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特許7098132うどん生地の塊の配送供給方法およびうどん麺の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】うどん生地の塊の配送供給方法およびうどん麺の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20220704BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L3/36 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018004079
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019122280
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514294924
【氏名又は名称】株式会社あっとん
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】神原 里司
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-219847(JP,A)
【文献】特開昭61-041865(JP,A)
【文献】NHKテレビテキスト きょうの料理,2013年,vol.57, no.6,pp.111-115
【文献】冷凍,2014年,vol.89, no.1036,pp.20-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
A23L 3/36-3/365
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造センターにおいて、うどん生地の塊を製造し、製造したうどん生地の塊を各店舗に配送供給する方法において、
前記製造センターにおいて、製造したうどん生地の塊を2kg以下に分けて30~70KPaの減圧雰囲気下でパッキングし前記うどん生地の塊をパッキングした状態のまま-20℃~-50℃の凍結冷媒に浸して急速冷凍し、
前記急速冷凍したうどん生地の塊を前記製造センターから各店舗に冷凍状態のまま配送供給する、うどん生地の塊の配送供給方法。
【請求項2】
請求項1に記載のうどん生地の塊の配送供給方法であって、
前記うどん生地の塊を製造する作業において、うどん生地の材料を練る代わりに、均一に混合してそぼろ状にし、そぼろ状のうどん生地を一つにまとめて塊とした後、うどん生地を層状にしてから踏む作業を複数回行い、その後、うどん生地の塊をねかせる、うどん生地の塊の配送供給方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のうどん生地の塊の配送供給方法において、
前記製造センターにおいて前記うどん生地の塊を製造する場合に、タピオカ澱粉を添加せずに、うどん生地の塊を製造する、うどん生地の塊の配送供給方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のうどん生地の塊の配送供給方法において、
前記製造センターにおいて前記うどん生地の塊を製造する場合に、タピオカ澱粉を添加して、うどん生地の塊を製造する、うどん生地の塊の配送供給方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のうどん生地の塊の配送供給方法において、
前記製造センターにおいて前記うどん生地の塊を製造する作業において、うどん生地の材料を練るのではなく、均一に混合してそぼろ状とするだけとし、混合したうどん生地全体を一つにまとめて上から押さえ、そしてロール巻きにしてうどん生地を層状にしてから、うどん生地が均一になるように踏む、次いで、三つ折りにしてから内の空気を逃がすように軽く踏み、その後、うどん生地の塊を30分から1時間ねかせる、うどん生地の塊の配送供給方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のうどん生地の塊の配送供給方法において、
前記うどん生地の塊を急速冷凍する場合に、うどん生地の塊を1.5~2kgの塊に分割し、分割したうどん生地の塊を直方体または団子状に成形してパッキングする、うどん生地の塊の配送供給方法。
【請求項7】
製造センターにおいてうどん生地の塊を製造し、製造した前記うどん生地の塊を各店舗に配送供給し、各店舗においてうどん麺を製造する、うどん麺の製造方法において、
前記製造センターにおいて、製造した前記うどん生地の塊を2kg以下に分けて30~70KPaの減圧雰囲気下でパッキングし前記うどん生地の塊をパッキングした状態のまま-20℃~-50℃の凍結冷媒に浸して急速冷凍し、
