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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】耐水性ミルブランク
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/71 20200101AFI20220623BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20220623BHJP
   A61C 13/003 20060101ALI20220623BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20220623BHJP
   A61C 13/10 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20220623BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20220623BHJP
【FI】
A61K6/71
A61C13/00
A61C13/003
A61C13/08
A61C13/10
A61K6/60
A61K6/76
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017250152
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019116431
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】平松 尚悟
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054507(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/021343(WO,A1)
【文献】特開2008-007381(JP,A)
【文献】国際公開第2012/042911(WO,A1)
【文献】特開2007-238567(JP,A)
【文献】Dental Materials Journal (2014), 33(5), p.705-710
【文献】Dental Materials Journal (2017-01-30),36(1), p.88-94
【文献】Journal of Oral Science (2016), 58(2),p.151-155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61C 13/00-13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
37℃の水に1週間浸漬させた際の3点曲げ強さの低下率が10%以下であり、
水に対する接触角90°以上であり、
重合性単量体(c)の重合硬化物と、
フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)、及び重合性単量体と共重合し得る官能基を有するシランカップリング剤(b-2)によって表面処理されてなる無機充填材とを含み、
前記表面処理が、前記シランカップリング剤(b-1)及びシランカップリング剤(b-2)による表面処理のみであり、
前記重合性単量体(c)が、二官能性(メタ)アクリレートを含み、
前記シランカップリング剤(b-2)の重合性単量体と共重合し得る官能基が、(メタ)アクロイルオキシ基、ビニル基、又はグリシドキシ基であり、
前記無機充填材が、ガラス又はシリカを含み、
前記フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)が、1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン」、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、及び
下記一般式(I)で表されるシランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、歯科用ミルブランク。
1 n -SiX 4-n (I)
[式中、R 1 はパーフルオロアリール基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は水素原子を示し、nは1~3の整数であり、但し、R 1 及びXが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
Xが炭素数1~4のアルコキシ基である、請求項1に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項3】
前記シランカップリング剤(b-2)の重合性単量体と共重合し得る官能基が、(メタ)アクロイルオキシ基である、請求項1又は2に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項4】
無機充填材をプレス成形して無機充填材成形体を得る工程、
前記無機充填材成形体と重合性単量体(c)及び重合開始剤(d)を接触させて重合硬化させる工程、及び
前記無機充填材及び/又は前記無機充填材成形体を、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)及びシランカップリング剤(b-2)のみで表面処理する工程を含み、
前記重合性単量体(c)が、二官能性(メタ)アクリレートを含み、
前記シランカップリング剤(b-2)の重合性単量体と共重合し得る官能基が、(メタ)アクロイルオキシ基、ビニル基、又はグリシドキシ基であり、
前記無機充填材が、ガラス又はシリカを含み、
前記フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)が、1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン」、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、及び
下記一般式(I)で表されるシランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
歯科用ミルブランクの製造方法。
1 n -SiX 4-n (I)
[式中、R 1 はパーフルオロアリール基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は水素原子を示し、nは1~3の整数であり、但し、R 1 及びXが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項5】
無機充填材を、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)及びシランカップリング剤(b-2)のみで表面処理する工程、
前記無機充填材と重合性単量体(c)を混練させてペーストを得る工程、及び
前記ペーストを金型に填入し、加圧圧縮した後に重合硬化させる工程を含み、
前記重合性単量体(c)が、二官能性(メタ)アクリレートを含み、
前記シランカップリング剤(b-2)の重合性単量体と共重合し得る官能基が、(メタ)アクロイルオキシ基、ビニル基、又はグリシドキシ基であり、
前記無機充填材が、ガラス又はシリカを含み、
