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特許7099033非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220705BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220705BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018086755
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2018190719
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017090721
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良広
(72)【発明者】
【氏名】林 一英
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072359(WO,A1)
【文献】特開2016-072071(JP,A)
【文献】特開2012-169249(JP,A)
【文献】特開2012-199101(JP,A)
【文献】特開2014-026747(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164760(WO,A1)
【文献】特開2016-143490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiNi1―x―yCoAl2+α(式中、xは0.01≦x≦0.20、yは0.01≦y≦0.15、zは0.90≦z≦1.20、αは-0.2≦α≦0.2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部に配置された、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜とを有し、
ケイ素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下、かつ炭素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下であり、
前記被膜に含まれる前記ケイ素化合物の加水分解率が85%以上100%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記加水分解率が、式(A)から求められる請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
(加水分解率)=[(ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数)-(被膜中に残存したアルコキシ基の数)]/(ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数)×100 ・・・(A)
【請求項3】
前記加水分解率が、式(1)、式(2)から求められる請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
(加水分解率)=[(前記ケイ素化合物のC/Siモル比)-(前記被膜のC/Siモル比)]/[(前記ケイ素化合物のC/Siモル比)-(前記ケイ素化合物が完全に加水分解された場合のC/Siモル比)]×100 ・・・(1)
(前記被膜のC/Siモル比)=[(前記被膜を備えた前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)-(前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)]/(前記被膜を備えた前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子のケイ素モル数)・・・(2)
【請求項4】
一般式:LiNi1―x―yCoAl2+α(式中、xは0.01≦x≦0.20、yは0.01≦y≦0.15、zは0.90≦z≦1.20、αは-0.2≦α≦0.2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、キャリアガスにケイ素化合物を添加した雰囲気ガスと、を接触させる被膜形成工程を有し、
前記被膜形成工程は、炭酸ガス濃度が500ppm以下であり、かつ露点温度が-50℃より高く0℃以下のキャリアガスを用いて実施する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記ケイ素化合物が、沸点が300℃以下のアルコキシシラン化合物である請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高エネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池に対する要求が高まっている。また、ハイブリッド自動車をはじめとする電気自動車用の電源として、高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われている。その中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまでに提案されている主な正極活物質としては、層状系材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO)に代表されるリチウムコバルト複合酸化物、ニッケル酸リチウム(LiNiO)に代表されるリチウムニッケル複合酸化物、スピネル系材料としてのマンガン酸リチウム(LiMn)に代表されるリチウムマンガン複合酸化物などを挙げることができる。
【0006】
これまでに提案された主な正極活物質の中で、リチウムコバルト複合酸化物は、合成が比較的容易であり、リチウムイオン二次電池の正極として用いた場合に比較的優れた充放電特性とサイクル特性が得られることから、携帯電子機器を中心に広く普及している。しかし、コバルトが高価で価格変動が大きいことが課題となっており、コバルトよりも安価なニッケルやマンガンを用いたニッケル酸リチウムやマンガン酸リチウムなどが注目されている。
【0007】
ニッケル酸リチウムは、リチウムイオン二次電池としてコバルト酸リチウムよりも大きな充放電容量は得られるものの、熱安定性やサイクル特性が他の正極活物質に比べて劣るという欠点があった。そこで、ニッケル酸リチウムを構成するニッケルの一部を別種の元素で置換し、熱安定性やサイクル特性を向上させたリチウムニッケル複合酸化物が開発されている。リチウムニッケル複合酸化物としては、例えばニッケルの一部をコバルトとアルミニウムで置換したリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAl、x+y+z=1)や、ニッケルの一部をコバルトとマンガンで置換したリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)等が挙げられる。
【0008】
ところで、リチウムニッケル複合酸化物については、大気暴露による表面酸化、リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合においては電解液との反応や電解液への金属成分溶出による表面劣化などにより、充放電容量が低下してしまう問題がある。
【0009】
上記問題を解決するため、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に被膜を配置した正極活物質とし、大気暴露による表面酸化、電解液との反応や電解液への金属成分の溶出などを抑制する方法が試みられている。
【0010】
例えば特許文献1には、リチウム含有複合酸化物と、前記リチウム含有複合酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有し、前記リチウム含有複合酸化物が、Niを含み、前記被覆層が、金属元素Mと、ハロゲン元素とを含み、前記金属元素Mが、Al、Ta、W、Zr、Nb、SnおよびBよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0011】
