IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図1
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図2
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図3
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図4
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図5
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図6
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図7
  • 特許-エッジの丸み付け加工方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】エッジの丸み付け加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 21/16 20060101AFI20220615BHJP
   B24B 27/00 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B24B21/16
B24B27/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017150353
(22)【出願日】2017-08-03
(65)【公開番号】P2019025627
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】川 智明
(72)【発明者】
【氏名】青木 篤人
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 順輝
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-169569(JP,A)
【文献】特開2001-225253(JP,A)
【文献】特開昭62-188665(JP,A)
【文献】特開2005-349524(JP,A)
【文献】特開2004-241434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 21/00、21/14、21/16
B24B 27/00
B24B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部の両側にエッジが配置されているワークに対し、ロボットに装着した研削ツールによって前記エッジの丸み付け加工を行う丸み付け加工方法であって、
前記研削ツールは、
複数のローラからなるローラ群と、
前記ローラ群の部分で折り返すように配置される無端状の研削ベルトと、
モータの駆動力が伝達されることにより前記研削ベルトを駆動する駆動ローラと、
を備え、
前記ローラ群は、何れも前記研削ベルトにより従動回転する第1ローラ、第2ローラ、及び第3ローラを含み、
前記研削ベルトは、前記第2ローラ、前記第1ローラ、前記第3ローラの順に巻き掛けられ、
前記第1ローラは、前記研削ベルトの外周側に配置され、
前記第2ローラ及び前記第3ローラは、何れも前記研削ベルトの内周側に配置され
前記第2ローラと前記第1ローラとの間、及び、前記第1ローラと前記第3ローラとの間には、前記研削ベルトが内周側に撓むことを許容する空間が形成されており、
前記ワークに形成されている前記凸部が、前記研削ツールの前記第2ローラと前記第3ローラとの間の空間に相対的に差し込まれるように、前記研削ツールを移動させる第1工程と、
走行する前記研削ベルトのうち前記第2ローラと前記第1ローラの間の部分を、前記凸部の一側のエッジに接触させるとともに、前記第1ローラと前記第3ローラの間の部分を、前記凸部の他側のエッジに接触させる第2工程と、
を含み、
前記第2工程において、走行する前記研削ベルトは、前記凸部の両側に平行に配置された2本の直線状のエッジに対して同時に接触し、
前記第2工程において、走行する前記研削ベルトを前記エッジに接触させた状態で、当該エッジの長手方向一側に前記研削ツールを移動させた後、前記研削ベルトの走行方向を逆向きにして、走行する前記研削ベルトを前記エッジに接触させた状態で、当該エッジの長手方向他側に前記研削ツールを移動させることを特徴とするエッジの丸み付け加工方法。
【請求項2】
凸部の両側にエッジが配置されているワークに対し、ロボットに装着した研削ツールによって前記エッジの丸み付け加工を行う丸み付け加工方法であって、