前記フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)が、1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン」、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、及び
下記一般式(I)で表されるシランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
歯科用ミルブランクの製造方法。
1 n -SiX 4-n (I)
[式中、R 1 はパーフルオロアリール基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は水素原子を示し、nは1~3の整数であり、但し、R 1 及びXが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項6】
Xが炭素数1~4のアルコキシ基である、請求項4又は5に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。
【請求項7】
前記シランカップリング剤(b-2)の重合性単量体と共重合し得る官能基が、(メタ)アクロイルオキシ基である、請求項4~6のいずれか1項に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ミルブランク及び該歯科用ミルブランクの製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、歯科用CAD/CAMシステムでの切削加工による、インレー、オンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント)等の歯科用補綴物の作製に好適に用いられる歯科用ミルブランク及び該歯科用ミルブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インレー、クラウン等の歯科用補綴物を、コンピューターによって設計し、ミリング装置により切削加工して作製するCAD/CAMシステムが普及している。一般に、CAD/CAMシステムに用いられる被切削材料である歯科用ミルブランクは、切削加工に供されるミルブランク部と、ミルブランク部から突出し、ミルブランク部をミリング装置に固定するための支持部と、を含む。
【0003】
ミルブランク部の素材としては、審美性の観点から、セラミック材料が一般に用いられてきた。ところが、セラミック製ミルブランクから作製された歯科用補綴物は、硬度が高い脆性材料であるため、対合歯に損傷を与えるだけでなく、切削加工又は咬合の衝撃によって欠けが生じるといった課題があった。
【0004】
このような課題を解決するために、最近では、ポリマーと無機充填材を含む複合材料からなるミルブランク部の検討が行なわれている。ミルブランク部は、対合歯を傷つけない適度な硬度を有し、クラウン形状においても耐衝撃性に優れることから歯科用補綴物に加工されて臨床で使われ始めている。
【0005】
前記複合材料からなるミルブランク部の製造方法として、特許文献1~5には、無機充填材と重合性単量体とを混合練和して得られた均一なペースト状の組成物(コンポジットレジン)を鋳型に流し込み、鋳型の中で加熱重合、光重合等の重合を行うことによって、硬化物であるミルブランク部を得る方法が開示されている。コンポジットレジンからミルブランク部を得る方法では、重合前のコンポジットレジンが、ある程度高い流動性を有する必要があり、無機充填材の配合比率を上げることが困難である。そのため、前記特許文献に記載のミルブランク部から得られた歯科用補綴物は、機械的強度、耐摩耗性及び表面滑沢性が十分ではなかった。
【0006】
これに対して、特許文献6には、無機充填材の成形体と重合性単量体を含む組成物とを接触させて成形体に重合性単量体を含浸させた後に、重合性単量体を重合させることによって、ミルブランク部を製造する方法が開示されている。このような方法で得られたミルブランク部からは、機械的強度、耐摩耗性、表面滑沢性、及び対合歯の耐摩耗性に優れる歯科用補綴物を得ることができる。
【0007】
一方、近年、例えば大臼歯や小臼歯といった、強い咬合力が加わる部位に用いられる歯科用補綴物には、より高い機械的強度が望まれているが、一般的にコンポジットレジンは、吸水によって強度が低下することが知られており、耐水性に優れるものが求められている。
【0008】
そういった中の試みとして、レジン系の歯科用修復材料の表面への変着色やプラークの蓄積を抑制するために、主鎖両末端にフルオロアルキル基を含有するシリコンオリゴマーを有効成分とするコーティング剤(例えば、特許文献7参照)、モノマーの一部として含フッ素(メタ)アクリレートを含有する義歯床用裏装材やコーティング組成物(例えば、特許文献8~9参照)、アクリル酸などの極性基を有するモノマーとフッ素原子を含有するモノマーを共重合させることによって得られた含フッ素ポリマーを含有するコーティング組成物(例えば、特許文献10参照)などのフッ素系材料を応用した歯科材料が提案されている。しかしながら、これらの歯科材料には、モノマーを主成分として機能する材料(例えば、接着材、コーティング剤)では効果的であるものの、無機充填材が主であり、モノマー量が制限されるレジン系材料に対しては、効果が小さいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2003-529386号公報
【文献】特開平10-323353号公報
【文献】特開2012-87204号公報
【文献】国際公開第2012/042911号
【文献】国際公開第2009/154301号
【文献】国際公開第2014/021343号
【文献】特開平5-155730号公報
【文献】特開2000-312689号公報
【文献】特開2003-95838号公報
【文献】特表平10-510531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、口腔内のように水が存在する環境下においても、機械的強度の低下を抑制することができる耐水性に優れた歯科用ミルブランク及びその簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]37℃の水に1週間浸漬させた際の3点曲げ強さの低下率が20%以下である、歯科用ミルブランク。
[2]水に対する接触角が60°以上である、前記[1]に記載の歯科用ミルブランク
[3]フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)で表面処理されてなる無機充填材を含む、前記[1]又は[2]に記載の歯科用ミルブランク。
[4]前記シランカップリング剤(b-1)が、下記一般式(I)
1 n-SiX4-n (I)
[式中、R1は炭素数1~12のパーフルオロ炭化水素基、又は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有する炭素数1~12の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1及びXが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるシランカップリング剤である、前記[3]に記載の歯科用ミルブランク。
[5]前記無機充填材が、さらに、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するシランカップリング剤(b-2)で表面処理されてなる無機充填材である、前記[3]又は[4]のいずれかに記載の歯科用ミルブランク。
