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特許7089955インクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】インクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20220616BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220616BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018114910
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019218435
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 明広
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-155359(JP,A)
【文献】特表2016-525158(JP,A)
【文献】特開2017-39888(JP,A)
【文献】特開2018-35294(JP,A)
【文献】特開2014-80536(JP,A)
【文献】特開2005-251488(JP,A)
【文献】特開2001-209200(JP,A)
【文献】特開2006-27209(JP,A)
【文献】特開2018-70760(JP,A)
【文献】特開2006-40935(JP,A)
【文献】特開2016-36977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 13/00
B41J 2/01
B41J 2/165- 2/20
B41J 2/21- 2/215
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.4~2.5μmであり、屈折率が1.4~1.7であり、比重が2.1以下である粒子を含み、
前記粒子の含有量は、0.5~15質量%であり、
ラジカル重合型紫外線硬化型インクである、インクジェットインク。
【請求項2】
前記粒子は、真球状架橋性ポリマー微粒子を含む、請求項記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記粒子は、メラミン系ビーズを含む、請求項記載のインクジェットインク。
【請求項4】
(メタ)アクリルシランを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記粒子は、メラミン系ビーズを含み、
前記(メタ)アクリルシランと、前記メラミン系ビーズとの配合割合(質量比)は、1:10~1:200である、請求項記載のインクジェットインク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェット方式により基材上に付与する工程と、
付与した前記インクジェットインクに紫外線を照射して硬化させる工程と、を含む、インクジェットプリント物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のインクジェットインクが付与された、インクジェットプリント物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、吐出安定性が優れ、かつ、種々の程度の艶消し性を付与することのできるインクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、艶消し性の付与されたプリント物を得るためのインクジェット印刷用インクおよび印刷方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、光硬化型樹脂を含むインクを硬化させることによって凹凸を形成し、これによりプリント物の表面を乱反射させて艶消し効果を発揮するインクジェット印刷用インクおよび印刷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-101479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、プリント物の表面に形成した凹凸の乱反射を利用して、艶消し効果を発揮している。そのため、それぞれの凹凸は、独立している必要がある。その結果、得られる艶消し性にも限界があり、所望の艶消し性を表現できない場合がある。また、それぞれの凹凸が独立するよう形成する必要があるため、特許文献1に記載の方法は、表現し得る意匠が制限されやすい。さらに、独立した凹凸を形成するためには、1回吐出量が制限されやすく、かつ、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置がシリアル型等に制限されやすい。その結果、特許文献1に記載の技術は、得られるプリント物の意匠性や生産性が制限されやすい。
【0005】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、吐出安定性が優れ、種々の程度の艶消し性を付与することができ、プリント物の意匠性や生産性を向上させ得るインクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のインクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)平均粒子径が0.4~2.5μmであり、屈折率が1.4~1.7であり、比重が2.1以下である粒子を含む、インクジェットインク。
【0008】
このような構成によれば、インクジェットインクは、上記所定の平均粒子径、屈折率および比重を示す粒子を含んでいる。このようなインクジェットインクは、インクジェット印刷時においてノズルや流路に詰まりを生じにくく、吐出安定性が優れる。また、インクジェットインクは、上記粒子を含んでいることにより、種々の程度の艶消し性を付与することができ、プリント物の意匠性を向上させ得る。さらに、インクジェットインクは、上記粒子を含んでいることにより艶消し性を発揮しているため、従来技術のように凹凸を独立させて形成することが必須でない。その結果、インクジェットインクによれば、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置が制限されにくく、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性を向上させ得る。
【0009】
(2)前記粒子の含有量は、0.5~15質量%である、(1)記載のインクジェットインク。
【0010】
このような構成によれば、インクジェットインクは、吐出安定性がより優れ、かつ、優れた艶消し効果が得られやすい。
【0011】
(3)前記粒子は、真球状架橋性ポリマー微粒子を含む、(1)または(2)記載のインクジェットインク。
【0012】
このような構成によれば、インクジェットインクは、インクジェット印刷時においてノズルに詰まりをより生じにくく、吐出安定性が優れる。また、真球状架橋性ポリマー微粒子は、インク中で膨潤しにくく、得られるインクの安定性が優れる。
【0013】
(4)前記粒子は、メラミン系ビーズを含む、(1)または(2)記載のインクジェットインク。
【0014】
このような構成によれば、メラミン系ビーズは、インク中でより膨潤しにくく、得られるインクの安定性がより優れる。
【0015】
(5)前記インクジェットインクは、ラジカル重合型紫外線硬化型インクである、(1)~(4)のいずれかに記載のインクジェットインク。
【0016】
このような構成によれば、インクジェットインクは、材料選択の余地やコストメリットが大きく、所望のインクを設計しやすい。
【0017】