前記研削ツールは、
複数のローラからなるローラ群と、
前記ローラ群の部分で折り返すように配置される無端状の研削ベルトと、
モータの駆動力が伝達されることにより前記研削ベルトを駆動する駆動ローラと、
を備え、
前記ローラ群は、何れも前記研削ベルトにより従動回転する第1ローラ、第2ローラ、及び第3ローラを含み、
前記研削ベルトは、前記第2ローラ、前記第1ローラ、前記第3ローラの順に巻き掛けられ、
前記第1ローラは、前記研削ベルトの外周側に配置され、
前記第2ローラ及び前記第3ローラは、何れも前記研削ベルトの内周側に配置され、
前記第2ローラと前記第1ローラとの間、及び、前記第1ローラと前記第3ローラとの間には、前記研削ベルトが内周側に撓むことを許容する空間が形成されており、
前記ワークに形成されている前記凸部が、前記研削ツールの前記第2ローラと前記第3ローラとの間の空間に相対的に差し込まれるように、前記研削ツールを移動させる第1工程と、
走行する前記研削ベルトのうち前記第2ローラと前記第1ローラの間の部分を、前記凸部の一側のエッジに接触させるとともに、前記第1ローラと前記第3ローラの間の部分を、前記凸部の他側のエッジに接触させる第2工程と、
を含み、
前記第2工程において、走行する前記研削ベルトは、前記凸部の周囲に配置された円状のエッジのうち、互いに位相が180°異なる2つの部分に対して同時に接触することを特徴とするエッジの丸み付け加工方法。
【請求項3】
請求項に記載のエッジの丸み付け加工方法であって、
前記第2工程において、走行する前記研削ベルトを前記エッジに接触させた状態で、円状の前記エッジを含む仮想平面に垂直でかつ当該円の中心を通る軸を中心にして前記研削ツールを回転させることを特徴とするエッジの丸み付け加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロボットに装着し研削ツールを用いたエッジの丸み付け加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、研磨帯を巻き掛けた加工ツールが知られている。特許文献1は、この種の加工ツールを開示する。
【0003】
この特許文献1の加工ツールは、ロボットに取り付けられるものではなく手持ち式のものであるが、サンドベルト(研磨帯)と、当該ツールの先端側に設けられる偏向ローラと、サンドベルトを緊張するための緊体ローラと、滑りシューと、を備えている。サンドベルトは、偏向ローラと、緊体ローラと、に巻き掛けられるとともに、滑りシューの、特に扁平な作業面を規定する研削ソールを介してガイドされるようになっている。研削ソールは、当該ツールのケーシングの縦軸線に対して左右対称に2つ延びており、これらの2つの研削ソールが互いに角度(特に鋭角)をなして延びるように配置されている。また、この特許文献1の加工ツールでは、サンドベルトをガイドする偏向ローラや滑りシュー等の構成が、当該ツールの細長いケーシングの後部領域の手前に配置されていて、サンドベルトとともにケーシングの前部領域内で、中央が前方に向いて自由に突き出る楔形尖端状の輪郭を形成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-217092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成では、例えば細長く形成された凸部の両側にエッジが形成されているワークを加工したい場合、1つずつエッジを加工しなければならず、加工時間を短縮する観点から改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、ワークに形成されたエッジを効率的に加工するとにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明観点によれば、以下のエッジの丸み付け加工方法が提供される。即ち、凸部の両側にエッジが配置されているワークに対し、ロボットに装着した研削ツールによって前記エッジの丸み付け加工を行う。前記研削ツールは、ローラ群と、無端状の研削ベルトと、駆動ローラと、を備える。前記ローラ群は、複数のローラからなる。前記無端状の研削ベルトは、前記ローラ群の部分で折り返すように配置される。前記駆動ローラは、モータの駆動力が伝達されることにより前記研削ベルトを駆動する。前記ローラ群は、何れも前記研削ベルトにより従動回転する第1ローラ、第2ローラ、及び第3ローラを含む。前記研削ベルトは、前記第2ローラ、前記第1ローラ、前記第3ローラの順に巻き掛けられる。前記第1ローラは、前記研削ベルトの外周側に配置される。