[6]無機充填材をプレス成形して無機充填材成形体を得る工程、
前記無機充填材成形体と重合性単量体(c)及び重合開始剤(d)を接触させて重合硬化させる工程、及び
前記無機充填材及び/又は前記無機充填材成形体を、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)で表面処理する工程を含む、
歯科用ミルブランクの製造方法。
[7]無機充填材を、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)で表面処理する工程、
前記無機充填材と重合性単量体(c)を混練させてペーストを得る工程、及び
前記ペーストを金型に填入し、加圧圧縮した後に重合硬化させる工程を含む、
歯科用ミルブランクの製造方法。
[8]前記シランカップリング剤(b-1)が、下記一般式(I)
1 n-SiX4-n (I)
[式中、R1は炭素数1~12のパーフルオロ炭化水素基、又は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有する炭素数1~12の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1及びXが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるシランカップリング剤である、前記[6]又は[7]に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、撥水性を有する歯科用ミルブランクを提供することができ、37℃の水に1週間浸漬させた際の3点曲げ強さの低下率を20%以下に抑制可能となる。また、本発明の歯科用ミルブランクは、無機充填材の滑り性が向上するため、得られる無機充填材成形体の密度、並びに初期曲げ強さに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の歯科用ミルブランクは、37℃の水に1週間浸漬させた際の3点曲げ強さの低下率が20%以下である。
【0014】
本発明の歯科用ミルブランクは、撥水性を有し、水の浸入による機械的強度の低下を抑制できるため、37℃の水に1週間浸漬させた際の3点曲げ強さの低下率が20%以下であり、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。なお、該3点曲げ強さの低下率の測定方法は、後述の実施例において詳細を説明する。
【0015】
本発明の歯科用ミルブランクは、水に対する接触角が60°以上であることが好ましい。これにより、機械的強度の低下を抑制することができる。該接触角は65°以上がより好ましく、90°以上であることがさらに好ましい。水に対する接触角は、170°以下であってもよく、150°以下であってもよく、130°以下であってもよい。なお、該接触角の測定方法は、後述の実施例において詳細を説明する。
【0016】
本発明の歯科用ミルブランクは、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)(以下、シランカップリング剤(b-1)という。)で表面処理されてなる無機充填材を含むことが好ましい。これにより、歯科用ミルブランクは、耐水性に優れ、口腔内のように水が存在する環境下における機械的強度の低下を抑制することができる。さらに、シランカップリング剤(b-1)で無機充填材を表面処理することにより、無機充填材の滑り性を向上させることができるため、無機充填材をプレス成形して得られる無機充填材成形体を用いる場合、無機充填材成形体の密度を高くすることができ、初期曲げ強さに優れる歯科用ミルブランクが得られる。
【0017】
前記シランカップリング剤(b-1)としては、口腔内のように水が存在する環境下における機械的強度の低下をより抑制することができ、無機充填材の滑り性をより向上させることができる点から、下記一般式(I)
1 n-SiX4-n (I)
[式中、R1は炭素数1~12のパーフルオロ炭化水素基、又は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有する炭素数1~12の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は水素原子を示し、nは0~3の整数、但し、R1及びXが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されるものを用いることが好ましい。
【0018】
1の炭素数1~12のパーフルオロ炭化水素基としては、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基、パーフルオロアルキニル基、パーフルオロシクロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアラルキル基等が挙げられ、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基が好ましい。パーフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。パーフルオロアルキル基の炭素数は、特に限定されず、1~10であってもよく、1~6であってもよい。パーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基等が挙げられる。パーフルオロアリール基としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ-1-ナフチル基、ヘプタフルオロ-2-ナフチル基が挙げられる。
【0019】
1の炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有する炭素数1~12の炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。前記パーフルオロアルキル基は、前記したものうち、炭素数1~6のものが挙げられる。前記炭化水素基部分の炭素数としては、特に限定されず、1~10であってもよく、1~6であってもよい。前記炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。前記炭化水素基部分のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基(イソヘキシル基)、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチル-2-メチル-プロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基、tert-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチルヘプチル基等が挙げられる。Xの炭素数1~4のアルコキシ基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。Xとしては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。
【0020】
