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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】タイヤの設計方法及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20220621BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20220621BHJP
   G06F 17/40 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
B29D30/06
G06F17/40 310Z
G06F17/40 320A
G06F17/40 330A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018117249
(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公開番号】P2019217919
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】角田 昌也
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-018446(JP,A)
【文献】特開2016-004484(JP,A)
【文献】特開2015-225457(JP,A)
【文献】特開2010-191612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00-19/12
G06F 17/40、30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを加硫成形する工程を経て製造されるタイヤを設計するための方法であって、
前記コンピュータに、生タイヤを有限個の要素でモデル化した生タイヤモデルを設定する生タイヤモデル設定工程と、
前記コンピュータが、予め定められた加硫条件に基づいて、前記生タイヤモデルを変形させて、加硫後のタイヤ形状を具えたタイヤモデルを取得する加硫シミュレーション工程と、
前記コンピュータが、予め定められた試験条件に基づいて、前記タイヤモデルの変形計算を行い、そこから予め定められたタイヤ性能に関する物理量を取得する工程と、
前記コンピュータが、前記物理量を目的関数とし、予め定められた前記生タイヤモデルの設計因子を設計変数とし、予め定めされた制約条件の下での最適化アルゴリズムに基づいて、前記目的関数を最適化する前記設計因子の最適解を求める工程と、
前記最適解を用いて得られた前記生タイヤモデルに基づいてタイヤを設計する工程とを含む、
タイヤの設計方法。
【請求項2】
前記生タイヤモデルは、複数のタイヤ部材モデルを互いに接合して設定されており、前記設計因子は、前記複数のタイヤ部材モデルの少なくとも一つの形状に関連付けられている、請求項1に記載のタイヤの設計方法。
【請求項3】
前記複数のタイヤ部材モデルの少なくとも一つが、トレッドゴムをモデル化したトレッドゴムモデルである、請求項2に記載のタイヤの設計方法。
【請求項4】
前記複数のタイヤ部材モデルの少なくとも一つが、サイドウォールゴムをモデル化したサイドウォールゴムモデルである、請求項2又は3に記載のタイヤの設計方法。
【請求項5】
前記生タイヤモデルは、複数のタイヤ部材モデルを互いに接合して設定されており、
前記複数のタイヤ部材モデルは、繊維材をモデル化した繊維材モデルを含み、
前記設計因子は、前記繊維材モデルの繊維の角度に関連付けられている、請求項1ないし4のいずれかに記載のタイヤの設計方法。
【請求項6】
前記繊維材モデルは、カーカスをモデル化したカーカスモデルを含む、請求項5に記載のタイヤの設計方法。
【請求項7】
前記繊維材モデルは、ベルトをモデル化したベルトモデルを含む、請求項5又は6に記載のタイヤの設計方法。
【請求項8】
前記制約条件は、前記複数のタイヤ部材モデルの重量を含む、請求項2ないし7のいずれかに記載のタイヤの設計方法。
【請求項9】
前記生タイヤモデル設定工程は、前記複数のタイヤ部材モデルを前記コンピュータに定義する工程と、
前記複数のタイヤ部材モデルを互いに接合して、前記生タイヤモデルを定義する工程とを含む、請求項2ないし8のいずれかに記載のタイヤの設計方法。
【請求項10】
前記物理量は、前記タイヤモデルのバネ定数、接地形状に関するパラメータ、転がり抵抗値、コーナリングパワー及び質量の少なくとも一つを含む、請求項1ないし9のいずれかに記載のタイヤの設計方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載された方法を用いて得られた前記最適解を用いた前記生タイヤモデルに基づいて生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤを加硫成形する工程とを含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化アルゴリズムに基づいて、タイヤを設計するための方法、及び、タイヤを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、タイヤの形状を、コンピュータを用いて最適化するための方法を提案している。特許文献1の方法では、基準となるタイヤ断面形状に基づいて、コンピュータで解析可能な要素で分割したタイヤモデルを設定する工程、及び、最適化アルゴリズムに基づいて、目的関数(性能)を満足するタイヤの形状を求める工程を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-091007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のタイヤモデルは、加硫成型された市販品のタイヤ等の断面形状に基づいて設定されている。このため、特許文献1の方法は、最適化されたタイヤを実際に得るために、加硫される前の生タイヤの設計等が別途必要になる。したがって、特許文献1の方法において、能率良くタイヤを設計するには改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、能率良くタイヤを設計することができる方法、及び、タイヤを製造する方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを加硫成形する工程を経て製造されるタイヤを設計するための方法であって、前記コンピュータに、生タイヤを有限個の要素でモデル化した生タイヤモデルを設定する生タイヤモデル設定工程と、前記コンピュータが、予め定められた加硫条件に基づいて、前記生タイヤモデルを変形させて、加硫後のタイヤ形状を具えたタイヤモデルを取得する加硫シミュレーション工程と、前記コンピュータが、予め定められた試験条件に基づいて、前記タイヤモデルの変形計算を行い、そこから予め定められたタイヤ性能に関する物理量を取得する工程と、前記コンピュータが、前記物理量を目的関数とし、予め定められた前記生タイヤモデルの設計因子を設計変数とし、予め定めされた制約条件の下での最適化アルゴリズムに基づいて、前記目的関数を最適化する前記設計因子の最適解を求める工程と、前記最適解を用いて得られた前記生タイヤモデルに基づいてタイヤを設計する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記生タイヤモデルは、複数のタイヤ部材モデルを互いに接合して設定されており、前記設計因子は、前記複数のタイヤ部材モデルの少なくとも一つの形状に関連付けられていてもよい。