前記急速冷凍したうどん生地の塊を前記製造センターから各店舗に冷凍状態のまま配送供給し、
前記店舗において、前記急速冷凍したうどん生地の塊を解凍し、解凍したうどん生地の塊からうどん麺を製造する、うどん麺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うどん生地の塊の配送供給方法およびうどん麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品生地を適当な大きさに分割し、食品生地貯留部から食品生地処理ステーションに分割した食品生地を配送供給する方法が知られている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-95987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、食品生地を冷凍して配送しないため、品質を保持したまま食品生地を配送供給することができない場合があった。また、従来では、品質保持のために、うどん麺を冷凍したまま配送供給する方法が知られていたが、冷凍による細胞破壊により、解凍時に麺のコシが弱くなり、美味しいうどん麺を提供することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、品質を保持したまま配送供給することができ、かつ、解凍しても麺にコシがあり、美味しく食べることができる、うどん生地の塊を配送供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係るうどん生地の塊の配送供給方法は、製造センターにおいて、うどん生地の塊を製造し、製造したうどん生地の塊を各店舗に配送供給するものであって、前記製造センターにおいて、製造したうどん生地の塊を2kg以下に分けて30~70KPaの減圧雰囲気下でパッキングし前記うどん生地の塊をパッキングした状態のまま-20℃~-50℃の凍結冷媒に浸して急速冷凍し、前記急速冷凍したうどん生地の塊を前記製造センターから各店舗に冷凍状態のまま配送供給する。
【0009】
上記うどん生地の塊の配送供給方法において、前記うどん生地の塊を製造する作業において、うどん生地の材料を練る代わりに、均一に混合してそぼろ状とし、そぼろ状のうどん生地を一つにまとめて塊とした後、うどん生地の塊を層状にして踏み、その後、うどん生地の塊をねかせる、うどん生地の塊の配送供給方法。
【0010】
上記うどん生地の塊の配送供給方法において、前記製造センターにおいて前記うどん生地の塊を製造する場合に、タピオカ澱粉を添加せずに、うどん生地の塊を製造する構成とすることができる。
【0011】
上記うどん生地の塊の配送供給方法において、前記製造センターにおいて前記うどん生地の塊を製造する場合に、タピオカ澱粉を添加して、うどん生地の塊を製造する、うどん生地の塊の配送供給方法。
【0012】
上記うどん生地の塊の供給方法において、前記製造センターにおいて前記うどん生地の塊を製造する作業において、うどん生地の材料を練るのではなく、均一に混合してそぼろ状とするだけとし、混合したうどん生地全体を一つにまとめて上から押さえ、そしてロール巻きにしてうどん生地を層状にしてから、うどん生地が均一になるように踏む、次いで、三つ折りにしてから内の空気を逃がすように軽く踏み、その後、うどん生地の塊を30分から1時間ねかせる構成とすることがきる。
【0013】
上記うどん生地の塊の配送供給方法において、前記うどん生地の塊を急速冷凍する場合に、うどん生地の塊を1.5~2kgの塊に分割し、分割したうどん生地の塊を直方体または団子状に成形してパッキングするような構成とすることができる。
【0014】
本発明の第1の観点に係るうどん麺の製造方法は、製造センターにおいてうどん生地の塊を製造し、製造した前記うどん生地の塊を各店舗に配送供給し、各店舗においてうどん麺を製造するものであって、前記製造センターにおいて、製造した前記うどん生地の塊を2kg以下に分けて30~70KPaの減圧雰囲気下でパッキングし前記うどん生地の塊をパッキングした状態のまま-20℃~-50℃の凍結冷媒に浸して急速冷凍し、前記急速冷凍したうどん生地の塊を前記製造センターから各店舗に冷凍状態のまま配送供給し、前記店舗において、前記急速冷凍したうどん生地の塊を解凍し、解凍したうどん生地の塊からうどん麺を製造する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造センターにおいて、うどん生地の材料を練るのではなく、均一に混合するだけとし、混合したうどん生地全体を一つにまとめて上から押さえ、そしてロール巻きにしてうどん生地を層状にしてから、うどん生地が均一になるように踏む、次いで、三つ折りにしてから内の空気を逃がすように軽く踏み、その後、うどん生地の塊を30分から1時間ねかせるやり方で製造したうどん生地の塊を凍結溶媒に浸漬して急速冷凍することで、冷気で冷凍するよりも短い時間でうどん生地の塊を冷凍することができるため、細胞組織の破壊の原因となる氷結晶が大きくなる前に、うどん生地の塊を冷凍することができる。