シランカップリング剤(b-1)としては、例えば、1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン、ジメトキシ(メチル)(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、トリエトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリクロロ[3-(ペンタフルオロフェニル)プロピル]シラン、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン等が挙げられる。なかでも、ジメトキシ(メチル)(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シランが好ましい。
【0021】
本発明において、前記無機充填材は、前記シランカップリング剤(b-1)とともに、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するシランカップリング剤(b-2)(以下、シランカップリング剤(b-2)という。)で表面処理されることが好ましい。重合性単量体と共重合し得る官能基としては、(メタ)アクロイルオキシ基、ビニル基、グリシドキシ基が好ましく、(メタ)アクロイルオキシ基がより好ましい。前記シランカップリング剤(b-2)としては、例えば、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いることがより好ましい。なお、2種類のシランカップリング剤(b-1)及び(b-2)を併用する際は、両者を同時に反応系中に投入してもよいし、表面処理の工程を分けて行ってもよい。
【0022】
前記シランカップリング剤(b-1)と(b-2)それぞれの含有量は、無機粒子(a)の比表面積に応じて調整可能であり、特に限定されないが、得られる歯科用ミルブランクの撥水性等の観点から、無機粒子(a)100質量部に対して、それぞれ0.010~0.035質量部用いることが好ましい。さらには、シランカップリング剤(b-1)の含有量が、無機粒子(a)100質量部に対して、0.015質量部以上の場合、無機粒子に撥水性が十分に付与でき、水存在下における機械的強度の低下を十分に抑制できるため好ましく、より好適には0.020質量部以上である。一方、シランカップリング剤(b-1)の含有量が、無機粒子(a)100質量部に対して、0.035質量部以下であると、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するカップリング剤(b-2)の反応の余地が十分に残るため、十分な機械的強度が得られる点で好ましい。
【0023】
本発明の歯科用ミルブランクの形状は、特に限定されないが、直方体状、立方体状、正五角柱状、正六角柱状、正八角形柱状等の角柱形状や、円柱形状が挙げられる。
【0024】
本発明の歯科用ミルブランクは、目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、着色剤、顔料、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤等の添加剤を含有してもよい。顔料としては、歯科用組成物に用いられている公知の顔料がなんら制限なく用いられる。かかる顔料としては、無機顔料及び/又は有機顔料のいずれでもよく、無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、アンチモン白、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;亜鉛華、酸化チタン、酸化鉄赤(ベンガラ)、酸化鉄黒、酸化鉄黄、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等のニトロソ系顔料;ナフトールS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料、パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性染料系顔料;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性染料系顔料等が挙げられる。これらの顔料は1種を単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせで用いることができ、歯科用ミルブランクの目的とする色調に応じて適宜選択される。これらの顔料の中でも、耐熱性或いは耐光性等に優れる無機顔料である酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄黒及び酸化鉄黄等が好ましい。
【0025】
本発明の歯科用ミルブランクは、各種の歯科用補綴物、例えば、インレー、オンレー、べニア、クラウン、ブリッジ等の歯冠修復物の他、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント)等の用途に用いることができる。また、歯科用ミルブランクの切削加工は、例えば市販の歯科用CAD/CAMシステムを用いて行うことができる。
【0026】
本発明の歯科用ミルブランクの製造方法は、無機充填材をプレス成形して無機充填材成形体を得た後に、重合性単量体(c)及び重合開始剤(d)を接触させて重合硬化させてもよい(プレス-含浸法)し、重合前のペーストを金型に填入し、加圧・加熱して重合・硬化させてもよい(ペースト法)。
【0027】
ある実施形態では、本発明の歯科用ミルブランクの製造方法(プレス-含浸法)は、無機充填材をプレス成形して無機充填材成形体を得る工程、前記無機充填材成形体と重合性単量体(c)及び重合開始剤(d)を接触させて重合硬化させる工程、及び、前記無機充填材及び/又は該無機充填材成形体を、フッ素含有有機基シランカップリング剤(b-1)で表面処理する工程を含む。以下、各工程について詳細を説明する。また、シランカップリング剤(b-1)とともに、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するシランカップリング剤(b-2)で前記無機充填材及び/又は前記無機充填材成形体を表面処理してもよい。
【0028】
本発明における無機充填材としては、前記シランカップリング剤(b-1)で表面処理できるものであれば、特に限定されず、公知の無機粒子を使用でき、コンポジットレジンの充填材として用いられる公知の無機粒子(a)が好ましい。無機粒子(a)としては、例えば、各種ガラス類(二酸化ケイ素(石英、石英ガラス、シリカゲル等)又はケイ素を主成分とし、各種重金属とともにホウ素及び/又はアルミニウムを含有するもの)、アルミナ、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、シリカ等が挙げられる。また、無機充填材は、前記無機粒子(a)に重合性単量体を添加し、重合硬化させた後に粉砕することによって得られる有機無機複合粒子(有機無機複合フィラー)を含んでもよい。さらに、無機充填材は、2種以上の無機粒子(a)を含んでもよい。
【0029】
本発明において、前記無機充填材をプレス成形することで、無機充填材成形体を得ることができる。プレス成形の方法として、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、無機粒子(a)を単独で含むか又はそれに顔料などの他の成分が配合された粉体を用意し、金型中でパンチを用いてプレス成形する方法を用いることができる。製造する歯科用ミルブランクが積層構造を有する場合には、無機粒子(a)、及び顔料などの他の成分の量を変えた複数の粉体を用意し、順に金型に充填してプレスを行うことにより、多層の無機充填材成形体を得ることができる。
【0030】
