(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】ナノ金属化合物粒子およびそれを用いた塗料並びに膜、膜の製造方法、ナノ金属化合物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/02 20060101AFI20220704BHJP
C01G 39/02 20060101ALI20220704BHJP
C01G 55/00 20060101ALI20220704BHJP
C01G 23/04 20060101ALI20220704BHJP
C01G 19/00 20060101ALI20220704BHJP
C01G 53/04 20060101ALI20220704BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20220704BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220704BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220704BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220704BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20220704BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20220704BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220704BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220704BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20220704BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220704BHJP
【FI】
C01G41/02
C01G39/02
C01G55/00
C01G23/04 B
C01G19/00 A
C01G53/04
B01J23/30 M
B01J35/02 H
B01J35/02 J
B82Y30/00
B82Y40/00
H01M4/02 Z
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/48
H01M4/52
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2019514488
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2018016451
(87)【国際公開番号】W WO2018199020
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2017088761
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】重里 有三
(72)【発明者】
【氏名】賈 軍軍
(72)【発明者】
【氏名】福士 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平林 英明
(72)【発明者】
【氏名】片岡 好則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦也
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-504442(JP,A)
【文献】特開2013-058742(JP,A)
【文献】特開2006-096636(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141694(WO,A1)
【文献】特開2014-185039(JP,A)
【文献】特開2005-345338(JP,A)
【文献】特開2010-228959(JP,A)
【文献】特開2000-143241(JP,A)
【文献】特開2011-198606(JP,A)
【文献】VALYUKH, I. et al.,Spectroscopic ellipsometry characterization of electrochromic tungsten oxide and nickel oxide thin f,Solar Energy Materials & Solar Cells,2010年01月18日,Vol.94, No.5,p.724-732,ISSN 0927-0248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00 - 47/00
C01G 49/10 - 99/00
B01J 21/00 - 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径50nm以下の金属化合物粒子を分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングしたとき、振動子の共鳴周波数のピークω
tが2.8eV以下であるナノ金属化合物粒子。
【請求項2】
0.5eV≦ω
t≦2eVである、請求項1記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項3】
平均粒径が15nm以下である、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項4】
