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特許7096769薄膜及びフィルム形成物を得るための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】薄膜及びフィルム形成物を得るための方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220629BHJP
   B01D 71/54 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/66 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/46 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20220629BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220629BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B01D71/54
B01D71/68
B01D71/66
B01D71/56
B01D71/40
B01D71/46
B01D71/50
B01D71/70
B01D71/64
B01D71/16
B01D71/34
C08L101/00
C08K5/41
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018552183
(86)(22)【出願日】2017-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 FR2017050767
(87)【国際公開番号】W WO2017174908
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2018-11-21
(31)【優先権主張番号】1652961
(32)【優先日】2016-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521161071
【氏名又は名称】ゲイロード・ケミカル・カンパニー・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ポール・ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】モンギヨン,ベルナール
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/012669(WO,A1)
【文献】特表2001-514431(JP,A)
【文献】特開2011-101883(JP,A)
【文献】特開2015-155097(JP,A)
【文献】特開2003-053328(JP,A)
【文献】特開平09-278743(JP,A)
【文献】特開2014-198291(JP,A)
【文献】特表平08-507101(JP,A)
【文献】特開2009-040871(JP,A)
【文献】特開昭52-049298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0218069(US,A1)
【文献】特表2017-524063(JP,A)
【文献】DMSO [ONLINE],日本,東レ・ファインケミカル株式会社,2015年08月13日,http://www.torayfinechemicals.com/products/pdf/dmso.pdf,[2020年6月30日検索],インターネット,
【文献】有機合成用脱水溶媒,日本,関東化学株式会社,2019年10月10日,httpss://products.kanto.co.jp/uploads/pj46_m_pdf/212/pdf1.pdf,[2019年10月10日検索],インターネット,
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08J 7/00-7/02;7/12-7/18
C08J 9/00- 9/42
B01D 53/22;61/00-71/82
C02F 1/44
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H01M 8/00- 8/02
H01M 8/08- 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム又はフィルム形成物を得るための方法であって、
a)スルホキシド官能基を有する少なくとも1つの分子を含み、重量基準で厳密に1000ppm未満の含水量を有し、6以上のpHを有する、溶媒系を用意することと、
b)前記溶媒系中にポリマーを溶解させること又は前記溶媒系中でポリマーを合成することによってポリマー溶液を調製することと、
c)前記溶媒系を凝析浴中で除去して、フィルム又はフィルム形成物を得ることと
を含み、
前記溶媒系の除去が、前記ポリマーを凝析させることによって実施され、
前記凝析浴が、前記ポリマーに対する非溶媒であり、前記溶媒系に対する溶媒である媒体を含み、
前記凝析浴が、該凝析浴の総重量に対して最大80重量%の前記溶媒系を含み、
前記媒体が水であり、
前記ポリマー溶液が、該ポリマー溶液の総重量に対して1%未満の水を含み、
前記ポリマー溶液が、厳密に6超のpHを有し、
前記ポリマー溶液が、該ポリマー溶液の総重量に対して1重量%~50重量%のポリマーを含む、方法。
【請求項2】
前記溶媒系の含水量が、重量基準で900ppm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒系が、6~14の範囲のpHを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒系が、前記溶媒系の総重量に対して、5重量%~100重量%の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する前記分子が、式(1):
【化1】
(式中、
・同一であっても又は異なっていてもよいX及びYが互いに独立に、酸素、硫黄、SO、SO、NH及びNR”から選択され、
・同一であっても又は異なっていてもよいa及びbが互いに独立に、0又は1を表し、nが、1又は2に等しく、
・同一であっても又は異なっていてもよいR、R’及びR”が互いに独立に、1~12個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、2~12個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基、及び6~10個の炭素原子を含有するアリール基から選択され、R、R’及びR”が、アルキル、アルケニル、アリール及びハロゲンから選択される基によって置換されてもよく、O、S、N、P及びSiから選択される1個以上のヘテロ原子を含有することができ、R及びR’が、R及びR’を有する原子と一緒になって、O、S及びNから選択される1個以上のヘテロ原子を任意選択的に含有する炭化水素系環状構造をさらに形成することができ、該環状構造が、合計で5個、6個、7個、8個又は9個の環員を含む。)