また、特許文献2には、リチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物をコア粒子とし、該コア粒子の粒子表面に少なくともフッ素と金属元素A(AはLi、Mg、Al、Zn、Yから選ばれる少なくとも1種類以上の元素)とを含有する表面処理成分を存在させたリチウム複合化合物粒子粉末が開示されている。そして、その製造方法として、コア粒子であるリチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物を含む水懸濁液に、A原料としてA元素のアルコキシド等を用いるとともに、中和剤としてフッ素含有の溶液を用いて、リチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物の粒子表面に少なくともA元素とフッ素とを含有する表面処理成分を析出させた後、酸素雰囲気の下300~700℃の温度範囲で加熱処理するリチウム複合化合物粒子粉末の製造方法が開示されている。
【0012】
しかし、特許文献1に開示された非水電解質二次電池用正極活物質によれば、その製造工程で腐食性のあるガス状の金属ハロゲン化物を使用する必要があり、安全性の点で問題があった。
【0013】
また、特許文献2に開示されたリチウム複合化合物粒子粉末は、製造過程で正極活物質と水とを混合する必要があり、正極活物質表面のリチウムが水に溶出する場合があり、係る正極活物質を用いて非水系電解質二次電池とした場合に充放電容量が低下する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2008-251480号公報
【文献】特開2013-232438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明の発明者は、形成する際にリチウムニッケル複合酸化物を水に浸漬する必要がなく、ハロゲン系のガスを用いない被膜を備えた正極活物質として、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜を備えた正極活物質を見出し、検討を行った。
【0016】
しかしながら、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜を備えた正極活物質については、該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池とした場合に、ガス発生が生じる場合があった。
【0017】
そこで本発明の一側面では、非水系電解質二次電池に用い、繰り返し充放電を行った場合でもガスの発生を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
一般式:LiNi1―x―yCoAl2+α(式中、xは0.01≦x≦0.20、yは0.01≦y≦0.15、zは0.90≦z≦1.20、αは-0.2≦α≦0.2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部に配置された、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜とを有し、
ケイ素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下、かつ炭素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下であり、
前記被膜に含まれる前記ケイ素化合物の加水分解率が85%以上100%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、非水系電解質二次電池に用い、繰り返し充放電を行った場合でもガスの発生を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例、比較例において、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に被膜を形成する際に用いた装置の模式図である。
図2】実施例、比較例で用いたリチウムニッケル複合酸化物の二次粒子形状を示す図である。
図3】実施例、比較例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質]
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一構成例について以下に説明する。
【0022】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部に配置された、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜とを有することができる。
【0023】
そして、係る正極活物質は、ケイ素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下、かつ炭素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下であり、被膜に含まれるケイ素化合物の加水分解率を85%以上100%以下とすることができる。
【0024】
なお、上記加水分解率は、例えば以下の式(A)から求めることができる。
(加水分解率)=[(ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数)-(被膜中に残存したアルコキシ基の数)]/(ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数)×100 ・・・(A)
被膜は、アルコキシ基を有するケイ素化合物を用いて形成することができる。そして、加水分解率は、被膜を形成する際に用いたケイ素化合物が有するアルコキシ基のうち、被膜を形成する際に加水分解されて水酸基となった基の割合であるため、上述の式(A)により算出できる。
なお、ケイ素化合物は、アルコキシシラン化合物であることが好ましい。
上記加水分解率は、例えば被膜を形成する際に原料に用いたケイ素化合物が含有するアルコキシ基が同じ構造を有する場合には、以下の式(1)、(2)から求めることもできる。
(加水分解率)=[(ケイ素化合物のC/Siモル比)-(被膜のC/Siモル比)]/[(ケイ素化合物のC/Siモル比)-(ケイ素化合物が完全に加水分解された場合のC/Siモル比)]×100 ・・・(1)
(被膜のC/Siモル比)=[(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)-(リチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)]/(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子のケイ素モル数)・・・(2)
なお、リチウムニッケル複合酸化物は、一般式:LiNi1―x―yCoAl2+α(式中、xは0.01≦x≦0.20、yは0.01≦y≦0.15、zは0.90≦z≦1.20、αは-0.2≦α≦0.2)で表される。
【0025】
ここでまず、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、被膜とについて説明する。
(リチウムニッケル複合酸化物の粒子)
リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、一般式:LiNi1―x―yCoAl2+α(式中、xは0.01≦x≦0.20、yは0.01≦y≦0.15、zは0.90≦z≦1.20、αは-0.2≦α≦0.2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を含有する。特に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、係るリチウムニッケル複合酸化物から構成されていることが好ましい。
【0026】