前記金属化合物粒子が、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物のいずれか1種または2種以上を含む粒子である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項5】
粒径が100nm以下である、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項6】
前記金属化合物粒子は欠損を有している、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項7】
前記金属化合物粒子が金属酸化物を含む粒子であり、前記金属酸化物が酸素欠損を有している、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項8】
前記金属化合物粒子が金属酸化物を含む粒子であり、前記金属酸化物が、WO
3-xで表され0<x<3である酸化物、MoO
3-xで表され0<x<3である酸化物、IrO
2-xで表され0<x<2である酸化物、NiO
1-xで表され0<x<1である酸化物、及びTiO
2-xで表され0<x<2である酸化物からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子を含有する塗料。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子を含有する膜。
【請求項11】
半導体、電池用電極、光触媒、センサー、エレクトロクロミック素子、からなる群より選択される1種に用いられる、請求項10記載の膜。
【請求項12】
膜厚が1μm以下である、請求項10ないし請求項11のいずれか1項に記載の膜。
【請求項13】
前記膜を分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングしたとき、振動子の共鳴周波数のピークω
tが2.8eV以下である、請求項10ないし請求項12の何れか1項に記載の膜。
【請求項14】
前記ナノ金属化合物粒子を50体積%以上含有する、請求項10ないし請求項13の何れか1項に記載の膜。
【請求項15】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子を含有するペーストを塗布して、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を形成する工程と、前記ナノ金属化合物粒子ペースト膜を乾燥させる工程と、を含む膜の製造方法。
【請求項16】
ナノ金属化合物粒子を分光エリプソメトリー法で分析し、分析した結果をLorentzモデルにフィッティングする工程と、振動子の共鳴周波数のピークω
tが2.8eV以下であり平均粒径が50nm以下であるナノ金属化合物粒子を選択する工程とを含む、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のナノ金属化合物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、ナノ金属化合物粒子およびそれを用いた塗料並びに膜、膜の製造方法、ナノ金属化合物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物などの金属化合物は、半導体材料、電池用電極材料、光触媒材料、エレクトロクロミック材料など様々な分野に使われている。
【0003】
例えば、国際公開第2016/039157号公報(特許文献1)には、酸素欠損を設けた金属酸化物粉末が開示されている。特許文献1では、酸素欠損量を制御することによりホッピング伝導を付与している。特許文献1では、このような金属酸化物粉末を電池用電極材料に用いることにより、電気容量やサイクル維持率を向上させている。確かに特許文献1の金属酸化物粉末を用いることにより、電池の性能を向上させることができている。
【0004】
その一方で、さらに性能を向上させることが求められている。その一つの方法として微粒子化が考えられている。特許文献1では平均粒径25nmの酸化タングステン粉末が開示されている。平均粒径をさらに小さくすることにより、表面積を大きくすることができる。電池用電極材料などは表面積の増大により、リチウムイオンを出し入れする面積を大きくすることができる。光触媒も同様に光触媒反応を行う面積を大きくすることができる。
【0005】
金属化合物粒子を数10nm以下にした場合、その特性を安定的に作ることは難しかった。また、特許文献1では、酸化タングステン粉末の活性エネルギーEαを測定するために電極層を形成しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Maicieji Trawka et al, "Fluctuation enhanced gas sensing with WO3-based nanoparticle gas sensors modulated by UV light at selected wavelengths", Sensors and Actuators, B 234 (2016) 453-461.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では数10nm以下の金属化合物粒子は、原料粉末の昇華工程および酸化工程を使って製造している。また、後工程で熱処理を行うこともある。いくつもの工程を経て製造されるため、ロット間のばらつきがあっても、良品と不良品の区別が十分にできずにいた。特に、特許文献1では、活性エネルギーEαを測定するために電極層を作らなければならず、ロット間のばらつきを十分に把握できずにいた。