(6)(メタ)アクリルシランを含む、(5)記載のインクジェットインク。
【0018】
このような構成によれば、インクジェットインクは、安定性がより優れる。
【0019】
(7)前記粒子は、メラミン系ビーズを含み、前記(メタ)アクリルシランと、前記メラミン系ビーズとの配合割合(質量比)は、1:10~1:200である、(6)記載のインクジェットインク。
【0020】
このような構成によれば、メラミン系ビーズは、(メタ)アクリルシランによって、たとえばアクリルモノマーとの相溶性が改善される。その結果、インクジェットインクは、安定性がより優れる。
【0021】
(8)(1)~(4)のいずれかに記載のインクジェットインクを、インクジェット方式により基材上に付与する工程と、前記基材を乾燥させる工程とを含む、プリント物の製造方法。
【0022】
このような構成によれば、上記インクジェットインクが使用されることにより、種々の程度の艶消し性が付与され、意匠性の優れたインクジェットプリント物が作製され得る。また、このようなインクジェットプリント物の製造方法によれば、使用されるインクジェット装置が制限されにくく、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性が向上し得る。
【0023】
(9)(5)~(7)のいずれかに記載のインクジェットインクを、インクジェット方式により基材上に付与する工程と、付与した前記インクジェットインクに紫外線を照射して硬化させる工程と、を含む、インクジェットプリント物の製造方法。
【0024】
このような構成によれば、上記インクジェットインクが使用されることにより、種々の程度の艶消し性が付与され、意匠性の優れたインクジェットプリント物が作製され得る。また、このようなインクジェットプリント物の製造方法によれば、使用されるインクジェット装置が制限されにくく、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性が向上し得る。
【0025】
(10)(1)~(7)のいずれかに記載のインクジェットインクが付与された、インクジェットプリント物。
【0026】
このような構成によれば、得られるプリント物は、上記インクジェットインクが使用されることにより、種々の程度の艶消し性が付与され、意匠性が優れる。また、プリント物は、効率よく生産されやすい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、吐出安定性が優れ、種々の程度の艶消し性を付与することができ、プリント物の意匠性や生産性を向上させ得るインクジェットインク、インクジェットプリント物およびインクジェットプリント物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<インクジェットインク>
本発明の一実施形態のインクジェットインク(以下、単にインクともいう)は、平均粒子径が0.4~2.5μmであり、屈折率が1.4~1.7であり、比重が2.1以下である粒子を含む。本実施形態のインクは、このように、所定の平均粒子径、屈折率および比重を示す粒子を含んでいることにより、インクジェット印刷時においてノズルに詰まりを生じにくく、吐出安定性が優れる。また、インクは、上記粒子を含んでいることにより、種々の程度の艶消し性を付与することができ、プリント物の意匠性を向上させ得る。さらに、インクは、上記粒子を含んでいることにより艶消し性を発揮しているため、従来技術のように凹凸を独立させて形成することが必須でない。その結果、本実施形態のインクによれば、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置が制限されにくく、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性を向上させ得る。以下、それぞれの構成について説明する。
【0029】
(粒子)
本実施形態のインクに含まれる粒子は、平均粒子径が0.4~2.5μmであり、屈折率が1.4~1.7であり、比重が2.1以下であることを特徴とする。このような粒子を含むインクは、インクジェットプリント時においてノズルや流路を詰まらせにくく、インクの吐出安定性が優れる。また、このような粒子が付与されることにより、得られる塗膜が白濁等を生じにくく、基材には所望の艶消し性が付与され得る。
【0030】
粒子の平均粒子径は、0.4μm以上であればよく、0.8μm以上であることが好ましい。また、粒子の平均粒子径は、2.5μm以下であればよく、2.0μm以下であることが好ましい。平均粒子径が0.4μm未満である場合、インクは、粒子を付与することによって得られる艶消し効果が不充分となりやすい。一方、平均粒子径が2.5μmを超える場合、インクは、インクジェットプリント時において粒子がノズルや流路に詰まる可能性があり、吐出安定性が低下する場合がある。なお、本実施形態において、平均粒子径は、たとえばレーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(日機装社(Nikkiso Co., Ltd.)製のマイクロトラックUPA等)が例示される。
【0031】
粒子の屈折率は、1.40以上であればよく、1.45以上であることが好ましい。また、粒子の屈折率は、1.70以下であればよく、1.65以下であることが好ましい。屈折率が1.40未満である場合、インクは、バインダー樹脂(たとえば後述するアクリルモノマー)よりも屈折率が低くなりやすく、艶消し効果が得られにくい。一方、屈折率が1.70を超える場合、得られるプリント物の塗膜が白濁しやすい。なお、本実施形態において、粒子の屈折率は、たとえばアッべ屈折計(KPR-30A、島津製作所(株)製)を使用し、プリズム上に粒子を載せることで測定することができる。
【0032】
粒子の比重は、2.1以下であればよく、2.0以下であることが好ましい。なお、粒子の比重の下限は特に限定されない。粒子の比重が2.1を超える場合、粒子は、塗膜形成時に沈み込みやすく、所望の艶消し効果が得られない傾向がある。なお、本実施形態において、粒子の比重は、真比重を表しており、ゲーリュサック型比重瓶(ピクノメーター)法を用いて測定することができる。
【0033】
粒子の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、粒子の含有量は、インク中、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。また、粒子の含有量は、インク中、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。粒子の含有量が上記範囲内であることにより、インクは、所望の艶消し効果が得られやすい。また、インクは、貯蔵安定性が優れ、かつ、得られる塗膜は、白濁等を生じにくい。
【0034】
本実施形態の粒子は、上記所定の平均粒子径、屈折率および比重を示す粒子であればよく、粒子の材料は特に限定されない。一例を挙げると、粒子は、各種無機系粒子または有機系粒子(ビーズ)であってもよい。
【0035】
無機系粒子は、珪素、アルミニウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、イットリウム、インジウム、アンチモン、錫、タングステン等の金属元素を含む酸化物である。これらの中でも、無機系粒子は、バインダー樹脂(たとえば後述するアクリルモノマー)と比較して大差がなく、かつ、比重が比較的小さい点から、シリカビーズ(屈折率:1.44、比重:2.0)、アルミナビーズ(屈折率:1.63、比重:4.0)等であることが好ましい。これらの中でも、比重が比較的小さい点から、無機系粒子は、シリカビーズであることが好ましい。無機系粒子は併用されてもよい。なお、無機系粒子の種類によって、組成が一定でない場合がある。そのため、上記屈折率の値は、その無機系粒子における一般的な値に過ぎず、後述する実施例で使用された無機系粒子のように、同一の無機系粒子であっても多少値が異なる場合がある。有機系粒子も同様である。
