(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】骨格筋前駆細胞及び骨格筋細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20220617BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220617BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/0735
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2018514749
(86)(22)【出願日】2017-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2017017326
(87)【国際公開番号】W WO2017188458
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2016089177
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016098037
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博美
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/016451(WO,A1)
【文献】特表2015-513896(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137419(WO,A1)
【文献】SHELTON,M. et al,Stem Cell Reports,2014年,Vol.3,p.516-529
【文献】CHAL, J. et al,nature biotechnology,2015年,Vol.33, No.9,p.962-969
【文献】SHI, S. et al,Neurobiology of Disease,2011年,Vol.41,p.353-360
【文献】BORCHIN, B. et al,Stem Cell Reports,2013年,Vol.1,p.620-631
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、骨格筋前駆細胞の製造方法であって:
(1)ヒト多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で1-4日間培養する工程、
(2)工程(1)で得られる細胞を、ALK阻害剤を含む培地で1-3日間培養する工程、
(3)工程(2)で得られる細胞を、cAMP誘導剤を含む培地で9-26日間培養する工程、
上記工程(1)~(3)の培地が増殖因子を含まない、前記方法。
【請求項2】
工程(2)の培地がAMPキナーゼ阻害剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
骨格筋前駆細胞がCD56及び/又はPAX7陽性である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
骨格筋前駆細胞がCD29及びPAX7陽性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
CD56陽性細胞を純化する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
CD29陽性細胞を純化する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって骨格筋前駆細胞を製造し、前記細胞を細胞分散液中に分散させて凍結する工程を含む、凍結細胞調製物の製造方法。
【請求項8】
凍結細胞調製物が、骨格筋前駆細胞を細胞分散液中にフローサイトメトリーによって測定される細胞の割合として30%以上含む、請求項7に記載の凍結細胞調製物の製造方法。
【請求項9】
(i)請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって骨格筋前駆細胞を取得するか、又は
(ii)請求項7又は8に記載の方法によって凍結細胞調製物を製造し、前記凍結細胞調製物を融解して骨格筋前駆細胞を取得し、
前記骨格筋前駆細胞をcAMP誘導剤を含む培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する、骨格筋細胞の製造方法。
【請求項10】
(i)請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって骨格筋前駆細胞を取得するか、又は
(ii)請求項7又は8に記載の方法によって凍結細胞調製物を製造し、前記凍結細胞調製物を融解して骨格筋前駆細胞を取得し、
前記骨格筋前駆細胞を増殖因子を含む培地で培養して筋管細胞に分化誘導する、筋管細胞の製造方法。
【請求項11】
増殖因子を含む培地がさらにcAMP誘導剤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
増殖因子がFGF2、FGF1、HGF、EGF及びIGF1からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の方法で
筋管細胞を製造し、
前記筋管細胞を増殖因子を含まない培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する、骨格筋細胞の製造方法。
【請求項14】
以下の工程を含む、骨格筋細胞の製造方法:
(I)請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって骨格筋前駆細胞を製造し、前記骨格筋前駆細胞を増殖因子を含む培地で培養する工程、
(II)工程(I)で得られた細胞を、増殖因子を含まない培地で培養する工程。
【請求項15】
前記工程(I)の培地に含まれる増殖因子がFGF2、FGF1、HGF、EGF及びIGF1からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2016-089177号(2016年4月27日出願)及び特願2016-098037号(2016年5月16日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
[技術分野]
本発明は、多能性幹細胞からの骨格筋細胞の製造方法に関する。より詳細には、多能性幹細胞から誘導した骨格筋前駆細胞を、骨格筋細胞に分化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞から骨格筋細胞を分化誘導し、筋ジストロフィー等の治療に応用する研究が進められている。
【0003】
Chalらは、ROCK阻害剤存在下で1日培養したヒトiPS細胞を、GSK3β阻害剤とALK2、3、6阻害剤を含む培地で培養後、FGF2を加え、6日目にHGF、IGF1、FGF2及びALK2、3、6阻害剤を含む培地で2日間、IGF1を補充してさらに4日間、次いでHGFとIGF1を含む培地で培養することにより、骨格筋細胞を分化誘導する方法を報告している(非特許文献1)。
【0004】
Sheltonらは、ROCK阻害剤存在下で一晩培養したヒトES細胞を、GSK3β阻害剤存在下で2日間培養し(0-7日目GSK3βと合わせて、あるいは2日間のGSK3β処理後7日目まで、フォスルコリンとFGF2を作用させ)、骨格筋細胞を分化誘導する方法を報告している(非特許文献2)。
【0005】
これらの既存の方法は、いずれも早い段階から増殖因子を作用させることで、誘導されてきた骨格筋前駆細胞を増殖させると同時に骨格筋細胞へと分化誘導させる。このように、多能性幹細胞を一気に骨格筋細胞まで分化させる方法では、骨格筋細胞を得るために1.5~2か月の分化培養が常に必要となり、骨格筋細胞の安定的な提供を実現することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chal et al.,Nat Biotechnol.2015 Sep;33(9):962-9,Differentiation of pluripotentstem cells to muscle fiber to model Duchenne muscular dystrophy.
【文献】Shelton et al.,Stem Cell Reports.2014 Sep 9;3(3):516-29.Derivation and expansion of PAX7-positive muscle progenitors from human and mouse embryonic stem cells.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、多能性幹細胞由来の骨格筋細胞を安定的に提供するための新規な方法を提供することにある。また、別の観点では、本発明の課題は、多能性幹細胞から純度の高い骨格筋細胞を誘導する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、GSK3β阻害剤、ALK(アクチビン様受容体キナーゼ)阻害剤、及びcAMP誘導剤を用いて、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞を分化誘導した。得られた骨格筋前駆細胞は純度が高く、効率よく骨格筋細胞に分化した。また、骨格筋前駆細胞は凍結保存することが可能であり、この凍結細胞調製物を用いて、必要なときに短期間に安定的に骨格筋細胞を分化誘導することが可能となる。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
[1] 以下の工程を含む、骨格筋前駆細胞の製造方法:
(1)多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られる細胞を、ALK阻害剤を含む培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られる細胞を、cAMP誘導剤を含む培地で培養する工程。
[2] 工程(2)の培地がAMPキナーゼ阻害剤を含む、上記[1]に記載の方法。なお、培地はAMPキナーゼ阻害剤に代えて又は加えて、BMPシグナル阻害剤を含んでいてもよい。
[3] 工程(1)~(3)の培地が増殖因子を含まない、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 骨格筋前駆細胞がCD56及び/又はPAX7陽性である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 骨格筋前駆細胞がCD29及び/又はPAX7陽性である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] CD56陽性細胞を純化する工程を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] CD29陽性細胞を純化する工程を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法によって得られる骨格筋前駆細胞を含む、凍結細胞調製物。なお、骨格筋前駆細胞は、分散されて含まれることが好ましい。
[9] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法によって得られる骨格筋前駆細胞を細胞分散液中に含む高純度な凍結細胞調製物。なお、骨格筋前駆細胞は、分散されて含まれることが好ましい。
[10] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法によって得られる骨格筋前駆細胞を細胞分散液中にフローサイトメトリーによって測定される細胞の割合として30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上含む凍結細胞調製物。
[11] (i)上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法によって得られる骨格筋前駆細胞、又は