【0008】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記複数のタイヤ部材モデルの少なくとも一つが、トレッドゴムをモデル化したトレッドゴムモデルであってもよい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記複数のタイヤ部材モデルの少なくとも一つが、サイドウォールゴムをモデル化したサイドウォールゴムモデルであってもよい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記生タイヤモデルは、複数のタイヤ部材モデルを互いに接合して設定されており、前記複数のタイヤ部材モデルは、繊維材をモデル化した繊維材モデルを含み、前記設計因子は、前記繊維材モデルの繊維の角度に関連付けられていてもよい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記繊維材モデルは、カーカスをモデル化したカーカスモデルであってもよい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記繊維材モデルは、ベルトをモデル化したベルトモデルであってもよい。
【0013】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記制約条件は、前記複数のタイヤ部材モデルの重量を含んでもよい。
【0014】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記生タイヤモデル設定工程は、前記複数のタイヤ部材モデルを前記コンピュータに定義する工程と、前記複数のタイヤ部材モデルを互いに接合して、前記生タイヤモデルを定義する工程とを含んでもよい。
【0015】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記物理量は、前記タイヤモデルのバネ定数、接地形状に関するパラメータ、転がり抵抗値、コーナリングパワー及び質量の少なくとも一つを含んでもよい。
【0016】
本発明は、請求項1ないし10のいずれかに記載された方法を用いて得られた前記最適解を用いた前記生タイヤモデルに基づいて生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを加硫成形する工程とを含むことを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のタイヤの設計方法は、コンピュータに、生タイヤを有限個の要素でモデル化した生タイヤモデルを設定する生タイヤモデル設定工程と、前記コンピュータが、予め定められた加硫条件に基づいて、前記生タイヤモデルを変形させて、加硫後のタイヤ形状を具えたタイヤモデルを取得する加硫シミュレーション工程とを含んでいる。
【0018】
本発明のタイヤの設計方法は、前記コンピュータが、予め定められた試験条件に基づいて、前記タイヤモデルの変形計算を行い、そこから予め定められたタイヤ性能に関する物理量を取得する工程を含んでいる。さらに、本発明のタイヤの設計方法は、前記コンピュータが、前記物理量を目的関数とし、予め定められた前記生タイヤモデルの設計因子を設計変数とし、予め定めされた制約条件の下での最適化アルゴリズムに基づいて、前記目的関数を最適化する前記設計因子の最適解を求める工程と、前記最適解を用いて得られた前記生タイヤモデルに基づいてタイヤを設計する工程とを含んでいる。
【0019】
本発明の設計方法は、前記目的関数が最適化された前記タイヤモデルについて、加硫前の前記生タイヤモデルの設計因子の最適解を得ることができる。したがって、本発明の設計方法は、優れた前記タイヤ性能を有するタイヤを、能率良く設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】タイヤの設計方法、及び、タイヤの製造方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。
図2】生タイヤの一例を示す断面図である。
図3】(a)は、カーカスの一例を示す部分斜視図、(b)は、内側ベルト及び外側ベルトの一例を示す部分斜視図である。
図4】(a)、(b)は、生タイヤを成形する工程の一例を説明する断面図である。
図5】生タイヤを加硫成形する工程の一例を説明する断面図である。
図6】タイヤの設計方法及びタイヤの製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】生タイヤモデル設定工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】タイヤ部材モデルの一例を示す概念図である。
図9】カーカスモデルの一例を示す概念図である。
図10】内側ベルトモデル及び外側ベルトモデルの一例を示す概念図である。
図11】第1接合体モデル、第2接合体モデル、及び、トレッドリングモデルの一例を示す概念図である。
図12】半径方向外側に膨出したケーシングモデルの一例を示す概念図である。
図13】変形したトレッドリングモデルの一例を示す概念図である。
図14】生タイヤモデルの一例を示す概念図である。
図15】金型モデルの内部に配置された生タイヤモデルの一例を示す概念図である。
図16】タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す概念図である。
図17】(a)は、実施例の最適化前の生タイヤモデルの断面図、(b)は、実施例の最適化後の生タイヤモデルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤの設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある。)では、生タイヤを成形する工程と、生タイヤを加硫成形する工程を経て製造されるタイヤが、コンピュータ1を用いて設計される。また、本実施形態のタイヤの製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある。)は、タイヤの設計方法で得られた最適解に基づいて、タイヤが製造される。
【0022】
図1は、タイヤの設計方法、及び、タイヤの製造方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dが含まれる。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の設計方法及び製造方法を実行するための処理手順(プログラム)が、予め記憶されている。
【0023】
図2は、生タイヤの一例を示す断面図である。生タイヤ2は、複数のタイヤ部材11が互いに重ねられることで形成されている。タイヤ部材11は、ゴム部材3と、繊維材4とを含んでいる。本実施形態では、トレッドゴム3aのタイヤ軸方向の外端部をタイヤ軸方向の外側から覆うようにサイドウォールゴム3bが接合されるSOT(サイドウォール・オーバー・トレッド)構造の生タイヤ2が例示されるが、このような態様に限定されない。例えば、サイドウォールゴム3bのタイヤ半径方向の外端部が、トレッドゴム3aのタイヤ半径方向の内面に覆われるTOS(トレッド・オーバー・サイドウォール)構造の生タイヤ2でもよい。
【0024】
ゴム部材3は、トレッドゴム3a、サイドウォールゴム3b、クリンチゴム3c、ビードエーペックスゴム3d、インナーライナーゴム3e、ビードコア3f、カバリングゴム3j、及び、クッションゴム3kを含んでいる。一方、繊維材4は、カーカス4a、及び、ベルト4bを含んで構成されている。本実施形態のベルト4bは、内側ベルト4cと、外側ベルト4dとを含んでいる。
