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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】水性分散体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20220623BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20220623BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20220623BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20220623BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K5/17
C08J3/05 CES
C09J123/26
C09J11/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017190842
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2018168348
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017067988
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉野 剛正
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031302(JP,A)
【文献】特開2017-031522(JP,A)
【文献】国際公開第2014/007187(WO,A1)
【文献】特開平06-145286(JP,A)
【文献】国際公開第2006/129804(WO,A1)
【文献】特開2010-185084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00 - 23/36
C08K 5/00 - 5/59
C08J 3/00 - 3/28
C09J 123/00 - 123/36
C09J 11/00 - 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン成分がエチレン成分のみからなり、かつ無水マレイン酸成分により酸変性された酸変性ポリオレフィン樹脂、2種類以上の3級アミン、および水性媒体を含有し、
25℃における粘度が1000mPa・s以上であることを特徴とする接着層形成用水性分散体。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン樹脂が、樹脂の構成成分としてアクリル酸エステル成分を含有することを特徴とする請求項1記載の接着層形成用水性分散体。
【請求項3】
3級アミンが、沸点50℃~210℃であることを特徴とする請求項1または2記載の接着層形成用水性分散体。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の接着層形成用水性分散体。
【請求項5】
水性分散体中に含まれる3級アミンの合計含有量が0.8質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の接着層形成用水性分散体。
【請求項6】
オレフィン成分がエチレン成分のみからなり、かつ無水マレイン酸成分により酸変性された酸変性ポリオレフィン樹脂、2種類の3級アミン、および水性媒体を原料とすることを特徴とする請求項1~5いずれかに記載の接着層形成用水性分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高粘度の水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、環境保護、省資源、作業性の観点から水性分散体として様々な用途に用いられている。
これら水性分散体は目的に応じて1000mPa・s以上の高粘度タイプが求められる場合がある。高粘度にする目的で水性分散体の固形分濃度を高濃度にしていくと、水性分散体がゲル化して均一な分散体が得られなかったり、ろ過時にフィルター詰まりして生産性に劣ることがあった。
【0003】
特許文献1には、酸変性ポリオレフィン樹脂に高分子乳化剤を用いて水性分散化する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-234243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された水性分散液は、乳化剤を含有しているため基材への密着性、耐水性や耐アルカリ性等の種々物性で劣るおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、乳化剤等の不揮発性水性化助剤を用いることなく、ろ過性に優れ、ゲル化しない均一な高粘度の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の酸変性ポリオレフィン樹脂と2種類以上の有機アミン化合物と水性媒体とを含有する水性分散体を用いることで上記課題が解決できることを見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂、2種類以上の有機アミン化合物、および水性媒体を含有し、25℃における粘度が1000mPa・s以上であることを特徴とする水性分散体。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂がアクリル酸エステル成分を含有することを特徴とする(1)記載の水性分散体。
(3)有機アミン化合物が、沸点50℃~210℃であることを特徴とする(1)または(2)記載の水性分散体。
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする(1)~(3)いずれかに記載の水性分散体。
(5)水性分散体中に含まれる有機アミン化合物の含有量が0.8質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする(1)~(4)いずれかに記載の水性分散体。