(ii)上記[8]~[10]のいずれかに記載の凍結細胞調製物を融解して得られる骨格筋前駆細胞を
cAMP誘導剤を含む培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する、骨格筋細胞の製造方法。
[12] (i)上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法によって得られる骨格筋前駆細胞、又は
(ii)上記[8]~[10]のいずれかにに記載の凍結細胞調製物を融解して得られる骨格筋前駆細胞を
増殖因子を含む培地で培養して筋管細胞に分化誘導する、筋管細胞の製造方法。
[13] 増殖因子を含む培地がさらにcAMP誘導剤を含む、上記[12]に記載の製造方法。
[14] 増殖因子がFGF2、FGF1、HGF、EGF及びIGF1からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上である、上記[12]に記載の方法。
[15] 上記[12]~[14]のいずれかに記載の方法で得られた筋管細胞を、増殖因子を含まない培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する、骨格筋細胞の製造方法。
[16] 以下の工程を含む、骨格筋細胞の製造方法:
(I)骨格筋前駆細胞を、増殖因子を含む培地で培養する工程、
(II)工程(I)で得られた細胞を、増殖因子を含まない培地で培養する工程。
[17] 前記工程(I)の培地に含まれる増殖因子がFGF2、FGF1、HGF、EGF及びIGF1からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上である、上記[16]に記載の方法。
[18] 多能性幹細胞から誘導されたCD56及び/又はPAX7陽性骨格筋前駆細胞を細胞分散液中に分散して含む凍結細胞調製物であって、前記骨格筋前駆細胞をフローサイトメトリーによって測定される細胞の割合として30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上含む、凍結細胞調製物。
[19] 多能性幹細胞から誘導されたCD29及び/又はPAX7陽性骨格筋前駆細胞を細胞分散液中に分散して含む凍結細胞調製物であって、前記骨格筋前駆細胞をフローサイトメトリーによって測定される細胞の割合として30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上含む、凍結細胞調製物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凍結保存が可能な純度の高い多能性幹細胞由来の骨格筋前駆細胞を含む凍結細胞調製物が得られる。また、凍結細胞調製物を用いることにより、多能性幹細胞由来の骨格筋細胞を安定して提供することができる。本発明の方法で得られる骨格筋細胞調製物は純度が高く、細胞医薬や医薬のスクリーニングとしての利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1a】
図1aは、iPS細胞から体節中胚葉への分化誘導スキーム(実施例1)を示す。
【
図1b】
図1bは、分化2日目の汎中胚葉マーカーであるBRACHYURY及びTBX6の発現量を示す。
【
図1c】
図1cは、分化7日目の体節中胚葉マーカーであるPAX3及びPAX7の発現量を示す。
【
図2a】
図2aは、iPS細胞から体節中胚葉を経由した骨格筋細胞への分化誘導スキーム(実施例2)を示す。
【
図2b】
図2bは、分化6週目での骨格筋マーカーであるMYH3、MYH7、MYH8、ACTA1、MYOG及びMYOD1の発現量を示す。
【
図3a】
図3aは、iPS細胞から誘導した骨格筋前駆細胞の分散/播種、及び分散後凍結保存を経由した、骨格筋細胞への分化誘導スキーム(実施例3)を示す。
【
図3b】
図3bは、分化4週目での骨格筋細胞マーカーであるMYH3、MYH7、MYH8、ACTN2、MYOD1、MYF5、MYOG及び骨格筋前駆細胞マーカーであるPAX7の発現量を示す。
【
図3c】
図3cは、分化3週目で凍結保存した細胞を融解後、増殖因子及び/又はFSKを添加又は非添加で2週間培養後の、骨格筋前駆細胞マーカーPAX7、骨格筋細胞マーカーMYH3、MYH8及びMYOD1の発現量を示す。
【
図3d】
図3dは、iPS細胞から分化3週目で分散/播種後4週目(分化7週目)の細胞の蛍光免疫染色を行った結果を示す。
【
図3e】
図3eは、iPS細胞から分化3週目で分散後凍結保存した細胞を融解し、2日間培養後固定して、ヒトサテライト細胞マーカーの発現を蛍光免疫染色で検出した結果を示す。
【
図3f】
図3fは、iPS細胞から分化3週目で分散後凍結保存した細胞を融解して得られた骨格筋前駆細胞から誘導された筋管細胞の蛍光免疫染色を行った結果を示す。
【
図3g】
図3gは、分化3週目で分散後凍結保存した細胞を融解して、増殖因子及びFSKを添加して2週間培養後、増殖因子及びFSK非添加で2週間培養後固定して、ヒト骨格筋細胞マーカーの発現を蛍光免疫染色で検出した結果を示す。
【
図4a】
図4aは、iPS細胞から分化誘導した骨格筋前駆細胞の純化、及び純化した骨格筋前駆細胞の骨格筋細胞への分化誘導スキーム、又は純化した骨格筋前駆細胞の凍結保存スキームを示す。
【
図4b】
図4bは、骨格筋前駆細胞の段階で純化したCD56陽性細胞から誘導した骨格筋細胞の、蛍光免疫染色を行った結果を示す。
【
図4c】
図4cは、骨格筋前駆細胞の段階で純化したCD56陽性細胞を、2日間培養後分散して凍結保存し、融解後播種して誘導した骨格筋細胞の、蛍光免疫染色を行った結果を示す。
【
図5】
図5は、基準とした培養条件での細胞の蛍光免疫染色の結果を示す。増殖因子及びFSKを含む培地で2週間培養後の細胞(左)、培養2週目から増殖因子及びFSKを含まない培地に交換し、培養4週目の細胞(右)。
【
図6】
図6は、フィブロネクチンでコートした容器で培養した細胞の蛍光免疫染色の結果を示す。培養2週目の筋管細胞(左)、培養4週目の骨格筋細胞(右)。
【
図7a-c】
図7は、試薬を代えて培養した細胞の蛍光免疫染色の結果を示す。
図7aはSBに代えて1μM A83-01SBを使用した細胞、
図7bは、SBとDMに代えて1μM A83-01と0.1μM LDN193189を使用した細胞、
図7cは、FSKに代えて50μM dbcAMPを使用した細胞。
【
図8a-d】
図8は、試薬を代えて培養した細胞の蛍光免疫染色の結果を示す。
図8aはCHIRに代えて0.5μM BIOを使用した細胞。
図8bはCHIRに代えて10μM SB216763を使用した細胞。
図8cは、CHIRに代えて0.5μM BIOを添加した培地で分化を開始し、分化2日目でSBに代えて1μM A83-01を使用した細胞。
図8dは、SBとDMに代えて1μM A83-01
と0.1μM LDN193189を使用した細胞。
【
図8e-h】
図8eは、CHIRに代えて10μM SB216763を使用して分化を開始し、分化2日目でSBに代えて1μM A83-01を使用した細胞。
図8fは、CHIRに代えて10μM SB216763を使用して分化を開始し、分化2日目でSB及びDMを添加した培地で交換し、分化4日目以降FSKに代えて50μM dbcAMPを使用した細胞。
図8gは、分化2日目でSBに代えて1μM A83-01を使用した細胞。
図8hは、SBとDMに代えて1μM A83-01と0.1μM LDN193189を使用した細胞。
【
図8i-j】
図8iは、分化4日目からFSKに代えて50μM dbcAMPを添加した細胞。
図8jは、分化4日目からFSKを添加しなかった細胞。
【
図9】
図9は、253G1細胞に代えて201B7細胞を用いた場合の蛍光免疫染色の結果を示す。
【
図10】
図10は、純化前及び純化後の抗CD56抗体で染色された細胞のFACSの結果及び蛍光顕微鏡での観察結果を示す。縦軸はPE、横軸はAlexa Fluoro 488の蛍光強度。
【
図11】
図11は、純化前及び純化後の抗CD56抗体で染色された細胞のFACSの結果及び蛍光顕微鏡での観察結果を示す。縦軸はPE、横軸はAlexa Fluoro 488の蛍光強度。活性を併せ持つ物質であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.用語
「多能性幹細胞」
本発明にかかる「多能性幹細胞」とは、ES細胞及びこれと同様の分化多能性、すなわち生体の様々な組織(内胚葉、中胚葉、外胚葉の全て)に分化する能力を潜在的に有する細胞を指す。「多能性幹細胞」は、多能性細胞で特異的に発現する転写因子であるOct3/4及びNanogの発現によって特徴づけられる。
【0013】
ES細胞は、例えばマウスES細胞であれば、inGenious社、Riken(AES001H-1株)等の各種マウスES細胞株が利用可能であり、ヒトES細胞であれば、NIH、京都大学、Cellartis社の各種ヒトES細胞株が利用可能である。
【0014】
ES細胞と同様の分化多能性を有する細胞の例としては、「人工多能性幹細胞」(本明細書中、iPS細胞と称することがある)が挙げられる。iPS細胞とは、哺乳動物体細胞又は未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。現在、「人工多能性幹細胞」にはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPS細胞(Takahashi K,Yamanaka S.,Cell,(2006)126:663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPS細胞(Takahashi K,Yamanaka S.,et al.Cell,(2007)131:861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPS細胞(Okita,K.,Ichisaka,T.,and Yamanaka,S.(2007).Nature 448,313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPS細胞(Nakagawa M,Yamanaka S.,et al.Nature Biotechnology,(2008)26,101-106)も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J.,Thomson JA.et al.,Science(2007)318:1917-1920.)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH,Daley GQ.et al.,Nature(2007)451:141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(特開2008-307007号)等も用いることができる。
【0015】
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y.,Ding S.,et al.,Cell Stem Cell,(2008)Vol3,Issue 5,568-574;、Kim JB.,Scholer HR.,et al.,Nature,(2008)454,646-650;Huangfu D.,Melton,DA.,et al.,Nature Biotechnology,(2008)26,No7,795-797)、あるいは特許(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、WO2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。
本明細書における多能性幹細胞としては、人工多能性幹細胞が好ましく、なかでもヒト人工多能性幹細胞がより好ましく、ヒト人工多能性幹細胞253G1株及び201B7株が特に好ましい。
【0016】
「中胚葉」
「中胚葉」とは、外胚葉と内胚葉の間を埋めるように発達する細胞群で、汎中胚葉マーカーであるBRACHYURY、TBX6の発現によって特徴づけられる。中胚葉は、骨、軟骨、真皮、骨格筋等を作る体節中胚葉、腎臓、副腎、生殖腺等を作る中間中胚葉、心臓・血管・血球等を作る側板中胚葉へと分化する。骨格筋前駆細胞・骨格筋細胞へと分化する体節中胚葉は、PAX3及びPAX7の発現によって特徴づけられる。