【0025】
トレッドゴム3aは、トレッド部2aにおいて、外側ベルト4dの外側に配されている。サイドウォールゴム3bは、サイドウォール部2bにおいて、カーカス4aの外側に配されている。クリンチゴム3cは、サイドウォールゴム3bの半径方向内側に固定されている。ビードエーペックスゴム3dは、ビードコア3fからタイヤ半径方向外側にのびている。インナーライナーゴム3eは、カーカス4aの内面に配置されている。
【0026】
ビードコア3fは、例えば、スチール製のビードワイヤを螺旋巻きして断面略矩形状に形成したものを、未加硫のゴムで被覆することで形成されている。カバリングゴム3jは、内側ベルト4cの両端部、及び、外側ベルト4dの両端部をそれぞれ被覆している。クッションゴム3kは、生タイヤ2のバットレス部において、カーカス4aの外側に配置されている。
【0027】
カーカス4aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア3fにのびている。ベルト4b(内側ベルト4c及び外側ベルト4d)は、カーカス4aのタイヤ半径方向外側、かつ、トレッドゴム3aの内部に配されている。
【0028】
図3(a)は、カーカス4aの一例を示す部分斜視図である。図3(b)は、内側ベルト4c及び外側ベルト4dの一例を示す部分斜視図である。図3(a)、(b)に示されるように、繊維材4(カーカス4a及びベルト4b)は、繊維12と、未加硫のトッピングゴム13とを含んで構成されている。
【0029】
図3(a)に示されるように、カーカス4aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば65~90度の角度δで配列された繊維12(以下、単に「カーカスコード12a」ということがある)と、カーカスコード12aを被覆するトッピングゴム13とを含んで構成されている。一方、内側ベルト4c及び外側ベルト4dは、図3(b)に示されるように、タイヤ周方向に対して、例えば10~40度の角度φで配列された繊維12(以下、単に「ベルトコード12b」ということがある。)と、ベルトコード12bを被覆するトッピングゴム13とを含んで構成されている。
【0030】
図4(a)、(b)は、生タイヤを成形する工程の一例を説明する断面図である。図4(a)に示されるように、本実施形態の生タイヤ2を成形する工程では、従来の成形工程と同様に、先ず、円筒状のドラム(図示省略)に、第1接合体5、及び、第2接合体6が形成される。
【0031】
第1接合体5は、ドラムの外周面(図示省略)に、インナーライナーゴム3e、カーカス4a、クリンチゴム3c、サイドウォールゴム3b、及び、クッションゴム3kを円筒状に成形して、互いに接合することで形成される。一方、第2接合体6は、ビードコア3f、及び、ビードエーペックスゴム3dを円筒状に成形して、互いに接合することで形成される。これらの第1接合体5及び第2接合体6が接合されることにより、円筒状のケーシング7が形成される。
【0032】
次に、生タイヤを成形する工程では、例えば、第1接合体5及び第2接合体6を形成するドラム(図示省略)よりも大きな径を有するドラム(図示省略)に、円筒状のトレッドリング8が形成される。トレッドリング8は、ドラムの外周面(図示省略)に、トレッドゴム3a、内側ベルト4c、及び、外側ベルト4dを円筒状に成形して、互いに接合することで形成される。
【0033】
次に、生タイヤを成形する工程では、ビードコア3fを把持するビード保持部9によって、ビードコア3f、3fの軸方向距離を減じつつ、高圧空気P1を付与することで、ケーシング7がトロイド状に膨出(シェーピング)される。また、ケーシング7の外周面には、その半径方向外側に予め待機させたトレッドリング8の内周面が貼り付けられる。そして、図4(b)に示されるように、トレッドリング8の外周面に、ステッチングローラ(図示省略)が押し付けられることにより、ケーシング7の外周面とトレッドリング8の内周面とが密着される。
【0034】
次に、生タイヤを成形する工程では、高圧空気P1が付与されたケーシング7において、ビードコア3fよりもタイヤ軸方向外側にはみ出したはみ出し部分7p(サイドウォールゴム3b及びクリンチゴム3cを含む)が、はみ出し部分7pの半径方向内方に配置されたブラダー(図示省略)の膨張によって、ビードコア3f廻りで巻き上げられる。これにより、複数のタイヤ部材11をそれぞれ円筒状に成形して互いに接合した生タイヤ2が形成される。
【0035】
図5は、生タイヤを加硫成形する工程の一例を説明する断面図である。加硫成型する工程では、先ず、従来のタイヤの製造方法と同様に、生タイヤ2が加硫金型14に投入される。次に、加硫成形する工程では、弾性体からなるブラダー15によって、加硫金型14に投入された生タイヤ2が、加硫金型14の成形面14sへ押圧されて加熱される。これにより、生タイヤ2が加硫成形され、タイヤ20が製造される。
【0036】
ところで、上記特許文献1では、タイヤの形状を、コンピュータを用いて最適化するための方法を提案している。特許文献1の方法では、基準となるタイヤ断面形状に基づいて、コンピュータで解析可能な要素で分割したタイヤモデルを変形させながら、目的関数(タイヤ性能)を満足するタイヤ(タイヤモデル)の形状を求める工程を含んでいる。
【0037】
上記特許文献1の方法では、加硫成型された市販品のタイヤ等の断面形状に基づいて、タイヤモデルが設定されている。このため、最適化されたタイヤを実際に得るためには、加硫される前の生タイヤ2(図2に示す)の設計等が別途必要になる。
【0038】
生タイヤ2の設計では、例えば、生タイヤ2の成形に必要なパラメータが決定される。パラメータには、例えば、図4(a)に示されるように、各タイヤ部材11の形状(寸法)、生タイヤ2を成型する工程でのビードコア3f、3f間のビードセット幅(ビードセット位置)W2(図4(b)に示す)、及び、ビードエーペックスゴム3dの半径方向の高さH1(図4(a)に示す)が含まれる。さらに、パラメータには、例えば、サイドウォールゴム3bのタイヤ軸方向の内端の位置、クリンチゴム3cのタイヤ軸方向の内端の位置、及び、繊維材4の繊維12の角度δ、φ(図3(a)、(b)に示す)が含まれる。これらのパラメータは、例えば、図4(b)に示した生タイヤ2を成型する工程において、生タイヤ2のサイドウォール部の形状等に関連するため、生タイヤ2(図2に示す)、及び、生タイヤ2を加硫したタイヤ20(図5に示す)の形状に大きく影響する。
【0039】
従来の生タイヤ2の設計では、設計者による試行錯誤や、これまでの経験則に基づいて、上記パラメータが設定されていた。したがって、上記特許文献1の方法において、能率良くタイヤ20を設計するには改善の余地がある。
【0040】
本実施形態の設計方法では、後述の処理手順に基づいて、目的関数(タイヤ性能に関する物理量)が最適化されたタイヤモデルについて、加硫前の生タイヤモデルの設計因子(例えば、上記パラメータ)の最適解が求められる。これにより、設計方法では、生タイヤモデルの設計因子を直接求めることができるため、目的関数を満足する(即ち、優れたタイヤ性能を有する)タイヤ20を、能率良く設計することが可能となる。
【0041】
設計因子の最適解は、コンピュータ1を用いた最適化アルゴリズムに基づいて求められる。最適化アルゴリズムは、一定の制約条件のもとで、任意の目的関数を満足する最適な設計因子(例えば、上記パラメータ)を決定するためのものである。最適化アルゴリズムの一例としては、遺伝的アルゴリズム(GA(Genetic Algorithm))、及び、粒子群最適化(PSO(Particle Swarm Optimization))等が挙げられる。このような最適化アルゴリズムは、局所解に陥るのを防ぎつつ、広域最適解を探すのに適している。本実施形態の計算方法では、計算時間が比較的短い粒子群最適化(PSO)が採用されるが、遺伝子的アルゴリズム(GA)等が採用されてもよい。