【0036】
有機系粒子は、ポリメチルメタクリレートビーズ(屈折率1.49、比重:1.2~1.4)、アクリルビーズ(屈折率1.50、比重:1.2~1.4)、アクリル-スチレン共重合体ビーズ(屈折率1.54、比重:1.2~1.25)、メラミン系ビーズ(屈折率1.57、比重:1.5~1.6)、高屈折率メラミン系ビーズ(屈折率1.65、比重:1.5~1.6)、ポリカーボネートビーズ(屈折率1.57、比重:1.4~1.5)、スチレンビーズ(屈折率1.60、比重:1.05~1.1)、架橋ポリスチレンビーズ(屈折率1.61、比重:1.05~1.1)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.60、比重:1.35~1.5)、ベンゾグアナミン-メラミンホルムアルデヒドビーズ(屈折率1.68、比重:1.4~1.5)、シリコーンビーズ(屈折率1.50、比重:1.3~1.4)等である。これらの中でも、有機系粒子は、インク中で膨潤しにくく、得られるインクの安定性が優れる点から、アクリルビーズ、メラミン系ビーズ、アクリル-スチレン共重合体ビーズ等の架橋された架橋性ポリマー微粒子であることが好ましく、インクジェット印刷時においてノズルや流路に詰まりを生じにくく、インクの吐出安定性が向上する点から、真球状架橋性ポリマー微粒子であることがより好ましい。なお、本実施形態において、真球状とは、ほぼビーズ表面に凸凹やでっぱりがなく、なめらかな球状であることをいう。さらに、有機系粒子は、インク中で特に膨潤しにくく、得られるインクの安定性が特に優れる点から、メラミン系ビーズであることが好ましい。有機系粒子は併用されてもよいし、無機系粒子を有機系粒子表面に被覆した複合微粒子であってもよい。
【0037】
(その他の成分)
本実施形態のインクは、上記粒子を含んでいればよく、他の成分は特に限定されない。インクは、たとえば、バインダー樹脂、分散剤、溶剤および各種任意成分を含んでもよい。
【0038】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、たとえば、インクの粘度の調整、得られるプリント物の硬度の調整や形状を制御するために含有される。
【0039】
バインダー樹脂の種類は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレートスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンスチレン共重合樹脂、エチレン酢ビ樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンマレイン酸共重合樹脂、ポリスチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、およびこれらの共重合樹脂等が例示される。バインダー樹脂は、膜強度、粘度、インクジェットインクの残部粘度、顔料の分散安定性、熱安定性、非着色性、耐水性、耐薬品性を考慮し、適宜選択され得る。バインダー樹脂は、併用されてもよい。
【0040】
・フッ素樹脂
フッ素樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、フッ素樹脂は、各種含フッ素モノマーと、ビニルモノマーとの共重合体であることが好ましい。また、フッ素樹脂は、ビニルモノマーの中でも、ビニルエーテルモノマーとの共重合体であることがより好ましい。さらに、フッ素樹脂は、フルオロエチレンと、ビニルエーテルモノマーとの共重合体であることがより好ましい。
【0041】
フッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましい。Mwは、50000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、フッ素樹脂は、溶剤に溶解しやすい。また、得られるインクは、乾燥性が改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。Mwが5000未満である場合、得られるプリント物は、ベタツキが生じやすく、ブロッキング防止性が低下する傾向がある。一方、Mwが50000を超える場合、フッ素樹脂の溶解性が低下したり、インクジェットプリント時におけるインクの吐出安定性が低下する傾向がある。なお、本明細書において、Mwおよび後述する数平均分子量(Mn)は、たとえばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、高速GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8120GPC)を用いて測定し得る。
【0042】
・アクリル樹脂
アクリル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル(アクリレート)またはメタクリル酸エステル(メタクリレート)の重合体が例示される。より具体的には、アクリル樹脂は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体が例示される。これらは併用されてもよい。
【0043】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。Mwは、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、このようなアクリル樹脂を含むインクは、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。
【0044】
・塩化ビニル樹脂
塩化ビニル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルと、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、マレイン酸、ビニルアルコール等の他のモノマーとの共重合体等が例示される。これらの中でも、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルおよび酢酸ビニルに由来する構成単位を含む共重合体(塩ビ酢ビ共重合体)であることが好ましい。
【0045】
塩ビ酢ビ共重合体は、たとえば懸濁重合によって得ることができる。塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位を70~90質量%含有することが好ましい。上記範囲であれば、塩ビ酢ビ共重合体は、インク中に安定して溶解するため長期の保存安定性が優れる。また、得られるインクは、吐出安定性が優れる。
【0046】
塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位および酢酸ビニル単位のほかに、必要に応じて、その他の構成単位を備えていてもよい。一例を挙げると、その他の構成単位は、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位等が例示される。これらの中でも、その他の構成単位は、ビニルアルコール単位であることが好ましい。
【0047】
塩化ビニル樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、12000以上であることがより好ましい。また、Mnは、50000以下であることが好ましく、42000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0048】
・シリコーン樹脂
