(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用負極、それを含むリチウム二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220617BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220617BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220617BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220617BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220617BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220617BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0566
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/48
(21)【出願番号】P 2021519520
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 KR2019012542
(87)【国際公開番号】W WO2020091234
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】10-2018-0132011
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・スク・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・リ・キム
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-143375(JP,A)
【文献】特開2009-266737(JP,A)
【文献】特開2012-199216(JP,A)
【文献】特表2013-519968(JP,A)
【文献】特開2010-160984(JP,A)
【文献】特開2018-190692(JP,A)
【文献】特開2018-056126(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110828778(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
H01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の上に形成された負極合剤層と、
前記負極合剤層の上
に形成されたリチウム拡散速度制御層と、及び
前記リチウム拡散速度制御層の上に形成されたリチウム層と、を含
み、
前記リチウム拡散速度制御層の厚さは0.1~100nmであり、
前記リチウム拡散速度制御層はAl
2
O
3
、TiO
2
、ZrO
2
、HfO
2
、Ta
2
O
5
、Nb
2
O
5
、Y
2
O
3
、CeO
2
、La
2
O
3
、Ln
2
O
3
、Lu
2
O
3
、PrAlO
3
、Er
2
O
3
、HfAlO、HfSiO、ZrSiO、ZrAlO、HfON、HfSiON、SrTiO
3
、BaTiO
3
、及びBST(チタン酸バリウムストロンチウム)からなる群から選択された1種または2種以上を含む、リチウム二次電池用負極。
【請求項2】
前記リチウム拡散速度制御層は、電解液の注液時まで、前記リチウム層のリチウムが負極合剤層に拡散されるのを制御する、請求項1に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項3】
前記リチウム拡散速度制御層は、初回充放電時まで、前記リチウム層のリチウムが負極合剤層に拡散されるのを制御する、請求項1に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項4】
前記リチウム拡散速度制御層の厚さは0.5~50nmである、請求項1から3の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項5】
前記負極合剤層は、SiO
x(0<x≦2)、SnO及びSnO
2からなる群から選択された1種の化合物または2種以上の混合物を含む、請求項1から
4の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項6】
前記リチウム拡散速度制御層はAl
2O
3である、請求項1から
5の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項7】
前記リチウム拡散速度制御層及びリチウム層の厚さ比は、1:100~1:20000である、請求項1から
6の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項8】
(S11)集電体の上に負極合剤層を形成する段階と、
(S12)剥離板の表面にリチウム薄膜層を形成する段階と、
(S13)前記リチウム薄膜層の上に金属酸化物を導入する原子層堆積工程を繰り返し、リチウム拡散速度制御層を形成する段階と、
(S14)前記負極合剤層と前記リチウム拡散速度制御層が対面するように、前記(S11)と前記(S13)の結果物を積層させて負極を準備する段階と、
(S15)前記(S14)段階で準備された負極を含む電極組立体を製造する段階と、及び
(S16)前記電極組立体に電解液を注液する段階と、を含む、リチウム二次電池を製造する方法。
【請求項9】
請求項1から7の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極を製造する方法であって、
(S21)集電体の上に負極合剤層を形成する段階と、
(S22)前記負極合剤層の上に金属酸化物を導入する原子層堆積工程を繰り返し、リチウム拡散速度制御層を形成する段階と、
(S23)前記リチウム拡散速度制御層の上にリチウム薄膜を積層して負極を製造する段階と、
(S24)前記(S23)段階で製造された負極を含む電極組立体を製造する段階と、及び
(S25)前記電極組立体に電解液を注液する段階と、を含む、リチウム二次電池を製造する方法。
【請求項10】
前記リチウム拡散速度制御層の厚さが0.1~100nmになるまで、前記原子層堆積工程を実行する、請求項
8または
9に記載のリチウム二次電池を製造する方法。
【請求項11】
前記リチウム拡散速度制御層の厚さが0.5~50nmになるまで、前記原子層堆積工程を実行する、請求項
8または
9に記載のリチウム二次電池を製造する方法。
【請求項12】
前記(S13)段階は、
(S12)の結果物をチェンバー内に位置させる段階と、
前記チェンバー内に金属原子を供給する段階と、
前記チェンバー内にパージガスを供給する段階と、
前記チェンバー内に酸化剤を供給し、金属酸化物層を形成する段階と、及び
