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特許7093683磁気軸受制御装置および磁気軸受制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】磁気軸受制御装置および磁気軸受制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
F16C32/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018114788
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019218968
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹村 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼山 和馬
(72)【発明者】
【氏名】古賀 毅
(72)【発明者】
【氏名】関 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 賢
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-079678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、前記ロータを電磁気力により浮上させる一対の電磁石と、前記ロータの非浮上時に前記ロータの回転軸を支持する補助軸受と、前記ロータの浮上方向位置を検出するロータ位置検出器と、を備えた磁気浮上モータの磁気軸受制御装置であって、
位置指令値と前記ロータ位置検出器で検出されたロータ位置との偏差に応じた操作電流値を生成する操作電流生成部を備え、
前記操作電流生成部は、前記ロータの前記回転軸が前記補助軸受に支持された状態から前記ロータを所定の目標位置に位置させるための浮上開始時において、前記操作電流値に、前記位置指令値と前記ロータ位置との前記偏差とは無関係に、0より大きい所定の初期値を与えるように構成される、磁気軸受制御装置。
【請求項2】
前記操作電流生成部は、前記位置指令値と前記ロータ位置との前記偏差に基づく値に前記初期値を加算する初期値加算部を有するように構成される、請求項1に記載の磁気軸受制御装置。
【請求項3】
前記操作電流生成部は、前記位置指令値と前記ロータ位置との前記偏差を積分する積分器を備え、
前記積分器の初期値として0より大きい前記所定の初期値が設定される、請求項1に記載の磁気軸受制御装置。
【請求項4】
前記操作電流生成部は、前記浮上開始時においてランプ入力波形にステップ入力波形が重ね合わされた波形を有する前記位置指令値を用いて前記操作電流値を生成するように構成される、請求項1に記載の磁気軸受制御装置。
【請求項5】
ロータと、前記ロータを電磁気力により浮上させる一対の電磁石と、前記ロータの非浮上時に前記ロータの回転軸を支持する補助軸受と、前記ロータの浮上方向位置を検出するロータ位置検出器と、を備えた磁気浮上モータの磁気軸受制御方法であって、
位置指令値と前記ロータ位置検出器で検出されたロータ位置との偏差に応じた操作電流値を生成するステップを含み、
前記ロータの前記回転軸が前記補助軸受に支持された状態から前記ロータを所定の目標位置に位置させるための浮上開始時において、前記操作電流値に、前記位置指令値と前記ロータ位置との前記偏差とは無関係に、0より大きい所定の初期値を与える、磁気軸受制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上モータの磁気軸受制御装置および磁気軸受制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機のロータの軸受として、電磁石を用い、ロータを空中に浮上させた状態で回転させる磁気軸受を備えた磁気浮上モータが知られている。このような磁気浮上モータは、例えば回転軸が水平方向に配置されるロータと、ロータの上方および下方にそれぞれ配置され、ロータを電磁気力により浮上させる一対の電磁石と、ロータの停止時にロータを支持する補助軸受と、ロータの上下方向位置を検出するロータ位置検出器と、ロータの浮上位置制御を行う磁気軸受制御装置と、を備えている。
【0003】
磁気軸受制御装置は、ロータの浮上位置制御において、PID制御等のフィードバック制御を行っている。すなわち、磁気軸受制御装置は、位置指令値とロータ位置検出器で検出されたロータ位置との偏差よって決められた操作電流と予め定められたバイアス電流によって定められる電流とによって決まる電流をロータに通電している。