【0009】
本発明にかかる実施形態は、このような課題に対応するためのものであり、平均粒径50nm以下の微粒子としたとしても優れた性能を示すナノ金属化合物粒子を提供するためのものである。また、実施形態によれば、塗料および膜が提供される。さらには、実施形態によれば、膜(例えば、薄膜)の製造方法およびナノ金属化合物粒子の製造方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態にかかるナノ金属化合物粒子は、平均粒径50nm以下の金属化合物粒子を分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングしたとき、振動子(発振器)の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であることを特徴とするものである。
【0011】
実施形態にかかる塗料は、上記ナノ金属化合物粒子を含有するものである。
実施形態にかかる膜は、上記ナノ金属化合物粒子を含有するものである。
【0012】
実施形態にかかる膜の製造方法は、上記ナノ金属化合物粒子を含有するペーストを塗布して、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を形成する工程と、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を乾燥させる工程と、を含む。
【0013】
実施形態にかかるナノ金属化合物粒子の製造方法は、上記ナノ金属化合物粒子を製造する方法である。この製造方法は、ナノ金属化合物粒子を分光エリプソメトリー法で分析し、分析した結果をLorentzモデルにフィッティングする工程と、振動子の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であり平均粒径が50nm以下であるナノ金属化合物粒子を選択する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ローレンツモデルの一例を示す概念図である。
【
図2】
図2は、ローレンツモデルにフィッティングするための理論式である。
【
図4】
図4は、実施例1のエリプソメトリー角-光子エネルギーのグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2のエリプソメトリー角-光子エネルギーのグラフである。
【
図6】
図6は、プロトンインターカレーション素子のセル構造を示す断面図である。
【実施形態】
【0015】
実施形態にかかるナノ金属化合物粒子は、平均粒径50nm以下の金属化合物粒子を分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングしたとき、振動子の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であることを特徴とするものである。
【0016】
まず、平均粒径は50nm以下である。平均粒径はBET比表面積から真球として換算するものとする。平均粒径は50nm以下、さらには15nm以下が好ましい。平均粒径が小さいほど、ナノ金属化合物粒子の表面積を大きくすることができる。なお、平均粒径の下限値は特に限定されるものではないが、平均粒径2nm以上が好ましい。平均粒径が2nm未満となると製造性が悪くなる。このため、平均粒径は2nm以上50nm以下、さらには4nm以上15nm以下が好ましい。
【0017】
また、ナノ金属化合物粒子の粒径が100nm以下であることが好ましい。平均粒径が小さくても、粗大な粒子が含まれていると、粗大粒子の部分だけ表面積を大きくする効果が得られなくなる。これでは、膜にしたときの充填密度のばらつきが生じる。充填密度のばらつきは部分的な性能のばらつきにつながる恐れがある。このため、粒径は100nm以下であることが好ましい。なお、粒径の測定は、拡大写真を使い、そこに写るナノ金属化合物粒子の最大径を粒径とする。この作業を100粒行い、最も大きな最大径を粒径とするものとする。また、拡大写真はTEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)を使って測定するものとする。
【0018】
また、金属化合物粒子を分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングさせる。
【0019】
分光エリプソメトリー法は、直線偏光の光を試料に入射させ、試料を反射した光の偏光状態を調べる。実施形態では、楕円偏光を用いるものとする。試料の物性をフィッティングするのにLorentz(ローレンツ)モデルを用いるものとする。ローレンツモデルは、光と物質の間の相互作用の古典論に基づいたものであり、束縛電子によって生じる周波数依存の分極状態を示すものである。電子は光の電磁場に反応して減衰調和振動子のように振動する。この現象を利用したものである。また、分光エリプソメトリー法を行うときの光は可視光領域または赤外領域のものを使うものとする。特に、金属化合物が、可視光領域または赤外領域の光を吸収する物質であるものに有効である。なお、可視光領域は、380nm~750nmとする。また、赤外領域は0.75μm~1000μm程度の領域とする。赤外領域には、近赤外、中赤外、遠赤外までを含めるものとする。
【0020】
図1はローレンツモデルの一例を示す概念図である。概念図において、実線は振動子変位量(OSCILLATOR DISPLACEMENT)を示し、破線はフェーズ(Phase)を示す。振動子変位量を示す実線におけるピークの高さは、振動子強度(Amplitude)に対応する。また、
