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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】物理探査方法及び物理探査装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/155 20060101AFI20220620BHJP
   G01V 1/02 20060101ALI20220620BHJP
   G01S 15/02 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
G01V1/155
G01V1/02 D
G01S15/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018068018
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178940
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】小笹 弘晃
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-151863(JP,A)
【文献】特開2004-279064(JP,A)
【文献】特開2014-137320(JP,A)
【文献】特開平08-280089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01S 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似ランダム波を発震し、前記擬似ランダム波の反射波を受振して、前記擬似ランダム波の発震信号と前記反射波の受振信号との相互相関をとることにより探査データを取得する物理探査方法であって、
それぞれ異なる擬似ランダム数列によって生成された任意の異なる複数の擬似ランダム波を発震し、該複数の擬似ランダム波ごとに探査データを算出し、該複数の探査データを足し合わして統合探査データを算出し、
前記異なる複数の擬似ランダム波に基づいて得られた各探査データのノイズが出現する位置又は時間と相互相関の大きさが相違することを利用して前記統合探査データのノイズを低減するようにした、
ことを特徴とする物理探査方法。
【請求項2】
前記統合探査データは、共通反射点重合法により算出される、請求項1に記載の物理探査方法。
【請求項3】
前記擬似ランダム波は、発震位置を移動させながら間欠的に発震される、請求項1に記載の物理探査方法。
【請求項4】
擬似ランダム波を発震可能な音源と、前記擬似ランダム波の反射波を受振可能な複数の受振器と、前記擬似ランダム波の発震信号と前記反射波の受振信号との相互相関をとることにより探査データを算出する信号処理装置と、を備え、
前記音源は、それぞれ異なる擬似ランダム数列によって生成された任意の異なる複数の擬似ランダム波を発震可能に構成され、
前記信号処理装置は、前記複数の擬似ランダム波ごとに探査データを算出し、該複数の探査データを足し合わして統合探査データを算出し、前記異なる複数の擬似ランダム波に基づいて得られた各探査データのノイズが出現する位置又は時間と相互相関の大きさが相違することを利用して前記統合探査データのノイズを低減するように構成されている、
ことを特徴とする物理探査装置。
【請求項5】
前記音源は、少なくとも一つの振動板と、該振動板を駆動させる駆動手段と、前記駆動手段に駆動信号を発信する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記振動板により前記擬似ランダム波を発震可能な前記駆動信号を発信するように構成されている、請求項4に記載の物理探査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理探査方法及び物理探査装置に関し、特に、水中又は地中に擬似ランダム波を発震して地形・資源等を探査するための物理探査方法及び物理探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大陸棚や深海底には豊富な資源(例えば、石油、天然ガス、メタンハイドレート、多金属団塊、マンガン・クラスト、海底熱水鉱床等)が存在しており、近年の資源価格の高騰により海洋資源開発の必要性が高まっている。また、陸上における天然資源は、一定の地域に偏在しており、国内産出量が少ない資源については、外国からの輸入に頼らざるを得ず、地政学的リスクが少なくない。そして、四方を海に囲まれた我が国においては、安定した資源供給のためにも、海洋地域が資源開発の新たなフロンティアとして注目されている。
【0003】