【0004】
ロータが補助軸受に支持されている状態(ロータ非浮上時)からロータを浮上させて所定の目標位置(ロータの定常位置)に位置させるための浮上開始時において、従来は位置指令値としてランプ状の位置指令値が入力される。すなわち、浮上開始時において、補助軸受上に停止したロータの位置(ロータの初期位置)を0とすると、0から目標位置まで比例的に増加するような位置指令値(すなわち、この場合の初期値は0)が磁気軸受制御装置に入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-79678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の浮上開始時の制御においては、電磁石への通電開始後、ロータが補助軸受から離れるまでに時間を要し、その間、ロータに過大な振動が生じたり、そのような振動によりロータと補助軸受とが複数回衝突したりする問題があった。ロータの振動またはロータと補助軸受との衝突が生じると、騒音が発生したり、補助軸受が損傷したりするおそれがある。
【0007】
ロータの浮上開始時における他の制御態様としては、例えば上記特許文献1に記載されたものがある。特許文献1における制御態様では、ロータを目標位置(基準位置)に浮上させるために、目標位置を段階的に設定する(補助軸受に支持されている位置と最終的な目標位置との間で一度停止させる)制御を行っている。これによれば、ロータを一度に目標位置まで移動させることによりロータが急浮上して、目標位置を超えて上方の補助軸受に衝突するオーバーシュートを防止することができる。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のような制御態様であっても、ロータが補助軸受から離れるまでの間に生じる振動等の上記問題は解決できない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ロータの浮上開始時において、ロータが補助軸受上で振動したり、離間および接触を繰り返したりすることを抑制することができる磁気軸受制御装置および磁気軸受制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る磁気軸受制御装置は、ロータと、前記ロータを電磁気力により浮上させる一対の電磁石と、前記ロータの非浮上時に前記ロータの回転軸を支持する補助軸受と、前記ロータの浮上方向位置を検出するロータ位置検出器と、を備えた磁気浮上モータの磁気軸受制御装置であって、位置指令値と前記ロータ位置検出器で検出されたロータ位置との偏差に応じた操作電流値を生成する操作電流生成部を備え、前記操作電流生成部は、前記ロータの前記回転軸が前記補助軸受に支持された状態から前記ロータを所定の目標位置に位置させるための浮上開始時において、前記操作電流値に0より大きい所定の初期値を与えるように構成される。
【0011】
上記構成によれば、ロータの浮上開始時において、補助軸受に支持されているロータの初期位置における操作電流値が0より大きい所定の初期値となる。したがって、操作電流が急峻に立ち上がり(増大し)、ロータが補助軸受から離れるために必要な電磁気力が生じる。これにより、ロータが迅速に浮上し、ロータの浮上開始時において、ロータが補助軸受上で振動したり、離間および接触を繰り返したりすることを抑制することができる。
【0012】
前記操作電流生成部は、前記位置指令値と前記ロータ位置との前記偏差に基づく値に前記初期値を加算する初期値加算部を有するように構成されてもよい。あるいは、前記操作電流生成部は、前記位置指令値と前記ロータ位置との前記偏差を積分する積分器を備え、前記積分器の初期値として0より大きい前記所定の初期値が設定されてもよい。この場合、ロータの浮上開始時において、位置指令値にかかわらず操作電流値が直接的に急峻に立ち上がる。したがって、ロータが補助軸受から離れるために必要な電磁気力を生じる電流が急峻に立ち上がるような操作電流値を、位置指令値を変更することなく容易に生成することができる。
【0013】