リチウムニッケル複合酸化物の上記一般式において、コバルト(Co)の含有量を示すxは、0.01≦x≦0.20の範囲内であることが好ましく、0.03≦x≦0.15の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
xを0.01以上とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」とも記載する)のサイクル特性を十分に高めることができる。また、xを0.20以下とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を十分に高くすることができる。
【0028】
また、上記一般式において、アルミニウム(Al)の含有量を示すyは、0.01≦y≦0.15の範囲内であることが好ましく、0.01≦y≦0.10の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
yを0.01以上とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を十分に高めることができる。また、yを0.15以下とすることで、アルミニウムがリチウムニッケル複合酸化物中に固溶せずに析出することをより確実に防ぐことができる。すなわち、yを0.15以下とすることで異相が生じることを防ぎ、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を十分に高めることができる。
【0030】
また、上記一般式において、リチウム(Li)の含有量を示すzは、0.90≦z≦1.20の範囲内であることが好ましく、0.95≦z≦1.15の範囲内であることがより好ましい。zを0.90以上とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を十分に高めることができる。また、zを1.20以下とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を十分に高めることができる。
【0031】
なお、上記一般式において、ニッケル(Ni)の含有量を示す1-x-yは、0.65以上0.98以下の範囲内であることが好ましく、0.80以上0.95以下の範囲内であることがより好ましい。1-x-yを0.65以上とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を十分に高めることができる。また、1-x-yを0.98以下とすることで、係るリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を十分に高めることができる。
【0032】
なお、上記一般式において、酸素については、本発明に影響のない程度に酸素量が2よりも欠損していたり、過剰になっていてもよい。このため、上記一般式のように酸素量は2+αで表すことができ、αは例えば-0.2≦α≦0.2とすることができる。
【0033】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子を含むことが好ましく、係る二次粒子から構成されていることがより好ましい。
【0034】
さらに、上記リチウムニッケル複合酸化物の粒子において、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の平均粒子径は、3μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上15μm以下であることがより好ましい。
【0035】
なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0036】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子の二次粒子の平均粒子径が3μm以上の場合、正極を形成する際にリチウムニッケル複合酸化物の粒子を含む正極活物質の充填密度を十分に高めることができ、二次電池の充放電容量を高めることができるため好ましい。
【0037】
また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の二次粒子の平均粒子径が20μm以下の場合、係るリチウムニッケル複合酸化物の粒子を含む正極活物質を用いた二次電池において、正極活物質と電解液の接触面積を十分に確保し、二次電池の充放電容量を高めることができるため好ましい。
【0038】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子のBET法による比表面積は、0.2m/g以上1.5m/g以下であることが好ましく、0.3m/g以上1.2m/g以下であることがより好ましい。比表面積を0.2m/g以上とすることで、正極活物質と電解液との接触面積を十分に確保し、電池特性を特に高めることができるからである。また、1.5m/g以下とすることで熱安定性を十分に高めることができ、好ましいからである。
(被膜)
被膜は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部に配置されており、ケイ素化合物の加水分解物を含有することができる。被膜はリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面全体に配置されていることがより好ましい。
【0039】
なお、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、既述のように一次粒子が凝集した二次粒子を含有していることが好ましい。そして、被膜は、係る一次粒子、及び二次粒子の表面の少なくとも一部に配置されていることが好ましい。
【0040】
被膜は、後述のように例えばケイ素化合物として、アルコキシシラン化合物等のケイ素を含有する有機化合物を原料に用いて成膜することができる。このため、被膜はケイ素以外にも、係る有機化合物に由来する炭素を含有することができる。さらに、被膜はケイ素化合物の加水分解物を含有するため、酸素や、水素を含有することもできる。従って、被膜は例えばケイ素、炭素、酸素、及び水素を含有することができる。
【0041】
このようにケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜を、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部に配置することで、大気暴露による表面酸化や、電解液との反応、電解液への金属成分溶出による表面劣化等の発生を抑制できる。このため、本実施形態の正極活物質を用いた二次電池においては、繰り返し充放電を行った場合でも、充放電容量の維持率を高くすることができる。すなわち、サイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0042】
しかし、本発明の発明者の検討によれば、既述のように、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜を備えた正極活物質とした場合に、係る正極活物質を用いた二次電池とし、繰り返し充放電を行うとガスが発生する場合があった。そして、本発明の発明者の検討によれば、係るガス発生は被膜に含まれる一定割合以上の炭素に起因していた。
【0043】
そこで、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の被膜は、既述のように、ケイ素化合物の加水分解物を含有しており、ケイ素化合物が加水分解された割合である、ケイ素化合物の加水分解率が85%以上100%以下であることが好ましい。
【0044】
ケイ素化合物の加水分解率を85%以上とすることで、原料に用いたケイ素化合物の加水分解が進み、被膜に含まれるケイ素に対する炭素の質量比を大幅に低減できる。このため、係る正極活物質を用いた二次電池において、繰り返し充放電を行った場合でも、炭素に起因するガスの発生を抑制することができ、好ましい。
【0045】