前記チェンバー内にパージガスを供給して未反応酸化剤を除去する段階を含む、請求項
8に記載のリチウム二次電池を製造する方法。
【請求項13】
前記(S22)段階は、
(S21)の結果物をチェンバー内に位置させる段階と、
前記チェンバー内に金属原子を供給する段階と、
前記チェンバー内にパージガスを供給する段階と、
前記チェンバー内に酸化剤を供給し、金属酸化物層を形成する段階と、及び
前記チェンバー内にパージガスを供給し、未反応酸化剤を除去する段階を含む、請求項
9に記載のリチウム二次電池を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年10月31日付の韓国特許出願第10-2018-0132011号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇によりエネルギー源の価格が上昇し、環境汚染に対する関心が増して、環境にやさしい代替エネルギー源に対する要求が将来の生活のための必要不可欠な要因となっており、特に、モバイル機器に対する技術開発と需要が増加するにつれ、エネルギー源としての二次電池に対する需要が急激に増加している。
【0003】
代表的に、電池の形状面では、薄い厚さで携帯電話などのような製品に適用され得る角型二次電池とパウチ型二次電池に対する需要が高い。材料面では、エネルギー密度、放電電圧、出力安定性の高いリチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池などのようなリチウム二次電池に対する需要が高い。
【0004】
一般的に、二次電池は、集電体の表面に電極活物質を含む電極合剤を塗布して正極と負極を構成し、その間に分離膜を介在させて電極組立体を作成した後、円筒形または角形の金属缶やアルミニウムラミネートシートのパウチ型ケースの内部に装着する。そして、上記電極組立体に主として液体電解質を注入または含浸させたり、固体電解質を使用したりして製造する。
【0005】
一般的に、リチウム二次電池の負極としては、黒鉛などの炭素材料が使用されるが、炭素の理論容量密度は372mAh/g(833mAh/cm3)である。したがって、負極のエネルギー密度を向上させるため、リチウムと合金化するケイ素(Si)、錫(Sn)やこれらの酸化物及び合金などが負極の材料として検討される。その中でもシリコン系材料は、安い価格及び高い容量(4200mAh/g)に起因して注目されてきた。
【0006】
一方、炭素系負極活物質は、初期充放電過程(活性化過程)において、負極活物質の表面に固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface;SEI)層(layer)が形成される。それに起因して初期不可逆現象が生じ、継続する充放電過程において電解液が枯渇され、電池容量が減少するという問題がある。
【0007】
また、シリコン系材料は高容量を示しているが、初期不可逆容量が大きいという問題がある。リチウム二次電池の充放電反応において、充電時には、正極から放出されたリチウムが負極に挿入され、放電時には、負極に挿入されたリチウムが負極から脱離され、再び正極へと戻る。しかし、シリコン系負極活物質の場合、体積変化と表面副反応が著しく、初期充電時に負極に挿入されたリチウムの量の多くは再び正極へと戻れないので、初期不可逆容量が大きくなる。初期不可逆容量が大きくなると、電池容量とサイクルが急激に減少するという問題が発生する。
【0008】
初期不可逆と関連する問題点を解決するための一つの方法として、負極内にリチウムを先挿入する(前)リチウム化(Prelithiation)技術が試されている。そのうち、リチウム直接接触法は、負極層の上に薄膜リチウムを直接ラミネーションする方法であって、セルの組立後に電解液を注入して、リチウム層のリチウムを負極へと移動(拡散)させて、負極内のリチウム含量を高めることによって、不可逆的な容量低下という問題を解消しようとした。
【0009】
しかし、リチウム二次電池の製造時、セルの組立後、電解液を注入するとき、又は初期充放電のときまでの時間が、遅延される場合が種々発生する。このとき、電解液を注入する前に、負極に付着されたリチウム層のリチウムが電極内へと不均一に移動(solid-diffusion)して、抵抗が増加したり、リチウムが大気中に拡散されて、リチウム量の損失が発生したりするという問題がある。
【0010】
一方、韓国公開特許第10-2018-0057513号公報では、リチウム直接接触法による(前)リチウム化のときに、電極層の材質とリチウム層とが直接的に接触することによって、リチウム化が発生し、火災または爆発が起こるという問題が提起されるとともに、電極層とリチウム層との間に前リチウム化の防止層を介在させる技術が開示されている。しかし、上記の提案技術は、前リチウム化の過程において、火災のような事故防止を目的とするものであって、負極にリチウム金属薄膜を積層した後、電解液の注液までの時間が遅延されるにつれて発生するリチウム損失などのような本発明の解決課題を認識していない。また、前リチウム化防止層の厚さが0.5~5μmと厚いため、前リチウム化防止層が抵抗を増加させ、電池の性能を悪化させるという問題が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、リチウムイオン電池用負極に対する新規な(前)リチウム化(prelithiation)方法、上記方法で製造された負極及び上記負極を含むリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、セルの組立後、電解液の注液までの時間が遅延されるにつれて発生するリチウムのソリッドディフュージョン(solid-diffusion)速度を緩和させ、リチウム量の損失を最小化し、リチウム副反応量を減少させることを目的とする。
【0013】
また、本発明は、リチウム拡散速度制御層の抵抗増加問題を改善し、さらに電池性能が向上された二次電池用負極の(前)リチウム化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明のリチウム二次電池用負極は、集電体;上記集電体の上に形成された負極合剤層;上記負極合剤層の上に、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)によって形成されたリチウム拡散速度制御層;及び上記リチウム拡散速度制御層の上に形成されたリチウム層;を含む。
【0015】
本発明の一実施例において、上記リチウム拡散速度制御層は、電解液の注液時までに、上記リチウム層のリチウムが負極合剤層へと拡散されるのを制御することを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施例において、上記リチウム拡散速度制御層は、初回充放電時までに、上記リチウム層のリチウムが負極合剤層へと拡散されるのを制御することを特徴とする。
【0017】
本発明の一実施例において、上記リチウム拡散速度制御層の厚さは、0.1~100nmであり得、さらに好ましくは0.5~50nmであり得る。