ところで、擬似ランダム波(二進数の擬似ランダム数列を波の位相差で表現したもの)は発震信号と受振信号との間で高い相関が取れるため、水中音響通信分野で使用されている。同じ理由から物理探査分野でも擬似ランダム波の適用可能性が検討・研究されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、コード配列が互いに異なる擬似ランダムコード信号を用いて、複数の発震器から複数の擬似ランダム波を同時に発震・受振し、解析を行なうことで、個々の発震器の信号だけを分離することを特徴とする擬似ランダム波を用いた多重発震による非破壊計測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-163322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
擬似ランダム波は、相互相関解析(相互相関関数を用いた解析)を行うと、微小なノイズが幅広い範囲に均一に分布してしまうという性質がある。したがって、物理探査分野において擬似ランダム波を使用した場合、大深度から帰ってくる微小な信号がノイズに隠れてしまうという問題がある。
【0007】
かかる問題を解決する方法として、ノイズの発生が限定的である(信号の近くでは大きいが遠くに行くほど小さくなる)スウィープ波を使用する方法、擬似ランダム波の信号列を長くしてS/N比を向上させる方法等が考えられる。しかしながら、前者の方法では、反射点の信号付近のノイズが大きくなってしまうという問題があり、後者の方法では、信号の発震時間が長くなってしまい用途が限定されてしまうという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、擬似ランダム波を用いた場合であっても、ノイズを低減して探査精度を向上させることができ、種々の用途に使用することができる、物理探査方法及び物理探査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、擬似ランダム波を発震し、前記擬似ランダム波の反射波を受振して、前記擬似ランダム波の発震信号と前記反射波の受振信号との相互相関をとることにより探査データを取得する物理探査方法であって、それぞれ異なる擬似ランダム数列によって生成された任意の異なる複数の擬似ランダム波を発震し、該複数の擬似ランダム波ごとに探査データを算出し、該複数の探査データを足し合わして統合探査データを算出し、前記異なる複数の擬似ランダム波に基づいて得られた各探査データのノイズが出現する位置又は時間と相互相関の大きさが相違することを利用して前記統合探査データのノイズを低減するようにした、ことを特徴とする物理探査方法が提供される。
【0010】
前記統合探査データは、共通反射点重合法により算出されてもよい。
【0011】
前記擬似ランダム波は、発震位置を移動させながら間欠的に発震されてもよい。
【0012】
また、本発明によれば、擬似ランダム波を発震可能な音源と、前記擬似ランダム波の反射波を受振可能な複数の受振器と、前記擬似ランダム波の発震信号と前記反射波の受振信号との相互相関をとることにより探査データを算出する信号処理装置と、を備え、前記音源は、それぞれ異なる擬似ランダム数列によって生成された任意の異なる複数の擬似ランダム波を発震可能に構成され、前記信号処理装置は、前記複数の擬似ランダム波ごとに探査データを算出し、該複数の探査データを足し合わして統合探査データを算出し、前記異なる複数の擬似ランダム波に基づいて得られた各探査データのノイズが出現する位置又は時間と相互相関の大きさが相違することを利用して前記統合探査データのノイズを低減するように構成されている、ことを特徴とする物理探査装置法が提供される。

【0013】
前記音源は、少なくとも一つの振動板と、該振動板を駆動させる駆動手段と、前記駆動手段に駆動信号を発信する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記振動板により前記擬似ランダム波を発震可能な前記駆動信号を発信するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明に係る物理探査方法及び物理探査装置によれば、異なる複数の擬似ランダム波を用いて探査データを算出するようにしたことから、各擬似ランダム波の探査データにおけるノイズの出現位置及び大きさが相違し、これらの複数の探査データを足し合わせることにより、各探査データのノイズを相殺させることができ、ノイズの低減を図ることができる。
【0015】
したがって、本発明によれば、擬似ランダム波を用いた場合であっても、相互相関解析時に広範囲に拡散したノイズを低減して探査精度を向上させることができる。また、本発明によれば、擬似ランダム波の発震時間を長くする必要がないことから、短時間だけ擬似ランダム波を発震したい物理探査にも使用することができ、種々の用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る物理探査方法を示すフロー図である。
図2】探査データの取得方法の一例を示す図である。
図3】第一探査データ~第四探査データの一例を示す図であり、(a)は第一探査データ、(b)は第二探査データ、(c)は第三探査データ、(d)は第四探査データ、を示している。
図4図3(a)~図3(d)に示した探査データを共通反射点重合法により足し合わした統合探査データを示す図である。