前記第2ローラ及び前記第3ローラは、何れも前記研削ベルトの内周側に配置される前記第2ローラと前記第1ローラとの間、及び、前記第1ローラと前記第3ローラとの間には、前記研削ベルトが内周側に撓むことを許容する空間が形成されている。エッジの丸み付け加工方法は、第1工程と、第2工程と、を含む。前記第1工程では、前記ワークに形成されている前記凸部が、前記研削ツールの前記第2ローラと前記第3ローラとの間の空間に相対的に差し込まれるように、前記研削ツールを移動させる。前記第2工程では、走行する前記研削ベルトのうち前記第2ローラと前記第1ローラの間の部分を、前記凸部の一側のエッジに接触させるとともに、前記第1ローラと前記第3ローラの間の部分を、前記凸部の他側のエッジに接触させる。前記第2工程において、走行する前記研削ベルトは、前記凸部の両側に平行に配置された2本の直線状のエッジに対して同時に接触する。前記第2工程において、走行する前記研削ベルトを前記エッジに接触させた状態で、当該エッジの長手方向一側に前記研削ツールを移動させた後、前記研削ベルトの走行方向を逆向きにして、走行する前記研削ベルトを前記エッジに接触させた状態で、当該エッジの長手方向他側に前記研削ツールを移動させる。
【0011】
これにより、凸部を挟んで配置されている両側のエッジに研削ベルトを同時に接触させて、丸み付け加工を一度に行うことができる。この結果、加工効率を向上させることができる。また、片方のエッジずつ加工を行う場合に生じ易かった凸部の側壁の傷付きのおそれも低減することができる。研削ベルトによって研削される方向が互いに逆となる2回の加工が行われることで、対称性のある丸み付け加工をエッジに対して行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワークに形成されたエッジを効率的に加工すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る研削ツールの全体的な構成を概略的に示す平面図。
図2】ワークに形成されている直線状のエッジを研削ツールにより丸み付け加工する様子を示す斜視図。
図3】研削ツールから閉鎖プレートを取り外した様子を示す分解斜視図。
図4】3つのローラの位置関係を説明する模式図。
図5】3つのローラの相対位置を変更可能な例を説明する模式図。
図6】ワークの様々な形状に応じたローラの位置の例を示す模式図。
図7】ワークのエッジが非対称的に形成されている場合のローラの位置の例を示す模式図。
図8】ワークに形成されている円状のエッジを研削ツールにより丸み付け加工する様子を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る研削ツール1の全体的な構成を概略的に示す平面図である。図2は、ワーク60に形成されている直線状のエッジ62を研削ツール1により丸み付け加工する様子を示す斜視図である。図3は、研削ツール1から閉鎖プレートを取り外した様子を示す分解斜視図である。図4は、3つのローラ11,12,13の位置関係を説明する模式図である。
【0015】
図1に示す研削ツール1は、加工対象のワーク60に対して研削加工を自動的に行うために、アーム型のロボット50の先端に装着して用いられるものである。
【0016】
研削ツール1は、ローラ群10と、研削ベルト20と、駆動ローラ30と、テンションローラ40と、を備える。
【0017】
研削ツール1は更に、把持部15と、ツールフレーム16と、を備える。把持部15は、ロボット50の手先が把持することができるように構成されている。ツールフレーム16は、把持部15に固定されている。ローラ群10、研削ベルト20、駆動ローラ30及びテンションローラ40は、ツールフレーム16に配置される。これにより、研削ツール1を、ロボット50の先端に着脱可能に取り付けることができる。
【0018】
ローラ群10は、3つのローラ、即ち、第1ローラ11、第2ローラ12及び第3ローラ13を備える。それぞれのローラ11,12,13は、ツールフレーム16に取り付けられる支持部材2により、回転可能に支持されている。ローラ群10は、駆動ローラ30よりも把持部15から遠い側に配置されている。
【0019】
研削ベルト20は、無端状に形成された可撓性を有するベルトであり、ローラ群10、駆動ローラ30、及びテンションローラ40に巻き掛けられている。研削ベルト20の外周面には、ワーク60を研削するための研削面が形成されている。研削ベルト20は、ローラ群10の部分で折り返すように配置されている。
【0020】
駆動ローラ30は、ツールフレーム16に固定されるモータ31によって回転駆動され、巻き掛けられている研削ベルト20を循環的に走行させる。このモータ31には、ロボット50側から電力が供給される。また、モータ31は、制御信号が入力されることにより、その回転方向を切り換えることができるように構成されている。