前記操作電流生成部は、前記浮上開始時においてランプ入力波形にステップ入力波形が重ね合わされた波形を有する前記位置指令値を用いて前記操作電流値を生成するように構成されてもよい。この場合、ロータの浮上開始時において、位置指令値がステップ状に立ち上がるため、結果として生成される操作電流値が間接的に急峻に立ち上がる。したがって、ロータが補助軸受から離れるために必要な電磁気力を生じる電流が急峻に立ち上がるような操作電流値を、位置指令値を変更するだけで容易に生成することができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る磁気軸受制御方法は、ロータと、前記ロータを電磁気力により浮上させる一対の電磁石と、前記ロータの停止時に前記ロータの回転軸を支持する補助軸受と、前記ロータの前記所定方向位置を検出するロータ位置検出器と、を備えた磁気浮上モータの磁気軸受制御方法であって、位置指令値と前記ロータ位置検出器で検出されたロータ位置との偏差に応じた操作電流値を生成するステップを含み、前記ロータの前記回転軸が前記補助軸受に支持された状態から前記ロータを所定の目標位置に位置させるための浮上開始時において、前記操作電流値に0より大きい所定の初期値を与えるものである。
【0015】
上記方法によれば、ロータの浮上開始時において、補助軸受に支持されているロータの初期位置における操作電流値が0より大きい所定の初期値となる。したがって、操作電流が急峻に立ち上がり(増大し)、ロータが補助軸受から離れるために必要な電磁気力が生じる。これにより、ロータが迅速に浮上し、ロータの浮上開始時において、ロータが補助軸受上で振動したり、離間および接触を繰り返したりすることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロータの浮上開始時において、ロータが補助軸受上で振動したり、離間および接触を繰り返したりすることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る磁気軸受制御装置が適用された磁気浮上モータシステムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す磁気軸受制御装置の操作電流生成部における制御ブロックを示す図である。
図3図3は、実施の形態1における浮上開始時の位置指令値波形、操作電流値波形、およびロータ位置波形を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施の形態2に係る磁気軸受制御装置の操作電流生成部における制御ブロックを示す図である。
図5図5は、実施の形態2における浮上開始時の位置指令値波形、操作電流値波形、およびロータ位置波形を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施の形態の変形例に係る磁気軸受制御装置の操作電流生成部における制御ブロックを示す図である。
図7図7は、本発明の実施の形態の変形例に係る磁気浮上モータの概略構成を示す図である。
図8図8は、比較例における浮上開始時の位置指令値波形、操作電流値波形、およびロータ位置波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0019】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る磁気軸受制御装置が適用された磁気浮上モータシステムの概略構成を示すブロック図である。磁気浮上モータシステム1は、水処理システム等に用いられる曝気用のブロワとして利用される。本実施の形態において、磁気浮上モータシステム1は、磁気浮上モータ2と、磁気軸受制御装置3とを備えている。
【0020】
磁気浮上モータ2は、ロータ5と、ステータ6と、一対の磁気軸受機構7a,7bと、を備えている。ロータ5は、水平方向に伸びる回転軸4と、回転軸4に固定されたロータ本体8と、ロータ本体8の軸方向両側において回転軸4に固定された一対の軸受対応部9a,9bと、を備えている。ロータ5は、これらの構成4,8,9a,9bが一体的に回転軸4回りに回転する。
【0021】
一対の磁気軸受機構7a,7bは、一対の軸受対応部9a,9bに対応して配置された電磁石対10a,10bを備えている。各電磁石対10a,10bは、ロータ5の回転軸4の上方および下方にそれぞれ配置された一対の電磁石(上側電磁石11および下側電磁石12)を備えている。さらに、一対の磁気軸受機構7a,7bは、それぞれ、ロータ5の回転軸4の位置が逸脱するのを防止する補助軸受13a,13bと、ロータ5の浮上方向位置(上下方向位置)を検出するロータ位置検出器14a,14bと、を備えている。ロータ位置検出器14a,14bは、例えばロータリエンコーダ等により構成される。
【0022】
補助軸受13a,13bは、それぞれ、上側補助軸受15および下側補助軸受16を備えている。補助軸受13a,13bの下側補助軸受16は、ロータ5の停止時(図1において想像線で示される)にロータ5の回転軸4を支持する。下側補助軸受16に支持された状態(停止状態)のロータ5の上下方向位置(図1における回転軸4の軸線位置)を0とする。