(6)酸変性ポリオレフィン樹脂、2種類の有機アミン化合物、および水性媒体を原料とすることを特徴とする(1)~(5)いずれかに記載の水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性分散体は、25℃における粘度が1000mPa・s以上の高粘度でありながらろ過性に優れ、ゲル化せず保存安定性に優れている。また、本発明の水性分散体を塗布して得られた塗膜は、接着性、耐水性に優れている。本発明の水性分散体は高粘度であるため、塗布面積の小さい基材等、高粘度タイプが求められている用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂と2種類以上の有機アミン化合物と水性媒体とを含有する。
【0011】
酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のアルケンや、ノルボルネン等のシクロアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが好ましく、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンがより好ましく、特にエチレン、プロピレンが好ましい。
オレフィン成分の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材密着性等のポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまう場合がある。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、基材との密着性、25℃において1000mPa・s以上の高粘度にする観点で、無水マレイン酸成分により酸変性されていることが好ましい。
無水マレイン酸成分の含有量は、基材との密着性の点から、酸変性ポリオレフィン樹脂の0.1~25質量%であることが好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~8質量%がさらに好ましく、1~5質量%が特に好ましい。
無水マレイン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、接着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂の40質量%以下であることが好ましく、様々な熱可塑性樹脂基材との良好な接着性を持たせるために、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が40質量%を超えるとオレフィン由来の樹脂の性質が失われ、基材との密着性が低下するおそれがある。
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材との密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。)
【0014】
上記成分以外に他の成分を酸変性ポリオレフィン樹脂全体の10質量%以下程度、含有していてもよい。他の成分としては、ジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、通常0.01~5000g/10分、好ましくは0.1~1000g/10分、より好ましくは1~500g/10分、さらに好ましくは2~300g/10分、特に好ましくは2~200g/10分のものを用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、基材との密着性が低下する。一方、酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、塗膜は硬くてもろくなり、接着性や基材との密着性が低下してしまう傾向にある。
【0016】
これら酸変性ポリオレフィン樹脂は、市販品を好適に使用することができ、市販品の例としてはアルケマ社製「ボンダイン」、「ロタダー」、三洋化成社製「ユーメックス」、三井化学社製「ケミパール」、「タフマー」、日本製紙ケミカル社製「アウローレン」などが挙げられる。
【0017】
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂を分散化する際に使用する有機溶剤を含有してもよい。
【0018】
本発明は、水性化助剤を用いずとも、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に安定的に分散することができるが、必要に応じて不揮発性の水性分散化助剤を用いても良い。
【0019】
ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0020】
本発明において、水性分散体の使用目的においては、本発明の効果を損ねない範囲で水性分散化助剤を用いてもよく、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以下、好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下の範囲で含有していても構わない。
【0021】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0022】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0023】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン-プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物等が挙げられる。
【0024】
本発明の水性分散体は、25℃における粘度が1000mPa・s以上であることが必要であり、下限は2000mPa・s以上であることが好ましい。また、上限は、5000mPa・s以下であることが好ましく、4000mPa・s以下であることがより好ましい。
水性分散体の粘度が25℃において1000mPa・s未満であると、たとえば、水性分散体の流動性が高すぎるため塗工する箇所が線状や点状といった塗布面積の小さい用途では、塗膜厚みが十分に確保できず接着性が劣る場合がある。本発明の水性分散体を1000mPa・s以上の粘度にするためには、酸変性ポリオレフィン樹脂の体積平均粒子径と樹脂含有率を後述する好ましい範囲にすることが好ましい。
【0025】
本発明の水性分散体における酸変性ポリオレフィン樹脂の体積平均粒子径は、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な接着層形成能を発現させる点で、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の体積平均粒子径が100nmを超えると、水性分散体は粘度が上がりにくく、25℃において1000mPa・s以上の高粘度に調整することが難しく、効果が十分に発揮できないおそれがある。