に対応する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する前記分子が、式(1a):
【化2】
(式中、
同一であっても又は異なっていてもよいR及びR’が、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基及びフェニル基から選択され、
nが、1又は2に等しい。)
に対応する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する前記分子が、ジメチルスルホキシド分子である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー溶液が、前記ポリマー溶液の総重量に対して、重量%~30重量%のポリマーを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーが、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリエポキシド、ポリメタクリレート、ポリカルボネート、シリコーン、ビニルポリマー、ポリアミド-イミド及びポリイミドから選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー溶液が、10℃~120℃の範囲の温度で前記溶媒系中に前記ポリマーを溶解させることによって得られる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記凝析浴中の前記水の濃度が、少なくとも20重量%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップc)が完了したときに得られた溶媒排出物を処理するステップd)をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記処理ステップd)が、一方のジメチルスルホキシド等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子及び他方の水性排出物を回収するための分離の予備ステップd1)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記処理ステップd)が、ステップc)で得られる前記溶媒排出物に直接、又は予備ステップd1)で得られる前記水性排出物に実施される化学的、生物学的及び/又は熱的酸化を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記処理ステップd)が、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法のステップa)からc)の実施の現場で実施される、請求項12から14の一項に記載の方法。
【請求項16】
前記処理ステップd)が、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法のステップa)からc)の実施の現場と異なる現場で実施される、請求項12から14の一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー系フィルム又はフィルム形成物を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム又は中空ポリマー繊維は、テキスタイル、特に人工皮革、シューズ用のスエード又は個人保護用の機器のコーティング、バッテリー、特にLiイオンバッテリー、特に水処理又は透析のためのメンブレン、電気ケーブルの保護のための被覆材、電子回路等の様々な用途で使用され得、より大まかには、ポリマーフィルムが必要な任意の用途で様々な用途で使用され得る。
【0003】
これらの用途において使用され得るポリマーの中でも特に、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSU)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)セルロースアセテート、ポリアミド-イミド(PAI)又はポリイミド(PI)を挙げることができるが、この列記は、限定を加えるものではない。
【0004】
現在、これらのポリマーフィルム又は中空ポリマー繊維の製造のために一般的に使用されている溶媒は、NMP(N-メチルピロリドン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、NEP(N-エチルピロリドン)及びDMAc(ジメチルアセトアミド)等の極性非プロトン性溶媒である。しかしながら、これらの溶媒は、CMR(発がん性-変異原性-生殖毒性)としてカテゴリー化された有毒なものであるため、数多くの毒物学的な欠点を有する。
【0005】
したがって、これらの溶媒を、より良好な毒物学的プロファイルを有する溶媒によって置きかえることが有利である。
【0006】
ポリマーフィルム又は中空ポリマー繊維の製造のための溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)を使用することも提案されてきた。
【0007】
しかしながら、特定の場合において、DMSOの使用は、
・フィルムの使用に関する品質上の課題を発生させる、DMSOを使用した場合に得られる配合物及び/又は薄膜の着色、
・フィルムの調製に関する経済的な課題を発生させる可能性がある、他の溶媒に比べた特定のDMSO系溶液の粘度の上昇、
・経済的な課題を発生させる、DMSO及び任意選択的に水の蒸発中における冶金学的腐食、
・環境的な課題を発生させる、廃水浄化ステーションに送達される水性排出物の悪臭
等の特定の課題を生じさせ得る。
【0008】
ポリマー溶液を使用する従来技術の方法は、産業用のレベルの薄膜を得ることができ、すなわち、経済的な観点だけでなく毒物学的な観点及び環境への影響の観点からも実現可能性がある方法によって得られた良好な品質のフィルムを得ることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、上記欠点を克服できる方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は第一には、
a)スルホキシド官能基を有する少なくとも1つの分子を含み、重量基準で厳密に1000ppm未満の含水量を有し、6以上のpHを有する、溶媒系を用意することと、
b)前記溶媒系中にポリマーを溶解させること又は前記溶媒系中でポリマーを合成することによってポリマー溶液を調製することと、
c)溶媒系を除去して、フィルム又はフィルム形成物を得ることと