また、係る加水分解率を85%以上に高めることで、ケイ素化合物の加水分解物を含有する被膜の緻密性を高めることができる。このため、本実施形態の正極活物質について、大気暴露による表面酸化や、電解液との反応、電解液への金属成分溶出による表面劣化等の発生を特に抑制できる。さらに、本実施形態の正極活物質を用いた二次電池においては、繰り返し充放電を行った場合でも、充放電容量の維持率を高くすることができる。すなわち、サイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0046】
係る加水分解率は、理論値を超えることはないことから、上限値は100%とすることができる。すなわち、係る加水分解率は、100%以下が好ましい。
【0047】
ケイ素化合物の加水分解率は、例えば以下の式(A)を用いて算出できる。
(加水分解率)=[(ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数)-(被膜中に残存したアルコキシ基の数)]/(ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数)×100 ・・・(A)
式(A)中の被膜を形成するために用いた、加水分解前のケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の数や、形成した被膜中のアルコキシ基の数は、NMR等の各種分析装置を用いることで求めることができる。
また、被膜を形成する際に原料に用いたケイ素化合物が含有するアルコキシ基が同じ構造を有する場合には、ケイ素化合物の加水分解率は、以下の式(1)、式(2)を用いて算出できる。
【0048】
(加水分解率)=[(ケイ素化合物のC/Siモル比)-(被膜のC/Siモル比)]/[(ケイ素化合物のC/Siモル比)-(ケイ素化合物が完全に加水分解された場合のC/Siモル比)]×100 ・・・(1)
(被膜のC/Siモル比)=[(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)-(リチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)]/(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子のケイ素モル数)・・・(2)
式(1)中のケイ素化合物のC/Siモル比は、被膜を形成する際に原料に用いたケイ素化合物に含まれる炭素とケイ素の比を意味している。例えばSi(OCH(CHで表されるジメトキシジメチルシランの場合、ケイ素化合物のC/Siモル比は4となる。そして、ジメトキシジメチルシランを完全に、すなわち100%加水分解するとSi(OH)(CHとなるため、ケイ素化合物が完全に加水分解された場合のC/Siモル比は2となる。
【0049】
式(1)中の被膜のC/Siモル比は、実際に作製した正極活物質の被膜中のC/Siモル比を意味し、式(2)により算出することができる。被膜中の炭素モル数は、被膜形成処理の前後でのリチウムニッケル複合酸化物の粒子に含まれる炭素モル数を測定、算出し、被膜形成処理後の被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数から、被膜形成前のリチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数を差し引くことで算出できる。
【0050】
なお、被膜の存在形態は特に限定されるものではないが、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に存在するリチウム成分(水酸化リチウム、炭酸リチウムなど)と、ケイ素化合物の加水分解によって生成する水酸基が反応して、Li-O-Si結合を有する形態となっていると考えられる。
【0051】
また、本実施形態の正極活物質は、ケイ素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下、かつ炭素含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。既述のように、本実施形態の正極活物質の被膜はケイ素化合物の加水分解物を含有することから、本実施形態の正極活物質の被膜は、ケイ素、及び炭素を含有することができる。このため、ケイ素含有量を0.01質量%以上、炭素含有量を0.01質量%以上とすることで、十分な厚さであって、かつ均一な被膜を、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に形成できていることになり、好ましいからである。
【0052】
ただし、被膜が過度に厚くなると、被膜が、リチウムニッケル複合酸化物へのリチウムのインターカレーション/デインターカレーションの反応を阻害する恐れがあるため、ケイ素含有量は0.5質量%以下、炭素含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。
【0053】
本実施形態の正極活物質によれば、リチウムニッケル複合酸化物の表面に被膜を有している。このため、大気暴露による表面酸化や、電解液との反応、電解液への金属成分溶出による表面劣化等の発生を抑制できる。このため、本実施形態の正極活物質を用いた二次電池においては、繰り返し充放電を行った場合でも、充放電容量の維持率を高くすることができる。すなわち、サイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0054】
さらに、既述の式(A)、または既述の式(1)、式(2)から算出されるケイ素化合物の加水分解率を高めることで、被膜に含まれるケイ素に対する炭素の質量比を大幅に低減している。このため、本実施形態の正極活物質を用いた二次電池において、繰り返し充放電を行った場合でも、被膜に含まれる炭素に起因するガスの発生を抑制することができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。
【0055】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により既述の正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項は一部省略する。
【0056】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、キャリアガスにケイ素化合物を添加した雰囲気ガスと、を接触させる被膜形成工程を有することができる。被膜形成工程は、炭酸ガス濃度が500ppm以下であり、かつ露点温度が-50℃より高く0℃以下のキャリアガスを用いて実施できる。
【0057】
なお、リチウムニッケル複合酸化物は、一般式:LiNi1―x―yCoAl2+α(式中、xは0.01≦x≦0.20、yは0.01≦y≦0.15、zは0.90≦z≦1.20、αは-0.2≦α≦0.2)で表すことができる。
【0058】
被膜形成工程では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、キャリアガスにケイ素化合物を添加した雰囲気ガス、すなわち気体を接触させることができる。
【0059】
ケイ素化合物は、被膜を形成する際に加水分解するため、加水分解により水酸基を生じる基であるアルコキシ基を有することができる。ケイ素化合物は、アルコキシシラン化合物であることが好ましい。
そして、ケイ素化合物としては、揮発性のケイ素化合物であることが好ましい。ケイ素化合物は、沸点が300℃以下のアルコキシシラン化合物であることがより好ましく、沸点が250℃以下のアルコキシシラン化合物であることがさらに好ましい。なお、構造の異なる複数のケイ素化合物を同時に用いることもできる。
【0060】
用いるケイ素化合物としては、取扱い性や、安全性の観点から、沸点の下限値は50℃であることが好ましい。すなわち、ケイ素化合物の沸点は50℃以上であることが好ましい。
【0061】