【0017】
「骨格筋前駆細胞」
本発明にかかる「骨格筋前駆細胞」は、特に断りのない限り、多能性幹細胞から誘導された骨格筋細胞へと分化しうる未分化細胞で、表面マーカーCD56及び/又は転写因子PAX7の発現、あるいはCD29及び/又は転写因子PAX7の発現によって特徴づけられる。特に本発明の方法の過程でCD56(NCAM1)又はCD29(integrin subunit β1)等を用いて純化して得られる骨格筋前駆細胞調製物は、純度・濃度が高い。
【0018】
「筋管細胞」
本発明にかかる「筋管細胞」は、特に断りのない限り、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞を経て誘導される細胞で、骨格筋前駆細胞が細胞融合を始めた初期の細胞であって複数の核を有し、また、収縮能に必要な筋節構造を形成していない段階の細胞を指す。上記「筋管細胞」は、骨格筋細胞へと分化しうる細胞である。
【0019】
「骨格筋細胞」
本発明にかかる「骨格筋細胞」は、特に断りのない限り、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞を経て誘導される細胞で、骨格筋細胞マーカーであるMYOD、MYOG、MYH3、MYH7、MYH8、ACTA1、ACTN2、MYOD1、MYF5等の発現によって特徴づけられる。特に本発明の方法では、高純度・高濃度に骨格筋細胞調製物を得ることができる。
【0020】
「GSK3β阻害剤」
「GSK3β阻害剤」とは、GSK3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)に対する阻害活性を有する物質である。GSK3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3)は、セリン/スレオニンプロテインキナーゼの一種であり、グリコーゲンの産生やアポトーシス、幹細胞の維持などにかかわる多くのシグナル経路に関与する。GSK3にはαとβの2つのアイソフォームが存在する。本発明で用いられる「GSK3β阻害剤」は、GSK3β阻害活性を有すれば特に限定されず、GSK3β阻害活性と合わせてGSK3α阻害活性を併せ持つ物質であってもよい。
【0021】
GSK3β阻害剤としては、CHIR98014(2-[[2-[(5-ニトロ-6-アミノピリジン-2-イル)アミノ]エチル]アミノ]-4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-1-イル)ピリミジン)、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)、ケンパウロン、AR-AO144-18、TDZD-8(4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、SB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、BIO(6-bromoindirubin-3-oxime)、TWS-119(3-[6-(3-アミノフェニル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イルオキシ]フェノール)及びSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)が例示される。また、GSK3βのmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNA等もGSK3β阻害剤として使用することができ、商業的に入手可能であるか公知の方法に従って合成することができる。
【0022】
GSK3β阻害剤としては、CHIR99021、SB216763、SB415286、BIOが好ましく、CHIR99021(本明細書中、CHIRと称することがある)又はそれらの塩がより好ましい。
【0023】
「ALK阻害剤」
「ALK阻害剤」は、セリンスレオニンキナーゼであるALKに対する阻害活性を有する物質である。「ALK阻害剤」としては、ALK4,5,7阻害剤であるSB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンザミド)、A83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド)、ALK2,3,6阻害剤であるLDN193189(4-[6-(4-ピペラジン-1-イル-フェニル)-ピラゾロ[1,5-α]ピリミジン-3-イル]-キノリン ハイドロクロライド、ALK5阻害剤である2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO、BMP4、GW788388(4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)、SM16、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)、SB505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソル-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンヒドロクロリド)を挙げることができる。ALK阻害剤には、ALKに対する抗体やアンチセンス核酸も含まれる。
【0024】
ALK阻害剤としては、SB431542、A83-01が好ましく、SB431542(本明細書中、SBと称することがある)又はそれらの塩がより好ましい。
【0025】
「cAMP誘導剤」
「cAMP誘導剤」とは、cAMP(環状アデノシンモノリン酸)の細胞内濃度を上昇させる物質あるいはcAMPシグナルを活性化させる物質を意味する。cAMP誘導剤としては、例えば、(i)アデニル酸シクラーゼ活性化剤(例:フォルスコリン((3R)-(6AαH)ドデカヒドロ-6β,10α,10bα-トリヒドロキシ-3β,4aβ,7,7,10Aβ-ペンタメチル-1-オキソ-3-ビニル-1H-ナフト[2,1-b]ピラン-5β-イルアセタート)、フォルスコリン誘導体、コレラトキシン);(ii)cAMP誘導体(例:cAMPの膜透過性アナログ(例:8-ブロモ-cAMP(8-ブロモアデノシン-3’,5’-環状一リン酸));cAMPの非加水分解性アナログ(例:dbcAMP(ジブチリルcAMP))、Sp-cAMP(cAMPチオリン酸アイソマー)、3-イソブチル-1-メチルキサンチン;その他のcAMP誘導体;(iii)PDE阻害剤(例:3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)、ペントキシフィリン、ロリプラム、CP80633、CP102995、CP76593、Ro-20-1724(4-[3-ブトキシ-4-メトキシベンジル]-2-イミダゾリジノン)、テオフィリン、デンブフィリン)等を挙げることができる。
cAMP誘導剤としては、フォルスコリン又はその誘導体、dbcAMPが好ましく、フォルスコリン(本明細書中、FSKと称することがある)又はそれらの塩がより好ましい。
【0026】
「AMPキナーゼ阻害剤」
AMPキナーゼ(AMP活性化プロテインキナーゼ)は、セリン・スレオニンキナーゼの一種で、細胞内のエネルギーのセンサーとして重要な役割を担っている。「AMPキナーゼ阻害剤」とは、このAMPキナーゼの阻害剤で、例えば、Dorsomorphin(6-[4-(2-ピペリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン)、Indirubin-3’-oxime、A-769662、AICAR(Acadesine)、Phenformin HCl、GSK621、WZ4003、HTH-01-015等が知られている。
AMPキナーゼ阻害剤としては、Dorsomorphin(本明細書中、DMと称することがある)が好ましい。
【0027】
「BMPシグナル阻害剤」
BMP(Bone Morphogenetic Protein)シグナルは、発生の過程で重要な役割を担っている。「BMPシグナル阻害剤」とは、このBMPシグナルの阻害剤で、例えば、DM、DMH1、DMH2、K02288、LDN193189、LDN212854、LDN214117、LDN193719が知られている。
BMPシグナル阻害剤としては、LDN193719が好ましい。
【0028】
「増殖因子」
「増殖因子」は特定の細胞の分化及び/又は増殖を促す内因性タンパク質である。本発明で用いられる増殖因子は、骨格筋細胞への分化及び/又は増殖を促すものであれば特に限定されず、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、線維芽細胞増殖因子1(FGF1)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様成長因子1(IGF1)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン6(IL6)、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
培地に包含・添加される「増殖因子」としては、FGF2、FGF1、HGF、EGF又はIGF1が好ましく、FGF2及びFGF1がより好ましく、FGF2がさらに好ましい。
本発明の特定の工程においては、「増殖因子を含まない」培地を使用する。ここで、「増殖因子を含まない」とは分化誘導に積極的な機能を発揮する量の増殖因子の包含・添加がないことを意味する。増殖因子としては、FGF2、FGF1、HGF、EGF又はIGF1を挙げることができる。
【0029】
「ROCK阻害剤」
「ROCK阻害剤」とは、Rhoキナーゼ(ROCK:Rho-associated,coiled-coil containing protein kinase)を阻害する物質を意味し、ROCK IとROCK IIのいずれを阻害する物質であってもよい。ROCK阻害剤は、上記の機能を有する限り特に限定されず、例えば、4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルシクロヘキサン-1-カルボキサミド(本明細書中、Y-27632と称することもある)、Fasudil(HA1077)、(2S)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル]スルホニル]ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン(H-1152)、4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルベンズアミド(Wf-536)、4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)シクロヘキサン-1-カルボキサミド(Y-30141)、N-(3-{[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4, 5-c]ピリジン-6-イル]オキシ}フェニル)-4-{[2-(4-モルホリニル)エチル]-オキシ}ベンズアミド(GSK269962A)、N-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-6-メチル-2-オキソ-4-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-3,4-ジヒドロ-1H-ピリジン-5-カルボキサミド(GSK429286A);ROCKに対する抗体(機能的断片含む)、アンチセンス核酸、及びsiRNA;ROCKのアンタゴニスト、ドミナントネガティブ型;その他公知のROCK阻害剤を利用できる。
ROCK阻害剤はとしては、Y-27632が好ましい。
【0030】
「血清代替物」