【0018】
本発明の一実施例において、上記負極合剤層は、SiOx(0<x≦2)、SnO及びSnO2からなる群から選択された1種の化合物または2種以上の混合物を含むことができる。
【0019】
本発明の一実施例において、上記リチウム拡散速度制御層の素材はAl2O3、TiO2、ZrO2、HfO2、Ta2O5、Nb2O5、Y2O3、MbO、CeO2、SiO2、La2O3、Ln2O3、Lu2O3、PrAlO3、Er2O3、HfAlO、HfSiO、ZrSiO、ZrAlO、HfON、HfSiON、SrTiO3、BaTiO3、BST(チタン酸バリウムストロンチウム)及びLaminatesからなる群から選択された1種また2種以上を含み得、さらに好ましくはAl2O3である。
【0020】
本発明の一実施例において、上記リチウム拡散速度制御層及びリチウム層の厚さの比は、1:100~1:20000であり得る。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、(S11)集電体の上に負極合剤層を形成する段階;(S12)剥離板の表面にリチウム薄膜層を形成する段階;(S13)上記リチウム薄膜層の上に金属酸化物を導入する原子層堆積工程を繰り返し、リチウム拡散速度制御層を形成する段階;(S14)上記負極合剤層と上記リチウム拡散速度制御層とが対面するように上記(S11)と上記(S13)の結果物を積層させて負極を用意する段階;(S15)上記(S14)段階で用意された負極を含む電極組立体を製造する段階;及び(S16)上記電極組立体に電解液を注液する段階;を含む。
【0022】
また、本発明の一実施例に係るリチウム二次電池の製造方法は、(S21)集電体の上に負極合剤層を形成する段階;(S22)上記負極合剤層の上に金属酸化物を導入する原子層堆積工程を繰り返して、リチウム拡散速度制御層を形成する段階;(S23)上記リチウム拡散速度制御層の上にリチウム薄膜を積層して、負極を製造する段階;(S24)上記(S23)段階で製造された負極を含む電極組立体を製造する段階;及び(S25)上記電極組立体に電解液を注液する段階;を含む。
【0023】
このとき、上記リチウム拡散速度制御層は、電解液を注液する以前、上記リチウム層のリチウムが負極合剤層へと拡散されることを制御する。
【0024】
本発明の一実施例によると、上記リチウム拡散速度制御層の厚さが0.1~100nm、さらに好ましくは0.5~50nmになるまで、上記原子層堆積工程を行うことができる。
【0025】
本発明の一実施例によると、上記(S13)段階または上記(S22)段階の原子層堆積工程は、(S12)の結果物あるいは(S21)の結果物をチェンバー内に位置させる段階;上記チェンバー内に金属原子を供給する段階;上記チェンバー内にパージガスを供給する段階;上記チェンバー内に酸化剤を供給し、金属酸化物層を形成する段階;及び上記チェンバー内にパージガスを供給し、未反応酸化剤を除去する段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る負極は、リチウム薄膜と負極合剤層との間にリチウム拡散速度制御層を備えることによって、前リチウム化工程でのリチウムが拡散される速度を制御することができ、リチウムの損失またはリチウムの副反応を抑制し、サイクル特性を改善することができる。
【0027】
また、本発明の製造方法に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、原子層堆積法により、厚さが非常に薄いリチウム拡散速度制御層を形成することによって、リチウム拡散速度制御層が素材特性上有する抵抗増加を最小化するという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施様態に係る負極の構造を図式化して示したものである。
【
図2】本発明の一実施様態に係る負極を製造する方法を図式化して示したものである。
【
図3】本発明の一実施様態に係る負極を製造する方法を図式化して示したものである。
【
図4】本発明のリチウム拡散速度制御層を形成するための原子層堆積工程を示した模式図である。
【
図5】本発明のリチウム拡散速度制御層を形成するための原子層堆積工程を示した模式図である。
【
図6】本発明のリチウム拡散速度制御層を形成するための原子層堆積工程を示した模式図である。
【
図7】本発明のリチウム拡散速度制御層を形成するための原子層堆積工程を示した模式図である。
【
図8】本発明のリチウム拡散速度制御層を形成するための原子層堆積工程を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語は、通常的または辞書的な意味として限定して解釈してはならず、発明者が彼自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に立脚して、発明の技術的思想に合致する意味と概念として解釈されるべきである。したがって、本明細書に記載の実施例に図示された構成は、本発明の最も好ましい一つの実施様態に過ぎず、本発明の技術的思想を何れも代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替し得る多様な均等物及び変形例があり得ると理解すべきである。
【0030】
本願明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されているとするとき、これは「直接的に連結されている場合」のみではなく、その中間に他の要素を置いて「電気的に連結」されている場合も含む。
【0031】
本願明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特別に反対される記載がない限り、他の構成要素を除外することではなく、他の構成要素を更に含むことができることを意味する。
【0032】
本願明細書の全体において使用される用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値、又はその数値に近い意味として使用される。また、非良心的な侵害者が、本願の理解を助けるために正確あるいは絶対的な数値が言及された開示内容を、不当に利用することを防ぐために使われる。
【0033】
本願明細書の全体において、マーカッシュ構造の表現に含まれた「これらの組み合わせ」という用語は、マーカッシュ構造の表現に記載された構成要素からなる群から選択される一つ以上の混合または組み合わせを意味するものであって、上記構成要素からなる群から選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0034】
本発明は、電気化学素子用負極及びそれを含む電気化学素子に関するものである。本発明において、上記電気化学素子は、電気化学反応をするすべての素子を含む。具体的な例を挙げると、全ての種類の1次、2次電池、燃料電池、太陽電池またはキャパシター(capacitor)などがある。特に、上記2次電池のうち、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が好ましい。