図5図4に示した統合探査データと従来のスウィープ波により得られた探査データとの比較を示す図であり、(a)は統合探査データ、(b)はスウィープ波の探査データ、を示している。
図6】本発明の第一実施形態に係る物理探査装置に使用する音源の構成を示す図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、を示している。
図7】本発明の一実施形態に係る物理探査装置に使用する音源の構成を示す図であり、(a)は第三例、(b)は第四例、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図1図7(b)を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の一実施形態に係る物理探査方法を示すフロー図である。図2は、探査データの取得方法の一例を示す図である。図3は、第一探査データ~第四探査データの一例を示す図であり、(a)は第一探査データ、(b)は第二探査データ、(c)は第三探査データ、(d)は第四探査データ、を示している。図4は、図3(a)~図3(d)に示した探査データを共通反射点重合法により足し合わした統合探査データを示す図である。
【0018】
本発明の一実施形態に係る物理探査方法は、擬似ランダム波を発震し、擬似ランダム波の反射波を受振して、擬似ランダム波の発震信号と反射波の受振信号との相互相関をとることにより探査データを取得する物理探査方法であって、異なる複数の擬似ランダム波を発震し、複数の擬似ランダム波ごとに探査データを算出し、複数の探査データを足し合わして統合探査データを算出することを特徴としている。
【0019】
ここで、図1に示したフロー図は、一例として、異なる四つの擬似ランダム波(第一擬似ランダム波、第二擬似ランダム波、第三擬似ランダム波、第四擬似ランダム波)を発震する場合を示している。なお、異なる擬似ランダム波は、少なくとも二つ以上用意すればよく、四つに限定されるものではない。
【0020】
図1に示したように、本実施形態に係る物理探査方法は、第一擬似ランダム波を用いて第一探査データを取得する第一探査データ取得ステップStep1と、第二擬似ランダム波を用いて第二探査データを取得する第二探査データ取得ステップStep2と、第三擬似ランダム波を用いて第三探査データを取得する第三探査データ取得ステップStep3と、第四擬似ランダム波を用いて第四探査データを取得する第四探査データ取得ステップStep4と、第一探査データ~第四探査データを足し合わして統合探査データを算出する統合探査データ算出ステップStep5と、を備えている。
【0021】
第一探査データ取得ステップStep1は、第一擬似ランダム波を発震するステップStep11と、第一擬似ランダム波の反射波を受振するステップStep12と、相互相関解析により第一探査データを取得するステップStep13と、を含んでいる。同様に、第二探査データ取得ステップStep2は、第二擬似ランダム波を発震するステップStep21と、第二擬似ランダム波の反射波を受振するステップStep22と、相互相関解析により第二探査データを取得するステップStep23と、を含んでいる。
【0022】
また、同様に、第三探査データ取得ステップStep3は、第三擬似ランダム波を発震するステップStep31と、第三擬似ランダム波の反射波を受振するステップStep32と、相互相関解析により第三探査データを取得するステップStep33と、を含んでいる。また、同様に、第四探査データ取得ステップStep4は、第四擬似ランダム波を発震するステップStep41と、第四擬似ランダム波の反射波を受振するステップStep42と、相互相関解析により第四探査データを取得するステップStep43と、を含んでいる。
【0023】
ここで、「擬似ランダム波」とは、二進数の擬似ランダム数列(0と1をランダムに並べた数列)を波の位相差で表現したものである。例えば、0を上に凸な信号、1を下に凸な信号とすれば、0と1の乱数列によってランダム波が生成される。このとき、擬似ランダム波では、真の乱数列ではなく、ある計算によって求められた擬似的な乱数列を使用する。擬似ランダム数列は、例えば、擬似乱数列を生成するアルゴリズムを含む擬似乱数列生成器によって生成することができる。
【0024】
第二探査データ取得ステップStep2で使用する第二擬似ランダム波は、第一探査データ取得ステップStep1で使用する第一擬似ランダム波と異なる擬似ランダム数列によって生成された擬似ランダム波である。また、第三探査データ取得ステップStep3で使用する第三擬似ランダム波は、第一探査データ取得ステップStep1で使用する第一擬似ランダム波及び第二探査データ取得ステップStep2で使用する第二擬似ランダム波と異なる擬似ランダム数列によって生成された擬似ランダム波である。
【0025】
さらに、第四探査データ取得ステップStep4で使用する第四擬似ランダム波は、第一探査データ取得ステップStep1で使用する第一擬似ランダム波、第二探査データ取得ステップStep2で使用する第二擬似ランダム波及び第三探査データ取得ステップStep3で使用する第三擬似ランダム波と異なる擬似ランダム数列によって生成された擬似ランダム波である。