図2は、ローレンツモデルにフィッティングするための理論式である。理論式中、ωは入射光の周波数、ω
tは振動子の共振周波数(Oscillator center)、γ
0は減衰定数(Damping factor)、fは振動子強度(Amplitude)、ε(ω)は誘電関数、ε
∞は高周波の誘電関数の極限値、iは虚数、である。
【0021】
ローレンツモデルにフィッティングすると、
図1に示したような、振動子の共振周波数(共鳴周波数)ω
tを示す。ω
tは共振周波数の中心であり、ピーク位置となる。
【0022】
また、
図3に示したBraggman(ブラッグマン)の式を使って、金属化合物粒子の誘電率を算出するものとする。なお、BraggmanはBruggemanと表示することもある。
【0023】
ブラッグマンの式は、物質aと物質bが混合している均質膜とみなした解析モデルである。このような解析モデルを有効媒質近似(EMA)モデルと呼ぶ。
図3中、f
aは物質aの体積率、ε
aは物質aの誘電率、εは膜全体の誘電率、f
bは物質bの体積率、ε
bは物質bの誘電率、である。
【0024】
測定では、ガラス基板上に金属化合物粒子を堆積させる。堆積量は、膜厚50nm~200nmとする。また、ブラッグマンの式では、物質aがナノ金属化合物粒子、物質bが空気となる。ナノ金属化合物粒子を所定量堆積させた堆積膜で測定するものとする。スパッタ膜や樹脂との混合膜を用いる必要はない。ナノ金属化合物粒子のみで堆積させるため、粒子形状を考慮した膜となる。光の入射角は45°が好ましい。なお、製品の膜に含まれている金属化合物粒子を測定する場合は、膜製品のまま測定してもよい。
【0025】
実施形態では、分光エリプソメトリー法で測定した結果を、ブラッグマンの式を使ってナノ金属化合物粒子の誘電率εaを求める。この誘電率εaをローレンツ(Lorentz)モデルを使ってフィッティングするものとする。これにより、ナノ金属化合物粒子の化学状態、キャリア密度、界面状態などを評価することができる。
【0026】
実施形態にかかるナノ金属化合物粒子は、振動子の共振周波数(共鳴周波数)のピークωtが2.80eV以下となる。前述のように分光エリプソメトリー法は、ナノ金属化合物粒子の化学状態、キャリア密度、界面状態を評価するものである。言い換えればωtは、ナノ金属化合物粒子の化学状態、キャリア密度、界面状態により影響を受ける。これらは、組成、結晶構造、粒径サイズ、表面粗さ、バンドギャップ、異方性など様々なものに影響を受ける。
【0027】
ωtが2.80eV以下であるということは、ナノ金属化合物粒子のバッチ(batch)として、組成、結晶構造、粒径サイズ、表面粗さ、バンドギャップ、異方性などが均一であることを示す。これにより、電子を取り出したり、取り込んだりする効率が向上する。つまり、半導体としての性能が向上する。電気を流すことまたは光を照射することによる電子の移動が活発になる。このため、半導体としての性能が向上する。また、その用途としては、電池用電極、光触媒、センサー、エレクトロクロミック素子、など様々な分野に適した材料となる。
【0028】
また、0.5eV≦ωt≦2.00eVであることが好ましい。ωtが低い方が、電気が流れ易い。一方で0.5未満となると電気が流れ易くなり過ぎてしまう恐れがある。電気が流れ易くなると、半導体よりは金属に近くなってしまうためである。
【0029】
また、金属化合物粒子が、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物のいずれか1種または2種以上を含む粒子であることが望ましい。金属化合物が、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物のいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0030】
また、金属酸化物は、酸化タングステン(WO3-x、0≦x<3)、酸化モリブデン(MoO3-x、0≦x<3)、酸化イリジウム(IrO2-x、0≦x<2)、酸化ニッケル(NiO1-x、0≦x<1)、酸化チタン(TiO2-x、0≦x<2)からなる群より選択される1種が挙げられる。また、これらの複合酸化物であってもよい。
【0031】
また、金属酸化物としては、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony Tin Oxide)、AZO(Aluminum Zinc Oxide)、GZO(ガリウム添加酸化亜鉛)も挙げられる。これらの複合酸化物は透明電極として使われている材料である。
【0032】
また、金属硫化物は、硫化モリブデン(MoS2)が挙げられる。また、金属炭化物は炭化タングステン(WC)が挙げられる。
【0033】
また、ナノ金属化合物粒子としては、インターカレーション(Intercalation)を示すものが好ましい。インターカレーションとは、ナノ金属化合物粒子内に電子またはイオンが出入りする可逆反応のことである。インターカレーション反応を活発に行うことにより半導体としての性能が向上する。電気を流すことまたは光を照射することによる電子の移動が活発になる。このため半導体の他、電池用電極、光触媒、センサー、エレクトロクロミック素子、など様々な分野に適した材料となる。
【0034】
また、金属化合物粒子は欠損を有していることが好ましい。欠損を設けることにより、インターカレーション反応の容量を大きくすることができる。欠損は、格子欠陥とも呼ばれている。結晶において繰り返しパターンに従わない構造を有していると欠損となる。欠損は大きく分けると、原子配列の乱れによるもの、不純物によるものが挙げられる。原子配列の乱れは、結晶格子を構成する原子が欠けた状態を示す。また、不純物によるものは、結晶格子の原子間に不純物が入り込んだり、原子の一部が不純物に置換された状態を示す。