本発明の歯科用ミルブランクを製造するために、前記無機充填材及び/又は前記無機充填材成形体を、シランカップリング剤(b-1)で表面処理する必要がある。好ましくは、無機充填材をシランカップリング剤(b-1)で表面処理することであり、より好ましくは、予めシランカップリング剤(b-1)で表面処理が施された無機粒子(a)を無機充填材として用いることである。これらの表面処理により、歯科用ミルブランクに撥水性を付与することができ、機械的強度の低下を抑制することができる。また、これらの表面処理により、無機充填材の滑り性を向上させることができるため、無機充填材をプレス成形して得られる無機充填材成形体を用いる場合、無機充填材成形体の密度を高くすることができ、初期曲げ強さに優れる歯科用ミルブランクが得られる。また、本発明の効果を奏する限り、前記無機充填材及び/又は前記無機充填材成形体の少なくとも一部がシランカップリング剤(b-1)により表面処理されていればよい。
【0031】
本発明の歯科用ミルブランクを製造するために、前記無機充填材成形体に対して、重合性単量体を接触させた後、重合硬化させることが必要である。例えば、無機粒子(a)を前記シランカップリング剤(b-1)、及び必要に応じてシランカップリング剤(b-2)で表面処理した無機充填材に対して、重合性単量体(c)、及び重合開始剤(d)を接触させて重合硬化させる方法が挙げられる。
【0032】
前記重合性単量体(c)としては、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられるが、一般には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。ラジカル重合性単量体の具体例としては、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。なお、本発明において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。(メタ)アクリレート系重合性単量体及び(メタ)アクリルアミド誘導体系の重合性単量体の例を以下に示す。
【0033】
(c-1)一官能性(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミド誘導体
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、10-メルカプトデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
(c-2)二官能性(メタ)アクリレート
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-〔3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(通称Bis-GMA)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(通称UDMA)、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンチルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
(c-3)三官能性以上の(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0036】
また、これらの(メタ)アクリル酸エステル系及び(メタ)アクリルアミド誘導体系の重合性単量体の他に、カチオン重合可能な、オキシラン化合物やオキセタン化合物も好適に用いられる。
【0037】
前記重合性単量体(c)は、いずれも、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明で用いられる重合性単量体は液体状であることが好ましいが、常温で液体状である必要は必ずしも無く、さらに、固体状の重合性単量体であっても、液体状の、その他の重合性単量体と混合溶解させて使用することができる。
【0038】
重合性単量体(c)の好ましい粘度範囲(25℃)は10Pa・s以下が好ましく、5Pa・s以下がより好ましく、2Pa・s以下がさらに好ましい。一方、2種以上の重合性単量体を混合溶解して用いる場合、又はさらに溶剤希釈して用いる場合は、上記重合性単量体(c)の粘度は、個々の重合性単量体が、該粘度範囲である必要は無く、混合溶解して使用する組成物の状態において、該粘度範囲であることが好ましい。
【0039】
前記重合開始剤(d)としては、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく、加熱重合開始剤、光重合開始剤及び化学重合開始剤が、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0040】
重合開始剤(d)に用いる加熱重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
【0041】
前記有機過酸化物としては、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0042】
前記ケトンペルオキシドとしては、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド等が挙げられる。
【0043】
前記ヒドロペルオキシドとしては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0044】
前記ジアシルペルオキシドとしては、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等が挙げられる。
【0045】
前記ジアルキルペルオキシドとしては、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン等が挙げられる。
【0046】
前記ペルオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン、4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリックアシッド-n-ブチルエステル等が挙げられる。
【0047】
前記ペルオキシエステルとしては、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、tブチルペルオキシマレイックアシッド等が挙げられる。
【0048】
前記ペルオキシジカーボネートとしては、ジ-3-メトキシペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジアリルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0049】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましい。
【0050】
前記アゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチラート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0051】
重合開始剤(d)に用いる光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、クマリン類等が挙げられる。
【0052】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、及びこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、及びこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0053】