ケイ素化合物としては、具体的には例えば、沸点が81℃であるジメトキシジメチルシラン[Si(CH(OCH]、沸点が83℃であるトリメトキシシラン[Si(H)(OCH]、沸点が103℃であるトリメトキシメチルシラン[Si(CH)(OCH]、沸点が122℃であるオルトケイ酸テトラメチル(テトラメトキシシラン)[Si(OCH]、沸点が123℃であるビニルトリメトキシシラン[Si(C)(OCH]、沸点が143℃であるトリエトキシメチルシラン[Si(CH)(OC]、沸点が165℃であるオルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)[Si(OC]、減圧下、具体的には2kPaにおける沸点が92℃である3-アミノプロピルトリメトキシシラン[Si(CNH)(OCH]等から選択される1種類以上を好ましく用いることができる。
【0062】
ケイ素化合物としては、沸点が比較的低く、すなわち揮発性が比較的高く、かつ毒性の低い材料を好ましく用いることができる。具体的には、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリエトキシメチルシラン、オルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)等から選択される1種類以上をより好ましく用いることができる。
【0063】
被膜形成工程は、図1に示すように、反応容器10内に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子111を収納した第1収納容器11、ケイ素化合物121を収納した第2収納容器12を設置した後、キャリアガスを反応容器10内に充填し、必要に応じてファン13を回転させることにより実施できる。
【0064】
反応容器10は、反応容器10内のキャリアガスや、ケイ素化合物121の蒸気が外部に漏れないように密閉性の高い容器であることが好ましい。また、反応容器10は、ケイ素化合物121や、その蒸気と反応しない材料であることが好ましい。
【0065】
反応容器10の材質にはポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック、アルミナ、石英、ガラス等のセラミック、ステンレス(SUS304、SUS316等)、チタン等の金属等が挙げられる。ただし、ケイ素化合物や、その蒸気と反応しなければよく、上記材質に限定されるものではない。
【0066】
第1収納容器11、第2収納容器12は、それぞれリチウムニッケル複合酸化物の粒子111、ケイ素化合物121と反応せず、耐久性を有することが好ましい。第1収納容器11、第2収納容器12の材質としてはポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン等のプラスチック、アルミナ、石英、ガラス等のセラミック、ステンレス、チタン等の金属等が挙げられるが、リチウムニッケル複合酸化物の粒子111や、ケイ素化合物121の種類に応じて適宜選定することができる。
【0067】
反応容器10内に充填するキャリアガスは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子111やケイ素化合物121と反応しないことが好ましい。また、一般的にリチウムニッケル複合酸化物の粒子111やケイ素化合物121は、二酸化炭素(CO)や水分(HO)と反応し易いため、キャリアガスから十分に除去しておくことが好ましい。ただし、本実施形態の正極活物質においては、ケイ素化合物の加水分解率を高めた被膜を形成することが好ましいことから、被膜工程を実施する際に反応容器10内に充填するキャリアガス中には、一定程度の水分が存在していることが好ましい。
【0068】
キャリアガスの脱二酸化炭素、脱水分処理の程度は特に限定されないが、例えば炭酸ガス濃度(二酸化炭素濃度)が500ppm以下、露点温度は-50℃より高く0℃以下であることが好ましい。
【0069】
これはキャリアガス中の炭酸ガス濃度を500ppm以下、露点温度を0℃以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子や、ケイ素化合物が過度に、二酸化炭素や水分と反応することを抑制でき、副生成物が生じることを抑制できるからである。また、キャリアガス中の露点温度を-50℃よりも高くすることで、ケイ素化合物の加水分解が促進され、ケイ素化合物の加水分解率を高めた被膜を形成することができる。
【0070】
キャリアガスの露点は-30℃より高く0℃以下であることがより好ましい。また、炭酸ガス濃度の下限値は用いるキャリアガスの種類等にもよるため特に限定されないが、例えば0ppmとすることができる。
【0071】
被膜形成工程を行う際のキャリアガスとしては、脱二酸化炭素処理、及び一定程度の脱水分処理をした乾燥空気、窒素、酸素、アルゴン等から選択された1種類以上であることが好ましい。
【0072】
特に、キャリアガスとしては、脱二酸化炭素処理、及び一定程度の脱水分処理がなされた乾燥空気を用いることが好ましい。これは、係る乾燥空気をキャリアガスとして用いて製造された正極活物質は、窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いた場合と比較して、被膜の緻密化が促進されて電気伝導度が高められるからである。このため、得られた正極活物質を二次電池の正極として用いた場合に優れた充放電特性が得られるため、より好ましいからである。
【0073】
なお、ケイ素化合物の種類によっては、ケイ素化合物の蒸気と乾燥空気との混合割合等によって爆発の危険性が生じたり、あるいは、酸素により酸化劣化する場合があり、このような場合は、乾燥空気でなく、窒素、アルゴン等の不活性ガスを用いることが好ましい。このように、用いるケイ素化合物の種類等に応じてキャリアガスは適宜選定できる。
【0074】
反応容器10内では、ケイ素化合物121を収納した第2収納容器12から、ケイ素化合物121の蒸気が反応容器10内のキャリアガス中に拡散する。すなわち、キャリアガスにケイ素化合物を添加し、雰囲気ガスを生成できる。
【0075】
一方で、キャリアガス中に拡散したケイ素化合物121の蒸気は、第1収納容器11内のリチウムニッケル複合酸化物の粒子111の表面に接触して被膜形成に消費される。このため、反応時間の経過と共にケイ素化合物121が、第1収納容器11に収納したリチウムニッケル複合酸化物の粒子111に物質移動する。
【0076】
ここで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に形成する被膜の量(または被膜の厚さ)の制御は、次のようにして行うことができる。まず、所定量のリチウムニッケル複合酸化物の粒子を第1収納容器11内に入れ、上記リチウムニッケル複合酸化物の粒子111に対して形成したい被膜の量のケイ素化合物121を第2収納容器12に入れる。その後、所望のキャリアガスを反応容器10内に充填し、必要に応じてファン13を回転させつつ、そのまま放置し、第2収納容器12内のケイ素化合物121が完全に消失したところで反応を終了させればよい。
【0077】
上記とは別の被膜の量(または被覆の厚さ)の制御方法として、まずリチウムニッケル複合酸化物の粒子に対して形成したい被膜の量よりも過剰のケイ素化合物121を第2収納容器12に入れる。次いで、キャリアガスを反応容器10内に充填して、必要に応じてファン13を回転させつつ、そのまま放置し、所定時間経過したところで、ケイ素化合物が一部残留したまま、ケイ素化合物を収納した第2収納容器12を反応容器10内から取り出して反応を終了させてもよい。
【0078】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、さらに任意の工程を有することもできる。
【0079】
例えば、被膜形成工程の後、熱処理を行う熱処理工程を有することもできる。
【0080】
熱処理工程の構成例について以下に説明する。
【0081】
熱処理工程では必要に応じ、被膜形成工程で得られた正極活物質を熱処理し、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に形成された被膜の結晶性を高めることができる。
【0082】
熱処理工程における熱処理温度は特に限定されるものではなく、例えば100℃以上500℃以下とすることが好ましく、150℃以上300℃以下とすることがより好ましい。
【0083】