【0042】
粒子群最適化(PSO)では、複数の初期の設計因子(設計変数)を含む第1世代を作成し、各設計因子の目的関数をそれぞれ求め、最も好ましい目的関数に近づくように各設計因子を更新(世代交代)することで最適化が行われる。各設計変数の更新には、乱数が用いられることにより、最適な条件が広域的に探索されうる。粒子群最適化(PSO)の詳細については、例えば、IEICE FundamentalsReview(電子情報通信学会) Vol.5 No.2、2011年8月「粒子群最適化と非線形システム」等の様々な文献等に記載されている。
【0043】
図6は、タイヤの設計方法及びタイヤの製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1に、目的関数、設計因子、及び、制約条件が入力される(工程S1)。
【0044】
目的関数は、例えば、タイヤに求められる性能に応じて、タイヤ性能に関する物理量が適宜設定される。目的関数として設定される物理量の一例としては、タイヤモデルのバネ定数、タイヤモデルの接地形状に関するパラメータ(以下、単に「接地パラメータ」ということがある。)、タイヤモデルの転がり抵抗値、タイヤモデルのコーナリングパワー、及び、タイヤモデルの質量が含まれる。本実施形態では、上記の物理量のうち、少なくとも一つの物理量が、目的関数として設定される。
【0045】
バネ定数の目的関数については、適宜定義することができる。本実施形態のバネ定数の目的関数としては、縦バネ定数の目的関数と、横バネ定数の目的関数とを含んでいる。
【0046】
縦バネ定数の目的関数は、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルの縦バネ定数と、予め定められた目標縦バネ定数との差の絶対値を、目標縦バネ定数で除した値(以下、単に、「縦バネ定数誤差」ということがある。)として定義される。一方、横バネ定数の目的関数は、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルの横バネ定数と、予め定められた目標横バネ定数との差の絶対値を、目標横バネ定数で除した値(以下、単に、「横バネ定数誤差」ということがある。)として定義される。これらの縦バネ定数の目的関数(縦バネ定数誤差)、及び、横バネ定数の目的関数(横バネ定数誤差)は、数値が小さいほど、目標縦バネ定数及び目標横バネ定数に近似することを示しうる。なお、目標縦バネ定数及び目標横バネ定数は、例えば、タイヤの種類(カテゴリやタイヤサイズを含む)に基づいて、適宜定義することができる。
【0047】
接地パラメータの目的関数については、適宜定義することができる。本実施形態の接地パラメータの目的関数としては、周方向接地パラメータの目的関数と、軸方向接地パラメータの目的関数とを含んでいる。
【0048】
周方向接地パラメータの目的関数は、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルのタイヤ周方向の接地長さと、予め定められたタイヤ周方向の目標接地長さとの差の絶対値で定義される。一方、軸方向接地パラメータの目的関数は、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルのタイヤ軸方向の接地長さと、予め定められたタイヤ軸方向の目標接地長さとの差の絶対値として定義される。これらの周方向接地パラメータの目的関数、及び、軸方向接地パラメータの目的関数は、数値が小さいほど、目標とする接地形状に近似することを示しうる。なお、タイヤ周方向の目標接地長さ、及び、タイヤ軸方向の目標接地長さは、例えば、タイヤの種類(カテゴリやタイヤサイズを含む)に基づいて適宜定義することができる。
【0049】
転がり抵抗値の目的関数については、適宜定義することができる。本実施形態の転がり抵抗値の目的関数は、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルの転がり抵抗値の平均値として定義される。このような転がり抵抗値の目的関数は、その数値が小さいほど良好であることを示しうる。
【0050】
コーナリングパワーの目的関数については、適宜定義することができる。コーナリングパワーの目的関数は、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルのコーナリングパワーの平均値として定義される。このようなコーナリングパワーの目的関数は、その数値が大きいほど良好であることを示しうる。
【0051】
質量の目的関数については、適宜定義することができる。質量の目的関数は、予め定められた基準質量と、後述の物理量取得工程S5で取得可能なタイヤモデルの質量との差を、基準質量で除した値(以下、単に「質量の減少率」ということがある。)として定義される。このような質量の減少率は、その数値が大きいほど良好であることを示しうる。なお、基準質量は、例えば、タイヤの種類(カテゴリやタイヤサイズを含む)に基づいて適宜定義することができる。
【0052】
本実施形態の工程S1では、バネ定数の目的関数、及び、質量の目的関数が設定される。なお、目的関数は、上記の物理量に限定されるわけではなく、他の物理量が設定されてもよい。目的関数は、コンピュータ1に入力される。
【0053】
次に、設計因子は、例えば、タイヤの種類(カテゴリやタイヤサイズを含む)に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の設計因子には、例えば、上述の生タイヤ2の成形に必要なパラメータが関連付けられる。
【0054】
本実施形態の設計因子には、上述したパラメータのうち、ビードセット幅W2(図4(b)に示す)、ビードエーペックスゴム3d(後述のビードエーペックスゴムモデル)の半径方向の高さH1(図4(a)に示す)、及び、タイヤ部材11(後述のタイヤ部材モデル)の少なくとも一つの形状が関連づけられている。設計因子に関連付けられるタイヤ部材11の形状(形状を特定するための寸法等)については、適宜選択することができる。本実施形態では、サイドウォールゴム3bの厚さW3(図4(b)に示す)、及び、クリンチゴム3cの厚さW4(図4(b)に示す)が、設計因子に関連づけられる。これらの設計因子は、コンピュータ1に記憶される。
【0055】
制約条件は、図4(a)、(b)に示した生タイヤ2の成形において、必ず満たすべき条件(設計基準)である。このような制約条件は、例えば、生タイヤ2の成形装置(図示省略)等に基づいて、適宜設定することができる。本実施形態の制約条件は、ビードセット幅W2(図4(b)に示す)の設定可能範囲が設定される。このようなビードセット幅W2の設定可能範囲は、例えば、ビード保持部9の設定可能範囲に基づいて決定される。制約条件は、コンピュータ1に記憶される。
【0056】
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1に、生タイヤモデルの設計変数の初期値が入力される(工程S2)。設計変数の初期値は、後述の生タイヤモデル設定工程S3において、生タイヤモデルを設定するのに用いられる。
【0057】
本実施形態の設計変数の初期値には、工程S1で入力された設計因子(本実施形態では、ビードセット幅W2、ビードエーペックスゴム3dの半径方向の高さH1、サイドウォールゴム3bの厚さW3、及び、クリンチゴム3cの厚さW4)の初期値が含まれる。設計変数の初期値は、制約条件(本実施形態では、ビードセット幅W2の設定可能範囲)を満たすように設定される。設計変数の初期値は、タイヤの種類(カテゴリやタイヤサイズを含む)等に基づいて適宜設定される。設計変数の初期値は、制約条件を満たせば、乱数に基づいてランダムに設定されてもよい。