を含む、フィルム又はフィルム形成物を得るための方法に関する。
【0011】
好ましくは、溶媒系の含水量は、重量基準で900ppm以下、好ましくは重量基準で500ppm以下、より好ましくは重量基準で300ppm、さらにより好適には重量基準で100ppm以下又は重量基準で50ppm以下である。
【0012】
好ましくは、溶媒系は、6~14の範囲、好ましくは6~10の範囲、及びより好ましくは6.5~8の範囲のpHを有する。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、溶媒系は、溶媒系の総重量に対して、5重量%~100重量%、好ましくは25重量%~100重量%、より好ましくは50重量%~100重量%、より好適には65%~100重量%、さらにより好適には75重量%~100重量%の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子を含む。
【0014】
好ましくは、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、式(1):
【0015】
【化1】
(式中、
・同一であっても又は異なっていてもよいX及びYが互いに独立に、酸素、硫黄、SO、SO、NH及びNR”から選択され、
・同一であっても又は異なっていてもよいa及びbが互いに独立に、0又は1を表し、nが、1又は2に等しく、
・同一であっても又は異なっていてもよいR、R’及びR”が互いに独立に、1~12個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、2~12個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基及び6~10個の炭素原子を含有するアリール基から選択され、R、R’及びR”が、アルキル、アルケニル、アリール及びハロゲンから選択される基によって置換されてもよく、O、S、N、P及びSiから選択される1個以上のヘテロ原子を含有することができ、R及びR’が、R及びR’を有する原子と一緒になって、O、S及びNから選択される1個以上のヘテロ原子を任意選択的に含有する炭化水素系環状構造をさらに形成することができ、該環状構造が、合計で5個、6個、7個、8個又は9個の環員を含む。)
に対応する。
【0016】
より好ましくは、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、式(1a):
【0017】
【化2】
(式中、
同一であっても又は異なっていてもよいR及びR’が、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基及びフェニル基から選択され、
nが、1又は2に等しく、好ましくは2に等しい。)
に対応する。
【0018】
有利には、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、ジメチルスルホキシド分子である。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、ポリマー溶液は、ポリマー溶液の総重量に対して、1重量%~90重量%、好ましくは2重量%~60重量%、及びより好ましくは5重量%~30重量%のポリマーを含む。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、ポリマーは、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリエポキシド、ポリメタクリレート、ポリカルボネート、シリコーン、ビニルポリマー、ポリアミド-イミド及びポリイミドから選択される。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、ポリマー溶液は、10℃~120℃の範囲、好ましくは20℃~100℃の範囲、より好ましくは50℃~70℃の範囲の温度で溶媒系中にポリマーを溶解させることによって得られる。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、溶媒系の除去は、前記ポリマーに対する非溶媒で前記溶媒系に対する溶媒である媒体中でポリマーを凝析させることによって実施される。
【0023】
好ましくは、ポリマーに対する非溶媒で溶媒系に対する溶媒である媒体は、ポリマーに対する非溶媒で溶媒系に対する溶媒である媒体の総重量に対して、少なくとも20重量%の水、好ましくは少なくとも40重量%の水、より好ましくは少なくとも60重量%の水、さらにより好適には少なくとも65重量%の水、及び理想的には少なくとも75重量%の水を含む。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、本方法は、ステップc)が完了したときに得られた溶媒排出物を処理するステップd)をさらに含む。
【0025】
好ましくは、処理ステップd)は、一方のジメチルスルホキシド等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子及び他方の水性排出物等を回収するための分離、好ましくは蒸留、再結晶、膜処理による分離の予備ステップd1)を含む。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、処理ステップd)は、ステップc)で得られる溶媒排出物に直接、又は予備ステップd1)で得られる水性排出物のいずれかで実施される化学的、生物学的及び/又は熱的酸化を含む。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、処理ステップd)は、本発明による方法ステップa)からc)の実施の現場で実施される。
【0028】
本発明の別の実施形態によれば、ステップd)は、ステップa)からc)の実施の現場以外の現場、例えば、排出物の処理専用の現場で実施される。
【0029】
本発明の方法によって、非常に良好な機械的強度及び非常に良好な均一性を有する(不良部がない)フィルム又はフィルム形成物を得ることができる。
【0030】
本発明の方法によって、不快臭の発生を抑制し、及び産業用ユニットの腐食の課題を抑制することができる。
【0031】
使用される溶媒は、無毒であるか、又はごくわずかに有毒である。特に、使用される溶媒は、CMR(発がん性-変異原性-生殖毒性)としてカテゴリー化される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、下記の記述において、非限定的な態様で本発明をさらに詳細に記述する。
【0033】
本発明は、
a)少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する少なくとも1つの分子を含み、重量基準で1000ppm以下の含水量を有し、6以上のpHを有する、溶媒系を用意することと、