また、熱処理工程は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の劣化を防ぐために、炭酸ガスや水分を低減、除去した雰囲気ガスを用いることが好ましい。例えば、雰囲気ガスとしては乾燥空気や酸素が挙げられる。なお、雰囲気ガスとして窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いると、リチウムニッケル複合酸化物の粒子が還元されて電池特性が低下する場合があるため、酸化性雰囲気、例えば上述のように酸素を含有する雰囲気を用いることが好ましい。
【0084】
熱処理工程を施すことで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に形成された被膜の結晶性を高めたり、被膜から過剰な有機成分や微量水分等の不純物を除去できる場合がある。
【0085】
本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、キャリアガスにケイ素化合物を添加した雰囲気ガスをリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に接触させて被膜を形成する簡便な方法を用いるため、低コストで製造することができる。また、リチウムニッケル複合酸化物を水に浸漬等する必要が無いため、リチウムイオンの溶出による充放電用容量低下等の性能低下も防ぐことができる。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0086】
本実施形態の二次電池は、既述の正極活物質を用いた正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備えた構成を有することができる。
【0087】
本実施形態の二次電池の各部材について説明する。なお、以下に説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態をもとに、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定されない。
[正極]
正極は、シート状の部材であり、例えば、既述の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥して形成できる。また、正極は正極合材を成型し、形成することもできる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0088】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、必要に応じて溶剤を添加し、混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述の正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0089】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0090】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0091】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0092】
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0093】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解質二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0094】
ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材をプレス成型した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
[負極]
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。また、負極は例えば金属リチウム等のリチウムを含有する物質により構成されたシート状の部材とすることもできる。
【0095】
負極は、負極合材ペーストを用いて製造する場合、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0096】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることで調製できる。
【0097】
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0098】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0099】
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
[セパレータ]
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。
【0100】
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
[非水系電解質]
非水系電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0101】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0102】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0103】
なお、非水系電解質は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0104】
次に、本実施形態の二次電池の部材の配置、構成の例について説明する。
【0105】
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解質で構成される本実施形態の二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状をとる場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解質を含浸させることができる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して二次電池とすることができる。
また、ここでは液体の非水系電解質を用いた例を用いて説明したが、本実施形態の二次電池は係る形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0106】
既述の正極活物質を用いた本実施形態の二次電池は、正極活物質として既述の表面に被膜を有するリチウムニッケル複合酸化物を用いている。このため、サイクル特性に優れた二次電池とすることができ、また充放電の際のガスの発生を特に抑制できることから安全性を向上させた二次電池とすることができる。
【実施例
【0107】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03で表されるリチウムニッケル複合酸化物を用いた。このリチウムニッケル複合酸化物の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真を図2に示す。
【0108】
図2に示すように、用いたリチウムニッケル複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、レーザー回折散乱法により求めた二次粒子の平均粒子径は12μmであり、BET法により測定した比表面積は0.33m/gであった。
[被膜形成工程]
図1に示すように、上述のリチウムニッケル複合酸化物504.6gを第1収納容器11に入れて反応容器10内に配置した後、ケイ素化合物121としてジメトキシジメチルシラン[Si(OCH(CH]12.6gを入れた第2収納容器12を、反応容器10内に配置した。
【0109】