【0035】
本願明細書の全体において、「A及び/又はB」という記載は「A又はB又はこれらの全て」を意味する。
【0036】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
負極活物質として、シリコン又は炭素材の材質は、初期の高い不可逆特性に起因して、電池容量の減少が必然的に発生する。それを解決するための一つの方法として、負極内にリチウムを先挿入する前リチウム化(Prelithiation)技術が試されている。その中でリチウム直接接触法は、負極層の上に薄膜リチウムを直接ラミネーションする方法であって、セルの組立後に電解液を注入して、リチウム層のリチウムを負極へと移動(Diffusion)させて、負極内のリチウム含量を高めることによって、不可逆的な容量低下という問題を解消する方法である。
【0038】
しかし、リチウム二次イオン電池の製造時、セルの組立後、電解液を注入するまでの時間が遅延される場合が種々発生することになる。そのため、電解液の注入前に負極に付着されたリチウム層のリチウムが、電極内へと不均一に移動されて(solid-diffusion)、抵抗が増加したり、リチウムが大気中へと拡散されてリチウム量の損失が発生したりするという問題があった。
【0039】
そこで、本発明では、上記した問題を解決するように、負極合剤層とリチウム層との間にリチウム拡散速度制御層を介在させた、新しい電極構造及びそれを備えたリチウム二次電池を開示する。
【0040】
図1は、本発明の一具現例に係る負極(100)の断面図であって、具体的には、前リチウム化前の負極構造を示している。
図1を参照すると、上記負極(100)は集電体(110);上記集電体(110)の上に形成された負極合剤層(120);上記負極合剤層(120)の上に原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)により形成されたリチウム拡散速度制御層(130);及び上記リチウム拡散速度制御層(130)の上に形成されたリチウム層(140);が順次に積層された構造を有している。
【0041】
本発明の負極(100)は、負極合剤層(120)とリチウム層(140)との間にリチウム拡散速度制御層(130)が備えられ、リチウム層からリチウムの拡散速度を制御(緩和)し、リチウムが均一な分布で負極合剤層の内へと拡散されるように手伝う。
【0042】
後述するように、本発明における前リチウム化は、電解液の注液及び/又は初回充放電時に行われる。そこで、上記リチウム拡散制御層は、電解液の注液及び/又は初回充放電時点の以前まではリチウムの拡散を防止する拡散防止層として機能する。一方、上記前リチウム化工程を実行した以後の上記リチウム拡散速度制御層は、電解液に溶出されて除去されるか、残存する場合は負極と正極との絶縁層として機能し得る。
【0043】
ひいては、本発明のリチウム拡散速度制御層(130)は、原子層堆積法によって形成され、ナノメーターレベル単位の薄い厚さを具現することによって、リチウム拡散速度制御層が抵抗を増加させるという問題を改善した。従来は、高分子溶液を単純に塗布またはコーティングする方法によって、リチウム拡散速度制御層を形成した。このような場合、数または数十ナノメーターの薄い膜の具現が難しく、数ないしは数百マイクロメーターの厚さを有することになるが、速度制御層の厚さが数ないし数百マイクロメーターの厚さを有することになると電池の抵抗が増加し得る。しかし、本発明は、原子層堆積法によって速度制御層を形成するので、数ないし数十ナノメーター単位の薄い膜を具現することができるのである。
【0044】
以下、リチウム拡散速度制御層について、さらに詳細に説明する。
【0045】
本発明の具体的な一実施様態によると、上記速度制御層は、絶縁特性の金属酸化物または準金属酸化物の材料を含むことができる。具体的にはAl2O3、TiO2、ZrO2、HfO2、Ta2O5、Nb2O5、Y2O3、MbO、CeO2、SiO2、La2O3、Ln2O3、Lu2O3、PrAlO3、Er2O3、HfAlO、HfSiO、ZrSiO、ZrAlO、HfON、HfSiON、SrTiO3、BaTiO3、BST(チタン酸バリウムストロンチウム)及びLaminatesからなる群れから選択された1種または2種以上を含むことができる。
【0046】
絶縁特性を有する上記(準)金属酸化物を負極合剤層とリチウム層との間に介在させることによって、上記リチウム層のリチウムが電解液の注液または初回充放電時まで、負極合剤層へと拡散されることを防ぐ。一方、前リチウム化した以後には、残された金属酸化物層が負極の表面を保護し、高温での電池の安全性の向上に役立つという長所もある。このような側面において、Al2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、Y2O3、SiO2が本発明の速度制御層を構成する素材として好ましいと言える。また、最も好ましい素材はAl2O3である。Al2O3は、原子層堆積処理のための前駆体の入手が容易であり、値段が安く、原子層堆積法に関連する研究が最も活発に行われているので、本発明のリチウム拡散速度制御層として適用するのに好適な素材である。
【0047】
本発明において、上記リチウム拡散速度制御層は、初回の充放電時に加えられる活性化圧力の範囲下において、リチウム層と負極合剤層とが通電され得る程度で圧縮されるべきである。それで、リチウム拡散速度制御層の厚さを薄く具現するために、原子層堆積法によってリチウム拡散速度制御層を形成する。
【0048】
上記リチウム拡散速度制御層の厚さは、0.1~100nm、さらに好ましくは0.5~50nmであり得る。上記リチウム拡散速度制御層の厚さが0.1nm未満で過度に薄い場合には、リチウム薄膜の付着後、前リチウム化工程を行う前に通電されるので、リチウム拡散速度防止層としての機能が発揮し難く、リチウム化が不均一になり得る。逆に、上記リチウム拡散速度制御層の厚さが100nmを超過して過度に厚い場合には、リチウム層と負極との通電に妨げとなり、リチウムが負極内へと円滑に拡散され難くなり得、抵抗が増加するという問題がある。
【0049】
前述した特徴を有する速度制御層を備えることによって、電解液の注液以前にリチウムの拡散を緩和させ、リチウム量の損失及びリチウムの副反応量を減らす効果があり、速度制御層の厚さを数ないし数十ナノメーターの厚さを有するようにすることによって、抵抗増加を最小化することができる。
【0050】
リチウム拡散速度制御層は、単一層にもなり得るが、必要によっては、第1リチウム拡散速度制御層及び第2リチウム拡散速度制御層という2層構造を有することができ、3層以上の多層構造を有することもあり得る。このとき、リチウム拡散速度制御層を構成するそれぞれの層の素材は、互いに異なる種類であり得、同様の素材の金属酸化物でもあり得る。
【0051】
以下、リチウム層について、詳細に説明する。
【0052】