これにより、うどん生地の塊を冷凍する際にうどん生地の細胞組織が破壊されることを抑制することができ、結果、品質を保持したまま配送供給するがことができ、かつ、解凍しても麺にコシがあり、美味しく食べることができる、うどん生地の塊を配送供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態に係るうどん麺の製造システムの概要を示す概要図である。
図2図2は、第1実施形態に係るうどん麺の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、そぼろ状としたうどん生地を示す図である。
図4図4は、図3に示すうどん生地を丸めた状態を示す図である。
図5図5は、図4に示すうどん生地の塊を薄くした後にロール巻にした状態を示す図である。
図6図6は、図5に示すロール巻にしたうどん生地の塊を作業者が踏んでいる状態を示す図である。
図7図7は、図6に示すうどん生地の塊を三つ折りにした状態を示す図である。
図8図8は、図7に示すうどん生地の塊を踏んだ後の状態を示す図である。
図9図9は、図8に示すうどん生地の塊をナイロン内に入れ、ナイロン内を減圧したうどん生地の状態を示す図である。
図10図10は、図9に示すうどん生地の塊を用いて製造されたうどん麺の拡大図である。
図11図11は、第2実施形態に係るうどん麺の製造システムの概要を示す概要図である。
図12図12は、第2実施形態に係るうどん麺の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図13図13は、本実施例での官能評価に用いたうどん生地を示す図である。
図14図14は、略100%減圧した(略真空)のうどん生地に対する、40%まで減圧したうどん生地の官能評価の結果を示す図である。
図15図15は、略100%減圧した(略真空)のうどん生地に対する、70%まで減圧したうどん生地の官能評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るうどん麺の製造システムを、図に基づいて説明する。
【0019】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係るうどん麺の製造システムの概要を示す構成図である。図1に示すように、第1実施形態に係るうどん麺の製造システムでは、うどん生地の塊の製造を行う製造センター1と、製造センター1で製造されたうどん生地の塊からうどん麺を製造し、客に提供する店舗2とから構成される。うどん生地の塊を製造し冷凍するまでの工程が製造センター1で行われ、製造したうどん生地の塊が冷凍車などで各店舗2に配送され、各店舗2で冷凍したうどん生地の塊を解凍し、製麺を行い客にうどんが提供される。
【0020】
ここで、図1に示すように、製造センター1は、減圧装置9および冷凍装置10を備える。減圧装置9は、ナイロン袋にパックしたうどん生地の塊のパック内を減圧し、パック内を減圧雰囲気とする。減圧装置9は、特に限定されないが、たとえばロータリーポンプや油拡散ポンプなどの真空ポンプを用いることができる。
【0021】
また、冷凍装置10は、凍結溶媒が貯蔵された凍結溶媒貯蔵容器11を有しており、食品を凍結溶媒貯蔵容器11の凍結溶媒内に浸漬させることで、冷風により凍結する場合と比べて、食品を急速冷凍することができる。特に、冷凍装置10では、凍結溶媒により冷凍を行うことで、冷風により凍結を行う場合と比べて、最大氷結晶生成温度帯(0℃~-5℃)を素早く通過させることができ、これにより、冷凍時にうどん生地の細胞組織を破壊してしまい、解凍後にうどん麺のコシが弱くなってしまうことを有効に防止することができる。
【0022】
なお、凍結溶媒は、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール系不凍液や、プロピレングリコールを含む不凍液、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等を用いることができる。食用上の安全性及び実用上の観点から、凍結溶媒としてエチルアルコールを用いることが好ましい。また、凍結溶媒の温度は、対象物を凍結できる温度であれば特に限定されないが、-10℃~-50℃とするのが好ましく、-20℃~-40℃とするのがより好ましく、-25℃~-35℃とするのがさらに好ましい。
【0023】
また、本実施形態に係るうどん麺の製造システムでは、製造センター1から店舗2に、冷凍したうどん生地の塊の配送供給が行われる。製造センター1から各店舗2への冷凍うどん生地の塊の配送は、たとえば冷凍車などにより行うことができる。