b)前記溶媒系中でポリマーを合成すること又は前記溶媒系中にポリマーを溶解させることによって、ポリマー溶液を調製することと、
c)溶媒系を除去して、フィルム又はフィルム形成物を得ることと
を含む、フィルム又はフィルム形成物を得るための方法を提案する。
【0034】
別段言及していなければ、「ppm」という用語は、「百万分率」を意味し、本発明の文脈において、重量基準で表されている。
【0035】
本発明の目的に関しては、「フィルム又はフィルム形成物」という用語は、例えば1000μm未満、好ましくは800μm未満、より好ましくは500μm未満、全面的に好ましくは200μm未満の厚さを有する、厚さが薄い製品を意味する。好ましくは、フィルム又はフィルム形成物は均一であり、すなわち、不良部又は割れを有さない。
【0036】
フィルム又はフィルム形成物は、テキスタイル、特に人工皮革、シューズ用のスエード又は個人保護用の機器のコーティング、バッテリー、特にLiイオンバッテリー、特に水処理又は透析のためのメンブレン、電気ケーブルの保護のための被覆材又は電子回路等の様々な用途で使用されるように作ることができる。
【0037】
フィルム又はフィルム形成物は、有利には、平坦なフィルム又は中空繊維である。
【0038】
本発明によるステップa)の溶媒系は、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する少なくとも1つの分子を含み、前記分子が好ましくは、溶媒系の総重量に対して、5重量%~100重量%、好ましくは25重量%~100重量%、より好ましくは50重量%~100重量%、より好適には65%~100重量%、有利には75%~100重量%に相当するスルホキシド官能基を有する。
【0039】
好ましい実施形態によれば、1つのスルホキシド官能基を有する分子は、一般式(1):
【0040】
【化3】
(式中、
・同一であっても又は異なっていてもよいX及びYが互いに独立に、酸素、硫黄、SO、SO、NH及びNR”から選択され、
・同一であっても又は異なっていてもよいa及びbが互いに独立に、0又は1を表し、nが、1又は2に等しく、
・同一であっても又は異なっていてもよいR、R’及びR”が互いに独立に、1~12個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、2~12個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基及び6~10個の炭素原子を含有するアリール基から選択され、R、R’及びR”が、アルキル、アルケニル、アリール及びハロゲンから選択される基によって置換されてもよく、O、S、N、P及びSiから選択される1個以上のヘテロ原子を含有することができ、R及びR’が、R及びR’を有する原子と一緒になって、O、S及びNから選択される1個以上のヘテロ原子を任意選択的に含有する炭化水素系環状構造をさらに形成することができ、該環状構造が、合計で5個、6個、7個、8個又は9個の環員を含む。)
によって表される有機スルフィド酸化物である。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、上記化合物は、式(1)(式中、aが、0であり、(Y)が、(S)を表し、ここで、xが、0又は1、好ましくは0を表す。)に対応する。
【0042】
基R及びR’が同一であり、かつ1~12個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子、より好ましくは1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、2~12個の炭素原子、好ましくは2~6個の炭素原子、より好ましくは2~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基並びにアリール基、好ましくはフェニルから選択される、式(1)の化合物も同様に好ましい。
【0043】
好ましい実施形態によれば、本発明の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、式(1’):
【0044】
【化4】
(式中、
Rが、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、2~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基及びアリール基、好ましくはフェニル基から選択され、
nが、1又は2に等しく、
xが、0又は1を表し、
R’が、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、2~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニレン基及びアリール基、好ましくはフェニル基から選択される。)
に対応する。
【0045】
特に好ましい実施形態によれば、本発明による少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、式(1a):
【0046】
【化5】
(式中、
同一であっても又は異なっていてもよいR及びR’が、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルキル基、1~4個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状アルケニル基及びフェニル基から選択され、
nが、1又は2に等しく、好ましくはn=2である。)
に対応する。
【0047】
スルホキシド官能基を有する分子は、例えば2~24個の炭素原子、好ましくは2~12個の炭素原子、より好ましくは2~6個の炭素原子を含んでもよい。
【0048】
好ましくは、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、1つのみのスルホキシド官能基を有する。
【0049】
好ましくは、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0050】
一実施形態によれば、本発明で使用される硫黄酸化物は、好ましくは低減された含量の揮発性不純物、特に、質量により1000ppm未満、好ましくは質量により500ppm未満、より好ましくは質量により100ppm未満の含量の揮発性不純物を有し、それ自体は公知の任意の方法によって得られる又は代替的には市販されている、有機スルフィド酸化物である。このような不純物は例えば、特に上記化合物がDMSOである場合、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルジスイルフィド(DMDS)及び/又は2,4-ジチアペンタンとしても公知のビス(メチルチオ)メタン(BMTM)である。特に好ましい実施形態において、そのDMSOは、Arkema社から、特にDMSO Evol(商標)のブランド名で販売されている臭うDMSOである。