これら(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩が好ましい。
【0054】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナンスレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、カンファーキノンが好適である。
【0055】
前記クマリン類としては、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノ)クマリン、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11オン、10-(2-ベンゾチアゾイル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン等の特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0056】
上述のクマリン類の中でも、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0057】
これらの光重合開始剤の中でも、歯科用硬化性組成物に広く使われている(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0058】
また、かかる光重合開始剤は、必要に応じて、更に重合促進剤と組み合わせることで、光重合をより短時間で効率的に行うことができる場合がある。
【0059】
光重合開始剤に好適な重合促進剤としては、主として第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基を有する化合物、スルフィン酸及びその塩等が挙げられる。
【0060】
第3級アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルp-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、N-メチルジエタノールアミン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が挙げられる。
【0061】
アルデヒド類としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。チオール基を有する化合物としては、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸等が挙げられる。
【0062】
スルフィン酸及びその塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。
【0063】
重合開始剤(d)に用いる化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン系;有機過酸化物、アミン及びスルフィン酸(及び/又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤が好ましい。レドックス系重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。レドックス系重合開始剤の酸化剤としては、有機過酸化物が挙げられる。レドックス系重合開始剤の酸化剤として有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、前記加熱重合開始剤で例示した有機過酸化物が挙げられる。
【0064】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましい。
【0065】
レドックス系重合開始剤の還元剤としては、通常、芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンが用いられる。芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリンが挙げられる。
【0066】
化学重合開始剤は、必要に応じて、更に重合促進剤を組み合わせて使用してもよい。化学重合開始剤の重合促進剤は、一般工業界で使用されている重合促進剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合促進剤が好ましい。また、重合促進剤は、1種単独で、又は2種以上適宜組み合わせて使用される。具体的には、アミン類、スルフィン酸及びその塩、銅化合物、スズ化合物等が挙げられる。
【0067】
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香環に電子吸引性基を有する芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミン等が挙げられる。これらの中でも、硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましい。
【0068】
また、化学重合開始剤の重合促進剤として用いられる芳香環に電子吸引性基を有する第3級芳香族アミンとしては、例えば、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0069】
重合促進剤として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、上記した光重合開始剤の重合促進剤として例示したものが挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましい。
【0070】
重合促進剤として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
【0071】
重合促進剤として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ-n-ブチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレート等が挙げられる。特に好適なスズ化合物は、ジ-n-オクチル錫ジラウレート及びジ-n-ブチル錫ジラウレートである。
【0072】
これらの中でも、光重合開始剤と加熱重合開始剤を併用することが好ましく、(ビス)アシルホスフィンオキシド類とジアシルペルオキシドの組合せがより好ましい。
【0073】
重合開始剤(d)の含有量は、特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点から、重合性単量体(c)100質量部に対して、0.001~30質量部用いることが好ましい。重合開始剤(d)の含有量が重合性単量体(c)100質量部に対して、0.001質量部以上の場合、重合が十分に進行して機械的強度の低下を招くおそれがなく、より好適には0.05質量部以上であり、さらに好適には0.1質量部以上である。一方、重合開始剤(d)の含有量が、重合性単量体(c)100質量部に対して、30質量部以下であると、重合開始剤自体の重合性能が低い場合にでも十分な機械的強度が得られ、さらには組成物からの析出を招くおそれがなく、より好適には20質量部以下である。
【0074】
