、0.3μmであることが更に好ましい。上記平均粒子径の上限は、5μmであることがより好ましく、2μmであることが更に好ましい。
上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定した値である。
【0056】
上記無機フィラー(F)は、最大粒子径が10μm以下であることが好ましい。最大粒子径が10μm以下であると、凝集が少なく、分散状態が良好である。更に、得られた塗膜の表面疎度を小さいものとすることができる。上記最大粒子径は、5μm以下であることがより好ましい。最大粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影し、SEM用画像解析ソフトウェアを用いて、無作為に選択した粒子200個の画像データより求めた。
【0057】
上記無機フィラー(F)は、表面処理されたものであってもよく、例えば、シリコーン化合物で表面処理されたものであってもよい。上記シリコーン化合物で表面処理することにより、無機フィラー(F)の誘電率を低下させることができる。
上記シリコーン化合物としては特に限定されず、従来公知のシリコーン化合物を使用することができる。例えば、シランカップリング剤及びオルガノシラザンからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
上記シリコーン化合物の表面処理量は、無機フィラー表面への表面処理剤の反応量が単位表面積(nm)あたり0.1~10個であることが好ましく、0.3~7個であることがより好ましい。
【0058】
上記無機フィラー(F)は、水分散性が30質量%以上であることが好ましい。30質量%未満であると、分散性が不充分となり、水性塗料組成物の安定性が低下するおそれがある。
上記水分散性は、無機フィラー、水を容器に秤量し、十分にせん断をかけて分散させた後、撹拌を止めた際に無機フィラー表面が濡れ、数分間沈殿が生じ無いことを確認した。
【0059】
上記無機フィラー(F)は、例えば、BET法による比表面積が、1.0~25.0m/gであることが好ましく、1.0~10.0m/gであるのがより好ましく、2.0~6.4m/gであるのがさらに好ましい。比表面積が上記範囲内であることにより、膜中の無機フィラーの凝集が少なく塗膜面が平滑であるため好ましい。
【0060】
上記無機フィラー(F)の配合量は、上記フッ素樹脂粒子(A)との合計量100質量%に対して、10~90質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましい。40~60質量%であることが更に好ましい。
【0061】
上記水性塗料組成物には、上述した各成分に加えて、更に、フッ素樹脂組成物に通常添加される各種添加剤、例えば、着色顔料、安定剤、増粘剤、分解促進剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤等を配合することができる。
【0062】
上記水性塗料組成物は、着色顔料を含まないクリアー塗料であってもよいし、必要に応じて着色顔料を含む着色塗料であってもよい。
【0063】
上記水性塗料組成物を塗装することによって形成された被覆層を有することを特徴とする塗装物品も本開示の一つである。
【0064】
上記水性塗料組成物は、通常の塗料で用いられる塗装方法により塗装することができ、上記塗装方法としては、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装、バーコーターによる塗工、グラビアコート法、マイクログラビアコート法等が挙げられる。
【0065】
上記塗装の後、乾燥・焼成することにより、本開示の塗装物品とすることができる。上記乾燥としては、水性媒体を除去することができる方法であれば特に限定されず、例えば、必要に応じて加熱し、室温~130℃で、5~30分間行う方法等が挙げられる。上記焼成は、フッ素樹脂粒子の溶融温度以上で行うものであり、通常、200~400℃の範囲で10~60分間行うことが好ましい。塗工した金属箔の酸化を防ぐために不活性ガス下での乾燥・焼成が好ましい。
【0066】
本開示の塗装物品における物品基材としては、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、真鍮等の金属類;ガラス板、ガラス繊維の織布及び不織布等のガラス製品;ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、モディファイドポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の汎用及び耐熱性樹脂の成形品及び被覆物;SBR、ブチルゴム、NBR、EPDM等の汎用ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性ゴムの成形品及び被覆物;天然繊維及び合成繊維の織布及び不織布;またはこれらを組み合わせて形成された積層基材等を使用することができる。
上記物品基材は、表面加工されたものであってもよい。上記表面加工としては、サンドブラストを用いて所望の粗度まで粗面化するもの、粒子を付着させて粗面化したもの、金属酸化防止処理を施したものが挙げられる。
【0067】
本開示の塗装物品は、耐熱性、耐溶剤性、潤滑性、非粘着性等が要求される分野で使用でき、フィルム、繊維強化フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属張積層板、プリント基板、基板用誘電材料、積層回路基板等に使用できる。
【0068】
本開示の塗装物品は、銅箔上に本開示の水性塗料組成物によって形成された被覆層を有するものであることが特に好ましい。近年、各種分野において、高周波領域での通信が盛んになっている。高周波領域で用いた際の伝送損失を小さくするために、フルオロポリマーを含有する誘電体層と銅箔とを積層させたものを使用することが行われている。このような用途において、本開示の水性塗料組成物は、特に好適に使用することができる。
【実施例
【0069】
以下、本開示を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において%、部とあるのは特に言及がない限り質量%、質量部を意味する。本開示は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0070】
実施例1
ステップ1.予備粉砕(乾式粉砕)