【0021】
テンションローラ40は、回転可能に支持されるとともに、図示しないテンションスプリングの作用により移動可能に構成されている。テンションローラ40は、巻き掛けられている研削ベルト20に対し、適度の張力を付与する。
【0022】
テンションローラ40は、駆動ローラ30よりも把持部15から遠い側に、かつ、ローラ群10よりも把持部15に近い側に配置されている。これにより、ロボット50から離れた場所に、ワーク60に対して加工を行う部分であるローラ群10を配置でき、かつ、駆動ローラ30及びテンションローラ40等を含めて研削ツール1のコンパクトな構成を実現できる。この結果、ロボット50のアーム部と研削ツール1との干渉が発生しにくくなる。
【0023】
図2及び図3には、研削ツール1の支持部材2の周辺の構成が詳細に示されている。図2に示すように、支持部材2は、ベースロッド(ベース部材)3と、2つの支持プレート(支持部材)4a,4bと、を備える。
【0024】
ベースロッド3は、ロッド部3aの一側の端部にブロック部3bを一体的に形成した構成となっている。ロッド部3aは、丸棒状に形成されており、ツールフレーム16に装着することができる。ロッド部3aの中心軸3cが、支持部材2の基準の軸(以下、基準軸と呼ぶことがある。)となっている。ブロック部3bは概ね直方体状に形成されており、支持プレート4a,4bを取り付けるための取付面が形成されている。
【0025】
支持プレート4a,4bは、板状の部材であり、その厚み方向で互いに隙間をあけて対面するように、かつ互いに平行に2つ配置されている。それぞれの支持プレート4a,4bは、ベースロッド3のブロック部3bに対してネジ5により固定されている。2つの支持プレート4a,4bは、互いに対応する形状(概ねY字状)を有している。
【0026】
一側の支持プレート4aには、図3に示すように、第2ローラ12及び第3ローラ13のそれぞれの支軸を差し込むための貫通孔が形成されている。また、この支持プレート4aには、第1ローラ11に対応する位置に凹部4rが形成されており、この凹部4rを閉鎖するように閉鎖プレート7がボルト(固定部材)9により固定されている。閉鎖プレート7には、第1ローラ11の支軸を差し込むための貫通孔が形成されている。
【0027】
上記と反対側の支持プレート4bには、図示しないが、第1ローラ11、第2ローラ12、及び第3ローラ13のそれぞれの支軸を差し込むための貫通孔が形成されている。
【0028】
3つのローラ11,12,13は、閉鎖プレート7と支持プレート4bによって挟まれ、又は、2つの支持プレート4a,4bによって挟まれるようにして、回転可能に支持される。3つのローラ11,12,13の回転軸線は、互いに平行に配置される。
【0029】
図3等に示すように、ローラ群10を構成する第1ローラ11、第2ローラ12及び第3ローラ13は、ロボット50に近い側が尖るような3角形をなすように、当該3角形の頂点に配置されている。そして、上記の尖ったところの頂点に、第1ローラ11が位置している。
【0030】
それぞれのローラ11,12,13の回転軸と平行な方向で見たとき、図4に簡略的に示すように、第1ローラ11は、支持部材2の基準軸3c上に位置している。また、第2ローラ12と第3ローラ13とは、基準軸3cに関して対称となるように配置されている。言い換えれば、3つのローラ11,12,13がなす3角形は、基準軸3cに関して対称となっている。
【0031】
研削ベルト20は、第2ローラ12、第1ローラ11、第3ローラ13の順に巻き掛けられる。また、第2ローラ12及び第3ローラ13は、何れも研削ベルト20の内周側に配置される一方、第1ローラ11は、研削ベルト20の外周側に配置されている。これにより、第1ローラ11の部分で、研削ベルト20が内周側に近づくようにV字状に凹ませることができる。
【0032】
3つのローラ11,12,13は互いに同一の構成であり、支軸と、ローラ体と、の間に図示しない小型の軸受が配置されている。3つのローラ11,12,13は何れも従動ローラとして構成されており、研削ベルト20の走行に伴って従動回転する。これにより、特に支持部材2の周辺の小型化及び簡素化を実現することができる。
【0033】
3つのローラ11,12,13の何れにおいても、ローラ体の外周面には、軸方向両端部に比べて中間部を大径とするクラウンが形成されている。これにより、研削ベルト20がローラ11,12,13から外れにくくすることができる。
【0034】