上記リチウム層は、負極合剤層に含まれた負極活物質をリチウム化するための原料(source)として使われるものであって、電解液の注液後に一定の時間が経つことによって、リチウム層のうちの所定量は前リチウム化に参加して負極合剤層の内部へと移動し、前リチウム化がある程度完了された以後にも、上記速度制御層の表面に残量が存在し得る。
【0053】
上記リチウム層はリチウム金属を含むものである。本発明の具体的な一実施様態において、上記リチウム層は電気メッキ、電解メッキ、化学蒸着の方法によって形成されたり、リチウム金属薄膜を圧着によって上記速度制御層に結着させ、積層したものであり得る。
【0054】
上記リチウム層の厚さは、負極のローディング量を考えて好適に選択し得、具体的には0.1μm~40μm、好ましくは1μm~20μmの厚さを有することができる。
【0055】
上記リチウム拡散速度制御層及びリチウム層の厚さ比は、1:100ないし1:20000であり得る。上記比率から外れてリチウム拡散速度制御層が過度に厚い場合には、リチウム化が不十分で不可逆容量が大きくなり得る。逆に、リチウム拡散速度制御層が過度に薄い場合には、リチウム薄膜の付着後、前リチウム化工程を行う前に通電されるので、リチウム拡散速度防止層としての機能を発揮し難い。
【0056】
以下、本発明の負極を構成する集電体及び負極合剤層について詳細に説明する。
【0057】
上記集電体は、通常、3μm~500μmの厚さで作成される。このような集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、且つ高い導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。
【0058】
負極合剤層は、負極活物質、バインダー及び導電材を含む。本発明に係る負極は、上記集電体の上に負極活物質、導電材及びバインダーの混合物を塗布した後に乾燥して製造することができる。また、必要によっては、上記混合物に充填材をさらに含むことができる。
【0059】
本発明の具体的な一実施様態において、上記負極活物質は(準)金属酸化物を含み、上記(準)金属酸化物は粒子または上記粒子を含む粉末の形態であり得る。
【0060】
上記(準)金属化合物はSi、Sn、Al、Sb、Bi、As、Ge、Pb、Zn、Cd、In、TI、Ga及びこれらの合金からなる群から選択された1種以上であり得る。好ましくは上記負極活物質は、SiOx(0<x≦2)、SnO及びSnO2からなる群から選択された1種の化合物または2種以上の混合物を含むことができる。
【0061】
一方、本発明の具体的な一実施様態において、金属酸化物は粒子表面の少なくとも一部の表面に炭素材料を含むシェル部が具備され得る。上記炭素材料は(準)金属酸化物粒子の表面に結合、付着または被覆されていてよい。上記炭素材料は結晶質炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛(kish graphite)、黒鉛化炭素繊維、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ及び非晶質炭素からなる群から選択された1種以上を含むことができる。また、上記黒鉛は、軟質炭素(soft carbon)、硬質炭素(hard carbon)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(mesophase pitches)、石油又は石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)及び活性炭からなる群から選択される1種以上を黒鉛化処理して得られたものを含むことができる。
【0062】
本発明の好ましい様態によると、上記金属酸化物の体積累積粒度分布の50%粒径(D50)は、2μm以上、5μm以下である。また、粒子の体積累積粒度分布の90%粒径(D90)は、25μm以下であり、好ましくは15μm以下である。より好ましくは10μm以下である。また、体積累積粒度分布の最大粒径は35μm以下であり、好ましくは25μm以下である。体積累積粒度分布の50%粒径、90%粒径及び最大粒径は、たとえば、ニシキソ社製のレーザー回折粒度分布測定装置を用いて測定したときの累積頻度によって得られる。
【0063】
上記バインダーは、活物質と導電材などの結合と集電体に対する結合に助力する成分であって、通常、電極合剤全体の重量を基準として1~30重量%で添加される。このようなバインダーとしては、上記高分子量ポリアクリロニトリル-アクリル酸共重合体を利用することができるが、これだけに限定されない。他の例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン、スルホン化EDPM、スチレンゴム、ブチレンゴム、フッ素ゴムなど、多様な共重合体が挙げられる。
【0064】
上記導電材は、通常、負極活物質を含む混合物全体の重量を基準として1~30重量%で添加され得る。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発せず、且つ導電性を有するものであれば、特に制限されない。たとえば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用され得るが、それに限定されない。
【0065】
本発明において、上記負極は、次の順番で用意され得る。まず、集電体の表面に負極合剤層を形成する(S11)。次に、剥離板を用意し、その表面にリチウム薄膜をラミネーションしてリチウム薄膜層を形成する(S12)。続いて、上記リチウム薄膜層の上に金属酸化物を導入する原子層堆積工程を繰り返してリチウム拡散速度制御層を形成させる(S13)。本発明において、上記剥離板は、リチウム層とリチウム拡散速度制御層が順次に積層されて製造された積層体から剥離板を容易に除去できるものであれば、制限なく使用し得る。たとえば、ポリエチレンテレフタレート素材の樹脂フィルム層であり得る。次に、上記負極合剤層と上記リチウム拡散速度制御層とが対面するように、上記(S11)と上記(S13)の結果物を積層させて負極を製造する(S14)。添付された
図2は、前述した負極の製造方法を図式化して示したものである。以後には、上記負極及び正極の間に分離膜を介在させて、電極組立体を組立てて(S15)、上記電極組立体に電解液を注液して(S16)、二次電池を製造することができる。
【0066】
または、本発明に係る負極は、剥離板を使わず、リチウム拡散速度制御層を負極合剤層の上に形成して、以後に上記制御層の表面にリチウム層を形成する方法でも製造され得る。具体的には、集電体の上に負極合剤層を形成する段階(S21);上記負極合剤層の上に金属酸化物を導入する原子層堆積工程を繰り返して、リチウム拡散速度制御層を形成する段階(S22);上記リチウム拡散速度制御層の上にリチウム薄膜を積層して、負極を製造する段階(S23);上記(S23)段階で製造された負極を含む電極組立体を製造する段階(S24);及び上記電極組立体に電解液を注液する段階(S25);を含むことができる。ここで、リチウム層の形成及びリチウム拡散速度制御層の形成は、前述した方法を参照することができる。添付された