【0026】
ここで、図2は、擬似ランダム波Sを発震可能な音源1と、擬似ランダム波Sの反射波Rを受振可能な複数の受振器2と、受振器2が受振した信号を回収する信号回収装置3と、を含む物理探査装置を用いて探査データを取得する方法の一例を示している。また、図示した物理探査装置は、音源1及び受振器2を水中に沈めて曳航しながら、音源1から擬似ランダム波を発震し、受振器2で反射波の信号を受振する。なお、音源1は、曳航式ではなく自走式であってもよい。
【0027】
音源1は、擬似乱数列生成器を含んでいてもよいし、予め擬似乱数列生成器により生成した擬似ランダム波Sの発震信号を記憶させた記憶装置を含んでいてもよい。なお、音源1の構成については後述する。受振器2は、例えば、ケーブル4に一定の間隔で直列に配列されている。かかるケーブル4は、一般に、ストリーマケーブルと呼ばれている。
【0028】
信号回収装置3は、擬似ランダム波Sの発震信号と反射波Rの受振信号との相互相関をとることにより探査データを算出する信号処理装置を含んでいてもよい。また、信号処理装置は、音源1を曳航する母船に配置されていてもよい。この場合、反射波Rの受振信号は、無線データ通信等によって、信号回収装置3から母船の信号処理装置に伝送される。
【0029】
かかる物理探査装置では、図2の上段に示したように、音源1及び受振器2を移動させながら、所定のタイミングで擬似ランダム波Sを間欠的に発震し、その反射波Rを複数の受振器2で受振する。探査開始位置から探査終了位置まで音源1及び受振器2を移動させて一回の探査処理(スキャン)が終了する。この一回の探査処理では、同一の擬似ランダム波Sを用いて探査を実施する。すなわち、図1に示した物理探査方法では、四回の探査処理(スキャン)を行うことを意味している。
【0030】
一回の探査処理(スキャン)によって得られた受振信号は、例えば、図2の下段に示したように、共通反射点重合法(CMP重合法:Common Mid-Point重合法)によって処理される。共通反射点重合法とは、受振データから共通反射点Pcmを有する記録(震源点と受振点の中点が一致している記録)を抜き出して集合を作成し、共通反射点に震源点と受振点を持つような記録に補正(NMO補正:Normal Move Out補正)した後、当該集合に含まれる受振データを加算して一つの重合記録を作成し、全ての共通反射点Pcmの重合記録を並べて表示する方法である。
【0031】
このように、受振信号に対して共通反射点重合法を用いて処理することによって、反射波点の信号が強調され、ノイズを低減することができる。なお、受振信号の処理方法は、共通反射点重合法に限定されるものではない。
【0032】
また、「相互相関解析」とは、二つの時系列信号の類似度を評価することであり、信号間の関係を検討する方法の一つである。類似度の評価指標には相互相関関数が用いられる。本実施形態に係る物理探査方法では、二つの信号として、発震した擬似ランダム波の発震信号x(t)と、共通反射点重合法を用いて処理した後の反射波の受振信号y(t)とを用いる。そして、受振信号y(t)の発震信号x(t)に対する相互相関関数Ryx(τ)は、例えば、時間差τを用いて数1のように表現される。
【0033】
【数1】
【0034】
数1において、tは時間を意味し、x*(t)はx(t)の複素共役を意味している。そして、発震信号x(t)及び受振信号y(t)の相関性が低い場合には、時間差τの大小に関わらず相互相関関数は0に近づき、発震信号x(t)及び受振信号y(t)の相関性が高い場合には、ある時間差τの位置で相互相関関数は大きな値をとる。したがって、擬似ランダム波の相互相関解析を行うと、微小なノイズが幅広い範囲に均一に分布することとなる。
【0035】
上述した一連の処理を行うことによって、擬似ランダム波から探査データが取得される。ここで、図3(a)に示した探査データは第一擬似ランダム波により得られた第一探査データであり、図3(b)に示した探査データは第二擬似ランダム波により得られた第二探査データであり、図3(c)に示した探査データは第三擬似ランダム波により得られた第三探査データであり、図3(d)に示した探査データは第四擬似ランダム波により得られた第四探査データである。
【0036】
図3(a)~図3(d)に示したように、異なる擬似ランダム波(第一擬似ランダム波~第四擬似ランダム波)によって得られた、第一探査データ、第二探査データ、第三探査データ及び第四探査データの波形(相互相関及び位相)は全て異なったものとして表示される。なお、各図において、横軸は時間差τ(sec)を示し、縦軸は相互相関(無次元数)を示している。また、受振信号のうち発震信号と相関性の高い探査データ(相互相関のピーク値)は、相関性の低い部分(相互相関が0に近い値)に対して著しく突出した値となることから、一定値以上の相互相関を省略して図示してある。
【0037】