【0035】
金属化合物粒子が金属酸化物を含む粒子である又は金属化合物が金属酸化物であり、金属酸化物が酸素欠損を有していることが好ましい。酸素欠損は、金属酸化物を、還元雰囲気中または不活性雰囲気中で熱処理することにより形成できる。金属酸化物は、後述するようにプラズマ処理によりナノ粒子を製造し易い。また、金属硫化物、金属炭化物、金属窒化物は、欠損を設ける工程が複雑になる。
【0036】
金属酸化物は、酸化タングステン(WO3-x、0≦x<3)、酸化モリブデン(MoO3-x、0≦x<3)、酸化イリジウム(IrO2-x、0≦x<2)、酸化ニッケル(NiO1-x、0≦x<1)、及び酸化チタン(TiO2-x、0≦x<2)からなる群より選択される1種または2種以上が好ましい。なお、酸素欠損を有している金属酸化物の各々の組成式におけるxは、x>0である。また、酸化タングステンは(WO3-x)、0.08≦x≦0.3が好ましい。また酸化モリブデンは、MoO3-x、0.15≦x≦0.30が好ましい。また、酸化イリジウムは、IrO2-x、0.1≦x≦0.3が好ましい。また、酸化ニッケルは、NiO1-x、0.1≦x≦0.3が好ましい。また、酸化チタンは、TiO2-x、0.01≦x≦0.10が好ましい。x値が小さいと酸素欠損を設ける効果が不十分となる恐れがある。また、x値が大きいと、酸素欠損が大きくなりすぎて導電体に近くなりすぎてしまう。導電体に近くなると半導体としての性能が低下する。また、電池用電極、センサー、エレクトロクロミック素子のように直接的に電気を流す用途には、酸素欠損の付与が有効である。一方、光触媒のように、電気を印加しない用途では酸素欠損は付与しなくて良い。
【0037】
酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化チタンは、プラズマ処理によりナノ粒子を製造し易い。また、酸素欠損も付与し易い材料である。
【0038】
以上のようなナノ金属化合物粒子は、ナノ金属化合物粒子を含有する膜(例えば、薄膜)に用いることができる。また、このような膜を形成するための塗料、つまりナノ金属化合物粒子を含有する塗料に、上記ナノ金属化合物粒子を用いることができる。
【0039】
薄膜は、実施形態にかかるナノ金属化合物粒子を50体積%以上100体積%以下含有することが好ましい。50体積%未満では、実施形態にかかるナノ金属化合物粒子の含有量が少なすぎて、効果が不十分となる恐れがある。また、薄膜に空隙が必要な場合は、ナノ金属化合物粒子の含有量は90体積%以下が好ましい。これは空隙が10体積%以上存在する薄膜を示すものである。
【0040】
また、薄膜は、厚さ1μm以下であることが好ましい。膜厚が厚くなり過ぎると、ナノ粒子を堆積するための工程が複雑になる恐れがある。また、実施形態にかかるナノ金属化合物粒子を使う効果が十分得られない恐れがある。例えば、光触媒は、ナノ金属化合物粒子表面の活性反応を使って効果を得ている。分解したいガスを薄膜(ナノ金属化合物粒子を含有する薄膜)に接触させて光触媒反応を起こさせるものである。膜厚が厚くなり過ぎると、基材付近のナノ金属化合物粒子まで、光(光触媒反応を進行させる光)や基質(分解したいガス)が十分届かない恐れがある。このため、薄膜の膜厚は1μm以下が好ましい。また、膜厚の下限は特に限定されるものではないが、10nm以上が好ましい。あまり膜厚が薄いと十分な効果が得られない恐れがあるためである。従って、膜厚は10nm以上1μm以下、さらには20nm以上200nm以下が好ましい。
【0041】
上記の薄膜のような膜は、当該膜を分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングしたとき、振動子の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であることが好ましい。ωtが2.8eV以下であると、膜に含まれているナノ金属化合物粒子の組成、結晶構造、粒径サイズ、表面粗さ、バンドギャップ、異方性などが均一であることがわかる。つまりこのような膜は、半導体として良好な性能を示す。
【0042】
また、薄膜の形成工程は、ナノ金属化合物粒子を含有するペースト(例えば、ナノ金属化合物粒子を含有する塗料)を塗布して、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を形成する工程と、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を乾燥させる工程、を有することが好ましい。
【0043】
実施形態にかかるナノ金属化合物粒子の性能の良さを活かすためには、薄膜をできるだけ高温にさらさない方がよい。例えば、溶射法は、原料粉末を加熱(または溶融)して吹きつける成膜方法である。原料粉末を加熱するため、原料粉末の物性が変化してしまう恐れがある。また、スパッタリング法は、スパッタリングターゲットに電子ビームを照射して成膜する方法である。金属単体の場合は、比較的、膜の物性を制御し易い成膜方法である。一方、金属化合物となった場合、膜の物性を制御し難い方法である。また、真空雰囲気などの条件が必要なのでコストが高い。
【0044】
それに対し、実施形態にかかる薄膜の製造方法は、ナノ金属化合物粒子のペーストを用いる方法である。ペーストを用いた湿式法で成膜する方法である。このため、ナノ金属化合物粒子の物性を低下させずに薄膜とすることができる。
【0045】