図3は、前述した負極製造方法を図式化して示したものである。
【0067】
以下、本発明の原子層堆積工程について、詳細に説明する。
【0068】
原子層堆積工程(Atomic Layer Deposition;ALD)は、自己制御方式の蒸着工程であって、薄膜の厚さを精密に制御して蒸着することが可能であるため、本発明の速度制御層を形成する方法として選択された。
【0069】
本発明では、高分子前駆体を蒸着工程の原料として使用し、上記(S12)段階の結果物のリチウム薄膜層や上記(S21)段階の結果物の負極合剤層の上にリチウム拡散速度制御層を形成した。
【0070】
上記原子層堆積工程は、上記(S12)段階の結果物または上記(S21)段階の結果物をチェンバー内に位置させる段階(S31);上記チェンバー内に金属原子を供給する段階;上記チェンバー内にパージガスを供給する段階;上記チェンバー内に酸化剤を供給して金属酸化物層を形成する段階;及び上記チェンバー内にパージガスを供給して未反応酸化剤を除去する段階を含む。
【0071】
上記(S12)段階の結果物または上記(S21)段階の結果物をチェンバー内に位置させるときは、チェンバー内部の温度を100~500℃に維持させることが好ましい。上記チェンバーの温度が100℃未満であると、後続工程での反応物質の反応性が容易ではない。また、500℃を超過すると、金属酸化物の薄膜の結晶化が成されないので、好ましくない。
【0072】
また、上記チェンバー内部の圧力は、0.1~3.0torrになるように調整するのが好ましい。圧力が0.1torr未満であると、後続工程で供給される金属原子の反応性が容易でなくなり、3.0torrを超過すると、工程制御が容易ではないので、好ましくない。
【0073】
図4を参照すると、上記のような温度及び圧力条件を満足するチェンバー(
1)内に、上記(S12)段階の結果物または上記(S21)段階の結果物を位置させた後、上記チェンバー内に(準)金属または(準)金属前駆体を反応物質として添加させる。上記(準)金属または(準)金属前駆体は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Y、Mb、Ce、Si、La、Ln、Lu、Pr、Er、Sr、Ba及びLaminatesからなる群から選択された1種または2種以上の原子を含むことができる。
【0074】
次に、
図5を参照すると、上記のようにチェンバー内に位置する上記(S12)段階の結果物または上記(S21)段階の結果物の各リチウム薄膜層(20)または負極合剤層(20’)の上部に(準)金属または(準)金属前駆体物質を提供することによって、上記(準)金属原子の第1部分(30’)は、上記リチウム薄膜層(20)または負極合剤層(20’)の上に化学吸着される。そして、上記金属原子の上記第1部分を除外した第2部分(30”)は、上記第1部分に物理的に吸着されたり、上記チェンバーの上に漂ったりすることになる。
【0075】
その次の段階は、上記チェンバー内部にパージガスを提供する。上記パージガスの例としては、アルゴンガス又は窒素ガスのような不活性ガスが挙げられる。このとき、上記パージガスは約1~50秒、より好ましくは3~25秒、さらに好ましくは5~10秒の間提供することができる。このようにチェンバー内部へとパージガスを提供することによって、
図6のように上記チェンバー内に漂ったり上記第1部分に物理吸着されたりする第2部分は、除去される。その結果、リチウム薄膜層または負極合剤層の上には、上記化学吸着された第1部分の前駆体分子(30a)が残される。
【0076】
上記パージガスを提供する代わりに、上記チェンバー内部を約1~20秒の間真空状態に維持することによっても、上記チェンバー内に漂ったり上記第1部分に物理吸着されたりする第2部分は除去可能である。
【0077】
また、上記パージガスの導入と真空パージを共に実行しても、上記チェンバー内に漂ったり上記第1部分に物理吸着されたりする第2部分は除去可能である。
【0078】
次の
図7のように、上記のような段階を経た後、上記チェンバー内部に酸化剤(40)を供給する。上記酸化剤の例としてはO
3、O
2、H
2O、プラズマO
2及びリモートプラズマO
2からなる群から選択されたものを単独で使用し得る。場合によっては、二つ以上を混合して使用することもできる。
【0079】
本発明では、上記チェンバー内部に上記酸化剤を約0.5~10秒の間供給することが好ましい。上記酸化剤は上記負極合剤層又はリチウム薄膜層の上に化学吸着された反応物質の第1部分である前駆体分子(30a)と化学的に反応して上記前駆体分子を酸化させる。
【0080】
次には、上記金属原子の第1部分と反応しない酸化剤を除去するため、上記と同様の種類のパージガスを供給する。上記パージガスの種類及び導入時間は、上記で説明したものと同様である。このように、上記チェンバー内部にパージガスを提供することによって、次の
図8のように、上記金属原子と化学的に反応しない酸化剤が上記チェンバーから除去される。これによって、リチウム薄膜層または負極合剤層の上には、金属酸化物層(50)が形成される。
【0081】
必要によっては、上記のような段階を少なくとも1回以上繰り返して行うこともあり、この場合、上記リチウム薄膜層または負極合剤層の上での金属酸化物層の厚さは、上記工程の反復回数に応じて調節される。
【0082】
本発明の一実施例によると、上記(S12)段階の結果物または上記(S21)段階の結果物をチェンバー内に位置させた後、上記(準)金属または(準)金属前駆体物質、上記パージガス及び上記酸化剤を共に供給し、金属酸化物層を形成することもあり得る。
【0083】
以下、本発明の(前)リチウム化工程について、詳細に説明する。
【0084】
本発明の一実施様態において、負極の(前)リチウム化は、電池の製造以後、電解液の注液及び/又は初回充放電段階で進行される。このとき、負極合剤層に含まれた負極活物質の少なくとも一部がリチウム化される。本発明の一実施様態において、上記電池は、負極、正極、及び上記負極と上記正極との間に分離膜が介在された電極組立体を含むものであって、上記電極組立体を好適な外装材に挿入した後、電解液を注液し密封する方式で用意され得る。
【0085】
本発明において、リチウム化は、電解液の注液によって進行され得る。即ち、電解液が注入されると、電極などの構成要素を含む電極組立体が電解液によって含浸される。このとき、本発明のリチウム拡散速度制御層が溶出されて除去されながら、リチウム層のリチウムが負極合剤層へと拡散され得る。
【0086】
電解液の注液後に電池に初めて電流を流し、初回充放電を行う(フォーメーション)ことによって、電池を活性化させる。上記活性化工程は、電池に所定圧力が加えられた状態で進行され得る。前述したように、所定圧力下で圧縮され、通電が可能な素材を制御層として使う場合には、所定圧力下の活性化工程を通じて、リチウムが負極合剤層へと拡散され得る。
【0087】