【0058】
本実施形態では、複数の生タイヤモデルを設定するために、設計因子の少なくとも一つの初期値が互いに異なる複数の設計変数が設定される。これにより、後述の生タイヤモデル設定工程S3において、形状が互いに異なる複数の生タイヤモデル及びタイヤモデルを設定することができる。設計変数の初期値は、コンピュータ1に記憶される。
【0059】
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1に、生タイヤ2を有限個の要素でモデル化した生タイヤモデルが設定される(生タイヤモデル設定工程S3)。図7は、生タイヤモデル設定工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0060】
本実施形態の生タイヤモデル設定工程S3では、先ず、複数のタイヤ部材モデルが、コンピュータに定義される(工程S31)。図8は、タイヤ部材モデル19の一例を示す概念図である。
【0061】
工程S31では、先ず、タイヤ部材11を有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化することで、複数のタイヤ部材モデル19が設定される。離散化されるタイヤ部材11は、工程S2で入力された設計変数の初期値、及び、設計変数以外の予め定められた設計パラメータ(例えば、各タイヤ部材11の形状(寸法)の初期値や、繊維材4の繊維12の角度δ、φ等の初期値)に基づいて特定される。本実施形態のタイヤ部材モデル19は、ゴム部材3をモデル化したゴム部材モデル16と、繊維材4をモデル化した繊維材モデル18とを含んでいる。
【0062】
ゴム部材モデル16は、トレッドゴム3a(図2に示す)を離散化したトレッドゴムモデル16aと、サイドウォールゴム3b(図2に示す)を離散化したサイドウォールゴムモデル16bと、クリンチゴム3c(図2に示す)を離散化したクリンチゴムモデル16cとを含んでいる。また、ゴム部材モデル16は、ビードエーペックスゴム3d(図2に示す)を離散化したビードエーペックスゴムモデル16dと、インナーライナーゴム3e(図2に示す)を離散化したインナーライナーゴムモデル16eとを含んでいる。さらに、ゴム部材モデル16は、ビードコア3f(図2に示す)を離散化したビードコアモデル16fと、カバリングゴム3j(図2に示す)を離散化したカバリングゴムモデル16jと、クッションゴム3k(図2に示す)を離散化したクッションゴムモデル16kとを含んでいる。
【0063】
ビードエーペックスゴムモデル16dの半径方向の高さH1(図11に示す)、サイドウォールゴムモデル16bの厚さW3(図11に示す)、及び、クリンチゴムモデル16cの厚さW4(図11に示す)は、設計変数の初期値に基づいて設定される。
【0064】
要素F(i)は、数値解析法により取扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用することができる。本実施形態では、有限要素法が採用されている。
【0065】
本実施形態の要素F(i)としては、三次元のソリッド要素として定義されている。また、各要素F(i)には、要素番号、節点17の番号、節点17の座標値、及び、材料特性(例えば、密度、引張剛性、圧縮剛性、せん断剛性、曲げ剛性、又は、捩り剛性など)等の数値データが定義される。
【0066】
未加硫のゴムを構成する部分の材料特性は、例えば、文献(針間浩、「未加硫ゴムの一定伸長速度下での大変形挙動」、日本レオロジー学会誌、社団法人日本レオロジー学会、1976年、Vol.4、p.3-9)や、文献(戸崎近雄、外3名、「グリーンストレングス指標、降伏応力の粘弾性的取扱い」、日本ゴム協会誌、一般社団法人日本ゴム協会、1969年、第42巻、第6号、p.433-438)等に開示されている。本実施形態では、これらの文献に基づいて、未加硫のゴムの材料特性が定義される。
【0067】
繊維材モデル18は、カーカス4a(図2に示す)を離散化したカーカスモデル18aと、ベルト4b(図2に示す)を離散化したベルトモデル18bとを含んでいる。ベルトモデル18bは、内側ベルト4c(図2に示す)を離散化した内側ベルトモデル18cと、外側ベルト4d(図2に示す)を離散化した外側ベルトモデル18dとを含んでいる。
【0068】
図9は、カーカスモデル18aの一例を示す概念図である。図10は、内側ベルトモデル18c及び外側ベルトモデル18dの一例を示す概念図である。図9及び図10に示されるように、繊維材モデル18は、図3(a)、(b)に示した繊維12を有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化した繊維モデル21と、図3(a)、(b)に示したトッピングゴム13を有限個の要素F(i)で離散化したトッピングゴムモデル22を含んでいる。要素F(i)としては、図8に示したゴム部材モデル16の要素F(i)と同様のものが採用される。
【0069】
本実施形態の繊維モデル21の要素G(i)は、ビーム要素として定義される。ビーム要素は、線状に定義された1次元要素である。このようなビーム要素は、2次元のシェル要素や3次元のソリッド要素とは異なり、各繊維12(図3(a)に示す)に作用する長手方向の引張や圧縮を計算することができる。なお、繊維モデル21の要素は、コードの剛性の異方性が定義されたシェル要素として定義されてもよい。このようなシェル要素は、繊維モデル21を短期間にモデル化するのに役立つ。
【0070】
要素G(i)の数値解析法としては、要素F(i)と同一のものが採用される。要素G(i)には、要素番号、節点23の座標値、及び、繊維12(図3(a)に示す)の材料特性(例えば、密度、引張剛性、圧縮剛性、せん断剛性、曲げ剛性、捩り剛性、弾性率、又は、繊維12の長手方向に沿った熱膨張係数)等を含む数値データが定義される。
【0071】
繊維モデル21は、カーカスコード12a(図3(a)に示す)をモデル化したカーカスコードモデル21aと、ベルトコード12b(図3(b)に示す)をモデル化したベルトコードモデル21bとを含んでいる。
【0072】
図9に示されるように、カーカスコードモデル21aは、図3(a)に示したカーカスコード12aの配列に基づいて、要素G(i)がカーカスコード12aに沿って割り当てられることで設定される。これにより、カーカスコードモデル21aは、角度δで配列されたカーカスコード12aを精度良く定義することができる。このカーカスコードモデル21aと、トッピングゴムモデル22とが一体化されることで、カーカスモデル18aが定義される。
【0073】
図10に示されるように、ベルトコードモデル21bは、図3(b)に示したベルトコード12bの配列に基づいて、要素G(i)がベルトコード12bに沿って割り当てられることで設定される。これにより、ベルトコードモデル21bは、角度φで配列されたベルトコード12bを精度良く定義することができる。このベルトコードモデル21bと、トッピングゴムモデル22とが一体化されることで、ベルトモデル18b(内側ベルトモデル18c及び外側ベルトモデル18d)が定義される。
【0074】
工程S2で設定された複数の設計変数の初期値ごとに、形状が互いに異なる複数のタイヤ部材モデル19(本実施形態では、ビードエーペックスゴムモデル16d、サイドウォールゴムモデル16b、及び、クリンチゴムモデル16c)が設定される。各タイヤ部材モデル19は、コンピュータ1に記憶される。
【0075】