【0023】
磁気軸受制御装置3は、第1磁気軸受機構7aに対して制御を行う第1磁気軸受制御装置3aと、第2磁気軸受機構7bに対して制御を行う第2磁気軸受制御装置3bと、を備えている。各磁気軸受制御装置3a,3bは、それぞれ、位置指令値Pca,Pcbとロータ位置検出器14a,14bで検出されたロータ位置Pa,Pbとの偏差に応じた操作電流値Ima,Imbを生成する操作電流生成部17を備えている。
【0024】
各磁気軸受制御装置3a,3bは、操作電流生成部17で生成された操作電流値Ima,Imbから対応する上側電磁石11に流す上側電流Ima1,Imb1および下側電磁石12に流す下側電流Ima2,Imb2を生成し、当該上側電磁石11および下側電磁石12に出力する。上側電磁石11および下側電磁石12に電流が流れることにより、電磁石対10a,10bに電磁気力が生じ、ロータ5が浮上する。各磁気軸受制御装置3a,3bは、ロータ位置検出器14a,14bで検出されたロータ位置Pa,Pbが位置指令値Pca,Pcbに一致するように操作電流値Ima,Imbを生成することによりロータ5の浮上制御を行う。
【0025】
ロータ5の浮上後は、駆動制御装置(図示せず)によりロータ5の回転制御が行われる。なお、磁気軸受制御装置3(3a,3b)は、駆動制御装置と同じ制御装置により実現されてもよいし、駆動制御装置とは別に構成されてもよい。また、第1磁気軸受制御装置3aと、第2磁気軸受制御装置3bとは、1つの制御装置(マイクロコントローラ等のコンピュータ)により構成されてもよいし、個別(2つ)の制御装置により構成されてもよい。
【0026】
ここで、各磁気軸受制御装置3a,3bは、ロータ5の回転軸4が補助軸受13a,13b(の下側補助軸受16)に支持された状態からロータ5を所定の目標位置(ロータ5の定常回転位置)Ptに位置させるための浮上開始時において浮上開始制御を行う。浮上開始制御において、各磁気軸受制御装置3a,3bは、操作電流値に0より大きい所定の初期値を与えるように構成される。
【0027】
初期値は、例えば、従来の構成において同じ目標位置Ptにロータ5の位置を制御するために必要な操作電流の最大値(図8のグラフ(b)における最大値)に基づいて設定される。
【0028】
図2は、図1に示す磁気軸受制御装置の操作電流生成部における制御ブロックを示す図である。図2および以下の説明では、第1磁気軸受制御装置3aにおける操作電流生成部17について主に説明するが、第2磁気軸受制御装置3bにおける操作電流生成部17も同様の構成を備えている。
【0029】
図2に示すように、本実施の形態における操作電流生成部17は、ロータ5の浮上開始時において出力する操作電流値に初期値を与えるように構成される。より具体的には、操作電流生成部17は、位置指令値Pcaとロータ位置Paとの偏差ΔPaに対してPID制御を行うためのPID制御部18と、浮上開始時において生成された操作電流値Imaに初期値Iinを加算して操作電流値Imcaを生成する初期値加算部19と、を備えている。さらに、各磁気軸受制御装置3a,3bは、操作電流生成部17から出力される操作電流値Imcaから上側電磁石11に出力する上側電流Ima1および下側電磁石12に出力する下側電流Ima2を生成する電流出力部20を備えている。
【0030】
PID制御部18は、減算器21、比例演算部22、積分演算部23、微分演算部24および加算器25を備えている。減算器21は、位置指令値Pcaからロータ位置Paを差し引いて偏差ΔPaを求める。比例演算部22は、偏差ΔPaに対して所定のゲインKpを掛け、比例演算を行う。積分演算部23は、偏差ΔPaに対して所定のゲインKiを掛け、積分演算を行う。微分演算部24は、偏差ΔPaに対して所定のゲインKdを掛け、微分演算を行う。加算器25は、各演算部22~24の出力を足し合わせて操作電流値(ベース値)Imaを生成する。
【0031】
電流出力部20は、所定のバイアス電流値Ibaに操作電流値(後述する初期値加算部19の出力)Imcaを足し合わせた電流値を上側電流Ima1として出力し、所定のバイアス電流値Ibaから操作電流値Imcaを差し引いた電流値を下側電流Ima2として出力する。このようにして、電流出力部20は、1つの操作電流値Imcaから上側電磁石11に流す上側電流Ima1および下側電磁石12に流す下側電流Ima2を生成する。
【0032】