本発明の水性分散体における酸変性ポリオレフィン樹脂の体積平均粒子径を100nm以下にするためのメカニズムはよくわからないが、2種類の有機アミン化合物を含有することで達成できる。
【0026】
このような有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等を挙げることができる。
有機アミン化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミンに分類され、なかでも3級アミンが水性分散体の粘度を高くでき、体積平均粒子径を小さくできる観点で好ましい。3級アミンとしては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0027】
有機アミン化合物は後述する水性分散化の際には酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子径を小さくするために水性分散体中に含有している必要があるが、塗工後の塗膜中には、接着性、耐水性向上の観点で揮発して残存していない方が好ましい。前記理由から、有機アミン化合物の沸点は、50~210℃であることが好ましく、50~210℃であることがより好ましく、60~180℃であることがさらに好ましい。沸点が50℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子径が大きくなる傾向にある。一方、沸点が210℃を超えると水性分散体塗工後の乾燥工程によって有機アミン化合物を揮発させることが困難になり、接着性や塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0028】
本発明の水性分散体中に含有する有機アミン化合物の含有量は、水性分散体の粘度向上と水性分散体における酸変性ポリオレフィン樹脂の体積平均粒子径を小さくする観点で、2種類の有機アミン化合物の合計含有量として、0.8~5.0質量%が好ましく、0.8~3.0質量%がより好ましく、1.0~2.5質量%がさらに好ましい。また、1種類ずつの含有量としては、0.1~3.0質量%が好ましく、0.2~2.5質量%がより好ましく、0.2~2.0質量%がさらに好ましい。
【0029】
次に、本発明の水性分散体の製造方法を説明する。
本発明の水性分散体の製造方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂が2種類の有機アミン化合物を含む水性媒体中に均一に混合・分散される方法であれば、限定されるものではないが、たとえば、酸変性ポリオレフィン樹脂の原料樹脂を、水や溶媒と共に攪拌・加熱を行って水性分散体を得る方法が挙げられる。
【0030】
酸変性ポリオレフィン樹脂の分散化を容易にするために、水性媒体は、20℃における水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤を含有してもよい。
有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール-n-ブチルエーテル等のエチレングリコール誘導体類が挙げられる。
酸変性ポリオレフィン樹脂の分散化のために添加する有機溶剤の量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、20質量部以下が好ましく、16質量部以下がより好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の分散化において20質量部を超えて有機溶剤を添加すると、得られる水性分散体は、脱溶剤に長時間を要して生産性が低下したり、ゲル化するおそれがある。
【0031】
酸変性ポリオレフィン樹脂の分散化において、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基は、塩基性化合物によってその一部を中和することが好ましい。塩基性化合物によってカルボキシル基または酸無水物基をアニオン化し、アニオンの静電気的反発力によって水性媒体中における樹脂微粒子間の凝集が防がれ、良好な分散化が達成される。
【0032】
水性分散体の製造時に上記の有機溶剤や有機アミン化合物を用いた場合には、樹脂の水性化の後に、その一部を、一般に「ストリッピング」と呼ばれる脱溶剤処理によって系外へ留去させ、有機溶剤や有機アミン化合物の含有量を低減させることができる。
ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤や有機アミン化合物を留去する方法が挙げられる。また、水性媒体が留去されることにより、固形分濃度が高くなるので、例えば、粘度が上昇して作業性が低下するような場合には、予め水性分散体に水を添加しておいてもよい。
【0033】
水性分散体における樹脂含有率は、製膜条件、目的とする接着層の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、25℃における水性分散体の粘度を1000mPa・s以上とし、かつ良好な接着層形成能を発現させる点で、1~50質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましく、5~45質量%がさらに好ましく、5~40質量%が特に好ましい。
【0034】
本発明の水性分散体には、耐薬品性などの各種の塗膜性能をさらに向上させる目的で、架橋剤を含有させてもよい。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、アジリジン化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。
【0035】
本発明の水性分散体は、基材に塗工して塗膜を形成して積層体を作製することができ、この積層体を二層以上積層してもよい。
基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、紙、ガラス、炭素繊維などが挙げられる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられ、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられ、これらのフィルム形状や不織布形状、成形体形状などが挙げられる。紙としては、濾紙や化繊紙などが挙げられる。ガラスとしては、ガラスクロスなどが挙げられ、炭素繊維としては炭素繊維シートが挙げられる。
【0036】