本発明では、血清に代えて「血清代替物」を使用することが好ましい。「血清代替物」としては、例えば、Knockout Serum Replacement(KSR:Invitrogen)、StemSure Serum Replacement(Wako)、インスリン不含B-27サプリメント、N2-サプリメント、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、インスリン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン(例えば、亜セレン酸ナトリウム))、2-メルカプトエタノール、3’チオグリセロール又はこれらの混合物(例えば、ITS-G)が挙げられる。
血清代替物としては、インスリン不含B-27サプリメント、KSR、StemSure Serum Replacement、ITS-Gが好ましい。培地に血清代替物を添加する場合の培地中の濃度は0.01~10重量%、好ましくは0.1~2重量%である。
【0031】
「培地」
本発明で使用する培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM ZincOption培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(High glucose、Low glucose)、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地が挙げられる。
本発明で使用する培地には、上記した成分のほか、必要に応じて、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(製品名)、非必須アミノ酸、ビタミン、抗生物質(例えば、Antibiotic-Antimycotic(本明細書中、AAと称することがある)、ペニシリン、ストレプトマイシン、又はこれらの混合物)、抗菌剤(例えば、アンホテリシンB)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を添加してもよい。培地に抗生物質を添加する場合には、その培地中の濃度は通常0.01~20重量%、好ましくは0.1~10重量%である。
【0032】
培養容器及び培養条件
本発明における細胞培養は、フィーダー細胞を使用せず、接着培養にて行うことが好ましい。培養時には、ディッシュ、フラスコ、マイクロプレート、OptiCell(製品名)(Nunc社)等の細胞培養シートなどの培養容器が使用される。培養容器は、細胞との接着性(親水性)を向上させるための表面処理や、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲル(例:BDマトリゲル(日本ベクトン・デッキンソン社))、ビトロネクチンなどの細胞接着用基質でコーティングされていることが好ましい。培養容器としては、Type I-collagen、マトリゲル、フィブロネクチン、ビトロネクチン又はポリ-D-リジンなどでコートされた培養容器が好ましく、マトリゲル又はポリ-D-リジンでコートされた培養容器がより好ましい。
【0033】
多能性幹細胞の維持培養又は分化誘導時の培養温度は、特に限定されないが、30~40℃(例えば、37℃)で行う。また、培養容器中の二酸化炭素濃度は例えば5%程度である。
【0034】
2.骨格筋前駆細胞の製造方法(分化誘導)
本発明は、多能性細胞から骨格筋前駆細胞を製造する方法を提供する。前記方法は、例えば、以下の工程を含む。
(1)多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、ALK阻害剤を含む培地で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、cAMP誘導剤を含む培地で培養する工程。
【0035】
多能性幹細胞は、分化培養に先だって、常法にしたがい、ROCK阻害剤(例えば、Y-27632)等を含む培地で予め1日あるいは一晩培養してもよい。これにより、分化培養時の細胞死を抑制することができる。
【0036】
工程(1)
多能性幹細胞は、まずGSK3β阻害剤を含む培地で培養する。培養開始時の細胞数としては、特に限定されず、22000~150000cells/cm2、好ましくは22000~50000cells/cm2、より好ましくは22000~42000cells/cm2である。培養期間は1日~4日、好ましくは1日~3日、特に好ましくは2日である。
【0037】
本工程で用いる培地としては、DMEM/F12培地、RPMI 1640培地、Improved MEM Zinc Option培地が好ましく、RPMI 1640培地がより好ましい。
【0038】
本工程で使用する培地には、血清代替物(例えば、インスリン不含B-27サプリメント、ITS-G)及び抗生物質(例えば、AA、ペニシリン、ストレプトマイシン、又はこれらの混合物)を添加することが好ましい。
【0039】
工程(1)で使用される培養容器としては、マトリゲルコートされたものが好ましい。
【0040】
GSK3β阻害剤の培地中の濃度は、用いるGSK3β阻害剤の種類によって適宜設定されるが、GSK3β阻害剤としてCHIRを使用する場合の濃度は、通常2~10μM、好ましくは2~8μM、特に好ましくは5~7μMである。BIOを使用する場合の濃度は、通常0.2~0.8μM、好ましくは0.3~0.7μM、特に好ましくは0.5μMである。SB216763を使用する場合の濃度は、通常6~14μM、好ましくは8~12μM、特に好ましくは8~10μMである。
【0041】
工程(2)
工程(1)で得られた細胞を、さらにALK阻害剤を含む培地で培養する。培養期間は1日~3日、好ましくは2日である。
【0042】
本工程で使用する培地としては、抗生物質(例えば、AA、ペニシリン、ストレプトマイシン)及びインスリン不含B-27サプリメント(Invitrogen)を添加したRPMI1640培地が好ましい。(本明細書中、インスリン不含B-27サプリメント(Invitrogen)を添加したRPMI1640培地を「B-27培地」と称することがある。)
ALK阻害剤の培地中の濃度は、用いるALK阻害剤の種類によって適宜設定されるが、ALK阻害剤としてSBを使用する場合の濃度は、通常0.3~30μM、好ましくは3~30μMである。A83-01を使用する場合の濃度は、通常1~5μM、好ましくは1~3μM、特に好ましくは1μMである。
【0043】
工程(2)における培地にAMPキナーゼ阻害剤(例えば、DM)をさらに添加することにより、骨格筋前駆細胞をより高純度・高濃度に誘導することが可能となる。添加するAMPキナーゼ阻害剤の量は適宜設定できるが、AMPキナーゼ阻害剤としてDMを使用する場合の濃度としては0.3~1μMが好ましい。
また、本工程では、AMPキナーゼ阻害剤に代えて又は加えて、BMPシグナル阻害剤を使用することもできる。BMPシグナル阻害剤としてLDN193189を使用する場合の濃度は、通常0.1~0.8μM、好ましくは0.1~0.5μM、特に好ましくは0.1μMである。
【0044】
工程(3)
工程(2)で得られた細胞を、さらにcAMP誘導剤を含む培地で培養し、骨格筋前駆細胞に分化させる。培養期間は9日~26日、好ましくは10日~25日である。
cAMP誘導剤の培地中の濃度は、用いるcAMP誘導剤の種類によって適宜設定されるが、通常0.1~1000μMの濃度で使用される。
【0045】
cAMP誘導剤としてはFSKが好ましく、その培地中の濃度は、通常1~50μM、好ましくは2~50μMである。
【0046】
工程(1)~(3)において使用する培地には、本発明の目的に反しない範囲で適宜他の成分を添加してもよいが、増殖因子は添加しないことが好ましい。特に、骨格筋細胞への分化誘導を促す増殖因子の工程(1)~(3)での添加は、骨格筋前駆細胞の段階を超えて一気に骨格筋細胞への分化誘導を促すため、細胞の純度や分化効率に負の影響を及ぼす可能性があるからである。
【0047】
工程(3)は、さらに2つの工程に分けることができる。以下、これらの工程(3)-1及び工程(3)-2について説明する。
【0048】
工程(3)-1
工程(3)-1では、工程(2)で得られた細胞を、cAMP誘導剤を含む培地で培養し、体節中胚葉に分化させる。培養期間は2~5日、好ましくは3~4日である。
【0049】
本工程で使用する培地としては、B-27培地が好ましい。
cAMP誘導剤の培地中の濃度は、用いるcAMP誘導剤の種類によって適宜設定されるが、通常0.1~1000μMの濃度で使用される。
【0050】
cAMP誘導剤としてはFSKが好ましく、その培地中の濃度は、通常1~50μM、好ましくは2~50μMである。
【0051】
工程(3)-2
工程(3)-2では、工程(3)-1で得られた細胞を、cAMP誘導剤を含む培地でさらに培養し、骨格筋前駆細胞に分化させる。培養期間は好ましくは7日~21日であり、培養後約3週間程度で、CD56及び/又はPax7陽性、あるいはCD29及び/又はPax7陽性の骨格筋前駆細胞が誘導される。
【0052】
本工程で使用する培地は、工程(3)-1で使用した培地と比べて栄養価が同等又は高い培地であることが好ましく、例えば培地に含まれるグルコース濃度が同等又は高い培地が好ましい。例えば、工程(3)-1でRPMI 1640培地又はB-27培地を使用した場合には、工程(3)-2において使用する培地としてDMEM培地(High glucose)が好ましい。工程(3)-2で使用する培地に含まれるグルコース濃度は、2000mg/L~10000mg/Lであることが好ましく、3000mg/L~10000mg/Lであることがより好ましく、4000mg/L~10000mg/Lであることが特に好ましい。本工程で使用する培地には、抗生物質(例えば、AA、ペニシリン、ストレプトマイシン、又はこれらの混合物)を添加することが好ましい。
cAMP誘導剤の培地中の濃度は、用いるcAMP誘導剤の種類によって適宜設定されるが、通常0.1~1000μMの濃度で使用される。
【0053】
cAMP誘導剤としてはFSKが好ましく、その培地中の濃度は、通常1~50μM、好ましくは2~50μMである。
【0054】
工程(3)-2で得られた細胞がCD56及び/又はPax7陽性、あるいはCD29及び/又はPax7であるか否かは、免疫染色法やリアルタイムPCR法(本明細書中、RT-PCR法と称することがある。)といった自体公知の方法で確認することができる。
【0055】
3.骨格筋前駆細胞の純化
得られた骨格筋前駆細胞は、表面マーカーであるCD56(NCAM1)又はCD29(integrin subunit β1)を利用して、純化することができる。上記純化は自体公知の方法、例えば、抗CD56抗体を固定化したビーズを用いて行うことができる。上記抗CD56抗体を固定化したビーズは市販品として入手可能である(例:CD56MicroBeads(Miltenyi社))。また、抗体を固定化したビーズは、EasySep(商品名) Human PE Positive Selection Kit(StemCell technologies)を用いて作成することもできる。
【0056】
骨格筋前駆細胞は、CD56及びCD29のほか、CDH15(M-cadherin)、CD82、CD34、MET、CXCR4、ITGA7(integrin subunit α7)による純化も可能であり、さらに、Caveolin-1、CTR、ErbB receptor、Necdin、Megf10、p75NTR/BDNFc、Sphingomyelin、Syndecan 3/4、VCAM-1、Nestinを用いて純化することも可能である。
【0057】
4.骨格筋前駆細胞の分散・凍結保存
本発明の方法によれば、純度の高い骨格筋前駆細胞調製物(培養物)が得られる。工程(3)で得られた細胞又は調製物を凍結することにより、骨格筋前駆細胞を含む凍結細胞調製物とすることができる。
また、得られた細胞又は調製物は、酵素処理することにより容易に分散させる(シングルセルの状態で分散させる)ことができる。分散には、市販の細胞分散用試薬や細胞分散液(例えば、ACCUMAX、Accutase(ともに、Innova Cell Technologies))を使用することができる。上記分散は、自体公知の方法、例えば、培養容器に市販の細胞分散用試薬や細胞分散液を添加して一定時間反応させたのち、培養液等を添加し、培養液を何度かピペッティングすることで行うことができる。