シリコーン樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン(メチル基の一部をフェニル基に置換したポリジメチルシロキサン)、アクリル樹脂変性シリコーンレジン、ポリエステル樹脂変性シリコーンレジン、エポキシ樹脂変性シリコーンレジン、アルキッド樹脂変性シリコーンレジンおよびゴム系のシリコーンレジン等が例示される。これらは併用されてもよい。これらの中でも、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン、アクリル樹脂変性シリコーンレジンが好ましい。
【0049】
シリコーン樹脂は、有機溶媒等に溶解されたものであってもよい。有機溶媒は、キシレン、トルエン等が例示される。
【0050】
シリコーン樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましい。また、Mnは、5000000以下であることが好ましく、3000000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0051】
バインダー樹脂全体の説明に戻り、バインダー樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、固形分換算で、インクセットを構成するインク中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、バインダー樹脂は、インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の含有量が1質量%未満である場合、バインダーとしての所望の性能が得られにくく、基材への密着性などが低下する傾向がある。一方、バインダー樹脂の含有量が40質量%を超える場合、インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0052】
(分散剤)
分散剤は、顔料を分散させるために含有される。分散剤は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高分子分散剤等が例示される。これらは併用されてもよい。
【0053】
アニオン系界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩およびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0054】
ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーおよびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0055】
高分子分散剤は、酸価と塩基価を両方持ち、かつ、酸価が塩基価より大きいものが、より安定な分散特性が得られる観点から好ましい。一例を挙げると、高分子分散剤は、味の素ファインテクノ(株)製のPBシリーズ、川研ファインケミカル(株)製のヒノアクトシリーズ、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ、楠本化成(株)製のDISPARLONシリーズ、BASFジャパン(株)製のEfka(登録商標)シリーズ等が例示される。
【0056】
分散剤の含有量は、分散すべき顔料の種類および含有量によって適宜決定される。一例を挙げると、分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が5質量部未満である場合、顔料が分散されにくい傾向がある。一方、分散剤の含有量が150質量部を超える場合、原料コストが上がったり、顔料の分散が阻害される傾向がある。
【0057】
(溶剤)
溶剤は、インクセットを構成するインクにおいて、バインダー樹脂を溶解するための液体成分である。溶剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、水、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤、芳香族系溶剤等である。これらは併用されてもよい。本実施形態の溶剤は、これらの中でも、グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤は、いずれも低粘度であり、かつ、比較的沸点が高い。そのため、これらを溶剤として含むインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。
【0058】
グリコールエーテル系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が例示される。
【0059】
アセテート系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-エトキシブチルアセテート、3-メチル-3-プロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-イソプロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-n-ブトキシエチルアセテート、3-メチル-3-イソブトキシシブチルアセテート、3-メチル-3-sec-ブトキシシブチルアセテート、3-メチル-3-tert-ブトキシシブチルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート等が例示される。
【0060】
本実施形態の溶剤は、沸点が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。また、溶剤は、沸点が300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。沸点が上記範囲内である場合、得られるインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。また、インクによれば、滲みの少ない鮮明なプリント物が形成されやすい。溶剤の沸点が150℃未満である場合、インクがヘッドノズル付近で乾燥しやすくなり、吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶剤の沸点が300℃を超える場合、インクは乾燥しにくくなり、プリント物の形成時における乾燥工程に時間がかかりやすい。また、得られるプリント物は、画像が滲みやすい。
【0061】
溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、インクセットを構成するインク中、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、溶剤は、インク中、99質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が50質量%未満である場合、インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶剤の含有量が99質量%を超える場合、インク中に添加できるバインダー樹脂の割合が低くなり、所望の性能が得られにくい傾向がある。
【0062】
(任意成分)
本実施形態のインクセットを構成するインクは、上記した成分のほかに、適宜任意成分が含有されてもよい。任意成分は、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤等が例示される。
【0063】
また、本実施形態のインクの種類は、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクであってもよく、カチオン重合型の紫外線硬化型インクであってもよい。これらの場合、上記成分のほか、以下の成分をさらに含んでもよい。