次に、反応容器10内のキャリアガスとして乾燥エアーである計装エアー(炭酸ガス濃度440ppm、露点温度-23℃)を充填した後、ファン13により反応容器10内の雰囲気を撹拌させながら室温(25℃)で放置した。これによりリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にケイ素化合物であるジメトキシジメチルシランを含む気体を接触させる被膜形成工程を実施し、被膜を有する実施例1に係る正極活物質を得た。
【0110】
得られた正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、ジメトキシジメチルシラン成分に由来するケイ素(Si)が0.08質量%含まれていることが確認された。
【0111】
また、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.16質量%含まれていることが確認された。
[電池特性評価]
得られた正極活物質を正極に用いたコイン型電池を作製し、充放電特性を評価した。
【0112】
具体的には、図3に示す2032型のコイン型電池30(以下、「コイン型電池」という)を作製し、評価した。
【0113】
コイン型電池30は、ケース31と、ケース31内に収容された電極32とから構成されている。
【0114】
ケース31は、中空かつ一端が開口された正極缶311と、この正極缶311の開口部に配置される負極缶312とを有しており、負極缶312を正極缶311の開口部に配置すると、負極缶312と正極缶311との間に電極32を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0115】
また、電極32は、正極321、セパレータ322および負極323とからなり、この順で並ぶように積層されており、正極321が正極缶311の内面に接触し、負極323が負極缶312の内面に接触するようにケース31に収容されている。なお、ケース31はガスケット313を備えており、このガスケット313によって、正極缶311と負極缶312との間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。
【0116】
また、ガスケット313は、正極缶311と負極缶312との隙間を密封してケース31内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0117】
このようなコイン型電池30を、以下のようにして作製した。
【0118】
初めに、得られた正極活物質52.5mgと、アセチレンブラック15mgと、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂7.5mgとを混合後、プレス成型し、直径10mmで10mg程度の重量になるまで薄膜化して、正極321を作製し、これを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0119】
次に、正極321を用いて、コイン型電池30を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この際、負極323には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム箔を用いた。
【0120】
また、セパレータ322には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を、電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0121】
そして、係るコイン型電池について、電池容量に対する充放電電流値の比であるCレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が220mAh/g、放電容量が198mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は2.2Ωであった。
【0122】
なお、繰り返し充放電を行ってもコイン型電池には膨らみは見られず、ガスの発生は観察されなかった。
[実施例2]
被膜形成工程において、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物を485.1g、ケイ素化合物としてトリメトキシメチルシラン[Si(OCH(CH)]12.5gを用いた点以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る正極活物質を得た。
【0123】
得られた正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、トリメトキシメチルシラン成分に由来するケイ素(Si)が0.34質量%含まれていることが確認された。
【0124】
また、得られた正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.26質量%含まれていることが確認された。
【0125】
さらに、本実施例で作製した正極活物質を用いた点以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、評価を行った。
【0126】
その結果、充電容量が223mAh/g、放電容量が194mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は3.6Ωであった。
【0127】
なお、繰り返し充放電を行ってもコイン型電池には膨らみは見られず、ガスの発生は観察されなかった。
[実施例3]
被膜形成工程において、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物を509.6g、ケイ素化合物としてオルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]12.5gを用いた点以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る正極活物質を得た。
【0128】
得られた正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、オルトケイ酸テトラエチル成分に由来するケイ素(Si)が0.31質量%含まれていることが確認された。
【0129】
また、得られた正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.22質量%含まれていることが確認された。
【0130】
さらに、本実施例で作製した正極活物質を用いた点以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、評価を行った。
【0131】
その結果、充電容量が222mAh/g、放電容量が200mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は3.3Ωであった。
【0132】
なお、繰り返し充放電を行ってもコイン型電池には膨らみは見られず、ガスの発生は観察されなかった。
[比較例1]
被膜形成工程において、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物を496.8g、ケイ素化合物としてジメトキシジメチルシラン[Si(OCH(CH]12.8gを用い、キャリアガスとして窒素ガス(炭酸ガス濃度0ppm、露点温度-50℃以下)を用いた点以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る正極活物質を得た。
【0133】
得られた正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、ジメトキシジメチルシラン成分に由来するケイ素(Si)が0.05質量%含まれていることが確認された。
【0134】
また、得られた正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.15質量%含まれていることが確認された。
【0135】
さらに、本比較例で作製した正極活物質を用いた点以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、評価を行った。