【0051】
したがって、好ましい実施形態によれば、ステップa)の溶媒系は、DMSOを含み、好ましくは、そのDMSOは、溶媒系の総重量に対して、5重量%~100重量%、好ましくは25重量%~100重量%、より好ましくは50重量%~100重量%、より好適には65%~100重量%、有利には75%~100重量%に相当する。
【0052】
本発明の好ましい実施形態によれば、ステップa)の溶媒系は、CMRとして分類される化合物を不含である。
【0053】
ステップa)の溶媒系は、重量基準で厳密に1000ppm未満、好ましくは重量基準で900ppm以下、好ましくは重量基準で500ppm以下、より好ましくは重量基準で300ppm以下、さらにより好適には重量基準で100ppm以下又は重量基準で50ppm以下の含水量を有する。
【0054】
溶媒系の含水量は、カール-フィッシャークーロメトリー法によって測定することができる。
【0055】
例えば、市販のDMSO溶媒において、溶媒は、1000ppm以上の量の水を含有してもよい。
【0056】
したがって、ステップa)の溶媒系の含水量に応じて、当業者に周知の方法によって、例えば、モレキュラーシーブ若しくはゼオライトを通す脱水又は蒸留によって溶媒系を乾固させるステップを含むことができる。
【0057】
例えばDMSOを含む溶媒系があまりに濡れている(重量基準で1000ppm以上又は重量基準で厳密に900ppm超の含水量)場合、ポリマーを溶解させる能力が低下し、ポリマー溶液の安定性も同様に低下する。さらに、さらに多量の水を含有するポリマー溶液の使用により、フィルムの不十分な機械的強度又は不十分な均一性によって反映され得る数多くの不良部を有するフィルムが得られることが多い。
【0058】
本発明による溶媒系は、DMSO分子等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子からのみ形成されてもよいし、又は、1つ以上の他の溶媒(スルホキシド官能基を有する分子以外のもの、特に、上記に規定の式(1)に対応する分子以外のもの)及び/若しくは1つ以上の他の機能性添加剤を含んでもよい。
【0059】
溶媒系中に使用され得る他の溶媒(いかなるスルホキシド官能基も有さない溶媒)の中でも特に、次のものを挙げることができる。
・アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、エチルアミンケトン、イソホロン、トリメチルシクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン又はジアセトンアルコール等のケトン、
・モノエタノールアミン(MEoA)、ジエタノールアミン(DEoA)、プロパノールアミン(PoA)、ブチルイソプロパノールアミン(BiPoA)、イソプロパノールアミン(iPoA)、2-[2-(3-アミノプロポキシ)エトキシ]エタノール、N-(2-ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、(3-メトキシ)プロピルアミン(MoPA)、3-イソプロポキシプロピルアミン(IPOPA)、モノエチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、トリエチルアミン(TEA)又はアセトニトリル等のアミン、
・エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、ジアセトンアルコール、ブタノール、メチルイソブチルカルビノール、ヘキシレングリコール又はベンジルアルコール等のアルコール、
・テトラヒドロフラン(THF)、メチルフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン又はグリコールジアルキルエーテル等のエーテル、
・二塩基性エステル、ジメチルグルタレート、ジメチルスクシネート、ジメチルアジペート、ブチルアセテート、エチルアセテート、ジエチルカルボネート、ジメチルカルボネート、プロピレンカルボネート、エチルメチルカルボネート、グリセロールカルボネート、ジメチル2-メチルグルタレート、ジメチル2-メチルアジペート、ジメチル2-メチルスクシネート、n-ブチルプロピオネート、ベンジルアセテート又はエチルエトキシプロピオネート等のエステル、
・ジメチルスルホン又はスルホラン等のスルホン、
・トルエン又はキシレン等の芳香族化合物、
・メチラール、エチラール、ブチラール、ジオキソラン又はTOU(テトラオキサウンデカン)等のアセタール、
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)又はジプロピレングリコールメチルエーテル等のE型又はP型のグリコールエーテル。
【0060】
他の溶媒の例として、次の溶媒も挙げることができる:N-ブチルピロリドン、N-イソブチルピロリドン、N-(tert-ブチル)ピロリドン、N-(n-ペンチル)ピロリドン、N-((メチル置換)ブチル)ピロリドン、環がメチル置換されたN-プロピル-若しくはN-ブチルピロリドン、若しくはN-(メトキシプロピル)ピロリドン、ポリグリム、エチルジグリム、1,3-ジオキソラン又はメチル5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソメンタノエート。
【0061】
溶媒系中に使用され得る機能性添加剤の中でも特に、
・染料、
・ポリエチレングリコール(PEG)又はポリビニルピロリドン(PVP)等の細孔形成剤
・保存料、
・抗酸化剤
を挙げることができる。
【0062】
機能性添加剤が存在する場合、機能性添加剤は、溶媒系の総重量に対して、0.01重量%~10重量%若しくは0.05重量%~5重量%又は0.1重量%~3重量%に相当し得る。
【0063】
本発明による方法で使用される溶媒系は、6以上のpH、好ましくは6~14の範囲、より好ましくは6~10の範囲、さらにより好適には6.5~8の範囲のpHを有する。
【0064】
本発明の目的に関しては、pHは、pH計を使用して、25重量%の溶媒系及び75重量%の蒸留水を含有する溶液のpHを20℃で測定することによって、測定される。
【0065】
溶媒系のpHを上昇させるために、溶媒系の総重量に対して、一般に10重量%以下、理想的には5重量%以下又は重量基準で5000ppm以下又は重量基準で500ppm以下の割合の塩基性化合物を加えることができる。このようにして使用される塩基性化合物は、当業者に知られた任意の種類のものであってよい。例えば、モノエタノールアミン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)及びN,N-ジエチルフェニルアセトアミド(DEPA等のアミン)が挙げられる。他の例は、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等の炭酸塩が挙げられる。前記塩基性化合物は、最初から溶媒系中に存在してもよいし、又は、本発明によるポリマー系フィルム又はフィルム形成物を得るための工程中に加えられてもよい。溶媒系のpHは、溶媒系を塩基性樹脂に通すことによって上昇させることもできる。