次に、本実施形態の生タイヤモデル設定工程S3では、複数のタイヤ部材モデル19を互いに接合して、生タイヤモデル30が定義される(工程S32)。図11は、第1接合体モデル25、第2接合体モデル26、及び、トレッドリングモデル28の一例を示す概念図である。工程S32では、先ず、第1接合体モデル25、第2接合体モデル26、及び、トレッドリングモデル28が設定される。
【0076】
第1接合体モデル25は、第1接合体5(図4(a)に示す)をモデル化したものである。第1接合体モデル25は、インナーライナーゴムモデル16e、カーカスモデル18a、クリンチゴムモデル16c、サイドウォールゴムモデル16b、及び、クッションゴムモデル16kを重ねて配置(接合)することで定義される。各モデル16e、18a、16c、16b及び16kの配置は、工程S2で入力された設計変数の初期値、及び、設計変数以外の設計パラメータに基づいて実施される。各モデル16e、18a、16c、16b及び16kの間には、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。
【0077】
第2接合体モデル26は、第2接合体6(図4(a)に示す)をモデル化したものである。第2接合体モデル26は、ビードコアモデル16f、及び、ビードエーペックスゴムモデル16dを重ねて配置(接合)することで定義される。各モデル16f及び16dの配置は、工程S2で入力された設計変数の初期値、及び、設計変数以外の設計パラメータに基づいて実施される。各モデル16f及び16dの間には、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。
【0078】
トレッドリングモデル28は、トレッドリング8(図4(a)に示す)をモデル化したものである。トレッドリングモデル28は、トレッドゴムモデル16a、内側ベルトモデル18c、外側ベルトモデル18d、及び、カバリングゴムモデル16jを重ねて配置(接合)することで定義される。各モデル16a、18c、18d及び16jの配置は、工程S2で入力された設計変数の初期値、及び、設計変数以外の設計パラメータに基づいて実施される。各モデル16a、18c、18d及び16jの間には、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。
【0079】
図12は、半径方向外側に膨出したケーシングモデル27の一例を示す概念図である。次に、工程S32では、第1接合体モデル25と、第2接合体モデル26とを密着させたケーシングモデル27が設定され、ケーシングモデル27をタイヤ半径方向外側に膨出させる変形計算が行なわれる。
【0080】
工程S32では、ケーシングモデル27のビード部27c、27cのタイヤ軸方向の距離を減じるように、ビード部27c、27cをタイヤ軸方向内側に移動させ、かつ、ケーシングモデル27をタイヤ半径方向外側に膨出させる変形計算が行なわれる。ビード部27c、27cの移動後のタイヤ軸方向の距離は、工程S2で入力された設計変数の初期値(ビードセット幅W2の初期値)に基づいて設定される。
【0081】
ケーシングモデル27の膨出は、ケーシングモデル27の内面に定義される等分布荷重w1に基づいて計算される。等分布荷重w1は、図4(a)に示した生タイヤ2のケーシング7を膨出させる高圧空気の圧力に基づいて設定される。このケーシングモデル27の膨出により、ケーシングモデル27の外面と、トレッドリングモデル28の内面とを接触させることができる。
【0082】
このような変形計算は、図8図10に示した各要素F(i)、G(i)の形状、熱膨張係数、及び、材料特性などに基づいて、微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。このような変形計算は、例えば、JSOL社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算することができる。
【0083】
次に、工程S32では、トレッドリングモデル28(図12に示す)を、ケーシングモデル27側に変形させる。図13は、変形したトレッドリングモデル28の一例を示す概念図である。
【0084】
トレッドリングモデル28の変形は、トレッドリングモデル28の外面に定義される等分布荷重w2に基づいて計算される。等分布荷重w2は、図4(b)に示した生タイヤ2のトレッドリング8の外周面を押し付けるステッチングローラ(図示省略)の圧力に基づいて設定される。これにより、工程S32では、トレッドリングモデル28の内面が、ケーシングモデル27の外面に沿うように、トレッドリングモデル28の変形計算を実施することができる。
【0085】
次に、工程S32では、ビードコアモデル16fよりもタイヤ軸方向外側にはみ出したケーシングモデル27のはみ出し部分27pを、ビードコアモデル16fの廻りで巻き上げる。はみ出し部分27pの巻き上げは、はみ出し部分27pの内面に定義される等分布荷重w3に基づいて実施される。等分布荷重w3は、図4(b)に示した生タイヤ2のはみ出し部分(図示省略)の内面を押し付けるブラダー(図示省略)の圧力に基づいて設定される。
【0086】
次に、工程S32では、タイヤ部材モデル19が互いに離間しないように、密着状態が保持される。密着状態は、タイヤ部材モデル19の接触面に、相対移動を防ぐ境界条件が設定されることで定義できる。これにより、生タイヤモデル30が作成される。図14は、生タイヤモデル30の一例を示す概念図である。
【0087】
このように、生タイヤモデル設定工程S3では、図4(a)、(b)に示した実際の生タイヤ2の成形工程と同様に、複数のタイヤ部材モデル19を互いに接合することで、生タイヤモデル30を設定することができる。これにより、生タイヤモデル設定工程S3では、生タイヤ2を精度良く再現しうる生タイヤモデル30を作成することができる。
【0088】
本実施形態の生タイヤモデル設定工程S3では、工程S2で設定された複数の設計変数の初期値ごとに、形状が互いに異なる複数の生タイヤモデル30が設定される。生タイヤモデル30は、コンピュータ1に記憶される。
【0089】
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1が、予め定められた加硫条件に基づいて、生タイヤモデル30を変形させて、加硫後のタイヤ形状を具えたタイヤモデルを取得する(加硫シミュレーション工程S4)。図15は、金型モデルの内部に配置された生タイヤモデル30の一例を示す概念図である。
【0090】
加硫シミュレーション工程S4は、例えば、特開2016-004484号公報に記載の金型変形工程、タイヤ形状取得工程、及び、熱収縮工程に基づいて実施される。加硫条件は、例えば、上記公報に基づいて、適宜設定することができる。また、生タイヤモデル30の変形計算や熱収縮計算は、上記の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて行うことができる。
【0091】
加硫シミュレーション工程S4では、ブラダーモデル46の膨出により、生タイヤモデル30を半径方向外側に膨出させて、生タイヤモデル30を金型モデル45の成形面45sに押圧することができる。このように、加硫シミュレーション工程S4では、実際の生タイヤ2を加硫成形する工程に基づいて、生タイヤモデル30を変形させることができる。
【0092】
さらに、加硫シミュレーション工程S4では、特開2016-004484号公報に記載の熱収縮工程にもとづいて、熱収縮したタイヤモデル40が計算される。これにより、加硫シミュレーション工程S4では、加硫後のタイヤ形状を精度よく再現しうるタイヤモデル40を取得することができる。タイヤモデル40のゴム部材モデル16の要素F(i)の材料特性には、加硫後のゴム部材の材料特性が定義される。