【0064】
・ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェットインク
ラジカル重合型のインクである場合、インクは、上記粒子のほか、反応性モノマー、反応性オリゴマー、光重合開始剤を主に含む。インクは、ラジカル重合型であることにより、インクは、カチオン重合型と比較して安価であったり、市場に出回っている材料が多く、インク設計がしやすい。
【0065】
反応性モノマーは、特に限定されない。一例を挙げると、反応性モノマーは、各種芳香族ビニル系モノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルエーテル類、アリル化合物類、(メタ)アクリルアミド類、および(メタ)アクリレート類等である。より具体的には、反応性モノマーは、スチレン、α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマー類;酢酸ビニル、酪酸ビニル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アジピン酸ジビニル等のビニルエステルモノマー類;エチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のアリル化合物類;アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メチレンビスアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-i-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸モルフォリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸-2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、アクリル酸=(2-エチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸フェニル等の単官能(メタ)アクリレート;および、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール(n=5~14)、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール(n=5~14)、ジ(メタ)アクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール(n=3~16)、ジ(メタ)アクリル酸ポリ(1-メチルブチレングリコール)(n=5~20)、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビルフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエポキシジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート等である。これらの反応性モノマーは、併用されてもよい。これらの中でも、反応性モノマーは、比較的低粘度である点から、アクリル酸=(2-エチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルやアクリル酸テトラヒドロフルフリルが好ましい。
【0066】
反応性モノマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、反応性モノマーの含有量は、インク中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、反応性モノマーの含有量は、インク中、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。反応性モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、インクは、適度な硬化性を示しやすい。また、インクは、適切な粘度に調整されやすく、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる。
【0067】
反応性オリゴマーは、特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーは、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート等である。これらの中でも、反応性オリゴマーは、強靭性、付着性および柔軟性が優れる点から、ウレタンアクリレートであることが好ましく、具体的には脂肪族系のウレタンアクリレートであることがより好ましい。これらの反応性オリゴマーは、併用されてもよい。
【0068】
反応性オリゴマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーの含有量は、インク中、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、反応性オリゴマーの含有量は、インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。反応性オリゴマーの含有量が上記範囲内であることにより、得られる塗膜の強靭性、付着性、柔軟性が適切に調整されやすい。また、インクは、適切な粘度に調整されやすく、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる。
【0069】
光重合開始剤は、特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤は、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキサイド類等である。光重合開始剤は、併用されてもよい。これらの中でも、光重合開始剤は、高反応性であり、難黄変性である点から、ヒドロキシケトン類またはアシルホスフィンオキサイド類であることが好ましい。
【0070】
光重合開始剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤の含有量は、インク中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量は、インク中、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、インクは、適切な硬化率および硬化速度で硬化されやすい。
【0071】
ラジカル重合型のインクは、必要に応じて、分散助剤、増感剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、樹脂バインダー、樹脂エマルション、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が配合されてもよい。特に、本実施形態のインクは、分散助剤として(メタ)アクリルシランを含むことが好ましい。
【0072】
(メタ)アクリルシランは、(メタ)アクリル基((メタ)アクリロキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基)と加水分解性シリル基とを有する化合物であれば特に限定されない。(メタ)アクリル基と加水分解性シリル基とは、有機基を介して結合することができる。(メタ)アクリル基は、酸素原子を介して有機基と結合することができる。この場合(メタ)アクリル基は、(メタ)アクリロイル基となる。有機基は、脂肪族炭化水素基(脂肪族炭化水素基は鎖状、分岐状、環状、これらの組み合わせであってもよい)、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせであってもよい。有機基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい。加水分解性シリル基は、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等である。