なお、本明細書における「分散液」とは、これらの細胞分散用試薬、細胞分散液等を意味する。骨格筋前駆細胞を分散液中に含む調製物(培養物)も、凍結保存することができる。
また本明細書における「酵素処理」に使用する酵素としては、細胞用及び/又はタンパク質切断用の酵素を使用することができ、例えば、Celase、DetachKit、Accutase、Accutase LZ、Accumax、Neonatal Cardiomyocyte Isolation System、STEMxyme、Protease、Neutral、Elastase、Papain Dissociation System、Neonatal Cardiomyocyte Isolation System、Trypsin/EDTA Solution、FACSmax Cell Dissociation Solution、Detachin、Collagenase、Collagenase type I,II,III及びIV、Cell Isolation Optimizing System、Dispase I及びII等の市販の酵素を使用することができる。
【0058】
本発明のある実施形態は、本明細書中に記載される方法によって得られる細胞調製物(培養物)に関する。細胞調製物(培養物)における、目的とする細胞の純度は、自体公知の方法によって評価することができる。例えば、フローサイトメトリーや細胞イメージングなどの解析により、細胞調製物(培養物)中の目的とする細胞の割合を評価することができる。また、細胞調製物(培養物)中のそれぞれの1細胞について遺伝子発現プロファイルの解析を行い、目的とする遺伝子を発現する細胞の割合を評価することができる。
フローサイトメトリーとは、適当な標識で標識化した細胞を含む流体分散液をキャピラリー中に細く流して、標識による検出強度を測定して目的とする細胞を計数個々の細胞を光学的に分析する技術である。その測定装置はフローサイトメーターと呼ばれ、例えばベクトンディッキンソン(BD)社のFACSAria等を用いれば、蛍光抗体で染色した細胞を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面にある抗原量を定量的に測定することができる。同時に複数の細胞の形態と機能に関係する散乱光や蛍光色素を検出することができるため、複数の細胞集団を含んでいても複数のパラメーターを用いることで、ヘテロな細胞集団に含まれる特定のマーカータンパク質または遺伝子を発現する細胞の割合を算出することができる。
細胞イメージングは、培養プレートやスライドグラスから、例えばGEヘルスケア社のIn Cell Analyzer600などの装置で細胞イメージを取得しコンピューター解析する手法で、細胞集団中のそれぞれの細胞について客観的かつ大量の情報を得ることができ、特定の性状を持つ細胞の割合を算出することができる。
1細胞解析は、様々な解析装置との組み合わせで様々な解析が行える。Fluidigm社のC1で不均一な細胞集団を1細胞に分離し、解析装置としてFluidigm社のBioMarkやABI7900などのリアルタイムPCRシステムを用いれば選択した遺伝子のqPCR解析を行うことができる。または次世代シーケンサーであるThermo Fisher Scientific社のIon Protonを用いれば遺伝子発現量を網羅的に計測することが出来る。1細胞での遺伝子発現プロファイルが取得できるため、不均一な細胞集団中の特定の遺伝子を発現する細胞の割合を算出することができる。
【0059】
本明細書中に記載された方法によって得られる細胞調製物(培養物)は、目的とする細胞(例えば、骨格筋前駆細胞、骨格筋細胞)を少なくとも約99%、少なくとも約98%、少なくとも約97%、少なくとも約96%、少なくとも約95%、少なくとも約94%、少なくとも約93%、少なくとも約92%、少なくとも約91%、少なくとも約90%、少なくとも約89%、少なくとも約88%、少なくとも約87%、少なくとも約86%、少なくとも約85%、少なくとも約84%、少なくとも約83%、少なくとも約82%、少なくとも約81%、少なくとも約80%、少なくとも約79%、少なくとも約78%、少なくとも約77%、少なくとも約76%、少なくとも約75%、少なくとも約74%、少なくとも約73%、少なくとも約72%、少なくとも約71%、少なくとも約70%、少なくとも約69%、少なくとも約68%、少なくとも約67%、少なくとも約66%、少なくとも約65%、少なくとも約64%、少なくとも約63%、少なくとも約62%、少なくとも約61%、少なくとも約60%、少なくとも約59%、少なくとも約58%、少なくとも約57%、少なくとも約56%、少なくとも約55%、少なくとも約54%、少なくとも約53%、少なくとも約52%、少なくとも約51%、又は少なくとも約50%、少なくとも約45%、少なくとも約40%、少なくとも約35%、少なくとも約30%、少なくとも約29%、少なくとも約28%、少なくとも約27%、少なくとも約26%、少なくとも約25%、少なくとも約24%、少なくとも約23%、少なくとも約22%、少なくとも約21%、少なくとも約20%、少なくとも約19%、少なくとも約18%、少なくとも約17%、少なくとも約16%、少なくとも約15%、少なくとも約14%、少なくとも約13%、少なくとも約12%、少なくとも約11%、少なくとも約10%、少なくとも約9%、少なくとも約8%、少なくとも約7%、少なくとも約6%、少なくとも約5%、少なくとも約4%、少なくとも約3%、少なくとも約2%、又は少なくとも約1%含み、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上含む。本発明のある実施形態において、細胞調製物(培養物)の純度は、細胞調製物(培養物)中に残存するフィーダー細胞を考慮せずに算出される。
【0060】
本発明の凍結細胞調製物は、本発明の方法によって得られた骨格筋前駆細胞を含む凍結細胞調製物である。
【0061】
本発明の凍結細胞調製物は、本発明の方法によって得られた骨格筋前駆細胞を分散液中に含む、凍結細胞調製物である。
【0062】
本発明の凍結細胞調製物は、多能性幹細胞から誘導されたCD56及び/又はPAX7陽性である骨格筋前駆細胞を分散液中に含む凍結細胞調製物であって、前記骨格筋前駆細胞をフローサイトメトリーによって測定される細胞の割合として30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上含む、凍結細胞調製物である。
【0063】
あるいは、本発明の凍結細胞調製物は、多能性幹細胞から誘導されたCD29及び/又はPAX7陽性である骨格筋前駆細胞を分散液中に含む凍結細胞調製物であって、前記骨格筋前駆細胞をフローサイトメトリーによって測定される細胞の割合として30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上含む、凍結細胞調製物である。
【0064】
本発明の凍結細胞調製物は、必要に応じて融解して骨格筋細胞の製造に使用することができる。具体的には、凍結した調製物を融解して得られる細胞を後述する方法(2-1)などに付すことにより骨格筋細胞を誘導することができる。本発明はそのような骨格筋前駆細胞を含む凍結細胞調製物も提供する。
【0065】
骨格筋前駆細胞を含む凍結細胞調製物は、本発明の方法によって得られた骨格筋前駆細胞調製物(培養物)を酵素処理して分散させたもの、好ましくはシングルセルの状態で分散させたものを凍結して調製されたものが好ましい。上記調製は、自体公知の方法、例えば、分散させた骨格筋前駆細胞を、Cellbanker2(日本全薬工業)を用いて再懸濁した溶液を凍結することにより行うことができる。
【0066】
5.骨格筋細胞の製造方法(分化誘導)
本発明は、工程(3)で得られた骨格筋前駆細胞又は前記凍結細胞調製物を融解して得られる骨格筋前駆細胞を、骨格筋細胞に分化誘導する、骨格筋細胞の製造方法も提供する。骨格筋前駆細胞から骨格筋細胞へ分化誘導する方法は、以下の2つの方法が挙げられる。
【0067】
骨格筋前駆細胞から骨格筋細胞への分化誘導方法1(方法1)
方法1では、工程(3)で得られた骨格筋前駆細胞又は前記凍結細胞調製物を融解して得られる骨格筋前駆細胞を、cAMP誘導剤を含む培地で培養し、骨格筋細胞に分化させる。培養期間は4週以上とすることができ、通常4週~6ヶ月、好ましくは4週~2ヶ月、より好ましくは4週~6週である。
【0068】
骨格筋前駆細胞はあらかじめ分散させてから培地に播種することが好ましい。これにより、純度の高い骨格筋細胞を得ることができる。
【0069】
本方法で使用できる好ましい培地は、工程(3)-2に例示されたものと同様である。本方法で使用する培地としては、DMEM培地(High glucose)が好ましい。本工程で使用する培地には、cAMP誘導剤(例えば、FSK、dbcAMP)、血清代替物(例えば、KSR、ITS-G)及び抗生物質(例えば、AA、ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加することが好ましい。
cAMP誘導剤の培地中の濃度は、用いるcAMP誘導剤の種類によって適宜設定されるが、通常0.1~1000μMの濃度で使用される。
【0070】
cAMP誘導剤としてはFSK又はdbcAMPが好ましく、その培地中の濃度は、通常1~50μM、好ましくは2~50μMである。
【0071】
本方法における培養容器としては、マトリゲル、フィブロネクチン又はポリ-D-リジンでコートされたものが好ましい。
【0072】
骨格筋前駆細胞から骨格筋細胞への分化誘導方法2(方法2)
方法2は、骨格筋前駆細胞から筋管細胞を製造する方法(方法2-1)及び筋管細胞から骨格筋細胞を製造する方法(方法2-2)を含む。
【0073】
骨格筋前駆細胞から筋管細胞を製造する方法(方法2-1)
方法2-1は、工程(3)で得られた骨格筋前駆細胞又は前記凍結細胞調製物を融解して得られた骨格筋前駆細胞を、増殖因子を含む培地で培養して筋管細胞に分化誘導する、筋管細胞の製造方法である。培養期間は、7日~20日、好ましくは10~14日である。上記培養は2~3日ごとに培地を交換しながら行うことが好ましい。
【0074】
骨格筋前駆細胞はあらかじめ分散させてから培地に播種することが好ましい。これにより、純度の高い骨格筋細胞を得ることができる。
【0075】
本方法で使用する増殖因子としては、FGF2、FGF1、HGF、EGF又はIGF1が好ましく、FGF1又はFGF2がより好ましく、FGF2がさらに好ましい。
【0076】
本方法で使用できる好ましい培地は、工程(3)-2で例示されたものと同様である。本方法で使用する培地としては、DMEM培地(High glucose、Low glucose)、DMEM/F12培地、RPMI 1640培地、Improved MEM Zinc Option培地が好ましく、DMEM(High glucose)培地がより好ましい。本工程で使用する培地には、cAMP誘導剤(例えば、FSK)、血清代替物(例えば、KSR、ITS-G)及び抗生物質(例えば、AA、ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加することが好ましい。
【0077】
増殖因子の培地中の濃度は、用いる増殖因子の種類によって適宜設定されるが、通常約0.1nM~1000μM、好ましくは約0.1nM~100μMである。EGFの場合、その濃度は、約5~2000ng/ml(すなわち、約0.8~320nM)、好ましくは約5~1000ng/ml(すなわち、約0.8~160nM)、より好ましくは約10~1000ng/ml(すなわち、約1.6~160nM)である。FGF1又はFGF2の場合、その濃度は、約5~2000ng/ml(すなわち、約0.3~116nM)、好ましくは約10~1000ng/ml(すなわち、約0.6~58nM)、より好ましくは約10~1000ng/ml(すなわち、約0.6~58nM)である。
増殖因子の培地中の濃度は、例えば、FGF1を使用する場合は50ng/mL、FGF2を使用する場合は10ng/mL、EGFを使用する場合は50ng/mL、IGF1を使用する場合は50ng/mL、HGFを使用する場合は50ng/mLとすることが特に好ましい。
【0078】