【0024】
店舗2は、たとえば、うどんを提供する飲食店(ホテルを含む)であってもよいし、うどん麺を販売するスーパーマーケットなどの販売店であってもよい。店舗2では、製造センター1から配送された冷凍うどん生地の塊を解凍し、解凍したうどん生地の塊からうどん麺の製造が行われる。店舗2が飲食店である場合には、さらに、製造したうどん麺をゆでて、うどんとして客に提供される。
【0025】
次に、第1実施形態に係るうどん麺の製造方法を、図2に基づいて説明する。図2は、第1実施形態に係るうどん麺の製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、図2におけるステップS101~S105の作業は製造センター1で行われ、ステップS107~S108の作業は店舗2で行われる。
【0026】
ステップS101では、小麦粉と食塩水とを混ぜ合わせる混合作業が行われる。本実施形態では、食塩水が小麦粉の重量に対して45~50%となり、食塩が小麦粉に対して4.5~6%となるように、小麦粉、水、および食塩が混合される。一例としては、小麦粉10Kg、水4350g、食塩450gを混合することで、食塩水が小麦粉の重量に対して48%となり、食塩が小麦粉の重量に対して4.5%とすることができる。
【0027】
なお、当該混合作業は、小麦粉と食塩水とを均一に混ぜるだけとし、うどん生地の練りは実質的に行われていない。すなわち、本実施形態では、小麦粉と食塩水とを均一に混ぜて、うどん生地が空気を包んだそぼろ状とするだけとする。ここで、図3は、小麦粉と食塩水とを均一に混ぜて、そぼろ状としたうどん生地を示す図である。この小麦粉と食塩水との混合作業は、作業者の手で行ってもよいし、機械(たとえばピン練り機)を用いて行ってもよい。たとえば、ピン練り機を用いて混合作業を行う場合には、1分回に約60回の回転で、1.5~2分間、混合作業を行うことで、小麦粉と食塩水とが均一に混合され、そぼろ状のうどん生地を製造することができる。
【0028】
なお、従来のうどん生地の製造において、ピン練り機を用いてうどん生地を製造する場合には、うどん生地を10~15分間混合し、小麦粉と食塩水とを均一に混ぜるだけではなく、うどん生地を練る作業までが行われる。この場合、うどん生地が粘度状となってしまい、うどん生地に空気を含ませることができない場合がある。本実施形態では、うどん生地をそぼろ状とすることで、うどん生地に空気が入り込み、もちもちとした食感を得ることができる。なお、「そぼろ状」とは、図3に示すように、うどん生地が小麦粉が大小の粒状の集まりとなった状態であり、この状態からうどんを捏ねることでうどん生地が内部に空気の隙間を有することができる。
【0029】
また、本実施形態では、小麦粉、水、および食塩のみを原料として、うどん生地の製造がされる。近年では、食感を改善するために、うどん生地に、タピオカ澱粉などの添加物が加えられることが多いが、本実施形態に係るうどん生地では、このような添加物は加えられない。
【0030】
次いで、ステップS102では、うどん生地を層状にしてから捏ねる、捏ね作業が行われる。具体的には、まず図4に示すように、ステップS101で製造した、そぼろ状のうどん生地を1つにまとめて丸める。図4は、図3に示すうどん生地を丸めた状態を示す図である。図4に示すように、そぼろ状のうどん生地を丸めた状態では、うどん生地は凹凸を有し、空気を含む間隙が内部に形成されることとなる。そして、丸くしたうどん生地の塊を上から押して薄くする。そして、薄くしたうどん生地の塊を、図5に示すように、ロール巻きにして、図6に示すように、シートの上などから作業者の足でうどん生地を踏む。次いで、図7に示すように、うどん生地を三つ折りにし、うどん生地内の余分な空気を逃がすように、シートの上などから作業者の足でうどん生地を踏む。これにより、うどん生地の塊は、図8に示すように、互いに密着した層を有するような構造を有し、内部に微細な空気が含まれることとなる。本実施形態に係る捏ね作業では、機械は使用されず、作業者の手作業で捏ねが行われる。なお、図4は、図3に示すうどん生地を丸めた状態を示す図であり、図5は、図4に示すうどん生地の塊を薄くした後にロール巻にした状態を示す図であり、図6は、図5に示すロール巻にしたうどん生地の塊を作業者が踏んでいる状態を示す図である。さらに、図7は、図6に示すうどん生地の塊を三つ折りにした状態を示す図であり、図8は、図7に示すうどん生地の塊を踏んだ後の状態を示す図である。
【0031】
ステップS103では、うどん生地をねかす作業が行われる。具体的には、ステップS102で捏ねたうどん生地を60cm程度の円柱状とする(重量は約6kgとなる)。そして、うどん生地を、一定の温度(たとえば15~25℃)で、30分から1時間ほど静置する。なお、上記の温度条件および時間条件は一例であり、これに限定されるものではない。