また、ペーストを調製する際の溶媒は、300℃以下で蒸発するものを用いることが好ましい。また、ナノ金属化合物粒子を含有するペーストを調製する際は、必要に応じ、他の材料を添加してよいものとする。他の材料としては、可塑剤や分散剤等が挙げられる。
【0046】
このように、ナノ金属化合物粒子を含有する塗料は、溶媒を含むことができる。溶媒を用いて調製することで、湿式法による成膜に適した塗料を得ることができる。塗料は、可塑剤や分散剤等の他の材料を含むことができる。
【0047】
まず、ナノ金属化合物粒子を含有するペーストを基材上に塗布する工程を行う。基材は、薄膜を設けたい場所である。基材の材質および形状等は限定されるものではないが、基材の具体例としてガラス基板等を挙げることができる。ペーストを塗布するとき、薄膜の膜厚は1μm以下とする。これにより、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を形成する工程となる。
【0048】
次に、ナノ金属化合物粒子ペースト膜を乾燥させる工程を行う。乾燥工程は、ペーストの溶媒が蒸発する温度で行うものとする。また、乾燥工程は400℃以下の温度で行うことが好ましい。乾燥工程が400℃を超えると、ナノ金属化合物粒子の物性が変化してしまう恐れがある。このため、乾燥工程は400℃以下、さらには200℃以下で行うことが好ましい。
【0049】
得られた膜に対し、ナノ金属化合物粒子について先に説明したと同様に分光エリプソメトリー法で分析した結果をLorentzモデルにフィッティングさせることで、ナノ金属化合物粒子が均一である膜を成膜できたか確認できる。成膜した膜は、そのまま測定できる。フィッティングにより求められた振動子の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であれば、ナノ金属化合物粒子が組成、結晶構造、粒径サイズ、表面粗さ、バンドギャップ、異方性などについて均一であると判断できる。ωtが2.8eVを上回っていることは、成膜時の何等かの要因によりナノ金属化合物粒子が均一である膜が得られていないことを意味し得る。膜について、0.5eV≦ωt≦2.00eVであることが好ましい。
【0050】
また、ナノ金属化合物粒子について先に説明したと同様に、TEMまたはSEMを使って膜におけるナノ金属化合物粒子の粒径を確認できる。
【0051】
以上のような薄膜は、半導体、電池用電極、光触媒、センサー、エレクトロクロミック素子、からなる群より選択される1種に用いられることが好ましい。
【0052】
半導体、電池用電極またはセンサーは、ナノ金属化合物粒子の電子またはイオンのインターカレーション性能を活かせる分野である。例えば、Liイオン二次電池やキャパシタの電極として用いることにより、エネルギー密度やパワー密度を向上させることができる。
【0053】
センサーでは、ナノ金属化合物粒子表面を活性化できることが利用可能である。センサーとしては、ガスセンサーが挙げられる。例えば、メタンガス(CH4)含有雰囲気中にナノ金属化合物粒子を具備するセンサーを配置する。ナノ金属化合物粒子に吸着するメタンガスの量に応じて、電気抵抗値が変化する。この性能を利用してメタンガスセンサーにすることができる。また、必要に応じ、ナノ金属化合物粒子を活性化させるために、紫外線などの励起波長を有する光を照射することも有効である。メタンガスに限らず、ナノ金属化合物粒子表面に吸着する成分についてであればセンサーにすることができる。例えば、エタンなどの炭化水素ガスが挙げられる。アルコールセンサー、臭気センサー、毒ガスセンサーなどにも使える。
【0054】
また、光触媒は、ナノ金属化合物粒子表面を活性化できる。このため、光触媒性能を向上させることができる。光触媒性能が向上すると、同じ粒子量であれば性能向上となる。
また、光触媒性能を同じに設計すれば、粒子量を少なくすることができる。
【0055】
また、エレクトロクロミック素子は、電荷を付与することで光物性に可逆変化が起きる素子である。エレクトロクロミック素子は、例えば、電子図書やディスプレイなどの表示装置に使われている。光物性の可逆反応性に優れているため、高速で白黒反転(表示の切り替え)が可能となる。また、酸素欠損を設けることにより、低抵抗で白黒反転させることもできる。
【0056】
また、エレクトロクロミック素子の一種にプロトンインターカレーション素子がある。プロトンインターカレーション素子は、ナノ金属化合物粒子と陽イオンまたは陰イオンを反応させて充電または着色する機能を有するものである。この性能を利用して、窓ガラスに適用することが試みられている。窓ガラスに薄膜を設け電圧を印加すると、可視光または赤外線を吸収して薄膜が着色される。これにより、可視光または赤外線を遮断することができる。窓ガラスは、車両、航空機、建物など様々なところに使われている。例えば、自動車は日中、放置しておくと車内は高温になる。建物内も同様であり、近年は熱中症が社会問題となっている。実施形態にかかるナノ金属化合物粒子(酸化タングステン粒子など)は可視光と赤外線の両方を吸収する性能を有している。酸化タングステン粒子などのナノ金属化合物粒子を含有した薄膜をプロトンインターカレーション素子に用いると、可視光および赤外線を吸収することができる。また、酸素欠損を設けることにより、低抵抗で光物性の可逆反応を起こすことができる。これにより、低抵抗で光の遮断ができる薄膜を提供することができる。
【0057】
また、実施形態にかかるナノ金属化合物粒子を具備するプロトンインターカレーション素子は可視光および赤外線を遮断した上で、電波は通すことが出来る。このため、車両、航空機、建物など窓ガラスに用いたとしても、電波通信(携帯電話など)への悪影響は無い。
【0058】