このような前リチウム化によって、負極合剤層に含まれた負極活物質、特に、前述した(準)金属酸化物とリチウムが、複合化されて合金を形成することができる。ほかにも、リチウムの一部が負極活物質の結晶構造に挿入されることもあり得る。また、前リチウム化の進行において、リチウムイオンが電解液を媒介にして負極の内部まで上手く伝達され得、負極本体の全体にわたって均一な前リチウム化の実行が可能という長所がある。
【0088】
本発明において、負極合剤層とリチウム層との間には、上記速度制御層が介在している。そのため、電解液を注入する前の状態では、制御層によってリチウムの拡散が防止され、前リチウム化が殆ど進行されない。殆ど全ての前リチウム化は、電極組立体及び上記電極組立体に電解液を注入した以後および/または初回充放電段階で進行され得る。
【0089】
一方、上記初回充放電は、場合によって、上記制御層と負極の通電のため、電池に所定圧力を加えた状態で進行されることが好ましい。以後、リチウム層にリチウム金属が残存する限り、前リチウム化は持続的に進行され得、電池の充放電によって加速されるなどの影響を受けることができる。
【0090】
以下、本発明の二次電池について詳細に説明する。
【0091】
本発明は負極、正極、上記負極と上記正極との間に介在された分離膜及び電解液を含み、上記負極は前述した構成的特徴を有するものであるリチウム二次電池を提供する。
【0092】
上記正極は、正極集電体の上に正極活物質、導電材及びバインダーの混合物を塗布した後に乾燥して製造し得る。必要によっては、上記混合物に充填材を更に含んだりもする。上記正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などの層状化合物や1またそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式Li1+xMn2-xO4(ここで、xは0~0.33である)、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2などのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8、LiFe3O4、V2O5、Cu2V2O7などのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-xMxO2(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGaであり、x=0.01~0.3である)で表されるニッケルサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-xMxO2(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、x=0.01~0.1である)またはLi2Mn3MO8(ここで、M=Fe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn2O4;ジスルフィド化合物;Fe2(MoO4)3などが挙げられるが、これらのみに限定されない。
【0093】
正極に対して、導電材、集電体、バインダーは、前述した負極の内容を参照し得る。
【0094】
上記分離膜としては、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が使用され得る。分離膜の加工直径は、通常、0.01~10μmであり、厚さは、5~300μmであり得る。このような分離膜の非制限的な例としては、耐化学性及び疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維またはポリエチレンなどで作成されたシートや不織布などが挙げられる。ポリマーなどの固体電解質が電解質として使われる場合には、固体電解質が分離膜を兼ねることもあり得る。
【0095】
本発明において、上記電解液は、有機溶媒と所定量のリチウム塩とが含まれたものであって、上記有機溶媒の成分としては、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(franc)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1、3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、炭酸プロピレン誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、ピロリン酸塩メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒が使用され得る。
【0096】
上記リチウム塩は、上記電解液に溶解され易い物質であって、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、イミドなどが使用され得る。
【0097】
本発明の二次電池は、上記正極、上記負極を分離膜と交互に積層した電極組立体を電池ケースなどの外装材に電解液と共に格納/密封することによって製造され得る。二次電池の製造方法は、通常の方法を制限なく使用することができる。
【0098】
本発明の他の一実施例によると、上記二次電池を単位セルとして含む電池モジュール及びそれを含む電池パックを提供する。上記電池モジュール及び電池パックは、高ローディングにて優れた急速充電特性を示す二次電池を含むので、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車及び電力貯蔵用システムの電源として使用され得る。
【0099】
一方、本明細書で詳述しない電池素子、例えば、導電材などについては、電池分野、特にリチウム二次電池分野で通常使用される素子に対する内容を参照することができる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明の理解を助けるため、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は種々の他の形態に変形され得、本発明の範囲が下記実施例によって限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に、本発明をより完全に説明するために提供するものである。
【0101】
<負極の製造例>
SiO(D50:3.2μm)と人造黒鉛を3:7の重量比率で混合し、負極活物質として使用した。上記負極活物質、スチレンブタジエンゴム(SBR(Styrene Butadiene Rubber))バインダー、カルボキシメチルセルロース(CMC(carboxymethyl cellulose))及びアセチレンブラックを93:3:1.5:2.5の重量比で水に投入して、負極合剤を製造した。上記合剤を10μm銅箔に均一にコーティングし、乾燥温度は90℃、コーティング速度は0.2m/mimの条件で実行された。コーティングされた負極は、気孔度30%に合わせて電極を圧延し、目標とする厚さに合わせた。続いて、180℃の真空オーブンで12時間を乾燥させた。
【0102】
(実施例1)
<リチウム拡散速度制御層及びリチウム層を備えた負極の製造>