培地はcAMP誘導剤をさらに含むことが好ましい。cAMP誘導剤の添加により、骨格筋細胞への分化誘導が促進される。cAMP誘導剤の培地中の濃度は、用いるcAMP誘導剤の種類によって適宜設定されるが、通常0.1~1000μMの濃度で使用される。
【0079】
cAMP誘導剤としてはFSK又はdbcAMPが好ましく、その培地中の濃度は、FSKの場合、通常1~50μM、好ましくは2~50μMであり、dbcAMPの場合、通常10~100μM、好ましくは10~50μMでる。
【0080】
本方法で使用される培養容器としては、マトリゲル、ラミニン又はフィブロネクチンコートされたものが好ましい。
【0081】
前記方法1および上記方法2-1において前記凍結細胞調製物を融解して骨格筋前駆細胞を得る場合、融解後の最初の培地には、ROCK阻害剤(例えば、Y-27632)を添加することが好ましい。ROCK阻害剤の培地中の濃度は、用いるROCK阻害剤の種類によって適宜設定されるが、ROCK阻害剤としてY-27632を使用する場合の濃度は、通常0.1μM~1000μM、好ましくは1μM~100μM、より好ましくは0.3μM~30μMである。
【0082】
筋管細胞から骨格筋細胞を製造する方法(方法2-2)
方法2-2は、方法2-1によって得られた筋管細胞を、増殖因子を含まない培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する、骨格筋細胞の製造方法である。培地は、増殖因子を含まないことを除けば、方法2-1で使用する培地と基本的に同じでよい。なお、「増殖因子を含まない」とは、前述のとおり、分化誘導に積極的な機能を発揮する量の増殖因子の包含・添加がないことを意味する。培養期間は特に限定されないが、培養期間は2週間以上とすることができ、通常2週~6ヶ月、好ましくは2週~6週である。上記培養は2~3日ごとに培地を交換しながら行うことが好ましい。
【0083】
上記方法2に記載の方法によれば、工程(3)で得られる骨格筋前駆細胞及び上記の凍結細胞調製物を融解して得られる骨格筋前駆細胞に限定されない骨格筋前駆細胞から、骨格筋細胞を製造することもできる。すなわち、本発明は、(I)骨格筋前駆細胞を、増殖因子を含む培地で培養する工程及び(II)工程(I)で得られた細胞を、増殖因子を含まない培地で培養する工程を含む骨格筋細胞の製造方法を提供する。
【0084】
多能性幹細胞から骨格筋細胞を製造する方法としてはより具体的には以下の方法が挙げられる。
多能性幹細胞から骨格筋細胞の製造方法A(方法A)
(A1)多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤(特に、CHIR、SB216763、BIO)を含む培地で培養する工程
(A2)工程(A1)で得られた細胞を、ALK阻害剤(特に、SB431542、A83-01)を含む培地で培養する工程、
(A3)工程(A2)で得られた細胞を、cAMP誘導剤(特に、フォルスコリン、dbcAMP)を含む培地で培養する工程、
(A4)工程(A3)で得られた骨格筋前駆細胞を、cAMP誘導剤(特に、フォルスコリン)を含む培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する工程。
分化開始からの日数は、一例として、工程(A1):分化開始日から0-2日目/工程(A2):2~4日目/工程(A3):4~21日目/工程(A4):工程(A3)以降、となる。ここで、工程(A4)は、方法1に対応する。
多能性幹細胞から骨格筋細胞の製造方法B(方法B)
(B1)多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤(特に、CHIR、SB216763、BIO)を含む培地で培養する工程
(B2)工程(B1)で得られた細胞を、ALK阻害剤(特に、SB431542、A83-01)を含む培地で培養する工程、
(B3)工程(B2)で得られた細胞を、cAMP誘導剤(特に、フォルスコリン、dbcAMP)を含む培地で培養する工程、
(B4)工程(B3)で得られた骨格筋前駆細胞を、増殖因子(特に、FGF1、FGF2、EGF、IGF1、HGF(好ましくは、FGF1、FGF2であり、より好ましくは、FGF2である))を含む培地で培養して筋管細胞に分化誘導する工程、
(B5)工程(B4)で得られた筋管細胞を、増殖因子を含まない培地で培養して骨格筋細胞に分化誘導する工程。
分化開始からの日数は、一例として、工程(B1):分化開始日から0~2日目/工程(B2):2~4日目/工程(B3):4~21日目/工程(B4):21~35日目/工程(B5):工程(B4)以降、となる。ここで、(B4)及び(B5)はそれぞれ方法2-1及び方法2-2に対応する。
【0085】
工程(A3)及び(B3)はそれぞれ上記工程(3)に対応するものであり、それぞれ上記工程(3)-1及び(3)-2に対応するよう2つの工程に分けることができる。2つの工程に分けた場合、それぞれの工程の日数は、一例として工程(3)-1に対応する工程:分化開始日から4~7日目/工程(3)-2に対応する工程:7~21日目となる。
【0086】
また、方法A及びBのいずれにおいても、それぞれ工程(A4)及び(B4)の前に、それぞれ工程(A3)及び(B3)で得られた骨格筋前駆細胞を凍結することにより、骨格筋前駆細胞を含む凍結細胞調製物とすることができる。また、工程(A3)及び(B3)で得られた細胞又は調製物は、酵素処理することにより容易に分散させる(シングルセルの状態で分散させる)ことができる。分散させる方法は前記の通りである。工程(A4)及び(B4)に用いる骨格筋前駆細胞又は調製物は、本発明の方法によって得られた骨格筋前駆細胞調製物(培養物)を酵素処理して分散させたもの、好ましくはシングルセルの状態で分散させたものを凍結して調製されたものが好ましい。工程(A3)及び(B3)で得られた骨格筋前駆細胞を分散させ、あるいはさらに凍結することにより凍結細胞調製物とした場合であっても、凍結細胞調製物を融解させる操作を除き、培養方法及び培養期間は、上記工程(A4)、(B4)及び(B5)と同様にして、骨格筋細胞を製造することができる。
【0087】
本発明の方法で得られる骨格筋前駆細胞及び骨格筋細胞は、純度が高く、再生医療用の細胞調製物として有用である。また、各種薬剤のスクリーニングに有用である。再生医療用の細胞調製物として用いる場合には、全身性投与、筋組織又は皮下組織等の適切な組織への局所投与等の投与方法が挙げられる。投与剤形としては、注射剤を代表とする液剤、塗布剤、さらにはこれらを薬剤放出デバイス等に封入した剤形等が挙げられる。各種薬剤のスクリーニングとしては、骨格筋細胞への有用な分化誘導試薬等のスクリーニングが挙げられる。また、遺伝子改変した多能性幹細胞からの疾患モデル細胞の作製により、各種疾患治療薬剤のスクリーニング又は活性評価、薬効評価及び毒性評価等に用いることができる。スクリーニング等の対象とできる各種疾患治療薬剤には、低分子有機化合物のみならず、ペプチド、タンパク、抗体(全体、部分及びそれらの組合せを含む)、核酸、改良抗体、細胞、遺伝子改変が可能な核酸、タンパク又はこれらの組み合わせ等、様々な薬剤が含まれる。対象となり得る疾患としては、各種筋ジストロフィー、各種ミオパチー、ミトコンドリア病、糖原病等の筋原生疾患、加齢性の筋萎縮(サルコペニア)、慢性疾患・癌悪液質による筋力低下(カケキシア)、寝たきりや骨折に伴う筋活動の低下による筋萎縮等が考えられる。さらに、乳児性脊髄性筋萎縮症、シャルコ・マリー・ツース病、先天性ミエリン形成不全症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経原性疾患についても対象に含まれると考えられる。
【実施例】
【0088】
以下、参考例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0089】
参考例1:ヒトiPS細胞253G1細胞の維持培養
ヒトiPS細胞は253G1細胞(Nature Biotechnology 26,101-106)を使用した。
253G1細胞の維持培養には、培地として1% AA又は0.5% Penicillin-Streptomycin Solutionを添加したEssential 8培地(Invitrogen;本明細書中、E8培地と称することがある)を使用し、培養容器としてビトロネクチン(VTN-N、Invitrogen)をコートしたものを用いた。
以下に示す実施例を含め、細胞の培養は37℃、5%CO2下で行った。
以下の実施例に示す分化誘導に供する細胞を調製するため、維持培養した253G1細胞を0.5mM エチレンジアミン四酢酸-リン酸緩衝生理食塩水で分散させた後、10μM Y-27632(Wako)を添加したE8培地でマトリゲルコートした96穴、48穴、24穴、12穴、又は6穴プレートに播種した。上記播種の翌日にE8培地で培地交換した。
【0090】
実施例1:ヒトiPS細胞から体節中胚葉への分化誘導
図1aに、実施例1に示す未分化iPS細胞から体節中胚葉への分化誘導法の概略を示した。本分化誘導法を用いることで、未分化iPS細胞から中胚葉を経由して体節中胚葉が誘導される。
【0091】
<1-1.ヒトiPS細胞から中胚葉への分化誘導>
参考例1にしたがってマトリゲルコートした培養容器に253G1細胞を播種したあと2日目に、培地をE8培地から、1~6μM CHIR及び1% AAを添加したB-27培地に交換して、分化を開始した(分化開始日を分化0日目(day0)とした)。
【0092】
分化2日目(day2)に、汎中胚葉マーカー遺伝子であるBRACHYURY及びTBX6の発現変動を調べた。上記遺伝子発現の変動は以下の手順によって解析した。すなわち、全RNAをRNeasy96 Kit又はRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて調製したあと、全RNAから逆転写酵素(PrimeScript RT reagent kit,Takara)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをTaqmanプローブ(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムPCRに供した。分化開始前の253G1細胞から調製したサンプルを基準サンプルとして比較Ct法にてBRACHYURY及びTBX6の遺伝子発現量を算出した。
その結果、
図1bに示すように、分化2日目には1~6μMの範囲内においてCHIR濃度依存的にBRACHYURY及びTBX6発現が増加することが判明した。なお、
図1bでは、分化2日目におけるBRACHYURYとTBX6の遺伝子発現量を、未分化iPS細胞における発現量を1とした場合の比率として示す。
【0093】
<1-2.中胚葉から体節中胚葉への分化誘導>
分化2日目に、1% AA、10μM SB(及び、0.3~1μM DM)を添加したB-27培地へ培地を交換し、さらに分化4日目(day4)で1% AAおよび10μM FSKを添加したB-27培地へと培地を交換して、分化7日目(day7)まで培養を継続した。
【0094】
分化7日目に、体節中胚葉マーカー遺伝子PAX3及びPAX7の発現量を測定した。その結果、
図1cに示すように、分化0~2日目にCHIRを2~4μM含む培地で培養したあと、分化2~4日目にSB(及び、DM)を含む培地で培養し、さらに分化4~7日目にFSKを含む培地で培養した場合に体節中胚葉マーカー遺伝子が高い発現を示すことが判明した。なお、
図1cでは、分化7日目におけるPAX3とPAX7の遺伝子発現量を、分化開始前の253G1細胞での発現を1とした場合の比率として示す。
【0095】
実施例2:体節中胚葉からの骨格筋分化
図2aに、未分化iPS細胞から、中胚葉、体節中胚葉を経由した骨格筋細胞への分化誘導法の概略を示した。本誘導法を用いることで、未分化iPS細胞から骨格筋細胞への分化が誘導される。
【0096】
<体節中胚葉から骨格筋細胞への分化誘導>
分化7日目(day7)に、体節中胚葉へ分化した細胞の培地を10μM FSK、5%KSR、1% AA及び1% ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地に交換し、2~3日ごとに培地交換しながら培養を継続すると、骨格筋細胞への分化が誘導され、分化5週ころから自発的に収縮する細胞が誘導された。分化6週目に骨格筋細胞マーカーの発現量をリアルタイムPCRで測定した。その結果、