PID制御部18から出力される操作電流値Imaは、初期値加算部19に入力される。初期値加算部19は、浮上開始時において、PID制御部18の出力(操作電流値Ima)に初期値Iinを加算し、浮上開始時における補正後の操作電流値Imcaを生成する。図3は、実施の形態1における浮上開始時の位置指令値の時間的変化を示す位置指令値波形、操作電流値の時間的変化を示す操作電流値波形、およびロータ位置の時間的変化を示すロータ位置波形を示すグラフである。また、図8は、比較例における浮上開始時の位置指令値波形、操作電流値波形、およびロータ位置波形を示すグラフである。何れの図においても、グラフ(a)は、位置指令値波形を示し、グラフ(b)は、操作電流値波形を示し、グラフ(c)は、ロータ位置波形を示す。なお、図3および図8においては、第1磁気軸受制御装置3aにおける各値のグラフを示す。
【0033】
本実施の形態における位置指令値Pcaおよび比較例における位置指令値Pcaは、同じ波形を有している。すなわち、位置指令値Pcaは、時刻t1に第1磁気軸受機構7aの電磁石対10aに電流を流すことにより、ロータ5が浮上を開始し、時刻t2に第1磁気軸受機構7a側におけるロータ5の浮上が完了する(所定の目標位置Ptに到達する)ような波形を有している。このため、位置指令値Pcaは、時刻t1から時刻t2までの間、ランプ状に上昇する(時間経過に伴って線形に上昇する)。時刻t1における位置指令値Pcaは0である。
【0034】
この場合、図8に示すように、従来の構成では、時刻t1からランプ状に上昇する位置指令値Pcaに応じて生成される操作電流値Imaが、0から徐々に上昇する。このため、図8のグラフ(c)に示されるように、実際のロータ位置は、しばらくの間(期間tx)、下側補助軸受16上で振動したり、完全に浮上せず下側補助軸受16に再衝突したりする。
【0035】
これに対し、本実施の形態によれば、図3に示すように、ロータ5の浮上開始時の時刻t1において、位置指令値Pcaが0であるにもかかわらず、操作電流値Imcaとして0より大きい所定の初期値Iinが出力される。したがって、操作電流が急峻に立ち上がり(増大し)、ロータ5が補助軸受13a(下側軸受16)から離れるために必要な電磁気力が生じる。このため、ロータ5が迅速に浮上し、図3のグラフ(c)に示されるように、実際のロータ位置Paも、位置指令値Pcaに追従してランプ状に上昇する。このように、本実施の形態によれば、ロータ5の浮上開始時において、ロータ5が補助軸受13a,13b上で振動したり、離間および接触を繰り返したりすることを抑制することができる。
【0036】
特に、本実施の形態では、ロータ5の浮上開始時において、PID制御部18により生成された操作電流値Imaに初期値Iinが加算される。これにより、既存の磁気軸受制御装置における操作電流値Imaの出力に初期値Iinを加算する演算を行うだけで、ロータ5が補助軸受13aから離れるために必要な電磁気力を生じる電流(操作電流値Imca)が直接的に急峻に立ち上がる。したがって、位置指令値Pcaを変更することなく、ロータ5が補助軸受13aから離れるために必要な電流が急峻に立ち上がるような操作電流値Imcaを容易に生成することができる。
【0037】
本実施の形態において、第2磁気軸受制御装置3bは、第1磁気軸受機構7a側においてロータ5が目標位置Ptに浮上してから第2磁気軸受機構7b側におけるロータ5の浮上を開始するように第2磁気軸受機構7bを制御する。図3および図8の例では、時刻t3に第2磁気軸受機構7b側におけるロータ5の浮上を開始している(電磁石対10bに電流を流している)。このような場合においても、第2磁気軸受制御装置3bは、第1磁気軸受制御装置3aと同様に、PID制御部18により生成された操作電流値Imaに初期値Iinを加算する制御を行う。
【0038】
従来の構成では、第2磁気軸受機構7b側においても第1磁気軸受機構7a側の振る舞いと同様に、ロータ5の浮上制御開始時にロータ5が補助軸受13b上で振動する等によりロータ5全体が振動する。図8のグラフ(c)において、時刻t3以降にグラフが振動しているのは、第2磁気軸受機構7bにおけるロータ5の振動が第1磁気軸受機構7a側にも伝わって影響を及ぼしていることを示している。これに伴い、第1磁気軸受制御装置3aから出力される操作電流値Imaも第1磁気軸受機構7a側におけるロータ5の位置を目標位置に保持しようとして大きく上下に振れる結果となっている。
【0039】