第1ローラ11の外周面には研削ベルト20の研削面が接触することになるので、この外周面には、摩耗防止加工の一種である硬質コートが施されている。この硬質コートとしては、例えばダイヤモンドコートとすることが考えられる。これにより、第1ローラ11が研削ベルト20により削れてしまうのを抑制することができる。
【0035】
また、支持プレート4aに対して閉鎖プレート7がボルト9により着脱可能に固定されており、第1ローラ11の支軸の一端が、この閉鎖プレート7によって支持されている。従って、支持プレート4aを取り外さずに、閉鎖プレート7を取り外すだけで、研削ベルト20又は第1ローラ11の交換を容易に行うことができる。
【0036】
3つのローラ11,12,13のそれぞれが上記のように小型のローラとして構成されているので、ローラ群10の密集配置を実現することができる。具体的に言えば、図1に示すように、第2ローラ12と第1ローラ11との間の距離、及び、第1ローラ11と第3ローラ13との間の距離は、何れも、駆動ローラ30とローラ群10との間の距離より短くなっており、また、テンションローラ40とローラ群10との距離より短くなっている。このようなコンパクトなローラ群10の配置により、狭い場所でも加工を容易に行うことができる。
【0037】
第2ローラ12と第1ローラ11の間、及び、第1ローラ11と第2ローラ12の間には、図3に示すようにそれぞれ空間8が形成されている。従って、研削ベルト20において、上記の空間8に対応する部分は、当該空間8に入り込むように内周側に撓むことが可能なフリーベルト部となっている。
【0038】
これにより、ワーク60において凸部61を挟んで2つの直線状のエッジ62が配置されている場合に、この凸部61の両側で相対的に凹となっている部分に第2ローラ12及び第3ローラ13を差し込むようにロボット50が研削ツール1を動かすと、研削ベルト20の2つのフリーベルト部が2つのエッジ62に同時に接触する。このように、研削ツール1の研削ベルト20が2つのエッジ62に跨るように接触し、2つのエッジ62に対して丸み付け加工を一度に行うことができる。
【0039】
研削ベルト20はエッジ62に当たる部分で内周側に撓むので、この撓んだ状態で研削ベルト20を走行させることにより、エッジ62に対して丸み付け加工を効率的に行うことができる。
【0040】
特に、本実施形態において、3つのローラ11,12,13の間には、研削ベルト20の内周面に接触する部材(プラテン等)が配置されていない。従って、2つのエッジ62の間の距離が様々に異なるワーク60に対し、当該2つのエッジ62の同時加工を行うことができる。
【0041】
また、本実施形態においては、図4に示すように、第2ローラ12と第1ローラ11との間の研削ベルト20と、第1ローラ11と第3ローラ13との間の研削ベルト20と、がなす角度α(以下、ツールのV字角と呼ぶことがある。)が90°以上となるように、各ローラ11,12,13が配置されている。
【0042】
このように研削ベルト20が直角又は鈍角で凹状に屈曲されるので、第2ローラ12及び第3ローラ13をワーク60の凸部61の両側(相対的に凹となっている部分)に少し差し込むだけで、研削ベルト20を2つのエッジ62に接触させることができる。また、第2ローラ12及び第3ローラ13の部分が凸部61の脇に大きく進入しないので、本来加工すべきでない凸部61の側壁に研削ベルト20が接触してしまうことを防止することができる。
【0043】
仮に、研削ツール1において第2ローラ12及び第3ローラ13を省略して、第1ローラ11だけにした場合、2つのエッジ62を片側ずつ、第1ローラ11を凸部61の脇(相対的に凹となっている部分)に大きく差し込みながら研削ベルト20による丸み付け加工を行う必要がある。しかしながら、このような加工方法では、凸部61の側壁に第1ローラ11及び研削ベルト20が当たり、損傷させてしまい易い。この点、本実施形態では、3つのローラ11,12,13に研削ベルト20を巻き掛け、2つのエッジ62を同時に加工するので、第2ローラ12及び第3ローラ13を凸部61の脇に大きく差し込まずに加工を行うことができる。この結果、凸部61の側壁の損傷のおそれを軽減することができる。
【0044】
ただし、図5に示すように、第2ローラ12及び第3ローラ13を例えば基準軸3cの方向に移動可能に構成することで、ワーク60の形状等に応じてツールのV字角αを変更することもできる。
【0045】
第1ローラ11を基準とした第2ローラ12及び第3ローラ13の相対位置を変更するための構成としては、例えば、第2ローラ12及び第3ローラ13を支持するそれぞれのアームを、支持部材2に対してスライド機構6を介して設けることが考えられる。
【0046】
図5の構成において、第2ローラ12及び第3ローラ13の位置を個別に調整することで、3つのローラ11,12,13がなす3角形が、基準軸3cに関して対称でない3角形となるようにすることもできる。
