(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、および厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20220628BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20220628BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20220628BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20220628BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01C7/00 324
H01B1/20 C
C03C8/16
H01B1/08
H01B5/14 Z
(21)【出願番号】P 2018191805
(22)【出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幕田 富士雄
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0111948(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0185561(US,A1)
【文献】特開昭52-23695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01B 1/20
C03C 8/16
H01B 1/08
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と、ガラスフリットとを含み、0.1質量%以上7.0質量%以下のヒュームド酸化アルミニウムが添加されていることを特徴とする、厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記導電性粉末の含有量は、5質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
前記導電性粉末は、ルテニウム化合物からなる、請求項1または2に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項4】
前記ルテニウム化合物は、二酸化ルテニウムおよび/またはルテニウム酸アルカリ土類金属からなる、請求項3に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項5】
厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルとを含み、前記厚膜抵抗体用組成物として、請求項1~4のいずれかに記載の厚膜抵抗体用組成物が用いられている、厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項6】
前記有機ビヒクルの含有量は、前記厚膜抵抗体用ペーストの質量に対して、30質量%以上50質量%以下である、請求項5に記載の厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項7】
導電性成分とガラス成分とヒュームド酸化アルミニウムを含む焼成体からなり、前記ガラス成分は、鉛を実質的に含まず、前記導電性成分と前記ガラス成分の合計質量に対して、ヒュームド酸化アルミニウムを0.1質量%以上7.0質量%以下含有する、厚膜抵抗体。
【請求項8】
前記導電性成分の含有量は、5質量%以上30質量%以下である、請求項7に記載の厚膜抵抗体。
【請求項9】
前記導電性成分は、ルテニウム化合物からなる、請求項7または8に記載の厚膜抵抗体。
【請求項10】
前記ルテニウム化合物は、二酸化ルテニウムおよび/またはルテニウム酸アルカリ土類金属からなる、請求項9に記載の厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ抵抗器やハイブリッドICなどの抵抗部品における厚膜抵抗体の形成に使用される、厚膜抵抗体用組成物および厚膜抵抗体用ペースト、並びに、これらを用いて形成された厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抵抗部品における抵抗体皮膜としては、ペーストを用いて形成される厚膜抵抗体と、膜形成材料のスパッタリングなどにより形成される薄膜抵抗体とが存在する。これらのうち、厚膜抵抗体は、その製造設備が安価で、かつ、その生産性も高いことから、チップ抵抗器やハイブリッドICなどの抵抗部品において、広範に利用されている。
【0003】