次に、実施形態にかかるナノ金属化合物粒子の製造方法について説明する。ナノ金属化合物粒子の製造方法は、上記構成を有していればその製造方法は限定されるものではないが歩留まりよく得るための方法として次の方法が挙げられる。
【0059】
まず、平均粒径50nm以下の金属化合物粒子を製造するためには、昇華工程を利用する方法と液相合成を利用する方法が挙げられる。昇華工程は、プラズマ処理、アーク処理、レーザ処理または電子線処理のいずれか1種が好ましい。この中ではプラズマ処理が好ましい。また、プラズマ処理は誘導結合型プラズマ処理が好ましい。誘導結合型プラズマ処理は、プラズマ炎を使う方法である。また、昇華工程の雰囲気を酸素含有雰囲気とすれば金属酸化物を製造できる。また、窒素含有雰囲気とすれば窒化物、硫黄含有雰囲気とすれば硫化物を製造することができる。
【0060】
液相合成では、溶液に金属化合物の前駆体を溶解し、溶液のpHまたは温度を変化させることで、金属化合物を析出させて作成する。例えば、アンモニアによりpHを8以上に調整した水溶液にタングステン酸を溶解させる。塩酸または硝酸により水溶液のpHを4以下にすることで、アモルファス状酸化タングステンを析出させる。これを、ろ過により取り出し乾燥後、300℃~450℃の大気雰囲気で焼成することで、結晶性のタングステン酸化物ナノ粒子を得ることができる。
【0061】
また、昇華工程を利用する方法または液相合成を利用する方法では1バッチあたり、金属単体換算で1kg~5kg程度のナノ金属化合物粒子を製造することができる。
【0062】
また、酸素欠損を設ける場合は、出来上がった金属酸化物粒子を不活性雰囲気または還元性雰囲気で熱処理する方法が挙げられる。酸素欠損を設ける工程は特許文献1を参考とする。
【0063】
また、得られた金属化合物粒子を分級して平均粒径、粒径の最大値を調整するものとする。この工程により、平均粒径50nm以下のナノ金属化合物粒子を製造する。
【0064】
次に、得られたナノ金属化合物粒子を各ロットから、堆積させると厚さ50nm~200nmになるように試料を採取する。各ロット毎に、分光エリプソメトリー法によりωtを測定する。ωtが2.80ev以下になったものを良品として薄膜形成に使用するものとする。なお、ωtは各材料または用途に応じて、良品の基準を変えてよいものとする。例えば、電池用電極材料に用いる場合は2.00eV以下を良品と設定することもできる。
【0065】
また、別の方法としては以下の方法が挙げられる。
【0066】
まず、昇華工程により、粒径の小さな金属化合物粒子を製造する。得られた金属化合物粒子の表面にグラファイト層を設ける工程を行う。グラファイト層を設ける工程は、熱処理によりグラファイトとなる有機化合物を被膜し、加熱処理する工程である。熱処理によりグラファイト層となる有機化合物としては、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、グリコールが挙げられる。有機化合物被膜を設けた金属化合物粒子を窒素やアルゴンなどの不活性ガス中で350℃~500℃で30分以上低温焼成することにより、グラファイト層が形成される。次に、不活性ガス中で600℃~800℃で5分以上の高温焼成を行うことで、金属化合物粒子を高結晶化させることができる。高結晶化させると、ナノ金属化合物粒子の均質性が上がりωtが2.80eV以下になる。また、不活性ガスに代わり還元性のガス中で焼成を行うことで、グラファイト中の金属化合物粒子に欠損を導入することができ、ωtの値を変化させることが可能である。その後、グラファイト層を除去する工程を行うことにより、ナノ金属化合物粒子が出来上がる。グラファイト層を除去する工程は、400℃~500℃で大気中熱処理する方法が挙げられる。また、必要に応じ、分級を行うものとする。また、グラファイト層を設ける工程は、1バッチあたり1kg~5kg程度(金属単体換算)の金属化合物粒子を対象とすることができる。
【0067】
何れの製造方法を用いた場合も、得られたナノ金属化合物粒子のロットについて分光エリプソメトリー法により測定を行い、ωtを確認することが望ましい。即ち、ナノ金属化合物粒子の製造方法は、ナノ金属化合物粒子(のバッチ)を分光エリプソメトリー法で分析し、分析した結果をLorentzモデルにフィッティングする工程を含むことが望ましい。この工程により、振動子の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であるか否か確認できる。また製造方法が、振動子の共鳴周波数のピークωtが2.8eV以下であり平均粒径が50nm以下であるナノ金属化合物粒子を選択する工程を更に含むことが望ましい。この製造方法により良品のロットを不良品から区別することができ、良品であるナノ金属化合物粒子(のバッチ)を準備することができる。また、言い換えると、分光エリプソメトリー法を用いることにより、ナノ金属化合物粒子およびそれを用いた膜の評価方法としても用いることができる。
【0068】
(実施例)
(実施例1~11、比較例1~2)
誘導結合型プラズマ処理を用いて金属酸化物粉末を製造した。また、酸素欠損を設けるもの(0<x)は窒素中熱処理した。この工程により、実施例1~9および比較例1~2にかかる金属酸化物粉末を調製した。
【0069】
また、誘導結合型プラズマ処理を用いて金属酸化物粉末を製造した。金属酸化物粉末にグラファイト層を形成して、700℃、10分間焼成する高結晶化処理を行った。また、大気中熱処理により、グラファイト層を除去した。これにより、実施例10~11にかかる金属酸化物粉末を作製した。
【0070】
実施例および比較例にかかる金属酸化物粒子の平均粒径、粒径の最大値、ωtは表1に示したとおりである。
【0071】