上記製造例の負極をチェンバー(150℃、0.1torr)内に位置させ、トリメチルアルミニウムとH2O気体を17:1の比率で、圧力1torrの窒素ガスと共に注入した。下記のような(A)、(B)反応によって、負極合剤層上のAl2O3層の厚さが約3nmになるまで、原子層堆積工程を繰り返して実行した。
(A) Al-OH* + Al(CH3)3 + Al-O- Al(CH3)2* + CH4
(B) Al-CH3* + H2O + Al-OH* + CH4
その後、厚さ10μmのリチウム薄膜をラミネーションして、負極を製造した。
【0103】
<ハーフコインセルの製造>
上記の得られた負極、製造された負極の対極としてのリチウム箔、ステンレス上下板を用いて負極/分離膜(ポリプロピレン素材の多孔性フィルム(20m、セルガード社))/リチウム箔の順番でコインセルを作成した。コインセル組立の直後に電解液を注入した。このとき、電解液は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを3:7の質量比率で混合したものである。
【0104】
(実施例2)
上記実施例1において、電解液の注液時点をコインセルの組立から2時間後に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で電池を製造した。
【0105】
(比較例1)
上記実施例1において、負極合剤層の上にAl2O3層を形成させる原子層堆積工程を省略したことを除いては、実施例1と同様の方法で電池を製造した。
【0106】
(比較例2)
電解液の注液時点をコインセルの組立から2時間後に変更したことを除いては、上記比較例1と同様の方法で電池を製造した。
【0107】
(実施例3)
<正極の製造>
正極活物質として、LiCoO2、スチレンブタジエンゴム(SBR(Styrene Butadiene Rubber))バインダー、カルボキシメチルセルロース(CMC(carboxymethyl cellulose))及びアセチレンブラックを93:3:1.5:2.5の重量比で水に投入し、正極合剤を製造した。上記合剤を10μmのアルミニウム箔に均一にコーティングし、50℃の真空オーブンで12時間を乾燥し、正極を製造した。
【0108】
<モノセルの製造>
上記の得られた正極及び上記実施例1にて製造されたリチウム拡散速度制御層及びリチウム層を備えた負極を利用し、負極/分離膜(ポリプロピレン素材の多孔性フィルム(20μm、セルガード社)/正極の順に1-stackのモノセルを作成した。モノセルの組立から2時間後に電解液を注入した。このとき、電解液は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを3:7の質量比率で混合したものである。
【0109】
(比較例3)
上記比較例1のように製造された負極と上記実施例3のように製造された正極を用意した後、負極/分離膜(ポリプロピレン素材の多孔性フィルム(20μm、セルガード社)/正極の順に1-stackのモノセルを作成した。モノセルの組立から2時間後に電解液を注入した。このとき、電解液は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを3:7の質量比率で混合したものである。
【0110】
(比較例4)
<コーティング法によって製造されたリチウム拡散速度制御層を備えた負極の製造>
上記実施例1で、リチウム拡散速度制御層及びリチウム層が備えられた負極を用意する際、負極合剤層の上にポリメチルメタクリレート溶液(0.5wt%PMMA(Mw:890k)アニソール溶液)を溶液キャスティング法でコーティングした後、80℃で24時間乾燥し、リチウム拡散速度制御層を形成した。以後、実施例1と同様の方法で負極を製造した。このとき、ポリメチルメタクリレート層の厚さは200nmである。
【0111】
<モノセルの製造>
上記の製造された負極と上記実施例3のように製造された正極を用意した後、負極/分離膜(ポリプロピレン素材の多孔性フィルム(20μm、セルガード社)/正極の順に1-stackのモノセルを作成した。モノセルの組立から2時間後に電解液を注入した。このとき、電解液は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを3:7の質量比率で混合したものである。
【0112】
(実験例1)
各実施例及び比較例において、用意された電池の初放電を0.1C、1.5Vまで、CCモードで先に行った後、引き続きの充電はCC/CVモードで、0.1C、5mV、0.005Ccut条件で、放電は0.1C、1.5VまでCCモードで進み、初回充放電時の不可逆容量を実行した。ドーピング総量(Total dosage)は、Li挿入(intercalation)容量とSEI生成容量を合わせたものである。ここで、Li挿入(intercalation)容量は、1.5V放電までの初容量を測定して、負極内に挿入されたリチウムの容量が求められる。また、SEI生成容量は、リチウム化する前の負極の1st不可逆容量からリチウム化された負極の1st不可逆容量を除いたものである。
【0113】
【0114】
コインセルの作成直後、電解液を注入した実施例1と比較例1は、リチウム化の量が類似したものとして確認された。しかし、セルの作成から2時間後に電解液を注入した場合、リチウム拡散速度制御層を備えていない比較例2、3のリチウム化の量は、リチウム拡散速度制御層を備えた実施例2、3及び比較例4と比べて顕著に低いものとして確認された。それにより、本発明のリチウム拡散速度制御層を備えた負極では、リチウム化を行う前のリチウムの消失が少ないということが確認できた。
【0115】
(実験例2)
実施例3、比較例3、4の電池について、抵抗を測定するためにSOC50状態で2.5C放電電流を30秒間流し、電流を流す前/後の電圧変化を通じて、下記のような式に代入して抵抗を測定し、その結果を表2に示した。
抵抗=(Vi-Vf)/I
(上記式において、Viは電流を流す前の電圧を、Vfは電流を流した後の電圧を、Iは電流量を示す)
【0116】
【0117】
比較例3は、リチウム拡散速度制御層を備えていないので、リチウム拡散速度制御層を備えた比較例4と比べて抵抗値が低い。実施例3は、比較例4と同様にリチウム拡散速度制御層を備えているが、リチウム拡散速度制御層の厚さが比較例4と比べてはるかに薄いので、抵抗が低いということが確認できる。それは、リチウム拡散速度制御層を備えていない比較例3と同じレベルであるか、それより低い。これにより、本発明のリチウム拡散速度制御層を備えた負極は、抵抗が増加しないということが確認できた。
【符号の説明】
【0118】
1:チェンバー
30:金属原子
30’:化学吸着された金属原子の第1部分
30”:物理吸着されたり漂ったりする金属原子の第2部分
30a:化学吸着された金属原子の第1部分の前駆体
40:酸化剤
50:金属酸化物層
100:負極
10’、110:集電体
20’、120:負極合剤層
130:リチウム拡散速度制御層
20、140:リチウム層
10、150:剥離板