厚膜抵抗体は、厚膜抵抗体用ペーストをセラミックス基板上に印刷し、焼成することにより形成される。この厚膜抵抗体用ペーストは、導電性粉末と、ガラスフリットと、これらを印刷に適したペースト状にするための有機ビヒクルとにより、実質的に構成される。導電性粉末としては、二酸化ルテニウム(RuO2)やパイロクロア型ルテニウム系酸化物(Pb2Ru2O7-X、Bi2Ru2O7)などのルテニウム(Ru)系酸化物が、ガラスフリットとしては、ホウケイ酸鉛ガラス(PbO-SiO2-B2O3)やアルミノホウケイ酸鉛ガラス(PbO-SiO2-B2O3-Al2O3)などの鉛を多量に含むホウケイ酸鉛系ガラスが、それぞれ使用されている。
【0004】
導電性粉末としてルテニウム系酸化物が使用される理由は、主にその濃度の変化に対して抵抗値がなだらかに変化するという特性を有するためである。また、ガラスフリットにホウケイ酸鉛系ガラスが使用される理由は、Ru系酸化物との濡れ性が良好であり、その熱膨張係数が基板の熱膨張係数に近く、焼成時の粘性などにおいて適しているためである。
【0005】
しかしながら、有害な鉛を含んだ厚膜抵抗体用ペーストの使用は、環境問題の観点から望ましくないため、近年、鉛を含まない厚膜抵抗体用ペーストの実用化が強く求められている。このため、現在、鉛を含まない厚膜抵抗体用ペーストの研究開発が進められており、厚膜抵抗体用ペーストに用いられる厚膜抵抗体用組成物において、鉛を含まないガラスフリットの提案がなされている。
【0006】
これらの厚膜抵抗体用ペーストにおいて、成膜後の厚膜抵抗体の特性を改善するために、各種の添加剤が含有されている。たとえば、抵抗温度係数(TCR)を調整するための添加剤として酸化チタン(TiO2)が使用されている。特開昭61-206201号公報には、導電性粉末と、PbOを含有するガラス粉末と、酸化チタンが組成物中の固形分100重量部あたりTiとして0.025重量部~6.0重量部添加されている、厚膜抵抗体用組成物が開示されている。この添加剤としての酸化チタンは、厚膜抵抗体用組成物中に、粒径の大きな粉末として添加されるか、あるいは、ガラス粉末中に予め添加されている。しかしながら、添加剤として酸化チタンを用いて、鉛を含有しない厚膜抵抗体を作製すると、その抵抗値を10kΩ以上とした場合に、電流ノイズが高いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鉛を実質的に含有しない厚膜抵抗体を作製した場合に、抵抗値が高く、かつ、電流ノイズの小さい、良好な電気的特性を有する抵抗体を形成することができる、厚膜抵抗体用組成物を提供すること、および、この厚膜抵抗体用組成物を用いた厚膜抵抗体用ペーストおよび厚膜抵抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末と、鉛を実質的に含まないガラスフリットとを含み、0.1質量%以上7.0質量%以下のヒュームド酸化アルミニウムが添加されていることを特徴とする。
【0010】
前記導電性粉末の含有量は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、前記導電性粉末は、ルテニウム化合物からなることが好ましい。該ルテニウム化合物は、二酸化ルテニウムおよび/またはルテニウム酸アルカリ土類金属からなることが好ましい。
【0011】
本発明の厚膜抵抗体用ペーストは、厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルとを含み、前記厚膜抵抗体用組成物として、本発明の厚膜抵抗体用組成物が用いられていることを特徴とする。
【0012】
前記有機ビヒクルの含有量は、前記厚膜抵抗体用ペーストの質量に対して、30質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の厚膜抵抗体は、導電性成分とガラス成分とヒュームド酸化アルミニウムを含む焼成体からなり、前記ガラス成分は、鉛を実質的に含まず、前記導電性成分と前記ガラス成分の合計質量に対して、ヒュームド酸化アルミニウムを0.1質量%以上7.0質量%以下含有する、ことを特徴とする。前記導電性成分の含有量は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。前記導電性成分は、ルテニウム化合物からなることが好ましい。該ルテニウム化合物は、二酸化ルテニウムおよび/またはルテニウム酸アルカリ土類金属からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、および厚膜抵抗体は、有害な鉛を含有することなく、抵抗値が高く、かつ、電流ノイズが小さいという、良好な電気的特性を発揮することができるため、従来の鉛を含む厚膜抵抗体用ペーストに代替することで、環境汚染の問題のないチップ抵抗器やハイブリッドICなどの抵抗部品を提供できるため、その工業的価値はきわめて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、および厚膜抵抗体について、詳細に説明する。