懸濁重合によりテトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロビニルエーテル(PFVE)共重合体(PFA:融点=300℃、MFR=25g/10min)を製造し、得られた乾燥粉末をそのまま、エアジェットミル装置(アイエムマテリアル社製)により粉砕し、平均粒子径10μmの微粉末を得た。
【0071】
ステップ2.予備混合(予備分散)
ステップ1.により得られたPFA微粉末100質量部に対して、アセチレングリコール系分散剤(サーフィノール440、エアプロダクツジャパン社製)10質量部、シリコーン系界面活性剤(KP-106、信越化学工業社製)10質量部及びイオン交換水280質量部をPFA微粉末と十分に撹拌・混合し、PFA分散液を得た。
【0072】
ステップ3.湿式粉砕
ステップ2.により得られたPFA分散液を100メッシュ金網で濾過した後、高圧乳化機(ナノマイザーNMII、吉田機械興業社製、粉砕圧力=200MPa)に通し、平均粒子径0.20μmの(CAPA700:堀場製作所社製による測定)のPFA微粉末分散液(フッ素樹脂粒子(A-1)分散液)を得た。
得られたPFA微粉末の体積基準累積50%径は、0.20μmであった。
【0073】
ステップ4.塗料化
ステップ3.により得られたPFA微粉末分散液100質量部に対し、シリコーン系界面活性剤(KP-106、信越化学工業社製)2.5質量部、バインダー樹脂としてポリビニルアルコール(PVA、富士フィルム和光純薬株式会社社製)の10wt%水溶液をPVA2.7質量部になるように加え、更に、イオン交換水20質量部を加え塗料化した。
上記ポリビニルアルコールの400℃での重量減少は、75.6%であった。また、水への溶解性は、10質量%以上であった。
【0074】
実施例2~6
各配合成分を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗料化した。
【0075】
実施例7
平均粒子径25.0μmのPFA微粉末を用い、湿式粉砕を省略したこと以外は(フッ素樹脂粒子(A-2)分散液)、実施例1と同様にして塗料化した。
得られたPFA微粉末の体積基準累積50%径は、22.9μmであった。
【0076】
実施例8~12
各配合成分を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗料化した。
【0077】
実施例13~30、比較例1~6
各配合成分を表2、3、4に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様に塗料化した。なお、シリカを配合する場合、その配合量は、フッ素樹脂質量と同質量とした。
【0078】
懸濁重合によりテトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体(FEP)を製造したこと以外は、上述のPFA微粉末分散液(フッ素樹脂粒子(A-1)分散液)と同様にして、平均粒子径0.2μmの(CAPA700:堀場製作所社製による測定)のFEP微粉末分散液(フッ素樹脂粒子(A-3)分散液)を得た。
得られたFEP微粉末の体積基準累積50%径は、0.23μmであった。
【0079】
実施例31~33
各配合成分を表3に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様に塗料化した。なお、シリカを配合する場合、その配合量は、フッ素樹脂質量と同質量とした。
【0080】
使用した成分を以下に示す。
MC400:富士フィルム和光純薬製 メチルセルロース400
400℃での重量減少は、87.3%であった。また、水への溶解性は、2質量%であった。
GM14L:三菱ケミカル製 ゴーセノールTM
400℃での重量減少は、77.7%であった。また、水への溶解性は、10質量%以上であった。
ポリアクリル酸:富士フィルム和光純薬製 ポリアクリル酸250,000
400℃での重量減少は、53.1%であった。また、水への溶解性は、10質量%以上であった。
シリカ:アドマテックス製 アドマファイン SC2500-SQ 平均粒子径0.5μm 比表面積 6.1m/g 最大粒子径 1.7μm
【0081】
得られた塗料組成物について、以下の基準に基づいて評価を行った。
以下の方法にしたがって、樹脂被覆層を得た。
銅箔(福田金属箔粉工業製 CF-V9S-SV-18)上にバーコーター(No.40)を用いて塗料を塗工した。塗工後の銅箔を130℃で15分間乾燥させて粉落ちを評価した。さらに窒素ガス雰囲気下350℃15分間焼成し塗膜を得た。塗工厚みは30±5μmであった。焼成後の塗膜にエチレングリコールは残留していなかった。
【0082】
(粉落ち)
指で撫でた場合と、指圧した場合とで、フッ素樹脂パウダーの脱落を目視で確認した。
×:パウダーの脱落が見られた。
△:指にパウダーの付着が見られた。
〇:指に付着は見られなかった。
【0083】
(ムラ)
表面粗度の評価として、ムラの有無を目視により確認した。
×:ムラあり。
〇:ムラなし。
【0084】
(着色)
被覆層の着色の有無を目視により確認した。
×:着色あり。
△:若干変色あり。
〇:着色なし(透明もしくは白色)。
【0085】
(銅張積層板の反り)
得られた銅張積層体について、反りの有無を目視で確認した。
×:浮きが見られた。
〇:浮きが見られなかった。
【0086】
【表1】
【0087】



【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表1~4の結果から、本開示の水性塗料組成物は、粉落ちを抑制し、ムラや着色のない良好なフッ素樹脂被覆層を形成できることが明らかである。
【0091】
なお、シリカを配合していない実施例においては、銅張積層板の反りという点では、×という評価となっているが、粉落ち、ムラ、焼成後着色といった性能においては好適な結果が得られている。したがって、反りの抑制が特に重要ではない分野においては、シリカを配合しない水性塗料組成物を好適に使用することができる。一方、シリカを配合することによって、銅張積層板の反りの抑制が更に改善される点で好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示により、粉落ちを抑制しつつ、電気物性と表面物性に優れた被覆層を形成し得る水性塗料組成物を得ることができる。上記水性塗料組成物は、プリント基板、基板用誘電材料、積層回路基板等の塗装に好適に用いられる。