本発明の水性分散体を、基材に塗工する方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法などが挙げられる。また、本発明の水性分散体は高粘度であるためスポイトなどを用いて局所的に塗工することも可能である。水性分散体を基材の必要な箇所に塗布したのち、60~150℃で60秒程度乾燥することにより、基材上に塗膜が形成された積層体が得られる。
【0037】
本発明の水性分散体は、高粘度が求められる基材や用途に用いることができる。たとえば、フィルターや段ボールといった立体図形を隙間なく並べた基材どうしを接着させたり、フロアマットのように接着層に植毛するような、「面」ではなく「線」や「点」で接着する用途や、紙など表面が粗面な被着体に対しても接着できる転写シート用接着剤や、溶融樹脂で接着層が薄くならないインモールド成型用の接着剤というような分厚い塗膜が要求される用途に好適である。
【実施例
【0038】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0039】
水性分散体の特性は下記の方法で測定した。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
H-NMR分析装置(日本電子社製 ECA500、500MHz)より求めた。テトラクロロエタン(d)を溶媒とし、120℃で測定した
【0040】
(2)固形分濃度
水性分散体を適宜秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0041】
(3)有機アミン化合物の含有量
水性分散体中の有機アミン化合物の含有量は、アセトニトリル溶媒で抽出し、LC/MS(Agilent製6100 LC-MSシステム)で分析、測定した。LC/MS分析は、以下の条件で行った。
<LC>
カラム:ZORBAX SB-C18 φ2.1×50mm、1.8μm
オーブン温度:35℃
移動相A:10mM 酢酸アンモニウム水溶液
移動相B:アセトニトリル
グラジエント(B conc.(%)):0min(30%)→4min(100%)post time 4min
流速:0.2mL/min
<MS>
イオン化法:ESI
乾燥ガス:N、12L/min
乾燥ガス温度:300℃
質量範囲:Low 50~1000
【0042】
(4)体積平均粒子径
粒子径分布測定装置(日機装社製Nanotac wave)を使用して求めた。
【0043】
(5)粘度
B型粘度計(東機産業社製)を用いてJIS Z 8803に準拠して温度25℃で測定し粘度を求めた。
【0044】
(6)ろ過性
400メッシュのステンレスフィルター(線径0.025mm、平織)を使用し、加圧ろ過(空気圧0.2MPa)を行った。このとき1時間でろ過が完了したエマルションの重量を測定した。実用的には、1時間あたりのろ過重量が100kg以上であることが求められており、ろ過重量が多いほどろ過性が良好である。
【0045】
(7)保存安定性
水性分散体を25℃の恒温室中に保管し、3か月後のゲル発生の有無、粘度により、保存安定性を評価した。
○:ゲルが生じない。
△:水性分散体のゲル化は生じないが、粘度が200mPa・s以上上昇する、または初期の2倍以上に粘度が上昇する。
×:ゲルが生じる。
【0046】
(8)接触角(塗工性)
接触角計(協和界面科学社製、CA-A型)より求めた。基材(ユニチカ社製エンブレット)上に水性分散体を滴下し、接触角を測定し、浸透性により、塗工性を評価した。接触角が低いと基材へ浸透してしまい、基材表面に接着層を形成するのに支障が出る。
◎:70度以上。基材に殆ど浸透しない。
○:50度以上、70度未満。基材へあまり浸透しない。
△:30度以上、50度未満。基材への浸透が見られる。
×:0度以上、30度未満。基材へ浸透しやすい。
【0047】
水性分散体から形成された塗膜の特性は下記の方法で測定した。
(9)接着強度
平面基材(ライナー)として、ポリエステル(ユニチカ社製エンブレット)、ポリエチレン(タマポリ社製LDPE)、紙(安積濾紙社製化繊紙)を使用して、それぞれに水性分散体をバーコーター♯10で塗布し、未乾燥の塗膜上に、コルゲート加工した同種の材料からなる波板基材(フルート)をそれぞれ重ねて、90℃、60秒間の条件で乾燥して、コルゲートハニカム構造の積層体を作製した。
引張・圧縮万能試験機(INTESCO社製)を使用し、重ね合わせた平面基材と波板基材とが剥離する際の強度を測定し、接着強度を求めた。コルゲートハニカム構造の接着強度は0.5N/25mm以上であれば実用的であり、1.0N/25mm以上であることが好ましく、1.5N/25mm以上であることがより好ましい。
【0048】
(10)耐水性(水浸漬後の外観評価)
25μm厚みのポリエチレンフィルム(タマポリ社製LDPE)に水性接着剤をバーコーターで乾燥厚み3μmとなるように塗布し、100℃、60秒間の条件で乾燥して積層体を形成した。得られた積層体を、5cm角にカットして、20℃の水に24時間浸漬し、外観を観察した。以下の指標で耐水性を2段階で評価した。
○:塗膜の膨潤なし
×:塗膜の膨潤あり
【0049】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて90gの酸変性ポリオレフィン樹脂〔アルケマ社製、ボンダインHX-8290(以下、HX-8290と示す)〕、60.0gのイソプロパノール、3.0gのN,N-ジメチルエタノールアミン(以下、DMEAと示す)、3.0gのトリエチルアミン(以下、TEAと示す)、および144.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈殿は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140~145℃に保ちさらに30分間撹拌した。
回転速度300rpmのまま撹拌しつつ25℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体E-1を得た。
【0050】
実施例2
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて90gのHX-8290、60.0gのイソプロパノール、3.0gのDMEA、3.0gのTEA、および144.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈殿は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140~145℃に保ちさらに30分間撹拌した。