【0016】
(1)厚膜抵抗体用組成物
本発明の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末と、ガラスフリットと、ヒュームド酸化アルミニウムとを、主成分とすることを特徴とする。
【0017】
[導電性粉末]
本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成する導電性粉末は、ルテニウム化合物であることが好ましい。ルテニウム化合物としては、二酸化ルテニウム、ルテニウム酸アルカリ土類金属、すなわち、ルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、およびルテニウム酸バリウムが挙げられる。本発明の厚膜抵抗体用組成物は、ルテニウム化合物として、これらの中から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの導電性粉末は、公知の製造方法により得ることができる。
【0018】
ルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、あるいはルテニウム酸バリウムは、二酸化ルテニウム粉末と、カルシウム、ストロンチウム、あるいはバリウムの水酸化物または炭酸塩とを機械的に混合し、熱処理した後に、粉砕する乾式法により得ることができる。また、粒径が小さく、均一なこれらの粉末を得る場合には、アルカリ水溶液に、塩化ルテニウムと、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、あるいは塩化バリウムとを含む溶液を添加して、沈澱させ、その沈澱物を洗浄し、乾燥させた後、約600℃以上900℃以下の温度で焙焼する工程が採用される。
【0019】
導電性粉末のBET法による平均粒径は、1.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。これにより、焼成により得られる厚膜抵抗体において、その抵抗値のばらつきや電流ノイズの大きさを適切に抑制することが可能となる。
【0020】
本発明の厚膜抵抗体用組成物において、導電性粉末の含有量は、得られる厚膜抵抗体における所望の抵抗値、導電性粉末およびガラスフリットの種類および粒径に応じて、適宜調整される。たとえば、面積抵抗値が5kΩ以上の高抵抗の抵抗体を得る場合には、通常、導電性粉末の含有量は、5質量%以上30質量%以下となる。
【0021】
[ガラスフリット]
本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成するガラスフリットは、鉛を実質的に含まないことを特徴とする。
【0022】
ここで、「鉛を実質的に含まない」とは、ガラスフリットにおける鉛の含有量がRoHS指令の規制値(0.1質量%)以下であるか、または、鉛の含有量が通常の測定機器において検出限界以下であることを意味する。
【0023】
本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成するガラスフリットにおける、その他のガラス成分については、基本的には限定されない。ガラスフリットとして、アルミノホウケイ酸アルカリ土類亜鉛ガラス(SiO2-B2O3-RO-ZnO-Al2O3:RはCa、Sr、およびBaから選択される少なくとも1種)、ホウケイ酸ガラス(SiO2-B2O3)、アルミノホウケイ酸ガラス(SiO2-B2O3-Al2O3)、あるいはホウケイ酸アルカリ土類ガラス(SiO2-B2O3-RO:RはCa、Sr、およびBaから選択される少なくとも1種)を、好適に用いることができる。
【0024】
本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成するガラスフリットの平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定によるD50(メジアン径)において、5μm以下であることが好ましく、1μm以上3μm以下の範囲であることがより好ましい。ガラスフリットの粒径が微細であれば、厚膜抵抗体中の導電パスを微細にすることができ、よって、厚膜抵抗体の抵抗値のばらつきや電流ノイズを抑制することが可能となる。所望の平均粒径のガラスフリットを得るためには、熔融し冷却したガラスフリットを、ボールミル、ジェットミルなどの公知の粉砕方法を用いて粉砕すればよい。
【0025】
本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成するガラスフリットにおいて、ガラスの軟化点は、550℃以上750℃以下の範囲にあることが好ましく、600℃以上700℃以下の範囲にあることがより好ましい。ガラスの軟化点が550℃よりも低いと、厚膜抵抗体用ペーストを焼成して抵抗体を形成する際にガラスフリットが融けすぎて、抵抗体のパターンが崩れてしまうからである。一方、ガラスの軟化点が750℃よりも高いと、ガラスフリットが熔融しにくくなり、導電性粉末との馴染み(濡れ)が悪くなるため、得られる厚膜抵抗体の電流ノイズが増大する。