本実施形態に係る物理探査方法は、異なる複数の擬似ランダム波(第一擬似ランダム波~第四擬似ランダム波)に基づいて得られた探査データ(第一探査データ~第四探査データ)が、図3(a)~図3(d)に示したように、ノイズが出現する位置(時間)と相互相関の大きさが相違することに着目して創案されたものである。すなわち、本実施形態に係る物理探査方法は、異なる複数の擬似ランダム波により得られた異なる複数の探査データを足し合わして、ノイズを低減した統合探査データを算出することを特徴としている。
【0038】
具体的には、統合探査データ算出ステップStep5では、第一探査データ、第二探査データ、第三探査データ及び第四探査データを算出した後、例えば、共通反射点重合法を用いてこれらの探査データを加算することにより統合探査データを算出する。なお、統合探査データの加算方法は、共通反射点重合法に限定されるものではない。例えば、第一探査データ、第二探査データ、第三探査データ及び第四探査データの平均値を算出することによって統合探査データを算出するようにしてもよい。また、音源1及び受振器2を固定した場合には、同一反射点からの探査データを重合して統合探査データを算出するようにしてもよい。
【0039】
図3(a)~図3(d)に示した第一探査データ~第四探査データを共通反射点重合法により足し合わした統合探査データを図4に示す。図4において、横軸は時間差τ(sec)を示し、縦軸は相互相関(無次元数)を示している。また、図3(a)~図3(d)と同様に、一定値以上の相互相関を省略して図示してある。なお、図4に示した統合探査データは、図3(a)~図3(d)に示した第一探査データ~第四探査データと同一の縮尺で表示したものである。
【0040】
図4に示した統合探査データと、図3(a)~図3(d)に示した第一探査データ~第四探査データとの波形を比較すれば、相互相関のピーク値を示す反射点の受振信号Rp以外の時間帯における受振信号(ノイズ)の相互相関は、総じて、統合探査データの方が第一探査データ~第四探査データよりも小さいことは一目瞭然である。
【0041】
ここで、図5は、図4に示した統合探査データと従来のスウィープ波により得られた探査データとの比較を示す図であり、(a)は統合探査データ、(b)はスウィープ波の探査データ、を示している。各図において、横軸は時間差τ(sec)を示し、縦軸は相互相関(無次元数)を示している。また、各図において、相互相関のピーク値を示す反射点の受振信号Rp,Rp′について、一定値以上の相互相関を省略せずに全体を図示してある。
【0042】
従来のスウィープ波による探査データでは、ノイズの発生が反射点の信号の近くでは大きく、遠くに行くほど小さくなるという性質を有している。実際、図5(b)に示したように、反射点の受振信号Rp′から離れた位置ではほとんどノイズが出現していないが、反射点の受振信号Rp′に近い位置(例えば、点線で囲んだ領域N′)では大きく波打つようにノイズが出現している。このように、大きなノイズが出現した場合には、大深度から帰ってくる微小な信号がノイズに埋もれて隠れてしまうこととなる。
【0043】
一方、本実施形態に係る物理探査方法により得られた統合探査データは、図5(a)に示したように、反射点の受振信号Rp以外の時間帯では略均一で相互相関の小さいノイズが出現しているに過ぎない。特に、図5(a)の領域Nに含まれる探査データと、図5(b)の領域N′に含まれる探査データとを比較すれば、従来のスウィープ波により得られた探査データよりも統合探査データのノイズが著しく低減されていることを容易に理解することができる。
【0044】
上述した本実施形態に係る物理探査方法によれば、異なる複数の擬似ランダム波(例えば、第一擬似ランダム波~第四擬似ランダム波)を用いて探査データ(例えば、第一探査データ~第四探査データ)を算出するようにしたことから、各擬似ランダム波の探査データにおけるノイズの出現位置及び大きさが相違し、これらの複数の探査データを足し合わせることにより、各探査データのノイズを相殺させることができ、ノイズの低減を図ることができる。
【0045】
したがって、本実施形態に係る物理探査方法によれば、擬似ランダム波を用いた場合であっても、相互相関解析時に広範囲に拡散したノイズを低減して探査精度を向上させることができる。また、本実施形態に係る物理探査方法によれば、擬似ランダム波の発震時間を長くする必要がないことから、短時間だけ擬似ランダム波を発震したい物理探査にも使用することができ、種々の用途に使用することができる。
【0046】
ここで、図6は、本発明の一実施形態に係る物理探査装置に使用する音源の構成を示す図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、を示している。図7は、本発明の一実施形態に係る物理探査装置に使用する音源の構成を示す図であり、(a)は第三例、(b)は第四例、を示している。なお、各図に示した音源1は、単なる一例であって、本実施形態に係る物理探査装置に使用される音源1は、図示した構成に限定されるものではない。
【0047】
図6(a)に示した第一例の音源1は、二枚の振動板11と、各振動板11を駆動させる駆動手段12と、各駆動手段12に駆動信号を発信する制御装置13と、を備え、制御装置13は、振動板11により擬似ランダム波を発震可能な駆動信号を発信するように構成されている。
【0048】