【0093】
本実施形態の加硫シミュレーション工程S4では、生タイヤモデル設定工程S3で設定された複数の生タイヤモデル30毎に、加硫後のタイヤ形状を具えた複数のタイヤモデル40が取得される。加硫シミュレーション工程S4の一連の処理は、上述の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて行うことができる。タイヤモデル40は、コンピュータ1に記憶される。
【0094】
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1が、予め定められた試験条件に基づいて、タイヤモデル40の変形計算を行い、そこから予め定められたタイヤ性能に関する物理量を取得する(物理量取得工程S5)。図16は、タイヤモデル40及び路面モデル35の一例を示す概念図である。
【0095】
試験条件については、設計方法で求める目的関数に応じて、適宜設定することができる。本実施形態では、バネ定数(縦バネ定数及び横バネ定数)の目的関数、及び、質量の目的関数が求められるため、タイヤモデル40に負荷させる荷重条件(縦荷重及び横荷重)が、試験条件として設定される。なお、転がり抵抗値の目的関数、及び、コーナリングパワーの目的関数が求められる場合には、タイヤモデル40の転動条件(走行速度やスリップアングルなど)が、試験条件として設定される。
【0096】
本実施形態の物理量取得工程S5では、先ず、コンピュータ1に、タイヤモデル40を接触させるための路面モデル35が入力される。図16に示されるように、本実施形態の路面モデル35は、平坦路(図示省略)をモデル化したものが例示されるが、円筒状に形成されたドラム試験機(図示省略)の外周面をモデル化したものでもよい。本実施形態では、路面(本実施形態では、平坦路)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素H(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、路面モデル35が設定される。
【0097】
次に、本実施形態の物理量取得工程S5では、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデル40を計算する。内圧充填後のタイヤモデル40は、従来のシミュレーション方法と同様に、例えば、タイヤモデル40のビード部を拘束し、内圧条件に相当する等分布荷重に基づくタイヤモデル40の変形を計算することで設定することができる。タイヤモデル40の変形計算は、上述の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて行うことができる。
【0098】
次に、本実施形態の物理量取得工程S5では、タイヤモデル40を路面モデル35に接触させて、タイヤ性能に関する物理量が計算される。本実施形態では、試験条件として設定された荷重条件(縦荷重T)に基づいて、内圧充填後のタイヤモデル40を、路面モデル35に接触させた荷重負荷後のタイヤモデル40を求めている。これにより、タイヤモデル40の縦バネ定数が求められる。さらに、内圧充填後のタイヤモデル40に、横荷重(図示省略)が設定されることで、横バネ定数が求められる。また、質量は、内圧充填前のタイヤモデル40の各要素F(i)等に設定された材料特性に基づいて求めることができる。
【0099】
なお、物理量取得工程S5では、予め定められた転動条件(走行速度やスリップアングルなど)に基づいて、荷重負荷後のタイヤモデル40を路面モデル35に転動させることで、転がり抵抗値、及び、コーナリングパワーを求めることができる。
【0100】
本実施形態では、加硫シミュレーション工程S4で取得された複数のタイヤモデル40毎に、タイヤ性能に関する物理量がそれぞれ取得される。取得された物理量は、コンピュータ1に記憶される。
【0101】
次に、本実施形態の設計方法では、目的関数を満足しているか否かが判断される(工程S6)。本実施形態の工程S6では、先ず、物理量取得工程S5でタイヤモデル40毎に計算された物理量を用いて、複数の設計変数(即ち、複数のタイヤモデル40)毎に、工程S1で入力された目的関数が計算される。本実施形態では、バネ定数の目的関数及び質量の目的関数が計算される。
【0102】
次に、工程S6では、複数の設計変数(即ち、複数のタイヤモデル40)のうち、目的関数が最も良好な設計変数が選択される。そして、選択された設計変数の目的関数が、予め定められた条件を満たすか否かが判断される。
【0103】
満足すべき目的関数の条件としては、タイヤ20の種類(カテゴリやタイヤサイズを含む)等に応じて、適宜設定される。本実施形態の条件としては、例えば、タイヤモデル40の質量の減少率が10%以上であり、かつ、縦バネ定数の目的関数(縦バネ定数誤差)、及び、横バネ定数の目的関数(横バネ定数誤差)が2%以下であるものとして定義されている。
【0104】
工程S6において、選択された設計変数が目的関数を満足していると判断された場合(工程S6において、「Y」)、選択された設計変数が、設計変数の最適解として決定され(工程S7)、タイヤを設計する工程S8が実施される。他方、工程S6において、選択された設計変数が目的関数を満足していないと判断された場合(工程S6において、「N」)、次の設計因子の最適解を求める工程S9が実施され、工程S3~工程S6が再度実施される。
【0105】
次に、設計因子の最適解を求める工程S9では、コンピュータ1が、制約条件の下での最適化アルゴリズムに基づいて、目的関数を最適化する設計因子の最適解を求める。本実施形態の工程S9では、制約条件の下で、目的関数が最も良好な設計変数に近づくように、最も良好な設計変数を除く複数の設計因子が更新(世代交代)される。
【0106】
工程S9では、目的関数が最も良好な設計変数(即ち、工程S6で選択された設計変数)に近づくように、最も良好な設計変数を除く複数の設計変数が更新される。本実施形態では、制約条件を満たすように、他の設計変数の設計因子(ビードセット幅W2、ビードエーペックスゴム3dの半径方向の高さH1、サイドウォールゴム3bの厚さW3、及び、クリンチゴム3cの厚さW4)が更新される。このような設計変数の更新(世代交代)は、粒子群最適化(PSO)に基づいて、上記論文等を参考に適宜実施することができる。更新された他の設計変数は、コンピュータ1に記憶される。
【0107】
設計因子の最適解を求める工程S9の後は、目的関数が最も良好な設計変数、及び、更新された設計変数に基づいて、工程S3~工程S6が実施される。したがって、本実施形態の設計方法では、目的関数を満足する生タイヤモデル30の設計因子の最適解を確実に求めることができる。
【0108】
次に、タイヤを設計する工程S8では、最適解を用いて得られた生タイヤモデル30に基づいてタイヤが設計される。本実施形態の工程S8では、生タイヤモデル30の設計因子(本実施形態では、ビードセット幅W2、ビードエーペックスゴム3dの半径方向の高さH1、サイドウォールゴム3bの厚さW3、及び、クリンチゴム3cの厚さW4)の最適解に基づいて、図2に示した生タイヤ2の形状、図4(a)に示した生タイヤ2のタイヤ部材11の形状、及び、成形条件等がそれぞれ設計される。生タイヤ2の形状、生タイヤ2のタイヤ部材11の形状は、例えば、CAD等の設計データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0109】