【0026】
ここで、軟化点は、ガラスを示差熱分析法にて大気中で、5℃/分以上20℃/分以下で昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度である。
【0027】
本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成するガラスフリットにおいて、ガラスの熱膨張係数は、40×10-7/K以上100×10-7/K以下の範囲にあることが好ましく、50×10-7/K以上90×10-7/K以下の範囲にあることがより好ましい。たとえば、アルミナ基板を用いる場合、この範囲の熱膨張係数を有するガラスからなるガラスフリットを用いることによって、得られる厚膜抵抗体の熱膨張係数が、アルミナ基板の熱膨張係数に近い値になるため、引張応力の問題がなくなる。熱膨張係数はガラスフリットを棒状に成形して、熱機械的分析装置(TMA)で測定することができる。
【0028】
なお、上記したガラスフリットの軟化点や熱膨張係数については、ガラスフリットの組成を検討することによって制御することが可能である。
【0029】
厚膜抵抗体用組成物におけるガラスフリットの含有量についても、得られる厚膜抵抗体における所望の抵抗値、導電性粉末およびガラスフリットの種類および粒径に応じて、適宜調整される。たとえば、面積抵抗値が5kΩ以上の高抵抗の抵抗体を得る場合には、通常、導電性粉末の含有量に応じて、ガラスフリットの含有量は、70質量%以上95質量%以下となる。
【0030】
[ヒュームド酸化アルミニウム]
本発明の厚膜抵抗体用組成物は、主成分としてヒュームド酸化アルミニウムが含まれていることを特徴とする。
【0031】
ヒュームド酸化アルミニウムは、公知の製造方法で得られ、具体的には、酸化アルミニウム前駆体、たとえば塩化アルミニウムを含む液体供給原料を酸素雰囲気中で霧化し、高温の水素炎中で気相反応することにより合成される。ヒュームド酸化アルミニウムは、アモルファスのガラス状で球状の細孔のない一次粒子、あるいは、これらの一次粒子が、強く結合した立体構造を持つ凝集粒子(鎖状の集塊粒子)により構成される。ヒュームド酸化アルミニウムとしては、エヴォニック・インダストリーズ社(日本アエロジル株式会社)製のアエロキサイド(登録商標)がある。ヒュームド酸化アルミニウムは、BET比表面積が50m2/g~150m2/g、平均一次粒子径が10nm~30nmで、見掛け比重(タップ密度)が40g/L~60g/Lという粉体特性を有する。
【0032】
酸化アルミニウムは、従来、厚膜抵抗体用組成物の添加剤としては用いられていなかった。しかしながら、ヒュームド酸化アルミニウムは、このような粉体特性を有することにより、少量でその添加効果が得られる。
【0033】
厚膜抵抗体用組成物におけるヒュームド酸化アルミニウムの含有量は、0.1質量以上7.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。ヒュームド酸化アルミニウムの含有量が0.1質量%以上であれば、電流ノイズを低減する効果を十分発現することができる。また、ヒュームド酸化チタンの含有量が7.0質量%以下であれば、抵抗値が高くなり過ぎることがなく、電流ノイズを小さくすることができる。
【0034】
なお、添加剤として、ヒュームド酸化アルミニウムに代替して、有機金属化合物を添加しても同様の効果が得られるが、一般的には、有機金属化合物における金属含有量は少ないため、厚膜抵抗体用ペーストへの添加量を多くしなければならず、ペーストの粘度の調整が難しくなる。また、添加量によっては、ペーストの保存性に影響を及ぼす可能性が示唆される。
【0035】
[任意の含有成分]
本発明の厚膜抵抗体用組成物において、導電性粉末とガラスフリットとヒュームド酸化チタンのほかに、他の添加剤を添加することも可能である。たとえば、厚膜抵抗体における、面積抵抗値や抵抗温度係数などの電気的特性の調整、膨張係数の調整、耐電圧性の向上、その他の改質を目的として、本発明の厚膜抵抗体用組成物は、二酸化マンガン、酸化銅、五酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化チタンなどの無機成分を、適宜含有することができる。
【0036】
これらの無機成分の含有量は、導電性粉末とガラスフリットの合計質量に対して、0.05質量%以上10質量%以下の範囲とすることが一般的である。
【0037】
(2)厚膜抵抗体用ペースト