【0047】
一般的に、ワーク60のエッジ62を丸み付け加工する場合、研削ベルト20は、エッジ62の角度θを2等分する直線に対して垂直となるように配置すると、当該エッジ62を対称的に丸み付けできるため、好ましい。従って、3つのローラ11,12,13の位置は、ワーク60が有する2つのエッジ62の位置及び角度θに応じて調整される。
【0048】
図6(a)及び図6(b)には、各種の形状のワーク60に対する、3つのローラ11,12,13の位置関係がそれぞれ示されている。図6(a)は、エッジ62の角度θが鈍角の場合、図6(b)は、角度θが鋭角の場合を示している。何れの場合も、角度θを2等分する直線に垂直となるように、研削ベルト20のフリーベルト部が向けられている。この場合、ツールのV字角αは、エッジ62の角度θと等しくなる(α=θ)。
【0049】
図7(a)には、凸部61を挟んで配置される2つのエッジ62の角度θ1,θ2が互いに異なる場合が示されている。このようにワーク60の2つのエッジ62が非対称的に形成されている場合も、それぞれのエッジ62の角度θ1,θ2を2等分する直線に垂直となるように、研削ベルト20のフリーベルト部が配置されれば良い。この結果、3つのローラ11,12,13は、非対称な3角形をなすように配置される。
【0050】
ただし、図7(a)のようにローラ11,12,13が非対称な3角形で配置される代わりに、図7(b)のようにローラ11,12,13が対称な3角形で配置される研削ツール1を用いても良い。この場合、基準軸3cを適宜傾けた状態で、ワーク60に対して加工を行うことになる。
【0051】
エッジ62を丸み付け加工するには、研削ツール1を基準軸3cに沿ってワーク60に近づける向きに移動させる。このときに研削ツール1に一定の押付け力を付与することで、エッジ62の位置に多少の誤差があっても、丸み付け加工を安定して行うことができる。上記の押付け力を付与する方法としては、例えば空気圧シリンダ等のシリンダを用いる方法、サーボモータの定トルク制御を用いる方法、又は力覚センサと推力発生機構による力制御を利用する方法等が考えられるが、これに限定されない。
【0052】
また、本実施形態のように研削ベルト20によって丸み付け加工を行う場合、研削ベルト20の走行方向上流側が下流側に比べてエッジ62に丸みが付き易く、丸み形状に偏りが生じるおそれがある。この点、本実施形態の研削ツール1において、駆動ローラ30を回転させるモータ31は、回転方向の切換が可能に構成されている。この構成で、モータ31の正転と逆転を切り換えながら、エッジ62の同じ場所に研削ベルト20を接触させることにより、対称的で綺麗なR形状(円弧状)の丸みを実現することができる。
【0053】
例えば、図2の構成で2つのエッジ62に丸み付け加工を行うには、先ず、矢印R1の方向に研削ベルト20を走行させながら、ワーク60に形成されている凸部61の両脇に形成されている細長い溝状の凹部(相対的に凹となっている部分)に第2ローラ12及び第3ローラ13を差し込むように、研削ツール1を移動させる(第1工程)。なお、この研削ツール1の移動により、第2ローラ12と第3ローラ13との間の空間にワーク60の凸部61が相対的に差し込まれることになる。そして、研削ツール1に上述の押付け力を付与することにより、研削ベルト20のうち第2ローラ12と第1ローラ11の間の部分を、凸部61の一側のエッジ62に接触させ、第1ローラ11と第3ローラ13の間の部分を、凸部61の他側のエッジ62に接触させる(第2工程)。
【0054】
第2工程では、上記のように研削ベルト20を2つのエッジ62に同時に接触させた状態で、エッジ62の長手方向に沿って、矢印D1の方向に研削ツール1を移動させる。エッジ62の長手方向全部に対して研削を行った後、上記とは逆である矢印R2の方向に研削ベルト20を走行させながら、2つのエッジ62に研削ベルト20を接触させ、この状態で、エッジ62の長手方向に沿って、上記とは逆である矢印D2の方向に研削ツール1を移動させる。
【0055】
以上の作業により、2つのエッジ62を同時に加工して効率を向上させることができるとともに、研削ベルト20の幅より長いエッジ62を有するワーク60に対し、エッジ62の全体について対称的な丸みを形成することができる。
【0056】