【0073】
(メタ)アクリルシランは、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシラン等である。
【0074】
(メタ)アクリルシランは、インク中において、粒子(たとえばメラミン系ビーズ)に一部残存している水酸基と反応し得る。反応後の粒子は、上記反応性モノマーとの相溶性が優れる。そのため、本実施形態のインクは、(メタ)アクリルシランを含んでいることにより、インク中の粒子の再凝集を低減出来るため、インクの貯蔵安定性がより向上しやすい。
【0075】
(メタ)アクリルシランの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、(メタ)アクリルシランの含有量は、インク中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、(メタ)アクリルシランの含有量は、インク中、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。(メタ)アクリルシランの含有量が上記範囲内であることにより、インクは、粒子の相溶性が向上しやすく、貯蔵安定性が向上しやすい。(メタ)アクリルシランは、粒子としてメラミン系ビーズが含まれる場合に、特に有用である。すなわち、メラミン系ビーズは、(メタ)アクリルシランによって、たとえばアクリルモノマーとの相溶性が改善される。その結果、インクは、貯蔵安定性がより優れる。
【0076】
(メタ)アクリルシランと、メラミン系ビーズとの配合割合(質量比)は、1:10~1:200であることが好ましく、1:20~1:200であることがより好ましく、1:50~1:200であることがさらに好ましい。配合割合が上記範囲内であることにより、メラミン系ビーズは、(メタ)アクリルシランによって、たとえばアクリルモノマーとの相溶性がより改善される。その結果、インクは、貯蔵安定性がさらに優れる。
【0077】
・カチオン重合型の紫外線硬化型インクジェットインク
カチオン重合型のインクである場合、インクは、上記粒子のほか、分散剤、カチオン重合性化合物、光重合開始剤を主に含む。
【0078】
カチオン重合性化合物は、特に限定されない。一例を挙げると、カチオン重合性化合物は、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、脂肪族エポキシド等である。芳香族エポキシドは、ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、ならびにノボラック型エポキシ樹脂等である。脂環式エポキシドは、少なくとも1個のシクロへキセンまたはシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸などの酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物等である。脂肪族エポキシドは、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテルまたは1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルなどのアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはトリグリシジルエーテルなどの多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルなどのポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等である。
【0079】
カチオン重合性化合物の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、カチオン重合性化合物の含有量は、インク中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、カチオン重合性化合物の含有量は、インク中、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。カチオン重合性化合物の含有量が上記範囲内であることにより、インクは、得られる塗膜の硬化性が優れる。
【0080】
光重合開始剤は、特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤は、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート等である。
【0081】
光重合開始剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤の含有量は、インク中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量は、インク中、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、インクは、得られる塗膜の硬化性が優れる。
【0082】
インク全体の説明に戻り、インクの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、インクの粘度は、2mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましい。また、粘度は、50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲内であることにより、インクは、インクジェットヘッドからの吐出不良を生じにくく、吐出安定性が優れる。本実施形態において、インクの粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータ回転数60rpm)を用いて測定することができる。
【0083】
なお、粘度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、粘度は、各成分の添加量や、溶剤の種類および添加量によって調整され得る。粘度は、必要に応じて増粘剤等の粘度調整剤が使用されてもよい。
【0084】
インクの表面張力は特に限定されない。インクの表面張力は、25℃において、20dyne/cm以上であることが好ましく、22dyne/cm以上であることがより好ましい。また、インクの表面張力は、25℃において、40dyne/cm以下であることが好ましく、35dyne/cm以下であることがより好ましい。表面張力が上記範囲内である場合、インクは、吐出安定性が優れる。なお、本実施形態において、表面張力は、静的表面張力計(プレート法)(協和界面科学(株)製、CBVP-A3)を用いて測定することができる。
【0085】
本実施形態のインクは、インクジェット方式を採用したインクジェット装置を用いて基材に吐出することにより、基材上にインク画像を形成することができる。インク画像が形成されたプリント物は、上記粒子を含んでいることにより、基材に種々の程度の艶消し性を付与することができ、プリント物の意匠性を向上させ得る。また、インクは、上記粒子を含んでいることにより艶消し性を発揮しているため、従来技術のように凹凸を独立させて形成することが必須でない。その結果、インクによれば、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置が制限されにくく、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性を向上させ得る。