【0032】
ステップS104では、うどん生地の減圧処理が行われる。具体的には、まず、ステップS103でねかしたうどん生地を小さく団子状に分割し、それぞれをナイロン袋に入れる。より具体的には、ステップS103でねかしたうどん生地は、これを2等分、3等分、または4等分される。続いて、等分した円柱状のうどん生地をまな板の上に立て、上から両手で押して同厚の円盤状とし、あるいは、手できくもみして団子状に成形する。さらに、円盤状のうどん生地は、容器に押し詰めして約3cmの厚さの直方体に成形した後、ナイロン袋に詰めて、減圧装置9を用いて脱気する。また、団子状のうどん生地はナイロン袋に詰めて、減圧装置9を用いて脱気する。図9は、図8に示すうどん生地の塊をナイロン袋に詰めて、減圧した後のうどん生地の状態を示す図である。各ナイロン袋に入れられるうどん生地の重量は、たとえば1.5~2kgである。この大きさであれば、塊のまま急速冷凍することができる。また、ナイロン袋内の空気を、減圧装置9を用いて脱気する場合、ナイロン袋内を、30~70Kpa、より好ましくは30~50Kpaの減圧雰囲気にし(あるいは、ナイロン袋内の圧力を大気圧に対して30~70%、より好ましくは30~50%に減圧し)、ナイロン袋をシールすることで、うどん生地が減圧状態でパッキングされる。なお、図9に示す例においては、ナイロン内の圧力を大気圧に対して40%まで減圧した状態を示している。図9に示すように、本実施形態では、ナイロン内にある程度空気が残っていることが分かる。ナイロン内を真空状態としないのは(たとえば30Kpa未満の減圧雰囲気としないのは)、ナイロン内を真空状態としてしまうと、うどん生地内部に含まれる微細な空気がうどん生地から抜けてしまい、もちもちとした触感のある美味しいうどん麺を製造できなくなってしまうためである。
【0033】
ステップS105では、ステップS104でパッキングしたうどん生地を、ナイロン袋に入れた状態のまま、冷凍装置10の凍結溶媒貯蔵容器11内の凍結溶媒内に浸して、うどん生地を急速冷凍させる冷凍作業が行われる。上述したように、冷凍装置10では凍結溶媒を用いてうどん生地を急速冷凍させることで、うどん生地の細胞組織が破壊されないように、うどん生地を冷凍させることができる。また、本実施形態では、凍結冷媒を用いて急速冷凍させることで、うどん生地の細胞組織の破壊が抑制され、うどん生地に空気を含ませたまま、うどん生地を冷凍することが可能となる。
【0034】
ステップS106では、ステップS105で冷凍されたうどん生地が、冷凍車などにより、製造センター1から各店舗2へと冷凍状態のまま配送される。
【0035】
ステップS107では、各店舗2において、ステップS106で配送された冷凍うどん生地の解凍が行われる。解凍方法は、特に限定されず、解凍機、冷蔵庫、自然解凍、冷水、またはぬるま湯などで解凍することができる。
【0036】
そして、ステップS108では、ステップS107で解凍したうどん生地から、うどん麺の製造が行われる。解凍したうどん生地からうどん麺を製造する方法は、公知の方法を用いることができ、たとえば、打ち粉をふり、麺棒で解凍したうどん生地を延ばし、うどん生地を何層かにたたみ込み、麺線とすることで、うどん麺が製造される。なお、図10に、図9に示すうどん生地を麺線したうどん麺の拡大図を示す。
【0037】
なお、店舗2がうどん麺を販売するスーパーマーケットの場合には、ステップS108で製造したうどん麺が販売され、また、店舗2がうどんを提供する飲食店(ホテルを含む)である場合には、さらに、ステップS108で製造したうどん麺を、たとえば98~100℃の熱湯で10~13分ゆでて、うどんを提供する作業が行われる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るうどん麺の製造方法では、製造センター1でうどん生地を製造し、うどん生地を凍結冷媒に浸して急速冷凍することで、品質を維持したまま、うどん生地を各店舗に冷凍状態のまま配送供給することができる。また、本実施形態では、製造したうどん生地を、凍結溶媒に浸漬させて急速冷凍することで、冷風により冷凍する場合と比べて、最大氷結晶生成温度帯(0℃~-5℃)を素早く通過させることができ、冷凍時のうどん生地の細胞組織の破壊を抑制することができる。これにより、冷凍したうどん生地を解凍してうどん麺を製造した場合でも、麺にコシがある美味しいうどん麺を提供することができる。
【0039】
さらに、本実施形態に係るうどん麺の製造方法では、凍結溶媒に浸漬させて急速冷凍することで、うどん生地を解凍してうどん麺を製造した場合でも、コシのあるうどん麺を提供することができる。また、タピオカ澱粉を使用しないことで、小麦粉本来の味を楽しめる美味しいうどん麺を提供することもできる。
【0040】