ただし、エッジ62に対する研削ベルト20の走行方向の切換は、モータ31の回転方向を切り換えることに代えて、基準軸3cを中心にして図2の研削ツール1を180°回転させることでも実現することができる。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態においてロボット50に装着して用いられる研削ツール1は、ローラ群10と、無端状の研削ベルト20と、駆動ローラ30と、を備える。ローラ群10は、複数のローラ11,12,13からなる。研削ベルト20は、ローラ群10の部分で折り返すように配置される。駆動ローラ30は、モータ31の駆動力が伝達されることにより研削ベルト20を駆動する。ローラ群10は、何れも研削ベルト20により従動回転する第1ローラ11、第2ローラ12、及び第3ローラ13を含む。研削ベルト20は、第2ローラ12、第1ローラ11、第3ローラ13の順に巻き掛けられる。第1ローラ11は、研削ベルト20の外周側に配置される。第2ローラ12及び第3ローラ13は、何れも研削ベルト20の内周側に配置される。第2ローラ12と第1ローラ11との間、及び、第1ローラ11と第3ローラ13との間には、研削ベルト20が内周側に撓むことを許容する空間が形成されている。
【0058】
これにより、例えば、ワーク60において加工対象の2つのエッジ62が小さい凸部61の両側に配置されている場合に、研削ベルト20において内周側に屈曲された部分の内部に当該凸部61を相対的に差し込むようにすることで、研削ベルト20による加工を2つのエッジ62に対して同時に行うことができる。また、研削ベルト20がエッジ62に当たる部分を撓ませることで、エッジ62の丸み付け加工を容易に行うことができる。更に、第1ローラ11、第2ローラ12、及び第3ローラ13が従動ローラとして構成されるので、各ローラ11,12,13及びその周辺の構成の小型化及び簡素化が容易であり、細かい形状のワーク60を加工する場合に特に好適である。
【0059】
また、本実施形態の研削ツール1において、第1ローラ11の外周面に摩耗防止加工がされている。
【0060】
これにより、第1ローラ11が研削ベルトによって削れてしまうのを抑制することができる。
【0061】
また、図5の例に示す研削ツール1においては、第2ローラ12の第1ローラ11に対する相対位置、及び、第3ローラ13の第1ローラ11に対する相対位置を変更可能に構成されている。
【0062】
これにより、ワーク60の形状等に対応して、ローラ群10に巻き掛けられる研削ベルト20の屈曲形状を変更することができる。この結果、研削ツールの汎用性を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態においては、凸部61の両側にエッジ62が配置されているワーク60に対し、ロボット50に装着した研削ツール1によって、エッジ62の丸み付け加工が以下のように行われる。第1工程では、ワーク60に形成されている凸部61が、研削ツール1の第2ローラ12と第3ローラ13との間の空間に相対的に差し込まれるように、研削ツール1を移動させる。第2工程では、走行する研削ベルト20のうち第2ローラ12と第1ローラ11の間の部分を、凸部61の一側のエッジに接触させるとともに、第1ローラ11と第3ローラ13の間の部分を、凸部61の他側のエッジに接触させる。
【0064】
これにより、凸部61を挟んで配置されている両側のエッジ62に研削ベルト20を同時に接触させて、丸み付け加工を一度に行うことができる。この結果、加工効率を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、前記第2工程において、走行する研削ベルト20は、凸部61の両側に平行に配置された2本の直線状のエッジ62に対して同時に接触する。
【0066】
これにより、直線状のエッジ62の丸み付け加工を効率的に行うことができる。
【0067】
また、本実施形態では、前記第2工程において、走行する研削ベルト20をエッジ62に接触させた状態で、当該エッジ62の長手方向に前記研削ツールを移動させる。
【0068】
これにより、エッジ62が研削ベルト20の幅よりも長く形成されている場合でも、丸み付け加工を適切に行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、前記第2工程において、走行する研削ベルト20をエッジ62に接触させた状態で、当該エッジ62の長手方向一側に研削ツール1を移動させた後、研削ベルト20の走行方向を逆向きにして、走行する研削ベルト20をエッジ62に接触させた状態で、当該エッジ62の長手方向他側に研削ツール1を移動させる。
【0070】
これにより、研削ベルト20によって研削される方向が互いに逆となる2回の加工が行われることで、対称性のある丸み付け加工をエッジ62に対して行うことができる。
【0071】
次に、図8を参照して、エッジが円状に形成されている場合の丸み付け加工について説明する。図8は、ワーク60xに形成されている円状のエッジ62xを研削ツール1により丸み付け加工する様子を示す斜視図である。