【0136】
その結果、充電容量が222mAh/g、放電容量が199mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は2.2Ωであった。
[比較例2]
被膜形成工程において、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物を447.5g、ケイ素化合物としてトリメトキシメチルシラン[Si(OCH(CH)]12.6gを用い、キャリアガスとして窒素ガス(炭酸ガス濃度0ppm、露点温度-50℃以下)を用いた点以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る正極活物質を得た。
【0137】
得られた正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、トリメトキシメチルシラン成分に由来するケイ素(Si)が0.26質量%含まれていることが確認された。
【0138】
また、得られた正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.26質量%含まれていることが確認された。
【0139】
さらに、本比較例で作製した正極活物質を用いた点以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、評価を行った。
【0140】
その結果、充電容量が222mAh/g、放電容量が194mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は3.1Ωであった。
[比較例3]
被膜形成工程において、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物を499.6g、ケイ素化合物としてオルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]12.6gを用い、キャリアガスとして窒素ガス(炭酸ガス濃度0ppm、露点温度-50℃以下)を用いた点以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る正極活物質を得た。
【0141】
得られた正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、オルトケイ酸テトラエチル成分に由来するケイ素(Si)が0.13質量%含まれていることが確認された。
【0142】
また、得られた正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.18質量%含まれていることが確認された。
【0143】
さらに、本比較例で作製した正極活物質を用いた点以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、評価を行った。
【0144】
その結果、充電容量が225mAh/g、放電容量が201mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は2.9Ωであった。
[比較例4]
被膜形成工程を実施しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例4に係る正極活物質を製造した。
【0145】
従って、得られた正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に被膜形成処理が行われておらず、表面に被膜が形成されていない。
【0146】
上記正極活物質をICP発光分析法で定量分析を行ったところ、ケイ素(Si)の含有量は0.02質量%(検出下限)未満であることが確認された。
【0147】
また、上記正極活物質を高周波燃焼赤外分光法で定量分析を行ったところ、炭素(C)が0.09質量%含まれていることが確認された。
【0148】
さらに、本比較例で作製した正極活物質を用いた点以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、評価を行った。
【0149】
その結果、充電容量が230mAh/g、放電容量が206mAh/gであった。また、交流インピーダンス法により測定した正極抵抗は2.4Ωであった。
[ケイ素化合物の加水分解率]
実施例1~3と比較例1~3で得られた正極活物質について、ケイ素(Si)と炭素(C)の分析値から、被膜形成処理によるケイ素化合物の加水分解率(%)を既述の(1)式、(2)式により算出した。
【0150】
(2)式中の(被膜のC/Siモル比)を算出する際の[(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)-(リチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)]は、各実施例、比較例において被膜形成処理後に得られた正極活物質の炭素量(各実施例、比較例のC分析値)から、被膜形成処理を実施する前の炭素量(比較例4のC分析値)を差し引いた数値を炭素の原子量で割った値を用いた。
【0151】
例えば、実施例1の場合、被膜形成処理を実施した後の炭素量は0.16質量%であり、比較例4の被膜形成処理を実施する前の炭素量は0.09質量%であるので、被膜に含まれる炭素量は0.07質量%となる。そして、算出した上記被膜に含まれる炭素量0.07質量%を炭素の原子量で割ったものを、実施例1における(2)式中の、[(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)-(リチウムニッケル複合酸化物の粒子の炭素モル数)]とした。
【0152】
また、(2)式中の(被膜を備えたリチウムニッケル複合酸化物の粒子のケイ素モル数)は、各実施例、比較例のSi分析値をケイ素の原子量で割ったものを用いた。
【0153】
算出した加水分解率の結果を表1にあわせて示す。
【0154】
【表1】
【0155】
【表2】
実施例1~3は炭酸ガス濃度が500ppm以下であり、かつ露点温度が-50℃より高く0℃以下のキャリアガスを用い、被膜形成工程を実施した。
【0156】
一方、比較例1~3は炭酸ガス濃度が0ppm、露点温度が-50℃以下のキャリアガスを用いて被膜形成工程を実施した。
【0157】
その結果、実施例1~3で得られた正極活物質の被膜に含まれるケイ素化合物の加水分解率は、比較例1~3の正極活物質の被膜に含まれるケイ素化合物の加水分解率よりも高くなっていることが確認できた。
【0158】
このため、被膜を形成する際に同じケイ素化合物を用いた実施例1と比較例1とを比較すると実施例1、比較例1はC/Si(炭素/ケイ素)の質量比がそれぞれ2.00、3.00であり、実施例1の方が低くなっていることが確認できた。すなわち、実施例1の方が、被膜の中の炭素の質量割合が抑制されており、実施例1の正極活物質を用いた二次電池において、充放電を繰り返し行った場合でもガスの発生を抑制できていた。
【0159】
なお、被膜を形成する際に同じケイ素化合物を用いた実施例2と比較例2、実施例3と比較例3を比較した場合でも同様の傾向が見られた。
【0160】
また、既述のように正極活物質を用いた二次電池を繰り返し充放電を行うと、被膜中の一定割合以上の炭素が原因となってガスを生じる場合がある。このため、被膜中の炭素の質量割合を低減することで係るガスの発生を抑制し、二次電池としての安全性が向上する。被膜は、大気暴露による表面酸化の抑制に寄与する他、リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合においては、電解液との反応による表面劣化を抑制でき、さらなるガス発生量の抑制、サイクル特性の向上などに寄与する。
【0161】
また、実施例1~3と比較例4とを比較すると、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に被膜を形成した実施例1~3の正極活物質は、被膜が形成されてない比較例4の正極活物質と同程度の充放電容量と正極抵抗が得られていることが確認できる。従って、電池特性を大幅に損なうことなく被膜が形成されていることも確認できた。
図1
図2
図3