【0066】
溶媒系があまりに酸性である(6未満のpH)場合、フィルム又はフィルム形成物の製造において特に煩わしいものである、溶媒系の不快な臭い又は着色が発生する可能性がある。さらに、6未満のpHを有する溶媒系の使用により、フィルム又はフィルム形成物を調製するための産業用デバイスに腐食の課題が発生する可能性があり、前記腐食は、例えば蒸発オーブン、凝析/転相浴等の中に形成する可能性がある。
【0067】
本発明による方法のステップb)中に、ポリマー溶液が調製される。
【0068】
本発明の目的に関しては、「ポリマー」という用語は、共有結合によって結合した少なくとも2つの同一の単位(モノマー)を含有する、任意の分子を意味する。本発明によるポリマーは、天然由来のものであっても又は合成由来のものであってもよく、重合、重縮合又は重付加によって得ることができる。
【0069】
本発明の文脈において、上記に規定の任意の種類のポリマーが、当業者に公知の任意の分子量範囲、例えば、5000~10000000g/molの範囲の分子量で使用され得る。
【0070】
一実施形態によれば、ポリマーは、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSU)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリエポキシド、ポリメタクリレート、ポリカルボネート、シリコーン、ビニルポリマー、ポリアミド-イミド(PAI)及びポリイミド(PI)から選択される。
【0071】
本発明の目的に関しては、「ポリスルホン」という用語は、式:
【0072】
【化6】
の少なくとも2つの単位(n≧2)を含有するポリマーを意味する。
【0073】
本発明の目的に関しては、「ポリエーテルスルホン」という用語は、式:
【0074】
【化7】
の少なくとも2つの単位(n≧2)を含有するポリマーを意味する。
【0075】
本発明の目的に関しては、「ポリフェニルスルホン」という用語は、式:
【0076】
【化8】
の少なくとも2つの単位(n≧2)を含有するポリマーを意味する。
【0077】
ポリマー溶液は、前もって調製したポリマーを、ステップa)の溶媒系中に溶解させること(変形形態b1)によって得ることもできるし、又は、ステップa)の溶媒系中で直接ポリマーを合成すること(変形形態b2)によって得ることもできる。
【0078】
変形形態b1)によれば、ステップa)の溶媒系中へのポリマーの溶解は、当業者に公知の任意の手段によって実施される。ポリマーの溶解は、任意の温度で実施することができるが、一般に、室温から溶媒系の沸点までの範囲の温度で実施される。例えば、ポリマーの溶解は、10℃~120℃の範囲の温度、好ましくは20℃~100℃までの温度、より好ましくは50℃~70℃の範囲の温度で実施されてもよい。
【0079】
溶解を容易にするために、当業者に公知の撹拌システムを準備することができる。
【0080】
溶媒系中に溶解されるポリマーは、様々な形態、例えば粉末、押出成形品、顆粒、ビーズ、フレーク等の形態であってよい。
【0081】
変形形態b2)によれば、ポリマーは、ステップa)の溶媒系中で直接合成される。ポリマーは、当業者に公知の任意の手段によって合成されてもよい。例えば、塩基によって触媒されるアニオン重合が、ステップa)の溶媒系中で実施されてもよい。同様に、ステップa)の溶媒系の使用は、均一な相中でラジカル重合を実施することができる。このラジカル重合には特に、より制御可能な度合いが増しているという利点がある。
【0082】
ステップb)が完了したときに、ポリマー溶液が得られる。このポリマー溶液は、ポリマー溶液の総重量に対して、好ましくは1%未満の水、より好ましくは0.5%未満の水、全く好ましくは0.1重量%の水を含有する。好ましい態様によれば、前記ポリマー溶液は、厳密に6超のpHを有する。好ましくは、ポリマー溶液は、ポリマー溶液の総重量に対して、1重量%~50重量%、好ましくは2重量%~40重量%、より好ましくは5重量%~30重量%のポリマーを含む。
【0083】
1つ以上の添加剤、例えば充填剤等が、このポリマー溶液に加えられてもよく、この1つ以上の添加剤は当業者に周知であり、非限定的な態様において、顔料、染料、細孔形成剤、難燃剤及び紫外線安定剤等から選択される1つ以上の添加剤である。
【0084】
ステップc)中に、溶媒系が除去され、これにより、所望のフィルム又はフィルム形成物を得ることができる。
【0085】
ステップc)中における溶媒系の除去は、いくつかの変形形態によって実施されてもよい:
・変形形態c1):前記ポリマーに対する非溶媒であるが溶媒系に対する溶媒である媒体中におけるポリマーの凝析(湿式工程)、
・変形形態c2:溶媒の蒸発(乾式工程)による。
【0086】
所望されるフィルム又はフィルム形成物の形態に応じて、当業者は、ステップc)中における溶媒系の除去前にポリマー溶液を挿入するための適切な方法を選択する。例えば、平坦なフィルムの場合、ポリマーは、溶媒系の除去の前に挿入されるが、中空繊維の場合、ポリマーは、溶媒の除去と同時に挿入される。
【0087】
このポリマー溶液の挿入の段階は任意選択的に、水分含量が低減された雰囲気下、好ましくは厳密に80%未満、さらに好ましくは厳密に60%未満、より好ましくは厳密に40%未満の相対湿度の雰囲気下で実施されてもよい。この低減された水分含量の雰囲気は、当業者に公知の任意の手段、例えば、モレキュラーシーブを通して乾燥された気体を加えることによって、得ることができる。
【0088】
変形形態c1)によれば、フィルム又はフィルム形成物は、そのままの状態で得ることも可能であり、若しくは、支持体上にコーティングする方法によってコーティングされることも可能であり、若しくは代替的には、ポリマー溶液を紡績し、続いて、前記ポリマーに対する非溶媒である媒体(例えば、凝析浴)中に浸漬させ、ポリマーを沈殿させ、ポリマー溶液の溶媒を、前記ポリマーに対する非溶媒である媒体中に移行させる(凝析:湿式工程)ことを可能にする方法によって得ることも可能である。コーティング支持体は任意の種類のものであってよく、特に、支持体は、多孔性であっても又は非多孔性であってもよい。
【0089】
非多孔性支持体の中でも特に、ガラス、金属及びプラスチックを挙げることができる。
【0090】
多孔性支持体の中でも特に、植物繊維、鉱物繊維、有機繊維、織物又は不織のテキスタイル、紙及び厚紙等を挙げることができる。多孔性支持体の場合、これは、含浸による方法とも呼ばれる。
【0091】
凝析浴は、ポリマーに対する非溶媒である媒体から形成され、前記ポリマーに対する非溶媒である媒体は、好ましくは、前記ポリマーの溶媒系のための良好な溶媒である。
【0092】