【0086】
<プリント物の製造方法(紫外線硬化型インクジェットインク以外の場合)>
本発明の一実施形態のプリント物の製造方法は、上記したインクを用いて、インクジェット方式により基材上に付与する工程と、基材を乾燥させる工程とを主に含む。乾燥の結果、画像が形成されたプリント物が作製される。
【0087】
(付与工程)
インクジェット記録方式によりインクセットを構成するインクを基材に付与する方式は特に限定されない。このような方式は、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0088】
インクを付与するためのインクジェット装置は、インクタンクからインク供給路を介して圧力室にインクを供給し、画像データに応じた電気信号を圧電素子に付与して圧電素子を駆動することにより、圧力室の一部を構成する振動板を変形させて、圧力室の容積を減少させ、圧力室内のインクをノズル(ヘッド)の吐出口から液滴として吐出する装置である。
【0089】
ヘッドは、シャトル方式(マルチパス方式)とライン方式(シングルパス方式)とがある。マルチパス方式は、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを基材の幅方向に走査させながら記録を行う方式である。一方、シングルパス方式は、基材の全域をカバーするフルラインヘッドを用いて、フルラインヘッドと基材とを相対的に一回だけ移動させる動作で、基材の全面に画像を形成する方式である。
【0090】
本実施形態のプリント物の製造方法は、シングルパス方式を採用したインクジェット装置を用いてプリント物を製造する場合に、特に優れた効果を奏する。すなわち、従来技術のように凹凸を独立させて艶消し性を発揮させる場合、凹凸が重なり合い易いシングルパス方式は採用しにくい。しかしながら、本実施形態で使用されるインクは、上記のとおり、粒子を含んでいることにより艶消し性を発揮している。そのため、本実施形態のプリント物の製造方法は、従来技術のように凹凸を独立させて形成することが必須でない。その結果、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置が制限されにくく、シングルパス方式も採用し得る。その結果、本実施形態のプリント物の製造方法は、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性を向上させ得る。
【0091】
インクが付与される基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、鋼板、アルミ、ステンレス等の金属板、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等のプラスチック板またはフィルム、窯業板、コンクリート、木材、ガラス等である。これらの基材は、プリント前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤は、フッ素系塗料、シリコーン系塗料、アクリルシリコン系塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料等が例示される。これら前処理剤を基材に付与する方法は、スプレー法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、浸漬法、インクジェット法等が例示される。また、基材は、カチオン可染ポリエステル(CDP)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル系繊維やアセテート繊維、トリアセテート繊維、ポリウレタン繊維、ナイロン繊維等またはこれらの複合繊維からなる布帛等であってもよい。これらは、用途に応じて適宜選定され得る。基材が布帛である場合、布帛は、プリント前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤は、水溶性ポリマー、非水溶性不活性有機化合物、難燃剤、紫外線吸収剤、還元防止剤、酸化防止剤、pH調整剤、ヒドロトロープ剤、消泡剤、浸透剤、ミクロポーラス形成剤等が例示される。これら前処理剤を布帛に付与する方法は、パッド法、スプレー法、浸漬法、コーティング法、ラミネート法、グラビア法、インクジェット法等が例示される。
【0092】
(乾燥工程)
インクが付与された基材は、次いで、乾燥される。乾燥条件は特に限定されない。一例を挙げると、乾燥温度は、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。また、乾燥温度は、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。乾燥時間は、1分以上であることが好ましく、2分以上であることがより好ましく、3分以上であることがさらに好ましい。また、乾燥時間は、60分以下であることが好ましく、30分以下であることがより好ましく、10分以下であることがさらに好ましい。このような乾燥により、インク中の顔料が変色等を起こしにくく、かつ、溶剤が取り除かれ得る。乾燥は、インクの滲みを防止するために、インクが基材に付与された同時もしくは直後に行われることが好ましい。
【0093】
得られるプリント物は、基材と、基材上に形成された印刷層とが形成されたプリント物である。印刷層には、上記した粒子が含まれ、艶消し性が付与されている。そのため、本実施形態のプリント物の製造方法は、従来技術のように凹凸を独立させて形成することが必須でない。その結果、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置が制限されにくく、シングルパス方式も採用し得る。その結果、本実施形態のプリント物の製造方法は、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性を向上させ得る。
【0094】
<プリント物の製造方法(紫外線硬化型インクジェットインクの場合)>
本発明の一実施形態のインクジェットプリント物の製造方法(以下、単にプリント物の製造方法ともいう)は、特に上記した紫外線硬化型インクを用いてインクジェットプリント物を製造する場合には、インクジェット方式により基材上に付与する工程と、付与したインクに紫外線を照射して硬化させる工程と、を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0095】
(付与工程)
付与工程は、上記したインクを、インクジェット方式により基材上に付与する工程である。基材は特に限定されない。基材は、上記したものと同様のものを使用し得る。
【0096】
基材は、表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されてもよい。化成処理皮膜は、基材の表面全体に形成されており、塗膜密着性および耐食性を向上させ得る。下塗り塗膜は、基材または化成処理皮膜の表面に形成されており、塗膜密着性および耐食性を向上させ得る。下塗り塗膜を形成するための下塗り塗料に含まれる樹脂は、特に限定されない。一例を挙げると、樹脂は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等である。
【0097】
インクを付与するためのインクジェット装置は、上記したものと同様のものを使用し得る。また、本実施形態のプリント物の製造方法は、シングルパス方式を採用したインクジェット装置を用いてプリント物を製造する場合に、特に優れた効果を奏する。すなわち、本実施形態で使用されるインクは、上記のとおり、粒子を含んでいることにより艶消し性を発揮している。そのため、本実施形態のプリント物の製造方法は、インクジェットプリント時に使用し得るインクジェット装置が制限されにくく、シングルパス方式も採用し得る。その結果、本実施形態のプリント物の製造方法は、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性を向上させ得る。