本発明の厚膜抵抗体用ペーストは、厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルとを含み、該厚膜抵抗体用組成物として、上記の本発明の厚膜抵抗体用組成物が用いられていることを特徴とする。具体的には、本発明の厚膜抵抗体用ペーストは、本発明の厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルの混練物により構成される。以下、詳細を説明する。
【0038】
[有機ビヒクル]
厚膜抵抗体用ペーストを構成する有機ビヒクルは、少なくとも樹脂と溶剤により構成される。
【0039】
有機ビヒクルとして用いることができる樹脂としては、エチルセルロース樹脂、ブチラール樹脂(ポリビニルブチラール)、アクリル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、ガラスが軟化する前の温度で分解する樹脂が好ましい。より好ましくは、500℃以下の温度で分解する樹脂が好ましい。
【0040】
樹脂を溶解する溶剤としては、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどを用いることができる。
【0041】
これらの樹脂と溶剤により調合された有機ビヒクルの樹脂と溶剤の配合比は、所望する粘度や用途によって適宜調整することができる。
【0042】
また、厚膜抵抗体用ペーストに要求される連続印刷性を考慮し、ペーストの乾燥速度を制御する観点から、高い沸点を有する可塑剤をさらに加えることができる。この場合の可塑剤の配合比も、所望する乾燥速度に応じて適宜調整することができる。
【0043】
厚膜抵抗体用ペーストに対する有機ビヒクルの割合は特に限定されることはないが、厚膜抵抗体用ペーストの質量に対して、30質量%以上50質量%以下とすることが一般的である。
【0044】
[その他の成分]
本発明の厚膜抵抗体用ペーストは、厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルのほかに、添加剤を含むことができる。たとえば、導電性粉末やその他の無機成分などの凝集を防ぐ観点から、分散剤を含むことができる。また、塗布作業性の観点から、レオロジーコントロール剤を含むことができる。
【0045】
[厚膜抵抗体用ペーストの調製方法]
厚膜抵抗体用ペーストの調製は、公知の技術を用いればよく、たとえば、3本ロールミル、ボールミルなどを用いることができる。
【0046】
厚膜抵抗体用ペーストでは、導電性粉末、ガラスフリット、その他の無機成分などの凝集を解し、これらを有機ビヒクル中に分散させることが望ましい。
【0047】
(3)厚膜抵抗体
本発明の厚膜抵抗体は、導電性成分とガラス成分を含む焼成体からなり、前記導電性成分は、二酸化ルテニウム、ルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、およびルテニウム酸バリウムから選択される少なくとも1種を含み、前記ガラス成分は、鉛を実質的に含まないことを特徴とする。すなわち、本発明の厚膜抵抗体は、本発明の厚膜抵抗体用ペーストを用いて形成され、本発明の厚膜抵抗体用組成物を含む焼成体により構成される。
【0048】
したがって、導電性成分は、本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成する導電性粉末と同様の組成となり、ガラス成分は、本発明の厚膜抵抗体用組成物を構成するガラスフリットと同様の組成となる。このため、導電性成分およびガラス成分についての説明は、ここでは省略する。
【0049】
以下、厚膜抵抗体の製造方法について説明する。なお、厚膜抵抗体の抵抗値は、厚膜抵抗体中の導電性粉末とガラスフリットの割合で適宜調整することが可能である。
【0050】
[厚膜抵抗体の製造方法]
本発明の厚膜抵抗体の製造方法は、以下の内容に限定されるものではなく、処理条件などについては、公知の手段および方法を用いて、適宜変更することができる。
【0051】
まず、厚膜抵抗体用ペーストを基板に塗布する塗布工程を行う。すなわち、アルミナなどのセラミックス基板上に銀(Ag)、パラジウム(Pd)などからなる電極を形成し、その上に、本発明の厚膜抵抗体用ペーストを、スクリーン印刷などの手段により塗布する。
【0052】
次に、厚膜抵抗体用ペーストが塗布された基板を焼成する焼成工程を行い、厚膜抵抗体を作製する。具体的には、塗布工程において、基板に塗布された厚膜抵抗体用ペーストを、オーブンなどを用いて乾燥させて、その後、ベルト炉などを用いて焼成して、導電性成分とガラス成分とを含む焼成体を得る。なお、基本的には、厚膜抵抗体用ペーストに含まれていた、導電性粉末およびガラスフリットに起因する以外の成分、すなわち、有機ビヒクルを構成する樹脂および溶剤、さらには、その他の有機物添加剤は、焼成工程を経てすべて分解される。
【0053】
以上のような工程により、本発明の厚膜抵抗体が得られる。
【0054】