図2bに示すように、分化6週目には骨格筋細胞マーカー(具体的には、胎児型骨格筋ミオシン重鎖(MYH3、MYH8)、βミオシン重鎖(MYH7)、骨格筋アクチン(ACTA1)、骨格筋転写因子(MYOG、MYOD1))の遺伝子発現量が増加することが判明した。なお、
図2bでは、骨格筋細胞マーカーの遺伝子発現量を、分化開始前の253G1細胞での発現を1とした場合の比率として示す。
【0097】
実施例3:iPS細胞から誘導した骨格筋前駆細胞の骨格筋分化と凍結ストック調製
図3aに、未分化iPS細胞から誘導した骨格筋前駆細胞の分散/播種、及び分散後凍結保存を経由した、骨格筋細胞への分化誘導法の概略を示した。本分化誘導法を用いることで、未分化iPS細胞から分化誘導した骨格筋前駆細胞を、骨格筋前駆細胞を誘導した培養器とは別の培養器で骨格筋を分化誘導すること、凍結保存した骨格筋前駆細胞から骨格筋細胞を誘導することが可能となる。
【0098】
<3-1.分化4週目の細胞における骨格筋前駆細胞及び骨格筋細胞マーカーの発現>
実施例2記載の方法と同様の方法で培養した分化4週目における細胞における骨格筋前駆細胞マーカー(PAX7)及び骨格筋マーカー(MYH3、MYH7、MYH8、ACTN2、MYOD1、MYF5及びMYOG)の発現量を測定した。
図3bに示すように、分化4週目における細胞では、骨格筋前駆細胞マーカーに加え、骨格筋マーカーが発現していることが判明した。このことから、分化4週目において、骨格筋系譜への細胞へと分化したことが判明した。なお、
図3bでは、骨格筋前駆細胞マーカー又は骨格筋細胞マーカーの遺伝子発現量を、分化開始前の253G1細胞での発現を1とした場合の比率として示す。
【0099】
<3-2.骨格筋前駆細胞の分散/播種>
分化7日目以降、分化3~5週までの間に、細胞を分散して別の新しい培養器に播種することが可能か検討した。具体的には、実施例2記載の方法と同様の方法で培養した分化3、4、5週目の細胞を分散/播種し、播種したあとの細胞から骨格筋細胞が誘導可能であるか否かについて検討を行った。その結果、分化3、4、5週目において細胞を分散/播種した場合であっても、分散/播種後に骨格筋細胞への分化誘導が可能であった。このことから、分化3~5週目の細胞を分散して別の新しい培養器に播種した場合にも骨格筋細胞へ分化しうる骨格筋前駆細胞を得ることが可能であることが分かった。培養期間が長くなるに伴い細胞が分泌する成分で細胞間が酵素消化を受けにくく分散し難くなるため、分散液として酵素液を使う場合、分化3~4週目が分散/播種に適していた。
【0100】
<3-3.骨格筋前駆細胞の凍結保存>
実施例2記載の方法と同様の方法で培養した分化3~4週目の細胞を凍結保存することが可能であるか検討するため、分化3又は4週目の細胞をACCUMAXで分散して、Cell Banker2(日本全薬工業)を用いて凍結し、凍結細胞調製物を作成した。凍結細胞調製物から骨格筋前駆細胞が得られるか確認するため、凍結細胞調製物を37℃のウォーターバス上で迅速に融解した後、10μM Y-27632、5%KSR、1% AA及び1% ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地でポリ-D-リジンコートプレート(Corning)に播種し、2日間培養した。上記培養後、蛍光免疫染色法で骨格筋前駆細胞マーカーであるPAX7とCD56の発現を、抗PAX7抗体(abcam社製抗体)又は抗CD56抗体(Santacruz社製抗体)を用いた免疫染色法により確認した。その結果、
図3eに示すように、小型の細胞がPAX7及び/又はCD56陽性であった。また、CD56(Santacruz社製抗体)と、骨格筋前駆細胞として知られている別のマーカーM-Cadherin(Santacruz社製抗体を使用)、またCD56(Santacruz社製抗体を使用)とCD29(abcam社製抗体を使用)の発現を同様に調べたところ、M-CadherinやCD29も小型の細胞で発現し、少なくとも一部はCD56と一緒に発現していることが判明した。このことから、凍結細胞調製物から骨格筋前駆細胞を得ることが可能であることが判明した。
【0101】
<3-4.凍結細胞調製物から得た骨格筋前駆細胞から筋管細胞への分化>
凍結細胞調製物から得た骨格筋前駆細胞から筋管細胞を誘導することが可能か否か検討するため、上述のように凍結細胞調製物を37℃のウォーターバス上で迅速に融解した後、10μg/mL FGF2、10μM FSK、10μM Y-27632、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地でマトリゲルコートしたプレートに播種し、2日間培養し、10μM FSK、10ng/mLFGF2、1% AA、5%KSR及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地で培地交換した。上記播種後、2~3日ごとに培地交換しながら2週間培養した。2週間培養後の細胞におけるヒト骨格筋細胞マーカーの発現を、蛍光免疫染色で検出した。蛍光免疫染色には、骨格筋マーカーとして全てのミオシン重鎖サブタイプを認識する抗体(MYH cloneMF20:図中、緑色で示される)及び、サテライト細胞からの分化初期から発現が確認されているDesmin(図中、赤色で示される)に対する抗体を用いた。さらに、核はDAPI(図中、青色で示される)で染色した。その結果、播種時には小型で球状の形態であった細胞が、
図3fに示すように、分化に伴い細長い形態へと変化し、さらにそれぞれの細胞が複数の核を持つことが明らかとなった。これにより、凍結細胞調製物から得た骨格筋前駆細胞から筋管細胞を誘導することが可能であることが明らかになった。
【0102】
<3-5.筋管細胞から骨格筋細胞への分化>
凍結細胞調製物を37℃のウォーターバス上で迅速に融解した後、10μM Y-27632、10μM FSK、50ng/mL FGF1、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地でマトリゲルコートしたプレートに播種し、1日間培養し、10μM FSK、50ng/mL FGF1、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地で2~3日ごとに培地交換しながら2週間培養して筋管細胞を得た。骨格筋細胞へ分化誘導することが可能か否か検討するため、上記筋管細胞を5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地(ただし、増殖因子及びFSKを含まない)で、2~3日ごとに培地交換しながら、さらに2週間培養を継続した。凍結細胞調製物を融解してから4週間後(分化7週目)の細胞における骨格筋タンパク質の発現を蛍光免疫染色法で調べた結果、
図3gに示すように、骨格筋の筋節に発現するα-Actinin(図中、緑色で示される)は横紋状に発現、Dystrophin(図中、赤色で示される)は細胞膜付近から細胞全体に発現、Dystrophinと細胞内で結合する繊維状Actin(F-actin:図中、青色で示される)は細胞内で繊維状に存在することが確認できた。これらのことから、本発明の方法によれば天然の骨格筋細胞とその形態が類似する骨格筋細胞を誘導できることが明らかになった。
【0103】
<3-6.凍結細胞調製物から得た骨格筋前駆細胞から筋管細胞への分化(増殖因子の種類の検討)>
実施例2記載の方法と同様の方法で培養した分化3週目の細胞の培養上清を除き、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄後、ACCUMAX(Innovative Cell Technologies)を添加して細胞を分散し、Cell Banker2(日本全薬工業)を用いて凍結保存し、凍結細胞調製物を作製した。凍結細胞調製物から得た骨格筋前駆細胞のさらなる分化誘導に対し、培地へ添加する増殖因子の種類及びFSKの添加有無が与える影響を検討するため、
図3cに示す組合せでこれら因子を添加した培地を用いて分化誘導を行った。具体的には、凍結細胞調製物を37℃のウォーターバス上で迅速に融解した後、10μM Y-27632、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地で必要に応じて増殖因子(50ng/mL FGF1、10ng/mL FGF2、50ng/mL EGF、50ng/mL IGF1又は50ng/mL HGF)及び10μM FSKを添加又は非添加でマトリゲルコートしたプレートに播種し、1日間培養した。上記培養後、必要に応じて増殖因子(50ng/mL FGF1、10ng/mL FGF2、50ng/mL EGF、50ng/mL IGF1又は50ng/mL HGF)及び10μM FSKを添加又は非添加であって、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地を用いて2~3日ごとに培地交換しながら2週間培養した。
播種から2週間後(分化5週目)、細胞を回収し、実施例1記載の方法と同様の方法で、骨格筋前駆細胞マーカー(PAX7)、骨格筋マーカー(MYH3、MYH8、MYOD1)の遺伝子発現量を測定した。その結果、
図3cに示すように、播種から2週間後(分化5週目に相当)の細胞は、PAX7及びMYH3、MYH8、MYOD1を発現していることが判明した。なお、
図3cは、増殖因子非添加群を基準サンプルとして、相対的な変動量として算出した。それぞれの増殖因子を含む培地で培養することにより、PAX7及び3種類の骨格筋マーカーの発現量が誘導され、さらに培地中にFSKを同時に添加することによりこれらマーカーの発現量は相乗的に亢進した。
【0104】
<3-7.骨格筋前駆細胞から骨格筋細胞への分化>
分化3週目の細胞の培養上清を除き、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄後、ACCUMAX(Innovative Cell Technologies)で細胞を分散し、凍結保存することなく、10μM FSK、10ng/mL FGF2、5%KSR、1% AA、1%ITS-G及び10μM Y-27632(播種時のみ添加)を含むDMEM(high glucose)を用いてマトリゲルコートした別のプレートに播種し、その後2週間、10μM FSK、10ng/mL FGF2、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地を用いて2~3日ごとに培地交換しながら培養した。上記培養後、分散/播種2週目~4週目(分化5週目~7週目)に5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地(ただし、増殖因子及びFSKを含まない)で培養を継続した。
上記分化7週目の細胞を免疫染色してその形態の観察を行った。免疫染色は以下の方法で行った。すなわち、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定後、0.3% TritonX100で可溶化してから、抗α-sarcomeric Actinin抗体(Sigma)、抗Dystrophin抗体(abcam)又は抗β-Dystroglycan抗体(Santacruz)を含む一次抗体溶液と反応させ、さらにAlexa Fluor488又は568で標識した二次抗体溶液と反応させた。F-ActinはAlexa Fluor 350で標識したphalloidin(Thermo Fisher Scientific)を用いて、核はDAPI(Wako)を用いてそれぞれ染色した。
蛍光免疫染色法で細胞での骨格筋マーカー蛋白質の発現を調べたところ、
図3d(上図)に示すように、細胞は細長い形態を示し、α-sarcomeric Actinin(図中、赤色で示される)は細胞内で横紋状に局在、Dystrophin(図中、緑色で示される)は細胞膜上もしくは細胞全体に観察された。また、
図3d(下図)に示すように、Dystrophin(図中、赤色で示される)と複合体を形成する膜蛋白質β-Dystroglycan(図中、緑色で示される)は同様の局在を示し、Dystrophinと細胞内で結合しているF-Actin(図中、青色で示される)は細胞内に豊富に存在することが分かった(