本発明の目的に関しては、「前記ポリマーの溶媒系のための良好な溶媒」という表現は、溶媒系が、少なくとも30g、好ましくは50g、より好ましくは100gの溶媒系が20℃において大気圧で1000gのポリマーのための非溶媒中に溶解された場合、すなわち、30分の撹拌後に均一溶液(すなわち、単一の液相)が得られた場合においてポリマーに対する非溶媒である媒体に可溶であることを意味する。
【0093】
本発明の目的に関しては、「前記ポリマーに対する非溶媒」という用語は、ポリマーが、非溶媒1000g当たり100g超、好ましくは非溶媒1000g当たり10g超、より好ましくは非溶媒1000g当たり1g超になるまで20℃において大気圧で前記非溶媒に可溶ではないこと、すなわち、30分の撹拌後にさえ不均一溶液(少なくとも2つの相)が観察されることを意味する。
【0094】
ポリマーに対する非溶媒である媒体は、染料、臭う作用物質、保存料又は抗酸化剤等の1つ以上の機能性添加剤をさらに含んでもよい。この実施形態によれば、機能性添加剤は好ましくは、ポリマーに対する非溶媒である媒体の総重量に対して、5重量%以下、好ましくは0.01重量%~3重量%の範囲、より好ましくは0.05重量%~2重量%の範囲の含量で存在する。
【0095】
ポリマーに対する非溶媒である媒体から形成された凝析浴は、凝析浴の総重量に対して、最大80重量%、好ましくは最大60重量%、より好ましくは最大40重量%のポリマーのための溶媒を含んでもよい。例えば、ポリマーに対する非溶媒である媒体から形成された凝析浴は、本発明の意味において規定されたように、前記ポリマーのための最大80重量%の溶媒系を含んでもよい。
【0096】
本発明による方法の一実施形態によれば、ステップb)で得られたポリマー溶液は、数秒から数十分、例えば1秒から60分にわたって凝析浴中に浸漬され、この時間の後には、ポリマーが沈殿し、前記ポリマーに対する溶媒系が前記ポリマーに対する非溶媒中に移行する。
【0097】
一般に、水がポリマーに対する非溶媒である媒体である場合、凝析浴中の水の濃度は、20重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは60重量%以上であってよい。
【0098】
凝析浴中の水の濃度は、広範な割合で変動し得る。水から本質的に構成される(又は水のみから構成される)凝析浴が想定され得(DMSO等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子は、微量、例えば1000ppm未満であろう。)、前記浴は、ポリマー溶液が水中に浸漬されるにつれて徐々に、少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子(DMSO分子等)が徐々に装入されるようになっていく。
【0099】
水と少なくとも1つのスルホキシド官能基(DMSO等)を有する分子との比が重量基準で80/20~50/50の範囲、好ましくは65/35~55/45の範囲に維持された凝析浴も、同様に想定され得る。
【0100】
水とスルホキシド官能基を有する分子(DMSO等)との比が同一又は異なる状態で、直列に又は平行に配置されているいくつかの凝析浴を想定することもできる。
【0101】
凝析浴中の沈殿は、任意の温度、好ましくは15℃~60℃までの範囲の温度、好ましくは室温で実施することができる。特定の場合において、沈殿速度及び収率を改善するように凝析浴を冷却することが有利なこともあり得る。
【0102】
沈殿は一般に、大気圧で実施される。
【0103】
凝析浴より上にある沈殿操作中の気相に含まれる溶媒の存在を低減することが、有利なこともある。気相中の溶媒の存在を低減するために、凝析浴を被覆すること及び/又は気体を効率的に吸い出すことが想定され得、又は、蒸発防止用のシステム、例えば、コルク、ポリプロピレン又はポリエチレンビーズ等の浮遊要素を用いて浴の表面を被覆することによって、気相中に溶媒が存在しないようにすることさえも想定され得る。
【0104】
ステップc1)が完了したときに得られた沈殿ポリマーは、支持体上に(支持体の多孔度に応じて)堆積及び/若しくは含浸されたフィルム形態(フィルムキャスティング)であってもよいし、又は、中空繊維又は非中空繊維の形態であってもよい。したがって、沈殿ポリマーは、任意選択的に1回以上の洗浄を行い、続いて乾燥させた後で、回収される。
【0105】
非多孔性支持体は、ポリマーフィルムによってコーティングされるが、多孔性支持体は、ポリマー溶液を含浸させてもよい。
【0106】
中空繊維の形態のポリマーを製造するためには、変形形態c1)によって溶媒系を除去すること(湿式工程)が有利である。
【0107】
洗浄水は、後続のステップd)で任意選択的に処理するために、凝析浴と組み合わせてもよい。
【0108】
変形形態c2)によれば、溶媒系は、溶媒の蒸発(乾式工程)によって除去される。次いで、溶媒の蒸発中にポリマーが沈殿し得る。溶媒の蒸発は、当業者に公知の方法によって実施することができ、これらの方法の中でも特に、加熱、不活性気体流又は非不活性気体流の循環及び負圧下への配置を挙げることができる。
【0109】
変形形態c2)の一実施形態によれば、フィルム又はフィルム形成物は、ポリマー溶液によるコーティングのために支持体上に堆積させ、続いて溶媒を蒸発させることによって、得ることができる。コーティング支持体は任意の種類のものであってよく、特に、支持体は、多孔性であっても又は非多孔性であってもよい。非多孔性支持体の中でも特に、ガラス、金属及びプラスチックを挙げることができる。多孔性支持体の中でも特に、植物繊維、鉱物繊維、有機繊維、織物又は不織のテキスタイル、紙及び厚紙等を挙げることができる。
【0110】
変形形態c2)の一実施形態によれば、ステップb)が完了したときに得られたポリマー溶液からの溶媒の蒸発は、好ましくは30℃~200℃の範囲、より好ましくは60℃~150℃の範囲、より好適には80℃~120℃の範囲で加熱することによって実施される。
【0111】
変形形態c2)の一実施形態によれば、ステップb)が完了したときに得られたポリマー溶液からの溶媒の蒸発が、気体流下で実施され、前記気体が、好ましくは、空気、窒素、酸素、水蒸気等から選択される。
【0112】
変形形態c2)の一実施形態によれば、ステップb)が完了したときに得られたポリマー溶液からの溶媒の蒸発は、負圧、例えば5kPa~100kPaの範囲の圧力下への配置によって実施される。
【0113】
上記蒸発法のいくつかを組み合わせることも可能である。
【0114】
したがって、好ましい実施形態によれば、溶媒の蒸発は、空気流下において約150℃~大気圧の温度で実施される。
【0115】
別の実施形態によれば、溶媒の蒸発は、約120℃の温度において10kPaの減圧で実施される。
【0116】
さらに別の実施形態によれば、溶媒の蒸発は、水蒸気流下において大気圧にて約150℃の温度で実施され、これにより、スルホキシド官能基の水との親和性が高いため、DMSO又はスルホキシド官能基を有する他の分子の除去が促進される。