本発明の厚膜抵抗体によれば、二酸化ルテニウム、ルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、およびルテニウム酸バリウムから選択される少なくとも1種を含む導電性成分と、鉛を実質的に含まないガラス成分と、ヒュームド酸化アルミニウムとにより少なくとも構成され。よって、鉛を含有せず、かつ、抵抗値が高く、電流ノイズが小さい、良好な電気的特性を有する厚膜抵抗体が提供される。
【0055】
本発明の厚膜抵抗体は、導電性成分とガラス成分のほかに、二酸化マンガン、酸化銅、五酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化チタンなどの無機成分を含むことができる。
【0056】
以上においては、主として特定の実施形態を用いて本発明について説明を行い、また、本発明を実施するための最良の構成、方法などについて開示を行った。ただし、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成に関して、当業者が、省略、追加、変更ないしは修正を加えることは可能であり、これらについても、本発明の範囲に包含される。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例および比較例によって,本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0058】
[厚膜抵抗体用組成物の作製]
(導電性粉末)
導電性粉末として、二酸化ルテニウム(RuO2)を使用した。二酸化ルテニウムは、水酸化ルテニウムを大気中にて800℃で2時間焙焼することにより作製した。そのBET平均粒径は、0.050μmであった。
【0059】
(ガラスフリット)
ガラスフリットとして、10質量%SrO-43質量%SiO2-16質量%B2O3-4質量%Al2O3-20質量%ZnO-7質量%Na2Oの組成のガラスフリットを使用した。このガラスフリットは、通常の手段である、混合、溶融、急冷、および粉砕の工程を経ることによって作製した。なお、粉砕工程において、ガラスフリットを、その粒径がレーザ回折式粒度分布測定によるD50(メジアン径)で1.5μmになるまで粉砕した。
【0060】
(ヒュームド酸化アルミニウム)
ヒュームド酸化アルミニウムとして、日本アエロジル株式会社製の比表面積が100±15m2/gであるヒュームド酸化チタン(AEROXIDE(登録商標) Alu C)を使用した。
【0061】
(有機ビヒクル)
有機ビヒクルとして、エチルセルロースをターピネオールに溶解したものを使用した。混合比は、エチルセルロース:ターピネオールを1:9とした。
【0062】
[厚膜抵抗体用ペーストの作製]
厚膜抵抗体の目標とする、焼成後の膜厚を7μm~9μm、面積抵抗値を10kΩ(±20%)、33kΩ(±20%)、100kΩ(±20%)に設定し、実施例1~3、および、比較例1~3として、上述した導電性粉末、ガラスフリット、およびヒュームドチタンを表1に示す割合で含有する厚膜抵抗体用組成物60質量%と、有機ビヒクル40質量%とを混合し、3本ロールミルで混練して、厚膜抵抗体用抵抗ペーストを作製した。
【0063】
[厚膜抵抗体の作製]
実施例1~3、および、比較例1~3のそれぞれについて、あらかじめAgPdペーストを用いて電極を形成しておいたアルミナ基板上に、上記の通りに作製した厚膜抵抗体用ペーストを、幅1mmで、電極間が1mm(1mm×1mm)となるサイズにスクリーン印刷により塗布し、その後、基板に塗布された厚膜抵抗体用ペーストを、オーブンを用いて150℃で10分間乾燥した後、ベルト焼成炉を用いて、ピ-ク温度850℃、ピーク時間9分、焼成時間をトータルで30分とする条件にて、焼成することにより、表2に示す厚膜抵抗体をそれぞれ作製した。
【0064】
[厚膜抵抗体の評価]
それぞれの実施例および比較例で製造した厚膜抵抗体の電気的特性を評価するため、それぞれの厚膜抵抗体について、以下のように、面積抵抗値、および電流ノイズを測定した。
【0065】
(面積抵抗値)
厚膜抵抗体の面積抵抗値は、マルチメータ(KEITHLEY社製、Model2001)を用いて、4端子法にて測定した。
【0066】
(電流ノイズ)
電流ノイズは、ノイズメータ(Quan-Tech社製、Model315C)を用いて、1/10W印加にて測定した。
【0067】
実施例1~3、および、比較例1~3について、面積抵抗値および電流ノイズの測定結果を、表2に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
[考察]
本発明の実施例と比較例で作製された厚膜抵抗体の電気的特性から、添加剤としてヒュームド酸化アルミニウムを用いた厚膜抵抗体(実施例1~3)は、添加剤を含まない厚膜抵抗体(比較例1~3)との比較において、所望の面積抵抗値に応じて、電流ノイズが十分に小さくなっており、厚膜抵抗体として優れていることが理解される。