【0072】
図8において、ワーク60xには、小さな円柱状の凸部61xが形成されている。この凸部61xの縁部には、円状のエッジ62xが形成されている。
【0073】
このワーク60xの円状のエッジ62xを研削ツール1により丸み付け加工する場合、第2ローラ12と第3ローラ13の間の空間に凸部61xが相対的に差し込まれるように研削ツール1を移動させる(第1工程)。このとき、ツールの基準軸3cを、円状のエッジ62xを含む仮想平面に垂直な向きで、エッジ62xの円の中心を通過するように合わせておく。そして、研削ツール1に上述の押付け力を付与することにより、研削ベルト20のうち第2ローラ12と第1ローラ11の間の部分を、凸部61xの一側のエッジ62xに接触させ、第1ローラ11と第3ローラ13の間の部分を、凸部61xの他側のエッジ62xに接触させる(第2工程)。
【0074】
このように、研削ベルト20を、凸部61xの周囲に配置された円状のエッジ62xのうち、互いに位相が180°異なる2つの部分に同時に接触させる。これにより、円形の凸部61xのエッジ62xについても、丸み付け加工を2箇所同時に行うことで効率を向上させることができる。
【0075】
第2工程では、上記のように研削ベルト20をエッジ62xの2箇所に同時に接触させた状態で、基準軸3cを中心として、図8の矢印の方向に研削ツール1を回転させる。例えば360°回転させることで、エッジ62xのどの部分にも研削ベルト20が2回接触し、しかも、その2回の間で、エッジ62xに対する研削ベルト20の走行方向が異なることになる。この結果、円状のエッジ62xの全周について、対称性のある綺麗な丸み付け加工を行うことができる。また、研削ベルト20の走行方向(駆動ローラ30の回転方向)を切り換える必要がないので、加工効率をより向上させることができる。
【0076】
以上に説明したように、図8のように円状のエッジ62xを有するワーク60xの場合、上述の第2工程において、走行する研削ベルト20は、凸部61xの周囲に配置された円状のエッジ62xのうち、互いに位相が180°異なる2つの部分に対して同時に接触する。
【0077】
これにより、円状のエッジ62xの少なくとも一部について、丸み付け加工を効率的に行うことができる。
【0078】
また、図8の加工では、第2工程において、走行する研削ベルト20をエッジ62xに接触させた状態で、円状のエッジ62xを含む仮想平面に垂直でかつ当該円の中心を通る軸(基準軸3c)を中心にして研削ツール1を回転させる。
【0079】
これにより、円状のエッジ62xのうち大きな角度範囲(例えば、全周)について、丸み付け加工を効率的に行うことができる。
【0080】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0081】
図5のように第2ローラ12と第3ローラ13とが互いに独立に移動できる構成に代えて、第2ローラ12と第3ローラ13とを共通のアーム部材に設け、同時に移動する構成に変更することができる。
【0082】
ツールのV字角αは、90°未満であっても良い。一方で、V字角αが小さ過ぎると、第2ローラ12と第3ローラ13との間の空間に凸部61,61xが相対的に大きく差し込まれるように研削ツール1を移動させる必要があり、凸部61,61xの側壁を損傷させるおそれが大きくなるので、V字角αはある程度大きくすることが好ましい。
【0083】
図8の構成で、研削ツール1を回転させる角度は、360°とする必要はなく、例えば180°としても良い。形成される丸みの対称性が問題にならない軽微な加工で十分な場合には、研削ツール1を180°回転させることでエッジ62xの全周の加工が完了でき、加工時間の短縮を実現できる。同様の趣旨で、図2の構成において、研削ツール1を矢印D1方向に動かすだけで加工を完了させても良い。
【0084】
ローラ群10を構成するローラを4つ以上とし、同時に3つ以上のエッジ62を丸み付け加工する構成としても良い。
【0085】
上記の研削ツール1は、例えば、細長い長方形状の凸部の縁部のエッジ、円錐台状の凸部の縁部のエッジを丸み付け加工するのに用いることもできる。
【0086】
上述したエッジ丸み付け加工は、例えば、歯車、ガスタービンの部品、放熱用のフィン等を対象として行うことができるが、これに限らず様々なワークに対して行うことができる。
【符号の説明】
【0087】
1 研削ツール
8 空間
10 ローラ群
11 第1ローラ
12 第2ローラ
13 第3ローラ
20 研削ベルト
30 駆動ローラ
60 ワーク
61 凸部
62 エッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8