その後、イソプロパノール60gを脱溶剤し、固形分濃度が30質量%になるように水で希釈し調整した。このときトリエチルアミンも留去されて残存量が0.2質量%となることを確認した。
回転速度300rpmのまま撹拌しつつ25℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体E-2を得た。
【0051】
実施例3
樹脂の仕込み量を105.0gに変更し、蒸留水の仕込み量を129.0gに変更して固形分濃度が35質量%になるよう調製した以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-3を得た。
【0052】
実施例4
樹脂の仕込み量を111.0gに変更し、蒸留水の仕込み量を123.0gに変更して固形分濃度が37質量%になるよう調製した以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-4を得た。
【0053】
実施例5
樹脂の仕込み量を117.0gに変更し、水の仕込み量を117.0gに変更して固形分濃度が39質量%になるよう調製した以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-5を得た。
【0054】
実施例6
DMEAの添加量を6.0gに変更し、水の仕込み量を126.0gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、水性分散体E-6を得た。
【0055】
実施例7
DMEAの代わりにトリエタノールアミンを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-7を得た。
【0056】
実施例8
TEAの代わりにトリエタノールアミンを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-8を得た。
【0057】
実施例9~10
酸変性ポリオレフィン樹脂をHX-8290に代えて日本製紙ケミカル社製アウローレン250S(実施例9)、三洋化成社製ユーメックス1001(実施例10)を用いた以外はそれぞれ実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-9、E-10を得た。
【0058】
比較例1
蒸留水の添加量を147gに変更し、TEAを添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-11を得た。
【0059】
比較例2
蒸留水の添加量を144g、DMEAの添加量を6.0gに変更し、TEAを添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、
水性分散体E-12を得た。
【0060】
比較例3
蒸留水の添加量を147gに変更し、DMEAを添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-13を得た。
【0061】
比較例4
TEAの代わりにアンモニアを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-14を得た。
【0062】
比較例5
DMEAの代わりにアンモニアを添加した以外は実施例3と同様の操作を行い、水性分散体E-15を得た。
【0063】
比較例6~7
酸変性ポリオレフィン樹脂をHX-8290に代えて日本製紙ケミカル社製アウローレン250S(比較例6)、三洋化成社製ユーメックス1001(比較例7)を用いた以外はそれぞれ実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-16、E-17を得た。
【0064】
比較例8~9
TEAの代わりに水酸化ナトリウム(比較例8)、水酸化カリウム(比較例9)を添加した以外はそれぞれ実施例1と同様の操作を行い、水性分散体E-18、E-19を得た。
【0065】
比較例10
酸変性ポリオレフィン樹脂をHX-8290に代えてダウケミカル社製プリマコール5980Iを用いた以外は実施例3と同様の操作を行い、水性分散体E-20を得た。
【0066】
比較例11
TEAを添加しなかった以外は実施例3と同様の操作を行い、水性分散体E-21を得た。
【0067】
比較例12
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて90gの酸変性ポリオレフィン樹脂HX-8290、日本合成化学工業社製のビニルアルコール系樹脂ニチゴーGポリマー50%水溶液の固形分18gを60.0gのイソプロパノール、132.0 gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈殿は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140~145℃に保ちさらに30分間撹拌した。
回転速度300rpmのまま撹拌しつつ25℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体E-22を得た。
【0068】
使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示し、実施例、比較例の水性分散体の特性、評価結果を表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1~10の水性分散体のように、2種類の有機アミン化合物を用いて製造することで体積平均粒子径を小さくすることができ、25℃における粘度が1000mPa・s以上の高粘度にすることができ、ろ過性も優れていた。また、高粘度の水性分散体が得られたことで、線や点で塗布するような塗布面積の小さい場合であっても基材上に十分な量を塗布することが可能であり高い接着強度を示し、塗膜の耐水性も良好であった。
【0072】
一方、比較例1~9の水性分散体は、有機アミン化合物が1種類であり2種類を併用しなかったため、体積平均粒子径が好ましい範囲を外れ、粘度が低く、線や点で塗布するような塗布面積の小さい基材に塗布した場合、接着強度が劣っていた。
比較例11の水性分散体は、有機アミン化合物が1種類であるものの、固形分濃度を高くすることで粘度を高くすることはできたが、ろ過性が低く生産性に劣っていた。また、保存安定性に劣っていた。
比較例10の水性分散体は、粘度が1000mPa・s以上を満たしていなかったため、線や点で塗布するような塗布面積の小さい基材に塗布した場合、接着強度が劣っていた。
比較例12の水性分散体は、乳化剤を用いた高粘度水性分散体であり、ろ過性が低く生産性に劣り、保存安定性も劣っていた。また、塗膜の耐水性に劣っていた。