【0098】
(硬化工程)
硬化工程は、付与したインクに紫外線を照射して硬化させる工程である。基材上に吐出されたインクは、インクジェット装置に付帯された紫外線照射ランプによって紫外線が照射され、硬化される。紫外線照射ランプは、水銀ランプやガス・固体レーザー等が例示される。これらの中でも、紫外線照射ランプは、水銀ランプ、メタルハライドランプであることが好ましい。ほかにも、紫外線照射ランプは、紫外線発光ダイオード(UV-LED)や紫外線レーザダイオード(UV-LD)であってもよい。
【0099】
硬化時の紫外線の積算光量は特に限定されない。積算光量は、40mJ/cm2以上であることが好ましく、60mJ/cm2以上であることがより好ましい。また、積算光量は、500mJ/cm2以下であることが好ましく、400mJ/cm2以下であることがより好ましい。なお、積算光量は、たとえば紫外線照度計・光量計(UV-351-25、(株)オーク製作所製)を用い、測定波長域240~275nm、測定波長中心254nmの条件で測定することができる。
【0100】
以上、本実施形態のプリント物の製造方法によれば、上記インクが使用されることにより、種々の程度の艶消し性が付与され、意匠性の優れたインクジェットプリント物が作製され得る。また、このようなインクジェットプリント物の製造方法によれば、使用されるインクジェット装置が制限されにくく、1回の吐出量を多くしたり、短時間で基材上にインクを付与することができ、プリント物の生産性が向上し得る。
【実施例
【0101】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0102】
使用した原料を以下に示す。
(粒子)
粒子1:シリカビーズ、SS-50F、東ソーシリカ(株)製、平均粒子径1.3μm、屈折率1.46、比重2.0
粒子2:アクリルビーズ、J-4PY、根上工業(株)製、平均粒子径2.2μm、屈折率1.5、比重1.45
粒子3:メラミン系ビーズ、エポスターS12、日本触媒(株)製、平均粒子径1.2μm、屈折率1.65、比重1.5
粒子4:アルミナビーズ、アルナビーズCB-P02、昭和電工(株)製、平均粒子径2.0μm、屈折率1.7、比重3.78
粒子5:アクリルビーズ、J-4PY、根上工業(株)製、平均粒子径3.3μm、屈折率1.5、比重1.45
粒子6:酸化チタン、R-38L、堺化学工業(株)製、平均粒子径0.4μm、屈折率2.72、比重4.0
(樹脂)
樹脂1:フッ素樹脂、旭硝子(株)製、LF-200F、三フッ化エチレン/ビニルモノマー交互共重合体
樹脂2:アクリル樹脂、三菱レイヨン(株)製、BR-105、 メタクリル酸エステルの重合体
樹脂3:ウレタンアクリレート、サートマー社製、CN991、脂肪族系ウレタンアクリレート
樹脂4:アクリロイルモルフォリン、KJケミカルズ(株)製、ACMO、アクリルアミド系モノマー
樹脂5:アクリルモノマー、大阪有機化学工業(株)製、MEDOL-10、単官能アクリルモノマー
(分散剤)
分散剤1:高分子分散剤、BYK社製、DISPERBYK2008、変性アクリル系ブロック共重合体
分散剤2:高分子分散剤、BYK社製、BYKJET9151、3級アミンを有するブロック共重合体
(溶剤)
溶剤:グリコールエーテル系溶剤、日本乳化剤(株)製、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)、沸点:189℃
(アクリルシラン)
アクリルシラン:信越化学工業(株)製、KBM5103、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン
(光重合開始剤)
光重合開始剤:BASFジャパン(株)製、Irg184、α-ヒドロキシケトン系
【0103】
<インクジェットインク>
以下の表1に示される処方(単位は質量部)にしたがって、実施例1~7、比較例1~3のインクを調製した。具体的には、各成分を樹脂にミキサー混合し、濾過することにより、インクを調製した。得られたインクを用いて、以下のインクジェット条件にて基材(クロメート処理を行ったアルミ鋼板に市販のフッ素塗料(ボンフロン#1000SR上塗り、AGCコーテック(株)製)をエアスプレーで約150g/m2塗布し、200℃環境下で3分間の乾燥を行った)に対してインクジェットプリントを行い、プリント物を作製した。
【0104】
【表1】
【0105】
<インクジェット条件>
シングルパス方式
ドットサイズ:30pl
ノズル径:40μm
駆動電圧:80V
パルス幅:10μm
周波数:10kHz
解像度:400×400dpi
塗布量:7.5g/m2
基材温度:50℃(加温)
柄:ベタ柄
【0106】
<乾燥条件>
溶剤系インクジェットインクである実施例1~2は、プリント後200℃環境下で1分間乾燥を行った。紫外線硬化型インクジェットインクである実施例3~7および比較例1~3は、プリント後直ちに以下の条件にて乾燥を行った
紫外線照射ランプ:メタルハライドランプ
照射強度:0.5mW/cm2
積算光量:400mJ/cm2
照射高さ:40mm
【0107】
上記プリント物の作製に際し、それぞれのインクの初期粘度、艶消し性、インクの安定性、吐出安定性について、以下の評価基準にしたがって評価した。結果を表1に示す。
【0108】
<インクの初期粘度>
調製後のインクを50℃に調整し、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータNo.1、ロータ回転数60rpm)を用いて粘度(mPa・s)を測定した。
【0109】
<艶消し性>
得られたプリント物に対して、グロスチェッカー(IG331、堀場製作所(株)製)を用いて、測定角度60°にて測定し、以下の評価基準にしたがって艶消し性を評価した。
(評価基準)
◎:光沢度が10以下であった。
○:光沢度が10を超え、20以下であった。
△:光沢度が20を超え、30以下であった。
×:30を超えた。
【0110】
<インクの安定性>
B型粘度計(品番:TVB-20LT、東機産業(株)製)を用いて、温度50℃、ロータNo.1、ロータ回転数60rpmという条件でインク粘度(mPa・s)を測定し、作製直後のインク粘度と1ヶ月後のインク粘度を以下の評価基準にしたがってインクの安定性を評価した。
(評価基準)
◎:作製直後のインク粘度から1ヶ月後のインク粘度の変化が2%未満であった。
○:作製直後のインク粘度から1ヶ月後のインク粘度の変化が2%以上5%未満であった。
△:作製直後のインク粘度から1ヶ月後のインク粘度の変化が5%以上10%以下であった。
×:作製直後のインク粘度から1ヶ月後のインク粘度の変化が10%を超えた。
【0111】
<吐出安定性>
60分間連続で吐出した際と、吐出後に静置した後のノズルの詰まりやインク液滴の散らばり(インク液滴が所望の大きさの1滴とならず、細かく散らばる現象)を確認し、以下の評価基準にしたがって評価した。
(評価基準)
◎:ノズルの詰まりや、インク液滴の散らばりが全くなかった。
○:ノズルの詰まりがなかった。
△:ノズルに一部詰まりが見られた。
×:ノズルに多くの詰まりが見られた。
【0112】
表1に示されるように、実施例1~7のインクは、いずれもインク粘度の変化率が小さく、貯蔵安定性が優れていた。また、これらのインクは、吐出安定性が優れ、かつ、優れた艶消し性を発揮することができた。一方、高比重の粒子を用いた比較例1のインクは、貯蔵安定性が充分でなく、艶消し性や吐出安定性も不充分であった。平均粒子径の大きな粒子を用いた比較例2のインクは、吐出安定性が劣った。屈折率が大きく、比重の大きな粒子を用いた比較例3のインクは、艶消し性が劣った。