他の実施形態では、本発明の歯科用ミルブランクの製造方法(ペースト法)は、無機充填材を、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)で表面処理する工程、前記無機充填材と重合性単量体(c)を混練させてペーストを得る工程、及び前記ペーストを金型に填入し、加圧圧縮した後に重合硬化させる工程を含む。無機充填材、シランカップリング剤(b-1)、及び重合性単量体(c)は、前記したある実施形態(プレス-含浸法)と同様である。また、ペーストには、前記した重合開始剤(d)を含める。重合開始剤(d)、重合促進剤も、前記したある実施形態(プレス-含浸法)と同様である。また、本製造方法において、シランカップリング剤(b-1)とともに、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するシランカップリング剤(b-2)で該無機充填材を表面処理してもよい。
【0075】
歯科用ミルブランク中における、無機充填材の割合を増やせる点から、歯科用ミルブランクの製造方法としては、ペースト法に比べてプレス-含浸法がより好ましい。また、プレス-含浸法において、シランカップリング剤(b-1)で表面処理された無機充填材は、プレス成形として乾式プレスを選択した際に金型との摩擦が少なくなるという特徴(滑り性の向上)があり、同荷重(面圧)において、得られる無機充填材成形体の密度、並びにミルブランクの初期曲げ強さが向上する点からも好ましい。
【実施例
【0076】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0077】
〔重合性単量体含有組成物(C-1)の製造例〕
[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(UDMA)70質量部及びトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)30質量部に、加熱重合開始剤であるベンゾイルペルオキシド1質量部を溶解させることによって、重合性単量体含有組成物(C-1)を調製した。
【0078】
〔重合性単量体含有組成物(C-2)の製造例〕
[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(UDMA)100質量部に、加熱重合開始剤である1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド1質量部を溶解させることによって、重合性単量体含有組成物(C-2)を調製した。
【0079】
〔無機粒子(A-1)の製造例〕
市販の無機超微粒子(日本アエロジル株式会社製、アエロジルOX-50、平均一次粒子径40nm、BET比表面積50m2/g)100gを水500mLに分散し、1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン2.0g、加えて室温(約25℃)で2時間攪拌した。その後、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、γ-MPSと称することがある)3.5g、及び微量の顔料(和光純薬株式会社製、酸化チタン(日局)、戸田工業株式会社製、酸化鉄黒、酸化鉄赤、酸化鉄黄)を加えてさらに室温で2時間攪拌した。スプレードライヤー(ビュッヒ社製B290型)を用いて噴霧乾燥後、90℃で3時間乾燥することによって、表面処理された粉末状の無機粒子(A-1)を得た。
【0080】
〔無機粒子(A-2)、(A-3)の製造例〕
市販の無機超微粒子(日本アエロジル株式会社製、アエロジルOX-50、平均一次粒子径40nm、BET比表面積50m2/g)100gを水500mLに分散し、無機粒子(A-2)では、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シランを3.5g、無機粒子(A-3)では、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シランを3.5g加えて、それぞれ室温(約25℃)で2時間攪拌した。その後、どちらの製造例でもγ-MPS3.5g、及び微量の顔料を加えてさらに室温で2時間攪拌した。スプレードライヤー(ビュッヒ社製B290型)を用いて噴霧乾燥後、90℃で3時間乾燥することによって、表面処理された粉末状の無機粒子(A-2)、及び(A-3)を得た。
【0081】
〔無機粒子(A-4)の製造例〕
市販の無機超微粒子(日本アエロジル株式会社製、アエロジルOX-50、平均一次粒子径40nm、BET比表面積50m2/g)100gを水500mLに分散し、γ-MPS7.0g、微量の顔料を加えてさらに室温(約25℃)で2時間攪拌した。スプレードライヤー(ビュッヒ社製B290型)を用いて噴霧乾燥後、90℃で3時間乾燥することによって、表面処理された粉末状の無機粒子(A-4)を得た。
【0082】
〔無機粒子(A-5)~(A-8)の製造例〕
市販の無機超微粒子(堺化学工業株式会社製、Sciqas、平均一次粒子径100nm、BET比表面積21.5m2/g)100gを水500mLに分散し、上記無機粒子(A-1)~(A-4)とそれぞれ同様の方法で表面処理することにより、無機粒子(A-5)~(A-8)を得た。
【0083】
〔無機粒子(A-9)~(A-12)の製造例〕
市販のバリウムボロアルミノシリケートガラス粉末(ショット社製GM27884、NF180、平均粒子径180nm、破砕状)100gを水500mLに分散し、上記無機粒子(A-1)~(A-4)とそれぞれ同様の方法で表面処理することにより、無機粒子(A-9)~(A-12)を得た。
【0084】
〔無機粒子(A-13)、(A-14)の製造例〕
市販のバリウムボロアルミノシリケートガラス粉末(ショット社製GM27884、UF2.0、平均粒子径2.0μm、破砕状)100gを水500mLに分散し、上記無機粒子(A-1)、(A-4)とそれぞれ同様の方法で表面処理することにより、無機粒子(A-13)、(A-14)を得た。
【0085】
以上の各製造例で得られた無機粒子(A-1)~(A-14)について、表1にまとめた。
【0086】
【表1】
【0087】
〔実施例1-1、1-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-1)の30.0gを、35mm×25mmの長方形の穴を持つプレス用金型の下パンチ棒の上に敷いた。タッピングにより該無機粒子をならした後に、上パンチ棒を上にセットし、プレス機を用いて一軸プレス(面圧68.6MPa(荷重60.0kN)、時間は1分間)を行った。上パンチ棒と下パンチ棒を金型から外して、該無機粒子の粉末が凝集した無機充填材成形体(プレス成形体)を取り出した。該プレス成形体の大きさは、35mm×25mm×29.8mmの角柱状であり、成形体の密度は1.15g/cm3であった。該プレス成形体を、ポリエチレン製の袋体の内部に設置し、実施例1-1の場合は、重合性単量体含有組成物(C-1)を、実施例1-2の場合は、重合性単量体含有組成物(C-2)を袋体の内部に導入し、袋体内部を減圧(0.001kPa以下)することによって、該プレス成形体に重合性単量体含有組成物(C-1)、又は(C-2)を含浸させた。次いで、各重合性単量体含有組成物が含浸されたこれらの2種のプレス成形体を、熱風乾燥器を用いて55℃で18時間加熱した後、さらに110℃で3時間加熱して、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0088】
〔実施例2-1、2-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-2)の30.0gを用い、35mm×25mm×29.1mmの角柱状で、密度が1.18g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0089】