このように、本実施形態の設計方法では、従来のように、タイヤモデル40(図16に示す)から生タイヤ2(図2に示す)の設計等を別途行わなくても、目的関数を満足するタイヤを製造可能な生タイヤ2、及び、生タイヤ2のタイヤ部材11(図4(a)に示す)を設計することができる。したがって、本実施形態の設計方法では、目的関数を満足するタイヤ20を、能率良く設計することができる。
【0110】
本実施形態では、最適解を用いて得られたタイヤモデル40に基づいて、タイヤの金型が設計される。なお、金型の設計は、熱収縮計算前のタイヤモデル40に基づいて実施されるのが望ましい。これにより、目的関数を満足するタイヤ20をより確実に製造することができる。
【0111】
本実施形態では、設計因子に関連付けられるタイヤ部材モデル19(タイヤ部材11)の形状として、図11に示したサイドウォールゴムモデル16b(サイドウォールゴム3b)の形状、及び、クリンチゴムモデル16c(クリンチゴム3c)の形状が例示されたが、このような態様に限定されない。設計因子に関連付けられるタイヤ部材モデル19の形状としては、例えば、トレッドゴムモデル16a(トレッドゴム3a)の形状や、サイドウォールゴムモデル16b(即ち、サイドウォールゴム3b)の形状でもよい。
【0112】
トレッドゴムモデル16aは、上記したタイヤ性能に関する物理量のうち、接地形状に関するパラメータ、転がり抵抗値、及び、質量に影響する。したがって、接地パラメータの目的関数、転がり抵抗値、及び、質量の目的関数を満足するタイヤを設計する場合、トレッドゴムモデル16a(トレッドゴム3a)の形状が、設計因子として関連付けられるのが望ましい。
【0113】
サイドウォールゴムモデル16bは、上記したタイヤ性能に関する物理量のうち、バネ定数、コーナリングパワー、及び、質量に影響する。したがって、バネ定数の目的関数、コーナリングパワーの目的関数、及び、質量の目的関数を満足するタイヤを設計する場合、サイドウォールゴムモデル16b(サイドウォールゴム3b)の形状が、設計因子として関連付けられるのが望ましい。
【0114】
設計因子は、例えば、繊維材モデル18(繊維材4)の繊維の角度δ、φ(図3図9及び図10に示す)に関連づけられてもよい。このような角度δ、φは、上記したタイヤ性能に関する物理量のうち、接地形状に関するパラメータ、及び、コーナリングパワーに影響する。したがって、接地パラメータの目的関数、及び、コーナリングパワーの目的関数を満足するタイヤを設計する場合、繊維材モデル18(繊維材4)の繊維の角度δ、φが設計因子として関連付けられるのが望ましい。
【0115】
本実施形態の制約条件としては、ビードセット幅W2(図4(b)に示す)の設定可能範囲が設定されたが、このような態様に限定されない。制約条件は、複数のタイヤ部材モデル19(タイヤ部材11)の重量であってもよい。これにより、質量の目的関数を満足する設計因子の最適解を早期に求めることができる。
【0116】
次に、本実施形態の製造方法では、最適解を用いた生タイヤモデル30(図14に示す)に基づいて、生タイヤ2(図2に示す)を成形する工程S10が実施される。工程S10では、工程S8で設計された生タイヤ2のタイヤ部材11の設計データ(CADデータ)に基づいて、生タイヤ2のタイヤ部材11が製造される。そして、工程S10では、図4(a)、(b)に示されるように、生タイヤモデル30の成形条件(例えば、ビードセット幅W2等)に基づいて、タイヤ部材11が互いに接合されることにより、生タイヤ2が製造される。なお、工程S10では、製造された生タイヤ2が、工程S8で設計された生タイヤ2の形状と一致しているか否かが確認されるのが望ましい。
【0117】
次に、本実施形態の製造方法では、生タイヤ2を加硫成形する工程S11が実施される。本実施形態の工程S11では、図5に示されるように、生タイヤ2が加硫金型14に投入されて、生タイヤ2が加硫成形される。これにより、工程S11では、タイヤが製造される。
【0118】
このように、本実施形態の製造方法では、最適解を用いて得られた生タイヤモデル30に基づいてタイヤ20が設計されるため、目的関数を満足するタイヤ20を確実に製造することができる。
【0119】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0120】
図6及び図8に示した処理手順に基づいて、タイヤが設計及び製造された(実施例)。実施例の設計方法では、先ず、目的関数、設計因子、及び、制約条件を入力する工程と、生タイヤモデルの複数の設計変数の初期値を入力する工程とが実施された。
【0121】
次に、実施例の設計方法では、複数の設計変数の初期値に基づいて、生タイヤモデルを設定する工程と、加硫後のタイヤ形状を具えたタイヤモデルを取得する工程と、タイヤ性能に関する物理量を取得する工程と、最適化アルゴリズムに基づいて、目的関数を最適化する前記設計因子の最適解を求める工程とが実施された。
【0122】
そして、設計方法では、最適解を用いて得られた生タイヤモデルに基づいてタイヤを設計する工程が実施された。また、実施例の製造方法では、最適解を用いた生タイヤモデルに基づいて生タイヤを成形する工程と、生タイヤを加硫成形する工程とが実施されることで、タイヤが製造された。そして、製造されたタイヤについて、設計方法で取得されたタイヤモデルと同一形状か否か、及び、設計方法で計算された目的関数(タイヤ性能)を満足するか否かが判断された。実施例の仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:225/30R20
目的関数:
バネ定数の目的関数:
縦バネ定数の目的関数
=|タイヤモデルの縦バネ定数-目標縦バネ定数|/目標縦バネ定数
縦バネ定数の目的関数の条件:
縦バネ定数の目的関数が0.02(2%)以下
横バネ定数の目的関数
=|タイヤモデルの横バネ定数-目標横バネ定数|/目標横バネ定数
横バネ定数の目的関数の条件:
横バネ定数の目的関数が0.01(1%)以下
質量の目的関数=(基準質量-タイヤモデルの質量)/基準質量
質量の目的関数の条件:0.01(1%)以上
制約条件:ビードセット幅W2の設定可能範囲(150mm~160mm)
設計変数:
ビードセット幅W2
ビードエーペックスゴムの半径方向の高さH1
サイドウォールゴムの厚さW3
クリンチゴムの厚さW4
【0123】
図17(a)は、最適化前のタイヤモデルの一部を示す概念図、(b)は、最適化後のタイヤモデルの一部を示す概念図である。テストの結果、実施例は、目的関数を満足する(縦バネ定数の目的関数0.5%、横バネ定数の目的関数が1%、及び、質量の目的関数が1.2%)の設計因子の最適解を求めることができた。実施例の設計因子の最適解は次のとおりである。
ビードセット幅W2:初期値+4mm
ビードエーペックスゴムの半径方向の高さH1:初期値-5mm
サイドウォールゴムの厚さW3:初期値+1mm
クリンチゴムの厚さW4:初期値+1mm
【0124】
そして、実施例では、最適解に基づいて設計及び製造されたタイヤと、設計方法で取得されたタイヤモデルとの誤差(質量差)が100gであり、タイヤセクション(即ち、トレッド部、サイドウォール部、及び、ビード部)毎に構造を確認し、略同一形状であることが確認できた。さらに、製造されたタイヤは、設計方法で求められたタイヤモデルと同様に、目的関数(タイヤ性能)を満足することが確認できた。実施例の設計方法では、最適化されたタイヤから加硫される前の生タイヤの設計する従来の方法に比べて、設計に要する期間を50%削減できた。したがって、実施例は、能率良くタイヤを設計することができた。
【符号の説明】
【0125】
S3 生タイヤモデル設定工程
S4 加硫シミュレーション工程
S5 物理量を取得する工程
S9 設計因子の最適解を求める工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17