図3d(下))。これらのことから、本発明の方法で誘導される骨格筋細胞は天然の骨格筋細胞とその形態が類似することが明らかになった。
【0105】
実施例4:iPS細胞から誘導した骨格筋前駆細胞の純化
分化3週目に、ACCUMAXを用いて分散した細胞から、フィコエリスリン(PE)で標識したCD56に対する抗体(Miltenyi)及び磁気ビーズ(EasySep
TM Human PE Positive Selection Kit(StemCell technologies))を用いて、CD56陽性細胞を純化した。純化したCD56陽性細胞から骨格筋前駆細胞を誘導することが可能であるか否かを検討するため、純化したCD56陽性細胞をマトリゲルコートしたプレートに播種し、10ng/mL FGF2、10μM FSK、5%KSR、1% AA及び1% ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地で2~3日ごとに培地を交換しながら2週間培養した。上記培養後、さらに2週間、5%KSR、1% AA及び1% ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地(ただし、増殖因子及びFSKを含まない)で2~3日ごとに培地を交換しながら培養した(ヒトiPS細胞から誘導した骨格筋前駆細胞の純化、及び純化した骨格筋前駆細胞の骨格筋への分化誘導法、又は純化した骨格筋前駆細胞の凍結保存の概略を
図4aに示す。)。その結果、
図4bに示すように、培養後の細胞は細長い形態を示し、Dystrophin(図中、緑色で示される)と、β-Dystroglycan(図中、赤色で示される)とF-Actin(図中、青色で示される)は細胞全体で観察された(
図4b、上図)。筋節Z膜上に発現するα-sarcomeric Actininは長い細胞の内部で縦方向に局在し、核は赤で発色している骨格筋特異的転写因子MYODを発現していた(
図4b、下図)。このことから、CD56で純化した骨格筋前駆細胞からも骨格筋細胞を誘導することができることが判明した。
【0106】
<純化した細胞の凍結及び凍結細胞調製物から得られた細胞の骨格筋細胞への分化>
CD56で純化した骨格筋前駆細胞も凍結保存することが可能であるか否かを検討するため、以下の検討を行った。すなわち、CD56で純化した細胞を10μM FSK、10ng/mL FGF2、5%KSR、1% AA及び1% ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地でマトリゲルコートしたプレートに播種し、2日間培養した。上記培養後、ACCUMAXを用いて分散し、得られた細胞をCellbanker2(日本全薬工業)で凍結保存して凍結細胞調製物を作成した。凍結細胞調製物を37℃のウォーターバス上で迅速に融解した後、10μM Y-27632、10ng/mL FGF2、10μM FSK、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地でマトリゲルコートしたプレートに播種し、1日間培養した。上記培養後、10ng/mL FGF2、10μM FSK、5%KSR、1% AA及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地で2~3日ごとに培地交換しながら、2週間培養した。その後さらに、5%KSR、1% ITS-G、1% AAを添加したDMEM(high glucose)培地(ただし、増殖因子及びFSKを含まない)で2~3日ごとに培地を交換しながら2週間培養した。培養した細胞におけるDystrophin、β-Dystroglycan及びMYODの発現を蛍光免疫染色法で観察した。その結果、
図4cに示すように、Dystrophin(図中、緑色で示される)が細胞膜に、F-actin(図中、青色で示される)が細胞内部に存在することが判明した(
図4c、上図)。また、α-sarcomeric Actinin(図中、緑色で示される)は長い細胞の内部で横紋状に発現し、一本の繊維が複数のMYOD陽性の核(図中、赤色で示される)を含むことが明らかになった(
図4c、下図)。このことから、純化した細胞から製造した凍結細胞調製物からも骨格筋細胞を誘導することができることが判明した。このことから、CD56で純化した細胞から製造した凍結細胞調製物からも骨格筋細胞を誘導することができることが判明した。
【0107】
実施例5:培養条件の検討
<5-1:基準とした培養条件>
参考例1にしたがって、マトリゲルコートした培養容器に253G1細胞を播種したあと2日目に、培地をE8培地から、5μM CHIR及び1% AAを添加したB-27培地に交換して、分化を開始した(分化開始日を分化0日目(day0)とした)。
分化2日目(day2)に1%AA、10μM SB及び0.5μM DMを添加したB-27培地へ交換し、さらに分化4日目(day4)で1%AA及び10μM FSKを添加したB-27培地へと交換して、分化7日目(day7)まで培養を継続した。
分化7日目(day7)に、培地を10μM FSK、5%StemSure Serum Replacement、1%AA及び1% ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地に交換し、2~3日ごとに培地交換しながら培養を継続した。
【0108】
分化3週目の細胞(骨格筋前駆細胞)を実施例3記載の方法と同様の方法で凍結保存した。凍結保存した細胞は、実施例3記載の方法と同様の方法で融解し、播種し、2日間培養した。その後、培地を10μg/mL FGF2、10μM FSK、1%AA、5%StemSure Serum Replacement及び1%ITS-Gを添加したDMEM(high glucose)培地に交換し、2~3日ごとに培地交換しながら2週間培養を継続した。
【0109】
2週間培養後の細胞を、ミオシン重鎖を認識する抗体(R&D systems、クローンナンバー:MF20)、Desminを認識する抗体(Abcam)及び核を染色するHoechst33342(同人化学)を用いて蛍光免疫染色すると、多核であり、両方の抗体で共染色された筋管細胞が確認された(
図5(左))。
【0110】
培養2週目から、培地を増殖因子及びFSKを含まない1%AA、5%StemSure Serum Replacement及び1%ITS-Gを添加したDMEM(low glucose)培地に交換し、培地交換しながら培養を継続し、培養4週目でα-Actininを認識する抗体(Sigma-Aldrich)、Dystrophinを認識する抗体(Abcam)およびHoechst33342を用いて蛍光免疫染色すると、多核の骨格筋細胞が染色された(
図5(右))。
【0111】
上記の実験を基準として、様々な条件の変更を検討し、凍結細胞の培養2週目と4週目で同様の蛍光免役染色を実施して評価した。
【0112】
<5-2:コーティングの検討>
マトリゲルに代えてフィブロネクチン(Sigma-Aldrich)コートした培養容器を用いたこと以外は前記「5-1」に記載した方法と同様の方法で細胞を得た。融解後培養2週目で筋管細胞(
図6(左))、4週目で骨格筋細胞(
図6(右))がそれぞれ確認された。
【0113】
<5-3:添加試薬の検討1>
前記「5-2」と同様の方法において、SBに代えて1μM A83-01を使用すること(
図7a)、及び、SBとDMに代えて1μM A83-01と0.1μM LDN193189(
図7b)を使用することが可能であった。
また、前記「5-2」と同様の方法において、FSKに代えて50μM dbcAMPの使用が可能であった(
図7c)。
【0114】
<5-4:添加試薬の検討2>
前記「5-1」と同様の方法において、CHIRに代えて0.5μM BIO(
図8a)又は10μM SB216763(
図8b)を使用することは可能であった。
前記「5-1」と同様の方法において、CHIRに代えて0.5μM BIOを添加した培地で分化を開始し、分化2日目でSBに代えて1μM A83-01を使用すること(
図8c)、及び、SBとDMに代えて1μM A83-01とD0.1μM LDN193189(
図8d)を使用することが可能であった。
前記「5-1」と同様の方法において、CHIRに代えて10μM SB216763を使用して分化を開始し、分化2日目でSBに代えて1μM A83-01(
図8e)を使用することは可能であった。
前記「5-1」と同様の方法において、CHIRに代えて10μM SB216763を使用して分化を開始し、分化2日目でSB及びDMを添加した培地で交換し、分化4日目以降FSKに代えて50μM dbcAMPの使用は可能であった(
図8f)。
前記「5-1」と同様の方法において、分化2日目でSBに代えて1μM A83-01を使用すること(
図8g)、及び、SBとDMに代えて1μM A83-01と0.1μM LDN193189(
図8h)を使用することが可能であった。
前記「5-1」と同様の方法において、分化4日目からFSKに代えて50μM dbcAMPを添加した場合(
図8i)、及び分化4日目からFSKを添加しなかった場合のいずれにおいても骨格筋前駆細胞への分化誘導は可能であった(
図8j)。
【0115】
<5-5:細胞株の検討>
前記「5-1」と同様の方法において、253G1細胞に代えて201B7細胞を用いた場合でも、骨格筋前駆細胞への分化誘導は可能であった(
図9)。
【0116】
各図面の細胞株と培養条件を表1にまとめて示す。
【表1】
【0117】
試験例1:純化操作前と操作後の純度
1.フローサイトメトリーによる細胞調製物における骨格筋前駆細胞の純度の測定
2種類の骨格筋前駆細胞マーカーで染色し、両方の抗体で染色された(両陽性)細胞の割合を純度としてフローサイトメトリーで算出した。
【0118】
(1)純化操作前の純度
実施例2記載の方法と同様の方法で培養した分化3週目の細胞をACCUTASEで分散した。分散した細胞に対し、蛍光色素PEで標識した抗CD56抗体(Miltenyi)またはPEで標識した抗CD29抗体(Miltenyi)で染色した。次いでそれぞれをTranscription Factor Buffer Kit(BD)を用いて固定し、蛍光色素Alexa Fluoro 488で標識した抗Pax7抗体(Novus日本)で染色した。コントロールは、分散した細胞を、PEで標識したアイトタイプ・コントロール抗体(BD)で染色後、Transcription Factor Buffer Kit(BD)を用いて固定し、Alexa Fluoro 488で標識したアイソタイプ・コントロール抗体(Novus日本)で染色した。蛍光色素で染色された細胞の割合はFACSAria II(BD)で測定した。
【0119】
(2)純化操作後の純度
実施例4、試験例1で記載した方法で、PEで標識した抗CD56抗体またはPEで標識した抗CD29抗体で染色した細胞を、実施例4で記載した方法で純化した。次いで、試験例1で記載した方法で固定、Alexa Fluoro 488で標識した抗Pax7抗体で染色し、FACSAria IIで測定して純度を算出した。
【0120】
2.結果
図10及び11にFACSの結果及び蛍光顕微鏡での観察結果を示す。縦軸はPE(抗CD29抗体または抗CD56抗体で染色された細胞を示す)、横軸はAlexa Fluoro 488(抗Pax7抗体で染色された細胞を示す)の蛍光強度を示す。純化前の細胞(上段)では、CD29/Pax7両陽性率両陽性率は86.5%、CD56/Pax7両陽性率は69.0%であった。一方、純化操作後の細胞(下段)においては、CD29/Pax7両陽性率は89.0%、CD29/Pax7両陽性率は77.1%であり、純化操作前より純度が上昇した。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、凍結保存が可能な純度の高い多能性幹細胞由来の骨格筋前駆細胞調製物、及び、これを利用した迅速かつ安定した骨格筋細胞の提供が可能になる。得られる骨格筋細胞調製物は、細胞医薬として有用であるほか、医薬のスクリーニングを可能とする有用なものである。
【0122】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。