また、本実施形態に係るうどん麺の製造方法においては、うどん生地の材料を練るのではなく、均一に混合するだけとし、混合したうどん生地全体を一つにまとめて上から押さえ、そしてロール巻きにしてうどん生地を層状にしてから、うどん生地が均一になるように踏む、次いで、三つ折りにしてから内の空気を逃がすように軽く踏み、その後、うどん生地の塊を30分から1時間ねかせる。これにより、うどんのコシを強くすることができ、美味しいうどん麺を提供することができる。
【0041】
加えて、本実施形態に係るうどん麺の製造方法では、うどん生地を製造する場合に、うどん生地の材料を混合してそぼろ状態とするだけとし、うどん生地の内部に微細な空気が含まれるようにうどん生地を製造する。さらに、うどん生地を冷凍させる場合にも、うどん生地を入れたパック内を真空状態とはせず、30~70Kpa、より好ましくは30~50Kpaの減圧雰囲気とすることで、うどん生地の内部に含まれる微細な空気がうどん生地から抜け出さないようにすることができ、その結果、内部に微細な空気を含むうどん麺を製造することができ、もちもちとした食感を有するうどん麺を製造することができる。
【0042】
≪第2実施形態≫
次に、第2実施形態に係るうどん麺の製造システムについて説明する。図11は、第2実施形態に係るうどん麺の製造システムの概要を示す構成図である。第2実施形態に係るうどん麺の製造システムは、図11に示すように、凍結溶媒貯蔵容器11を備える冷凍装置10に代えて、送風機13を内蔵した空冷式の冷凍装置12を備え、うどん生地の塊を冷風により冷凍すること以外は、第1実施形態に係るうどん麺の製造システムと同様の構成・動作を有する。以下、第1実施形態に係るうどん麺の製造システムと異なる部分を主に説明する。
【0043】
第2実施形態に係るうどん麺の製造システムは、送風機13を内蔵した冷凍装置12を備える。これによりパッキングしたうどんの塊を、冷凍装置12に入れ冷風により冷凍することができる。また、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、パック内を減圧して30~70KPa、より好ましくは30~50KPaの減圧雰囲気とし、冷凍装置12によりパッキングしたうどんの塊を急速冷凍することで、うどん生地から空気が抜け過ぎてしまい、うどん生地が硬くなってしまうことを防止することができる。
【0044】
次に、第2実施形態に係るうどんの製造方法について説明する。第2実施形態に係るうどんの製造方法では、ステップS105’において冷風によりうどんを急速冷凍させること以外は、第1実施形態に係るうどん麺の製造方法と同様に、うどん麺が製造される。
【0045】
すなわち、ステップS104においてうどん生地の減圧処理が行われた後に、ステップS105’に進む。そして、ステップS105’では、ステップS104でパッキングしたうどん生地の塊を、ナイロン袋に入れた状態のまま、冷凍装置12の容器内に入れ、送風機13により冷風を送風することで、うどん生地の塊を急速冷凍させる冷凍作業が行われる。そして、冷凍装置12により冷風で急速冷凍されたうどん生地の塊は、冷凍状態のまま、店舗2に配送されることとなる(ステップS106)。
【0046】
以上のように、第2実施形態では、冷風によりうどん生地の塊の急速冷凍を行うため、うどん生地の塊が冷凍する速度は、第1実施形態よりも遅くなるが、うどん生地の塊が入れたパック内を真空状態までにはせず、30~70Kpa、より好ましくは30~50Kpaの減圧雰囲気で減圧することで、うどん生地に空気を含ませたまま冷凍を行うことができる。これにより、従来と比べて、うどんをもちもちとした食感とすることができる。
【0047】
≪実施例≫
次いで、本実施形態に係るうどん生地の製造方法のうち、うどん生地の減圧処理(ステップS104)における減圧の度合いのみを変えて、うどん麺を製造し、その美味しさや食感等を評価した。なお、当該実施例においては、図13に示すように、うどん生地を詰めたナイロン内の圧力を大気圧と比べて、(A)40%まで減圧したうどん生地、(B)70%まで減圧したうどん生地、(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地をそれぞれ製造し、各うどん生地を用いて製造したうどんの官能評価を行った。具体的には、(A)~(C)のうどん生地について、(1)固さ、(2)弾力(コシ)、(3)粘り、(4)モチモチ感、(5)ツルツル感、(6)歯切れの良さ、(7)風味(香り)、(8)光沢(ツヤ)、(9)麺線(見た目)の9項目を5段階で評価した。なお、上記09項目においては、評価値が5に近いほど各項目の食感等が強く感じられることを示し、評価値が1に近いほど各項目の食感等が弱く感じられることを示す。また、上記9項目に加えて、総合評価として、美味しさを100点満点で評価した。なお、評価は12人の専門家(ア)~(シ)により行った。