平均粒径はBET比表面積から真球換算にて算出した値である。また、粒径の最大値はTEMまたはSEMにより100粒の最大径を調べた。その中で最も大きな最大径を粒径の最大値とした。
【0072】
また、ωtは試料を厚さ100nmの堆積膜として、分光エリプソメトリー法により測定した。測定の際、入射角は45°とした。得られた結果を、ブラッグマンの式およびローレンツモデルを使ってフィッティングした。
その結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
比較例1はω
tが2.80eVを超えたもの、比較例2は粒径が大きなものである。また、実施例1(WO
3)と実施例7(ITO)は酸素欠損を設けていないものである。また、
図4に実施例1のエリプソメトリー角-光子エネルギー(Ellipsometric Angle - Photon Energy)のグラフを示した。また、
図5に実施例2のエリプソメトリー角-光子エネルギーのグラフを示した。図中、○印がエリプソメトリー角(ψ(°))、△印が位相差(△(°))である。
【0075】
(実施例2A、比較例1A~2A)
次に、実施例2および比較例1~2の酸化タングステン粉末(WO3-x)を用いて光触媒性能を調べた。
【0076】
各酸化タングステン粒子をペーストとし、ガラス基材上に塗布して膜厚100nmの薄膜を形成した。なお、薄膜の空隙率は30%で統一した。また、比較例2は膜厚800nmにした。光触媒性能は、各薄膜にアセトアルデヒド含有雰囲気を投入し、蛍光灯の光をガラス基板側(薄膜に対する裏側)から照射する条件における5時間後の減少率を測定した。その結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
表から分かる通り、実施例にかかる薄膜は光触媒性能が向上した。それに対し、比較例にかかる薄膜は性能が低下した。ωtが所定の範囲になったものは優れた性能を示した。
【0079】
(実施例1B~12B、比較例1B~2B)
実施例および比較例にかかる金属化合物粒子を用いてプロトンインターカレーション素子を作製した。プロトンインターカレーション素子は
図6に示したセル構造を有するものを用いた。
図6中、1はプロトンインターカレーション素子、2はガラス基板、3はAl電極、4は対極、5は電解質、6は薄膜、7はAl電極、8はガラス基板、である。対極4はIrO
2/SnO
2の積層蒸着膜、電解質はTa
2O
5蒸着膜とした。また、薄膜6は実施例または比較例にかかるものとした。
【0080】
また、実施例にかかる素子中の金属化合物粒子を含有する薄膜の膜厚は80nmに統一した。また、比較例1Bは膜厚150nm、比較例2Bは膜厚1.5μmにした。
【0081】
また、実施例12は、実施例3を90体積%、比較例2を10体積%を混合した膜とした。
【0082】
各プロトンインターカレーション素子として応答性を調べた。応答性は、Al電極3とAl電極7の間に電圧を印加し、色変化と応答速度を求めた。色変化は、電圧印加により着色して可視光が遮断できたものを「○」、遮断できなかったものを「×」とした。また、応答速度は、比較例2Bが、可視光が遮断できるまで着色するのにかかった時間を1.0とし、実施例のかかった時間を比で示した。その結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
実施例にかかる素子は、いずれも優れた応答性であった。ωtを制御することにより、応答速度が向上していることが分かる。電子の取込みおよび取出しのスピードが速くなっているためである。また、実施例にかかるプロトンインターカレーション素子は着色時であっても電波を通すことが確認された。
【0085】
(実施例1C~3C、比較例1C~2C)
実施例1~3および比較例1~2のナノ金属化合物粒子を用いて、次のとおりガスセンサーを作製した。基板上にPt電極を形成し、その上にナノ金属化合物粒子からなる多孔質膜を形成した。多孔質膜は、空隙率50%、縦1cm×横1cm×膜厚5μmに統一した。
【0086】
次に、メタンガス(CH4ガス)の濃度がそれぞれ10wt ppm、20wt ppm、50wt ppm、100wt ppmである気体試料を用意した。それぞれの気体試料に1時間さらした後の多孔質膜の抵抗値を測定した。メタンガスを含む気体試料にさらす前の多孔質膜の抵抗値をR0、気体試料にさらした後の多孔質膜の抵抗値をRsとする。抵抗値の変化率を[(Rs-R0)/R0]×100(%)により算出した。抵抗値の変化率が大きいほど、メタンガスを吸着していることを示すものである。つまり、センサーとしての感度が高いことを示す。その結果を表4に示す。
【0087】
【0088】
次に、実施例1C~3Cおよび比較例1C~2Cにかかるセンサーにおいて、紫外線を多孔質膜に照射しながら同様の測定を行った。なお、紫外線は、発光ピーク394nmのLEDを用いたものである。その結果を表5に示す。
【0089】
【0090】
表から分かる通り、実施例にかかるセンサーは、抵抗値の変化率が大きいことが分かる。
【0091】
また、紫外線を照射した場合は、さらに変化率が大きくなっている。これはナノ金属化合物粒子が活性化し電子を取込み易くなっているためである。
【0092】
また、今回、光触媒、プロトンインターカレーション素子およびセンサーで評価しているが、電子の取込みおよび取出しのスピードが速くなっていることは半導体、電池用電極、でも有効であることの証明である。また、分光エリプソメトリー法を用いた評価方法は、ナノ金属化合物粒子の性能判別に有効であることが分かる。
【0093】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。