【0117】
上記溶媒の除去のためのステップが完了したときに、可能な残りの微量のDMSO又はスルホキシド官能基を有する他の分子を除去するように、水を用いた(吸引又は浸漬等による)得られた沈殿ポリマーの1回以上の洗浄を実施することも、同様に想定され得る。したがって、任意選択的な残りの微量のDMSO又は残りのスルホキシド官能基を有する他の分子は、0~10000ppmの範囲、好適には0~1000ppmの範囲の割合に低減することができる。同様に、微量の残りの溶媒は好ましくは、0~10000ppmの範囲、好適には0~1000ppmの範囲の割合に低減される。
【0118】
ステップc2)が完了したときに得られた沈殿ポリマーは、任意選択的に支持体(支持体の多孔度に応じて)堆積及び/若しくは含浸されたフィルム形態(フィルムキャスティング)で得ることもできるし、又は、中空繊維若しくは非中空繊維の形態で得ることもできる。好ましくは、ステップc2)が完了したときに得られた沈殿ポリマーは、非多孔性支持体上に堆積したフィルム形態(フィルムキャスティング)で得ることができる。
【0119】
蒸発した溶媒は有利には、任意選択的な再使用のために再凝縮させ、回収することができる。気体形態で蒸発した溶媒は、当業者に公知の方法に従って、水によってスクラビング除去することができる。この場合、溶媒を含有するスクラビング水は例えば、本発明による方法に関して後述する処理方法(ステップd)によって処理されてもよい。
【0120】
一実施形態によれば、本発明による方法は、ステップc)で得られる排出物を処理するステップd)をさらに含む。
【0121】
ステップc)で得られる排出物は一般に、水及び溶媒系を含み、好ましくは、ステップc)で得られる排出物は、水及びDMSOを含み、より好ましくは、ステップc)で得られる排出物は、水及びDMSO等のスルホキシド官能基を有する分子から本質的に形成される。
【0122】
一般に、ステップc)で得られる排出物が、排出物の総重量に対して、15重量%超のDMSO等のスルホキシド官能基を有する分子を含む場合、ステップd)は、DMSO等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子を含む水性排出物を処理するため、並びに、一方のDMSO等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子の大部分及び後述のステップd2)で処理されてもよい他方の水性相を回収するための分離の予備ステップd1)を含む。
【0123】
前記分離ステップd1)は、当業者に公知の任意の方法によって実施することができ、これらの方法の中でも特に、蒸留、再結晶、膜処理を挙げることができる。
【0124】
ステップc)で得られる排出物を処理するステップd)は一般に、ステップc)で直接得られる廃水又は上記ステップd1)で得られる廃水を処理するステップd2)を含む。
【0125】
一般に、ステップc)で得られる排出物が、排出物の総重量に対して、15重量%未満のDMSO等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子を含む場合、ステップd)は、予備ステップd1)を含まず、排出物は、処理ステップd2)において直接処理される。
【0126】
ステップd)を実施するための処理ユニットは有利には、フィルム又はフィルム形成物の製造現場に存在する。したがって、有利には、微量のDMSO等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子(水性排出物の総重量に対して、5重量%未満)を含有する本発明による方法のステップc)中におけるポリマーの成形で得られる排水が、浄化ステーションへの送達前に同じ現場で処理される。
【0127】
有利には浄化ステーションへの送達前に製造業者の所在地において、ステップd)で使用される処理ユニットによって、本発明による方法で得られる排出物中に存在するDMSO(又は少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する他の分子)の分解生成物、例えば、DMSOの場合はジメチルスルフィド(DMS)の臭いに伴う課題を回避することができる。したがって、これにより、臭いの課題及び環境に関する不満を回避することができる。
【0128】
ステップd2)中に処理をするために、微量のDMSO等の少なくとも1つのスルホキシド官能基を有する分子(処理すべき水性排出物の総重量に対して、5重量%未満)を含有するこれらの水性排出物を処理するためのユニットは、有利には製造業者の所在地に直接存在するが、当業者に公知の任意の種類のものであってよく、有利には、スルホキシド官能基を有する分子の化学的及び/又は生物学的及び/又は熱的酸化を可能にするユニットである。DMSOを含有する排出物の場合、酸化により、DMSOをDMSO、HSO、CO2、SO及び他の硫黄酸化物等の他の化合物に変換することができる。
【0129】
一般に、例としてDMSOを考えたとき、DMSO段階への酸化は、DMSOがDMSOより格段に安定であり、したがって、本発明の方法で得られる水性排出物中においてDMSOに比べて発生させる不快な臭いがより少量であるため、十分である。
【0130】
例えば、酸化ステップ(したがって、処理ステップd2)を構成し得る。)は、紫外線照射、二酸化チタンTiO、鉄及びゲーサイトから選択される触媒を用いて又は用いないで、H、オゾン、空気又はKNO等の酸化剤を水性排出物に加えることからなり得る場合がある。酸化ユニットの目的は、廃水中に含有される少なくとも50重量%のDMSO(又は少なくとも1つのスルホキシド官能基を含有する他の分子)を、理想的には80%、さらにより理想的には100%DMSOに変換することである。
【0131】
一実施形態によれば、酸化ステップは、有利にはMBR(メンブレンバイオリアクター)等の方法に従って、活性スラッジ中に存在し得る細菌と排出物を接触させることによって、水性排出物の生物学的処理であってもよい。
【0132】
別の実施形態によれば、DMSO(又は少なくとも1つのスルホキシド官能基を含有する他の分子)を含む水性排出物は、水を気化させ、DMSO(又は少なくとも1つのスルホキシド官能基を含有する他の分子)を燃焼させるものである、熱処理を施してもよい。
【0133】
好ましい実施形態において、水性排出物は、化学的処理及び/又は生物学的処理によって酸化され、好ましくは生物学的処理によって酸化される。
【0134】
好ましい実施形態によれば、この本発明による方法で得られる水性排出物の処理d)は、前記本発明の方法の実施の現場で実施される。
【0135】
別の実施形態によれば、この本発明による方法で得られる水性排出物の処理d)は、本発明の方法のステップa)からc)の実施の現場と異なる別の現場、例えば、排出物の処理専用の現場で実施される。