【0048】
図14に、(A)40%まで減圧したうどん生地の評価結果を表す。図14では、{(A)40%まで減圧したうどん生地の評価}と{(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地の評価)}との差分を相対評価値として表している。すなわち、(C)のうどん生地を基準とした(A)のうどん生地の相対評価を表示している。たとえば、専門家(イ)では、(A)のうどん生地の(1)固さの評価が5段階で3であり、(C)のうどん生地の(1)固さの評価が5段階で4であるため、図14の評価者「イ」の「(1)固さ」の相対評価値は-1となっている。また、図14では、12名の専門家(ア)~(シ)の項目ごとの相対評価値の平均値(小数点第3位を四捨五入)も表示している。
【0049】
図14に示すように、(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地と比べて、(A)40%まで減圧したうどん生地では、(1)固さ、(2)弾力(コシ)、(6)歯切れの良さ、(7)風味(香り)、(8)光沢(ツヤ)、(9)麺線(見た目)は低くなったが、(3)粘り、(4)モチモチ感、(5)ツルツル感は高くなった。特に、±0.1未満の違いを微差とすると、(A)40%まで減圧したうどん生地では、(1)固さ、というマイナス要因を抑えることができる一方、(3)粘り、(4)モチモチ感、(5)ツルツル感といったプラス要因を上げることができることがわかった。その結果、(10)美味しさ(総合評価)も、(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地と比べて、(A)40%まで減圧したうどん生地では大幅に高くなった。ただし、(A)40%まで減圧したうどん生地では、(1)固さが抑えられた分、(9)麺線(見た目)の評価は低くなったと考えられる。
【0050】
また、図15に、(B)70%まで減圧したうどん生地の評価結果を表す。図15では、{(B)70%まで減圧したうどん生地の評価}と{(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地の評価}との差分を相対評価値として表示している。すなわち、(C)のうどん生地を基準とした(B)のうどん生地の相対評価値を表示している。たとえば、専門家(ア)では、(A)のうどん生地の(2)弾力の評価が5段階で3であり、(C)のうどん生地の(2)弾力の評価が5段階で4であるため、図14の「ア」の「(2)弾力」は-1となる。また、図15では、12名の専門家(ア)~(シ)の項目ごとの相対評価値の平均値(小数点第三位を四捨五入)も表示している。
【0051】
図15に示すように、(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地と比べて、(B)70%まで減圧したうどん生地では、図14に示す(A)40%まで減圧したうどん生地と同様の傾向が見られた。すなわち、(1)固さ、(2)弾力(コシ)、(6)歯切れの良さ、(7)風味(香り)、(9)麺線(見た目)は低くなったが、(3)粘り、(4)モチモチ感、(5)ツルツル感は高くなった。特に、±0.1未満の違いを微差とすると、(B)70%まで減圧したうどん生地では、(1)固さ、というマイナス要因を抑えることができる一方、(3)粘り、(4)モチモチ感、(5)ツルツル感といったプラス要因を上げることができることがわかった。ただし、(2)弾力、(6)歯切れの良さ、(7)風味(香り)、(9)麺線(見た目)というプラス要因の評価も低くなった。しかしながら、(10)美味しさ(総合評価)は、(C)略100%減圧した(略真空)のうどん生地と比べて、(B)70%まで減圧したうどん生地では高くなった。また、(A)40%まで減圧したうどん生地と(B)70%まで減圧したうどん生地とを比べてると、
(B)70%まで減圧したうどん生地の(10)美味しさ(総合評価)は、(A)40%まで減圧したうどん生地よりも低くなった。
【0052】
このように、本実施形態では、うどん生地の減圧処理を行う場合に、うどん生地を70%までの減圧に留めることで、うどん生地内に含まれる空気が抜け出ることを抑制し、うどん麺が固くなることを防止し、粘り、もちもち、ツルツルなどの食感を得られる傾向にあることが分かった。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
たとえば、上述した実施形態では、うどん生地にタピオカ澱粉を添加しない構成を例示したが、この構成に限定されず、うどん生地にタピオカ澱粉を添加する構成とすることができる。これにより、より歯ごたえのあるうどん生地を提供することができる。
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図15