これに対し、本実施の形態によれば、第2磁気軸受制御装置3bの操作電流生成部17から出力される操作電流値Imcaも位置指令値Pcaが0であるにもかかわらず、操作電流値Imcaとして0より大きい所定の初期値Iinが出力される。したがって、ロータ5が補助軸受13bから離れるために必要な電磁気力を生じる電流が急峻に立ち上がる。このため、実際のロータ位置Pbも、位置指令値Pcbに追従してランプ状に上昇する。したがって、図3のグラフ(c)に示すように、時刻t3において第2磁気軸受機構7bが浮上を開始した際に、第1磁気軸受機構7a側におけるロータ位置Paの変動が抑制されている。また、図3のグラフ(b)に示すように、第1磁気軸受制御装置3aから出力される操作電流値Imcaもほとんど変化しない。これにより、ロータ5の浮上開始時におけるロータ位置制御を高精度に行うことができ、ロータ5の損傷の発生を防止することができる。
【0040】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図4は、本発明の実施の形態2に係る磁気軸受制御装置の操作電流生成部における制御ブロックを示す図である。本実施の形態において、実施の形態1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。本実施の形態における磁気軸受制御装置3Bが実施の形態1と異なる点は、操作電流生成部17Bが、浮上開始時においてランプ入力波形にステップ入力波形が重ね合わされた波形を有する位置指令値を用いて操作電流値を生成するように構成されることである。
【0041】
より具体的には、操作電流生成部17Bは、浮上開始時において、ランプ状の位置指令値Pcaにステップ状の初期値Pinを加算し、浮上開始時における補正後の位置指令値Pccaを生成する初期値加算部19Bを備えている。本実施の形態において、初期値加算部19Bは、位置指令値Pcaに初期値Pinを加えた値に、所定のゲインを掛けたものを補正後の位置指令値Pccaとして出力している。これにより、補正後の位置指令値Pccaにおいて目標位置Ptに対応する位置指令値の大きさが、元の位置指令値Pcaと同じになるように調整される。その他の構成は、図1に示す磁気浮上モータシステム1と同様に構成される。
【0042】
図5は、実施の形態2における浮上開始時の位置指令値波形、操作電流値波形、およびロータ位置波形を示すグラフである。図5のグラフ(a)は、補正後の位置指令値Pccaの波形を示す。補正前の位置指令値Pcaの波形は、図3のグラフ(a)と同じ波形である。
【0043】
図5のグラフ(a)に示すように、補正後の位置指令値Pccaは、時刻t1において初期値成分Pin’(初期値加算部19Bに入力されるステップ状の初期値Pinに対してゲイン処理された値)が加えられている。これにより、図5のグラフ(b)に示すように、時刻t1から操作電流値Imaは、急峻に立ち上がり、図3のグラフ(b)における操作電流値の初期値Iinとほぼ同じ値となる。この結果、図5のグラフ(c)に示すように、ロータ位置Paが時刻t1直後から立ち上がる(ロータ5が時刻t1直後から浮上する)。
【0044】
このように、本実施の形態によれば、ロータ5の浮上開始時において、補正後の位置指令値Pccaがステップ状に立ち上がるため、結果として生成される操作電流値Imaが間接的に急峻に立ち上がる。したがって、ロータ5が補助軸受13a,13bの下側補助軸受16から離れるために必要な電磁気力が生じる電流が急峻に立ち上がるような操作電流値Imaを、位置指令値Pcaに初期値Pinを加えて補正後の位置指令値Pccaに変更するだけで容易に生成することができる。
【0045】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0046】
例えば、操作電流値Ima,ImbまたはImca,Imcbの生成態様は、ロータ5の浮上開始時において、操作電流値Ima,Imbに0より大きい所定の初期値を与える限り、上記実施の形態に限定されない。なお、「0より大きい」とは、電磁石対10a,10bに流れる電流においてロータ5が浮上する方向の操作電流値の大きさが0からランプ状に増大する操作電流値では取り得ない有意の値であることを意味し、操作電流値Ima,ImbまたはImca,Imcb自体が正の値であることに限られず、負の値である場合も含まれ得る。
【0047】
また、上記実施の形態においては、第1磁気軸受制御装置3aにより第1磁気軸受機構7a側におけるロータ5の浮上制御を行った後、第2磁気軸受制御装置3bにより第2磁気軸受機構7b側におけるロータ5の浮上制御を行う態様を例示したが、第1磁気軸受機構7aおよび第2磁気軸受機構7bの双方に対して同時にロータ5の浮上制御を開始してもよい。この場合、磁気軸受制御装置3は、第1磁気軸受制御装置3aのみで構成されてもよい。すなわち、第1磁気軸受制御装置3aから出力される上側電流Ima1および下側電流Ima2が電磁石対10a,10bの双方(における上側電磁石11および下側電磁石12)に流れるように構成されてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態においては、一の操作電流値Imca,Ima,Imcb,Imbから上側電流Ima1,Imb1および下側電流Ima2,Imb2を生成する態様について説明した。これに代えて、上側電流Ima1,Imb1のための操作電流値と、下側電流Ima2,Imb2のための操作電流値とを、それぞれ個別に生成してもよい。