〔実施例3-1、3-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-3)の30.0gを用い、35mm×25mm×31.2mmの角柱状で、密度が1.10g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0090】
〔比較例1-1、1-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-4)の30.0gを用い、35mm×25mm×32.7mmの角柱状で、密度が1.05g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0091】
〔実施例4-1、4-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-5)の30.0gを用い、35mm×25mm×29.1mmの角柱状で、密度が1.18g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0092】
〔実施例5-1、5-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-6)の30.0gを用い、35mm×25mm×28.6mmの角柱状で、密度が1.20g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0093】
〔実施例6-1、6-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-7)の30.0gを用い、35mm×25mm×29.8mmの角柱状で、密度が1.15g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0094】
〔比較例2-1、2-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-8)の30.0gを用い、35mm×25mm×32.3mmの角柱状で、密度が1.06g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0095】
〔実施例7-1、7-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-9)の30.0gを用い、35mm×25mm×25.4mmの角柱状で、密度が1.35g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0096】
〔実施例8-1、8-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-10)の30.0gを用い、35mm×25mm×24.7mmの角柱状で、密度が1.39g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0097】
〔実施例9-1、9-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-11)の30.0gを用い、35mm×25mm×26.0mmの角柱状で、密度が1.32g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0098】
〔比較例3-1、3-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-12)の30.0gを用い、35mm×25mm×27.0mmの角柱状で、密度が1.27g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0099】
〔実施例10-1、10-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-13)の30.0gを用い、35mm×25mm×22.1mmの角柱状で、密度が1.55g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0100】
〔比較例4-1、4-2〕
表面処理された粉末状の無機粒子(A-14)の30.0gを用い、35mm×25mm×23.6mmの角柱状で、密度が1.45g/cm3のプレス成形体を製造して用いたこと以外は、実施例1-1、1-2と同様の方法で、それぞれ重合性硬化物を得た。
【0101】
〔試験例〕
接触角測定
各実施例及び比較例で作製した重合性硬化物を、ダイヤモンドカッター(アイソメット1000、Buehler社製)を用いて切断し、12.00mm×12.00mm×1.40mmのサイズの試験片とした後、耐水研磨紙(#1000、#2000、#3000)3枚を用いて厚さ1.20mmに仕上げた。得られた試験片を、接触角計(DMo-1101、協和界面化学株式会社)を使用し、水滴1μLを各々の試験片に滴下し、その接触角を測定した。
【0102】
3点曲げ強さ測定
各実施例及び比較例で作製した重合性硬化物の3点曲げ強さを以下の方法により測定した。すなわち、製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(1.2mm×4.0mm×14.0mm)を作製した。後に、耐水研磨紙(#1000、#2000)2枚を用いて厚さ1.20mmに仕上げた。これらの試験片は、1検体につき20本作製し、10本を水中浸漬せずに、もう10本は37℃の恒温内で、1週間水中浸漬させて測定に用いた。これらを万能試験機(株式会社島津製作所製)にセットし、クロスヘッドスピード1mm/分、支点間距離12mmの条件で3点曲げ試験法(JDMAS 245:2017の規定を準用)により、それぞれの試験片の3点曲げ強さを測定した。水中浸漬しないものを「初期曲げ強さ」、37℃の恒温内で1週間水中浸漬したものを「浸水後曲げ強さ」として、以下の計算式により、3点曲げ強さの低下率を算出した。
3点曲げ強さの低下率(%)={(浸水後曲げ強さ)-(初期曲げ強さ)}/(初期曲げ強さ)×100
【0103】
以上の各実施例及び比較例で得られた重合性硬化物について、試験例に記載の方法で測定した各物性の測定結果を表2にまとめた。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示すように、本発明の歯科用ミルブランクに相当する各実施例の重合性硬化物は、フッ素含有有機基を有するシランカップリング剤(b-1)で処理する工程を含まない方法で製造された各比較例の重合性硬化物に比べて、いずれも水中浸漬後の3点曲げ強さの低下率が小さく、耐水性の点で非常に優れることが分かる。また、各実施例の重合性硬化物は、各比較例に比べてプレス成形体の密度が高く、初期曲げ強さも高いという結果となったが、これは、シランカップリング剤(b-1)で表面処理することにより無機充填材の滑り性が向上したためと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、口腔内のように水が存在する環境下において機械的強度の低下を抑制できる、耐水性に優れる歯科用ミルブランクとその簡便な製造方法を提供できる。また、本発明によれば、口腔内のように水が存在する環境下においても、機械的強度にも優れる歯科用補綴物を得ることができる。さらに、本発明によれば、無機充填材の滑り性が向上し、初期曲げ強さに優れる歯科用ミルブランクが得られる。