振動板11は、例えば、円板形状を有しており、駆動手段12及び制御装置13を収容するケーシング14の表面に弾性体15を介して接続されている。二枚の振動板11は、ケーシング14の相対する面に配置されている。振動板11の外周には弾性体15が配置されていることから、振動板11は配置面に対して垂直な方向に往復動可能に構成されている。
【0049】
駆動手段12は、例えば、往復動可能なピストンロッド12aを備えた液圧シリンダであり、サーボ弁12bの操作によって作動可能に構成されている。ピストンロッド12aの先端は、振動板11の背面に接続されている。したがって、サーボ弁12bによって液圧シリンダに供給される作動流体の流量を調整することにより、ピストンロッド12a及び振動板11を往復動させることができる。
【0050】
制御装置13は、ピストンロッド12aを駆動するための駆動信号をサーボ弁12bに発信するコンピュータである。制御装置13は、振動板11から擬似ランダム波を発震するために、例えば、擬似乱数列生成器を備えていてもよい。また、制御装置13は、予め擬似乱数列生成器により生成した擬似ランダム波の発震信号を記憶させた記憶装置を備えていてもよい。
【0051】
図6(b)に示した第二例の音源1は、一枚の振動板11と、振動板11を駆動させる駆動手段12と、駆動手段12に駆動信号を発信する制御装置13と、を備え、制御装置13は、振動板11により擬似ランダム波を発震可能な駆動信号を発信するように構成されている。第一例の音源1は、振動板11及び駆動手段12を含む駆動ユニットを二つ備えているのに対し、第二例の音源1は、一つの駆動ユニットを備えているものである。第二例の音源1の各構成は、上述した第一例の音源1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0052】
例えば、第一例の音源1を含む物理探査装置は、図2に示したように、発震位置を移動させながら水中で間欠的に擬似ランダム波を発震する探査方法に適している。なお、本実施形態に係る物理探査装置は、図2に示した探査方法への使用に限定されるものではない。
【0053】
例えば、本実施形態に係る物理探査装置は、発震位置を移動させながら陸上で間欠的に擬似ランダム波を発震するものであってもよいし、陸上の地面、海中又は海底に音源1及び受振器2を固定した状態で間欠的に擬似ランダム波を発震するものであってもよい。地面や海底に向かって擬似ランダム波を発震する場合には、例えば、図6(b)に示した第二例の音源1を使用することができる。
【0054】
図7(a)に示した第三例の音源1は、第一例の音源1における駆動手段12の構成を変更したものである。駆動手段12は、例えば、往復動可能な駆動ロッド12cと、駆動ロッド12cを電磁力によって駆動させる電気コイル12dと、を備えている。かかる構成によっても、電気コイル12dに電流を流すことによって、図中の矢印方向の電磁力を生じさせて駆動ロッド12cを往復動させることができる。
【0055】
なお、駆動ロッド12cの駆動方向を変更する場合には、電気コイル12dに流す電流の向きを逆転させればよい。また、電気コイル12dに流す電流の向き、大きさ、時間等の条件は制御装置13によって制御される。
【0056】
図7(b)に示した第四例の音源1は、第二例の音源1における駆動手段12の構成を変更したものである。かかる駆動手段12の構成は、上述した第三例の音源1と同じ構成であるため、詳細な説明を省略する。
【0057】
上述した実施形態では、異なる複数の擬似ランダム波を発震する方法として、異なる複数の擬似ランダム数列を生成する場合について説明しているが、異なる複数の擬似ランダム波を発震する方法はかかる方法に限定されるものではない。例えば、同一の擬似ランダム数列を使用した場合であっても異なる複数の周波数で発震することにより、異なる複数の擬似ランダム波を発震することができる。
【0058】
例えば、第一擬似ランダム波の周波数を200Hz、第二擬似ランダム波の周波数を195Hz、第三擬似ランダム波の周波数を205Hz、第四擬似ランダム波の周波数を190Hz等のように設定してもよい。このように、同一の擬似ランダム数列を使用しつつ発震周波数を異ならせることにより、ノイズの出現位置を異ならせることができる。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、例えば、海洋資源の調査だけでなく、鉱山資源の調査、土木・環境調査等の種々の用途に使用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 音源
2 受振器
3 信号回収装置
4 ケーブル
11 振動板
12 駆動手段
12a ピストンロッド
12b サーボ弁
12c 駆動ロッド
12d 電気コイル
13 制御装置
14 ケーシング
15 弾性体
Step1 第一探査データ取得ステップ
Step2 第二探査データ取得ステップ
Step3 第三探査データ取得ステップ
Step4 第四探査データ取得ステップ
Step5 統合探査データ算出ステップ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7