【0049】
また、上記実施の形態1において、初期値加算部19は、浮上開始時において、PID制御部18の出力(操作電流値Ima)に初期値Iinを加算し、浮上開始時における補正後の操作電流値Imcaを生成する態様について説明した。これに代えて、初期値加算部19は、PID制御部18において演算部22~24の出力を加算器25に加算する前に、例えば積分演算部23の出力に、初期値Iinを加算するように構成してもよい。すなわち、初期値加算部19は、位置指令値Pcaとロータ位置Paとの偏差ΔPaに基づく値(少なくとも積分演算部23の出力および操作電流値Imaを含む)に初期値Iinを加算するように構成されていればよい。
【0050】
さらに、PID制御部18の積分器23の初期値として0より大きい所定の初期値が設定されていてもよい。図6は、本発明の実施の形態の変形例に係る磁気軸受制御装置の操作電流生成部における制御ブロックを示す図である。図6に示す磁気軸受制御装置3Cの操作電流生成部17Cは、実施の形態1における初期値加算部19(図2)に代えて、PID制御部18Cの積分器23に初期値Ciを与える初期値設定部26が設けられている。この場合、ロータ5の浮上制御開始時の積分器23の出力が位置指令値Pcaとロータ位置Paとの偏差ΔPaにかかわらず当該初期値となる。
【0051】
また、上記実施の形態2において、操作電流生成部17Bの初期値加算部19Bが、浮上開始時において、ランプ状の位置指令値Pcaにステップ状の初期値Pinを加算し、浮上開始時における補正後の位置指令値Pccaを生成する態様について説明した。これに代えて、位置指令値Pca,Pcb自体がランプ入力波形にステップ入力波形が重ね合わされた波形として各磁気軸受制御装置3a,3bに入力されるように構成されてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態においては、操作電流生成部17,17BがPID制御部18を有する例について説明したが、PID制御部18の代わりに、PI制御を行うPI制御部または比例制御を行う比例制御部を有していてもよい。
【0053】
また、上記実施の形態においては、ロータ5の回転軸4が水平方向に伸び、一対の電磁石11,12が回転軸4の上下方向にそれぞれ配置される構成に基づいて説明したが、ロータ5の回転軸4の伸長方向は、水平方向以外であってもよい。例えば、図7に示すように、ロータ5の回転軸4が鉛直方向に伸び、ロータ5が回転軸4の方向に浮上する軸浮上モータ2Bについても、本制御態様を適用可能である。図7の例において、一対の電磁石11B,12Bは、回転軸4に設けられた円板状の軸受対応部9の軸方向下方を向く第1面側(電磁石11B)と軸受対応部9の軸方向上方を向く第2面側(電磁石12B)とに設けられる。なお、図7の例では、軸受対応部9、一対の電磁石11B,12B、補助軸受15,16は、ロータ本体8の下方にのみ設けられ、ロータ位置検出器14は、ロータ本体8の上方にのみ設けられる例を示しているが、図1の構成と同様に、ロータ本体8を挟んで両側にこれらの構成が設けられてもよい。
【0054】
このように、ロータの浮上方向にかかわらず、ロータを電磁気力により浮上させる一対の電磁石と、ロータの停止時にロータの回転軸を支持する補助軸受と、ロータの浮上方向位置を検出するロータ位置検出器と、を備えた磁気浮上モータであれば、本制御態様を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ロータの浮上開始時において、ロータが補助軸受上で振動したり、離間および接触を繰り返したりすることを抑制することができる磁気軸受制御装置および磁気軸受制御方法を提供するために有用である。
【符号の説明】
【0056】
2 磁気浮上モータ
3,3a,3b,3B 磁気軸受制御装置
4 回転軸
5 ロータ
11,12 一対の電磁石
13a,13b 補助軸受
14a,14b ロータ位置検出器
17 操作電流生成部
18 PID制御部
19 初期値加算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8